目次 Ⅰ はじめに 1 Ⅱ 各疾病 ワクチンについて 3 A 現在 予防接種法の対象となっていないワクチン 1 ヘモフィルスインフルエンザ菌 b 型 (Hib) ワクチン 3 2 肺炎球菌コンジュゲートワクチン ( 小児用 ) 4 3 肺炎球菌ポリサッカライドワクチン ( 成人用 ) 6 4 ヒトパ

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1 厚生科学審議会感染症分科会予防接種部会 ワクチン評価に関する小委員会報告書 平成 23 年 3 月 11 日

2 目次 Ⅰ はじめに 1 Ⅱ 各疾病 ワクチンについて 3 A 現在 予防接種法の対象となっていないワクチン 1 ヘモフィルスインフルエンザ菌 b 型 (Hib) ワクチン 3 2 肺炎球菌コンジュゲートワクチン ( 小児用 ) 4 3 肺炎球菌ポリサッカライドワクチン ( 成人用 ) 6 4 ヒトパピローマウイルス (HPV) ワクチン 7 5 水痘ワクチン 9 6 おたふくかぜワクチン 10 7 B 型肝炎ワクチン 12 B 現在 予防接種法の対象となっているワクチン 1 ポリオワクチン 13 2 百日せきワクチン 14 Ⅲ 結論 15 Ⅳ おわりに 16 委員名簿 開催概要 別添 ワクチン接種の費用対効果推計法 参考資料各作業チーム報告書

3 Ⅰ はじめに 厚生科学審議会感染症分科会予防接種部会 ( 以下 部会 という ) は 平成 22 年 2 月 19 日に 予防接種制度の見直しについて ( 第一次提言 ) をとりまとめ この中で 予防接種の目的や基本的な考え方 関係者の役割分担等について 抜本的な見直しを議論していくことが必要と考えられる主な事項として以下の 6 つの論点が挙げられた < 議論が必要と考えられる主な事項 > 1. 予防接種法の対象となる疾病 ワクチンのあり方 2. 予防接種事業の適正な実施の確保 3. 予防接種に関する情報提供のあり方 4. 接種費用の負担のあり方 5. 予防接種に関する評価 検討組織のあり方 6. ワクチンの研究開発の促進と生産基盤の確保のあり方 このうち 1. 予防接種法の対象となる疾病 ワクチンのあり方 に関しては 具体的には 現在 予防接種法において 定期接種の対象となっていない疾病 ワクチンをどう評価し どのような位置付けが可能かといった点について 議論が必要であった 部会は 疾病 ワクチンのあり方の検討を進めるに当たり まず WHO がワクチン接種を推奨する疾病 病原体等を踏まえ ヘモフィルスインフルエンザ菌 b 型 (Hib) による感染症等を対象として 現時点における情報を幅広く収集し 整理を行うこととし 国立感染症研究所が中心となって 各疾病 ワクチンの ファクトシート ( 平成 22 年 7 月 7 日版 ) がとりまとめられた 次に 疾病 ワクチンのあり方について 医学的 科学的な観点から検討を行うため 平成 22 年 8 月 部会の下に ワクチン評価に関する小委員会 ( 以下 本小委員会 という ) ( 別紙 1) を設置し さらに 各疾病 ワクチンについて専門家により構成される作業チーム ( 別紙 2) を設け検討を行なった 本小委員会は これまで 6 回にわたって検討を行い ヘモフィルスインフルエンザ菌 b 型 (Hib) ワクチン 肺炎球菌コンジュゲートワクチン ( 小児用 ) 肺炎球菌ポリサッカライドワクチン ( 成人用 ) ヒトパピローマウイルス (HPV) ワクチン 水痘ワクチン おたふくかぜワクチン B 型肝炎ワクチン ポリオワクチン及び百日せきワクチンについて ファクトシート ( 平成 22 年 7 月 7 日版 ) 及び各作業チームから提出された報告書を踏まえ 医学的 科学的な観点から 予防接種法の対象となる疾病 ワクチンのあり方 に関する考え方を報告書としてとりまとめた 1

4 なお 本報告書の Ⅱ 各疾病 ワクチンについて において 医療経済的な評価があるが これは 原則として それぞれのワクチン毎に接種が想定される年齢を設定した上で 可能な場合には 生産性損失等を考慮した費用比較分析 ( 1) を行うこととし 生産性損失の推計が困難な場合には費用効果分析 ( 2) を行い 評価したものである ( 詳細は別添参照 ) ただし ポリオワクチンについては 現在 わが国では野生株ポリオウイルスによるポリオ症例は発生しておらず また 研究 開発中の不活化ポリオワクチンの接種回数等の具体的な運用や 接種に必要となる費用等も含め定まっていないことから 今回は医療経済的な評価は行っていない 本報告書は 様々なデータがある中で簡潔にまとめているため 記載した内容の背景 特に医療経済的な評価に用いた値や前提条件等を詳細に記載していないことに留意を要する また 本報告書の医療経済的な評価による推計結果は 複数考えられる評価指標の一つとして理解されるべきものであることに留意すべきである 医療経済的な評価を行った研究事業平成 22 年度厚生労働科学研究費研究事業 インフルエンザ及び近年流行が問題となっている呼吸器感染症の分析疫学研究 ( 研究代表者 : 廣田良夫 ) 分担研究 Hib( インフルエンザ菌 b 型 ) ワクチン等の医療経済性の評価についての研究 ( 研究分担者 : 池田俊也 ) 1 費用比較分析ワクチン接種により増加する費用と ワクチン接種によって疾病の発症が減ることに伴う医療費削減額 ( 当該ワクチンで予防される疾病に係る分のみを考慮 ) の双方を比較 小児期に接種するワクチンについては 家族等の生産性損失の増減 ( 例 : ワクチンを接種する際の付き添い 疾病の発症時および後遺障害時の看護等による生産機会の損失等 ) の社会影響の費用についても考慮 ただし 本人の早期死亡や障害による生産性損失については考慮しない なお 本分析では 単年度における費用比較のため 割引は適用していない 2 費用効果分析ワクチン接種による健康への影響 ( 感染予防の効果や副反応による負の効果 ) を QALY( 質調整生存年 : 生活の質 (QOL) で重み付けした生存年 ) に換算して推計し 1QALY( 健康な寿命を 1 年延伸させる効果 ) を得るために必要な費用 ( ワクチン接種費用など ) が 500 万円を下回っているかどうかにより 費用対効果として良好かどうかを評価 なお 本分析では 支払者の視点 ( ワクチン総接種費用など保健医療費のみを考慮 接種のための交通費や生産性損失などの分は考慮していない ) で推計し 割引率は年率 3% としている 3 割引率将来発生する費用や健康を現在の価値に換算する場合の係数 ( 年率 ) 2

5 Ⅱ 各疾病 ワクチンについて 各疾病 ワクチンについて 疾病の個人及び社会に対する影響 予防接種の効果 目的 安全性 費用対効果等 医学的 科学的な観点から検討を行った概要は以下のとおり <A 現在 予防接種法の対象となっていないワクチン > 1 ヘモフィルスインフルエンザ菌 b 型 (Hib) ワクチン (1) 疾病の影響等について Hib は肺炎球菌とともに小児の侵襲性細菌感染症の 2 大病原菌である Hib による侵襲性感染症には菌血症 細菌性髄膜炎 急性喉頭蓋炎などがある わが国の年間発症数は 主として 5 歳未満児に Hib 髄膜炎が約 400 例 Hib 髄膜炎以外の侵襲性感染症が約 200~300 例と推計されるが 実数より過小評価している可能性がある Hib 髄膜炎の致命率は 0.4%~4.6% であり 聴力障害を含む後遺症率は 11.1%~27.9% とされる 加えて 近年 薬剤耐性を獲得した株が増加しており 治療困難な症例が増加している (2) ワクチンの効果等について Hib ワクチンの接種を推進することで Hib による侵襲性感染症の患者数や後遺症 死亡者数が短期間に減尐することが期待される また 集団免疫効果によって ワクチン未接種の乳児等に関しても Hib による疾病負担の軽減が期待される 臨床的には Hib ワクチンの接種によって細菌性髄膜炎を疑った患者における鑑別診断が容易になり 抗菌薬の適正な使用が行えるようになることで耐性獲得菌の減尐にもつながり また 細菌性髄膜炎の患者数の減尐は小児救急医療の負担を減らすことにも資する また 安全性に関しては ワクチンの国内販売開始から 1,768 件行われた健康状態調査において 重篤な副反応の発生は認められていない また ワクチンの平成 20 年 12 月の販売開始から平成 22 年 10 月までに薬事法に基づき製造販売業者から報告された副反応の状況を検討したところ 熱性痙攣や発熱といった一定の副反応はみられるものの 死亡例は報告されておらず 新たな安全性上のリスクとなるような副反応等は見いだされていないとされている (3) 医療経済的な評価について 医療経済的な評価については 費用比較分析を行った場合 ワクチン接種に要する費用が ワクチン接種によって削減が見込まれる当該疾病に係る医療費と 回避が見込まれる生産性損失の費用等との合計額を上回り 将来的にはワクチン接種により 1 年あたり約 238 億円の費用超過となるものと推計された 3

6 (4) 実施の場合の課題及び留意点について Hib による侵襲性感染症は 5 歳未満の乳幼児で感染のリスクが高いことから WHO の勧奨も踏まえ 標準的な接種対象年齢 (0 歳及び 1 歳 ) を過ぎた幼児に対する ワクチン接種も並行して行うことが必要である また 必要な時期に適切に接種するためには 接種時期が重複する小児用肺炎球菌ワクチン DPT ワクチンなどとの同時接種を行うことのほか 混合ワクチンの開発も重要である 加えて ワクチンの接種による効果を評価するため Hib による侵襲性感染症のサーベイランスを行うことが必要である (5) 総合的な評価 ヘモフィルスインフルエンザ菌 b 型 (Hib) ワクチンについては 疾病の影響 ワクチンの効果等を踏まえ 接種を促進していくことが望ましいワクチンと考えられる 現在 子宮頸がん等ワクチン接種緊急促進臨時特例交付金 事業として 市町村において接種が進められており 当該事業の実施状況等も踏まえ 実施方法や課題について検討を行った上で 継続的な接種が図られるよう 必要な対応を検討していくことが求められる 2 肺炎球菌コンジュゲートワクチン ( 小児用 ) (1) 疾病の影響等について 肺炎球菌は 特に乳幼児においては 血液中に侵入し 菌血症や髄膜炎などの侵襲性感染症の原因菌となることがある わが国の年間発症数は 主として 5 歳未満児に髄膜炎が約 150 例 髄膜炎以外の侵襲性感染症が約 1,000 例を超えると推計されるが 実数より過尐評価している可能性がある 肺炎球菌性髄膜炎の予後は 治癒 88% 後遺症 10% 死亡 2% とされる 加えて 近年 薬剤耐性を獲得した株が増加しており 治療困難な症例が増加している (2) ワクチンの効果等について 7 価の肺炎球菌コンジュゲートワクチン ( 小児用 ) の接種を推進することで 肺炎球菌による侵襲性感染症が減尐することが期待され 肺炎や中耳炎についても患者数の減尐が見込まれる また 集団免疫効果については 米国において高い接種率によりワクチン接種をした乳幼児に加え ワクチン接種を行っていない人でも侵襲性感染症の患者数の減尐が認められている ( ただし これは 3 回接種で接種率が 90% に達する条件下において認められるとされる ) 臨床的には 肺炎球菌コンジュゲートワクチン ( 小児用 ) の接種によって細菌性髄膜炎を疑った患者における鑑別診断が容易になり 抗菌薬の適正な使用が行えるようになることで耐性獲得菌の減尐にもつながり また細菌性髄膜炎の患者数の減尐は小児救急医療の負担を減らすことにも資する また 安全性については 国内の臨床試験において 肺炎球菌ポリサッカライドワクチン ( 成人用 ) の副反応と比べ 局所に見られる副反応は相対的に高く認 4

7 められるが 重篤な副反応は認められていない また ワクチンの平成 22 年 2 月の販売開始から平成 22 年 10 月までに薬事法に基づき製造販売業者から報告された副反応の状況を検討したところ 発熱等の一定の副反応はみられるものの 死亡例は報告されておらず 新たな安全性上のリスクとなるような副反応等は見いだされていないとされている (3) 医療経済的な評価について 医療経済的な評価については 費用比較分析を行った場合 ワクチン接種に要する費用よりも ワクチン接種によって削減が見込まれる当該疾病に係る医療費と 回避が見込まれる生産性損失の費用等の合計が上回り 将来的にはワクチン接種により 1 年あたり約 29 億円の費用低減効果が期待できると推計された (4) 実施の場合の課題及び留意点について ワクチン接種歴のない 2-4 歳児は依然として肺炎球菌による侵襲性感染症のリスクを持つことから WHO の勧奨も踏まえ わが国においても標準的な接種対象年齢を過ぎた 5 歳未満の幼児に対するワクチン接種も並行して行うことが必要である また 5 歳以上の児については リスクは低下するものの 留意点として 過去にワクチン接種歴の無い 9 歳以下の児のほか機能的無脾症など肺炎球菌感染症のハイリスク グループについては ワクチン接種の必要性等も含め 評価 検討を要する 加えて 必要な時期に適切に接種するためには 接種時期が重複する Hib ワクチン DPT ワクチンなどとの同時接種を行うことはきわめて重要である またワクチン接種による効果を評価するため 肺炎球菌による侵襲性感染症のサーベイランスを継続的に行うことが必要である (5) 総合的な評価 肺炎球菌コンジュゲートワクチン ( 小児用 ) については 疾病の影響 ワクチンの効果 医療経済的な評価等を踏まえ 接種を促進していくことが望ましいワクチンと考えられる 現在 子宮頸がん等ワクチン接種緊急促進臨時特例交付金 事業として 市町村において接種が進められており 当該事業の実施状況等も踏まえ 実施方法や課題について検討を行った上で 継続的な接種が図られるよう 必要な対応を検討していくことが求められる 諸外国では ワクチンの接種により このワクチンに含まれない血清型の肺炎球菌による侵襲性感染症の罹患率が増大しており わが国でも同様の事態が懸念されるため 13 価の小児用肺炎球菌ワクチンの早期開発も含め 中長期的視点に立った取り組みが求められる 5

8 3 肺炎球菌ポリサッカライドワクチン ( 成人用 ) (1) 疾病の影響等について 成人における肺炎球菌による感染症は その多くは菌血症を伴わない肺炎である わが国において 肺炎は死亡率の第 4 位に位置し 年齢階級別に見ると肺炎による死亡率は 特に 75 歳以上で男女ともに急激な増加がみられる 肺炎球菌による肺炎は 肺炎の 1/4 から 1/3 を占めると考えられている また わが国においては 高齢者介護施設入所者 ( 平均年齢 85 歳 ) における肺炎球菌による肺炎の発症頻度が高く 特に高齢者に対する影響は非常に大きい (2) ワクチンの効果等について 23 価の肺炎球菌ポリサッカライドワクチン ( 成人用 ) は 侵襲性疾患に対して 諸外国では ワクチン接種により肺炎球菌による肺炎の重症度及び死亡率を有意に低下させるとの報告がある一方 肺炎そのものの発症を予防する効果は見られなかったとの報告もあり この点を理解することが必要と考える また 肺炎球菌ポリサッカライドワクチン ( 成人用 ) とインフルエンザワクチンの併用接種群においては 肺炎による入院が非接種群に比較して減尐したとの報告や わが国のデータにおいて インフルエンザワクチン単独接種の群と比べ 75 歳以上で肺炎による入院頻度が有意に低下している報告もあり これらの肺炎球菌ポリサッカライドワクチン ( 成人用 ) の研究を踏まえると インフルエンザワクチンとの併用による相乗効果が期待できることから インフルエンザワクチンとの併用による接種がより効果的と考えられる また 安全性に関しては 本ワクチンは 20 年以上の使用実績があり 局所反応の頻度は高いものの これまでにその安全性について大きな問題は認められていない (3) 医療経済的な評価について 医療経済的な評価については 保健医療費のみ評価する費用比較分析を行った場合 ワクチン接種に要する費用よりも ワクチン接種によって削減が見込まれる肺炎球菌性肺炎関連の医療費が上回る 一例として 毎年 65 歳の方全員へのワクチン接種を行い ワクチン接種の効果が 5 年間持続するとした場合 1 年あたり約 5,115 億円の保健医療費が削減されるものと推計された (4) 実施の場合の課題及び留意点について 本ワクチンによる免疫は徐々に低下していくとの報告があり また 再接種時には初回接種ほど抗体価の上昇は認められないとの報告もある 現在わが国においても再接種が可能となっているが 再接種の効果やその安全性および必要性については引き続き検討を行っていくことが必要である また 本ワクチンは 効果の持続期間や免疫原性について今後も改善の余地があり 各国で成人に対する治験が開始されている 13 価コンジュゲートワクチンも含め 免疫原性のデータ 6

9 に基づいた接種方法の検討が必要である 加えて ワクチン接種による効果を評価するため 肺炎球菌による感染症の継続的なサーベイランスの構築と その結果に基づき本ワクチンの再評価ができるようにしておくことが必要である (5) 総合的な評価 肺炎球菌ポリサッカライドワクチン ( 成人用 ) については 疾病の影響 医療経済的な評価等を踏まえると 高齢者に対して接種を促進していくことが望ましいワクチンであると考えられる 一方 免疫の効果の持続や再接種時の抗体価の上昇効果については引き続き並行して検討を行い 接種対象年齢や再接種の効果等について再評価することが必要である 4 ヒトパピローマウイルス (HPV) ワクチン (1) 疾病の影響等について ヒトパピローマウイルス (HPV) の感染は 子宮頸がんおよびその前駆病変 (CIN 2 および 3) 尖圭コンジローマ等の原因である わが国における子宮頸がんの年間罹患数は 8,474 人 (2005 年 ) 死亡数は 2,519 人 (2009 年 ) である 年齢階級別罹患率は 25~44 歳で上昇し 45 歳以上で減尐している 年齢階級別死亡率は 30~59 歳で上昇し 60 歳以上で減尐している (2) ワクチンの効果等について HPV ワクチンは 子宮頸がん全体の 50~70% の原因を占めると言われている HPV16 型および 18 型の感染予防を主目的としたもので 未感染者に対して極めて効率的に HPV16 型及び 18 型の感染を防ぎ 子宮頸部前がん病変 (CIN) への進展を妨げることにより これらの型による子宮頸がんを防ぐことが期待されるものである 一方で 既感染の場合は効果が期待できず 高年齢では抗体応答が比較的弱い また ワクチンによって得られた免疫応答がどれくらい持続するかは 必ずしも明らかとなっていない なお 集団における感染まん延防止の効果は必ずしも明らかでないため 今後集団予防に係る影響については知見を重ねる必要がある 安全性は 局所の疼痚 発赤 腫脹等が主な副反応としてあげられている 本ワクチン接種による不妊への影響についてはこれまでのデーターからは否定的である HPV ワクチン固有の重篤な全身性反応は尐ないと考えられる ワクチンの平成 21 年 12 月の販売開始から平成 22 年 10 月までに薬事法に基づき製造販売業者から報告された副反応の状況を検討したところ 発熱や迷走神経反射によると思われる失神といった一定の副反応はみられるものの 死亡例は報告されておらず 新たな安全性上のリスクとなるような副反応等は見いだされていないとされている なお疼痚等に対する迷走神経反射によると考えられる失神が思春期女子に多くみられることから 十分な注意喚起は必要である 7

10 (3) 医療経済的な評価について 医療経済的な評価については ワクチンの長期的な効果の持続期間が明確になっていないことから 13 歳女子に接種したワクチンが生涯有効であると仮定して 費用効果分析を行った場合 1QALY 獲得あたり約 201 万円と推計され 費用対効果は良好と考えられた なお 参考として 上述の推計に用いたパラメータ ( 変数 ) のうち 変動要因となる変数の値を変えて分析 ( 感度分析 ) を行ったところ 割引率 (0-5%) ワクチン効果 (58-77%) ワクチンの効果持続期間 (20 年 - 生涯 ) 一人あたりのワクチン接種費用 (37,900-56,800 円 ) 検診感度 (50-100%) ワクチン接種年齢 (12-16 歳 ) の各項目について それぞれ表示した範囲で値を変動させた場合でも 費用対効果は良好であるとの推計となった 費用比較分析については 関連疾病の経過が複雑で生産性損失なども含め正確な推定が容易でないことから推計は行っていない (4) 実施の場合の課題及び留意点について ワクチンに関する被接種者等に対する説明にあたっては ワクチン接種年齢が中学 3 年生未満の場合 HPV ワクチン接種の必要性を HPV の性感染予防の観点からではなく 子宮頸がん予防の観点を中心に説明を実施することで より HPV ワクチン接種に対する理解が得られ実施可能性が高まると考えられる その際 他のワクチンと同様に 保護者への説明 ( 例えば 疾患の発生原因等 ) が十分になされることが必要である 中学校学習指導要領 ( 平成 20 年 3 月告示 ) にて 性感染症を中学 3 年生で学習することとされているため ワクチン接種年齢が中学 3 年生以上の場合 HPV ワクチン接種の理由を子宮頸がん予防とその背景となる発がん性 HPV の性感染予防の観点から説明をすることができると考えられるが このワクチンは HPV 以外の性感染症を予防するものではなく かつ全ての HPV 感染が予防されるわけではないことを明確にする必要があること 予防接種を受けても子宮頸がん定期検診を受ける必要があることを徹底させる必要があること に留意することが必要である 検診に関する留意点として ワクチンの HPV 感染予防効果は 100% ではないこと ワクチンに含有される HPV 型以外の HPV 感染の可能性があること また HPV ワクチンを接種した集団において子宮頸がんが減尐するという効果が期待されるものの 実際に達成されたという証拠は未だないことから 現時点では 罹患率 死亡率の減尐効果が確認されている細胞診による子宮頸がん検診を適正な体制で行うべきである WHO のガイダンスも踏まえ わが国においても HPV ワクチンの効果判定という視点から がん登録はもとより 検診制度の中での前がん病変の把握 集計のあり方などについて 検討を行うことが必要である (5) 総合的な評価 ヒトパピローマウイルス (HPV) ワクチンについては 疾病の影響 ワクチンの効果 医療経済的な評価等を踏まえ 接種を促進していくことが望ましいワクチンと考えられる 8

11 現在 子宮頸がん等ワクチン接種緊急促進臨時特例交付金 事業として 市町村において接種が進められており 当該事業の実施状況等も踏まえ 実施方法や課題について検討を行った上で 継続的な接種が図られるよう 必要な対応を検討していくことが求められる 検討にあたっては 特に HPV ワクチンについては ワクチンの HPV 感染予防効果は 100% ではないこと 子宮頸がんを発生させる全ての型がカバーされていないこと 子宮頸がんの発生を減尐する効果が期待されるものの販売開始からこれまでの期間は短く 実際に達成されたという証拠は未だないことから 今後 細胞診による子宮頸がん検診の適正な実施及び期待される効果の検証も含め 長期的視点に立った取り組みが求められる 5 水痘ワクチン (1) 疾病の影響等について 水痘は 水痘 帯状疱疹ウイルスの感染により引き起こされる小児に好発する感染性疾患であり 感染力が非常に強く 毎年約 100 万人の患者が発生し 4,000 人程度が重症化により入院し 20 人程度が死亡していると推計される 重症例は 小児では合併症によるものが多く 成人では水痘そのものによるものが多い 合併症では 熱性痙攣 肺炎 気管支炎 肝機能異常 皮膚細菌感染症が多い 中枢神経系の合併症として まれに急性小脳失調症や髄膜炎 / 脳炎 横断性脊髄炎などがおこり 20% は後遺症が残るか死亡に至る また 悪性腫瘍 ネフローゼ症候群 ステロイド薬内服などにより免疫機能が低下した患者が水痘を発症した場合には致命的になり得る 妊婦が妊娠初期に感染すると胎児に影響がおよび 児に重篤な障害を残す先天性水痘症候群をおこす可能性 ( 発生頻度 2%) があり また周産期の母体の感染は新生児に重篤な水痘を発症させる (2) ワクチンの効果等について 水痘ワクチン接種による抗体陽転率は約 90% 以上と良好であり 有効性については 様々な報告があるが 水痘罹患の防止を基準とすると 80~85% 程度であり 重症化防止を基準とすると 100% とされている また 米国においては 水痘ワクチンの接種に伴い 水痘関連の劇症型 A 群溶連菌感染症や 水痘関連入院症例数 死亡率が減尐したことが明らかになっている さらに 集団免疫効果により 全年齢層での水痘患者数の減尐 とくに 1~4 歳の水痘患児が入院例も含め著明に減尐したことが明らかになっている なお 水痘 帯状疱疹ウイルスに自然感染し回復した後に神経節にウイルスが潜伏するが 免疫機能の低下等により再活性化し 帯状疱疹を発症し 生活の質 (QOL) を大きく損なうことが問題となっているが 本ワクチンは 帯状疱疹の患者数の減尐や重症化の軽減も期待される 安全性については ステロイド治療を受けているネフローゼ症候群や白血病の患児等の水痘罹患を防ぐ目的で当初開発された経緯からも十分に考慮されており 市販後調査の結果より 健康人における副反応の頻度は低く ハイリスク児においても副反応の頻度は同じく低いものと考えられる 9

12 (3) 医療経済的な評価について 医療経済的な評価については 2 回接種として費用比較分析を行った場合 ワクチン接種にかかる費用よりも ワクチン接種によって削減が見込まれる当該疾病に係る医療費と 回避が見込まれる生産性損失等との合計の方が上回り 将来的にはワクチン接種により 1 年あたり約 362 億円の費用低減が期待できると推計された なお 参考として 上述の推計に用いたパラメータ ( 変数 ) のうち 変動要因となりうる変数の値を変えて分析 ( 感度分析 ) を行ったところ 一人あたりのワクチン接種費用 (5,000 円 -10,000 円 ) 割引率 (0-5%) 接種回数 (1 回 2 回 ) の項目について それぞれ表示した範囲で値を変動させた場合でも 費用低減になるものと推計された (4) 実施の場合の課題及び留意点について 高い接種率を確保するため 他のワクチンとの接種スケジュールを勘案し 接種を受けやすい環境を作ることが重要である また ワクチンを接種しても水痘を発症すること (breakthrough 水痘 ) を可能な限り減尐させ 感染拡大を防止するために 2 回接種が望ましい (5) 総合的な評価 水痘ワクチンについては 疾病の影響 ワクチンの効果 医療経済的な評価等を踏まえ 接種を促進していくことが望ましいワクチンと考えられる 今後は 帯状疱疹の発症 重症化防止の効果も期待されること 水痘は 天然痘の鑑別診断の一つであり 水痘ワクチンの事前接種は バイオテロ対策の観点からも重要であることといった観点からも検討を行うことが求められる 6 おたふくかぜワクチン (1) 疾病の影響等について 流行性耳下腺炎 ( おたふくかぜ ) はムンプスウイルスによる感染症であり 3 ~6 歳で全患者の 6 割を占める 発症すると特異的な治療法はない 感染力は比較的強く わが国の年間患者数は約 43.1 万人 ~135.6 万人 入院患者数は約 5,000 人と推計され 死亡することは稀である 主な合併症として 無菌性髄膜炎の頻度が高い (1-10%) が 予後は一般に良好である 難聴は日常の生活に支障をきたすことが多く 脳炎 脳症は 重篤な後遺症を残し予後不良である ( 発生頻度は難聴 % 脳炎 脳症 %) また 思春期以降に罹患すると精巣炎 ( 睾丸炎 )(20-40%) や卵巣炎 (5%) を合併する ただし 精巣炎を合併した場合 精子数は減尐するが不妊症の原因となるのは稀である さらに 妊娠初期の妊婦が罹患すると先天性奇形は報告されていないが 流産する場合がある 10

13 (2) ワクチンの効果等について おたふくかぜワクチン接種による中和抗体陽転率は 90~100% と良好である 時間の経過とともに抗体価は減衰するが 2 回目の接種により抗体陽性率は 93 ~95% に上昇する また 流行時の本ワクチンの有効性については 国内で使用されている株で 75~90% である さらに ムンプスウイルスを含むワクチンを 1 回接種する国では おたふくかぜの発症者数が 88% 減尐し 2 回接種する国では 99% 減尐している 2009 年時点で 118 か国が MMR ワクチン ( 麻しん風しんおたふくかぜ混合ワクチン ) の接種を行い そのほとんどの国で 2 回接種が行われ 世界的に流行性耳下腺炎の発生件数は激減している 加えて 集団免疫効果に関しては ワクチン接種率が 30~60% のときはムンプスウイルスが部分的に排除され 初罹患年齢が高年齢側にシフトし 接種率が 85~90% になると罹患危険率が 0 になり 流行が終息するモデルの報告があり 米国及びフィンランドにおけるワクチン接種率と発生件数は ほぼモデルどおりに推移した また 現在国内で流通しているワクチン ( 星野株及び鳥居株 ) による無菌性髄膜炎の起こる確率は 自然感染後の 1,000~10,000/10 万患者 (1~10%) より低いとされている (3) 医療経済的な評価について 医療経済的な評価については 2 回接種として費用比較分析を行った場合 ワクチン接種にかかる費用よりも ワクチン接種によって削減が見込まれる当該疾病に係る医療費と 回避が見込まれる生産性損失等との合計の方が上回り 将来的にはワクチン接種により 1 年あたり約 290 億円の費用低減が期待できると推計された なお 参考として 上述の推計に用いたパラメータ ( 変数 ) のうち変動要因となりうる変数の値を変えて分析 ( 感度分析 ) を行ったところ 1 回あたりのワクチン接種費用 (5,000 円 -10,000 円 ) 割引率 (0-5%) 接種回数 (1 回 2 回 ) の項目について それぞれ表示した範囲で値を変動させた場合でも 費用低減になるものと推計された (4) 実施の場合の課題及び留意点について 高い接種率を確保するため 他のワクチンとの接種スケジュールを調整し 接種を受けやすい環境を作ることが重要である また 発症予防をより確実にするために 2 回接種の実施が望ましい 国内で使用が可能なワクチンはおたふくかぜ単抗原のワクチンであるが 仮に混合ワクチンが使用できるようになった場合には それらのワクチンの有効性及び安全性を正しく理解した上でどれを利用するのか検討する必要がある (5) 総合的な評価 おたふくかぜワクチンについては 疾病の影響 ワクチンの有効性 医療経済的な評価等を踏まえ 接種を促進していくことが望ましいワクチンと考えられる ただし 自然感染の合併症として発生する頻度よりも低く ワクチン接種により無菌性髄膜炎が一定の頻度で発生することの理解は必要である 11

14 今後の検討にあたっては まず 予防接種に使用するワクチン ( 単抗原ワクチン 混合ワクチンの種類 ) の選定 そしてワクチン接種による感染予防と重症化防止の有効性と無菌性髄膜炎の発生の可能性のバランスに関し国民の正しい理解と合意を得ることが求められる 7 B 型肝炎ワクチン (1) 疾病の影響等について B 型肝炎は B 型肝炎ウイルス (HBV) の感染によって引き起こされる 感染者が 1 歳未満の場合 90% 1~4 歳の場合は 20~50% それ以上の年齢になると 1% 以下で持続感染状態 ( キャリア ) に移行する そのうち 10~15% が慢性肝炎に移行し さらに それらの 10~15% が肝硬変 肝がんに進行するとされている わが国における 新規の急性 B 型肝炎発症者は年間 2,000~2,500 人と推定される 一方 一過性感染の 70~80% は不顕性感染で終わることから HBV 感染者は年間 10,000 人程度と推測される HBV に起因する肝がんの死亡者数は年間約 5,000 人程度 肝硬変による死亡者数は約 1,000 人程度と推計される 従来の母子感染防止対策では 母子垂直感染の 94~97% で高率にキャリア化を防ぐことができる 一方で 近年 わが国の急性肝炎及び HBV キャリアにおける遺伝子型 A の割合の増加が認められており 今後日本の成人における急性肝炎からの慢性化の増加が懸念されている そのため 母子感染防止対策では制御できない水平感染を視野に入れた HBV 感染防御についての検討が必要である (2) ワクチンの効果等について B 型肝炎ワクチンは HBV の感染予防を目的としたワクチンであり 急性肝炎の予防に加えて HBV キャリアの約 10~15% が移行する慢性肝疾患 ( 慢性肝炎 肝硬変 肝がん ) 防止対策 及び 周囲への感染源対策として極めて有効で 長期的視点に立ち肝硬変 肝がんを予防できることが最大の効果である また ユニバーサルワクチネーション ( すべての児を対象にワクチン接種 接種時期は 0 歳を想定 ) はキャリア率の低下および急性肝炎の減尐に大きな効果をあげているが セレクティブワクチネーション (HBV キャリアから生まれた児を対象 ) ではキャリア化率の低下のみにとどまっている 効果の持続期間については 個人差があり抗体価は低下するものの 20 年以上続くと考えられている 加えて HBV の一過性感染後に臨床的治癒と判断された者に 免疫が障害される状況下 ( 免疫抑制剤の投与等 ) で HBV の再活性化が起こり重症肝炎を起こし得ることが最近わかってきており HBV 感染そのものを減らすという視点から ワクチン接種を検討することも必要である 安全性については 長く世界中で使われているが これまでに安全性に関する大きな問題は認められていない 12

15 (3) 医療経済的な評価について 医療経済的な評価については ユニバーサルワクチネーションを実施すると仮定し 費用効果分析を行った場合 1QALY 獲得あたり約 1,830 万円と推計され 費用対効果は良好でないと考えられた 費用比較分析については 関連疾病の経過が複雑で生産性損失なども含め正確な推定が容易でないことから推計は行っていない (4) 実施の場合の課題及び留意点について HBs 抗原陽性者の同居家族は HBV 感染のリスクが相対的に高いとの指摘もあることから これらの人に対するワクチン接種について 今後 総合的に検討する必要がある 導入を想定した場合には 予防接種の効果を評価 改善するためにその前後の継続的な実態調査も必要 ( 急性および慢性患者数とハイリスク群の把握 HBs 抗原陽性率調査等 ) である 評価にあたっては 正確な患者数の把握が必須であり 現在 報告漏れの多いことが指摘されている感染症法上の急性 B 型肝炎患者届出を徹底することも必要である 乳児期および思春期を対象としたユニバーサルワクチンネーションに加え 急性肝炎患者の主体である若年成人への対策の検討も必要である その際 成人のワクチン被接種者では 約 10% が HBs 抗体の上昇がないか (non-responder) 不十分 (low-responder) であり こうした non-responder low-responder に対しては より抗体産生の高い新規ワクチンの開発も中長期的に見て必要である (5) 総合的な評価 B 型肝炎ワクチンについては 疾病の影響 ワクチンの効果等を踏まえ 接種を促進していくことが望ましいワクチンと考えられるが 今後の検討を行うにあたっては 我が国の肝炎対策全体の中での位置づけを明確にしつつ 乳幼児あるいは思春期を対象とするのか またはその両方を対象とするのかといった接種対象年齢等も含め 効果的かつ効率的な実施方法等について更に検討を行うことが求められる <B 現在 予防接種法の対象となっているワクチン > 1 ポリオワクチン (1) 疾病の影響等について 急性灰白髄炎 ( ポリオ ) は ポリオウイルスの中枢神経への感染により引き起こされる急性ウイルス感染症で 典型的な麻痺型ポリオ症例では 運動神経細胞の不可逆的障害により弛緩性麻痺を呈する 現在 わが国では 30 年近くにわたり野生株ポリオウイルスによるポリオ症例は発生していない しかし 依然として海外では野生株ポリオウイルス及びワクチン由来ポリオウイルスによるポリオの発生が継続し またポリオワクチン接種率が低下した国における野生ポリオの集団発生がみられることなどから ポリオワクチンについては今後も高い接種 13

16 率を維持していく必要がある 一方 我が国では 近年確認されている国内のポリオ患者は すべて現行の経口生ワクチン (OPV) の副反応によるワクチン関連麻痺症例 (VAPP) である (2) ワクチンの効果等について 3 種類の血清型の弱毒化ポリオワクチン株を含む OPV は 安全性 有効性 利便性に優れたワクチンであるものの 稀ではあるが VAPP 発生のリスクは不可避である 高い抗体保有率を維持しつつ VAPP 発生のリスクを低減させるためには不活化ポリオワクチン (IPV) の導入が必要である 現在 国内で開発中の百日せきジフテリア破傷風 (DPT) と不活化ポリオワクチン (IPV) の混合ワクチンである DPT-IPV4 種混合ワクチンの有効性と安全性について 現時点での評価は出来ないが 現在治験が進行中であり その評価を踏まえ 速やかに適切に対応することが必要である (3) 総合的な評価 OPV を使用していることによって生じる VAPP の発生を防ぐために DPT-IPV 4 種混合ワクチンを速やかに導入していく必要がある また OPV から IPV へ切り替えを行う際の具体的な運用について 検討する必要がある IPV の導入に際し一時的な混乱によって接種率が低下することなどがないよう 接種スケジュールの設定 その広報等について十分な準備をすることが必要である 2 百日せきワクチン (1) 疾病の影響等について 百日せきの主な原因菌は百日せき菌であり ヒトの気道上皮に感染することにより発作性のせきなどを引き起こす 百日せきは ワクチン未接種の乳幼児が感染すると重篤化し易く わが国では罹患した約半数の乳児が呼吸管理のため入院加療となっている わが国では ワクチンの普及とともに患者は激減し 最も尐なかった 2006 年では 1.0 万人と推計されたが 2002 年以降 20 歳以上の成人例の割合が年々増加し 2007 年以降は発生報告数そのものも増加に転じ 全国罹患数は 2.4 万人と推計された 成人が罹患した場合 その症状は軽く 脳症や死亡例といった重篤症例はきわめて稀である (0.1% 以下 ) が 慢性がいそうによる健康な生活の支障 他疾患との鑑別が困難なことによる不適切な治療 さらには青年 成人患者が 新生児や乳幼児の感染源となることが指摘されている (2) ワクチンの効果等について 百日せきはワクチン接種による免疫防御が効果的であり 一般にワクチン既接種者の症状は定型的な百日せきの症状を呈さず 百日せきワクチンの接種は感染リスクの軽減のみならず 重症化防止と発症予防に貢献している わが国で開発された無細胞型百日せきワクチンは その安全性の高さから諸外国で広く使用されている また 百日せきワクチンにより集団免疫効果も期待できる 14

17 一方で ワクチンによる免疫持続期間は 4~12 年と見積もられ 小学校高学年あたりになると免疫効果が減尐すると考えられる 従って 歳頃に百日せきワクチンの 2 期接種を行った場合 青年期まで免疫効果が持続することから 学校などでの集団感染は減尐することが期待され 米国など諸外国では百日せきワクチンの 2 期接種が実施されている これに伴い 青尐年層から小児への感染が減尐することにより 乳幼児 特に重症化し易い乳児の罹患を減らすことも期待される 諸外国では 青尐年層へ接種する百日せきワクチンは ジフテリアと百日せきの抗原を減量した Tdap ワクチンが多く用いられている Tdap の導入により諸外国では百日せきワクチンは 20 歳までに 5 6 回接種されているのに対し わが国では百日せきワクチンは 2 歳までに 4 回接種となっており 接種が早く終了し全体の回数が尐ない なお わが国において DTaP( 精製 DPT ワクチン ) の乳幼児への接種量を減量して接種した場合の安全性と有効性に関する研究成績が得られている Tdap: DTaP のうち ジフテリアと百日咳の抗原を減量したもの (3) 医療経済的な評価について 歳で接種を行った場合の DTaP ワクチンの価格が不明である といった限界があるが 現状の 歳児への DT ワクチン投与を DTaP ワクチンに変更する場合の費用対効果について 仮に外国 ( オーストラリア ) の罹患率を使用するとともに 現行と比較したワクチン費用の増分を 150 円と仮定すると 1QALY 獲得あたり約 70.3 万円であり 費用対効果は良好である可能性が示唆された (4) 総合的な評価 国内における百日せきの発生動向調査は小児科定点医療機関からの報告で 青尐年層以降については十分ではないが その中でも青尐年層以降の百日せきの割合が増加している傾向が認められる そのため 青尐年層以降の百日せき対策の検討を行うことが必要であり 今後 現行の DT の 2 期接種において 百日せきの抗原を含むワクチンの安全性 有効性を確認した上で 追加接種の必要性について検討が必要である 2 期接種を DPT ワクチンに変更するとした場合 医療経済性も含め 検査診断体制の充実やサーベイランスの強化等により 正確なデータを整備するなど 青尐年層以降の百日せき対策の総合的な検討を行うことも必要である また 未接種の乳幼児への感染防御 医療関連感染予防のために 両親 医療従事者などの成人への追加接種についても研究を推進し 今後 その成果に基づいた検討を行うことが必要である Ⅲ 結論 今回の最新のデータに基づいた各ワクチンの作業チームでの評価および本小委員会での医学的 科学的な検討では ヘモフィルスインフルエンザ菌 b 型 (Hib) ワクチン 肺炎球菌コンジュゲートワクチン ( 小児用 ) 肺炎球菌ポリサッカラ 15

18 イドワクチン ( 成人用 ) ヒトパピローマウイルス (HPV) ワクチン 水痘ワクチン おたふくかぜワクチン B 型肝炎ワクチンについては いずれも 医学的 科学的な観点から人々の健康を守るうえで広く接種を促進していくことが望ましいワクチンであると考えられる ただし 今後の検討にあたっては こうした医学的 科学的な議論のほかに 必要な財源とそれをどのように国民全体で支えるかなどの課題や国民のコンセンサスのほか 円滑な導入と安全かつ安定的な実施体制を確保することが前提となるものであり その点も含め 疾病予防の重要性を鑑みた公衆衛生施策としての実施について 部会において引き続き検討を行うことが求められる また 医学的 科学的な検討を継続することは常に必要であり 重要である この点は既に行われている定期接種対象ワクチンも同様である 現在 予防接種法における定期接種の対象となっている百日せきワクチン ポリオワクチンについても それぞれの課題について検討を行った上で 実施方法の見直しが求められる Ⅳ おわりに 本小委員会においては 医学的 科学的な観点から 各疾病 ワクチンの考え方についてとりまとめたが 今後 予防接種施策における対応を検討するに当たっては 医学的 科学的な観点のみならず 予防接種のメリットとリスク 制度を支える上で必要となる財源のあり方などを含めた国民の理解や合意とともに その円滑な導入と安定的な実施体制の整備が前提となる 今回 検討を行った疾病 ワクチンについて 接種の目的や期待される効果等から その分類 位置づけ等についても検討を行ったが 集団予防 個人予防双方の側面を複合的に有するものであり 現行の予防接種法における一類疾病 二類疾病のどちらに位置づけるべきか また接種に対する公的関与として努力義務等の対象とすべきかどうかについての評価については結論を出さず 今後 引き続き検討すべき課題とした 今後 予防接種部会においては 以上の点も踏まえ 部会を構成する多分野にわたる専門家による総合的な視点で引き続き検討いただきたい 16

19 厚生科学審議会感染症分科会予防接種部会 ワクチン評価に関する小委員会委員名簿 氏名池田俊也岩本愛吉 岡部信彦倉田毅廣田良夫宮崎千明 所属 役職国際医療福祉大学薬学部教授東京大学医科学研究所教授国立感染症研究所感染症情報センター長富山県衛生研究所長大阪市立大学大学院医学研究科教授福岡市立西部療育センター長 委員長 (50 音順 ) 17

20 厚生科学審議会感染症分科会予防接種部会 ワクチン評価に関する小委員会開催概要 第 1 回ワクチン評価に関する小委員会開催日 : 平成 22 年 8 月 27 日 ( 金 ) 議事 :1 ワクチン評価に関する小委員会について 2 個別疾病 ワクチンの評価分析の進め方について 3 ヒトパピローマウイルス (HPV) ワクチンについて 第 2 回ワクチン評価に関する小委員会開催日 : 平成 22 年 10 月 18 日 ( 月 ) 議事 :1 費用対効果推計について 2 個別疾病 ワクチン作業チームからの経過報告 第 3 回ワクチン評価に関する小委員会開催日 : 平成 22 年 12 月 16 日 ( 木 ) 議事 : 各ワクチンの評価について ヘモフィルスインフルエンザ菌 b 型ワクチン 肺炎球菌コンジュゲートワクチン ( 小児用 ) ヒトパピローマウイルス (HPV) ワクチン 第 4 回ワクチン評価に関する小委員会開催日 : 平成 23 年 1 月 18 日 ( 火 ) 議事 : 各ワクチンの評価について 肺炎球菌ポリサッカライドワクチン ( 成人用 ) 水痘ワクチン おたふくかぜワクチン B 型肝炎ワクチン 第 5 回ワクチン評価に関する小委員会開催日 : 平成 23 年 2 月 21 日 ( 月 ) 議事 :1 各ワクチンの評価について ポリオワクチン 百日せきワクチン 2 ワクチン評価に関する小委員会報告書 ( 案 ) について 第 6 回ワクチン評価に関する小委員会開催日 : 平成 23 年 3 月 11 日 ( 金 ) 議事 : ワクチン評価に関する小委員会報告書 ( 案 ) について 18

21 予防接種部会 小委員会 作業チームの役割について 別紙 1 厚生科学審議会予防接種部会 役割 厚生労働大臣に対し 予防接種法の対象疾病の追加等を含む予防接種制度の見直しについての提言を行う 検討事項等 第一次提言 ( 議論が必要と考えられる事項 ) より 予防接種法の対象となる疾病 ワクチンのあり方 Hib( インフルエンザ菌 b 型 ) 肺炎球菌 HPV( ヒトパピローマウイルス ) 水痘など 予防接種事業の適正な実施の確保 予防接種に関する情報提供のあり方 接種費用の負担のあり方 予防接種に関する評価 検討組織のあり方 ワクチンの研究開発の促進と生産基盤の確保のあり方 ワクチン評価に関する小委員会 役割 各疾病 ワクチンについての考え方 ( 案 ) をとりまとめ 部会へ報告 検討事項等 予防接種法の対象となる 疾病 ワクチンのあり方につ いて 評価項目や評価の方 法等を含めた医学的 科学的 な視点からの議論を行う 各疾病 ワクチンについ て 予防接種法へ位置付け るかどうかについての考え方 について整理し 予防接種部 会に報告する 各疾病 ワクチンの作業チーム ( 別紙 2) 役割 各疾病 ワクチンについての評価や位置付けについての素案を作成し 小委員会へ報告する 検討対象のワクチン Hib HPV おたふくかぜ ポリオ 肺炎球菌 水痘 B 型肝炎 百日せき 作業チームのメンバー構成 ファクトシートを作成いただいた国立感染症研究所の専門家 疫学部門 製剤担当部門 臨床の専門家 医療経済の評価に関する専門家 感染症疫学の専門家 その他各疾病 ワクチンの特性等に応じて 適宜メンバーを追加

22 別紙 2 ヘモフィルスインフルエンザ菌 b 型ワクチン作業チーム 氏 名 所 属 加藤はる 国立感染症研究所細菌第二部室長 谷口清州 国立感染症研究所感染症情報センター室長 深澤満 日本小児科医会 ふかざわ小児科院長 神谷齊 国立病院機構三重病院名誉院長 小林真之 大阪市立大学大学院医学研究科公衆衛生学大学院生 佐藤敏彦 北里大学医学部附属臨床研究センター教授 肺炎球菌ワクチン作業チーム 氏 名 所 属 和田昭仁 国立感染症研究所細菌第一部室長 谷口清州 国立感染症研究所感染症情報センター室長 岩田敏 慶応義塾大学医学部感染制御センター長 大石和徳 大阪大学微生物病研究所感染症国際研究センター特任教授 大藤さとこ 大阪市立大学大学院医学研究科公衆衛生学講師 杉森裕樹 大東文化大学大学院スポーツ 健康科学研究科教授 ヒトパピローマウイルス (HPV) ワクチン作業チーム 氏 名 所 属 柊元巌 国立感染症研究所病原体ゲノム解析研究センター室長 多田有希 国立感染症研究所感染症情報センター室長 小西郁生 京都大学大学院婦人科学産科学教授 森内浩幸 長崎大学小児科学教授 青木大輔 慶應義塾大学医学部産婦人科学教授 木原雅子 京都大学大学院医学研究科准教授 ( 社会疫学分野 ) 福島若葉 大阪市立大学大学院医学研究科公衆衛生学講師 池田俊也 国際医療福祉大学薬学部教授 水痘ワクチン作業チーム 氏 名 所 属 井上直樹 国立感染症研究所ウイルス第一部室長 多屋馨子 国立感染症研究所感染症情報センター室長 峯真人 日本小児科医会理事 吉川哲史 藤田保健衛生大学医学部小児科教授 大西浩文 札幌医科大学医学部公衆衛生学講座講師 須賀万智 東京慈恵会医科大学環境保健医学講座准教授

23 B 型肝炎ワクチン作業チーム 氏 名 所 属 石井孝司 国立感染症研究所ウイルス第二部室長 多田有希 国立感染症研究所感染症情報センター室長 須磨崎亮 筑波大学大学院人間総合科学研究科臨床医学系小児科教授 俣野哲朗 東京大学医科学研究所感染症国際研究センター 四柳宏 東京大学医学部大学院研究科生体防御感染症学准教授 福島若葉 大阪市立大学大学院医学研究科公衆衛生学講師 平尾智広 香川大学医学部公衆衛生学教授 おたふくかぜワクチン作業チーム 氏 名 所 属 加藤篤 国立感染症研究所ウイルス第三部室長 多屋馨子 国立感染症研究所感染症情報センター室長 細矢光亮 福島県立医科大学小児科教授 庵原俊昭 国立病院機構三重病院院長 大藤さとこ 大阪市立大学大学院医学研究科公衆衛生学講師 須賀万智 東京慈恵会医科大学環境保健医学講座准教授 ポリオワクチン作業チーム 氏 名 所 属 清水博之 国立感染症研究所ウイルス第二部室長 中島一敏 国立感染症研究所感染症情報センター主任研究官 中野貴司 川崎医科大学小児科学教授 田島剛 博慈会記念総合病院 ( 日本小児感染症学会 ) 大西浩文 札幌医科大学医学部公衆衛生学講座講師 百日せきワクチン作業チーム 氏 名 所 属 蒲地一成 国立感染症研究所細菌第二部室長 砂川富正 国立感染症研究所感染症情報センター主任研究官 岡田賢司 国立病院機構福岡病院総括診療部長 中山哲夫 北里生命科学研究所ウイルス感染制御学研究室 Ⅰ 教授 原めぐみ 佐賀大学医学部社会医学講座予防医学分野助教 五十嵐中 東京大学大学院薬学系研究科助教

