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1 OnlineDITN 第 453 号 215 年 ( 平 成 27 年 )12 月 5 日 発 行 (1) No.453 EDITORIAL: 糖 尿 病 専 門 家 だからこそできる 一 次 予 防 曽 根 博 仁 Diabetes Front: 糖 尿 病 の 医 療 費 解 析 ゲスト: 池 田 俊 也 司 会 : 渥 美 義 仁 連 載 :ここで 導 入! 外 来 インスリン 導 入 のノウハウ3 河 盛 隆 造 連 載 : 実 践 サルコペニアと 運 動 療 法 4 山 田 実 連 載 :インクレチン 関 連 薬 を 用 いた 糖 尿 病 治 療 の 実 際 2 福 岡 勇 樹 山 田 祐 一 郎 糖 尿 病 シンポジウム in 東 京 編 集 部 Q&A:DPP-4 阻 害 薬 と 心 血 管 リスク 平 野 勉 監 修 岩 本 安 彦 門 脇 孝 河 盛 隆 造 田 嶼 尚 子 編 集 長 渥 美 義 仁 編 集 委 員 武 井 泉 浜 野 久 美 子 松 岡 健 平 ( 特 別 編 集 委 員 ) 発 行 所 / 株 式 会 社 メディカル ジャーナル 社 発 行 人 / 鈴 木 武 東 京 都 中 央 区 日 本 橋 人 形 町 2 丁 目 7 番 1 号 TEL.3(6264)972 FAX.3(6264)999 EDITORIAL 合 併 症 を 防 ぐ 最 も 有 効 な 手 段 は2 型 糖 尿 病 そのものの 予 防 忘 れがちな 診 察 室 に 現 れない 患 者 の 存 在 われわれ 臨 床 家 が 診 ることができるのは 基 本 的 には 病 医 院 に 来 てくれた 患 者 さんだけであるが 通 常 それだけで も 膨 大 な 数 になるため その 診 療 だけで 手 一 杯 となる その ような 毎 日 を 送 っていると 忘 れがちなのが 糖 尿 病 なのに 受 診 していない 人 や 糖 尿 病 であることすら 気 づいていな い 人 の 存 在 すなわち 未 診 断 および 不 通 院 糖 尿 病 の 問 題 で ある 国 民 栄 養 健 康 調 査 によると 糖 尿 病 が 強 く 疑 われる 人 のうち 通 院 中 の 人 は6 割 に 過 ぎず さらに 働 き 盛 りと 言 われ る4 歳 代 では4 割 まで 低 下 する それ 以 外 の 人 々の 糖 尿 病 は いわば 放 置 状 態 であり それが 合 併 症 の 温 床 であること は 言 うまでもない 通 院 さえしてくれれば 合 併 症 は 防 げる この 二 十 数 年 間 で 経 口 血 糖 降 下 薬 のクラスが 事 実 上 の 1 種 から7 種 に 急 増 した これに 象 徴 される 糖 尿 病 診 療 の 急 速 な 進 歩 に 伴 い 糖 尿 病 患 者 と 非 糖 尿 病 者 との 動 脈 硬 化 疾 患 などのリスク 差 が 縮 まってきた JDCSを 含 む わが 国 の 糖 尿 病 専 門 施 設 の 患 者 を 長 期 追 跡 した 大 規 模 臨 床 研 究 で も 透 析 導 入 や 失 明 の 発 生 はかなり 低 く 専 門 施 設 の 患 者 では 以 前 よりかなり 合 併 症 が 防 げるようになっている そ れにもかかわらず 例 えば わが 国 の 腎 症 による 透 析 導 入 患 者 の 絶 対 数 が 増 え 続 けているのは 放 置 ( 未 診 断 不 通 院 ) 糖 尿 病 の 影 響 が 強 いと 思 われる 多 くの 専 門 医 が 糖 尿 病 で 透 析 や 失 明 に 至 る 人 は 大 体 長 期 の 放 置 歴 がある という 実 感 を 持 っているが どんなに 薬 の 種 類 が 増 えても 受 診 し てくれなければ 治 療 できないのである 215MedicalJournalShaCo.,Ltd. OnlineDITN 第 453 号 EDITORIAL

2 Online DITN 第 453 号 215 年 ( 平 成 27 年 )12 月 5 日 発 行 (2) 一 次 予 防 の 重 要 性 を 見 直 そう 同 様 に 合 併 症 抑 制 を 通 じて 患 者 の 健 康 寿 命 を 延 伸 させ ようと 日 夜 奮 闘 しているわれわれ 臨 床 家 が 忘 れがちなの は 合 併 症 を 防 ぐ 最 も 有 効 な 手 段 が 実 は 糖 尿 病 そのものの 予 防 ( 一 次 予 防 )であるという 視 点 である そもそも 境 界 型 も 含 め 糖 尿 病 にならなければ 合 併 症 は 起 きないし 頻 回 の 通 院 や 薬 も 不 要 で 手 間 も 費 用 もかからない したがって 糖 尿 病 合 併 症 の 減 少 を 目 指 すなら われわれ 臨 床 家 もそろそろ 本 気 で 放 置 糖 尿 病 患 者 の 問 題 あるいは2 型 糖 尿 病 そのものの 予 防 に 取 り 組 まなければならない し かし 現 在 でも 糖 尿 病 専 門 医 や 療 養 指 導 スタッフは 専 ら 発 症 後 の 治 療 を 担 うという 意 識 が 強 く 一 次 予 防 活 動 やその 研 究 は 公 衆 衛 生 専 門 家 や 行 政 担 当 者 の 仕 事 という 雰 囲 気 がある 確 かに 糖 尿 病 の 一 次 予 防 には 医 学 医 療 分 野 を 超 えた 社 会 経 済 あるいは 行 政 的 な 取 り 組 みや 国 民 の 意 識 向 上 が 必 須 である しかしその 対 策 は 発 症 メカニズムや 病 態 疫 学 やリスク 因 子 治 療 管 理 に 精 通 した 臨 床 専 門 家 の 参 画 や リーダーシップ 抜 きには 実 効 性 あるものにならない 特 に 糖 尿 病 を 筆 頭 とする 生 活 習 慣 病 においては 多 くの 改 善 可 能 な(modifiable)リスク 因 子 が 明 らかにされているため 将 来 の 発 症 リスクや 予 防 介 入 効 果 の 予 測 もかなり 精 密 にで きる したがって 発 症 前 の 検 診 レベルから 糖 尿 病 専 門 医 や 糖 尿 病 療 養 指 導 士 が 積 極 的 に 関 与 し 科 学 的 エビデンスに 基 づくアドバイスや 生 活 習 慣 介 入 を 実 施 することにより 糖 尿 病 そのものの 発 症 や 重 症 化 を 大 幅 に 抑 制 することが 可 能 な はずである 検 診 結 果 から 二 次 予 防 まで 連 続 的 に 診 る そのためには わが 国 で 発 達 した 人 間 ドックを 含 む 検 診 や 保 健 指 導 システムを 有 効 活 用 し 糖 尿 病 専 門 医 や 糖 尿 病 療 養 指 導 士 が プライマリ ケア 医 や 行 政 とも 連 携 しつつ 発 症 前 の 高 リスク 者 に 対 する 一 次 予 防 から 既 発 症 者 に 対 する 二 次 予 防 (すなわち 合 併 症 予 防 )までをシームレスに 行 えるようなシステム 作 りが 重 要 である 臨 床 疫 学 や 臨 床 研 究 のリテラシーを 有 する 臨 床 専 門 家 には その 中 心 的 役 割 を 果 たすことが 求 められる それにより 検 診 受 診 の 向 上 糖 尿 病 スクリーニングや 将 来 の 発 症 予 測 の 精 度 の 向 上 検 診 有 所 見 者 の 医 療 機 関 受 診 向 上 通 院 開 始 者 の 中 断 低 下 などについての 有 効 な 手 段 が 確 立 できれば 透 析 導 入 や 失 明 の 予 防 に 対 して 新 薬 開 発 に 匹 敵 する あるいはそれ 以 上 の 臨 床 的 インパクトや 意 義 を 有 するはずである 例 えば 検 診 における 糖 尿 病 未 発 症 者 を 米 国 の 前 糖 尿 病 Pre-diabetes の 定 義 に 用 いられる1 空 腹 時 血 糖 値 1 ~ 125mg/dLと 2HbA1c 値 5.7 ~ 6.4%という2つの 基 準 で 分 類 すると 将 来 的 に 糖 尿 病 発 症 リスクが 高 い 者 を 絞 り 込 むことができる 1) ( 図 ) すなわち 1 2いずれの 基 準 に も 当 てはまらない 人 (=99 mg/dl 以 下 かつ5.6% 以 下 ) と どちらか 片 方 のみ 当 てはまる 人 両 方 に 当 てはまる 人 の5 年 間 の 糖 尿 病 発 症 リスクを 比 較 すると それぞれ 約 6 倍 約 32 倍 にも 達 する このようなリスクに 基 づく 絞 り 込 みに より 少 ない 時 間 と 労 力 を 高 リスク 者 に 集 中 させ 臨 床 医 と して 効 の 良 い 予 防 医 療 が 可 能 になる 検 診 で 初 めて 糖 尿 病 を 指 摘 された 人 のうち 毎 月 1 回 の 通 院 を 開 始 した 人 は 放 置 した 人 と 比 較 して 翌 年 の 検 診 でHbA1cが1% 以 上 改 善 する 可 能 性 が1~14 倍 も 高 まることが 明 らかになって おり 2) 検 診 における 糖 尿 病 診 断 をいかに 効 よく 受 診 に 結 び 付 けるかは われわれ 臨 床 家 も 一 緒 になって 考 えるべき 問 題 である 糖 尿 病 専 門 医 や 糖 尿 病 療 養 指 導 士 の 一 次 予 防 活 動 やそれに 関 する 研 究 へのより 一 層 の 参 画 を 願 わずには いられない 図 Cumulative incidence of type 2 diabetes 観 察 開 始 時 のスクリーニング 判 定 とその 後 の 糖 尿 病 発 症 Baseline diagnosis of pre-diabetes Both HbA1c % and IFG IFG alone HbA1c % alone Normoglycemia D B,C A IFG: FPG 1-125mg/dL IFG and HbA1c % HbA1c % Normoglycemia n= Time(day) D カプランマイヤー 法 を 用 いて 観 察 開 始 時 のスクリーニング 判 定 と その 後 の 糖 尿 病 発 症 を 比 較 した 結 果 HbA1c 上 昇 と 空 腹 時 血 糖 値 異 常 の 両 方 で 判 定 された 者 では 糖 尿 病 発 症 が 飛 躍 的 に 上 昇 した IFGのみ またはHbA1cのみで 判 定 された 者 は 同 様 の 進 展 特 徴 を 示 し 有 意 な 差 は 認 められなかった Heianza Y, Sone H, et al. Lancet 211; 378: A 6.7% n=127 B 19.6% n= % n=412 C 参 考 文 献 1)Heianza Y, et al. Lancet 211; 378: )Heianza Y, et al. J Epidemiol Community Health 214; 68: 曽 根 博 仁 ( 新 潟 大 学 大 学 院 医 歯 学 総 合 研 究 科 血 液 内 分 泌 代 謝 内 科 学 分 野 ) 215 Medical Journal Sha Co., Ltd. Online DITN 第 453 号 EDITORIAL

