2 である モンゴル 語 の 格 語 尾 は 名 詞 や 動 詞 ( 動 詞 形 動 詞 語 尾 )に 結 合 するが その 際 に 母 音 調 和 による 格 の 母 音 変 化 や 単 語 末 の 母 音 子 音 の 影 響 による 格 の 先 頭 部 分 の 音 声 変 化 が 生 じるのであ
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- すずり ふくだ
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1 1 モンゴル 語 学 習 者 に 対 する 効 果 的 な 格 語 尾 の 指 導 法 研 究 表 を 多 用 した 理 解 促 進 の 試 み 内 田 孝 (UCHIDA Takashi) 滋 賀 県 立 大 学 非 常 勤 講 師 要 旨 モンゴル 語 格 語 尾 と 日 本 語 格 助 詞 の 用 法 には 共 通 性 が 見 られるため 日 本 語 話 者 にとってモンゴル 語 が 学 びやすい 言 語 に 属 することは 事 実 であ る だが 現 在 モンゴル 国 で 用 いられているキリル 式 モンゴル 文 字 は 複 雑 な 正 書 規 則 を 有 するため 日 本 語 話 者 にとってもモンゴル 語 格 語 尾 の 習 得 は 決 して 容 易 とはいえない モンゴル 語 文 法 の 指 導 法 に 関 する 研 究 はこれまで 十 分 に 進 められておらず 学 習 書 によって 文 法 項 目 の 説 明 に も 差 異 が 見 られる 本 稿 では モンゴル 語 格 語 尾 の 指 導 項 目 を 整 理 した 上 で 表 を 多 用 することで 学 習 者 の 理 解 を 促 進 する 学 習 指 導 の 方 法 に 関 する 試 論 を 提 示 する キーワード:モンゴル 語 格 語 尾 初 級 文 法 正 書 法 表 1.はじめに 本 稿 で 論 じるのは モンゴル 語 学 習 者 に 対 するモンゴル 語 格 語 尾 の 教 育 法 についてで あり 特 に 学 習 者 として 日 本 語 話 者 を 想 定 している 日 本 語 とアルタイ 諸 語 の 一 つに 属 するモンゴル 語 はともに 修 飾 語 が 被 修 飾 語 の 前 に 置 かれ 語 順 類 型 では SOV 型 に 属 する また いずれの 言 語 も 形 態 論 上 は 膠 着 語 に 分 類 され 名 詞 や 動 詞 語 幹 に 接 辞 ( 格 語 尾 や 活 用 語 尾 など)を 付 着 させることで 文 の 文 法 的 意 味 を 示 す 本 稿 で 取 り 上 げる 格 語 尾 をはじ め 動 詞 語 幹 に 付 着 する 受 身 使 役 などのヴォイスや 過 去 非 過 去 などテンスを 表 わす 語 尾 変 化 に 関 する 用 法 や 文 法 概 念 を 対 照 すると 両 言 語 には 類 似 点 が 多 くみられる 一 般 に 日 本 語 話 者 がモンゴル 語 を 学 ぶ 場 合 文 法 概 念 の 詳 細 な 説 明 を 受 ける 以 前 に 日 本 語 との 異 同 を 確 認 するという 作 業 を 通 すことでモンゴル 語 の 基 本 文 法 を 一 層 容 易 かつ 正 確 に 理 解 することが 可 能 となる 例 えば モンゴル 語 格 語 尾 を 学 ぶならば モンゴル 語 の 奪 格 -aac 4 1) は 日 本 語 の 格 助 詞 ~から あるいは より に 対 応 するというよう に モンゴル 語 格 語 尾 に 対 応 する 日 本 語 格 助 詞 を 個 別 に 提 示 していくだけでも モンゴ ル 語 格 語 尾 に 関 する 文 法 概 念 と 用 法 についての 基 本 的 な 理 解 は 得 られるのである しかし だからといって 日 本 語 話 者 にとってモンゴル 語 格 語 尾 の 習 得 と 運 用 が 容 易 で あるということにはならない その 理 由 は 2 つある 第 一 に モンゴル 語 格 語 尾 と 日 本 語 格 語 尾 の 大 きな 相 違 は モンゴル 語 格 語 尾 は 一 つの 格 が 複 数 の 形 に 変 化 するという 点
2 2 である モンゴル 語 の 格 語 尾 は 名 詞 や 動 詞 ( 動 詞 形 動 詞 語 尾 )に 結 合 するが その 際 に 母 音 調 和 による 格 の 母 音 変 化 や 単 語 末 の 母 音 子 音 の 影 響 による 格 の 先 頭 部 分 の 音 声 変 化 が 生 じるのである さらに 第 二 として モンゴル 語 格 語 尾 の 表 記 に 際 しては 正 書 法 の 中 の 母 音 挿 入 および 母 音 削 除 の 規 則 ( 母 音 の 挿 入 削 除 の 規 則 ) 2) も 関 わってくるため その 規 則 も 習 得 せねばならない 現 在 モンゴル 国 で 用 いられているキリル 式 モンゴル 文 字 ( 以 下 本 稿 ではキリル 式 モンゴル 文 字 は キリル 式 文 字 と 記 し ロシア 語 表 記 に 用 いられるキリル 文 字 全 般 については キリル 文 字 と 記 す)の 表 記 規 則 を 定 めた 中 心 的 人 物 である Ts.ダムディンスレンらは モンゴル 文 字 規 範 字 典 ( 以 下 本 稿 では 規 範 字 典 と 記 す)を 著 し モンゴル 語 語 彙 の 表 記 規 範 を 明 らかにしたが それによると 母 音 a y グループの 名 詞 に 主 格 を 除 いた 基 本 格 語 尾 6 種 を 付 加 し さらに 母 音 の 挿 入 削 除 の 規 則 が 適 用 さ れ た 場 合 の 名 詞 の 表 記 パ タ ー ン は 計 29 種 類 に も の ぼ っ て い る [Дамдинсүрэн ほか 1983: ] このことからもモンゴル 語 格 語 尾 の 習 得 が 決 し て 容 易 ではないことが 分 かるであろう 筆 者 は モンゴル 語 初 級 文 法 の 中 で 学 習 者 が 特 に 混 乱 をきたしやすい 難 関 ポイント は 2 つあると 考 えている その 第 一 が 本 稿 が 扱 う 格 語 尾 のつくり 方 に 関 する 規 則 である モンゴル 語 学 習 者 は 初 級 レベルのしかも 初 期 段 階 で 文 の 構 成 要 素 として 不 可 欠 である 格 語 尾 を 理 解 し 運 用 できるようになることが 求 められるが 上 述 のように 音 声 変 化 や 正 書 法 に 不 慣 れな 初 学 者 にとって 決 して 簡 単 なことではない そして 第 二 は 正 書 法 の 中 心 的 位 置 を 占 める 母 音 の 挿 入 削 除 の 規 則 である モンゴル 語 初 級 文 法 を 指 導 する 際 には 特 にこの 2 点 について 留 意 し 学 習 者 の 理 解 促 進 が 効 果 的 にもたらされるよう 文 法 項 目 の 説 明 方 法 および 導 入 順 序 を 工 夫 する 必 要 がある こうした 理 由 から 本 稿 で はモンゴル 語 格 語 尾 の 文 法 項 目 を 取 り 上 げ 表 を 用 いながら 学 習 者 の 理 解 を 促 進 する 試 みについて 論 じることとする 2.モンゴル 語 教 育 に 関 する 先 行 研 究 現 在 のモンゴル 国 (1924 年 から 1991 年 までの 国 名 はモンゴル 人 民 共 和 国 )で 標 準 語 と されているのはモンゴル 語 ハルハ 方 言 であり その 表 記 に 用 いられているのがキリル 式 文 字 である モンゴル 国 は 1921 年 にソ 連 の 国 際 的 政 治 力 を 後 ろ 盾 として 中 華 民 国 からの 国 家 独 立 をほぼ 確 立 し ソ 連 に 次 ぐ 世 界 二 番 目 の 社 会 主 義 国 としての 道 を 歩 み 始 めた ロシア 語 表 記 に 使 われているキリル 文 字 を 借 用 することを 正 式 決 定 したのはその 20 年 後 の 1941 年 のことで 3) 約 5 年 の 準 備 期 間 を 経 て 全 面 的 な 移 行 を 終 えた それ 以 前 に 用 いていたウイグル 式 モンゴル 文 字 ( 以 下 本 稿 ではウイグル 式 文 字 と 記 す) 4) には 異 なる 母 音 や 子 音 を 同 一 文 字 で 表 記 し さらに 文 語 体 表 記 で 文 字 表 記 と 実 際 の 発 音 との 隔 たりが 大 きいという 不 便 さがあった これに 対 しキリル 式 文 字 では 言 文 一 致 による 表 記 が 可 能 となり この 新 しい 文 字 を 採 用 したことでモンゴル 人 民 共 和 国 では 識 字 率 が 飛 躍 的 に 向 上 したという 肯 定 的 評 価 がなされている ところが 新 たに 導 入 されたキリル 式 文