24 別添 ワクチン接種の費用対効果推計法 費用項目 1. 保健医療費 (1) 医療費 1 ワクチン副反応に対する診療費および当該疾病に対する診療費等は 診療報酬改定率を用いて 2010 年の水準に調整する 2 検診費用を含める (HPV の場合 ) 3 延命により生じる当該疾病と無関係の医療費は含めない (2) ワクチンの接種費用ワクチンの接種費用は単独接種を想定 次の合計に消費税 5% を加えた金額とする 1 ワクチンの希望小売価格 2 初診料 2,700 円 (6 歳未満のときは 乳幼児加算 750 円をプラス ) 3 手技料 180 円 4 生物製剤加算 150 円 (3) 福祉施設利用費用保健医療費に含める 2. 非保健医療費 ( 保健医療費以外で発生する費用 ) ワクチン接種を受けるために必要となる接種場所までの交通費や 検診や診療を受けるため医療機関に出向くための交通費については考慮しない 3. 生産性損失 生産性損失の算出にあたり 賃金センサスの最新版 (2009 年調査 ) を用いる (1) 患者本人の生産性損失 120 歳 ~65 歳の生産性損失 ( 逸失所得 ) を算出する 但し 小児患者で 成人期において後遺症がない場合には生産性損失を考慮しない 2 費用便益分析では 罹病ならびに早期死亡による生産性損失を考慮する (2) 家族等の看護 介護による生産性損失過大評価を避けるために 賃金センサスの女性 ( 全体 ) の平均月収 228,000 円を使用する 分析期間と割引率 分析期間は原則として生涯とするが 費用対効果への影響が小さい場合はより短期の分析期間で行ってもよい 単年度の費用比較分析においては割引率を考慮しない 分析期間が 1 年を超える場合には割引率は費用 効果ともに年率 3% とし 0% と 5% で感度分析を行う 1

25 接種率 (1) 現状の接種率現状の接種率がある程度把握されているワクチンについては そのデータを用いる 導入後間もないことなどにより現状の接種率が十分把握されていないワクチンについては 0% とする (2) 定期接種後の予想接種率小児期に接種されるワクチンについては 2008 年麻疹ワクチン接種率を参考に設定する ( 第 1 期 (1 歳 )94.3% 第 2 期 (5 歳 )91.8% 第 3 期 ( 中 1)85.1% 第 4 期 ( 高 3)77.3%) 小児期以降に接種するワクチンについては 原則として 100% を用いる 分析手法 幼児期に接種するワクチンについては費用比較分析を基本とし 可能な場合には費用便益分析および費用効果分析を行う 幼児期以降に接種するワクチンについては費用効果分析を基本とする (1) 費用比較分析社会の視点で実施し 定期接種導入前と定期接種導入後における費用の比較を行う 費用にはワクチン接種費用等の保健医療費のほか 看護 介護者等の生産性損失を含む 患者本人の生産性損失 ( 罹病費用や死亡費用 ) は含まないこととする (2) 費用便益分析社会の視点で実施し 定期接種導入による増分費用と増分便益の比較を行う 費用には ワクチン接種費用およびワクチン接種の際の付添者の生産性損失を含む 便益には ワクチン接種により節約される保健医療費 家族等の看護 介護による生産性損失のほか 患者本人の生産性損失 ( 罹病費用や死亡費用 ) を含む (3) 費用効果分析支払者の視点で実施し 費用に生産性損失は含まない 原則としてワクチン投与群と対照群における費用と質調整生存年 (QALY) を算出することにより 1QALY 獲得あたりの増分費用効果比 (ICER) を計算する 増分費用効果比の閾値は 1QALY 獲得あたり 500 万円を目安とし 500 万円以下であれば費用対効果は良好であるものと判断する 効用値 質調整生存年の算出に際しての QOL ウェイト ( 効用値 ) は 分析対象とする感染症に関連した疾病 病態ならびにワクチンの副反応による効用値の低下のみを考慮することとし 当該感染症やワクチンと無関係の疾病 病態については考慮しない 当該感染症に関連した疾病 病態やワクチンの副反応が存在しない場合には 年齢 性別によらず効用値を 1 と設定する 2

26 ワクチン接種の費用対効果推計法 ( 用語解説 ) 費用項目の分類医療経済評価では 費用項目は 医療費 (cost) 非医療費 (non-medical cost) 生産性損失 (productivity loss) に分類するのが一般的である ただし 本指針では ワクチン関連の接種費用などの厳密には医療費に含まれない費用や 検診費用のように保険診療には含まれない費用も含めて考えるため 医療費ではなく 保健医療費 (healthcare cost) との表現を用いることとする 保健医療費病院や薬局等の医療機関でかかった医療費 ( 例えば初診料 再診料 検査 投薬 手術の費用など ) のほか ワクチンの接種費用や検診費用を含める 非保健医療費保健医療費には含まれないが 病気のために実際に支出された費用 例えば 介護の費用や 医療機関までの交通費など 生産性損失 (productivity loss) 実際に支出はなされていないが もし病気でなかったり 治療を受けなかったりしたら得られたであろう利益のことを機会費用 (opportunity cost) と呼ぶ 例えば 子供をワクチン接種に連れて行くために 両親が仕事 / 家事を休む場合 その時間は仕事 / 家事ができなくなってしまう もしこの間に仕事 / 家事ができていれば 何らかの社会的な生産活動に従事できていたはずであり ワクチン接種による社会的な損失すなわち機会費用が生じていると考えられる このような休業により発生する機会費用を生産性損失 (productivity loss) ないし労働損失 (work loss) と呼ぶ 生産性損失は 一般に (a) 病気に罹患することにより失われる 罹病費用 (morbidity costs) と (b) 死亡による経済性損失である 死亡費用 (mortality cost) に分かれる ( 参考 ) 生産性費用は従来 間接費用 と呼ばれることもあったが 間接費用 は患者が直接負担しない支出を意味することもあり 混乱を来すことから 本指針では 間接費用 という表現は用いない 保健医療費支払者の視点 社会の視点 3

27 分析の視点 (perspective) どの視点に立って医療経済評価を行うのかによって 分析に含まれる費用の範囲が異なってくる 例えば保健医療費について 患者の視点 であれば 自己負担分のみが分析に含まれるが 社会の視点 であれば自己負担分も含めて生じた費用すべてを算出するのが一般的である どの視点で分析を行うべきかについて必ずしも明確なコンセンサスは存在しないが 分析の視点を変えると結果が大きく変わることも多いため どのような視点で分析を行ったのか明示することが必要である 本指針では 以下の 2 つの視点で分析を行うこととする 社会の視点 (societal perspective) 社会の視点では 発生するすべての費用 すなわち 保健医療費 非保健医療費 生産性損失 をすべて算出対象とする ワクチン導入とワクチン非導入等の各代替案における期待費用 ( 費用の期待値 ) を比較する 保健医療費支払者 (health care payer) の視点保健医療費支払者の視点では 保健医療費 のみを考慮する このうち保険診療により生じる医療費については 自己負担分 自己負担分以外 ( 保険者支払分 公費分など に区分けすることなく すべてを算出対象とする 増分の保健医療費と それにより得られる増分の健康アウトカムとの比較を行う 分析期間 (time horizon) 医療技術による介入の影響が十分に評価されるだけの長い期間をとる必要がある 本分析では原則として生涯とするが 影響の尐ない場合はより短期の分析期間で行ってもよいこととする 分析期間は 時間地平 とも呼ばれる 賃金構造基本統計調査 ( 賃金センサス ) 統計法による基幹統計であり 主要産業に雇用される労働者について 我が国の賃金構造の実態を詳細に把握すること を目的としている 離島を除く日本国全域の ( 抽出された ) 各事業所が対象 毎年調査が行われており 6 月末時点 ( ないしは 6 月中 ) の賃金構造が調査されている この調査により 性 年齢 職種別の平均賃金が得られる 感度分析 (sensitivity analysis) 仮定等に基づいて設定された不確実なパラメータに対して その値を動かして分析し 最終結果への影響を評価することにより分析の頑健性 (robustness) を検討すること QALY (quality-adjusted life year, 質調整生存年 ) と効用値 (utility score) 疾病負担や 医療技術の健康面へのメリットを考慮する際に 単純な生存年数 (life year: LY) をものさしにして評価をすると 疾患による生活の質 (quality of life: QOL) の低下は捕捉できなくなる それゆえ 生命予後への影響が小さいものの生活の質への影響が大きいような疾患については 影響を過小評価することにもなる 同じ 1 年間の余命延長でも 元気に生活ができる状態 ( 生活の質の高い状態 ) と 寝たきりの状態 ( 生活の質の低い状態 ) では その価値が異なると考えるのは自然である 4

28 具体的には ある健康状態に 0( 死亡 ) から 1( 完全な健康 ) までの間の点数を割り当てる この点数を効用値 (utility score) とよぶ QALY は 疾患の生活の質への影響を反映させるために この効用値で重み付けをした生存年である 仮に 髄膜炎の後遺症で難聴になってしまった状態の効用値が 0.7 であったとしよう そして 難聴の状態で 10 年間生存したとする この 難聴で 10 年間生存 を生存年数 (LY) で評価した場合は 当然 10 年間となる 一方 QALY で評価した場合には =7QALY と換算される 難聴で過ごす 10 年間 と 完全に健康な状態で過ごす 7 年間 が 同じ価値 (7QALY) をもつとして評価される QALY で評価した場合 完全に健康な 10 年と難聴で過ごす 10 年とで 3QALY 分の差が生じることになる 割引 (discount) 長期間にわたる解析を実施する際には 将来発生する費用を 現在の価値に換算して評価する必要がある これを割引 (discount) と呼ぶ 割引は 利益を受け取れる ( 例えば 100 万円を受け取れる ) ならば将来よりも今の方が良いし 損失が発生する ( 例えば 100 万円を支払う ) ならば今よりも将来に先延ばしした方が良い という時間選好 (time preference) の概念に基づくものであり 金利やインフレ率と完全に一致するものではない 費用だけでなく 健康上のアウトカムについても 割引を実施するのが標準的である 医療経済評価では 費用もアウトカムも年率 3% で割り引かれることが多い ただし 必ずしもその値にコンセンサスがあるわけではなく 例えばイギリスの The National Institute for Health and Clinical Excellence (NICE) では年率 3.5% の割引率が用いられている そのため 一般に割引率は感度分析の対象パラメータとされ 本指針でも年率 0% から 5% までの間で割引率を動かしてその影響を評価する 表. 年率 3% の割引率を適用して計算した場合 項目 0 年 -1 年後 1 年後 -2 年後 29 年後 -30 年後 49 年後 -50 年後 現在価値に変換 累積平均余命 30 年の場合 費用効果分析と増分費用効果比 (ICER) 医療経済評価における費用効果分析では 新たな医療技術や医薬品について (a) 既存の技術に対して ( 比較対照を置いて ) (b) 費用だけでなく健康上のアウトカム を比較検討する そして コストの増加分をアウトカムの増加分で割り算し アウトカム 1 単位あたりの増分費用を算出する この値 ( 増分の費用を増分の効果で割ったもの ) を 増分費用効果比 (incremental cost-effectiveness ratio: ICER) と呼ぶ ICER の値は小さければ小さいほど 費用対効果に優れるといえる 例えばワクチン導入の場合の 1 人あたりコストが 5 万円 期待余命が 年 ワクチン非導入の場合の 1 人あたりコストが 2 万円 期待余命が 年だったとするこのとき ワクチン導入によって 1 人あたりのコストは 5-2=3 万円増加する一方で 期待余命も =0.02 年増加する 増分費用効果比 3 万円 0.02 年 =150 万円 / 生存年数 1 年獲得となる これは 追加的に 1 年生存するのにあと 150 万円かかる ことを意味する 5

29 なおアウトカムの指標として QALY を用いる費用効果分析を 特に費用効用分析 (cost-utility analysis: CUA) と称することもある QALY を用いた分析を行うことには 前述のように生活の質を分析に反映させるだけではなく 多くの疾患を共通の QALY というものさしで評価できるという利点がある 費用対効果の閾値 (threshold) [ いきち ] 通常の費用効果分析においては ICER の値があらかじめ定められた値より小さいときに 費用対効果に優れると判断される この値を閾値と呼ぶ イギリスの The National Institute for Health and Clinical Excellence (NICE) では 1QALY あたり 20,000 から 30,000( 約 380 万円から 570 万円 1= 約 JPY190[ 購買力平価 ]) が目安とされ アメリカでは USD50,000 から USD100,000( 約 600 万円から 1,200 万円 USD1= 約 JPY120[ 購買力平価 ]) がしばしば参照される 日本では明確な閾値のコンセンサスは存在しないが Shiroiwa et al. (Health Econ 2010:19; ) はわが国における閾値を 1QALY あたり 500 万円から 600 万円程度とすることが提案されていることから 本指針では 1QALY あたり 500 万円を閾値と設定した なお 予防接種領域の医療経済評価においては 生産性損失を含んだ社会の立場からの分析においてもこれらの閾値が参照されることがある しかし 上記の 1QALY あたりの閾値は 原則として医療費のみを考慮した ( 医療費支払者の立場における ) 値であることに注意を要する すなわち 生産性損失などを含めた社会の立場からの分析の場合 上記の閾値を参照することは必ずしも適切ではないと考えられる 費用便益分析 (cost-benefit analysis: CBA) 費用便益分析は アウトカムの改善も金銭換算して評価する 上の例では 期待余命 1 年延長 の価値を金銭換算する 仮に 1 年延長の価値を 400 万円に設定すると ワクチン導入の効果である 期待余命 0.02 年延長 は 400 万円 0.02=8 万円と金銭換算される これを便益と称する コストの増加分は 2 万円なので 費用 (2 万円 ) を上回る便益 (8 万円 ) が発生することとなり この場合ワクチンは費用対効果に優れると判断できる なお 予防接種領域では ワクチンの導入にかかる費用 と ワクチンの導入に伴う罹患減尐により 将来削減が見込める費用 のみを比較し アウトカムの改善は考慮していない分析が多くある このような研究は本来 費用比較分析 ( 費用のみを評価した研究 ) に分類するのが適切であるが 前者の費用増加分を 費用 後者の費用削減額を 便益 と捉え 費用便益分析 と表現した研究も存在するため 結果の解釈の際には注意が必要である 6

30 ワクチン接種による費用対効果の評価手法 1 ワクチン接種により得られる 健康な寿命 ( 寿命の延伸 生活の質 ) を延伸させる効果を QALY( 1) に換算して推計 2 1 年分の延伸効果 (1QALY) を得るために必要となる追加の費用が 500 万円 ( 2) を下回っているかどうかで 費用対効果の評価を行う (500 万円を下回っていると 費用対効果が良いという評価となる ) 3 定期の予防接種の対象疾病を追加する際に ワクチン接種に必要となる費用と増加する QALY との関係により 費用対効果を判断 4 割引率は 将来発生する費用や健康 ( 質調整生存年 ) を現在 ( ワクチン接種時 ) の価値に換算する場合の係数 ( 年率 )( 例えば 割引率 3% の場合 10 年後の 0.3QALY( 下図斜線 ) は現在の価値で 0.22QALY) 7 ワクチンを接種 1. ( 生効活の用質値 ) 1QALY ワクチンを接種しない場合の質調整生存年 0.3QALY ワクチンを接種した場合の質調整生存年の増加分 1 質調整生存年 :QALY(Quality-adjusted Life Year) - 生存期間 ( 寿命 ) の延伸のみでなく 生活の質で重み付けした指標 - 効用値 ( 生活の質 ) は 完全な健康を 1 死亡を 0 とした上で 種々の健康状態を 0~1 で設定 万円は 費用対効果の評価基準 ( 例えば英国では 2-3 万ポンド 米国では 5 万ドルと考えられており 日本円に換算すれば 500 万円程度 ) 0 1 年 生存年数 ( 寿命 ) 1 年 (10 年 ~11 年 )

31 ヘモフィルスインフルエンザ菌 b 型ワクチン作業チーム報告書 予防接種部会ワクチン評価に関する小委員会ヘモフィルスインフルエンザ菌 b 型ワクチン作業チーム

32 ファクトシート追加編 ヘモフィルスインフルエンザ菌 b 型 (Hib) ワクチンの経済評価 (3) 費用対効果推計 1. 先行研究 Pubmed に収載された最近 10 年間に先進諸国で行われた研究による結果を表 1 に示した 研究によって手法は様々である 国内では 神谷ら 1) が Hib ワクチン接種による Hib 髄膜炎に対する費用削減効果を 決定木を用いて分析している Hib 髄膜炎の罹患率を人口 10 万人あたり 8.5 人とし その 14% に後遺症が発生 4.7% が死亡すると仮定した場合 ワクチンの導入により後遺症と死亡による生産損失を含めた疾病負担推計結果では ワクチンを導入した場合に年間 82 億円の費用削減が期待できると結論している 尚 この研究においては ワクチン接種費用 ( 技術料込み ) を 1 回 7,000 円で 4 回接種 計 28,000 円と設定し 分析において割引は採用していない 国外では Zhou ら 2) が同じく決定木を用い 米国で 380 万人の乳児に予防接種を導入した場合の費用効果分析と費用便益分析を実施している その結果 支払者の視点 社会の視点いずれからも費用削減に働き その削減費用はそれぞれ 793 億円 1,745 億円としている また 費用効果分析の結果では 1QALY 獲得のためのコストは約 29 万円であり費用対効果に優れている結果となった この分析においては髄膜炎の 1 歳未満の罹患率は 10 万人あたり 101 人から 179 人とわが国の罹患率に比較し高いものであった また 一人当たりのワクチン接種費用 ( 技術料込み ) を 3~4 回接種で計約 8,000 円と設定し 割引率は年率 3% を使用している 韓国においても決定木を用いて費用便益分析を行っている 3) 49 万人の乳児に対し一人当たりワクチン接種費用 ( 技術料込み ) を計 3 回接種で計 5,200 円でワクチン接種を導入した場合 ワクチン導入費用は 25 億 6 千万円に対し 医療費削減は 19 億 8 千万円であり 便益費用比は 0.77 と費用対効果は優れていない結果となった 5,200 円のワクチン接種費用は現行の接種費用が全員接種となった場合に費用が 35% 削減されるということを見込んで接種費用を低めに設定したものである 尚 この研究において用いた 5 歳未満の Hib 感染症罹患率は人口 10 万人当たり 8.1 であり また割引率は年率 5% を用いている スロベニアでは 5 歳未満 Hib 感染症罹患率が 10 万人当たり 16.4 人として 18,200 人の乳児にワクチン接種した場合の費用便益分析を行っている 4) その結果 支払者の立場からは 92 万円費用増加に働くが 社会の視点では 1,557 万円の削減に働く結果となった 尚 この研究では一人当たりのワクチン接種費用 ( 技術料込み ) を 3 回接種で計 2,050 円と仮定し 割引率は年率 5% を使用している 1

33 表 1Hib ワクチンの医療経済評価の文献レビュー 国 ワクチン 結果 筆頭著者, 年 対象者, 設定コスト 日本 2,4,6 ヶ月と 1 歳 社会の視点で 82 億円の費用削減 神谷 ) (4 回投与 ) 28,000 円 USA Zhou ) 2,4,6 ヶ月 (3 回又は 4 回投与 ) 8,000 円 支払者の視点で 793 億円の削減 社会の視点で 1,745 億円の削減ワクチン接種により 113,664QALY 獲得 Korea Shin ) Slovenia Pokorn ) 2, 4 ヶ月と 1 歳 (3 回投与 ) 5,200 円 2,4,6 ヶ月 (3 回投与 ) 2,050 円 注 ) 換算レート (2010 年 10 月 4 日現在 ) 日本円 米ドル ユーロ ウォン 社会の視点で 6 億 2 千万円ワクチンコストが上回る 便益費用比 0.77 支払者の視点で 92 万円コストが上回る 社会の視点では 1,557 万円の削減 2. 厚生労働科学研究班による分析平成 21 年出生コホート (107.8 万人 ) を対象に Hib ワクチンを投与した場合と投与しなかった場合の QALY(quality-adjusted life year) 並びに医療費の比較を行った 先行研究に従い決定木モデルを使用し Hib 感染症を菌血症 髄膜炎 菌血症以外の Hib 非髄膜炎に分け これまでに報告された疫学資料 5),6),7) から 5 歳未満罹患率 致死率 後遺症発生率などの疫学パラメータを設定した 厚生労働科学研究 ワクチンの医療経済性の評価 研究班 ( 班長池田俊也 ) で定めた ワクチン接種の費用対効果推計法 に従い分析期間は生涯 割引率は年率 3% とし 感度分析で年率を 0% から 5% に変化させた場合の影響を見た また 医療費に関しては保健医療費のみを考慮した場合 ( 支払者の視点 ) と 保健医療費に加え 非保健医療費と生産性損失を考慮した場合 ( 社会の視点 ) に分けて分析を行った 急性医療費および後遺障害による医療費等に関するデータは神谷らの先行研究に従った また ワクチン接種費用は ワクチンの希望小売価格 4,500 円に技術料を 3,780 円とし その合計に消費税 5% を加算した 8,694 円を一回分とし 4 回接種計で一人当たり 34,776 円とした 疫学パラメータについては 外来ベースの菌血症の罹患率を 5 歳未満人口 10 万人当たり 50 人 そのうち髄膜炎により入院に至る罹患率を同 10 人 菌血症 喉頭蓋炎等の非髄膜炎により入院に至る罹患率を 20 人とした 入院したものの致死率を 2% 延命したもののうち 精神遅滞 麻痺 難聴がそれぞれ 3.5% 3.5% 5.0% の割合で出現するものとした ワクチン接種率は MR ワクチンの現状値の 94.3% としたが 集団効果を考慮し 100% の Hib 感染症抑制効果があるものとした その結果 この集団が 5 歳に到達するまでの菌血症によ 2

34 る外来受診数 髄膜炎入院者数 非髄膜炎による入院者数はそれぞれ 2,690 名 538 名 1,076 名と推計された また そのうち死亡数は 34 名 後遺障害者数 67 名となり これらはワクチン接種によりいずれも 0 名になるとした 費用対効果の推計結果を表 2 に示す 効果に関しては 髄膜炎後の後遺症が生じた場合の効用値 (QOL 値 ) を難聴 (0.675) 精神遅滞 (0.350) 麻痺 (0.310) として QALY を計算した結果 ワクチンを投与した場合の損失 QALY は 0 となるため ワクチン未接種の場合の損失 QALY である がそのまま QALY 増分となる 一方 費用に関してはワクチン投与によって感染症や後遺症にかかる費用が減ることによって 保健医療費としてはコホート全体で総額 億円の削減となるが ワクチン接種費用が 億円と高額となるために 増分費用効果比 (ICER) は 1,100 万円 /QALY となった これは割引率を 0% とした場合には 280 万円 /QALY と大幅に減尐した なお 今回の推計では ワクチン接種費用を任意接種下の現状にあわせて一人当たり 34,776 円としたが 感度分析の結果からは一人当たり 21,000 円とすれば割引率 3% を採用しても 1QALY 獲得費用は 500 万円以下となり 費用対効果に優れると判断されるレベルとなる 一方 非保健医療費および家族等の生産性損失を加えて社会の視点より費用比較分析を行った結果 ワクチン接種導入により 億円の増大となった さらに 死亡および後遺症による患者本人の生産性損失を考慮に入れて費用便益分析を行った結果 便益費用比は とコストが便益を上回る結果となった なお ワクチン接種費用や出生数などの条件が今後も不変であると仮定した場合の 将来における単年度費用推計の結果は次の通りである ( 注 : 単年度費用推計では 割引率は適用しない ) 定期接種を導入した際のワクチン接種費用の増分は年間約 億円であるが ワクチン接種費用以外の保健医療費は年間約 億円減尐し 一方 家族等の生産性損失は年間約 88.0 億円増加することから 社会の視点では定期接種化により 1 年あたり約 億円の費用増加となる さらに本人の生産性損失の減尐分 ( 年間約 億円 ) も考慮すると 1 年あたり約 億円の費用増加となる 表 2 Hib ワクチンの費用対効果推計 < 費用効果分析 > ワクチン接種費と医療費を考慮 支払者の視点 一人当たりとして計算 コホート全体 万人 ( 円,QALY) ( 億円,QALY) 投与 非投与 増分 投与 非投与 増分 ワクチン接種費 32,370 * 0 32, 医療費 0 9,900-9, 総コスト 32,370 9,900 22, 損失 QALY , ,

35 1QALY を獲得するための費用 :(348.3 億円 億円 )/2,201.2 =1,100 万円感度分析で割引率を 0% から 5% の間で変化させた場合 1QALY の獲得に必要な費用は 280 万円 ~1,980 万円となる *: 接種率 94.3% かつ接種時期によりコストを時間割引しているため 34,766 円より減額 < 費用比較分析 > 本人以外の生産性損失を追加 社会の視点 一人当たりとして計算 コホート全体 万人 ( 円 ) ( 億円 ) 投与 非投与 増分 投与 非投与 増分 ワクチン接種費 32,370 * 0 32, 副反応費用 接種の生産性損失 ( 家族等 ) 14, , 投入費用合計 46, , 医療費 0 9,910-9, 看護 介護の生産性損失 ( 家族等 ) 0 3,400-3, 疾病費用合計 0 13,310-13, 総費用 46,490 13,310 33, 費用比較 億円の増大 感度分析で割引率を 0% から 5% の間で変化させた場合 億円 ~392.6 億 円増大となる *: 接種率 94.3% かつ接種時期によりコストを時間割引しているため 34,766 円より減額 4

36 < 費用便益分析 > 本人の生産性損失をさらに追加 社会の視点 一人当たりとして計算 コホート全体 万人 ( 円 ) ( 億円 ) 投与 非投与 増分 投与 非投与 増分 ワクチン接種費 32,370 * 0 32, 副反応費用 接種の生産性損失 ( 家族等 ) 14, , 投入費用合計 46, , 医療費 0 9,910-9, 生産性損失 ( 本人含まず ) 0 3,400-3, 生産性損失 ( 本人 ) 0 3,710-3, 便益費用合計 0 17,020-17, 便益費用比 : 便益費用合計 / 投入費用合計 =183.4 億円 /500.6 億円 =0.366 感度分析で割引率を 0% から 5% の間で変化させた場合 便益費用比は 0.253~ となる *: 接種率 94.3% かつ接種時期によりコストを時間割引しているため 34,766 円より減額 5

37 追加参考文献 1. 神谷齊, 宮崎千明, 中野貴司, 佐々木征行. インフルエンザ菌 b 型髄膜炎の疾病負担と Hib ワクチンの費用対効果分析. 日本小児科学会雑誌 2006; 110; Zhou F, Bisgard KM, Yusuf HR, Deuson RR, Bath SK, Murphy TV. Impact of universal Haemophilus influenzae type b vaccination starting at 2 months of age in the United States: an economic analysis.pediatrics. 2002;110: Shin S, Shin YJ, Ki M. Cost-benefit analysis of haemophilus influenzae type B immunization in Korea.J Korean Med Sci.2008;23: Pokorn M, Kopac S, Neubauer D, Cizman M. Economic evaluation of Haemophilus influenzae type b vaccination in Slovenia.Vaccine. 2001;19: 神谷齊, 宮村達男, 岡部信彦他平成 19 年 -21 年度厚生労働科学研究費補助金 ( 健康安全確保総合研究分野医薬品 医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研 究 ) ワクチンの有用性向上のためのエビデンス及び方策に関する研究 総合報告書 6. 西村龍夫, 深澤満, 吉田均, 他.b 型インフルエンザ菌菌血症 髄膜炎の発症頻度. 日児 誌 2008;112: Korones DN, Marshall GS, Shapiro ED, Outcome of children with occult bacteremia caused by Haemophilus influenzae type b. Pediatr Infect Dis J 1992 Jul;11: 厚生労働科学研究 インフルエンザ及び近年流行が問題となっている呼吸器感染症の分析疫学研究 ( 研究代表者廣田良夫 ) 分担研究 Hib( インフルエンザ菌 b 型 ) ワクチン等の医療経済性の評価についての研究 研究班赤沢学 ( 明治薬科大学公衆衛生 疫学 ) 池田俊也 ( 国際医療福祉大学薬学部 ) 五十嵐中 ( 東京大学大学院薬学系研究科 ) 小林美亜 ( 国立病院機構本部総合研究センター ) 佐藤敏彦 ( 北里大学医学部付属臨床研究センター ) 白岩健 ( 立命館大学総合理工学院 ) 須賀万智 ( 東京慈恵会医科大学環境保健医学講座 ) 杉森裕樹 ( 大東文化大学スポーツ 健康科学部 ) 種市摂子 ( 早稲田大学教職員健康管理室 ) 田倉智之 ( 大阪大学医学部 ) 平尾智広 ( 香川大学医学部 ) 和田耕治 ( 北里大学医学部 ) ( 班長 Hib ワクチン担当 ) 6

38 評価 分析編 1. 対象疾病の影響について Haemophilus influenzae type b (Hib) は肺炎球菌とともに小児の侵襲性細菌感染症 (invasive bacterial infection) の 2 大病原菌である Hib による侵襲性細菌感染症には菌血症 細菌性髄膜炎 急性喉頭蓋炎 化膿性関節炎などがある 近年 わが国では Hib 侵襲性感染症の増加がみられている 注 ) 侵襲性細菌感染症は通常無菌とされている血液 関節内液 髄液などから細菌が検出される感染症であり 一般的な肺炎等は含まれない (1) 臨床症状 1 菌血症多くは発熱を主症状とする潜在性菌血症 (occult bacteremia) として発症し 他の重症侵襲性感染症の前病態とされる 菌血症に比較的多い合併症には眼窩蜂巣炎などの顔面の蜂巣炎がある Hib 菌血症は肺炎球菌菌血症に比較して高率に髄膜炎の合併や続発がみられる まれに 敗血症性ショックにより死亡にいたることがある 2 細菌性髄膜炎多くは発熱で始まり けいれん 意識障害へと進行し 抗菌薬治療にも関わらず死亡することもある 一部は 突然のショック症状や意識障害で発症し短期間で死亡にいたる 3 急性喉頭蓋炎高熱 咽頭痛で発症し 嚥下困難 流涎がみられる 顎の挙上 開口および前傾姿勢が特徴とされ 急激に進行する気道閉塞による死亡も多い (2) 疫学状況 1 感染源と感染経路保菌者からの気道分泌物によるヒト - ヒト感染である 2 保菌率乳幼児における鼻咽頭での Hib の保菌率は 2~3% 1,2) である Hib 髄膜炎の発症がみられた保育集団での保菌率は 36.3~37.5% 3,4) と高率である 3 Hib 侵襲性感染症の発症頻度わが国では 発熱児に血液培養や髄液培養を施行せずに抗菌薬を投与する医療が広く行われている このため 髄膜炎を含めた侵襲性細菌感染症例において菌の検出ができなくなる症例が多くなり 病院ベースでのサーベイランスによる発症頻度は過尐に報告されていると推測される 実際に IASR(31:92-93,2010) による 2006 年 ~2009 年の細菌性髄膜炎の報告例の約半数は原因菌不明とされている さらに現状のサーベイランスでは全数報告が必ずしも保証されたものでないことにも注意が必要である 2008 年と 2009 年に 10 都道府県で施行されたわが国で最も大規模なサーベイランス報告 (IASR 31:95-96, 2010) では Hib 髄膜炎の発症頻度は 5 歳未満小児人口 10 万人あたり 7.5~8.2 全国で年間 403~443 例とされ 非髄膜炎の侵襲性細菌感染症 ( 多くは菌血症 ) の頻度は 5 歳未満小児人口 10 万人あたり 3.7~5.4 全国で年間 203~ 294 例とされている これに対して 抗菌薬投与前に血液培養を施行する方針 7

39 に基づいた診療を行っている小児科診療所 3 施設からの報告 9) では 5 歳未満小児人口 10 万人あたりの髄膜炎および非髄膜炎 ( 全例菌血症 ) の罹患率はともに 30.9(10.0~72.1:95%CI) 全国で年間 1,700 例 (550~3,966 例 :95% CI) となり Hib ワクチン導入前の海外諸国と同程度の発症頻度となっている ( ア ) 菌血症侵襲性細菌感染症で最も頻度が高い 5 歳未満で 38 以上の発熱児の 0.2% 程度が肺炎球菌や Hib などの菌血症に罹患している 5) が 臨床症状のみではウイルス感染症との区別はできない Hib や肺炎球菌結合型ワクチン導入以前の米国で 発熱児の外来診療における事実上の診療ガイドラインとされてきた Baraff の診療指針 6 ) に従って血液培養を行えば 5.4~13.1% で菌血症がみられる 分離菌の 70~85% が肺炎球菌であり Hib が 10~15% である ただ 髄膜炎などの合併や続発は Hib 菌血症で 20~50% であり肺炎球菌菌血症の 1~2% と比較して高率である 7) 発熱のみを症状とする Hib の潜在性菌血症 69 例の検討では 44 例 (64%) が重症感染症を併発し このうち 17 例が髄膜炎 (25%) であった 8) わが国における外来診療をベースとした報告 9) では 5 歳未満小児人口 10 万人あたりの Hib 菌血症 ( 髄膜炎 蜂巣炎を含む ) の罹患率は 61.8(29.7~113.6:95%CI) 全国で年間 3,399 例 (1,634~6,248 例 : 95%CI ) となる ちなみに 肺炎球菌菌血症の罹患率は 328(249~428: 95%CI) 全国で年間 18,027 例 (13,529~23,520 例 :95%CI) 10) とされている 注 )Baraff の診療指針 : 感染病巣不明の発熱児に対する検査所見に基づいた診療指針であり 3 カ月 ~3 歳未満で 39 以上の児には血液検査を施行し 白血球数 15,000/μl 以上の場合は菌血症を疑い血液培養を施行し セフトリアキソン (CTRX) 50mg/kg の非経口投与 ( 米国では筋注 ) をおこなう しかし Hib ワククチンと肺炎球菌ワクチンの導入後の米国では 両ワクチンの接種が確認できれば注意深い経過観察のみでよいとされている 11) ( イ ) 髄膜炎小児細菌性髄膜炎の原因菌では Hib が 60~70% 肺炎球菌が 20~25% とされている 通常 先行する菌血症から続発する Hib 髄膜炎は 1 歳未満での発症が最も多いが 近年は 6 ヵ月未満での発症が増加し低年齢化がみられ 3 ヵ月未満 3% 3~6 ヵ月未満 10% 6 ヵ月 ~1 歳未満 33% 1 歳 ~1 歳 6 ヵ月未満 17% 1 歳 6 ヵ月 ~2 歳未満 12% となっている 2008 年と 2009 年に施行された 10 都道府県におけるサーベイランス報告 (IASR 31:95-96,2010) では Hib 髄膜炎の発症頻度は 5 歳未満小児人口 10 万人あたり 7.5~8.2 全国で年間 403~443 例とされる これに対して 外来診療をベースとした報告では 30.9(10.0~72.1:95%CI) 全国で年間 1,700 例 (550~3,966 例 :95%CI) 9) である Hib 髄膜炎の死亡率は 0.4~4.6% 聴力障害を含む後遺症率は 11.1~27.9% とされる また 後遺症が無いと判断された乳児期の髄膜炎例で 16 歳の時点での学力低下が認められたとする報告もある 39) ( ウ ) 急性喉頭蓋炎 8

40 多くは Hib が原因菌とされ菌血症を伴う 発症頻度は Hib 侵襲性細菌感染症のなかで 7~9% とされる 死亡率は 7.0~9.8% とされる (3) 早期診断および抗菌薬による予防 治療わが国における侵襲性細菌感染症への対応は発熱児に対する経口抗菌薬による発症予防と 発症後の非経口抗菌薬による治療であった ここでは細菌性髄膜炎の早期診断の可能性および抗菌薬投与による発症予防の可能性について検討する 1 髄膜炎の早期診断細菌性髄膜炎の確定診断は髄液からの細菌分離となる しかし Hib 髄膜炎を含む細菌性髄膜炎を発熱の早期に診断することは実際には困難である Hib および肺炎球菌による髄膜炎の発熱 2 病日までの症状および検査所見についての検討 1 2) では 大泉門膨隆および髄膜刺激徴候は Hib で 16% 肺炎球菌で 17% 痙攣は Hib で 13% 肺炎球菌で 20% にみられるのみで早期診断としての有用性は尐ない 臨床症状による重症度判定法である Acute Illness Observation Scale(AIOS) 13) で検討しても 重症判定例は Hib で 35% 肺炎球菌で 15% にすぎない Baraff の基準を充たす例も Hib 肺炎球菌でともに 28% である Hib での白血球数は平均 13800±6700/μL であり多くは 15000/μL 以下であった CRP 値は発熱 2 病日では全例 5.0mg/dl 以上であったが 発熱 1 病日では 2.0mg/dl 未満が 47% であった このように現在の医療水準では Hib を含む細菌性髄膜炎を臨床症状や検査所見で発熱早期に診断することは困難である 注 )AIOS: 米国の小児救急医療での臨床症状による重症疾患の評価法 2 抗菌薬投与による発症予防発熱のみを症状とする潜在性菌血症における抗菌薬投与の効果を検討する 外来診療における Hib による潜在性菌血症では 髄膜炎 (25%) を含む重症細菌感染症が 64% に続発する 8) 抗菌薬の効果に関しては 対象数が尐ないが抗菌薬の経口投与例で 50% 非経口投与例で 40% が髄膜炎を続発したとの報告がある 14) 肺炎球菌による潜在性菌血症では抗菌薬の非投与例で 2.7% 抗菌薬の経口投与例で 0.8% が髄膜炎を続発したが有意差はなかった 15) さらに 抗菌薬の経口投与で 0.7% 非経口投与でも 0.9% が髄膜炎を発症したが有意差はみられていない 16) このように Hib や肺炎球菌の菌血症に対しての抗菌薬投与は経口および非経口に関わらず 髄膜炎等の重症感染症の続発を完全に予防することはできない 3 薬剤耐性の問題 2000 年以降の 10 年間で細菌性髄膜炎由来の H. influenzae では BLNAR が急速に増加し 2009 年には 60% を超え その他の BLPACR 等の耐性と合わせると 90% に達している このように Hib 髄膜炎に対する抗菌薬治療が急速に困難な状況となっている 注 )BLNAR(β-lactamase-nonproducing ampicillin-resistant ) BLPACR(β-lactamase-producing amoxicillin / clavulanate-resistant) 4 まとめ 9

41 現在の医療水準では Hib 髄膜炎や肺炎球菌髄膜炎に対して 発熱早期の菌血症段階での抗菌薬投与による発症予防や重篤な症状出現前の早期診断による早期治療開始はともに不可能である さらに 髄膜炎発症後の抗菌薬治療が薬剤耐性菌の急増で困難な状況となっている 2. 予防接種の効果 目的 安全性等について (1) ワクチン製剤の説明ヘモフィルス b 型 (Hib) ワクチンは 防御抗原である Haemophilus influenzae b 型莢膜多糖ポリリボシルリビトールリン酸 (PRP) を主成分とする しかし 多糖単独では 乳幼児において未熟な B 細胞に認識されにくいため T リンパ球を介した充分な免疫効果を得るために キャリア蛋白を PRP に結合させたものを抗原とする キャリア蛋白として使用されているのは 破傷風毒素を不活化したトキソイド 遺伝子変異株が産生する毒素活性のないジフテリア毒素蛋白 髄膜炎菌の外膜蛋白複合体である 現在国内で承認され接種が開始されているのは そのうちの破傷風トキソイド結合体で 単味ワクチンである 海外で接種されているものには ジフテリア 破傷風 百日咳 (DTP) の三種混合ワクチンと Hib ワクチンが同包されている四種ワクチン B 型肝炎ワクチンや不活化ポリオワクチンを加えた 5 種以上の多種ワクチンがある 現在国内では キャリア蛋白として無毒性変異ジフテリア毒素 (CRM197) を使用し アジュバントとしてリン酸アルミニウムを含有するワクチンの第 1 相臨床試験が実施中である (2) 予防接種の効果はどうか 1 免疫原性月齢 2~6 ヶ月の乳児を対象とした Hib ワクチンの免疫原性に関する国内臨床試験において 初回 (3 回 ) 接種後および追加接種後の感染防御レベル抗体価 (0.15μg/ml) と長期感染防御レベル抗体価 (1μg/ml) の保有率について検討されている 初回接種後の感染防御レベル抗体保有率は 99.2% 長期感染防御レベル抗体保有率は 92.4% であり 追加接種後にはいずれも 100% であった 抗体応答は 諸外国における臨床試験と比べて遜色のない結果であった 16-18) 2 有効性に関する諸外国からの報告既に Hib ワクチンを定期接種に位置付けている諸外国からの報告により Hib ワクチンの定期接種としての導入によって 短期間に Hib による髄膜炎及び侵襲性感染症が激減することが実証されている 例えば 米国では 5 歳未満における侵襲性 Hib 感染症が 1989 年から 1995 年で 99% 減尐 スウェーデンでは 1992 年からの 2 年で Hib 髄膜炎が 92% 減尐したことが報告されており その他先進国のみならず 発展途上国を含めた多くの国からも同様の報告がなされている 19-23) これらは 重篤な Hib 感染症の予防における Hib ワクチンの極めて高い有効を反映していると考えられる このように 高い有効性が実証されているワクチンが 本邦では未だ定期接種として導入されておらず その接種率は低いものである ( 千葉県において 2009 年に実施された調査では 10.8%) 本邦においても Hib ワクチン定期接種化により Hib 髄膜炎を含めた侵襲性感染症 およびそれらによる後遺症や死亡が 短期間に激減するこ 10

42 とが期待される 罹患率のデータに差があることなどから正確な推定は困難であるものの 諸外国からの報告を基にすると 具体的には 5 年程度以内に 90% を超える減尐が期待される 3 集団免疫効果髄膜炎と侵襲性感染症以外の結果指標を用いて Hib ワクチン定期接種導入前後の Hib による疾病負担の変化を検討した報告は乏しい 例えば Hib による局所感染症 ( 肺炎 中耳炎など ) の減尐が認められるか などについて髄膜炎を含めた侵襲性感染症のような科学的知見の集積は得られていない しかし Hib ワクチン定期接種化によって 小児の Hib 保菌率が低下したことが諸外国における複数の調査で確認されている 24,25) このことは 定期接種化によって 侵襲性感染症に加え 局所性感染症による疾病負担の軽減を期待できることについて 一定の科学的根拠を提供する また Hib ワクチン定期接種化により 非接種児においても Hib 髄膜炎の発症が激減したことが報告されている ( デンマークからの報告では 3 年 6 ヶ月で 94% の減尐 ) 26) この集団免疫効果によって ワクチン接種前の乳児 何らかの事情によりワクチン接種をうけることができなかった乳幼児 あるいはワクチン接種をうけたものの十分な抗体を獲得できなかった乳幼児に関しても Hib による疾病負担の軽減を期待することができる 保菌率の低下による Hib 感染症の減尐を期待するため また集団免疫効果を得るためにも 任意ではなく定期接種として高い接種率を得ることが肝要である 4 医療現場への影響発熱を主訴とした小児の外来受診の多くは 自然軽快が期待されるウイルス感染症であるが 稀に死亡や後遺症の危険を有する細菌性髄膜炎等の侵襲性細菌感染症が紛れ込んでいる これらの疾患は 発症早期の鑑別診断が実際上困難である すなわち発熱児の外来診療には 稀に侵襲性細菌感染症が続発する医療上のリスク 及びその続発症に対して担当医師が過失責任を問われる司法上のリスクを常に伴っている これらのリスクの存在が 以下の 2 点で小児医療の健全化を阻む要因となっている 1 小児救急医療の場において 発熱児に対して常に侵襲性細菌感染症の可能性を考慮せざるを得ず 発熱早期で状態が良好な場合においても受診を勧めざるをえない状況であり 小児救急医療現場の疲弊を招いている 2 本邦では発熱児に対して一律に抗菌薬を投与する医療行為が広く行われており 薬剤耐性菌が蔓延する原因となっている しかし 侵襲性細菌感染症の可能性が否定し難い状況においては このような医療行為を一概に不適切とみなすこともできない Hib ワクチン ( 及び小児用肺炎球菌ワクチン ) が定期接種として導入された場合 発熱児が侵襲性細菌感染症に罹患している可能性は大きく減尐することとなり 上記の状況が改善されることが期待される 1 小児救急医療の場において発熱児に対する最初の対応は Hib ワクチン ( 及び小児用肺炎球菌ワクチン ) 接種歴の確認となる 両ワクチンの接種者では症状が重篤でない限り早急な受診の必要性は大きく減尐し 小児救急医療現場の精神的 身体的負担を軽減することが可能となる 2 発熱児に対する抗菌薬処方状況の改善が期待される 11

43 ( 注 ) 小児救急医療の場での発熱児への対応について : わが国の小児における侵襲性細菌感染症の原因菌は 新生児期および乳児期早期を除いて Hib と肺炎球菌の 2 菌種のみと理解してよい 海外諸国では髄膜炎菌も無視できないが わが国では髄膜炎菌による侵襲性感染症は激減し 現在では年間一桁であり通常考慮する必要はない 小児の感染病巣不明の発熱に対しての検査所見に基づいた指針は 米国で Hib ワクチンおよび肺炎球菌ワクチンの導入前の事実上のガイドラインであった Baraff の指針のみである 6) ただ Baraff の指針には限界があり わが国での髄膜炎症例での検討 4 ) では 発熱早期では Hib 髄膜炎で 20% 程度 肺炎球菌髄膜炎で 50% 程度の感度しかもっていない 以下で Hib ワクチンおよび肺炎球菌ワクチンの導入の前後における Baraff の指針の有効性について検討する 7) 1 Hib ワクチンおよび肺炎球菌ワクチンの導入前に 全例に Baraff の指針を適応した場合 : Hib 髄膜炎の年間発症数を 1,000 例とした場合 発症数を減尐させることはできないが 200 例程度を軽症化することができる (probable meningitis: 血液培養は陽性となるが髄液培養は陰性となる ) 肺炎球菌髄膜炎の年間発症数を 200 例とした場合 約 100 例の発症を阻止できる このために必要な血液検査件数 (CBC 等 ) は 日本における菌血症の発症数約 20,000 例 (9,10) からみて年間 60 万件となり 血液培養および CTRX の静脈内投与例が 20 万件になると推測される 2 Hib ワクチンおよび肺炎球菌ワクチン導入後に 全例に Baraff の指針を適応した場合 : Hib 髄膜炎の年間発症数はワクチンの有効率を 95% とした場合 50 例となり このうちの 10 例程度を軽症化することができる 肺炎球菌膜炎の年間発症数は 7 価の肺炎球菌ワクチンのカバー率を 75% とした場合 50 例程度となり このうちの 25 例程度の発症を阻止できる 両ワクチンの導入後も Baraff の指針の対象数の減尐はほとんどないと予測されるため 年間に Hib 髄膜炎例を 10 例軽症化し 肺炎球菌髄膜炎を 25 例発症阻止するために 年間に血液検査を 60 万件行い 血液培養および CTRX の静脈内投与を 20 万件行うことになる このように検査所見に基づいた Baraff の指針による対応はあまりにも過剰であり 正当な診療指針とみなすことはできなくなる このため Hib ワクチンおよび肺炎球菌ワクチン導入後の発熱児への最初の対応は両ワクチンの接種状況の確認となり 両ワクチンの接種完了が確認された場合は 現在の米国での対応 (11) と同様に一般状態が重症でなければ 検査等は行わず臨床症状のみによる経過観察で十分であると判断される また このような認識は小児医療に従事する医師に共有される必要がある もちろん Hib や肺炎球菌による侵襲性細菌感染症以外の尿路感染症などの細菌感染症の可能性は残るが これらの疾患の多くは緊急の対応が必要な疾患ではない 小児 ER における 2 歳未満の発熱児への対応を両ワクチンの接種完了群と非完了群を比較した報告では 血液検査 + 血液培養の施行率は 7.0% と 26.6% ceftriaxone 投与率は 1.3% と 5.3% 入院率は 1.4% と 4.0% と両ワクチンの接種完了群での対応が大幅に簡素化されている 40) (3) この予防接種の目的は何か 12

