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1 教員養成と採用の接続に関する 国際比較研究プロジェクト報告書 2014 年 3 月 東京学芸大学教員養成カリキュラム開発研究センター

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3 目次 研究プロジェクトの概要 上杉嘉見 5 論文編マレーシアの教育制度における教員養成とその採用簗島𥱋島史恵 9 オランダの教員養成の取り組みと地域学校連合の動向が教員採用に与える影響坂田哲人 21 フランスにおける教員養成と採用の接続 大津尚志 31 高等教育としての教員養成の課題 カナダ ケベック州の養成 採用の接続に注目して 上杉嘉見 43 オーストラリアにおける教員養成と採用の接続 クイーンズランド州を事例として 本柳とみ子 55 資料編教員養成と採用の関係について 日中比較を中心に 岩田康之 69 中国における教員養成と教員採用 東北師範大学と東北地方を事例として 陳欣 73 カンボジアにおける教員養成の現状と課題 教員の指導力不足と不正行為の問題を中心に 前田美子 83 Local administration educational management in Thailand based on 1999/2010 National Education Act Thanomwan Prasertcharoensuk 93 Pre-service teachers training, Faculty of Education, Khon Kaen University, Thailand Wallapha Ariratana 97

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5 研究プロジェクトの概要 教員養成と採用の接続に関する国際比較研究プロジェクト は 東京学芸大学教員養成カリキュラム開発研究センターの教員養成プログラム研究開発部門 ( 第 2 部門 ) のプロジェクトとして 2012~2013 年度に実施された この間 計 8 回の研究会を開催し センター教員 2 名と公募により委嘱した共同研究員 2 名に加えて 国内外の教育学研究者 6 名による諸外国 地域の事例発表を共有する機会を得た ( 詳細は次頁参照 ) 本報告書は こうした研究会の成果をまとめたものである このプロジェクトが研究対象にするのは 教員の養成と採用の接続関係 換言すれば養成と採用の方針の一貫性の有無と それぞれの制度の具体的な仕組みである 両者の滑らかな接続を目指す代表的な制度は 日本でもかつて行われていた師範学校での独占的な教員養成である そして多くの国で 師範学校の養成機能は高等教育機関に移管されているが 学部やコース等の主目的が教員養成にあり 卒業生の多くが教員就職を期待されているという点では 師範学校時代と大きな違いはない その結果 世界の教員養成の多くは 今世紀に到っても師範学校のモデルに依拠し 高等教育としての水準に疑問符がつく状態を継続させていると言って良いだろう こうした師範学校モデルは 各国 地域で導入が進む 教職スタンダード などと呼ばれる養成の到達目標に基づく教員養成の実践と相性が良い さらに この教職スタンダードを採用の選考基準として用いる国 地域もあるが それは中央の行政機関が教員配置を決定する制度との親和性が高い ( 本プロジェクトの研究対象国 地域ではフランスとオーストラリア クイーンズランド州が該当 ただし 前者の教員養成が採用試験の合格を目的としているのに対し 後者は職務遂行能力の育成を重視するという違いはある ) それに対して地方あるいは学校単位で採用を行うカナダ ケベック州やオランダ 中国 タイでは 教職スタンダードの達成度より 空きポストの有無といった現実的な要因が採用 配置を規定する傾向にある なお マレーシアは上記の2つのタイプの中間的な性格を持ち カンボジアは教員養成 免許制度を機能させることに困難を抱えている 日本では 全国各地で行われている教員採用試験が事実上の教職スタンダードのような性格を帯び 養成と採用の接続関係はそれによって規定されている 今日 教員採用実績のプレッシャーが 就職先との滑らかな接続関係を構築することへの渇望を刺激しているが それは開放制の教員養成が目指してきた高等教育としての質の追求という課題を難しくする こうした状況のなかで教員養成に従事する者は 各国の事例を冷静に受け止める必要があるだろう 本プロジェクトでは制度分析が中心になったため 教員養成 採用に携わる人々の実感に迫るという点で限界があるが 読者には 本報告書を日本の教員養成を考える上での一つの道具として活用していただくことを期待したい 東京学芸大学教員養成カリキュラム開発研究センター教員養成と採用の接続に関する国際比較研究プロジェクト担当上杉嘉見 5

6 2012 年度に開催した研究会第 1 回 (2012 年 9 月 4 日 ) 教員養成と採用の関係について 日中比較を中心に 岩田康之 ( 東京学芸大学教員養成カリキュラム開発研究センター ) 第 2 回 (2012 年 11 月 7 日 ) オランダの教育の現状と教員養成の課題 坂田哲人 ( 共同研究員 / 青山学院大学附置情報科学研究センター *) 第 3 回 (2013 年 1 月 9 日 ) 東北師範大学の教員養成と東北地域の採用制度 陳欣 ( 東京学芸大学教員養成カリキュラム開発研究センター客員准教授 * 東北師範大学教育学部 ) 第 4 回 (2013 年 3 月 25 日 ) カンボジアの教員養成 採用制度 前田美子 ( 大阪女学院大学 ) 2013 年度に開催した研究会第 1 回 (2013 年 4 月 10 日 ) タイ コンケン大学の教員養成と地方政府の教員採用政策 Local administration educational management in Thailand based on 1999/2010 National Education Act Thanomwan Prasertcharoensuk( コンケン大学教育学部 ) Pre-service teachers training, Faculty of Education Khon Kaen University, Thailand Wallapha Ariratana( コンケン大学教育学部 ) 第 2 回 (2013 年 8 月 5 日 ) マレーシアの教員養成 簗島史恵 ( 共同研究員 / 国際交流基金日本語国際センター ) カナダ ケベック州の教員養成 採用制度 上杉嘉見 ( 東京学芸大学教員養成カリキュラム開発研究センター ) 第 3 回 (2013 年 9 月 2 日 ) オランダの地域学校連合が教員採用 配置に与える影響 坂田哲人 ( 共同研究員 / 青山学院大学附置情報メディアセンター ) フランスの教員養成 採用に関する最近の動向 大津尚志 ( 武庫川女子大学 ) 第 4 回 (2014 年 1 月 28 日 ) オーストラリアにおける教員養成と採用の接続 クイーンズランド州を事例とした考察 本柳とみ子 ( 神奈川県立国際言語文化アカデミア ) * 所属先名称および職名は開催当時 6

7 論文編

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9 マレーシアの教育制度における教員養成とその採用 𥱋島簗島史恵 はじめに 教員養成の変遷マレーシアにおける教員養成の歴史は英領マラヤ時代に遡り 各民族の学校でそれぞれの変遷をたどってきた モスクなどで行われた初期のマレー語学校では グルや導師が教師となり コーラン アラビア文字 イスラム法 マナーを教えていたが 19 世紀後半に組織的な小学校の教員養成が始まった そして 1928 年 ウィンステッド レポートによって教員養成カレッジの設立が勧告されると 以後長くマレーシアの教員養成システムの中核となる2つの機関が誕生した 英語学校では 当初 卒業生を学生教員として雇いながら訓練を行っていたが 1920 年代にいくつかの師範コースが設置された しかし 1930 年代にはすべて閉鎖され 何度も起こされかけた教員養成所の計画もとうとう実現しなかった 華語学校の教員は 1930 年代 中国からリクルートされていた 1938 年 学校の中に師範クラスが設置され 訓練と観察 実習 さらに試用期間を経て正式な教員となる道筋が作られたものの 1950 年代終わりまで 教員の半数は中国大陸の出身者であった タミル語学校も同様に ほとんどの教員がインドから送られていた しかし マラヤ連邦の独立直前 つまり 1951 年のバーンズ報告や 1956 年のラザク委員会による報告書 さらに 1957 年のラーマン タリブ報告などによって国民教育制度がまとめられていくのに伴って このように多様な形で進められてきた教員養成のシステムも一元化されることとなった そして 近年では 1971 年の新経済政策 (NEP) 1991 年の国家発展政策 (NDP) のような国家政策に呼応して教育そのものが目指す方向性やその内容が転換する度に そこに携わる教員に求められる資質も変化し この教員養成システム自体も 政府の強いリーダーシップの下で改革が行われている 1 マレーシアの教育制度 (1) 概要マレーシアの教育制度は 4 歳からのプレスクール ( 就学前教育 ) に始まり 初等教育 6 年 前期 ( 下級 ) 中等教育 3 年 後期 ( 上級 ) 中等教育 2 年 大学予備課程 2 年 大学 3 年となっている 各教育レベルの修了時には 全国統一試験を受験することとなっている 1) が 後に述べる全寮制中等学校への入学以外は 下級中等学校までは自動的に入学できる 但し その上の上級中等学校からは 試験結果によっては不合格となり 実際 在籍率がかなり低い 学校教育の理念は 1970 年 政府が 図 1. マレーシアの教育制度 9

10 発表した ルクンネガラ ( Rukun Negara)(=National principles) に集約されている 学校のカリキュラムは この ルクンネガラ の方針を元に 教育企画委員会 ( EPC : The Education Planning Committee) が基本方針を決定し さらに 教育省に設置されているカリキュラム開発センター (CDC:Curriculum Development Center) が具体的に作成する Rukun Negara 我々マレーシア国民は 以下の 5 つの目標の達成を目指す 1) すべての国民の統合された国家の実現 2) 民主的な社会の維持 3) すべての者が繁栄を享受できる公正な社会の樹立 4) 豊かな文化と多様な伝統への自由主義的アプローチ 5) 現代の科学と技術を志向する進歩的社会の構築これらの目的の達成は 以下の原則によって導かれる 1) 神への信仰 2) 国王と国家への忠誠 3) 憲法の遵守 4) 法による当地 5) 良識ある行動と特性 (2) 初等教育初等教育の学校には 教育言語がマレー語である国民小学校 (SRK) とタミル語または中国語で教育を受ける国民型小学校 (SRJK) とがある 教育内容はこれまで 初等教育統合教育課程 (PSIC:Primary school Integrated Curriculum) KBSR で定められてきたが 2011 年の1 年生より 初等教育標準教育課程 (PSSC: Primary School Standard Curriculum) KSSR:Kurikulum Standard Sekolah Rendah への移行が順次なされており 2016 年までに全学年のカリキュラム変更を終わらせることとなっている 同時に就学前教育についても KSPK という新カリキュラムが導入された これらは世界的な潮流である教育への 21 世紀型スキル の導入と呼応している KBSR では 3R(Reading, Writing, Arithmetic) に重点が置かれ その他に 人間環境に関する科目 ( イスラム教育または道徳教育 科学 地域学習 ) 自己開発に関する科目 ( 音楽 美術 保健体育 技術家庭 ) などが設定されていたが KSSR は グローバル化した 21 世紀に必要な人材の育成のために これに加え Reasoning( 推論力 ) を養うべきであるという考え方 (4 重点 柱 カリキュラム基盤提供されるカリキュラム 評価 KBSR KSSR 3R 4R ( リーディング ライティング 数学 ) ( リーディング ライティング 数学 推論力 ) 知識 技能 価値観 創造性 イノベーション 起業家精神 批判的 創造的な思考 3 つの柱 6 つの柱 コミュニケーション コミュニケーション 社会との相互作用 精神的態度や価値観 自己啓発 人間性 科学技術のリテラシー 物理的および審美的な発展 個人の成長 学習成果 シラバス UPSR コンテンツ 学習基準 標準課程 ( カリキュラム ) の文書 UPSR school-based の評価 表 1. KBSR と KSSR 10

11 R) に基づき 国家の教育理念とも整合性を持たせたマレーシアならではの 21 世紀型スキルとコンピテンシー を定義している 評価は 6 年生の終わりに受ける 小学校到達試験 (PSAT:Primary School Assessment Test) UPSR で行われている これは 初等教育課程の理解度を確認するという位置づけだが ブミプトラ政策の一環として マレー系のエリートを養成するレジデンシャル スクール ( 全寮制中等学校 ) の入学選抜も兼ねている 選抜はマレーシア語 2 科目 英語 算数 科学の5 科目すべてで5 段階中一番上のA 評価を受けること および家庭環境の評価で行われ 合格者は 受験児童の約 1.5% 程度と言われている しかし 新しい KSSR では この小学校の最終評価にも school-based の評価が加わることになり 教師達はこの評価方法を新たに検討する必要に迫られている 基準となる benchmark は教育省によって決められているが 具体的な評価方法については 学校に任されているために 理想と現実の間で教師達の試行錯誤が続いている なお 国民型小学校の卒業児童には 中等学校に入学する前に 1 年間の移行学級に通うことが義務づけられている これは 国民小学校の教育がマレー語を使って行われ 英語が必修になっているのに対し 国民型小学校の教育は タミル語や中国語 ( 華語 ) 英語などで行われているため その卒業生が教授言語がマレー語に統一されている中等学校に進むためには マレー語や英語の力を補う必要があるためである (3) 中等教育中等教育機関には 国立中等学校 ( 全寮制中等学校を含む ) 国立アラビア語/ 宗教学校 中等技術学校 国立寄宿学校の4 種類があり そのカリキュラムは 中等学校新教育課程 (NCSS:New Curriculum for KBSM KSSM Secondary School) KBSM で決められてきたが これも 初等教育に続き 2014 年より 中等学校標準教育課程 (SSSC: Secondary School Standard Curriculum) KSSM:Kurikulum Standard Sekolah Menengah に変更される KSSM は KSSR と同様に KBSM に比べて 市民教育と市民権イスラム教育ライフスキル イスラム教育 学生の推論力 創造性 革新性 起業家精 視覚芸術教育 2 音楽教育 2 神などが重視されている KBSM では 下級中等学校 3 年間の 課程修了後 下級中等試験 (LSA:Lower Secondary Assesment) PMR を受ける こととなっており この試験で 後期 ( 上 表 2. KBSM と KSSM 級 ) 中等教育において 人文 科学 技術 あるいは職業のいずれに進むかが決定されてきた しかし KSSM では School-based assessment が導入され この試験は行われなくなる予定である 上級中等学校の2 年間 の課程修了後には マレーシア教育修了証明試験 (MCE:Malaysian Certificate of マレー語 6 マレー語 6 英語 5 英語 6 数学 5 数学 5 科学 5 科学 5 歴史 3 歴史 3 4 (+ 2) 道徳教育 3 道徳教育 3 地理 3 地理 3 保健体育 2 保健体育 3 職業技術教育 4 芸術教育 3 集会 1 集会 1 週当たりの総時間 43 週当たりの総時間 43 追加科目 6 選択科目 3 週当たりの総時間 46 11

12 Education) SPM が課される SPM に合格すると Form Six と呼ばれる大学予備課程に入ることになるが 最近は 一部の大学や全寮制中等学校に設置されている Matriculation Programme( または Pre-U:Pre-University programme) すなわち科学や会計学を専攻する優秀な学生のための予備課程も増えている このプログラムへの入学は SPM で選抜される 中等教育で加筆すべきことに マハティール首相時代から続いてきた理数科の授業を英語で行うという制度 (PPSMI) がある しかし 政府は 2009 年 この方針を転換することとした ( 適用は 2012 年 ) 教授言語としてではなく 英語教育そのものを強化すると説明されているが 実際には 英語で当該科目を教えることができる教師を養成しきれなかったこと マレー語の地位低下につながるとして不満を持つマレー系の保護者に配慮したことなどが大きい理由であったと言われている 2 マレーシアの教員養成教育省は 最近まで教育省 (MOE:Ministry of education) Kementerian Pelajaran Malaysia と高等教育省 ( MHE : Ministry of higher education ) Kementerian Pengajiantinggi に分かれていたが 現在合併し 以前の教育省(MOE) Kementerian Pendidikan Malaysia という名称に戻った 初等教育レベルの教員養成は この教育省学校局教師教育課 (TED:Teacher education division) 管轄の教員養成カレッジで行われている 最近になって ごく一部の大学でも養成が始まった 中等教育レベルの教員養成は 初等教育の教員と同じ教員養成カレッジの他に 大学でも行われている 大学には < 大学院付加学位 > 型の養成と < 学部並行学位 > 型の養成がある < 大学院付加学位 >とは それぞれの専攻において第一学位 ( 学士号 ) を取得したあと 1 年間大学院に残り 大学院教育学ディプロマ (PGDE:Post-graduateDiploma of Education) を取得するもの < 学部並行学位 >とは 4 年間の専門分野の教育と教育学のプログラムを同時並行的に学び 卒業時に Bachelor with Education を取得するものである 2-1 教員養成カレッジにおける教員養成教員養成カレッジの活動目的は 1 国家教育制度の下で就学前教育 初等教育 中等教育 職業 技術教育すべての要求を満たす高い能力を持った教員を養成すること 2 学術的にも専門的にも教師達の知識 能力 ( 力量 ) 効率性を向上させ かつアップデートすること 3 教員養成カレッジ自体を卓越した機関に発展させることである 2009 年から名称が変更され すべての養成所は頭に IPGM:Institute Pendidikan Guru を掲げた学位授与機関となった 現在 マレーシア全国にこの教員養成カレッジは 27 あるが 予算面から教員養成機関全体の見直し ( 大学と教員養成カレッジの管轄の重なりを整理し 統廃合する動き ) が検討されている 12

13 1. Institut Pendidikan Guru Kampus Bahasa Melayu 15. Institut Pendidikan Guru Kampus Pendidikan Islam 2. Institut Pendidikan Guru Kampus Bahasa Antarabangsa 16. Institut Pendidikan Guru Kampus Pendidikan Teknik 3. Institut Pendidikan Guru Kampus Batu Lintang 17. Institut Pendidikan Guru Kampus Rajang 4. Institut Pendidikan Guru Kampus Darulaman 18. Institut Pendidikan Guru Kampus Raja Melewar 5. Institut Pendidikan Guru Kampus Dato' Razali Ismail 19. Institut Pendidikan Guru Kampus Sarawak, Miri 6. Institut Pendidikan Guru Kampus Gaya 20. Institut Pendidikan Guru Kampus Sultan Abdul Halim 7. Institut Pendidikan Guru Kampus Ilmu Khas 21. Institut Pendidikan Guru Kampus Sultan Mizan 8. Institut Pendidikan Guru Kampus Ipoh 22. Institut Pendidikan Guru Kampus Tawau 9. Institut Pendidikan Guru Kampus Keningau 23. Institut Pendidikan Guru Kampus Temenggong Ibrahim 10. Institut Pendidikan Guru Kampus Kent 24. Institut Pendidikan Guru Kampus Tengku Ampuan Afzan 11. Institut Pendidikan Guru Kampus Kota Bharu 25. Institut Pendidikan Guru Kampus Tuanku Bainun 12. Institut Pendidikan Guru Kampus Perempuan Melayu 26. Institut Pendidikan Guru Kampus Tun Hussien Onn 13. Institut Pendidikan Guru Kampus Perlis 27. Institut Pendidikan Guru Kampus Tun Abdul Razak 14. Institut Pendidikan Guru Kampus Pulau Pinang 表 3. マレーシアの教員養成カレッジ (1) 教師教育の概念モデル 図 2. 教員養成カレッジにおける教師教育のトライアングルモデル ( 公式サイト掲載の図を筆者が翻訳して作成 ) 図 2は 教員養成カレッジの教師教育の概念モデルである マレーシアの教師教育哲学に基づいて 教員養成では 重要な3つの面 つまり 技能 知識 価値 が 神 社会 自己 という3つの次元に司られており それに適うものでなければならないことが示されている 技能 とは 人生における教育の重要性やその開発に関わる能力 知識 とは教育の質を高めうる専門的なスキル 価値 とは 教職の倫理に基づいた 13

