01_原著_責了.indd

Size: px
Start display at page:

Download "01_原著_責了.indd"

Transcription

1 71 臨床神経生理学 神経伝導検査による 2 型糖尿病神経障害の重症度分類 重症度別にみた足病変 大血管障害および突然死の発生に関する 5 年間の前向き研究 1 馬場正之 1 鈴木千恵子 2 小川吉司 我々が 2013 年に公表した 下肢 2 神経 脛骨神経と腓腹神経 の神経伝導検査による糖尿病性神経障害 diabetic neuropathy 以下 DN 重症度分類 Baba s DN classification 以下 BDC の妥当性検証を目的として 糖尿病患者 286 名で足病変 大血管障害 虚血性脳卒中 心疾患 および関連イベント死の発生を 5 年間前向きに検討した 結果 足病変発生率は BDC-0 度 DN 無し と 1 度 速度系遅延のみ 0% 2 度 腓腹神経 SNAP 振幅 5 μv 以下 4% 3 度 脛骨神経 CMAP 振幅 2-5 mv 22% 4 度 脛骨神経 CMAP 振幅 0-2 mv 38% で BDC の妥当性が確認された また 大血管障害を含むイベント発生率と死亡率は BDC-0 度 0% と 0% 1 度 3% と 0% 2 度 24% と 0% 3 度 53% と 9% 4 度 57% と 10% で 糖尿病診療における DN 重症度把握の重要性が示された 我が国の糖尿病 diabetes mellitus 以下 DM 人口は一千万人を越えた 1 DM ではいわゆる三大合併症が患者を苦しめるが そのうち末梢神経障害 diabetic neuropathy 以下 DN は手足のしびれや痛みをきたす 2 ものの 生命予後に対する DN の関与には不明な点が多い 研究が進展しない一因は神経学的重症度評価の客観性や煩雑さ 3, 4 に問題があると考えられるが 簡便性と客観性を兼ね備えた DN 重症度判定法は世界的にも無い そこで我々は DN 有無診断のゴールデンスタンダード 5,6 である神経伝導検査 nerve conduction study 以下 NCS による DN 重症度分類を 2007 年に作成し 7 臨床研究を開始 8 した 本論文では DN 関連イベント発生率からみた本分類の診断アルゴリスム 9 1 の妥当性を報告する この DN 分類は近年の本邦 DM 関 1 青森県立中央病院神経内科 2 青森県立中央病院糖尿病センター受付日 2018 年 2 月 27 日採択日 2018 年 3 月 15 日 連学会において 馬場分類 Baba s DN classification 以下 BDC の名でしばしば言及される 10 ので 本稿でも BDC の名称を用いる 2 型糖尿病患者における BDC 別 DN 関連イベント発生率から BDC の妥当性と有用性を検証する 血糖コントロールのため 2007 年 1 月 2011 年 12 月に当院糖尿病センターに入院して図 1 のアルゴリスムに従って BDC 診断を行った 2 型 DM 患者 408 例中 その後 5 年間または DM 関連イベントによる死亡まで経過を観察した 286 名 BDC 決定時の平均年齢 57 歳 を対象とした 1 型 DM 患者 神経症候の左右差や運動障害が顕著な者 アルコール多飲歴や肝障害 悪性腫瘍や血中ビタミン B 群低下や不整脈の既往がある者は除外した

2 72 1 BDC 重症度の診断アルゴリスム重症度基準 1 にそった BDC 診断手順をアルゴリスム化したもの これにより BDC 診断が検査室においても簡便に行える Fig. 1 Diagnostic algorithm of BDC. This algorithm was made from the severity criteria of BDC (Table1). DN の最終像として世界的に認められている DM 性足病変 diabetic foot 以下 DF 11, 12 の発生を BDC 別に 5 年間前向きにカウントした また 副次評価項目として 虚血性心疾患 ischemic heart disease 以下 IHD と虚血性脳血管障害 ischemic stroke 以下 IS