Japanese Orthoptic Journal 46: 83-89, 2017.

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ことこすみだ
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1 第 57 回日本視能矯正学会一般講演トーリック眼内レンズ挿入後の残余乱視蕪龍大川下晶竹下哲二上天草市立上天草総合病院 Residual Astigmatism After Postoperative T-IOL Implantation Ryota Kabura, Hikari Kawashita, Tetsuji Takeshita Kamiamakusa General Hospital 要約目的トーリック眼内レンズ( 以下 T-IOL) は白内障術後の乱視を軽減できるが術後に予想以上の乱視が残る例がある残余乱視が大きい症例の角膜形状について検討した対象と方法 T-IOLを挿入した症例のうち術後 1 週間の他覚乱視度数が1.25D 以下の乱視軽減群 20 名 37 眼と 1.50D 以上の乱視残余群 30 名 37 眼を対象とした角膜形状解析装置 (OPD-Scan III ニデック社 ) で解析された角膜 indexのうち Average Corneal Power(ACP) Coefficient of Variation of corneal Power(CVP) Surface Regularity Index(SRI) Surface Asymmetry Index (SAI) Irregular Astigmatism Index(IAI) Standard Deviation of corneal Power(SDP) を用い比較検討した結果術前他覚乱視度数は乱視軽減群では1.76±1.07D 乱視残余群は3.08±1.40Dであり術後他覚乱視度数は乱視軽減群では0.48±0.44D 乱視残余群では2.24±0.89Dだった T-IOLの術翌日の軸ずれは乱視軽減群では4.24±3.35 乱視残余群では5.40±4.63 であり両群間に有意差はなかった (p=0.43) 乱視残余群は乱視軽減群と比較し CVP SRI SAI IAI SDP において有意に値が高かった (p<0.01) 結論術前の角膜の状態を把握し手術計画を立てることが重要である Abstract Purpose Toric intraocular lens (T-IOL) can correct astigmatism after cataract surgery. However, excessive residual astigmatism can be seen in some cases. In this study, the corneal shape in eyes with significant residual astigmatism was examined. Subjects and Methods Subjects included 37 eyes of 20 patients with reduced astigmatism of < 別冊請求先 ( ) 熊本県上天草市龍ヶ岳町高戸上天草市立上天草総合病院 Tel. 0969(62)1122 Fax. 0969(62)1546 ganka@cityhosp-kamiamakusa.jp Key words: トーリック眼内レンズ残余乱視角膜 index toric intraocular lens, residual astigmatism, corneal astigmatism index 83

2 日本視能訓練士協会誌 1.25 D and 37 eyes of 30 patients with residual astigmatism of > 1.50 D at postoperative 1 week. Corneal shape was analyzed using an aberrometer/corneal topographer, the OPD-Scan III (NIDEK). Corneal astigmatism indexes including average corneal power (ACP), coefficient of variation of corneal power (CVP), surface regularity index (SRI), surface asymmetry index (SAI), irregular astigmatism index (IAI), and standard deviation of corneal power (SDP) were used for comparison. Results The preoperative measurements of astigmatism were 1.76 ± 1.07 D in the patients with reduced astigmatism and 3.08 ± 1.40 D in the patients with residual astigmatism. The postoperative measurements of astigmatism were 0.48 ± 0.44 D in the patients with reduced astigmatism and 2.24 ± 0.89 D in the patients with residual astigmatism. The amounts of axis misalignment at postoperative 1 day were 4.24 ± 3.35 in the patients with reduced astigmatism and 5.40 ± 4.63 in the patients with residual astigmatism and no significant difference was seen between both groups (P = 0.43). CVP, SRI, SAI, IAI, and SDP in the patients with reduced astigmatism were significantly larger than those in the patients with residual astigmatism (P < 0.01). Conclusion Preoperative evaluation of the corneal shape is important for planning a cataract surgery. Ⅰ.緒言 T-IOLは白内障手術後の自覚及び他覚乱視を軽減または打ち消すことのできる眼内レンズである各社のウェブカリキュレーターを用いることで T-IOLの適用があるかの判断や術後の残余乱視量をシミュレーションすることが出来る我々は2009 年からT-IOLの使用を開始しこれまで軸合わせや軸ずれに関する報告をしてきた 1)~3) がT-IOLを挿入したにも関わらずウェブカリキュレーターの予想通りの乱視軽減とならず大きな乱視が残る例が存在した一方で軸ずれが起きても術後の乱視量がほとんど 0Dに近い例も存在した術後の残余乱視の原因は術後の軸ずれが主な要因と考えていたが角膜形状も要因の一つなのではないかと考え残余乱視が大きい症例の角膜形状について検討した残余群とした挿入したT-IOLはSN6AT3~9 (Alcon 社 ) ZCT150~400 ZCV150~375 (AMO 社 ) 355T3~5(HOYA 社 ) だった角膜形状解析装置としてプラチドリング角膜形状測定装置 (OPD-Scan III ニデック社: 以下 OPD) を使用した OPDの解析画面の Statistics 表示内にある21 項目に及ぶ角膜 index (Classifier) から主に角膜乱視に関連するindex である1 Average Corneal Power( 以下 ACP) 2 Coefficient of Variation of corneal Power( 以下 CVP)3 Surface Regularity Index( 以下 SRI) 4 Surface Asymmetry Index( 以下 SAI) 5 Irregular Astigmatism Index( 以下 IAI) 6 Standard Deviation of corneal Power( 以下 SDP) を採用し比較検討した ( 表 1) 統計処理はMann-Whitney U-testを用い有意水準は1% 未満とした Ⅱ. 対象と方法対象は2013 年 1 月から2015 年 12 月までに T-IOLを挿入した 245 名 379 眼のうち術後 1 週間の他覚乱視度数が1.25D 以下の20 名 37 眼 ( 男性 9 名女性 11 名平均年齢 73.14±6.87 歳 ) を乱視軽減群 1.50D 以上の 30 名 37 眼 ( 男性 22 名女性 8 名平均年齢 ± 7.27 歳 ) を乱視 Ⅲ.結果使用されたT-IOLの種類は乱視軽減群では SN6AT3が10 例 SN6AT4が3 例 SN6AT5が 3 例 SN6AT6が3 例 SN6AT8が2 例 ZCV/ ZCT150が3 例 ZCV/ZCT225が2 例 ZCV/ ZCT300が3 例 ZCT400が1 例 355T3が6 例 355T5が1 例だった乱視残余群ではSN6AT3 84