44 侵襲性 Hib 感染症は一旦発症すれば これまで健康であった小児が現在の医療レベルをもってしても 致死率は 1~3% 20~30% が後遺症を残しており 予後の楽観できない疾患である また最近の耐性菌の増加もあり 薬剤治療が難渋するようになってきている 本ワクチンを導入することで 患者数 本疾患による後遺症 死亡者数を減尐させることは明確であり 本予防接種を導入する目的は 侵襲性 Hib 感染症の Elimination である (4) 予防接種の安全性はどうか Hib ワクチン ( 破傷風トキソイド結合体 ) 国内導入後に 1,768 件に行われた健康状態調査において 重篤な副反応発生は認められず 安全なワクチンであると考えられた 本調査では 全身反応の認められなかった症例が 72% で 全身反応ありの症例では咳 鼻汁 18% 発熱 14% 嘔吐 下痢 7.4% 等が認められた 4 例に熱性痙攣が認められたが 4 例とも発症日が接種 5 日後以降であり ワクチン接種に伴う副反応とは考えにくかった 局所反応が認められなかった症例が 67% で 局所反応ありでは 発赤 28% 腫脹 17% 硬結 9.4% で 直径 11cm 以上の発赤を認めた症例は 6 例だけであった ワクチン製剤の恒常的な安全性確保のため 市販前にロット毎に国家検定が行われる Hib ワクチンの検定項目は 多糖含量試験 (PRP 含有量 ) エンドトキシン試験 および 異常毒性否定試験である キャリア蛋白として使用される破傷風トキソイドの無毒化試験および力価試験によるロット毎の品質管理も重要と考えられる (5) 費用対効果はどうか 1 先行研究 Pubmed に収載された最近 10 年間に先進諸国で行われた研究による結果を表 1 に示した 研究によって手法は様々である 国内では 神谷ら 1) が Hib ワクチン接種による Hib 髄膜炎に対する費用削減効果を 決定木を用いて分析している Hib 髄膜炎の罹患率を人口 10 万人あたり 8.5 人とし その 14% に後遺症が発生 4.7% が死亡すると仮定した場合 ワクチンの導入により後遺症と死亡による生産損失を含めた疾病負担推計結果では ワクチンを導入した場合に年間 82 億円の費用削減が期待できると結論している 尚 この研究においては ワクチン接種費用 ( 技術料込み ) を 1 回 7,000 円で 4 回接種 計 28,000 円と設定し 分析において割引率は採用していない 国外では Zhou ら 2) が同じく決定木を用い 米国で 380 万人の乳児に予防接種を導入した場合の費用効果分析と費用便益分析を実施している その結果 保健支払者の視点 社会の視点いずれからも費用削減に働き その削減費用はそれぞれ 793 億円 1,745 億円としている また 費用効果分析の結果では 1QALY 獲得のためのコストは約 29 万円であり費用対効果に優れている結果となった この分析においては髄膜炎の 1 歳未満の罹患率は 10 万人あたり 101 人から 179 人とわが国の罹患率に比較し高いものであった また 一人当たりのワクチン接種費用 ( 技術料込み ) を 3~4 回接種で計約 8,000 円と設定し 割引率は年率 3% を使用している 13

45 韓国においても決定木を用いて費用便益分析を行っている 3) 49 万人の乳児に対し一人当たりワクチン接種費用 ( 技術料込み ) を計 3 回接種で計 5,200 円でワクチン接種を導入した場合 ワクチン導入費用は 25 億 6 千万円に対し 医療費削減は 19 億 8 千万円であり 便益費用比は 0.77 と費用対効果は優れていない結果となった 5,200 円のワクチン接種費用は現行の接種費用が全員接種となった場合に費用が 35% 削減されるということを見込んで接種費用を低めに設定したものである 尚 この研究において用いた 5 歳未満の Hib 感染症罹患率は人口 10 万人当たり 8.1 であり また割引率は年率 5% を用いている スロベニアでは 5 歳未満 Hib 感染症罹患率が 10 万人当たり 16.4 人として 18,200 人の乳児にワクチン接種した場合の費用便益分析を行っている 4) その結果 支払者の立場からは 92 万円費用増加に働くが 社会の視点では 1,557 万円の削減に働く結果となった 尚 この研究では一人当たりのワクチン接種費用 ( 技術料込み ) を 3 回接種で計 2,050 円と仮定し 割引率は年率 5% を使用している 表 1Hib ワクチンの医療経済評価の文献レビュー 国 ワクチン 結果 筆頭著者, 年 対象者, 設定コスト 日本 2,4,6 ヶ月と 1 歳 社会の視点で 82 億円の費用削減 神谷 ) (4 回投与 ) 28,000 円 USA Zhou ) 2,4,6 ヶ月 (3 回又は 4 回投与 ) 8,000 円 支払者の視点で 793 億円の削減 社会の視点で 1,745 億円の削減ワクチン接種により 113,664QALY 獲得 Korea Shin ) Slovenia Pokorn ) 2, 4 ヶ月と 1 歳 (3 回投与 ) 5,200 円 2,4,6 ヶ月 (3 回投与 ) 2,050 円 注 ) 換算レート (2010 年 10 月 4 日現在 ) 日本円 米ドル ユーロ ウォン 社会の視点で 6 億 2 千万円ワクチンコストが上回る 便益費用比 0.77 支払者の視点で 92 万円コストが上回る 社会の視点では 1557 万円の削減 2 厚生労働科学研究班による分析平成 21 年出生コホート (107.8 万人 ) を対象に Hib ワクチンを投与した場合と投与しなかった場合の QALY(quality-adjusted life year) 並びに医療費の比較を行った 先行研究に従い決定木モデルを使用し Hib 感染症を菌血症 14

46 髄膜炎 菌血症以外の Hib 非髄膜炎に分け これまでに報告された疫学資料 5),6),7) から 5 歳未満罹患率 致死率 後遺症発生率などの疫学パラメータを設定した 厚生労働科学研究 ワクチンの医療経済性の評価 研究班 ( 班長池田俊也 ) で定めた ワクチン接種の費用対効果推計法 に従い分析期間は生涯 割引は年率 3% とし 感度分析で年率を 0% から 5% に変化させた場合の影響を見た また 医療費に関しては保健医療費のみを考慮した場合 ( 支払者の視点 ) と 保健医療費に加え 非保健医療費と生産性損失を考慮した場合 ( 社会の視点 ) に分けて分析を行った 急性医療費および後遺障害による医療費等に関するデータは神谷らの先行研究に従った また ワクチン接種費用は ワクチンの希望小売価格 4,500 円に技術料を 3,780 円とし その合計に消費税 5% を加算した 8,694 円を一回分とし 4 回接種計で一人当たり 34,776 円とした 疫学パラメータについては 外来ベースの菌血症の罹患率を 5 歳未満人口 10 万人当たり 50 人 そのうち髄膜炎により入院に至る罹患率を同 10 人 菌血症 喉頭蓋炎等の非髄膜炎により入院に至る罹患率を 20 人とした 入院したものの致死率を 2% 延命したもののうち 精神遅滞 麻痺 難聴がそれぞれ 3.5% 3.5% 5.0% の割合で出現するものとした ワクチン接種率は MR ワクチンの現状値の 94.3% としたが 集団効果を考慮し 100% の Hib 感染症抑制効果があるものとした その結果 この集団が 5 歳に到達するまでの菌血症による外来受診数 髄膜炎入院者数 非髄膜炎による入院者数はそれぞれ 2,690 名 538 名 1,076 名と推計された また そのうち死亡数は 34 名 後遺障害者数 67 名となり これらはワクチン接種によりいずれも 0 名になるとした 費用対効果に関しては 髄膜炎後の後遺症が生じた場合の効用値 (QOL 値 ) を難聴 (0.675) 精神遅滞 (0.350) 麻痺 (0.310) として QALY を計算した結果 ワクチンを投与した場合の損失 QALY は 0 となるため ワクチン未接種の場合の損失 QALY である がそのまま QALY 増分となる 一方 費用に関してはワクチン投与によって感染症や後遺症にかかる費用が減ることによって 保健医療費としてはコホート全体で総額 億円の削減となるが ワクチン接種費用が 億円と高額となるために 増分費用効果比 (ICER) は 1,100 万円 /QALY となった これは割引率を 0% とした場合には 280 万円 /QALY と大幅に減尐した なお 今回の推計では ワクチン接種費用を任意接種下の現状にあわせて一人当たり 34,776 円としたが 感度分析の結果からは一人当たり 21,000 円とすれば割引率 3% を適用しても 1QALY 獲得費用は 500 万円以下となり 費用対効果に優れると判断されるレベルとなる 一方 非保健医療費および家族等の生産性損失を加えて社会の視点より費用比較分析を行った結果 ワクチン接種導入により 億円の増大となった さらに 死亡および後遺症による患者本人の生産性損失を考慮に入れて費用便益分析を行った結果 便益費用比は とコストが便益を上回る結果となった なお 予防接種費や出生数などの条件が今後も不変であると仮定した場合の 将来における単年度費用推計の結果は次の通りである ( 注 : 単年度費用推計では 割引率は適用しない ) 15

47 定期接種を導入した際のワクチン接種費用の増分は年間約 億円であるが 予防接種費以外の保健医療費は年間約 億円減尐し 一方 家族等の生産性損失は年間約 88.0 億円増加することから 社会の視点では定期接種化により 1 年あたり約 億円の費用増加となる さらに本人の生産性損失の減尐分 ( 年間約 億円 ) も考慮すると 1 年あたり約 億円の費用増加となる 3. 予防接種の実施について (1) 予防接種の目的を果たすためにどの程度の接種率が必要か 1 必要な接種率本予防接種を導入する目的は 侵襲性 Hib 感染症の Elimination である この Hib 感染症の Elimination に必要なワクチン接種率の算出には Hib 感染症における基本再生産率 (R0) の算出が必要である ただ,Hib 感染症は通常なんら症状のない Hib の保菌者からの感染によるものであるため 基本再生産率は一人の保菌者から新たに何人の保菌者が発症するのかに置き換えて解釈され その値は ) と推計されている この値を基にした Elimination に必要なワクチン接種率 (1-1/R0) は 70% と計算される ただ, これらの数値は基礎データの不足を補うための仮定を多用して算出したもので あくまで推測値と理解されるべきである 必要なワクチン接種率は Hib による侵襲性感染症を事実上根絶している先進海外諸国でのワクチン接種率を参考にすべきである WHO は先進工業国では 92% 米国では 2009 年の ヶ月児での初期 3 回接種の接種率を 92.9% と報告しており これらを目標にすべきであると考える 2 効果の持続期間予防接種の効果の持続期間は 自然的なブースター効果などもあって明確な数字はないが 尐なくとも侵襲性感染に対して高い感受性のある期間の間は効果があることが証明されている 35) 2 キャッチアップ接種の必要性イタリアの一地域で 1 歳児へのワクチン接種率が 26% であったにもかかわらず 1~4 歳児のキャッチアップ接種率が 31-53% となったところ この結果 5 歳以下の侵襲性 Hib 感染症が 91% 減尐したという報告 36 ) から 導入時のキャッチアップ接種による集団免疫効果とキャッチアップ接種の重要性が述べられており また WHO も導入時のキャッチアップ接種によって より速やかに疾病の減尐効果があることを記述している (2) ワクチンは導入可能か 1 需給状況ア. 国内海外で承認されているワクチンについて Hib の莢膜多糖である PRP そのものを主成分とした第一世代のワクチンは乳児期の感染予防効果が不十分であったことから PRP をキャリア蛋白に結合させた結合体ワクチンが開発された Hib 結合体ワクチンのうち PRP-D HbOC PRP-OMP 及び PRP-T の 4 種は抗体誘導能のみならず感染予防効果も明確であり これらが定期接種に組み込まれた国では Hib 髄膜炎の発症を 16

48 ほぼ完全に抑制することに成功している これらのうち PRP-OMP は抗体産生の立ち上がりが早いことから ハイリスク群の感染予防に有用である PRP- T は確実な感染予防効果及び DTaP 等との混合ワクチン化が容易なことから スタンダードなワクチンとして世界各国で使用されている 現在国内では キャリア蛋白として無毒性変異ジフテリア毒素 (CRM197) を使用し アジュバントとしてリン酸アルミニウムを含有するワクチンの第 1 相臨床試験が実施中である 海外で承認されているワクチンは表 1 を参照していただきたい 出典 : 檜山義雄インフルエンザ菌 b 型結合体ワクチン. 医学の歩み 2010;234:195~200 イ. 発売後の使用状況と今後の供給体制 1 DPT との同時接種に関する製造販売後臨床試験結果 : 製造販売業者において製造販売後臨床試験が実施されており その内容は日本小児科学会誌に投稿中である それによると以下のごとくである 37) 1)DPT 単独接種試験と ActHIB DPT 併用接種試験間で DPT 関連抗体価の保有率に大きな差は認められなかった 2) 感染防御レベル以上の抗 PRP 抗体の抗体保有率は ActHIB 単独接種試験 ( 第 Ⅲ 相 ) で 92.4%(110/119) ActHIB DPT 併用接種試験で 95.7% (178/186) であり 両試験間で大きな差は認められなかった 3) 副反応発現状況は 各ワクチン接種 7 日後までに発現した副反応において 全身性反応の発現率が ActHIB DPT 併用試験において若干高い傾向が認められたが ActHIB DPT 併用接種時に副反応による試験中止症例は認められておらず ActHIB DPT 併用により臨床的に問題とされるものはなかった 以上の結果より DPT との同時接種に可能であることが確認された 2 アクトビブの供給見通し : 製造会社から 2009 年中の毎月平均出荷実績 : 約 7~8 万本 2010 年 1 月より毎月約 10 万本供給予定 2010 年 7~9 月より毎月約 20 万本供給予定 2010 年 10 月以降毎月約 40 万本供給予定と発表されている 2010 年 10 月にて予約で供給できていない積み残し分が解消されるため 10 月以降は需要量に応じて供給する 具体的には 2009 年 4 月 ~

49 年 3 月 97 万本 ( 実績 ) 2010 年 4 月 ~2011 年 3 月 250 万本 ( 計画 ) 2011 年 4 月 ~2012 年 3 月 550 万本 ( 計画 ) となり 定期接種化されても供給不足にはならないと計算されている また 供給に必要な国家検定の体制については 行政的に検討が行われている 2 勧奨される具体的な実施要領ア. 接種スケジュール ( 添付文書 ) 1) 用法 用量 本剤を添付溶剤 0.5mL で溶解し その全量を 1 回分とする 初回免疫 : 通常 3 回 いずれも 4~8 週間の間隔で皮下に注射する ただし 医師が必要と認めた場合には 3 週間の間隔で接種することができる 追加免疫 : 通常 初回免疫後おおむね 1 年の間隔をおいて 1 回皮下に注射する 2) 用法 用量に関連する接種上の注意 (a) 接種対象者 接種時期本剤の接種は 2 ヵ月齢以上 5 歳未満の間にある者に行うが標準として 2 ヵ月齢以上 7 ヵ月齢未満で接種を開始すること また 接種もれ者に対しては下記のように接種回数を減らすことができる ただし 医師が必要と認めた場合には 3 週間の間隔で接種することができる 3) キャッチアップの必要性 接種開始齢が 7 ヵ月齢以上 12 ヵ月齢未満の場合初回免疫 : 通常 2 回 4~8 週間の間隔で皮下に注射する 追加免疫 : 通常 初回免疫後おおむね 1 年の間隔をおいて 1 回皮下に注射する 接種開始齢が 1 歳以上 5 歳未満の場合通常 1 回皮下に注射する イ. 他のワクチン製剤との接種間隔生ワクチンの接種を受けた者は 通常 27 日以上 また他の不活化ワクチンの接種を受けた者は 通常 6 日以上間隔を置いて本剤を接種すること ただし 医師が必要と認めた場合には 同時に接種することができる ( なお 本剤を他のワクチンと混合して接種してはならない ) ウ. 接種禁忌者 接種不適当者 ( 予防接種を受けることが適当でない者 ) 被接種者が次のいずれかに該当すると認められる場合には 接種を行ってはならない (1) 明らかな発熱を呈している者 (2) 重篤な急性疾患にかかっていることが明らかな者 (3) 本剤の成分または破傷風トキソイドによってアナフィラキシーを呈したことがあることが明らかな者 (4) 上記に掲げる者のほか 予防接種を行うことが不適当な状態にある者 18

50 3 DPT との混合ワクチン化 Hib 結合体ワクチンの接種スケジュールは 2 ヶ月齢からの初回免疫 3 回及び約 1 年後の追加免疫が標準的であり このスケジュールは 乳幼児のユニバーサルワクチンである DPT とほぼ同じであることから DPT との混合ワクチン化は早くから試みられてきた 混合化のメリットは第一義的には接種回数を減らし被接種者の負担や接種費用を軽減することにあるが 真のメリットは接種率の向上にある Hib のようなヒト - ヒト間で伝播する疾患は 集団の接種率を上げることで非接種者の発症予防にもつながることから 38) 混合化のメリットは非常に大きい 4. 総合的な評価 (1) 結論現在も この疾患で命を落とす小児は常に発生しており 後遺症を残すこどもたちの数は毎年積み重なっている 他の導入した国ではすでに そのような不幸な転帰をとるこどもはほとんどいなくなっているというのにである WHO は Hib 予防接種は可能な限り速やかに開始すべきであると 2006 年の勧告で述べている わが国も 遅滞なく 直ちに定期接種として キャッチアップ接種を含めて 生後 2 ヵ月以降のこどもたちから接種を開始すべきである 日本国民はこれまで世界に類を見ないアクセスの良さを誇る医療体制の恩恵を享受してきた しかしながら予防できる疾患への不安と危惧から 小児救急医療は疲弊し 限りある医療資源を圧迫している このような効果の高いことが判明しているワクチンの導入は 抗菌剤の適正使用につながり 同時に医療体制と乳幼児を持つ親の心理的負担を減尐させることも期待される 今こそ治療から予防への戦略転換を行うべきである (2) 導入に際しての課題 1 侵襲性 Hib 感染症は 5 歳までの児でその罹患のリスクが高い 通常の接種スケジュールにおいてはすでに接種年齢を過ぎたこどもたちも依然としてリスクを負うことから キャッチアップ接種は同時に行われるべきである 一方では対象年齢児への接種率が上がりきっていなくとも 同時におこなわれたキャッチアップ接種による集団免疫効果にて 90% 以上の減尐を速やかに達成している国もある これはキャッチアップ接種の重要性を示すものであり WHO もキャッチアップ接種によりより疾患の減尐はより迅速になるとしている 2 従来 6 ヵ月 ~1 歳未満での Hib や肺炎球菌による侵襲性感染症の発症率が最も高いとされていたが 近年 6 ヵ月以下の児での発症が増えている このため この両ワクチンの接種は可能な限り早期に開始することが必要であり かつ すべての対象児が接種機会を逃すことのないように 接種時期が重複する DPT などとの同時接種もきわめて重要な課題である 今後 諸外国で行われているように混合ワクチンの開発は必要不可欠である 3 上述に関連して DPT や BCG 等の接種時期についても検討される必要がある 19

51 4 本来であれば 導入以前より行われるべきであるが わが国におけるワクチン導入の効果を評価するためにも 侵襲性 Hib 感染症のサーベイランスを行うことは必要不可欠である 5 ワクチン接種費用は 現状では海外諸国に比して高額な値が設定されている 今後定期化されれば大量に流通されることになり その費用にも影響を与えると思われるが 今後検討される必要がある 尚 これらの課題についてはワクチン全体で考えるべきものであるためと考えられるため 国におけるワクチン政策全体として検討されるべきものである 20

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55 肺炎球菌コンジュゲートワクチン ( 小児用 ) 作業チーム報告書 予防接種部会ワクチン評価に関する小委員会 肺炎球菌ワクチン作業チーム

56 ファクトシート追加編 肺炎球菌コンジュゲートワクチンの費用対効果推計 1 先行研究 ( 神谷ら ) 1 7 価コンジュゲートワクチン接種率を 100% 接種回数を 4 回とした場合 わが国におけるワクチン接種の総費用は 296 億円 ワクチン接種により削減される費用は 髄膜炎 菌血症 肺炎 中耳炎でそれぞれ 34 億円 29 億円 14 億円 610 億円 総額 687 億円と計算されている また 米国と同様の集団免疫効果を期待した場合 肺炎による入院医療費削減は 5 年間で 613 億円と計算されている 2 海外で行われた費用対効果推計の文献レビュー小児の肺炎球菌感染症に対する施策として 7 価肺炎球菌コンジュゲートワクチン (PCV-7) の導入もしくは皆接種制度 (universal vaccination) を実施した場合の費用対効果を評価する研究が行われている 表 1 に PubMed に収載された最近 10 年間に先進諸国で行われた 16 の代表的研究を示した 分析の立場は 1) 保健医療費支払者の視点 ( 保健医療費のみで評価する ) と 2) 社会の視点 ( 保健医療費と非保健医療費と生産性損失の合計で評価する ) に分けられる さらに ワクチン非接種の小児 成人に対する感染予防 ( 集団免疫効果 ) を考慮した分析も実施されている 表 1 肺炎球菌ワクチン ( 小児用 ) の費用対効果推計の文献レビュー 国筆頭著者, 年 ワクチン対象者 ワクチン接種単価 ( 技術料込 ) 結果 USA Lieu USA Ray UK McIntosh ,4,6 ヶ月と 1 歳 (4 回投与 ) 2,4,6 ヶ月 (3 回又は 4 回投与 ) 2~4 ヶ月と 1 歳 (4 回投与 ) 9,406 円支払者の視点で 1,469 万円 /QALY 獲得 社会の視点で 668 万円 /QALY 獲得 5,938 円集団免疫効果を考慮しない場合は 935 万円 /QALY 獲得だが 集団免疫効果を考慮すると 36 万円 /QALY 獲得に改善 10,664 円支払者の視点で 416 万円 / 生存年延長 UK 2~4 ヶ月と 1 歳 10,256 円 集団免疫効果を考慮した場 McIntosh 2005 (4 回投与 ) 合 58 万円 / 生存年数延長に 5 改善 UK 2,4,6 ヶ月 8,330 円 支払者の視点で 761 万円 1

57 Melegaro (3 回投与 ) /QALY 獲得 Spain Asensi ,3,4 ヶ月と 12~15 ヶ月 (4 回投与 ) 7,129 円 支払者の視点で 258 万円 / 生存年延長 社会の視点で費用削減 Spain Navas Norway Wisløff Netherland Bos Italy Marchetti Finland Salo Germany Claes ,4,6,12-15 ヶ月 (4 回投与 ) 3,5,12,15 ヶ月 (3 又は 4 回投与 ) 7,837 円支払者の視点で 922 万円 /DALY 回避 社会の視点で 509 万円 /DALY 回避 6,464 円支払者の視点で 1607 万円 /QALY 獲得 社会の視点で 643 万円 /QALY 獲得 集団免疫効果を含むと 425 万円 /QALY 獲得に改善 乳幼児 6,086 円 支払者の視点で 913 万円 /QALY 獲得 社会の立場で 818 万円 /QALY 獲得 2,4,6 ヶ月 (3 回投与 ) 乳幼児 (4 回投与 ) 乳幼児 (4 回投与 ) Switzerland 6 ヶ月,6-11 ヶ月, Ess ヶ月 (4 回投与 ) Canada Lebel Canada De Wales Australia Butler 週 ~6 ヶ月 (3 回投与 ) 乳幼児 (4 回投与 ) 2,4,6,12-15 ヶ月 (4 回投与 ) 注 ) 換算レート (2010 年 10 月 4 日現在 ) 日本円米ドル イギリス ポンド 4,668 円支払者の視点で 440 万円 / 生存年延長 社会の視点で 304 万円 / 生存年延長 6,235 円支払者の視点で 512 万円 /QALY 獲得 社会の視点で 328 万円 /QALY 獲得 9,440 円支払者の視点で 837 万円 / 生存年延長 社会の視点で費用削減 9,276 円支払者の視点で 336 万円 /QALY 獲得 社会の視点で 305 万円 /QALY 獲得 6,773 円支払者の視点で 1265 万円 / 生存年延長 社会の視点で 645 万円 / 生存年延長 5,820 円社会の視点で 1023 万円 / 生存年延長 8,892 円支払者の視点で 1863 万円 / 生存年延長 981 万円 /DALY 回避 ユーロ スイス フラン カナダ ドル オーストラリ アドル

58 3 厚生労働科学研究班による分析平成 21 年出生コホート (107.8 万人 ) を対象に 肺炎球菌コンジュゲートワクチン ( 小児用 ) を投与した場合と投与しなかった場合の QALY (quality-adjusted life year) 並びに医療費の比較を行った 米国で実施された Lieu ら 2 のマルコフモデル ( 図 1) に従って 肺炎球菌による感染症として髄膜炎 菌血症 肺炎 中耳炎を取り扱い 1 ヶ月周期で状態が変化すると仮定して分析を行った 厚生労働科学研究 ワクチンの医療経済性の評価 研究班 ( 班長池田俊也 ) で定めた ワクチン接種の費用対効果推計法 に従い分析期間は生涯 割引率は年率 3% とし 感度分析で年率を 0% から 5% に変化させた場合の影響を見た また 接種率は 2008 年麻疹ワクチン接種実績相当 (1 歳 94.3%) とした 医療費に関しては保健医療費のみを考慮した場合 ( 保健医療費支払者の視点 ) と 保健医療費に加え 非保健医療費と生産性損失を考慮した場合 ( 社会の視点 ) に分けて分析を行った その他 ワクチン効果 移行確率 医療費等に関するデータは先行研究に従った 1 その結果を表 2 に示す 効果に関しては 髄膜炎後の後遺症が生じた場合の効用値を難聴 (0.675) 水頭症(0.675) てんかん(0.664) 発育遅滞(0.350) 麻痺 (0.310) として QALY を計算した結果 ワクチンを投与した場合の 1 人当たりの QALY は QALY 非投与の場合は QALY であり ワクチン投与によって QALY 余分に獲得出来る これを出生コホート 万人当たりで計算し 接種率を考慮すると 438.2QALY 分に相当する 費用に関してはワクチン投与によって感染症や後遺症にかかる費用が減ることによって 保健医療費としてはコホート全体で総額 億円の削減となる 非保健医療費および生産性損失を加えた場合 総額 億円の削減となる さらに早期に死亡することによって失われる生産性損失 ( 死亡費用 ) は総額 5.4 億円と推計される 一方 予防接種にかかる費用は ワクチン代と接種代を合わせて 1 回 11,109 円 ( 消費税 5% を含む ) 4 回接種した場合の総額は 割引率 3% のもと 接種率を考慮すると 億円となる 子供の接種に付き添う親の労働損失について 1 回の接種で半日分 (3800 円 ) の労働損失を計上すると 総額では 億円となる 保健医療費支払者の視点で分析を行った場合 ワクチン接種費が高額であるため ワクチン接種によって削減できる保健医療費を上回る 費用効果分析を行った場合 感染予防によって期待される獲得 QALY 数がコホート全体で 438.2QALY と尐ないため ICER(1QALY を追加で獲得するための費用 ) は 4,554.6 万円となる これは ワクチン接種費用の設定によって結果は大きく変動し ワクチン接種費を 1 回 6,090 円まで下げることによって ワクチン接種費と感染予防によって削減される医療費が同額となる なお ワクチン接種費 3

59 が 1 回 6,090 円以上 6,650 円以下になれば ワクチン接種費が感染予防による削減医療費を上回るものの その費用対効果は一般的な閾値である 500 万円 /QALY を下回る 一方 社会の視点で分析を行った場合 予防接種関連の費用 ( 接種費用 + 家族等の生産性損失 ) が ワクチン投与によって削減できる費用を 2.9 億円上回る 本人の生産性損失 ( 死亡費用 ) まで含めた場合は 接種関連費用が 億円 削減される費用が 億円となり 2.4 億円の削減となる 便益費用比は である なお 予防接種費や出生数などの条件が今後も不変であると仮定した場合の 将来定常状態になった状態での単年度費用推計の結果は次の通りである ( 注 : 単年度費用推計では 割引は適用しない ) 定期接種を導入した際の予防接種費の増分は年間約 億円であるが 予防接種費以外の保健医療費は年間約 億円減尐し さらに家族等の生産性損失が年間約 億円減尐することから 社会の視点では定期接種化により1 年あたり約 28.6 億円の費用減尐となる さらに本人の生産性損失の減尐分 ( 年間約 15.6 億円 ) も考慮すると 1 年あたり約 44.1 億円の費用減尐となる 図 1 マルコフモデル ( 小児用モデル ) 4

60 表 2 肺炎球菌ワクチン ( 小児用 ) の費用対効果推計 < 費用効果分析 > ワクチン接種費と医療費を考慮 支払者の立場 一人当たりとして計算 コホート全体 万人 ( 円,QALY) ( 億円,QALY) 投与 非投与 増分 投与 非投与 増分 ワクチン接種費 41, , 医療費 169, ,744-22,679 1, , 総コスト 210, ,744 18,651 2, , QALY ,066, ,066, QALY を獲得するための費用 :(442.2 億円 億円 )/ =4,554.6 万円 感度分析で割引率を 0% から 5% の間で変化させた場合 1QALY の獲得 に必要な費用は 1,684 万円 ~7,241 万円となる < 費用比較分析 > 本人以外の生産性損失を追加 社会の視点 一人当たりとして計算 コホート全体 万人 ( 円 ) ( 億円 ) 投与 非投与 増分 投与 非投与 増分 ワクチン接種費 41, , 副反応費用 接種の生産性損失 ( 家族等 ) 14, , 投入費用合計 55, , 医療費 169, ,744-22,679 1, , 看護 介護の生産性損失 ( 家族等 ) 271, ,364-32,515 2, , 疾病費用合計 440, ,108-55,194 4, , 総費用 496, , , , 費用比較投入費用合計 億円 - 疾病費用合計 億円 =2.9 億円増大 感度分析で割引率を 0% から 5% の間で変化させた場合 0% では 28.6 億円の削 減 5% では 19.6 億円の増大となる 5

61 < 費用便益分析 > 本人の生産性損失をさらに追加 社会の視点 一人当たりとして計算 コホート全体 万人 ( 円 ) ( 億円 ) 投与 非投与 増分 投与 非投与 増分 ワクチン接種費 41, , 副反応費用 接種の生産性損失 ( 家族等 ) 14, , 投入費用合計 55, , 医療費 169, ,744-22,679 1, , 看護 介護の生産性損失 ( 家族等 ) 271, ,364-32,515 2, , 生産性損失 ( 本人 ) 便益費用合計 441, ,816-55,695 4, , 便益費用比 : 便益費用合計 / 投入費用合計 =596.0 億円 /593.5 億円 =1.004 感度分析で割引率を 0% から 5% の間で変化させた場合 便益費用比は 0.97 (5%) ~1.07 (0%) となる 6

62 追加参考文献 1. 神谷齊ほか. 小児用 7 価肺炎球菌結合型ワクチンの医療経済効果. 小児科臨床 61: , Lieu TA, et al. Projected cost-effectiveness of pneumococcal conjugate vaccination of healthy infants and young children. JAMA 283: Ray GT, et al. Cost-effectiveness of pneumococcal conjugate vaccine: evidence from the first 5 years of use in the United States incorporating herd effects. Pediatr Infect Dis J 25: McIntosh ED, et al. The cost-burden of paediatric pneumococcal disease in the UK and the potential cost-effectiveness of prevention using 7-valent pneumococcal conjugate vaccine.vaccine 21: McIntosh ED, et al. Pneumococcal pneumonia in the UK--how herd immunity affects the cost-effectiveness of 7-valent pneumococcal conjugate vaccine (PCV). Vaccine 23: Melegaro A, et al. Cost-effectiveness analysis of pneumococcal conjugate vaccination in England and Wales. Vaccine 22: Asensi F, et al. A pharmacoeconomic evaluation of seven-valent pneumococcal conjugate vaccine in Spain. Value Health 7: Navas E, et al. Cost-benefit and cost-effectiveness of the incorporation of the pneumococcal 7-valent conjugated vaccine in the routine vaccination schedule of Catalonia (Spain).Vaccine 23: Wisløff T, et al. Cost effectiveness of adding 7-valent pneumococcal conjugate (PCV-7) vaccine to the Norwegian childhood vaccination program.vaccine 24: Bos JM, et al. Epidemiologic impact and cost-effectiveness of universal infant vaccination with a 7-valent conjugated pneumococcal vaccine in the Netherlands. Clin Ther 25: Marchetti M, et al. Cost-effectiveness of universal pneumococcal vaccination for infants in Italy. Vaccine 23: Salo H, et al. Economic evaluation of pneumococcal conjugate vaccination in Finland. Scand J Infect Dis 37: Claes C, et al. Cost effectiveness of pneumococcal vaccination for infants and children with the conjugate vaccine PnC-7 in Germany. Pharmacoeconomics 21: Ess SM, et al. Cost-effectiveness of a pneumococcal conjugate 7

63 immunisation program for infants in Switzerland. Vaccine 21: Lebel MH, et al. A pharmacoeconomic evaluation of 7-valent pneumococcal conjugate vaccine in Canada. Clin Infect Dis 36: De Wals P, et al. Benefits and costs of immunization of children with pneumococcal conjugate vaccine in Canada. Vaccine 21: Butler JR, et al. The cost-effectiveness of pneumococcal conjugate vaccination in Australia. Vaccine 22: 平成 22 年度厚生労働科学研究 インフルエンザ及び近年流行が問題となっている呼吸器感染症の分析疫学研究 ( 研究代表者廣田良夫 ) 分担研究 Hib( インフルエンザ菌 b 型 ) ワクチン等の医療経済性の評価についての研究 赤沢学 ( 明治薬科大学公衆衛生 疫学 ) 池田俊也 ( 国際医療福祉大学薬学部 ) 五十嵐中 ( 東京大学大学院薬学系研究科 ) 小林美亜 ( 国立病院機構本部総合研究センター ) 佐藤敏彦 ( 北里大学医学部付属臨床研究センター ) 白岩健 ( 立命館大学総合理工学院 ) 須賀万智 ( 東京慈恵会医科大学環境保健医学講座 ) 杉森裕樹 ( 大東文化大学スポーツ 健康科学部 ) 種市摂子 ( 早稲田大学教職員健康管理室 ) 田倉智之 ( 大阪大学医学部 ) 平尾智広 ( 香川大学医学部 ) 和田耕治 ( 北里大学医学部 ) ( 班長 肺炎球菌ワクチン担当 ) 8

64 評価 分析編 肺炎球菌コンジュゲートワクチン ( 小児用 ) の考え方 生物学的製剤基準上の名称 : 沈降 7 価肺炎球菌結合型ワクチン ( 無毒性変異ジフテリア毒素結合体 ) 1. 対象疾患の影響について対象疾病ワクチンに含まれている血清型の肺炎球菌に起因する侵襲性感染症 ( 本来であれば菌が存在しない血液 髄液 関節液などから菌が検出される病態 ) 肺炎 中耳炎 (1) 対象疾患の個人および社会に対する影響 1 臨床症状 i) 臨床症状 予後 後遺症肺炎球菌は 特に乳幼児においては 血液中に侵入し 菌血症を起こすことがある 菌血症では発熱が主症状である 菌血症から敗血症に進展すると 血圧低下 DIC 臓器不全などの重篤な症状を呈する 菌血症から髄膜炎をきたすと 発熱 頭痛 意識障害 項部硬直 痙攣などが見られる ii) 鑑別を要する他の疾患 他の細菌による菌血症 / 髄膜炎 ウイルス性髄膜炎 iii) 検査法 培養 抗原検査 PCR ( キット化された PCR 体外診断薬は無い ) 2 疫学状況 i) わが国における状況 罹患率 1,2 5 歳未満人口 10 万人当たり 年髄膜炎以外の侵襲性感染症 18.8 (2008 年 ) 21.0 (2009 年 ) 髄膜炎 2.9 (2008 年 ) 2.6 (2009 年 ) 人口比率で算出した国内の年間患者発生数 ( 人 ) 髄膜炎以外の侵襲性感染症 1022 (2008 年 ) 1139(2009 年 ) 髄膜炎 155 (2008 年 ) 142 (2009 年 ) 9

65 髄膜炎以外の侵襲性感染症 ( 主として菌血症 ) については 血液培養を積極的に行っている県では罹患率が高いため 1 実数より過尐見積もりされている可能性がある 発熱で受診した乳幼児の約 0.2% に菌血症がみられたとの報告もある 3 ii) 予後 後遺症髄膜炎が治癒した場合でも 難聴 精神発達遅滞 四肢麻痺 てんかんなどの重度の後遺症が残ることがある 抗菌療法の発達した現代においても肺炎球菌性髄膜炎の予後に改善はみられず 治癒 88% 後遺症 10% 死亡 2% であったと報告されている 1 iii) 保菌者の割合小児では無症状のまま上咽頭に保菌している場合が多い 健診時の調査では 3-4 ヶ月健診時で 17.3%, 6-7 ヶ月健診時で 27.5%, 9-10 ヶ月健診時で 36.2%, 18 ヶ月検診時で 47.8% が肺炎球菌の保菌者であったとの報告がある 4 この研究では 肺炎球菌の上咽頭保菌のリスク因子として兄弟 ( 年長の兄弟 1 人の場合のオッズ比 3.5 [95% CI: ], p<0.001; 2 人以上の場合のオッズ比 3.9 [95% CI: ], p<0.001) 集団保育(12 ヶ月未満で保育開始した場合のオッズ比 3.5 [95% CI: ], p<0.001; 12 ヶ月以上で保育開始した場合のオッズ比 1.7 [95% CI ], p<0.001) が示されている 一方 同居高齢者の存在は小児の上咽頭保菌のリスク因子とはなっていない ( オッズ比 1.1 [95% CI: ], p=0.445) 上咽頭に存在する菌が何らかのきっかけで血液中に入った場合 菌血症から敗血症や髄膜炎を起こす また 直接進展すると肺炎などの下気道感染症や中耳炎を起こす iv) 感染経路 ヒト ヒトの飛沫感染である 3 治療法全身管理 抗菌薬投与 ( 実際に臨床現場で投与されている抗菌薬の種類については文献 5 参照 ) 近年 β-ラクタム剤非感受性株の増加に伴い 治療困難な症例が増加している マクロライドは 耐性菌増加のため肺炎球菌感染症治療薬としては使用されなくなっている 10

66 2. 予防接種の効果 目的 安全性等について (1) ワクチン製剤について 1 わが国で現在利用できるワクチン 7 価コンジュゲートワクチン (2010 年 2 月から販売 ) 2 製剤の特性成分 7 種類の血清型ポリサッカライド (4, 6B, 9V, 14, 18C, 19F, 23F) 各々にキャリアたん白として CRM 197 ( 遺伝子改変により毒性をなくしたジフテリア毒素由来たん白 ) を結合させたもので アルミニウムをアジュバントとして含む T 細胞依存性の抗体産生を惹起し メモリー効果をもたらす (2) 予防接種の効果 1 ワクチンのカバー率肺炎球菌には 93 種類の血清型があり ワクチンは そのうちの一部の血清型に対して効果がある 図 1 に 2007/7-2010/1 までの期間に 9 県 ( 福島 新潟 千葉 三重 岡山 高知 福岡 鹿児島 沖縄 [2009/4-2010/1]) における全例調査で見られた小児侵襲性感染由来肺炎球菌の血清型を示す 1 図 1 7 価コンジュゲートワクチンのカバー率は 77.8% 7 価コンジュゲートワクチン に含まれている 6B と交差免疫性を示す 6A を算入した場合のカバー率は 83.1% であった 11

67 図 2 に上記 9 県で起きた髄膜炎から分離された菌の血清型を示す 1 図 2 7 価コンジュゲートワクチンのカバー率は 71.4% 6A を算入した場合のカバー率 は 73.8% であった 2 ワクチンの効果 2-1 コホート研究により示されたワクチンの効果 i) 侵襲性感染に対する効果 ( 二重盲検試験 ) 米国カリフォルニア州で行われた 37,868 人の小児に対する二重盲検試験の結果 を表 1 に示す ( 文献 6 Table 1より編集 ) 表 1 7 価コンジュゲートワクチンによる侵襲性感染の予防効果 解析法 コントロール群 ワクチン接種群 効果 (%) (95% 信頼区間 ) P PP 解析 3 回以上接種 (16 ヶ月未満小児 ) または 3 回 + 追加接種 1 回 (16 ヶ月以上小児 ) 群での比較 ITT 解析 1 回以上の接種群での比較 *: 中間解析の結果 17 * 0 * 100 * ( ) * < ( ) < <0.001 ( ) * 12

68 PP 解析による比較では ワクチンに含まれる血清型肺炎球菌による侵襲性感染を 97.4% 減尐させることができた ワクチン接種群で見られた 1 例は 4 回接種後に見られた血清型 19F 肺炎球菌による肺炎 菌血症であった ITT 解析による比較では ワクチンに含まれる血清型肺炎球菌による侵襲性感染を 93.9% 減尐させることができた ワクチン接種群で見られた 3 例の血清型は 上記の 19F 急性骨髄性白血病でみられた 19F ワクチン 1 回接種後の 6B であった ワクチンに含まれない血清型を含め いずれかの血清型の肺炎球菌が分離された症例数は コントロール群 : ワクチン接種群で 55:6 効果 89.1% (95% 信頼区間 %) P<0.001 であった この治験における 血清型ごとの分離症例数の比較を表 2 に示す ( 文献 6 Table 2 より編集 ) 表 2 血清ごとの症例数の比較 血清型 コントロール群 ワクチン接種群 効果 (%) (95% 信頼区間 ) 19F ( ) ( ) 18C ( ) 23F ( ) 6B ( ) 9V ( ) 血清型 19F および 6B の肺炎球菌は ワクチン接種群からそれぞれ 2 例 1 例分離されたために ワクチンの効果は 84.6% 85.7% となった しかし 他の血清型肺炎球菌は ワクチン接種群からは分離が見られず 高いワクチンの効果が示された 血清型 4 はワクチン群からもコントロール群からも分離されなかった ii) 肺炎に対する効果 ii)-1 二重盲検試験 ( 二重盲検試験 ) 米国カリフォルニア州で行われた 37,868 人の小児に対する二重盲検試験の結果を表 3 に示す ( 文献 7, Table 2, 文献 8 Table 1 より編集 ) 13

69 表 3 7 価コンジュゲートワクチンによる肺炎の予防効果 ( 臨床症状および胸 部 X 線写真で診断された肺炎 1000 人 年あたりの症例数 ) 解析法 コントロール ワクチン 効果 (%) P 群 接種群 (95% 信頼区間 ) PP 解析 3 回以上接種 (16 ヶ月未 ( ) 0.02 満小児 ) または 3 回 + 追 30.3 * * 加接種 1 回 (16 ヶ月以上 ( ) 小児 ) 群での比較 ITT 解析 回以上の接種群での比較 ( ) 25.5 * ( ) * *, WHO 基準による胸部 X 線写真の読影をおこなった場合の数字 ( 文献 8) PP 解析においても ITT 解析においても すべての肺炎 ( 起炎菌を特定しない ) に対する防止効果が 統計的な有意差をもって示された iii) 中耳炎に対する効果 ( 二重盲検試験 ) 米国カリフォルニア州で行われた 37,868 人の小児に対する二重盲検試験では 7 価コンジュゲートワクチン接種により 1 歳未満児の中耳炎による受診が 8.2% 減尐 (95% 信頼区間 ) 1 歳から 2 歳児の中耳炎による受診が 8.7% 減尐 (95% 信頼区間 ) したことが示されている 9 フィンランドで実施された 1,662 人の乳幼児を対象とした二重盲検試験においては 7 価コンジュゲートワクチン接種により ワクチン含有血清型肺炎球菌による中耳炎が 57% 減尐 (95% 信頼区間 44-67) している 観察研究により示されたワクチンの効果 ( ワクチン接種率拡大による直接および間接効果を見ている ) i) 侵襲性感染の変化 i)-1 米国における変化米国では 2000 年に 7 価コンジュゲートワクチンが導入され 2006 年生まれの小にのワクチンの接種率は 93% に達する この高い接種率により ワクチン接種をした小児のワクチン含有血清型による侵襲性感染症が顕著に減尐下だけでなく ワクチン接種を行っていない成人のワクチン含有血清型による侵襲性感染 14

70 の減尐が見られている 11 ( 図 3 ) 図 3 米国における小児及び成人の侵襲性感染症罹患率の経年変化 PCV7, 7 価コンジュゲートワクチン non-pcv7 type の中には 19A は含まれていない 7 価コンジュゲートワクチンに含まれる血清型による 5 歳未満小児の侵襲性感染罹患率は ワクチン導入前には 81.9 人 /10 万人 年であったものが 年には 0.4 人 /10 万人 年にまで減尐した しかし ワクチンに含まれない血清型による侵襲性感染罹患率の上昇が見られ 中でも 19A によるものが 2.6 人 /10 万人 年から 11.1 人 /10 万人 年と増大している また ワクチン接種を受けていないにもかかわらず 65 歳以上高齢者の侵襲性感染罹患率は 60.1 人 /10 万人 年から 37.9 人 /10 万人 年と減尐が見られている これは 7 価コンジュゲートワクチンに含まれる血清型による侵襲性感染が減尐したためである ( 図 3) ワクチン接種を受けた小児の上咽頭に存在する肺炎球菌が減尐し その結果 高齢者の感染も減尐したと考えられている ( 集団免疫効果 ) 15

71 i)-2 米国以外の国における変化 米国以外の国でも接種率拡大 定期接種化により肺炎球菌侵襲性感染の減尐が 見られている ( 表 4) 表 4 7 価コンジュゲートワクチン定期接種化前後の侵襲性感染の変化 国名 定期接種導入年 接種率 調査年効果 オーストラリ % 2002 vs ア ( 先住民 ( 先住民子 2 歳未満の全血清型侵襲性感染 子供 ) 供 ) が 75% 減尐 % 2-14 歳の全血清型侵襲性感染 ( すべて ( 先住民以 が 65% 減尐 の子供 ) 外の子供 ) カナダ % vs アルバータ州 (3 回接種 ) 6-23 ヶ月の全血清型侵襲性感 カルガリー 84% 染が 77% 減尐 (4 回接種 ) 6-23 ヶ月のワクチン型侵襲性 感染が 86% 減尐 フランス % vs (3 回接種 2 歳未満のワクチン型菌血症 64% として出 減尐 荷数から 2 歳未満のワクチン型髄膜炎が 算出 ) 81% 減尐 ドイツ 2006 <80% vs (4 回接種 2 歳未満の全血清型侵襲性感染 として出 が 56% 減尐 荷数から 算出 ) ノルウェー 2006 約 80% vs (3 回接種 ) 2 歳未満の全血清型侵襲性感染 が 52% 減尐 1 歳未満のワクチン型侵襲性感 染症が 92% 減尐 文献

72 ii) 肺炎の変化米国では 7 価コンジュゲートワクチンの導入後 ( 年 ) に 2 歳未満小児における肺炎球菌性肺炎による入院が導入前 ( 年 ) と比較して 65% 減尐し また 歳の成人においても 30% 減尐している 17 3 その他に期待される効果細菌性髄膜炎は生命に関るため 小児の初期診療において見逃せない疾患である 発熱した児に対しては 潜在的に細菌性髄膜炎などの重症感染症への不安があるため 医師においては抗菌剤の過剰投与につながり 患者家族においては時間外救急受診へとつながる 7 価コンジュゲートワクチンと Hib ワクチンが広く普及することにより 抗菌剤使用の削減 耐性菌の減尐 時間外救急受診の減尐が期待される (3) 予防接種の目的効能 効果 ( 承認事項 ) ワクチンに含まれている血清型肺炎球菌に起因する侵襲性感染症の予防米国では ワクチンに含まれる型の肺炎球菌による 5 歳未満小児の侵襲性感染は ワクチン導入前 81.9 人 /10 万人 年であったものが 年には 0.4 人 /10 万人 年にまで減尐した 11 わが国においても定期接種化により 5 歳未満小児の侵襲性感染罹患率を 1 人 /10 万人 年未満にすることを目的とする わが国においては承認されていないが 副次的に期待される効果 ワクチン接種児における肺炎 中耳炎の減尐 また 定期接種化による集団免疫効果として以下のことが期待される ワクチン未接種児におけるワクチンに含まれている血清型肺炎球菌に起因する 侵襲性感染症の減尐 高齢者におけるワクチンに含まれている血清型肺炎球菌に起因する侵襲性感染 症の減尐 17

73 (4) 安全性 副反応に関する情報を表 5 および表 6 に示す 表 5 国内臨床試験において観察された副反応率 ( 添付文書より記載 ) 1 回目接種 181 例 2 回目接種 177 例 3 回目接種 174 例 4 回目接種 169 例 注射部位紅班 80.7% 79.7% 75.3% 71.0% 注射部位硬結 腫脹 71.8% 74.0% 68.4% 64.5% 発熱 (37.5ºC 以上 ) 24.9% 18.6% 24.7% 22.5% 易刺激性 20.4% 18.1% 14.9% 11.2% 傾眠状態 21.5% 13.0% 15.5% 10.7% 注射部位疼痛 圧痛 12.7% 16.9% 7.5% 13.6% 肺炎球菌ポリサッカライドワクチンの副反応 ( 注射部位発赤 26.2% 注射部位 腫脹 23.1%) と比べ 局所反応は高率に見られる しかし 脳炎 脳症 痙攣 運動障害 神経障害といった重篤な副反応は観察されなかった 18 表 6 海外臨床試験における局所反応の出現率 ( 電話調査により収集された局 所反応 ) 1 回目接種 2890 例 2 回目接種 2725 例 3 回目接種 2538 例 4 回目接種 599 例 紅班 359 (12.4%) 389 (14.3%) 386 (13.8%) 76(12.7% ) 硬結 315 (10.9%) 335 (12.3%) 324 (12.8%) 68(11.4% ) 圧痛 801 (28.0%) 681 (25.2%) 647 (25.6%) 218(36.5%) 国内外での注射部位局所反応の出現率の差は投与方法 ( 国内 皮下注射 ; 海外 筋肉内注射 ) の差によるものが考えられる (5) 費用対効果推計 1 先行研究 ( 神谷ら ) 19 7 価コンジュゲートワクチン接種率を 100% 接種回数を 4 回とした場合 わが国におけるワクチン接種の総費用は 296 億円 ワクチン接種により削減される費用は 髄膜炎 菌血症 肺炎 中耳炎でそれぞれ 34 億円 29 億円 14 億円 610 億円 総額 687 億円と計算されている また 米国と同様の集団免疫効果を期待した場合 肺炎による入院医療費削減は 5 年間で 613 億円と計算されている 18