などの大血管症 13 の発症 および突然死 14 や DF 後感染症による死亡 eventual premature death 以下 EPD も検討した DF IS IHD の確認には糖尿病内科 皮膚科 循環器科 心臓血管外科 整形外科 救急外来 神経内科 脳神経外科での診察 検査所見も参照し 新規イベントであることを確認した 突然死が EPD かどうかは 死亡時の検査や死亡状況の記載を参照して決定した 統計学的検定には t- 検定および χ 二乗検定を用いた 1 BDC DM BDC 重症度別症例数 割合 は 0 度 23 例 8% 1 度 105 例 37% 2 度 105 例 37% 3 度 32 例 11% 4 度 21 例 7% であった なお 研究対象の母集団となった 408 例での重症度分布は 0 度 9% 1 度 46% 2 度 28% 3 度 14% 4 度 3% で 研究対象群とほぼ同様であった 2 BDC SNAP CMAP BDC-2 度群と 3 度 4 度群との区分けに用いた脛骨神経 CMAP 振幅正常下限値 5 mv の妥当性をみるた BDC の重症度基準 Table 1 Severity criteria of Baba s diabetic neuropathy classification (BDC) 神経障害重症度 BDC 重症度 無 軽 中 重 廃絶 0 度 1 度 2 度 3 度 4 度 脛骨 F 波潜時延長あるいは 〇 脛骨神経 MCV 低下 〇 42 m/s あるいは 腓腹神経 SCV 低下 〇 <42 m/s あるいは 脛骨神経 A 波 〇 遅延小電位 腓腹神経 SNAP 低下 〇 <5 μv 脛骨神経 CMAP 低下 〇 2-5 mv 脛骨神経 CMAP 低下 <2 mv 〇 BDC-1 度は A 波 遅延性小電位 を含む速度系因子遅延があ る場合で 異常因子数の単数複数を問わない 速度系異常が ない腓腹 SNAP は BDC-2 度とする 速度系異常や腓腹 SNAP 低下を欠く脛骨神経 CMAP 低下は CMAP 低下度で BDC-3 度あるいは 4 度とする BDC-1 (mildly abnormal): delay in any of MCV, SCV, F-wave latency, and/or positive a-waves, BDC-2 (moderately abnormal): fall in sural SNAP amplitude less than 5 μv, BDC-3 (severely abnormal): fall in plantar muscle-cmap amplitude to 2-5 mv, BDC-4 (ultimately abnormal): fall in plantar muscle-cmap less than 2 mv. めに 患者個々の腓腹神経 SNAP 値と脛骨神経 CMAP 値の関係を 2 に示す 図 2 右上の両者正常パターン 図 2 左下の両者低下パターン および図 2 右下の CMAP 振幅正常 SNAP 振幅低下パターンに属する者は多数存在したが 図 2 左上の CMAP 5 mv 以下 SNAP 振幅正常のパターンの患者は 1 例のみであった この例は CMAP 4.9 mv SNAP 5.1 μv で CMAP 低下を重視して BDC-3 度とした また SNAP 5 μv 以下の速度系因子正常者が 7 名おり それらでは SNAP 低下を重視して BDC-2 度とした BDC-4 度群での腓腹 SNAP 振幅最大値は 1.7 μv であった 3 BDC NCS 対象患者の臨床的背景と主な NCS 結果を 2 にまとめた DM 罹病期間が BDC-0 度で短い傾向があったが 平均年齢やヘモグロビン A1c 値の群間差は軽微であった 速度系因子遅延の有無で分別した BDC-0 度と BDC-1