3 3 字 の 表 記 体 系 にも 大 きな 問 題 があった まず 第 一 に 表 記 の 複 雑 さである 上 述 した 母 音 の 挿 入 削 除 という 複 雑 な 正 書 規 則 のみならず 格 語 尾 や 一 部 の 動 詞 語 尾 の 表 記 がそ れまでのウイグル 式 文 字 よりも 複 雑 化 した 5) これはキリル 式 文 字 が ウイグル 式 文 字 以 上 に 母 音 調 和 によって 変 化 する 母 音 を 書 き 分 けることが 可 能 となった 以 上 やむをえ ない 側 面 もある しかし 一 部 の 格 語 尾 および 動 詞 語 尾 の 正 確 な 表 記 には 廃 止 したウ イグル 式 文 字 の 表 記 知 識 が 必 要 とされる 6) という 不 合 理 な 要 素 も 含 んでいるのである 第 二 には ロシア 語 表 記 に 用 いられるキリル 文 字 33 種 ( 大 文 字 小 文 字 をあわせて 1 種 類 と 数 える)ではモンゴル 語 の 子 音 および 母 音 の 表 記 に 十 分 でなかった 点 である そのた め モンゴル 語 の 基 本 母 音 を 表 記 するために 2 種 類 の 文 字 ( 大 文 字 Ө と 小 文 字 ө 大 文 字 Ү と 小 文 字 ү)を 創 出 し さらに 子 音 については 識 別 母 音 7) という 発 音 しない 母 音 字 を 表 記 することで 子 音 字 不 足 を 補 うというやや 複 雑 な 方 法 を 創 出 した しかしそれでも 文 字 不 足 は 解 消 されず 結 局 1 文 字 が 複 数 の 母 音 を 表 すというウイグル 式 文 字 でみられた 難 点 がキリル 式 文 字 においても 再 び 生 じた 8) こうした 結 果 として キリル 式 文 字 の 表 記 体 系 は 複 雑 化 し 外 国 人 学 習 者 はもちろんのこと モンゴル 語 母 語 話 者 であっても 誤 表 記 をする 例 がしばしば 見 受 けられるのである 9) ここで 日 本 におけるモンゴル 語 教 育 史 という 視 点 からモンゴル 語 の 文 字 表 記 に 関 連 す る 事 項 をまとめることとする 歴 史 的 に 日 本 においてモンゴル 語 教 育 が 開 始 されたのは 20 世 紀 初 頭 のことであった 日 露 戦 争 の 直 前 モンゴル 東 部 地 域 における 影 響 力 の 強 化 を 望 んだ 日 本 は 一 部 のモンゴル 王 侯 に 接 近 して 交 流 を 開 始 し 社 会 的 近 代 化 を 支 援 する 一 環 として 教 育 分 野 においても 日 本 語 教 育 や 軍 事 教 育 を 担 当 する 日 本 人 教 師 を 現 地 へ 派 遣 した 日 露 戦 争 終 結 後 の 1906 年 には 日 本 は 初 めてのモンゴル 人 留 学 生 を 受 け 入 れた 1908 年 東 京 外 国 語 学 校 ( 現 在 の 東 京 外 国 語 大 学 )にモンゴル 語 の 速 成 科 が 設 置 され 日 本 国 内 において 学 校 教 育 としてのモンゴル 語 教 育 が 本 格 的 に 開 始 された 同 年 東 モン ゴル 地 域 で 地 勢 調 査 活 動 に 従 事 した 陸 軍 軍 人 の 村 田 清 平 が 蒙 古 語 独 修 ( 岡 崎 屋 書 店 ) 10) という 日 本 で 最 初 となるモンゴル 語 学 習 書 ( 会 話 書 )を 出 版 している その 後 日 本 が 敗 戦 を 迎 える 1945 年 までの 間 に 神 戸 の 二 楽 荘 11) 大 阪 の 大 阪 外 国 語 学 校 ( 現 在 の 大 阪 大 学 外 国 語 学 部 ) 奈 良 の 天 理 学 校 ( 現 在 の 天 理 大 学 ) 東 京 の 善 隣 協 会 専 門 学 校 ( 後 に 善 隣 高 等 商 業 学 校 など 校 名 変 更 あり) 北 京 の 興 亜 学 院 など 日 本 国 内 外 において 日 本 人 学 習 者 を 対 象 にモンゴル 語 教 育 が 実 施 された 当 時 刊 行 された 日 本 人 向 けのテキストや 辞 書 な どモンゴル 語 学 習 教 材 は いずれもウイグル 式 文 字 あるいはウイグル 式 文 字 のローマ 字 転 写 によって 表 記 されていた 教 材 で 使 用 されている 語 彙 や 表 現 をみると ハルハ モ ンゴル 語 を 対 象 とした 教 材 はわずかで 日 本 が 侵 略 し 満 蒙 興 安 蒙 古 ( 東 部 内 モンゴル 地 域 をこう 呼 んだ) 内 蒙 古 蒙 疆 ( 中 部 内 モンゴル 地 域 をこう 呼 んだ) と 呼 んで 支 配 していた 現 在 の 中 国 内 モンゴル 地 域 のモンゴル 語 が 大 部 分 を 占 めていた 1945 年 に 日 本 が 内 モンゴル 地 域 から 撤 退 して 以 後 は モンゴル 人 民 共 和 国 は 1946 年 に 中 華 民 国 が 独 立 国 として 正 式 に 承 認 し 内 モンゴル 地 域 は 1947 年 に 中 国 共 産 党 によって
4 4 内 モンゴル 自 治 区 として 再 編 成 され 続 いて 1949 年 に 中 華 人 民 共 和 国 が 成 立 するという ように 日 本 モンゴル 関 係 およびモンゴル 地 域 内 外 の 情 勢 は 大 きく 変 化 した そうし た 中 で 1950 年 代 以 降 における 日 本 国 内 のモンゴル 語 教 育 は ウイグル 式 文 字 表 記 および 内 モンゴル 地 域 のモンゴル 語 ではなく キリル 式 文 字 を 採 用 したハルハ モンゴル 語 へ と 移 行 した さらに 1972 年 の 日 本 モンゴル 人 民 共 和 国 間 における 外 交 関 係 の 樹 立 1990 年 のモンゴル 人 民 共 和 国 の 民 主 化 を 経 て 両 国 の 民 間 および 政 府 間 の 諸 分 野 におけ る 交 流 は 拡 大 し ハルハ モンゴル 語 が 主 流 であり 続 けている しかしながら モンゴル 語 教 育 の 方 法 論 に 関 する 研 究 は 日 本 ではこれまでほとんど なされていない モンゴル 語 の 学 習 教 材 の 種 類 が 増 えつつあることは 確 かであるが 依 然 として 会 話 帳 や 単 語 帳 としての 機 能 が 重 視 され 文 法 項 目 の 導 入 から 始 まってその 定 着 をはかる 基 本 練 習 さらには 実 際 のコミュニケーション 活 動 に 近 い 応 用 練 習 を 行 うと いった 言 語 習 得 に 力 点 を 置 いた 語 学 テキストはまだ 多 くはないのが 実 情 である 日 本 語 話 者 に 対 するモンゴル 語 教 育 に 関 する 研 究 もこれまでなされていないが 筆 者 の 知 見 の 範 囲 では[ 吉 野 2006,2007,2008]のみを 先 行 研 究 としてあげることができる それらの 中 でも[ 吉 野 2007]は モンゴル 語 格 語 尾 を 取 り 上 げて 考 察 し 新 しい 教 育 方 法 を 提 起 し ている 点 で 重 要 である 具 体 的 に 述 べると 吉 野 は 格 語 尾 6 項 目 について 規 範 字 典 に 依 拠 しつつ 格 ごとに 詳 細 な 項 目 分 類 を 行 い 12) その 後 難 易 度 を 4 段 階 に 分 け その 難 易 度 を 基 準 として 学 習 順 序 を 設 定 するという 作 業 を 行 った ただし 吉 野 の 論 文 では 規 範 字 典 の 名 詞 格 語 尾 の 分 類 をそのまま 外 国 人 に 対 するモンゴル 語 教 育 に 用 いた 結 果 として 例 えば 変 化 の 種 類 が 最 も 多 い 属 格 の 場 合 接 尾 法 が 16 通 りにも 及 んでいる これは 格 語 尾 の 選 定 規 則 と 母 音 の 挿 入 削 除 の 規 則 を 区 別 し 選 定 規 則 のみを 説 明 し ている 一 般 のモンゴル 語 文 法 書 が 属 格 語 尾 を 5 通 り 前 後 に 分 類 して 学 習 者 に 提 示 する 方 法 に 比 べ はるかに 多 い この 規 範 字 