NLMKとMMKは集団外の第三者からの調達に頼らざるをえない状況にある 鉄鉱石では セーヴェルスターリ NLMKの自給率が高く MMKがここでも極端に低い 05 年 6 月の コメルサント 紙によると セーヴェルスターリとメチェルの石炭自給率は100% で エヴラズグループが 72% で 鉄鉱石の自

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1 ロシアの鉄鋼メーカー集団をめぐる現状分析 高知大学助教授塩原俊彦 はじめに /1 1. エヴラズグループ /3 2. マグニトゴルスク冶金コンビナート (MMK)/8 3. セーヴェルスターリ /11 4. ノヴォリペツク冶金コンビナート (NLMK)/16 5. メチェル /18 6. 結びに代えて /20 はじめに 2004 年ころから1 年ほど続いた鉄鋼価格の世界的高騰によって ロシアの鉄鋼メーカーもその勢力を大きく拡大する傾向にある ここでは 各鉄鋼メーカー集団について詳しく分析し 若干の展望につなげたい なお 筆者は個別の大規模な石油 ガス会社集団についての現状分析を行っており 本稿はその一環として鉄鋼メーカーについて調査 考察するものである 1) 出所については 字数制限のため注と表の部分を除いて 必要最小限としている ロシアの粗鋼生産量 (04 年 ) を各社別にみると 第 1 表に示したように エヴラズグループ マグニトゴルスク冶金コンビナート (MMK) セーヴェルスターリ ノヴォリペツク冶金コンビナート (NLMK) 鉄鋼グループ メチェルの順になっている これら5 社によって ロシア全体の粗鋼生産の約 8 割が生産されている 2) 連結決算に基づく売上高でもエヴラズグループがもっとも多いが 純利益ではNLMKが最大となっている NLMKの収益率がもっとも高い 社員数からみると エヴラズグループやメチェルの労働生産性が比較的低いことがわかる 鉄鋼メーカー集団ごとに製品に特徴があることや コークス用炭や鉄鉱石の企業集団内調達の度合い ( 自給率 ) に違いがあることなどが収益に影響をおよぼしている たとえば エヴラズグループは レール供給で100% のシェアを誇っているほか H 形鋼の88% を供給している ( いずれも04 年 ) エヴラズグループは 長もの に強いといえる あるいは 同集団は鉄道や建設業といった政府規制業種と密接な関係を有していると考えられる 一方 コークス用炭の自給率をみると 04 年の場合 メチェルが88% エヴラズグループが69% セーヴェルスターリ グループが61% と高く ロシア東欧貿易調査月報 2006 年 4 月号 1

2 NLMKとMMKは集団外の第三者からの調達に頼らざるをえない状況にある 鉄鉱石では セーヴェルスターリ NLMKの自給率が高く MMKがここでも極端に低い 05 年 6 月の コメルサント 紙によると セーヴェルスターリとメチェルの石炭自給率は100% で エヴラズグループが 72% で 鉄鉱石の自給率では メチェルが100% セーヴェルスターリ グループが75% NLMK が74.88% エヴラズグループが73% だが MMKは10% にすぎない 鉄鋼メーカー集団は輸出によって多額の利益をあげている といっても 低付加価値品が中心にすぎない 各集団別の輸出実績を調べてみると 実際にはなかなかいい資料が見当たらない 個別にわかった範囲内で説明すると NLMKの場合 04 年の売上高の64% は輸出によるものだった (03 年は58% 02 年は61%) エヴラズグループの場合 04 年の鉄鋼部門収入の約 46% が輸出販売によるものだった (03 年は30% 02 年は38%) MMKやセーヴェルスターリはほぼ半分の製品を輸出しているが メチェルの輸出比率は3 割程度で 他社に比べると低い いずれにしても ロシアの鉄鋼業は輸出に深くかかわっており 鉄鋼輸出に伴うダンピング問題 あるいは ウクライナなどからの鉄鋼関連原料 製品の輸入税課税問題などを通じて 政府との密接な関係を必要としている さらに カルテルを組んで価格引き上げをはかるといった状況が生まれやすく 反独占政策の重要性も増している 3) しかし 03 年にロシア国内における鉄鋼製品価格は世界価格よりも急上昇し 国内価格が世界価格を上回る事態も起きているという 4) 鉄鋼業が輸出優先の輸出産業であるとは単純にはいえない状況にある ( 第 1 表 ) ロシアの鉄鋼メーカーの主要指標 (2004 年 ) 粗鋼 (100 万 t) 売上高 (10 億ドル ) 純利潤平均社員数 (10 億ドル ) エヴラズグループ ,000* マグニトゴルスク冶金コンビナート ,868 セーヴェルスターリ ,049 ノヴォリペツク冶金コンビナート ,433 鉄鋼グループ メチェル ,982 ** ( 出所 )Evraz Group S.A. Annual Report 2004, Open Joint Stock Company Magnitogorsk Iron & Steel Works and subsidiaries, Consolidated Financial Statements, 2004, Магнитгорский металлургический комбинат, годовой отчет за 2004 год, Северсталь, годовой отчет за 2004 год, Novolipetsk Stee Annual Report 2004, Prospectus Mechel, October 29, 2004, エクスペルト No.41, ( 備考 ) 売上高と純利潤についてはルーブル建ての公表数字しか見つからない場合には 04 年末 の1ドル=27.75ルーブルで換算した 資料によって数値が異なる場合 各社自身の資料を優先 させた ( 注 )*2004 年末の数値 **2004 年 6 月 30 日の数値. 2 ロシア東欧貿易調査月報 2006 年 4 月号