3 度の CMAP と SNAP は BDC-1 度の方がやや低く BDC-4 度は BDC-3 度に比して SNAP 振幅低下が著しく その消失率は BDC-3 度の 17% に対し 63% に達した また MCV と SCV は BDC 重症度の増加に伴って悪化した 4 DF 新規 DF の経年累積発生率を 3 示す BDC-0 度と 1 度では 5 年間発生なし BDC-2 度は 1 年後 1% 程度 5 年間の累積が 4% であった 一方 BDC-3 度と 4 度 2 組み入れ症例の腓腹神経 SNAP 振幅と脛骨神経 CMAP 振幅の関係太い点線は各々の正常下限 CMAP 振幅 5 mv SNAP 振幅 5 μv を示し 細い点線はCMAP 振幅 2 mv SNAP 振幅 2 μv のラインである 脛骨 CMAP 振幅が 5 mv 以下で腓腹 SNAP 振幅が 5 μv 以上の患者はおらず DM 進行過程において腓腹神経 SNAP 振幅低下が脛骨 CMAP 振幅低下に先行することが示唆される また CMAP 振幅 2 mv 以下の全例が SNAP 振幅 2 μv 以下であることは CMAP 高度症例での高度感覚神経変性を示唆する Fig. 2 Relationship of sural SNAP amplitude and tibial CMAP amplitude of diabetic subjects. Thick dotted lines are lower limit of SNAP amplitude (5 μv) and CMAP amplitude (5 mv), while thin dotted lines indicate 2 μv of SNAP amplitude and 2 mv of CMAP. There are no case with SNAP more than 5 μv and CMAP less than 5 mv; this fact indicates decline of SNAP start earlier than fall in CMAP in diabetic neuropathy. All cases with CMAP less than 2 mv have SNAP less than 2 μv; this indicates sensory fiber loss is severer in subjects with fall in CMAP than those with CMAP more than 2 mv. 3 BDC 別にみた足病変累積発症率の経年推移 BDC-0 度と BDC-1 度患者では 5 年後まで足病変発生が皆無だったが BDC-2 度では 4% BDC-3 度と BDC-4 度では各々 22% 38% に足病変が発生した BDC-0 度 BDC-1 度に対し ** p<0.01 Fig. 3 Changes in cumulative incidence of diabetic foot (DF). No case of BDC-0 and BDC-1 developed DF, while BDC-2, BDC-3 and BDC-4 developed 4%, 22% and 38% respectively within following 5 years. Asterisks indicate statistic significance against BDC-0 and BDC-1 ( ** p<0.01). 2 BDC 各群の臨床的背景と主たる NCS 結果 Table 2 Demographic data and summary of nerve conduction study at the starting point BDC 重症度 BDC-0 BDC-1 BDC-2 BDC-3 BDC-4 症例数 男 女 年齢 歳 55±16 57±14 59±12 61±10 60±9 DM 罹患年数 4.3± ± ± ± ±9.4 HbA1c % 8.9± ± ± ± ±2.7 SNAP 10.9± ± ±1.5 ** 1.6±1.3 ** 0.4±0.6 ** SCV 48.7± ± ±7.1 ** 40.0±4.0 ** 37.6±2.5 ** CMAP 11.0± ± ± ±0.9 ** 1.0±0.6 ** MCV 46.7± ± ± ±3.2 ** 35.8±3.7 ** ** は BDC-0 度に対する有意差 ** p<0.01 を示す Asterisks indicate statistic significance against BDC-0 ( ** p<0.01).

