漢方薬

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1 消 化 性 潰 瘍 逆 流 性 食 道 炎 Pharmaceutical education for the general public. Advanced level text to learn medicine. 深 井 良 祐 [ 著 ] 1

2 目 次 第 一 章. 胃 の 構 造 P. 3 第 二 章. 胃 十 二 指 腸 潰 瘍 ( 消 化 性 潰 瘍 )とは P 消 化 性 潰 瘍 の 病 態 P 消 化 性 潰 瘍 の 症 状 P 消 化 性 潰 瘍 の 発 症 メカニズム P ヘリコバクター ピロリ(ピロリ 菌 ) P.8 第 三 章. 消 化 性 潰 瘍 の 治 療 P 攻 撃 因 子 の 抑 制 ( 胃 酸 の 分 泌 を 抑 える) P 防 御 因 子 の 増 強 ( 胃 酸 から 胃 粘 膜 を 守 る) P 消 化 管 運 動 改 善 薬 P ヘリコバクター ピロリ(ピロリ 菌 )の 除 菌 P.18 第 四 章. 逆 流 性 食 道 炎 とは P 逆 流 性 食 道 炎 発 症 のメカニズム P 逆 流 性 食 道 炎 発 症 の 治 療 P.22 2

3 第 一 章. 胃 の 構 造 私 たちが 食 物 を 食 べた 後 この 食 物 は 小 腸 から 吸 収 されるように 消 化 酵 素 によって 細 かく 分 解 さ れる 必 要 があります このような 食 物 の 分 解 から 栄 養 の 吸 収 そして 排 泄 までを 司 る 器 官 を 消 化 器 系 と 呼 んでいます 消 化 器 系 の 中 でも 胃 はタンパク 質 の 分 解 など 食 物 の 消 化 に 対 して 重 要 な 役 割 を 担 っています 胃 は 胃 底 部 胃 体 部 幽 門 部 の 三 つ 部 分 からなります 胃 の 粘 膜 からは 胃 液 が 分 泌 されており 胃 底 部 と 胃 体 部 の 粘 膜 からはペプシン ガストリチン リパーゼなどの 消 化 酵 素 が 分 泌 されていま す 幽 門 部 からの 胃 液 には 消 化 酵 素 が 含 まれていません ペプシンはタンパク 質 を 分 解 する 作 用 を 示 します 胃 液 は 強 い 酸 性 を 示 しますが これは 塩 酸 を 含 むためです ペプシンはペプシノーゲンという 形 で 分 泌 されていますが 塩 酸 によってペプシンに 変 わることで 作 用 を 表 します 3

4 胃 液 の 成 分 前 述 の 通 り 胃 液 には 塩 酸 が 含 まれているため 強 い 酸 性 を 示 します 食 物 には 病 原 菌 が 含 まれて いることもあり これら 病 原 菌 を 強 い 酸 によって 殺 すという 意 味 でも 胃 酸 ( 塩 酸 )は 重 要 な 役 割 を 果 たしています 胃 液 には タンパク 質 を 分 解 するペプシン や 強 い 酸 である 塩 酸 が 含 まれていることから 分 かる 通 り 食 物 としてのタンパク 質 だけでなく 胃 自 体 も 分 解 されてしまいます そこで 胃 液 か ら 胃 粘 膜 を 保 護 するために 胃 には 粘 液 が 分 泌 されています この 粘 液 によって ペプシンや 胃 酸 から 胃 粘 膜 を 保 護 します キーワード 胃 : 食 物 を 小 さく 砕 いて 粥 状 にし 少 しずつ 十 二 指 腸 に 送 ります 十 二 指 腸 : 胃 の 下 にある 長 さ 25cm 程 度 の 消 化 管 です ペプシン:タンパク 質 を 消 化 します 胃 酸 ( 塩 酸 ): 病 原 菌 の 殺 菌 やペプシノーゲンの 活 性 化 を 行 います 粘 液 :ペプシンや 胃 酸 から 胃 粘 膜 を 保 護 します 4