3 OnlineDITN 第 453 号 215 年 ( 平 成 27 年 )12 月 5 日 発 行 (3) Diabetes Front 糖 尿 病 の 医 療 費 解 析 渥 美 わが 国 の214 年 度 国 民 医 療 費 は ついに4 兆 円 に 達 し 過 去 最 高 額 になり ました このうち 糖 尿 病 の 医 療 費 は 約 1.2 兆 円 とされていますが 透 析 や 腎 症 など 糖 尿 病 合 併 症 の 医 療 費 は 別 であり これらを 含 めると 医 療 費 は 膨 れ 上 がると 考 えられま す 糖 尿 病 の 発 症 予 防 ならびに 早 期 介 入 による 重 症 化 の 予 防 は 臨 床 的 観 点 のみな らず 経 済 的 観 点 からも 重 要 な 課 題 となっ ています 本 日 は 医 療 政 策 に 深 く 関 わら れ この 分 野 にお 詳 しい 医 療 経 済 学 者 の 池 田 俊 也 先 生 ( 国 際 医 療 福 祉 大 学 薬 学 部 薬 学 科 )をお 招 きして 糖 尿 病 の 医 療 費 に ついて 伺 いたいと 思 います ゲスト 池 田 俊 也 先 生 ( 国 際 医 療 福 祉 大 学 薬 学 部 薬 学 科 ) プロフィール 慶 應 義 塾 大 学 医 学 部 卒 業 ハー バード 大 学 大 学 院 卒 業 元 米 国 ペンシルバニア 大 学 訪 問 研 究 員 前 慶 應 義 塾 大 学 医 学 部 専 任 講 師 医 療 政 策 管 理 学 修 士 医 学 博 士 ホスト 渥 美 義 仁 先 生 ( 永 寿 総 合 病 院 糖 尿 病 臨 床 研 究 センター / DITN 編 集 長 ) 治 療 の 費 用 対 効 果 渥 美 最 初 に 医 療 経 済 学 とはどのような 学 問 か お 話 しい ただけますか 池 田 医 療 経 済 学 は 保 健 医 療 を 経 済 学 の 手 法 で 考 え 分 析 研 究 する 学 際 的 な 学 問 分 野 で 多 岐 にわたる 幅 広 い 研 究 があります 医 療 費 増 加 のさまざまな 要 因 を 分 析 したり 医 療 保 険 制 度 を 変 えるとどのような 影 響 があるのか 調 べた り 政 策 の 側 面 からみた 研 究 が 多 いのですが 私 は 医 学 部 出 身 なので 最 も 関 心 があるのは 治 療 の 費 用 対 効 果 です さまざまな 治 療 法 がある 中 で どのようなタイミングで ど のような 治 療 を 行 えば 最 も 健 康 改 善 につながるのかを 主 に 研 究 しています 渥 美 費 用 対 効 果 は どのような 指 標 で 評 価 するので しょうか 池 田 研 究 の 手 法 はいくつかに 分 けられます 最 も 単 純 な ものは 2つの 治 療 法 があって 費 用 は 違 うが 効 き 目 は 同 じ という 費 用 最 小 化 分 析 で 結 果 的 に 費 用 だけを 比 べて 優 劣 を 決 めます 複 数 の 医 療 技 術 治 療 法 については 費 用 と 効 果 そしてQOLと 生 存 年 の 両 方 を 加 味 した QALY (Quality-Adjusted Life years: 質 調 整 生 存 年 ) という 単 位 で 評 価 することが 世 界 的 に 一 般 的 な 手 法 となっています 特 に 糖 尿 病 の 場 合 には QALYが 最 も 適 した 効 果 指 標 にな ると 考 えます 渥 美 QALYは 疾 患 によって 異 なるのでしょうか 例 えば 急 性 期 疾 患 あるいは 癌 などの 場 合 はいかがでしょうか 池 田 癌 は 長 らく 生 存 年 で 評 価 されてきましたが 最 近 で は 薬 剤 による 症 状 の 改 善 あるいは 副 作 用 による 悪 化 もあ り QOLに 与 える 影 響 が 無 視 できないことからQALYを 使 うことが 増 えてきています 短 期 的 な 経 過 をたどるインフルエンザなどであれば 患 者 が 回 復 するまでのQALYと 費 用 を 測 り 比 較 すれば 済 み ます しかし 糖 尿 病 の 場 合 は 罹 病 期 間 が 長 いため 例 えば フラミンガムスタディや 久 山 町 研 究 のような 疫 学 研 究 の データを 用 いて 新 規 薬 剤 を 投 与 した 場 合 に どれだけ 検 査 値 の 改 善 があり 合 併 症 が 抑 制 できたか あるいは 生 命 予 後 がどれくらい 改 善 したかなど 実 測 データに 加 え さまざま なシミュレーションをして 長 期 的 な 視 点 から 評 価 を 行 い ます 増 え 続 ける 日 本 の 医 療 費 渥 美 わが 国 の214 年 度 概 算 医 療 費 は4 兆 円 に 達 しました が なぜこれほど 増 えたのでしょうか 215MedicalJournalShaCo.,Ltd. OnlineDITN 第 453 号 DiabetesFront

4 Online DITN 第 453 号 215 年 ( 平 成 27 年 )12 月 5 日 発 行 (4) 池 田 医 療 費 増 大 の 原 因 として 1つには1961 年 に 導 入 さ れた 国 民 皆 保 険 があげられます( 図 1) もちろん 国 民 皆 保 険 には よりよい 治 療 を 多 くの 人 が 受 けられるようになっ たという 恩 恵 がありますが そこには 限 られた 財 源 のもと で という 条 件 があることを 忘 れてはいけません また 人 口 の 高 齢 化 も 医 療 費 を 押 し 上 げる 原 因 として 大 きいのですが それと 並 んで 技 術 の 進 歩 があげられます これは 日 本 に 限 った 話 ではありません さまざまな 治 療 法 がある 中 で 費 用 対 効 果 に 優 れたものをどう 選 んでいくか というところに 各 国 の 関 心 が 集 まっています 果 の 分 析 を 行 い NICEに 提 出 します NICEは 中 立 的 な 研 究 者 に 委 託 し 企 業 の 分 析 結 果 の 吟 味 と 必 要 に 応 じ 差 異 分 析 が 行 われます 結 果 が 臨 床 的 にも 経 済 的 にも 優 れたもの であると 判 断 されれば この 薬 剤 はある 条 件 の 患 者 に 推 奨 されるというガイダンスを 出 しています 糖 尿 病 関 連 の 薬 剤 もたびたび 評 価 対 象 として 取 り 上 げられており 最 近 で は2 型 糖 尿 病 患 者 に 対 するリラグルチドの 評 価 が 行 われ 推 奨 との 結 果 が 示 されています こうしたデータが 集 積 されると 具 体 的 な 薬 剤 選 択 まで 推 奨 する 診 療 ガイドライン となり 費 用 対 効 果 のエビデ ンスが 反 映 されています これは 実 際 の 臨 床 現 場 での 意 思 具 体 的 な 薬 剤 選 択 まで 推 奨 する 英 国 のガイドライン 決 定 にかなり 影 響 を 与 えています 日 本 の 場 合 医 療 提 供 の 仕 組 みが 違 うため NICEの 組 織 あるいはプロセスをそのまま 適 用 するにはいろいろ 問 題 が 渥 美 日 本 ではガイドラインを 出 す 際 必 ずしも 治 療 コス トが 最 優 先 ではないことが 多 いと 思 います その 辺 海 外 で はいかがでしょうか 池 田 医 療 の 領 域 で 費 用 対 効 果 に 関 するエビデンスをつ くり それを 政 策 に 利 用 している 国 といえば 英 国 が 有 名 で す 英 国 は 全 ての 医 療 費 を 税 金 で 保 障 するNHS(National Health Service: 国 民 保 健 サービス)が 築 きあげられていま す 1999 年 にNHSの 下 に 特 別 保 健 機 構 NICE(National Institute for Health and Care Excellence)が 設 立 され 医 薬 品 や 医 療 技 術 手 術 法 などを 対 象 に 臨 床 的 評 価 および 経 済 的 評 価 を 行 っています NICEでは まず 財 政 的 に 影 響 の 大 きい 高 額 な 薬 剤 などが 評 価 対 象 として 選 択 され 既 存 治 療 で 行 った 場 合 に 比 べ そ の 薬 剤 を 使 用 した 場 合 の 臨 床 的 な 有 効 性 と 医 療 経 済 的 な 検 討 が 行 われています 一 般 的 な 手 順 としては まず 製 薬 企 業 が 既 存 の 薬 剤 と 比 較 した 追 加 費 用 の 推 計 と 臨 床 的 な 効 果 すなわち 費 用 対 効 ありますが 費 用 対 効 果 の 考 え 方 は 世 界 の 潮 流 です カナ ダ オーストラリアでは9 年 代 から 最 近 ではフランスで も 政 策 レベルでの 意 思 決 定 に この 費 用 対 効 果 の 考 え 方 が 導 入 されています 渥 美 わが 国 でも 費 用 対 効 果 の 考 え 方 を 取 り 入 れる 動 きは あるのでしょうか 池 田 実 は 日 本 でも212 年 に 中 央 社 会 保 険 医 療 協 議 会 ( 中 医 協 )で 費 用 対 効 果 の 問 題 を 専 門 的 に 議 論 する 費 用 対 効 果 評 価 専 門 部 会 が 新 たに 設 立 され 私 も 参 考 人 として 加 わっ ています その 中 で まずは 薬 剤 や 医 療 機 器 の 価 格 設 定 に 費 用 対 効 果 の 考 え 方 を 入 れる すなわち 現 在 加 算 という 形 で 高 く 評 価 されている 薬 剤 は 費 用 対 効 果 の 点 で 加 算 に 値 する 価 値 があるのかどうかなど 議 論 しているところです 216 年 度 からの 試 行 的 導 入 を 目 指 し 専 門 部 会 で 慎 重 な 議 論 が 行 われています 臨 床 現 場 に 影 響 するには もう 少 し 時 間 がかかるかもしれませんが 政 策 レベルでの 薬 価 の 設 定 という 意 思 決 定 は 導 入 目 前 であると 考 えています さらに 英 国 ではガイ 図 1 国 民 医 療 費 対 国 内 総 生 産 および 対 国 民 所 得 比 の 年 次 推 移 図 ドラインに 2 日 本 の 糖 沿 尿 った 病 関 治 連 療 医 療 費 用 ( 兆 円 ) (%) ( を 兆 円 行 ) っている 医 師 に 対 4 昭 和 36 年 国 民 皆 保 険 制 度 して 簡 単 にいえばボー 35 昭 和 48 年 老 人 医 療 費 無 料 化 1. 対 ナ ス を 払 うPay For 5 国 3 Performance(P4P)とい 平 成 3 年 バブル 崩 壊 内 総 8. 生 うインセンティブが 4 導 入 国 25 産 民 対 国 民 所 得 (NI) 比 比 されています 日 本 の 場 医 2 6. 療 対 合 3標 準 仕 様 の 電 子 カル 費 国 民 テが 全 ての 医 療 機 関 で 15 所 4. 得 比 導 入 2 されているわけで 1 はないので 医 療 内 容 の 5 対 国 内 総 生 産 (GDP) 比 2. 1 質 を 統 一 的 に 評 価 する 国 民 医 療 費 ことは 難 しいのですが. 将 来 的 にはP4Pのよう 昭 和 平 成 年 度 ( 厚 生 労 働 省 平 成 24 年 度 国 民 医 療 費 の 概 況 より) な 報 酬 も 検 討 の 余 地 が 215 Medical Journal Sha Co., Ltd. Online DITN 第 453 号 Diabetes Front

