歯科医師と歯科衛生学生の回答を比較したが 各質問項目における群間の差の分析には クロス集計 カイ二乗検定 Mann-Whitney U 検定 Kruskal-Wallis 検定を用いた 項目間の関連性については Spearman の順位相関係数を用いた なお 本研究は 東京都歯科医師会の承認および東

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1 学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 室賀麗 論文審査担当者 主査 : 荒川真一副査 : 木下淳博 遠藤圭子 論文題目 Disparity in perception of the working condition of dental hygienists between dentists and dental hygiene students in Japan ( 論文内容の要旨 ) < 緒言 > 近年 歯多職種連携やチーム医療が重視され歯科衛生士の役割が多様化し さらに修業年限の延長も伴い 歯科衛生士養成機関における教育内容が多様化している 患者利益のためには まず歯科医療職が互いの業務や協働について理解することが重要である 一方 歯科衛生士の人員不足が問題となっている 日本歯科衛生士会の行った調査から 歯科衛生士自身が能力不足や雇用に対する不安を抱えていること 業務内容や給料に対する不満をもっていること等が明らかとなっており これらが早期離職に関連すると推察される さらに 日本歯科医学会による調査結果から 歯科衛生士の行う歯科診療補助行為に関して 各専門学会間で意見の相違が認められ 歯科医師の歯科衛生士業務に対する見解の一致がなされていないことが明らかになっている これら歯科衛生士業務の認識の不一致は より専門性の高い歯科衛生士を育成するにあたり是正すべきであると考えられる この背景として 実際の就業環境と教育機関との間に 歯科衛生士の業務に対して認識の差があると予想される そこで 本研究では 歯科医療職協働の実態と 歯科医師 歯科衛生学生の歯科衛生士の就業環境に対する意識を明らかにし 歯科大学 歯科衛生士養成機関におけるより効果的な歯科医療職協働に関する教育法について考察することを目的とする < 方法 > 対象は 歯科医師 481 名と 歯科衛生学生 89 名である 対象の歯科医師は 東京都歯科医師会の役員 委員である 対象の歯科衛生学生は 東京都歯科医師会附属歯科衛生士専門学校の全学年の学生であり 卒業後は 東京都歯科医師会会員の歯科診療所に勤務することが期待されている 歯科医師は郵送法 歯科衛生学生は集合調査法により 質問票を配布 回収した 質問票の内容は 歯科診療所の職種構成 各職種の業務 歯科衛生士の勤務期間 歯科衛生士と歯科助手との区別 時給 資格等に関するものである なお 歯科医師には歯科診療所における実際の状況を 歯科衛生学生には卒後歯科衛生士として勤務する状況を予想してもらい それぞれ回答を得た 調査は 2011 年 3 月から 4 月に実施された - 1 -

2 歯科医師と歯科衛生学生の回答を比較したが 各質問項目における群間の差の分析には クロス集計 カイ二乗検定 Mann-Whitney U 検定 Kruskal-Wallis 検定を用いた 項目間の関連性については Spearman の順位相関係数を用いた なお 本研究は 東京都歯科医師会の承認および東京医科歯科大学歯学部倫理審査委員会の承認を得て実施された (No.625) < 結果 > 回収率は 歯科医師が 46.2%(222 名 ) 歯科衛生学生が 100%(1 年生 26 名 2 年生 26 名 3 年生 37 名 ) であった 歯科診療所における円滑な歯科医療の提供に必要な職種について質問した結果 歯科衛生士 歯科技工士 事務員に対する必要度は 歯科医師と歯科衛生学生で有意差が認められ 各項目とも歯科衛生学生で必要度が高かった (p<0.001) 一日の平均来院患者数と歯科医師数 歯科衛生士数とは正の相関が認められ (rs=0.39 p<0.001, rs=0.48 p<0.001) 歯科助手数 事務員数とは弱い正の相関が認められた(rs=0.20 p=0.004, rs=0.22 p=0.001) 平均治療台数と歯科医師数 歯科衛生士数とは正の相関が認められ(rs=0.39 p<0.001, rs=0.54 p<0.001) 歯科助手数 事務員数とは弱い正の相関が認められた(rs=0.15 p=0.025, rs=0.20 p=0.003) 各歯科医療職種の主な業務について 歯科診療所の職種構成別で比較結果 歯科医師 + 歯科衛生士 + 事務員の構成では 各職種の業務が明確に分担されていた しかし歯科助手は歯科衛生士 事務員との間で業務が重複していた 歯科衛生学生の考える各職種の業務 ( 歯科医師 + 歯科衛生士 + 歯科助手 + 事務員の構成想定 ) は 歯科医師の回答と同様の結果であった 歯科衛生士の勤務期間について 歯科医師の 40.8% は 歯科衛生士にできるだけ長く勤めて欲しいと回答したが 47.4% は 3~10 年勤務して欲しいと回答した 歯科衛生士の最も頻度が高かった勤務年数は 9.7±6.9 年であった 歯科衛生学生の 77.5% は 歯科衛生士の仕事を生涯続けたいと回答した しかし 67.4% は最初の勤務先には 1~5 年勤める予定と回答した また 勤務形態については 歯科衛生学生の 90.7% は 卒業直後は常勤勤務を希望しているが 卒業後 15 年では 42.5% が非常勤勤務を希望していた 87.6% の歯科医師は 歯科衛生士に産休 育休後復職して欲しいと回答した 96.6% の歯科衛生学生は 産休 育休後復職したいと回答したが 一方 80.9% は復職に関して何らかの不安を持っていた 歯科衛生士を雇用していない歯科医師にその理由を質問した結果 歯科衛生士を雇用するほど忙しくないから (50.8%) 歯科助手で十分だから(49.2%) 歯科衛生士の給料が高額であるから (46.0%) などが主な回答であった 62.9% の歯科診療所では 患者が識別可能なように制服 名札など何らかの形で歯科衛生士と歯科助手を差別化していたが 37.1% の診療所では明確な区別をしていなかった 歯科衛生学生の 97.4% は 患者に対して 歯科衛生士と歯科助手には明確な区別があった方がよいと回答した 適切と思う歯科衛生士の給与については 歯科医師に比べて歯科衛生学生で有意に高かった 74.2% の歯科衛生学生は 東京都内の歯科診療所に常勤勤務した場合 生活水準は普通と回答し - 2 -

