thrs

Save this PDF as:
 WORD  PNG  TXT  JPG

Size: px
Start display at page:

Download "thrs"

Transcription

1 204 シリーズ : 植物園 公園の樹木管理 新宿御苑の樹木管理 勝木俊雄 1, * I. 新宿御苑の概要新宿御苑は, 環境省が所管する国民公園のひとつで, 東京都の新宿区と渋谷区にまたがる場所に位置する庭園である ( 図 1). 面積 58.3 ha の敷地の中に, 整形式庭園や風景式庭園, 日本庭園などがあり, 年間およそ 150 万人が利用している. 近年では多くの外国人観光客も利用しており, 日本を代表する公園である. 新宿御苑は, 江戸時代は信州高遠藩の内藤家の下屋敷で,1872 年 ( 明治 5 年 ) に近代農業振興を目的として 内藤新宿試験場 が設置された. その後 1879 年に宮内省所管の 新宿植物御苑 となり, 皇室の御料地 農園として運営され, 農作物の品種改良や外国産樹種の種苗供給 がおこなわれた.1906 年に福羽逸人らによって大規模な改造事業がおこなわれ, 現在見られる庭園が整備され 新宿御苑 と改称された( 環境省自然保護局 2006). その後は終戦まで皇室の庭園として, 観桜会や観菊会の場などとして利用されていた ( 図 2). 終戦後の 旧皇室苑地の運営に関する件 (1947 年閣議決定 ) において, 新宿御苑は 速やかに文化的諸施設を整備し, その恵沢を戦後國民の慰楽, 保健, 教養等國民福祉のため確保し, 平和的文化國家の象徴たらしめることとし, 國民庭園として一般に開放するとともに國民藝術の向上に資する諸施設を整備すること とされ,1949 年 ( 昭和 24 年 ) に国民公園新宿御苑として, 一般に公開されるようになった. 新宿御苑はこうした歴史的変遷をもつため, 一般的な * 1 1 図 1. 新宿御苑の航空写真写真はアジア航測から提供 Fig. 1. Aerial photo around Shinjuku-Gyoen Note : The photo was provided by Asia Air Survey Co., Ltd. Toshio Katsuki 1, *(2016)Tree management in Shinjuku Gyoen. Tree and Forest Health 20 : 204~210 責任著者 (Corresponding 森林総合研究所多摩森林科学園 東京都八王子市廿里町 Tama Forest Science Garden, Forestry and Forest Products Research Institute. Todori , Hachioji, Tokyo , Japan

2 勝木 : 新宿御苑の樹木管理 205 都市公園とは異なり, 敷地内に多くの歴史的な遺産をもつ. また, 首都東京の中心地における貴重な大規模緑地としての機能の発揮も求められている. そこで,21 世紀における新宿御苑のあるべき姿を実現するための指針として, 環境の杜 という名のもと, 歴史 文化遺産, 植物遺産を評価し継承する, 都市の緑地としての機能を維持 確保する, 環境という視点から積極的に施策展開する の 3 つの目標が提案されている ( 自然環境セ ンター 2004). 提案されている目標を考慮すると, 樹木管理は新宿御苑にとってきわめて重要な業務のひとつであり, 実際に多くの関係者が関わっておこなわれている. そうした樹木管理は, 樹木医にとって有益な知見が多く含まれていると考えられる. そこで本稿では, 管理方針に関わる項目を中心に, 新宿御苑における樹木管理の特徴と課題についてまとめてみたい. II. 設計思想と樹木の配置 図 2. 新宿御苑における観桜会皇室主催の観桜会は,1917 年にそれまでの浜離宮から新宿御苑に移転した. 写真は新宿御苑管理事務所提供 Fig. 2. The cherry blossom viewing in Shinjuku Gyoen Note : The cherry blossom viewing held by the Imperial Household was transferred from Hama Villa to the Shinjuku Gyoen in The photo was provided by Shinjuku Gyoen. 新宿御苑の大きな特徴のひとつは, 整形式庭園や風景式庭園, 日本庭園など複数のスタイルの庭園を組み合わせていることである. 明治時代当初は農業振興を目的とした試験場として利用されていたため, 新宿御苑となって皇室庭園として利用されるためには大規模な改修が必要であった. 改修にあたっては当時宮内省の御料局技師であった福羽逸人が計画の指揮を執り, アンリ マルチネに庭園の設計を依頼した ( 環境省自然保護局 2006). アンリ マルチネは,19-20 世紀のフランスの造園家であり, 多くの庭園を設計したほか, ヴェルサイユ国立高等園芸学校教授やフランス国立園芸協会の副会長などを務めたフランス造園界を代表する人物であった ( 牧 2007). アンリ マルチネは当時のフランスの庭園技法を使い, 地形と樹木の操作による建物などからの景観の見え方に重点をおいた設計をおこなったと考えられている ( 図 3; 田村 2007). 新宿御苑の庭園としての特徴は, 宮殿 ( 予定されてい 図 3. アンリ マルチネが描いたと考えられる新宿御苑の鳥瞰図整形庭園はほぼ現在と同様だが, その奥の宮殿は建設されなかった. 図は新宿御苑管理事務所提供 Fig. 3. Bird s-eye view of Shinjuku Gyoen considered Henri Martinet drew Note : The formal garden was the same as the current, but the palace of the back was not built. The figure was provided by Shinjuku Gyoen.

