茨城大学教育学部紀要 ( 自然科学 )60 号 (2011) 数字記憶課題における音環境の影響小峰優子 * 佐々木忠之 * (2010 年 11 月 30 日受理 ) Effects of Acoustical Environment on Memorizing Numerical

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しゅんすけとりこし
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1 ROSE リポジトリいばらき ( 茨城大学学術情報リポジトリ ) Title 数字記憶課題における音環境の影響 Author(s) 小峰, 優子 / 佐々木, 忠之 Citation 茨城大学教育学部紀要. 自然科学 (60): Issue Date 2011 URL Rights このリポジトリに収録されているコンテンツの著作権はそれぞれの著作権者に帰属します引用転載複製等される場合は著作権法を遵守してくださいお問合せ先茨城大学学術企画部学術情報課 ( 図書館 ) 情報支援係

2 茨城大学教育学部紀要 ( 自然科学 )60 号 (2011) 数字記憶課題における音環境の影響小峰優子 * 佐々木忠之 * (2010 年 11 月 30 日受理 ) Effects of Acoustical Environment on Memorizing Numerical String Yuko OMINE* and Tadayuki SASAKI * (Received November 30, 2010) 1. はじめに日常生活はさまざまな音に囲まれている雨や風の音, 動物の鳴き声, 店内の BGM, 車が走る音や工事の音など私たちは常に何かの音を耳にしている波の音を聴いて癒されたり, 道路工事の音にうるさいと感じたりしたことは多くの人が経験しているだろう私たちは音によってリラックスしたり, 逆に不快に感じたりと日頃から良くも悪くも影響を受けている中でも, 学習や作業を行なっている時に周囲の話し声やテレビ等の雑音が気になり, 集中できないと感じたことはないだろうかそんな時の対策の一つとして, 音楽等を流して雑音が耳に入らないようにする方法が考えられるこれは聴覚のマスキング効果を利用したものであるが, 使用する音によっては雑音をマスクすることができても, かならずしも集中して作業できるようにはならないようである為末ほか (2005,2006) による有意味音声雑音下での数字記憶課題による実験では,BGM よりもピンクノイズを流した時の方がうるささ感の低減効果は高くなるが, 作業成績には差が見られないことがわかっている一方で, 相馬ほか (2005) によれば, 暗算課題での BGM 音楽の比較において, クラシック音楽等のリラックス音楽環境下では作業時間も短く誤答率も低い結果が得られているこのように音楽や音の種類, 妨害音の有無などが集中力に影響を与えることが知られているが, 無音状態とも比較した, 実際の学習環境に近い設定で音環境や BGM 音楽の影響について検討した研究は少ないように思われるさらに, 現在では科学的根拠は認められないとされているが, モーツァルト効果と呼ばれ, モーツァルトの楽曲を聴くことにより作業成績が向上するように思われている噂もたびたび耳にするそこで本研究では音と集中力の関係に焦点をあて, 音環境が人間の作業能率にどのような影響を及ぼすかについて, テレビや家族の会話などが聞こえる一般的家庭の部屋を想定した音環境を * 茨城大学教育学部感覚情報学研究室 ( 水戸市文京 2-1-1; Laboratory of Sensory Information, College of Education, Ibaraki University, Mito Japan).

3 132 茨城大学教育学部紀要 ( 自然科学 )60 号 (2011) 比較したさらに, 妨害音の影響を低減する音として, ホワイトノイズと BGM の効果を比較した 2. 実験 5 種類の異なる音環境において数値記憶課題を課し, 回答の入力に要した時間 ( 入力時間 ), 正答率を比較する実験を行った外部からの音の影響を排除するため, 実験は防音室内で図 1に示すレイアウトでおこなった音環境は表 1に示す A から E の5 種類とした音環境 B の BGM には, 比較的曲調に変化が少なく, 音量の変化も少ないモーツァルト弦楽四重奏曲第 19 番第 1 楽章を使用したまた, 音環境 C の妨害音にはトーク番組の音声を使用した実験を行う前に普通騒音計 NA 29( リオン株式会社 ) を使用して室内の音圧レベルを測定した結果, 暗騒音の音圧レベルは 20dB(A) であった妨害音の大きさは, 家庭の子ども部屋等で隣室からの話し声等が比較的よく聞こえる環境を想定し,35 ± 5dB(A) に設定したさらに, この妨害音を確実にマスキングできるように BGM は 60 ± 5dB(A), ホワイトノイズは 59dB(A) の大きさにそれぞれ設定した作業課題は短時間に表示される6 桁の数字を暗記する課題であり, 各音環境毎に図 2に示すような以下の手順でおこなったモニタ上に作業開始の合図が表示された後に, 被験者はスタートボタンをマウスでクリックし, 作業を開始した 3 秒間の準備時間が与えられた後,6 桁の数字が2 秒間モニタ上に表示される表示された数字が消えた後, 被験者は記憶した 6 桁の数字を表示された順番で, テンキーから入力し,Enter キーを押す再び準備時間 3 秒後,6 桁の数字が2 秒間提示され, 数字の入力, と繰り返して行った 1つの音環境についてこの課題を 50 問課した表 1 実験で使用した音環境