5 Online DITN 第 453 号 215 年 ( 平 成 27 年 )12 月 5 日 発 行 (5) 対 国 内 総 生 産 比 対 国 民 所 得 比 況 より) あると 思 います 糖 尿 病 の 医 療 費 は 過 小 評 価 されている 渥 美 糖 尿 病 の 医 療 費 について 池 田 先 生 の 分 析 をお 話 し いると 考 えていいと 思 います 実 は 保 険 診 療 でカバーされる 医 療 費 以 外 にも さまざま なコストがあります ADAは 米 国 における 糖 尿 病 費 用 を 報 告 していますが 212 年 度 は 医 療 費 として 約 176 億 ドルで す 加 えて 例 えば 糖 尿 病 による 失 業 死 亡 など 社 会 的 な 損 いただけますか 失 である 生 産 性 損 失 ( 間 接 費 用 )も 推 計 され これが 約 池 田 わが 国 の 糖 尿 病 の 医 療 費 は213 年 度 で1.2 兆 円 強 で 69 億 ドルと 推 計 されています( 図 4) すが 糖 尿 病 合 併 症 である 腎 不 全 や 虚 血 性 心 疾 患 などを 合 したがって 医 療 費 だけではなく 社 会 的 な 損 失 コストに わせると その 数 倍 はかかっていると 推 測 されます( 図 2 3 ) も 同 時 に 着 目 する 必 要 があると 思 います しかし どの 部 分 が 糖 尿 病 によるものなのか 明 確 には 分 け 渥 美 1993 年 に1 型 糖 尿 病 患 者 に 対 する 大 規 模 スタディ にくく 推 計 を 難 しくさせています ちなみに 透 析 は 糸 DCCTが 出 たことと 199 年 代 後 半 から 糖 尿 病 の 薬 剤 が 増 球 体 疾 患 腎 尿 細 管 間 質 性 疾 患 及 び 腎 不 全 という 分 類 に 入 えて 進 歩 したことで 糖 尿 病 患 者 数 は 増 加 しているものの り 約 1.5 兆 円 の 医 療 費 がかかっています 透 析 の 約 44%は 合 併 症 は 減 少 しているのではないかと 思 います これはま 糖 図 尿 1 病 国 性 民 腎 症 医 が 療 原 費 因 対 です 国 内 総 生 産 および 対 国 民 所 得 比 の 年 次 推 さに 移 薬 剤 の 費 用 対 効 果 だと 思 いますが 図 2 日 池 本 田 の 先 糖 生 尿 はどのよ 病 関 連 医 療 費 用 ( 兆 円 ) (%) したがって 糖 尿 病 関 連 医 療 費 は まさに 過 小 評 価 されて うにお 考 えでしょうか ( 兆 円 ) 4 昭 和 36 年 国 民 皆 保 険 制 度 池 田 DCCTの 結 果 を 踏 まえて インスリンに 35 図 2 日 本 の 糖 尿 病 関 昭 和 連 48 医 年 療 費 老 人 用 医 療 費 無 料 化 よる 強 化 1. 療 法 における 費 用 対 効 果 の 論 文 が 早 対 5 ( 兆 円 ) 国 3 速 JAMAに 報 内 告 されました 1) 2 型 糖 尿 病 に 関 し 6 平 成 3 年 バブル 崩 壊 総 ても UKPDSのデータを 8. 生 使 4った 費 用 対 効 果 の 論 国 25 産 民 文 が 出 ています比 2) 医 5 対 国 民 所 得 (NI) 比 2 これらの 6. 療 推 対 計 で 示 されている 3 通 り 早 期 に 適 費 国 切 な 介 入 を 行 民 うことによって 将 来 的 な 合 併 症 415 所 腎 不 全 等 を 減 らし 4.医 療 得 費 の 削 減 とまではいかなくても 2 比 1 脳 血 管 疾 患 3 投 資 に 対 して 十 分 な 健 康 改 善 の 見 返 りがあるこ 虚 血 性 心 疾 患 対 国 内 総 生 産 (GDP) 比 2. 1 とが 示 されていると 思 います 5 糖 尿 国 病 民 医 療 費 2 日 本 の 場 合 なかなかそういった 分 析 は 十 分. 昭 和 平 成 に 行 われていませんが レセプトを 24 年 度 22 集 計 すると 27 1 ( 厚 生 労 働 省 平 成 24 年 度 国 民 医 療 費 の 概 況 より) 糖 尿 病 の 進 展 とともに 医 療 費 が 増 大 することが 確 認 されています ただ 問 題 は どの 時 期 からの 早 期 介 入 で ど ( 年 度 ) ( 厚 生 労 働 省 平 成 年 度 国 民 医 療 費 より) の 程 度 医 療 費 が 減 らせるかということです レ 図 3 糖 尿 病 合 併 症 医 療 費 (6カ 月 毎 ) 図 4 米 国 の 糖 尿 ( 円 ) 3,, 2,5, 6 カ2,, 月 間 心 平 筋 梗 塞 均 虚 1,5, 医 血 性 心 疾 患 心 療 不 全 費 脳 梗 塞 1,, 下 肢 切 断 視 力 障 害 腎 症 5, 透 析 1 図 4 米 国 の 糖 尿 病 医 療 費 用 (1 億 ドル) 3 生 産 性 損 失 医 療 費 25 腎 症 2 透 析 期 (1 期 6カ 月 ) 5 心 筋 梗 塞 虚 血 性 心 疾 患 心 不 全 脳 梗 塞 下 肢 切 断 視 力 障 害 (1 億 ドル) 3 生 産 性 医 療 費 ( 日 本 医 療 データセンター 提 供 のレセプトデータより) Ame 215 Medical Journal Sha Co., Ltd ( 年 度 ) 療 データセンター 提 供 のレセプトデータより) American Diabetes Association. 213; 36(4): Online DITN 第 453 号 Diabetes Front