14 道徳的価値観や教師像を表し この3つの面が 統合的に個人の知性 精神 感情 身体にバランスよく統合されることが 教師教育の目標であるとされている (2) プレサービスのプログラム教員養成カレッジで行われる教員養成のプログラムの中心は 初等教員養成のための学位コース (B.Ed プログラム ) である 入学要件は 20 歳未満の健康なマレーシア国民であること SPM の3 科目が優秀であること マレー語と歴史 もう1 科目の単位を有していること 英語の試験に合格していること 課外活動にも積極的に参加できること である プログラムは 基礎課程 (Foundation)1 年 ( この課程に合格すると進める ) 学位課程 4 年の計 5 年となっており その特徴は 1ICT リテラシーを含む教育のプロを育成する 2school-based のトレーニングを行う 3 理論と実践を現場で結び反省的思考を養うこととされている 表 4は このプログラムの科目単位数である 23 単位の必修科目には イスラム文明とアジア文明 言語リテラシー ( マレー語 ) 英語 数学 などが配されている さらに 学校のクラブ活動 ( 球技 陸上競技などのスポーツや社会活動 ) の管理 運営能力を養うための科目や 教師の人間開発 といった科目が入っている 教員養成カレッジでは 入学した時点から 教師としての服装 髪型 ふるまいまでが指導され 教師としての自覚が促される これは 大学における教員養成と異なる点の一つである 共通科目 ( 教職の専門科目 ) は 1 年次の マレーシアの教育哲学 児童発達学 などから始まり 2 年次には 具体的なクラス運営や指導技術などが取り上げられるようになる 3 年次には 文化と教育 4 年次にはカウンセリングやリーダーシップ論が取り上げられる このような教職科目と併行して 1~2 年では学校現場での体験 (School-based の重視 ) 3~4 年では 実習 インターンシップが設定されている 教育省は このプログラムへの現職教師の参加単位 % を強く促しており 2010 年までにすべての中等必修科目 教員と半数の小学校教員の学位取得を目指して共通科目 いたが この数字は未だ達成されていない このほかの学位プログラムには 英語科 ドイツ選択科目 語科 フランス語科 といった外国語科目の主任や計 教員養成カレッジの指導者を養成するコースなどが表 4. 初等教育教師のためのコースある このようなプログラムは SPM の優秀者を対 (KPLSPM) IPG-Kampus Tun Hussein 象に 国内や海外 ( 英 豪 NZ) の他機関との連携 Onn Batu Pahat の例で行われる また 同様に SPM 優秀者でかつ物理学 化学 生物学 英語 特殊教育の学位所持者を対象に英国または NZ で学位を取得させ マレーシアで1 年のトレーニングを行う 海外プログラム もある その他 教員養成カレッジには 既に他の専門の学位を持っており MEC(The Malaysian Examinations Council) の MTeST(Malaysian selection test) と面接に合格した教師に 教育 diploma を与える intake のコースも行われている (3) インサービス ( 現職者 ) のプログラム前述のように マレーシアの教育は政府の強い管理下にあり 政策転換などには喫緊に 14

15 対応する 教育内容の変更がなされれば それに向けた教員の再研修も積極的に行われ 他国に比べても 現職者のためのプログラムが充実している その多くはこの教員養成カレッジで行われる まず 大学院プログラムの中には 1 一般初等 中等教師のための大学院コース (1 年 ) 2 小学校教師のための大学院コース (1.5 年 )(school-based training mode) 3J-QAF 教師 2) のための大学院コース (1.5 年 ) 4 宗教学校の教師のための大学院コース 5アチェの教師のための大学院コースがある また Bachelor( 学士 ) が取得できる Academic Improvement のコースには 1A degree programme for non-graduate teacher PGSR:Pensiswazahan Guru Sekolah Rendah non-graduate の小学校の教師に学位を持たせるためのツィニング プログラム 14 週間の基礎課程後 3 年間 ( うち2 年は連携大学に在籍 ) の学位コース 2A degree programme in the teaching of international language フランス語 ドイツ語 日本語の教師のためのコース 12~14 週間の語学集中コースに加え 1~3 年間の学位プログラムなどがある この他に professional improvement のための短い教師研修コースもある この中には 上述したように 国の教育政策に即応した教師育成のコースが作られることも多い たとえば 1996 年 政府が打ち立てたマルチメディア スーパー コリドー (MSC) 計画では 翌年 その基幹事業の一つとして技術支援型のスマートスクールを開発することが決められた これは IT を駆使することで 教師が生徒に情報を一方的に教える教育ではなく 生徒が自ら学習する問題解決アプローチを取り 教師はあくまでもその手助けを行う役割を担う という構想に基づいた学校である 2000 年 1 月より 全寮制中等学校を中心とした全国 90 のモデル校でこのスマートスクールが導入されることになると 教員養成カレッジには スマートスクールの教師のための ICT コース や スマートスクールの教師のための一般科目コース などの研修プログラムが設置された その後も 世界トップクラスの模範となる クラスタースクール 世界中のハイレベルの学校と伍し すべての分野で優秀な学生を輩出する 高パフォーマンススクール (HPS) などの政策が打ち出され その度にそれに伴った教員研修や校長などの管理職の研修が行われてきた 3) 2-2 大学における教員養成大学における教員養成は 1969 年までマラヤ大学教育学部だけで行われていた 学部では 1969 年にマレーシア科学大学 1970 年にマレーシア国民大学 1971 年と 1972 年にはマレーシア農科大学 マレーシア工科大学で養成が始まった マラヤ大学の例を見ると 1989 年に開始された< 大学院付加学位 > 型 (PGDE: Post-graduate Diploma of Education) のコースには言語コース 人文社会生活コース 科学工学コース 宗教コースなど 25 のコースがある PGDE は 学生から見れば 学部教育の終了時点でコースを選択できるメリットがあるが 教育学関係の理論や専門性を取得するのに1 年間は短すぎるという問題もある 例えば 英語教育専攻の例では 1 年の 15

16 前半に文法 作文 読解 聴解 口頭表現といった科目を履修し 後半にはそれぞれの教授法 哲学 国家教育制度 課外活動などについて学んだ上で2 週間の授業見学 クラブ活動観察が課されている しかし その内容が充分でないことから 現在は< 学部並行学位 > 型への移行が図られている < 学部並行学位 > 型は4 年間のコースで 18 の領域にあり 主専攻と副専攻の学術科目の履修に加えて 教育心理学 教育社会学 教授方法論 など教育学関係の科目を履修する 加えて イスラム宗教知識 または 道徳教育 マレーシア社会とイスラム文明 の2 科目の履修が義務づけられている 教育実習は 10 週間である 実習校のシニアの教師は 初回に授業のやり方を指導するが 授業を見学することはほとんどなく 指導は実習中に数回来校する大学の指導教員に委ねられている 教育実習の評価は 以下のようなポイントで行われる 1 授業の目標は明白 適切であるか 2 授業の内容の選択 授業順序は 目標に合うよう適切であるか 3 演習の指示 構成は考慮されているか 4 授業の導入は生徒をひきつけるものであるか 5 授業の進行は適切でかつ臨機応変であるか 6 内容の説明は明白で正確であり 適切な知識があるか 7 生徒の学習の向上をうながす評価方法は適切であるか 8 生徒は活発に授業に参加しているか 9 教員の生徒に対する対話は 流暢で効果的であるか 10 教員と生徒の関係は円滑で 教員は一人一人に注意を注いでいるか 11 教具は効果的に使用されているか 修士課程については マラヤ大学の国立学校管理職センターが 1999 年から校長職の教員を育成しており 1 年間 42 単位で 修了と共に 校長職のための国家資格 (NPQH:National Profesional Qualification for 表 5. マラヤ大学国立学校管理職センターのコースプログラム Headteachers) の資格が授与される そして 2015 年には 日本語教育の教員養成課程もスタートする計画がある また 元々教員養成カレッジの一つであったスルタン イドリス教育大学 UPSI: Universiti Pendidikan Sultan Idris では マレー人の初等教育教師を養成している 表 6. スルタン イドリス教育大学のコースプログラム さらに 近年では 私立大学の中にも 教員養成の学位プログラムを作る大学が出てきた 表 7は カークビーインターナショナルカレッジ (KIRKBY International college) の小学校の英語教師のためのコースモジュールである プログラムは 知識 実践的スキル 倫理観 プロフェッショナリズム 人間性 ソーシャルスキル 責任 コミュニケー 16

17 ション リーダーシップ 協働力 科学的手法 批判的思考 問題解決能力 生涯学習 情報管理 起業家精神 経営スキルなどを養うことがうたわれており 卒業後 英国のハートフォードシャー大学の学位が与えられる 表 7. カークビーインターナショナルカレッジのコースモジュール ( 一部 ) 3 教員の採用マレーシアでは 正式な教員になるための筆記による採用試験は行われていない 以前は 教員養成カレッジや大学を卒業した後 まず直接派遣され その後 正式に資格をとるための面接を受けることとなっていたが 現在では 卒業後 公務員としての教員になるための面接が行われ 合格して初めて現場に配置されるように変更された この面接を行っているのは 1973 年に設立された 教育サービス委員会 (Education Service Commission Malaysia) SPP:Suruhanjaya Perkhidmatan Pendidikan である この委員会は教師の雇用に関する業務を責務としており その一つに教員や非常勤講師の候補者の選定がある 面接は 一般の教師への応募の場合 申し込み順に 4) 呼ばれる 応募者は自分の応募状況をオンライン上で確認することができる 面接には 初等教育 ( 小学校 ) の教師のためのものと中等教育の教師のためのものがある 小学校教師の面談への応募条件は 1マレーシアの国民であること 218 歳以上であること 3Diploma または同程度の資格を持っていること 4SPM の英語の評価が優秀 または同等の力を持っていること となっている 中等教育の教師の面接は 1マレーシアの国民であること 218 歳以上であること 3Bachelor を持っていること 4 修士の学位または教育 Diploma または同等の資格を持っていること 5SPM の英語およびマレー語の評価が優秀 または同等の力を持っている教師に対して行われる 面接の査定は 1 各自の専門分野で有能であるか 2 前向きな姿勢を有しているか 3 モチベーションがあるか 4 思考能力が高いか 5 自信を持っているか 6コミュニケーション能力があるか 7 一般的な知識を有しているか という7つの観点で行われる この面談に合格できなかった場合や面接当日 何らかの事情で受験できなかった場合は 再度 2 回目以降の面談の機会が与えられる 面接の合格者には 委員会より書類が送られ 必要事項を書き込んで 60 日以内 ( 遠方は 90 日以内 ) に送り返した後 スケジュールの確認が行われて終了となる 大学の教育専攻を卒業しただけの学生には必ずしも職があるとはかぎらないが 教員養成カレッジで養成された者や大学を卒業してから教員養成カレッジでトレーニングを受けた者は ほぼ採用される ただし 配属権限は地方教育局にあり 学生のその時点での住所などとも関係がない 若い人は地方に送られることも多い また 専攻は決まっている 17

18 ものの 実際に何の科目を教えることになるかは 割り振られた学校にどの教師が不足しているかによって決まるため 専攻外の科目を教えることになる場合も少なくない 1つの学校に就職した後は 自分で希望しなければそのままその学校で働き続けるのが一般的である 希望があれば申請することが可能であるが 最近は都市部の学校への希望が集中し 必ずしも聞き届けられないことが増えてきた 採用となった教師に対する給与は 学歴に応じて決定されるが 一般の教員の場合 修士の学位が給与に反映されることはない 上述のように希望して異動が認められた場合 給与は 新任地域の給与体系の中から 前任地域の給与にほぼ該当する段階から支払われている 新任の給与は 政府によれば 5) 同じ公務員の医者やエンジニアに比べると低いが 弁護士と同額程度 会計士や IT の職種に比べればやや高く 他国と比べても遜色ないと報告されている おわりに現在 世界各国で これからのグローバル社会に必要なコンピテンシーを新しくとらえ直そうとした教育が展開されつつある マレーシア政府もこの動きにいち早く対応し 教育内容の改革とそれに伴う教師の資質 能力の向上を打ち立てた 繰り返しになるが マレーシアの教育は 常に 国家の政治 経済政策と呼応して 教育省の強いリードで進められてきており 今回もこの指針に合わせた教師の育成が計画され 進行しつつある もっとも 現在の教育の変化は ICT アクティブラーニング 評価の概念など新たに導入すべきことが今まで以上に多様であり この変化に対応できる教師の育成は 他国同様 一朝一夕にできるものではない 一方 マレーシアの教育 そして教師の資質には 常に 徳 が重視されてきた Vision2020 Wawasan2020 と名づけられた 1991 年のマハティール首相の演説でも マレーシアにとっては 経済科学技術の向上のみならず 道徳観や倫理観が大切で それこそがマレーシアを われわれ自身の特性を持つ先進国 にするものであると語っている この演説で 先進国としてのマレーシア の構成要素として挙げられた マレーシア型ナショナリズム や 思いやりのある社会と気遣いの文化 は はじめに に触れたマラヤ連邦の独立 そしてマレーシアの成立以来 マレーシアの教育にも連綿と流れている哲学と言えよう 教育省は 2013 年から始まる 13 年間の教育について Blueprint を発表した 本報告の執筆中の公表であったので ここでは その中身を充分に盛り込むことはできなかったが 今 まさにマレーシアの教育が大きく動こうとしていることは事実である 教師に関しても 改革の計画を3 段階 ( ) に分け 今後育成が必要な資質やそのための養成コースの整備 教師評価 更に待遇改善に至るまで 詳細な青写真がまとめられている マレーシアらしい教育や教師観を大切にする一方で 時代に即した教員養成とその採用や配置も含めた教師評価をどのように行っていくのか 今後も このマレーシアの取り組みは特に注目すべき動向の一つであると思われる 注 : 1) 修了試験の方法は 後述するように現在移行中である 前期中等教育修了段階で行われ 18

19 ていた PMR はなくなり 他の修了段階では統一試験の他に school-based の評価が取り入れられるようになった 2) J-Qaf 教師とは 教育省が 2006 年から導入したイスラム教教育のための教師である 教員養成カレッジでこの大学院コースに入るためには イスラム研究 アラビア語研究 コーラン研究などの関連分野の学位を持っている必要がある 教育省は 2016 年までに全国のすべての国民小学校で 少なくとも3 人ずつの Jawi( マレーの文字 ) コーラン アラビア語 FarduAin( 戒律 ) の科目を教える教師を配属することを決め このコースもこの政策の実現のために設定された 3) たとえば 直近の例では 教育省が 2025 年までに生徒のマレー語および英語の能力向上を目指すことを Blueprint で示唆し これに伴い 英語の教員は 2 年以内に英語能力試験に合格 2015 年までに Cambridge Placement Test に合格しなければ職を解くと発表した これに伴い 教員養成カレッジでは いったん不合格となった教師に8 週間のトレーニングプログラムを行うこととしている 4) 但し 実際には 順番待ちの教師も多く 卒業後何か月も面談に呼ばれないケースもあると言われている 5) Ministry Education in Malaysia Malaysia Education Blueprint による 2010 年のデータ 参考資料 : 岡本義輝 マレーシアの教育制度 参照日 :2014 年 1 月 31 日 ) 国際交流基金日本語教育国 地域別情報 マレーシア 参照日 :2014 年 1 月 31 日 ) 齋藤光代 (2005) マレーシアにおける言語政策についての考察 融合文化研究第 5 号 電子学会杉本均 (2004) マレーシアにおける国際教育関係 教育へのグローバル インパクト 東信堂鳥居高編 (2004) マハティール政権の 22 年 文献レビューと基礎資料 JETRO アジア経済研究所調査研究報告書日本教育大学協会 (2005) 世界の教員養成 I アジア編 学文社望月通子 河合忠仁 (2006) 外国語教員養成制度と専門能力開発に関する基礎研究 米国 カナダ オーストラリア ニュージーランド シンガポール マレーシア 韓国を中心として 外国語教育研究 第 11 号山崎朝子 英語科教職課程の現状と課題 環境情報学部紀要第 7 号 東京都市大学 BAHAGIAN PEMBANGUNAN KURIKULUM KURIKULUM STANDARD PRASEKOLA KEBANGSAAN (KSPK) & KURIKULUM STANDARD SEKOLAH RENDAH (KSSR) ) 19

20 Dr. Bayani Almacen Teacher Training Program: The Malaysian Perspective pective(accessed ) KEMENTERIAN PELAJARAN MALAYSIA TRANSFORMASI KURIKULUM SEKOLAH MENENGAH (KSSM) m (accessed ) KIRKBY International College ) Ministry Education in Malaysia Malaysia Education Blueprint Ministry Education in Malaysia Preliminary Report Malaysia Education Blueprint Ministry Education in Malaysia Education in Malaysia: A journey to Excellence (accessed ) Portal Rasmi Institut Pendidikan Guru Malaysia ) PORTAL RASMI KEMENTERIAN PENDIDIKAN MALAYSIA ) PORTAL RASMI SURUHANJAYA PERKHIDMATAN PELAIARAN MALAYSIA ) RujukNota Nota Untuk Pelajar IPTA/IPTS dan Guru Pelatih IPGM. (accessed ) UNESCO Bangkok(2009) Towards Providing Quality Secondary Education:Training and Retaining Quality Teachers in Malaysia Secandary Teacher Policy Research in Asia UNESCO (2011) Malaysia World Data on EducationSeventh edition 2010/11 20

21 オランダの教員養成の取り組みと地域学校連合の動向が教員採用に与える影響 坂田哲人 1 概要オランダは 北海に面したヨーロッパの西部に位置する国である 人口は 1650 万人 面積は九州と同程度の4 万平方キロの国である 海抜ゼロメートルまたはそれ以下の国土も広く 古くより水害に悩まされ 常にこれと戦ってきた歴史がある そして 貿易業 海運業は主要な産業の1つであり ベルギー ドイツと国境を接しているほか 他のヨーロッパ主要国とも距離が近く 外国との接点は常に多い 国力の維持 発展のためには様々な観点からの創意工夫が必要とされる特徴を持った国である オランダは 世界学力調査をはじめとする教育に関する調査で常に上位にランクされている国の一つであるが こうした環境下でさまざま創意工夫して生活していく必要性が教育にも良い形で反映された結果であるともいわれている このようなことから 諸外国からも注目されることが多いオランダの教育であるが その特徴をオランダ憲法 23 条に見ることができる 一般的に 教育の自由 と表現されている ( 表 1) 表 1: オランダ王国憲法 23 条 オランダ憲法第 23 条 1. 教育は 政府が常に配慮する事項である 2. 教育の提供は 自由である ただし 公的機関が監督すること並びに法律で指定された教育形態に関して 教育者の能力及び徳性を審査することを妨げない 詳細については 法律で定めるものとする 3. 公立学校教育については 各人の信仰又は生活信条を尊重しつつ 法律で定める 4. 各自治体において 公的機関により 十分な初等普通教育が十分な数の公立学校で提供される 公立学校でなくとも初等普通教育を受ける機会が与えられる場合には 法律の定める規則により例外を認めることができる 5. 全部又は一部について公金の支出を受けるべき教育に課される質に関する要件については 法律で定めるが 私立学校教育に関しては 信条の自由を考慮する 6. これらの要件は 公金から全額支出された私立学校教育及び公立学校教育の質が等しく十分に保障されるように 初等普通教育について定められる 規定に際しては とりわけ 教材の選択及び教員の雇用に関する私立学校教育の自由が尊重される 7. 法律の定める要件を満たす私立学校による初等普通教育は 公立学校教育と同一の基準に従い 公金から支出を受ける 法律は 私立学校による中等普通教育及び大学進学課程の教育に対して公金が支出される要件について定める 8. 政府は 毎年 教育の現状について議会に報告する 国立国会図書館 各国憲法集 (7) オランダ憲法 より引用下線は筆者による この考え方の下にある特徴的なこととして ほとんどの学校 ( オランダ大使館資料によると 75% 以上 ) が 公営私立 として経営されていることがある 法律で定められた条件を満たせば いつでも学校を設立することが可能であり 条件を満たし続ける限り平等に予算 ( 以下補助金と表す ) が割りあてられる この 設立の自由 のほかに 第 5 項に書かれる 信条の自由 そして第 6 項には 教育方法に関する自由 が記されている 教育方法に関する自由 とは 教材選択や 教員の雇用など教育の方法 実践に関すること 21

22 についても原則として学校の判断にゆだねられており 政府は教育機会や質について適切に確保されているかをチェックするのみであるという意味である 一般的にこの3つの自由を指して 教育の3つの自由 と称されることが多い オランダの教育を取り上げる際には このような背景から 国家あるいは地方行政区単位での統一的な政策 施策を把握して動向を記述することは困難である オランダの教育は 査察機関による質保証のメカニズムや 市民 ( 保護者 ) からの要求などをもとに 学校それぞれにおいて具体的な方策が練られる また 試行錯誤の中で生まれたよい実践については広く共有され全国的に広がっていく 学校の属性 ( たとえば宗教や オルタナティブの形式など ) に関係なく よいものは自然と取り入れられていくのも この国の学校教育の一つの特徴であるといえる 教員養成と採用の接続という今回のテーマに関して オランダでは これに直接対応するような特徴的な方策がとられてはいないが 養成校並びに学校経営の近年の動向は 少なからず教員養成と採用の接続にも影響が広がっている このことについて以下で検討を加えていくこととする 2 オランダの教員養成の仕組みと教員採用の状況 (1) オランダの教員養成課程と課程修了者の就職状況オランダの教員養成課程は中等教育終了後に 初等教育教員養成課程と 中等教育教員養成課程がそれぞれ用意されている この2つの課程はそれぞれ異なる機関に就学する必要がある 初等教育 (PO: Primair Onderwijs) 教員については 4 年課程の PABO (Pedagogische Academie voor het BasisOnderwijs) にて養成され 卒業時に学位 ( 学士 ) とともに免許が与えられる 中等教育 (VO: Voortgezet Onderwijs) 教員については 同じく中等教育終了後に中等教育教員養成課程に進学して第 2 種中等教育免許 ( 基礎中等教育学年 ( 日本の中学校レベル ) を担当可能 ) を取得する 第 1 種中等教育免許 ( 中等教育のすべての学年を担当可能 ) を取得するためには さらに修士レベルの課程に進学し取得する必要がある また 第 1 種中等教育免許については 特定の学問に関する修士号を取得後 1 年間の教員養成課程に通学することで関連する教科の免許が取得できるコースも存在している 修了者の就職状況としては オランダ文部科学省の資料 (Key Figures ) によると 2009 年時点で 83% の初等教員養成課程修了生が週 12 時間以上の仕事に就けていると報告されている ただし 地域差が大きく北東部のクローニンヘン (Groningen) では 65% 程度であり 西部地区では 90% を超えるところもある 中等教育教員については 同じく 73% の就職率であり 地域差については上述と同様である 同資料の統計データでは 2009 年を境に教員の欠員の状況も減少してきており たとえば 初等教育の全国の教員欠員数は 2009 年に 1,010 であったのに対し 2012 年のそれは 370 までに減少しており 充足率は高くなってきている また 呼応するように失業給付受給者も増えており 他の業種と比較してその率は高くはないという注釈があるものの 2009 年を境に増加の一途である オランダでは 教員不足であるといわれる時期もあったが 少なくともここ数年に関しては 統計上のデータからみても就職は厳しい状況にあるといえ 実際に養成校の教員か 22