3 206 樹木医学研究第 20 巻 4 号 (2016) たが, 日露戦争の財政難から建設中止 ) や御休所, 正門, 御殿, 日本庭園入り口など主要な視点場において, 広く奥行きをもつ景観としての見通しが見られる点にある. このため, 高木性の樹木は見通しを遮ることがない位置に配置されるとともに, 四季で変化する樹木の色彩を取り入れた景観がデザインされている. 例えば常緑性の高木であるスダジイ (Castanopsis sieboldii(makino)hatus. ex T. Yamaz. et Mashiba) やマテバシイ (Lithocarpus edulis(makino)nakai) などは景観の奥に背景として, 落葉性の亜高木であるサクラ類 (Cerasus spp.) やカエデ類 (Acer spp.) は景観の手前に鑑賞対象として配置することで, それぞれの樹木の色彩がより強調される. また, 整形式庭園ではモミジバスズカケノキ (Platanus acerifolia(aiton)willd.) を利用することで, より西洋式庭園のイメージが強調されている一方, 日本庭園ではアカマツ (Pinus densiflora Siebold et Zucc.) やクロマツ (P. thunbergii Parl.), サクラ類, カエデ類など日本の樹木を利用して日本のイメージが強調されている ( 図 4). しかし, 風景式庭園では, 西洋から導入されたヒマラヤスギ (Cedrus deodara(roxb.)g. Don) やユリノキ (Liriodendron tulipifera L.) のほか, 日本産のサクラ類やマテバシイなども多用されており, 和洋折衷となっていることは興味深い. 現在では福羽による改修から 100 年以上が経過したこ とで, こうした庭園の状態は, 当初の設計想定から大きく変化している. 整形式庭園や日本式庭園の剪定をおこなっている樹木はあまり大木化していないが, 風景式庭園や背景となる緑地部分のヒマラヤスギやユリノキなどは樹高 20 m を越える大木になっているほか, スダジイやサクラ類も大きく樹冠を広げている. さらにその後新たな樹木が植栽されたこともあり, 改修当時は確保されていた見通しが遮られている場所が多数生じている ( 図 5). 現在では自然環境センター (2004) の指針等を参考に, 福羽がおこなった当初計画の姿に近づけるよう管理をおこない, 見通しの回復に努めている. 例えば, 見通しを遮っている枯損木や危険木, 混み合った樹木の幹や枝を処理することだけでも, いくつかの見通しは再生することができる. ただし, 次項に述べる植物遺産として新たな価値を持つようになった樹木もあり, 景観と個々の樹木がもつ価値とを両立することが困難なケースも生じ, 今後の大きな課題となっている. III. 植物遺産新宿御苑は前身の内藤新宿試験場から外国産の樹木の導入試験をおこなっていたことから, 日本への導入初期に植えられた樹木や, 樹齢 100 年を越えるような古木, 胸高周囲長 3 m を越える巨樹, 新宿御苑から各地に広がったと伝えられる樹木など, 歴史的にも学術的にも貴重と考えられる樹木が数多く存在する. 現在新宿御苑では, これらを植物遺産として評価して保全に取り組んでいる 図 4. 日本庭園における樹木の配置手前に樹高の低い 多行松 やカンザクラ, 奥に樹高の高いスダジイやコウヨウザンが配置されている Fig. 4. Placement of trees in the Japanese garden Note : Subtrees of Pinus densiflora Umbraculifera or Cerasus kanzakura with short height were located in front and trees of Castanopsis sieboldii or Cunninghamia lanceolata with tall height were located in the back. 図 5. イギリス式庭園から西側の風景右側のサトザクラ 一葉 と左側のユリノキは大きく樹冠を広げ, 見通しが妨げられている Fig. 5. A landscape at English-style garden in Shinjuku Gyoen for the west side Note : Cerasus Sato-zakura Group Hisakura on the right side and Liriodendron tulipifera on the left side has a large crown and outlook were hampered.