6 Online DITN 第 453 号 215 年 ( 平 成 27 年 )12 月 5 日 発 行 (6) 図 4 米 国 の 糖 尿 病 医 療 費 用 (1 億 ドル) 3 生 産 性 損 失 医 療 費 梗 塞 25 性 心 疾 患 全 塞 2 切 断 障 害 ( 年 度 ) プトデータより) American Diabetes Association. 213; 36(4): セプトデータのみでは 分 析 は 難 しく さまざまな 疫 学 的 な データなどを 組 み 合 わせたシミュレーションが 必 要 になっ てきます 糖 尿 病 予 防 の 費 用 対 効 果 渥 美 糖 尿 病 予 防 の 大 規 模 スタディとしてはDPPが 有 名 で 生 活 習 慣 への 介 入 をケースマネージャーが 行 うことで かなりコストを 下 げています 予 防 そのものの 価 値 は 証 明 されていると 考 えてよろしいでしょうか 池 田 最 近 糖 尿 病 患 者 へのさまざまな 介 入 の 費 用 対 効 果 について 196の 論 文 を 対 象 としたシステマティックレ ビューが 発 表 されましたが 大 部 分 の 介 入 は 費 用 対 効 果 が 高 いという 結 果 でした 3) 一 時 米 国 でも 疾 病 管 理 が 流 行 り 医 師 による 診 察 ではな く 看 護 師 の 電 話 による 介 入 など コストを 下 げたさまざま な 方 法 を 試 みて 費 用 対 効 果 を 改 善 させた 報 告 がいくつかあ ります しかし 日 本 の 外 来 診 療 のように 出 来 高 払 いでは さまざ まな 介 入 を 行 うことでかえってコストがかかり 医 療 者 側 の 収 入 になるという 側 面 があります そこには 制 度 の 違 い があるわけです 渥 美 糖 尿 病 の 治 療 は 多 剤 処 方 が 主 流 であり 精 神 科 領 域 も 同 様 で 問 題 になっています 日 本 ではあまり 制 限 なく 処 方 できることが 世 界 の 潮 流 と 違 うように 思 えますが その 辺 いかがお 考 えでしょうか 池 田 どうしても 多 剤 併 用 が 必 要 な 患 者 は 存 在 するとは 思 いますが 1 剤 追 加 することによってどのくらい 効 果 がある のかエビデンスを 示 す 必 要 があると 思 います そもそも 費 用 を 負 担 しているのは 患 者 であり 社 会 でも あるので 社 会 に 対 しての 説 明 責 任 も 必 要 ではないでしょ うか 医 療 費 を 抑 制 するために 渥 美 最 後 に 日 本 の 医 療 費 はこの 先 国 家 予 算 をはるかに 超 えるという 推 測 が 出 ています どうすればこれを 抑 制 で きるとお 考 えですか 池 田 国 民 皆 保 険 制 度 の 持 続 可 能 性 という 観 点 からいけ ば まず 医 療 者 側 がコスト 意 識 を 持 つことが 重 要 です それ を 実 践 するためには 何 らかの 経 済 的 なインセンティブが 一 番 有 効 だと 思 います また 長 期 的 な 経 過 をたどる 糖 尿 病 のような 病 気 に 対 し ては どの 治 療 にどれだけの 健 康 改 善 があるかという 臨 床 経 過 を 分 析 できるデータベースの 構 築 も 必 要 です 医 療 経 済 に 関 わる 研 究 者 にも 利 用 可 能 になることを 期 待 したい と 思 います 渥 美 現 在 調 剤 薬 局 で 後 発 医 薬 品 使 用 促 進 にインセン ティブがついたことで かなり 変 わってきていますね 池 田 そうですね 現 在 の 診 療 ガイドラインのように 効 果 が 証 明 された 薬 剤 を 全 部 並 べるのではなく 今 後 は 費 用 対 効 果 を 重 視 し 効 果 が 同 等 であれば 安 価 なものを 推 奨 すべ きだと 思 います そうすると 日 本 でも 費 用 対 効 果 を 意 識 し た 診 療 の 実 践 が 定 着 してくると 思 います 糖 尿 病 は 適 切 な 治 療 を 早 期 に 行 うことによって 医 療 費 の 削 減 につながる 領 域 だと 思 います 将 来 の 医 療 費 抑 制 に つながることを もっとアピールして 評 価 していく 必 要 が あると 思 います 渥 美 本 日 は 貴 重 なお 話 をありがとうございました 参 考 文 献 1)The Diabetes Control and Complications Trial Research Group. JAMA Nov 6; 276(17): )CDC Diabetes Cost-effectiveness Group. JAMA. 22 May 15; 287(19): )Zhong Y, et al. Value Health. 215 Mar; 18(2): Medical Journal Sha Co., Ltd. Online DITN 第 453 号 Diabetes Front

7 Online DITN 第 453 号 215 年 ( 平 成 27 年 )12 月 5 日 発 行 (7) ここで 導 入! 外 来 インスリン 導 入 のノウハウ3 2 型 糖 尿 病 に 対 する 外 来 診 療 でのインスリン 療 法 導 入 を 再 考 しよう 河 盛 隆 造 < 順 天 堂 大 学 大 学 院 医 学 研 究 科 ( 文 部 科 学 省 事 業 )スポートロジーセンター> 私 は1 型 糖 尿 病 になってしまったのですか 2 型 糖 尿 病 に 対 してインスリン 療 法 を 施 す 目 的 は HbA1cを7% 内 外 にもってくる ことでは 決 してなかろう インスリン 療 法 を 開 始 する 例 の 大 半 は 2 型 糖 尿 病 として 長 年 治 療 を 受 けてきて 徐 々に 経 口 糖 尿 病 薬 の 量 も 種 類 も 増 え 続 けたにもかかわらず 血 糖 コントロール 状 況 が 悪 化 し もうインスリンが 必 要 かもしれません 専 門 医 をご 紹 介 し ます と 言 われて 来 院 したケースであろう 究 極 の 目 標 は 再 び 内 因 性 インスリン 分 泌 を 回 復 させ さ らにインスリンの 働 きを 高 め インスリン 注 射 を 中 止 して も 良 好 な 血 糖 コントロール 状 況 を 維 持 できるようにするこ とである うまくいかずに インスリンを 用 いていながら 良 好 な 血 糖 状 況 に 達 しないでいると 患 者 は 長 年 2 型 糖 尿 病 ですから 飲 み 薬 で 十 分 ですよ と 言 われてきたのに 私 は 1 型 糖 尿 病 になってしまったのですか と 聞 いてくることが 多 い そのような 質 問 に どのように 答 えれば 患 者 は 納 得 し てくれるのだろうか 食 後 高 血 糖 の 病 態 生 理 を 十 分 把 握 する 実 は 本 邦 において インスリンを 用 いている 2 型 糖 尿 病 患 者 数 は 激 増 し 14 万 人 にも 達 しているという さらにその 中 で HbA1cが7% 未 満 になっている 例 は たかだか2% 弱 にすぎないとの 報 告 がある そのような 例 に 対 して 血 糖 コントロールを 良 くしようとインスリン 投 与 量 を 増 やす と たやすく 低 血 糖 が 起 こる との 医 師 サイドの 嘆 きも 聞 こ える この 現 状 を 打 破 するには インスリンを 用 いてでも 良 好 な 血 糖 コントロール 状 況 を 維 持 して 速 やかにインスリン 分 泌 の 回 復 を 図 るべきであろう 一 般 的 に 罹 病 期 間 が 長 くなると それは 期 待 できない と 捉 えられているが 前 回 (DITN 215 年 9 月 号 ) 示 した 筆 者 らの 3 年 前 の 結 果 を 見 る までもなく 食 後 高 血 糖 を 十 分 抑 制 し 続 けていると 罹 病 期 間 の 長 い2 型 糖 尿 病 患 者 においてもインスリン 分 泌 の 回 復 が 高 に 観 察 される 食 後 高 血 糖 を 抑 制 する 手 段 を 講 じるには 食 後 高 血 糖 の 病 態 生 理 を 十 分 把 握 することが 必 須 である 肝 ブドウ 糖 取 り 込 み を 高 める 工 夫 筆 者 は 食 後 に 門 脈 から 流 入 したブドウ 糖 を 肝 が 十 分 に 取 り 込 めないことが 食 後 高 血 糖 として 示 されている と 捉 え 肝 ブドウ 糖 取 り 込 み を 制 御 する 因 子 の 解 析 を 行 っ てきた その 結 果 1 食 事 摂 取 後 肝 へのブドウ 糖 の 流 入 を 緩 やかにする 2 肝 でのインスリンの 働 きを 高 める 3 肝 へのインスリンの 流 入 を 瞬 時 に 高 める 4 肝 へのブドウ 糖 流 入 時 に 門 脈 域 肝 静 脈 のブドウ 糖 濃 度 勾 配 が 大 である などであることを イヌやヒトで isotope dilution method や 人 工 膵 臓 を 駆 使 して 肝 ブドウ 糖 取 り 込 み 肝 ブド ウ 糖 放 出 筋 ブドウ 糖 取 り 込 み を 定 量 して 証 明 して きた さらに 近 年 のDPP-4 阻 害 薬 の 臨 床 応 用 により 5 肝 に 流 入 するグルカゴンレベルを 抑 制 すること が 制 御 因 子 に 加 わってきた これらの 手 段 を 活 用 し 食 後 血 糖 応 答 を 良 好 に 維 持 していると 膵 β 細 胞 からのインスリ ン 分 泌 がわずかであれ 回 復 する その 分 泌 インスリンが 夜 間 の 肝 ブドウ 糖 放 出 を 抑 制 し 朝 食 前 血 糖 値 の 降 下 をも たらし さらなる 好 循 環 が 期 待 できる( 図 ) これを2 型 糖 尿 病 のインスリン 療 法 にいかに 活 用 すべき であろうか? 食 前 に 超 速 効 型 インスリンを 注 射 しても 門 脈 内 インスリンレベルが 急 速 に 十 分 高 まるわけではなかろ う 肝 を 通 り 抜 けたブドウ 糖 を 皮 下 注 射 されたインスリン が 速 やかに 筋 に 取 り 込 み 血 糖 値 上 昇 を 短 時 間 に 抑 制 する ことになる そこで 肝 ブドウ 糖 取 り 込 み を 高 めるには 工 夫 する 必 要 があろう 1 単 純 糖 質 である 果 物 のジュースや 清 涼 飲 料 水 を 控 える α-グルコシダーゼ 阻 害 薬 を 服 用 し ブドウ 糖 の 流 入 を 緩 や かにする この 薬 剤 は 低 血 糖 が 起 こるリスクのある 次 の 食 前 まで 緩 徐 に 血 中 にブドウ 糖 を 流 入 させるという 付 加 価 値 を 有 している 2 脂 肪 肝 を 改 善 するため 運 動 食 事 療 法 を 駆 使 する メト ホルミンなどにより 肝 でのインスリンの 働 きを 高 める 3 肝 へ 流 入 するインスリンを 増 加 させるには 内 因 性 イン スリン 分 泌 を 刺 激 することが 必 須 となる 一 度 SU 薬 に 反 215 Medical Journal Sha Co., Ltd. Online DITN 第 453 号 ここで 導 入! 外 来 インスリン 導 入 のノウハウ3