3 1. エヴラズグループ 04 年末 ルクセンブルクにEvraz Group S.A. という会社が登録された その年次報告書によると エヴラズグループは株式の95.8% をもつMastercroftという会社を通じて 鉄鋼 鉄鉱石 石炭 商業 物流の4 部門からなっている (05 年 6 月末の持ち分は100%) こうした構成を示したのが第 1 図だ Mastercroftの株式は05 年はじめまでそのままだったが 5 月までにEvraz Group S.A. に移された 5) 後述するロンドン市場での株式公開を前にとられた措置とみられる 03 年の場合で Mastercroftの純利益の75% 強は移転価格 ( 輸出価格の引き下げ ) を用いてオフショア会社である Ferrotrade UKとFerrotrade Gibraltarに移転されていた 株式公開を前に こうした方式を改める必要があったものと考えられる しかし 会計検査院が04 年と05 年の9カ月間についてNTMK ZapSib NKMK( いずれも後述 ) を調べたところでは 輸出高をほぼ99 億ルーブル削減し 23 億 7,000 万ルーブル (8,230 万ドル ) の納税義務を節約してきたという Mastercroftは02 年末にキプロスに設立された会社で 03 年段階では 同じキプロスの会社 Crosland Limitedが100% 保有していた 6) Evraz Group S.A. の基本株主はCrosland Global Limitedである 7) つまり Evraz Group S.A. を形成する過程で その親会社にも変化が生じたと考えられる Crosland Global Limitedの持ち分の65.26% はアブラモフ ( 会長兼 CEO) が 31.11% はフロロフ ( 取締役兼 Senior Executive 副社長 ) が 2.08% はホロシコフスキー (02 年 12 月から04 年 1 月までウクライナ経済相 04 年夏 エヴラズホールディング副社長 エヴラズグループChief Operating Officer) が保有していたが 後述するIPOに伴う増資後 それぞれの持ち分は59.11% 28.18% 1.88% に減少した 06 年 1 月には Crosland Global Limitedに対するアブラモフとフロロフの持ち分のうち 6% を機関投資家に売却したことが明らかになった このため とくにアブラモフとフロロフの持ち分はさらに減ったことになる 92 年 アブラモフを筆頭に学者 技術者グループは ロシアとウクライナで鉄鋼 鉄鉱石 石炭などを取引するトレーデイング会社エヴラズメタルを設立した フロロフもアブラモフと同じモスクワ物理工科大学出身で 94 年ころにアブラモフらに合流した 95 年 スイスの会社 Duferco のパートナーとして外国でなどで冶金取引をするようになった 同年 2 月までに グループEAM が設立され それが一時期 持ち株会社としてグループの中心となった アブラモフの戦略は ねらいを定めた鉄鋼メーカーに対する売掛債権を買い集め それを当該鉄鋼メーカーの株式と交換して鉄鋼メーカー支配につなげるというものであった こうして NTMK( ニジニタギリスク冶金コンビナート ) NKMK( ノヴォクズネツク冶金コンビナート ) ZapSib( 西シベリア冶金コンビナート ) などの大量の株式を取得することに成功した ロシア東欧貿易調査月報 2006 年 4 月号 3

4 ( 第 1 図 ) エヴラズグループの構成 ( カッコ内は持ち株比率 %) Mastercroft (95.8) 鉄鋼鉄鉱石石炭商業 物流 NTMK(77.1) ウ ィソココ ルスク GOK(78.5) Mine 12*(0) Ferrotrade Limited(95.8) NKMK(90.0) カチカナル GOK(80.7) ネリュンク リ石炭 (95.8) TH EverazHolding(95.8) ZapSib(90.7) エウ ェラス ルータ (99.9)** ラスラト スカヤ (47.7) ナホトカSea Port(82.2) Evraztrans(72.8) ( 注 )* エウ ラス ク ルーフ は05 年 3 月に持ち分 100% を取得 ** 取得したのは05 年 3 月 ( 出所 )Evraz Group S.A. Annual report (2005) p. 9. エヴラズグループの構成を具体的にみてみよう グループのなかで最重要部門である鉄鋼部門を取り上げたい NTMKについては05 年 12 月段階のインターネット情報では エヴラズグループは同社株の92.4% を保有している 8) NKMKについては 同保有率は100% になっている ZapSib は同 95.4% といずれも親会社の株式保有率が04 年末に比べて上昇していることがわかる なお 05 年 12 月段階では 鉄鋼部門において ほかにイタリアのPalini e Bertoliという建設鋼材メーカーの株式の75%+1 株や チェコの厚板メーカーであるVitkovice Steeiの株式の99% を保有している 前者は05 年 8 月に4,300 万ユーロで購入したとみられている 後者については 05 年 8 月 チェコの裁判所がMP Consultの訴えに基づいて株式のエヴェウラズグループへの譲渡を停止させた ( 現在 この係争がどうなっているかは不明 ) (1)NTMK( スヴェルドロフスク州 ) 31 年に建設工事が開始され 40 年に生産をはじめた ロシアになってから92 年 12 月に登録され 経営自主権を得た 2コークス生産プラント 6 高炉 1 酸素コンヴァータープラント 1open hearth プラント 4 連続鋳造設備 6 圧延機などを保有 建設 輸送業や機械製作などにかかわる約 800 種の鉄鋼製品を生産している 04 年の年次報告によると 粗鋼生産量は03 年並の5,482( 千 t) だった 製品構成をみると 鉄筋などの半製品が全体の43% を占め パイプが15% だった 4 ロシア東欧貿易調査月報 2006 年 4 月号