3 たが 6.7% は歯科衛生士の給与だけでは暮らしていけないと回答した 歯科医師の半数以上が雇用したいと思う認定歯科衛生士は 日本歯周病学会認定歯科衛生士と 日本歯科衛生士会認定歯科衛生士 ( 摂食 嚥下リハビリテーション ) であった 歯科衛生学生の 54.3% はホワイトニングコーディネーター 53.7% は日本歯周病学会認定歯科衛生士取得を希望していた < 考察 > 受付専門の事務員がいない歯科診療所では 歯科衛生士と歯科助手が 受付と診療室とを行き来している様子が伺われた 歯科医師 歯科衛生士が診療室で診療に専念し 事務員が受付専門で働くことで 円滑な歯科医療の実践につながると考えられる また 感染対策 患者保護の視点から 受付と診療室は空間や動線を区分した方が良いと考えられ そのためには事務員の配置が必要である 患者に対して最大限の利益を提供するためには 各職種間の区別を明確に示すことが必要である また 各職種が自らの専門性を明確にした上で分業することは 効率的な診療 感染対策の観点から有効であると思われる 今後 歯科医師 歯科衛生士の卒前教育において 卒後臨床現場で共に働くことが予想される歯科助手や事務員も含めた歯科医療職協働の内容を充実させることで 互いの専門性について理解し合い より効果的な協働実践へと繋がるものと考えられる 歯科衛生学生は ライフスタイルに合った働き方を希望していたが 一方で 育休後復職等に不安を感じていた 歯科医師は 歯科衛生士の長期勤務を望んでいたものの 多くが小規模経営である歯科診療所において 福利厚生 諸手当等の点から実際には困難と予想される 以上のことから 歯科衛生士養成機関においては 歯科診療所の福利厚生 諸手当や歯科衛生士の様々な働き方についてより現実に沿った情報提供を行うこと 歯科大学においては 診療所の経営や従業員雇用に関する基本的情報 ( 実態 ) を提供することが有用と思われる 歯科衛生士の給与については 歯科衛生学生と歯科医師の間で 適切な金額 に差が認められた 昨今の歯科衛生士教育の変化や 業務の多様化に伴い 歯科衛生士の知識 技術等は個人差が拡大している 従って 様々な専門性をもった歯科衛生士について 今後その能力に応じた報酬について再考する必要がある 本研究結果から歯科医療職内部での連携不足があることが推察された 今後 歯科衛生士が予防歯科により専念するとすれば チェアサイドアシスタントは歯科助手が担うことが予想される 患者利益や安全性の観点からも 円滑な歯科医療実践のためには歯科医療の援助者は教育を受けていることが望ましく 歯科助手に対する技術教育も必要であると考えられる < 結論 > 歯科医師と歯科衛生学生の間には 歯科衛生士の就業環境に関して意識の差が一部認められた 今後 質の高い歯科医療を提供できる歯科衛生士を確保し より効果的な歯科医療職協働を実践するために 教育機関と現場が一体となった支援策が必要である - 3 -