8 OnlineDITN 第 453 号 215 年 ( 平 成 27 年 )12 月 5 日 発 行 (8) 図 肝 ブドウ 糖 取 り 込 み を 高 め 食 後 血 糖 応 答 を 正 常 化 するには? 一 気 の ブドウ 糖 流 入 を 遅 延 させる! 肝 での インスリン 作 用 を 高 め る! インスリンを 速 やかに 肝 に 供 給 する! 肝 門 脈 域 - 肝 静 脈 の ブドウ 糖 濃 度 勾 配 を 大 とする! 膵 β 細 胞 の 機 能 維 持 インスリン 分 泌 の 保 持 肝 ブドウ 糖 取 り 込 み 食 後 血 糖 応 答 の 正 常 化 5 グルカゴン 分 泌 制 御! 夜 間 の 肝 ブドウ 糖 放 出 を 抑 制 し 夜 間 血 糖 値 をも 正 常 域 に 維 持 する! ( 河 盛 隆 造 :26 年 日 本 糖 尿 病 学 会 ハーゲドーン 賞 受 賞 講 演 糖 のながれにおける 肝 糖 取 り 込 み 制 御 因 子 の 解 明 糖 尿 病 26;49: より 一 部 改 訂 ) 応 しなくなった 膵 β 細 胞 機 能 を 少 しでも 改 善 することを 目 指 すべきとする 理 由 が ここでも 重 要 視 されよう 4 門 脈 域 肝 静 脈 のブドウ 糖 濃 度 勾 配 を 大 とするには 食 前 血 糖 値 を 正 常 域 に 維 持 することが 必 須 となる すなわち 各 食 後 に 上 昇 した 血 糖 値 を 速 やかに 下 降 させるべく 十 分 量 のインスリンの 投 与 が 必 要 となる 5DPP-4 阻 害 薬 は インスリン 分 泌 を 促 すよりも むしろ グルカゴン 分 泌 を 抑 制 することにより 血 糖 応 答 を 改 善 す ることを 示 してきた 1) この 機 序 として 膵 β 細 胞 よりのわ ずかなインスリン 分 泌 を 介 して 隣 接 する 膵 α 細 胞 からの グルカゴン 分 泌 を 抑 制 すること インクレチンがこの 作 用 を 高 めることなどの 相 加 効 果 が 考 察 されるが 筆 者 らは2 型 糖 尿 病 患 者 においてDPP-4 阻 害 薬 投 与 により double isotope tracer dilution 法 で 定 量 した 肝 ブドウ 糖 放 出 が 抑 制 され 食 後 血 糖 応 答 が 改 善 したことを 証 明 した 2) 肝 へ のグルカゴン 流 入 の 低 下 が インスリンの 働 きを 高 め 肝 ブドウ 糖 取 り 込 み をも 高 めることになる インスリン 療 法 を 開 始 する 際 に これら 薬 剤 の 特 質 を 活 用 することも 念 頭 におくべきであろう 参 考 文 献 1)Kudo-FujimakiK,etal.JDiabInvest214;5: )WatanabeT,etal.JDiabInvest215;6: MedicalJournalShaCo.,Ltd. OnlineDITN 第 453 号 ここで 導 入! 外 来 インスリン 導 入 のノウハウ3

9 Online DITN 第 453 号 215 年 ( 平 成 27 年 )12 月 5 日 発 行 (9) 実 践 サルコペニアと 運 動 療 法 4 サルコペニアに 対 する 運 動 と 栄 養 のコンビネーション 介 入 山 田 実 ( 筑 波 大 学 大 学 院 人 間 総 合 科 学 研 究 科 ) 運 動 と 栄 養 の コンビネーション 介 入 の 必 要 性 メタボリックシンドロームや 糖 尿 病 腎 臓 疾 患 に 対 する 介 入 では 食 事 制 限 が 設 けられるのが 一 般 的 であるが サル コペニア 高 齢 者 に 対 しては 逆 にしっかりと 栄 養 を 摂 ると いう 指 導 が 重 要 である 前 回 (DITN 215 年 1 月 号 )でも 解 説 したように 蛋 白 質 分 岐 鎖 アミノ 酸 (BCAA) β-ヒド ロキシ-β-メチル 酪 酸 (HMB) ビタミンDなどはサルコペ ニアの 保 護 因 子 であると 考 えられており いくつかのレ ビューでもこれらの 摂 取 が 推 奨 されている 運 動 (レジスタンストレーニング)と 栄 養 補 助 の 組 み 合 わ せを 検 討 した6 編 の 研 究 論 文 を 参 考 に 介 入 のフレームを 考 え ると レジスタンストレーニングの 頻 度 は 週 に3 回 期 間 は6 カ 月 以 上 全 ての 運 動 において1 回 (もしくは1 秒 )を1セッ トとし それぞれ3セット 実 施 する( 運 動 単 独 でも 同 様 ) 栄 養 補 助 に 関 しては 毎 日 摂 取 するというのが 各 研 究 間 で 唯 一 共 通 している 内 容 であり それ 以 外 の 栄 養 素 摂 取 量 に 関 しては 統 一 されていない 加 えて 欧 米 の 研 究 がほとんど であるが 欧 米 人 と 日 本 人 とでは 体 格 差 があまりに 大 きく 推 奨 値 の 設 定 は 難 しい なお 参 考 までに 日 本 人 の 食 事 摂 取 基 準 215 年 版 によると 7 歳 以 上 の 高 齢 者 における 蛋 白 質 の 摂 取 推 奨 量 は 男 性 で 6 g/ 日 女 性 で 5 g/ 日 となっ ている 効 果 が 得 られている 栄 養 素 としては ホエイ 蛋 白 カゼイン 蛋 白 HMB BCAA ビタミンDであり 期 間 は 24 週 間 以 上 を 推 奨 する なお 近 年 のレビューにおいて 栄 養 単 独 であればロイシンおよびHMBが 有 用 となる 可 能 性 が 高 いと 報 告 されたが 運 動 との 組 み 合 わせという 観 点 で 検 討 すれば 前 述 のような 栄 養 素 であればどれもある 程 度 の 効 果 が 得 られており 現 時 点 では 運 動 との 併 用 で 推 奨 す べき 栄 養 素 を 特 定 し 言 及 することは 難 しい それでは 運 動 に 栄 養 補 助 を 加 えることによって どの 程 度 効 果 に 違 いが 認 められるのであろうか 同 じ 条 件 ではな いため あくまで 参 考 程 度 であるが 15 編 の 研 究 論 文 より 運 動 (レジスタンストレーニング)+ 何 らかの 栄 養 補 助 運 動 単 独 何 らかの 栄 養 補 助 単 独 という3 種 類 の 介 入 の 効 果 の 違 いを いくつかある 研 究 結 果 を 統 合 して 検 証 した その 結 果 筋 力 (レッグプレス)の 改 善 は 運 動 + 栄 養 で 約 4% 運 動 単 独 で 約 2% 栄 養 単 独 で15%であった( 図 1) 骨 格 筋 量 の 増 加 は 運 動 + 栄 養 で 約 2.5% 運 動 単 独 で 約 1.5% 栄 養 単 独 で1.%であった( 図 2) このように 筋 力 骨 格 筋 量 の 両 側 面 からみても 運 動 + 栄 養 の 介 入 は 最 も 効 果 的 であり ついで 運 動 単 独 栄 養 単 独 という 結 果 となった なお 前 回 も 説 明 したように 特 に 骨 格 筋 量 をアウトカムとした 場 合 の 運 図 動 3 + 栄 遠 養 隔 の 監 介 視 通 信 型 サル 入 の 効 果 は サルコペニア フレイルの 高 齢 者 において 顕 著 になる 傾 向 にあり サルコペニアの 改 善 を 目 的 とした 場 合 には 運 動 に 加 えて 栄 養 介 入 を 実 施 することは 重 要 である 図 1 介 入 別 にみた 筋 力 改 善 図 2 介 入 別 にみた 骨 格 筋 量 増 加 (%) (%) 日 々のウォーキング 筋 力 3 改 善 2 骨 格 2. 筋 量 増 1.5 加 1. 食 事 栄 養 補 助 (ラ 1.5 運 動 + 栄 養 運 動 単 独 栄 養 単 独 運 動 + 栄 養 運 動 単 独 栄 養 単 独 215 Medical Journal Sha Co., Ltd. Online DITN 第 453 号 実 践 サルコペニアと 運 動 療 法 4

10 Online DITN 第 453 号 215 年 ( 平 成 27 年 )12 月 5 日 発 行 (1) 遠 隔 隔 監 視 通 信 型 サルコペニア 予 防 法 サルコペニアの 予 防 改 善 に 運 動 と 栄 養 のコンビネー ション 介 入 が 有 用 であることは 理 解 できても 実 践 するの はなかなか 難 しい 特 に 外 来 患 者 のように 地 域 で 暮 らす 高 齢 者 の 管 理 は 難 しいのが 実 情 である ここで 紹 介 するのは われわれが 考 案 した 遠 隔 監 視 通 信 型 のサルコペニア 予 防 法 である 従 来 は 対 象 者 に 週 に 何 回 かの 頻 度 で 会 場 へ 集 まってもらい 運 動 指 導 を 行 うという 教 室 型 運 動 介 入 が 行 われている しかしながら リスクのあ る 高 齢 者 ( 参 加 して 欲 しい 高 齢 者 )は そのような 教 室 に 参 加 することを 拒 み 健 康 意 欲 の 高 い 高 齢 者 に 対 して 介 入 が 実 施 されている 傾 向 にあるのが 実 情 である この 遠 隔 監 視 通 信 型 予 防 法 は 日 々のウォーキングを 主 体 としており 対 象 者 自 身 が 自 宅 周 辺 で 行 える 内 容 となっ ているため 参 加 に 対 するハードルが 低 く 参 加 が 高 い 特 徴 を 有 する 対 象 者 には 歩 数 計 栄 養 補 助 食 品 ( 必 要 な 方 に) アンクルウェイト( 足 首 に 巻 く 錘 : 自 己 裁 量 で) それに 活 動 記 録 用 の 記 録 用 紙 を 配 布 する 介 入 内 容 はいたってシンプル 図 3 遠 隔 監 視 通 信 型 サルコペニア 予 防 法 日 々のウォーキング 食 事 栄 養 補 助 記 録 (ライフログ) 郵 送 であり 1 日 々の 歩 数 をカウント( 自 己 裁 量 でアンクルウェ イトを 装 着 ) 2 栄 養 補 助 食 品 の 摂 取 ( 対 象 者 の 状 態 に 応 じ て) 3 食 事 ( 多 い 普 通 少 ない) 4 睡 眠 時 間 および 睡 眠 の 質 ( 満 足 不 満 )を 記 録 するというものである この1~ 4を1カ 月 間 実 施 後 データ 管 理 センターへ 郵 送 し その 後 にフィードバックを 受 けるというものである( 図 3) フィードバックの 内 容 は 当 該 月 の 平 均 歩 数 翌 月 の 目 標 歩 数 (1% upが 目 標 ) 平 均 睡 眠 時 間 それに 個 々 人 に 対 応 した 一 言 コメントである ウォーキング 主 体 でも 筋 機 能 向 上 前 回 も 説 明 したように 運 動 習 慣 のない 高 齢 者 や 非 活 動 的 な 高 齢 者 に 対 しては1RM(Repetition Maximum)の4% 程 度 の 負 荷 量 で 筋 力 増 強 筋 肥 大 の 効 果 が 得 られると 言 わ れている 興 味 深 いことに 高 齢 者 では 歩 行 するだけでもこ の 程 度 の 負 荷 に 到 達 している 筋 があり 事 実 ウォーキング を 主 体 としたトレーニングによって 筋 力 増 強 および 筋 肥 大 の 効 果 が 得 られている この 遠 隔 監 視 通 信 型 サルコペニア 予 防 法 でも 半 年 間 継 続 して 介 入 を 実 施 することによって 骨 格 筋 の 同 化 関 連 ホルモンが 増 加 し 骨 格 筋 量 が 増 加 するといった 効 果 を 得 られている また 健 常 な 高 齢 者 に 対 してはウォーキング 単 独 でも ウォーキング+ 栄 養 補 助 でも 効 果 が 同 程 度 であったのに 対 して フレイ ルな 高 齢 者 に 対 してはウォーキング 単 独 ではあまり 効 果 がなく ウォー キング+ 栄 養 補 助 において 良 好 な 効 果 が 得 られている このような 内 容 であれば 外 来 患 者 などでも 十 分 に フォローできるため 身 近 に 行 える 運 動 介 入 としてぜひ 実 践 していただ きたい 管 理 センター 集 計 &フィードバック 次 回 (DITN 216 年 2 月 号 )は 運 動 器 疾 患 (ロコモティブシンドロー ム)とサルコペニアについて 解 説 を 行 う 215 Medical Journal Sha Co., Ltd. Online DITN 第 453 号 実 践 サルコペニアと 運 動 療 法 4