5 売上高は 579 億ルーブルで うち冶金製品が 534 億ルーブルだった このうち 54% が国内向けに販 売され 残りの多くが輸出された 純利潤は 133 億ルーブルにのぼり 03 年実績の 3.2 倍だった 04 年の平均社員数は 3 万 550 人だった (2)NKMK( ケメロヴォ州 ) 03 年 5 月にクズネツク冶金コンビナート (KMK) をもとに設立された KMKは1920 年代に建設が始まり 32 年から生産を開始した 1コークス生産プラント 2 高炉 1open hearth プラント 2 連続鋳造設備 7 圧延機などを保有 レールの全品種を生産しており 全レールの3 分の 2を生産している 04 年の製品構成をみると 銑鉄が37% 銑鉄を除く半製品が26% レールなどの鉄道関連製品が21% だった 04 年の統合財務報告書によると 売上高は10.1 億ドルで 純利潤は2 億ドルだった 04 年末の社員数は1 万 3,046 人だった (2)ZapSib( ケメロヴォ州 ) 57 年に建設プロジェクトが承認され 64 年に生産開始 92 年 11 月 公開型株式会社西シベリア冶金コンビナートとなる コークス生産プラント 3 高炉 2 酸素コンヴァータープラント 1 連続鋳造設備 4 圧延機などを保有 04 年の年次報告によると 粗鋼生産量は03 年より6% 減の 5,603( 千 t) だった 製品構成をみると 半製品が39% 銑鉄が29% だった 売上高は73% 増の 326 億ルーブルで 純利潤は2.8 倍の48 億ルーブルまで拡大した 圧延材や鉄線などの冶金製品の 36% は輸出された 04 年の平均社員数は2 万 9,093 人だった Evraz Group S.A. の04 年年次報告によると エヴェラズグループの全鉄鋼販売量の54% が輸出によってもたらされた 輸出国をみると 台湾が全体の 31% タイが17% 韓国やフィリピンが8% イランが7% 中国が6% だった つぎに 鉄鉱石部門をみてみると 第 1 図とは異なって ヴィソコゴルスクGOK( 選鉱コンビナート ) に関するエヴラズグループの保有株式比率は05 年 12 月段階のインターネット情報では 87.4% で カチカナル GOKは97.6% エヴラズルーダは100% となっている 9) いずれも持ち株比率が上昇している 04 年のロシア全体の鉄鉱石生産量は約 9,300 万 tで 中国 ブラジル オーストラリア インドについで世界第 5 位 ヴィソコゴルスクGOK(04 年の平均社員数 6,924 人 ) はNTMKから約 10km しか離れておらず 主としてNTMKに鉄鉱石を供給している 04 年にエヴラズグループはNTMK から約 150km 離れたカチカナルGOK( 同 9,594 人 ) を支配下においた 04 年の同社の販売高の約 ロシア東欧貿易調査月報 2006 年 4 月号 5

6 16.9% はエヴェラズグループ外の第三者への販売によってもたらされた エヴェラズルーダは02 年に操業を開始した 同社は主としてNKMKおよびZapSibに鉄鉱石を供給している 04 年の売上高の約 20% はエヴラズグループ外への販売によるものだった なお 鉄鉱石供給について04 年実績を示したのが第 2 図である これからわかるように カチカナルGOKが第 4 位 エヴラズルーダが第 5 位 ヴィソコゴルスクGOKは第 10 位だった 石炭部門をみると Mine12については 第 1 図の注にあるように 05 年 3 月に持ち分 100% となったが 03 年にエヴラズグループに入ったネリュングリ石炭については 05 年 12 月段階のインターネット情報では エヴラズグループの持ち株比率は100% で 04 年 3 月にエヴラズグループが株式の過半数を支配するようになったラスラドスカヤは47.8% だった 第 1 図にはないが ほかにユジクズバス石炭の株式の50% を保有している この株式は05 年 12 月になって 自らのグループ会社 Crosland Ltd. から6 億 7,500 万ドルでエヴラズグループが購入したものだ ( 第 2 図 )2004 年の鉄鉱石供給実績 (100 万 t) ヴィソコゴルスク GOK オルコン コルシュノフスキー GOK コヴドルスク GOK 5.3 カレリア ペレット エヴラズルーダ カチカナル GOK ストイレンスキー GOK 12.6 ミハイロフススキー GOK レベジンスキー GOK ( 出所 )Evraz Group S.A. (2005) Annual Report, p ロシア東欧貿易調査月報 2006 年 4 月号

7 ( 第 2 表 )2004 年の石炭企業の生産実績 ボイラー用炭 (1,000t) シェア (%) コークス用炭 (1,000t) シェア (%) 合計 (1,000t) シェア (%) SUEK 78, , クズバスラズレズ石炭 34, , , ユジクズバス石炭 4, , , ユージニヌィ クズバス 6, , , ラスラドスカヤ - - 9, , ヤクート石炭 3, , , ヴォルクタ石炭 , , その他 81, , , 合計 208, , , ( 出所 )Evraz Group, Global Offering of 9,700,000 Shares in the form of Global Depositary Receipts (2005) p 年のロシア全体の石炭生産量は2 億 8,300 万 tで うち約 74% はボイラー用炭だった ユジクズバス石炭は04 年 コークス用炭でロシア最大の生産量 1,400 万 tをあげた ラスラドスカヤはボイラー用炭の生産はなく コークス用炭の生産が970 万 tで 第 2 位だった 05 年 9 月 エヴラズグループはヤクーチヤの石炭開発のための合弁会社を三井物産と設立することに合意した 合弁会社の持ち分の70% はエヴラズグループ 30% は三井物産が受け取る なお 個別石炭企業の04 年の生産実績は第 2 表に示した通りである 第 1 位の生産量を誇るSUEKは01 年に設立されたシベリア石炭エネルギー会社 ( バイカル石炭 ) のことで MDM 銀行グループのメリニチェンコとポポフが対等条件で所有している 10) エヴラズグループはIPO(Initial Public Offering) の一環として 05 年 6 月 増資して ロンドン証券取引所に株式全体の8.3% にあたる株式をGDR(Global Depositary Receipts) として上場させた GDRは国際 ( グローバル ) 預託証券と呼ばれ 株式そのものは自国に預け 株式に代わってそれに見合う証書を上場させるもので 欧州で発行されロンドン証券取引所に上場されるものをいう 公開価格は1GDR=14.5ドルで 4 億 2,200 万ドルを資金調達することに成功した さらに 株式の17% をロンドン証券取引所で追加発行する計画もある 05 年 11 月 エヴラズグループを率いてきたアブラモフは注目すべき人事異動を発表した エヴラズグループの株式の過半数を保有するアブラモフはエヴラズグループ社長兼会長 ( 取締役会議長 ) だったが 06 年 1 月から社長のポストをホロシコフスキーに 06 年 5 月から会長の座をフロロフに譲ることを明らかにしたのだ 後述するように セーヴェルスターリのモルダショフ MMKのラシニコフ NLMKのリーシン 鉄鋼グループ メチェルのジュージンにしても 大株 ロシア東欧貿易調査月報 2006 年 4 月号 7