3 表 1.OPD-Scan III における index の説明と値の範囲が4 例 SN6AT4 が 3 例 SN6AT5 が 6 例 SN6AT6が5 例 SN6AT7 が 2 例 SN6AT8 が 1 例 SN6AT9が4 例 ZCV/ZCT150が1 例 ZCV/ZCT225が2 例 ZCV/ZCT300 が 2 例 ZCT400が2 例 355T3 が 1 例 355T4 が 2 例 355T5が2 例だった術前他覚乱視度数は乱視軽減群では1.76± 1.07D 乱視残余群は 3.08 ± 1.40D であり術後他覚乱視度数は乱視軽減群では0.48±0.44D 乱視残余群は2.24±0.89Dだった術前他覚乱視度数と術後他覚乱視度数の各群の比較では両群とも有意差を認めた (paired t test p<0.01) ベクトル解析では乱視軽減群が0.91±0.56D 乱視残余群が1.83±1.20Dだった両群間においてACPとT-IOLの軸ずれの二つについては有意差を認めずその他の5つのindexは有意差を認めた ACPは乱視軽減群が43.65±1.36 乱視残余群が44.28±1.66だった (p=0.09) CVP は乱視軽減群が24.26±6.78 乱視残余群が31.99 ±10.94だった ( 図 1) SRIは乱視軽減群が0.58 ±0.18 乱視残余群が1.00±0.27 SAIは乱視軽減群が0.42±0.09 乱視残余群が0.64±0.23だった ( 図 2) IAI は乱視軽減群が 0.47±0.03 乱視残余群が0.52±0.04 SDPは乱視軽減群が1.05 図 1. 乱視軽減群と乱視残余群の ACP と CVP の分布 85

4 日本視能訓練士協会誌図 2. 乱視軽減群と乱視残余群の SAI と SRI の分布 ±0.29 乱視残余群が 1.36 ± 0.44 だった ( 図 3) (p>0.01) T-IOLの軸ずれは乱視軽減群が 4.24 ±3.35 乱視残余群では 5.40 ± 4.63 だった (p=0.43) 乱視残余群の残余乱視の原因は index 異常角膜疾患原因不明低矯正の4つに分けられ index 異常 ; 角膜乱視成分 3~6の4 指標のうち3 指標が臨界値範囲を超えている場合が21 眼 (57%) 角膜疾患; 角膜疾患を有した症例が9 眼 (24%) 原因不明 ; 角膜 index は正常範囲内角膜疾患無し T-IOLの予定軸の軸ずれが5 以下 T-IOLの球面及び円柱度数が適正だが残余乱視となった症例が5 眼 (14%) 低矯正 ;T-IOLの乱視度数不足が原因で残余乱視となった症例が2 眼 (5%) だった ( 図 4) 角膜疾患の内訳は翼状片が1 眼シェーグレン症候群が2 眼角膜片雲が1 眼術後角膜症による乱視増悪が5 眼だった Ⅳ.考察近年多焦点眼内レンズやT-IOLといったプレミアム眼内レンズと称される様々な付加価値のついた眼内レンズが臨床に応用されるようになってきた 2016 年現在では医療保険が適用されるプレミアム眼内レンズはT-IOLのみである患者側の負担は乱視矯正力のない単焦点眼内レンズと変わりはないが手術を行う側に図 3. 乱視権限群と乱視残余群の IAI と SDP の分布 86