4 勝木 : 新宿御苑の樹木管理 207 ( 自然環境センター 2003). 例えば明治初期に新宿御苑に導入され各地に広がった樹木として, ヒマラヤスギやユリノキ, タイサンボク (Magnolia grandiflora L.), モミジバスズカケノキ, ラクウショウ (Taxodium distichum (L.)Rich.) などが現存している ( 図 6). これらの樹木は全国的に見てもきわめて貴重な存在であり, 国レベルでも保全対象となる樹木であると考えられる. 植物遺産を含めてすべての樹木について, 新宿御苑ではおよそ 5 年に一度毎木調査をおこない, その現況を把握することにしている. さらに日常の見回りなどから得た情報などをもとに判断して, 樹木管理をおこなっている. また, 景観構成上の役割を果たしている樹木は保全あるいは代替更新をおこなうこととしている. 一方, 幹や枝の枯損により危険と判断された樹木は, 剪定や伐採, 支柱設置による補強などによって危険リスクを低減させる処置をおこなっている. ところが樹木が大きく成長していくと, こうした樹木管理に様々な問題が発生する. 環境省の巨樹巨木林調査をもとにした全国巨樹 巨木林データベース (http : // では, 新宿御苑の巨樹としてヒマラヤスギ13 件やユリノキ10 件, モミジバスズカケノキ 45 件, ラクウショウ 9 件などが登録されている. これらはいずれも植物遺産として認められるものであるが, 日本産の樹種でもスダジイ 8 件やアカガシ (Quercus acuta Thunb.)2 件, ケヤキ (Zelkova serrata(thunb.)makino)17 件などが登録されている. こうした巨樹の多くは基本的に自然樹形とする管理方針で大きく成長してきており, 歴史的な価値に加えて巨樹としての価値も生じている. しかしその反面, 樹木サイズが大きくなることで当初の設計デザインから逸脱してくる. また, 周囲の植物を被圧することや, 幹や枝の枯 損による入園者への危険リスクが増大していることなど, 管理上の問題点も生じてくる ( 図 7). 低木であれば容易におこなうことが出来る剪定も, 大木ではきわめて困難となる. 巨樹の管理には費用や高所作業の制約などから, 速やかに解消されない問題が多く, 新宿御苑の樹木管理の大きな課題となっている. IV. サクラの管理サクラ類は日本を代表する樹木であり, 開花期には多くの花見客を集める. 新宿御苑も例外ではなく, 染井吉野 (Cerasus yedoensis(matsum.)masam. & Suzuki Somei-yoshino ) の開花期には年間を通してもっとも入場者数が多く, 一日 8 万人を超えることもある. また, サトザクラ (C. Sato-zakura Group) が咲く時期に内閣総理大臣主催の 桜を見る会 が開かれることからも, 新宿御苑のサクラ類の重要性は認められるだろう. 新宿御苑のサクラについては,1879 年ごろに 染井吉野 を植栽したと記録されており ( 自然環境センター 2003), もっとも古い植栽記録と考えられる. その後の丹羽 (1921) の報告書によると, 当時の新宿御苑には 18 種類 ( 栽培品種を含む )1,560 本のサクラがあり, さらに 年の大正年代に, 樺太や朝鮮を含む当時の日本全国から様々な種類のサクラを大規模に収集 植栽している.1919 年に 106 系統 350 本,1920 年に 31 系統 108 本のサクラが各地から送られたと記録されている. 当時の個体がどれほどそのまま生存しているのかは定かではないが, このコレクションが現在の新宿御苑のサクラの原型となっていると考えられる. 現在でも 10 種 51 栽培品種のサクラが新宿御苑で確認 図 6. 明治初期に導入されたラクウショウの幹と気根 Fig. 6. Trunk and aerial roots of Taxodium distichum, which was introduced in the early Meiji era 図 年の冠雪害により枝折したヒマラヤスギ Fig. 7. Cedrus deodara which branches was broken caused by snow damaged in 2014.