8 主でありながら 会長の地位にあるが アブラモフは大株主であるにもかかわらず 会長ポストも譲り 経営から離れる決断をしたことになる この決断の目的はまだ判然としておらず アブラモフの持ち株が近く後述するウスマノフという同じ冶金関係の富豪に売却されるのではないかとの観測が生まれている 2. マグニトゴルスク冶金コンビナート (MMK) 32 年に生産を開始したMMKは92 年 10 月に株式会社形態となった 株式の75% は普通株 25% は優先株だった すべての優先株は労働集団に無償交付され 普通株の8.7% は労働集団に売却された 普通株の5% は指導的職員に売却され 10% は株式化基金に残された 国家所有のもとには当初 株式の51.3% が残された 95 年 8 月 MMKの国家保有株の一部が金融産業グループ マグニトゴルスク鉄鋼 (MMKも設立者のひとつ) に売却されることになった 11) マグニトゴルスク鉄鋼のシャリポフ社長は購入したMMKの株式の30% ほどを関係会社に移した後 マフムドフ率いるウラル鉱山冶金会社に売却した 一方 原料を供給し製品を販売するという委託加工取引を MMKを相手に拡大していたTWG (Trans World Group) はMMKの株式の17% を買い集めることに成功した その後 MMKの経営陣の持ち株比率は約 60% まで増え 国家保有分が17.82%( 全体の比率 普通株の23.76%) となる一方 鉄鋼グループ メチェル傘下のユージヌィ クズバスのMMK 持ち株比率は10.19%( 同 13.5%) となり その後 メチェルグループの持ち株比率は16% 程度まで増加した 04 年年次報告によると 05 年 3 月 7 日付の株主構成では 資産関係省の持ち株比率が04 年 4 月の23.76%( 普通株 ) から0になった フルヴェル インヴェストメントも16.59% から0になった 信託管理者である 有限会社メコムおよび閉鎖型株式会社 投資会社決済フォンドセンターの持ち株比率はそれぞれ 39.67% が39.95% 18.21% のままと いずれもほぼ横ばいだった 一方 UFGグループに入っている U.F.G.I.S Structured Holdings Limitedの持ち株比率は0から41.05% まで急増した これは 04 年 12 月に行われたMMKの国家保有株式 17.84%( 普通株の23.8%) の売却オークションで Structured Holdingsが7 億 9,015 万ドルで落札したことに関連している 同社は97 年からMMK 社長を務め 05 年 4 月から会長になったラシニコフの関係する会社であるとみなされている このオークションの直前 UFGグループの他の子会社は鉄鋼グループ メチェルが保有していたMMK 株 16.5% を7 億 8,000 万ドルで購入した こうして ラシニコフらMMF 幹部は MMFの株式の97% に対する支配権を確立したという その一方で 04 年 12 月にフリステンコ産業エネルギー相がMMK 株を購入し その持ち株比率は50% を超え ラシニコフのそれは約 30% に 8 ロシア東欧貿易調査月報 2006 年 4 月号

9 すぎないという情報もある なお インターネット情報では 05 年 10 月 1 日現在 名目上の株主として KUB ガスプロム銀行 デポジタリー VBRR ODK 決済フォンドセンター ズベルバンクがそれぞれ32.28% 14.85% 16.08% 6.87% 13.26% 6.36% 7.5% を保有していた しかし これをみてもだれが実質的な株主であるかは判然としない MMK 経営陣は普通株の98.4% 優先株の 87% を支配下においているという情報がある 04 年の連結財務報告によると MMKの子会社はロシア国内に30 社 スイスに2 社 ルクセンブルクに1 社の合計 33 社あった 関連会社などを含めると 05 年には65 組織がMMKグループに含まれていた 子会社のなかには マグニトゴルスク金属冶金工場も含まれており MMKの持ち株比率は83% だった ただ MMKは鉄鉱石や石炭といった原料関連会社を子会社として保有しておらず 原料基盤が脆弱と指摘されている MMKは鉄鉱石の10% 程度を自らのグループ内で調達していたが 残りの約 30% はロシア ( ミハイロフスキー選鉱コンビナート20% レベジンスキー選鉱コンビナート10%) から 約 70% はカザフスタン ( ソコロフスク サルバイスク選鉱企業合同 ) から購入していた 05 年 5 月 鉄鉱石をMMKに供給してきたレベジンスキーとミハイロフスキーの選鉱コンビナート ( 第 2 図からわかるようにロシア第 1 位と第 2 位の鉄鉱石供給企業 ) およびソコロフスク サルバイスク選鉱企業合同はMMKへの鉄鉱石供給を一時停止した 価格面で折り合いがつかなかったためだ MMKはメチェルグループのコルシュノフスキー選鉱コンビナート セーヴェルスターリ グループのカレリア ペレット エヴラズグループのカチカナル選鉱コンビナート ウクライナのポルタフスク選鉱コンビナートから鉄鉱石を購入することにした ソコロフスク サルバイスク選鉱企業合同からの買付は05 年 8 月から再開され レベジンスキー選鉱コンビナートからの調達も9 月に再開された しかし ウクライナからの鉄鉱石は価格が安く これによってロシア国内の選鉱コンビナートが大きな打撃を受けている MMKのソコロフスキー サルバイスキー選鉱企業合同への依存度も70% 程度から40~50% まで低下している ミハイロフスキー選鉱コンビナートは MMKとの妥協を避け 鉄鋼世界最大手のMittal Steel( インド人 Mittal に属していたIspat InternationalとLNM Holdingが合併し 米国のInternational Steel Groupを統合して 04 年に設立 ) およびU.S. Steelと長期契約を締結し MMKに代わって これらの会社に鉄鉱石を供給することにした さらに MMKはチェリャビンスク州やバシコルトスタン共和国で鉄鉱石の開発に従事しており グループ内での鉄鉱石調達を増やそうとしている 石炭についても 炭鉱開発を急いでいる 鉄鋼グループ メチェル傘下の石炭持ち株会社ユー ロシア東欧貿易調査月報 2006 年 4 月号 9