74 2 海外で行われた費用対効果推計の文献レビュー小児の肺炎球菌感染症に対する施策として 7 価肺炎球菌コンジュゲートワクチン (PCV-7) の導入もしくは皆接種制度 (universal vaccination) を実施した場合の費用対効果を評価する研究が行われている 表 7 に PubMed に収載された最近 10 年間に先進諸国で行われた 16 の代表的研究を示した 分析の立場は 1) 保健医療費支払者の視点 ( 保健医療費のみで評価する ) と 2) 社会の視点 ( 保健医療費と非保健医療費と生産性損失の合計で評価する ) に分けられる さらに ワクチン非接種の小児 成人に対する感染予防 ( 集団免疫効果 ) を考慮した分析も実施されている 表 7 肺炎球菌ワクチン ( 小児用 ) の費用対効果推計の文献レビュー 国筆頭著者, 年 ワクチン対象者 ワクチン接種単価 ( 技術料込 ) 結果 USA Lieu USA Ray UK McIntosh UK McIntosh UK Melegaro Spain Asensi Spain Navas Norway Wisløff ,4,6 ヶ月と 1 歳 (4 回投与 ) 2,4,6 ヶ月 (3 回又は 4 回投与 ) 2~4 ヶ月と 1 歳 (4 回投与 ) 2~4 ヶ月と 1 歳 (4 回投与 ) 2,4,6 ヶ月 (3 回投与 ) 2,3,4 ヶ月と 12~15 ヶ月 (4 回投与 ) 2,4,6,12-15 ヶ月 (4 回投与 ) 3,5,12,15 ヶ月 (3 又は 4 回投与 ) 9,406 円支払者の視点で 1,469 万円 /QALY 獲得 社会の視点で 668 万円 /QALY 獲得 5,938 円集団免疫効果を考慮しない場合は 935 万円 /QALY 獲得だが 集団免疫効果を考慮すると 36 万円 /QALY 獲得に改善 10,664 円支払者の視点で 416 万円 / 生存年延長 10,256 円集団免疫効果を考慮した場合 58 万円 / 生存年数延長に改善 8,330 円支払者の視点で 761 万円 /QALY 獲得 7,129 円支払者の視点で 258 万円 / 生存年延長 社会の視点で費用削減 7,837 円支払者の視点で 922 万円 /DALY 回避 社会の視点で 509 万円 /DALY 回避 6,464 円支払者の視点で 1607 万円 /QALY 獲得 社会の視点で 643 万円 /QALY 獲得 集団免疫効果を含むと 425 万円 /QALY 獲得に改善 19

75 Netherland Bos 乳幼児 6,086 円 支払者の視点で 913 万円 /QALY 獲得 社会の立場で 818 万円 /QALY 獲得 Italy Marchetti Finland Salo Germany Claes ,4,6 ヶ月 (3 回投与 ) 乳幼児 (4 回投与 ) 乳幼児 (4 回投与 ) Switzerland 6 ヶ月,6-11 ヶ月, Ess ヶ月 (4 回投与 ) Canada Lebel Canada De Wales Australia Butler 週 ~6 ヶ月 (3 回投与 ) 乳幼児 (4 回投与 ) 2,4,6,12-15 ヶ月 (4 回投与 ) 注 ) 換算レート (2010 年 10 月 4 日現在 ) 日本円 米ドル イギリス ポンド 4,668 円支払者の視点で 440 万円 / 生存年延長 社会の視点で 304 万円 / 生存年延長 6,235 円支払者の視点で 512 万円 /QALY 獲得 社会の視点で 328 万円 /QALY 獲得 9,440 円支払者の視点で 837 万円 / 生存年延長 社会の視点で費用削減 9,276 円支払者の視点で 336 万円 /QALY 獲得 社会の視点で 305 万円 /QALY 獲得 6,773 円支払者の視点で 1265 万円 / 生存年延長 社会の視点で 645 万円 / 生存年延長 5,820 円社会の視点で 1023 万円 / 生存年延長 8,892 円支払者の視点で 1863 万円 / 生存年延長 981 万円 /DALY 回避 ユーロ スイス フラン カナダ ドル オーストラ リアドル 厚生労働科学研究班による分析平成 21 年出生コホート (107.8 万人 ) を対象に 肺炎球菌コンジュゲートワクチン ( 小児用 ) を投与した場合と投与しなかった場合の QALY (quality-adjusted life year) 並びに医療費の比較を行った 米国で実施された Lieu ら 20 のマルコフモデル ( 図 4) に従って 肺炎球菌による感染症として髄膜炎 菌血症 肺炎 中耳炎を取り扱い 1 ヶ月周期で状態が変化すると仮定して分析を行った 厚生労働科学研究 ワクチンの医療経済性の評価 研究班 ( 班長池田俊也 ) で定めた ワクチン接種の費用対効果推計法 に従い分析期間は生涯 割引率は年率 3% とし 感度分析で年率を 0% から 5% に変化させた場 20

76 合の影響を見た また 接種率は 2008 年麻疹ワクチン接種実績相当 (1 歳 94.3%) とした 医療費に関しては保健医療費のみを考慮した場合 ( 保健医療費支払者の視点 ) と 保健医療費に加え 非保健医療費と生産性損失を考慮した場合 ( 社会の視点 ) に分けて分析を行った その他 ワクチン効果 移行確率 医療費等に関するデータは先行研究に従った 19 効果に関しては 髄膜炎後の後遺症が生じた場合の効用値を難聴 (0.675) 水頭症 (0.675) てんかん(0.664) 発育遅滞(0.350) 麻痺(0.310) として QALY を計算した結果 ワクチンを投与した場合の 1 人当たりの QALY は QALY 非投与の場合は QALY であり ワクチン投与によって QALY 余分に獲得出来る これを出生コホート 万人当たりで計算し 接種率を考慮すると 438.2QALY 分に相当する 費用に関してはワクチン投与によって感染症や後遺症にかかる費用が減ることによって 保健医療費としてはコホート全体で総額 億円の削減となる 非保健医療費および生産性損失を加えた場合 総額 億円の削減となる さらに早期に死亡することによって失われる生産性損失 ( 死亡費用 ) は総額 5.4 億円と推計される 一方 予防接種にかかる費用は ワクチン代と接種代を合わせて 1 回 11,109 円 ( 消費税 5% を含む ) 4 回接種した場合の総額は 割引率 3% のもとで接種率を考慮して 億円となる 子供の接種に付き添う親の労働損失について 1 回の接種で半日分 (3,800 円 ) の労働損失を計上すると 総額では 億円となる 保健医療費支払者の視点で分析を行った場合 ワクチン接種費が高額であるため ワクチン接種によって削減できる保健医療費を上回る 費用効果分析を行った場合 感染予防によって期待される獲得 QALY 数がコホート全体で 438.2QALY と尐ないため ICER(1QALY を追加で獲得するための費用 ) は 4,554.6 万円となる これは ワクチン接種費用の設定によって結果は大きく変動し ワクチン接種費を 1 回 6,090 円まで下げることによって ワクチン接種費と感染予防によって削減される医療費が同額となる なお ワクチン接種費が 1 回 6,090 円以上 6,650 円以下になれば ワクチン接種費が感染予防による削減医療費を上回るものの その費用対効果は一般的な閾値である 500 万円 /QALY を下回る 一方 社会の視点で分析を行った場合 予防接種関連の費用 ( 接種費用 + 家族等の生産性損失 ) が ワクチン投与によって削減できる費用を 2.9 億円上回る 本人の生産性損失 ( 死亡費用 ) まで含めた場合は 接種関連費用が 億円 削減される費用が 億円となり 2.4 億円の削減となる 便益費用比は である なお 予防接種費や出生数などの条件が今後も不変であると仮定した場合の 21

77 将来定常状態になった状態での単年度費用推計の結果は次の通りである ( 注 : 単年度費用推計では 割引率は適用しない ) 定期接種を導入した際の予防接種費の増分は年間約 億円であるが 予防接種費以外の保健医療費は年間約 億円減尐し さらに家族等の生産性損失が年間約 億円減尐することから 社会の視点では定期接種化により1 年あたり約 28.6 億円の費用減尐となる さらに本人の生産性損失の減尐分 ( 年間約 15.6 億円 ) も考慮すると 1 年あたり約 44.1 億円の費用減尐となる 図 4 マルコフモデル ( 小児用モデル ) 3. 予防接種の実施について (1) 予防接種の目的を果たすための接種率 1 接種率の目標とその根拠フランスでは接種率約 56% で 2 歳未満小児のワクチン型肺炎球菌侵襲性感染症の減尐率は 64% である 14 カナダでは接種率 84% で 6-23 ヶ月小児のワクチン型肺炎球菌侵襲性感染症減尐率は 86% である 13 米国では接種率 93% で 5 歳未満小児のワクチン型肺炎球菌菌血症の減尐率は 99.5% である 11 わが国では 侵襲性感染罹患率 23.6 人 /10 万 年 1,2 を 1 人 /10 万 年にするためには ( 減尐率 96%) 集団免疫効果を得ることが必須であり そのためには 80%-90% の接種率達成を目標としたい 22

78 (2) ワクチンは導入可能か 1 承認状況各国の状況を図 5 に示す 図 5 7 価コンジュゲートワクチンの各国での使用状況 製造販売会社資料製造販売会社資料 7 価コンジュゲートワクチンは世界 101 カ国で承認 98 カ国で販売 45 カ国で 定期接種化されている (2010 年 2 月 ) 北米 ヨーロッパの多くの国 および東 南 東アジア地域では香港 シンガポールで定期接種化されている 2 供給体制 企業によると 平成 23 年度については 年間 700 万本程度の供給は可能とのこ とである 3 勧奨される対象者および接種スケジュール標準 : 初回免疫を 2 カ月齢以上 7 カ月齢未満で開始し 27 日間以上の間隔で 3 回接種した後 追加免疫として 12~15 カ月齢の間に 1 回接種を行う 計 4 回接種 いずれも皮下注射 標準時期に接種開始できなかった場合 : 7 カ月齢以上 12 カ月未満で接種を開始した際には合計 3 回 1 歳 ~2 歳未満では 合計 2 回 2 歳以上 9 歳以下は 1 回の接種を行う いずれも皮下注射 23

79 接種スケジュールを図 6 に示す 図 6 キャッチアップの必要性千葉県における全例調査では肺炎球菌による侵襲性感染 171 例のうち 2 歳以上 5 歳未満の症例が 30.4% (52/171 症例 ) 5 歳以上の症例が 7.6% (13/171 症例 ) であったとの報告がある 36 また 年の細菌性髄膜炎の全国調査でも 肺炎球菌性髄膜炎 48 症例の内訳は 0 歳 (24 例 ) 1 歳 (10 例 ) 2 歳 (4 例 ) 3 歳 (3 例 ) 4 歳 (3 例 ) 8 歳 (1 例 ) 9 歳 (1 例 ) 11 歳 (2 例 ) と 2 歳以上 5 歳未満の症例が 20.8% (10/48 症例 ) 5 歳以上の症例が 8.3% (4/48 症例 ) を占めた 歳および 5 歳以上の未接種者に対するワクチン接種 ( キャッチアップ ) を考慮する必要がある 4. 総合的な評価 (1) インパクトに対する評価特に乳幼児では肺炎球菌感染により侵襲性肺炎球菌感染症を起こすことがある 抗菌療法の発達した現代においても肺炎球菌性髄膜炎の予後に改善はみられず 治癒 88% 後遺症 10% 死亡 2% と報告されている 加えて近年 薬剤耐性株が増加しており 治療困難な症例が増加している 基本的に発症すれば治療 24

80 に難渋することもあり 予後不良の可能性も看過できないレベルにあるため 発熱した乳幼児の診療においては医療体制への負担や親の心理的な負担が大きい また 後遺症が残った場合には 医療および両親の負担は非常に大きいものとなる 年間発生数は髄膜炎 150 例 髄膜炎以外の侵襲性感染症で約 1000 例を超えると推定されている しかしながら これらの数値は診断が確定した例に限られているため 実数よりも過小評価されている可能性がある またこれらの鑑別診断には多くの医療資源が投資されているし 毎年確実に累積するであろう後遺症例に対しては個人的な負担と医療のみならず 介護などの社会的な負担がその生涯にわたって続くため その影響は多大なものである (2) ワクチンに対する評価これらの侵襲性肺炎球菌感染症に対する対策として 7 価コンジュゲートワクチンが使用可能であり これらの接種者における予防効果および安全性はすでに至る所で証明されており議論の余地を持たない 実際にすでに定期接種として行っている世界の多くの国々においても 侵襲性肺炎球菌感染症はワクチン導入後に確実に減尐している 医療経済性については 諸外国でさまざまな分析が既になされているが 分析の視点や集団免疫効果の有無 接種費用など 変動要素も多い 本邦においては保健医療費支払者の視点で分析を行った場合 ワクチン接種費が高額であるため ワクチン接種によって削減できる保健医療費を上回る 費用効果分析を行った場合 感染予防によって期待される QALY の獲得年数が 1 人当たり QALY と尐ないため 1QALY を追加で獲得するための費用は 4,500 万円以上となる これは ワクチン代の設定によって大きく結果が異なり ワクチン接種費を 1 回 6,090 円まで下げることによって ワクチン接種費と感染予防によって削減される医療費が同額となる 一方 社会の視点で分析を行った場合 予防接種費よりもワクチン投与によって削減できる費用が上回るため ワクチン投与によって費用削減が期待できる この削減費用は集団免疫効果 (herd effect) を考慮するとさらに大きな額となる 集団免疫効果について 米国から高い接種率により ワクチン接種をした小児のみならず ワクチン接種を行っていない成人の侵襲性感染の減尐が見られている これはワクチン接種を受けた小児の上咽頭に定着する肺炎球菌が減尐し その結果 高齢者の感染も減尐したと考えられている ( 集団免疫効果 ) 加えて 7 価コンジュゲートワクチンには 侵襲性感染防止効果に加え 肺炎 中耳炎に対する効果も見られている また 従来 発熱した児に対して細菌性髄膜炎などの重症感染症への不安から実施される傾向のあった抗菌剤の過剰投 25

81 与や 時間外救急受診に関しても 7 価コンジュゲートワクチンと Hib ワクチンが広く普及することにより 抗菌剤使用の削減 耐性菌の減尐 時間外救急受診の減尐が期待されるなど 罹患者が減尐する以上の多くの効果が期待できるワクチンである (3) 結論本ワクチンは有効性 安全性にすぐれており その効果も接種者のみならず社会全体に渡り 効果的な医療および医療体制の維持にも有効に機能すると考えられる すでに導入した国においては 侵襲性肺炎球菌感染症の減尐により不幸な転帰をとるこどもたちは激減している一方 我が国では依然として本疾患とその後遺症に苦しむこどもは累積している 我が国の医療体制を治療から予防へと転換させるためにも 速やかに定期接種として導入すべきである (4) 導入に際しての課題 1 侵襲性肺炎球菌感染症は 24 ヶ月未満の小児において最大となるが 実際には 5 歳まで あるいはそれ以上の年齢児でも罹患は見られている 世界保健機関 (WHO) は 7 価コンジュゲートワクチンをはじめて導入する際には 最大限の効果を迅速に発揮できるように ヶ月児全員と肺炎球菌感染症のハイリスクと考えられる 5 歳までの小児にキャッチアップ接種を考慮する ことを勧奨している これまでワクチン歴の無い 2-5 歳児は依然として侵襲性肺炎球菌感染症のリスクを等しく持つことから 我が国においても 5 歳までの全例キャッチアップを行うことが必要である また実際の罹患年齢を勘案すれば 過去ワクチン歴のないこれ以上の年齢児あるいは機能的無脾症など肺炎球菌感染症のハイリスク グループについてのキャッチアップについても検討が必要である 2 特に 12 ヶ月までの乳児は多くの感染症に関して脆弱であり これらの感染症から守るためには他種類のワクチン接種が求められる すべての対象児が接種機会を逃すことのないように Hib DTP などとの同時接種はきわめて重要である 3 我が国におけるワクチン導入の効果を評価するためにも 侵襲性肺炎球菌感染症のサーベイランスを継続的に行うことは必要不可欠である 4 海外では 7 価コンジュゲートワクチン導入により このワクチンに含まれない血清型肺炎球菌による侵襲性感染の罹患率が増大している わが国でも同様の事態が懸念されるため 早急な 13 価コンジュゲートワクチンの開始が重要である 26

82 参考文献 1. 厚生労働省科学研究費補助金ワクチンの有用性向上のためのエビデンスおよび方策に関する研究 ( 研究代表者神谷齊 ) 平成 21 年度総括 分担研究報告書 2. 神谷齊, 中野貴司小児における侵襲性細菌感染症の全国サーベイランス調査病原微生物検出情報 31:95-96, 西村龍夫ほか : 小児科外来で経験した肺炎球菌 occult bacteremia 症例の臨床疫学的検討. 日本小児科学会雑誌 112: , Otsuka T et al. Serotype and antimicrobial resistance in S. pneumoniae/h. influenzae in healthy infants: The SADO birth cohort study in Sado Island. (C2-723) 50 th Interscience Conference on Antimicrobial Agents and Chemotherapy, Boston, USA, Sakai F et al. Trends in empirical chemotherapy of bacterial meningitis in children aged more than 4 months in Japan: a survey from 1997 through2008. J Infect Chemother DOI: 1007/s Black S et al. Efficacy, safety and immunogenicity of heptavalent pneumococcal conjugate vaccine in children. Pediatr Infect Dis J 19: , Black SB et al. Effectiveness of heptavalent pnuemococcal conjugate vaccine in children younger than five years of age for prevention of pneumonia. Pediatr Infect Dis J 21: , Hansen J et al. Effectiveness of heptavalent pnuemococcal conjugate vaccine in children younger than 5 years of age for prevention pneumonia. Updated analysis using World Health Organization standardized interpretation of chest radiographs. Pediatr Infect Dis J 25: , Fireman B et al. Impact of the pneumococcal conjugate vaccine on otitis media. Pediatr Infect Dis J 22:10-16, Eskola J et al. Efficacy of a pneumococcal conjugate vaccine against acute otitis media. N Engl J Med 344: , Pilishvili T et al. Sustained reductions in invasive pneumococcal disease in era of conjugate vaccine. J Infect Dis 201:32-41, Roche PW et al. Invasive pneumococcal disease in Australia, Commun Dis Intell 32:18-30, Kellner JD et al. Changing epidemiology of invasive pneumococcal disease in Canada, : update from Calgary-area Streptococcus pneumoniae research (CASPER) study. Clin Infect Dis 49: , Lepoutre A et al. Impact of infant pneumococcal vaccination on invasive 27

83 pneumococcal diseases in France, Euro Surveill 28:13, Rükinger S et al. Reduction in the incidence of invasive pneumococcal disease after general vaccination with 7-valent pneumococcal conjugate vaccine in Germany. Vaccine 27: , Vestrheim DF et al. Effectiveness of a 2+1 dose schedule pneumococcal conjugate vaccination programme on invasive pneumococcal disease among children in Norway. Vaccine 26: , Grijalva CG et al. Decline in pneumonia admissions after routine childhood immunization with pneumococcal conjugate vaccine in the USA: a time-series analysis. Lancet 369: , 医薬品医療機器総合機構プレベナー審査報告書 神谷齊ほか. 小児用 7 価肺炎球菌結合型ワクチンの医療経済効果. 小児科臨床 61: , Lieu TA, et al. Projected cost-effectiveness of pneumococcal conjugate vaccination of healthy infants and young children. JAMA 283: Ray GT, et al. Cost-effectiveness of pneumococcal conjugate vaccine: evidence from the first 5 years of use in the United States incorporating herd effects. Pediatr Infect Dis J 25: McIntosh ED, et al. The cost-burden of paediatric pneumococcal disease in the UK and the potential cost-effectiveness of prevention using 7-valent pneumococcal conjugate vaccine.vaccine 21: McIntosh ED, et al. Pneumococcal pneumonia in the UK--how herd immunity affects the cost-effectiveness of 7-valent pneumococcal conjugate vaccine (PCV). Vaccine 23: Melegaro A, et al. Cost-effectiveness analysis of pneumococcal conjugate vaccination in England and Wales. Vaccine 22: Asensi F, et al. A pharmacoeconomic evaluation of seven-valent pneumococcal conjugate vaccine in Spain. Value Health 7: Navas E, et al. Cost-benefit and cost-effectiveness of the incorporation of the pneumococcal 7-valent conjugated vaccine in the routine vaccination schedule of Catalonia (Spain).Vaccine 23: Wisløff T, et al. Cost effectiveness of adding 7-valent pneumococcal conjugate (PCV-7) vaccine to the Norwegian childhood vaccination program.vaccine 24:

84 28. Bos JM, et al. Epidemiologic impact and cost-effectiveness of universal infant vaccination with a 7-valent conjugated pneumococcal vaccine in the Netherlands. Clin Ther 25: Marchetti M, et al. Cost-effectiveness of universal pneumococcal vaccination for infants in Italy. Vaccine 23: Salo H, et al. Economic evaluation of pneumococcal conjugate vaccination in Finland. Scand J Infect Dis 37: Claes C, et al. Cost effectiveness of pneumococcal vaccination for infants and children with the conjugate vaccine PnC-7 in Germany. Pharmacoeconomics 21: Ess SM, et al. Cost-effectiveness of a pneumococcal conjugate immunisation program for infants in Switzerland. Vaccine 21: Lebel MH, et al. A pharmacoeconomic evaluation of 7-valent pneumococcal conjugate vaccine in Canada. Clin Infect Dis 36: De Wals P, et al. Benefits and costs of immunization of children with pneumococcal conjugate vaccine in Canada. Vaccine 21: Butler JR, et al. The cost-effectiveness of pneumococcal conjugate vaccination in Australia. Vaccine 22: 石和田稔彦ほかインフルエンザ菌 肺炎球菌全身感染症罹患状況 ( ) 日本小児科学会雑誌 37. 砂川慶介ほか : 本邦における小児細菌髄膜炎の動向 (2005~2006). 感染症学雑誌 82: , 作成担当者予防接種部会ワクチン評価に関する小委員会肺炎球菌ワクチン作業チーム岩田敏慶應義塾大学医学部感染制御センター長大石和徳大阪大学微生物病研究所感染症国際研究センター特任教授大藤さとこ大阪市立大学大学院医学研究科公衆衛生学講師杉森裕樹大東文化大学大学院スポーツ 健康科学研究科教授谷口清洲国立感染症研究所感染症情報センター室長和田昭仁国立感染症研究所細菌第一部室長 ( 五十音順 ) 29

85 肺炎球菌ポリサッカライドワクチン ( 成人用 ) 作業チーム報告書 予防接種部会ワクチン評価に関する小委員会 肺炎球菌ワクチン作業チーム

86 ファクトシート追加編 医療経済学的な評価 1-1 先行研究 1(Kawakami ら 1 ) 国内で実施したオープンラベル無作為比較試験において得られた肺炎球菌ワクチンのワクチン費用を含むすべての肺炎による直接医療費の削減効果を表 1 に示す 65 歳以上の高齢者において 肺炎球菌ワクチンは 全症例における1 年間のすべての肺炎による直接医療費を有意に削減した 75 歳以上 歩行困難者のカテゴリーでは さらに大きな直接医療費の削減効果が認められた 表 1 65 歳以上の高齢者における肺炎球菌ワクチンのすべての肺炎による直接 医療費の削減効果 (1 年間 ) ワクチン ワクチン非 削減額 ( 円 ) P 値 接種群 接種群 (95% 信頼区間 ) 65 歳以上 57, ,875 76,015(1, ,960) 歳以上 68, , ,085(15, ,530) 歩行困難者 148, , ,705 (91, ,755) 先行研究 2(Cai ら 2 ) 国内におけるワクチンのコスト 肺炎治療に必要な医療費 入院により失われる生産性をもとに モンテカルロシュミレーションを当てはめワクチンの経済効果を算出した文献がある ワクチン接種を行った場合 65 歳以上の高齢者 100,000 人のコホートシミュレーションの結果 非接種に比して延長される余命 1 年あたりにかかる費用効果比 (CER) がインフルエンザワクチン単独だと 516,332 円でインフルエンザワクチンと肺炎球菌ワクチンを併用すると 459,874 円に減尐するという結果となった この計算には文献 3 で示されたワクチンの効果が用いられている 2 医療経済評価の文献レビューその他の成人の肺炎球菌感染症に対する先行研究として 肺炎球菌ワクチン ( 成人用 ) の導入もしくは皆接種制度 (universal vaccination) を実施した場合の医療経済的評価が多く行われている PubMed に収載された最近 10 年間に先進諸国で行われた研究を表 2 に示した 医療提供者の視点で分析を行った結果 ( 高齢者を対象とするため保健医療費のみを考慮 ) 成人への肺炎球菌ワクチン接種では 費用対効果に優れるとする報告が多数を占めている 1

87 表 2 その他の肺炎球菌ワクチン ( 成人用 ) の医療経済評価の文献レビュー 国筆頭著者, 年 10 European countries Evers Europe countries Ament Italy Merito UK Mangtani UK Melegaro US Smith US Sisk ワクチン対象者 65 歳以上 65 歳以上 65 歳以上 64 歳以上 65 歳以上 50 歳以上 65 歳以上 注 ) 換算レート (2010 年 10 月 4 日現在 ) 日本円 米ドル イギリス ポンド ユーロ 結論 IPD 予防 106 万円 ~272 万円 /QALY 獲得 ( 生涯 ) IPD 又は肺炎予防 126 万円から 379 万円 /QALY 獲得 ( 生涯 ) 髄膜炎又は感染性肺炎予防 398 万円 / 感染予防 268 万円 / 生存年延長 (5 年間 ) 髄膜炎又は非感染性肺炎予防 73 万円 / 生存年延長 (10 年間 ) IPD 予防 全高齢者の場合は 112 万万円 / 生存年延長 ハイリスク者のみに限定した場合は 125 万円 / 生存年延長 ( 生涯 ) IPD 予防 65 歳で 1 回接種の場合 28 万円 /QALY 獲得 歳で 2 回接種の場合 193 万円 /QALY 獲得 50 歳から 80 歳まで 10 年おきに 4 回接種の場合 558 万円 /QALY 獲得 ( 生涯 ) IPD 予防 全高齢者において費用削減できる ( 生涯 ) スイス フラン カナダ ドル オーストラ リアドル 医療経済評価に用いられたワクチン価格 ( 安いものから順に記載 ) スウェーデン 1206 円 アメリカ 1324 円 フランス 1906 円 イギリス 1998 円 スコットランド 1998 円 スペイン 1998 円 デンマーク 2250 円 オランダ 2354 円 ベルギー 2400 円 イタリア 3307 円 ドイツ 3456 円 3 厚生労働科学研究班による分析平成 21 年の 65 歳 (174.7 万人 ) 70 歳 (132.0 万人 ) 75 歳 (125.1 万人 ) 80 歳 (97.8 万人 ) 85 歳 (59.8 万人 ) の人口コホートを対象に 肺炎球菌ワクチン ( 成人用 ) を投与した場合 ( 接種率 100%) と投与しなかった場合 ( 接種率 0%) の QALY(quality-adjusted life year) 並びに医療費の比較を行った Sisk ら 10 が米国で構築したマルコフモデルを参考に図 1 に示す分析モデルを作成した 肺炎球菌による感染症として肺炎を取り扱い 1 ヶ月周期で状態が変化する 2

88 と仮定して分析を行った 厚生労働科学研究 ワクチンの医療経済性の評価 研究班 ( 班長池田俊也 ) で定めた ワクチン接種の費用対効果推計法 に従い分析期間は 5 年間 割引率は年率 3% とし 感度分析で年率を 0% から 5% に変化させた場合の影響を見た また 医療費に関しては高齢者のため非保健医療費および生産性損失 ( 罹患並びに死亡による損失 ) は考慮せず 保健医療費のみの比較とした ( 支払者の視点 ) その他 移行確率 医療費等に関するデータは国内で実施された 65 歳以上の高齢者を対象にしたオープンラベル無作為比較試験 1 (65 歳から 80 歳コホート ) 並びに高齢者介護施設入所者を対象にした二重盲検試験 11 (85 歳コホート ) に従った ワクチン接種は 1 回のみとし ワクチンの効果は Sisk ら 10 の報告に従い 年々低下するものとした なお ワクチンの効果は肺炎の罹患率減尐のみで 死亡率には影響しない ( 罹患しない場合の死亡率は各年齢コホートの生命表に従い 男女の平均値を用いた ) また すべての対象者がインフルエンザワクチンを毎年接種していると仮定した その結果を表 3 に示す 効果に関しては 肺炎に感染した場合の効用値 0.85 を用いて QALY を計算した その結果 各年齢コホートでは合計で 5,590QALY (65 歳コホート ) 4,356QALY(70 歳コホート ) 6,380 QALY(75 歳コホート ) 4,010QALY(80 歳コホート ) 1,854 QALY(85 歳コホート ) を獲得出来ることが示された 一方 医療費に関してはワクチン投与によって肺炎の外来医療費 入院医療費が減ることにより 接種率 100% の場合 各年齢コホート 1 人当たり 12 万円から 33 万円削減出来ることが示された これにコホート全体の人数を掛け合わせると 65 歳コホートで 4,874 億円 70 歳コホートで 3,438 億円 75 歳コホートで 4,188 億円 80 歳コホートで 2,100 億円 85 歳コホートで 705 億円が削減されると計算できる いずれの年齢コホートにおいても ワクチン接種費をワクチン代と接種代を合わせて 1 回 8,264 円 ( 消費税 5% を含む ) とした場合 ワクチン接種費 ( 総額 65 歳コホート 144 億円 70 歳コホート 109 億円 75 歳コホート 103 億円 80 歳コホート 81 億円 85 歳コホート 49 億円の投入が必要 ) よりもワクチン投与によって削減できる医療費が上回るため ワクチン投与によって総費用の削減が期待できると考えられた 以上より 高齢者に対する肺炎球菌ワクチン投与により 総費用 ( 医療費 ) の削減並びに健康アウトカム (QALY) の改善が得られるものと結論づけられた なお 割引を考慮しない場合 例えば毎年 65 歳の方全員へのワクチン接種を行い ワクチン接種の効果が 5 年間持続すると仮定すると 1 年間でのワクチン導入コストが 144 億円発生する一方 肺炎関連の医療費が 5,259 億円削減され 保健医療費全体では1 年あたり約 5, =5,115 億円が削減されるものと推計される 3

89 今回は 5 年以上の予防効果並びに再接種した場合の効果に関して信頼できる データがないため 分析期間を投与後 5 年間に限った経済評価を行った 今後 追加情報が得られた段階で生涯期間の影響を検討する必要がある 図 1 マルコフモデル ( 成人用モデル ) 表 3 肺炎球菌ワクチン ( 成人用 ) の費用対効果推定 1)65 歳コホート 一人当たりとして計算 コホート全体 万人 ( 円,QALY) ( 億円,x10,000QALY) 投与 非投与 増分 投与 非投与 増分 ワクチン接種費 8, , 医療費 146, , ,008 2,559 7,433-4,874 総費用 154, , ,744 2,703 7,433-4,730 QALY 感度分析で割引率を 0% から 5% の間で変化させた場合 総費用は 4,499 億円 ~5,115 億円 の削減となる 効果に関しては文献 1 の 65 歳以上の集団データを使用して推定した 2)70 歳コホート 一人当たりとして計算 コホート全体 万人 ( 円,QALY) ( 億円,x10,000QALY) 投与 非投与 増分 投与 非投与 増分 ワクチン接種費 8, , 医療費 136, , ,450 1,808 5,246-3,438 総費用 145, , ,186 1,917 5,246-3,329 QALY 感度分析で割引率を 0% から 5% の間で変化させた場合 総費用は 2,941 億円 ~3,599 億円 の削減となる 効果に関しては文献 1 の 65 歳以上の集団データを使用して推定した 4

90 3)75 歳コホート 一人当たりとして計算 コホート全体 万人 ( 円,QALY) ( 億円,x10,000QALY) 投与 非投与 増分 投与 非投与 増分 ワクチン接種費 8, , 医療費 245, , ,737 3,074 7,261-4,188 総費用 253, , ,473 3,177 7,261-4,084 QALY 感度分析で割引率を 0% から 5% の間で変化させた場合 総費用は 3,909 億円 ~4,374 億円 の削減となる 効果に関しては文献 1 の 75 歳以上の集団データを使用して推定した 4)80 歳コホート 一人当たりとして計算 コホート全体 97.8 万人 ( 円,QALY) ( 億円,x10,000QALY) 投与 非投与 増分 投与 非投与 増分 ワクチン接種費 8, , 医療費 155, , ,727 1,524 3,624-2,100 総費用 164, , ,463 1,605 3,624-2,019 QALY 感度分析で割引率を 0% から 5% の間で変化させた場合 総費用は 1,491 億円 ~2,162 億円 の削減となる 効果に関しては文献 1 の 75 歳以上の集団データを使用して推定した 5)85 歳コホート 一人当たりとして計算 コホート全体 59.8 万人 ( 円,QALY) ( 億円,x10,000QALY) 投与 非投与 増分 投与 非投与 増分 ワクチン接種費 8, , 医療費 226, , ,830 1,354 2, 総費用 234, , ,566 1,403 2, QALY 感度分析で割引率を 0% から 5% の間で変化させた場合 総費用は 632 億円 ~693 億円の削 減となる 効果に関しては文献 11 の集団データ ( 平均年齢 85 歳 ) を使用して推定した 5

91 追加参考文献 1. Kawakami K et al. Effectiveness of pneumococcal polysaccharide vaccine against pneumonia and cost analysis for the elderly who receive seasonal influenza vaccine in Japan. Vaccine, 28: , Cai et al. Cost-effectiveness analysis of influenza and pneumococcal vaccines among elderly people in Japan. Kobe J Med Sci 52:97-109, Christenson B et al. Additive preventive effect of influenza and pneumococcal vaccines in elderly persons. Eur Respir J 23: , Evers SM, et al. Cost-effectiveness of pneumococcal vaccination for prevention of invasive pneumococcal disease in the elderly: an update for 10 Western European countries. Eur J Clin Microbiol Infect Dis 26:531-40, Ament A, et al. Cost-effectiveness of pneumococcal vaccination of older people: a study in 5 western European countries. Clin Infect Dis 31: , Merito M, et al. Cost-effectiveness of vaccinating for invasive pneumococcal disease in the elderly in the Lazio region of Italy.Vaccine 25: Mangtani P, et al. An economic analysis of a pneumococcal vaccine programme in people aged over 64 years in a developed country setting. Int J Epidemiol 34: , Melegaro A, et al. The 23-valent pneumococcal polysaccharide vaccine. Part II. A cost-effectiveness analysis for invasive disease in the elderly in England and Wales. Eur J Epidemiol 19: , Smith KJ, et al. Alternative strategies for adult pneumococcal polysaccharide vaccination: a cost-effectiveness analysis. Vaccine 26: , Sisk JE, et al. Cost-effectiveness of vaccination against pneumococcal bacteremia among elderly people. JAMA 278: Erratum in JAMA 283:341, Maruyama T et al. Efficacy of 23-valent pneumococcal vaccine in preventing pneumonia and improving survival in nursing home residents: double blind, randomized and placebo controlled trial. BMJ, E pub,

92 平成 22 年度厚生労働科学研究 インフルエンザ及び近年流行が問題となっている呼吸器感染症の分析疫学研究 ( 研究代表者廣田良夫 ) 分担研究 Hib( インフルエンザ菌 b 型 ) ワクチン等の医療経済性の評価についての研究 赤沢学 ( 明治薬科大学公衆衛生 疫学 ) 池田俊也 ( 国際医療福祉大学薬学部 ) 五十嵐中 ( 東京大学大学院薬学系研究科 ) 小林美亜 ( 国立病院機構本部総合研究センター ) 佐藤敏彦 ( 北里大学医学部付属臨床研究センター ) 白岩健 ( 立命館大学総合理工学院 ) 須賀万智 ( 東京慈恵会医科大学環境保健医学講座 ) 杉森裕樹 ( 大東文化大学スポーツ 健康科学部 ) 種市摂子 ( 早稲田大学教職員健康管理室 ) 田倉智之 ( 大阪大学医学部 ) 平尾智広 ( 香川大学医学部 ) 和田耕治 ( 北里大学医学部 ) ( 班長 肺炎球菌ワクチン担当 ) 7

93 評価 分析編 肺炎球菌ポリサッカライドワクチン ( 成人用 ) の考え方 生物学的製剤基準上の名称 : 肺炎球菌ワクチン 1. 対象疾病の影響について対象疾病ワクチンに含まれる血清型肺炎球菌による感染症 ( 侵襲性感染 [ 本来であれば菌が存在しない血液 髄液 関節液などから菌が検出される病態 ] と肺炎の両方を含む ) (1) 対象疾病の個人および社会に対する影響 1 臨床症状 i) 臨床症状と経過肺炎により食思不振 咳漱 喀痰 発熱 呼吸困難などが見られるが 特に高齢者では これらの症状がはっきりと現れない場合がある 菌血症 / 敗血症では発熱を主症状とするが 感染増悪にともない血圧低下 DIC 臓器不全にいたる場合もある ii) 鑑別を要する他の疾患他の細菌による呼吸器感染 他の細菌による菌血症 iii) 検査法培養 尿中抗原検査 PCR ( 体外診断薬としてキット化されたものは無い ) 2 疫学状況 i) わが国における状況わが国の 10 万人当たり年齢層別の肺炎による死亡率を図 1 に示す (2006 年人口動態統計 ) 8

94 0 歳 歳以上 年間 10 万人当たり死亡数 図 1 年齢層別肺炎による死亡率 総数男女 全年齢層で 肺炎は日本人の死亡率の第 4 位をしめる 75 歳を超えてから肺炎による死亡率は男女ともに急激な増加が見られ とくに 男性の死亡率では 歳の第 3 位 (919.7 人 /10 万 年 ) 歳の第 2 位 ( 人 /10 万 年 ) 90 歳以上の第 1 位 ( 人 /10 万 年 ) を占める 肺炎球菌による肺炎は このうち 1/4-1/3 と考えられている 1,2 ii) 患者数人口当たりの肺炎罹患率は 対象となる群の年齢 生活様式 基礎疾患の有無により様々である 三重県の高齢者介護施設入所者の場合 91/1000 人 年という高い肺炎罹患率が認められている ( 表 1 参照 ) iii) 保菌の割合高齢者では 3.1%-5.5% の割合で上咽頭に保菌しているという報告がある 3 この菌が何らかのきっかけで 直接下気道に進展すると 気管支炎 肺炎などの下気道感染を起こす iv) 感染源 感染経路ヒト ヒトの飛沫感染である 3 治療法全身管理 抗菌薬の投与 近年 β-ラクタム剤非感受性株の増加に伴い 治療困難な症例が増加している マクロライドは 耐性菌増加のため 肺炎球菌感染症治療薬としては使用されなくなっている 9

95 予防接種の効果 目的 安全性等について (1) ワクチン製剤について 1 わが国で現在利用できるワクチン 23 価ポリサッカライドワクチン (2 歳以上 主として高齢者 ) 当初 14 価ワクチンとして 1980 年代に開発され その後 23 価ワクチンとしてわが国で 1988 年に承認された 2006 年には新製法によるワクチンが承認された 2 製剤の特性 (23 価ポリサッカライドワクチン ) 成分 23 種類のポリサッカライド (1, 2, 3, 4, 5, 6B, 7F, 8, 9N, 9V, 10A, 11A, 12F, 14, 15B, 17F, 18C, 19A, 19F, 20, 22F, 23F, 33F) 各 25 g/dose を含有する注射剤であり 0.25w/v% フェノールを含む 成分であるポリサッカライドは T 細胞非依存性の抗体産生を惹起する (2) 予防接種の効果 1 ワクチンのカバー率肺炎球菌には 93 種類の血清型があり ワクチンはそのうちの一部の血清型多糖を含む 1980 年から 3 年かけて国内で収集された通常であれば無菌である検体 呼吸器由来検体 耳漏検体から検出された肺炎球菌の中で 血清型別にみた分離頻度を 検体別に図 2 に示す 4 10

96 3 19F 23F 6B 14 11A 19A 9V 22F 18C 4 15B 9N 10A 7F 12F F 8 17F 6A 15A 23A others 分離頻度 (%) 1 2 図 2 検体別の血清型分布 ワクチン含有血清型 血液 髄液, 経気管支吸引液喀痰 咽頭スワブ耳漏ワクチンのカバー率は 血液 / 髄液 / 経気管支吸引液由来株で 76.2% (128/160) 喀痰 / 咽頭スワブ由来株で 66.9% (218/326) 耳漏由来株で 90.5% (67/74) であった また 年の肺炎球菌性呼吸器感染症の全国調査では市中肺炎患者由来肺炎球菌 114 株のうち 82.5% がワクチンに含まれる血清型であった 年に全国で分離された成人の侵襲性感染症由来の肺炎球菌 301 株の血清型分布の調査では 85.4% がワクチンに含まれる血清型であった 6 近年 成人侵襲性感染から血清型 12F 肺炎球菌が全国的に分離されている この分離菌は パルスフィールドゲル電気泳動解析により 単一のクローンに由来するものであることが示されている ( 12F は肺炎球菌ポリサッカライドワクチンに含まれる血清型である 2 コホート研究により示されたワクチンの効果 i) 二重盲検試験わが国で 1006 人の高齢者介護施設入所者 ( 平均 85 歳 ) を無作為に肺炎球菌ワクチン接種群 (502 人 ) と非接種群 (504 人 ) に割付け 3 年間の肺炎 肺炎球菌性肺炎の発症および死亡について比較検討した結果を表 1 表 2 に示す ( 文献 2 Table 2, 3 より編集 ) 本研究の背景として わが国の高齢者介護施設における肺炎球菌性肺炎の発症頻度が 40.7/1000/ 年と高いことが注目される 両群ともほぼ 100% インフルエンザワクチンの接種が行われている 表 1 肺炎球菌ワクチンによる肺炎防止効果 (1000 人 年あたり罹患率 ) 11

97 1 2 ワクチン接 ワクチン非接 減尐率 (%) P 値 種群 (n=502) 種群 (n=504) (95% 信頼区間 ) すべての肺炎 ( ) 肺炎球菌性肺炎 ( ) 表 2 肺炎球菌ワクチンによる 肺炎を原因とする死亡に対する減尐効果 ワクチン接種群 (n=502) すべての肺炎 13/63 による死亡 (20.6%) ワクチン非接 P 値種群 (n=504) 26/ (25.0%) 肺炎球菌性肺 0/14 13/ 炎による死亡 (0%) (35.1%) この試験では 肺炎球菌性肺炎の診断に喀痰培養 血液培養に加え 尿中抗原検査を用いている これにより 肺炎球菌による肺炎を高感度に診断している 分離肺炎球菌の血清型別はおこなわれていないため どのような血清型の菌に対して効果が見られたかは不明であるが 肺炎球菌性肺炎の重症度 死亡率はワクチン群で有意に低下している ii) オープンラベル無作為比較試験わが国で 786 人の 65 歳以上の高齢者を肺炎球菌ワクチン接種群 (394 人 ) と非接種群 (392 人 ) に割り付け 2 年間のすべての肺炎による入院について比較検討した結果を表 3 に示す ( 文献 7, Table3 より編集 ) 両群とも全例でインフルエンザワクチンの接種が行われている この試験では 肺炎球菌ワクチン接種による 75 歳以上 歩行困難者のカテゴリーにおけるすべての肺炎による入院頻度の有意な減尐効果が示されている しかし 65 歳以上のカテゴリーでは有意差は見られていない なお 両群のすべての肺炎による死亡には差を認めなかった 12

98 表 3 65 歳以上の高齢者における肺炎球菌ワクチンのすべての肺炎による入院 の減尐効果 (2 年間 ) ワクチン接 ワクチン非接 減尐率 (%) P 値 種群 種群 (95% 信頼区間 ) 65 歳以上 60/391 76/ ( ) 歳以上 46/261 67/ ( ) 歩行困難者 16/63 42/ ( ) iii) 後ろ向きコホート研究 iii-1) 米国において 47,365 人の 65 歳以上の高齢者 (26,313 人がワクチン接種者 21,052 人が非接種者 ) を 3 年間にわたり観察し 市中肺炎による入院 外来で治 療した肺炎 菌血症を伴う肺炎を指標に 肺炎球菌ワクチンの効果を検討した 結果を表 4 に示す ( 文献 8 Table2より編集 ) 表 4 65 歳以上高齢者に対する肺炎球菌ワクチンによる効果 (1000 人 年あたりの数 ) ワクチン ワクチン 調整後のハザード比 P 値 接種群 非接種群 (95% 信頼区間 ) 入院を必要と した市中肺炎 ( ) 外来で治療し た肺炎 ( ) すべての血清 型肺炎球菌に ( ) よる菌血症 退院時肺炎と 診断された入 ( ) 院 すべての原因 による死亡 ( ) 肺炎球菌ワクチンは 肺炎球菌による菌血症を 0.68/1000 人 年から 0.38/1000 人 年に 44% 減尐させる効果は見られたが 肺炎による入院 外来で治療した 肺炎に対する効果は見られなかった この研究では 肺炎球菌性肺炎の診断に は尿中抗原検査を用いていない しかし 細菌性肺炎全体の中で肺炎球菌性肺 炎が 1/4-1/3 を占めることを考慮すると 肺炎球菌ワクチンには 肺炎球菌性肺 炎を防止する効果はみられないと文献の中で考察されている 13

99 iii-2, 3) 肺炎の重症度を比較した研究としては以下のものがある iii-2) 1999 年から 2003 年に米国で市中肺炎により入院した患者さんの入院後の 死亡率は ワクチン接種者 (7320 人 年齢 71.7±16.6) のほうが非接種者 (14585 人 年齢 73.5±18.8) よりも低い ( 入院後 72 時間以内の死亡, 相対危険率 0.23 [95% 信 頼区間 ]; 入院後 72 時間より後の死亡, 相対危険率 0.39 [95% 信頼区間 ]) 9 iii-3) 2000 年から 2002 年にカナダで市中肺炎により入院した患者さんの入院後 の死亡率ないし集中治療室への入室は ワクチン接種者 (760 人 65 歳以上 88%) のほうが非接種者 (2655 人 65 歳以上 60%) よりも低い ( オッズ比 0.62 [95% 信頼 区間 ]) 10 iv) 前向きコホート研究 ( インフルエンザワクチンとの併用効果 ) スウェーデンで行われた 65 歳以上の高齢者を対象とした前向きコホート研究で インフルエンザワクチン単独接種群 (29,346 人 ) 肺炎球菌ワクチン単独接種群 (23,249 人 ) 両方接種群(72,107 人 ) 両方とも非接種群(134,045 人 ) における インフルエンザによる入院 肺炎による入院 すべての血清型の肺炎球菌によ る侵襲性感染症による入院の数を比較した結果を表 5 に示す ( 文献 11 Table3 より編集 ) 表 5 ワクチン接種状態による 10 万人あたりの入院数の比較 診断 インフルエンザ 肺炎球菌ワクチ 両方接種群 非接種群 ワクチン単独接 ン単独接種群 種群 インフルエ ンザ 0.74( ) 0.70( ) 0.63( ) <0.1 <0.1 <0.001 肺炎 ( ) 0.91( ) 0.71( ) <0.2 <0.06 < 肺炎球菌性 侵襲性感染 0.42( ) 0.27( ) 0.56( ) <0.1 <0.06 < 万人当たり入院数の下にワクチン非接種群に対するオッズ比 95% 信頼区間 P 値を示している 肺炎球菌ワクチンとインフルエンザワクチン併用接種群において 非接種群に 14

100 対して肺炎による入院の減尐が見られている (3) 予防接種の目的効能 効果 ( 添付文書記載 ) 投与対象 :2 歳以上で肺炎球菌による重篤疾患に罹患する危険が高い次のような個人および患者脾摘患者における肺炎球菌による感染症の発症予防 ( 保険適用 ) 肺炎球菌による感染症の予防鎌状赤血球疾患 あるいはその他の原因で脾機能不全である患者心 呼吸器の慢性疾患 腎不全 肝機能障害 糖尿病 慢性髄液漏等の基礎疾患のある患者高齢者免疫抑制作用を有する治療が予定されている者で治療開始まで尐なくとも 14 日以上の余裕のある患者小児には肺炎球菌コンジュゲートワクチンが利用可能であるため このワクチンは 主として 65 歳以上の高齢者を対象としたワクチンとなっている (4) 安全性安全性に関する情報を表 6 に示す 表 6 国内臨床試験で見られた副反応の頻度 ( 添付文書記載 ) 65 例注射部位疼痛 72.3% 注射部位発赤 26.2% 注射部位腫脹 23.1% 頭痛 6.2% 腋下痛 4.6% 注射部位掻痒感 3.1% 重大な副反応としてアナフィラキシー様反応 血小板減尐 知覚異常 ギランバレー症候群等の急性神経根症状 蜂巣炎 蜂巣炎様反応 ( いずれも頻度不明 ) が自発報告あるいは海外において認められている ( 添付文書記載 ) 再接種米国 ACIP は 65 歳未満で肺炎球菌ワクチンを接種し その後 5 年経過した場合には再接種を推奨している 12 日本では 再接種が禁忌とされていたが

