Research Report ロシア産業の 内部 :Rostec にみる現状と課題 株式会社と 227の株式会社の株式がRostecに渡されることになっていた 2014 年の実績では 前者が155 社 後者が225 社 それぞれRostecに譲渡された この結果 Rostecは軍事産業 民間産業か

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1 特集 特集 油価低迷 通貨安とロシア経済 Research Report ロシア産業の 内部 : Rostec にみる現状と課題 高知大学人文学部塩原俊彦 はじめにウクライナ危機後のロシアによるクリミア併合に対する日欧米諸国の対ロ制裁に加えて 2014 年末の通貨ルーブルの暴落によって ロシア経済は危機に瀕している 1) 本稿の目的は こうした状況下でのロシア産業の 内部 で何が起きているかを個別具体的に明らかにし その問題点を探ることである 2015 年 6 月に刊行した拙著 ウクライナ2.0 のなかで 主にロシアのマクロ経済的観点からの考察は行ったが ここでは 国家コーポレーション ロシアテクノロジー (Rostec) の傘下にある企業に絞って分析することで ロシア産業のかかえている問題点を示したい 2) Rostecは多岐にわたる産業部門の活動にかかわっているため その研究がロシア産業 とくに国防産業の直面する課題を示唆してくれるからである 最初に Rostec を概観し ついで Rostec 傘下の15の持ち株会社のうち 工作機械 情報技術 資源開発に関連する分野について掘り下げた考察を行う 1.Rostecの概要軍事関連企業を中心とする企業集団である Rostecについては かつて何度も分析対象としてきた 3) ごく簡単に言えば Rostecは 2007 年 11 月 23 日付連邦法 No.270で設立が決められ た 正式名称は ハイテク工業製品の開発 生産 輸出助成国家コーポレーション で ロシア語で ロステクノロギー («Ростехнологии») と簡略化されて呼ばれることが多かった 2014 年 7 月 ロシア語で ロステク («Ростех») と改称した 本稿では 同社が用いているローマ字表記 Rostec を以下で使用することとする Rostecは基本的には 国有企業であった連邦国家単独企業 ロシア国防輸出 (ROE) の社長であったセルゲイ チェメゾフ主導で設立された組織である ロシア製武器の輸出や外国からの武器輸入に従事するROEは武器輸出独占権を握る過程において 生産基盤をもたないと生き残れないとの見方を強め それがROEを中心とする巨大企業集団の構築の必要性を高めた 武器製造から武器輸出までの垂直統合型企業集団の設立こそRostec 設立の目的であったと言える その際 国家コーポレーション という形態がとられ 親会社としてのRostecは株式会社ではないが ROEは株式会社化し その株式 100% をRostecが保有する形態がとられた 4) 2014~2016 年の連邦資産 民営化予測計画 ( プログラム ) の遂行に関する2014 年報告書 によれば Rostecへの国家資産の委譲を決めた 2008 年 7 月 10 日付大統領令 No.1052では 181の連邦国家単独企業の民営化の結果設立される 32 ロシア NIS 調査月報 2015 年 12 月号

2 Research Report ロシア産業の 内部 :Rostec にみる現状と課題 株式会社と 227の株式会社の株式がRostecに渡されることになっていた 2014 年の実績では 前者が155 社 後者が225 社 それぞれRostecに譲渡された この結果 Rostecは軍事産業 民間産業からなる15の持ち株会社と 32の直接管理組織 14のインフラ関連子会社からなり 組織数は700 以上におよぶまでに至っている (2014 年の年次報告書 ) 表 1に示したのは 15の持ち株会社である 2014 年の売上高に応じて順序づけている 実は Rostecは当初 傘下に入った企業をリストラして経営を立て直し その会社の株式を新規株式公開 (IPO) することで利益を得ることを計画していた そのIPOの第一弾の候補が最も大きな売上高の ロシア ヘリコプター である 2011 年にいったんはIPO 直前にまで至ったが 市況の不振から計画が見送られた 現在は 個別の会社との資本提携を模索している イタリアの機械 造船業などの持ち株会社 フィンメカニカ (Finmeccanica) 傘下のヘリコプターメーカー アグスタウエストランド (Agusta Westland) との間で合弁会社 HeliVertが設立され エンジン2 基を搭載するAW139ヘリコプターの最終組み立てがモスクワ近郊で行われているから 同社との資本提携の可能性がある ほかにも ロシア ヘリコプターは戦略的パートナーとして エアバス ヘリコプターズ ( 旧称はユーロコプター グループ ) を想定している 2014 年末のルーブル暴落による外貨建て債務の評価上の悪化で赤字化した 統一エンジン製造コーポレーション (ODK) のヴラディスラフ マサロフ社長は2015 年 7 月 解任された 後任には ウファモーター製造 生産合同の再建に実績をあげたアレクサンドル アルチュホフが就いた ウクライナからの輸入代替品としてフリゲート艦向けエンジンM-90の製造を 2019 年に計画しているほか ウクライナの モ ーター シチ が開発したヘリコプター向けエンジンのTVZ-117 やD-136の代替品として ODKの100% 子会社 会社 クルモフ はエンジンVK-2500やTVZ-117のシリーズ生産の増強を計画している 5) 前者については 2014 年の 50 基から2017 年までに350 基の製造を予定している 表 1のKRETも注目企業である 同社は いわゆる サイバー産業複合体 (cyber-industrial complex) の代表例で 情報技術と軍事を結びつけているロシアでもっとも重要な軍産複合体だ 6) 2 年に一度モスクワで開催されている航空ショー (MAKS) では 防空ミサイル防衛のための地上でのラジオエレクトロニクス複合体などへの注文や関心が集まっている KRET 傘下の企業数は2015 年 8 月の情報では 97に増加した 統一機器製造コーポレーション (OPK) は2014 年 3 月に設立された会社で 新世代の通信システム開発のほか 防衛装備品の開発などに着手する 他方で プーチン大統領は2015 年 8 月 25 日 MAKSを訪問し シュワーベ ( 表 1の9) のブースに立ち寄り 同社の開発した 地球表面を監視する光学ハイテクシステムの革新性を称賛したという メドヴェージェフ首相は9 月 10 日 Russia Arms Expo 2015という武器の展示場を訪問し 同じくシュワーベの暗視スコープなどを評価した Rostecが直接 経営管理する組織には 1 株式会社 ロシア国防輸出 ( 軍民用途の最終生産物や技術 サービスの輸出入の仲介をする国営企業 ) 2 株式会社 アヴィアテクプリヨームカ ( 航空機 宇宙 国防技術や官民使用技術の製造に際して利用される生産物の品質のコントロールや検収や監視など ) 3 株式会社 航空医学センター ( 外来患者の診察 治療 出張医療支援など ) 4 株式会社 航空試験構成員検査中央病院 ( パイロットのための医療施設 ) 5 株式会社 研究所ギンツヴェトメト ロシア NIS 調査月報 2015 年 12 月号 33