10 ジヌィ クズバスはMMKへの石炭供給で協力関係にあり メチェルがMMKの株式を保有していた03 年ころには委託加工が利用されてきた MMKはメチェルグループから供給される石炭を利用して鉄鋼を生産し それをメチェルグループに引き渡すというものだ MMKは一定の 委託加工代金 を受け取るが メチェルグループが優位にたった取引が可能だった 04 年になって メチェル側が石炭価格を15% 値上げしたのを契機に 両者の関係は崩れ MMKは石炭調達先をクズバス カザフスタン ヤクートの石炭などに求めた さらに MMKは上述したようにメチェルグループの保有していたMMK 株を買い取った 05 年になって MMKとメチェルグループとの関係が復活し メチェル傘下のユージヌィ クズバスに属する中央選鉱工場シベリアが石炭を MMKに供給しはじめた 一方 MMKは 05 年 8 月 ロシアの大規模パイプ製造メーカー パイプ冶金会社 ( ヴォルガ シナルスク セーヴェルスクのパイプ工場やタガンログ冶金工場からなる ) と3カ年鉄鋼供給契約を締結した パイプ冶金会社は04 年にエヴラズグループとも長期契約を締結した MMKの海外進出はエヴェラズグループや後述するセーヴェルスターリに比べて遅れているが 05 年 11 月 MMKはPakistan Steel Mills Corporation( 粗鋼生産年約 100 万 t) の私有化に参加申請した さらに インドに新しい製鉄工場を建設する意向を示している MMKはIPOを計画している 05 年 4 月には その準備としてMMK 取締役会メンバーにズベルバンクのクズィミン社長を入れた 一説には MMKグループはズベルバンクから4 億 1,100 万ドル 全体の借入の58% を借り入れており MMKとズベルバンクは密接な関係にあった しかし こうした緊密な関係にあるズベルバンクの社長がMMKの取締役に就任することにはズベルバンク監査会議の承認が必要との意見もあり 結局 クズィミンは05 年 11 月 MMK 取締役を辞任した なお 05 年 12 月 26 日からはRTSとモスクワ銀行間通貨取引所においてMMK 株が売買されるようになった MMKの経営陣のうち 最有力なのはラシニコフで 97 年からMMK 社長 05 年 4 月から会長 ( 取締役会議長 ) になった 後任の社長になったのはセニチョフだ MMKと深いつながりがあるのはMMKのあるチェリャビンスク州出身のフリステンコ工業エネルギー相である かれは97 年 8 月から98 年 5 月までと99 年 5 月から02 年 5 月までの2 回 MMKの取締役に就任していたこともある 99 年 5 月には第一副首相に就任したこともある実力者であるフリステンコがMMKと密接な関係を有していることはMMKの強みとなっている 10 ロシア東欧貿易調査月報 2006 年 4 月号

11 3. セーヴェルスターリ セーヴェルスターリに基づいて 02 年 6 月 持ち株会社であるセーヴェルスターリ グループが設立された セーヴェルスターリ グループは企業の生産活動にかかわるのではなく 株式所有にかかわる会社で 当初は製鉄 原料 自動車部門を傘下にもっていた 現在は 1 製鉄 2 原料 ( セーヴェルスターリ レスールス ) 3エンジニアリング ( セーヴェルスターリマシ ) 4 自動車 ( セーヴェルスターリ アフト ) という4つの部門からなっている 05 年 3 月 18 日に更新された情報では セーヴェルスターリ グループは年間 31 億ドルの総売上高をもち 120 以上の企業と統合して13 万人を雇用する企業集団となっている ただ セーヴェルスターリ グループの株主構成および保有株式については判然としない セーヴェルスターリ グループの社長には モルダショフ セーヴェルスターリ会長 ( 取締役会議長 ) が就任した 93 年 9 月 24 日付大統領令によって 国有チェレポヴェツ冶金コンビナートは公開型株式会社セーヴェルスターリとしてチェレポヴェツク市に登録された 私有化方式の第 2バリアントである 労働集団各構成員に資本の51% までの普通株の優先購入権を与える方式が選択された 結局 株式の約 48% が労働集団のもとに残され 3% がオークションで売却された 経済危機のもとで 多くの労働者が株式を転売しかねない状況となったため セーヴェルスターリの当時のリプヒン社長はセーヴェルスターリ インヴェスト ( 株式の24% はセーヴェルスターリに属し 76% はセーヴェルスターリ インヴェストを主導していたセーヴェルスターリの財務経済担当取締役モルダショフに属していた ) を通じて株式売却希望者から株式を買い集めようとした 51% の株式割当の後 残りの株式はふたつの方法で売却された 株式の29% は私有化小切手のオークションで販売され 26.5% をセーヴェルスターリ インヴェストが購入した 残り 20% は10% 5% 5% に分けて貨幣オークションされた これらの株式の多くもセーヴェルスターリ インヴェストに蓄積された 後に これらの株式は モルダショフが株式の51% リプヒンが49% をもつセーヴェルスターリ ガラントに移された 結局 02 年にリプヒンが引退して年金生活に入るとき かれはかれに属する株式を有利な条件でモルダショフに売却した その時点で セーヴェルスターリの株式の約 85% は経営陣 6% 程度は労働集団が保有し 9% は株式市場で売買されていた セーヴェルスターリの03 年年次報告によると 04 年 3 月 1 日現在 モルダショフによる同社に対する直接ないし間接の持ち株比率は82.75% で 機関投資家は6.50% モルダショフを除く経営陣 従業員は10.75%( うちモルダショフを除く取締役で1.36%) だった 生産設備として コークスプラント 燒結プラント 5 高炉 3 酸素コンヴァーター 6 連続鋳造設備 各種圧延機な ロシア東欧貿易調査月報 2006 年 4 月号 11