11 OnlineDITN 第 453 号 215 年 ( 平 成 27 年 )12 月 5 日 発 行 (11) インクレチン 関 連 薬 を 用 いた 糖 尿 病 治 療 の 実 際 2 DPP-4 阻 害 薬 の 併 用 療 法 福 岡 勇 樹 山 田 祐 一 郎 ( 秋 田 大 学 大 学 院 医 学 系 研 究 科 内 分 泌 代 謝 老 年 内 科 学 講 座 ) 福 岡 勇 樹 DPP-4 阻 害 薬 と ビグアナイド(BG) 薬 の 併 用 BG 薬 は 肝 臓 での 糖 新 生 の 抑 制 や 骨 格 筋 での 糖 利 用 促 進 などの 作 用 で インスリン 抵 抗 性 を 改 善 させることに 加 え 腸 管 での 糖 吸 収 抑 制 などを 介 して 血 糖 降 下 作 用 を 発 揮 す る インクレチンとの 関 連 性 についても 複 数 報 告 されてお り メトホルミンは 腸 管 上 皮 の 胆 汁 酸 トランスポーターを 阻 害 して 小 腸 の 胆 汁 酸 濃 度 を 増 加 させ 小 腸 L 細 胞 からの GLP-1 分 泌 を 促 進 するという 報 告 や 健 常 人 にメトホルミ ンを 投 与 すると 食 後 の 血 中 総 GLP-1 濃 度 が 有 意 に 上 昇 し たという 報 告 がある 1),2) また 膵 β 細 胞 においてPPARα 作 用 を 介 してGLP-1およびGIP 受 容 体 の 発 現 を 増 加 させ 作 用 増 強 に 寄 与 することもいわれている 3) 以 上 より BG 薬 はインクレチン 効 果 とくにGLP-1 作 用 を 増 強 させる 機 序 も 合 わせ 持 つと 想 定 され DPP-4 阻 害 薬 との 併 用 は 血 糖 依 存 性 インスリン 分 泌 がより 促 進 されると 考 えられる その 一 方 で インクレチンのグルカゴン 分 泌 抑 制 がBG 薬 の 肝 糖 新 生 抑 制 を 増 強 させる 機 序 も 推 察 され 双 方 向 的 な 作 用 増 強 が 期 待 できる 組 み 合 わせである 実 臨 床 において は 空 腹 時 および 食 後 血 糖 値 をともに 改 善 させ 併 用 しても 低 血 糖 は 起 こしにくく 体 重 への 影 響 は 少 なく 膵 β 細 胞 を 疲 弊 させにくいことが 特 徴 として 挙 げられる メトホルミ ンは5 ~ 75mg/ 日 の 少 量 から 開 始 し 最 大 225mg/ 日 ま で 順 次 増 量 することでさらに 血 糖 改 善 効 果 が 期 待 されるこ とも 使 用 しやすいポイントである DPP-4 阻 害 薬 と チアゾリジン(TZD) 薬 の 併 用 TZD 薬 はPPARγアゴニストであり インスリン 抵 抗 性 改 善 薬 である 本 邦 においてはピオグリタゾンが 承 認 され ている その 作 用 機 序 としては PPARγによる 脂 肪 細 胞 分 化 作 用 を 促 進 することで 脂 肪 細 胞 の 小 型 化 脂 肪 細 胞 への 糖 取 り 込 みを 増 加 させ インスリン 感 受 性 を 改 善 させると 考 えられている 糖 代 謝 のみならず 中 性 脂 肪 低 下 やHDL コレステロールの 増 加 といった 脂 質 改 善 作 用 や アディポ ネクチンを 直 接 増 加 させる 作 用 があり 抗 動 脈 硬 化 作 用 も 期 待 されている 血 糖 コントロールの 観 点 からは DPP-4 阻 害 薬 との 併 用 はインスリン 分 泌 能 と 抵 抗 性 の 両 面 からの 効 果 が 見 込 まれ 国 内 の 臨 床 研 究 においてTZD 薬 にDPP-4 阻 害 薬 を 追 加 すると 12 週 間 でHbA1cは.5 ~.7% 程 度 の 低 下 が 認 められたと 報 告 されている DPP-4 阻 害 薬 とTZD 薬 併 用 による 膵 外 作 用 について 心 血 管 と 骨 代 謝 の 観 点 から 述 べる 大 血 管 障 害 既 往 を 有 する2 型 糖 尿 病 患 者 を 対 象 としたPROactive 試 験 のサブ 解 析 で ピオグリタゾンは 心 血 管 イベント 発 症 を 抑 制 したと 報 告 さ れており DPP-4 阻 害 薬 (シタグリプチン)の 心 血 管 リスク に 関 する 研 究 であるTECOS 試 験 では 複 合 心 血 管 イベント の 発 症 に 差 が 認 められなかった したがって DPP-4 阻 害 薬 は 心 血 管 に 直 接 的 な 悪 影 響 は 及 ぼさないと 考 えると DPP-4 阻 害 薬 とTZD 薬 の 併 用 は 血 糖 コントロールが 改 善 す ることも 相 まって 心 血 管 イベントの 抑 制 が 期 待 できる 骨 代 謝 に 関 しては TZD 薬 は 海 外 の 臨 床 試 験 において 女 性 の 骨 折 の 発 現 頻 度 増 加 が 指 摘 されており 機 序 としては 骨 芽 細 胞 の 分 化 を 抑 制 することが 考 えられている その 一 方 で GIPは 骨 芽 細 胞 を 刺 激 することで 骨 形 成 を 促 し GLP-1はカルシトニンを 介 して 骨 吸 収 を 抑 制 することが 報 告 されており DPP-4 阻 害 薬 はGLP-1とGIPの 血 中 濃 度 を 高 めることで 骨 量 増 加 作 用 が 期 待 できるため 併 用 によっ てTZD 薬 の 骨 折 リスクが 軽 減 される 可 能 性 がある DPP-4 阻 害 薬 と α-グルコシダーゼ 阻 害 薬 (α-gi)の 併 用 α-gi 薬 は 小 腸 刷 子 縁 のα-グルコシダーゼ 活 性 を 抑 制 する ことで 単 糖 の 吸 収 の 場 を 小 腸 上 部 から 小 腸 の 中 ~ 下 部 に 移 行 させ 食 後 高 血 糖 を 改 善 する このような 単 糖 の 吸 収 は インクレチン 分 泌 に 重 要 である われわれの 行 った 研 究 で はα-GIの 投 与 でGIPの 分 泌 は 抑 制 され GLP-1 分 泌 は 促 進 されることを 示 している 4) ( 図 ) DPP-4 阻 害 薬 はGLP-1の 作 用 増 強 が 血 糖 降 下 や 体 重 減 少 に 有 利 に 働 くため α-giと の 併 用 は 非 常 に 相 性 がよい 組 み 合 わせといえる α-giはし ばしば 服 薬 アドヒアランスが 問 題 となるが DPP-4 阻 害 薬 と1 日 1 ~ 2 回 のα-GI 投 与 にても 血 中 GLP-1は 上 昇 し 血 糖 コントロール 改 善 効 果 があることが 報 告 されており 5),6) 215MedicalJournalShaCo.,Ltd. OnlineDITN 第 453 号 インクレチン 関 連 薬 を 用 いた 糖 尿 病 治 療 の 実 際 2