23 らもその状況を肯定する発言がみられる 近年では就職対策も養成校に求められる大きな課題であり このことは入学者の確保という点からも非常に重要となってきている 2012 年の中等教員養成課程入学者は 2003 年と比較して微増している一方 初等教員養成課程の入学者については 2003 年の 10,000 人弱をピークに 2012 年は 6,000 人弱にまで落ち込んでいる (2) 教員養成の近年の動向こうした状況に加え 2000 年ごろからは 教育の質 ひいては教員の質に対する国民の要求が国内で高くなる一方である これを受けて 国レベル 学校レベルそれぞれの立場から教員の質の向上 確保に向けた多くの施策が取り組まれている 代表的なものとしては 2006 年 8 月に発布された De wet op Beroepen in Onderwijs( 教職に関する法律 ) があげられる この法律では 教員の専門性を7つのコンピテンシーで表し 養成段階から現職に至るまで この観点で教員の専門性を評価することが義務づけられた 表 2: オランダの教員に求められる 7 つの資質能力 Interpersoonlijk Pedagogisch Didactisch organisatorisch samenwerken met collega's samenwerken met de omgeving reflectie en ontwikkeling 対人的能力教育学的能力教授学的能力組織的に動く能力同僚と関係する能力周囲 ( 外部 ) と関係する能力省察する能力 (3) 教員養成学校の取り組みオランダの教員養成課程は よく知られるように修学日数の半分程度が学校における実習であったり 初年度から実習の機会を多く持つなど実践を重視した特徴を持っている 加えて 多くの養成校では課程を3 段階に分け 各段階の最終場面においては 学生の保持する資質能力や 実習におけるパフォーマンスが十分でない場合には進級させないなど 養成課程における実践的な資質能力の養成については積極的に取り組んでいた それでも とくに初等教員養成学校 (PABO) は 入学者数の減少 就職率の減少 教員の質の確保への要求レベルの上昇など これまで述べてきたように非常に厳しい環境におかれつつある とくに最近よく見られる動きとしては 養成機関における研究機能の充実に取り組みが挙げられる 最新の教育理論の調査などに加え 教育実践の改善と評価などを行い 養成課程での指導内容を充実させていくことを主眼としている 近年では 研究大学での教育学の学士を取得するかたわらで初等教員免許を取得することができる課程も増えている この課程のことを ALPO(Academische Lerarenopleiding Primair Onderwijs) と称している リサーチの指導については PABO 内部だけではなく 外部の研究大学と共同で行われる場合もある また 教育実践の改善と評価という文脈においては 養成機関の教員が実習指導と合わ 23

24 せて現場学校におもむき たとえば現職学校教員とのディスカッションを行ったり 情報の提供 あるいは教育方法の開発と実践など 両者がそれぞれの持つ特徴を生かして活動を行っていくことが盛んになっている 近年 これらの活動の枠組みを PLC(Professional Learning Communities) と称して実践事例が増えてきているほか 養成機関や研究大学などで PLC の効果測定にも取り組まれるなど高い関心が寄せられている 養成課程の学生も この活動を通じて 学校教育 学校活動のさまざまな場面にも実習段階で深く立ち入ることができるため 現場の早い理解そ促進するとともに 学校側から能力が認められれば早い段階からその学校への就職に結びつくというケースも少なくない 3 地域学校連合について (1) 地域学校連合の概要一方 教育や教員の質の向上に対する要求 あるいは教員の労働市場の変化などは 教員養成校のみならず学校の経営にも影響を与えている オランダの学校では前述のように公営私立がほとんどであり したがって カリキュラムの編成から教員の採用配置に至るまで 原則として1つの学校が活動の基本単位となっている しかし 近年では とくに地域内の学校が連合し 地域学校連合 を形成する動きが加速している 次に紹介する MosaLira のケースのように 地域学校連合を構成する場合には Stichting (Foundation/ 財団 ) を設立し その財団に学校を所属させる形で連合を形成する場合も多い この地域学校連合は合同して 1 つの学校経営会議 (School Board) を構成し 所属する学校の予算や人事をつかさどる 教員は 各学校の所属ではなく この学校連合に所属し各学校へ配属される形となる 学校連合は特定の地域内で構成されることが多いが 一方で 地方政府との関連や連携は特になく ( 補助金の受給という意味では関連があるものの ) したがって教育委員会という日本の行政の仕組みとは異なるものである また 連合の編成も行政区単位で行われるということではなく あくまでも学校がよりあってボトムアップ式に形成している点に特徴がある いわば地域の学校で大きな1つの学校法人を構成するような形態である 2012 年現在 オランダ前後で 6,742 校の小学校 そして 1,169 の学校経営会議が存在している 図 3: 学校経営会議 (School Boards) 数の推移 出典 :Key Figures Education (p.80)/Min. OCW( オランダ文部科学省 ) 24

25 また 図 3 に示すように 2008 年から 2012 年にかけて わずかずつではあるが学校経 営会議数が減少していることから 複数の学校が連合し 学校連合を形成する動きが増えていることが分かる (2) 補助金配分の仕組みすでに述べたように オランダでは 教育の自由 の考え方のもと 認可されているすべての学校に対して予算は平等に配分される 予算の配分方法は児童生徒一人あたりの金額に人数を掛け合わせたもので 一人あたりの単価は毎年変更される 2012 年度の初等教育の配分額は児童一人当たり平均して 6000 ユーロである 一般の小学校はこの金額よりやや少なく 特別支援学級 学校についてはこの金額より多い金額が配分されることになっており これを平均したのが 6000 ユーロという金額になる 図 4: 小学校児童一人当たりの平均補助金額 出典 :Key Figures Education (p.72)/Min. OCW( オランダ文部科学省 ) 中等教育学校については 同様に生徒一人当たり平均で 7700 ユーロが配分されている 学校連合を形成している場合には これらの補助金は連合にまとめて配分される この連合内で どの学校にいくら配分するかについては連合に一任される さらに平等に配分することももちろん可能だが 一般的には 人件費以外の部分についてはその年の重点領域に ( たとえば特定の学校の施設を改善するなど ) 利用される場合が多い 学校連合を形成した場合の財政上の最大のメリットは 学校間での資金の最適配分が行えることである 補助金の 90% 前後が人件費として必要であり 学校設備等に使える費用は非常に少ないため 予算を集約しなければ実現しない設備投資も多い 学校ごとに配分金額を変えるというような仕組みになると 学校間での競争的資金 ( 資金の取りあい ) となってしまう可能性があるが その場合に適切かつ妥当に配分し かつ十分な説明を行うことが学校経営会議の重要な業務となる 25

26 (3)MosaLira Stichting MosaLira Stichting( 以下 MosaLira と記す ) は オランダ最南部の中核都市マーストリヒト市にある地域学校連合である 2003 年に設立され 2013 年 3 月現在 22 の学校がこの連合に所属している ( 表 5) 22 の学校を擁する地域学校連合は全国的にみても大規模であり この規模の地域連合は全国的にもまだ少ない 初等教育学校については マーストリヒト市内の 62% に相当する学校が この学校連合に所属している 22 の学校に 800 人の教員と 5700 人の児童生徒が在籍している 連合の運営にあたっては 無報酬役員として6 名が 他に4 名がスタッフとして勤務している MosaLira の収入 支出は 2011 年度でともに 3,700 万ユーロあまりであるが 収入についてはその 90% 近くを国からの補助金が占めている 支出についても 85% 程度が人件費となっている 22 校が集まり財政の規模は大きいが 財団で人件費以外として調整できる金額は全体の 15% 程度に相当する 500 万ユーロあまりである ( 表 6) 表 5:MosaLira に所属する学校一覧 児童生徒数 De Sprong 166 JF Kennedy 570 De Opstap 226 Scharn 461 Sint Oda 183 Petrus en Paulus 208 Amby 562 De Letterdoes 139 Het Mozaiek 88 De Maaskopkes 92 Wyck 170 Sint Pieter 292 De Schans 97 Joppenhof / De Vlinderboom 455 Sint Aloysius 338 Montessori Binnenstad 371 t Spoor 176 Anne Frank 229 Jan Baptist 176 Markus 161 IvOO 455 Don Bosco 112 合計 5727 出典 :MosaLiraJaarverslag 2011 表 6:MosaLiraStichting の財政状況 (2011 年度 ) 収入 ( 内訳 ) 国からの補助金他補助金他収入 37,154,278 ユーロ 32,506,206 ユーロ 784,250 ユーロ 3,863,822 ユーロ 支出 37,112,431 ユーロ ( 内訳 ) 人件費 31,045,580 ユーロ ( 全支出のうち 83.7%) 減価償却 576,944 ユーロ 施設設備費 2,814,091 ユーロ 他支出 2,765,816 ユーロ 参考 : 東京都小金井市 ( 人口約 12 万人 : マーストリヒト市と同規模 ) の 2011 年度教育費支出 3,616,273,000 円出典 :MosaLiraJaarverslag 2011( 日本語訳は筆者 ) 26

27 (4) 地域学校連合がもたらした効果ここまで述べてきたように 地域学校連合を形成することにより 1 校で編成する場合と比較し予算使用に関する柔軟性が生まれた 具体的には 特定の学校に予算を多く配分することが可能になったり 研究校に指定して特定の学校のみ異なる実践に戦略的に取り組ませる などといったことが可能になる 地域学校連合は行政のコントロールを受けないため 日本と比較してもより柔軟な戦略を組むことができているように見受けられる 予算使用の柔軟性と同様の文脈で 教員人事に対しても柔軟性も持たせることができる それまでは特定の学校に固定されていた教員も 連合内の他の学校へ異動させることができたり あるいは 特定の時期のみ教員を配置するというような対応も可能となった 他にも 長期 短期の欠員に対応するために 特定の学校に所属しない教員を配置している場合も多い ベテラン教員をこの役に充て 欠員がある場合には その補充の役割を果たし 欠員がない場合には 若手教員のメンター役として相談にのったり チームティーチングとしてクラスに入って指導する場面も多く見られる オランダではもともとパートタイム勤務の教員も多く (2012 年現在 初等教育はフルタイム相当で 122,500 人分の枠に 169,900 人が採用されており 全体時間の 85% 以上勤務するようなフルタイム相当の教員は全体の 60% 程度 ) 2 名の担任が曜日ごとに交代する場合や 他にも研修などで出張する必要がある場合 補充教員を充てる権利が教員には存在しているなど 教員が交代する場面は日常的にある そのため 多くの学校で教員をやりくりできるようになると より効率的な運営が可能になる 加えて MoraLira をはじめ 学校連合を編成することによる教育的なメリットとして強調しているのは 学校間のベストプラクティスの共有である 上述のように教員が交流することにより自然と各学校の実践は他の学校に共有され よりよい教育実践が広がっていく これ以外にも MosaLira では 毎月のように学校校長会を開き 各学校の問題点について共有し 解決策をその場で検討し ここでも良い実践の状況を共有することが行われている このように 1 校単位では実現不可能であったことを学校連合として実現することのメリットが全土に知れ渡っていくにつれ 次第に複数学校連合が編成される傾向にある という状況にあるといえる (5) 地域学校連合と教員採用との関連性オランダでは 養成学校終了後 フルタイムで学校に勤める場合も 多くの場合には試用期間付き ( 特別教諭 ) として採用される 1 年ないしは2 年の勤務後 教員としての適性 資質に問題ないと判断された場合に 初めて正規雇用として採用される しかし 学校側も試用期間付きとはいえ いったん採用してしまうと なかなか正規採用への移行をしないというのは難しいというのが実情のようである 学校連合が作られている場合 当然のことながら新卒採用者についても学校連合へ所属することになる その際 いくつかの学校連合では 試用期間の間は特定の学校に配属せず 一定期間ごとに異動させながら経験を積み 専門性を高めていく方法をとっている 教員としての専門性以外にも 職場の人間関係や あるいは学校の風土など 同一の学校連合の中でも学校差は存在する中で さまざまな学校で経験することにより 馴染む学校 27

28 を見つけることもできる 先に述べたように 近年は新しい教員を採用する機会も減ってきており そのため 新規教員採用についてはどうしても慎重にならざるを得ないという声も多い そうした中で この地域学校連合の存在は たとえ最初の学校になじまなかったとしても おそらくはほかの学校で合うところが見つかるかもしれないという見込みを持つこともできるので (1 校で採用するよりは ) ある程度積極的に採用しても問題が起きにくいと考えているという経営者の考えも聞かれる また 学校連合としてメンター教員 (Intern Begeleider) を配することも一般的であり このことは新任教員の適切な育成環境の提供と リアリティショックを和らげる効果があると考えられる 地域学校連合は 教員の採用に向けて定員の拡大などの直接的な効果をもたらしたわけではないが 採用機会の増加や 育成システムの充実など間接的に好影響をもたらしているといえる 4 まとめオランダの教育制度は 自国にいる専門家 研究者であっても最新事情が把握できないと言わしめるほど頻繁に変更が行われ また複雑化している そうした中で 2000 年代以降の全国的なテーマは 教育の質の向上 そしてそれを支える教員の質の向上である 中央政府は 養成機関に対しては養成課程のさらなる実質化と高度化を 学校現場に対しても教育と教員の質向上を迫っている 冒頭に述べたように オランダでは 教育の自由 の考え方の下 どのように教育活動を実践するかという点は すべて学校現場に任されている そして 政府は 基準の提示による出口管理や 査察制度によるクオリティーコントロールをするのみである したがって このように質向上に向けての条件が提示された場合でも その解決策は学校現場が考えなければならない 査察によって不適格の認定を受けてしまうと 補助金がカットされてしまうため 事実上学校を維持することは不可能となる 過度の競争環境に陥ってしまうことは 資源配布の不均衡や格差を生んでしまう懸念があり 国民もこのような状況にはならないように注意深く監視している しかし 適切な範囲での競争環境が 養成校並びに学校における創意工夫を生み出すという仕組みが実質的に機能しており その一端が今回の紹介にあるような養成校と学校現場との連携や学校連合の動きであると読み取ることもできる 学校連合のあり方などは 予算や人事を集約して 配分するという形式だけをみると 日本の地方行政単位で行われているのと同じように見えるが これまでも述べたように その編成の経緯は異なる しかし 学校連合に求める本質的な要件やメカニズムを詳しく解明することは 日本の学校をめぐる行政制度や学校経営に対して新たな改善の指針として参考となるかもしれない 今回紹介した内容は いずれも養成と採用の接続という観点からのべると いずれも直接的に効果や成果をもたらす取り組みではないが これらの取り組みの一環として養成と採用の接続に影響を与え 多くの点で好影響を与えている 日本においても教育の質の向上 教員の質の向上に向けては 日本でも同様の要求が高まってきており 近年の重要な課題である オランダの事例は 教員養成の課題 学校教 28

29 育 経営の課題に総合的に取り組んでいく中で 養成と採用の接続の問題も不可避のこととして一緒に検討され また 教員の専門性向上という視点でどのように効果的に機能させているのか ということについては多くの示唆を得ることができるものではないだろうか 文献 Frank J.A.J. Crasborn and Paul P.M. Hannissen, The skilled memtor, 2010 Marco Snoek and DouweWielenga, Teacher Education in the Netherlands Change of Gear, South East European Educational Cooperation Network, 2001 岸政継, オランダの教育事情について, 在外教育施設における指導実践記録, 東京学芸大学, 2010 年 坂田哲人, オランダの教員養成学校の事例から見る教育実習運営上の課題, 東京学芸大学教員養成カリキュラム開発研究センター研究年報第 12 号, 東京学芸大学, 2013 年 武田信子 坂田哲人 山辺恵理子 横須賀聡子, オランダと日本の教師教育の比較および検討, 武蔵大学総合研究所紀要第 20 号,2011 年 資料 Ministerie van Onderwijs, Cultuur en Wetenschap( オランダ文部科学省 ), Key Figures Education Ministerie van Onderwijs, Cultuur en Wetenschap, NotaWerken in hetonderwijs 2012 Ministerie van Onderwijs, Cultuur en Wetenschap, The State of Education in the Netherlands, Highlights of the 2011/2012 Education Report MosaLiraStichting, MosaLiraJaarverslag 2011 国立国会図書館調査及び立法考査局, 各国憲法集 (7) オランダ憲法 東京都小金井市, 平成 23 年度小金井市予算の概要 Web ページ ( いずれも 2014 年 2 月 8 日現在で確認 ) PO-raad(PrimairOnderwijsRaad: 初等教育学校協議会 ), VO-raad(VoortgezetOnderwijsRaad: 中等教育学校協議会 ), MosaLiraStichting, STAMOS( オランダ統計情報 ), De wet-bio( 教職に関する法律の特集サイト ) 文部科学省 ( 日本 ) 教育バウチャーに関する研究会 3. イギリス オランダ スウェーデンにおける学校財政制度等についての調査報告について htm 29

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31 フランスにおける教員養成と採用の接続 大津尚志 はじめにフランスにおける教員採用に関しては 2010 年度採用からは 修士号を所持していることが要求されることとなった 1 フランスの教員免許制度は 多種の免許状が存在するが 初等教員 中等教員に関しては主に 初等教員採用資格 (CRPE, Concours de recrutement de professeurs des écoles)( 保育学校 小学校免許は共通 ) 中等教員適性証 (CAPES, Certificat d'aptitude au professorat de l'enseignement du second degré)( 中学 高校免許は共通 ) とよばれるものを 試験に合格して取得することが要求される 学士課程修了 (3 年間 ) 後に 大学付設教師教育部 (IUFM, Institut universitaire de formation des maîtres) に登録することとなる 初等教員を目指す場合 50m 水泳ができることが要求される なお 修士号が要求されるようになるまでは IUFM 入学後 1 年後に事実上の採用試験があり 合格者は2 年目からは初等 中等学校で給与を受けて仕事をしながら IUFM での学習を行うという形態であった それが IUFM で2 年間の学修が要求されるように制度変更された 2010 年に 教員 司書 生徒指導専門員の職務遂行にあたっての能力の定義 という教員の能力スタンダードが作成され 官報に掲載されている 2 そこでは 国家公務員として倫理的で責任のある行動 教育し 伝達するためにフランス語を習得すること 教科の習得と 良い一般教養を身につける 教育を理解し実行する 学級での学習を組織する 児童 生徒の多様性を理解する 児童 生徒を評価する ICT を習得する 集団で働き 親や学校のパートナーと協力する 自己研修とイノベーション の 10 領域について 知識 能力 態度 が明文化された それは以下に述べるとおりにも教員養成 採用に影響を与えていることは明白である しかし 後述するとおり養成 採用にあたっては 教科の習得と 良い一般教養 に最も重点がおかれているといえる また フランスの採用試験は論述に重点がおかれていることは明白である フランスにおいては 中学卒業時の前期中等教育修了試験 (DNB, diplôme national du brevet) や 高校卒業時のバカロレアにおいても同様に論述試験のみが課せられる 3 多肢選択型の試験にしたほうが 誰が採点しても同じ という採点の公平性は担保できると考えられる しかし フランスにおいては中学生 高校生に対する試験においても教員採用試験においても論述を課している 測定するべき学力をみる という 妥当性 のほうを優先させているといえる なお 筆者は中等教員養成 ( 歴史 地理科 ) については既に別稿を起しているので 4 以下に初等教員養成 採用を中心に論ずることとする 2 フランスにおける初等教員養成と採用 (1) フランスにおける初等教員養成 IUFM パリ校の各学期 ( セメスター ) の 2010 年度版のカリキュラム表は以下のとおりである