5 208 樹木医学研究第 20 巻 4 号 (2016) されている ( 勝木 2001). この中には東京の荒川堤に由来すると考えられる 嵐山 (Cerasus Sato-zakura Group Arasiyama ) や 長州緋桜 (C. Sato-zakura Group Choshuhizakura ), 福禄寿 (C. Sato-zakura Group Contorta ), 駿河台匂 (C. Sato-zakura Group Surugadai-odora ), などの老大木が含まれており, 大正年代に植栽された個体も生存していると考えられる. また, 汀桜 (C. Satozakura Group Migiwa ) のようにその後の調査で新たに確認された栽培品種も存在する ( 勝木 2016). 近年新たなサクラも導入されているが, こうした古くからのサクラの栽培品種が大規模に残されているケースは極めて少なく, 新宿御苑の重要な植物遺産のひとつとなっている. なお, サクラの栽培品種は種類名への関心も高いことから, 新宿御苑では樹名プレートを設置し, 一般入園者へも種類がわかるようにしている ( 図 8). 現在およそ 1,000 本あるサクラ類でもっとも多いサクラの種類は 染井吉野 で, ついでヤマザクラ (Cerasus jamasakura(siebold ex Koidz.)H. Ohba var. jamasakura), 一葉 (C. Sato-zakura Group Hisakura ), 関山 (C. Sato-zakura Group Sekiyama ) などである. これらの中には大木化している個体もあり, 特に 染井吉野 は大きく成長しているものが多い. 全国巨樹 巨木林データベースには新宿御苑から 19 本の 染井吉野 が登録されている. 染井吉野 は短命だと考えられがちであるが, 実際には樹齢 100 年を超える長命の樹木である ( 勝木 2015). 染井吉野 は, 胸高の幹周囲長が 3 m を超える巨樹にも成長し, 全国では 200 件以上が巨樹として登録されている. しかし,19 本も登録されている生育地は他になく, 新宿御苑の環境や管理が 染井吉野 の 成長にとってきわめて良好であると考えられる. 新宿御苑の 染井吉野 の環境に関して, もっとも良い点は枝と根を広げる充分なスペースがあることだろう. 多くの 染井吉野 植栽地では列状に植栽するため, 染井吉野 の植栽間隔が充分ではないことが多い. 植栽当初のサイズであれば充分な植栽間隔であっても, 木が成長するにしたがって枝や根が競合するようになると, 個々の樹木の成長は阻害される. しかし, 景観デザインの観点から新宿御苑のサクラは, 列植ではなく, 芝生の空間がある場所に単木あるいは少数で植えられていることが多く, 枝と根を充分広げることができる ( 図 9). ただし, すべてのサクラに充分なスペースが確保されておらず, 現在衰弱しているサクラの多くは, 近隣の樹木からの被圧が大きく影響していると考えられている. 樹木の成長で生じる競合状態をどのように解消させていくか, 景観の回復の問題も含めると今後の大きな課題であろう. 新宿御苑は, 平坦な武蔵野台地の関東ローム層が厚く堆積した土壌をもち, 染井吉野 には適した土壌環境と考えられる. 比較的水はけが良く, 養分環境としても大きな問題はない. また, 新宿御苑の大部分は草地あるいは樹林地となっており, コンクリートやアスファルトで覆われている地表は少ない. 街路樹のような土壌環境に深刻な問題がある 染井吉野 と比較すると, 新宿御苑の 染井吉野 は土壌環境にきわめて恵まれていると考えられる. しかし, 新宿御苑でも踏圧害による土壌の悪化が懸念されている. 芝生広場の脇のサクラ類の根回りを観察すると, 根回りの土壌は踏み固められ, 透水性や通気性が悪化している ( 図 10). 踏圧害により衰弱したと考えられる個体も存在する. このため一部の草地につい 図 8. 各サクラに設置された樹名版 Fig. 8. Tree name plate that has been attached for each cherry tree. 図 9. 周囲に枝を大きく伸ばした 染井吉野 Fig. 9. Somei-yoshino which branches were expanded into the surrounding