12 OnlineDITN 第 453 号 215 年 ( 平 成 27 年 )12 月 5 日 発 行 (12) 図 糖 質 吸 収 α-グルコシダーゼ 阻 害 薬 (α-gi)とインクレチン 分 泌 の 関 係 GIP GLP-1 α-gi(-) 糖 質 吸 収 胃 上 部 小 腸 (K-cell) 下 部 小 腸 (L-cell) 大 腸 α-gi(+) GIP 減 少 GLP-1 増 加 Narita T, et al. Prog Med 28;28: より 引 用 改 変 個 々の 生 活 スタイルに 合 わせて 柔 軟 に 投 与 回 数 を 変 えるこ とも 血 糖 管 理 に 有 用 である 可 能 性 が 示 唆 されている DPP-4 阻 害 薬 とインスリンの 併 用 DPP-4 阻 害 薬 と SGLT2 阻 害 薬 の 併 用 SGLT2 阻 害 薬 は 腎 尿 細 管 におけるブドウ 糖 の 再 吸 収 を 抑 制 して 体 内 から 尿 中 にブドウ 糖 を 排 泄 するという イン スリン 作 用 を 介 さない 機 序 で 血 糖 降 下 作 用 を 有 する 経 口 薬 である 本 邦 におけるSGLT2 阻 害 薬 の 臨 床 試 験 第 Ⅲ 相 成 績 において DPP-4 阻 害 薬 に 追 加 併 用 で 単 独 療 法 と 同 程 度 の 血 糖 低 下 が 認 められている SGLT2 阻 害 薬 が 体 重 減 少 作 用 を 有 することや 血 糖 を 低 下 させて 糖 毒 性 をとることは DPP-4 阻 害 薬 の 作 用 増 強 に 寄 与 する 可 能 性 がある SGLT2 阻 害 薬 を 投 与 すると 糖 排 泄 に 反 応 して 代 償 的 に 血 漿 グル カゴン 濃 度 が 上 昇 し 内 因 性 糖 産 生 能 を 増 大 させることが 報 告 されているが DPP-4 阻 害 薬 はグルカゴン 分 泌 に 対 して 拮 抗 的 に 働 くと 考 えられるため その 面 からも 有 効 な 併 用 療 法 のひとつと 考 えられる 7) 以 上 より この 併 用 療 法 は 血 糖 コントロールの 観 点 から は 空 腹 時 および 食 後 血 糖 値 をともに 改 善 し かつ 低 血 糖 を 起 こしにくい 特 徴 を 持 ち 理 論 上 は 膵 β 細 胞 保 護 に 有 用 で ある 可 能 性 がある ただし SGLT2 阻 害 薬 を 使 用 するにあ たっては 日 本 糖 尿 病 学 会 の SGLT2 阻 害 薬 の 適 正 使 用 に 関 するRecommendation を 参 照 して 適 切 な 症 例 に 使 うべきで あり またこの 組 み 合 わせは 薬 価 が 高 くなる 点 には 留 意 が 必 要 である インスリン 療 法 にDPP-4 阻 害 薬 を 使 用 するメリットとし ては インスリン 投 与 量 が 減 ること それにより 体 重 管 理 が しやすくなること 血 糖 日 内 変 動 を 改 善 させることが 挙 げ られる 持 効 型 インスリンとの 併 用 いわゆるBOTは 外 来 でも 導 入 しやすいインスリン 療 法 の 形 態 であり 持 効 型 イ ンスリンで 空 腹 時 血 糖 をコントロールし 食 後 血 糖 は DPP-4 阻 害 薬 で 是 正 する 方 法 である インスリン 頻 回 注 射 にDPP-4 阻 害 薬 を 併 用 すると 定 期 インスリンでは 抑 制 で きなかった 高 血 糖 が 生 じた 際 に 内 因 性 分 泌 を 増 加 させる ことで 血 糖 変 動 が 少 なくなることが 期 待 される 結 果 的 に インスリン 必 要 量 が 減 ることになり 低 血 糖 リスクも 軽 減 されることになる 胃 排 泄 機 能 が 低 下 していてインスリン 作 用 と 食 後 血 糖 ピークが 合 わないような 状 況 でもDPP-4 阻 害 薬 は 効 果 を 発 揮 するであろう いずれにせよ 内 因 性 イン スリン 分 泌 が 残 存 していることが 有 効 な 併 用 療 法 を 行 う 上 での 条 件 と 考 えられる 参 考 文 献 1)MulherinAJ,etal.Endocrinology211;152: )MigoyaEM,etal.ClinPharmacolTher21;88: )ChoYM,etal.Diabetologia211;54: )NaritaT,etal.DiabetMed29;26: )AokiK,etal.ActaDiabetol212;49: )MasudaK,etal.ExpertOpinPharmacother213;14: )MerovciA,etal.JClinInvest214;124: MedicalJournalShaCo.,Ltd. OnlineDITN 第 453 号 インクレチン 関 連 薬 を 用 いた 糖 尿 病 治 療 の 実 際 2

13 11月14日はWorld Diab ム in 東京 主催 日本糖尿病協会 東京都糖尿病協会 が有楽町のよみうりホー ルにて開催され 多くの患者やその家族が集まった テーマは インスリンのある Online DITN 第453号 215年 平成27年 12月5日発行 生活 注射 ポンプ 13 講演 1では森 保道先生 虎の門病院 が インスリン治療の進歩 と題して 今 11月14日はWorld Diabetes Day 世界糖尿病デー あるインスリンを上手く使うことによって ポンプ療法に次ぐ良い血糖コントロール を行うことが可能であることをわかりやすく解説した 2 人が講演 1人目はプロ囲碁棋士の木部 夏生さ 糖尿病シンポジウム 講演 in2 では 1型糖尿病患者 東京 ん 1 歳で1型糖尿病を発症したが 国際戦で戦える女流のトップ棋士になる テーマ インスリンのある生活 注射 ポンプ という夢と目標があったため 前向きに1型糖尿病と付き合っていけることを話さ れた 2 人目は日本糖尿病協会副会長の高橋 一征さん 5 歳で1型糖尿病を発 症 血糖コントロールが上手くいかず インスリンポンプ療法を導入 今では SAP る伊藤 新先生 東京歯科大学市川総合病院 は インスリン 11 月 14 日の世界糖尿病デー関連イベントとして 東京で 11月14日の世界糖尿病デー関連イ 療法をいち早く取り入れ 血糖コントロールがいかにやりやすいか 選択肢の1 治療のポイント と題して インスリン治療を二刀流に例 は 糖尿病シンポジウム in 東京 主催 日本糖尿病協会 ム in 東京 主催 日本糖尿病協会 つとして気軽にポンプを活用してほしい と勧められた え 守り 基礎インスリン を固め 攻め 目標血糖値を決め 東京都糖尿病協会 が有楽町のよみうりホールにて開催さ ルにて開催され 多くの患者やその家 講演 3 では 小出 景子先生 永寿総合病院 より インスリンポンプ治療 外 インスリンを効果的に打つ 対戦結果 血糖推移 を記録す れ 多くの患者やその家族が集まった テーマは インスリ 生活 注射 ポンプ 来でも始められます というテーマで ポンプをよく知らない患者さんに向けて るという積極的な治療の考え方を提示された ンのある生活 注射 ポンプ 講演 1では森 保道先生 虎の門病 多くの写真を用いて具体的な使用法や 最先端の SAP 療法をわかりやすく解説 総合パネルディスカッションでは 会場の参加者から矢 講演 1 では森 保道先生 虎の門病院 が インスリン治療 あるインスリンを上手く使うことによっ ただ コストの面では負担になるという現在のデメリットも話された 糖尿病専門 継ぎ早に多くの質問があった 私の娘が1歳で1型糖尿病 の進歩 と題して 今あるインスリンを上手く使うことに を行うことが可能であることをわかりや 医で1型糖尿病患者でもある伊藤 新先生 東京歯科大学市川総合病院 は イン 学校での生活など心配 孫が 1 型糖尿病 低血糖を自覚さ よって ポンプ療法に次ぐ良い血糖コントロールを行うこ 講演 2 では 1型糖尿病患者 2 人が スリン治療のポイント と題して インスリン治療を二刀流に例え 守り 基礎イン せるにはどうしたらいいのか など 患者を心配する家族か とが可能であることをわかりやすく解説した ん 1 歳で1型糖尿病を発症したが スリン を固め 攻め 目標血糖値を決め インスリンを効果的に打つ 対戦結 らの質問が多かった 木部さんは 注射のことは正しく理解 講演 2 では 1 型糖尿病患者 2 人が講演 1 人目はプロ囲碁 という夢と目標があったため 前向き 果 血糖推移 を記録するという積極的な治療の考え方を提示された してもらうことが必要 いろんな人に話してほしい 伊藤 棋士の木部 夏生さん 1 歳で 1 型糖尿病を発症したが 国 れた 2 人目は日本糖尿病協会副会長 総合パネルディスカッションでは 会場の参加者から矢継ぎ早に多くの質問が 先生は お子さんには 低血糖のときに変わった様子がな 際戦で戦える女流のトップ棋士になる という夢と目標が 症 血糖コントロールが上手くいかず あった 私の娘が1 歳で1型糖尿病 学校での生活など心配 孫が1型糖尿 かったかを聞いて 気付きを促すといいと思う など回答 あったため 前向きに 1 型糖尿病と付き合っていけることを 療法をいち早く取り入れ 血糖コント 病 低血糖を自覚させるにはどうしたらいいのか など 患者を心配する家族から し 参加者は熱心に聞き入っていた 話された 2 人目は日本糖尿病協会副会長の高橋 一征さん つとして気軽にポンプを活用してほしい の質問が多かった 木部さんは 注射のことは正しく理解してもらうことが必要 患者や家族の不安 糖尿病との向き合い方をそれぞれに 5 歳で 1 型糖尿病を発症 血糖コントロールが上手くいか 講演 3 では 小出 景子先生 永寿 いろんな人に話してほしい 伊藤先生は お子さんには 低血糖のときに変わっ 考えた絶好の 1 日になったと思われる ず インスリンポンプ療法を導入 今では SAP 療法をいち 来でも始められます というテーマで た様子がなかったかを聞いて 気付きを促すといいと思う など回答し 参加者は 早く取り入れ 血糖コントロールがいかにやりやすいか 多くの写真を用いて具体的な使用法や 熱心に聞き入っていた 選択肢の 1 つとして気軽にポンプを活用してほしい と勧 ただ コストの面では負担になるとい 患者や家族の不安 糖尿病と められた 医で1型糖尿病患者でもある伊藤 新 の向き合い方 講演 3 では 小出 景子先生 永寿総合病院 より インス スリン治療のポイント と題して イン をそれぞれに リンポンプ治療 外来でも始められます というテーマで スリン を固め 攻め 目標血糖値を 考えた絶好の ポンプをよく知らない患者さんに向けて 多くの写真を用 果 血糖推移 を記録するという積極的 1日 に なった いて具体的な使用法や 最先端の SAP 療法をわかりやすく 総合パネルディスカッションでは と思われる 糖尿病シンポジウム in 東京 解説 ただ コストの面では負担になるという現在のデメ あった 私の娘が1 歳で1型糖尿病 リットも話された 糖尿病専門医で1型糖尿病患者でもあ 代表世話人 渥美 義仁 先生 病 低血糖を自覚させるにはどうした の質問が多かった 木部さんは 注射 いろんな人に話してほしい 伊藤先 た様子がなかったかを聞いて 気付き 熱心に聞き入っていた 患者や家族の不安 糖尿病と の向き合い方 をそれぞれに 考えた絶好の 1日 に なった と思われる 糖尿病シンポジウム in 東京 代表世話人 渥美 義仁 先生 215 Medical Journal Sha Co., Ltd. Online DITN 第453号 糖尿病シンポジウム in 東京