典 の 最 大 の 目 的 は 名 詞 に 格 語 尾 が 結 合 し た 場 合 および 動 詞 に 接 辞 が 結 合 した 際 に 母 音 の 挿 入 削 除 に 関 する 正 書 法 規 則 が 適 用 さ れるか 否 か 適 用 されるのであれば 正 しいつづりはどう 書 くかという 表 記 規 範 をモンゴ ル 語 母 語 者 に 提 示 することであったろう しかし 外 国 のモンゴル 語 学 習 者 にとっては そうした 表 記 規 則 の 問 題 以 前 に モンゴル 語 母 語 者 であれば 当 然 自 然 習 得 している 格 語 尾 の 形 成 時 にいかなる 形 を 選 定 するかという 基 本 的 なところから 学 習 する 必 要 がある 格 語 尾 の 選 定 規 則 と 母 音 の 挿 入 削 除 の 規 則 を 同 時 に 教 示 することも 不 可 能 ではなかろ うが 属 格 だけでも 16 通 りに 分 類 された 格 語 尾 について 具 体 的 にどのような 説 明 方 法 を 用 いて 学 習 者 に 指 導 するか 吉 野 の 論 考 ではその 点 までは 詳 しく 言 及 されていない 筆 者 は 格 語 尾 の 選 定 規 則 の 習 得 と 母 音 の 挿 入 削 除 に 関 する 正 書 法 とは 個 別 に 扱 い 格 語 尾 の 選 定 規 則 をマスターした 後 で 母 音 の 挿 入 削 除 の 規 則 を 取 り 上 げたほうが 学 習 者 の 負 担 を 軽 減 し 効 率 よく 学 習 を 進 めることができると 考 えている このほか 本 稿 で 考 察 するモンゴル 語 教 育 という 立 場 からではないが 日 本 語 教 育 の 観 点 からモンゴル 語 の 格 語 尾 もしくはモンゴル 語 母 語 者 の 日 本 語 格 語 尾 の 誤 用 を 扱 った
5 5 研 究 として [ 山 口 1972,1978,1980] [ 小 林 1981,1983] [ナラントヤ2006]などがあ る また モンゴル 語 学 の 立 場 からモンゴル 語 格 語 尾 を 対 象 とした 研 究 として [ 島 崎 1976] [ 橋 本 1987,2007] [ 水 野 1988,1993] 佐 藤 [1997] [ 山 越 2000]などがあげら れる さらにモンゴル 語 を 含 むアルタイ 諸 語 と 朝 鮮 語 日 本 語 の 文 法 要 素 を 対 照 した[ 風 間 2003]などもあり こうした 研 究 成 果 に 含 まれる 日 本 語 モンゴル 語 の 格 の 比 較 分 析 が モンゴル 語 教 育 においても 活 用 できよう 3. 格 語 尾 の 分 類 とこれまでの 学 習 書 における 説 明 方 法 モンゴル 語 では 一 般 的 に 次 にあげる 7 格 が 基 本 の 格 語 尾 とみなされている 13) (1) 主 格 (Nominative Case) (2) 属 格 (Genitive Case) (3) 対 格 (Accusative Case) (4) 造 格 (Instrumental Case) (5) 奪 格 (Ablative Case) (6) 与 位 格 ( 与 格 および 位 格 Dative-Locative Case) (7) 共 同 格 (Comitative Case) これらのうち (1)の 主 格 はゼロ 語 尾 であり 14) また (3)の 対 格 はゼロ 語 尾 になる 場 合 と 対 格 語 尾 が 付 く 場 合 の 両 方 がある 主 格 以 外 の(2)から(7)の 6 つの 格 が 前 に 置 かれ ている 名 詞 や 動 詞 に 直 接 結 合 する そしてそれらの 格 語 尾 はすでに 述 べたように 日 本 語 のように 一 つの 格 は 一 つの 表 記 と 固 定 しているわけではなく 結 合 する 名 詞 や 動 詞 の 母 音 子 音 の 影 響 を 受 け 格 語 尾 の 母 音 が 交 替 したり 格 語 尾 の 先 頭 部 分 が 変 化 を 起 こす ことがある 学 習 者 はそれぞれの 格 語 尾 について 基 本 の 形 と 例 外 規 則 が 生 じる 場 合 そ してその 際 の 格 語 尾 の 形 を 覚 える 必 要 がある 結 合 時 に 生 じる 格 語 尾 の 音 声 変 化 は 以 下 の 5 つのパターンに 分 けることが 可 能 である (1) 単 語 との 母 音 調 和 による 格 の 母 音 交 替 格 が 結 合 する 単 語 の 母 音 構 造 が 男 性 語 / 女 性 語 の 二 タイプのいずれか もしくは 男 性 語 a у グループ/ 男 性 語 o グループ/ 女 性 語 э ү グループ/ 女 性 語 ө グループの 四 タイプのいずれかによって 格 の 母 音 が 母 音 調 和 の 影 響 により 2~4 種 のうちで 交 替 変 化 を 起 こす( 属 格 対 格 造 格 奪 格 共 同 格 ) (2) 語 末 の 短 母 音 軟 音 記 号 の 欠 落 格 が 結 合 する 単 語 の 語 末 が 短 母 音 の 場 合 に それが 欠 落 する( 属 格 対 格 造 格 奪 格 ) ただし 単 語 の 語 末 が 母 音 -и あるいは 軟 音 記 号 -ь の 場 合 はそれが 欠 落 した 後 で 格 の 基 本 形 が 長 母 音 ы/ий 始 まりであれば 男 性 語 であっても 長 母 音 ий 始 まりに 変 化 し( 属 格 対 格 ) 格 の 基 本 形 が 長 母 音 aa 4 始 まりであれば 二 重 母 音 иа 4 に 変 化 する( 造 格 奪 格 ) (3) 語 末 の 子 音 の 影 響 による 格 のトップの 母 音 子 音 の 変 化
6 6 格 が 結 合 する 単 語 の 語 末 が-г, ж, к,ч, ш で 終 わる 男 性 語 の 場 合 格 の 先 頭 部 の 長 母 音 ы が ий へと 変 化 する( 属 格 対 格 ) また 単 語 の 語 末 が-н あるいは 隠 れた н ( 不 定 の н ともいう)で 終 わる 場 合 -ын/-ийн ではなく 長 母 音 -ы/-ий のみを 付 ける( 属 格 ) さらに 単 語 の 語 末 がある 特 定 の 子 音 の 場 合 格 の 先 頭 部 の 子 音 が 変 化 する( 与 位 格 ) (4) 語 末 の 母 音 の 影 響 による 格 のトップの ы/ий の 欠 落 子 音 г の 発 生 格 が 結 合 する 単 語 の 語 末 が 長 母 音 二 重 母 音 固 有 名 詞 外 来 語 の 母 音 ( 短 母 音 長 母 音 二 重 母 音 を 問 わない)の 場 合 に 格 の 基 本 形 の 先 頭 部 の 長 母 音 ы/ий が 欠 落 す るか( 属 格 対 格 ) もしくは 格 の 先 頭 部 に 子 音 г が 発 生 する( 属 格 造 格 奪 格 ) (5) 隠 れた н 隠 れた г の 発 音 化 格 が 結 合 する 単 語 の 語 末 に 隠 れた н が 含 まれる 場 合 それが 発 音 化 される( 属 格 奪 格 与 位 格 ) また 単 語 の 語 末 に 隠 れた г ( 不 定 の г ともいう)が 含 まれる 場 合 それが 発 音 化 される( 属 格 造 格 奪 格 ) モンゴル 語 格 語 尾 のこうした 変 化 パターンは 6 つの 格 の 間 で 統 一 性 がみられず それ ぞれが 異 なる 変 化 パターンを 有 しているため 学 習 者 は 格 一 つ 一 つの 基 本 形 と 例 外 項 目 を 覚 えていくほかない 主 格 を 除 いた 6 つの 格 語 尾 のうち こうした 音 声 変 化 が 最 も 尐 ないのは 共 同 格 で 上 にあげた(1)のみが 適 用 される 音 声 変 化 が 最 も 多 いのは 属 格 で (1)から(5)までのすべてが 適 用 される これまでに 刊 行 されたモンゴル 語 学 習 書 におい て こうしたモンゴル 語 の 格 語 尾 をどのように 教 えてきたかを 概 観 すると 3 通 りに 分 類 することが 可 能 である 第 一 は かなり 簡 略 化 し 格 語 尾 の 基 本 形 のみ( 例 えば 属 格 で あれば 男 性 語 接 続 の-ын と 女 性 語 接 続 の-ийн)を 教 えるにとどめ 例 外 規 則 は 一 切 省 略 し てしまう 説 明 である これはモンゴルへの 旅 行 者 を 学 習 者 として 想 定 したモンゴル 語 会 話 書 に 多 く 見 られ 文 法 は 文 構 造 の 簡 略 な 説 明 にとどめ 場 面 別 会 話 に 重 点 を 置 いてい る 第 二 には 基 本 規 則 に 加 え 例 外 規 則 も 教 えるが 一 部 の 例 外 事 項 については 省 略 してしまう 説 明 方 法 である 長 母 音 -ий で 終 わる 語 の 属 格 形 は -н を 付 すという 説 明 を 省 略 して 長 母 音 終 わりの 語 には -гийн を 付 けるとのみ 記 した 説 明 15) 男 性 語 で 語 末 が -к 終 わりの 単 語 の 属 格 形 が-ын ではなく-ийн 対 格 形 が-ыг ではなく-ийг となる 規 則 について 言 及 しないモンゴル 語 学 習 書 もみられる 第 三 は 基 本 規 則 はもちろん 例 外 規 則 までを 網 羅 した 説 明 で それを 習 得 すれば 格 語 尾 のつくり 方 を 一 通 り 運 用 できるもの である 筆 者 は 上 に 述 べた 第 三 の 立 場 であり モンゴル 語 の 格 語 尾 規 則 がやや 複 雑 で あるにしても 規 則 までも 含 めて 一 通 り 説 明 すべきであると 考 えている 16) 4. 