4 小峰佐々木 : 数字記憶課題における音環境の影響 133 図 1 実験時のレイアウト図 2 作業の手順図 3に示すように, 被験者はこの作業終了後, 次の音環境での作業前に3 分間の休憩を取り, 全部で5つの音環境のもとで作業をおこなった提示する音環境の順番は被験者によって変え, 学習効果や疲労等による影響が相殺されるように配慮したまた, 休憩時には, 作業に集中して取り組めたかについての簡単な内省報告をとったさらに実験終了後, 全体を通した内省報告をさせた被験者は歳の大学生で男子 6 名, 女子 14 名の計 20 名であった図 3 実験の進め方

5 134 茨城大学教育学部紀要 ( 自然科学 )60 号 (2011) 3. 結果と考察 3.1 入力時間各音環境における作業の平均入力時間を図 4に示すそれぞれの平均は,A( 無音 ):130.6 秒, B(BGM):128.3 秒,C( 妨害音 ):138.2 秒,D( 妨害音 +ホワイトノイズ ):126.9 秒,D( 妨害音 + BGM):131.3 秒であった音環境が妨害音の場合には若干入力時間が長くなったが, 有意水準 5% で分散分析を行った結果, 音環境の違いによる有意差は認められなかった各作業とも平均入力時間に大きな差がなく, この実験課題においては音環境の違いは入力時間に影響をおよぼさなかったと思われる図 4 音環境毎の平均入力時間 3.2 正答率各音環境における作業の正答率を図 5に示すそれぞれの平均正答率は,A( 無音 ):83.9%, B(BGM):80.5%,C( 妨害音 :77.6%),D( 妨害音 +ホワイトノイズ ):81.4%,E( 妨害音 + BGM):79.1% であった正答率が最も高い条件は無音, 最も低い条件は妨害音であった分散分析の結果, 音環境の正答率への影響に有意差が認められた (p<0.05) 次に有意水準 5% で多重比較 (Tukey's HSD test) を行った結果, 無音と妨害音の条件間でのみ有意差が認められ, 無音環境での正答率が妨害音環境と比べ有意に高いことが分かったこの実験においては有意差が認められなかったが, 妨害音をマスクする音について比較すると, ホワイトノイズを使用した場合の方が正答率が若干高く,BGM でマスキングした場合に比べて集中して作業に取り組めたのではないかと考えられるまた,BGM 環境では無音環境に比べて正答率が低下しており, 音楽が無い方が集中して作業に取り組めたのではないかと思われる

6 小峰佐々木 : 数字記憶課題における音環境の影響 135 図 5 音環境毎の平均正答率 3.3 内省被験者には各音環境での作業終了直後に集中して作業に取り組めましたかという質問をおこない, 集中度について5 段階で評価をしてもらった分析に当たっては, 集中できた (2), やや集中できた (1), どちらでもない (0), やや集中できなかった ( 1), 集中できなかった ( 2), のように5 段階の評価を2から 2で数値化して行ったこの結果を図 6に示すそれぞれの平均は,A( 無音 ):1.4,B(BGM):0.15,C( 妨害音 ): 0.5, D( 妨害音 +ホワイトノイズ ):0.2,E( 妨害音 + BGM):0.2 であった分散分析の結果においても 5% 水準で有意差が認められ, 多重比較を行った結果, 無音環境は他のすべての音環境との間で有意差に集中できると感じていることが認められたその他の音環境間では有意差は認められなかった図 6 自己評価の平均