3 特集 油価低迷 通貨安とロシア経済 ( 非鉄金属などのハイテク鉄鋼製品生産のための研究所 ) 6 株式会社 ギプロツヴェトメト ( 鉱物原料採掘の発展や鉱業 冶金企業のためのプロジェクト開発のための調査 研究 ) 7 株式会社 療養所 グリーングローブ ( 医療活動 ) 8 株式会社 ネフチガスアフトマチカ ( 石油ガス施設の設計 サービス ) 9 株式会社 ツニートチマシ ( 小型武器や弾薬の開発 生産 ) などがある このなかでは Rostec 設立の母体となった ロシア国防輸出 がもっとも重要な組織である プーチン大統領によれば 2014 年のロシアの武器輸出額は155 億ドルを上回った このうち 約 132 億ドル分はロシア国防輸出による売り上げだったが 実際に入金されたのは20 億ドル少ない112 億ドルにとどまった 欧米の銀行が対ロ制裁を理由にロシア国防輸出への支払いにブレーキをかけているためとみられている なお 軍産複合体の資金難を見越してそれらへの銀行融資の利子補給に代えて 2016 年から国防 発注契約に基づく完全前払い制が導入されるという未確認情報もある Rostecはほかにも 大規模プロジェクト と称して 比較的将来性があるとみられる4つの事業を展開している ( 一部は後述 ) 第 1は 2014 年に設立した RT- ビジネス開発 による携帯電話事業などへの展開である 第 2は 原料やインフラのプロジェクトの発意 管理をするための組織である RT- グローバル資源 による展開だ ただ 同社株 100% は RT- ビジネス開発 に移される計画がある 第 3は Rostec と国営通信会社 ロステレコムが2014 年に設立を決めた ナショナル情報化センター ( 後述 ) に基づくプロジェクトで ロシア郵政 のビジネスパートナーを務めるほか 保健部面での 単一国家情報システム のサブシステムに関与するなどしている 第 4は 企業向け情報安全保障サービスなどを行う RT-インフォルム (Rostecの100% 子会社 ) による事業だ 順位 34 表 1 Rostec の 15 の持ち株会社 社名概要 売上高純利益 (10 億 (10 億ルーブル ) ルーブル ) 1 ロシア ヘリコプター Mi-8/17 Mi-26(t) Ka-32A11VSなどを製造 傘下に19の子会社 関連会社 ,000 2 統一エンジン製造コーポレーション 航空機向けエンジンなどの開発 製造 傘下に23の子会社 関連会社 ,000 3 RT-アフト 傘下には AvtoVAZやKamAZも 傘下に7の子会社 関連会社 ,000 4 コンツェルン ラジオ電気工学 Su-35S Ka-52 Mi-171A2 Yak-130 Il-476 向け航空部品などを製技術 (KRET) 造 傘下に94の子会社 関連会社 ,000 5 科学生産合同 高精密コンプレ軍事技術 ( イスカンデル-M パンツィリS-1 イグラ-Sなど) の開発 製クス造 修理など 傘下に19の子会社 関連会社 ,000 6 大規模持ち株会社である 星座 ヴェガ 管理システム を統合 科学生産合同 統一機器製造軍事関連の自動制御システムなどの開発 製造 傘下に61の子会社 コーポレーション関連会社 ,000 7 科学生産コンツェルン 機械製軍事関連の非接触センサー 合金 ポリマーなどの開発 製造 傘下作テクノロジー ( テクマシ ) に48の子会社 関連会社 ,000 8 ロスエレクトロニカ 加速器 監視機器などの開発 製造 傘下に120の子会社 関連会社 ,000 9 シュワーベ オプトエレクトロニクス関連企業 傘下に64の子会社 関連会社 , 航空機設備 (2015 年に テクノジナミカ に改称 ) 航空機向け機器製造 傘下に33の子会社 関連会社 , コンツェルン アフトマチカ 各種制御システムの開発 製造 傘下に8の子会社 関連会社 , コンツェルン カラシニコフ 銃器の開発 製造 傘下に2の子会社 関連会社 , RT-ヒムコンポジト 新素材や複合素材などの開発 製造 傘下に17の子会社 関連会社 , スタンコプロム 工作機械製造 傘下に11の子会社 関連会社 , ナショナル免疫生成会社 免疫にかかわる製剤研究 傘下に9の子会社 関連会社 ,000 ( 出所 )Rostec の年次報告 (2014 年 ) 年 社員数 ロシア NIS 調査月報 2015 年 12 月号

4 Research Report ロシア産業の 内部 :Rostec にみる現状と課題 2. 工作機械分野本稿では 軍需品においても民需品においても重要な役割を担っている工作機械分野との Rostecの関連について掘り下げてみたい Rostecは表 1に示した スタンコプロム を中心に工作機械分野を改革する計画だが 事態はそう簡単ではない 金属や木材などを切断したり加工したりするための道具である旋盤 フライス盤などの工作機械はとくに国防産業にとって重要な意義をもっている にもかかわらず 工作機械消費に占めるロシア製品のシェアは2008 年の19% から2012 年には9% まで落ち込んだとされている ( エクスペルト 2014, No.37) あるいは 最近 20 年間にロシアにおける工作機械生産はほぼ20 分の1に減少した ( 同 2014, No.46) 工作機械企業の苦境は クラスノダル工作機械製作工場 セディン が 2015 年 4 月 クラスノダル地方仲裁裁判所に自己破産を申請したことや 2014 年 6 月 イヴァノヴォ州仲裁裁判所に イヴァノヴォ重工作機械製作工場 に対する破産認定を求める訴訟が起こされたことなどに現れている 国防産業の基礎とも呼べる工作機械メーカーの再建の重要性は早くから知られている ゆえに 政府は外国からの経済制裁で輸入が困難になって国防に支障が生じないようにするために 2011 年 2 月 7 日付政府決定 No.56によって 国防上のニーズのための商品 サービスを発注する際 外国や外国企業によって提供される商品 サービスへのアクセスを禁止 制限する規定が設けられた 7) その第 1 項で 国の防衛ニーズや国家の安全保障のための商品提供 作業遂行 サービス提供への発注配分の枠内での 外国ないし外国集団からの商品および外国人によって遂行される作業 ( サービス ) の取得は ロシア連邦領内に照応する生産物の生 産や作業遂行 サービス提供が存在しないか あるいは 国家発注者の要求に照応しない場合を除いて許容されない としたのである 附則として ロシア連邦内での生産不在の確認が必要な商品リスト が収載され レーザー光などによる切断のための工作機械などが具体的にあげられた 2013 年 12 月 24 日付政府決定 No.1224では 同年 4 月 5 日制定の 国家 自治体向けの商品 作業 サービス買付契約システム法 に対応する形で 国防発注における外国の商品 サービスに対するアクセスを禁止 規制する規定が定められた 加えて ロシア連邦領内での生産不在が確認されている商品リスト がつけられた 同リストにも 多種類の工作機械が記されており このリストに収載されていれば 国内生産がないから輸入できたことになる しかも 付加価値税の課税が免除された ロシア政府はロシアが工作機械分野で国際的に遅れをとっていることを強く認識していたと言える 8) だからこそ 連邦特定目的プログラム 2007 ~2011 年ナショナル技術基盤 (2007 年 1 月 29 日付政府決定で承認 ) のサブプログラムとしての 2011~2016 年の国内の工作機械製造および工具産業の発展 が 2011 年 7 月 1 日付政府決定で承認された 9) 同月 13 日付産業 商業省令により その実施運営規程が承認されるに至る 10) 2014 年 4 月 15 日付政府決定 No.328 ロシア連邦政府国家プログラム 産業の発展およびその競争力の向上 の承認について では 同プログラムの サブプログラム7 として 工作機械工具工業 が含まれていた 11) このように 工作機械産業の改革は焦眉の急であった このサブプログラムの枠内で工作機械工具のシリーズ生産実現のためにRostec 経由で助成金を供給することが2014 年 11 月 27 日付政府決定によって承認された 2014~2016 年に総額 55 億ルーブルが分与される見込み 2015 年から研究開 ロシア NIS 調査月報 2015 年 12 月号 35