学 習 方 法 次 に これら 6 つの 基 本 格 語 尾 の 学 習 に 際 しての 導 入 順 序 について 筆 者 の 考 えを 述 べることとする すでに 述 べたように モンゴル 語 の 格 語 尾 は 母 音 調 和 の 規 則 によって 母 音 交 替 が 生 じる そのためまず 最 初 に 格 語 尾 という 新 しい 文 法 項 目 を 導 入 する 時 点
7 7 で 既 習 であるはずのモンゴル 語 の 母 音 体 系 に 関 する 規 則 を 再 確 認 しておく 必 要 がある それは 以 下 の 2 点 であり 括 弧 内 は 学 習 者 が 間 違 いやすいため 特 に 留 意 すべき 事 項 であ る (1) 男 性 語 女 性 語 の 区 別 母 音 調 和 の 規 則 の 正 しい 理 解 ( 男 性 母 音 あるいは 女 性 母 音 を 含 まず 母 音 は 中 性 短 母 音 и あるいは 中 性 長 母 音 ий のみからなる 語 が 女 性 語 э ү グループ 扱 いとなること) (2) 母 音 配 列 の 規 則 に 関 し 男 性 語 であれば a y グループか o グループかを 正 しく 判 別 できること 女 性 語 であれば э ү グループか ө グループかを 正 しく 判 別 でき ること( 軟 母 音 я ю ѐ е ю を 含 む 語 および 外 来 語 がいずれのグループに 属 すか) 次 の 項 目 については 既 習 であれば 正 しく 理 解 できているかを 確 認 し 未 習 であれば ここで 新 たに 導 入 すべき 文 法 事 項 である (3) 隠 れた н をもつ 名 詞 17) について (4) 隠 れた г をもつ 名 詞 18) について これら 4 つの 文 法 事 項 について 復 習 あるいは 新 たな 導 入 を 終 え その 後 でモンゴル 語 格 語 尾 の 本 格 的 な 説 明 に 入 る 筆 者 は 6 つの 格 語 尾 について 一 つずつ 表 にまとめ そ れを 用 いて 発 音 表 記 の 基 本 および 例 外 事 項 を 具 体 的 に 単 語 をあげながら 説 明 する 方 法 が 学 習 者 にとって 最 も 理 解 しやすいと 考 えている なお この 時 点 では 格 語 尾 の 形 成 の 仕 方 を 習 得 することに 専 念 できるよう 母 音 の 挿 入 削 除 の 規 則 が 適 用 される 語 彙 は 意 図 的 に 除 外 してしまうのが 妥 当 である 取 り 上 げる 格 の 順 序 は 変 化 の 種 類 が 尐 ない 格 からとし まずは 共 同 格 から 始 める 次 に 格 語 尾 の 母 音 交 替 はみられないが 隠 れ た н 終 わりの 名 詞 および г р в с 終 わりの 名 詞 の 一 部 に 付 く 場 合 に 変 化 が 生 じる 与 位 格 19) を 説 明 する その 後 は 造 格 奪 格 基 本 形 が 男 性 語 女 性 語 で 異 なる 対 格 最 後 に 変 化 の 形 が 最 も 多 様 な 属 格 という 順 序 である これらの 格 を 一 つずつ 解 説 する 例 とし て 本 稿 では 属 格 のみをあげる 属 格 : ~の 基 本 男 :-ын 女 :-ийн 基 本 形 гар 手 гарын улс 国 улсын ял 罪 ялын гол 川 голын ѐp 前 兆 ѐpын гэр 家 гэрийн үд 昼 үдийн бие 体 биеийн өөp 自 分 өөpийн
8 8 ер 一 般 ерийн 例 外 1 例 外 2 例 外 3 例 外 4 例 外 5 -ийн -н -гийн 男 :-ы 女 :-ий 男 :-ны 女 :-ний 中 :шил ガラス шилийн чоно 狼 чонын 語 末 の 短 母 音 は 落 とす эрдэнэ 宝 石 эрдэнийн (1) 語 末 が-и ь の 後 и, ь を 落 として 1)сургууль 学 校 сургуулийн (2) 男 性 語 で 語 末 が-г ж к ч ш の 後 2)багш 先 生 багшийн (1) 語 末 が 二 重 母 音 の 後 1)нохой 犬 нохойн (2) 語 末 が 長 母 音 -ий の 後 2)дэлхий 世 界 дэлхийн (1) 語 末 が-ий 以 外 の 長 母 音 の 後 1)дүү 弟 妹 дүүгийн (2) 固 有 名 詞 外 来 語 で 語 末 に 短 母 音 があ 2)Осака 大 阪 Осакагийн る 短 母 音 は 残 して (3) 隠 れた г を 持 つ 語 の 後 г が 現 れて 3) шуудан(г) 郵 便 н 終 わりの 語 の 後 隠 れた н をもつ 語 の 後 н が 現 れて шуудангийн охин 娘 охины хүн 人 хүний кино(н) 映 画 киноны ширээ(н) 机 ширээний 属 格 の 格 語 尾 の 形 は 上 の 表 の 通 りである 基 本 と 書 かれているのは 属 格 の 基 本 の 変 化 形 がこの 形 であるためで 男 女 と 分 けているのは 男 性 語 に 結 合 する 場 合 と 女 性 語 に 結 合 する 場 合 とで 異 なる 格 語 尾 を 用 いるためである 基 本 の 女 性 語 の 中 に 中 とあるのは 中 性 母 音 のみが 含 まれる 語 の 場 合 で 女 性 語 扱 いとなる 右 側 にはそ れぞれの 属 格 形 の 例 を 一 つずつあげている 語 末 の 短 母 音 は 落 とす というのは モンゴル 語 においては 母 音 3 つが 連 続 して 現 れることはありえず 属 格 対 格 造 格 奪 格 の 結 合 時 には 語 末 の 短 母 音 は 欠 落 させるという 決 まりがあるからである しかし 例 外 3 の(2)にあるように 固 有 名 詞 および 外 来 語 の 場 合 には 語 末 の 短 母 音 は 欠 落 させ ずに 保 持 し 代 わりに 属 格 語 尾 は-гийн を 付 加 する 例 えば Осака 大 阪 の 属 格 形 は Осакагийн が 正 しく Oсакын にならないということである 例 外 5 の 隠 れた н をもつ 語 の 後 н が 現 れて という 部 分 については 追 加 説 明 が 必 要 である 属 格 形 成 時 には 隠 れた н が 現 われて-ны/-ний の 形 をとるのであるが