101 年 10 月添付文書が改訂され 過去に多価肺炎球菌ポリサッカライドワクチンを 接種されたことのある者が接種不適当者より削除され 接種要注意者とされた ことにより再接種が可能となった ただし 過去 5 年以内に 多価肺炎球菌莢 膜ポリサッカライドワクチンを接種されたことのある者では 本剤の接種によ り注射部位の疼痛 紅斑 硬結等の副反応が 初回接種よりも頻度が高く 程 度が強く発現すると報告されていることから 本剤の再接種を行う場合には 再接種の必要性を慎重に考慮した上で 前回接種から十分な間隔を確保して行 う旨が重要な基本的事項に追加された 国内での再接種による抗体価上昇 副反応に関しては 文献 13 にレビューされ ている 海外での初回接種および再接種後の抗体価推移に関しては文献 14 に記 載されている (5) 医療経済学的な評価 1-1 先行研究 1(Kawakami ら 7 ) 国内で実施したオープンラベル無作為比較試験において得られた肺炎球菌ワ クチンのワクチン費用を含むすべての肺炎による直接医療費の削減効果を表 7 に示す 65 歳以上の高齢者において 肺炎球菌ワクチンは 全症例における 1 年間のすべての肺炎による直接医療費を有意に削減した 75 歳以上 歩行困難 者のカテゴリーでは さらに大きな直接医療費の削減効果が認められた 表 7 65 歳以上の高齢者における肺炎球菌ワクチンのすべての肺炎による直接 医療費の削減効果 (1 年間 ) ワクチン ワクチン非 削減額 ( 円 ) P 値 接種群 接種群 (95% 信頼区間 ) 65 歳以上 57, ,875 76,015(1, ,960) 歳以上 68, , ,085(15, ,530) 歩行困難者 148, , ,705 (91, ,755) 先行研究 2(Cai ら 15 ) 国内におけるワクチンのコスト 肺炎治療に必要な医療費 入院により失わ れる生産性をもとに モンテカルロシュミレーションを当てはめワクチンの経 済効果を算出した文献がある ワクチン接種を行った場合 65 歳以上の高齢者 100,000 人のコホートシミュレーションの結果 非接種に比して延長される余命 1 年あたりにかかる費用効果比 (CER) がインフルエンザワクチン単独だと 516,332 円でインフルエンザワクチンと肺炎球菌ワクチンを併用すると 459,874 円に減尐するという結果となった この計算には文献 11 で示されたワ クチンの効果が用いられている 16

102 医療経済評価の文献レビュー その他の成人の肺炎球菌感染症に対する先行研究として 肺炎球菌ワクチン ( 成人用 ) の導入もしくは皆接種制度 (universal vaccination) を実施した場 合の医療経済的評価が多く行われている PubMed に収載された最近 10 年間に先 進諸国で行われた研究を表 8 に示した 医療提供者の視点で分析を行った結果 ( 高齢者を対象とするため保健医療費のみを考慮 ) 成人への肺炎球菌ワクチン 接種では 費用対効果に優れるとする報告が多数を占めている 表 8 その他の肺炎球菌ワクチン ( 成人用 ) の医療経済評価の文献レビュー 国筆頭著者, 年 10 European countries Evers Europe countries Ament Italy Merito UK Mangtani UK Melegaro US Smith US Sisk ワクチン対象者 65 歳以上 65 歳以上 65 歳以上 64 歳以上 65 歳以上 50 歳以上 65 歳以上 注 ) 換算レート (2010 年 10 月 4 日現在 ) 日本円 米ドル イギリス ポンド ユーロ 結論 IPD 予防 106 万円 ~272 万円 /QALY 獲得 ( 生涯 ) IPD 又は肺炎予防 126 万円から 379 万円 /QALY 獲得 ( 生涯 ) 髄膜炎又は感染性肺炎予防 398 万円 / 感染予防 268 万円 / 生存年延長 (5 年間 ) 髄膜炎又は非感染性肺炎予防 73 万円 / 生存年延長 (10 年間 ) IPD 予防 全高齢者の場合は 112 万万円 / 生存年延長 ハイリスク者のみに限定した場合は 125 万円 / 生存年延長 ( 生涯 ) IPD 予防 65 歳で 1 回接種の場合 28 万円 /QALY 獲得 歳で 2 回接種の場合 193 万円 /QALY 獲得 50 歳から 80 歳まで 10 年おきに 4 回接種の場合 558 万円 /QALY 獲得 ( 生涯 ) IPD 予防 全高齢者において費用削減できる ( 生涯 ) スイス フラン カナダ ドル オーストラ リアドル 医療経済評価に用いられたワクチン価格 ( 安いものから順に記載 ) スウェーデン 1206 円 アメリカ 1324 円 フランス 1906 円 イギリス 1998 円 スコット ランド 1998 円 スペイン 1998 円 デンマーク 2250 円 オランダ 2354 円 ベルギー 2400 円 イタリア 3307 円 ドイツ 3456 円 17

103 厚生労働科学研究班による分析平成 21 年の 65 歳 (174.7 万人 ) 70 歳 (132.0 万人 ) 75 歳 (125.1 万人 ) 80 歳 (97.8 万人 ) 85 歳 (59.8 万人 ) の人口コホートを対象に 肺炎球菌ワクチン ( 成人用 ) を投与した場合 ( 接種率 100%) と投与しなかった場合 ( 接種率 0%) の QALY(quality-adjusted life year) 並びに医療費の比較を行った Sisk ら 22 が米国で構築したマルコフモデルを参考に図 3 に示す分析モデルを作成した 肺炎球菌による感染症として肺炎を取り扱い 1 ヶ月周期で状態が変化すると仮定して分析を行った 厚生労働科学研究 ワクチンの医療経済性の評価 研究班 ( 班長池田俊也 ) で定めた ワクチン接種の費用対効果推計法 に従い分析期間は 5 年間 割引率は年率 3% とし 感度分析で年率を 0% から 5% に変化させた場合の影響を見た また 医療費に関しては高齢者のため非保健医療費および生産性損失 ( 罹患並びに死亡による損失 ) は考慮せず 保健医療費のみの比較とした ( 支払者の視点 ) その他 移行確率 医療費等に関するデータは国内で実施された 65 歳以上の高齢者を対象にしたオープンラベル無作為比較試験 7 (65 歳から 80 歳コホート ) 並びに高齢者介護施設入所者を対象にした二重盲検試験 2 (85 歳コホート ) に従った ワクチン接種は 1 回のみとし ワクチンの効果は Sisk ら 22 の報告に従い 年々低下するものとした なお ワクチンの効果は肺炎の罹患率減尐のみで 死亡率には影響しない ( 罹患しない場合の死亡率は各年齢コホートの生命表に従い 男女の平均値を用いた ) また すべての対象者がインフルエンザワクチンを毎年接種していると仮定した その結果を表 9 に示す 効果に関しては 肺炎に感染した場合の効用値 0.85 を用いて QALY を計算した その結果 各年齢コホートでは合計で 5,590QALY (65 歳コホート ) 4,356QALY(70 歳コホート ) 6,380 QALY(75 歳コホート ) 4,010QALY(80 歳コホート ) 1,854 QALY(85 歳コホート ) を獲得出来ることが示された 一方 医療費に関してはワクチン投与によって肺炎の外来医療費 入院医療費が減ることにより 接種率 100% の場合 各年齢コホート 1 人当たり 12 万円から 33 万円削減出来ることが示された これにコホート全体の人数を掛け合わせると 65 歳コホートで 4,874 億円 70 歳コホートで 3,438 億円 75 歳コホートで 4,188 億円 80 歳コホートで 2,100 億円 85 歳コホートで 705 億円が削減されると計算できる いずれの年齢コホートにおいても ワクチン接種費をワクチン代と接種代を合わせて 1 回 8,264 円 ( 消費税 5% を含む ) とした場合 ワクチン接種費 ( 総額 65 歳コホート 144 億円 70 歳コホート 109 億円 75 歳コホート 103 億円 80 歳コホート 81 億円 85 歳コホート 49 億円の投入が必要 ) よりもワクチン投与によって削減できる医療費が上回るため ワクチン投与によって総費用の削減が期待できると考えられた 18

104 以上より 高齢者に対する肺炎球菌ワクチン投与により 総費用 ( 医療費 ) の削減並びに健康アウトカム (QALY) の改善が得られるものと結論づけられた なお 割引を考慮しない場合 例えば毎年 65 歳の方全員へのワクチン接種を行い ワクチン接種の効果が 5 年間持続すると仮定すると 1 年間でのワクチン導入コストが 144 億円発生する一方 肺炎関連の医療費が 5,259 億円削減され 保健医療費全体では1 年あたり約 5, =5,115 億円が削減されるものと推計される 今回は 5 年以上の予防効果並びに再接種した場合の効果に関して信頼できるデータがないため 分析期間を投与後 5 年間に限った経済評価を行った 今後 追加情報が得られた段階で生涯期間の影響を検討する必要がある 図 3 マルコフモデル ( 成人用モデル ) 表 9 肺炎球菌ワクチン ( 成人用 ) の費用対効果推定 1)65 歳コホート 一人当たりとして計算 コホート全体 万人 ( 円,QALY) ( 億円,x10,000QALY) 投与 非投与 増分 投与 非投与 増分 ワクチン接種費 8, , 医療費 146, , ,008 2,559 7,433-4,874 総費用 154, , ,744 2,703 7,433-4,730 QALY 感度分析で割引率を 0% から 5% の間で変化させた場合 総費用は 4,499 億円 ~5,115 億円 の削減となる 効果に関しては文献 7 の 65 歳以上の集団データを使用して推定した 19

105 )70 歳コホート 一人当たりとして計算 コホート全体 万人 ( 円,QALY) ( 億円,x10,000QALY) 投与 非投与 増分 投与 非投与 増分 ワクチン接種費 8, , 医療費 136, , ,450 1,808 5,246-3,438 総費用 145, , ,186 1,917 5,246-3,329 QALY 感度分析で割引率を 0% から 5% の間で変化させた場合 総費用は 2,941 億円 ~3,599 億円 の削減となる 効果に関しては文献 7 の 65 歳以上の集団データを使用して推定した 3)75 歳コホート 一人当たりとして計算 コホート全体 万人 ( 円,QALY) ( 億円,x10,000QALY) 投与 非投与 増分 投与 非投与 増分 ワクチン接種費 8, , 医療費 245, , ,737 3,074 7,261-4,188 総費用 253, , ,473 3,177 7,261-4,084 QALY 感度分析で割引率を 0% から 5% の間で変化させた場合 総費用は 3,909 億円 ~4,374 億円 の削減となる 効果に関しては文献 7 の 75 歳以上の集団データを使用して推定した 4)80 歳コホート 一人当たりとして計算 コホート全体 97.8 万人 ( 円,QALY) ( 億円,x10,000QALY) 投与 非投与 増分 投与 非投与 増分 ワクチン接種費 8, , 医療費 155, , ,727 1,524 3,624-2,100 総費用 164, , ,463 1,605 3,624-2,019 QALY 感度分析で割引率を 0% から 5% の間で変化させた場合 総費用は 1,491 億円 ~2,162 億円 の削減となる 効果に関しては文献 7 の 75 歳以上の集団データを使用して推定した 20

106 )85 歳コホート一人当たりとして計算コホート全体 59.8 万人 ( 円,QALY) ( 億円,x10,000QALY) 投与非投与増分投与非投与増分ワクチン接種費 8, , 医療費 226, , ,830 1,354 2, 総費用 234, , ,566 1,403 2, QALY 感度分析で割引率を 0% から 5% の間で変化させた場合 総費用は 632 億円 ~693 億円の削減となる 効果に関しては文献 2 の集団データ ( 平均年齢 85 歳 ) を使用して推定した 3. 予防接種の実施について (1) 予防接種の目的を果たすための接種率についてハイリスクグループ ( 高齢者 介護施設入所者など ) に対する接種率は高く維持する必要がある しかし 以下のような問題点がある 集団免疫効果ポリサッカライドを成分とするワクチンを接種しても 上咽頭の保菌状態に変化は見られないことから このワクチンには集団免疫効果はないと考えられている 23. 予防接種の効果の持続期間ワクチン接種による抗体価は 接種後徐々に低下することが示されている 14 実際の感染防止効果が接種後どれくらいの期間持続するか 詳細は不明である (2) ワクチンは導入可能か 1 承認および補助の状況 2010 年現在 日本を含む世界 61 カ国で承認されている 国内では 2010 年 5 月 28 日時点で 全国 257 市町村で接種費用の一部公費負担が行われている 2000 年以降の累積出荷量を 2010 年推計の 65 歳以上高齢者で割って算出した接種率は 7.8% となる 2 供給体制製造販売会社によると 平成 23 年度は 万本供給可能とのことである 3 勧奨される実施要領用法 容量 1 回 0.5 ml を筋肉内または皮下に注射する 接種スケジュール単回接種 および添付文書に記載された条件を満たす場合は再接種可 21

107 総合的な評価 (1) インパクトに対する評価成人における肺炎球菌感染症には 侵襲性感染症も認められるものの その多くは菌血症を伴わない肺炎である 本邦においては 75 歳を超えてから肺炎による死亡率は男女ともに急激な増加が見られて とくに 男性の死亡率では 歳の第 3 位 (919.7 人 /10 万 年 ) 歳の第 2 位 ( 人 /10 万 年 ) 90 歳以上の第 1 位 ( 人 /10 万 年 ) を占める 肺炎球菌による肺炎は このうち 1/4-1/3 と考えられている また わが国においては 高齢者介護施設入所者 ( 平均年齢 85 歳 ) における肺炎球菌性肺炎の発症頻度が 40.7/1000/ 年と高いことが注目される これらのデータから成人における 特に高齢者におけるインパクトは非常に大きいと考えられ これらが実際に高齢者医療の現場や医療費に対しても影響しているのも事実である (2) ワクチンに対する評価 23 価のポリサッカライドワクチン ( 以降成人用肺炎球菌ワクチン ) は 20 年以上の歴史があり その安全性について大きな疑義はない 効果については 諸外国からの報告では肺炎球菌性肺炎の重症度 死亡率はワクチン群で有意に低下しているという報告がある一方では 肺炎球菌性肺炎に対する予防効果は見られなかったとするものもある また 肺炎球菌ワクチンとインフルエンザワクチンの併用接種群においては すべての肺炎による入院が非接種群に比較して減尐したという報告もある 一方 最近わが国から報告された高齢者施設入所者を対象とした二重盲検試験では 肺炎球菌性肺炎の罹患率 死亡率は肺炎球菌ワクチン群で有意に低下している また我が国の 65 歳以上の高齢者 ( 平均 78 歳 ) を対象としたオープンラベル試験では 75 歳以上 歩行困難者のカテゴリーですべての肺炎による入院に対する有意な減尐効果が示されているが 65 歳以上全体では有意な差は見られなかった これらの PPV23 の効果に関する研究はインフルエンザワクチンとの併用によるものがほとんどであるが これは PPV23 の効果は併用した場合に限られるという意味ではなく 相乗効果という意味であり PPV23 単独使用における効果を否定しているものではない これらを理解した上で インフルエンザワクチンとの併用が望ましいと考える 医療経済学的には 医療提供者の視点で分析を行った結果 ( 高齢者を対象とするため保健医療費のみを考慮 ) 成人への肺炎球菌ワクチン接種では 費用対効果に優れるとする報告が多数を占めている 我が国における推計でも ワクチン接種費用をワクチン代と接種代を合わせて 1 回 8,264 円 ( 消費税 5% を含む ) とした場合 ワクチン接種費用 (65 歳コホート 144 億円 70 歳コホート 109 億 22

108 円 75 歳コホート 103 億円 80 歳コホート 81 億円 85 歳コホート 49 億円 ) よりもワクチン投与によって削減できる費用が上回るため ワクチン投与によって費用削減が期待できると考えられた 獲得 QALY 数についての推計でも 65 歳コホート 70 歳コホート 75 歳コホート 80 歳コホート 85 歳コホートでは それぞれのコホートにワクチンを導入することで 5,590QALY 4,356QALY 6,380 QALY 4,010QALY 1,854 QALY を獲得出来ることが示され 高齢者に対する肺炎球菌ワクチン投与により 費用の削減並びに健康アウトカムの改善が得られるものと結論づけられた (3) 結論本ワクチンの効果については種々の報告があるものの 我が国のデータにおいて 75 歳以上で有意に肺炎による入院頻度が低下している事実は注目すべきであって 今後の更なる高齢化を考慮すれば 我が国において本ワクチンを定期接種に導入することが正当化されると考えられ これはインフルエンザワクチンとの併用が推奨される (4) 導入にあたっての課題 1これまでの報告によると本ワクチンによる免疫は徐々に減衰していき 免疫のメモリは誘導されない このため 追加接種の必要性が議論されてきた 米国 ACIP は 65 歳未満で肺炎球菌ワクチンを接種し その後 5 年経過した場合には再接種を推奨しており 日本でも 2009 年 10 月より再接種が可能となった しかしながら 再接種は初回接種ほどの抗体価の上昇は認められないとされており 再接種の効果については今後も検討されるべきである 2 本ワクチンは肺炎球菌性肺炎の罹患や死亡に対して一定の効果は認められるものの その持続期間や免疫原性については今後も改善の余地がある 3 現在 小児においては 7 価コンジュゲートワクチン ( 小児用肺炎球菌ワクチン ) が導入されている国が多いが これらによって成人におけるワクチン含有血清型の肺炎球菌侵襲性感染症も減少することが報告されている わが国においても 小児用 7 価コンジュゲートワクチンの接種率上昇に伴い 同様な変化が予想されるものの わが国における成人の侵襲性感染症由来の肺炎球菌株の7 価コンジュゲートワクチンによるカバー率は 38.5% と低いことにも留意する必要がある 6 成人肺炎球菌感染症の継続的なサーベイランスと その結果に基づく本ワクチンの定期的な再評価が必要である 4 各国で 13 価コンジュゲートワクチンの成人に対する治験が開始されている わが国における成人由来肺炎球菌のサーベイランスデータおよび知見で得られる免疫原性のデータに基づき 13 価コンジュゲートワクチンと 23 価ポリサッカライドワクチンの接種方法の検討が必要である 23

109 参考文献 1. 斉藤若奈ほか : 慢性呼吸器疾患患者における 23 価肺炎球菌ワクチン接種前後の血清型特異抗体濃度の検討. 日本呼吸器学会誌 43: , Maruyama T et al. Efficacy of 23-valent pneumococcal vaccine in preventing pneumonia and improving survival in nursing home residents: double blind, randomized and placebo controlled trial. BMJ, E pub, Flamaing J et al. Pneumococcal colonization in older persons in a nonoutbreak setting. J Am Geriatr Soc 58: , 福見秀雄ほか : 肺炎球菌ワクチンの臨床応用に関する研究 -わが国における血清型分布 - 感染症学雑誌 58:39-53, Oishi K et al Drug-resistant and serotypes of pneumococcal strains of community-acquired pneumonia among adults in Japan. Respirology. 11: , Chiba N, et al. Serotype and antibiotic resistance of isolates from patients with invasive pneumococcal disease in Japan. Epidemiol Infect. 138:61-68, Kawakami K et al. Effectiveness of pneumococcal polysaccharide vaccine against pneumonia and cost analysis for the elderly who receive seasonal influenza vaccine in Japan. Vaccine, 28: , Jackson L et al. Effectiveness of pneumococcal polysaccharide vaccine in older adults. N Engl J Med 348: , Fisman DN et al. Prior pneumococcal vaccination is associated with reduced death, complications, and length of stay among hospitalized adults with community-acquired pneumonia. Clin Infect Dis 42: , Johnstone J et al. Effect of pneumococcal vaccination in hospitalized adults with community-acquired pneunonia. Arch Intern Med 167: , Christenson B et al. Additive preventive effect of influenza and pneumococcal vaccines in elderly persons. Eur Respir J 23: , Center for Disease Control. Prevention of pneumococcal diseases: Recommendation of Advisory Committee on Immunization Practice. MMWR 46:1-23,

110 厚生労働省科学研究費補助金ワクチンの有用性向上のためのエビデンスおよび方策に関する研究 ( 研究代表者神谷齊 ) 平成 21 年度総括 分担研究報告書 14. Musher DM et al. Safety and antibody response, including antibody persistence for 5 years, after primary vaccination or revaccination with pneumococcal polysaccharide vaccine in middle-aged and older adults. J Infect Dis. 201: , Cai et al. Cost-effectiveness analysis of influenza and pneumococcal vaccines among elderly people in Japan. Kobe J Med Sci 52:97-109, Evers SM, et al. Cost-effectiveness of pneumococcal vaccination for prevention of invasive pneumococcal disease in the elderly: an update for 10 Western European countries. Eur J Clin Microbiol Infect Dis 26:531-40, Ament A, et al. Cost-effectiveness of pneumococcal vaccination of older people: a study in 5 western European countries. Clin Infect Dis 31: , Merito M, et al. Cost-effectiveness of vaccinating for invasive pneumococcal disease in the elderly in the Lazio region of Italy.Vaccine 25: Mangtani P, et al. An economic analysis of a pneumococcal vaccine programme in people aged over 64 years in a developed country setting. Int J Epidemiol 34: , Melegaro A, et al. The 23-valent pneumococcal polysaccharide vaccine. Part II. A cost-effectiveness analysis for invasive disease in the elderly in England and Wales. Eur J Epidemiol 19: , Smith KJ, et al. Alternative strategies for adult pneumococcal polysaccharide vaccination: a cost-effectiveness analysis. Vaccine 26: , Sisk JE, et al. Cost-effectiveness of vaccination against pneumococcal bacteremia among elderly people. JAMA 278: Erratum in JAMA 283:341, Douglas RM et al., Failure of a 14-valent vaccine to reduce carriage in healthy children. Am J Dis Child 140: ,

111 作成担当者予防接種部会ワクチン評価に関する小委員会肺炎球菌ワクチン作業チーム岩田敏慶應義塾大学医学部感染制御センター長大石和徳大阪大学微生物病研究所感染症国際研究センター特任教授大藤さとこ大阪市立大学大学院医学研究科公衆衛生学講師杉森裕樹大東文化大学大学院スポーツ 健康科学研究科教授谷口清洲国立感染症研究所感染症情報センター室長和田昭仁国立感染症研究所細菌第一部室長 ( 五十音順 ) 26

112 ヒトパピローマウイルス (HPV) ワクチン作業チーム報告書 予防接種部会ワクチン評価に関する小委員会ヒトパピローマウイルス (HPV) ワクチン作業チーム

113 ファクトシート追加編 1. 世界での子宮頸がんの疫学状況全世界での子宮頸がんによる死亡数は年間約 27 万人と推定されており (2002 年 ) 女性では 2 番目に多いがんである 発展途上国に限ると女性では最も多いがんとなり 全世界の死亡数の約 80% を占める 2. 我が国での子宮頸がんの疫学状況子宮頸がんの罹患数は 8,474 人 (2005 年 ) 死亡数は 2,519 人 (2009 年 ) であり 全年齢でみると女性ではそれぞれ 9 番目 13 番目に多いがんである 1) 罹患率 (2005 年 ) は人口 10 万人あたり 13.0 死亡率 (2009 年 ) は人口 10 万人あたり 3.9 であり 全年齢の女性でそれぞれ 9 番目 13 番目に高いがんである この傾向は 40 歳以上に限った場合も認められる しかし 40 歳未満に限ると 罹患率は乳房についで 2 番目に 死亡率は乳房 胃についで 3 番目に高いがんとなる 1) 年齢階級別罹患率 (2005 年 5 歳階級 ) は 歳から上昇し始め 25 歳以降は急激に上昇し 40 歳前後でピークに達する ( 図 1) 人口 10 万人あたりの罹患率は 14 歳未満で 歳で 歳で 歳で 歳で 11.5 であり 特に罹患率の高い 歳 歳ではそれぞれ と推計されている 年齢階級別死亡率 (2009 年 5 歳階級 ) は 歳から上昇し始め 歳で横ばいとなった後 70 歳以上で再び上昇する ( 図 2) 1) 人口 10 万対 歳 図 1 年齢階級別子宮頸がん罹患率 (2005 年 ) 1

114 人口 10 万対 歳 図 2 年齢階級別子宮頸がん死亡率 (2009 年 ) 年齢階級別罹患率 死亡率 (5 歳階級 ) の推移を最近 20 年間でみると 罹患率は 25~44 歳で上昇し 45 歳以上で減尐している ( 図 3) 死亡率は 30~59 歳で上昇し 60 歳以上で減尐している ( 図 4) 1) 人口 10 万対 歳 図 3 年齢階級別子宮頸がん罹患率の経年比較 2

115 人口 10 万対 歳 図 4 年齢階級別子宮頸がん死亡率の経年比較 地域がん登録による子宮頸がんの 5 年相対生存率 (1997~1999 診断例 ) は 71.5% である 診断時の臨床病期別にみると 限局 で 92.3% 所属リンパ節に転移があるか隣接臓器 組織に浸潤している 領域 で 53.1% さらに進展した 遠隔 は 10.2% である なお 診断時の臨床進行度は 限局 が 50% を占める 2) 3.HPV 遺伝子型の分布海外の子宮頸部浸潤がん患者から検出される HPV 遺伝子型は HPV16 と HPV18 で約 70% を占めることが 最近改めて報告されている 3) 一方 日本人を対象とした研究に限定したメタアナリシス 4) では PCR 法を用いて尐なくとも 16 種類の HPV 型を分析した 14 編の結果を統合している 対象者総数は 7,262 人 ( 子宮頸部細胞診正常 :4,941 人 LSIL:475 人 HSIL:720 人 浸潤がん :1,126 人 ) であり HPV 陽性率は細胞診正常で 10.2% LSIL で 79.4% HSIL で 89.0% 浸潤がんで 87.4% であった 子宮頸部浸潤がん患者における HPV 型別の頻度は 上位から HPV16(44.8%) HPV18(14.0%) HPV52(7.0%) HPV58(6.7%) HPV33(6.3%) HPV31(5.1%) HPV35(2.3%) HPV51(1.0%) HPV56(0.9%) であり HPV16/HPV18 が 58.8% を占めた 一方 HPV52/HPV58 の占める割合は 13.7% であり 東南アジア 北アフリカ 欧州および北アメリカよりも頻度が高いと考察されている 4. 若年者の性行動これまでに実施された 27 万人近い中高生を対象とした性行動調査においては 平成 16 年から平成 22 年にかけて 中学 3 年生女子の性経験率はこの間 5% 前後で推移し 高校 2 年生女子の性経験率は 25% をピークに年々減尐傾向にある ( 図 5) 5-11) 3

116 30 25 高校 2 年生女子 中学 3 年生女子 年 2005 年 2006 年 2007 年 2008 年 2009 年 2010 年 図 5 中学生 高校生女子の性経験率の年次推移 表 1 我が国の女子の性経験率の年次動向 中学校 3 年生女子の性経験率の年次動向 2004 年 2005 年 2006 年 2007 年 2008 年 2009 年 2010 年 性経験率 ( 女子 ) 5.40% 5.90% 4.40% 4.10% 4.30% 4.90% 5.10% 参加都道府県総数 12 県 12 県 21 県 31 県 38 県 36 県 32 県 参加校数 45 校 30 校 88 校 71 校 101 校 101 校 95 校 参加者総数 ( 男女 ) 12,615 人 3,052 人 8,044 人 9,012 人 11,737 人 12,109 人 11,949 人 女子生徒数 5,988 人 1,559 人 3,984 人 4,404 人 5,775 人 5,865 人 5,788 人 高校 2 年生女子の性経験率の年次動向 2004 年 2005 年 2006 年 2007 年 2008 年 2009 年 2010 年 性経験率 ( 女子 ) 25.0% 24.6% 24.8% 25.1% 19.4% 20.2% 17.6% 参加都道府県総数 10 県 9 県 17 県 26 県 28 県 26 県 30 県 参加校数 29 校 26 校 52 校 44 校 53 校 78 校 74 校 参加者総数 ( 男女 ) 6,422 人 4,166 人 7,901 人 8,026 人 9,768 人 13,555 人 12,767 人 女子生徒数 3,905 人 2,472 人 4,276 人 4,468 人 5,480 人 6,720 人 6,454 人 5. 子宮頸がん予防対策としての観点 HPV ワクチン導入の目的は子宮頸がんとその前がん病変の罹患を減尐させ 子宮頸がんの死亡率を減尐させることにある 感染症対策としての観点でも述べたように HPV 感染から子宮頸がん発症まで 10 年以上が必要であり このワクチンが使用可能になった 2006 年から日が浅いため ワクチン接種した集団において子宮頸がんが減尐するという効果が期待されるものの実際に達成されたという証拠は未だなく 慎重にモニタリングして子宮頸がん罹患が減尐するか否かについて把握する必要がある WHO は 2006 年の Preparing for the introduction of HPV vaccines Policy and programme guidance for countries. において ワクチン導入時には CIN1-2 など検診で早期から検出されるものをターゲットとしたモニタリングを また長期間のモニタリングとして子宮頸がん罹患率および死亡率のモニタリングを行うことを提唱し 結果が判明するまでに 年といったスパンが必要であることを述べている また子宮頸がん 4

117 の罹患や死亡の減尐の効果判定ができるまでは 前がん病変でのモニタリングの必要性を述べている 12) 実際 オランダやニュージーランド オーストラリア カナダ アメリカなどでは HPV ワクチン接種者登録と前がん病変を含むがん登録との照合や ワクチンのカバー率と子宮頸がんの罹患率の解析などが国ごとに計画されている 13-17) 一方 子宮頸部擦過細胞診による子宮頸がん検診は罹患率 死亡率の減尐効果が実証され かつそのインパクトが大きく すでに諸外国でも大きな成果を上げている HPV ワクチンの効果は特定のタイプに限定的と考えられるので ワクチン導入は現在の子宮頸がん検診の実施を前提として行う必要がある さらに HPV ワクチンの子宮頸がん予防対策としての短期的な効果判定の指標となる前がん病変あるいは早期がんは 無症状の疾患であることから これらを遺漏なく検出して適確なワクチン効果のモニタリングを可能にするためには十分カバー率の高い検診を実施することが不可欠である 6. 海外での臨床試験の成績これまでに開発されたサーバリックスとガーダシルについて 海外で実施された無作為二重盲検比較試験の成績は これらのワクチンが HPV16/18 感染を防御し HPV16/18 関連の子宮頸部前がん病変 (CIN2/3) の発生を減尐させることを示している 調査期間およびエンドポイント :HPV 感染から子宮頸がんの発生までは 10 年以上の期間がかかるのに対して これらの試験の観察期間は平均 3 年間であるため エンドポイントは HPV16/18 感染の頻度または HPV16/18 による CIN2/3 以上の病変発生の頻度をみている 対象 : これらの試験の多くは 若い女性 (15-26 歳 ) を対象とし かつ生涯セックスパートナーの数を 4 ないし 6 人未満とする制限を加えるか HPV16/18 に対する抗体陰性 ( 血清 ) および / または DNA 陰性 ( 子宮頸管細胞 ) であることを確認している 歳の比較的年長の女性を対象とした研究もあり ここでは生涯セックスパートナーの数や HPV16/18 感染の有無も限定することなく enroll している その代わり 解析の段階で年齢や enroll 時点での感染の有無などが及ぼす影響を解析している 18) A) サーバリックスの大規模第 III 相無作為二重盲検試験 (1)15-25 歳で生涯セックスパートナーが 6 人未満の女性が enroll され その時点で HPV16/18 感染の有無がチェックされた (2)0, 1, 6 か月に合計 3 回の接種を行い 3 回目の接種から平均 34.9 か月の時点で解析された (3) 解析は Total Vaccinated Cohort (TVC): 尐なくとも 1 回は接種され 効果判定用のデータが取れたワクチン群 9,319 名 +プラセボ群 9,325 名 TVC for efficacy (TVC-E):TVC の中で enroll の段階で子宮頸管細胞診が正常または低グレードだったワクチン群 9,258 名 +プラセボ群 9,267 名 TVC-naïve: TVC の中で enroll の段階で細胞診が正常 かつ HPV-16/18 に未感染だったワクチン群 5,822 名 +プラセボ群 5,819 名 そして According-to-Protocol Cohort for Efficacy (ATP-E): 全てのプロトコールを終了 (3 回の接種完了 ) し 効果判定用のデータが取れ enroll の段階で細胞診が正常または低グレードだった 5

118 ワクチン群 8,093 名 + プラセボ群 8,069 名 について 各々なされた (4)ATP-E 群では HPV16/18 による CIN2 以上の病変に対して 98.1%(96.1% 信頼区間 : ) CIN3 以上の病変に対して 100%( ) の予防効果が認められた TVC-E 群ではそれぞれ 97.7%( ) 100%( ) だった また ATP-E 群では HPV16/18 の持続感染を防ぐ効果も認められた :6 か月以上の持続感染に対して 94.3%( ) 12 か月以上の持続感染に対して 91.4%( ) (5) 一方 enroll の段階で HPV16/18 感染が認められた女性ではワクチン効果は認められなかった (6) さらに ATP-E 群において その他の高リスク型 HPV(HPV31/33/45/52/58) に対する効果を調べると HPV31/33/45 に対する持続感染およびこれらの型による CIN2 以上の病変に対しての予防効果も認められた :6 か月以上の持続感染に対して HPV31 では 77.5%( ) HPV33 では 45.1%( ) HPV45 では 76.1%( ); 12 か月以上の持続感染に対して HPV31 では 80.5% ( ) HPV33 では 41.0%( ) HPV45 では 60.0%( ); CIN2 以上の病変に対して HPV31 では 92.0%( ) HPV33 では 51.9% ( ) HPV-45 では 100%( ) HPV16/18 以外の高リスク型 HPV 全体では 54.0%( ) そして全ての高リスク型 HPV に対して 61.9% ( ) (7)TVC-naïve 群では HPV16/18 による CIN2 以上および CIN3 以上の病変に対しての予防効果は 98.4%( ; p < ) と 100%( ; p < ) であり 病変内の HPV の型にかかわらず CIN2 以上および CIN3 以上の病変に対しての予防効果は 70.2% ( ; p < ) と 87.0% ( ; p < ) であった (8) 一方 TVC 群としてみた場合には 以上の効果は半減またはそれ以下となる :HPV16/18 による CIN2 以上および CIN3 以上の病変に対しての予防効果は それぞれ 52.8%( ; p < ) と 33.6%( ; p = ) そして HPV の型にかかわらず CIN2 以上および CIN3 以上の病変に対しての予防効果は それぞれ 30.4%( ; p < ) と 33.4%( ; p = ) 19) B) ガーダシルの大規模第 III 相無作為二重盲検試験 (1)15-26 歳で生涯セックスパートナーが 4 人未満の女性が enroll され その時点で HPV16/18 感染の有無がチェックされた (2)0, 2, 6 か月に合計 3 回の接種を行い 1 回目の接種から平均 36 か月の時点で解析された (3) 解析は Subjects in per-protocol susceptible population: 上記研究の ATP-E 群に相当するワクチン群 5,305 名 +プラセボ群 5,260 名 Subjects in unrestricted susceptible population: 上記研究の TVC-naive 群に相当するワクチン群 5,865 名 + プラセボ群 5,863 名 そして Subjects in intention-to-treat population: 上記研究の TVC 群に相当するワクチン群 6,087 名 +プラセボ群 6,080 名 について 各々なされた (4)Subjects in per-protocol susceptible population では HPV16/18 に 6

119 よる CIN2 以上の病変に対して 100%(95% 信頼区間 :86-100) CIN3 以上の病変に対して 97%(79-100) 上皮内腺がん (AIS) に対して 100%(<0-100) の予防効果が認められた Subjects in unrestricted susceptible population ではそれぞれ 97% ( ) 95% ( ) 100% ( <0-100 ) だった Subjects in intention-to-treat population ではそれぞれ 57%(38-71) 45%(23-61) 28% (<0-82) だった (5)Subjects in intent-to-treat population において HPV の型にかかわらず CIN2 以上 CIN3 以上 および AIS の病変に対しての予防効果は それぞれ 22%(3-38) 21%(<0-38) そして 37%(<0-84) であった C) ガーダシルの大規模第 III 相無作為二重盲検試験 ( 年長女性に対して ) 20) (1)24-45 歳女性が生涯セックスパートナーの数を問わず enroll され その時点で HPV16/18 感染の有無がチェックされた (2)0, 2, 6 か月に合計 3 回の接種を行い 1 回目の接種から平均 2.2 年の時点で解析された (3) 解析は Per-protocol population: 上記研究の ATP-E 群に相当するワクチン群 1,601 名 + プラセボ群 1,579 名 Naïve to the relevant type population: 上記研究の TVC-naive 群に相当するワクチン群 1,823 名 + プラセボ群 1,803 名 そして Intention-to-treat population: 上記研究の TVC 群に相当するワクチン群 1,886 名 + プラセボ群 1,883 名 について 各々年齢層を 歳と 歳に分けてなされた ワクチンの有効率は 6 か月以上の持続感染の予防効果と CIN 病変の予防効果を足したものとして表された (4)Per-protocol population では HPV-16/18 感染または関連病変に対して 歳では 85.0%( ) 歳では 80.6%( ) の予防効果が認められた Naïve to the relevant type population ではそれぞれ 73.0% ( ) 68.0%( ) だった Intention-to-treat population ではそれぞれ 17.7%( ) 28.9%( ) だった (5)HPV16/18 に対する抗体価の上昇度や抗体陽転率を比較すると 歳に比べて 歳では尐ない傾向があった D) ワクチン効果の持続 ( 追跡調査 ) 21) サーバリックスの無作為二重盲検試験の追跡調査として HPV16/18 に対する抗体価が最長 6.4 年まで測定された ワクチンによって誘導された抗体価 (ELISA) は自然感染の場合よりも 12 倍以上高く 数学的モデルでの予測では尐なくとも 20 年は自然感染で得られる抗体価より数倍以上高いレベルを維持すると考えられた 22-24) 7. 国内での臨床試験の成績国内では サーバリックスに対する第 II 相 (IIb) 試験の結果が報告された 歳の女性を対象にした無作為二重盲検比較試験であり HPV16/18 の持続感染の防止効果は 100%(95% 信頼区間 ; p < ) 高リスク型 HPV (HPV16, 18, 31, 33, 35, 39, 45, 51, 52, 56, 58, 59, 66, 68) 全体での持続感染の防止効果は 50.6%( ; p = ) となっている また同じ 7

120 く高リスク型 HPV による CIN1 以上の病変の防止効果は 64.9%(4.9-89; p = 0.02) であったが CIN2 以上の病変の防止効果は対象群の数の尐なさから統計学的な有意差は得られていない (75.1 % [ ]; p = ) 8. ワクチンの安全性 2 種のワクチンともに 人工的に生成された HPV 殻 ( ウイルス様粒子 :VLP [virus-like particle]) を免疫原とする VLP ワクチンであり HPV の本体であるウイルス DNA を含まないことから 感染性のないワクチンである WHO のワクチンの安全性に関する世界諮問委員会 (WHO s Global Advisory Committee on Vaccine Safety; GACVS) は 2007 年 6 月 2 種の HPV ワクチンの安全性に大きな問題はない ( good safety profiles ) との結論を出し 25) さらに 2008 年 12 月には 4 価ワクチンの市販後調査をレビューし その結論に変化のないことを報告した また 本見解は 2009 年 4 月に発表された HPV ワクチンに関する WHO position paper でも繰り返し述べられている 26) 米国 CDC (Centers for Disease Control and Prevention) は 2010 年 5 月 FDA による 2 価ワクチンの認可および HPV ワクチンに関する ACIP (Advisory Committee on Immunization Practices) 推奨を報告しているが HPV ワクチンによる有害事象は対照群と比べて有意差がなく 接種の推奨に変化がないことが述べられている 27) HPV ワクチンの安全性については 局所の疼痛 発赤 腫脹が主な有害事象としてあげられているものの HPV ワクチン固有の重篤な全身性反応は尐ないと考えられる まず ワクチン接種の主な有害事象は局所の疼痛 発赤 腫脹であり HPV ワクチン固有の重篤な全身性反応は尐ない まず局所反応についてみると 2 価ワクチンに関する海外臨床試験において 局所の疼痛 (90%) 発赤 (47%) 腫張 (43%) であり その頻度は対照ワクチン群よりもやや高いという結果が得られている 国内臨床試験でも 612 例中 疼痛 606 例 (99%) 発赤 540 例 (88%) 腫張 482 例 (79%) と高頻度であった 28) しかし これらの局所反応はいずれも一過性であり 重篤なものではない なお 4 価ワクチンにおいても 局所の疼痛 (84%) 発赤 (25%) 腫張 (25%) と 2 価ワクチンよりもやや低い頻度で局所反応が起こることが報告されている 29)30) 次に 全身性の症状を呈する副反応についてみると 2 価ワクチンの国内臨床試験において 疲労 353 例 (58%) 筋痛 277 例 (45%) 頭痛 232 例 (38%) 悪心 嘔吐 下痢 腹痛などの胃腸症状 151 例 (25%) 関節痛 124 例 (20%) 発疹 35 例 (5.7%) 発熱 34 例 (5.6%) 蕁麻疹 16 例 (2.6%) などが報告されているが 接種スケジュールの変更を必要とするほどの有害事象は認められなかった 28) また海外臨床試験でも 疲労 (36%) 筋痛 (35%) 頭痛 (30%) 悪心 嘔吐 下痢 腹痛などの胃腸症状 (14%) 関節痛 (14%) 発疹 (5.5%) 発熱 (7.1%) 蕁麻疹 (3.1%) などの全身性反応が認められるが 多くは軽症 ~ 中等度であり その頻度も対照ワクチン群との間に有意差は認められない 27) なお 4 価ワクチンの全身性反応も報告されているが 2 価ワクチンとほぼ同等 あるいはやや低い頻度で認められている 29)30) 全身性の副反応として注意すべきは 疼痛に対する迷走神経反射によると考えられる失神であり 特に思春期女子に多いという特徴がある これは 4 価ワ 8

121 クチンの市販後に 米国 FDA の VAERS (Vaccine Adverse Event Reporting System) への報告で注目されることとなった VAERS に報告された有害事象 12,424 報告 (2006 年 7 月 ~2008 年 12 月 ) のうち 1,896 報告が失神やめまいに関するものであり このうち 293 例が実際に失神 (fall) に至り 転倒や外傷に繋がっている 31) したがって ワクチン接種後 15~30 分はその場で観察することが推奨されることとなった 2 価ワクチンの国内市販後調査では 接種約 11 万人のうち 失神 3 例 失神寸前の状態 2 例 めまい 16 例が報告されており 転倒 皮下血腫は 1 例のみであるが 引き続き十分な注意喚起が必要である 32) アナフィラキシーなどの重篤な全身性アレルギー反応の頻度は 2 価および 4 価ワクチンともに 0.1% 未満と稀であり 29) また対照ワクチン群との間に有意差は認められない しかしながら過敏症に十分な注意を払うことはワクチン接種共通の課題であり 接種前には十分な問診を行い 過去にワクチン接種で過敏症状を呈した既往のある場合は接種すべきでない 2 価ワクチンではシリンジに天然ゴム ( ラテックス ) を使用しているため ラテックス過敏症がある場合には厳重な注意が必要である 27)28) また 4 価ワクチンは酵母を使用して作製された薬剤であり 酵母過敏症がある場合には厳重な注意が必要である 27) ワクチン接種後に種々の慢性疾患を発症した例が報告されている 海外臨床試験においては これらの発症頻度について対照ワクチン群との間に有意差は認められていない 29) 4 価ワクチン市販後に VAERS に報告されている疾患としては 深部静脈血栓症 ギランバレー症候群 自己免疫疾患 横断性脊髄炎 膵炎などがあげられているが その最終診断やワクチン接種との因果関係については調査が必要である 31) 特に自己免疫疾患はワクチン接種以外でも若年女性に比較的多いため 慎重な評価を要する なお ワクチン接種を受けた女性の死亡例では 接種直後の死亡はなく 交通事故 自殺 悪性腫瘍などによるものであり いずれもワクチン接種と直接の因果関係は否定的である なお 2 価ワクチンの国内市販後調査では 接種を受けた約 11 万人で死亡報告は現時点で認められない 32) ワクチンに添加されているアジュバントとして 2 価ワクチンには水酸化アルミニウム Al(OH)3 500 g と 3- 脱アシル化 -4 - モノホスホリルリピッド A 50 g が添加され (ASO4 システム ) また 4 価ワクチンにはアルミニウム 225 g が含まれている 2 価ワクチンの ASO4 システムは比較的新しく開発されたアジュバントであり 33) 自己免疫疾患などの発症について慎重に評価する必要がある 現時点における ASO4 アジュバント添加ワクチン (HPV ワクチン B 型肝炎ワクチン 単純ヘルペスウイルスワクチン ) の安全性解析では 対照としてのアジュバント非添加やアルミニウムアジュバント添加ワクチン群との比較で有意差はなく また自己免疫事象の発現率も一般集団の若年女性における発現率と差異がないことが示されている 34) 妊娠との関連性について 海外臨床試験において 2 価ワクチン 4 価ワクチンともにワクチン接種プロトコール中の妊娠例が多数報告されたが その妊娠転帰 ( 流産率 早産率 児の出生体重や先天異常 ) については いずれも対照群との間に有意差はなく 妊娠に対する悪影響はないと推定する報告がある 29)35) ものの 未だ妊娠中の接種に関する有効性及び安全性が確立していないことから 妊婦又は妊娠している可能性のある婦人への接種は妊娠終了まで延期する 9

122 ことが望ましい 以上 総合すると HPV ワクチンの安全性は 局所の疼痛 発赤 腫脹等が主な有害事象としてあげられているものの HPV ワクチン固有の重篤な全身性反応は尐ないと結論できる 9.HPV ワクチンの費用対効果推計 (1) 文献レビュー費用対効果は 罹患に係る負担 ( 医療費 QOL への影響 家族の看護の負担など ) の減尐と予防接種に係る費用 ( ワクチン接種費 家族の付添の負担など ) の増加を比較して 便益費用比や 1QALY 獲得あたりの増分費用 ( 増分費用効果比, ICER) などにより評価する その際 分析の視点は 1 支払者の視点 ( 生産性損失を考慮しない ) と 2 社会の視点 ( 生産性損失を考慮する ) に分けられる HPV ワクチンの費用対効果を評価する研究は海外で相次いで報告されており PubMed では 50 件以上が該当する これらの文献の多くは HPV ワクチンを接種しない場合の長期予後と接種した場合の長期予後をシミュレーションモデルにより予測し 支払者の視点で 1QALY 獲得あたりの ICER を算出したものである 1QALY 獲得あたりの ICER がどの程度までなら費用対効果に優れるかの基準 ( 閾値 ) は国により異なるが たとえば英国では支払者の視点で 1QALY 獲得あたりの ICER が 20,000~30,000 ポンド以下であれば費用対効果が良好であると考えられている Armstrong(2010) 36) は米国のデータを用いて推計された 11 文献についてレビューを実施しており 予後予測モデルや分析の前提条件により結果が異なるものの 12 歳女子全員への接種は概ね費用対効果に優れるとの結果が得られているが 21 歳女性まであるいは 26 歳女性までキャッチアップ接種を行った場合には費用対効果は良好といえないと報告している また ワクチンの接種率や持続期間 減弱率が想定条件よりも下回るとしたら 費用対効果の推計値がさらに悪化することを指摘している わが国では 今野ら (2008) 37) 荒川ら (2009) 38) Konno et al.(2010) 39) の分析結果が報告されている いずれも 12 歳女子 589,000 人全員へのワクチン接種について同一の予後予測モデルを用いて分析を行っているが 分析の立場 算出対象とした費用項目 割引率等の設定が異なっている ( 表 2) 10

123 表 2 HPV ワクチンの費用対効果推計の国内文献比較 基本分析の対象 今野ら 37) 荒川ら 38) Konno et al. 39) 12 歳女子 589,000 人全員へのワクチン接種 12 歳女子 589,000 人全員へのワクチン接種 12 歳女子 589,000 人全員へのワクチン接種 分析の立場 社会の立場 20~30 代女性の立場 保健医療費支払者の立場 費用項目 直接費用 ( ワクチン費用および医療費 ) 間接費用 ( 検診 外来受診 入院 死亡に伴う 患者自己負担分の医療費 間接費用 ( 育児 家事 ) 10 歳 ~40 歳の費用に限 直接費用 ( ワクチン費用および医療費 ) < 間接費用は算出対象外 > 逸失所得 ) 定 <ワクチン費用は算出対象外 > ワクチンの効果 75.28% 記載なし 75.28% 病態移行確率 3 論文とも同じ 3 論文とも同じ 3 論文とも同じ 割引率 年率 1% <30 年後の 1 万円は 現在価値に換算すると 7,419 円となる> 年率 3% <30 年後の 1 万円は 現在価値に換算すると 4,120 円となる> 増分費用の算出結果 増分効果の算出結果 ICER ワクチン費用は 億円増加医療費は 億円減尐間接費用は 億円減尐差し引き 億円減尐 医療費自己負担は 0.6 億円減尐育児費用は 0.6 億円減尐家事費用は 10.5 億円減尐合計 11.8 億円減尐 年率 3% <30 年後の 1 万円は 現在価値に換算すると 4,120 円となる> ワクチン費用は 億円増加医療費は 64.7 億円減尐差し引き 億円増加 記載なし算出せず 8139QALYs 増加 マイナス ( 費用削減 健康アウトカム改善 ) 算出せず 180 万円 /QALY (2) 厚生労働科学研究班による分析厚生労働科学研究 ワクチンの医療経済性の評価 研究班 (*) は 本研究班で作成した ワクチン接種の費用対効果推計法 にしたがい 先行研究を参考として HPV ワクチンの医療経済性を評価した 今回は 支払者の立場から コストとしてワクチン接種費用 子宮頸がんの検診費用 子宮頸がんの治療に関わ医療費の三点を 保健医療費 として組み込み 期待獲得 QALY の推計値と統合して 1QALY 獲得あたりの ICER を算出した ICER が 1QALY 獲得あたり 500 万円以下であれば費用対効果が良好であると判断した なお 基本分析ではワクチンの効果が生涯有効であると仮定した < 基本分析 (13 歳女子に接種する場合 支払者の立場 割引率年率 3%)> 11

