調査研究ジャーナル 2015 Vol.4 No.1 短報 先天性甲状腺機能低下症のスクリーニングにおいて指標とする甲状腺刺激ホルモン値に影響を及ぼす採血日齢について 廣田美和 1 安片恭子 1 稲田佳美 1 山本仁美 1 海保郁男 1 石野彰 1 早田篤子 1 Examination for the

Save this PDF as:
 WORD  PNG  TXT  JPG

Size: px
Start display at page:

Download "調査研究ジャーナル 2015 Vol.4 No.1 短報 先天性甲状腺機能低下症のスクリーニングにおいて指標とする甲状腺刺激ホルモン値に影響を及ぼす採血日齢について 廣田美和 1 安片恭子 1 稲田佳美 1 山本仁美 1 海保郁男 1 石野彰 1 早田篤子 1 Examination for the"

Transcription

1 短報 先天性甲状腺機能低下症のスクリーニングにおいて指標とする甲状腺刺激ホルモン値に影響を及ぼす採血日齢について 廣田美和 1 安片恭子 1 稲田佳美 1 山本仁美 1 海保郁男 1 石野彰 1 早田篤子 1 Examination for the Blood Sampling Age of Dates That Are Affected to Thyroid Stimulating Hormone Values in Newborn Screening Test for Congenital Hypothyroidism Miwa Hirota 1, Kyoko Yasukata 1, Yoshimi Inada 1, Hitomi Yamamoto 1, Ikuo kaiho 1, Akira Ishino 1, Atsuko Sohda 1 要旨 先天性甲状腺機能低下症 (Congenital hypothyroidism: 以下 CH) は 新生児マス スクリーニングの対象疾患で早期発見 早期治療により障害の発生を予防できる 新生児では 当該スクリーニングの指標となる甲状腺刺激ホルモン ( 以下 TSH) が出生直後に一過性に高値となりその後数日で漸減することから 出生後の早い日齢での採血は当該スクリーニング測定値に影響を及ぼす可能性が考えられる 今回 2004 年度から 2013 年度の 10 年間の千葉県での測定データを用いて日齢ごとの TSH の測定値について検討した この結果 採血日齢が早まるほど CH とは関連なく一過性に TSH 値が高くなる傾向が認められた ( 調査研究ジャーナル 2015;4(1):22-26) キーワード : 先天性甲状腺機能低下症 新生児マス スクリーニング 採血日齢 TSH 値 要再検査率 はじめに先天性甲状腺機能低下症 (Congenital hypothyroidism: 以下 CH) は 胎生期または周産期に甲状腺の形態や機能に異常をきたしたことによる先天的な甲状腺ホルモンの分泌不全 ( 不足 ) によって起こる疾患の総称である 1) 甲状腺ホルモンは 胎生期から乳幼児期にかけての神経髄鞘形成に不可欠であり この時期の甲状腺ホルモンの不足は不可逆的な知能障害をもたらす 1) 一方で CH によるこの様な障害は早期発見 早期治療により予防することができることから CH は 1979 年より新生児マス スクリーニング ( 以下 新生児 MS) の対象疾患として追加され成果をあげている CH のスクリーニングでは 甲状腺から分泌 連絡先 : 廣田美和 千葉市美浜区新港 公益財団法人ちば県民保健予防財団 (Received 7 Jan 2015 / Accepted 18 Feb 2015) される甲状腺ホルモンが減少すると このホルモンの分泌を促すために脳下垂体から分泌される甲状腺刺激ホルモン ( 以下 TSH) の血中濃度が上昇することから 血中の TSH 値を指標としており TSH 値が高値を示すと本症が疑われる 一方 新生児は 出生直後に寒冷刺激によると言われる TSH の一過性の急上昇が生理現象として起こることが知られており 出生後 30 分前後でピークとなった後 3~5 日にかけて漸減していく 2) このことから 早い日齢での採血は TSH の一過性の上昇により CH でないにもかかわらず高値を示す可能性が考えられる 本研究では CH のスクリーニングを行った血液検体について 初回採血した誕生後の日齢と TSH 値の関連について検討したので報告する 検査対象及び方法 2004 年度から 2013 年度までの 10 年間に当セン 22