5 特集 油価低迷 通貨安とロシア経済 発費の半分が助成対象となる 具体的には Rostec 傘下の持ち株会社スタンコプロムが民間会社と合弁会社を創設するなどしてサブプログラムの実現に取り組む スタンコプロムは2013 年に工作機械メーカーの 統合体 として設立された 同年 4 月 社長には国営石油会社ロスネフチの元副社長で2012 年 8 月まで ストロイトランスガス の社長だったセルゲイ マカロフが社長に就任した (2014 年 10 月に取締役会議長に ) 2013 年 5 月の情報では Rostecのもとには RT-スタンコインストルメント という工作機械関連の持ち株会社があった ( コメルサント 2013 年 5 月 27 日付 ) その後 スタンコプロムはRT-スタンコインストルメントとRT- 機械製作の継承機関となった この経緯からわかるように スタンコプロムはわかりやすく言えば かつてソ連時代にあった 機械製作省 のような役割を担っていると言える 購入される設備のすべての情報を統括し もっとも重要な国家発注に国内工作機械メーカーを傾注させるのである その意味で こうした重要な役割をもつ組織が Rostec 傘下にある意義はきわめて重大だ スタンコプロム株の47.16% はRostecの子会社である株式会社 工業コーポレーション合同 アバロンプロム が 残りの52.84% はRostec が保有している (2015 年 8 月現在 ) Rostecのサイト情報によれば (8 月時点 ) 表 1よりも構成組織数が増え 18にのぼっており その傘下にある職員数も約 6,500 人に膨らんでいる もちろん スタンコプロム以外にも多数の工作機械メーカーが存在する 一説によると 2014 年 1 月 1 日現在 工作機械製造に従事するのは60 組織で 約 2 万 8,500 人が雇用されている 12) 2015 年 2 月 20 日付ロシア連邦産業 商業省令で承認された 産業貿易部門に大きな影響をおよぼす組織リスト をみると 工作機械分野では 1リャザン工作機械工場 2イヴァノ ヴォ重工作機械製作工場 3 株式会社 STP- SASTA 傘下の株式会社 Sasta 4 株式会社 STP- VMZ 傘下のヴォルガ機械製作工場 5 科学生産合同 工作機械製作 の5 社が収載されている リャザン工作機械工場は 工業グループ ロス スタン コム のなかに入っている 同グループの傘下には フライス盤を製造する フライス工作機械工場 などもある 実は 1と2は スタングループ (STAN Group) が傘下に入れようと目論んでいる会社である 2012 年 9 月 5の科学生産合同 工作機械製作がバシコルトスタン共和国にあるステルリタマク工作機械製作工場をもとに設立され その管理会社として同年末 スタングループが創設されたのである 3の株式会社 Sastaは 1971 年に建設が開始された リャザン州サソヴォ自動化ライン工場をもととしており この工場の敷地内に2014 年にSTP-SASTAが設立され この傘下にSastaが入った 4のヴォルガ機械製作工場は 株式会社スタンコプロム ヴォルガ機械製作工場 (STP-VMZ) の傘下にある つまり同社はスタンコプロムの傘下にある企業である 13) ここで紹介した企業には 政府から助成金が支給される見通しとなっている だが こうした支援がうまくいく保証はまったくない 政府は2011 年から 工作機械メーカーへの研究開発費補助を行った過去がある しかし クラスノダル地方の セディン という工場のフライス盤開発に2 億 6,000 万ルーブルが分与され 同社も同額を投資したが 結局 成果は市場に出されることはなかった ( エクスペルト 2014 年, No.46) おそらく重要なのは 日欧米からの技術導入だろう その意味では 工作機械をめぐって過去にどのような技術導入がはかられてきたのかが問題になる ソ連時代から 工作機械分野において ドイツ スイス イタリア 日本 英国 フランス ブルガリア チェコとの関係 36 ロシア NIS 調査月報 2015 年 12 月号

6 Research Report ロシア産業の 内部 :Rostec にみる現状と課題 が維持されてきた 近年の例をあげると 1ドイツとの合弁会社ドンプレスマシ 14) 2DMG MORI SEIKIのウリヤノフスク工作機械製作工場 15) 3スタンコプロム傘下のサビョロフスカヤ機械製作工場とスイスのGALIKA AGとの協 16 力 ) 4MTEグループとチェコのKovosvit MASとの合弁会社 MTE Kovosvit MASの設立 17) 5コヴロフ エレクトロメカニカル工場と滝澤鉄工所の業務提携 18) 6オーストリアのEMCO Groupとの共同生産 19) などがある ほかにも スタンコプロムはベラルーシの 10 月革命記念ミンスク工作機械製作工場 (MZOR) との協力関係構築の協議をしている ただし 日欧米の対ロ経済制裁で 先進国からの技術導入はきわめて困難な状況にある 現地調達率については 産業分野ごとにアプローチが異なっている 組み立て協定締結時に現地調達率を定める場合があるほか 契約制度法の改正により7 年までの長期契約での現地調達率に関する協定締結の義務化が検討されたりしている 産業 商業省は自動車組み立てにおける現地調達率の計算方法の変更を含めた制度変更を検討しているという情報もある ( ヴェードモスチ 2015 年 8 月 26 日付 ) 20) 注目されるのは 2014 年 7 月 14 日付政府決定 No.656で 国家や自治体向けの買付をする際 外国製の個別の機械製作商品の購入が禁止されたことである 2015 年 1 月 31 日政府決定によって No.656の内容が拡大され 55 品目が買付禁止になった 対ロ制裁国だけでなく 原則としてユーラシア経済連合に加盟していないすべての国のブルドーザー トラック トラクターなどの輸入が禁止されたことになる 機械製作関連品だけでなく 医療関連品でも同じような禁輸策がとられている 21) ドヴォルコヴィチ副首相によれば 国家発注で輸入代替を推進することで 現地調達率を現在の30~40% から 2018 年までに60~70% に引き上げたいという 輸入代替を後押しするために 2015 年 9 月 2 日付政府決定で政府資金などによる商品サービスの買付価格が制限されることになった 高級外国車の購入などが難しくなったことになる 2014 年末のルーブル安や欧米諸国による経済制裁で 輸入代替への関心が強まっており 技術移転による輸入代替を模索する動きは情報技術 (IT) 分野でも広がっている 22) 3. 情報技術分野 ITにおける輸入代替はIT 関連設備などのハードと ソフトウェアにかかわるソフトの両面から喫緊の課題となっている すでに指摘したように ITは軍事に密接に結びついているためでもある 23) プーチンは首相当時の2010 年 5 月 31 日付の政令で 産業 商業省に経済発展省とともに2ヵ月以内に ロシア内で生産されるテレコミュニケーション設備にロシア製という地位を授けるのに必要なパラメーターやその地位を授与する方式などを策定 承認するように求めていた 2011 年 8 月 17 日付の産業 商業省と経済発展省の指令でようやくプーチンの依頼が実現し こうしたパラメーターや授与方式が定められた これを受けて ハード面での輸入代替がまず本格化する計画であった 2011 年 7 月 18 日には 国家コーポレーション 自然独占企業などによる商品 作業 サービス買付法が制定され こうした企業の買付を規制する法整備が進んだ 2013 年 4 月 5 日には 逆に 国家や自治体の必要を保障するための商品 作業 サービス買付部面での契約システム法 が制定され インターネットを介した国家発注制度が法的に整備された だが実際の輸入代替政策が本格化したのは 産業 商業省令 ロシア連邦のラジオエレクトロニクス産業における輸入代替施策の部面別計画の承認について (2015 年 3 月 31 日付 ) で ロシア NIS 調査月報 2015 年 12 月号 37