4 BDC 別にみた虚血性脳卒中累積発症率の経年推移 5 年後までの脳卒中発症者は BDC-0 度で皆無 BDC-1 度では 1% だったが BDC-2 度では 10% BDC-3 度と 4 度では各々 25% 24% に及んだ BDC-0 度 BDC-1 度に対し ** p<0.01 Fig. 4 Changes in cumulative incidence of ischemic stroke (IS). No case from BDC-0, and 1% of BDC-1 developed IS, while BDC-2, BDC-3 and BDC-4 developed 10%, 25% and 24% respectively within following 5 years. Asterisks indicate statistic significance against BDC-0 and BDC-1 ( ** p<0.01). 5 BDC 別にみた虚血性心疾患累積発症率の経年推移 5 年後までの虚血性心疾患発症者は BDC-0 度で皆無 BDC-1 度では 3% であったが BDC-2 度では 12% BDC-3 度と 4 度では各々 25% 24% に及んだ BDC-0 度 BDC-1 度に対し ** p<0.01 Fig. 5 Changes in cumulative incidence of ischemic heart disease (IHD). No case from BDC-0, and 2% of BDC-1 developed IHD, while BDC-2, BDC-3 and BDC-4 developed 12%, 25% and 24% respectively within following 5 years. Asterisks indicate statistic significance against BDC-0 and BDC-1 ( ** p<0.01). では 1 年後までの DF 発生が約 5% の患者でみられたあと毎年増え続け 5 年後 DF 累積発生率は 3 度 22% 4 度で 38% に達した 足切断は BDC-2 度以下では皆無 3 度で 3 例 9% 4 度で 1 例 5% であった 5 4 に 5 年間の IS 累積発症率推移を示す BDC-0 度では皆無 BDC-1 度は 1 例 1% であったが BDC-2 度では初めの 1 年で 3% の患者で発症があり 5 年間の累積発症率は 10% であった 一方 BDC-3 度および 4 度では 1 年後発症率が各々 6% と 9% で 以後も年毎に発症者が増え続け 5 年後の累積発症率は BDC-3 度 25% BDC-4 度で 24% に達した 5 に IHD の累積発症率推移を示す BDC-0 度には全く発症がなく 1 度で 3% だったが BDC-2 度以上では 1 年後から発症者がみられ始め 5 年の累積発症率は BDC-2 度 12% BDC-3 度と 4 度では各々 25% と 24% であった 6 5 年間に DF IS IHD のどれかを生じた患者割合を 6 にまとめた BDC-0 度では皆無 1 度で 3% であったのに対し 2 度では 24% 3 度と 4 度では各々 53% および 57% に達した 6 BDC 別にみた 5 年後までの足病変 / 虚血性心イベント / 脳イベント発症者の割合 BDC-0 度では 5 年間に何らイベント発生がなかったが BDC が高度になるにつれてイベント発生が増加し BDC-3 度と 4 度では 50% 以上の患者で何らかのイベント発生があった BDC-0 度および 1 度に対し ** p<0.01 Fig. 6 Cumulative incidence of DF, IS or IHD after 5 years. No case from BDC-0 developed any of DF, IS or IHD, while 50% of the subjects in BDC-3 and BDC-4 developed any of DF, IS and/or IHD. Asterisks indicate statistic significance against BDC-0 and BDC-1 ( ** p< 0.01).