14 Online DITN 第 453 号 215 年 ( 平 成 27 年 )12 月 5 日 発 行 (14) Q & A DPP-4 阻 害 薬 と 心 血 管 リスク 平 野 勉 ( 昭 和 大 学 医 学 部 内 科 学 講 座 糖 尿 病 代 謝 内 分 泌 内 科 学 部 門 ) DPP-4 阻 害 薬 と 心 血 管 リスクについてご 教 示 下 さい ( 高 知 T.U) DPP-4 阻 害 薬 の CV アウトカムに 関 する 大 規 模 臨 床 介 入 研 究 糖 尿 病 治 療 の 目 標 は 合 併 症 の 予 防 であるが 生 命 予 後 に 影 響 が 大 きい 大 血 管 合 併 症 (CV:cardiovascular diseases) においては 積 極 的 な 血 糖 低 下 が 低 血 糖 を 誘 発 して むしろ 死 亡 を 増 やすことが 報 告 されている またチアゾリジン 系 薬 剤 では 心 不 全 の 増 加 による 死 亡 の 増 加 が 問 題 となり ア メリカ 食 品 医 薬 品 局 (FDA)は 新 規 糖 尿 病 治 療 薬 が 標 準 治 療 と 比 較 して 有 意 に CV を 増 加 させないことを 承 認 の 条 件 にしている このため 新 薬 であるDPP-4 阻 害 薬 も 標 準 治 療 に 対 する 非 劣 性 試 験 が 行 われることとなった その 結 果 3 つの 大 規 模 臨 床 介 入 研 究 SAVOR-TIMI53 EXAMINE TECOS 研 究 いずれも CV アウトカムに 関 して DPP-4 阻 害 薬 の 標 準 治 療 に 対 する 非 劣 性 が 示 された しかし 予 想 に 反 して SAVOR でサキサグリプチンが 心 不 全 による 入 院 を 有 意 に 増 加 させ EXAMINEでは 有 意 差 ではないものの アログリプチンの 心 不 全 増 加 傾 向 が 観 察 された 一 方 最 近 発 表 されたTECOSでは シタグリプチ ンが 心 不 全 を 増 加 させることはなかった メタ 解 析 では DPP-4 阻 害 薬 のクラスとしての 心 不 全 への 悪 影 響 は 否 定 さ れた SAVORで 観 察 された 心 不 全 による 入 院 増 加 の 原 因 は 今 もって 不 明 である DPP-4 阻 害 薬 の 血 糖 への 影 響 DPP-4 阻 害 薬 は インクレチンである 活 性 型 GLP-1を 上 昇 させ GLP-1による 血 糖 依 存 性 のインスリン 分 泌 促 進 と グルカゴン 分 泌 抑 制 により 血 糖 が 低 下 する DPP-4 阻 害 薬 はもう1つのインクレチンである 活 性 型 GIPを 上 昇 させ イ ンスリン 分 泌 を 増 加 させるが 慢 性 高 血 糖 状 態 では 膵 島 の GIP 受 容 体 が 減 少 するため コントロール 不 良 の 糖 尿 病 で はGIPの 関 与 は 少 ないと 考 えられている 他 方 グルカゴン 分 泌 はGIPで 上 昇 し とりわけ 低 血 糖 時 に 血 糖 上 昇 に 作 用 するとの 報 告 もある DPP-4 阻 害 薬 は 特 に 食 後 の 高 血 糖 に 対 する 抑 制 効 果 が 高 く 血 糖 変 動 を 平 坦 化 させることが 明 らかになっている 食 後 高 血 糖 は 空 腹 時 血 糖 以 上 にCVリ スクであることは 衆 目 の 一 致 するところであり その 機 序 に 血 糖 変 動 に 伴 う 酸 化 ストレスの 増 加 が 考 えられている 酸 化 ストレスは 血 管 内 皮 機 能 を 損 ない LDLを 酸 化 させ 動 脈 硬 化 プロセスを 加 速 させる DPP-4 阻 害 薬 は 血 糖 変 動 を 平 坦 化 し 酸 化 ストレスを 軽 減 すると 考 えられる 血 糖 以 外 の CV リスクへの 影 響 DPP-4 阻 害 薬 は 脂 質 代 謝 に 対 しても 好 影 響 があること がメタ 解 析 から 報 告 されている 代 謝 回 転 研 究 からは 腸 に おけるカイロミクロン 生 成 抑 制 を 介 して 食 後 トリグリセ リド 上 昇 ( 食 後 高 脂 血 症 )を 抑 制 すると 明 らかになった 食 後 高 脂 血 症 も 食 後 高 血 糖 と 同 様 に 酸 化 ストレスを 増 大 さ せる GLP-1 受 容 体 作 動 薬 は 体 重 減 少 やナトリウムの 腎 排 泄 を 促 進 するなどの 機 序 を 介 して 血 圧 を 低 下 させるが DPP-4 阻 害 薬 はGLP-1 上 昇 が 十 分 ではないためか 血 圧 体 重 に 対 してはほぼ 影 響 を 与 えない 血 管 に 対 する 直 接 作 用 GLP-1 受 容 体 作 動 薬 DPP-4 阻 害 薬 ともに 動 物 特 にマ ウスを 用 いた 研 究 において 動 脈 硬 化 を 抑 制 する 多 数 の 報 告 215 Medical Journal Sha Co., Ltd. Online DITN 第 453 号 Q & A

15 Online DITN 第 453 号 215 年 ( 平 成 27 年 )12 月 5 日 発 行 (15) がある 多 くは 非 糖 尿 病 モデルであり 血 糖 脂 質 血 圧 に 大 きな 変 化 がないことから インクレチン 関 連 薬 の 直 接 効 果 と 考 えられる GLP-1 受 容 体 は 血 管 内 皮 平 滑 筋 に 存 在 す る GLP-1は 内 皮 でのNO 産 生 を 促 進 させ 内 皮 依 存 性 血 管 弛 緩 反 応 を 促 進 させる 報 告 が 多 いが DPP-4 阻 害 薬 では 一 定 の 結 論 には 至 っていない 血 管 平 滑 筋 の 増 殖 新 生 内 膜 化 は 動 脈 硬 化 の 重 要 なプロセスである インクレチン 関 連 薬 はこのプロセスを 抑 制 するが その 詳 細 な 分 子 メカニズム は 明 らかではない 動 脈 硬 化 はコレステロール 蓄 積 による 血 管 の 慢 性 炎 症 である DPP-4は CD26 と 言 われる T 細 胞 の 増 殖 を 促 進 させる 免 疫 関 連 分 子 である 最 近 CD26が 血 管 炎 症 を 促 進 させる 一 種 の 悪 玉 サイトカインとの 仮 説 がある DPP-4 阻 害 薬 には CD26 の 炎 症 惹 起 作 用 を 阻 害 する 可 能 性 があり これが 動 脈 硬 化 抑 制 に 大 きな 役 割 を 果 たしている のかもしれない インクレチン 関 連 薬 の 心 筋 に 対 する 影 響 以 前 より インクレチン 関 連 薬 には 動 物 の 冠 動 脈 結 紮 再 灌 流 モデルで 生 じた 心 筋 梗 塞 の 面 積 梗 塞 後 に 発 生 した 心 肥 大 を 抑 制 するとの 報 告 がある しかし 最 近 心 室 筋 にはGLP-1 受 容 体 が 存 在 しないこと が 明 らかとなり インクレチン 関 連 薬 の 心 保 護 効 果 が 血 管 を 介 した 心 血 流 の 改 善 による 間 接 作 用 である 可 能 性 が 高 まっている ヒトにおけるインクレチン 関 連 薬 の 心 保 護 効 果 に 関 する 報 告 は 少 ないが 心 機 能 を 悪 化 させた 報 告 はほ とんど 見 られない なぜ 前 臨 床 研 究 と 大 規 模 臨 床 研 究 結 果 は 乖 離 するのか 以 上 のようにDPP-4 阻 害 薬 GLP-1 受 容 体 作 動 薬 ともに CVリスクを 低 下 させる 多 くの 前 臨 床 研 究 があるが 大 規 模 臨 床 研 究 ではCVアウトカムの 抑 制 に 結 び 付 かなかった そ の 理 由 は 以 下 が 考 えられる 1) 大 規 模 臨 床 研 究 はほぼ 二 次 予 防 試 験 であるが 動 物 実 験 はイベントではなく 動 脈 硬 化 の 進 展 抑 制 を 評 価 している ため 一 次 予 防 に 近 い 2) 動 脈 硬 化 性 疾 患 の 発 症 予 防 を 観 察 するには 長 期 間 を 必 要 とするが 大 規 模 臨 床 研 究 は 非 劣 性 を 証 明 する 目 的 のた め 観 察 期 間 は2 3 年 であり 優 位 性 を 証 明 する 期 間 と しては 短 すぎる 3) 対 象 の 大 多 数 が スタチン アスピリン ARBなどすで にCV 予 防 のエビデンスが 確 立 している 薬 剤 を 併 用 して おり DPP-4 阻 害 薬 の 作 用 が 陰 に 隠 れてしまった おわりに 筆 者 は 多 くの 動 物 実 験 で DPP-4 阻 害 薬 の 動 脈 硬 化 抑 制 効 果 を 目 の 当 たりにしてきた ヒトにおいても DPP-4 阻 害 薬 はCVリスクを 低 下 させるはずである 今 後 一 次 予 防 を 目 的 とした 長 期 の 臨 床 研 究 に 期 待 したい 215 Medical Journal Sha Co., Ltd. Online DITN 第 453 号 Q & A

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