7 特集 油価低迷 通貨安とロシア経済 同計画が承認されて以降である 534 種類のコンピューター テレコミュニケーション設備 半導体 周辺機器などが収載されている 計画では 産業発展とその競争力向上 という国家プログラムの枠内で設置されたロシア技術発展基金からの借り入れを輸入代替の実践企業が受けられるようにする 24) ただし ソフト面の輸入代替を主導する通信マスコミュニケーション省のニコライ ニキフォロフ大臣は 2015 年 5 月 ハード面の輸入代替を主導する産業 商業省のデニス マントゥーロフ大臣に書簡を送り 65 種類は代替リストからはずすべきであると提言するなど 管轄をめぐって鞘当てを行っている それは通信マスコミュニケーション省がその関連設備の国家発注に際して 設備メーカーにソフトウェアと同じような特恵を導入しようとしていることにも現れている ハード面の輸入代替とRostec 興味位深いのは Rostecがハード ソフトの両面で輸入代替を積極化し 国内の軍需品の強化につなげようと戦略的に動いていることである IT 関連だけでなく 石油ガス部門の設備代替にも後述する合弁会社 OMKネフチガス を使って積極的に取り組もうとしている ここではまず IT 関連のハード面について考察したい International Data Corporation(IDC) によると ロシアへのIT 設備供給総額は217 億ドルで うちネットワーク向け設備が34.7 億ドル 全体の 16% であった ロシアにおける通信ネットワークの9 割が輸入設備でできており その基本供給者はCisco Systemsである ほかにもIT 関連の設備供給先として 中国のファーウェイ (Huawei, 華為技術有限公司 ) スウェーデンのエリクソン (Ericsson) スランスのアルカテル ルーセント (Alcatel-Lucent) フィンランドのノキア ネットワークス (Nokia Networks) がある ロシアがIT 設備を短期間に自国製造に切り替えるのは困難だと思われるが Rostecとしては ハード面の輸入代替で上記のOPKに大きな役割を担わせようとしている 2017 年末までに OPKは40 種類以上のテレコミュニケーション設備の大量生産に着手する計画だ OPKはIPネットワーク内でIP 電話の回線交換を行う装置 (IP-PBX) やルーターをすでに製造している 2015 年 5 月時点の情報 ( コメルサント Business Guide, 2015 年 5 月 26 日付 ) によると 同社は国内半導体 Elbrus-4Cを内蔵するコンピューター向け装置の注文の受付も開始した 25) ソフト面の輸入代替とRostec ソフト面については 2014 年 11 月 17 日付の ヴェードモスチ 紙に興味深い記事が掲載されている 通信マスコミュニケーション省のニキフォロフ大臣がプーチン大統領に書簡を送り そのなかで国家情報システムや電子政府の完璧な活動に必要なエレクトロニクス産業 コンピューター関連インフラ データ加工センター ソフトウェアの包括的発展国家システムを創出することを提案していたというのだ そうすれば 情報システムへの外国人の干渉を通じた国家主権の侵犯を抑止し ロシアのIT 産業の発展を促すことにもつながり 権力当局の技術的独立性を保障することになるというわけだ そこで問題になったのが民営化途上の国営株式会社 ロステレコム をこの問題にどうかかわらせるかであった 民間会社にITの重要機能を任せたくない政府はRostecにソフトや設備の輸入代替により深く関与させるようになる とりあえず2014 年 4 月 Rostecの子会社 RT-ビジネス開発の100% 子会社として ナショナル情報化センター が登録された 国家機関や国営企業のプログラム開発のほか 輸入代替のためのソフト開発にも従事する その後 Rostecとロステレコムはそれぞれの子会社である RTエレ 38 ロシア NIS 調査月報 2015 年 12 月号

8 Research Report ロシア産業の 内部 :Rostec にみる現状と課題 クトロサービス ( 保健部面での 単一国家情報システム に従事 ) とRT-labs( 電子政府に従事 ) との合併を決めた これらを合わせた機能を ナショナル情報化センター にもたせ その株式を買い取る形でロステレコムが参加する 当初はロステレコムが50% を購入する計画だったが 75% を買い取る検討が加えられている ( コメルサント 2015 年 9 月 24 日付 ) 通信マスコミュニケーション省は2014 年夏の段階で 外国製ソフトの国家買付を制限する方針を決め ロシアの開発者を支援する基金創設の計画を明らかにした 26) 2015 年 4 月 同省はソフトウェア輸入代替計画を承認し 2025 年までにもっとも重要なタイプのソフトの輸入依存度をいまの50~95% から10~50% に引き下げることをめざす そのために 自発的非営利組織 (ANO) として 共同ソフトウェア開発機構 を設立する 2018 年までに180 億ルーブルの予算資金拠出が検討されている 他方で 2015 年 6 月末 プーチン大統領は国家買付時のロシアの開発者によるソフトウェアに優先権を供与する法案に署名した 法律では ロシア ロシア市民 ロシア非営利組織 ロシア会社 ( ロシアの恩恵享受者が50% を超える ) に属する コンピューター データベース向けのロシア単一プログラムリスト の策定が定められ このリストにない3つの例外 (1 リストにソフトウェア情報がない 2リストにあっても買付予定ソフトに対する要求に照応していない 3ソフトウェアに関する独占権がロシア法令に従って形成された法人に属し そのソフトウェアや買付に関する情報が国家機密である ) に際してのみ 外国ソフトの購入が認められる ただ 一時 検討された国営会社は規制からはずされ 国家機関の買付についてだけ規制が課せられることになった 一方 すでに紹介したRostecの RT-インフォルム は 国家コーポレーション形態をとる企 業の設備 ソフトウェアの買付システムを中央集権化する作業に着手している こうした企業の年間の買付額は約 500 億ルーブルにのぼり 中央集権的な買付に移行すれば 毎年 150 億ルーブルの節約につながるとの見方もある 2015 年 5 月 プーチン大統領はニキフォロフ大臣らに10 月 1 日までにインターネットのロシア部分の発展に関する提案を委任した ロシア官庁のインターネット オペレーションを Windowsの基本ソフト (OS) から ソースコードへのアクセスがオープンなLinuxのOSへの転換が模索されている 2015 年 8 月になって ドイツのソフトウェアメーカー SAP Deutschland SE & Co. KGがロシアのRostecないしロステレコムと合弁会社を設立する交渉を断ったことが明らかになった ( コメルサント 2015 年 8 月 18 日付 ) 27) ロシア側は合弁会社にロシアの国家部門への外国製ソフト供給に対するアクセス権を保障する代わりにソフトの知的所有権を同社に譲渡することを求めていた 社長チェメゾフと富豪ウスマノフ Rostecのチェメゾフ社長は周知のように ドレスデンでプーチンと同じアパートに住んでいた チェメゾフは 実験産業合同ルーチ の東ドイツ代表を 1983~1988 年まで務めていたのだが 同社がどんな会社であったかは判然としない おそらく人工衛星に絡む会社ではないかと推測される 一説には1980 年代の末に 彼は現在 ロシア有数の富豪として知られるアリシェル ウスマノフと友達となった このウスマノフとの関係は Rostecの事業展開にいまでも大いに影響を与えている 通信分野と銅資源にかかわるウドカン鉱区の開発である まず 通信分野について紹介したい 2007 年 5 月 セルゲイ アドニエフらによって基地局移動仕様の無線接続システムサービスを行う ロシア NIS 調査月報 2015 年 12 月号 39