2 廣田ほか :CH スクリーニング測定値における採血日齢の影響について ターで CH のスクリーニングを行った新生児 488,224 人を対象とし 日本マス スクリーニング学会誌の濾紙血の採取法 採血時期 保存法 2) に従い足蹠外縁部から初回採血として採取したろ紙血液を使用した 血液検体は 出生日から採血日までの日齢 ( 出生日を日齢 0 とする ) により 日齢 3 以前 ( 303 検体 ) 日齢 4 (269,824 検体 ) 日齢 5(183,549 検体 ) 日齢 6 (18,545 検体 ) 日齢 7 以降 (16,003 検体 ) の 5 群に分け 初回採血日齢の年次変化 TSH 測定値の分布 再検査 ( 再採血 ) 率等について比較した CH スクリーニングでの判定の基準は千葉県母子保健運営協議会先天性代謝異常専門部会に従い TSH 値 10μU/ml 未満は正常と判定した 要再検査基準は TSH 値 10.0~14.9μU/ml 要精密検査基準は再検査時の TSH 値が 10.0μU/ml 以上 直接精密検査 ( 再検査は行わずに精密医療機関を受診 ) 基準は初回採血した検体の TSH 値が 15.0μU/ml 以上とした 検査は 2005 年度まではエンザプレート N- TSH 2006 年度以降はエンザプレート Neo-TSH ( 両方ともシーメンスヘルスケア ダイアグノスティクス社製でマイナーチェンジによる名称変更 ) キットを用いた ELISA 法により行った 結果 2004 年度から 2013 年度までの初回採血日齢の推移では 日齢 4 と日齢 5 の変化が大きかった 2004 年度は日齢 4 が 47.8% 日齢 5 が 44.0% 2005 年度は日齢 4 が 48.3% 日齢 5 が 44.0% と大きな差はなかったが 2006 年度に日齢 4 の占める割合が 50% を超え その後は経年的に増加し 2013 年度には 62.3% に達した 逆に 日齢 5 の割合は 2006 度以降減少し続け 2013 年度には 30.9% となった 他の日齢 (3 以前 6 7 以降 ) については 10 年間を通じてほとんど変化はなかった ( 図 1) 採血日齢別の TSH 値の分布を見ると 0~1.9 μu/ml の低値の範囲では採血日齢が遅い検体ほど高い割合を占めていたが 2.0~2.9μU/ml の範囲では日齢 3 以前で少し低いものの日齢 4 以降はほぼ同じ割合であり 3.0μU/ml 以上の値では日齢が早い検体ほど占める割合が高い傾向が認められた ( 図 2) 各日齢別の要再検査率について比較すると 日齢 3 以前は検体数が少ないため年度により変動が大きいが 10 年間の平均は 4.29% であった 以後 日齢 4 が 1.45% 日齢 5 が 1.02% 日齢 6 が 0.57% 日齢 7 以降が 0.74% と日齢 7 で多少高いものの 日齢の増加に伴い要再検査率は減少していた ( 表 1) 再検査 (2 回目採血検体 ) により TSH の値が 10μU/ml 以上を示し 要精密検査となった割合は 日齢 3 以前 :0%(0/13) 日齢 4:3.07% (120/3,906) 日齢 5:5.92%(111/1,875) 日齢 6 : 7.55 % ( 8/106 ) 日齢 7 以降 :27.1 % (32/118) と日齢が高くなるほど高い割合を示していた ( 表 2) 日齢 3 以前の初回採血で要再検査となった 13 例の中には 日齢 4~6 に採取した 2 回目の血液で再検査を行った結果 TSH 値が正常となったものが 5 例あった ( 表 3) 考察採血日齢を見ると 10 年前と比べ年を追うご (%) 図 ~2013 年度の採血日齢の推移 日齢 3 以前日齢 4 日齢 5 日齢 6 日齢 7 以降 ( 年度 ) 23