7 136 茨城大学教育学部紀要 ( 自然科学 )60 号 (2011) 集中できたかについての評価は無音環境で最も高く, 妨害音環境で最も低かった妨害音 + ホワイトノイズ及び妨害音 + BGM の環境は同程度の評価であり, 妨害音のみの環境に比較すると多少評価は高くなるものの有意差が見られるほどの差は見られなかったまた,BGM 環境は無音環境に比べ有意に評価が低くなっており, 感覚的にも音楽が無い方が集中できたと思われていることが分かったさらに全作業終了後に作業のしやすさについて質問したところ, 最もしやすかった音環境として, 無音を選んだ被験者が 12 名,BGM, 妨害音が各 3 名, 妨害音 +ホワイトノイズが2 名, 妨害音 + BGM が0 名であった逆に最も作業がしにくかった音環境として, 妨害音を選んだ被験者が9 名,BGM が5 名, 妨害音 +ホワイトノイズ, 妨害音 + BGM が各 3 名, 無音が0 名であった 4. まとめ本研究では,5 種類の音環境において数字記憶作業を行い, 音環境が作業能率に与える影響を調べた作業の所要時間や正答率および集中度についての自己評価で比較した結果, 音環境は作業能率に影響をおよぼすことが分かった作業効率は, 無音環境が最も高く, 妨害音のように話し声のある環境で最も低くなった妨害音環境はマスキング効果によって多少の改善は見られるが, 有意差を示すには至っていなかったよって, 集中でき, 作業効率を高められる環境を考える上では, 静穏な環境の実現に最も配慮するべきであり, 音楽などによるマスキング効果にはあまり期待すべきでないと考えられる一方で, 静穏な環境の実現が難しい場合には, マスク音として BGM よりもホワイトノイズの方が若干効果が高く, 音楽を聴きながらの作業は思った以上に効率が良くないことを示唆しているまた, 妨害音のマスキング効果を比較した為末ら (2005) の研究において,BGM よりピンクノイズのような無意味雑音の方がうるささ感の低減効果が高いという結果が得られていることから, うるささ感と集中度には強い相関があるとに思われる今後はこの成果を教育や学習環境等の改善等に役立てていくとともに, スポーツの競技や練習場面等での音環境の役割についても検討を加えていきたい引用文献為末隆弘山口静馬佐伯徹郎加藤雄一定常及び編同音を用いたマスキング効果によるうるささの低減. 日本音響学会誌,61, 為末隆弘佐伯徹郎山口静馬知的作業時のマスキング効果によるうるささの低減. 信学技報, EA , 相馬洋平松永哲雄曽我仁内山尚志福本一朗音楽環境の違いによる作業効率に関する間工学的基礎研究. 信学技報,MBE ,43-46.

スマホ利用によるコミュニケーションの変容 ( 上 ) SNS ( 概要 ) SNS , LINE 90 SNS SNS LINE 2011 SNS LINE LINE 2 SNS はじめに

スマホ利用によるコミュニケーションの変容 ( 上 ) SNS ( 概要 ) SNS , LINE 90 SNS SNS LINE 2011 SNS LINE LINE 2 SNS はじめに ROSE リポジトリいばらき ( 茨城大学学術情報リポジトリ ) Title スマホ利用による若者のコミュニケーションの変容 ( 上 ) : SNS は若者の感性を変えたのか Author(s) 村上, 信夫 Citation 茨城大学人文社会科学部紀要. 人文コミュニケーション学論集, 2: 145-167 Issue Date 2018-03 URL http://hdl.handle.net/10109/13523

茨城大学教育学部紀要 ( 自然科学 )60 号 (2011) 数字記憶課題における音環境の影響 小峰優子 * 佐々木忠之 * (2010 年 11 月 30 日受理 ) Effects of Acoustical Environment on Memorizing Numerical

茨城大学教育学部紀要 ( 自然科学 )60 号 (2011) 数字記憶課題における音環境の影響小峰優子 * 佐々木忠之 * (2010 年 11 月 30 日受理 ) Effects of Acoustical Environment on Memorizing Numerical