5 EPD EPD は 5 例あった 内訳は BDC-2 度以下 233 名中に 0 名 3 度患者 32 名中 3 名 9% 4 度 21 名中 2 名 10% で BDC-3 度と 4 度に集中した 5 名中 3 名が睡眠中や早朝の突然死 2 名が足病変部からの重症感染症による死亡で 詳細は別稿で報告 14 した なお BDC-1 度で 1 例の突然死があったが 死後画像診断で大動脈瘤破裂に伴う心タンポナーデが確認されたため DN 関連 EPD には含めなかった 1 BDC DN DN の神経病理学的本態である遠位性軸索変性 15 は NCS において SNAP や CMAP の振幅低下として現れる 16 一方 伝導速度遅延は軸索変性に伴う付随現象に過ぎないから 神経線維減少度の把握に最も理に適うのは複合神経電位の測定である 17 DN は下肢中心に進行するので 腓腹神経 SNAP 振幅が最も重要な指標となる 18, 19 一方 腓腹神経 SNAP 振幅低下者が 77% を占める DM 集団での脛骨神経 CMAP 振幅低下者は 22% に過ぎない 20 このことは今回の検討でも確認され 図 2 脛骨神経 CMAP 振幅低下は腓腹神経 SNAP 低下以後に加わるという我々の DN 進行仮説が追認された 軽度変性期 DN では 活発な筋線維再支配によって CMAP 振幅低下が防御されるためと考えられる ちなみに 欧米で DN 有無診断に重視される 4 腓骨神経 NCS の短指伸筋 CMAP は 構成運動単位数の少なさのため 腓腹神経 SNAP 低下に先立って低下する場合が多い 21 そのため 重度 DN 診断における腓骨神経 NCS の有用性は低い SNAP と SCV の両因子遅延は BDC-2 度に比して BDC-3 度と 4 度両群で顕著であった さらに SNAP 消失率と平均 SNAP 低下度は BDC-3 度に比して BDC-4 度の方が高く 感覚 運動両線維の平行的進行が示された 脛骨 CMAP 振幅 2 mv 以下の例では腓腹 SNAP 振幅 2 μv 以上の例がみられなかったことは BDC-3 度と 4 度の区分けを CMAP 振幅 2 mv とした適切性を支持する結果といえる ただ 1 速度系因子が正常の SNAP 振幅低下と2 SNAP 振幅正常の CMAP 振幅低下をどう扱うかには 議論がある 22 この点については 前記のように速度低下は軸索変性の単なる付随現象であるから 1の場合は BDC-2 度と判定して良いだろう 一方 2 の場合には運動神経優位障害疾患の併発 つまり DN 以外の疾患併発の可能性を最初に疑わなくてはならない 慢性脱髄性根神経炎をはじめとする脱髄性神経炎 筋萎縮性側索硬化症や遺伝性末梢神経疾患 それに脊柱管狭窄症などが候補にあがる 2 DN BDC 本研究のエンドポイントである DF は BDC-3 度および 4 度患者に集中的に発生し DN-0 度と 1 度には皆無であった DF は DN の最終像として世界的に認められている 11, 12 ので この結果は BDC の DN 重症度分類としての妥当性を示す最も直接的な結果である 一方 速度系因子の遅延は BDC 重症度増加につれて確かに増すが 正常域からの逸脱度はせいぜい 10-20% 21 で 集団解析に有効 23 ではあっても 患者個々でのリスク評価には有用性がないと考えてよい 3 ST や IHD が BDC-2 度から増加し始め BDC-3 度と 4 度患者の 5 年後累積発症率はほぼ同等であった DM が大血管障害リスクになること 24, 25 は従来から知られてきたが 本研究から DN がリスクを増加させる可能性が浮上した しかし 体性神経機能を表す NCS が大血管障害の発症に直接関連するとは言い難い むしろ DN と平行的に進行した大血管障害や自律神経障害による血管運動機能変化が関わった可能性があろう ただ IS や IHD 関連の各種自律神経機能検査は 簡便性や信頼性の点で NCS より劣るので 大血管障害リスクを NCS で評価できることは 臨床的に重要である 4 EPD 原因不明の突然死が BDC-3 度と 4 度患者に集中的に発生したこと 14 は 注目すべきである 突然死は夜間や早朝の低血糖時に発生しやすく 交感神経機能の相対的亢進から生じる致死性不整脈 25 が主因と考えられている また 極端な血糖上下による消化管運動障害や無自覚性低血糖なども関わる 26 したがって BDC-3 度や 4 度患者では 禁煙を徹底し 急激な血糖の上下を避ける指導が望まれる また 重症感染症による死亡例が重度 DN に集中し 75