9 特集 油価低迷 通貨安とロシア経済 会社 スカルテルが設立され Yota というブランドで Mobile WiMAXに基づく無線インターネット プロバイダーとなる スカルテル株の33% はキプロスにあるWiMax Holding Ltd. 67% はKristiva Holdingsが保有していた ( ヴェードモスチ 2010 年 2 月 16 日付 ) 後者はWiMax Holingの支配下だったから 事実上 スカルテル株すべてがWiMax Holdingによって支配されていることになる WiMax Holding 株の74.9% はTelconet Capital 基金 25.1% はRostecが保有していた RostecがWiMax Holding 株 25.1% を取得したのは2008 年 10 月になってからだが スカルテル設立時から WiMax Holding 株 25.1% の購入権 ( オプション ) を有していた結果である だが 2012 年 4 月 10 日付の ヴェードモスチ によると スカルテル株 100% は Yota Holding に属するChristiva Holdings Ltd. が保有していた ( スペルが変更されている ) Yota Holding 株 74.9% はTelconet Capital( アドニエフが唯一の著名な共同保有者 ) 25.1% はRostecが保有していたという おそらくWiMax HoldingがYota Holdingに改組されたものと思われる 実は Rostecは2009 年初め エレクトロニクス関連の下流持ち株会社に基づいてロッシースカヤ ロスエレクトロニカ ( ロスエレクトロニカ ) という新たな持ち株会社を設立 同社はマイクロチップの開発 製造に従事するアングストレムの株式 25% などを保有していた ロスエレクトロニカは2012 年 7 月初めに アングストレムの株式を31% まで引き上げる方針を示し Rostecはアングストレムに基づいてLSIの生産に乗り出す方針だった つまり Rostecは早くから通信やエレクトロニクスに関心をいだいていたことになる 2011 年 3 月 携帯電話サービスを行っていた メガフォン MTS ヴィンペルコム ロステレコム Rostecの各代表とスカルテルを支配するアドニエフはプーチン首相 ( 当時 ) の列席のも と スカルテルに基づく単一 LTE 網の構築議定書に署名した これにより ボリショイ トロイカ と呼ばれるメガフォン MTS ヴィンペルコムと ロステレコムがスカルテル株各 20% Rostecが20% を保有することも合意されたが この合意は進まないまま頓挫してしまう MTSを支配するシスチェーマはコスモスTV 株 50% を保有しており このコスモスTVをもとにLTEを展開できないか模索するなどの動きから 各社間の利害に違いがみられたためだ 同年 9 月になって 無線周波数国家委員会はスカルテルに対して帯域 GHzのLTE 構築許可を無競争で与えた 同時に 同委員会はMTS のオペレーターであるWiMaxとコスモスTVからモスクワでの同じ帯域の周波数が没収されることになった これにMTSなどは反発し 裁判所に訴える事態にまで発展する 28) 他方 当時 メガフォン株 31.1% を保有していた企業家ウスマノフ (8% はAF-テレコム ホールディングが 23.1% はテレコムインヴェストを通じて ) は 同じくメガフォン株 25.1% を保有していたAltimoからこの持ち分を買い取り 合計 56.2% を スカルテル株と交換する協議に入っていることが明らかになる 連邦反独占局は2012 年 6 月 スカルテル株 100% を保有するYota Holdingと メガフォン株の過半数を 新しいホールディングに移して統合する申請を承認した こうして ウスマノフは 2012 年 7 月に設立されたホールディングGarsdale Services Ltd. 株 82% と交換にメガフォン株 50% +1 株をGarsdale に繰り入れた 残りの Garsdale 株 18 % は スカルテル株 100 % を Garsdaleに繰り入れた 元のスカルテル株の共同保有者に渡された その結果 スカルテル株 100% はGarsdaleが保有することになったわけである 当時のGarsdaleの持ち株構成は ウスマノフが82% 基金 Telconetが13.5% Rostecが 4.5% だった その後 ウスマノフが支配するメ 40 ロシア NIS 調査月報 2015 年 12 月号

10 Research Report ロシア産業の 内部 :Rostec にみる現状と課題 ガフォンの株主総会は2014 年 6 月 スカルテルを保有する会社 Maxiten Co Limitedの持ち分 100% をもつGarsdaleに対して 11.8 億ドルとも 16.7 億ドルとも言われる購入総額の90% までの金額を同年 10 月までに支払うことを決めた こうして いまでは Rostecとスカルテルとの資本関係は切れているが チェメゾフとウスマノフとのパイプはつながっている 29) 4. 資源開発分野ウスマノフはもともと冶金会社の支配から台頭した人物である 30) 彼の冶金分野を統括する会社であるメタロインヴェスト Rostec 中国の厚樸 (Hopu) 投資基金は2014 年 5 月 協力協定を結び バイカル鉱山会社 (BGK) を支配するメタロインヴェストのもとからBGK 株の 10% をHopu 25% をRostecが同年末までに購入する計画であった メタロインヴェストは世界第 3 位の銅鉱石の埋蔵量をもつチタ近辺にあるウドカン鉱区の開発許可 (40 年 ) をもつBGK を2008 年に買収していた 一説には 開発費 60 億ドルとも言われる巨大プロジェクトだが 実際には上記の計画は実現されていない 31) 2015 年 7 月 メタロインヴェストとHopuとの協議は停止された 鉄道敷設や電力供給といった投資に付帯する関連施設整備の計画がうまく進んでいないことがネックになっている 他方で Rostecの子会社 RT-グローバル資源 が出資する オゴジンスキー エネルギーホールディング (OEX) の子会社 オゴジンスキー石炭会社は2015 年 7 月 1 日 アムール州にあるスゴディンスコ オゴジンスコエ石炭鉱区の入札において勝利した 2040 年までの25 年間にわたって石炭の地質調査 探査 採掘を行うライセンスを得たことになる 2015 年末までに鉱区発展戦略が定められ 2018~2019 年の採掘開始がめざされる 2015 年 8 月 上述したア ドニエフらの関係するTelconet Capital Linted PartnershipはOEX 株の50% を取得した OEXは上記鉱区近くのゲルビカノ オゴジンスコエ石炭鉱区の開発を主導しており 残りの株式 50% はRT-グローバル資源が保有している 2つの石炭鉱区の開発に関連して アジア太平洋諸国への輸出のために石炭積み出し用のターミナル ヴェーラ港 が沿海地方に整備される計画もある 石炭燃焼型火力発電所や石炭化学工場の建設も予定されている 加えて ウドカン鉱区やモンゴルのエルデネト鉱区の銅を石炭で溶解し 加工するコンビナートの建設も検討されている 32) Rostecのチェメゾフは中国の石炭エネルギー企業 神華能源の協力を取りつけようとしているが 現段階ではプロジェクトの将来性は判然としていない