5 第 二 章. 胃 十 二 指 腸 潰 瘍 ( 消 化 性 潰 瘍 )とは 2-1. 消 化 性 潰 瘍 の 病 態 潰 瘍 には 主 に 胃 潰 瘍 と 十 二 指 腸 潰 瘍 の 二 種 類 があります まだ 消 化 性 潰 瘍 の 研 究 が 進 ん でいないころ 胃 十 二 指 腸 潰 瘍 は 治 療 しても 再 発 を 繰 り 返 す 慢 性 的 な 疾 患 であると 考 えられてい ました しかし 現 在 では 潰 瘍 発 生 の 原 因 が 明 らかとなって 潰 瘍 の 再 発 を 防 ぐことができるよう になっています これら 胃 潰 瘍 と 十 二 指 腸 潰 瘍 を 合 わせて 消 化 性 潰 瘍 ともいわれます 消 化 性 潰 瘍 は 胃 酸 による 強 い 酸 によって 起 こります 胃 酸 は 胃 粘 膜 を 傷 つけ 組 織 を 剥 がします これが 進 行 すると 粘 膜 だけでなく 筋 肉 までえぐられてしまい 胃 に 穴 が 開 いてしまうこともありま す 潰 瘍 の 症 状 が 進 行 してしょう 膜 まで 障 害 されると 胃 に 穴 が 開 く 前 単 階 となります この 状 態 を 放 っておくと 胃 に 穴 が 開 いてしまう 穿 孔 (せんこう)と 呼 ばれる 状 況 に 陥 ってしまいます 胃 や 十 二 指 腸 に 穴 が 開 くと 手 術 が 必 要 になります 手 術 を 行 わないと 食 物 や 胃 液 が 漏 れ 出 して 腹 膜 炎 などを 起 こし 生 命 にも 関 わります そのため 早 めの 治 療 が 必 要 となります 5

6 2-2. 消 化 性 潰 瘍 の 症 状 消 化 性 潰 瘍 の 症 状 としては 次 のようなものがあります みぞおちの 痛 み 消 化 性 潰 瘍 による 自 覚 症 状 で 最 も 多 いのがみぞおちの 痛 みです これらの 痛 みは 胃 潰 瘍 と 十 二 指 腸 潰 瘍 では 痛 みの 発 生 する 時 期 が 異 なります 胸 焼 け 胃 もたれ すっぱいゲップ 消 化 性 潰 瘍 によって 胸 焼 けや 胃 もたれ すっぱいゲップなどの 症 状 が 起 こることがあります 出 血 潰 瘍 が 進 行 すると 出 血 を 伴 うことがあります 胃 十 二 指 腸 から 出 血 することによって コール タールのようなどす 黒 い 便 ( 下 血 )がでてしまいます 血 を 吐 く( 吐 血 )こともあります 以 下 に 胃 潰 瘍 と 十 二 指 腸 潰 瘍 の 違 いについて 示 します 症 状 胃 潰 瘍 十 二 指 腸 潰 瘍 症 状 の 発 生 するタイミング 食 事 中 食 後 空 腹 時 ( 特 に 早 朝 ) 発 症 要 因 防 御 因 子 の 低 下 攻 撃 因 子 の 増 加 胃 酸 の 分 泌 少 ない 多 い 食 生 活 和 食 中 心 欧 米 食 中 心 ピロリ 菌 の 胃 内 分 布 広 い 狭 い 潰 瘍 のできやすい 場 所 胃 の 下 部 1/3( 胃 角 部 ) 幽 門 部 近 く 潰 瘍 のできやすい 年 齢 40~50 歳 代 20~30 歳 代 6

7 2-3. 消 化 性 潰 瘍 の 発 症 メカニズム 消 化 性 潰 瘍 を 考 える 上 で 攻 撃 因 子 と 防 御 因 子 の 二 つが 重 要 になります 下 にそれぞれの 分 類 を 示 しています 胃 酸 ( 塩 酸 ) ペプシン 攻 撃 因 子 防 御 因 子 その 他 の 因 子 粘 液 粘 膜 の 血 流 ヘリコバクター ピロリ(ピロリ 菌 ) 鎮 痛 剤 (NSAIDs) ストレス アルコール 攻 撃 因 子 とは その 名 前 の 通 り 相 手 を 攻 撃 する 因 子 というイメージを 持 てばいいです 攻 撃 する 対 象 はタンパク 質 ( 食 物 胃 粘 膜 など)や 病 原 菌 です それに 対 し 防 御 因 子 とは 胃 酸 など の 攻 撃 から 胃 を 守 る 因 子 と 考 えればいいです 健 康 な 胃 や 十 二 指 腸 であると これら 攻 撃 因 子 と 防 御 因 子 のバラン スが 保 たれている 右 図 のような 状 態 となります しかし このバランスが 崩 れてしまうと 潰 瘍 が 引 き 起 こされてしまいます この 原 因 には 胃 酸 分 泌 が 増 加 するなどの 攻 撃 因 子 の 増 強 や 粘 液 の 減 少 による 防 御 因 子 の 低 下 などがありあす また これら 消 化 性 潰 瘍 には 攻 撃 因 子 や 防 御 因 子 以 外 にもヘリコバクター ピロリ(ピロリ 菌 ) や 鎮 痛 剤 (NSAIDs) ストレス アルコールなども 深 く 関 与 しています これらの 因 子 を 排 除 する ことも 消 化 性 潰 瘍 の 予 防 に 繋 がります 7