6 76 たことも重要な知見である 下肢切断後の DM 患者死亡率は 3 年で 50% に達する 12 したがって BDC-3 度および 4 度の患者ではフットケアの徹底が重要である 下肢切断の予防は 医療経済学上の世界的重要テーマ 27, 28 になっている 5 NCS DM 患者での NCS 施行は無駄である という議論に接することが時折ある NCS 結果が DM 患者の医療内容に影響も及ぼすことはほとんどなかったからである しかし 今回のデータから 下肢 NCS 結果が DM 診療を一変させる可能性が浮上した つまり BDC-0 度と 1 度患者では足病変リスクに関する患者の不安を払拭することができる一方 BDC-2 度患者では心 脳血管障害リスクが増加するので 血糖コントロールに加え 肥満 脂質異常 血圧のコントロールや禁煙の徹底が望まれる それに対し BDC-3 度や 4 度患者では大血管イベントに加え 足病変と突然死のリスクが増すので 定期的足チェックが必須となる また 片側性運動感覚障害や言語障害 胸痛などがあったら すぐに近隣基幹病院の救急室を受診するよう指導すべきである NCS に基づく患者指導の明確化とリスク管理は 年々増大する国民医療費の抑制にも繋がる NCS 専門技師の育成促進とともに 全国的な NCS 測定体制の早急な構築が望まれる 6 本研究では 重度 DN 患者すなわち BDC-3 度と 4 度患者が合わせて 53 名と比較的少なかった 幸い 本研究への患者組み入れは 2012 年以降も順調だったので 将来的には 100 名を越す重度 DN 患者での解析が可能になる予定である その折には更に詳細な解析結果を報告したい NCS 評価による BDC 分類が DN 重症度分類として妥当であることが示されたと共に DM 患者の生命予後と危険因子の評価法としても高い有用性が示された DM 診療に下肢 NCS 測定を積極的に取り入れる方向が望まれる COI 本論文の内容に関して開示すべき COI 46 2 関係にある企業はありません 1 厚生労働省 糖尿病 健康日本 21 pp , 日本糖尿病学会 糖尿病神経障害 糖尿病診療ガイドライン 診断と治療社 東京 pp , 佐々木秀行 来栖清悟 糖尿病性神経障害の各種スコア 荒木栄一 中村二郎 ( 編 ) 糖尿病性神経障害 中山書店 東京 pp 37-48, Zochodne AW, Kline G, Smith EE, et al: Diabetic Neurology. Informa, New York, pp 13-68, Dyck PJ, Davies JL, Litchy WJ, et al: Longitudinal assessment of diabetic polyneuropathy using a composite score in the Rochester Diabetic Neuropathy Study cohort. Neurology 49: , Tesfaye S, Boulton A, Dyck PJ, et al: Diabetic neuropathies: Update on definitions, diagnostic criteria, estimation of severity, and treatments. Diabetes Care 33: , 馬場正之 糖尿病性神経障害の電気生理学的病期分類試案 厚労省神経疾患研究委託費 難治性ニューロパチーの病態に基づく新規治療法の開発 平成 19 年度総括研究報告書 p 22, 馬場正之 鈴木千恵子 神経伝導検査による糖尿病性多発神経障害の重症度診断 医学のあゆみ 244: , 馬場正之 神経伝導検査による糖尿病性神経障害の重症度診断 臨床神経生理学 41: , 山本美津代 吉川美帆 福井美弥子ら 検査技師による神経伝導検査重症度分類 (NCS 馬場基準 ) 導入に向けての検討 糖尿病 58 (Suppl): 159, Boulton AJ: Diabetic neuropathy and foot complications. Handb Clin Neurol 26: , 日本糖尿病学会 糖尿病足病変 糖尿病診療ガイドライン 診断と治療社 東京 pp , 日本糖尿病学会 糖尿病大血管症 糖尿病診療ガイドライン 診断と治療社 東京 pp , 馬場正之 村上千恵子 小川吉司 糖尿病性神経障害に伴う突然死 臨床神経生理学 44: , 八木橋操六 臨床医のための糖尿病病理 診断と治療社 東京 pp , 馬場正之 神経伝導検査概論 解剖生理学的基盤と所見解釈の原理 脳の科学 24: 71-77, 馬場正之 末梢神経伝導検査の臨床応用 糖尿病性ニューロパチーへの臨床応用 神経内科 65(Suppl 4): , Behse F, Buchthal F, Carlsen F: Nerve biopsy and conduction studies in diabetic neuropathy. J Neurol Neurosurg Psychiatry 40: , Lee JA, Halpern EM, Lovblom LE, et al: Reliability and validity of a point-of-care sural nerve conduction device for identification of diabetic neuropathy. PLoS One 9(1): e86515, 2014.