32 表 1 IUFM パリ校の第 1 学年セメスター 1カリキュラム 教育の履修単位 (unité d enseignement) 方法 合計 履修単位 1 人文科学領域の 教科的 教授学的 (didactique) 認識論的 (épistémologique) 教養 2 数学 理科 テクノロジー 体育スポーツ領域の教科的 教授学的 認識論的教養 3 教育と知識伝達のための知識 教具 方法 ECTS CM TD APP 時間 ECTS 1 人文的教養 言語の習得 : 読解 4 40 の理論と実践 2 歴史 地理 公民 道徳における人文的教養 : 教育のための争点と 知識 1 数学の基礎知識 実験科学 テクノロジーに関する基礎知識 子どもの発達 学習プロセス 教育の理論と方法 学校とその公職性 (2 領域で ) 学校教育計画の実行 5 教育用 ICT ネットから情報検索 集約 4 実習と専門職小 幼のクラスでの実践の観察と分的状況の分析析小 幼での体育 スポーツ小 幼で芸術を教える 5 専門化以下の行程に呼応する学習 1 科学的教養 身体 運動性 2 若者のために 教養 芸術 文学の仲立ち (médiation) をすること 3 公共の多様性に関して複数の指向からアプローチすること 4 言語活動の能力を発達させること 5 Eラーニング 研究への導入 研究への導入セミナー 選択必修 数学またはフランス語 25 選択科目 外国語 ( ヨーロッパ言語共通参照枠のレベル別 ) 25 教育用インターネット ( レベル別 ) 9 必修単位合計

33 表 2 IUFM パリ校の第 1 学年セメスター 2 カリキュラム 教育の履修単位 (unité d enseignement) 方法合計 ECTS CM TD APP 時 ECTS 履修単位 1 人 1 人文的教養 言語の習得 : 読解 2 20 文科学領域の の理論と実践 教科的 教授学 2 歴史 地理 公民 道徳におけ 的 認識論的教 る教育内容 方法を深める 養 2 数学 理科 1 学校で教える数学を深める 2 20 テクノロジー 体育スポーツ領 2 実験科学とテクノロジー 域の教科的 教 授学的 認識論 的教養 3 教育と知識伝 1 教育制度の知識 3 30 達のための知 2 二つの領域にわたる教育計画 1 15 識 教具 方法 の実行 教育用 ICT: 教育用 ICT を使っ 1 12 て一連の作業を構成 4 実習と専門 小 幼のクラスでの実践の観察と分 16 職的状況の分析 析 小 幼での体育 スポーツ 4 小 幼で芸術を教える 5 専門化 以下の行程に呼応する学習 1 科学的教養 身体 運動性 2 若者のために 教養 芸術 文 学の仲立ちをすること 3 公共の多様性に関して複数の 指向からアプローチすること 4 言語活動の能力を発達させる こと 5 Eラーニング 6 研究への導 研究への導入セミナー 入 選択科目 外国語 ( ヨーロッパ言語共通参照枠 25 のレベル別 ) 教育用インターネット ( レベル別 ) 9 必修単位合計 間

34 表 3 IUFM パリ校の第 2 学年セメスター 3 カリキュラム 教育の履修単位 (unité d enseignement) 方法合計 履修単位 1 複数の能力を備えていることの基礎 2 複数の能力を備えていることの基礎の補足 1 ( 採用試験の知識 ) 複数の能力を備えていることの基礎の補足 2 ( 職業準備 ) 3 教育と知識伝達のための知 EC TS CM TD APP 時間 ECTS 1 言語と人文的教養の習得 : 読 2 20 む 書く 話す 言語を学ぶ 教養的 教授学的アプローチ 下記のうち一つ選択 2 言語と人文的教養の習得 : 読む 書く 話す 言語を学ぶ 教養的 教授学的アプローチ 3 科学的な論の形態と問題点 4 小学校で数学を教える 教授学的 教育学的アプローチ 採用試験の歴史 地理の準備 採用試験の実験科学 テクノロ 1 10 ジーの準備 下記のうち一つ選択 3 採用試験の視覚芸術の準備 4 採用試験の音楽の準備 5 採用試験の体育 スポーツの準備 4 40 選択理科あるいは文学 人文科学 の補習 (2011 年より ) 下記のうち一つ選択 6 視覚芸術を教える 理論と実践 の側面 音楽を教える 音楽とともに教 える 理論と実践の側面 8 体育 スポーツを教える 理論と実践の側面 下記のうち一つ選択 9 学校での外国語教授法 外国語での読書 文書作成 口 頭発表の取組み 1 学級 学校における教師 : 教師 の実践 4 34

35 識 教具 方法 2 学級 学校における教師 : 教師の倫理 二つの領域にわたる教育計画の実行 教育用 ICT マルチメディア制 1 12 作 4 実習と専門職 1 多面性と学際的プロジェクト 的状況分析 2 教育の状況を用いて分析する 実習 5 専門化 以下の行程に呼応する学習 1 科学的教養 身体 運動性 2 若者のために 教養 芸術 文学の仲立ちをすること 3 公共の多様性に関して複数の指向からアプローチすること 4 言語活動の能力を発達させること 5 Eラーニング 研究への導 研究への導入セミナー 入 選択科目 教育用インターネット ( レベル別 ) 9 必修単位合計 表 4 IUFM パリ校の第 2 学年セメスター 4カリキュラム 教育の履修単位 (unité d enseignement) 方法 合計 履修単位 1 複数の能力を備えていることの基礎の基礎 2 複数の能力を備えていることの基礎の補足 1 ( 採用試験の知 下記のうち一つ選択 1 言語と人文的教養の習得 : 教授上の時間と順序 2 学習の状況で書いたり話したりする 3 小学校で数学を教える 教授学的 教育学的アプローチ下記のうち一つ選択 1 採用試験の視覚芸術の口述試験の準備 2 採用試験の音楽の口述試験の準備 ECTS CM TD APP 時間 ECTS

36 識 ) 複数の能力を備えていることの基礎の補足 2 ( 職業準備 ) 3 教育と知識伝達のための知識 教具 方法 4 実習と専門職的状況分析 3 採用試験の体育 スポーツの口述試験の準備 理科あるいは文学 人文科学の補習 (2011 年より ) 下記のうち一つ選択 5 学校での外国語教授法 外国語で文化 科学を伝える 下記のうち一つ選択 7 美術史 : 人文的教養の伝達 理科あるいは文学 人文科学の補 習 (2011 年より ) 1 ある状況のもとで 専門職として 行動する 2 勉強する あるいは学ぶ? 問題となる教育 二次試験 ( マスター ) の準備 専門職的能力を身につけ 実行に 移す 5 専門化 以下の行程に呼応する学習 1 科学的教養 身体 運動性 2 若者のために 教養 芸術 文学の仲立ちをすること 3 公共の多様性に関して複数の指向からアプローチすること 4 言語活動の能力を発達させること 5 Eラーニング 研究への導入 研究への導入セミナー 選択科目 教育用インターネット ( レベル別 ) 9 外国語 ( レベル別 ) 25 必修単位合計 225 訳者注 : 上記の略語の意味は以下の通りである ECTS(European Credit Transfer and Accumulation System) ヨーロッパ単位互換システム CM(Cours magistral enseigne) 大教室における講義 TD(Travaux dirigés) 指導つき学習 授業とともに個人学習 ( 宿題 ) を行い教授も指導を行 う 口頭発表や課題提出なども含まれる APP(Atelier de pédagogie personnallisé) 個人学習による研究会 6 36

37 フランスの教員養成カリキュラムの特徴として以下の点が指摘できる 第一には 教科に関する科目 に重点がきわめて高いことである 後述するように 採用試験でも 教科 に関する重点が高いことにも対応している フランスにおいて 教師の役割は授業をして教科指導をすることに特化されており 道徳教育 ( かつて 多くの場合は宗教教育を意味する ) は第三共和政期以来 学校の外で行われることと位置づけられていることに対応している なお 現在では中学校 高校においては生徒指導専門員 (CPE, conseiller principal d éducation) が配置されている 生徒指導専門員の養成も教科担当の教員養成と同等の位置づけである 第二には 仲立ち (médiation) 教授学 (didactique) 認識論的 (épistémologique) といった用語が頻繁に登場することである そのより具体的意味内容については 今後の検討課題とさせていただきたい 第三には上記にもあるように 採用試験 の語がカリキュラム表にも登場し 採用試験にむけて学修を行うことが当然視されていることである それででは どのような採用試験が行われているのであろう (2) フランスにおける初等教員採用フランスにおける教員採用試験は受験資格試験 (admissibilité, 筆記 1 年次修了時 ) 採用試験 (admission, 口述 2 年次修了 ) がある 採用試験に合格できた受験生は 2011 年度で 18% にすぎない また 下記に述べるように 教科 中心の試験であり 教職教養 の分野からの直接の出題はほとんどない 1 受験資格試験について 受験資格試験の形式などは以下のとおりである 試験内容 テスト方法 配転指 時間 数 フランス語 歴史 地理 市民 道徳 フランス語 : テクストの総括あるいは分析 解釈 (6 点 )+ 言語に関する 3 つの質問 (6 点 ) 3 4 時間 歴史 地理 市民 道徳 :2 問への解答 (8 点 ) 数学 実験科学 テクノロジー 数学 :2 3 の問題 演習 (12 点 ) 科学とテクノロジー : 文書にもとづく 2 3 の質問 (8 点 ) 3 4 時間 試験内容について 本稿では 歴史 地理 市民 道徳 についてみることとする 出題されることは 文書 (document) に基づく場合とそうでない場合がある 2012 年度のグループ1の歴史の問題は文書に基づいてこたえるのではなく 1789 年 : 比類なき年 6 と 一行のみの出題であった そのような問題に対して どのような解答が求められるのであろうか 教員採用試験受験者むけに出版されている本では 以下のような手順によって 解答を作成することが述べられている

38 段階文書なし文書あり 主題を読み 要点をつかむ (5 分から 10 分 ) 解答を組織化する = 準備作業をおこなう (10 分から 15 分 ) 解答を文章化する (15 分から 20 分 ) 段階 1 主題を理解する 出された質問を読み 理解する 言葉の正確な意味をつかむ( 固有名詞 普通名詞 動詞 日付 ) 言葉の順序や関連の位置づけに注意をはらい 主題を解釈する 主題の限定をはっきりさせる文書を理解する文書と与えられたテーマの数 性質 源 タイトル 著者をはっきりさせる段階 2 段階 3へとすすむ 文書をよみ 固有名詞や主要な観念に下線をひく 文書に書き込みをする 文書を分析する 文書のキーワードを明確にし 構造を明確にし 諸観念を結びつける段階 3: 問題点をとりだす文面をよく理解し よき文脈 ( 歴史的 地理的 ) のうえに載せる段階 4: プランをたてる キーワードをリスト化 明確にする キーワードをリスト化し 明確にする 付け加える自分の知識をリスト化 知識から出発して とりくむ観念をリ 文書のあいだの関係をみる 諸情報をスト化比較する 観念のあいだの関連付け 情報と知識をつきあわせる プランの形のなかで 観念をヒエラル 言外の要素をあげるヒー化 文書の価値を評価する プランの形のなかで 観念をヒエラルヒー化段階 5: 序論と結論のアウトラインを構想する序論と結論の早急な構築段階 6: 適切な文章化段階 7: 推敲 1789 年 : 比類なき年 という問題にはどのようにこたえるか 前掲書のあげる解答例としては 以下の3 点をあげている 年には3つの革命がとりだせること すなわち三部会の開催 都市における革命 ( バスチーユ ) 農村における革命 ( 大恐怖 Grand Peur) 2 政治の場面に人民 8 38

39 が登場すること 革命家は人民 (peuple) の名で大革命を正当化したこと 平等主義や人権宣言につながったこと 年は フランス史において不可欠な切断であったこと アンシャンレジーム 絶対王政からの訣別をはかり 新しい体制 をつくろうとしたもの 8 9 小学校教員採用において 多教科にわたって単なる断片的な知識の有無のみならず 高度で長文の文章構成能力 論理的思考力を求めているといえる 2 採用試験について採用試験の形式などは以下のとおりである 試験内容 テスト方法 配転 指数 算数の授業の一部を準備することと 質疑 ( 受験者の選択により ) 視覚芸術 音楽 体育 スポーツフランス語の授業の一部を準備することと 国家公務員として倫理的に 責任をもって行動する : 能力に関する質疑 2 部に分割した試験 3 第 1 部抽選で選んだテーマについて 授業の一部について 小学校学習指導要領にある観念や内容についての論拠づけられたプレゼンテーションをする 次いで 審査官と質疑を行う 第 2 部選択した領域について事前に準備した発表を行う ついて採点官と質疑を行う 2 部に分割した試験 3 第 1 部文書 ( テクスト 音声 図像など ) から出発して 授業の一部について 小学校学習指導要領にある観念や内容についての論拠づけられたプレゼンテーションをする 次いで 審査官と質疑を行う 第 2 部試験の最初に配布された文書から出発して 質問に答えながら発表を行う ついて採点官と質疑を行う 時間準備 1 時間発表 20 分 質疑 20 分発表 10 分 質疑 10 分準備 1 時間発表 20 分 質疑 20 分発表 10 分 質疑 10 分 第一部の 算数の授業 の出題としては 例えば以下のものがある 10 領域 : 数と計算目標とする知識と能力 :100 までの数字について知る 書く 数える段階 : 小学 1 年生使用できる書類 : 学習指導要領 ( 官報 ) 受験生むけの本によると 発表や質疑で要求されるものは 以下のとおりである < 発表 > 受験者は以下のことを論拠づけられた方法で詳しく説明しなければならない 9 39

40 - 教育学的でひかえめな指導 - 総合の要素と それに至った書かれた痕跡 - 能力を評価するための予想しうるための手続き < 質疑 > 発表でとりあげる問題から出発して 採点官は受験者の発表について質問し 以下のことにも言及する - 学習において予期しうる困難 障害 - 別のやりかたの可能性 発表はほぼ1 年間にわたっての授業の段階を構想することを 1 時間の準備時間で要求される 模擬授業でなく 長期にわたる学習計画をたてることを含めた発表が求められる それは 第 2 部の 体育 スポーツ の試験でも同様であり 例えば ダンス や 1500M を良いタイムで走る ための指導計画の発表が求められる 11 国家公務員として倫理的に 責任をもって行動する が問われるが これは既に述べた 教員スタンダード を受けていることは明白である そこでは フランス共和国の教育の採択する価値に関する場面設定をともなった質問がなされる 例えば 中立性 学校からの退出 児童の父からの手紙 といった設定である 12 中立性 では 外見上 宗教を誇示する標章をつけて登校する 宗教上の理由から週に 1 日定期的に学校を休む 宗教上の理由で男女が一緒にはいるプールの授業を拒否する 子どもがいる 親は 意見表明の自由 を主張する 校長は学校および学校の社会福祉部門から一時的排除 (exclusion) を命じた という場面に対して 教育という公役務に適用される中立性という大原則を思い起こしてください 校長の措置は合法であったか 校長のとった措置は認められるかどうか という問いがだされる 受験生は 状況の分析 から キーワード 公役務の中立性の原則 公役務 ライシテ 良心の自由 表現の自由 規則となるテキスト (1905 年政教分離法 1946 年 1958 年憲法 ) 共に生きる 市民性の習得 規則に関する社会化 学校における大人 フェリー以来の歴史 誇示する の意味 などの観念 から発表の組み立てが求められる 質疑においては 歴史的な文書からライシテを定義できますか ライシテは中立性に帰することができますか 小学校における懲戒の法制は? などの質問がだされる 13 教育法令に従って行動し 実際にどのように運用されているかまで問われることとなる 3 フランスにおける教員養成 採用の特色とその接続関係これまで述べてきたように フランスの教員採用試験では教科に関する出題の重点が高いこと 論述力が求められること 口述試験によって能力がみられる割合が高いこと 試験と養成課程が密接にむすびつくのがむしろ当然と考えられているという特色がある 教科に関する口述試験が行われるのは 採用された後には授業を担当しなければならない以上 質問に対する応答能力をみるためとも考えられる フランスの初等中等教員は国家公務員であるが 養成課程 採用試験に対して 国レベルで制定されている能力スタンダードが影響を与えているという特色もある 日本では 教員採用を 多面的な人物評価を積極的に行う選考に一層移行すること と 10 40

41 いう答申 14をうけて 面接重視 で行う方向にある フランスは 公務員としての行動 が求められている あくまで 公務員として法令やフランス共和国の理念にのっとった倫理的な行動が問われることとなる なお 参考書によると記述試験においても口述試験においても 序論 本論 結論 の 3 部構成で答えることが求められている 教科重視の動向は 修士号要求以前と比較してさらにその傾向が強まったといわれている 試験と学修が結びつくことは 例えば高校教育がバカロレア取得を目指して行われるなど 資格や学位のための試験にむけて教育がおこなわれるのが当然と考えられているなど フランスの他種の学校においてもあてはまることである 初等教員採用は全国を数グループにわけておこなわれるが 中等教員採用は全国単位でおこなわれる 中等教員採用試験に関しては採点官による採点講評が後日公開される なお 採点官はいずれも初等 中等学校教員や大学教員 視学官などが担当する フランスにおいては高校教員がバカロレアの採点を担当することもあり 15 論述試験の採点能力があることは当然とされる 採用された教員が 答案の採点を通して教員採用に再びかかわることとなる 4 おわりに : 今後の動向 2013 年 7 月にオランド大統領 ペイヨン国民教育大臣らによる社会党政権のもとで ペイヨン法 (LOI n du 8 juillet 2013 d'orientation et de programmation pour la refondation de l'école de la République) が成立した IUFM は 2013 年新学期より 教職教育高等大学院 (ESPE, écoles supérieures du professorat et de l éducation) と名称をかえる ペイヨン法 68 条において ESPE は 未来の教師 教育関係者の養成を組織し さらに継続教育を行う と規定している ESPE が各大学区の教師の継続教育 ( 研修 ) を行う場として位置づけられたという変容がみられる ESPE のカリキュラムや 2014 年 2015 年以降の採用試験は変化が生じること予想される フランスの教員採用は修士号要求 (2010 年度より ) より前は 1 年次修了時に事実上の採用試験を行い 2 年次は初任者研修のような扱いで 正規教員とほぼかわらない給与をうけながら IUFM での学習も同時並行でなされていた 今後また 1 年次修了時に採用試験を行うこととなった 2 年次に 半時間 (mi-temps) 教師 となり 本職の教師の半分の時間は責任をもって教育に携わるという ( ただし修士号要求はつづく ) 修士号要求以前の時の制度に若干もどる方向が予定されている 国民教育省は ESPE のカリキュラム例とて 教育制度や学習過程 紛争や暴力対策 男女のステレオタイプに対するたたかいと男女の混成 16 など 教職に関する科目 の内容を示している 17 これからのさらなる動向については 今後の研究課題としたい 1 Circulaire n du , B.O., no.1. du 7 janvier. なお参照 小林純子 フランスにおける教員養成制度と現職教員の役割 ( 教員養成カリキュラムにおける現職教員の役割に関する国際比較研究プロジェクト報告書 東京学芸大学教員養成カリキュラム開発研究センター 2012 年 pp ) 11 41