6 勝木 : 新宿御苑の樹木管理 209 ては, 春のお花見シーズン後に芝生養生のために立ち入 り禁止として土壌の改善に努めている. また, 根回りに 低木や多年草を植栽することで, 人が踏み込まないよう にして, 土壌の改善を図っている場所もある ( 図 11). ただし, このような根回りへの植栽は, 本来の庭園の設 計デザインからは逸脱しており, 庭園内を自由に歩くこ とを妨げている. 他の機能を損なうことなく, 土壌の保 全を図ることも今後の大きな課題となっている. サクラ類にとって病害虫対策はきわめて重要であり, サクラてんぐ巣病やならたけ病, コスカシバなどの病虫 害が深刻な問題となっている場所も多い. しかし新宿御 苑では, サクラてんぐ巣病やサクラ増生病, 腐朽病, コス カシバなどの軽微な被害は見られるものの, 深刻化して いない. 現在の管理では, 被害の状況から判断して, 必要 に応じた薬剤利用や剪定などの対処をおこなっている程 度である. 幹や枝の腐朽病害に対する対処としては, 枯 図 10. 踏み固められたサクラの根回り Fig. 10. Trodden hard ground around cherry tree. 図 11. 土壌保護のためにサクラの樹冠下に植栽されたスイセン Fig. 11. Narcissus tazetta that have been planted under the cherry crown for soil protection れた枝 幹の伐採や補強が中心で, 枯損による危険リスクの低減化が目的となっており, 病害への根本的な対策ではない. それでも新宿御苑全体として深刻な病虫害が発生していないのは, 多くの関係者が頻繁に観察して, 深刻な被害となる前に対処しているからだと思われる. こうした良好な環境と適切な管理によって, 新宿御苑のサクラは長期間にわたって比較的健全に育成してきたと考えられる. もちろんすべての個体が永遠に健全な成長を続けることは不可能で, 現在でも衰弱して枯死している個体は年々生じている. しかし国内の著名なサクラの名所といわれるところと比較すると, 新宿御苑のサクラは健全に育成されている個体が多く, サクラを扱う樹木医は参考にするべき見本であろう. V. 管理体制新宿御苑では, 国民公園として一般国民に開放されて以降, 厚生省あるいは環境庁, 環境省が管理事務所を設けて, 管理をおこなってきた. さらにこれに協力するための民間の活動団体として,1949 年に新宿御苑保存協会が設立され, 苑内の清掃, 樹木の管理, 施設の維持等をおこなってきた.2013 年以降の維持管理業務は, 公共サービス改革 ( 市場化テスト ) の企画競争入札により, 国民公園協会 昭和造園グループに委託されており, 樹木管理についても吊し切り等の一部の業務を除き, 委託業者が直接的な業務をおこなっている. このほか, 民間のボランティア団体であるグリーンアカデミークラブ (GAC) が活動していることが管理体制の大きな特徴となっている.GAC は, 東京農業大学の高齢者向けの生涯学習専門機関である成人学校 ( 現在はグリーンアカデミーに改組 ) の卒業生が設立した団体である ( グリーンアカデミークラブ 2011).1981 年に成人学校卒業生の有志が, 学校で身につけた技術を発揮させて社会に貢献するために, 新宿御苑で奉仕活動をおこなうことを目的として GAC を設立した.2016 年現在, 成人学校あるいはグリーンアカデミーを卒業した会員 338 名が登録されており, 新宿御苑の休園日である月曜日に活動をおこなっている. 年間およそ 40 日に延 5,000 人ほどが, 庭園班と菊班, バラ班, 里山班, 樹木プロジェクト班に分かれ, それぞれ作業をおこなっている ( 図 12). 作業に当たっては管理事務所と委託業者とも調整をはかることで, 管理業務が円滑におこなわれるように務めている. 新宿御苑ではこのように管理事務所と民間会社, ボランティア団体が連携をはかることで, 管理をおこなっている. 少数の熟練した技能者によって樹木管理の計画が