図 4. 乱視残余群の残余乱視原因内訳とっては術前のレンズ適用性や術中の軸合わせ 1) 等が必要となるため使用に踏み切れない施設も存在するしかし T-IOL が挿入されれば裸眼視力が改善するため患者の満足度は高くなる傾向にある 4)~6) 既報では眼疾患や手術によって角膜 indexが変化したという内容が多いが今回のように角膜

5 図 4. 乱視残余群の残余乱視原因内訳とっては術前のレンズ適用性や術中の軸合わせ 1) 等が必要となるため使用に踏み切れない施設も存在するしかし T-IOL が挿入されれば裸眼視力が改善するため患者の満足度は高くなる傾向にある 4)~6) 既報では眼疾患や手術によって角膜 indexが変化したという内容が多いが今回のように角膜 indexの異常値の症例が術後の残余乱視に関与しているのではないかといった報告はない ( 表 2) 近年前眼部 OCTの普及によって角膜後面乱視まで測定することが可能となっているが当院を含め導入に至っていない施設も存在し術後の結果を向上させるためには現在保有している機器や検査方法の新たな評価が求められるそこで角膜 indexに着目し集計解析したところ術前他覚乱視度数において乱視軽減群は有意に乱視を減少させ乱視残余群では有意に乱視を増加させる結果となった乱視軽減群では多くの角膜 indexが正常範囲内に分布しており一方で乱視残余群では角膜 indexが正常範囲外であることが多かった乱視軽減群では手術計画のT-IOLカリキュレーター通りに乱視を軽減することが出来たが乱視残余群では本来 T-IOL 非適応となる症例についてもT-IOLを挿入したため T-IOLのモデル分の乱視量が増加したのではないかと考えら 7) れた T-IOLの適応と導入に関して宮田は角膜乱視が正乱視であることを挙げている乱視量やカラーマップだけで判断するのではなく必ず術前に角膜形状解析を行い角膜 indexを参考にしたうえで使用を検討することが重要である今回の検討では残余乱視の原因内訳は半数以上が角膜 indexの値が臨界値範囲を超えていた例であり術前の角膜 indexを考慮することが重要であることが明らかとなった今回の検討した症例の一例として術前角表 2. 既報との比較角膜後面乱視を測定することができる場合 Giacom らは角膜 index を用いず Lijun らは 1 種類を参考にしていたしかし数種類の角膜 index を参考にすることで術後残余乱視の関与を予見することができるため角膜後面乱視の測定ができない場合は多種の角膜 index を参考にする必要がある 87

日本視能訓練士協会誌膜乱視量が2.20Dで角膜 indexが全て正常値範囲内だった乱視軽減例 1 例と術前角膜乱視量が 2.

00Dと乱視がほとんど減っていない結果だった ( 図 5) 軸ずれは乱視軽減例が8 乱視残余例が1 でむしろ乱視軽減例の方がずれは大きかった軸ずれが両群間で有意差が無かったにもかかわらず ACPを除く角膜

説明だけでは両者とも似たような性質のように感じられるが今回の検討ではACPは両群間で有意差を認めず CVPは乱視残余群が有意に高い結果となった ACPは一般的に角膜のSE

角膜前面の局所的な屈折力の差をindex 化して評価することができるこのことからACP のような屈折力の平均値だけでは有意差がないように判断できたとしてもCVPや他のindexまで考慮する必要性があるしかし角膜

OCTを用いて角膜前面だけでなく角膜後面の乱視にも注意を払いT-IOLのモデルを考慮すべきであると報告している今回は前眼部 OCT を用いた検証をすることが出来なかったが

indexも確認することが望ましいと考えられたそして手術効果の確認としての観点からは T-IOLの乱視量やゼルニケ多項式を用いた解析術前術後の正乱視と不正乱視の評価も必要であり