12 どを有している 04 年年次報告では 粗鋼生産は前年比 5.6% 増の1,044 万 tだった 03 年年次報告では 03 年末の情報として 鉄鋼部門に関連して 1Severstal North America(03 年に破産状態にあった米国第 5 位の鉄鋼メーカー Rouge Industriesを取得し改名 ) の株式 100% を米国に設立した持ち株会社 Severstal Investmentsが保有し その持ち株会社株の100% をセーヴェルスターリが保有する 12) 202 年に誕生した欧州の多国籍鉄鋼メーカー Arcelorとセーヴェルスターリの合弁会社である閉鎖型株式会社セーヴェルガルの株式の74.99% をセーヴェルスターリが保有する ( 残りをArcelorが保有 ) 3 鉄鋼輸出会社 Severstal Export GmbHの株式の99.80% および Severstallat ASの株式の50.50% を保有する オーストリアの持ち株会社 Severstal Trade GmbH の株式の100% をセーヴェルスターリが保有する 4 修理 建設会社を所有する有限会社セーヴェルスターリマシ グループの株式の99.99% をセーヴェルスターリが保有する ことが明らかにされた 金属製品部門では 金属製品メーカーのChSPZ( チェレポヴェツク鋼圧延工場 03 年末で6,886 人を雇用 ) の株式の82.31% をセーヴェルスターリが保有していた 銀行部門では メトコムバンクの株式の53.57% をセーヴェリスターリが保有し 保険部門では シェクスナ保険会社株の90.09% を所有していた つぎに原料部門についてみてみよう セーヴェルスターリ グループ設立に伴って 持ち株会社セーヴェルスターリ レスールス ( 社員数 3 万 5,000 人強 ) は閉鎖型株式会社として誕生した その株式の83~84% はセーヴェルスターリ グループが保有し 8% ほどはセーヴェルスターリ従業員のもとにあり 7~9% は少数株主に保有されている 持ち株会社の資産構成に入っているのは カレリア ペレットの株式の57% オルコンの株式の50.9% ヴォルクタ石炭の支配株 クズバス石炭の99.7% などだ 78 年から生産を開始し 93 年に公開型株式会社になったカレリア ペレットは94 年 12 月にセーヴェルスターリのグループに入った 採掘される鉄鉱石の6 割強はセーヴェルスターリに供給され 残りは輸出されている 04 年 11 月の情報では 社員数は6,571 人 オルコン ( オレネゴルスク選鉱コンビナート ) は49 年から活動を始め 95 年 12 月にセーヴェルスターリのグループに加わった 04 年 11 月の情報では 社員数は2,927 人 この2 社からの鉄鉱石供給によって セーヴェルスターリの必要とする鉄鉱石の75% 程度が供給されている (03 年年次報告 ) 残りは MDMグループのコブドルスクGOKから購入している 34 年に設立されたヴォルクタ石炭は03 年 6 月 セーヴェルスターリ グループに入った 04 年 11 月の情報では 社員数は1 万 6,553 人 クズバス石炭は99 年にセーヴェルスターリ石炭 レーニンスク石炭 ベロヴォ石炭に基づいて設立された 01 年にセーヴェルスターリはクズバス石炭の株式を取得し それがセーヴェルスターリ グループに移された 04 年 11 月の情報では 社員数は7,219 人 これらの石炭会社に 12 ロシア東欧貿易調査月報 2006 年 4 月号

13 よってセーヴェルスターリの石炭需要が100% 満たされている 04 年になって モルダショフは持ち株会社セーヴェルスターリ レスールスを廃止することを決めた ただし その理由は判然としない その下流の各持ち株会社株はセーヴェルスターリ本体が保有することになった 06 年 2 月の情報では モルダショフはカレリア ペレット株の84% 強 オルコン株の約 90% ヴォルクタ石炭株の63% 強 ペチョラ石炭株の90% などを支配しているというが モルダショフがどのような会社を通じてこれらの株式を保有しているのかは判然としない このとき セーヴェルスターリは現行資本金の72% にあたる3 億 9,752 万株を増資する方針を決め 3 月 27 日の臨時株主総会にかける 増資の一部を引き受ける モルダショフが最終受益者であるキプロスの会社 Frontdealは この代金をカレリア ペレット オルコン ヴォルクタ石炭などの株式を保有している会社の株式や持ち分によって支払う こうして 事実上 カレリア ペレット オルコン ヴォルクタ石炭などの株式がセーヴェルスターリに移譲されることになる エンジニアリング部門については 上記の有限会社セーヴェルスターリマシ グループが有限会社セーヴェルスターリマシとして セーヴェルスターリ グループに加わったものとみられる 05 年 6 月の情報では 社員数は1 万 1,000 人 自動車部門では セーヴェルスターリ アフトが02 年に設立された 05 年 3 月 1 日現在の同社の株式保有状況を示したのが第 3 図である UAZはウリヤノフスク自動車工場のことで 41 年に設立され 00 年にセーヴェルスターリのグループに加わった ZMZはザヴォルガ モーター工場で 58 年に設立され 01 年に同グループに参加した 二つの子会社の売上高を合わせて セーヴェルスターリ アフトの04 年の売上高は7 億 9,900 万ドルで 前年比 18.8% 増加した 輸出高は1 億 2,500 万ドルで48.4% も伸びた 販売台数でみると 10.7% 増の7 万台で エンジン販売は4.6% 増の27 万 3,700 個だった 04 年末の社員数は3 万 7,874 人で うちUAZが1 万 9,918 人 ZAZが1 万 6,729 人だった 同社の04 年年次報告によると 05 年 3 月 31 日現在 セーヴェルスターリ アフトの普通株の 87.69% はキプロスのNewdeal Investmentsが保有していた この会社の普通株の85% をモルダショフ セーヴェルスターリ アフト会長が 15% をシヴェツォフ同社長が所有していたから セーヴェルスターリ アフトの普通株の約 74.54% をモルダショフ 約 13.15% をシヴェツォフが保有していたことになる 普通株の約 7% は機関投資家によって 約 5% は配当の代わりに株式を受け取ったセーヴェルスターリの旧 現従業員によって保有されていた なお この時点で Newdeal Investments は資本の約 30% にあたる株式を株式公開する予定であった ( 後述 ) ロシア東欧貿易調査月報 2006 年 4 月号 13