124 13 歳女子にワクチンを接種しない場合の一人あたりの期待 QALY は QALY 一人当たりの期待コストは 24,124 円 接種した場合の一人あたりの期待 QALY は QALY 一人当たりの期待コストは 59,688 円となった 結果として ICER は (59,688-24,124) ( )=201.1 万円 /QALY となり 費用対効果は良好と考えられた 定期接種化に際し 現行の定期接種ワクチン (2008 年麻疹 ) の接種率を参考に 85.1% の接種率を仮定して 13 歳女子全員 (2009 年の人口で 572,000 人 ) へワクチンを接種した場合 ワクチン接種費用として 1 人あたり 47,345 円 全員で 4.7 万円 57.2 万人 85,1%=230.5 億円が発生する しかしワクチン投与により 接種費用以外の子宮頸がん関連の保健医療費を 57.3 億円削減できる (80.6 億円 vs 億円 ) ため 総コストの増分は =173.1 億円となる この一方で, 子宮頸がんの罹患者を 2,802 人 (3,719 人 vs. 6,521 人 ) 子宮頸がんによる死亡者を 540 人 (703 人 vs. 1,241 人 ) 削減でき 全体で 8,600 QALY (16,896,400 QALY vs. 16,887,800 QALY) を獲得できる なお HPV 感染が全くない状態と比較した場合 ワクチンがない状態では 子宮頸がんによって 13 歳女子全体で 17,600QALY の損失が発生する ワクチンを導入すると 損失を 9,000QALY まで減尐できる 表 3 13 歳女子全体 (n=572,000, 接種率 85.1%) へのインパクト ( コスト, 億円 ) ワクチン その他の 総コスト 接種費用 保健医療費 接種あり 接種なし 接種した場合の増分 表 4 13 歳女子全体 (n=572,000, 接種率 85.1%) へのインパクト ( 健康アウトカム ) 子宮頸がん罹患数子宮頸がん死亡数 獲得 QALY 接種あり 3, ,896,400 接種なし 6,521 1,243 16,887,800 接種した場合の増分 -2, ,600 < 感度分析 > 将来 ワクチンの再接種が必要となる場合には再度ワクチン接種費用が生じることとなるが 仮に 20 年後に行う場合には 万円 /QALY 10 年後に行う場合には 万円 /QALY となり これらの場合でも費用対効果は良好と考えられた 12

125 その他 割引率 ( 基本分析 3%, 変動幅 0%-5%) ワクチン効果 ( 基本分析 67.8%, 変動幅 58.3%-77.3%) ワクチンの効果持続期間 ( 基本分析は生涯 ワーストケースでは 20 年で消失 ) ワクチン費用 ( 接種のコストを含んで基本分析 47,350 円, 変動幅は ±20% で 37,900 56,800 円 ) 検診の感度 ( 基本分析 68%, 変動幅 %) ワクチン接種年齢 ( 基本分析 13 歳, 変動幅 歳 ) について 値を変動させて最終結果への影響を評価する感度分析を実施した ICER の変動幅は以下の通りで いずれの場合も費用対効果は良好と考えられた 表 5 感度分析の結果 割引率 (0%-5%) ワクチン効果 (58.3%-77.3%) 効果持続期間 (20 年 - 生涯 ) ワクチン費用 (37,900 円 -56,800 円 ) 検診感度 (50%-100%) 接種年齢 (12 歳 -16 歳 ) ( 接種の非接種に対する ICER, 単位 : 万円 /QALY) ワースト 基本分析 ベスト (5%) (3%) (0%) (58.3%) (67.8%) (77.3%) (20 年で消失 ) ( 生涯 ) ( 生涯 ) (56,800 円 ) (47,350 円 ) (37,900 円 ) (100%) (68%) (50%) (12 歳 ) (13 歳 ) (16 歳 ) さらに ワクチン接種と子宮頸がん検診受診率の向上の両者の効果を推計するために ワクチン接種の有無および子宮頸がん検診受診率向上の有無 ( 現状 20% 目標値 50%) の 4 通りの組み合わせについて分析を実施した 結果 ( 費用対効果平面 ) を図 6 に示す ワクチンなし 検診受診率 20% に比べ ワクチンなし 検診受診率 50% では 費用が削減されるとともに健康結果 (QALY) が増加する結果となった また ワクチンあり 検診受診率 20% に比べ ワクチンあり 検診受診率 50% についても 費用が削減されるとともに健康アウトカム (QALY) が増加する結果となった すなわち ワクチンあり ワクチンなし いずれの場合においても 検診受診率のみを変化させた場合は 検診受診率を向上させた方が費用は削減され 健康アウトカム ( 獲得 QALY) は改善した 一方 現状の状態と ワクチン導入 検診受診率の向上 の双方の施策を同時に実施した状態の比較 すなわち ワクチンなし 検診受診率 20% を基準とした場合の ワクチンあり 検診受診率 50% の ICER は 145 万円 /QALY であった 13

126 <13-16 歳女子に接種する場合 ( 支払者の立場 割引率年率 3%)> 歳女子にワクチンを接種しない場合の一人当たりの期待 QALY は QALY 一人当たりの期待コストは 24,764 円 接種した場合の一人当たりの期待 QALY は QALY 一人当たりの期待コストは 57,650 円となった 結果として ICER は (57,650-24,764) ( )=180.2 万円 /QALY となり 費用対効果は良好と考えられた 歳女子 (2009 年の人口で 2,315,000 人, 接種率 85.1%) 全員にワクチンを投与した場合 投与費用として 1 人あたり 47,345 円 全員で 4.7 万 万 85.1%=932.7 億円が発生する しかし ワクチン投与によって子宮頸がん関連の保健医療費を 億円削減できる (334.6 億円 vs 億円 ) ため 総コストの増分は 億円 億円 =694.1 億円となる この一方で, 子宮頸がんの罹患者を 11,128 人 (14,801 人 vs. 25,929 人 ) 子宮頸がんによる死亡者を 2,153 人 (2,805 人 vs. 4,959 人 ) 削減でき 全体で 35,900 QALY (67,947,100 QALY vs. 67,911,200 QALY) を獲得できる 表 歳女子全体 (n=2,315,000, 接種率 85.1%) へのインパクト ( コスト, 億円 ) 接種費用保健医療費総コスト 接種あり ,267.4 接種なし 接種した場合の増分

127 表 歳女子全体 (n=2,315,000, 接種率 85.1%) へのインパクト ( 健康アウトカム ) 子宮頸がん罹患数子宮頸がん死亡数獲得 QALY 接種あり 14,801 2,805 67,947,100 接種なし 25,929 4,959 67,911,200 接種した場合の増分 -11,128-2,153 35,900 なお 予防接種費や出生数などの条件が今後も不変であると仮定した場合の 13 歳女子への定期接種が浸透し定常状態となった状態での単年度費用推計を行った ( 注 : 単年度費用推計では 割引は適用しない ) 具体的には一年間の接種費用 (13 歳女子のみが対象 ) と 一年間の子宮頚がん関連の保健医療費削減幅 (13 歳以上の全年齢の女性が対象 ) とを比較した 一年間で接種費用は約 億円増大するものの 子宮頚がん関連の保健医療費を約 億円 ( 約 億円 vs. 約 億円 ) 削減できるため 総コストの増大分は約 44.8 億円 ( 約 億円 vs. 約 億円 ) となる 表 8 単年度推計 ( 接種費用と保健医療費 ) 接種費用保健医療費総コスト 接種あり 接種なし 接種した場合の増分 注 : 割引率は適用していない また 生産性損失は含まれていない 10. 子宮頸がん検診子宮頸がん検診の手法としては 世界各国で子宮頸部擦過細胞診が行われている わが国では 1960 年代から一部地域で実施が始まり 1983 年に老人保健法によるがん検診として導入された またそれまで 30 歳以上を対象とした逐年検診であったものが 2005 年からは 20 歳以上に引き下げられ 2 年に 1 回の検診となった わが国では 20 歳代を含む若年者に子宮頸がんの増加傾向がみられ また英国の報告によると浸潤がん予防効果については検診間隔が 1 年と 2 年とでは大差がないが 20 歳代 30 歳代では 3 年以上に延長されると効果が期待できないとされている 40) 表 8 には わが国の老人保健事業 健康増進事業として行われた子宮頸がん検診における過去 5 年間の対象者数 受診者数 ( 率 ) 要精検者数 ( 率 ) がん発見者数 ( 率 ) 陽性反応適中率を示す 擦過細胞診の有効性については多くの直接証拠がある すなわち様々な時代の異なる地域で行われたコホート研究や症例対照研究 地域相関 時系列研究 15

128 などによって いずれも一致して擦過細胞診による検診によって子宮頸がん死亡率 罹患率の減尐が示されている 41) 米国国立がん研究所 (NCI) では従来法によって子宮頸がん死亡および罹患がそれぞれ尐なくとも 80% は減尐するとしている 42) 一方 新たな細胞診である液状検体法についてはまだ歴史が浅く 有効性についての直接証拠がないものの 感度 特異度の両者において従来法と比較してほぼ同等もしくは若干上回る 41) ことから 従来法と同等の効果を上げることが期待されている 子宮頸がん検診のもう 1 つの新たな手法として HPV DNA 検査が各国で検討されている HPV DNA 検査は細胞診従来法に比較して感度が高いが特異度が低い 41) そのため検診への導入に際しては 有効性において細胞診従来法を上回ることを示す必要がある 近年イタリアで子宮頸がん罹患の減尐が認められたとの報告が 1 編あり 43) また 偽陽性の弊害を減らすために細胞診によるトリアージの効果についても研究されていることから 今後の有効性の報告によっては新たな検診手法として取り入れられる可能性があり 疫学的研究報告の推移を見守る必要がある 子宮頸がん検診の実施についてはより効果的な検診手法の追求以外に 高い受診率の確保という課題がある すでに受診率が高いほど罹患率や死亡率の減尐効果が高いことが示されており 北欧や北米では 70% 以上の受診率であるのに対して わが国では 20% 程度に留まっている ( 表 8) The International Agency for Research on Cancer (IARC) は受診率向上のために個人が自由に受けられる任意型検診を廃して 地域ごとに対象者を把握して管理する対策型検診の実施を勧めており 44) 英国での call recall system の実施など積極的な個別受診勧奨を行って効果を上げている国もある わが国では低迷する受診率の改善が急務である 16

129 表 8 全国子宮頸がん検診の実施成績 ( 老人保健事業報告 健康増進事業報告 ) 平成 15 年度 (2003) 平成 16 年度 (2004) 平成 17 年度 (2005) 平成 18 年度 (2006) 平成 19 年度 (2007) 対象者数 26,723,632 29,373,104 30,391,081 30,821,510 31,489,917 受診者数 4,087,444 3,995,021 3,439,094 3,320,265 3,538,132 受診率 (%) 要精検者数 38,875 40,033 41,372 38,505 40,023 要精検率 (%) 精検受診者数 26,079 25,704 25,911 23,782 24,153 精検受診率 (%) がん発見者数 2,111 1,960 1,962 1,898 1,921 がん発見率 (%) 陽性反応的中度 (%) 平成 年度 : 対象者数 受診者数は 頸部のみ と 頸部および体部 をあわせた者受診率算出のための受診者数も 頸部のみ と 頸部および体部 の合計平成 17 年度以降の受診率算出のための受診者数は 頸部 17

130 参考文献 1. 国立がん研究センターがん対策情報センター ( アクセス ) 2. がんの統計 09. 財団法人がん研究振興財団 3. Human papillomavirus genotype attribution in invasive cervical cancer: a retrospective cross-sectional worldwide study. Lancet Oncol., 2010; Vol.11: Miura S, Matsumoto K, Oki A, Satoh T, Tsunoda H, Yasugi T, Taketani Y, Yoshikawa H. Do we need a different strategy for HPV screening and vaccination in East Asia? Int J Cancer Dec 1;119(11): 厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業 HIV 感染症の動行と予防モデルの開発と普及に関する社会疫学的研究 班報告書 ( 平成 15 年度 ) 6. 厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業 HIV 感染症の動行と予防モデルの開発と普及に関する社会疫学的研究 班報告書 ( 平成 16 年度 ) 7. 厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業 HIV 感染症の動行と予防モデルの開発と普及に関する社会疫学的研究 班報告書 ( 平成 17 年度 ) 8. 厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業 若年者におけるHIV 感染症の性感染予防に関する学際的研究 班報告書 ( 平成 18 年 ) 9. 厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業 若年者におけるHIV 感染症の性感染予防に関する学際的研究 班報告書 ( 平成 19 年 ) 10. 厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業 若年者におけるHIV 感染症の性感染予防に関する学際的研究 班報告書 ( 平成 20 年度 ) 11. 文部科学省 性に関する教育 普及推進事業実践研究報告書 ( 平成 21 年度 ) 12.Preparing for the introduction of HPV vaccines Policy and programme guidance for countries. P15 Monitoring and evaluation. World Health Organization Vaccination against cervical cancer rvical-cancer-0 14.The HPV(Human Papillomavirus ) Immunisation Programme National Implementation Strategic Overview. June Hamers FF; European Centre for Disease Prevention and Control. European Centre for Disease Prevention and Control issues guidance for the introduction of human papillomavirus (HPV) vaccines in European Union countries. Euro Surveill Jan 24; 13(4). pii: Shefer A, Markowitz L, Deeks S, Tam T, Irwin K, Garland SM, Schuchat A. Early experience with human papillomavirus vaccine introduction in the United States, Canada and Australia.Vaccine Aug 19;26 Suppl 18

131 :K Koulova A, Tsui J, Irwin K, Van Damme P, Biellik R, Aguado MT. Country recommendations on the inclusion of HPV vaccines in national immunization programmes among high-income countries, June 2006-January Vaccine Dec 2; 26(51): Paavonen, J., et al., Efficacy of human papillomavirus (HPV)-16/18 AS04-adjuvanted vaccine against cervical infection and precancer caused by oncogenic HPV types (PATRICIA): final analysis of a double-blind, randomised study in young women. Lancet, (9686): p Quadrivalent vaccine against human papillomavirus to prevent high-grade cervical lesions. N Engl J Med, (19): p Munoz, N., et al., Safety, immunogenicity, and efficacy of quadrivalent human papillomavirus (types 6, 11, 16, 18) recombinant vaccine in women aged years: a randomised, double-blind trial. Lancet, (9679): p Romanowski, B., et al., Sustained efficacy and immunogenicity of the human papillomavirus (HPV)-16/18 AS04-adjuvanted vaccine: analysis of a randomised placebo-controlled trial up to 6.4 years. Lancet, (9706): p Konno, R., et al., Efficacy of human papillomavirus 16/18 AS04-adjuvanted vaccine in Japanese women aged 20 to 25 years: interim analysis of a phase 2 double-blind, randomized, controlled trial. Int J Gynecol Cancer, (3): p Konno, R., et al., Immunogenicity, reactogenicity, and safety of human papillomavirus 16/18 AS04-adjuvanted vaccine in Japanese women: interim analysis of a phase II, double-blind, randomized controlled trial at month 7. Int J Gynecol Cancer, (5): p Konno R et al. Efficacy of human papillomavirus type 16/18 ASO4-adjuvanted vaccine in Japanese women aged 20 to 25 years: final analysis of a phase 2 double-blind, randomized, controlled trial. Int J Gynecol Cancer 2010;20: Global Advisory Committee on Vaccine Safety, June Wkly Epidemiol Rec 2007; 82: Human papillomavirus vaccines WHO position paper. Wkly Epidemiol Rec 2009; 84: FDA licensure of bivalent human papillomavirus vaccine (HPV2, Cervalix) for use in females and updated HPV vaccination. Recommendations from the Advisory Committee on Immunization Parctices (ACIP). MMWR 2010, 59: グラクソ スミスクライン株式会社. サーバリックス R 添付文書 (2010 年 2 月 第 2 版 ) 19

132 Quadrivalent human papillomavirus vaccine. Recommendations of the Advisory Committee on Immunization Practices (ACIP). MMWR 2007; 56: Einstein MH, Baron M, Levin MJ, et al. Comparison of the immunogenicity and safety of Cervalix and Gardacil human papillomavirus (HPV) cervical cancer vaccines in healthy women aged years. Human Vaccines 2009; 5: Slade BA, Leidel L, Vellozzi C, et al. Postlicensure safety surveillance for quadrivalent human papillomavirus recombinant vaccine. JAMA 2009; 302: グラクソ スミスクライン株式会社. サーバリックス R 市販直後調査最終報告 (2010 年 6 月 ) 33.Garcon N, Chomez P, Van Mechelen M. GlaxoSmithKline Adjuvant Systems in vaccines: concepts, achievements and perspectives. Expert Rev Vaccines 2007; 6: Verstraeten T, Descamps D, David MP, et al. Analysis of adverse events of potential autoimmune aetiology in a large integrated safety database of ASO4 adjuvanted vaccines. Vaccine 2008; 26: Paavonen J, Naud P, Salmerón J, et al. HPV PATRICIA Study Group. Efficacy of human papillomavirus (HPV)-16/18 AS04-adjuvanted vaccine against cervical infection and precancer caused by oncogenic HPV types (PATRICIA): final analysis of a double-blind, randomised study in young women. Lancet 2009; 374: Armstrong EP: Prophylaxis of cervical cancer and related cervical disease: a review of the cost-effectiveness of vaccination against oncogenic HPV types. J Manag Care Pharm. 2010; 16: 今野良 笹川寿之 福田敬 Van Kriekinge G, Demarteau N.: 日本人女性における子宮頸癌予防ワクチンの費用効果分析 産婦人科治療 2008; 97: 荒川一郎 新野由子 : 若年女性の健康を考える子宮頸がん予防ワクチン接種の意義と課題 厚生の指標 2009; 56(10): Konno, R., et al., Cost-effectiveness analysis of prophylactic cervical cancer vaccination in Japanese women. Int J Gynecol Cancer, (3): p Sasieni P, Adams J, Cuzick J. Benefit of cervical screening at different ages: evidence from the UK audit of screening histories. Br J Cancer. ; 89: 88-93, 平成 20 年度厚生労働省がん研究助成金 がん検診の適切な方法とその評価法の確立に関する研究 班 平成 21 年度厚生労働省がん研究助成金 がん検診の評価とあり方に関する研究 班. 有効性評価に基づく子宮頸がん検診ガイドライン

133 fessional 43. Ronco G, Giorgi-Rossi P, Carozzi F, Confortini M, Dalla Palma P, Del Mistro A, Ghiringhello B, Girlando S, Gillio-Tos A, De Marco L, Naldoni C, Pierotti P, Rizzolo R, Schincaglia P, Zorzi M, Zappa M, Segnan N, Cuzick J; New Technologies for Cervical Cancer screening (NTCC) Working Group. Efficacy of human papillomavirus testing for the detection of invasive cervical cancers and cervical intraepithelial neoplasia: a randomised controlled trial. Lancet Oncol.;11:249-57, International Agency for Research on Cancer. IARC Handbook of Cancer Prevention. IARC press Lyon France. 平成 22 年度厚生労働科学研究 インフルエンザ及び近年流行が問題となっている呼吸器感染症の分析疫学研究 ( 研究代表者廣田良夫 ) 分担研究 Hib( インフルエンザ菌 b 型 ) ワクチン等の医療経済性の評価についての研究 赤沢学 ( 明治薬科大学公衆衛生 疫学 ) 五十嵐中 ( 東京大学大学院薬学系研究科 ) 池田俊也 ( 国際医療福祉大学薬学部 ) 小林美亜 ( 国立病院機構本部総合研究センター ) 白岩健 ( 立命館大学総合理工学院 ) 須賀万智 ( 東京慈恵会医科大学環境保健医学講座 ) 杉森裕樹 ( 大東文化大学スポーツ 健康科学部 ) 種市摂子 ( 早稲田大学教職員健康管理室 ) 田倉智之 ( 大阪大学医学部 ) 平尾智広 ( 香川大学医学部 ) 和田耕治 ( 北里大学医学部 ) 佐藤敏彦 ( 北里大学医学部付属臨床研究センター ) ( 班長 HPV ワクチン担当 ) 21

134 評価 分析編 1 対象疾病の影響について (1) 疫学状況 HPV 感染 の疫学を明らかにすることは極めて難しい その理由として 1 感染者であっても血清中の抗 HPV 抗体価は一般に低いこと ( ファクトシート P5 参照 ) 2 HPV が生殖器粘膜の基底細胞に侵入した潜伏状態にある場合 子宮頸部からの細胞採取で HPV DNA が検出されなくても感染を完全に否定できないこと ( ファクトシート P2-4 参照 ) があげられる 一方 HPV は子宮頸がん ( 扁平上皮がん 腺がん ) 及びその前駆病変 (CIN2 及び 3) のリスク因子であることから ( ファクトシート P2 参照 ) 子宮頸がんの疫学を把握することにより HPV による疾病負担を推定することが可能である 1わが国における子宮頸がんの罹患 死亡年齢にかかわらず総ての女性でみた場合 子宮頸がんの罹患率 死亡率の相対的順位は 他の部位のがんと比較して高いとはいえないが 40 歳未満に限ると 罹患率は 2 番目 死亡率は 3 番目に高いがんとなる ( ファクトシート追加編 P2 参照 ) 40 歳未満の女性に着目すると 年齢階級別罹患率 死亡率はそれぞれ 20~24 歳 25~29 歳から上昇し始める ( ファクトシート追加編 P2-3 参照 ) 経年変化については 25~39 歳の罹患率 30~39 歳の死亡率は最近 20 年間で改善していない ( ファクトシート追加編 P3-4 参照 ) 以上のことから 子宮頸がん対策として 最大のリスク因子である HPV 感染そのものを予防する 一次予防 を考える場合 40 歳未満の若年層に着目することが重要である さらに 15~19 歳の年齢層でわずかながらも罹患率が上昇し始めることから ( ファクトシート追加編 P2 参照 ) HPV 感染率が極めて低い つまり性経験率が極めて低いと考えられる年齢を対象に重点的な対策を進める必要がある ( ファクトシート追加編 P5 参照 ) HPV の潜伏 持続感染から前駆病変を経て子宮頸がんに至るまでの経過は長期に渡ると考えられており 診断時の臨床進行度が 50% で 限局 であることと合致する また 子宮頸がんが 限局 で発見された場合 生存率は極めて良好である ( ファクトシート追加編 P4 参照 ) 子宮頸部の細胞診によるスクリーニング検査で早期発見 早期治療につなげる 二 22

135 次予防 の機会は十分に存在する 国際比較でみると 年齢調整死亡率の年次推移は米国 英国 韓国と日本で差を認め 前者三国はわずかながら あるいは明らかに減尐傾向であるのに対し 日本のみ横ばいである ( ファクトシート P11 参照 ) この差を説明しうる背景因子として 日本における子宮頸がんの検診受診率が極めて低いこと等があげられる ( ファクトシート追加編 P16-18 参照 ) 2 子宮頸部浸潤がん患者を対象とした HPV 遺伝子型の分布海外の研究としては 国際がん研究機関 (International Agency for Research on Cancer, IARC) による 2 報告が大規模であり信頼性も高い 1 報は 85 件の研究によるメタアナリシスであり もう 1 報は 25 ヵ国のデータをまとめた世界規模の研究である いずれの報告も 子宮頸部浸潤がん患者から検出される HPV 遺伝子型は HPV16 と HPV18 で約 70% を占めることを示している ( ファクトシート P11 ファクトシート追加編 P4 参照 ) 一方 日本人を対象とした報告では 子宮頸部浸潤がん患者における HPV16/HPV18 の割合に 50~70% の幅があり ( ファクトシート P12 参照 ) 14 件の研究によるメタアナリシスでは 59% である ( ファクトシート追加編 P4 参照 ) 現行の HPV ワクチンの対象である HPV16/HPV18 がカバーし得る割合は わが国では低めに見積もることが必要かもしれない いずれにしても 現行の HPV ワクチンでは子宮頸がんの原因となりうる HPV 遺伝子型を 100% カバーすることはできない 3 子宮頸がんの妊娠 出産への影響子宮頸がんの罹患は他の部位のがんと異なり 20 歳代から上昇し始めることが特徴的であるが 特に罹患率が高いのは 35~44 歳である 一方 出産率 ( 平成 21 年人口動態統計 人口 10 万人あたり ) は 25~34 歳で 8,500 ~9,500 とピークを迎え 35~39 歳での出産率は 4,500 程度に低下する このように 子宮頸がん罹患のピークである 35~44 歳は 出産のピーク年齢より若干高年齢にあるものの 20 歳代から 30 歳代について最近 20 年間で認められる子宮頸がん罹患の増加傾向が今後も継続すれば わが国における出生率に対して何らかの影響を与える可能性もある (2) 対象疾病の治療法 HPV の感染によって引き起こされる疾病として子宮頸部上皮内病変と子宮頸がん等がある 子宮頸部上皮内病変および初期の子宮頸がんはほぼ無 23

136 症状であり 検診などが発見の機会である 一方 進行した子宮頸がんでは性器出血や臭いのある帯下 腰痛など その症状は病変の進展によって多種多様である 子宮頸部上皮内病変のうち cervical intraepithelial neoplasia1 (CIN1) と呼ばれ その大部分が自然消退する軽度異形成については通常加療は行われず 経過観察される 一方 CIN3 と呼ばれる高度異形成および上皮内がんに相当する段階では 浸潤がんの除外診断を兼ねた子宮頸部円錐切除術が行われる LEEP(loop electrosurgical excision procedure) 法と呼ばれる高周波電流を用いた切除法もあるが 切除標本が断片化するため病変の同定が困難な場合がある CIN2 と呼ばれる中等度異形成に関しては経過観察をする場合や冷凍凝固やレーザー蒸散法による治療が行われることがあるが その適応については一定の見解は得られていない さらに冷凍凝固やレーザー蒸散法では 術前に確認された病変以上の高度病変が潜在していた場合に最終診断ができないという問題点がある 子宮頸がんの治療は手術療法と放射線療法が主体であり それらに化学療法が組み合わされる場合がある 微小浸潤扁平上皮がんである Ia1 期ではリンパ節郭清を伴わない単純子宮全摘術の対象であるが 妊孕性温存を希望する場合には厳重なフォローアップを条件に子宮頸部円錐切除術を行なって子宮を温存することが可能とされている 一方 同じ微小浸潤扁平上皮がんでも Ia1 期より浸潤の程度が深い Ia2 期では 0~10% のリンパ節転移が認められることから 骨盤内リンパ節郭清を含む準広汎子宮全摘出術以上の規模の手術が行われる 1) 組織型が腺がんの場合には Ia 期 ( 微小浸潤腺がん ;Ia1 期と Ia2 期とに細分類しない ) であっても子宮摘出を行うことが推奨されている Ib~II 期ではわが国では広汎子宮全摘出術が行われることが多いが 放射線療法も選択肢として考慮される 腫瘍径が大きい場合には放射線療法に化学療法を組み合わせた同時化学放射線療法が選択されることもある III 期 IV 期については放射線療法が選択される しかも放射線単独療法よりも同時化学放射線療法が推奨されている 適切な治療が行われた場合の子宮頸がんの治療成績は次のとおりである 上皮内がんの腫瘍制御率は 100% に近いと考えられており 早期浸潤がんである Ia1 期の5 年生存率は 95% 以上 2) I 期全体では 70.3% II 期 49.1% III 期 28.3% IV 期 11.3% の5 年生存率が報告されている 3) また 悪性度の低い HPV の感染によって発症する尖圭コンジローマに対しては 外科的切除や電気焼灼 凍結療法 レーザー治療など外科的治療法がある また薬物療法としてはポドフィリン フルオロウラシル (5-FU) 軟膏 インターフェロンに加え 近年ではイミキモド ( ベセルナクリーム : 24

137 持田製薬 ) が開発され使用されている 2 予防接種の効果 目的 安全性等について (1) 予防接種の効果について HPV ワクチンは 子宮頸がん全体の 50~70% の原因を占めると言われている HPV16 型および 18 型の感染予防を主目的としたもので 現在 HPV16 型 18 型の 2 種に対応する 2 価ワクチン ( サーバリックス ) と HPV6 型 11 型 16 型 18 型の 4 種に対応し 良性病変の尖圭コンジローマの発症も予防できる 4 価ワクチン ( ガーダシル ) がある いずれも世界 100 か国以上で認可され わが国では平成 21 年 10 月に 2 価ワクチンがすでに承認され 4 価ワクチンは承認申請中である このワクチン (1 回 0.5 ml) を 3 回にわたって筋肉内注射することにより ワクチンに含まれる HPV 型に対する高い抗体価が得られることで HPV 感染を予防できる サーバリックスとガーダシルについて 海外で実施された無作為二重盲検比較試験の成績は これらのワクチンが HPV16/18 感染を防御し HPV16/18 関連の子宮頸部前がん病変 (CIN2/3) の発生を減尐させることを示している ( ファクトシート P15-16 ファクトシート追加編 P6-9 参照 ) HPV 感染から子宮頸がんの発生までは 10 年以上かかるのに対して これらの試験の観察期間は平均 3 年間であるため エンドポイントは HPV16/18 感染の頻度または HPV16/18 による CIN2/3+ の頻度をみている 多くの試験は生涯セックスパートナーの数が尐ない若い女性 (15~26 歳 ) を対象とし HPV16/18 感染の有無を確認している これまでの国外 国内臨床試験の成績に基づく考察を以下に示す 1. サーバリックスもガーダシルも未感染者に対して極めて効率的に HPV16/18 の持続感染を防ぎ CIN への進展を妨げる 当然 これらの型による子宮頸がんを防ぐことが期待される 2. しかし既感染の場合は効果が期待できない また高年齢では抗体応答が比較的弱い 従って 若年で性的活動が尐なく未感染のうちに接種する必要がある 3. サーバリックスによる抗体は 6 年以上高値を保ち 計算上 20 年以上は自然感染よりも高いレベルを維持するが それが HPV 感染を防御するレベルであるかどうか明らかでないため ワクチンによって培われた免疫応答がどれくらい持続するか確立していない 若年で接種した後 追加接種が必要になるのかどうか検討が必要 25

138 HPV16/18 以外のがん原性 HPV に起因する子宮頸がん及びその前駆病変の長期予防効果は確立されていないものの HPV31 HPV33 HPV45 の持続感染およびこれらの型による CIN2 以上の病変に対しての予防効果を認めた海外の研究もみられる 5. サーバリックスの国内での臨床試験は まだ対象数も尐ない上に追跡期間も短く CIN2 以上の病変への効果も統計学的な有意差は示されていないが 海外の成績とほぼ同様であることが推測される 6. 子宮頸がん全体に対する効果を見る上で ワクチンによって確実にカバーできる HPV16/18 がどれくらいの割合を占めているのか そして HPV16/18 以外の高リスク型 HPV による子宮頸がんおよび前がん病変に対する交差防御がどの程度期待できるのかが問題となり その見極めが重要である (2) この予防接種の目的について HPV ワクチンは 子宮頸がんの原因ウイルスの感染予防に伴う子宮頸がん及びその前がん病変の発症防止について一定の効果が期待できるものの 集団における感染蔓延防止の効果は保証されていない 本ワクチンの接種の目的は 子宮頸がんによる罹患者や死亡者の発生をできる限り減らすことであり 今後集団防衛に係る影響は知見を重ねる必要がある (3) 予防接種の安全性について HPV ワクチンは蛋白質サブユニットワクチンであり ウイルス DNA を含まないため感染性がなく また主たる副反応は局所の疼痛 発赤 腫張であり さらに ワクチン接種による不妊などへの悪影響はないと推定されており HPV ワクチン固有の重篤な全身性反応は尐ないと考えられる しかし 実際の接種にあたっては 迷走神経反射による失神に注意するとともに 稀に起こりうる全身性の副反応に対する適切な対応が重要である (4) 医療経済的評価について HPV ワクチンの費用対効果を評価する研究は国内外で多数報告されており その多くは HPV ワクチンを接種しない場合および接種した場合における将来の子宮頸がんの罹患率や死亡率をシミュレーションモデルにより予測し 支払者の視点で 1 質調整生存年 (QALY) 獲得あたり費用を算出したものである これらの研究では 12 歳女子全員への接種は概ね費用対効果に優れるとの結果が得られている ( ファクトシート追加編 26

139 P11-12 参照 ) 厚生労働科学研究 ワクチンの医療経済性の評価 研究班 ( 班長池田俊也 ) が定めた費用対効果推計方法に基づき実施した分析においても わが国における 13 歳 ~16 歳の女子へのワクチン接種は費用対効果が良好であるとの結果が得られている ( ファクトシート追加編 P12-16 参照 ) 3 予防接種の実施について (1) 予防接種の目的を果たすためにどの程度の接種率が必要か将来 我が国の全人口レベルでの子宮頸がん罹患者および死亡者を減尐させるためには 推奨接種対象の女性に対して 100% に近い接種率が求められる (2) ワクチンは導入可能か 1 供給状況平成 22 年度のサーバリックスの供給予定は 130 万本程度であり 平成 22 年 10 月時点では不足していない また 企業によると 平成 23 年度については 接種状況等によるが 年間 400 万本程度までは供給可能とのことである 2 勧奨される具体的な接種スケジュール等ア接種対象者及び接種方法 HPV ワクチンは 中 1 から高 1( 又は中 1から高 1 相当の年齢 ) までの期間を標準的な接種期間として 3 回接種する 特に 中 1( 又は中 1 相当の年齢 ) の間に 3 回接種することを推奨する 標準的な接種期間にある年齢において 未だ本邦において HPV ワクチンが販売されていなかったなどの理由によりワクチン接種を行わなかった者に対し 接種機会を公平に確保するため キャッチアップ接種の機会の確保が必要であるが 20 歳以上の者に対しては HPV ワクチン接種よりも子宮頸がん検診受診を優先すべきである 接種間隔は サーバリックスについては 通常 ヶ月後とし 上腕の三頭筋部に筋肉内注射する なお 日本産婦人科医会が 2010 年 3 月発行した 子宮頸がん予防ワクチン接種の手引き においては ワクチンの接種時期を変更せざるを得ない場合 初回と 2 回目のワク 27

140 チン接種の間には最低 4 週間の間隔を置き 2 回目と 3 回目のワクチン接種の間には最低 16 週間を置くことが推奨されている なお 他のワクチン製剤との接種間隔として 生ワクチンの接種を受けた者は 通常 27 日以上 また他の不活化ワクチンの接種を受けた者は 通常 6 日以上間隔をおいて接種する イ接種方式個別接種を原則とする 但し 予防接種の実施に適した施設において集団を対象にして行う集団接種によることも差し支えない なお 市区町村長は 学校施設等を利用して予防接種を行う場合は 市区町村教育委員会等関係機関と緊密な連携を図り実施する必要がある ウ接種時の注意接種者が以下に該当すると認められる場合は 健康状態及び体質を勘案し 診察及び接種適否の判断を慎重に行い 予防接種の必要性 副反応 有用性について十分な説明を行い 同意を確実に得た上で 注意して接種する 1. 血小板減尐症や凝固障害を有する者 2. 心臓血管系疾患 腎臓疾患 肝臓疾患 血液疾患 発育障害等の基礎疾患を有する者 3. 予防接種で接種後 2 日以内に発熱のみられた者 4. 過去に痙攣の既往がある者 5. 過去に免疫不全の診断がなされている者及び近親者に先天性免疫不全症の者がいる者 6. 妊婦または妊娠している可能性のある婦人なお ワクチン接種後に血管迷走神経反射として失神があらわれることがあるので 接種後 30 分程度は被接種者を座らせるなどして状態を観察することが望ましい エ保護者等への情報提供市区町村長は 保護者及び被接種者に対し ヒトパピローマウイルスに関する感染経路を含めた基本的な基礎情報 当該ワクチンの有効性や副反応等 及び将来の子宮頸がん検診の有用性と受診勧奨等に関して 十分な情報提供を行うこと 28

141 (3) 実施する際の留意点 1 実施に当たっての安全性に関する留意点ワクチン接種にあたっては ワクチン接種における一般的事項について十分な注意が必要であり 接種前に十分な問診を行い また接種を実施する場合には 接種後 30 分の観察を徹底し またアナフィラキシー様症状など重篤な副反応に対して適切な処置が行えるよう準備が必要である また 接種プロトコール中に妊娠が判明した場合は接種を延期することが推奨されている なお 授乳婦に関しては 有益性がある場合のみとされている 2ワクチンに関する被接種者等に対する説明に当たっての留意点アワクチン接種年齢が中学 3 年生未満の場合 HPV ワクチン接種実施対象を 中学 3 年生未満にする場合には HPV ワクチン接種を行う理由を HPV の性感染予防として説明するのは困難と思われる それは第一に これらの年齢では性行為の意味さえ知らない生徒が尐なからず存在しているからであり ( 参考 : 平成 15 年実施の某市の全公立中学校 22 校の全数調査によれば 中学 1 年で性行為の意味を知らない女子生徒は 17.1%) 第二に 小学校学習指導要領及び中学校学習指導要領 ( いずれも平成 20 年 3 月告示 ) には 中学 3 年生未満の生徒に対する指導内容の中に 性感染症に関する項目が存在しないからである ( 性感染症については中学 3 年生で扱うものとすると指導学年が明記されている ) したがって 中学 3 年生未満の生徒に対して HPV ワクチン接種を実施する場合には その必要性を HPV の性感染予防の観点からではなく 病原体がもとになって起こる病気の予防という観点から説明する方が 実施可能性が高いと考えられる その際 子宮頸がんの発生原因も含めた保護者への説明は十分になされることが望まれるが これについては他のワクチンと同様である イワクチン接種年齢が中学 3 年生以上の場合 HPV ワクチン接種実施対象を 中学 3 年生以上にする場合には 中学校学習指導要領 ( 平成 20 年 3 月告示 第 2 章第 7 節 第 5 章 ) 高 29

142 等学校学習指導要領 ( 平成 21 年 3 月告示 第 5 章 ) において 中学校 3 年生および高校生に対しては 性感染症の主な感染経路 予防にも触れることと記されているため HPV ワクチン接種の理由を 子宮頸がん予防とその背景となる発がん性 HPV の性感染予防の観点から説明をすることは指導要領の視点からは不可能ではないと考えられる しかしながら 一般に性感染症患者に対する社会の差別偏見意識は根強く 今回の HPV ワクチンに関する指導内容によっては子宮頸がん患者への差別偏見を生じる懸念も否めない 加えて 1999 年に解禁された経口避妊薬に対しても 平成 22 年度に実施した高校 2 年生に対する全国調査 ( 男子 6313 人 女子 6454 人 30 都道府県 74 校が参加 ) によれば ( 経口避妊薬 ) ピルは HIV や性感染症の予防にならない という質問に対する正解率が男子 58.1% 女子 62.6% にとどまるなど いまだに基本的な誤解をしている生徒が相当の割合にのぼる 以上のことから HPV 予防ワクチンに関する教育に際しては 1 子宮頸がん患者に対する差別偏見が生じないように指導内容について患者団体等と十分な事前協議が必要であること 2このワクチンは全ての性感染症を予防するものではなく かつ全ての HPV 感染が予防されない場合もありうることを明確にする必要があること 3ゆえに予防接種を受けても子宮頸がん定期検診を受ける必要があることを徹底させる必要があること に留意する必要がある 30

143 総合的な評価 (1) 結論対象疾病の影響 予防接種の効果 目的 安全性等 予防接種の実施について評価 分析し また WHO 勧告や海外先進諸国における取組等を踏まえた結果 実施に当たって以下に示す点を留意の上 我が国における HPV ワクチンの定期的な接種を推進する必要があると考える (2) 検討すべき課題ワクチンの HPV 感染予防効果は 100% ではないこと ワクチンに含有される HPV 型以外の HPV 感染の可能性があること また HPV ワクチンを接種した集団において子宮頸がんが減尐するという効果が期待されているものの 実際に達成されたという証拠は未だないことから 罹患率 死亡率の減尐効果が確認されている細胞診による子宮頸がん検診を適正な体制で行うべきである WHO は 2006 年の Preparing for the introduction of HPV vaccines policy and programme guidance for countries. において HPV ワクチン導入時には CIN1,2 など 検診で早期から検出される前がん病変のモニタリングを また長期間のモニタリングとして子宮頸がん罹患率および死亡率のモニタリングを行うことを提唱している したがって わが国においても HPV ワクチンの効果判定という視点から がん登録はもとより 検診制度のなかでの前がん病変の把握 集計の実施についてや 研究等におけるタイプ別の HPV の感染状況の把握について 検討を行うことを推奨する 31

144 参考文献 1. 日本婦人科腫瘍学会編 : 子宮頸癌治療ガイドライン. 金原出版, 東京, Quinn MA, Benedet JL, Odicino F, Maisonneuve P, Beller U, Creasman WT, Heintz AP, Ngan HY, Pecorelli S. Carcinoma of the cervix uteri. FIGO 6th Annual Report on the Results of Treatment in Gynecological Cancer. Int J Gynaecol Obstet. 2006; 95 :S 日本産科婦人科学会腫瘍委員会報告. 日産婦誌. 2009; 61(12): 作成担当者予防接種部会ワクチン評価に関する小委員会ヒトパピローマウイルス (HPV) ワクチン作業チーム青木大輔慶應義塾大学医学部産婦人科学教授池田俊也国際医療福祉大学薬学部教授木原雅子京都大学大学院医学研究科准教授柊元巌国立感染症研究所病原体ゲノム解析研究センター室長小西郁生京都大学大学院婦人科学産科学教授多田有希国立感染症研究所感染症情報センター室長福島若葉大阪市立大学大学院医学研究科公衆衛生学講師森内浩幸長崎大学小児科学教授作成協力五十嵐中東京大学大学院薬学系研究科 ( 五十音順 ) 32

145 水痘ワクチン作業チーム報告書 予防接種部会ワクチン評価に関する小委員会 水痘ワクチン作業チーム

146 ファクトシート追加編 (1) 水痘ワクチンの社会経済的影響と費用対効果 1 水痘の社会経済的影響水痘は学校保健安全法で第二種の学校感染症に挙げられ すべての発疹が痂皮化するまで学校への出席を停止とするよう定められている そのため 水痘がもたらす社会経済的影響には 治療に必要な医療費のほかに 家族が看護や付添で仕事や家事を休むことによる負担 ( 生産性損失 ) が考えられる 治療に必要な医療費のうち 外来診療費は平成 年に某地方都市 ( 人口 8 万人 ) で行われた質問紙調査から 1 人平均 12,752 円 1) 入院診療費は平成 6-10 年愛知県ウイ 2) ルス感染対策事業調査から 1 人平均 270,080 円であったと報告されている 2 水痘ワクチンの費用対効果推計ア文献レビュー水痘に対する施策として水痘ワクチンの皆接種制度 ( 定期接種化 ) を導入した場合の費用対効果を評価する研究が行われている PubMed に収載された最近 10 年間に先進諸国で行われた研究を表 1 に示した 費用対効果は 罹患に係る負担 ( 医療費 QOL [quality of life, 生活の質 ] への影響 家族の看護の負担など ) の減尐と予防接種に係る費用 ( ワクチン接種費用 家族の付添の負担など ) の増加を比較して 罹患に係る費用減尐額 / 予防接種に係る費用増加額 比や 1 QALY [quality-adjusted life year, 質調整生存年 ] 獲得費用 (ICER [incremental cost-effectiveness ratio, 増分費用効果比 ] という ) などにより評価する その際 分析の視点は 1) 支払者の視点 ( 保健医療費のみで評価する ) と 2) 社会の視点 ( 保健医療費と非保健医療費と生産性損失の合計で評価する ) に分けられる イギリスの研究を除いて いずれの研究とも 社会の視点の分析で 罹患に係る費用減尐額 / 予防接種に係る費用増加額 比が 1 より大きく 水痘ワクチンは費用対効果に優れているという結果であった イギリスの研究は帯状疱疹を含めて評価している点が他とは異なる 水痘ワクチンが帯状疱疹におよぼす影響は十分明らかにされておらず 水痘ワクチンの費用対効果を必ずしも否定する結果とは言えない 1

147 国筆頭著者, 年 表 1 水痘ワクチンの費用対効果に関する研究結果 ワクチン接種スケジュール 2 ワクチン接種単価 分析期間 アメリカ MMRV または水痘ワクチン 5,284- Zhou F, ) ヶ月 +4-6 歳 11,720 円 生涯 イタリア水痘ワクチン Coudeville L, ) 1-2 歳 4,971 円 30 年間 スペイン水痘ワクチン Lenne X, ) 1-2 歳 3,719 円 50 年間 ドイツ水痘ワクチン Banz K, ) 歳 歳 6,395 円 30 年間 イギリス水痘ワクチン Brisson M, ) ヶ月 12 歳 3,958 円 80 年間 カナダ水痘ワクチン Brisson M, ) 1 歳 12 歳 4,910 円 30 年間 カナダ水痘ワクチン Getsios D, ) 12 ヶ月 5,411 円 70 年間 オーストラリア水痘ワクチン Scuffham P, ) 1 歳 12 歳 4,483 円 30 年間 ニュージーランド水痘ワクチン Scuffham P, ) 約 15 ヶ月 6,698 円 30 年間 日本水痘ワクチン 5,000- 菅原, ) 1 歳 12,000 円 生涯 ワクチン接種単価 : ワクチン代と接種代を合わせた接種 1 回あたりに掛かる費用 ( 平成 22 年 10 月 4 日時点の外国為替レートで日本円に換算した ) 罹患接種費用比 : 罹患に係る費用減尐額 / 予防接種に係る費用増加額 比 文献から得られた数値をもとに計算した 調査時点の接種状況との比較 帯状疱疹を含めた評価 罹患接種費用比 1 支払者の視点 2 社会の視点 < イ厚生労働科学研究班による分析厚生労働科学研究 ワクチンの医療経済性の評価 研究班 ( 班長池田俊也 ) は ワクチン接種の費用対効果推計法 に従い 水痘ワクチンの定期接種化の費用対効果を評価した この研究では 平成 21 年 0 歳人口による出生コホート (107.8 万人 ) を対象に 水痘ワクチンを任意接種で実施した場合と定期接種で実施した場合に生じ得る 水痘に係る損失 QALY および費用 ならびに予防接種に係る損失 QALY および費用を推計した 定期接種の接種スケジュールは 1) 1 歳時に 1 回接種した場合と 2) 1 歳時と 5 歳時に 2 回接種した場合を検討した 疫学データは厚生労働科学研究費補助金 ( 医薬品 医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究事業 ) 予防接種の効果的実施と副反応に関する総合的研究 ( 平成 9-12 年度 研究代表者竹中浩治 ) 安全なワクチン確保とその接種方法に関する総合的研究 ( 平成 年度 研究代表者竹中浩治 ) ( 新興 再興感染症研究事業 ) 水痘 流行性耳下腺炎 肺炎球菌による肺炎等の今後の感染症対策に必要な予防接種に関する研究 ( 平成 年度 研究代表者岡部信彦 ) 予防接種で予防可能疾患の今後の感染症対策に必要な予防接種に関する研究 ( 平成 年度 研究代表者岡部信彦 ) 研究報

148 告書と関連の論文を参照した 定期接種化以前の任意接種での接種率は平成 17 年の大阪府 20 市町村の調査結果に基づき設定した 13) 定期接種化以後の定期接種での接種率は平成 20 年の麻疹ワクチンの接種実績に基づき 1 歳時 94.3% 5 歳時 91.8% とした 水痘に係る損失 QALY のうち後遺症による損失分は 細菌性二次感染症や中枢神経合併症による長期障害について検討したが 発生率のデータを得られず たとえ考慮しても費用対効果に有意な影響を与えないと考えられたことから ゼロとして計算した ( 後遺症による損失を考慮しないことは予防接種にとってはむしろ控えめな評価になる ) 水痘に係る医療費は前述の金額を診療報酬改定率で平成 22 年水準に補正した金額 ( 外来診療費 1 人 12,270 円 入院診療費 1 人 250,780 円 ) ワクチン接種費用はワクチン代 ( 希望小売価格 4,500 円 ) と接種代 ( 初診料 2,700 円 手技料 180 円 乳幼児加算 750 円 生物製剤加算 150 円 ) に消費税 5% を加えた金額として 1 回 8,694 円とした 生産性損失は平成 21 年賃金構造基本統計調査の一般労働女性の賃金平均月額 228,000 円を基に 罹患時の看護に 7 日 接種時の付添に 0.5 日を費やすと仮定して計算した 割引率は費用効果とも年率 3% とした 基本条件での推計結果を表 2 に示した 予防接種費 1 回 8,694 円で 2 回接種した場合にも 社会の視点の分析で罹患に係る費用減尐額が予防接種に係る費用増加額を上まわり 費用対効果に優れているという結果であった 費用対効果への影響が大きいワクチン接種費用と割引率に関する感度分析を表 3 に示した 予防接種費 1 回 10,000 円で 2 回接種した場合にも 社会の視点の分析で罹患に係る費用減尐額が予防接種に係る費用増加額を上まわり 費用対効果に優れているという結果であった なお 予防接種費や出生数などの条件が今後も不変であると仮定した場合 定期接種化により 2 回接種し将来において定常状態となった状態では 予防接種費の増分は年間約 億円であるが 予防接種費以外の保健医療費は年間約 億円減尐し さらに家族等の生産性損失が年間約 億円減尐することから 社会の視点では 1 年あたり約 億円の費用低減が期待できると推計された ( 注 : 単年度の費用推計の場合には 割引は適用しない ) 3

149 表 2 水痘ワクチンの費用対効果 - 基本条件での推計結果 任意接種 定期接種 1 回接種 2 回接種 罹患数 1,027, , ,061 死亡数 後遺症数 水痘に係る損失 QALY 水痘に係る総費用 ( 万円 ) 6,245,054 2,131, ,710 保健医療費 1,206, , ,137 生産性損失 5,038,349 1,720, ,572 接種数 284,895 1,014,133 2,000,530 副反応数 予防接種に係る損失 QALY 予防接種に係る総費用 ( 万円 ) 333,685 1,230,171 2,293,213 保健医療費 232, ,007 1,595,757 生産性損失 101, , ,456 費用効果分析 ( 支払者の視点 ) 増分費用 ( 万円 ) , ,994 罹患接種費用比 ICER( 万円 / QALY) - 優位 2,387.1 費用比較分析 ( 社会の視点 ) 増分費用 ( 万円 ) - -3,216,982-3,317,816 罹患接種費用比 基本条件 : 予防接種費 1 回 8,694 円 割引率年率 3% 罹患接種費用比 : 罹患に係る費用減尐額 / 予防接種に係る費用増加額 比 増分費用 = 予防接種に係る費用増加額 - 罹患に係る費用減尐額 罹患に係る費用減尐額が予防接種に係る費用増加額を上まわり優位であるため ICER を計算しなかった 4