8 2-4. ヘリコバクター ピロリ(ピロリ 菌 ) 胃 酸 の 正 体 は 強 い 酸 である 塩 酸 であることから 長 い 間 強 酸 性 条 件 の 胃 に 細 菌 が 住 み 着 くこと はできないと 考 えられていました しかし 1982 年 に 胃 の 中 からピロリ 菌 が 発 見 され それまでの 常 識 が 覆 されました ピロリ 菌 の 特 徴 ピロリ 菌 は 胃 の 中 の 強 い 酸 性 条 件 下 で 生 息 することができる 細 菌 です ピロリ 菌 であっても 胃 酸 には 勝 てないため ピロリ 菌 は 胃 酸 に 触 れないように 胃 粘 膜 の 中 に 潜 り 込 んで 生 息 します また ピロリ 菌 は 粘 液 中 の 尿 素 を 分 解 してアンモニアを 作 ることで 胃 酸 を 中 和 し 自 身 を 守 って います 塩 酸 は 酸 性 ですが アンモニアはアルカリ 性 なのでこの 二 つが 合 わさると 中 性 になります ピロリ 菌 はウレアーゼという 酵 素 によって 尿 素 からアンモニアを 産 生 しますが このようなピロリ 菌 の 性 質 を ウレアーゼ 活 性 を 持 つ と 表 現 します 胃 粘 膜 に 住 み 着 いているだけならいいのですが ピロリ 菌 は 潰 瘍 を 引 き 起 こす 原 因 となります ピロリ 菌 が 作 り 出 すアンモニアは 粘 液 層 を 溶 かすことで 粘 膜 を 傷 つけます また ピロリ 菌 はサ イトトキシンという 毒 素 を 放 出 します これによっても 粘 膜 に 傷 がつき 炎 症 を 引 き 起 こします さらに ピロリ 菌 に 対 して 免 疫 反 応 が 起 こることで 白 血 球 が 活 性 酸 素 などの 化 学 物 質 を 放 出 しま す この 活 性 酸 素 によっても 粘 膜 が 破 壊 されてしまい 潰 瘍 を 発 症 しやすくなる 下 地 が 作 られます この 状 態 にさらにストレスやアルコールなどの 悪 影 響 が 加 わると 攻 撃 因 子 と 防 御 因 子 のバランス が 容 易 に 崩 れてしまいます これによって 胃 酸 などの 攻 撃 因 子 が 胃 粘 膜 を 攻 撃 し 潰 瘍 が 発 生 しま す 8

9 このピロリ 菌 への 感 染 は 口 を 介 する 経 口 感 染 によって 起 こります 大 人 になってからの 感 染 は まれであり 多 くは 発 症 しても 自 然 に 治 癒 します 感 染 するのは 免 疫 がまだしっかりしていない 幼 児 期 であり 汚 染 された 水 や 食 べ 物 などによって 感 染 すると 考 えられています ただし ピロリ 菌 に 感 染 = 消 化 性 潰 瘍 という 訳 ではありません ピロリ 菌 に 感 染 している 人 の 中 で 消 化 性 潰 瘍 を 発 症 するのは 全 体 の 約 2~3%であるといわれています これらの 人 はピロリ 菌 によって 粘 膜 表 面 に 炎 症 が 起 こってはいますが 潰 瘍 の 症 状 も 無 くピロリ 菌 と 共 に 過 ごすことになります 9