7 210 樹木医学研究第 20 巻 4 号 (2016) 図 12. GAC( グリーンアカデミークラブ ) による樹木の剪定写真は GAC から提供 Fig. 12. The pruning of trees by GAC (Green Academy Club) The photo was provided by GAC 決定 実行されていた時代と比較すると, 格段に多くの 人が関係するようになっている. 樹木の増殖や病害虫の 対処など, 一部の技術については低下している部分もあ るかもしれない. しかし, 人の寿命を超える長命の樹木 の管理には, 情報や技術, 管理方針などが正確に継承さ れることがもっとも重要である. 現在の管理体制も今後 変化していくだろうが, 組織として記録を残しながら管 理を継続していくことで, 情報や技術の継承という面で はより望ましい体制になっていくと思われる. VI. おわりに 新宿御苑は開園して 110 年以上が経過し, その間庭園 の様子も組織も大きく変革してきた. 現在の新宿御苑の 管理方針は, そうした歴史的な遺産を継承するととも に, 緑地としての機能も最大限発揮させていこうとするものである. 樹齢 100 年を超えるような樹木は, こうした人の都合とは無関係に生きているようにも思われるが, 人の都合によって保護や伐採の対象として変わることも事実である. 個人所有の樹木を管理する場合にはほとんど意識されないだろうが, 新宿御苑では国民公園としての役割をもつことから, 樹木も社会の中での評価が問われている. こうした管理方針の考え方は一般の樹木医にとっても有益であろう. 本稿をまとめるにあたって, 新宿御苑管理事務所の田原亮氏, 昭和造園の平山俊明氏,GAC の永野信氏と坂巻資敏氏のほか, 多くの関係者に協力して頂き, 資料提供および助言をいただいた. 皆様に厚く感謝する. 引用文献グリーンアカデミークラブ (2011) 太陽と緑の中で新宿御苑ボランティア活動 30 年の歩み. グリーンアカデミークラブ環境省自然環境局 (2006) 福羽逸人回顧録. 国民公園協会新宿御苑勝木俊雄 (2001) 新宿御苑のサクラの同定調査. 櫻の科学 8: 勝木俊雄 (2015) 桜. 岩波書店勝木俊雄 (2016) 寂光院の汀桜. 京都園芸 102:69-74 牧大次郎 (2007) 新宿御苑の庭園デザインと設計者アンリ マルチネ. 日本庭園学会誌 17:7-12 丹羽鼎三 (1921) 新宿御苑桜調査事業功程概要. 宮内省自然環境研究センター (2003) 新宿御苑 環境の杜 庭園及び植物遺産の評価のための調査報告書. 環境省自然環境局自然環境研究センター (2004) 平成 15 年度新宿御苑 環境の杜 基本計画策定調査等業務管理基本計画策定報告書. 環境省新宿御苑管理事務所田村裕希 (2007) 新宿御苑の空間構造とデザイン的特徴. 日本庭園学会誌 17:1-5