6－11　地震の深さの下限分布と地殻の熱構造―近畿地方中北部について―

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1 6-11 地 震 の 深 さの 下 限 分 布 と 地 殻 の 熱 構 造 近 畿 地 方 中 北 部 について Distribution of Seismic-Aseismic Boundaries and the Thermal Structure of the Crust in Northern Kinki District 京 都 大 学 理 学 部 地 震 予 知 観 測 地 域 センター Regional Observation Center for Earthquake Prediction Faculty of Science, Kyoto University 地 震 予 知 観 測 地 域 センターの 年 の 間 の 震 源 を 再 決 定 し, 観 測 点 7 点 以 上, 走 時 残 差 の 標 準 偏 差 0.1 秒 以 下 の 地 震 を 選 んで 深 さの 分 布 を 調 べた 図 1 に 使 用 した 全 地 震 の 震 央 分 布 を 示 す この 観 測 網 は 観 測 点 の 平 均 間 隔 が 約 10km であり,どの 地 震 も 震 央 距 離 5km 以 内 に 観 測 点 がある また,7 点 以 上 の 観 測 点 を 取 ることによって, 震 央 距 離 の 範 囲 が 約 50km に およぶ このことによって 全 震 源 の 深 さの 精 度 が 良 好 に 保 たれる さらに, 走 時 残 差 の 小 さい データを 選 ぶことで 読 み 取 り 誤 差 の 大 きな 地 震 を 除 くこともできる 図 2,3 にそれぞれ 北 東 - 南 西 方 向, 北 西 - 南 東 方 向 の 幅 20km 毎 の 深 さの 断 面 図 を 示 す これらの 図 で 地 震 の 下 限 が 明 瞭 に 区 別 され,その 深 さが 地 域 によって 異 なっていることが 分 か る 図 4 は 深 さ kmの 範 囲 の 深 さ 1km 毎 の 震 央 分 布 であり, 地 震 の 深 さの 下 限 を 求 め ることができる この 深 さの 下 限 の 等 深 度 線 を 集 めると, 図 5 のとおり 面 的 な 下 限 の 分 布 がで きる 図 6 には 地 震 の 深 さ 別 頻 度 分 布 をマグニチュード 別 に 示 した この 分 布 から 地 震 は km で 発 生 頻 度 のピークに 達 して, 地 震 の 下 限 の 付 近 で 急 速 に 減 少 することが 分 かる これは 地 殻 の 上 部 は 脆 性 破 壊 をし, 下 部 は 流 動 すると 言 うモデル 1) 2) 3) で 説 明 することができる このモデルによれば,この 地 震 の 下 限 分 布 は 地 殻 の 温 度 分 布 に 関 係 すると 考 えられ, 熱 流 量 が 低 い 地 域 で 下 限 は 深 くなっていると 考 えられる この 地 域 の 地 殻 熱 流 量 の 測 定 は 少 ないが,U yeda 4 ) などの 結 果 はこの 分 布 と 矛 盾 しない また, 航 空 磁 気 測 量 から 求 めたキュリー 点 深 度 分 布 5) とも 調 和 的 である 図 7 には 地 震 の 下 限 の 分 布 に 過 去 の 大 地 震 の 震 央 6) を 重 ねたものである 地 震 は 下 限 の 変 化 が 急 なところに 多 く 発 生 している さらに, 最 大 の 地 震 は 下 限 が 深 くなっているところに 発 生 している 大 地 震 の 震 源 域 付 近 の 地 震 が 深 いことは 陸 羽 地 震 の 震 源 域 でも 見 出 されており 7), 地 震 の 深 さは 内 陸 の 大 地 震 の 発 生 域 の 解 明 に 重 要 であると 考 えられる 上 述 の 脆 性 破 壊 - 流 動 モデルを 適 用 すれば, 脆 性 領 域 が 深 いほど 大 きなエネルギーを 蓄 積 することができ, 下 限 の 境 界 の 勾 配 が 大 きいところは, 物 質 の 性 質 が 異 なるため, 歪 の 伝 播 が 不 連 続 となり, 地 震 が 発 生 しやすいと 考 えることができる 今 後, 微 小 地 震 の 深 さを 精 度 良 く 決 定 することが 大 地 震 の 発 生 の 場 の 解 明 のために 重 要 であろう ( 伊 藤 潔 ) 参 考 文 献 1) Brace, W. F. and J. D. Byerlee :California earthquakes: Why only shallow focus?, 368