10 ピロリ 菌 発 見 の 歴 史 2005 年 のノーベル 医 学 生 理 学 賞 の 受 賞 者 がまさにこのピロリ 菌 の 発 見 者 です 当 時 強 い 酸 性 ではいかなる 生 物 も 生 存 できない ということが 常 識 でした この 常 識 を 覆 したのがピロリ 菌 の 発 見 です 消 化 性 潰 瘍 治 療 薬 の 発 見 によって 胃 潰 瘍 や 十 二 指 腸 潰 瘍 を 治 療 できるようになりました しか し 以 前 は 胃 潰 瘍 を 治 療 したにもかかわらず たびたび 胃 潰 瘍 を 再 発 することがありました 当 時 の 研 究 者 たちはこの 原 因 が 全 く 分 かりませんでした そして その 後 の 研 究 によって 潰 瘍 が 再 発 する 原 因 がこのピロリ 菌 によるものと 判 明 しました ピロリ 菌 はアンモニアを 生 成 する 酵 素 により 胃 の 強 い 酸 性 条 件 下 でも 生 存 できるように 進 化 して きました この 菌 の 毒 素 により 胃 潰 瘍 が 誘 発 されます 潰 瘍 の 原 因 にピロリ 菌 の 存 在 がある という 事 を 証 明 するためには ピロリ 菌 を 培 養 増 殖 さ せる 必 要 があります そして 1983 年 にウォーレンとマーシャルはピロリ 菌 の 培 養 に 成 功 しました ピロリ 菌 は 通 常 の 細 菌 よりも 成 長 が 遅 い 菌 であったため 培 養 がうまくいきませんでした 失 敗 が 続 いていた 時 ちょうどピロリ 菌 培 養 の 途 中 でイースター( 復 活 祭 ) 休 暇 がはさまり 通 常 48 時 間 で 終 わらせる 培 養 を 5 日 間 放 っていました すると 培 地 にコロニー( 菌 のかたまり)ができ ており 細 菌 が 増 殖 していることが 分 かりました これによってピロリ 菌 が 発 見 されました 後 から 分 かったのですが ピロリ 菌 の 培 養 には 最 低 でも 4 日 以 上 もの 日 数 が 必 要 だったのです ピロリ 菌 発 見 者 のウォーレンとマーシャルのうち マーシャルはピロリ 菌 を 自 ら 飲 んで 急 性 胃 炎 が 起 こることを 確 認 しました 当 時 潰 瘍 の 原 因 はストレスであることが 主 流 だったので 潰 瘍 が 細 菌 によって 発 症 する という 考 えは 画 期 的 でした その 後 ピロリ 菌 は 抗 菌 薬 によって 除 菌 できることも 確 認 されました そのため ピロリ 菌 によ る 潰 瘍 を 治 すには ピロリ 菌 を 殺 す 抗 菌 薬 と 酸 性 条 件 を 緩 和 する 胃 酸 の 分 泌 抑 制 薬 が 必 要 と なります 10

11 第 三 章. 消 化 性 潰 瘍 の 治 療 有 効 な 治 療 薬 が 開 発 される 以 前 であれば 潰 瘍 を 発 症 すると 手 術 するしかありませんでした し かし 現 在 では 潰 瘍 を 発 症 して 手 術 することはほとんどありません 胃 に 穴 が 開 いている や 大 量 の 出 血 がある など 重 症 例 が 手 術 の 対 象 となります 消 化 性 潰 瘍 の 治 療 は 主 に 薬 によるものが 中 心 です 前 述 の 通 り 消 化 性 潰 瘍 を 発 症 している 患 者 さんは 攻 撃 因 子 と 防 御 因 子 のバランスが 崩 れていま す そのため このバランスを 元 の 健 康 な 状 態 へと 戻 してやります 具 体 的 には 以 下 のような 方 法 があります 攻 撃 因 子 を 抑 制 する 防 御 因 子 を 増 強 する 胃 酸 分 泌 が 過 剰 になっているなど 攻 撃 因 子 が 増 強 しているから 潰 瘍 が 起 こります そのため 攻 撃 因 子 を 抑 えることができれば 潰 瘍 を 治 療 することができるはずです 潰 瘍 は No acid, No ulcer. と 言 われており 酸 がなければ 潰 瘍 はない という 考 えに 基 づいています また 防 御 因 子 を 強 めることも 消 化 性 潰 瘍 の 治 療 となります 胃 酸 が 胃 の 中 にあったとしても これらの 胃 酸 が 粘 膜 を 傷 つけないように 防 御 因 子 で 保 護 することができれば 潰 瘍 の 発 症 を 抑 える ことができるはずです このような 考 えによって 消 化 性 潰 瘍 を 治 療 していきます 11

12 3-1. 攻 撃 因 子 の 抑 制 ( 胃 酸 の 分 泌 を 抑 える) 胃 酸 が 胃 粘 膜 を 傷 つけることで 潰 瘍 が 起 こります そのため そもそも 胃 酸 が 胃 の 中 に 存 在 しな ければ 潰 瘍 は 起 こりません そこで 消 化 性 潰 瘍 の 治 療 薬 は 胃 酸 分 泌 を 抑 えることで 病 気 を 治 療 し ます 下 に 胃 の 壁 細 胞 の 図 を 載 せています 12