RT- グローバル資源は2013 年のヤクート ( サハ共和国 ) の北西にあるトムトルスコエ稀少金属鉱区の入札を前に アレクサンドル ネシス率いるイーストグループ (ICT Group) などとともに 合弁会社トリ アルク マイニングを設立し 同社の子会社が2014 年 落札に成功した 33) トリ アルク マイニングの株主構成( 資本金は2,000 万ルーブル ) は当初 ICT Groupの ICT-プライムが50.005% RT- グローバル資源が25.005% アドニエフが関連するキプロスの Decerno Co. Ltd. が24.99% であったが 2015 年 6 月になって スカルテル社長を務め 2012 年には通信マスコミュニケーション省次官であったデニス スヴェスドロフがDecernoの保有分から5% を購入していたことが明らかになった つまり YotaというブランドのIT 関連で結びついていた人々がRostecを介して 資源分野でも一儲けを目論んでいるように思える この稀少金属開発は10 億ドル規模の投資が必要とみられているから 早い段階でプロジェクトにかかわることで多くの利得が見込まれるのだ ロシア NIS 調査月報 2015 年 12 月号 41

11 特集 油価低迷 通貨安とロシア経済 興味深いのは RT-グローバル資源 Telconet のほかに VTB Capital タトネフチ 韓国のGS Engineering & Construction Corporationはウガンダで製油所を建設するコンソーシアムを創設し 2015 年 2 月の入札で勝利したことである 総額 40 億ドルもの巨大プロジェクトになる さらに RT- グローバル資源 Telconet タトネフチ インドのONGC Vedishからなるコンソーシアムはウガンダでの石油ガス採掘権をめぐる入札も落札した 同じように RT- グローバル資源は セルゲイ ヤンチュコフが率いるマンガゼヤグループとザバイカル地方で金鉱区を開発するための合弁会社を設立しようとしている さらに RT- グローバル資源はイルクーツク州にある大規模な金鉱区 ( スホイ ログ ) についても 同じような形での関与を検討している 他方で すでに指摘したように Rostecは石油ガス部門の設備の輸入代替もグループ内で担おうとしている 2015 年 2 月 17 日 RT- グローバル資源と 統一機械製作コーポレーション (OMK) との50 対 50の合弁会社 OMKネフチガス が登録された OMKは石油会社ロスネフチなどにパイプをもつミハイル ダエフらによって2014 年 10 月に設立された会社だ OMK ネフチガスは燃料エネルギーコンプレクスに設備や化学材料 エンジニアリング技術などを提供する生産複合体をめざしている 5. 結びにかえて Rostecはほかにも 産業廃棄物の処理やワクチン開発など さまざまな分野に手を広げている 34) とくに重要なのは 本稿で考察した工作機械 情報技術 資源開発の分野において Rostecの役割が強まっている事実である いずれも国防上 安全保障にかかわりの深い分野においてその影響力が強まっているという印象 が強い 35) これは ロシア産業全体が安全保障の名目のもとに軍事産業と一段と深いつながりをもたざるをえなくなっている状況を示しているように思えてならない 拙著 軍事大国 ロシアの虚実 ( 岩波書店, 2009 年 ) は軍事大国としてのソ連を継承したロシアのその後までを分析したものだが 軍事国家ロシアという側面がさらに強まっていると指摘しなければならない 36) 注 1) ウクライナ危機が米国の ネオコン と呼ばれる勢力によって煽動された軍事クーデターであったことは拙著 ウクライナ ゲート : ネオコン の情報操作と野望 ( 社会評論社, 2014) に詳しい このなかでも ウクライナ危機がロシア経済に与えた影響を分析している 2) ウクライナ 2.0: 地政学 通貨 ロビイスト ( 社会評論社, 2015) の第 2 章 ロシア情勢 において 輸入代替政策を中心にロシア政府の 2015 年前半の政策を考察した 3)Rostec については ロシア NIS 調査月報 のなかで 国家コーポレーション と ロシアテクノロジー (2007 年 12 月号 ) および 国家コーポレーションを探る : ロシアテクノロジーを中心に (2010 年 9-10 月号 ) という拙稿を収載し Rostec を詳しく取り上げたことがある 軍事産業については 拙著 ロシアの軍需産業 ( 岩波新書, 2003) 軍事大国 ロシアの虚実 ( 岩波書店, 2009) ロシアの最新国防分析 (Kindle 版, 2013) を参考にしてほしい 4) 国家コーポレーション については 注 3) の 2 つの拙稿を参照してほしい 国家コーポレーション形態の組織は 預金保険庁 ヴニェシエコノム銀行 住宅公共サービス再組織化助成基金 Rostec ロスアトム オリンプストロイ (2007 ~2014 年 ) ロスナノ (2011 年に株式会社化 ) があり 2015 年 7 月 13 日制定の宇宙活動に関する国家コーポレーション ロスコスモス法制定により 同社が連邦宇宙庁と統一ミサイル宇宙コーポレーション (2013 年 12 月 2 日付大統領令によって設立され 2014 年 3 月 5 日に登録 株式の 100% は国家保有 ) に基づいて設立されることになった 5) ウクライナ政府は 2014 年 6 月以降 デュアル ユーズ ( 二重使用 ) の軍事品を含めた軍事品の対ロ輸出禁止措置をとっている ロシア ヘリコプター が民生用やロシアからの輸出用とし 42 ロシア NIS 調査月報 2015 年 12 月号

12 Research Report て モーター シチ からエンジンを輸入する契約期間 3 年 ( 総額約 10 億ドル ) が 2015 年に満了する 総額 1 億ドル強の契約によって 2016 年の輸入も検討されているが 実際にはロシア側は輸入代替を進めており モーター シチは苦しい状況に追い込まれている 6) サイバー産業複合体 をめぐっては 拙稿 サイバー空間と国家主権 境界研究 (2015, No.5) を参照 7)1996 年にスタートしたワッセナー アレンジメント ( 通常兵器および関連汎用品 技術の輸出管理に関するワッセナー アレンジメント ) によって輸出管理対象品目リストが作成され 紳士協定として 参加各国は国内法令により輸出管理を実施している ロシアも 2005 年 2 月に加盟している このため 欧米の制裁はワッセナー アレンジメントのリストを参考に実施されている この場合 工作機械の禁輸によって ロシアが大きな打撃を受ける懸念がある 8) ロシアの名誉のために付言すると プレス機をフランス イタリア 日本などに輸出するヴォロネジ重機械プレス工場 (TMP) のような企業もある 9)2009 年 3 月 10 日付政府決定 No.205 では 農業 トラクター産業 石油ガスコンプレクス向け機械製作 工作機械工具産業のロシア組織への予算上の助成として 5 年までの期間内の技術再装備向け融資の金利支払い支出の一部を補填するルールが承認された 10) このサブプログラムに基づいて 2011~2013 年に 2 億 2,000 万ドル相当が拠出され その結果 国家エンジニアリングセンター モスクワ国立工科大学 スタンキン が設立された スタンキン は産業用ロボットの国際生産技術の開発主体となっている 11) この決定 No.328 によると 2014~2016 年に 1 億 5,800 万ドル相当が分与される見込み 12)Информация о результатах анализа, состояния и развития отрасли станкостроения в государствах-членах