42 2 B,O. no. 29 du juillet 翻訳としては 大津尚志 教員 司書 生徒指導専門員の職務遂行にあたっての能力の定義 ( 文部科学省委託事業 教員の資質能力の向上に係る基礎的調査 非教員養成系大学教職課程における 学びの実効性 と教員の 資質能力の向上 に関する研究 2011 年 3 月 pp ) 3 出題例を示す邦語文献として 大津尚志 新しい学力観と教育評価 ( 中谷彪 伊藤良高編 現代教育のフロンティア 晃洋書房 2005 年 pp ) 柏倉康夫 指導者はこうして育つ 吉田書店 2011 年 pp ) 細尾萌子 フランスのバカロレア試験で問われる学力と高校の教育目標の連続性 ( 教育目標 評価学会紀要 第 20 号 2010 年 pp ) 参照 4 大津尚志 フランスの歴史 地理科教員の 修士号要求 以降における養成 採用 ( 社会科教育研究 2013 年 pp ) 5 Université Panthéon-Sorbonne-Paris I, Université Sorbonnne Nouvelle-Paris III, Université Paris-Sorobonne-Paris IV, Université Pierre et Marie Curie-Paris VI, Université Paris-Diderot-Paris VII, et Insitute Universitaire de Formation des Maître Paris,Métiers de l enseignement et de la formation professorat des écoles, ( 2011/3/1) 6 Concours profeesseur des écoles, Épreuve écrite de français et d histoire, géographie et instruction civique et morale, Foucher, 2013, p Ibid., p See, ibid., pp なお フランスの歴史教科書におけるフランス革命に言及する邦語文献としては 近江吉明 フランスにおける革命期 ナポレオン期教育の実態 ( 専修大学人文科学研究所編 フランス革命とナポレオン 未来社 1998 年 pp ) がある 10 Concours profeesseur des écoles, Épreuve orale de mathématiques et d art visuels ou d éducation musicale ou d EPS, Foucher, 2013, p Ibid., pp Concours profeesseur des écoles, Épreuve orale de français et <<agir en fonctionnaire de l État et de façon éthique et responsible>>, Foucher 2013, pp Ibid., pp 教育職員養成審議会答申 養成と採用 研修との連携の円滑化について ( 第 3 次答申 ) 1999 年 12 月 10 日 15 フランスでは バカロレアの出題 採点ともに高校教員がかかわる 細尾 前掲論文および 細尾萌子 フランスの大学における学業失敗の一因 ( フランス教育学会紀要 第 22 号 2010 年 pp ) 16 ペイヨン法 70 条にも言及がある 17 Ministère de l éducation nationale, Lancement des Écoles supérieurs du professorat et de l éducation,

43 高等教育としての教員養成の課題 カナダ ケベック州の養成 採用の接続に注目して 上杉嘉見 1 はじめに本稿は 日本と同様 大学の学部 4 年間を経て教職に就くというカナダ ケベック州 1の高等教育としての教員養成の問題点を 採用との接続関係に注目して探ろうとするものである まず日本の制度と比較して ケベックの教員養成と公立学校教員の採用制度を概観しておきたい 日本と異なるのは おもに次の3 点である 第一に 教員養成課程は教育学部にしか設置されていないこと 第二に 州政府が定めた教員養成の到達目標である教職コンピテンシーに基づいたカリキュラムを用意すること 第三に 教員採用試験がなく 新卒者は原則的に任期付きの臨時代理教員として入職することである ケベックでは日本のような開放制をとっておらず 教員養成の師範学校から大学への移管が完了したのも 1970 年代初頭のことであった このとき師範学校の教育内容はいったん否定されたが 今世紀に入ってから教職コンピテンシーに対応した教員養成が各大学に義務づけられたことで カリキュラムは再び職業教育の色彩を強めている 本稿では 採用の接続関係という観点からケベックの教員養成の問題点を明らかにするために このコンピテンシーの機能に注目する 以下 養成 採用の順に制度の詳細を見ていくが その際には 初等教員および普通教育の中等教員養成に関わる事例に限定することにしたい 2 大学における教員養成 (1) 免許取得までのプロセスケベックで就学前 初等 中等教育 2の教員を志望する学生は ポスト中等教育機関であるカレッジでの教養教育および大学準備教育を経て総合大学の教育学部に入学し そこで他学部より1 年長い4 年間の教育を受ける ( 図表 1) 教育学部は州内の総合大学 12 校 ( フランス語系 9 校 英語系 3 校 ) すべてにあり そこでは学生が将来教える学校段階や専門教科に応じて複数の専攻が設置されている ( 図表 2) ケベックの学部では日本の教養教育に相当するものが設置されておらず 後述するように 教育学部のカリキュラムはすべて 日本で言う教科に関する科目と教職に関する科目によって占められている 4 年の課程を修了すると 教育学部卒業生は州教育 レクリエーション スポーツ省 ( 以下 州教育省 ) が発行する生涯有効の教員免許を手にする 3 こうした現行制度が導入されたのは 1994 年のことであり それまでは3 年間の大学での学修と2 年の試補勤務を経て免許の取得に到るという制度が採られていた (2) 大学教員と学校教員の協働による統制各大学の教員養成カリキュラムは ケベックでも日本と同様 大学が自由に決められるものではない それは 2001 年に州教育省が策定した 12 項目の教職コンピテンシー ( 図表 1 43

44 3) を学生に獲得得させることを目的に作作成されるのが条件となっている つまり 上記のコンピテンシーに対応したカリキュラムが提供されることが 後述の認定定組織による認定の基準準とされている 本稿が注目する大大学と教育委委員会 学校校の接点は 以下に述べるように コンピテンシー策定およびカリキュラム認定定の過程と 教育実習指指導の場面で見られる 図表 1 教員志望望者の標準的的な進路就学前教育機関 4-6 歳 2 年間または 5-6 歳 1 年間初等教育学校 6-12 歳 6 年間中等教育学校 歳 5 年間カレッジ 歳 2 年間総合合大学教育学部 歳 4 年間 図表 2 教育学学部が設置する主な専攻就学前 初等教育フランス語科英語科社会科中等教育数学科科学 技技術科倫理 宗宗教文化科美術音楽芸術教育舞踊演劇体育 健康教育英語第二言語教育フランス語特別支援教育職業教育 図表 3 教職コンピテンシー 1. 知識 文化化を伝承し 批批評し 解釈する専門家として職務にあたる 基礎教授行為社会会的 教育的文脈専門門職アイデンティティ 2. 口頭または筆記で教授言言語を用いる場場面や 教職に関係する様々々な文脈のなかで 明確かつ正確にコミュニケーションをとる 3. 教授 学習習場面を構想する際 学習内内容 児童生徒徒の実態 州教教育課程の能力力目標を考慮に入れる 4. 授業の際 学習内容 児児童生徒の実態態 州教育課程程の能力目標を考慮に入れる 5. 児童生徒の学習の進捗状状況と能力の獲獲得の程度を 学習内容に応応じて評価する 6. 児童生徒の学習と社会化化を促すために 学級集団の活動を計画 組織 監督する 7. 学習障害 社会的不適応応 ハンディキャップを抱える児童生徒のニーズおよび特徴 に合わせた指導を行う 8. ICTを教授 学習活動の準準備と実施場面面 管理運営業業務 職能開発発の際に活用すする 9. 各学校が設設定した教育目目標を実現するために 同僚僚 保護者 関関係者 児童生生徒と協力する 10. 教育チームのメンバーーとの協力を通通して 州教育育課程が目指す能力を児童生生徒の実態を考慮しながら育成成し それを評評価する 11. 個人および集団で職能能開発に取り組組む 12. 倫理的に行動し 責任を持って職務務を遂行する 備考 本図表は Ministère de l Éducation du Québec, La formation à l enseignement Les orientations Les compétences professionnelles, Québec: Ministère de l Éducation du Québec, 2001, p.59 に基づき筆者が翻訳 作成した 2 44

45 1 教職コンピテンシーケベックにおいて教職コンピテンシーとは 免許を取得する時点で教員志望者が備えているべき能力を指す 教員養成と採用の接続という観点からこのコンピテンシーを捉えると それは大学と教育委員会 学校のあいだの教職に対する共通理解を示すものということになる 12 項目のコンピテンシーは 2001 年に州教育省が発表した報告書 教員養成 方針 教職コンピテンシー ( 以下 教員養成 ) に掲載されている この報告書を執筆したのは 教育省職員 1 名と ラヴァル大学とシャーブルック大学の教育学部の教授 2 名である この3 名が執筆した素案に対する意見聴取に 29 人の教育関係者 ( 大学から 19 名 教育委員会から6 名 学校から3 名 その他機関から1 名 ) が協力し 最終的なヒアリングには 18 名の教育関係者 ( 大学から8 名 教育委員会団体から3 名 学校管理職 教育行政職団体から3 名 教員組合から3 名 その他機関から1 名 ) と 50 を超える関連団体が参加した 4 教職コンピテンシーの策定は ケベックで 1990 年代半ばから議論が始められた教育改革の一環として行われた 一連の改革は それまでの教育行政があまりに中央集権的だったことや 学校が児童生徒の基礎学力の形成に熱心でなかったこと 教育内容が労働市場とミスマッチを起こしていたことなどが問題視された結果 行われたとされる 5 また コンピテンシーの内容に直接的な影響を与えたのは 1997 年の州公教育法の改正と 99 年に始まった初等 中等段階の教育課程改訂である 前者の法改正は 各学校に 教職員 生徒の保護者 地域の代表などを構成員とする学校理事会の設置を義務づけ そこに学校の運営に関わる諸権限を付与した 6 教員には 保護者や地域住民などと協働して教育活動にあたるという新たな役割が与えられたのである 他方 新教育課程は 教員が生徒に知識を伝達するという教育方法より 生徒が自ら知識を構築できるような学習方法を促進するようになった こうした教育改革は 未来の教員よりも現職教員に大きな戸惑いをもたらしたと考えられるが 本稿では教員養成に対する改革に焦点を絞りたい 教員養成を行う教育学部は コンピテンシーの策定により それを育てるためのカリキュラムを用意しなければならなくなった 教員養成 は ( 教員養成カリキュラムは 筆者注 ) もっと職業の論理に従って構想されるべきであり ( 中略 ) 学問の論理が支配してはならない 7 と訴えている こうした主張は ケベックで師範学校が廃止された 1970 年頃から直近の教育改革が始まる 90 年代までの教員養成に対する批判的な総括に由来している 8 現在の教育制度の基礎を築いた王立教育調査審議会 ( パラン審議会 ) の 1964 年に刊行された第二報告書は 教育学 心理学 教育方法の講義が中心だった師範学校の教育を 哲学的でも科学的でもなく さらに実践的でさえもないとして批判し 教員養成を大学で行うことを勧告した 9 それだけでなく カリキュラムの4 分の3は教科の学習に割き 残りの時間を教育心理学 教育社会学 教育史 観察 実習科目にあてるよう提案していた このような提案を受けて実施されていた当時の教科中心の教員養成が 教員の教える能力を十分に育てるものではなかったという認識が 今世紀のコンピテンシー策定の背景にある その 12 項目のコンピテンシーは 職業の論理に基づいていることから 大学での教員 3 45

46 養成の到達目標とするには水準が高く 後述するように 入職前の講義と実習ではカバーできない領域も含まれている 大学は コンピテンシーに応じたカリキュラムの作成に苦心することになる 2カリキュラムの審査 認定州内の教育学部が学生に教員免許取得に必要な資格 (= 学士号 ) を与えるためには カリキュラムの認定を受けなければならい 審査と認定に携わるのは 教員養成プログラム認定委員会 10という州教育省から独立した機関である 同委員会は 1992 年に創設され 97 年の改正公教育法により法的な地位を得た 任期 3 年の9 名で構成され 委員長 1 名と 大学と学校の各セクターから4 名ずつを教育大臣が任命する なお 委員長は各セクター出身者が交代で務めることになっており 大学セクター委員のうち1 名は学校教員経験者 全体のうち2 名は英語系学校の関係者でなければならない また 準メンバーが教育委員会と教育省から1 名ずつ やはり大臣から任命される 11 認定の基準は 既述の通り カリキュラムが 12 項目のコンピテンシーに対応しているか否かにある より具体的には 各科目の内容や到達目標とコンピテンシーとの対応関係が明らかかどうか 各科目でコンピテンシーの獲得を促すのに適切な教材 教育方法 評価方法が選択されているかどうか といったことが問われる 12 こうした新制度は 大学教員を当惑させた モントリオール大学教育学部教授 ( 当時 ) のローリエ (Michel D. Laurier) は 2002 年に就学前 初等教育専攻の認定を受けたときのことを振り返り コンピテンシーをカリキュラムに反映させる際に直面した問題を紹介している 13 その問題のほとんどに共通するのは 多くのコンピテンシーの育成が 実は教育実習を含む大学の課程では限界があるということである 具体的には ローリエによれば 学級経営 児童生徒の保護者やその他のステイクホルダーとの協働 自己改善の進め方 倫理的な行動に関するコンピテンシーをカリキュラムに反映させることに苦心したという たとえば学級経営のコンピテンシー ( 図表 3の4と6) の獲得は経験知によるところが大きく 大学の授業で扱う際も たんなる技術の伝授に矮小化しないよう注意すべきだという また 関係者と協働する能力 ( 同 9) についても 教員養成のなかでは 保護者らとの関わりを扱う学習機会を作るのは難しいと指摘する さらに 自己改善と倫理のコンピテンシー ( 同 11 と 12) については 大学教員はそれぞれに関する知識と その能力の教職にとっての重要性を教えることしかできず 到達度を測定するのはそもそも困難だと訴える 4 年間で獲得が不可能なコンピテンシーを教員養成の到達目標として大学に課すことには どのような意味があるのだろうか ローリエの論考を収めた著作を編んだ ラヴァル大学教育学部教授で教育方法を専門にするゴーティエ (Clermont Gauthier) コンピテンシーをまとめた 教員養成 の執筆者の一人でもある らは コンピテンシーに応じる形でカリキュラムを作成すること自体に大した意味はないと述べている 14 そして 重要なのは それが長期的に見て教員養成と学校教育一般の改善に資するかどうかだという そうだとすれば まさに制度の検証作業が必要になるが その検証作業を実際に進めるには大きな困難が予想される ここ 4 46

47 秋学期 (9~12 月 ) 冬学期 (1~4 月 ) 1年数学 (3) ( 卒業要件外 ) 入門実習 (18 日間 ) (3) 2年幼稚園教育実習 (18 日間 ) (3) 芸術科教育法 ( 選択必修科目 ) * (3) 3年からは コンピテンシー策定の意図が 教員養成機関が高い目標を掲げ 課程認定の作業を通してその達成のために努力する姿を社会にアピールすることそのものにあった様子がうかがわれよう (3) モントリオール大学教育学部のカリキュラム本章ではここまで教員養成制度を概観してきたが 最後にコンピテンシーを反映させたモントリオール大学教育学部の現行カリキュラムのうち 就学前 初等教育専攻 ( 図表 4) と中等教育社会科専攻 ( 図表 5) の例を示しておきたい 図表 4 就学前 初等教育専攻の時間割例 (2012 年度入学生用 ) 教育学の応用研究 (3) 就学前教育の問題 (3) 学校での学習と発達 (3) 小学校での科学文化 (3) フランス語科教育法 I (3) 数学教育法 (3) 教育史 教育哲学 (3) 学級経営の基本要素 (3) 教員のためのフランス語筆記 I (1.5) 教員のためのフランス語筆記 II (1.5) 幼稚園での教育環境 (3) 算数教育法 I (3) ICT の統合 I (1) フランス語科教育法 II (3) 教育制度と教職または学校と社会環境 (3) 教育制度と教職または学校と社会環境 (3) 就学前教育における教育的指導 (3) 小学校での人文科学 (3) ICT の統合 II (1) 倫理 宗教文化科教育法 (3) 科学 技術科教育法 (3) 数学の個別化教育法 (3) 算数教育法 II (3) 小学校教育実習 (35 日間 ) (6) 学習評価 (3) リスクのある児童への評価と指導 (3) フランス語科教育法 III (3) 学級経営と特別ニーズ (3) 教職への同化のための教育実習 (52 日間 ) (9) 幾何教育法 (3) 補充科目 ( 選択必修科目 ) ** (3) フランス語教育法と困難を抱えた児童 (3) 初等人文科学教育法 (3) 4年初等教育における社会的 民族文化的多様性 (3)ICT の統合 III (1) フランス語教育法と言語的多様性 (3) 芸術科教育法 ( 選択必修科目 ) * (3) 備考 括弧内の数字は単位数を示す 1 単位は半期週 1 時間相当 本図表は Université de Montréal, Guide de l étudiant : B. Éd. en éducation préscolaire et en enseignement primaire, s.d., pp の記述に基づいて筆者が翻訳 作成した * 演劇教育法 造形教育法 (I II) 就学前 初等芸術科教育法 初等音楽科教育法 から1 科目を選択する ** 文化 青少年文学と教育法 教育職の組織 個別化教育法 障がいと統合の実践 世界の主要宗教 ( 神学 宗教学部開設科目 ) から1 科目を選択する 5 47

48 秋学期 (9~12 月 ) 冬学期 (1~4 月 ) 1年空間 社会 経済 (3) 2年選択必修 * 1 科目 (3) 入門実習 (20 日間 ) (4) 3年図表 5 中等教育社会科専攻の時間割例 (2012 年度入学生用 ) 教員のためのフランス語筆記 I (1.5) 教員のためのフランス語筆記 II (1.5) 青年期と学校体験 (3) 学校への馴化のための実習 (7 日間 ) (1) 歴史学 基礎と方法 (3) カナダ現代史 (3) 産業革命以前のカナダ (3) 世界システム (3) 地球生態学 (3) * 選択必修 3 科目 (9) 教育史 教育哲学 (3) 教育制度と教職 (3) 現代世界 地理教育法 (3) 授業分析ラボ (3) ケベック現代史 (3) 中等教育段階の学習 (3) カナダ地誌 (3) 学校と社会環境 (3) または中等教育における社会的 民族文化的多様性 (3) 学習評価 (3) ケベック地誌 (3) 中等教育段階の学級経営 (3) 政治地理学 (3) 歴史教育法 I (3) * 選択必修 3 科目 (9) 教育実習 I (5 週間 ) (5) 4年社会科のための ICT (3) 社会科教育法ラボ (2) 歴史教育法 II (3) 教育実習 II (10 週間 ) (10) 成人に対する指導 (2) または特別ニーズを持つ中等教育段階の生徒 (2) * 選択必修 3 科目 (9) 備考 括弧内の数字は単位数を 網掛けの科目は文理学部で履修する教科専門科目を示す 1 単位は半期週 1 時間相当 本図表は Université de Montréal, Guide de l étudiant : B. Éd. en enseignement secondaire, s.d., pp.27-30, 35 の記述に基づいて筆者が翻訳 作成した * ヨーロッパ アメリカ史科目群から4 科目 地理学科目群から最低 2 科目 最大 4 科目 歴史学科目群から最低 2 科目 最大 4 科目を選択する 図表 6 就学前 初等教育専攻と中等教育社会科専攻の科目構成 就学前 初等教育専攻 中等教育社会科専攻 教育学 心理学 % % 教科教育法 % 54* 45.0% 専門教科 60*** 48.8% 観察 実習 % % その他 3** 2.5% 0 0.0% 卒業に必要な単位数 % % 備考 * 教科教育法と教科専門の判別が難しい科目が含まれているため 種別を統合して表記した ** 選択必修科目 ( 文化 青少年文学と教育法 教育職の組織 個別化教育法 障がいと統合の実践 世界の主要宗教 から1 科 目 ) を指す *** すべて文理学部が開設する科目 モントリオール大学は 1876 年にラヴァル大学の分校からスタートし 1920 年に独立したフランス語系大学である 15 教育学部は 大学付設の教員養成所を引き継いで

49 年に設置された なお モントリオール大学教育学部には 毎年約 600 名が入学しているという 16 既述の通り 1964 年のパラン報告書は 教科の学習がカリキュラム全体の4 分の3を占める教員養成を提案していた ところがその後 大学での養成期間の延長とコンピテンシーの導入を経た現行カリキュラムにおいては 図表 6に示したように 教科教育法を含めた教科の学習は就学前 初等教育専攻で 45% 中等教育社会科専攻で約 63% にとどまっている これには 1994 年に4 年制教員養成が始まった際 観察 実習科目にあてる時間を増やさなければならなかったことも作用している 17 なお この一連の科目を担当するのは 退職した校長をはじめとするスーパーバイザー (superviseur) と呼ばれる非常勤講師であり 一人あたり 15~20 名程度の学生を受け持ち 実習の巡回指導とその期間中の演習形式の授業を行う 観察 実習を行う学校は 教員養成の場として適しているかどうかという基準で大学が手配し 学生は機械的に割り振られる 18 以上からも明らかなように 直近の教員養成改革は 教育学部生に対して 教科の知識を深く広く持つことよりも 学校で教員らしく振る舞うことを重視するようになったのであった 3 採用と団体協約に基づく雇用体系冒頭でも述べたように ケベックの教育委員会は いわゆる新卒一括採用を行わず 競争的な採用試験も実施していない 新卒者は 臨時代理教員としてキャリアをスタートさせた後 一定の段階を経て終身雇用の身分に到達するのが一般的である こうした雇用 人事制度は教育委員会と教員組合の労使交渉によって決定される 日本の公立学校教員の採用試験に合格した者が 1 年間の条件付き採用期間はあるものの 終身雇用の地方公務員として任用される制度とは異なるのである 本節では モントリオールのフランス語公立学校を管轄するモントリオール教育委員会 ( 以下 フランス語系モントリオール教委 ) 19 の事例を 人事課長ロロン (France Laurent) 氏に対して行ったインタビュー 20 と提供された各種資料等の記載に基づいて見ていく まずフランス語系モントリオール教委の学校で勤務を希望する教育学部卒業生は (1) 所定の応募書類 (2) 履歴書 (3) フランス語試験の合格証書 (4) 教員免許状 (5) 学位証明書 (6) 大学の成績証明書の提出が求められる 21 このうち(3) は言語的単一性の高い日本に暮らす私たちには理解しにくいが コンピテンシーの2 口頭または筆記で教授言語を用いる場面や 教職に関係する様々な文脈のなかで 明確かつ正確にコミュニケーションをとる に対応したものであり 州の 教員免許に関する規則 にも免許取得の条件として規定されている 22 書類審査を通過した応募者のうち 各学校の空きポストの条件 ( 学校段階および教科 ) に一致した者は教育委員会から面接に呼ばれる この面接も通過すれば 採用が決まる 日本の公立学校に見られる異動制度はないため 基本的には退職や休職 出産 育児休暇などによって各校に生じた空きポストを埋める短期契約の臨時代理教員として応募者は配置される 勤務校が決まった新任教員は教育委員会と労働契約を交わし フランス語系モ 7 49