4 論文審査の要旨および担当者 報告番号甲第 4780 号室賀麗 論文審査担当者 主査副査 荒川真一木下淳博 遠藤圭子 ( 論文審査の要旨 ) 多職種連携やチーム医療が重視され歯科衛生士の役割が多様化し さらに歯科衛生士学校養成所指定規則大綱化また修業年限の延長に伴い 歯科衛生士養成機関における教育内容が多様化している 一方で 日本歯科医学会による 歯科衛生士の診療の補助行為についての考え方 からは 歯科衛生士の行う歯科診療補助行為に関して 各専門学会間で意見の相違が認められており 歯科医師の歯科衛生士業務に対する見解の一致がなされていないことが伺える また 従前から指摘されているように 歯科衛生士の就業率は低く 現在でも 50% に満たない状況である これら歯科衛生士に関する課題の背景として 臨床現場と教育機関との間に 歯科衛生士の就業環境に対して認識の差があると予想される そこで 本研究では 歯科医療職協働の実態と 歯科医師 歯科衛生学生の歯科衛生士の就業環境に対する意識を明らかにし 歯科大学 歯科衛生士養成機関におけるより効果的な歯科医療職協働に関する教育について考察することを目的とした 具体的には 東京都歯科医師会所属の歯科医師 481 名と 東京都歯科医師会附属歯科衛生士専門学校の学生 89 名に対し 質問票調査を行った 両者は将来直接的に雇用関係になることが予想され 本研究は将来共に働く可能性が高い者の認識の差に基づいて歯科医師 歯科衛生士教育の内容を検討した初めての研究であり その独創性は高く評価されるものである 本研究によって 以下のことが明らかになった 1. 歯科診療所における円滑な歯科医療の提供に必要な職種について質問した結果 歯科衛生士 歯科技工士 事務員に対する必要度は 歯科医師と歯科衛生学生で差が認められ 各項目とも歯科衛生学生で必要度が高かった 2. 一日の平均来院患者数と歯科医師数 歯科衛生士数とは正の相関が認められ 歯科助手数 事務員数とは弱い正の相関が認められた 平均治療台数と歯科医師数 歯科衛生士数とは正の相関が認められ 歯科助手数 事務員数とは弱い正の相関が認められた 3. 各歯科医療職種の主な業務について 歯科診療所の職種構成別で比較した結果 歯科医師 + 歯科衛生士 + 事務員の構成では 各職種の業務が明確に分担されていた 他の職種構成では 職種間で業務が重複し 特に歯科助手は歯科衛生士 事務員と業務が重複していた 歯科衛生学生の考える各職種の業務 ( 歯科医師 + 歯科衛生士 + 歯科助手 + 事務員の構成想定 ) は 歯科医師の回答と同様の結果であった 4. 歯科衛生士の勤務期間について 歯科医師の 40.8% は 歯科衛生士にできるだけ長く勤めて欲しいと回答したが 47.4% は 3~10 年勤務して欲しいと回答した 現在最も長く勤務している歯科衛生士の勤務年数は 9.7±6.9 年であった 歯科衛生学生の 77.5% は 歯科衛生士 ( 1 )

5 の仕事を生涯続けたいと回答した しかし 67.4% は最初の勤務先には 1~5 年勤める予定と回答した また 勤務形態については 歯科衛生学生の 90.7% は 卒業直後は常勤勤務を希望しているが 卒業後 15 年では 42.5% の学生が非常勤勤務を希望していた % の歯科診療所では 患者に対して何らかの形で歯科衛生士と歯科助手の区別をしていたが 37.1% の診療所では明確な区別をしていなかった 歯科衛生学生の 97.4% は 患者に対して 歯科衛生士と歯科助手には明確な区別があったほうがよいと回答した 6. 適切と思う歯科衛生士の給与については 歯科医師のそれと比較して歯科衛生学生で有意に高かった 74.2% の歯科衛生学生は 東京都内の歯科診療所に常勤勤務した場合 生活水準は普通と回答したが 6.7% は歯科衛生士の給与だけでは暮らしていけないと回答した 上記の結果より 歯科診療所においては受付を専任とする者がいることで 歯科衛生士は診療に専念しやすい環境ができると考えられ 医院経営上も 職種別の業務分担を明確化することで 専門職種を効率的に活用することができると考えられた そのためには 歯科医師の卒前教育において スタッフマネージメントに関する内容を充実させることが必要であると考えられる また 歯科医師 歯科衛生士の卒前教育において 卒後臨床現場で共に働くことが予想される歯科助手や事務員も含めた歯科医療職協働の内容を充実させることで 互いの専門性について理解し合い より効果的な協働実践へと繋がる可能性が示唆された さらに 歯科衛生学生は多様な働き方を希望していたことから 歯科衛生士養成機関が現場と一体となって 卒業後も継続的な情報提供等就労継続のための支援を行うことが 歯科衛生士の長期勤務に繋がると考察された 本研究の結果は 臨床現場と教育機関における歯科衛生士の就業環境に関する認識の差について明らかにしており 今後より質の高い歯科医療を提供できる歯科衛生士を確保し よりよい歯科医療職協働を実践するための支援策を講ずる上で有用であると考えられた したがって 本研究は今後の歯学教育 歯科衛生士教育の発展に寄与するところが大きいと考えられ 博士 ( 歯学 ) の学位を請求するのに十分価値あるものと認められた ( 2 )

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