標準化技術をめぐる特許問題対策の動向

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1 パテントプール IPR ポリシー FRAND 標準化技術をめぐる特許問題対策の動向 近年 必須特許について標準化団体で制定されている IPR ポリシーが法的に有効であると認められる判決が出て おり ポリシーの改訂 整備が進んでいる また 独占禁 知的財産部 カー クリストファー なかむら おさむ 中村 修 止法に抵触しないためのパテントプールに関するガイドラ インが日米欧で公表されたことで 標準規格の必須特許を 扱うパテントプールの設立が促進されている を認めない判決も出始めている 1. まえがき しかし 独占禁止法の観点から標 近年の情報通信分野において 準化団体は具体的なライセンス条 2. 標準化団体の IPR ポリシーの動向 IMT-2000 や無線 LAN Local Area 件を決めることができないため Network などの技術の標準化は 累積ライセンス料の問題は 標準 tional Telecommunications Union を 部品の共通化によるコスト軽減や 化団体の活動の外で解決せざるを はじめとする公的な機関から 企 ローミングのために欠かせない 得ない この問題の具体的な解決 業が自主的に集まって作るフォー 技術の高度化により 標準化され 策の1つとして 複数の特許権者が ラム形式の団体まで さまざまな た仕様に含まれる必須特許 も増 共同でライセンスするパテントプ ものがある 情報通信分野におけ 加している 必須特許の権利者が ールが注目されている パテント る主な標準化団体を表1に示す 標 多いと 標準化技術を利用するた プールは多くの特許を一括してラ 準規格の制定後に その規格の必 めの権利処理が煩雑になるととも イセンスすることで煩雑な個別交 須特許保有者が他者への特許ライ に 累積したライセンス料により 渉を回避できるため 必須特許の センスを拒否する あるいは法外 コストが増加する恐れがある 多 ライセンスに適している 近年 なライセンス料を要求することに くの標準化団体では 標準化技術 各国の独占禁止法監督局がパテン よってその標準規格が実質的に利 をめぐる特許問題を解決するため トプールに関する独占禁止法上の 用できなくなると 産業の発展が に 知的財産の扱いに関する規則 ガイドラインを策定して基本的な 妨げられる このような特許問題 以下 IPR ポリシー を制定し 考え方を明確にしたことで パテ を未然に防ぐため ほとんどの標 その中で 参加者が保有する必須 ントプールの設立が促進されてい 準化団体では標準規格の策定にあ 特許を妥当な条件でライセンスす る たり IPRポリシーを制定し 標準 1 標準化団体には I T U Interna- 本稿では 各種標準化団体にお 化に参加するメンバにそれを遵守 近年 裁判において標準化団体 けるIPRポリシーの最新動向と 関 するよう求めている 一般にIPRポ が制定したIPRポリシーの法的な有 連するパテントプールの動向につ リシーには 保有する必須特許の 効性が認められ 不当な権利行使 いて解説する 番号 名称および他社に使用許諾 るという宣言を義務付けている 1 必須特許 ある標準規格を実施する際に使 用が回避できない特許 NTT DOCOMO テクニカル ジャーナル Vol. 17 No. 1 59

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3 置が検討されている また ISOと を行ったが 2008年4月にコロンビ 断に委ねられていることや 具体 IEC では選択肢が2号だけであった ア地区巡回控訴裁判所により FTC 的なライセンス条件までは定めら ため ITUのIPRポリシーが引用さ の主張は不十分であるとして退け れていないという課題がある れた場合に知的財産権の扱いがあ られており 見解が分かれている いまいであったが 2007 年 2 月に 年 12 月には 米連邦巡回控訴 標準化団体で整合がとれるように 裁判所がBroadcom Corporationと係 共通のポリシーに改定された[3] 争中の Qualcomm Incorporated 以 標準化技術に含まれる必須特許 標準化団体のIPRポリシーの法的 下 Qualcomm社 に対し 映像符 を使用したい企業は 通常 必須 効果については 裁判などでこれ 号化方式のH.264規格を策定する段 特許権者と個別にライセンス交渉 を認める判断が出ている 欧州委 階で Qualcomm社が保有する特許 を行う しかし 特許権者が多い 員会は 米国 Rambus Incorporated 情報の開示義務違反があったとす 場合には そのすべてと個別に交 以下 Rambus 社 が SDRAM る判決を下した[4] そのほか標準 渉を行うことは大変な労力が必要 Synchronous Dynamic Random 化技術関連の特許をめぐる裁判の となる また 各特許権者が妥当 例を表2に示す と考えるライセンス料で契約した 2 Access Memory の必須特許を 3. パテントプールを 取り巻く環境 このようにIPRポリシーの整備に としても 累積されたライセンス を守っていないとの訴えに対して より 標準化にかかわった特許権 料が高額になる懸念がある この 法外なライセンス料を請求するこ 者によるFRANDに反する権利主張 問題に対する 1 つの解決策として とで優越的地位の乱用 EC 条約 82 には一定の司法または行政判断が パテントプールがある パテント 条違反 があったとする仮裁定書 されているが 標準化に参加して プールとは 必須特許を保有する SO Statement of Objections を いない特許権者に対してはIPRポリ 複数の特許権者が共同してライ 2007 年 7 月に Rambus 社に発出し シーの効力はおよばない また標 センスする仕組みであり LA た なお米国ではRambus社に対し 準規格に対する必須特許の宣言に License Administrator と呼ばれる て連邦取引委員会 FTC Federal ついても 個別の特許について宣 エージェントが運営するのが一般 Trade Commission が同様の指摘 言するかどうかは特許保有者の判 的である 現在活動を行っている FRAND 条件で許諾するという約束 表2 標準化技術関連の特許をめぐる裁判の例 原告 被告 関連技術 提訴時期 管轄 原告主張のポイント 結果 FTC Dell コンピュータ 1995年 FTC 規格策定中に必須特許 の存在を隠した Dellが当該特許の権利を行使しないことで 調停が成立 Ericsson ほか4社 Qualcomm W-CDMA 2005年 欧州委員会 FRAND宣言後に 高額のライセンス料を 要求した 2007年10月に欧州委員会が調査開始を表明 原告の1社であるNokiaは2008年7月に Qualcommと和解したが 調査は継続中 Nokia Interdigital W-CDMA 2005年 英国最高裁 被告の宣言特許は 非必須である 一部の特許の必須性が否定された 特許の必須性を裁判所が判断した初の例 ebay MercExchange WWW 2006年 米国連邦 最高裁判所 被告の特許で差し止め まで行うことは不当 特許侵害があっても 差止めできない場合 があると判断 差止めを盾にした高額なラ イセンス料請求への牽制となった 2 SDRAM コンピュータのメモリ規格の1 つ 外部バスインタフェースのクロックに 同期して動作するよう改良された DRAM であり パソコン用のメインメモリなどに 使われる NTT DOCOMO テクニカル ジャーナル Vol. 17 No. 1 61

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