7 Baba M: Diabetic nerve function: Its electrophysiological evaluation. Ward J, Goto Y (eds). Diabetic Neuropathy. Wiley, Chichester, UK, pp , Baba M, Ozaki I: Electrophysiological changes in diabetic neuropathy: From subclinical alterations to disabling abnormalities. Arch Physiol Biochem 109: , 林文子 村瀬永子 山本紗綾ら 1 型糖尿病患者における糖尿病性多発神経炎の重症度分類 臨床神経生理学 45: 456, Baba M, Kimura K, Suda T, et al: Three-year inhibition of aldose reductase on development of symptomatic neuropathy in diabetic patients. J Peripher Nerv Syst 11: , Urabe T, Watada H, Okuma Y, et al: Prevalence of abnormal glucose metabolism and insulin resistance among sub- 77 types of ischemic stroke in Japanese patients. Stroke 40: , Spallone V, Ziegler D, Freeman R, et al: Cardiovascular autonomic neuropathy in diabetes: clinical impact, assessment, diagnosis, and management. Diabetes Metab Res Rev 27: , Gill GV, Woodward A, Casson IF, et al: Cardiac arrhythmia and nocturnal hypoglycaemia in type 1 diabetes the dead in bed syndrome revisited. Diabetologia 52: 42-45, Graz H, D Souza VK, Alderson DEC, et al: Diabetes-related amputations create considerable public health burden in the UK. Diabetes Res Clin Pract 135: , 田中麻理 伊藤裕之 阿部眞理子ら 大血管症を発症した糖尿病入院患者の入院期間と入院医療費 糖尿病 57: , Severity grading system of diabetic neuropathy in type-2 diabetes by nerve conduction study: Five-year prospective study on occurrence of diabetic foot, macroangiopathic events, and eventual death MASAYUKI BABA 1, CHIEKO SUZUKI 1, YOSHIJI OGAWA 2 1)Department of Neurology, Aomori Prefectural Central Hospital 2) Diabetes Center, Aomori Prefectural Central Hospital In 2007 we introduced a grading system of severity of distal symmetric diabetic neuropathy (DN)by nerve conduction study (NCS)of the lower limb: sensory NCS of the sural nerve and motor NCS of the tibial nerve. Its diagnostic algorism was published on this journal in 2013; Recently, the classification system is sometimes referred and utilized under the name of Baba s DN classification (BDC)by the Japanese physicians and researchers. The BDC consists of five stages; BDC-0 (normal): no NCS abnormalities, BDC-1 (mildly abnormal): delay in any of MCV, SCV, F-wave latency, and/or positive a-waves, BDC-2 (moderately abnormal): fall in sural SNAP amplitude less than 5 μv, BDC-3 (severely abnormal): fall in plantar muscle-cmap amplitude to 2-5 mv, BDC-4 (ultimately abnormal): fall in plantar muscle- CMAP less than 2 mv. To test validity of the BDC system, we conducted 5-year prospective study on incident diabetic foot (DF)by the BDC in type-2 diabetic patients. In addition, incident ischemic stroke (IS)and ischemic heart disease (IHD), and eventual premature death (EPD)were counted. Among the diabetic patients examined by NCS during 2007 to 2011, 286 subjects were diagnosed by BDC and followed five years or until their EPD. The subjects categorized were as follows; BDC-0: 8%, BDC-1: 37%, BDC-2: 37%, BDC-3: 11%, BDC-4: 7%. Cumulative occurrence of DF during the 5 years was; BDC-0: 0%, BDC-1: 0%, BDC-2: 4%, BDC-3: 22%, BDC-4: 38%. Any of DF, IHD and/or IS happened as follows; BDC-0: 0%, BDC-1: 3%, BDC-2: 24%, BDC-3: 53%, BDC-4: 57%. There was no EPD from BDC-0, -1, and -2 groups (n=133), while three from BDC-3 group (n= 32)and two from BDC-4 group (n=21)were found dead unexpectedly, or died of sepsis after the recent DF. In conclusion, the BDC works satisfactory not only as grading system of current DN severity, but also for evaluation of the risk of FD, IHD, IS and EPD. Key Words diabetic neuropathy, nerve conduction study, severity grading, diabetic foot, prospective study