50 ントリオール教委と団体協約を締結している教員組合に自動加入することになる このように新卒教員は 入職時には臨時代理教員として契約し その後 一定の日数の勤務と学校長による勤務評価を経て 任期付き契約 終身雇用と契約のランクを上げていく 23 本稿では 臨時代理教員が任期付き契約教員に昇格するための2つの条件について触れておきたい それは 第一に同一ポストでの契約を 30~50 日間継続しており 第二に勤務評価で所定の基準を満たす必要があるというものである 勤務評価は フランス語系モントリオール教委の様式に沿って行われる その様式に記載されている評価項目は 図表 7に示したように 4 領域 10 項目からなっている 最終的な勤務評価は 10 項目の評点の合計点と項目 2.1 学習のための良い雰囲気を守ってクラス運営をしている の到達度で決まる 具体的には 項目 2.1 の評価が 60% に達しており かつ 10 項目の評点 ( 各 5 点満点 ) の合計が全体の 70% 以上となれば 基準を満たすことになる なお こうした評価項目は ロロン氏によれば既述の 12 項目のコンピテンシーに基づいているというが 両者を比較すると 1( 知識 文化の専門家 ) 8(ICT の活用 ) 12 ( 倫理性 ) が反映されていないことがわかる ここまで見てきたように 教育界で一定の合意をみているコンピテンシーは 新任教員の勤務評価項目の参照先にはなってはいるものの 新卒者の採用には直接の影響を及ぼしていない コンピテンシーは形式的なものなのである 採用で重視されるのは 何より応募者が専門とする学校段階 教科と学校の空きポストとのマッチングである このようにまず有資格者を採用し その後に職務遂行能力を見極めるというやり方は 試補制度の名残と言えるだろう 24 図表 7 勤務評価の項目 1 指導の準備 1.1 適切な学習活動を用意している 1.2 授業の指導方法を効果的に計画している 2 学習の運営 2.1 学習のための良い雰囲気を守ってクラス運営をしている 2.2 児童生徒に学習への関わりを促す教育ストラテジーを使っている 2.3 学習進度が早い児童生徒または困難を抱える児童生徒の教育ニーズを尊重している 2.4 評価の方法と結果を正しく使っている 3 学校生活への貢献 3.1 専門職としての建設的な関係を作っている 3.2 共同作業に携わっている 4 専門職としての他の資質 4.1 フランス語の口頭と筆記のコミュニケーション能力を有している 4.2 改善が必要な実践の問題を認識し 解決策を模索している 評価尺度 5= 優秀 4= 満足 ( 目標値 ) 3= 期待値以下 2= 不満足 1= 期待に応えていない 備考 本図表は仏系モントリオール教委人事課から提供された勤務評価様式 Formulaire T110 (Grille d évaluation du personnel enseignant Formation générale des jeunes) に基づいて筆者が翻訳 作成した 8 50

51 4 おわりにケベックの教員養成と採用制度は それぞれ異なる要因によって規定されている 前者のカリキュラムは 養成する教員が教える学校段階と教科との対応関係が大前提だが それに加えて州教育省が定める教職コンピテンシーに基づいて構成される それに対して後者は 教育委員会と教員組合のあいだの団体協約が基盤となっている つまり 養成は州の教育政策の統制を受ける一方 採用は団体交渉権という教員の労働者としての権利が大きく作用している コンピテンシーは 養成側と採用側の教員の専門性に対する一つの共通理解として大学での養成課程を規定しているものの 新卒者の採用の段階では活用されていない ケベックでは 養成側と採用側が協働する制度が整備されているが 実際の諸活動はそれぞれに関わる法律や慣習に従って完結している 12 項目のコンピテンシーは 採用側がそれほど重視しておらず そもそも形式的な性格のものであるにもかかわらず その構成には師範学校時代の職業教育に回帰する姿勢が顕著と言って良いだろう 結局のところ 高等教育と職業の世界の接続を円滑にしようとすると 各機関に固有の機能が損なわれかねないのである ケベックにおける教職コンピンテンシーの導入は かつて大学における高度な教員養成の必要を訴えた教育学研究者が 社会からの批判を前にして 師範学校に戻すところに仕事を見出すという 現代的な一例を示している 1 ケベック州は人口 790 万人 (Statistics Canada, Focus on Geography Series, 2011 Census: Province of Quebec, 1/as-sa/fogs-spg/Facts-pr-eng.cfm?Lang=eng&GK=PR&GC= 年 8 月 4 日閲覧 ) 公用語はフランス語 2 州公教育法は 就学義務年齢を 6~16 歳と定めている 3 州の 教員免許に関する規則 によれば 他州で発行された正規の教員免許を所持する者がケベック州内の学校に勤務する場合も 生涯有効の正規免許が交付されるという 4 Ministère de l Éducation du Québec, La formation à l enseignement Les orientations Les compétences professionnelles, Québec: Ministère de l Éducation du Québec, 2001, pp Henchey, Norman, The new curriculum reform: What does it really mean?, in McGill Journal of Education, vol.34 no.3, 1999, p 学校理事会の原語は conseil d établissement( フランス語 ) governing board( 英語 ) 学校理事会は 州公教育法の定めにより 生徒の親 教職員 生徒 (10 11 年生のみ ) 地域の代表から構成され 学校の教育活動計画や各教科の配当時間 校則などを決定する権限が与えられている 7 Ministère de l Éducation du Québec, op. cit., p Ibid., pp Commission royale d'enquête sur l'enseignement dans la province de Québec, Rapport de la Commission royale d'enquête sur l'enseignement dans la province de Québec, Deuxième partie ou Tome II: Les structures pédagogiques du système scolaire, A Les structures et les niveaux d enseignement, Québec: Gouvernement du Québec, 1964, p.340. 英語系学校の教員養成は 19 世紀から大学付設の機関で行われていたが フランス語系の同様の機関は それより遅い 1920 年代に設置された しかしフランス語系の主たる教員養成機関は師範学校であった (Dufour, André, Histoire de l'éducation au Québec, Montreal: Boréal, 1997, p.97) 9 51

52 なお パラン審議会の勧告による最も大きな改革は 州教育省が創設されたことであった それまでケベックの教育行政は カトリックとプロテスタントの宗派別に設置された機関が司っていた ( 小林順子 ケベック州の教育 東信堂 1994 年 頁 ) 10 原語は Comité d'agrément des programmes de formation à l'enseignement (CAPFE) 11 Ministère de l'éducation, du Loisir et du Sport du Québec, CAPFE, 年 2 月 7 日閲覧 12 モントリオール大学教育学部教員養成センター長のルフランソワ (Pascale Lefrançois) 教授へのインタビュー (2013 年 1 月 28 日および同年 10 月 17 日実施 ) より 13 Laurier, Michel D., Université de Montréal: le développement du programme pour le préscolaire/primaire, dans Gauthier, Clermont et M hammed Mellouki (dir.), La formation des enseignants au Québec à la croisée des chemins, Saint-Nicolas, Québec: Les Presses de l Université Laval, 2006, pp Gauthier, Clermont et M hammed Mellouki, Introduction générale, dans Gauthier et Mellouki (dir.), op. cit., p 小林 前掲書 63 頁 16 ルフランソワ教授へのインタビュー (2013 年 1 月 28 日実施 ) より 同大学の教員養成課程には 学士レベル以外に 教員免許を持たない私立学校の現職教員を対象にした 免許取得のための修士レベルのプログラムも設置されている なお 研究者養成の修士課程と博士課程もある 17 各大学には 観察 実習科目に4 年間で 700 時間をあてることが義務づけられている この科目は各学年次に配置されるのが一般的である 18 ルフランソワ教授へのインタビュー (2013 年 1 月 28 日および同年 10 月 17 日実施 ) より 19 原語は Commission scolaire de Montréal ケベックの公立学校には フランス語と英語それぞれを主たる教授言語とする2 種類の学校があり 教育委員会もこれに対応して設置されている 州内でフランス語を第一言語とする市民の割合は 78.1%(Statistics Canada, op. cit.) であることから フランス語学校が圧倒的多数を占める なお ケベックではフランス語保護の観点から 英語公立学校への入学には 本人や親 兄弟姉妹がカナダ国民であり 初等 中等教育の大半を国内の英語を教授言語とする学校で受けた履歴を持つなどの条件を満たすことが必要となる (English Montreal School Board, Registration, emsb_en/registration_en/registration_en.asp 2014 年 2 月 7 日閲覧 ) 年 1 月 29 日および同年 10 月 18 日に実施した 21 Commission scolaire de Montréal, Poser sa candidature, a/travaillercsdm/candidature/candidatureenseignant.aspx 2014 年 2 月 7 日閲覧 (1) の応募様式には 応募者がフランス語系モントリオール教委管内の学校で教育実習の経験がある場合 その学校名 担当学年または教科 期間を記入する欄が設けられている これは 学生にとって4 年次の教育実習が事実上の 就職活動 の機会になる (2013 年 10 月 17 日実施のルフランソワ教授へのインタビューより ) と言われていることの証左でもある このほかに申告が求められる特徴的な情報として 犯罪歴と 女性 先住民 非白人 非英仏系 障がい者 に該当する場合の属性である 後者の背景には 公的機関の雇用機会均等法 という州法により 州内の教育委員会に対して 法律で定められる上記のグループを雇用面で差別的に扱わない取り組みが義務づけられていることがある 22 たとえばフランス語系のモントリオール大学でも 英語系のマギル大学でも 3 年次の教育実習までに教員志望者向けの英仏それぞれの語学試験 教職フランス語筆記資格試験 (Test de certification en français écrit pour l'enseignement, TECFÉE) 教員資格英語試験 (English Exam for Teacher Certification, EETC) に合格することが義務づ 10 52

53 けられている (Université de Montréal, Guide de l étudiant : B. Éd. en éducation préscolaire et en enseignement primaire, s.d., p.17; Education Student Affairs Office, McGill University, English Language Requirement, 年 2 月 7 日閲覧 ) 年代初頭のデータではあるが 卒業後約 3 年が経過したモントリオール大学教育学部出身の中等教員を対象に行った調査の結果によれば 回答者のうち 82% が入職後 3 年以内に契約のランクを上げることができていたという (Sénéchal, Carole, L insertion professionnelle des enseignants débutants au Québec, dans Psychologie du travail et des organisations, vol.16 n 3, 2010, p.240) 24 モントリオールの英語公立学校を管轄する英語系モントリオール教育委員会 (English Montreal School Board) も フランス語系モントリオール教委と同様の採用 雇用制度を持つ 英語系モントリオール教育委員会とモントリオール教員協会 (Montreal Teachers Association) のあいだで交わされた団体協約 ( 年 ) によれば 直近の 3 年間に 2 回の短期契約の実績がある新任教員が正規採用の待機者名簿に登載される ただし その契約期間に受けた評価が芳しくなかった者は名簿に登載されない なお 名簿の順位は 勤務年数の長さによって決まる 名簿に登載された者は 同教育委員会が毎年 6 月に開催する採用説明会に招かれ 諸条件 ( 担当学年や教科 ) が合えば契約に到る ( MTA-EMSB Local Agreement , April 25, pdf 2013 年 8 月 4 日閲覧 ) 11 53

54

55 オーストラリアにおける教員養成と採用の接続 クイーンズランド州を事例として 本柳とみ子 はじめに各国で教育改革が実施され 優秀な教員の確保と定着も重要課題のひとつとなっている 学校教育は 児童生徒の可能性を最大限伸ばすため また 高度な社会的 経済的期待に応えるためにも常に質を向上させる必要があり そのために教員の果たす役割は極めて重要だからである 1 しかしながら 多くの国では人材の確保と定着に苦慮しており OECD が行った調査でも半数近い国が優れた教員を適切に供給し続けることが困難だと答えている 2 優秀な教員を確保するには 養成段階の教育を改善し 高い資質 能力を有する教員を養成することが不可欠である 同時に 教育現場のニーズに応えうる優れた人材を採用して 定着させ さらに 教職に就いたあとも継続的に職能成長を促す必要がある 教員の資質 能力は養成段階のみで形成されるものではなく 養成 採用 研修を通して継続的に向上されるべきものだからである 日本においても優秀で意欲ある教員を確保するため 大学での学習状況や教育実習の状況を採用選考に反映する方法や 養成段階におけるインターンシップの評価を採用選考に活かす方法の検討などが求められている 3 教員の確保が養成 採用 研修を通じて継続的に実施されるものであるならば 教員養成機関と採用機関が連携し 接続した制度の中で優れた教員を現場に送り出す必要があるだろう そこで本稿では オーストラリアを事例として教員の養成制度および採用制度について考察し 4 両者の接続の実態を明らかにする オーストラリアでも教員の離職を食い止め 優秀な教員を教育現場に定着させることに困難を抱えており 教員の確保と定着は重要課題である 特に 理数系などの特定の教科分野や僻地などの地域による教員不足は深刻である そのため 教員の地位を向上させて教職を魅力ある職業にし 教員養成課程に優秀な学生の入学を促すとともに 現場のニーズに対応できる確かな力量を有する人材を採用して 定着させるための制度の確立が目指されており 教員養成と採用の接続にも重点が置かれている なお オーストラリアでは 学校教育および教員に関わる権限は各州および準州 ( 以下 州と記す ) にあり それぞれに制度が異なる 近年は全国統一制度の確立に向けた動きが活発であるが 現在はまだ移行段階にある そこで 本稿ではクイーンズランド州を取り上げ これまで実施されてきた制度について検討する 同州は 1990 年代から積極的に教育改革を実施し 優秀な教員の確保と定着に力を注いでおり また 他州に先駆けて実施してきた教員登録制度が教員の養成と採用を接続させる重要な機能を果たしていると考えられるからである また オーストラリアの学校は 州立学校 カトリック系や独立学校系の私立学校に分けられるが 私立学校は独自に教員を採用しており 統一されていない それゆえ 本稿は州立学校の教員について記述することとする 1 オーストラリアの教員オーストラリアには公立 ( 州立 ) と私立の学校を合わせて約 25 万人の教員がいるが 7 割が公立学校の教員である 教員の平均年齢は 43 歳で 40 歳以上が半数以上を占め 1 55

56 30 歳以下の教員は初等学校で 23% 中等学校で 17% である 50 歳代が最も多く 55 歳以上は初等学校で 11% 中等学校で 19% を占めている この年代の教員は今後数年で退職が見込まれることから 新たな教員の確保が必要となる また 教員の 3 分の 2 は女性である 女性教員は初等学校で8 割以上を占め 中等学校でも6 割を占めており 平均年齢は男性教員より低い 5 最終学歴は学士が最も多く 初等教員の6 割 中等教員の5 割が教育学の学士かオナーズ 6 を取得している 多くの教員が教育学以外の分野でも学位や資格を取得している 教員資格はほとんどがオーストラリアで取得されており 海外での資格取得者は1 割以下である また 国内で資格を取得した者の多くは都市部の大学を卒業し 都市近郊で教職に就いている 7 オーストラリアには海外からの移民も多く 児童生徒の民族的 言語的背景も多様である しかし 教員は8 割以上がオーストラリア生まれである 海外出身教員もほとんどが英国やニュージーランドなど英語圏の出身であり 6 割以上がすでに 20 年以上オーストラリアに居住している また 先住民族の教員はわずか1% である こうしたことから 教員のほとんどが英語母語話者であり 両親あるいは親のどちらか一方が英語を母語としない者は1 割にすぎない 8 雇用形態を見ると 8 割近くが終身 (permanent) 雇用で 残りは任期付き (temporary) あるいは臨時 (casual) 雇用となっている 雇用形態は基本的に教員本人の選択によるが 終身雇用を希望しながら任期付きとなる者もおり 特に若い教員にそうした例が多い 勤務形態はフルタイム勤務が8 割を占めている 9 終身雇用であっても任期付き雇用であってもフルタイムとパートタイムのいずれかを選択でき 自己のライフスタイルに合わせて就業することができる 教員の職務は 教科担任 クラス担任の他 教科主任 学年主任 カリキュラム主任 ESL 教員 生徒指導 進路指導担当 (Guidance Officer) 図書館司書 養護教諭などに細分化されている 青少年支援担当 先住民コミュニティ担当 留学生担当なども必要に応じて配置されており 補助教員 (Teacher Aid) も学校単位で多数採用されている 作業療法士や理学療法士 言語療法士 ソーシャルワーカーなどの専門家も定期的に訪問している 教員は基本的に授業のみを担当し 管理運営 (administration) 業務は事務職員 (non-teaching staff) が行う 校長と副校長は両部門に関わる職務を担い 教職員全体を管理している オーストラリアではベビーブーム世代を中心とする教員の大量退職時代を迎える中 人口増加に伴う生徒数の増加 後期中等段階の進学率向上などから 新たな教員の確保が急務となっている 特に 理科や数学 外国語などの特定の教科や遠隔地での教員不足が顕著である 10 また 教員の資質向上や教員養成課程に入学する学生の学力低下への対応も重要課題である 11 2 クイーンズランド州の教員養成オーストラリアにはいわゆる教員養成系の大学は存在せず 総合大学の教育学部 ( 科 ) が教員養成の中心的役割を担っている 教員の資格要件は4 年間の教育学コースを修了して学士号を取得するか 3 年間のコースで専門分野の学士号を取得したあと大学院レベルの教員養成課程で1 年以上履修してグラデュエート ディプロマの資格を取得するのが一 2 56

57 般的である クイーンズランド州にも認定されたプログラムを実施する教員養成機関が 10 校あるが 1 校を除くすべてが大学である 個別の入学試験は実施されず 後期中等教育の最終学年に受験する州統一学力テスト (Queensland Core Skills Test) の結果と学業成績から算出されたスコア 12 によって入学者選考が行われ 各大学が設定する基準に基づいて合否が決まる 同州は 1970 年代に他州に先駆けて教員登録制度を導入した州である 13 登録の条件は 登録を管理する機関 (Queensland College of Teachers 以下 QCT と記す ) が認定した教員養成プログラムを修了するか それと同等の能力を有することであり 認定されたプログラムを修了した者は自動的に登録が認められる 14 QCT はプログラム認定のためのガイドライン 15 を提示し ガイドラインに基づいて各大学のプログラムを審査し 認定を行っている ガイドラインにはプログラムの条件等が示されるとともに 修了生が修得すべき資質 能力のスタンダードが付され 16 学生がスタンダードを達成できるプログラムの実施を各大学に求めている 大学は認定の際にスタンダードの達成が可能なプログラムであることを証明しなければならず 認定された後も毎年報告書を提出し その効果を示さなければならない さらに 認定を更新する際にもプログラムの有効性を高めていることが求められている それゆえ 大学は常に学生のスタンダード達成状況を把握し プログラムの有効性を検証し 質の向上に努める必要がある スタンダード (STD) は以下に示す 10 項目で 全体は3つの領域に分けられる STD 1 から STD 5 は 教授 学習 (teaching and learning) STD 6 から STD 9 は 学校内外における関係性 (relationships) STD 10 は 反省的実践と専門性の向上 (reflective practice and professional renewal) となっている また 各スタンダードは 知識 (knowledge) 実践力(practice) 価値 (value) の3 分野から構成され 知識 と 実践力 については具体例が付されている 価値 は学校コミュニティで醸成されている価値を生徒に伝達する際に必要な教員の意識や態度を示している 17 STD 1: 個人や集団の興味をかきたてる柔軟なカリキュラムを構成し 実施する STD 2: 言語 リテラシー ニューメラシーを向上させるカリキュラムを構成し 実施する STD 3: 知的興味 関心を高めるカリキュラムを構成し 実施する STD 4: 多様性を尊重するカリキュラムを構成し 実施する STD 5: 生徒の学習を前向きに評価し 成果を通知する STD 6: 個人の成長と社会参加を支援する STD 7: 安心して学習に参加でき 支援が受けられる環境を設定し 維持する STD 8: 家庭や地域との生産的な関係を積極的に構築する STD 9: 教職集団に積極的かつ効果的に参加し 貢献する STD10: 反省的な実践と継続的な職能成長に専心する カリキュラムはガイドラインに基づいて各大学が編成する 教科専門科目 教職専門科目および教育実習から構成されるが 大学は制定法上の独立した機関 (statutory authority) であるため 教育内容に関して政府の統制を受けることはない ガイドラインには必修科目や単位数などは指定されておらず 科目の配列やカリキュラムの実施方法 教授法 評価に関しても大学の自律性が尊重されている 教科専門科目は授業を担当する 3 57