14 ( 第 3 図 ) セーヴェルスターリ アフトの構成 ( カッコ内は持ち株比率 %) セーヴェルスターリ アフト (66.07)* (75.04)** UAZ ZMZ (100) (100) (15) (85) (100) UAZ-メタルルキ ヤ UAZ-アフトトランス ZMZ-ロト シフ ニク スコルシ ェニヤ ZMZ-トランスサーウ ィス ( 注 )* 普通株の 67.77% ** 普通株の 87.76% ( 出所 )Severstal Auto, Annual Report 2004 (2005) p. 8. UAZについて詳しくみてみると 04 年の販売台数 7 万 71 台中 44% がスポーツ多目的車 (SUV) で ついで小型トラックやワンボックス車 (Van) がそれぞれ26% 24% だった 輸出台数は2 万 608 台で ウクライナが全体の31% カザフスタンが23% アフガニスタンが14% を占めていた ZMZで製造されるエンジンの8 割ほどがゴーリキー自動車工場向けに販売されており 同じグループのUAZ 向けのエンジン製造個数は04 年実績で1 万個程度にすぎない 05 年 11 月には ロシア連邦経済発展貿易省とセーヴェルスターリ アフトは7 年間の韓国自動車メーカー Ssang Yongの組み立て合意に署名し 7 年間に30% までの現地調達を実現することになった セーヴェルスターリ アフトが05 年に購入したZMA( 軽自動車工場 ) でライセンス生産を行うものだ これは 05 年 4 月 セーヴェルスターリ アフトの株式の30% をロシア国内のRTS とモスクワ銀行間通貨取引所 (MICEX) で売り出した結果 調達した1 億 3,500 万ドルをもとに購入したものである セーヴェルスターリ グループには ほかにもイジョーラ パイプ工場 ( 社員約 500 人 ) 金属製食器製造のセーヴェルスターリ エマリ ( 約 1,300 人 ) 金属部品を使用した家具製造のセーヴェルスターリ メーベリ (550 人 ) 金属販売にかかわるセーヴェルスターリ インヴェスト(750 人 ) 保険会社シェクスナ(350 人 ) 合板製造のズヴェザ(5,000 人 ) 冶金商業銀行( メトコム銀行 118 人 ) などが入っている セーヴェルスターリ グループの基本的な決済銀行はサンクトペテルブルクの工業建設銀行で その株式の10% はセーヴェルスターリに属していた 同じころ メトコム銀行の株式の90% およびプロムトルグ銀行の株式の約 10% がセーヴェルスターリ関連組 14 ロシア東欧貿易調査月報 2006 年 4 月号

15 織に属していた さらに セーヴェルスターリ グループは03 年にサンクトペテルブルクの銀行ロシアの株式の9% を6 億ルーブルで購入した 04 年には 同グループはガスプロムの子会社だった保険組織ガス工業 (SOGAZ) の株式の一部を取得した セーヴェルスターリ グループを主導するモルダショフは チェレポヴェツに65 年に生まれた 両親ともチェレポヴェツ冶金コンビナートで働いていた 83 年にレニングラード工科経済大学に入り ここでチュバイスと知り合ったとされている 大学卒業後 88 年にチェレポヴェツ冶金コンビナート (93 年からセーヴェルスターリ ) で勤務を開始し 92 年に財務 経済担当取締役に任命された 96 年 4 月にはセーヴェルスターリ社長に就任した 02 年 6 月 セーヴェルスターリ グループの社長のポストにも就いた 同時に セーヴェルスターリ セーヴェルスターリ アフト セーヴェルスターリ レスールスの会長 ( 取締役会議長 ) になった セーヴェルスターリ グループは近年 マスメディアへの投資を積極化している REN-TV(97 年 1 月からモスクワで放送を開始 ) をめぐって セーヴェルスターリは01 年からその株式を保有していたロシア統一エネルギーシステムからREN-TVの株式の70% を購入した その後 このうちの半分は石油会社スルグートネフチガスに売却されることになった ほかにも セーヴェルスターリ グループはサンクトペテルブルクにあるテレビラジオ局ペテルブルクの株式の18% を保有している 地元のチェレポヴェツでは テレビ局 TB-7 12 プロヴィンツィヤなど 多くのマスメディアがモルダショフから資金支援を得ているといわれている 05 年 4 月 セーヴェルスターリとその株主はイタリアの形鋼メーカー Lucchiniの株式の約 62% を4 億 3,000 万ユーロで購入することになった うち20%-1 株はグループ内のメトコム銀行が保有し 残りの約 42% はモルダショフに近い会社が保有することになった さらに セーヴェルスターリ関連の組織は05 年 5~6 月にLucchiniの株式の7.9% をさらに6,100 万ユーロで購入した 05 年 10 月には セーヴェルスターリ グループと米国のSteelCorr が合弁会社 SeverCorrを設立して 2 億 8,000 万ドルを投資して 米国に新鉄鋼工場を建設する計画が明らかになった セーヴェルスターリ グループはSeverCorrの株式の80% を保有し 20% はSteelCorr がもつ Severstal North AmericaはWheeling-Pittsburgh Steel Corporationとともに 米国西ヴァージニアにコークス生産のための合弁会社 Mountain State Carbonを設立し 年産 120 万 tのコークス生産をめざすことが05 年 10 月 明らかになった ロシア東欧貿易調査月報 2006 年 4 月号 15