9 9 これには 例 外 の 例 外 というべき 規 則 も 存 在 するのである 隠 れた н を 有 するにもか かわらず 属 格 形 のみに 限 って н が 現 れないという 名 詞 が 存 在 する 一 般 的 には 隠 れた н をもつ 名 詞 は 属 格 形 奪 格 形 与 位 格 形 の 3 つの 格 語 尾 において 隠 れた н が 現 れる ( 例 :ус(ан) 水 の 属 格 形 は усны 奪 格 形 は уснaac 与 位 格 形 は усанд) しかし 一 部 の 名 詞 は 隠 れた н をもち 奪 格 形 と 与 位 格 形 においては 通 常 どおり 隠 れた н が 現 れ るのであるが 属 格 形 のみ 隠 れた н が 現 れない ( 例 :уул(ан) 山 の 属 格 形 は уулын で н が 現 れた уулны にならないが 奪 格 形 は уулнaac 与 位 格 形 は ууланд といずれも н が 現 れる) 隠 れた н を 有 する 名 詞 のこうした 例 外 的 な 属 格 変 化 についても ここで 説 明 する 必 要 がある モンゴル 語 の 属 格 は 日 本 語 の 連 体 修 飾 の 働 きを 示 す 格 助 詞 (もしくは 連 体 助 詞 ) の と 基 本 的 に 対 応 する ただし 弟 のドルジ 首 都 のウランバートル といった 日 本 語 の 同 格 を 表 わす 用 法 はモンゴル 語 属 格 には 存 在 しない こうした 日 本 語 格 助 詞 とモンゴル 語 格 語 尾 との 対 応 関 係 の 概 要 についても 表 にまとめて 学 習 者 に 提 示 するこ とにより 理 解 を 促 進 できると 考 え 表 を 作 成 した その 表 は 拙 稿 末 に 表 1: 日 本 語 モンゴル 語 の 格 の 用 法 比 較 としてあげている この 表 を 見 れば 日 本 語 の 格 とモンゴ ル 語 の 格 とが 基 本 的 に 対 応 関 係 にあること しかし 一 部 の 意 味 的 用 法 においては 異 な る 格 が 要 求 されることが 分 かるであろう 例 えば 日 本 語 格 助 詞 を とモンゴル 語 対 格 とを 比 較 すると 橋 を 渡 る や 空 を 飛 ぶ など 通 過 点 を 示 す 日 本 語 格 助 詞 の を はモンゴル 語 では 対 格 ではなく 造 格 を 用 いること あるいは バスを 降 りる や 家 を 出 る など 離 れる 対 象 を 示 す を はモンゴル 語 で 奪 格 を 用 いることなどを 容 易 に 理 解 できるはずである こうした 相 違 は 日 本 語 話 者 がモンゴル 語 を 話 す 際 に 母 語 干 渉 に よる 誤 用 が 生 じやすいポイントであるから 教 授 者 は 特 に 説 明 に 留 意 する 必 要 がある このほか 動 詞 や 後 置 詞 の 中 には 前 に 置 かれている 名 詞 などに 結 合 する 格 を 支 配 し 特 定 するものもある それらもまた 日 本 語 とモンゴル 語 で 用 いられる 格 が 相 違 し 学 習 者 にとって 母 語 干 渉 による 誤 用 を 招 きやすくなる 例 えば 先 生 に 尋 ねる はモンゴ ル 語 で 奪 格 を 用 いて багшаас асуух ( 下 線 部 が 奪 格 ) 歴 史 について は 属 格 を 用 いて түүхийн тухай ( 下 線 部 が 属 格 )と 言 い 表 す 20) なお こうした 日 本 語 モンゴル 語 間 の 格 の 相 違 は 日 本 語 を 学 習 するモンゴル 語 話 者 にとっても 日 本 語 の 誤 用 をもたら す 要 因 となっており モンゴル 語 話 者 に 対 する 日 本 語 教 育 の 方 面 からも 研 究 を 進 めるこ とが 必 要 であろう このようにモンゴル 語 の 格 語 尾 一 つ 一 つのつくり 方 を 説 明 し 日 本 語 格 助 詞 との 対 応 関 係 の 異 同 を 明 らかにしたあとで 改 めてモンゴル 語 格 語 尾 のつくり 方 について 全 体 的 な 理 解 の 整 理 を 行 うため 格 語 尾 のつくり 方 をまとめた 表 を 用 いる( 拙 稿 末 に 表 2:モ ンゴル 語 の 格 語 尾 一 覧 表 としてあげた) この 表 はゼロ 語 尾 である 主 格 を 除 いた 6 つの 基 本 格 語 尾 のつくり 方 の 規 則 を 1 つの 表 の 中 にまとめたものである 横 には モンゴル 語 格 語 尾 のつくり 方 が 左 から 複 雑 な 順 に 属 格 対 格 造 格 奪 格
10 10 与 位 格 共 同 格 と 並 んでいる 縦 に 見 ると まず 各 格 語 尾 の 日 本 語 の 意 味 が 記 され 次 に 格 語 尾 の 基 本 形 を 示 している その 下 の 5 項 目 は 接 続 する 単 語 の 末 尾 が 主 として 母 音 の 際 の 例 外 規 則 が 並 んでいる すなわち 母 音 и および 軟 音 記 号 ь 二 重 母 音 長 母 音 固 有 名 詞 外 来 語 における 短 母 音 である 一 つの 表 の 中 に 6 つの 格 語 尾 の 規 則 をコンパクトにまとめたことで モンゴル 語 格 語 尾 の 全 体 像 を 整 理 して 理 解 で き ほかの 格 との 共 通 点 や 相 違 点 までも 把 握 しやすくなる 例 えば 隠 れた н をもつ 名 詞 で 隠 れた н が 現 れるのは 属 格 奪 格 与 位 格 の 3 つの 格 においてであること 造 格 と 奪 格 のつくり 方 の 違 いは 隠 れた н をもつ 名 詞 の 奪 格 形 において 隠 れた н が 現 れるという 一 点 のみであることなどがこの 表 を 見 れば 一 目 瞭 然 であり それまで 格 の 個 別 説 明 の 段 階 では 気 づいていなかった 事 項 もこの 表 を 見 ることで 新 たな 気 づきも 生 まれるであろう 学 習 者 はしばらくはこの 表 を 見 ながら 格 語 尾 をつくる 練 習 や モンゴル 語 文 章 の 読 解 時 に 語 の 末 尾 にいかなる 格 語 尾 が 付 着 しているかを 見 極 める 練 習 を 行 い この 表 に 記 され ている 項 目 がすべて 頭 の 中 に 入 った 時 点 で 格 語 尾 のつくり 方 を 一 通 り 習 得 できたと 言 える その 後 は こうしてモンゴル 語 格 語 尾 のつくり 方 に 関 する 文 法 項 目 を 習 得 した 後 で はじめに で 言 及 した 母 音 の 挿 入 削 除 の 規 則 の 習 得 に 移 行 し 格 語 尾 形 成 時 にこの 規 則 が 適 用 されるパターンを 理 解 していく この 二 つが 習 得 できたならば 初 級 レベルに おける 難 所 は 無 事 に 通 過 しており 母 音 調 和 の 規 則 母 音 配 列 の 規 則 そして 母 音 の 挿 入 削 除 の 規 則 の 理 解 が 同 様 に 要 求 される 動 詞 語 尾 の 結 合 を 学 ぶ 際 には それほど 戸 惑 うこともなく 理 解 できるであろう そしてここから 本 格 的 に 学 習 者 は 会 話 読 解 聴 解 作 文 の 各 技 能 と 結 びついた 幅 広 いタスクをこなし 実 用 的 な 言 語 コミュニケーション 能 力 を 養 成 していくのである 5.おわりに 以 上 日 本 語 話 者 がモンゴル 語 格 語 尾 を 効 果 的 に 習 得 する 方 法 に 関 する 試 論 を 述 べた モンゴル 語 教 育 に 関 する 研 究 は 日 本 においてもまた 世 界 的 に 見 てもこれまであまり 進 められてこなかった しかし モンゴル 語 を 対 象 とした 語 学 教 育 についても 考 察 を 行 い 体 系 的 な 教 育 方 法 を 築 いていくことは 今 後 の 重 要 な 課 題 である そのためには 日 本 語 とモンゴル 語 の 格 の 比 較 など 両 言 語 の 比 較 考 察 も 同 時 に 進 められねばなるまい 教 授 者 はそうした 文 法 知 識 を 活 用 しつつ 学 習 者 の 理 解 を 促 進 させるため 工 夫 をこらしなが ら 独 自 の 効 果 的 な 授 業 方 法 を 編 み 出 していくべきであろう