13 H 2 ブロッカー 壁 細 胞 にはアセチルコリンやヒスタミン ガストリンなどの 伝 達 物 質 に 対 する 受 容 体 が 存 在 しま す これらの 伝 達 物 質 が 壁 細 胞 に 作 用 することでシグナルが 伝 わり 胃 酸 を 分 泌 させます この 中 で ヒスタミンが 作 用 する H 2 受 容 体 が 特 に 重 要 となります この 受 容 体 にヒスタミンが 作 用 することで 大 量 の 胃 酸 が 分 泌 されます ヒスタミンが H 2 受 容 体 に 結 合 するので 胃 酸 が 分 泌 されます それならば この 受 容 体 を 阻 害 する ことができれば 胃 酸 分 泌 を 抑 えることができます このような 働 きをする 医 薬 品 を H 2 ブロッカーと いいます このような H 2 ブロッカーとしてはシメチジン( 商 品 名 :タガメット) ラニチジン( 商 品 名 :ザ ンタック) ファモチジン( 商 品 名 :ガスター)などがあります 13

14 プロトンポンプ 阻 害 薬 (PPI) 壁 細 胞 の H 2 受 容 体 にヒスタミンが 作 用 することで 胃 酸 が 分 泌 されますが これら 胃 酸 を 分 泌 する 下 流 に 存 在 する 輸 送 体 としてプロトンポンプがあります アセチルコリンやヒスタミン ガストリンなどの 受 容 体 からのシグナルはプロトンポンプに 集 め られ このプロトンポンプが 最 終 的 に 胃 酸 を 分 泌 させます H 2 ブロッカーはヒスタミン 受 容 体 のみを 阻 害 するため アセチルコリンやガストリンからの 指 令 による 胃 酸 分 泌 を 抑 えることができません しかしながら プロトンポンプを 阻 害 すればこれら 全 ての 指 令 を 完 全 にブロックすることができます これによって H 2 ブロッカーよりも 強 力 な 胃 酸 分 泌 の 抑 制 を 実 現 できます このように プロトンポンプを 阻 害 することで 胃 酸 分 泌 を 完 全 に 抑 える 薬 をプロトンポンプ 阻 害 薬 といいます プロトンポンプ 阻 害 薬 としてはラベプラゾール( 商 品 名 :パリエット) ランソプラゾール( 商 品 名 :タケプロン) エソメプラゾール( 商 品 名 :ネキシウム)などがあります 14

15 下 に H 2 ブロッカーとプロトンポンプ 阻 害 薬 (PPI)のイメージ 図 を 載 せています 3-2. 防 御 因 子 の 増 強 ( 胃 酸 から 胃 粘 膜 を 守 る) 胃 酸 が 胃 の 中 に 存 在 していたとしても 胃 酸 が 胃 粘 膜 を 傷 つけないように 保 護 することができれ ば 胃 潰 瘍 になることはありません 胃 粘 膜 を 保 護 する 薬 としてはさまざまな 種 類 があるが 主 に 使 用 される 医 薬 品 としては 次 のよう なものがあります 粘 膜 保 護 薬 粘 液 分 泌 促 進 薬 胃 粘 膜 微 小 循 環 改 善 薬 プロスタグランジン 製 剤 (PG 製 剤 ) これら 防 御 因 子 を 増 強 する 薬 は 作 用 があまり 強 くないため 通 常 は 攻 撃 因 子 を 抑 える 薬 と 一 緒 に 服 用 する 必 要 があります 粘 膜 保 護 薬 ( 胃 粘 膜 にバリアーを 作 ることで 胃 酸 から 守 る) 粘 膜 保 護 薬 は 潰 瘍 が 起 きている 部 分 のタンパクと 結 合 する 性 質 をもちます これによって 保 護 層 を 形 成 し 胃 酸 から 胃 粘 膜 を 守 ります このような 胃 粘 膜 保 護 薬 としてはアルジオキサ( 商 品 名 :イサロン) ポラプレジンク( 商 品 名 : プロマック)などがあります 15