ТС и ЕЭП (2014) Евразийсеая Экономическая Коммисия, Департамент промышленной политики, p ) ほかにも金融 機械製作分野などの資産を管理するために 2003 年に設立された民間投資会社である MTE グループは工作機械製作会社 MTE Kovosvit Mas を傘下に入れている クラスノダル地方には セディングループ があるが そのなかのクラスノダル工作機械製作工場 セディン はすでに紹介したように 2015 年 4 月 仲裁裁判所に自己破産申請を行った 14)2010 年 5 月 アゾフ プレス鍛造出版工場とドイツの STS-Turnpress GmbH とによって合弁会社が設立された 15) 株式 100% は DMG MORI SEIKI が保有している もともとは ザヴォルジエ 産業パーク ( 団地 ) ロシア産業の 内部 :Rostec にみる現状と課題 内に税制優遇を与えて外国誘致をはかろうとしていたセルゲイ モロゾフ ウリヤノフスク州知事とドイツのギルドマイスター (Gildemeister) 社の社長が同工場建設協定に 2011 年に調印したのが契機となっている 同年 Gildemeister は日本の森精機との協力関係を欧州で拡大し 後者は前者の株式の 20.1% を保有する大株主となった ついで Gildemeister も森精機株を取得するに至り 2013 年から DMG MORI SEIKI という単一ブランドでの活動を開始した 2015 年 9 月 工場の建設が完了する見込みだ ( コメルサント 2015 年 5 月 20 日付 ) 16) サビョロフスカヤ機械製作工場 (SMZ) は 2012 年 3 月 Rostec 傘下のアバロンプロムの 100% 子会社として設立され 2014 年はじめに スタンコプロム傘下に移された SMZ はスイスの GF Machining Solutions (GFMS) とも協力関係を築いている 17) 合弁会社 MTE Kovosvit MAS の設立協定は 2013 年 3 月に締結された 翌年 5 月 対外経済活動発展銀行 (VEB) ロストフ州政府 グループ MTE Kovosvit MAS が協力協定を締結した 2015 年 5 月 グループ MTE と Kovosvit MAS はロストフ州に合弁会社 MTE Kovosvit MAS に基づく投資プロジェクト実施継続を確認した 各種工作機械の現地化が計画されている 18)2013 年 7 月 31 日に両社の協力協定が締結された コヴロフでの工作機械製造の現地化がはかられる 19) エカテリンブルクの会社 ウニマチク は 2015 年 7 月 オーストリアの EMCO Group と工作機械製津の組み立てに関する共同生産に合意した 投資額は 3 億 5,000 万ルーブルを予定しており 5 年間で 70% の現地化をめざしている 20) 自動車組み立てについては 2005 年 4 月 15 日付で出された当時の経済発展 貿易省 産業 エネルギー省 財務省の共同命令が重要である 輸送手段の 産業組み立て という概念の定義が定められたためだ ついで 2006 年 9 月 16 日付政府決定 同年 10 月 5 日付の産業エネルギー省 経済発展省 財務省の共同命令により 年産 2 万 5,000 台以上の生産義務を前提に 7 年間の部品輸入に対する輸入税率の低減や 4 年半後の 30% までの現地化比率の達成などが決められた 2011 年 2 月にルール変更がなされ 一定条件下で 8 年までの部品に対する輸入税の軽減が認められた一方 現地化比率は 5 年で 60% に引き上げられた 完全ノックダウン (CKD) 生産は全体の 5% を超えてはならないことになった 21)2015 年 2 月 5 日付政府決定で 政府 自治体向け買付で外国製医療品へのアクセス制限が決められた 同年 6 月 2 日付政府決定で禁輸品目数が拡大 さらなる拡大の動きもある 22)IT 関連の代表例は光ファイバーケーブルであろ ロシア NIS 調査月報 2015 年 12 月号 43

13 特集 油価低迷 通貨安とロシア経済 う 輸入代替は 光ファイバーケーブルの生産を 1970 年から開始した米コーニング社の代替をはかるために 1970 年代にはソ連時代に始まった 1980 年代には ソ連製光ファイバーケーブルの生産が行われるに至ったが 生産規模が小さく 1991 年以降 生産は停止した 現在 ロシアのサランスクで輸入代替プロジェクトが進んでいる ロスナノ ガスプロム銀行 モルドヴィア共和国行政府が出資している 年産 240 万 km の生産能力にとどまっているため 生産コストが相対的に高く それが輸入品よりも販売価格が高いという問題を引き起こしている しかも ビレットと呼ばれる原料は輸入に頼っており 完全な輸入代替にはまだ課題が残されている 23)2015 年 2 月 セルゲイ ショイグ国防相は 2020 年までの軍事力の情報 テレコミュニケーション技術発展の概念 を承認した その内容は公表されていないが 軍事に IT を積極的に活用する姿勢が鮮明に打ち出されたと考えられている 軍事以外でも 同年 9 月 1 日 個人データ法が施行され ロシア内の居住者企業だけでなくインターネットを通じてロシア領内でビジネスを行う外国企業もロシア人の個人データをロシア内にとどめておく ( 現地化する ) ことが義務づけられる このように ロシアは情報統制に神経を尖らせている なお この結果 サーバーを置くデータセンターを比較的寒冷なシベリアに置く動きが広がっている たとえばデリパスカの支配する En+ グループは IT サービス会社 ラニト 中国の Huawei( ファーウェイ 華為技術有限公司 ) は 3.55 億ドルをかけてシベリアにデータセンターを開設する方針だ 24) 産業 商業省は 産業国家情報システム (GISP) の創設を主導し そのための予算約 4,300 万ルーブルも得る GISP の創設は 2014 年 12 月 31 日制定の ロシア連邦産業政策法 の第 14 条に明文化されており 2015 年 7 月 25 日付政府決定によってその創設 利用 改善方式が定められた GISP は産業政策実現を保障したり 産業部面での活動を刺激する連邦執行権力機関の全権を行使したり 産業部面での活動主体への支援提供を情報化したり 産業状況やその発展予測に関する情報交換の効率を高めたりするために必要な情報収集過程の自動化および情報分析のために創出されるものである 産業政策法は 2015 年 7 月に施行されたが GISP は 2016 年から運用開始になる見通しだ 25) ソ連時代の 1970 年代 精密メカニズム 計算技術研究所で開発されたのがロシアの半導体ブランド Elbrus である Elbrus-4C はモスクワ工科大学の一部に基づいて設立された MCST および INEUM によって生産されている 2015 年からは 前者によって Elbus-8C の生産も始まった MCST は OPK 傘下のブルク記念エレクトロニク ス機械制御研究所と共同で PC を組み立てている ロシアで開発され台湾企業の TSMC によって生産されてきた半導体 Baikal-T1 もロシア企業のバイカル エレクトロニクス ( 企業家フセヴォロド オパナセンコ支配の T プラトフォールムィの子会社 ) が国内生産をすでに開始した 中国のレノボがこの半導体利用で協議に入っている 他方 企業家エフトゥシェンコフが主導するシスチェーマの子会社ミクロンでも半導体生産が行われているが 新型の半導体生産を計画中で 彼はプーチンに国家支援として低利融資 250 億ルーブルを求めている 26)2014 年 9 月の段階では 2005 年に設置された ユニバーサル通信サービス基金 ( 