11 11 表 1: 日 本 語 モンゴル 語 の 格 の 用 法 比 較 格 意 味 日 本 語 例 文 モ ン ゴ ル 語 が の を で 1 動 作 主 バータルがパンを 食 べた 2 状 態 現 象 存 在 雪 が 降 っている/ 教 室 に 人 がいる 主 格 (ゼロ 語 尾 ) 変 化 などの 主 体 火 が 消 える/ 花 がきれいだ が 好 きだ が 上 手 だ : 与 位 格 彼 女 は 歌 が 好 きだ/コーヒーが 飲 みた 3 対 象 [=を3] が V たい がほしい : 対 格 い/ 犬 がこわい がこわい : 奪 格 < 名 詞 修 飾 節 の 中 の 主 語 ( 例 : 母 が(= の) 作 った 料 理 )は 常 に 属 格 形 従 属 節 が 副 詞 節 や 引 用 節 の 主 語 を 示 す が は 対 格 形 > 1 所 有 所 属 図 書 館 の 本 2 動 作 の 主 体 先 生 の 話 3 動 作 の 対 象 車 の 修 理 属 格 4 場 所 モンゴルの 友 人 5 時 夏 の 空 < 前 の 名 詞 が 隠 れた н を 有 する 場 合 は н の 出 現 н の 出 現 + 属 格 で 意 味 の 違 いが 生 6 位 置 机 の 上 じる( 例 :ширээ(н) 机 +дээр 上 に ширээн дээр 机 の 上 ( 表 面 )に ширээний дээр 机 の 上 のほうに ) 隠 れた н を 有 さない 場 合 は 属 格 形 > < 属 格 は 用 いず 前 の 素 材 に 当 たる 名 詞 が 隠 れた н を 有 する 場 合 は н が 現 れ 有 7 素 材 金 の 指 輪 さないならそのまま 二 語 で 複 合 語 を 形 成 үнэгэн малгай キツネの(キツネ 毛 の 素 材 の) 帽 子 үнэгний малгай キツ ネの(キツネがかぶる) 帽 子 > もの 人 の 状 態 病 気 の 人 属 格 (өвчний хүн 病 気 の 人 ) 所 有 接 尾 辞 (өвчинтэй хүн 病 気 を 有 する 人 ) 8 同 格 弟 のドルジ/ 首 都 のウランバートル 格 不 要 9 数 量 一 杯 の 水 格 不 要 1 動 作 の 対 象 本 を 読 む 2 経 過 する 時 間 夏 休 みをハワイで 過 ごす 3 願 望 可 能 好 悪 水 を 飲 みたい/ 日 本 語 を 話 せる の 対 象 [ が3] 4 動 作 の 方 向 下 を 見 る/ 後 ろを 向 く 5 通 過 点 橋 を 渡 る/ 空 を 飛 ぶ 造 格 6 離 れる 対 象 [ か バスを 降 りる/ 家 を 出 る 奪 格 ら1] 1 手 段 道 具 方 法 バスで 行 く/ 日 本 語 で 書 く 2まとまり 一 人 で 夕 食 を 食 べる 造 格 3 動 作 主 みんなで 世 話 をする 4 材 料 [ から8] 紙 で 人 形 を 作 る < 通 常 ゼロ 語 尾 ただし 目 的 語 を 明 確 化 する 際 には 対 格 が 用 いられる> 格 不 要 (доошоо 下 を 下 へ хойшоо 後 ろを 後 ろへ )
12 12 か ら 5 範 囲 範 囲 の 限 定 1 日 で 仕 事 を 終 える/5 時 で 締 め 切 る 造 格 与 位 格 6 原 因 理 由 大 雪 で 電 車 が 止 まる 造 格 与 位 格 奪 格 7 動 作 行 事 状 態 図 書 館 で 勉 強 する/ 日 本 で 一 番 高 い 山 与 位 格 の 場 所 [ に1] 1 時 間 場 所 の 起 点 9 時 から 始 まる [ 場 所 の 起 点 : を バスから 降 りる 6] 2 動 作 の 主 体 となる その 話 は 田 中 さんから 聞 いた 人 [ に11] 3 抽 象 的 な 起 点 失 敗 から 学 ぶ 奪 格 4 順 序 範 囲 の 始 点 発 表 者 は 100 人 から 選 ばれた 5 変 化 前 の 状 態 信 号 が 赤 から 青 に 変 わる 6 判 断 の 根 拠 [ で 調 査 結 果 から 分 かる 6] 7 原 因 遠 因 火 の 不 始 末 から 火 事 になる 8 材 料 [ で4] このチーズは 牛 乳 から 作 る 造 格 9 経 由 点 窓 から 捨 てる < 奪 格 には ~の 一 部 を の 意 味 もある ( 例 :энэ махнаас авах この 肉 (のうち から 一 部 )を 買 う )> よ り 1 比 較 の 対 象 大 阪 は 名 古 屋 より 大 きい 奪 格 に と 1 存 在 の 場 所 [ で 会 社 にいる/ 図 書 館 に 新 聞 がある 7] 2 到 着 点 帰 着 点 家 に 帰 る/ 会 議 に 出 席 する 3 行 為 の 対 象 人 に 頼 る 4 動 作 の 受 け 手 友 達 にメールを 書 く/ 犬 にエサをやる 与 位 格 5 原 因 理 由 恋 に 悩 む/ 酒 に 酔 う 6 移 動 の 方 向 大 阪 に 向 かう/ 私 の 方 に 来 る 7 動 作 作 用 の 時 間 7 時 に 起 きる 1990 年 に 生 まれた 8 割 合 の 分 母 3 日 に 1 度 /50 人 に 1 人 9 変 化 の 結 果 [= と 教 師 になる/ 信 号 が 赤 に 変 わる ゼロ 語 尾 +болох になる 5] 10 目 的 買 い 物 に 行 く/ 遊 びに 来 る 造 格 11 出 どころ[= から 父 に 本 をもらう/ 先 生 に 聞 く 2] 奪 格 12 状 態 の 対 象 駅 に 近 い/ 水 に 耐 える 1 共 同 動 作 の 相 手 先 生 と 会 う/ 休 日 を 家 族 と 過 ごす 2 動 作 の 対 象 彼 女 と 結 婚 する/ 父 と 約 束 する 共 同 格 3 対 立 的 な 対 象 病 気 と 闘 う/ 敵 と 戦 う 似 ている : 共 同 格 / 異 なる : 奪 4 異 同 の 対 象 本 物 と 似 ている/ 実 物 と 異 なる 格 5 変 化 の 結 果 [= に 社 会 人 となる ゼロ 語 尾 +болох になる 9]
13 13 < 共 同 格 形 と 同 形 の 所 有 接 尾 辞 ~を 有 して(いる) ~を 伴 って(いる) もある ( 例 :монгол хэлтэй хүн モンゴル 語 を 有 している(モンゴル 語 ができる) 人 бороотой өдөр 雤 を 有 する( 雤 の) 日 машинтай очих 車 を 伴 って( 自 分 の 車 で) 行 く ) 表 2:モンゴル 語 の 格 語 尾 一 覧 表 а 4 :а,э,о,ө / а 3 :а,э,о 前 にある 単 語 の 末 尾 属 格 対 格 造 格 奪 格 与 位 格 共 同 格 基 本 ~の 男 :-ын ~を 男 :-ыг 女 :-ийн 女 :-ийг 1~で ~ に よ っ て [ 手 段 方 法 ] ~から 2~を 通 っ て[ 場 所 ] 3 ~ 頃 に [ 時 間 ] ~より 1~に ~ で[ 場 所 ] 2 ~ に [ 人 動 物 ] 3~に[ 時 間 ] ~と( とも に) <~を 有 し て(いる) ~を 伴 って (いる)> -аар 4 -аас 4 -д -тай 3 語 末 の 短 母 音 は 落 とす -и,ь и, ь を 落 として -ийн -ийг -иар 4 -иас 4 二 重 母 音 長 母 音 -ий のみ -н 例 長 母 音 -ий を 除 く 固 有 名 詞 外 来 語 で 語 末 に 母 音 がある[ 母 音 は 残 して] -гийн -г -гаар 4 -гаас 4 隠 れた г を 持 つ г が 現 れて 男 性 語 で-г, ж, к,ч, ш -ийн -ийг 外 -н 男 :-ы 女 :-ий 男 :-ны 隠 れた н をもつ н が 現 れて 女 :-ний -г, р の 大 部 分 -в, с の 一 部 -наас 4 -нд -т
14 14 注 1.モンゴル 語 の 基 本 母 音 7つのうち a y o は 男 性 母 音 э ү ө は 女 性 母 音 и は 中 性 母 音 と 呼 ばれ 原 則 として 一 つの 単 語 中 に 男 性 母 音 と 女 性 母 音 は 混 在 しない( 母 音 調 和 の 規 則 ) また 男 性 母 音 は a y グループと o グループ 女 性 母 音 は э ү グループと ө グループに 分 けられ 1 つの 単 語 中 では a y の 後 に o は 現 れないもしくは o の 後 に a は 現 れないなどの 決 まりがある( 母 音 配 列 の 規 則 ) 格 語 尾 の 母 音 はこの 2 つの 規 則 により 決 定 される 奪 格 の 基 本 形 (-аac 4 )および 造 格 の 基 本 形 (-аap 4 )に 右 上 に 数 字 の 4 が 記 されている 理 由 は 例 えば 奪 格 -ааc 4 は -aac/-ooc /-ээc/-өөc の 4 通 りのいずれかで 男 性 母 音 a y グループなら-aac 男 性 母 音 o グループな ら-ooc 女 性 母 音 э ү グループなら-ээc 女 性 母 音 ө グループなら-өөc を 用 いるという 意 味 で ある 共 同 格 に 限 っては-тай 3 となり 男 性 語 a y グループは-тай 男 性 語 o グループは-той 女 性 語 は э ү グループか ө グループかを 問 わずすべて-тэй を 結 合 させる 2.