150 表 3 予防接種費と割引率に関する感度分析 予防接種費 割引率 1 回接種 2 回接種 1 回 年率 支払者社会支払者社会の視点の視点の視点の視点 8,694 円 3% 増分費用 ( 万円 ) -171,626-3,216, ,994-3,317,816 罹患接種費用比 % 増分費用 ( 万円 ) -233,241-3,573, ,176-3,623,017 罹患接種費用比 % 増分費用 ( 万円 ) -136,359-3,008, ,305-3,137,989 罹患接種費用比 ,000 円 3% 増分費用 ( 万円 ) -436,678-3,482, ,371-3,897,181 罹患接種費用比 % 増分費用 ( 万円 ) -502,621-3,843, ,580-4,256,772 罹患接種費用比 % 増分費用 ( 万円 ) -398,478-3,270, ,312-3,685,606 罹患接種費用比 ,000 円 3% 増分費用 ( 万円 ) -77,918-3,123, ,827-3,112,984 罹患接種費用比 % 増分費用 ( 万円 ) -138,002-3,478, ,238-3,398,955 罹患接種費用比 % 増分費用 ( 万円 ) -43,687-2,915, ,913-2,944,381 罹患接種費用比 罹患接種費用比 : 罹患費用減尐額 / 予防接種費用増加額 比 増分費用 = 予防接種に係る費用増加額 - 罹患に係る費用減尐額 参考文献 1) 大日康史, ほか. 水痘予防接種定期接種化の費用対効果分析. 厚生労働科学研究費補助金 ( 新興 再興感染症研究事業 ) 水痘 流行性耳下腺炎 肺炎球菌による肺炎等の今後の感染症対策に必要な予防接種に関する研究 ( 主任研究者岡部信彦 ) 平成 年度総合研究報告書 : p , ) 浅野喜造, 吉川哲史. 水痘帯状疱疹ウイルス感染症及び水痘ワクチンの臨床的研究. 厚生労働科学研究費補助金 ( 新興 再興感染症研究事業 ) 水痘 流行性耳下腺炎 肺炎球菌による肺炎等の今後の感染症対策に必要な予防接種に関する研究 ( 主任研究者岡部信彦 ) 平成 15 年度総括分担研究報告書 : p16-24, ) Zhou F, et al. An economic analysis of the universal varicella vaccination program in the United States. J Infect Dis 2008; 197 Suppl 2: S ) Coudeville L, et al. Varicella vaccination in Italy : an economic evaluation of different scenarios. Pharmacoeconomics 2004; 22(13): ) Lenne X, et al. Economic evaluation of varicella vaccination in Spain: results from a dynamic model. Vaccine 2006; 24(47-48): ) Banz K, et al. The cost-effectiveness of routine childhood varicella vaccination in Germany. Vaccine 2003; 21(11-12):

151 7) Brisson M, et al. Varicella vaccination in England and Wales: cost-utility analysis. Arch Dis Child 2003; 88(10): ) Brisson M, et al. The cost-effectiveness of varicella vaccination in Canada. Vaccine 2002; 20(7-8): ) Getsios D, et al. Instituting a routine varicella vaccination program in Canada: an economic evaluation. Pediatr Infect Dis J 2002; 21(6): ) Scuffham PA, et al. The cost-effectiveness of varicella vaccine programs for Australia. Vaccine 1999; 18(5-6): ) Scuffham P, et al. The cost-effectiveness of introducing a varicella vaccine to the New Zealand immunisation schedule. Soc Sci Med 1999; 49(6): ) 菅原民枝, ほか. 水痘ワクチン定期接種化の費用対効果分析. 感染症学雑誌 2006; 80(3): ) 国立感染症研究所感染症情報センター, NPO 法人大阪新興 再興感染症対策協議会. 小児期の予防接種モニタリングシステム構築の試み : 平成 17 年度アンケートによる接種率 罹患率試行調査のまとめ. 日本医事新報 2006; 4283: 厚生労働科学研究 ワクチンの医療経済性の評価 研究班赤沢学 ( 明治薬科大学公衆衛生 疫学 ) 池田俊也 ( 国際医療福祉大学薬学部 ) 五十嵐中 ( 東京大学大学院薬学系研究科 ) 小林美亜 ( 国立病院機構本部総合研究センター ) 佐藤敏彦 ( 北里大学医学部付属臨床研究センター ) 白岩健 ( 立命館大学総合理工学院 ) 須賀万智 ( 東京慈恵会医科大学環境保健医学講座 ) 杉森裕樹 ( 大東文化大学スポーツ 健康科学部 ) 田倉智之 ( 大阪大学医学部 ) 種市摂子 ( 早稲田大学教職員健康管理室 ) 平尾智広 ( 香川大学医学部 ) 和田耕治 ( 北里大学医学部 ) ( 班長 水痘ワクチン担当 ) 6

152 1. 予防接種の導入により期待される集団免疫効果ウルグアイでは 1999 年に 12 か月児を対象とする定期接種が導入された 導入の効果によって水痘の患者数は減尐したが 接種推奨年齢以外の年令層でも患者数が減尐した 1) また 米国のカリフォルニア ペンシルバニア テキサスの 3 地域において 19~35 ヶ月児の接種率が 2002 年までに 81% に向上し その結果 全年齢層での水痘患者数の減尐 とくに 1~4 歳の水痘患児が入院例も含め著明に減尐していることが明らかとなった この 3 地域で 1995 年と 2000 年の水痘患者数を比較すると 2000 年には 71~84% の水痘患者の減尐が認められている 2) 参考文献 1) Quian et al. Impact of universal varicella vaccination on 1-year-olds in Uruguay: Arch Dis Child 93:845-50, ( ファクトシート (7 月 7 日版 ) 文献 56 の再掲 ) 2) Guris et al. Changing varicella epidemiology in active surveillance sites-united States, J Infec Dis 197 suppl 2:S71-75, 2008.( ファクトシート (7 月 7 日版 ) 文献 46 再掲 ) 7

153 評価 分析編 以下の文章中に含まれる図表の番号と引用文献番号は 水痘ワクチンに関するファクトシート中の図表番号あるいは参考文献番号である 1 対象疾病の影響について (1) 臨床症状水痘は ヘルペスウイルス科の α 亜科に属する水痘 帯状疱疹ウイルス (VZV) の初感染により引き起こされる小児に好発する感染性疾患である その潜伏期間は感染から 2 週間程度 (10~21 日 ) である 発疹出現の 1-2 日前から発病初期にかけて 70% 程度の患者が発熱し 一部の患者では 40 以上となる場合がある 典型的な症例では 皮疹は紅斑から始まり 水疱を形成後 膿疱化し痂皮化して終了する 皮疹は掻痒感を伴い皮疹出現後 4 日目までは 次々と皮疹が出現するため 紅丘疹 水疱 膿疱など様々なステージの発疹が混在するのが特徴である 皮疹がすべて痂皮化するのに 1 週間から 10 日かかり 皮疹がすべて痂皮化して水痘が治癒したとされる 集団生活における他者への感染拡大を防ぐために作られた 学校保健安全法の出席停止期間も 水痘の発疹がすべて痂皮化するまで と定義されている 多くの感染者は典型的な症状を呈し 自然感染した水痘ワクチン未接種者の診断は 臨床症状により比較的容易である しかし水痘ワクチン接種者においては その症状は極めて軽症で非典型的であることが多く 臨床診断が難しい場合が多い なお重症例における症状は 小児では合併症によるものが多く 成人では水痘そのものによるものが多い 妊婦が妊娠初期に感染すると 発生頻度は 2% で胎児 新生児に四肢低形成 瘢痕性皮膚炎 眼球異常 精神発達遅滞などの重篤な障害を残す先天性水痘症候群を起こす可能性があり人工妊娠中絶に至る場合もある また妊娠 5 ヶ月目以降で水痘に罹患した妊婦の児では 帯状疱疹が早期に発症するとされている 出産 5 日前 ~ 出産 2 日後に妊婦が水痘を発症した場合には 抗ウイルス薬治療が行われない場合 新生児は生後 5~10 日頃水痘を発症し重症化することが多く 約 30% が死亡する また母親に水痘罹患歴のない生後 6 ヶ月未満の乳児および新生児が感染すると 移行免疫による軽症化効果が期待されず 重症になる危険性がある 平成 22 年 5 月 17 日 ( 月 )~5 月 21 日 ( 金 ) にスイス国ジュネーブで開催された第 63 回世界保健総会 (63rd World Health Assembly) において 防止可能な出生時のさまざまな障害を減尐させることを目的とした国連決議 (Resolution63.17) が承認され 加盟国に対して可能な施策を早急に立てることを求めている 対応すべき感染症の項目中には 風疹をはじめ TORCH 症候群のひとつとして先天性水痘感染の減尐が盛り込まれている 悪性腫瘍 ( 特に化学療法 放射線療法中の白血病 ) ネフローゼ症候群 ステロイド薬内服などによる免疫抑制状態など 細胞性免疫機能が低下した者が水痘を発症した場合も 重篤化することが多い (2) 疫学状況 1 わが国におけるまん延の状況 患者数 8

154 水痘は 感染症法に基づく 5 類感染症定点把握疾患であり その疫学状況は 全数把握ではなく 感染症発生動向調査の小児科定点により把握されている ワクチン導入後も 全国約 3000 箇所の小児科定点からだけで毎年 25 万人前後の患者が報告されており ( 水痘ワクチンに関するファクトシート ( 以下 ファクトシート )7 頁 : 図 2 図 3) わが国全体として見た場合には この数倍に当たる約 100 万人の患者発生が推定されている 不顕性感染の感染者数不顕性感染は極めて稀と考えられる 例えば ワクチン接種歴がなく抗体陰性であった 15 家族 19 人全員が 発症者と家族構成員の接触から 日後に水痘を発症した 9) また 発症児の兄弟に水痘ワクチンもしくはプラセボを接種した各群 13 人では ワクチン群で 4 人が軽度の水痘を発症したのに対し プラセボ群のうち 12 人 (92%) が中程度から重度の水痘を発症した 10) 死亡者数 ( 致命率 ) 厚生労働科学研究費補助金新興 再興感染症研究事業 水痘 流行性耳下腺炎 肺炎球菌による肺炎等の今後の感染症対策に必要な予防接種に関する研究 ( 平成 年度 ) ( 研究代表者 : 岡部信彦 ) ( 岡部班 ) による全国約 20,000 の内科 泌尿器科 皮膚泌尿器科 皮膚科 小児科 産科 産婦人科 耳鼻咽喉科を対象としたアンケート調査によると ( 回収率 40.9%) 重症化により入院を必要とする者は 平成 16 年度単年度を例に取ると 1 年間で 1,655 人 死亡者は 7 人把握されており 重症化することも尐なくないことが確認されている 2) 平成 17 年度においても 回収率 37.3% で水痘に伴う入院 1,276 人 死亡 3 人となっている 26) 従って 年間罹患数 100 万人程度に対し 最低でも 4000 人程度が重症化により入院し 20 人程度の死亡者数が出ると推定できる この頻度は 米国でワクチン導入以前に年間罹患者数 400 万人に対して約 100 人の死亡者数があったことと一致している 重症者数 ( 重症化率 ) 後遺症上記岡部班の調査では 入院患者のうち 37.5% が小児で その半数が水痘に合併症を伴うものであったのに対し 62.5% を占める成人では ほとんどが水痘単独であり 死亡者 7 人のうち 4 人は成人 (2 人には基礎疾患なし ) であった 水痘の好発年齢が小児期であることを考慮すると 成人の水痘は小児に比較して水痘そのものとして重症化しやすいと言える 1~14 歳で 10 万人当り約 1 例 15~19 歳では 2.7 例 30~49 歳では 25.2 例と成人で重症化する 同じく上記岡部班の調査では 合併症の上位 5 疾患は 熱性痙攣 肺炎 気管支炎 肝機能異常 皮膚細菌感染症と報告されている 中枢神経系の合併症としては 水痘罹患 1 万例に 10 人以下だが 第 3~8 病日を中心に急性小脳失調症や髄膜炎 / 脳炎 横断性脊髄炎などの神経合併症が現れる その 80% は治癒するが 20% は後遺症が残るか死亡に至る 広範な脳炎は稀で 1 万例に 2.7 人程度とされる 4) 2 感染源 感染経路 感染力 ( 基本再生産数 ) VZV は空気感染 飛沫感染 接触感染により広がり 感染力が非常に強く 90% 以上 9

155 の人が 10 歳までに発症する 過去の報告では発症年齢のピークは 4~5 歳とされてきたが 最近では働く母親の増加に伴う乳児期からの保育所などでの集団生活機会の増加により発症の低年齢化の傾向が見られる 24) (3) 対象疾病の治療法治療法の多くはその症状を緩和するための対症療法であり 痒みに対しては抗ヒスタミン薬の内服および外用薬としてフェノール亜鉛華リニメント ( カチリ ) が用いられる 発熱に対しては 必要があればアセトアミノフェン イブプロフェンの投与が行われ アスピリンなどのサリチル酸製剤は Reye 症候群発症との因果関係から使用しない また皮膚の二次感染に対しては抗菌薬の内服 外用などが用いられる 重症水痘 重症化が予測される免疫不全者などに対する治療薬としては 抗ヘルペスウイルス薬のアシクロビル (ACV) とバラシクロビル (VACV) などがあり 発疹出現から 24 時間以内であれば その投与効果が大きいことが臨床治験で示されている 免疫機能が正常な者の水痘の軽症化にも ACV,VACV などの経口投与が有効とされるが 軽症例まで含めた水痘患者に投与する必要はないとして 米国小児科学会 (AAP) 感染症部会をはじめ米国及び英国でのガイドラインは 抗ウイルス薬投与対象を明確に限定したものとなっている その理由のひとつとして ACV,VACV は副作用が尐なく耐性ウイルスの出現頻度も低いものの 耐性株が一度出現した場合に使用できる薬剤が毒性の強いフォスカルネットなどに限られていることが背景にある しかし日本においては水痘ワクチンの定期接種が行われていないという現状から 保育園児や幼稚園児を中心とした乳幼児の水痘患者が毎年多数発生しており 重症化予防と症状出現期間短縮を目的とした ACV,VACV の投与はかなりの数で使用されているのが実態である 2 予防接種の効果 目的 安全性等について (1) 水痘ワクチンについて世界で唯一 ワクチン産生用として評価が定まり わが国のみならず欧米でもワクチン産生用に用いられている水痘に対するワクチンは弱毒生ワクチン ( 岡株 ) である このワクチンは 岡という名前の水痘患児の水疱液からヒト胎児細胞により分離されたウイルス株を 34 でヒト胎児肺細胞 11 代 モルモット胎児細胞 12 代継代後 ヒト 2 倍体細胞の WI-38 に 3 代 MRC-5 に 2 代継代したものをマスターシードとしている この弱毒生水痘ワクチン ( 岡株 ) は シードロット管理が採用された日本最初のワクチンである わが国では一般財団法人阪大微生物病研究会が製造し 田辺三菱製薬株式会社から発売されている 開発当初は有効な抗ウイルス薬がなく 1987 年に認可された時点では 水痘が致命的となる白血病などの免疫不全のハイリスク患児で生後 12 ヶ月以上の感染防止を主目的にしていた その後 健康小児も接種対象に加えられ 2004 年には 免疫能が低下した高齢者を接種対象にして細胞性免疫の増強にも適用可能とされた 乾燥弱毒生ワクチンの製剤としての製造は 弱毒ウイルス岡株を感染させたヒト 2 倍体細胞を超音波処理し その遠心上清をワクチン原液としている これを 小分けしたものを凍結乾燥したものである (2) 水痘ワクチンの効果について 1 重症化防止効果 10

156 米国の水痘ワクチン定期接種導入前後の疫学成績を見ると 水痘ワクチン導入に伴い水痘関連の劇症型 A 群溶連菌感染症や 水痘関連入院症例数 死亡率の減尐 ( ファクトシート 13 頁 : 図 4) が明らかになっている 47) 48) 2 感染防止効果水痘ワクチンの抗体陽転率は約 90% と良好である 有効性については様々な報告があるが 水痘罹患の防止を基準にすると 80~85% 程度の値が示されており 重症化の防止という基準で見ると 100% とされている また ワクチン接種後の水痘罹患 (breakthrough 水痘 ) が 6~12% に認められるが 一般に症状は軽い 3 集団免疫効果本ワクチンの集団免疫効果は ファクトシート 2(3)3 に記載した図 5 が如実に示している ドイツにおける水痘ワクチンの接種年齢は 1 回目が か月 2 回目が か月 キャッチアップ接種が 18 歳までであるが 20 歳以上群を含めたすべての年齢群で水痘発症率が減尐している また 米国のカリフォルニア ペンシルバニア テキサスの 3 地域において 19~35 ヶ月児の接種率が 2002 年までに 81% に向上し その結果 全年齢層での水痘患者数の 減尐 とくに 1~4 歳の水痘患児が入院例も含め著明に減尐していることが明らかとな った この 3 地域で 1995 年と 2000 年の水痘患者数を比較すると 2000 年には 71~84% の水痘患者の減尐が認められている 46) 更に ウルグアイでは 1999 年に 12 か月児を対象とする定期接種が導入された結果 水痘の患者数は減尐したが 接種推奨年齢以外の年令層でも患者数が減尐した 56) 4 帯状疱疹患者の減尐ならびに症状軽減効果水痘ワクチンは野生株による自然感染後に比べ 帯状疱疹の発症や重篤度を軽減できる効果が期待できる その根拠は ファクトシート 3(2)1 及び 3(2)7 に記載されている以下の知見にある 1) ヒト皮膚片移植動物モデルにおいて 野生株に比べ水痘ワクチン株は皮膚組織での増殖性が低下している 2) 水痘発症後 血液中に水痘ウイルスが高率に同定検出されるのに対して ワクチン接種では検出されない 3) 皮膚でウイルスが増殖した結果として呈される発疹 ( 水疱 ) の程度と帯状疱疹の発症及びその重篤度に相関がある 4) 健常者より水痘罹患後早期に帯状疱疹を発症することが知られる急性白血病患児において 自然感染に比べワクチン接種による帯状疱疹出現頻度は低い 一方 ワクチン接種者が増加することにより患者数が減尐し その結果として 感染曝露機会が減尐することで自然感染による免疫増強が得られない状況となり一時的に帯状疱疹患者数が増加するのではないかとの懸念もある しかし 1) 定期接種が実施されている米国でも帯状疱疹の増加は発生していない 2) 免疫を増強させるために 水痘ワクチン ( 米国では帯状疱疹ワクチンとして承認済 ) による追加免疫という方策があるため 自然曝露機会が減尐しても それを解決するための方法が存在する 従って 長期的観点からみれば 水痘ワクチンの定期化接種により 水痘に加え帯状疱疹の減尐を図る効果も期待できる 5 予防接種効果の持続期間 11

157 本邦の成績では ワクチン接種 20 年後まで有効な免疫が持続することが確認されている しかしながら 定期接種化に伴い患者数が減尐しブースター効果が期待できなくなることにより 初回ワクチン接種後の免疫減衰が著明となる よって 米国では既にワクチン接種後の水痘罹患 (breakthrough 水痘 ) 症例の増加が問題となり 水痘ワクチンの 2 回接種が推奨され 実施に移されている (3) 水痘ワクチンの目的について水痘は 既にワクチンが定期接種化されている麻疹に比べると疾患重症度は低い しかし 麻疹同様感染力は強いため 毎年多数の小児が水痘に罹患して治療を受けなければならない 1(1)3 に記載したように 現在は抗ウイルス薬投与にかかる医療費が大きく その削減のためにも水痘ワクチン定期接種化の意義は高い さらに 一部症例において前記のような重篤な合併症があるうえ 昨今増加している移植など医原性の免疫不全宿主においては致死的な経過をたどる症例もあることから ワクチンによる水痘予防の意義は高い 一般に隔離解除の目安となる皮疹の痂皮化には 5~6 日間を要し その間患児看護のために保護者が仕事を休まざるを得ない 最近は共働きの家庭も多く この場合看護に伴う保護者の経済的損失も問題となるため このような観点からも水痘ワクチンの必要性は高いと考えられている VZV 再活性化に伴う帯状疱疹も今後高齢化社会が進むにつれさらに患者数が増加し VZV 感染に伴う disease burden としての重要性が増すと考えられる 米国では既に高齢者の帯状疱疹予防に水痘ワクチンと同じ岡株が水痘ワクチンとは別に 帯状疱疹ワクチン として使用されており 今後わが国でも帯状疱疹予防としての帯状疱疹ワクチンの重要性も増すと考えられる (4) 水痘ワクチンの安全性について本邦で開発され 現在世界各国で使用されている岡株弱毒生ワクチンの効果 安全性は極めて高い評価をうけている 当初 ステロイド治療を受けているネフローゼ症候群や白血病の患児などの水痘感染を防ぐ目的で開発された経緯からも安全性は十分に考慮されており 現在わが国で製造されている水痘ワクチン接種に伴う副反応は健常者においては極めて稀であると考えてよい さらに ファクトシート 25 頁 : 表 9 に市販後調査の結果が示されているが 健康人だけでなくハイリスク児においても副反応の頻度が低いことがわかる (5) 水痘ワクチンの費用対効果について水痘に対する施策として水痘ワクチンの皆接種制度 ( 定期接種化 ) を導入した場合の費用対効果を評価する研究が行われている 費用対効果は 罹患に係る負担 ( 医療費 QOL [quality of life, 生活の質 ] への影響 家族の看護の負担など ) の減尐と予防接種に係る費用 ( ワクチン接種費用 家族の付添の負担など ) の増加を比較して 罹患に係る費用減尐額 / 予防接種に係る費用増加額 比や 1 QALY [quality-adjusted life year, 質調整生存年 ] 獲得費用 (ICER [incremental cost-effectiveness ratio, 増分費用効果比 ] という ) などにより評価する 家族が看護や付添で仕事や家事を休むことによる負担 ( 生産性損失 ) を含めた 社会の視点 の分析結果はいずれも 罹患に係る費用減尐額 / 予防接種に係る費用増加額 比が 1 より大きく 水痘ワクチンは医療経済性に優れているという結果であった 厚生労働科学研究 ワクチンの医療経済性の評 12

158 価 研究班 ( 班長池田俊也 ) が ワクチン接種の費用対効果推計法 に基づいて分析した結果からも 定期接種化により 1 歳時と 5 歳時に 2 回接種した場合 社会の視点では 1 年あたり約 362 億円の費用低減が期待でき 予防接種費 1 回 10,000 円で 1 歳時と 5 歳時に 2 回接種した場合にも 社会の視点の分析で罹患に係る費用減尐額が予防接種に係る費用増加額を上まわると推計された 総じて 水痘ワクチンの皆接種制度 ( 定期接種化 ) は水痘に対する施策として費用対効果に優れており 医療経済的観点から導入の根拠があると考えられた 3 予防接種の実施について (1) 予防接種の目的を果たすためにどの程度の接種率が必要か 1 対象疾患の感染力家族内 保育 教育現場 病院内などで 水痘罹患歴もしくはワクチン接種歴のない水痘感受性者に起こったアウトブレイクの解析から 不顕性感染は極めて稀であり その感染力は麻疹に次いで強いことが明らかになっている このため コミュニティとしての予防策として未感染者と感染者との時間的 空間的な接触を断つことが重要であり 院内での感染拡大を避けるために感染患者を他の患者から離れた陰圧個室などに移動することや職員の休職 教育機関での感染拡大を避けるため学校保健安全法第二種学校感染症として 校長が 出席を停止 させることができるようになっている 2 予防接種の感染拡大防止効果ファクトシートに実例が示されているが 多数のアウトブレイクなどの事例から ワクチン接種者と非接種者における水痘発症率をもとにワクチンの有効率を求めると 完全に発症しない条件で 60-80% 軽症まで含めると 80~85% 中等度及び重症者でみると % となっている 症状の指標である水疱数が次の感染拡大の指標ともなるため 水痘ワクチン 1 回接種により尐なくとも 80% 程度までの感染拡大防止効果があるといえる ファクトシート取りまとめ後に発表された数理統計モデルを用いた解析 (Brisson ら Vaccine 28: ) によれば 1) 接種率 70-90% で 1 回接種 (5 及び 9 歳でキャッチアップ ) を行うと最初の 10 年間に急激に水痘発症を減尐することが可能である 2) しかし その時点で未接種者やワクチンで免疫が獲得されなかった接種者が一定数に達するため一旦アウトブレイクが起こる 3) その後は野生株による水痘発生はワクチン導入時の 10 分の 1 以下に減尐し 一方で水痘全体の 80% 程度がワクチン接種者で発生する軽症水痘となる としている また 2 回接種を導入するとワクチン接種者での水痘が減尐するため 90% の接種率で 72-97% の水痘発生の減尐が期待できるとしている 従って 低年齢で 1 回目接種を開始し 90% 近い接種率を確保した後 他のワクチンとの接種スケジュール調整や同時接種の安全性 有効性の確認などを踏まえ速やかに 2 回目接種を導入することにより 90% 前後の水痘をなくすことができると考えられる 3 予防接種の効果の持続期間日米での 年間に及ぶ長期追跡調査の結果から 1) ワクチン接種後に陽転した者は継続的に抗体陽性を持続する ( 持続率 >95%) 2) 1 回接種者の 15% 程度で不十分な抗体上昇しか得られないため このグループの小児がワクチン接種にも関わらず水痘罹患する 3) しかし 2 回接種することにより これらのグループにも十分な抗体などが誘 13

159 導され水痘に対する防護免疫が獲得され 長期予防効果が得られることが明らかにされている このため 米国 ドイツなどでは すでに 2 回接種が導入されている (2) ワクチンは導入可能か 1 供給状況ア国内 / 海外で承認されているワクチンの有無世界中で現在用いられている水痘ワクチンは もともとわが国で開発されたものであり 国内はもちろんライセンス契約により米国 欧州などでもメルク社や GSK 社により承認 販売されている 但し 最終小分け製品中に含まれるウイルス株の遺伝子的構成はメーカーにより微妙に異なっていることや 安定化剤などの要素も加わり 尐なくともメルク社製品を接種した場合に発熱などの副反応が起こる頻度は 国内メーカーのものと比べると有意に高い 国外では MMR に水痘を加えた MMRV ワクチンが開発され 承認されている しかしながら MMR ワクチンと水痘ワクチンを同時接種した場合に比べ MMRV ワクチンを接種した場合に 熱性痙攣などの副反応頻度が高いことから 米国 ACIP は 第 1 回目の接種に当っては MMRV ワクチンを積極的には推奨しないことを最近発表している イ供給体制 ( 需要見込み 国内の供給状況等 ) 国内メーカーの一般財団法人阪大微生物病研究会は 現在国内向けに年間 45 万ドーズを供給するとともに 100 万ドーズ以上を海外に輸出している 製造能力は年間に原液で 400 万ドーズ 小分け製品で 200 万ドーズあり さらなる生産能力の増強も計画中であるため 250 万ドーズ程度を要する 2 回接種による定期接種化を行っても十分に供給可能である 2 勧奨される具体的な接種スケジュール等ア対象者 ( 定期およびキャッチアップ ): 国内水痘ワクチン添付文書より抜粋国内の水痘ワクチンの接種対象者は 生後 12 月以上の水痘既往歴のない者及び下記 (1)~(6) に該当するもの であり 免疫機能が低下している者に対しても一定の基準を設けて接種可能としている唯一の生ワクチンである (1) 水痘の罹患が特に危険と考えられるハイリスク患者 ( 急性白血病などの悪性腫瘍患者及び治療により免疫機能に障害をきたしている者及びそのおそれのある者 ) 1) 急性リンパ性白血病患者の場合には I) 完全寛解後尐なくとも 3 カ月以上経過していること II) リンパ球数が 500/mm 3 以上であること III) 原則として遅延型皮膚過敏反応テストすなわち精製ツベルクリン (PPD) ジニトロクロロベンゼン (DNCB) 又はフィトヘモアグルチニン (PHA 5μg/0.1mL) による反応が陽性に出ること IV) 維持化学療法としての 6- メルカプトプリン投与以外の薬剤は 接種前尐なくとも 1 週間は中止し 接種後 1 週間を経て再開すること V) 白血病の強化療法 あるいは広範な放射線治療などの免疫抑制作用の強い治療を受けている場合には 接種を避けること 2) 悪性固形腫瘍患者の場合には 摘出手術又は化学療法によって腫瘍の増殖が抑制されている状態にある症例に接種する その場合の条件は白血病に準ずる 3) 急性骨髄性白血病 T 細胞白血病 悪性リンパ腫の場合には 原疾病及び治療薬によって一般に続発性免疫不全状態にあり臨床反応が出やすく抗体価の上昇も悪いので 本剤の接種は推奨されない 14

160 (2) ネフローゼ 重症気管支喘息などで ACTH コルチコステロイドなどが使用されている場合は 原則として症状が安定している症例 薬剤などによる続発性免疫不全が疑われる場合には 細胞免疫能遅延型皮膚過敏反応テスト等で確かめた後に接種を行う (3) 緊急時 ( 例えば感受性白血病児が水痘患者と密に接触した場合等 ) で 帯状ヘルペス免疫グロブリンが利用できない場合には 上記 (1) (2) に該当しなくても 接触後 72 時間以内に接種を行う ただし このような場合においても 免疫機能が特に障害を受けていると思われる場合 ( 例えばリンパ球数 500/mm 3 以下 ) は接種を避けること ( 過去の成績では本剤の副反応の程度に比較して自然水痘に罹患した場合の症状がより重篤で危険性が高いものと判断されている ) (4) 上記 (1)~(3) のハイリスク患者の水痘感染の危険性を更に減じるために予防接種を受けたハイリスク患者と密に接触する感受性者 ハイリスク患者の両親 兄弟などの同居者及び各患者の医療に関係する者が該当する (5) 水痘に感受性のある成人 特に医療関係者 医学生 水痘ウイルスに対する免疫能が低下した高齢者及び妊娠時の水痘罹患防止のため成人女子 ( 妊娠中は接種不適当者 ) (6) 病院の病棟若しくは学校の寮など閉鎖共同体における感受性対象者の予防または蔓延の終結ないしは防止目的の使用 イ用量 用法本ワクチンは凍結乾燥製剤であり 添付の溶解液 ( 日本薬局方注射用水 )0.7mL で溶解し, その内 0.5mL を皮下に接種する ウ接種スケジュールわが国では定期接種に導入されていないこともあって接種率は低いが 12 ヶ月以上で接種が行われている 米国では 水痘ワクチンの 1 回目を ヶ月 2 回目を 4-6 歳という数年あけたスケジュールで 2 回接種しているが ドイツでは 1 回目 ヶ月 2 回目 ヶ月と連続した 2 回接種法を採用している なお ドイツでは MMR ワクチンに水痘ワクチンを加えた 4 価の MMRV ワクチンを推奨している 米国では breakthrough 水痘が 2 回接種によりどこまで減尐できるかを学校での水痘アウトブレイクに基づき解析しつつあり すでに 2 件の事例が報告され 罹患率が 2 回接種で低いことが報告されている ) エ接種間隔 ( 最短間隔 同時接種可能なワクチン等 ) 不活化ワクチンの接種を受けた者は 通常 6 日以上間隔を置いて接種すること 接種前 3 ケ月以内に輸血又はガンマグロブリン製剤の投与を受けた者は 3 ケ月以上すぎるまで接種を延期する 他の生ワクチンの接種を受けた者は 通常 27 日以上の間隔を置いて接種すること 複数回接種のスケジュールを考慮する際には a) 1 回目接種後に 感染防御に必要な免疫がどの程度の割合の小児に成立するのか b) 自然感染による曝露がどの程度存在するのか c) 感染年齢の中心がどこにあるのか といった要因により ドイツのように 2 回を短い間隔で接種し 1 回接種で防御には不十分な免疫しか獲得しなかった小児を breakthrough 水痘から救うと同時に感染源を減尐させるのか 米国のように 2 回を数年という間隔で接種することにより免疫増強とキャッチアップ対策を優先するのか 15

161 を選択することとなる 米国など海外においては MMR ワクチンとの同時接種や MMRV ワクチン接種が進められている 日本においては 現在 厚生労働科学研究班 ( 研究代表者 : 加藤達夫 研究分担者 : 吉川哲史 ) で 麻疹風疹混合 (MR) ワクチンと水痘ワクチンを同時に接種する小規模な臨床研究が開始され 有害事象は発生していない 112) いずれにしても 他のワクチンとは独立に水痘ワクチンを 2 回接種しようとすると接種率の低下 コストの上昇などの問題が発生する 解決策としては a) 水痘を含む多価ワクチンを用いる もしくは b) 複数のワクチンを 部位を変えて同時に接種することとなる 同時接種は医師が特に必要と認めた場合は可能であり いずれのワクチンも水痘ワクチンと同時接種可能である (3) 実施する際の留意点以下の項目に該当する場合は 接種禁忌者 ( 接種不適当者 ) であり 接種不可である (1) 明らかな発熱を呈している者 ( 通常 接種前の体温が 37.5 以上の場合 ) (2) 重篤な急性疾患にかかっていることが明らかな者 (3) 本剤の成分によってアナフィラキシーを呈したことがあることが明らかな者 (4) 妊娠していることが明らかな者 (5) 上記に掲げる者のほか 予防接種を行うことが不適当な状態にある者 水痘ワクチンは元々 白血病等の免疫機能が低下した子どもたちを水痘罹患による重症化から守るために開発されたワクチンであり 生ワクチンの中ではこれらの基礎疾患を有する者に対しても接種が可能な安全なワクチンである ただし 14 頁 (2) 2 勧奨される具体的な接種スケジュール等のア対象者 ( 定期およびキャッチアップ ) に記載した (1)~(6) に該当していても 接種後 2 週間以内に治療等により末梢血リンパ球数の減少あるいは免疫機能の低下が予想される場合は 播種性の症状を呈するなどワクチンウイルスの感染を増強させる可能性があるため接種を避けなければならない 4 総合的な評価 (1) 結論一刻も早く わが国も 水痘ワクチンの定期的な接種を推進し キャッチアップ接種を含めて 生後 1 歳以降のこどもたちから接種する必要があると考える 結論を導いた 5 つのポイント 1 水痘は小児の軽症疾患と考えられる傾向にあるが 実際には重症化に伴う入院患者数が多く 適切な感染症対策が必要とされている < 根拠 > 毎年 100 万人以上が罹患 4 千人程度が重症化に伴い入院 有効な抗ウイルス薬が開発されている現在においても死亡者が 20 人前後発生している 2 水痘ワクチン ( 岡株 ) は わが国で開発された有効かつ安全なワクチンである < 根拠 > 1 安全性は 国内で 25 年 海外で 15 年以上の期間に 1 億人以上が接種を受け 副反応が極めて低いことから実証されている 16

162 2 有効性は 米国 ドイツなど水痘ワクチンが定期接種化された諸国では水痘罹患者 重症化患者 死亡者のすべてが激減していることから実証されている 3 水痘ワクチンの定期接種化は 集団免疫の観点からも必要性が高い また 国際的にも予防接種で予防すべき疾患とされているものであり 先天性水痘感染の減尐が求められている < 根拠 > 1 ワクチン接種を受けたくても受けることのできない基礎疾患を有する接種不適当者 ( 禁忌 ) の命を守り 妊婦の水痘罹患による先天性水痘 ( 次世代の後遺症 ) を防ぐためには 集団感染防御以外に有効な方法がない 妊婦の罹患を防ぐためには 定期接種化により小児の接種率を上げ まず国内の水痘流行そのものを抑制する必要がある 年開催の第 63 回世界保健総会において 防止可能な出生時の様々な障害を減尐させることを目的とした国連決議が承認された 定期接種化により高い接種率が確保されれば 水痘に対する免疫を獲得した状態で妊娠を迎えることになり 危惧される先天性水痘感染の心配もなくなる 3 中途半端な接種率は水痘罹患年齢を上昇させ 結果として重症化を招くため 定期接種化し高い接種率を確保する必要がある 4 実際にわが国の入院例の多くを成人例が占めている 4 水痘ワクチンは 定期接種化による医療経済性に優れている < 根拠 > 予防接種費 1 回 1 万円で 2 回接種した場合にも 看護による生産性損失を減尐させる効果等により 社会の視点の分析で罹患に係る費用減尐額が予防接種に係る費用増加額を大きく上まわる 5 水痘ワクチンは 水痘のみならず帯状疱疹に対しても患者数減尐 重症化軽減の効果が期待できる < 根拠 > 1 帯状疱疹は治癒後も耐え難い神経痚を残し QOL を大きく損なうが 水痘ワクチン接種により患者数の減尐ならびに重症化の軽減が期待できる 2 なお 水痘罹患者数の減尐により一時的に自然感染による免疫増強効果が得られにくい時代を迎えたとしても 将来的に水痘ワクチン ( 帯状疱疹ワクチン ) により追加免疫が行われることが期待される (2) 検討すべき課題定期接種化に際しては 高い接種率を確保するための受けやすい環境作りが重要である 他のワクチンとの接種スケジュールを調整するとともに 可能な限り breakthrough 水痘の発症を減尐させ 感染拡大を防止するためには 2 回接種の実施が望ましい 17

163 作成担当者 ( 五十音順 ) 氏名井上直樹大西浩文須賀万智 多屋馨子 所属 職名国立感染症研究所ウイルス第一部室長札幌医科大学医学部公衆衛生学講座講師東京慈恵会医科大学環境保健医学講座准教授国立感染症研究所感染症情報センター室長 峯真人社団法人日本小児科医会理事 予防接種委員会担当 吉川哲史 藤田保健衛生大学医学部小児科教授 とりまとめ担当 18

164 おたふくかぜワクチン作業チーム報告書 予防接種部会ワクチン評価に関する小委員会おたふくかぜワクチン作業チーム

165 ファクトシート追加編 (1) おたふくかぜワクチンの社会経済的影響と費用対効果 1 流行性耳下腺炎 ( おたふくかぜ ) の社会経済的影響流行性耳下腺炎 ( おたふくかぜ ) は学校保健安全法で第二種の学校感染症に挙げられ 耳下腺腫脹が消失するまで学校への出席を停止とするよう定められている そのため 流行性耳下腺炎 ( おたふくかぜ ) がもたらす社会経済的影響には 治療に必要な医療費のほかに 家族が看護や付添で仕事や家事を休むことによる負担 ( 生産性損失 ) が考えられる 治療に必要な医療費のうち 外来診療費は平成 年に某地方都市 ( 人口 10 万人 ) で行われた質問紙調査から 1 人平均 10,477 円 1) 入院診療費は平成 6-10 年愛知県ウイルス感染対策事業調査から 1 人平均 233,200 円 2) であったと報告されている 2 おたふくかぜワクチンの費用対効果推計ア文献レビュー流行性耳下腺炎 ( おたふくかぜ ) に対する施策としておたふくかぜワクチンの皆接種制度 ( 定期接種化 ) を導入した場合の費用対効果を評価する研究が行われている PubMed に収載された最近 10 年間に先進諸国で行われた研究を表 1 に示した 費用対効果は 罹患に係る負担 ( 医療費 QOL [quality of life, 生活の質 ] への影響 家族の看護の負担など ) の減尐と予防接種に係る費用 ( ワクチン接種費用 家族の付添の負担など ) の増加を比較して 罹患に係る費用減尐額 / 予防接種に係る費用増加額 比や 1 QALY [quality-adjusted life year, 質調整生存年 ] 獲得費用 (ICER [incremental cost-effectiveness ratio, 増分費用効果比 ] という ) などにより評価する その際 分析の視点は 1) 支払者の視点 ( 保健医療費のみで評価する ) と 2) 社会の視点 ( 保健医療費と非保健医療費と生産性損失の合計で評価する ) に分けられる いずれの研究とも 罹患に係る費用減尐額 / 予防接種に係る費用増加額 比が 1 より大きく おたふくかぜワクチンは費用対効果に優れているという結果であった 1

166 国筆頭著者, 年 表 1 おたふくかぜワクチンの費用対効果に関する研究結果 ワクチン接種スケジュール ワクチン接種単価 分析期間 罹患接種費用比 1 支払者の視点 2 社会の視点 アメリカ MMR ワクチン 1, 年間 Zhou F, ) ヶ月 +4-6 歳 2,541 円日本おたふくかぜワクチン 6,000 円生涯菅原, ) 1 歳ワクチン接種単価 : ワクチン代と接種代を合わせた接種 1 回あたりに掛かる費用 ( 平成 22 年 10 月 4 日時点の外国為替レートで日本円に換算した ) 罹患接種費用比 : 罹患に係る費用減尐額/ 予防接種に係る費用増加額 比 文献から得られた数値をもとに計算した 調査時点の接種状況との比較 イ厚生労働科学研究班による分析厚生労働科学研究 ワクチンの医療経済性の評価 研究班 ( 班長池田俊也 ) は ワクチン接種の費用対効果推計法 に従い おたふくかぜワクチンの定期接種化の費用対効果を評価した この研究では 平成 21 年 0 歳人口による出生コホート (107.8 万人 ) を対象に おたふくかぜワクチンを任意接種で実施した場合と定期接種で実施した場合に生じ得る 流行性耳下腺炎 ( おたふくかぜ ) に係る損失 QALY および費用 ならびに予防接種に係る損失 QALY および費用を推計した 定期接種の接種スケジュールは 1) 1 歳時に 1 回接種した場合と 2) 1 歳時と 5 歳時に 2 回接種した場合を検討した 疫学データは厚生労働科学研究費補助金 ( 医薬品 医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究事業 ) 予防接種の効果的実施と副反応に関する総合的研究( 平成 9-12 年度 研究代表者竹中浩治 ) 安全なワクチン確保とその接種方法に関する総合的研究 ( 平成 年度 研究代表者竹中浩治 ) ( 新興 再興感染症研究事業 ) 水痘 流行性耳下腺炎 肺炎球菌による肺炎等の今後の感染症対策に必要な予防接種に関する研究 ( 平成 年度 研究代表者岡部信彦 ) 予防接種で予防可能疾患の今後の感染症対策に必要な予防接種に関する研究 ( 平成 年度 研究代表者岡部信彦 ) 研究報告書と関連の論文を参照した 定期接種化以前の任意接種での接種率は平成 17 年の大阪府 20 市町村の調査結果に基づき設定した 5) 定期接種化以後の定期接種での接種率は平成 20 年の麻疹ワクチンの接種実績に基づき 1 歳時 94.3% 5 歳時 91.8% とした 流行性耳下腺炎 ( おたふくかぜ ) に係る損失 QALY のうち後遺症による損失分は 難聴について効用値 (QOL ウェイト )0.9 として計算した 中枢神経合併症による長期障害についても検討したが 発生率のデータを得られず たとえ 2

167 考慮しても費用対効果に有意な影響を与えないと考えられたことから ゼロとして計算した ( 難聴以外の後遺症による損失を考慮しないことは予防接種にとってはむしろ控えめな評価になる ) 流行性耳下腺炎( おたふくかぜ ) に係る医療費は前述の金額を診療報酬改定率で平成 22 年水準に補正した金額 ( 外来診療費 1 人 9,690 円 入院診療費 1 人 216,600 円 ) ワクチン接種費用はワクチン代( 希望小売価格 2,840 円 ) と接種代 ( 初診料 2,700 円 手技料 180 円 乳幼児加算 750 円 生物製剤加算 150 円 ) に消費税 5% を加えた金額として 1 回 6,951 円とした 生産性損失は平成 21 年賃金構造基本統計調査の一般労働女性の賃金平均月額 228,000 円を基に 罹患時の看護に 0-3 歳児で 6 日 4-14 歳児で 8 日 ( 接種後罹患者については 6 日 ) 接種時の付添に 0.5 日を費やすと仮定して計算した 割引率は費用効果とも年率 3% とした 基本条件での推計結果を表 2 に示した ワクチン接種費用 1 回 6,951 円で 2 回接種した場合にも 社会の視点の分析で罹患に係る費用減尐額が予防接種に係る費用増加額を上まわり 費用対効果に優れているという結果であった 費用対効果への影響が大きいワクチン接種費用と割引率に関する感度分析を表 3 に示した 予防接種費 1 回 10,000 円で 2 回接種した場合にも 社会の視点の分析で罹患に係る費用減尐額が予防接種に係る費用増加額を上まわり 費用対効果に優れているという結果であった なお 予防接種費や出生数などの条件が今後も不変であると仮定した場合 定期接種により 2 回接種し将来において定常状態になった状態では 予防接種費の増分は年間約 億円であるが 予防接種費以外の保健医療費は約 94.0 億円減尐し さらに家族等の生産性損失が約 億円減尐することから 社会の視点では1 年あたり約 億円の費用低減が期待できると推計された ( 注 : 単年度の費用推計の場合には 割引は適用しない ) 3

168 表 2 おたふくかぜワクチンの費用対効果 - 基本条件での推計結果 任意接種 定期接種 1 回接種 2 回接種 罹患数 737, ,623 57,455 死亡数 後遺症数 流行性耳下腺炎に係る損失 QALY 2, 流行性耳下腺炎に係る総費用 ( 万円 ) 4,472, , ,934 保健医療費 897, ,408 67,345 生産性損失 3,574, , ,589 接種数 322,490 1,014,133 2,000,530 副反応数 予防接種に係る損失 QALY 予防接種に係る総費用 ( 万円 ) 322,586 1,065,790 1,979,916 保健医療費 209, ,626 1,282,460 生産性損失 113, , ,456 費用効果分析 ( 支払者の視点 ) 増分費用 ( 万円 ) , ,752 罹患接種費用比 ICER( 万円 /QALY) - 優位 費用比較分析 ( 社会の視点 ) 増分費用 ( 万円 ) - -2,934,715-2,478,813 罹患接種費用比 基本条件 : 予防接種費 1 回 6,951 円 割引率年率 3% 罹患接種費用比 : 罹患に係る費用減尐額/ 予防接種に係る費用増加額 比 増分費用 = 予防接種に係る費用増加額 - 罹患に係る費用減尐額 罹患に係る費用減尐額が予防接種に係る費用増加額を上まわり優位であるため ICER を計算しなかった 4

169 表 3 予防接種費と割引率に関する感度分析 予防接種費 割引率 1 回接種 2 回接種 1 回 年率 支払者社会支払者社会の視点の視点の視点の視点 6,951 円 3% 増分費用 ( 万円 ) -265,019-2,934, ,752-2,478,813 罹患接種費用比 % 増分費用 ( 万円 ) -360,358-3,439, ,982-2,898,058 罹患接種費用比 % 増分費用 ( 万円 ) -211,239-2,647, ,409-2,241,155 罹患接種費用比 ,000 円 3% 増分費用 ( 万円 ) -404,036-3,073,732-61,662-2,783,227 罹患接種費用比 % 増分費用 ( 万円 ) -500,410-3,579, ,277-3,230,318 罹患接種費用比 % 増分費用 ( 万円 ) -349,411-2,785,946-39,734-2,529,299 罹患接種費用比 ,000 円 3% 増分費用 ( 万円 ) -60,759-2,730, ,053-2,014,512 罹患接種費用比 % 増分費用 ( 万円 ) -154,588-3,233, ,743-2,391,298 罹患接種費用比 % 増分費用 ( 万円 ) -8,215-2,444, ,896-1,801,668 罹患接種費用比 罹患接種費用比 : 罹患に係る費用減尐額/ 予防接種に係る費用増加額 比 増分費用 = 予防接種に係る費用増加額 - 罹患に係る費用減尐額 5

170 参考文献 1) 大日康史, ほか. ムンプスの疾病負担と定期接種化の費用対効果分析. 厚生労働科学研究費補助金 ( 新興 再興感染症研究事業 ) 水痘 流行性耳下腺炎 肺炎球菌による肺炎等の今後の感染症対策に必要な予防接種に関する研究 ( 主任研究者岡部信彦 ) 平成 年度総合研究報告書 : p , ) 浅野喜造, 吉川哲史. 水痘帯状疱疹ウイルス感染症及び水痘ワクチンの臨床的研究. 厚生労働科学研究費補助金 ( 新興 再興感染症研究事業 ) 水痘 流行性耳下腺炎 肺炎球菌による肺炎等の今後の感染症対策に必要な予防接種に関する研究 ( 主任研究者岡部信彦 ) 平成 15 年度総括分担研究報告書 : p16-24, ) Zhou F, et al. Economic evaluation of the 7-vaccine routine childhood immunization schedule in the United States, Arch Pediatr Adolesc Med 2005; 159(12): ) 菅原民枝, ほか. ムンプスワクチンの定期接種化の費用対効果分析. 感染症学雑誌 2007; 81(5): ) 国立感染症研究所感染症情報センター, NPO 法人大阪新興 再興感染症対策協議会. 小児期の予防接種モニタリングシステム構築の試み : 平成 17 年度アンケートによる接種率 罹患率試行調査のまとめ. 日本医事新報 2006; 4283: 厚生労働科学研究 ワクチンの医療経済性の評価 研究班赤沢学 ( 明治薬科大学公衆衛生 疫学 ) 池田俊也 ( 国際医療福祉大学薬学部 ) 五十嵐中 ( 東京大学大学院薬学系研究科 ) 小林美亜 ( 国立病院機構本部総合研究センター ) 佐藤敏彦 ( 北里大学医学部付属臨床研究センター ) 白岩健 ( 立命館大学総合理工学院 ) 須賀万智 ( 東京慈恵会医科大学環境保健医学講座 ) 杉森裕樹 ( 大東文化大学スポーツ 健康科学部 ) 田倉智之 ( 大阪大学医学部 ) 種市摂子 ( 早稲田大学教職員健康管理室 ) 平尾智広 ( 香川大学医学部 ) 和田耕治 ( 北里大学医学部 ) ( 班長 おたふくかぜワクチン担当 ) 6