3 とに日齢 4 の占める割合が増え 日齢 5 の割合が減っていた 日齢 4 と日齢 5 の合計が全体に占める割合は 10 年間を通して 92~93% と変化はなかったので 日齢 4 の割合の増加は日齢 5 での採血が早まり日齢 4 の採血に移行した結果と考えられる 新生児 MS のための採血は (%) 出産後の入院中に行われることが多く 近年の出産後の退院が早まる傾向が 10 年前よりも新生児 MS の採血日を早めていると考えられる 新生児 MS は 1 度の採血で 19 疾患の検査を行うもので 採血時期はこれらの疾患を効果的 効率的に発見 治療をするのに適しているとし 日齢 3 以前 日齢 4 日齢 5 日齢 6 日齢 7 以降 TSH 値 μu/m 図 2 各採血日齢別の TSH 値の分布 年度 表 1 採血の各日齢別の要再検査率採血の日齢 3 以前 以降 3/46 ( 6.52) 1/41 ( 2.44) 1/25 ( 4.00) 1/38 ( 2.63) 1/32 ( 3.13) 2/31 ( 6.45) 2/33 ( 6.06) 0/18 ( 0) 0/16 ( 0) 2/23 ( 8.70) 298/23,880 ( 1.25) 260/23,014 ( 1.13) 379/25,202 ( 1.50) 462/26,687 ( 1.73) 395/27,638 ( 1.43) 403/28,029 ( 1.44) 314/29, /28,298 ( 1.44) 446/28,849 ( 1.55) 541/29,227 ( 1.85) 186/21,980 ( 0.85) 230/20,968 ( 1.10) 218/20,722 ( 1.05) 250/20,227 ( 1.24) 216/19,285 ( 1.12) 195/17, /16,730 ( 0.84) 149/15,977 ( 0.93) 143/15,182 ( 0.94) 147/14,490 ( 1.01) 12/2,131 ( 0.56) 10/2,048 ( 0.49) 11/1,788 ( 0.62) 10/1,778 ( 0.56) 16/1,736 ( 0.92) 10/1,916 ( 0.52) 10/1,846 ( 0.54) 8/2,013 ( 0.40) 6/1,657 ( 0.36) 13/1,632 ( 0.80) 11/1,922 14/1,571 ( 0.89) 11/1,571 ( 0.70) 12/1,461 ( 0.82) 11/1,382 ( 0.80) 16/1,610 ( 0.99) 6/1,749 ( 0.34) 8/1,605 ( 0.50) 9/1,577 20/1,559 全体 510/49,959 ( 1.02) 515/47, /49,304 ( 1.26) 735/50,191 ( 1.46) 639/50, /49,574 ( 1.26) 473/49,358 ( 0.96) 573/47,911 ( 1.20) 604/47, /46,931 ( 1.54) 合計 13/303 ( 4.29) 3,906/269,824 ( 1.45) 1,875/183,549 ( 1.02) 106/18, /16,003 ( 0.74) 6,012/488,224 ( 1.23) 上段 : 要精検者数 / 再検体数下段 :( ) 要精検率 ( % ) 24