キリル 式 モンゴル 文 字 は 格 語 尾 再 帰 語 尾 複 数 語 尾 動 詞 接 辞 などが 結 合 した 際 に 子 音 の 種 類 あるいは 子 音 の 連 続 状 況 により 母 音 を 付 加 もしくは 削 除 せねばならない 母 音 の 挿 入 削 除 の 規 則 がある この 規 則 はモンゴル 語 の 読 み 書 きには 必 要 不 可 欠 な 知 識 であるが やや 複 雑 で あることから モンゴル 語 学 習 書 でこの 規 則 を 取 り 上 げているものは 多 くない しかし この 規 則 を 未 習 のままだと 本 来 ないはずの 母 音 が 表 記 されていたり 本 来 あるべき 母 音 が 欠 落 している 理 由 が 理 解 できず 自 分 で 辞 書 を 引 いて 単 語 の 意 味 を 調 べることも 困 難 になる 例 えば モンゴル 語 を 初 級 から 独 習 できるよう 十 分 配 慮 し 作 成 された [ 塩 谷 ほか 2001: i]というモンゴル 語 初 級 文 法 書 [ 塩 谷 ほか 2001:43]では 名 詞 の 複 数 語 尾 の 説 明 として 名 詞 に-ууд や-д を 結 合 して 複 数 形 をつくることがあると 述 べた 後 その 例 として зураг 絵 зургууд 絵 ( 複 数 の) зураач 画 家 зураачид 画 家 たち という 語 をあげている 前 者 で 母 音 a が 欠 落 し 後 者 で 母 音 и が 挿 入 されているのは それぞれ 母 音 削 除 の 規 則 と 母 音 挿 入 の 規 則 が 適 用 されたためであるが 同 書 ではこうした 正 書 規 則 について 一 切 言 及 していないこ とから 何 も 知 らない 学 習 者 がこうした 場 面 で 戸 惑 うことは 十 分 予 想 される また[ 金 岡 2009]では 前 書 きの 中 で 正 書 法 の 母 音 削 除 に 関 する 規 則 を 簡 略 に 説 明 し 語 幹 と いう 本 来 は 変 化 してはいけないところのつづりを 変 えてしまうこの 規 則 は 決 してよいものとは いえず しかも 例 外 規 則 もあるのでわかりにくくなっています 将 来 モンゴル 人 の 手 によって 改 正 されることが 望 ましいのですが 現 時 点 では 尐 々 煩 雑 な 規 則 があることだけは 覚 えておいて ください [ 金 岡 2009:32]と 学 習 者 に 注 意 を 促 すにとどめるという 方 法 を 用 いている 3.ソ 連 領 内 に 居 住 する 同 じモンゴル 系 民 族 であるカルムイク 共 和 国 とブリヤート 共 和 国 におい ても それぞれ 1930 年 代 末 にキリル 文 字 によるモンゴル 語 表 記 へと 移 行 した モンゴル 人 民 共 和 国 がキリル 文 字 表 記 を 採 用 するに 至 る 経 緯 も これら 両 共 和 国 同 様 にソ 連 の 意 向 が 強 く 反 映 し ていた
15 15 4.ウイグル 式 文 字 は 中 国 内 モンゴル 自 治 区 を 中 心 とする 中 国 国 内 に 居 住 するモンゴル 民 族 の 間 では 今 日 に 至 るまで 使 用 され 続 けている( 新 疆 ウイグル 自 治 区 ではウイグル 式 文 字 を 改 良 した トド 文 字 も 使 用 されている) 内 モンゴル 自 治 区 では 1950 年 代 半 ばにキリル 式 文 字 への 移 行 作 業 が 進 められたが 中 ソ 対 立 の 影 響 により 内 モンゴル 自 治 区 とモンゴル 人 民 共 和 国 の 間 の 交 流 が 警 戒 制 限 された 結 果 再 びウイグル 式 文 字 の 使 用 に 戻 された さらにモンゴル 人 民 共 和 国 では 1990 年 の 民 主 化 以 降 にキリル 式 文 字 の 使 用 をやめてウイグル 式 文 字 へ 戻 す 動 きも 起 こったが 現 在 ではウイグル 式 文 字 は 学 校 教 育 の 中 で 知 識 として 教 えるにとどまり 完 全 実 用 化 の 方 向 には 向 かっていない なお モンゴル 人 民 共 和 国 がキリル 式 文 字 を 採 用 した 際 それに 対 抗 し 満 洲 国 においても 文 字 改 良 が 検 討 されたが 満 洲 国 の 瓦 解 により 中 止 となった[ 神 尾 1983:105] 5.ウイグル 式 文 字 での 格 語 尾 は 通 常 は 語 の 後 ろに 分 離 して 表 記 される 属 格 の 表 記 は yin un /ün( 表 記 は 同 一 ) u/ü( 表 記 は 同 一 )の 3 種 類 対 格 は yi i の 2 種 類 造 格 は bar/ber( 表 記 は 同 一 ) iyar/iyer( 表 記 は 同 一 )の 2 種 類 奪 格 は ača/eče( 表 記 は 同 一 )の 1 種 類 与 位 格 は tai /tei( 表 記 は 同 一 )の 1 種 類 のみで キリル 式 文 字 に 比 べ 尐 ない 6.г p в で 終 わる 名 詞 に 与 位 格 語 尾 -д/-т を 付 ける 場 合 原 則 としてウイグル 式 文 字 で 語 末 に 母 音 を 有 するか 否 かにより 表 記 が 異 なる( 例 :ウイグル 式 文 字 で 語 末 に 母 音 を 有 する 名 詞 には нэг 一 нэгд 第 一 に нэр 名 前 нэрд 名 前 に аав 父 аавд 父 に というよ うに-д が 付 く 母 音 がない 名 詞 の 場 合 цаг 時 цагт 時 に гэр 家 гэрт 家 に сэдэв テーマ сэдэвт テーマに というように-т が 付 く) 動 詞 語 幹 に 結 合 並 列 の 副 動 詞 語 尾 -ж /-ч( 日 本 語 の 動 詞 テ 形 あるいは マス 形 からマスを 取 った 形 に 相 当 )を 接 続 する 場 合 にも ウ イグル 式 文 字 で 語 幹 末 尾 に 母 音 を 有 するか 否 かで 表 記 が 異 なることがある( 例 :ウイグル 式 文 字 で 語 末 に 母 音 を 有 する 動 詞 語 幹 には явах 行 く явж 行 って というように-ж が 付 く 母 音 がない 場 合 には авах 取 る авч 取 って というように-ч が 付 く) こうしたキリル 式 文 字 の 正 しい 書 き 分 けにはウイグル 式 文 字 の 知 識 が 不 可 欠 となる 7. 識 別 母 音 とは -на 4 あるいは-гa/-гo で 終 わる 単 語 末 尾 の 母 音 を 指 す この 母 音 は 発 音 する 母 音 ではなく 直 前 の 子 音 н の 音 が 軟 口 蓋 鼻 音 [ŋ]ではなく 歯 茎 鼻 音 [n]であること 子 音 г の 音 が 軟 口 蓋 破 裂 音 [g]ではなく 口 蓋 垂 破 裂 音 [ɢ ]であることを 示 している 8. 具 体 的 には ю が 男 性 軟 母 音 [jo]と 女 性 軟 母 音 [ju]の 2 つの 音 声 を 表 わす また e は 女 性 軟 母 音 [je] 女 性 軟 母 音 [jɵ ] 外 来 語 表 記 の[e]という 3 つの 音 声 を 表 わす 9. 現 在 ではキリル 式 文 字 モンゴル 語 のウェブサイトやブログの 数 も 多 くなり 検 索 サイトを 用 いて 正 書 法 のつづり 間 違 いの 事 例 や 程 度 を 把 握 することが 可 能 である 例 えば 母 音 挿 入 の 規 則