16 粘 液 分 泌 促 進 薬 ( 粘 液 の 分 泌 を 促 進 する) 胃 から 分 泌 される 粘 液 は 胃 酸 から 胃 粘 膜 を 保 護 する 役 割 を 果 たしています そのため この 粘 液 が 多 く 分 泌 されれば その 分 だけ 胃 酸 による 攻 撃 を 防 ぐことができます このように 粘 液 分 泌 を 促 進 させる 薬 としてはレバミピド( 商 品 名 :ムコスタ) テプレノン( 商 品 名 :セルベックス)などがあります 胃 粘 膜 微 小 循 環 改 善 薬 ( 胃 粘 膜 の 血 流 を 改 善 し 防 御 機 能 を 高 める) 胃 粘 膜 を 保 護 する 防 御 因 子 としては 粘 液 以 外 にも 粘 膜 の 血 流 があります ストレスなどで 胃 の 細 胞 が 緊 張 している 状 態 であると 胃 粘 膜 に 張 り 巡 らされている 微 小 な 血 管 ( 微 小 循 環 系 )が 収 縮 することで 胃 粘 膜 を 流 れる 血 液 量 が 減 少 します これによって 胃 酸 などの 攻 撃 因 子 に 対 する 防 御 機 能 が 減 少 し 潰 瘍 が 引 き 起 こされます そのた め 胃 粘 膜 の 血 流 を 改 善 することができれば 防 御 因 子 を 強 めることに 繋 がります このように 胃 粘 膜 の 血 流 を 改 善 させる 薬 としてはイルソグラジン( 商 品 名 :ガスロン N) スルピ リド( 商 品 名 :ドグマチ-ル)などがあります プロスタグランジン 製 剤 (PG 製 剤 ) 体 の 中 に 備 わっている 生 体 分 子 として 胃 粘 膜 を 増 強 したり 粘 膜 修 復 を 促 進 したりする 物 質 が 存 在 します このような 働 きをする 物 質 にプラスタグランジン(PG)があります そのため このプ ロスタグランジンを 補 えば 粘 膜 保 護 や 組 織 修 復 などの 作 用 を 期 待 することができます 潰 瘍 が 起 こる 要 因 の 一 つとして 鎮 痛 剤 (NSAIDs)の 服 用 があります 鎮 痛 剤 によって 潰 瘍 が 起 こ る 原 因 は このプロスタグランジンが 作 られなくなるためです つまり 鎮 痛 剤 の 服 用 によって 防 御 因 子 が 極 端 に 少 なくなってしまうのです これらの 事 実 からも プラスタグランジンを 補 うことは 防 御 因 子 の 増 強 に 有 効 であることが 分 か ります 特 に 鎮 痛 剤 (NSAIDs)の 副 作 用 による 潰 瘍 に 有 効 です ただし プロスタグランジン 製 剤 は 妊 婦 や 授 乳 婦 には 投 与 できません このようなプロスタグランジン 製 剤 としてはミソプロストール( 商 品 名 :サイトテック)などがあ ります 16

17 味 覚 障 害 治 療 薬 としてのプロマック それぞれの 医 薬 品 には 医 療 保 険 の 範 囲 で 治 療 できる 病 気 があらかじめ 決 められています そのた め これら 医 療 保 険 での 決 定 事 項 以 外 で 医 療 行 為 を 行 った 場 合 は 全 額 負 担 となります これを 適 応 外 使 用 といいます 適 応 外 使 用 の 場 合 は 一 部 の 例 外 を 除 いて 基 本 的 には 全 額 負 担 となります しかしながら 医 薬 品 によっては 長 い 間 適 応 外 使 用 として 使 われてきた 医 薬 品 があります この 一 つとして 味 覚 障 害 治 療 薬 としてのプロマックがあります 前 述 の 通 り ポラプレジンク( 商 品 名 :プロマック)は 胃 粘 膜 保 護 薬 として 胃 潰 瘍 の 治 療 に 使 わ れます そして 保 健 医 療 を 行 う 上 でのプロマックの 使 用 は 胃 潰 瘍 のみ 認 められています しかし プロマックは 適 応 外 使 用 として 味 覚 障 害 の 治 療 に 長 年 使 われてきました 味 覚 障 害 の 原 因 として 金 属 元 素 の 一 つである 亜 鉛 の 不 足 があります そのため 味 覚 障 害 の 治 療 には 亜 鉛 を 補 う 必 要 があります プロマックはその 構 造 に 亜 鉛 を 含 んでいるため プロマックの 服 用 によって 効 率 的 に 亜 鉛 を 補 うことができます これによって 味 覚 障 害 を 治 療 することができま す このように 一 つの 医 薬 品 が 全 く 別 の 病 気 を 治 療 することもあります 追 伸 いろいろな 業 界 で 例 外 があるように より 正 確 な 事 を 言 えば 亜 鉛 不 足 による 味 覚 障 害 の 治 療 でプ ロマックを 使 用 することができます つまり 医 療 保 険 の 範 囲 内 でプロマックを 使 うことができま す そのため あまり 細 かいことはこのテキストでは 気 にしないでください より 詳 しく 知 りたい 方 は 是 非 とも 自 分 で 調 べて 頂 きたいと 思 います 17