6 日本視能訓練士協会誌膜乱視量が2.20Dで角膜 indexが全て正常値範囲内だった乱視軽減例 1 例と術前角膜乱視量が 2.55Dで角膜 indexが全て界値範囲を超えていた乱視残余例 1 例を比較すると術後他覚乱視度数では乱視軽減例が0.00Dであったのに対し乱視残余例では2.00Dと乱視がほとんど減っていない結果だった ( 図 5) 軸ずれは乱視軽減例が8 乱視残余例が1 でむしろ乱視軽減例の方がずれは大きかった軸ずれが両群間で有意差が無かったにもかかわらず ACPを除く角膜 indexにおいて有意差があったことから術後に乱視が消えるか残るかを角膜 indexで判断できると思われるここでACPは瞳孔内の平均角膜屈折力を表しており CVPは角膜の全領域でのパワー分布をindex 化した数値であり説明だけでは両者とも似たような性質のように感じられるが今回の検討ではACPは両群間で有意差を認めず CVPは乱視残余群が有意に高い結果となった ACPは一般的に角膜のSE 値とみなすという説明の通り角膜前面の局所的な屈折力の差を考慮していない一方でCVPは CVP=1000* 全領域角膜パワーの標準偏差 / 全領域角膜平均パワーで求められた値で角膜のマルチフォーカルの性質を示す特徴があるため角膜前面の局所的な屈折力の差をindex 化して評価することができるこのことからACP のような屈折力の平均値だけでは有意差がないように判断できたとしてもCVPや他のindexまで考慮する必要性があるしかし角膜 indexの異常だけでは説明がつかない原因不明の乱視残余例も全体の14% に上った馬込ら 8) は角膜形状解析装置に加え前眼部 OCTを用いて角膜前面だけでなく角膜後面の乱視にも注意を払いT-IOLのモデルを考慮すべきであると報告している今回は前眼部 OCT を用いた検証をすることが出来なかったが原因不明の乱視残余例の中には角膜後面乱視が影響している可能性もあるのではないかと考えられる術後の残余乱視を最小限にするには軸ずれを最小限に抑えることが必要不可欠であるとともに術前の角膜 indexも確認することが望ましいと考えられたそして手術効果の確認としての観点からは T-IOLの乱視量やゼルニケ多項式を用いた解析術前術後の正乱視と不正乱視の評価も必要でありこれらを整理することで更なる精度の向上が見込まれ今後の検討課題として検証を行う必要性がある図 5. 乱視軽減例と乱視残余例の角膜 index の比較乱視軽減例 ( 上 ) と乱視残余例 ( 下 ) の白内障手術前のカラーマップと角膜 index を示す黒枠で囲っている数値は臨界値範囲を超えているものである術後の他覚乱視度数は乱視残余例が 0.00D 乱視残余例は 2.25D だった参考文献 1 ) 小野晶嗣, 蕪龍大, 竹下哲二 : パネル法を用いてトーリック眼内レンズの軸合わせを行った術後成績. 日視会誌 41: , ) 小野晶嗣, 蕪龍大, 竹下哲二 : トーリック眼内レンズの軸マーク撮影による患者の顔の傾きの検討. 眼臨紀 7: , ) 村上嵩樹, 蕪龍大, 竹下哲二 : 長眼軸長と正 88

7 常眼軸長のトーリック眼内レンズの軸ずれ. 日視会誌 45: , )Giacomo S, Kristian N : An analysis of the factors influencing the residual refractive astigmatism after cataract surgery with toric intraocular lenses. IOVS 56(2): , )Ates Y, Fatih H, Aydin M, Kansu T B, Veysel A, Banu T A, Ahmet F N : Corneal topographic changes after transconjunctival23 -gauge sutureless vitrectomy. Int Ophthalmol 31 : , )Lijun Z, Mary E S, Harry M : Effect of posterior corneal astigmatism on refractive outcomes after toric intraocular lens implantation. J cataract refract surg 41 : 84-89, ) 宮田和典 : トーリックIOLの適応と導入のコツ. 白内障屈折矯正手術学会雑誌 24: , ) 馬込和功, 副島由美, 山田敏夫, 矢部伸幸, 松井孝明 : 角膜形状解析装置による角膜前面乱視後面乱視の検討. 日視会誌 43: ,

Japanese Orthoptic Journal 45: , 2016.

Japanese Orthoptic Journal 45: , 2016. 第 56 回日本視能矯正学会一般講演眼軸長によるトーリック眼内レンズの軸ずれの違い村上嵩樹蕪龍大竹下哲二上天草市立上天草総合病院 Difference of Axial Gap of Toric Intraocular Lens by the Axial Length. Takashige Murakami, Ryota Kabura, Tetsuji Takeshita Department