171 流行性耳下腺炎 ( おたふくかぜ ) による死亡報告数 1995 年 ~2009 年の人口動態統計によると 流行性耳下腺炎 ( おたふくかぜ ) による死亡者数は 1997 年が 4 名と最多で 1999,2004, 年を除いて毎年 1~2 名の死亡報告があった 2. おたふくかぜワクチンの有効性 安全性国内では現在 星野株おたふくかぜワクチンと鳥居株おたふくかぜワクチンがそれぞれ単味のおたふくかぜワクチンとして市販され 任意接種として接種が行われている 一方 過去に国内で使用された実績がある阪大微研会の UrabeAM9 株おたふくかぜワクチンと 化血研の宮原株おたふくかぜワクチンは 2010 年 10 月現在 国内使用はなされていない また 化血研が輸入販売申請中の Merck Sharp & Dohme 社の Jeryl-Lynn 株おたふくかぜワクチンを含む MMR ワクチンは臨床治験を終了しているが 2010 年 10 月現在国内での製造販売承認はなされていない 以上のことからこれらのワクチンの有効性ならびに安全性について おたふくかぜワクチンに関するファクトシート ( 以下 ファクトシート ) に記載がなされていないファクトについて ワクチン添付文書ならびに学術論文に掲載された内容を記述する 1) 星野株 鳥居株おたふくかぜワクチン共通の副反応等発現状況 ( ワクチン添付文書より ) ワクチン添付文書に記載されている副反応等発現状況の概要としては 以下のものが挙げられている ( まれに : 0.1% 未満 ときに : 0.1~5% 未満 副詞なし : 5% 以上又は頻度不明 ) 1. ショック アナフィラキシー様症状まれにショック アナフィラキシー様症状 ( 蕁麻疹 呼吸困難 血管浮腫等 ) 2. 無菌性髄膜炎接種後 ワクチンに由来すると疑われる無菌性髄膜炎が まれに発生 乾燥弱毒生麻しんおたふくかぜ風しん混合ワクチンでは 接種後 3 週間前後に おたふくかぜワクチンに由 18,28 29 来すると疑われる無菌性髄膜炎が 1,200 人接種あたり1 人程度発生 ) 3. 急性血小板減尐性紫斑病まれに (100 万人接種あたり1 人程度 ) 急性血小板減尐性紫斑病 通常 接種後数日から 3 週ごろに紫斑 鼻出血 口腔粘膜出血等 4. 難聴まれに ワクチン接種との関連性が疑われる難聴 通常一側性のため 出現時期等の確認が難しく 特に乳幼児の場合注意深い観察が必要 5. 精巣炎 ( 睾丸炎 ) まれにワクチンに由来すると疑われる精巣炎 ( 睾丸炎 ) 通常接種後 3 週間前後に精巣腫脹等が 特に思春期以降の男性にみられる

172 その他の副反応 1) 過敏症まれに接種直後から数日中に過敏反応として 発疹 蕁麻疹 紅斑 そう痒 発熱 2) 全身症状感受性者の場合 接種後 2~3 週間ごろ 発熱 耳下腺腫脹 嘔吐 咳 鼻汁等 しかし これらの症状は自然感染に比べ軽度であり かつ 一過性で 通常 数日中に消失 3) 局所症状接種局所に発赤 腫脹を認めることがあるが 30) 通常 一過性で2~3 日中に消失 ) 星野株おたふくかぜワクチン 1. 有効性 ( ワクチン添付文書 25) より ) (1) 流行性耳下腺炎 ( おたふくかぜ ) 発症阻止効果本剤を接種した乳幼児 241 例を対象に 流行性耳下腺炎 ( おたふくかぜ ) 発症阻止効果 ( 接種後 1~12 年 ) の調査を行った結果 接種後に流行性耳下腺炎 ( おたふくかぜ ) を発症した症例は 1 症例だけであり 高い発症阻止効果が確認された 15) (2) 抗体産生接種前ムンプスウイルスに対する抗体陰性者 56 例 (1~11 歳 ) に対して接種 4~6 週後に採血し 抗体陽転率と抗体価について調査を行った 56 症例中 51 症例でムンプス HI 抗体が陽転し 抗体陽転率は 91.1% 平均抗体価は という結果が得られた 20) 安全性ア. ワクチン添付文書 25) より おたふくかぜワクチン ( 星野株 ) を接種した 218 症例について その臨床反応の調査を行った結果 ワクチン接種後 1 か月以内に耳下腺腫脹 6 例 発熱 2 例が認められた 耳下腺腫脹は接種後 18~22 日目の間に認められた 全例とも臨床反応は軽微であり 腫脹 圧痛 発熱も一過性で一両日中に消退を見ている 15) イ. 星野株おたふくかぜワクチン接種後の副反応報告 ( 市販後調査 ) 製造販売会社 ( 北里研究所 ) による市販後サーベイランスによると 1994 年 4 月 ~2004 年 12 月までに報告されたおたふくかぜワクチン接種後の副反応は 153 万出荷数あたり脳炎 ADEM, 急性小脳失調 血小板減尐性紫斑病が各 1 人報告されたが 脳炎と ADEM の症例の髄液からはエンテロウイルス遺伝子が検出され ムンプスウイルス遺伝子はいずれの患者からも検出されなかった また 134 人の無菌性髄膜炎が報告されたが この内 55 人の髄液について検討したところ 40 人からムンプスウイルス遺伝子が検出され 35 人がワクチン株 5 人は野生株と同定さ 8

173 1 2 3 れた 以上のことから星野株おたふくかぜワクチンによる無菌性髄膜炎の頻度は推定 10,000 人接種に 1 人と見積もられており 31) 上記添付文書に記載されている MMR ワクチン 後の無菌性髄膜炎の頻度より低い ) 鳥居株おたふくかぜワクチン 1. 有効性 ( ワクチン添付文書 26) より ) (1) 感染防御効果流行性耳下腺炎 ( おたふくかぜ ) 流行時 家族内小児同胞 237 例を対象に ワクチン接種群及び未接種群の家族内二次感染 発病阻止調査が行われた 19) 家族内二次感染 発症率は ワクチン接種群で 4.2% 一方未接種群では 73.8% となり 家族内二次感染防御 ( 発病阻止 ) について算定したワクチンの予防効果率は 94.3% であった (2) 抗体産生生後 12 か月以上の健康小児を対象に臨床試験を行った結果 16) 本剤 0.5mLを1 回皮下に注射した後 6~8 週後に採血し 獲得抗体価を測定した 本剤接種前ムンプス抗体陰性の小児 497 例中 477 例で抗体が陽転し 抗体陽転率は 90% 以上 (96.0%) 平均抗体価は 5.2(log 2 ) の成績が得られた 安全性接種前ムンプス抗体陰性の健康者を対象に 承認時まで 477 例 市販後 628 例について ワクチン接種後の臨床反応を調査した結果 16,17) 接種後 1~3 週間ごろ 特に 10~14 日を中心として 37.5 以上の発熱が数 % に 軽度の耳下腺腫脹が 1% 未満に認められた 発熱の程度は 38 台で 平均有熱期間は約 2 日 耳下腺腫脹の持続日数は 3 日間程度であった また 本剤市販後に無菌性髄膜炎の発生が報告され 2) その発生頻度は 12,000 人接種あたり1 人程度とされている ) 4) Jeryl-Lynn 株 MMR ワクチン ( ワクチン添付文書より ) 1. 有効性 MMR ワクチン導入前と導入後 (1995 年 ) の患者数は 流行性耳下腺炎 ( おたふくかぜ ) については 152,209 人 (1968 年 : 導入前 ) と 840 人 (1995 年 : 導入後 ) であり 99.45% 減尐したと報告された 21) 麻疹 風疹 流行性耳下腺炎( おたふくかぜ ) に対してすべて抗体陰性であった 11 か月から 7 歳の 284 人について MMRⅡワクチンを 1 回接種したところ 96% で中和抗体の陽転が認められた 予防接種後の抗体の維持について NT, HI, ELISA (enzyme linked immunosorbent assay) 法で確認したところ 初回接種から 11~13 年経過した時点でも多くの被接種者について抗体が検出された 22-24) 37 9

174 接種時の注意 1) 接種不適当者 ( 禁忌 ) ワクチンに含まれている成分( ゼラチンを含む ) に対して過敏性を有するもの 妊婦 ワクチン接種後 3 か月間は妊娠を避ける ネオマイシンでアナフィラキシーあるいはアナフィラキシー様反応をおこしたことがあるもの 発熱性の呼吸器疾患あるいは他の発熱性疾患に罹患中のもの( ただし ACIP では下痢 軽い上気道感染症 微熱性疾患のように軽症疾患の場合は投与可能としている ) 免疫抑制療法を受けているもの 造血機能障害 白血病 リンパ腫 骨髄あるいはリンパ組織に影響を及ぼす悪性腫瘍 先天性 後天性免疫不全症(AIDS 細胞性免疫不全 低 γグロブリン血症 γブロブリン異常症 ) 先天性免疫不全症の家族歴のあるもの( 免疫機能が証明されるまで ) 2) 警告 脳損傷の既往のあるもの 痙攣の既往あるいは痙攣の家族歴のあるもの 発熱によるストレスを避けなければならないもの 麻疹とおたふくかぜ生ワクチンはニワトリ胚細胞で培養して製造されているため 卵でじんましん 口唇の腫脹 呼吸困難 血圧低下 ショックを起こしたことがある場合は 注意が必要であるが 米国小児科学会は卵でアナフィラキシーの既往がある小児のほとんどが MMR ワクチンで予期しない反応を起こすことはないとしている 現在 血小板減尐を認める場合は 接種後により重篤な血小板減尐を引き起こす可能性がある MMRⅡワクチンの初回接種で血小板減尐症を認めたものは 2 回目の接種でも血小板減尐を認める可能性があるため抗体検査などで追加接種の必要があるかどうかを評価する 3. 安全性 MMR ワクチン接種との因果関係に関係なく収集された接種後の有害事象は 以下の通りである ( なお これらには麻疹 風疹 おたふくかぜのそれぞれのワクチン株によって発生しうる症状がすべて含まれているため おたふくかぜワクチン株によって起こったもののみを示しているわけではない また 更に詳細な説明は 参考資料を参照のこと ) 1. 全身反応 : 脂肪織炎 異型麻疹 発熱 失神 頭痛 めまい 倦怠感 易刺激性 2. 心血管系 : 血管炎 3. 消化器系 : 膵炎 下痢 嘔吐 耳下腺炎 吐気 4. 内分泌系 : 糖尿病 5. 血液リンパ組織系 : 血小板減尐 紫斑 所属リンパ節腫脹 白血球増加 10

175 免疫系 : アナフィラキシー アナフィラキー様反応 7. 筋骨格系 : 関節炎 関節痛 ( 通常一過性で慢性化は稀 成人女性で頻度が高い ) 筋肉痛 多発性神経炎 知覚異常 8. 神経系 : 脳炎 脳症 麻疹封入体脳炎 (MIBE) SSPE ギランバレー症候群 熱性痙攣 無熱性痙攣 失調 多発性神経炎 多発性神経障害 ; 眼筋麻痺 知覚障害 1975 年以降 米国での 8000 万回接種以上の麻疹生ワクチン接種の経験から ワクチン接種 30 日以内の脳炎 脳症が麻疹ワクチンと関連していた例は極めて稀であり ワクチンが原因であると認められた症例はない 麻疹含有ワクチンによるこれらの重篤な神経学的な異常は麻疹の自然感染に伴って発生する脳炎 脳症よりはるかに頻度は低い 2 億回以上の市販後調査でも脳炎 脳症のような重篤な副反応報告は稀である 占部株おたふくかぜワクチンと無菌性髄膜炎の関連は証明されているが Jeryl Lynn 株おたふくかぜワクチンと無菌性髄膜炎の関連は証明されていない 9. 呼吸器系 : 肺炎 咽頭痛 咳 鼻炎 10. 皮膚 : スティーブンス ジョンソン症候群 多型滲出性紅斑 蕁麻疹 紅斑 麻疹様発疹 掻痒症 11. 局所反応 : 接種局所のヒリヒリ感 / チクチク感 膨疹 発赤 腫脹 硬結 圧痛 小水疱形成 12. 特殊感覚器 : 神経性難聴 中耳炎 網膜炎 視神経炎 視神経乳頭炎 球後視神経炎 結膜炎 13. 泌尿器系 : 精巣上体炎 精巣炎 ( 睾丸炎 ) 参考文献 1) Hviid A, Rubin S, Muhlemann K: Mumps. Lancet 371:932-44, ) Plotkin SA, Rubin SA: Mumps vaccine. In Vaccines 5th eds edited by Plotkin SA, Orenstein WA, Offit PA, , 2008 Saunders, Philadelphia PA 3) Bonnet M, Dutta A, Weinberger C, et al: Mumps vaccine virus strain and aseptic meningitis. Vaccine 24: , ) WHO: Mumps vaccine. 5) WHO: Mumps virus vaccine. Weekly Epidemiological Record 7:51-60, ) Kutty PK, Kruzon-Moran DM, Dayan GH, et al: Seroprevalence of antibody to mumps virus in the US population, J Infect Dis 202: , ) Nakayama T, Onoda K: Vaccine adverse events reported in post-marketing study of the Kitasato Institute from 1994 to Vaccine 25: , ) 庵原俊昭 : ムンプス- 再感染と vaccine failure. 小児内科 41: , ) 庵原俊昭 : おたふくかぜの再感染と Vaccine Failure の臨床. 臨床とウイルス 36:50-54, ) Fine PEM: Herd immunity: History, Theory, Practice. Epidemiologic Reviews 11

176 : , ) Anderson RM and May RM: Lancet 335: , ) Amanna IJ, Carlson NE, Slifka MK:Duration of humoral immunity to common viral and vaccine antigens. N Engl J Med 357: , ) Plotkin SA: Clin Vac Immunol 17: , ) 岡秀 他. 日本医事新報 ; 2973: 27-30, ) 宍戸亮 他 : 臨床とウイルス 9(3): , ) おたふくかぜワクチン添付文書より武田薬品集計,1985 年 18) 丸山浩他 : 臨床とウイルス,22(1),77-82, ) 深見重子他 : 小児保健研究,52(1),35-40, )Makino S. et al. Kitasato Arch Exp Med; 49 (1-2): 53-62, ) Monthly immunization Table, MMWR 45(1):24-25, ) Weibel, R.E.,et al:live Attenuated Mumps Virus Vaccine 1.Vaccine Development, Proceedings of the Society for Experimental Bilogy and Medicine. 123: , ) Unppublished data from the files of Merck Research Laboratories. 24) Watson, J.C, Pearson J.S., Erdman D.D., et al:an Evaluation of Measles Revaccination Among School-Entry Age Children. 31 st Interscience Conference on Antimicrobial Agents and Chemotherapy. Abstract#268, 143, ) 星野株おたふくかぜワクチン添付文書 ( 医薬品医療機器総合機構 HP より ) 26) 鳥居株おたふくかぜワクチン添付文書 ( 医薬品医療機器総合機構 HP より ) 27)Jeryl-Lynn 株 MMRⅡワクチン添付文書 (U.S. National Library of Medicine, National Institutes of Health DailyMed HP より ) 28)Yamada A. et al. Virology; 172: 374-6, ) 厚生省保健医療局疾病対策課結核 感染症対策室長通知.( 平成 3 年 6 月 21 日付健医感発第 49 号 ) 30) 宮津光伸 : 新 予防接種のすべて, 診断と治療社 ( 東京 ),1997.pp ) Nakayama T, Onoda K: Vaccine adverse events reported in post-marketing study of the Kitasato Institute from 1994 to Vaccine.25: , ) 庵原俊昭 : 流行性耳下腺炎 ( ムンプス ). 日本臨床増刊号新感染症学下 , ) Asatryan A, et al: Live attenuated measles and mumps viral strain-containing vaccines and hearing loss: Vaccine adverse event reporting system (VARES), United States, Vaccine 26: , )Schattner A: Consequence or coincidence? The occurrence, pathogenesis and significance of autoimmune manifestations after viral vaccine. Vaccine 23 12

177 , ) Makela A, et al: Neurologic disorders after measles-mumps-rubella vaccination. Pediatrics 110: ,

178 評価 分析編 以下の文章中に含まれる図表の番号と引用文献番号は おたふくかぜワクチンに関するファクトシートあるいは ファクトシート追加編 中の図表番号あるいは参考文献番号である また 正式な病名は流行性耳下腺炎であるが 国内では通称おたふくかぜであるため 病名は両者併記としたが ワクチン名は正式名がおたふくかぜワクチンであるため これで統一した なお 原因ウイルスを記載する場合は 英語表記でムンプスウイルスとし 一般に病名として使用されているムンプス難聴やムンプス脳炎はそのまま使用した 1 対象疾病の影響について (1) 臨床症状流行性耳下腺炎 ( おたふくかぜ ) の主な症状は 発熱と耳下腺の腫脹 疼痛である 発熱は通常 1-6 日間続く 耳下腺腫脹は通常まず片側耳下腺が腫脹し 1-2 日に対側耳下腺が腫脹する 発症後 1-3 日にピークとなり 3-7 日で消退する 腫脹部位に疼痛があり 唾液分泌により増強する 頭痛 倦怠感 食欲低下 筋肉痛 頚部痛を伴うことがある 合併症としては 無菌性髄膜炎の頻度が高い (10-1%) が 予後は一般に良好である ムンプス難聴 ( %) 3) とムンプス脳炎 脳症 ( %) は尐なくない合併症であり 重篤な後遺症を残し予後不良である 思春期以降に罹患すると精巣炎 ( 睾丸炎 )(40-20%) や卵巣炎 (5%) を合併する 精巣炎 ( 睾丸炎 ) を合併した患者には様々な程度の睾丸萎縮を伴い 精子数は減尐するが 不妊症の原因となるのはまれである その他 膵炎 関節炎 甲状腺炎 乳腺炎 糸球体腎炎 心筋炎 心内膜線維弾性症 血小板減尐症 小脳失調症 横断性脊髄炎などの合併が知られている (2) 疫学状況 1 わが国におけるまん延の状況 患者数 患者数流行性耳下腺炎 ( おたふくかぜ ) は 5 類感染症定点把握疾患に位置付けられており 小児科定点医療機関からの報告により疾患の発生動向が把握されている 乾燥弱毒生麻しんおたふくかぜ風しん混合ワクチン (MMR ワクチン ) が導入される 1989 年以前には 定点からの年間報告数が 20 万人前後となる流行が 3~4 年周期でみられていた しかし MMR ワクチンが導入された 1989 年から 1993 年の期間には 3~4 年周期の鋭いピークが認められなかった ワクチン接種が中止された 1993 年以降には 年 年に定点からの報告数が 20 万人を超える流行ピークがあり ワクチン導入以前と同程度の流行が見られた ( ファクトシート 5 頁 : 図 2 図 3) 定点報告数から全国年間患者数を推定した研究によると (2002~2007 年 ) 報告数の多い 2005 年の全国年間患者数は 万人 [95% 信頼区間 :127.2~144.0 万人 ] 14

179 報告数の尐ない 2007 年では 43.1 万人 [35.5~50.8 万人 ] と推定されている 12) 患者は 0 歳で尐ないが 年齢とともに増加する 発症年齢のピークは 4~5 歳であり 3~ 6 歳で全患者の約 60% を占める ( ファクトシート 5 頁 : 図 3) 不顕性感染の感染者数発熱や耳下腺腫脹 疼痛は必発症状ではなく 明らかな症状のない不顕性感染例が約 30% に存在する 不顕性感染の割合は乳児で多く 年齢とともに低下する 1) 死亡者数 ( 致命率 ) 流行性耳下腺炎 ( おたふくかぜ ) 患者が死亡することは稀であるが 8) 1995 年 ~2009 年の人口動態統計によると 流行性耳下腺炎 ( おたふくかぜ ) による死亡者数は 1997 年が 4 名と最多で 1999,2004, 年を除いて毎年 1~2 名が死亡と報告されていた また 脳炎の合併率は 0.02%~0.3% 脳炎例の致命率は 1.4% であり この数字から求められる致命率は 発症者 10 万人あたり 3~45 人である 重症者数 ( 重症化率 ) 後遺症数厚生労働科学研究費補助金新興 再興感染症研究事業 水痘 流行性耳下腺炎 肺炎球菌による肺炎等の今後の感染症対策に必要な予防接種に関する研究 ( 平成 年度 )( 研究代表者 : 岡部信彦 ) ( 岡部班 ) の調査で 全国約 20,000 の内科 泌尿器科 皮膚泌尿器科 皮膚科 小児科 産科 産婦人科 耳鼻咽喉科を対象としたアンケート調査によると ( 回収率 40.9%) 2004 年 1 年間に 1,624 人の入院例が報告されている 13) 2005 年の同調査では ( 回収率 37.3%) 2,069 人の入院例が報告された 回収割合から推定された全国の年間入院患者数は約 5,000 人であった 13) いずれの調査においても 入院例の年齢ピークは 4~5 歳で 流行性耳下腺炎 ( おたふくかぜ ) の発症年齢ピークと一致していた 2 年間の同調査で死亡例は報告されていない 入院理由で最も多かったものは 合併症の併発であった 13) 合併症の発生頻度は 1.(1) 臨床症状に記載したが ムンプス難聴については 数百人に一人の割合で合併するという報告もある 4,5,6,7) 精巣炎( 睾丸炎 ) を合併した患者は睾丸萎縮を伴い 精子数が減尐する また 無菌性髄膜炎の予後は一般に良好であるが ムンプス脳炎やムンプス難聴の予後は不良である 2) ムンプス難聴は片側性の場合が多いが 時に両側難聴となり 人工内耳埋込術などが必要となる場合もある また 妊娠 3 ヶ月まで ( 第一三半期 ) の妊婦が罹患すると 25% が自然流産するとされるが 先天性奇形は報告されていない 32) 2 感染源 感染経路 感染力 ( 基本再生産数 ) 流行性耳下腺炎 ( おたふくかぜ ) はムンプスウイルスによる感染症で 主な感染経 15

180 路は唾液を介した飛沫や接触によるヒトーヒト感染である 1 人の感染者から感染期間内に生じる 2 次感染者数を示す基本再生産数 (R 0 ) が疾患の感染力を示す数値としてよく使われる ムンプスウイルス感染者の R 0 については 多尐ばらつきがあり Nokes ら (1990) の推定で 9 15 Anderson RM and May RM(1990) の推定で 6 7 Kanaan と Farrington(2005) による推定で 4 31 Edmunds ら (2000) の推定で 3 4 AndersonLJ らの推定で 10~12 Fine らの報告では 4~7と推定されており感染力は比較的強い 不顕性感染でも唾液中にウイルスを排泄しており 感染源になる したがって 発症者の隔離のみで流行性耳下腺炎 ( おたふくかぜ ) の感染拡大防止は困難で 流行阻止にはワクチンによる予防が必須である 不顕性感染例でも唾液中にウイルスを排出しており 感染源となる 8) (3) 対象疾病の治療法流行性耳下腺炎 ( おたふくかぜ ) に特異的な治療法はなく 解熱鎮痛剤や患部の冷却などの対症療法を行うことが多い 通常は 1~2 週間で軽快する 無菌性髄膜炎や精巣炎 ( 睾丸炎 ) などの合併症を併発した場合には 入院加療を行う場合が多い 予防接種の効果 目的 安全性等について (1) おたふくかぜワクチンについて世界最初の生ワクチン株は Hillemann らによって開発された Jeryl-Lynn 株 ( ファクトシート 8 頁 : 表 5) であるが この株は 1967 年米国で承認され 現在では麻しん 風しんワクチンとあわせた MMR ワクチンとして世界で最も広く用いられている わが国では 1972 年から試作ワクチンが検討された 19) ヒト胎児腎細胞を用いて患者より分離後 アフリカミドリザル腎細胞で継代し さらに発育鶏卵羊膜腔 (Am) を経てニワトリ胚細胞に馴化させた占部 -AM9 株が一般財団法人阪大微生物病研究会 ( 以下 微研 ) で使われている ( ファクトシート 8 頁 : 表 5) 発育鶏卵羊膜腔で分離後 牛腎細胞に継代し ニワトリ胚細胞に馴化させた鳥居株 20) は武田薬品工業 ( 以下 武田 ) 発育鶏卵羊膜腔で分離後 低温のニワトリ胚細胞に馴化させた星野 -L32 株 21) が学校法人北里研究所 ( 以下 北里 ) アフリカミドリザル腎細胞を用いて分離後 ニワトリ胚細胞に馴化させた宮原株 22) が化学及血清療法研究所 ( 以下 化血研 ) で使われている アフリカミドリザル腎細胞を用いて分離し ニワトリ胚細胞とカニクイザル腎細胞で継代後 再びニワトリ胚細胞に馴化させた NK-M46 株 23) が千葉血清研究所で使われたが 研究所が解散され使用されていない 国内では 2010 年 10 月現在 星野株おたふくかぜワクチンと鳥居株おたふくかぜワクチンがそれぞれ単味のおたふくかぜワクチンとして市販され 任意接種として接種が行われている 一方 過去に国内で使用された実績がある微研の占部 AM9 株おたふくかぜワクチンと 化血研の宮原株おたふくかぜワクチンは 2010 年 10 月現在 国内 16

181 使用はなされていない また 化血研が輸入販売申請中の Merck Sharp & Dohme 社の Jeryl-Lynn 株おたふくかぜワクチンを含む MMR ワクチンは臨床治験を終了し 輸入販売を申請中であるが 2010 年 10 月現在国内承認には至っていない (2) おたふくかぜワクチンの効果についておたふくかぜワクチン接種後の中和抗体陽転率は 90~100% であり 時間の経過とともに抗体価は減衰する 接種 4 年後の中和抗体陽性率は 81~85% である 1,2) 1 歳過ぎに 1 回目の接種を受け 4~5 年後に 2 回目を接種すると抗体陽性率は 86% から 95% に上昇し 12 歳時に 2 回目の接種を受けると抗体陽性率は 73% から 93% に上昇する 1, 2,3 4) 米国の抗体陽性率の調査では 自然感染世代 93.4% 1 回接種世代 85.7% 2 回接種世代 90.1% と 1 回接種世代は低率である 6) スイスにおける流行時のおたふくかぜワクチン 1 回接種後の有効率は 占部株 73.1 ~75.8% Jeryl-Lynn 株 61.6~64.7% と占部株の方が優れている 株を定めずに国内で使用されているおたふくかぜワクチンの有効率を検討すると 75~90% であり 小学校流行時の調査では星野株の有効率 82.2% 鳥居株の有効率 81.4% と株ごとの差を認めていない 近年米国ではムンプスウイルスを含むワクチンを 2 回接種していても 大学で流行時に流行性耳下腺炎 ( おたふくかぜ ) を発症する例がある しかし 2 回接種例の有効率は 88% と 1 回接種例の有効率 69% と比べ高率である 効果的なワクチンを高い接種率で接種すると 流行性耳下腺炎 ( おたふくかぜ ) 発症者数が減尐する ムンプスウイルスを含むワクチンを 1 回定期接種している国では流行性耳下腺炎 ( おたふくかぜ ) 発症者数が 88% 減尐し 2 回定期接種している国では 99% 減尐している 高い接種率で 2 回の定期接種を 14 年間行ったフィンランドは 1996 年野生株の排除を宣言すると同時に おたふくかぜワクチンによる重篤な後遺症例や死亡例がなかったことを示している 更にその後も高い接種率を維持することで 輸入症例の発症はあるものの その症例からの二次発症例を認めていない ワクチン接種例が自然に流行性耳下腺炎 ( おたふくかぜ ) を発症したとしても 唾液からのウイルス分離率は ワクチンを受けていない症例の約 1/2 であり しかも分離される期間も短期間のため 周囲への感染リスクは ワクチン歴がなく発症した人と比べ低率である また ワクチン接種例の流行性耳下腺炎 ( おたふくかぜ ) 例では 多くは片側の腫脹であり しかも耳下腺腫脹期間はワクチンを受けていない人よりも 2 日間ほど短期間である また 無菌性髄膜炎を発症するリスクは 1/10 に低下する (3) おたふくかぜワクチンの目的について流行性耳下腺炎 ( おたふくかぜ ) による症候性髄膜炎の頻度は 1~10% と比較的頻度は高いものの予後は良好な合併症であり 脳炎の合併を除くと 流行性耳下腺炎 ( おたふくかぜ ) は比較的生命予後が良好な感染症である 脳炎の合併率は 0.02%~0.3% 脳炎例の致命率は 1.4% であり 難聴も予後の悪い合併症であり 多くは片側であるが 17

182 両側例も報告されている 早い時期に片側の難聴が出現すると その後の言語の発達に悪影響を及ぼす危険性がある 本邦の調査では難聴の発症率は 0.1%~0.25% である おたふくかぜワクチンは 死亡を予防するよりも重篤な合併症を予防するワクチンである 世界保健機関 (WHO) は ワクチンにより麻疹および先天性風疹症候群のコントロールができた国は 流行性耳下腺炎 ( おたふくかぜ ) をコントロールすることを勧めている 多くの先進国では MMR ワクチンの2 回接種を行っている (4) おたふくかぜワクチンの安全性について不活化おたふくかぜワクチンは米国で承認されて利用されたが 防御効果が低く 2 抗体持続期間も短かったため追加編 ) それに代わって生ワクチンが世界で広く使用されている おたふくかぜワクチン接種後の耳下腺腫脹は接種後 20 日頃に認められ その頻度は 2~3% である 3) ( ファクトシート2 頁 : 図 1 表 1) 唾液からワクチン株が分離されるのは 腫脹例の 58% と報告されている ワクチン後の耳下腺腫脹例から周囲への感染は極めてまれである 流行性耳下腺炎 ( おたふくかぜ ) 自然感染者では 50% に髄液細胞数の増多を認め ムンプスウイルスは神経親和性が高いウイルスである おたふくかぜワクチンで問題となるのは無菌性髄膜炎の合併である 世界で広く使用されているワクチン株の無菌性髄膜炎合併率は Jeryl-Lynn 株 0.1~1/10 万接種 占部株 1.3~100/10 万接種で Jeryl-Lynn 株の無菌性髄膜炎の合併率は低率である 25) ( ファクトシート 10 頁 : 図 5) ただし 免疫原性は占部株の方が Jeryl-Lynn 株よりも優れており 15) わが国の他のワクチン株 ( 鳥居株 宮原株 星野株 ) は 占部株とほぼ同等の免疫原性を有する 20 ~23,29) 本邦のワクチン株では 添付文書に 1,200 接種に1 人 (0.083%) の髄膜炎合併率と記載されているが その後の調査では 無菌性髄膜炎の発症頻度は星野株 44/10 万接種 鳥居株 51/10 万接種と報告されている 43) また Nakayama らは市販後調査の結果から 星野株おたふくかぜワクチンによる無菌性髄膜炎の頻度は推定 10,000 人接種に 1 人と見積もっており 31) いずれの頻度も添付文書に記載されている MMR ワクチン後の無菌性髄膜炎の頻度より低い おたふくかぜワクチンによる髄膜炎は 通常 1 週間以内に改善する予後良好な合併症である 海外の報告によると MMR ワクチンの脳炎合併率は 100 万接種に 1.8 以下とされ 34 35) 同じく MMR ワクチンによる難聴は 600 万 ~800 万接種に 1 の割合と報告されている 33) いずれも自然感染に比べ 発症頻度は極めて低率である 思春期以降の成人におたふくかぜワクチンを接種した時のワクチンによる精巣炎 ( 睾丸炎 ) 乳腺炎 卵巣炎の頻度は極めてまれであり 膵炎の合併率も極めてまれである 星野株おたふくかぜワクチンを接種した 218 症例について 接種後の臨床反応の調査が行なわれた結果 ワクチン接種後 1 か月以内に耳下腺腫脹 6 例 発熱 2 例が認められた 耳下腺腫脹は接種後 18~22 日目の間に認められたが 全例とも臨床反応は 18

183 軽微であり 腫脹 圧痛 発熱も一過性で一両日中に消退を見たと報告されている 15) また 星野株市販後調査による接種後の有害事象は 耳下腺腫脹 2~3% 無菌性髄膜炎 9.3/10 万接種 難聴 0.15/10 万接種である なお ワクチン後無菌性髄膜炎を発症した 134 人の内 55 人の髄液について検討したところ 40 人からムンプスウイルス遺伝子が検出され 35 人がワクチン株 5 人は野生株と同定されている 31) 星野株が直接関係する脳炎例は1 例も報告されていない 思春期以降に接種された例数は不明であり 由来株の同定は行われていないが 精巣炎 ( 睾丸炎 ) が 9 例報告されている ( 出庫数 137 万本 ) 卵巣炎および膵炎は報告されていない 鳥居株おたふくかぜワクチンについては 接種前ムンプス抗体陰性の健康者を対象に 承認時まで 477 例 市販後は 628 例について ワクチン接種後の臨床反応が調査された 16 17) 接種後 1~3 週間ごろ 特に 10~14 日を中心として 37.5 以上の発熱が数 % に 軽度の耳下腺腫脹が1% 未満に認められた 発熱の程度は 38 台で 平均有熱期間は約 2 日 耳下腺腫脹の持続日数は 3 日間程度であった また 市販後に無菌性髄膜炎の発生が報告され 18) その発生頻度は 12,000 人接種あたり1 人程度とされている 化血研はおたふくかぜワクチンを含む MMR ワクチン (Merck Sharp & Dohme M-M-R TM II) の国内販売を目指し 承認申請を行っている ワクチン中のムンプスウイルス Jeryl-Lynn 株に起因する無菌性髄膜炎の発生頻度は国産ワクチンに比べて格段に低い しかし M-M-R TM II ワクチン添付書類には 接種後に麻しんウイルス株に由来する発熱が伴うと記載されている 米国で行われた試験では 39.0 以上の発熱が 6% に認められ わが国で行われた化血研による健康小児を対象に行った M-M-R TM II ワクチンの臨床第 II 層試験でも 37.5 以上の発熱が 56.4% 程度 そのうち 39.0 以上の発熱は 23.8% に認められた 一方 国産の武田製麻疹あるいは MR ワクチン接種後の発熱はワクチン添付書類によると接種後 5~14 日を中心に 37.5 以上が 20% 程度 39.0 以上の発熱は 3% 程度と記載され 厚生労働省が集計した予防接種後健康状況調査集計報告書平成 19 年度前期分には 2,708 人を対象に接種後 7~13 日に 37.5 以上の発熱が 8.4%(227 例 ) 同後期分には 2,450 人を対象に接種後 7~13 日に 37.5 以上の発熱が 6.9%(169 例 ) と報告され いずれの場合も M-M-R TM II ワクチンより低い (4) おたふくかぜワクチンの費用対効果について流行性耳下腺炎 ( おたふくかぜ ) に対する施策としておたふくかぜワクチンの皆接種制度 ( 定期接種化 ) を導入した場合の費用対効果を評価する研究が行われている 費用対効果は 罹患に係る負担 ( 医療費 QOL [quality of life, 生活の質 ] への影響 家族の看護の負担など ) の減尐と予防接種に係る費用 ( ワクチン接種費用 家族の付添の負担など ) の増加を比較して 罹患に係る費用減尐額 / 予防接種に係る費用増加額 比や 1 QALY [quality-adjusted life year, 質調整生存年 ] 獲得費用 (ICER 19

184 [incremental cost-effectiveness ratio, 増分費用効果比 ] という ) などにより評価する 家族が看護や付添で仕事や家事を休むことによる負担 ( 生産性損失 ) を含めた 社会の視点 の分析結果はいずれも 罹患に係る費用減尐額/ 予防接種に係る費用増加額 比が1より大きく おたふくかぜワクチンは費用対効果に優れているという結果であった 厚生労働科学研究 ワクチンの医療経済性の評価 研究班 ( 班長池田俊也 ) が ワクチン接種の費用対効果推計法 に基づいて分析した結果からも 社会の視点では定期接種化により 1 歳時と 5 歳時に 2 回接種した場合 1 年あたり約 290 億円の費用低減が期待できると推計され 予防接種費 1 回 10,000 円で 1 歳時と 5 歳時に 2 回接種した場合にも 罹患に係る費用減尐額が予防接種に係る費用増加額を上まわると推計された 総じて おたふくかぜワクチンの皆接種制度 ( 定期接種化 ) は流行性耳下腺炎 ( おたふくかぜ ) に対する施策として費用対効果に優れており 医療経済的観点から導入の根拠があると考えられた 3 予防接種の実施について (1) 予防接種の目的を果たすためにどの程度の接種率が必要か 1 対象疾患の感染力感染力はインフルエンザよりは強いが 麻疹よりは弱く ほぼ風疹に匹敵する感染力を持つ 詳細は 1.2 疫学状況イ感染源 感染経路 感染力 ( 基本再生産数 ) の項参照のこと 2 予防接種の感染拡大防止効果 ( 集団免疫効果 ) おたふくかぜワクチンの集団免疫効果について 英国で行われた Anderson ら (1987) の調査 計算結果が詳しく論じている ワクチン接種率が 30~60% のときはムンプスウイルスが部分的に排除され 初罹患年齢が高年齢側にシフトする 接種率が 85~90% になると罹患危険率が 0 になり ムンプスウイルスの流行が終息する このモデルが正しいことは 1987 年以降ワクチンの 2 回接種を実施した米国 1982 年からワクチンを導入したフィンランドのワクチン接種率と国内発生件数の減尐からも実証されている ムンプスウイルスの R 0 の最低値が 4 最高値が 31 であることから導かれる感染拡大防止に必要な集団免疫率は % となる 状況証拠等を加味すると ムンプスウイルスの流行は 抗体保有者が 85~90% になると herd immunity により阻止できると予測される 3 予防接種の効果の持続期間おたふくかぜワクチン接種後の抗体の持続期間については ベルギーで行われた Vandermeulen ら (2004) の調査結果が詳しく論じている ワクチン接種後の経過時間と 流行性耳下腺炎 ( おたふくかぜ ) 罹患者の割合を調査したところ 1 年後に約 2%( ワクチン接種によって 100% の小児に抗体を付与できるわけではないので ワクチンを 20

185 接種しても流行性耳下腺炎 ( おたふくかぜ ) 罹患率は 0% にはならない ) 4 年後に約 4% 8 年後に約 8% とおよそ 4 年で患者数が倍々に増える これは 抗体の半減期が約 4 年ということを示している この一方で Amanna ら (2007) は ムンプス抗体の半減期は 4 年であるが それはワクチン接種後数年間の半減期であり より長期に渡って観察するとその後抗体価はプラトーに近い状態になるとしている わが国のおたふくかぜワクチン接種後 抗体陽転者 ( 接種後 6 週目 ) の平均中和抗体価は 概ね 2 4 であり ムンプス中和 (NT) 抗体価 2 が感染防御の陽性と陰性のカットオフ値と考えられている 半減期 4 年から逆算すると ワクチン接種後の抗体持続時間はおよそ 12 年 (3 半減期 ) ということになる ムンプス NT 抗体価 2 を発症予防レベルと言い切るのは問題があるとの考えもあり 一概には言えないものの わが国では 3 6 歳児が全患者数の約 60% を占め 1 歳になったらワクチンを接種することで十分に予防でき ムンプスウイルス流行の連鎖を断ち切れると予想される もし 抗体の半減期がある一定期間以降ではプラトーになるとする考えが正しければブースター効果を狙った追加接種の必要はないが そうでないならば 2 回目の追加接種を行わないと より高年齢で流行性耳下腺炎 ( おたふくかぜ ) の流行が発生すると予想される 米国では 1977 年から 1 歳児を対象として 1 回定期接種が開始され 1989 年からは 4 6 歳児を対象に加え 2 回定期接種体制になっている MMR ワクチンを利用する国の多くは この例に倣っている 尐なくとも 12 歳の中学校入学前までには追加接種をした方がよい (2) ワクチンは導入可能か 1 供給状況ア国内 / 海外で承認されているワクチンの有無 2010 年現在 わが国で製造承認を受けているおたふくかぜワクチンには 武田 北里 化血研 微研の 4 製剤がある それに加えて 化血研は Merck Sharp & Dohme 社の MMR ワクチン (M-M-R TM II) の輸入販売を申請中である ( ファクトシート 8 頁 : 表 4) M-M-R TM II は世界 72 ヶ国に供給され 4 億ドーズ (4 億人 ) 以上の接種実績をもっている 国産 MMR ワクチンは武田 北里 微研が承認を得て 1989 年から利用された しかし 無菌性髄膜炎の発生頻度の問題から 1993 年以降は利用が中止され その後 武田と北里は承認書を返納した 微研のおたふくかぜ単味及び MMR ワクチンは品質管理上の理由により製造が中止されている イ供給体制 ( 需要見込み 国内の供給状況等 ) 国内ではおたふくかぜワクチンが任意接種のワクチンとして年間におよそ 40 万 60 万本が出荷されている 製造販売業者によると 2009 年度約 61.3 万本 ( 実績 ) 2010 年度約 68 万本 ( 見込み ) である 21

186 勧奨される具体的な接種スケジュール等ア対象者 ( 定期およびキャッチアップ ) 国内のおたふくかぜワクチンの添付文書から抜粋すると 本ワクチンの対象者は 生後 12 月以上のおたふくかぜ既往歴のない者であれば性 年齢に関係なく使用できる ただし 生後 24 月から 60 月の間に接種することが望ましい とされている 今後わが国で定期接種に導入された場合のスケジュールとしては 次のような考え方がある 第 1 期 ( 生後 12 月から生後 24 月にある者 ) および第 2 期 (5 歳以上 7 歳未満の者であって 小学校就学の始期に達する日の 1 年前の日から当該始期に達する日の前日までの間に有る者 あるいは 12 歳に達する前の者 ) イ用量 用法本ワクチンは凍結乾燥製剤であり 添付の溶解液 ( 日本薬局方注射用水 )0.7 ml で溶解し その内 0.5 ml を皮下に注射する ウ接種スケジュールわが国では定期接種に導入されていないこともあって接種率は低いが 生後 12 か月以上で接種が行われている 今後推奨されるスケジュールとしては 第 1 期および第 2 期の 2 回接種とし 接種時期は上記ア対象者の欄に記載 エ接種間隔 ( 最短間隔 同時接種可能なワクチン等 ) 不活化ワクチンの接種を受けた者は 通常 6 日以上の間隔を置いて接種すること 接種前 3 か月以内に輸血又はガンマグロブリン製剤の投与を受けた者は 3 か月以上すぎるまで接種を延期する 他の生ワクチンの接種を受けた者は 通常 27 日以上の間隔を置いて接種すること (3) 実施する際の留意点以下の項目に該当する場合は 接種禁忌者 ( 接種不適当者 ) であり 接種不可である (1) 明らかに発熱を呈している者 ( 通常 接種前の体温が 37.5 以上の場合 ) (2) 重篤な急性疾患にかかっていることが明らかな者 (3) ワクチンの成分によってアナフィラキシーを呈したことがあることが明らかな者 (4) 明らかに免疫機能に異常のある疾患を有する者及び免疫抑制をきたす治療を受けている者 (5) 妊娠していることが明らかな者 (6) 上記に掲げる者のほか 予防接種を行う事が不適当な状態にある者 4 総合的な評価 (1) 結論 22

187 ワクチンの有効性と安全性を 流行性耳下腺炎 ( おたふくかぜ ) の疾病としての重症度とともに正しく理解し ワクチン接種後の副反応の発生に関する正しい情報提供と共に 重症化例が毎年数千人の単位で発生している現状を一刻も早く解消すべく わが国も 遅滞なく 直ちに定期的な接種を推進し キャッチアップ接種を含めて 生後 1 歳以上のこどもたちから接種する必要があると考える 結論を導いた3つのポイント 1 流行性耳下腺炎( おたふくかぜ ) は小児の軽症疾患と考えられる傾向にあるが 罹患後の不可逆的な合併症は軽視できない < 根拠 > 1 罹患後の難聴は片側性が多いが 両側性の難聴もあり 不可逆性である 2 合併する脳炎や精巣炎 ( 睾丸炎 ) 膵炎等は軽症とはいえず 死亡者は年間数名と尐ないものの重症化例ならびに後遺症例の頻度は決して許容できるものではない 2 おたふくかぜワクチンの定期接種化は 集団免疫の観点からも必要性が高い < 根拠 > 年時点で 118 か国が MMR ワクチンを定期接種に導入し 先進国の中でおたふくかぜワクチンの定期接種を行っていない国は日本だけである また ほとんどの国で 2 回接種が行われていることから 世界的に流行性耳下腺炎 ( おたふくかぜ ) の発生件数は激減し 現在もなお流行を繰り返しているのはエジプト リビア以外のアフリカ諸国と日本を含む東アジア地域の一部の国だけに限られている 2 ワクチン接種を受けたくても受けることのできない基礎疾患を有する接種不適当者 ( 禁忌 ) への感染を予防し 妊婦の罹患による流産を防ぐためには 集団感染防御以外に有効な方法がない 3 中途半端な接種率は罹患年齢を上昇させるため 定期接種化し高い接種率を確保する必要がある 4 おたふくかぜワクチンは日本では 1989 年 ~1993 年に国産 MMR ワクチンとして麻疹の定期接種の際に選択可能となったが その時期の患者発生数は前後の時期より尐なく ワクチンで流行を抑制できることは既に国内で証明済みである 3 おたふくかぜワクチンの定期接種化は 医療経済性に優れている < 根拠 > 1 予防接種費 1 回 1 万円で 2 回接種した場合にも 看護による生産性損失を減尐させる効果等により 社会の視点の分析で罹患に係る費用減尐額が予防接種に係る費用増加額を大きく上まわる (2) 検討すべき課題 23

188 定期接種化に際しては 高い接種率を確保するための受けやすい環境作りが重要である 他のワクチンとの接種スケジュールを調整するとともに 発症予防をより確実なものとするためには 2 回接種の実施が望ましい 2 定期接種化に際して 現在流通が可能な国産の単味のワクチンで 開始するが 仮に M-M-R 等の多価ワクチンが使用できるようになった場合には ワクチンの有効性及び安全性を正しく理解した上でどれを利用するのか検討する必要がある < 検討事項例 > 1 自然感染後の無菌性髄膜炎の合併は 1000~10,000/10 万患者 (1~10%) と高率であるのに対し ワクチン接種後の合併率は Jeryl-Lynn 株 (M-M-R TM II ワクチン ) で 0.1~1/10 万接種 おたふくかぜワクチン占部株 1.3~100/10 万接種 星野株 44/10 万接種 ( 市販後調査からの推定では 9.3 /10 万接種 ) 鳥居株 51/10 万接種となり いずれも自然感染より低いが M-M-R TM II ワクチン (Jeryl-Lynn 株 ) の方が国産おたふくかぜワクチンより低い 2 免疫原性は国産おたふくかぜワクチンの方が M-M-R TM II ワクチンより高い 3 M-M-R TM II ワクチン接種後の発熱率は 主に麻疹ワクチン株に起因する場合が多いと考えられるが 37.5 以上が 56.4% この内 39.0 以上は 23.8% に認められ 国産の麻疹含有ワクチン ( 麻疹ワクチンあるいは MR ワクチン ) 接種後の発熱率 ( 接種後 7~13 日に 37.5 以上の発熱が 6.9~8.4%) と比較して高い 24

189 作成担当者 ( 五十音順 ) 氏名庵原俊昭大藤さとこ加藤篤須賀万智 多屋馨子細矢光亮 所属 職名国立病院機構三重病院院長大阪市立大学大学院医学研究科公衆衛生学講師国立感染症研究所ウイルス第三部室長東京慈恵会医科大学環境保健医学講座准教授国立感染症研究所感染症情報センター室長福島県立医科大学小児科教授 とりまとめ担当 25

190 B 型肝炎ワクチン作業チーム報告書 予防接種部会ワクチン評価に関する小委員会 B 型肝炎ワクチン作業チーム

191 ファクトシート追加編 1. 対象疾患の基本的知見 図 1.HBV 感染後の経過 ( ファクトシート図 1 改訂 ) (1) 疾患の特性 5 治療法 <B 型急性肝炎 > B 型急性肝炎は 原則 入院による安静が必要であるが 自然治癒傾向の強い疾患であり 特別な治療を要しない場合が多い 劇症肝炎を合併した場合は抗ウイルス療法 人工肝補助 ( 血漿交換 血液濾過透析 ) を施行する 肝移植が行われる場合もある B 型急性肝炎の慢性化が疑われる場合 核酸アナログ製剤の投与が行われる場合もあるが その対象 投与時期 投与期間に関する一定の見解はない <B 型慢性肝炎 > B 型慢性肝炎の治療の目標は HBe 抗原陰性 ALT 正常 ウイルス増殖が十分抑制された状態にすること である この状態になった症例の多くは肝硬変 肝がんへの進展を免れる B 型慢性肝炎の症例の 10 15% が肝硬変 肝がんに進展するが 裏を返せば多くの症例が自然に HBe 抗原陰性 ALT 正常 になるということである 従って HBe 抗原陽性あるいは ALT 異常の状態が持続する症例 がB 型慢性肝炎の治療対象である ウイルスの増殖を抑制することも重要な目標である ウイルス量が 10 5 コピー /ml 以上の場合 肝硬変及び肝細胞癌に進展する可能性が高いこと 1, 2) 抗ウイルス療法によりウイルス量を低下させることで肝病変の進展を抑えることができること 3) がわかっている日本では 厚生労働省の研究班から出されているガイドラインを参考に治療が行われる場合が多い 4) ガイドラインは 35 歳未満 35 歳以上に年齢を分け HBe 抗原陽性 / 陰性 ウイルス量の多寡により治療方針を示している 表 1 にガイドラインの概要を示した 1

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