18 3-3. 消 化 管 運 動 改 善 薬 食 物 が 胃 の 中 で 停 滞 すると 潰 瘍 部 との 接 触 回 数 が 増 えてしまいます これによって 潰 瘍 が 悪 化 してしまいます そのため 胃 や 腸 などの 消 化 管 運 動 を 改 善 することができれば 食 物 が 胃 内 で 留 まる 時 間 を 短 縮 し 胃 粘 膜 へのダメージを 減 らすことができます このように 消 化 管 運 動 を 改 善 することで 消 化 器 症 状 を 緩 和 する 薬 としてはモサプリド( 商 品 名 : ガスモチン) イトプリド( 商 品 名 :ガナトン) ドンペリドン( 商 品 名 :ナウゼリン)などがあり ます 3-4. ヘリコバクター ピロリ(ピロリ 菌 )の 除 菌 消 化 性 潰 瘍 が 起 こる 原 因 の 一 つとしてピロリ 菌 の 存 在 があり ピロリ 菌 は 胃 潰 瘍 や 十 二 指 腸 潰 瘍 を 再 発 させます 潰 瘍 を 治 療 してもピロリ 菌 が 存 在 する 限 りは 炎 症 が 続 き 潰 瘍 が 再 燃 しやすい 環 境 が 持 続 します ピロリ 菌 は 除 菌 することが 可 能 であり ピロリ 菌 の 除 菌 によって 潰 瘍 の 再 発 を 大 幅 に 抑 えられる ことが 分 かっています ピロリ 菌 が 除 菌 できていない 状 態 であると 胃 潰 瘍 や 十 二 指 腸 潰 瘍 の 再 発 率 は 約 50~60%になります 除 菌 が 完 了 した 場 合 であると 再 発 率 を 2~3% 程 度 にまで 減 らすこと ができます ピロリ 菌 の 除 菌 は 以 下 のようなステップをたどります 18

19 ピロリ 菌 の 除 菌 は 三 剤 併 用 療 法 で 行 います このとき 併 用 する 薬 剤 として プロトンポンプ 阻 害 薬 + 二 種 類 の 抗 生 物 質 を 使 用 します 具 体 的 には プロトンポンプ 阻 害 薬 + アモキシシリン(ペニシリン 系 抗 生 物 質 ) + クラリス ロマイシン(マクロライド 系 抗 生 物 質 ) によるピロリ 菌 除 菌 の 一 次 療 法 として 三 剤 を 七 日 間 服 用 します これによって 約 80%の 患 者 さんはピロリ 菌 を 除 菌 することができます これら 一 次 除 菌 に 必 要 な 医 薬 品 をセットにした 商 品 としてランサップがあります 一 次 除 菌 に 失 敗 すると 二 次 除 菌 を 行 います 二 次 除 菌 としてはクラリスロマイシンをメトロニ ダゾールに 変 えて プロトンポンプ 阻 害 薬 + アモキシシリン(ペニシリン 系 抗 生 物 質 ) + メトロ ニダゾール( 抗 原 虫 薬 ) の 併 用 療 法 を 行 います 二 次 除 菌 に 必 要 な 医 薬 品 をセットにした 商 品 としてはランピオンがあります 二 次 除 菌 にも 失 敗 した 場 合 は 保 険 適 応 外 として 自 費 によるさらなる 治 療 を 行 います ピロリ 菌 の 除 菌 にプロトンポンプ 阻 害 薬 を 使 用 する 理 由 としては 抗 生 物 質 の 殺 菌 力 を 増 大 させ ることがあります 胃 酸 はその 強 い 酸 によって 抗 生 物 質 の 殺 菌 力 を 抑 えてしまいます プロトンポ ンプ 阻 害 薬 によって 胃 の 中 の ph を 上 げれば 抗 生 物 質 の 殺 菌 力 が 上 昇 します 実 際 クラリスロマイシンはプロトンポンプ 阻 害 薬 によって ph を 中 性 付 近 にまでにすると そ の 殺 菌 力 は 百 倍 以 上 にも 上 昇 します H 2 ブロッカーでは 胃 酸 分 泌 抑 制 作 用 による 抗 生 物 質 の 抗 菌 力 増 大 作 用 が 不 十 分 であるため プロトンポンプ 阻 害 薬 が 使 用 されます 19

20 第 四 章. 逆 流 性 食 道 炎 とは 健 康 な 状 態 である 胃 は 粘 膜 によって 守 られているので たとえ 胃 酸 のような 強 力 な 酸 が 存 在 して いたとしても 胃 粘 膜 が 傷 つけられることはありません これに 対 して 胃 のすぐ 上 にある 食 道 は 胃 のように 粘 膜 によって 守 られていません そのため 胃 酸 が 食 道 に 何 回 もかかると 炎 症 が 起 きてしまいます 胃 酸 が 食 道 に 逆 流 すると 食 道 粘 膜 を 侵 し 炎 症 が 引 き 起 こされてしまいます これを 逆 流 性 食 道 炎 といいます 逆 流 性 食 道 炎 を 発 症 しやすい 方 やその 症 状 としては 次 のようなものがあります 20