通信サービスによる売上高の 1.2% をすべての通信オペレーターから徴収する 年間約 150 億ルーブルになる ) に類似したものとして ユニバーサル ソフトウェア基金 の創設が検討されていた だが これが現段階でどうなっているかは判然としない 外国製ソフトの販売ライセンス得た会社にその国内での販売高の 10% を基金に繰り入れさせるという案もある いずれにしても Rostec はこの基金設立後の資金管理をねらっている 27)SAP は代わりに 2015 年 9 月 顧客の注文に合わせてソフトウェアを開発するセンターをロシアに設置した 同様のビジネス展開をしてきた企業に米 Luxoft や EPAM Systems がある 28)2013 年 3 月になって 仲裁裁判所の控訴審で ヴォルゴグラードのオペレーター エレクトロニクス ラジオ光学システム (EROS) が 2011 年 9 月 8 日付の無線周波数国家委員会決定 ( スカルテルに対して帯域 GHz の LTE 構築許可を無競争で与えた ) を無効であると主張して件で 2012 年 11 月の一審の原告敗訴の判決を覆す判断を示した 裁判所の判断としては コンクール形式での売却が望ましいとした さらに同月 連邦反独占局は 2012 年 4 月の協定締結にもかかわらず ロステレコムによるスカルテルの LTE 網へのアクセスを認めないスカルテルに対して 差別的であるとの嫌疑をかけ 告発する姿勢を示した だが モスクワ管区連邦仲裁裁判所は 5 月 29 日 3 月の決定を再び覆した 2011 年 9 月 8 日付決定の不備を部分的に認めたものの 控訴審を破棄し第一審を残したのである 29)2013 年 2 月 ノリリスクニッケル株を 4% 強保有するメタロインヴェスト社を支配するウスマノフは同社の利益だけではなく 独立系の取締役として チェメゾフをノリリスクニッケルの取締役候補に推挙し 同年 3 月の臨時株主総会でチェメゾフの取締役就任が決まった (2014 年 チェメゾフは取締役を降りたが それは同年 3 月から肥料会社 ウラルカリーの取締役会議長就任のためだ ) このように 両者は緊密な 44 ロシア NIS 調査月報 2015 年 12 月号

14 Research Report 関係にある 30) 詳しくは拙稿 ロシア石炭企業の統合問題 ( 法政大学イノベーション マネジメント研究センター Working Paper, No.126, 2012) を参照 ウスマノフについては ほかにも拙著 プーチン 2.0 ( 東洋書店, 2012) を参考にしてほしい ウスマノフはプーチンの意向もあってか メディア支配を拡大している 出版社コメルサント 電子新聞 Газета.Ru ブログプラットフォームの LiveJournal サービス会社の Mail.ru SNS サービス会社である VKontakte などを次々に支配下においている 31) ウドカン開発資金を得るため Rostec とメタロインヴェストは 2011 年 11 月 国営のヴニェシエコノム銀行 (VEB) に 60 億ドルの融資を求めた経緯がある 当時 プーチンが VEB の監査会議議長を兼務していたためプーチンに融資を要請する手紙を出したわけである 2012 年になって VEB は 52 億ドルを上限とする資金供給を承認したほか ウドカン開発向けの設備の前払いなどに 3 億ドル相当のブリッジローンを承認した だが VEB が融資にあたり BGK 株を取得するなどの詳細が定まっていなかったが 2015 年 9 月 VEB は BGK 株 25% の取得により資金供与することを決めたようだ 32) エルデネト鉱区については ソ連時代にモンゴルとの間の合弁会社として 1974 年に設立された鉱山選鉱コンビナート エルネデト が採掘に従事している ソ連崩壊後 ロシア側の持ち分 (49%) は Rostec が管理している 33) ロシア語では ICT Group は Группа «ИСТ» で これをそのまま英語に変換すると Group IST になるが ここでは ICT Group と表記している 34)Rostec は中堅銀行であるノヴィコム銀行の支配を通じて金融分野にもかかわっている 2014 年 8 月 Rostec は同行株を 25.37% から 34.04% まで買い増した Rostec 傘下のロシア国防輸出も同行株 23.63% を保有していたから Rosutec はこの段階で同行株を 57.67% 保有していたとみなすことができる ただし 同行の取締役会議長を兼務していたチェメゾフは 2014 年夏から 議長兼務とならず Rostec の会計部門長が後継となる体制をとっている ほかにも Rostec は中国のアリババと組んで イルクーツクに新国際空港を建設するためのコンソーシアムを組織し その構成物である貨物ターミナル建設にアリババの資金を誘致することも計画している なお 中国側の Rostec に近い組織に中国保利集団公司傘下の Poly Technologies( 保利科技有限公司 ) がある ロシア側への進出も開始しており 大いに注目しなければならない 35) 筆者は拙著 ネオ KGB 帝国 : ロシアの闇に迫る ( 東洋書店, 2008) において ソ連時代 国家所有のもとにあった企業には 第一課 ( ペールヴィ アトジェール ) と呼ばれる KGB の 細 ロシア産業の 内部 :Rostec にみる現状と課題 胞 があり 企業の機密保持活動に従事していた と紹介したことがある この組織 [ 上記の細胞のこと : 引用者註 ] はソ連崩壊後なくなったが その後 FSB[ 国家保安局 : 引用者註 ] から担当者 ( クーラートル ) と呼ばれる者が大規模企業に出向き企業を監視する制度が生まれた 国防発注を受けている軍産複合体には FSB だけでなく地方検事局からの監視者もいる これがロシア企業の実態なのだ このように KGB および FSB の人脈はビジネスの世界に広範に広がっている と指摘したことがある これを裏づけているのが 1995 年 4 月 3 日に制定された連邦保安局機関法であり その第 15 条において ロシア連邦の安全を保障する課題を解決するために 連邦保安局の軍人は国家機関 所有形態と無関係の企業 施設 組織にそれらの指導者の合意のもとに 軍人を軍事勤務に残したまま ロシア連邦大統領によって定められた方式で一時的に派遣されうる とされた つまり FSB の軍人と同じような将校などの肩書きをもつ職員が 一時派遣者 として企業において 屋根 の役割を果たすことが可能になったわけである おそらくこの規定がプーチン政権になって積極的に利用され それが前述した FEB の担当者 ( クーラートル ) の活用につながっているものと考えられる ついでに重要な指摘をしておくと 2006 年 1 月から施行された中国会社法の第 19 条には 中国共産党規約に基づき 会社内に中国共産党の組織を設立し 党の活動を行うものとする 会社は党組織の活動のために必要な条件を提供しなければならない と規定されている この条項にしたがわなければならない会社は規模に応じて決められているようだが 官民の差は問われていない まさに ソ連時代と同じように 企業に共産党の 細胞 を置き 監視するシステムがいまもなお中国で息づいていることになる 36) 情報分野で国家管理が強まっていることについては Andrei Soldatov & Irina Borogan (2015) The Red Web, PublicAffairs が参考になる プーチンを取り巻く人々が政治的影響力を強めている現状については Dawisha Karen (2015) Putin s Kleptocracy: Who Owns Russia?, Simon & Schuster Paperbacks を参照 ロシア NIS 調査月報 2015 年 12 月号 45