58 教科に関して履修する科目であり 各領域の専門学部と連携して提供される 教職専門科目は 教授 学習 生徒の発達と成長 カリキュラム開発 教育心理学 情報通信技術 リテラシーとニューメラシー 先住民教育などの科目がある カリキュラムは教育実習を核として構成され 実習が理論と実践を融合させる重要な機能をはたしている 教育実習は複数のブロックに分けて実施される 大学には教育実習を運営する専門部署が設置され この部署を通じて実習校との連携が維持されている 18 実際のカリキュラムを見てみよう 図 1はある大学の初等教員養成カリキュラム ( 必修科目のみ ) の構成を示している 学生は4 年間で32 科目以上履修する 教科科目は初等学校の教授分野に関する科目 教職科目は教育学 社会学 心理学 哲学などを組み込んだ 教授 学習研究 という科目を1 年次から4 年次まで一貫して履修する 授業は講義 (lecture) と演習 (tutorial) に分けて行われる 講義は大教室で一斉に行われ 一人あるいは複数の教員が交替で行う 演習は少人数で行われ 大学教員のほか現職教員や元教員などが担当することもある 学生は講義の内容を演習でさらに深め 教育実習の実践につなげていく 各科目は提出課題 プレゼンテーション 筆記試験 出席状況などで評価される 図 1 初等教員養成カリキュラムの構成 ( 科目名の日本語訳は筆者による ) 教育実習は2 年次から始まり4 回実施される 同大学の実習はすべて 教授 学習研究 の科目と一体となっており 大学で修得した理論を実践の中で検証することが求められている 4 年次には20 日間のインターンシップが行われる インターンシップは現職教員に準じた立場で教育活動に携わるため 必要な単位をすべて取得し 教員登録 19も済ませた上でなければ実施することができない 州立学校の教員を希望するものは 課程修了時に教育省の面接を受ける 面接ではスタンダードの達成度が審査されるため 学生は在学中にスタンダードの達成を証明する資料を収集し 面接でそれらを効果的に活用できるような指導を受けている 4 58

59 また すべての科目にスタンダードが達成目標として示され 全科目を履修することによってスタンダードが総合的に達成できるようになっている ( 表 1) 評価は科目ごとに設定されたスタンダードを基準として行われる たとえば 1 年次の 教育入門 は2 本のレポートを評価資料としており 学期の半ばに提出するレポートではSTDの について 学期末のレポートではSTD9 10も含むすべてのSTDについて評価される 学生はこうして科目ごとに目標となるスタンダードを達成していき 全科目の単位を取得すると必要なスタンダードをすべて達成することになる 学年 1 年 学期前期後期 表 1 1 年次の履修科目と達成目標のスタンダード スタンダードの項目 科目名 教育入門 * * * * * * 学習ネットワーク * * * * * 教授 学習研究 1( 新たな時代の教育 ) * * * * * 科学的量的リテラシー * * * * * * カルチュラル研究 ( 先住民教育 ) * * * * 初等教育の体育 * * * 基礎科目 : 言語デザインと理論 * * 基礎科目 : 健康と行動的市民 * * * * * 出所 : 事例とした大学の資料をもとに筆者作成 教授 学習 関係性 専門性 STD1 STD2 STD7 STD10 表 2 教育実習 1 の評価項目 カリキュラムに関する規定や政策を反映した学習目標を設定し 授業を計画する 学習計画や学習方法に関する知識を有し 実践への応用について知る 生涯学習者の育成を目指し 児童のやる気を促し 可能性を伸ばす 言語 リテラシー ニューメラシーを向上させる教授学習の方法を知る 教授分野や文脈の違いに関わりなく 言語 リテラシー ニューメラシーを向上させる教授 学習方法に関する知識を有する 言語 リテラシー ニューメラシーの向上に向けたモデルを示し 支援指導と教室指導の一貫性の確立に専心する 互いを尊重し 積極的かつだれもが安心して学習に参加できる環境 また いつでも支援が得られる学習環境を設定する 明確な学習目標を設定する 態度行動の指導 時間 環境 教材の管理指導を公平かつ一貫して行う 政策 法律 指針 最新の理論研究 教室環境と学習スタイル 生徒指導方法 効果的なコミュニケーション 時間の管理 葛藤処理 交渉技術に関する知識と理解 参加型民主主義の価値モデルを示せる学習環境を設定する 職務を批判的に省察する 採用主体および学校の政策に則り 法的 倫理的 社会的公正さを重視して職務を果たす 教員に必要な法的 倫理的義務 職務上の責任 批判的省察 生涯学習に関する知識を有し 確実に理解する 法的 倫理的責任と職務を全うし 職能成長に従事して資質向上に努める 出所 : 大学の実習成績表より 5 59

60 教育実習もスタンダードを基準として評価され 実践の評価とポートフォリオの評価を統合して合否の判定が示される 各実習で達成目標となるスタンダードが示されており 実習指導教員はスタンダードごとの評価項目 ( 表 2) を3 段階で評価するとともに その根拠を文章で記述する その上で総合的な合否判定を示す ポートフォリオも合否の判定がなされる 学生は実習を通してスタンダードをどの程度達成したかをポートフォリオに記述し それを証明するための資料 (artifacts) も添付しなければならない 実践の評価とポートフォリオの評価いずれも合格とならなければ単位は取得することはできず 不合格の場合は次の実習を行うことができない なお 実習中にスタンダードの達成が危ぶまれ 不合格の可能性があると判断された場合はすぐに大学に連絡が行き 実習校と大学の教員が連携して指導に当たるなど 不合格者を極力出さない態勢が取られている 3 クイーンズランド州の教員採用州立学校の教員は欠員に応じて採用されるが 平均すると年に約 1,500 人の終身雇用教員が採用されている 教育省が採用するが 20 統一した試験等を実施して直接採用するのではなく 教育省に代わって現職教員が各学校で審査委員会 (panel) を設置し 現場の視点を含めて志願者の面接を行う その結果 適格性を示す評定 ( 以下 評定と記す ) を付与し 評定に基づいて教育省が採用を決定し 赴任校を提示する 21 臨時雇用以外はすべて面接を受け 評定を取得する必要がある (1) 応募図 2 は採用選考の流れを図示したものである 応募は新卒 (Graduate) 一般 (General) 専門教科分野 (Specialized Areas) に分けて行う 新卒応募は教職経験のない新卒者で 一般応募は終身雇用で一年以上の教職経験がある者が対象となる 英語以外の言語 (LOTE) 音楽 ダンスなどのパフォーミングアーツは専門教科分野に該当する 応募するには QCT への登録が必要である 教員養成課程の新規修了生は必要な単位をすべて取得した時点で登録手続きを行い その後応募書類 22を教員募集センターに提出する なお 教員募集センターは教育省の一部署で 応募書類の受領と確認 応募者個人番号の交付 地区事務所への書類送付等の事務手続きを行うのみで 実際の選考は行わない (2) 選考教員募集センターは応募用紙を確認した後 各応募者に個人番号を交付し 面接場所を通知する 面接は教育省の地区事務所が学校を指定し 現職教員によって構成される審査委員会に委託する 審査委員会は一般には校長や副校長 教科主任 他校の教員などで構成される 23 新規修了生の面接は通常最終実習校で行われる 面接校が決定すると応募者は教職フォリオ (Professional Folio) を事前に審査委員会に提出する 教職フォリオには履歴書 教員養成課程の成績証明書の写し その他の成績証明書の写し 大学の教育実習成績表 推薦書 2 通 推薦者氏名 教育省指定の教育実習 ( インターンシップ ) 評価報告書 ( 最終 2 回分 ) を添付する なお 報告書はすべてスタンダードの達成状況を中心に記述される 面接は実習と教職フォリオの内容に関する 30 分程度の質疑応答が中心となる 応募者のプレゼンテーションが行われることもあるが 特に 応募者がポートフォリオの内容を 6 60

61 補足し 実践例を示しながら自己の力量を証明できるような面接が推奨されている 24 面接結果は評定基準 ( 表 3) に則って 優秀 (Outstanding Applicant: OA) 優良 (High Performing Applicant: HP) 良 (High Sound Applicant: HS) 可 (Low Sound Applicant: LA) 不適格 (Unsuitable Applicant: UA) の5 段階の評定で示される 優秀 から 可 までは終身雇用 任期付き雇用 臨時雇用のいずれも可能である 不適格 は再審査を受けて 可 以上の評定を得るまで雇用されない 表 3 評定基準 評定 基準 力量の概要 雇用 優秀 すべての領域で優 一貫し自己の力でスタンダードを完全に理解し 終身雇用 (OS) れた能力を示す 経験に応じて実践に統合できる 優良 (HP) 良 (HS) 可 (LS) 不適格 (UA) ほとんどの領域で優れた能力を示す ほとんどの資格要件を満たす 資格要件をほぼ満たしている 資格要件を満たさない スタンダードを明確に理解し 経験に応じて効果的に立証できる ほとんどのスタンダードを理解し 経験に応じてそれを理路整然と証明できる ほとんどのスタンダードを理解し 経験に応じて実践方法を選択できつつある スタンダードに示される能力を有しておらず 指導力が十分ではない 任期付き契約雇用 臨時雇用 雇用不可 出所 :Queensland Government (2013) Guide to Teaching in Queensland State Schools, p.22. (3) 雇用と配置雇用に際して本人の希望や学校長の意向なども考慮されるが 採用選考は パブリックサービス法 (Public Service Act) の規定に基づき 個人の能力を最優先にして行われ 教育省が最終的な決定を行う 面接を行う学校はあくまでも能力審査のための学校であり 応募者の赴任校となるわけではない 応募者は赴任校や赴任地域を希望することはできるが 地域を限定して希望した場合は雇用が制限される割合が大きくなる 居住地から遠く離れた僻地に赴任した場合は 遠隔地域奨励制度 (Remote Area Incentives Scheme) によって特別手当 報奨金 緊急時の特別休暇などの優遇措置がとられる 教員は採用から8ヶ月間は試用期間である 25 試用期間修了時には所属長による勤務評価が行われ 問題がなければ正式採用となる 十分な能力が認められない場合は 最長 13 ヶ月までの試用期間延長か 採用取り消しのいずれかとなる なお 暫定登録教員の場合は同時に研修を行い正規登録に移行しなければならない 移行の可否はやはり学校長の評価によって決まるが この評価もスタンダードを基準として行われる

62 図 2 クイーンズランド州における新卒教員の採用の流れ 出典 :Queensland Government, Department of Education and the Arts (2011) Guide for Teacher Applicants, Application for Teacher Employment Form により筆者作成 4 クイーンズランド州における教員養成と採用の接続以上の考察から クイーンズランド州における教員養成と採用の関係が以下のように明らかになる 第一は 養成内容を踏まえた採用選考が行われていることである 選考は現職教員による面接とポートフォリオの審査で行われ その結果付与される評定が採用の可否を決定する 養成課程新規修了生の面接は原則として最終実習校で行われ 指導に直接携わっていない教員が中心となり 特に教育実習の成果に焦点を当て スタンダードがどの程度達成できているかを審査する オーストラリアの教員養成は教育現場ですぐに応用できる理論と実践的指導力の育成に力点を置き 両者を統合させる教育実習をカリキュラムの核としているからである ポートフォリオに添えられた実習評価レポートや推薦書も重要な審査資料とされるが 応募者も面接で実習の効果やスタンダードの達成を証明する機会が与えられ 初任教員に最低限必要な知識と実践力が養成段階でどれだけ修得できているかが現場の視点で多面的に評価される このように 採用選考は養成課程で何を履修し どのような資質 能力が形成され それを現場でどのように活かすことができるかという点に焦点を当てて実施されており 養成と採用が接続していることが確認できる 8 62

63 第二は スタンダードが養成と採用を接続させる上で重要な機能を果たしていることである スタンダードは州が求める教員像を示すものであるという合意形成が教育関係者の間でなされ 教員の資質 能力を判断する基準として養成 登録 採用 さらに現職研修まで一貫して活用されている まず 養成課程で修得すべきスタンダードは暫定登録に必要なスタンダードであり このレベルのスタンダードを達成していなければ教員登録は行えないため スタンダードは養成と登録を接続させる機能を果たしている 次に 教員は登録者の中から採用され 面接ではスタンダードを基準として適格性が評価され 評定が付与されることから 登録と採用もスタンダードによって接続していることが確認できる さらに スタンダードは教員養成プログラムの認定基準となっており 学生がスタンダードを達成できるプログラムであることが証明されなければ認定されず 修了生の教員登録も認められない それゆえ 大学はスタンダードを養成の成果目標に設定し 養成課程を通して学生がスタンダードを確実に達成できるカリキュラムを実施し 学生にもスタンダードの達成を目指して自律的に履修するとともに 達成を証明できる有効な資料を収集するよう指導している ここにもスタンダードによる養成と登録 さらに採用との接続が見てとれる さらに 教職に就いたあとも教員は初任者研修によって正規登録に必要なスタンダードを達成しなければならない 正規登録への移行は原則として2 年以内であり 特に終身雇用を希望する場合はこの間にスタンダードを確実に達成する必要がある それゆえ スタンダードは現職研修をも接続させていると言える 第三は 教員養成も採用も学校現場と連携して行われており 接続に果たす現職教員の役割が大きいことである まず 教員養成では教育実習で現職教員が大きな役割を果たしている 教育実習は大学と学校が連携して実施するが 現場で実習生を指導する現職教員は大学から送付される資料を熟読し 求められる指導内容を把握するとともに 大学の養成内容も理解することが期待されている 実習期間中は実習生が自立して授業を行えるよう綿密な指導を行う 授業は必ず参観し 実習生のみで授業することは認められていない 評価は大学が設定した評価基準に沿って行い 学生が目標を達成できるよう確実に指導することが求められている 実習の途中で不合格の可能性が見られた場合はすぐに大学に連絡し 大学教員と連携して指導を行う 実習終了時には合否判定を行う 現職教員は大学の授業に関わることもあり 実践知や実践的指導力の形成にも大きな役割を果たしている また 教員採用にも関わっている たとえば 採用選考の重要な資料となる実習評価報告書や推薦書は現職教員によって作成される 面接も教育省に代わって現職教員が行う それゆえ 採用選考には現職教員の視点が大きく反映している さらに 初任教員が暫定登録から正規登録に移行するための研修にもメンターとして関わり 評価も学校長が行う このように現職教員が教員の養成と採用に深く関わることにより両者の乖離が減少し また 登録や研修にも関わることによって制度の一貫性が強められ 学校現場が求める人材の養成と採用が可能になると推察される さらに 現職教員の中にも教育政策を担う一員としての自覚が育まれ コミュニティの中で教員を育てる風土が培われるであろう 以上見てきたように クイーンズランド州では教員養成と採用が接続して行われており 意義も見られる しかしながら 課題も散見される まず スタンダードが養成から採用まで一貫して教員の資質 能力の基準となっているが 各段階で求められるレベルが明確とは言えず 評価者によって基準のずれが見られ 評価の客観性が担保されないことが懸念される 複数の教員が評価に関わり スタンダードの達成が複眼的に評価されてはいる 9 63

64 が 評価者の主観が混入する可能性も否定できない 評価の公平性という観点からも改善が必要であろう また 現職教員が関わることによって 現場の視点を反映した養成と採用が可能となるが 教員の配置を決定するのは教育省であり 教員採用における学校長の裁量幅は小さい その結果 学校のニーズや応募者の希望に合わない配置が行われることも少なくないと推察され このことが教員の離職を招き 教員の定着を阻むことになるのではないかと危惧される おわりに本稿では クイーンズランド州を事例として教員養成と採用の接続について考察した クイーンズランド州で教職に就くためには スタンダードを基準とする評価を繰り返し受けながら資質向上に努め それを証明していかなければならない まず 教員養成課程で初任教員に必要なスタンダードを達成して教員資格を取得し 教員登録機関への暫定登録を行う 次に 教育省の面接を受け 教員としての適格性を示す評定を得る 面接は現職教員が行い スタンダードの達成度が評価される そして 付与された評定によって採用の可否が決まり 雇用条件も決まる 教職に就いたあとは 暫定登録から正規登録に移行するための初任者研修を受け 正規登録レベルのスタンダードによって学校長が力量を評価する 学校長は同時に試用雇用から正規雇用に移行するための評価も行う その後も教員はスタンダードを活用しながら自己研鑽に励み 登録を更新するごとに力量を高めていることが求められている そうした中 クイーンズランド州では養成内容を踏まえた採用選考が行われていること スタンダードが教員の養成と登録 採用および研修を通じて一貫して教員の資質 能力の基準として活用され 接続の重要な機能を果たしていること また 接続に果たす現職教員の役割が大きいことが明らかになった その一方で 各段階で求められるスタンダードのレベルが明確とは言えず 評価の客観性や公平性が十分に担保されないことや 評価者の主観が混入する可能性が否定できないこと 採用における学校長の裁量幅が小さく 学校や応募者のニーズに合った教員配置がなされにくいなどの課題も確認された オーストラリアでは教員の確保と定着が近年の重要課題となっており 優れた教員を養成するとともに 優秀な人材を一人でも多く確保し 定着させるための努力が続けられている 行政としても教員養成の充実や産業界からの人材確保 遠隔地奨励策 教員の職務改善 教職に対する社会的評価の向上などに向けて様々な対策を講じているが 課題の解決には至っておらず 取り組みは今後も続けられるであろう オーストラリアが今後これらの課題にどのように対応していくかを注視しながら 同様の課題を抱える日本への示唆を得るべく研究を深めていきたい 1 OECD (2005) Teachers Matter: Attracting, Developing and Retaining Effective Teachers; Hattie, J. (2008). Visible Learning: A Synthesis of over 800 Meta-analyses Relating to Achievement. London: Routledge. 2 Ibid. 3 文部科学省 (2012) 教職生活の全体を通じた教員の資質能力の総合的な向上方策について ( 平成 24 年 8 月 28 日中央教育審議会答申 ) 4 教員養成と教員採用に関する記述は 本柳とみ子 (2013) オーストラリアの教員養成と 10 64

65 グローバリズム 東信堂に依拠する 5 McKenzie,P., Rowley, G.,Weldon, P. and Murphy, M.(2011) Staff in Australia s Schools 2010, Report prepared for the Department of Education, Employment, and Workplace Relations, Australian Council for Educational Research. 6 学士課程を優秀な成績で修了すると ( 学士課程の途中からの場合もある ) オナーズ (Honours) と呼ばれる一年間の専門研究コースに進み 優等学位のオナーズを取得することができる オナーズ取得者は修士課程を経ずに博士課程に進むことも可能である 7 McKenzie,P., Rowley, G.,Weldon, P. and Murphy, M.(2011) op. cit. 8 Ibid. 9 Ibid. 10 理科や数学 英語以外の言語 (Languages Other Than English) 工業技術系などの教科では教員が不足している また 先住民の居住地が多い州最北部や内陸部の遠隔地では教員の確保が難しい状況にある さらに 都市部であっても低所得者が多く居住する地域の学校は生徒指導上の問題を抱え 保護者の教育への関心が低く 協力が得にくいなどの理由から教育困難校になるケースが多いため 赴任を希望する教員が少ない 11 Commonwealth of Australia (2012) School Workforce, Productivity Commission Research Report, pp 結果は 1( 最高点 ) から 25 の総合評定 (Overall Positions: OPs) で示される OPs の得点分布は 1(2%) 2-6(19%) 7-21(73%) 22-24(5%) 25(1%) と設定されている 13 クイーンズランド州の教員登録制度については 本柳とみ子 (2011) オーストラリアにおける教員登録制度の意義 -クイーンズランド州を事例として- 追手門学院大学オーストラリア研究所編 オーストラリア研究紀要 第 37 号 pp を参照 14 新規登録後 2 年間は暫定登録 (provisional registration) の身分であり 教育活動に従事しながら初任者研修 (induction) を行う 研修終了後 学校長による評価が行われ 適格と判断されれば正規登録 (full registration) に移行する 15 Queensland College of Teachers (2011) Program Approval Guidelines for Preservice Teacher Education. 16 Queensland College of Teachers (2011) Application of the Professional Standards for Purposes of Approval of Preservice Teacher Education Programs. 17 Ibid. 18 クイーンズランド州の大学の教員養成カリキュラムについては 本柳とみ子 (2013) 同上書を参照 19 この段階の登録は暫定登録である 20 私立学校の教員はセクターあるいは学校ごとに採用される 21 本柳とみ子 (2013) 同上書 22 応募用紙には 1 身上に関する情報 2その他の個人情報 ( 教員登録 職歴 犯罪歴など ) 3 応募区分と採用希望形態 4 希望する学校種 教科 学年 5 希望地域 6 教職歴 7 特殊技能の有無 8 教員資格およびその他の所有資格 9 文化的背景に関する申告 10 添付証明書のリスト 11 署名が記される 添付書類は 氏名変更証明書 身分証明書 教員登録機関の登録証明書 ビザ / 就労証明書 / 市民権証明書 ( 永住権所有者以外 ) 政府関係の就労証明書 教職履歴証明書 資格技能証明書 学位証明書などである 23 新卒応募者の場合 実習を直接指導した指導教員やメンター教員は審査に関わることができない 24 たとえば 指導教科で必要なリテラシーとニューメラシーはどのようなものですか また それをどうやって指導しますか 子どもたちの多様性としてどのようなものが想定されますか また 彼らのニーズにどう対応しますか これまでの経験を踏まえて 今後はスタンダードのどの分野を向上させる必要があると考えますか などの質問例が挙げられている 25 Ibid