4 廣田ほか :CH スクリーニング測定値における採血日齢の影響について て出生後日齢 4~6 に採血を行うこととされており また 日齢 3 以前の採血では TSH 値が高値を示す傾向があるため避けるべきとされている 3) 今回の検討でも TSH 値が 0~1.9μ U/ml と低値の範囲では採血日が遅い検体の占める割合が高く 3.0μU/ml 以上の範囲では採血日の早い検体の占める割合が高くなっていた また TSH 値が 10.0μU/ml 以上で再検査となった割合も採血の日齢が早い検体ほど高く 日齢 3 以前で 4.29% を示し 採血の日齢が遅くなるに従い減少する傾向が認められ さらに 日齢 3 以前での採血で TSH 値が 10.0μU/ml 以上となり 再検査のために日齢 4~6 で採血した検体で TSH が正常値となった例もあった これらのことから 採血の日齢が早い検体で TSH が高値を示す割合及び要再検査率が高いのは TSH の新生児の出生直後に起こる一過性の急上昇とその後 3~5 日にかけて漸減していく正常な生理現象 1) の中にあって TSH の血中濃度が高い時期に採血したことに起因していることが示唆された CH のスクリーニングにおける要再検査率は 1.0% 以下が望ましい 4) とされており 実際に千葉県における 2004~2013 年度の当該スクリーニングの要再検査率をみると 日齢 5 以降での採血がそれに該当している また 高い要再検査率を示した日齢 3 ( 4.29%) 及び日齢 4 (1.45%) の再検査検体についての検査の結果 要精密検査 (TSH 値が 10μU/ml 以上 ) となっ た割合は日齢 3 以前で 0%(0/13 例 ) 日齢 4 で 3.07%(111/3,906 例 ) と低値であったが 日齢 5 以降の採血では 要精密検査となった割合は日齢とともに増加し 日齢 7 以降では 27.1% (32/118 例 ) と高値を示していたことから 日齢の早い検体での要再検査の結果が精密検査とならない場合が多いことが判る 以上のことから CH のスクリーニングを効果的に行い 要再検例を減らし新生児本人や保護者への心身的負担の軽減を図るうえでは 採血日齢の遅い検体 ( 日齢 4~6 は遵守 ) を使用することが望ましいと考えられる しかし先にも述べたとおり 出産後の退院が早まる傾向にあること またタンデムマススクリーニングの導入でより緊急性がある対象疾患も追加され 一部の対象疾患では早い日齢での採血が望まれていることなどを踏まえると 今後はさらに日齢 4 での採血が増えると予想されるが CH のスクリーニングにおいて要再検査率が上がる可能性があることを考慮する必要がある 本研究の結果から CH のスクリーニングでは 少なくとも新生児 MS のための採血として定められている日齢 ( 日齢 4~6) を遵守する必要性が再確認できたが 今後も日齢と TSH 値の変化について注視していきたい なお 本論文の研究の一部は 平成 25 年度 ( 第 52 回 ) 千葉県公衆衛生学会において発表した 表 2 採血日齢別再検査の結果で要精密検査になった割合 採血の日齢 3 以前 以降 全体 0/13 ( 0% ) 120/3,906 ( 3.07% ) 111/1,875 ( 5.92% ) 8/106 ( 7.55% ) 32/118 ( 27.1% ) 271/6,018 ( 4.50% ) 上段 : 要精密検査 / 再検査数下段 :() 要精密検査割合 表 3 日齢 3 以前の初回採血検体で要再検査となり 2 回目 ( 日齢 4~ 6) の採血 検体でTSH 値が正常値となった例 初回採血日齢 / TSH 値 2 回目採血日齢 / TSH 値 A 日齢 1 / 14.8μU/ml 日齢 5 / 0.9μ U/ml B 日齢 0 / 14.5μU/ml 日齢 4 / 0.7μ U/ml C 日齢 1 / 16.8μU/ml 日齢 5 / 2.4μ U/ml D 日齢 0 / 24.4μU/ml 日齢 5 / 1.0μ U/ml E 日齢 2 / 15.8μU/ml 日齢 4 / 3.5μ U/ml 25

5 引用文献 1) 日本小児内分泌学会マス スクリーニング委員会. 日本マス スクリーニング学会作成委員. 先天性甲状腺機能低下症マス スクリーニングガイドライン (2014 年改訂版 ) ) 原田正平. 甲状腺ホルモン : マススクリーニングの問題点. 新生児内分泌研究会編著. 新生児内分泌ハンドブック. メディカ出版.2008; ) 梅橋豊蔵. 濾紙血の採取法 採血時期 保存法. 日本マス スクリーニング学会誌 1998;8(2): ) 梅橋豊蔵. 新生児マススクリーニングにおける検査前の精度管理. 日本マス スクリーニング学会技術部会. 日本マス スクリーニング学会精度管理委員会編集.2002; ) 梅橋豊蔵. クレチン症. 日本マス スクリーニング学会誌 1998;8(2):