16 16 の 例 外 事 項 ( 本 来 であれば 母 音 を 挿 入 すべきところだが 例 外 的 に 母 音 挿 入 をしない 規 則 が 適 用 される 場 合 )を 含 む уншсан 読 んだ を уншисан と 誤 記 した 例 をグーグルで 検 索 してみると 前 者 の 正 しい 表 記 が 736 万 件 に 対 し 後 者 の 誤 記 は 5 万 8300 件 ヒットした(2010 年 7 月 1 日 時 点 ) このことからもキリル 式 文 字 が 表 記 間 違 いをしやすい 複 雑 な 規 則 を 有 することは 分 かるであろ う ただし こうした 表 記 間 違 いは 正 書 法 の 複 雑 さに 加 え 大 衆 レベルでの 文 字 使 用 の 歴 史 が 比 較 的 浅 いことや 方 言 の 多 様 性 のため 表 記 の 揺 れが 存 在 し 許 容 される 場 合 もあること さらには буруу бичиж зөв ойлгох( 書 き 間 違 えて 正 しく 理 解 する) という 慣 用 表 現 が 存 在 することに 象 徴 されるようにモンゴルでは 文 字 表 記 の 誤 りにやや 寛 容 でもあることも 考 えられる 10. 同 書 は 国 立 国 会 図 書 館 の 近 代 デジタルライブラリー に 含 まれており デジタル 画 像 で 閲 覧 が 可 能 である 11. 二 楽 荘 とは 西 本 願 寺 法 主 大 谷 光 瑞 が 1907 年 に 神 戸 の 六 甲 山 麓 に 建 てた 別 荘 12. 規 範 字 典 が 名 詞 の 格 語 尾 結 合 の 表 記 パターンを 計 29 パターンに 分 類 していたのに 対 し 吉 野 は 語 末 が 長 母 音 かつ 隠 れた н を 有 さない 名 詞 ( 例 として саа 麻 痺 をあげている)を 追 加 し 計 30 パターンに 分 類 している 13.この 7 つの 格 以 外 に 方 向 格 (Directive Case ~のほうへ руу/рүү луу/лүү のい ずれかを 分 離 して 後 置 例 :Япон руу явах 日 本 へ 行 く ) 欠 格 (Abessive Case ~なしの ~なしに ~のない -гүй を 結 合 例 :хичээлгүй өдөр 授 業 のない 日 )なども 存 在 する 14. 例 えば Баатар талх идсэн.(баатар バータル ( 人 名 ) талх パン идсэн 食 べた ) で バータルが[ 主 格 :ゼロ 語 尾 ]パンを[ 対 格 :ゼロ 語 尾 ] 食 べた Цас орж байна.(цас 雪 орж 降 って байна いる )で 雪 が[ 主 格 :ゼロ 語 尾 ] 降 っている という 文 になる 15. 例 えば[ 塩 谷 ほか 2001:26,27]では 語 末 が 長 母 音 の 属 格 形 は -гийн を 付 けるとのみ 記 されている この 説 明 に 従 った 場 合 学 習 者 は 例 えば дэлхий 世 界 の 属 格 形 を дэлхийгийн мэлхий 蛙 の 属 格 形 を мэлхийгийн としてしまうが 正 しくは дэлхийн 世 界 の мэлхийн 蛙 の である 16. 例 えば марк 切 手 の 属 格 形 は маркын ではなく маркийн 対 格 形 は маркыг ではなく маркийг となる 17. 一 部 の 名 詞 は 語 末 に 隠 れた н を 有 し 格 語 尾 の 属 格 奪 格 与 位 格 が 結 合 する 場 合 や 後 ろに дотор 中 に дээр 上 に などの 後 置 詞 をともなう 場 合 において その н が 現 れる 隠 れた
17 17 н を 有 する 単 語 の 表 記 は 語 末 に (н) を 付 けた 形 で 記 される( 例 :ямаа(н) 山 羊 ) ただし 母 音 挿 入 の 規 則 によって 語 末 の 子 音 н の 前 には 必 ず 母 音 が 置 かれるため 母 音 が 存 在 しない 場 合 には 母 音 も 挿 入 される( 例 :маx(ан) 肉 ) あるいは 語 末 が 軟 母 記 号 ь の 場 合 には 母 音 и に 変 化 する( 例 :хонь(хонин) 羊 ) 18.н で 終 わる 名 詞 の 中 には 語 末 に 隠 れた г を 有 し 軟 口 蓋 鼻 音 [ŋ]を 表 わす 語 が 存 在 する 表 記 は 単 語 の 末 尾 に (г) を 付 けた 形 で 記 される( 例 :шуудан(г) 郵 便 局 байшин(г) 固 定 家 屋 ) 19. 語 末 が г р в の 名 詞 に 与 位 格 語 尾 -д が 付 くか-т が 付 くかは 注 6 で 述 べた 通 りである また 語 末 が c の 名 詞 の 場 合 基 本 的 には-т が 付 き 後 ろが c の 二 重 子 音 で 終 わっている 場 合 には-д が 付 く( 母 音 挿 入 の 規 則 により-aд 4 になる)ことが 多 い( 例 :эцэс 終 わり эцэст 終 わりに улс 国 улсад 国 に ) 20. 後 置 詞 および 動 詞 による 格 支 配 の 例 は[ 東 京 外 国 語 大 学 : 項 目 別 復 習 コース Lesson03- Step5 Step6]を 参 照 参 考 資 料 風 間 伸 次 郎 (2003) アルタイ 諸 言 語 の 3 グループ(チュルク モンゴル ツングース) 及 び 朝 鮮 語 日 本 語 の 文 法 構 造 は 本 当 に 似 ているのか 対 照 文 法 の 試 み アレキサ ンダー ボビン 永 田 俊 樹 共 編 日 本 語 系 統 論 の 現 在 国 際 日 本 文 化 研 究 センター 金 岡 秀 郎 (2009) 実 用 リアル モンゴル 語 明 石 書 店 神 尾 弌 春 (1983) まぼろしの 満 洲 国 日 中 出 版 小 林 幸 江 (1981) モンゴル 人 に 対 する 日 本 語 教 育 の 研 究 東 京 外 国 語 大 学 外 国 語 学 部 附 属 日 本 語 学 校 日 本 語 学 校 論 集 8 pp 同 上 (1983) モンゴル 人 学 習 者 の 作 文 にあらわれた 誤 用 例 の 分 析 東 京 外 国 語 大 学 外 国 語 学 部 附 属 日 本 語 学 校 日 本 語 学 校 論 集 8 pp 佐 藤 暢 治 (1997) モンゴル 語 の 移 動 動 詞 西 日 本 言 語 学 会 26 pp 塩 谷 茂 樹 E.プレブジャブ(2001 初 級 モンゴル 語 大 学 書 林 島 崎 淳 彦 (1976) ハルハ モンゴル 語 の instrumental 機 能 について 岐 阜 経 済 大 学 論 集 10-4 pp ナラントヤ(2006) モンゴル 語 の 主 題 小 辞 bol ni 北 海 道 大 学 大 学 院 文 学 研 究 科 研 究 論 集 6 pp 橋 本 邦 彦 (1987) 対 格 の 目 的 語 の 意 味 論 と 機 能 論 モンゴル 研 究 ( 日 本 モンゴル 学 会 )18
18 18 pp 同 上 (2007) モンゴル 語 の 目 的 語 節 の 統 語 論 室 蘭 工 業 大 学 紀 要 57 pp 水 野 正 規 (1988) モンゴル 語 の 従 属 節 の 主 語 にあらわれる 対 格 形 について 東 京 大 学 言 語 学 論 集 89 pp 同 上 (1993) 現 代 モンゴル 語 文 法 研 究 の 問 題 点 日 本 モンゴル 学 会 紀 要 24 pp.1-10 山 口 幸 二 (1972) 日 本 語 の 格 的 表 現 における 諸 問 題 Ⅰ 日 本 語 日 本 文 化 ( 大 阪 外 国 語 大 学 研 究 留 学 生 別 科 )3 pp 同 上 (1978) < 従 属 句 >に 於 ける 格 表 現 について 日 本 語 日 本 文 化 ( 大 阪 外 国 語 大 学 研 究 留 学 生 別 科 )7 pp 同 上 (1980) モンゴル 語 の 格 の 表 現 日 本 語 日 本 文 化 ( 大 阪 外 国 語 大 学 研 究 留 学 生 別 科 )9 pp 山 越 康 裕 (2000) モンゴル 語 の 語 末 に 見 られる 不 定 の n について 地 域 文 化 研 究 ( 東 京 外 国 語 大 学 )3 pp 吉 野 耕 造 (2006) 現 代 モンゴル 語 文 法 の 語 学 教 育 学 的 一 考 察 付 属 語 接 尾 法 を 中 心 と して 語 学 教 育 研 究 論 叢 23 pp 同 上 (2007) 現 代 モンゴル 語 文 法 の 語 学 教 育 学 的 一 考 察 (2) 格 語 尾 接 尾 法 要 素 分 析 と 段 階 的 学 習 を 中 心 として 語 学 教 育 研 究 論 叢 24 pp 同 上 (2008) 現 代 モンゴル 語 文 法 の 語 学 教 育 学 的 一 考 察 (3) 動 詞 語 尾 接 尾 法 構 成 要 素 分 析 と 段 階 的 学 習 を 中 心 として 語 学 教 育 研 究 論 叢 25 pp Ц.Дамдинсүрэн,Б.Осор(1983) Монгол Үсгийн Дүрмийн Толь Улаанбаатар 東 京 外 国 語 大 学 言 語 モジュール モンゴル 語 文 法 モジュール ac.jp/modules/mn/gmod/index.html(アクセス 日 :2010 年 7 月 1 日 )
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