66 26 本柳とみ子 (2013) 同上書 12 66

67 資料編

68

69 % %

70 2, % ,185 23, , , , ,124 21,316 69, , , , , , , ,029 (93.0%) 131,440 (82.8%) 213,349 (71.1%) 333,995 (76.5%) ,337 1,479,228 3,190,526 2,047,334 1,851,537 1,719,220 5,617,091 4,397 (0.4) 1,055 (0.1) 955 (0.0) 3,632 (0.2) 1,588 (0.1) 1,187 (0.1) 456,547 (48.2) 384,019 (26.0) 484,681 (15.2) 631,643 (30.9) 366,651 (19.8) 326,953 (19.0) 414,753 (43.8) 866,419 (58.5) 1,784,549 (56.0) 1,035,555 (50.6) 1,026,659 (55.5) 1,003,507 (58.4) 70,716 (7.5) 224,791 (15.2) 897,228 (28.1) 370,677 (18.1) 448,803 (24.2) 373,255 (21.7) 924 (0.1) 2,944 (0.2) 23,113 (0.7) 4,827 (0.2) 7,836 (0.4) 14,318 (0.8) 6,407 1,325,247 3,065,721 1,192,735 26,

71 ex. etc /2/

72 A B B and/or / 620 / /

73 ( )

74

75 211 14,459 9, , V.S

76

77

78

79

80 : 135 : 76 : 3 : 7 : 12 :

81

82

83 カンボジアにおける教員養成の現状と課題 教員の指導力不足と不正行為の問題を中心に 前田美子 本報告では カンボジアの多くの教員が 教員として必要な能力や資質を備えていない要因について 教員養成の現状と課題に着目しながら考察する なお 本報告の詳細については 添付のスライド資料を参照されたい カンボジアの教育セクターは 他の開発途上国と同様にさまざまな問題を抱えているが 特に 教員の指導力不足や資質の欠如は深刻な問題である カンボジアの教員は 一般的に 教科内容や指導方法に関する知識や理解が不足している 例えば 高校理科教員に対して TIMSS の問題を用いて学力テストをおこなったところ 初等 中等教育段階に習得しておくべき内容を十分に理解していないことが明らかになっている (Maeda 2003) また 指導方法に関しても チョーク & トーク型の授業が一般的で 生徒児童の理解を促すような教材を工夫している教員は少ない さらに カンボジアの学校では 教員の欠勤が多く 教員による汚職 不正行為が日常的に行われており 教員の職業的倫理観の希薄さが問題視されている (Dawson 2009; Maeda 2012) なぜ カンボジアの多数の教員に 教師として必要な能力や資質が備わっていないのか その要因の中でも 第一に注目すべきは 教師たちの学習経験の問題である これは 70 年代の内戦による教育システムの崩壊と関連している ポルポト政権時 (75-79 年 ) 学校教育制度は廃止された 知識人は弾圧され 75% の教員 96% の大学生が国外逃亡あるいは処刑や衰弱で亡くなり 67% の初等教育 中等教育を受けていた子どもたちが命を落とした (Clayton 2000) 新政権樹立後 教員数や就学率の増加など量的な拡大を成し遂げたものの 教育内容や指導法など質の向上をみることがなかった この社会的 政治的混乱の中で学校教育を受けた人たちが 現在 教壇に立っている 彼らは十分な学力 指導力形成の機会を与えられてこなかったのである 教員は 教育制度の産物である 教員というのは 自分が教えられてきたようにしか教えることができない (Beeby 1966) という言葉が カンボジアの教員の指導力をよく説明している 第二に 教員養成 管理制度の問題がある 教員免許制度が 教員の指導力を保証するものとして機能していない 例えば 現行の教員免許制度では 中学校教員免許は 高校あるいは大学を卒業後に 教員養成校を修了した者に与えられることになっているが 実際には 中学校教員の4 人に一人が高校を卒業していない ポルポト政権崩壊直後には 極度に教育を担う人材が不足しており 読み書きさえできれば教員として採用された 事実上 街角や村の小道にいた人々を 3-6 週間の短期研修で教員にした (UNESCO 1991) と言われている その後も 現在に至るまで 教員養成制度や教員免許制度は何度も改定されており カンボジアには多様な基準の教員資格が存在し その有無で教員の能力や資質を測ることはできない 視学官の制度も 十分な機能を果たしていない 視学官自身も現場の教員と変わらない教育を受けており 教員の活動が適切に行われるように指導 監督する能力を十分に備えていない 83

84 さらに 教員養成 管理制度は 不正行為や汚職によって軽視され 適切に運用されていない 例えば 教員養成校では 成績や出席日数の改ざんが行われ 不正に教員免許を授与させていることがある また 教員が特定の地域への配属や異動を希望する場合 その便宜をうけるために 校長や教育省役人に賄賂を差し出すことは ほぼ常習化している そのために 教員の数は 都市部では余剰で 農村部では不足しているという事態が起きている 校長 教員と視学官の間での贈収賄も珍しいことではなく 適切な監督業務がなされていない 第三に 教員の待遇の問題がある 公務員給与が低く 公立校のほとんどの教員は教職だけでは生計を立てることができない 一家 4 人が都市部で暮らすのに 月 300 ドル以上は必要であるといわれているが 高校教員の給与は 100 ドル程度 小学校 中学校教員ではさらに低くなる 授業時間以外は 副業に専念しているという教員がほとんどである さらに 副業のために欠勤も多くなる また 給与の低さは汚職や不正行為の引き金となっている (NEP & VSO, 2008) 第四に 教員養成校内の問題がある 教員養成校であっても 他の教育機関と同様の問題を抱えている すなわち 教官の指導力は低く 教育内容は不適切で 教具 設備が十分でない 教官は教員養成校で指導するための特別な研修はない 教員養成校の卒業生で成績優秀者が 教職経験のないまま教員養成校の教官として任命されていることが多い こうしたカンボジアの教員の能力 資質の問題に対して 国際社会も大きな関心を寄せている 日本の支援では JICAが理数科教員の指導力向上を目指し 2000 年から大規模な支援を行っている これまで 初中等教育の教員養成 現職教員研修などを支援しており 学校現場で質の高い授業が行われることに貢献してきた ( 前田,2003) しかし 教員の不正行為に対しては 国際社会は積極的に介入していない 今後 不正行為への対応も含めて 教員として必要な能力と資質を備えた人材を育てるような 包括的な支援をどのように行っていくかが課題となっている 本研究は MEXT 科研費 の助成を受けて実施したものである < 引用 参考文献 > Beeby, C. E. (1966). The quality of education in developing countries, Cambridge: Harvard University Press. Clayton, T. (2000). Education and the politics of language: hegemony and pragmatism in Cambodia, , Hong Kong: Comparative Education Research Centre, The University of Hong Kong. Dawson, W. P. (2009). ""Tricks of the Teacher": Teacher Corruption and Shadow Education in Cambodia", in S. P. Heyneman, (ed.), Buying your way into heaven: education and corruption. Rotterdam: Sense Publishers, pp Maeda, M. (2003). RUPP Chemistry Survey Report. Phnom Penh: STEPSAM. Maeda, M. (2012). "Financing Corruption? Aid Money and Teachers' Practices in Cambodia." Norrag News (47), pp

85 NEP & VSO. (2008) Teaching Matters: A policy report on the Morale of Teachers in Cambodia. Phnom Penh: NGO Education Partnership & VSO. UNESCO. (1991). Inter-sectoral Basic Needs Assessment Mission to Cambodia, Bangkok: UNESCO. 前田美子 (2003) カンボジア 負の遺産を背負う教師たち 千葉たか子編著 途上国の教員教育 国際協力の現場からの報告 国際協力出版会,pp

86 カンボジアにおける教員養成の現状と課題 - 教員の指導力不足と不正行為の問題を中心にー 2013 年 3 月 25 日於 : 東京学芸大学 大阪女学院大学前田美子 Ⅰ. カンボジアの教育の問題点 教育政策が不適切 教育機会の地域間格差 社会階層間ジェンダー間格差 教育予算の不足 教科書 教具の不足 学校施設の不足 地域社会 家庭の無関心 教員数の不足 教育内容が不適切 教員の能力 資質が不十分 3 1 概要 I. カンボジアの教育の問題点 II. 教員の能力 資質 III. 教員の能力 資質を取り巻く問題点 教員自身の学習経験の問題 教員養成 管理制度の問題 教員の待遇の問題 教員養成校の問題 IV. 日本の支援 Ⅱ. 教員の能力 資質 指導力不足 学力が低い 教授内容 指導法についての知識 理解不足 職業的倫理観の希薄さ 欠勤が多い 汚職 不正行為への関与

87 TIMSS 問題 Q1: 空気の成分気体で最も多いものは? 窒素 酸素 二酸化炭素 水素 高校教員大学生大学教官 48% 50% 42% IEA, TIMSS 2003, Science items Q3: 自転車事故者の 25% は頭部に損傷を受け そのうち 80% が致命傷である 致命的頭部損傷者は 何 % か 16% 20% 55% 105% 高校教員大学生大学教官 56% 60% 67% Q2: 植物が育つためには 無機塩類が必要であることを調べるため ( 日光 土壌 無機塩類 水 ) を与えた植物と 次のうち どの条件におかれた植物を比べればよいか A. 日光なし 土壌あり 無機塩類あり 水あり B. 日光なし 土壌あり 無機塩類なし 水あり C. 日光あり 土壌あり 無機塩類なし 水なし D. 日光あり 土壌あり 無機塩類なし 水あり E. 日光あり 土壌あり 無機塩類あり 水なし 高校教員 大学生 大学教官 27% 43% 50% 8 Cambodia teachers pedagogical skills In your chemistry lessons, how often do you ask students to do? Collect and organize data in the classroom and laboratory. Conduct laboratory experiments Apply science to everyday problems Write explanations about what was observed and why it happened Work on problems for which there is no immediately obvious method of solution Represent and analyze relationships using tables, charts or graphs. 0% 20% 40% 60% 80% 100% The percentage of chemistry teachers Never or alm ost never Som e lessons Most lessons Every lessons No response 87

88 不正行為の内容 ( 加害者としての教員 ) 正月 女性の日の贈り物の強要 実態を伴わない学校建設費の強制徴収 学内のテスト 全国統一テスト時の収賄 ( 成績 進級 進学への便宜 カンニングの黙認 ) 入学 転校の手続きへの便宜 教材費の不正徴収 授業料を伴う補習クラスへの出席を強要 使途不明金の徴収 制度化された不正行為 生徒 保護者 教員 校長 教育省役人へと不正資金が流れる 教育省内に不正資金を扱う仲介者が存在する 9 11 不正行為の内容 ( 被害者としての教員 ) 配属 異動の際の手数料の強要 上司の命令による生徒の試験結果 出席日数の改ざん 政党への上納金の強要 教育省役人による給与のピンはね Ⅲ 教員の能力 資質を取り巻く問題点 教育予算の不足汚職の蔓延 教育行政計画能力の不足諸外国の影響 教員の待遇の問題 伝統文化 給与が低い 教科書 指導書が不適切 研修機会がない 教材が不足している 貧困 教員自身の学習経験の問題 体系的教育機会の喪失 一方通行の教授法での学習 教員の能力 資質が不十分 教員自身の問題 適性がない 自己研鑽しない 教員養成 管理制度の問題 採用 解雇の制度が未整備 専門外教科担当や地域格差などの人事 配置が不適切 視学官制度など監督システムが未整備 教育内容が不適切 教員養成校内の問題 教具 設備が不足 内戦による教育システムの崩壊 教官の指導力が低い ドナーの非協調 政治的干渉 10 88

89 Ⅲ-1. 教員自身の学習経験の問題 教員は 教育制度の産物である 教員というのは 自分が教えられてきたようにしか教えることができない Beeby, Clarence Edward (1966). The Quality of Education in Developing Countries. Cambridge: Harvard University Press. 体系的教育機会の喪失 伝統的教育の影響 French colonization Pol Pot regime 1980s 1990s Vietnamese Occupation Peace keeping operation 15 Ⅲ-2. 教員養成 管理制度の問題 該当年齢 高等教育 ( 大学 ) 20 (101 校 19 学部生 216,053 人 18 院生 34,978 人 ) 17 全国テスト 16 後期中等教育 Grade ( 総就学率 28%, 433 校 ) 14 基 就学前教育 4 3 技術教育職業訓練 全国テスト前期中等教育 Grade 7-9 ( 総就学率 53%, 1,622 校 ) 育初等教育 Grade 1-6 ( 総就学率 128%, 6, 910 校 ) ( 5 歳児就学率 56%, 470 校 ) 出典 : MoEYS (2013) Education statistics & Indicators 2012/2013 MoEYS (2013) Report on the Education, Youth and Sports Performance in the Academic Year 礎教 89

90 教員養成制度 教員免許種類教員養成校学校数入学資格修業年限 就学前教育 幼稚園教員養成校 (National Pre-school Teacher Training Center: NPSTTC) 首都プノンペンに 1 校高校卒業 1 年 初等教育 州教員養成校 (Provincial Teacher Training Center :PTTC) 18 の主要行政区に各 1 校 高校卒業 ( 遠隔地 5 州については中学卒業 ) 2 年 大学卒業 1 年 前期中等教育 地域教員養成校 (Regional Teacher Training Center: RTTC) 全国を 6 地域に分け 各 1 校 高校卒業 2 年 後期中等教育 国立教育研究所 (National Institute of Education) 首都プノンペンに 1 校大学卒業 1 年 教員数 出典 :MoEYS (2013) Education statistics & Indicators 2012/ 就学者数 出典 :MoEYS (2013) Education statistics & Indicators 2012/2013 度重なる教員免許制度の改定 教員資格で 教員の質を測ることができない 中学校を卒業していない小学校教員 3.8% 高校を卒業していない小学校教員 56.2% 高校を卒業していない中学校教員 25.4% 教員の質を保証する視学官制度の機能が弱い 汚職による制度の軽視 出典 :MoEYS (2012) Education Staff Indicators

91 Ⅲ-3. 教員の待遇の問題 教育活動支援の不足 教科書 指導書が不適切 教具 教材の不足 給与が低い 30 代高校教員の月給が 100 ドル 一家四人が都市部で生活するのに月 300 ドル以上必要 副業に専念 汚職 不正行為の要因 Ⅳ. 日本の支援 後期中等教育の教員養成支援 ( ) 後期中等教育の教科書策定支援 ( ) 初等 前期中等教育の教員養成支援 ( ) 前期中等教育の現職教員研修支援 (2013- Ⅲ-4. 教員養成校の問題 不適切な教育内容教具 設備の未整備 教官の指導力が低い 日本の支援 学校現場 教育内容教具 設備 指導力のある教員 教官の能力 教員養成校 91

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93 93 Municipality Bangkok Metropolitan Pattaya Special Type Tambon Administration Provincial Administration Common Type Category of Local a Administration al Faculty of Education, Khon Kaen University, Thailand Division of Educational Administration Thanomwan Prasertcharoensuk Pattaya Total 9, Metropolitan Bangkok 1,020 Tambon ( subdistrict ) Municipality Town municipality y Provincial Administration 22 1,161 Municipality City municipality 6,617 Number Tambon Administration Type Numbers of Local Administration Autonomy Organization, operate on Its own fiscal income Checks and Balances by the Local Administration Council and the Central Government Monitors the Administrative work as needed Supports in Administrative Work Between Central and Local Administration Local Administration is an

94 Percentage 4. Develop knowledge and ability for quality of work performance. 5. All for education so education provided responds to the needs of learners. 6. Education is a process of life and social development. This is a key factor for the sustainable development of the country. It is believed that under this approach the product of education would be self reliance, caring for each other and have capacity in the international world. Major Ideology of Education Management 20,667 2,469,617 Higher Education - Doctoral Degree 2,063,909 Senior High 206,668 2,769,264 Junior High - Master Degree 5,044,242 Primary Education 1,811,998 1,809,785 Pre-school - Bachelor 945,586 17,141,736 Total Child Care Center Numbers Level School Age Groups Classified by Educational Level (2010) Provide quality of life-long education with a substandard based on sufficiency economy philosophy with a Thai identity and move towards internationalization. Vision Education Development Plan ( three year plan ) 1. Provide life-long education and create Thai Society to be learning society. 2. Provide education for quality of life and integrated society with a balance among intellectual, ethical and cultural aspects. 3. Make use of life-long education for Thai people. Lay strong foundation for youth by building good characteristics of members of society since their basic education age. Major Ideology of Education Management

95 Education Development Plan ( three year plan ) Mission Develop administration and management system of local administration. Develop quality of teachers and educational personnel. Provide and develop educational materials, innovation and technology as well as learning resources. Develop quality of educational management of educational institutes under the local administration. Thank you for your attention Contact Address: Assoc.Prof Dr.Thanomwan Prasertcharoensuk Tel: ext address : thapra@kku.ac.th Education Development Plan ( three year plan ) Mission Develop students quality Conserve and promote art, culture, tradition and local wisdom. Promote sports, recreations, youth and people activities. Develop and promote the way of life of people and youth based on sufficiency economy philosophy. 95

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97 Pre-service Teachers Training Faculty of Education, Khon Kaen University T H A I L A N D Curriculum Structure Wallapha Ariratana 5 year programmed Course work 1 4 Practice Teaching In School (Year 5) Credits requirement Quality Control 164 Credits - General Courses - Educational Foundation Courses 30 credits Teaching Profession Courses 50 credits Free Elective 6 credits Special Courses for each major 78 credits Every course has to be in line with Standard Criteria specified by the Teacher Education Association 97

98 Standard Criteria covers Curriculum Production procedures Qualification of graduates Production Procedure Learning & Teaching process Development of Teachers Characteristics Practicum in schools Network Schools have to meet requirement specified by Teacher Education Association Curriculum coursework number of total credits Scope of courses Qualification of Graduates (knowledge) Complete All coursework as required by curriculum with GPA 2.00 practice teaching for one year pass the standard criteria for desired characteristics of professional teachers Behave with appropriate manner for teacher 98

99 Teaching Profession Formation (Practicum) Familiarize student teachers with school task by visit school and practice school work during the coursework (based on credits on coursework) Being student teachers (year five) Perform teaching work as student teachers in his/her major subject Subtask for each semester in Practice teaching course First semester Organize the learning teaching classes 8-10 hr/wk based on the major subject. Develop their skills and experiences in students affair, evaluation, academic project, counseling and some others related task not less than 5 hr/wk. Second semester Organize the learning & teaching classes based on the major subject not less than 6 hr/wk. Classroom learning development using classroom research (not less than 5 hr/wk) Supervision from kk staff who are assigned to be supervisors,these supervisors visit school and observe the classroom teaching activities at least 2 times a semester. The school teachers are assigned to be mentor for each student. Meeting for feedback and monitoring are organized when needed or supervisors visit. Practicum Requirement Task Apply their knowledge to practice. Produce lesson-plan based on student-centered approach. Using appropriate teaching media/materials. Employ teaching techniques and strategies. Be able to use appropriate evaluation technique. Produce classroom research. Analyze students and develop ss s performances. Record their teaching and report the findings. Present their classroom research in the seminar. capacity Thank you! deliver their teaching capacity in their major subjects develop their learning teaching techniques produce classroom research report outcome of their teaching and students development 99