21 4-1. 逆 流 性 食 道 炎 発 症 のメカニズム 胃 酸 が 逆 流 すると 食 道 に 炎 症 が 起 こるため 通 常 は 逆 流 が 起 こらないように 筋 肉 で 閉 じられます この 胃 の 内 容 物 が 食 道 に 逆 流 しないように 消 化 管 の 管 を 締 め 付 けている 筋 肉 を 下 部 食 道 括 約 筋 とい います もし 食 道 と 胃 を 繋 いでいる 下 部 食 道 括 約 筋 が 緩 んでしまうと 胃 の 内 容 物 が 食 道 まで 逆 流 してし まいます これによって 食 道 が 胃 酸 に 触 れてしまい 炎 症 が 起 こります このように 逆 流 性 食 道 炎 の 患 者 さんでは 食 物 の 逆 流 防 止 機 能 が 働 きにくくなっています ただし 健 康 な 人 であっても 食 道 への 逆 流 は 起 こります 逆 流 性 食 道 炎 の 患 者 さんでは 逆 流 の 回 数 が 多 かったり 逆 流 している 時 間 が 長 かったりするため 食 道 に 炎 症 が 起 きてしまうのです 逆 流 性 食 道 炎 の 検 査 方 法 としては 内 視 鏡 検 査 が 一 般 的 です 21

22 4-2. 逆 流 性 食 道 炎 発 症 の 治 療 逆 流 性 食 道 炎 では プロトンポンプ 阻 害 薬 (PPI)が 使 用 されます ただし 患 者 さんによっては H 2 ブロッカーが 使 われることもあります 必 要 に 応 じて 粘 膜 保 護 薬 なども 使 用 されます 薬 の 投 与 によって 多 くの 人 は 数 日 で 症 状 がなくなりますが たいていは 再 発 を 繰 り 返 します そ のため 再 発 を 防 止 するためには 攻 撃 因 子 を 抑 制 する 薬 の 継 続 投 与 が 必 要 となります 逆 流 性 食 道 炎 の 治 療 は 根 本 的 な 治 療 ではなく 対 症 療 法 です 根 本 的 な 治 療 をするなら 例 えば 太 っている 人 であれば 痩 せる 努 力 などをする 必 要 があります 胃 食 道 逆 流 症 (GERD) 逆 流 性 食 道 炎 の 患 者 さんは 食 道 に 炎 症 が 起 きています しかし 胸 焼 けなどの 症 状 はあるけれど も 内 視 鏡 検 査 などを 行 っても 炎 症 などの 症 状 が 認 められない 患 者 さんもいます 食 道 に 炎 症 などの 粘 膜 障 害 が 見 られないので 逆 流 性 食 道 炎 とは 分 けられますが これらの 患 者 さ んと 逆 流 性 食 道 炎 を 全 て 含 めて 胃 食 道 逆 流 症 (GERD)と 呼 びます たとえ 炎 症 が 認 められなくて も 胃 食 道 逆 流 症 (GERD)としてこれらの 患 者 さんの 治 療 を 行 う 必 要 があります 22

23 消 化 性 潰 瘍 逆 流 性 食 道 炎 の 主 な 治 療 薬 作 用 の 種 類 分 類 一 般 名 商 品 名 シメチジン タガメット 攻 撃 因 子 の 抑 制 H 2 ブロッカー プロトンポンプ 阻 害 薬 (PPI) ラニチジン ファモチジン ラベプラゾール ランソプラゾール ザンタック ガスター パリエット タケプロン エソメプラゾール ネキシウム 防 御 因 子 の 増 強 粘 膜 保 護 薬 粘 液 分 泌 促 進 薬 胃 粘 膜 微 小 循 環 改 善 薬 アルジオキサ ポラプレジンク レバミピド テプレノン スルピリド イルソグラジン イサロン プロマック ムコスタ セルベックス ドグマチ-ル ガスロンN プロスタグランジン 製 剤 (PG 製 剤 ) ミソプロストール サイトテック 改 善 薬 消 化 管 運 動 セロトニン 受 容 体 作 動 薬 モサプリド ガスモチン イトプリド ガナトン ドパミン 受 容 体 拮 抗 薬 ドンペリドン ナウゼリン プロトンポンプ 阻 害 薬 ランソプラゾール ピ ロ リ 菌 の 除 菌 ペニシリン 系 抗 生 物 質 マクロライド 系 抗 生 物 質 プロトンポンプ 阻 害 薬 ペニシリン 系 抗 生 物 質 アモキシシリン クラリスロマイシン ランソプラゾール アモキシシリン ランサップ ランピオン 抗 原 虫 薬 メトロニダゾール 23

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