2 Science, 168 (1970), ) 小 林 洋 二 : 西 南 日 本 および 中 央 日 本 における 微 小 地 震 の 震 源 分 布 と 地 殻 熱 流 量 との 関 係, 地 震 予 知 シンポジウム,(1976), ) Sibson, R.H. : Fault zone models, heat flow, and the depth distribution of earthquakes in the continental crust of the United States, Bull. Seismol. Soc. Am., 72 (1982), )Uyeda S. and K. Horai : Terrestrial heat flow in Japan, J. Geophys. Res., 69 ( 1964 ), ) 大 久 保 泰 邦 : 地 熱 探 査 とキュリー 点 解 析, 地 熱 エネルギー,11(1986), ) 宇 佐 美 龍 夫 : 資 料 日 本 被 害 地 震 総 覧, 東 京 大 学 出 版 会,(1975) 7) 東 北 大 学 理 学 部 : 東 北 地 方 およびその 周 辺 の 微 小 地 震 活 動 (1986 年 5 月 ~ 1986 年 10 月 ), 予 知 連 絡 会 報,37( 1987 ),

3 第 1 図 深 さの 下 限 分 布 作 成 に 用 いた 震 央 分 布 年 の 地 震 のうち,7 点 以 上 で 観 測 された 地 震 について 再 決 定 し,P 波 の 走 時 残 差 の 標 準 偏 差 が 0.1 秒 以 下 のものを 選 んだ Fig. 1 Distribution of relocated epicenters used for drawing contours of seismic-aseismic boundaries of the crust. The earthquakes are selected out of all events recorded during under the following conditions; Number of recorded stations is more than seven and the standard deviation of O-C residuals of P-waves is less than 0.1 second. 370

4 第 2 図 北 東 - 南 西 方 向 の 20km 幅 毎 の 深 さ 分 布 Fig. 2 Cross sections of focal depth along northeast-southwest direction at intervals of 20 km width. 371

5 第 3 図 北 西 - 南 東 方 向 の 20km 幅 毎 の 深 さ 分 布 Fig. 3 Cross sections of focal depth along northwest-southeast direction at intervals of 20 km width. 372

6 第 4 図 深 さ 1km 毎 の 震 央 分 布, 図 中 の 線 は 深 さの 下 限 を 示 す は 観 測 点 Fig. 4 Distribution of epicenters at intervals of 1 km of focal depth. Triangles show recording stations and lines indicate seismic-aseismic boundaries. 373

7 第 5 図 地 震 の 下 限 の 分 布 ( 点 線 は 不 確 実 なところ) この 分 布 は 地 殻 の 熱 構 造 と 関 係 していると 考 えられる Fig. 5 Map of the seismic-aseismic boundaries of the crust. Dashed line shows uncertain part of the boundary. The distribution of the boundary seems to correlate with the thermal structure of the crust. 374

8 第 6 図 地 震 のマグニチュード 毎 の 深 さの 頻 度 分 布 図 分 布 毎 にマグニチュードの 下 限 が 示 されている 地 震 数 は 12-14km でピークに 達 し, 下 限 の 付 近 で 急 速 に 減 少 する Fig. 6 Depth-frequency distribution of earthquakes for various magnitude ranges. Lower limit of magnitude is indicated for each distribution. Number of earthquakes is maximum at km and decreases abruptly near the boundary of seismic-aseismic boundary. 375

9 第 7 図 地 震 の 下 限 分 布 と 大 地 震 (M > 6.0)の 分 布 ( 宇 佐 美 による),1928 年 以 降 この 地 域 では M > 6.0 の 地 震 は 発 生 していない 過 去 の 地 震 は 下 限 の 変 化 の 勾 配 が 急 なところで 発 生 しているように 見 える また,マグニチュード 7 以 上 の 地 震 は 下 限 が 深 いところで 発 生 している Fig. 7 Depth contours of seismic-aseismic boundaries and the distribution of large earthquakes (M> 6.0) during No earthquakes with magnitude greater than 6.0 have occurred since 1928 in the area. The earthquakes seems to occur at the area where the boundaries are steep and the large events with magnitude greater than 7.0 at the area where the boundaries are deep. 376