16 4. ノヴォリペツク冶金コンビナート (NLMK) 04 年年次報告によると 第 3 表に示したように 04 年末の大株主の多くがキプロスに登録された企業で 実質的な株主がだれであるのか 判然としない NLMKは05 年 12 月にIPOの一環として ロンドン証券取引所に株式全体の7% にあたる株式をGDRとして上場させた この株式はVeft Enterprisesが保有していたものだ 第 3 表にあるキプロスに登録されたいずれの会社も NLMK の会長 ( 取締役会議長 ) のリーシンに密接に関係した会社とみられ このIPO 直前で NLMKの株式の89.85% がリーシンに属していたとみられている 13) この IPOによって リーシンは6 億 900 万ドルを手にしたという IPO 後 リーシンの持ち分は82.85% 程度になった スイスのUBSは06 年 1 月 リーシンからNLMKの株式の0.45% をIPOの売り出し価格 14.5ドルで購入する権利を行使したから リーシンの持ち分は82.4% 程度に減少したとみられる NLMKは34 年にノヴォリペツク冶金工場として操業開始後 83 年にノヴォリペツク冶金コンビナートに改称 92 年 12 月に公開型株式会社となり 現在に至っている NLMKグループは 1ストイレンスキー GOK(04 年末のNLMKの持ち株比率 96.98%) 2コンビナートKMAルーダ (32.9%) 3スタグドク (88.62%) 4ドロミト (92.74%) 5リペツクコム銀行 (50.07%) 6 TMTP(69.41%) などのほか 100% 子会社として販売会社や保険会社などがある 05 年 11 月には NLMKに関係深いキプロスの会社 Chypit Ltd. がオークションで 2,790 万ドルの価格でロシア第 2 位の貨物取扱港を管理する海洋港サンクトペテルブルクの株式の48.79% を購入した すでに NLMKの子会社が05 年 6 月 同社株の50.01% を取得済みだから NLMKは同社の98.8% を支配したこといなる ( 第 3 表 )NLMK の大株主と持ち株比率 名称 登録場所 持ち株比率 (%) Silner Management Limited キプロス Merobel Investments Limited キプロス Ultimex Trading Limited キプロス Veft Enterprises Limited キプロス Castella Investments Limited キプロス 閉鎖型株式会社 LBKインヴェスト ロシア 7.52 ( 出所 )Годовой отчет, Новолтпецкий Металлургический Комбинат, 2004 (2005) С ロシア東欧貿易調査月報 2006 年 4 月号

17 04 年にNLMKは ロシアの鉄鉱石採掘 選鉱で第 3 位のストイレンスキー GOKの97% を取得した 14) KMAルーダは鉄鉱石関連の採掘 選鉱に従事しており 後述するウスマノフの関連する会社からさらに株式 25% を購入することになったから 06 年には支配権が確立する スタグドクやドロミトは採掘企業だ NLMKは 04 年に港湾のオペレーターであるTMTPの支配株を取得した NLMKは上記のストイレンスキー GOKとKMAルーダから必要とする鉄鉱石を100% 供給されている ストイレンスキー GOKはNLMKだけでなく セーヴェルスターリにも鉄鉱石を供給している 05 年末 リーシンはウスマノフとそのパートナーが関係している会社から 同社が保有しているレベジンスキー選鉱コンビナートの株式の12% を4 億ドルで購入することになった さらに KMAルーダの株式の25% を同じウスマノフらから購入することも決まった 石炭については 04 年年次報告では クズバスの炭田から80% ヤクーツクとヴォルクタの炭田から各 10% ずつ供給を受けているとされた しかし 自己所有の石炭会社からの石炭供給を受けているわけではない このため オーストラリアなどからの安定的な石炭購入などを行う必要性に迫られている 05 年 5 月末 ケメロヴォ州にあるコークス用炭の2 鉱区の入札が行われ 1 つをNLKMが落札した 15) 埋蔵量は2 億 3,990 万 tで 3,920 万ドルで落札した 06 年 1 月 マフムドフが保有するプロコフィエフスク石炭 (7 炭田を持ち 05 年の石炭採掘量 510 万 t) の持ち分とアルタイコークス ( 年約 200 万 tのコークスを生産 ) の株式を90% 程度 リーシンのNLMKに売却することで合意したことが明らかになった リーシン会長は90 年代はじめ ロンドンに本拠をおく アルミニウム取引などで有名なTrans World Group(TWG) の雇われマネジャーだった リーシンはクラスノヤルスク アルミニウム工場 サヤン アルミニウム工場 NLMK MMKの取締役に就任した 94 年にはTWG 側がNLMK 株の36% リーシン側が約 12% 保有するようになった リーシンはTWGに頼まれて 約 50% の株式を保有する もうひとつの大株主であったレフォルマ グループ ( ボリス ヨルダンが主導 ) がNLMKの経営に関与しないようにした ところが 97 年 リーシンは突然 TWGからレフォルマに寝返り レフォルマの株を買い取った 怒ったTWGは株式をポターニンが主導するインターロスに売却した リーシンはインターロスが支配するノリリスクニッケルの少数株主から株式を買い集め ノリリスクニッケルの取締役になるという奇策に打って出た 02 年 ついにインターロスはリーシンにNLMK 株を売却し リーシンのNLMK 支配は確立した この間 リーシンは新聞社 ガゼータ を設立するなど マスコミ対策も行った ロシア射撃協会を主導し ロシアオリンピック委員会議長の候補者に名乗りをあげるまでになっている NLMKの海外進出は 02 年 10 月 NLMKの関係会社 Jysk Stalindustriがデンマークの破産状態にあ ロシア東欧貿易調査月報 2006 年 4 月号 17

18 った Danish Steel Works を約 3000 万ドルで取得したころに本格化した 05 年秋 NLMK はトルコの Erdemir という鉄鋼メーカーの株式 46.12% の入札に参加したが 結局トルコ軍年金基金が落札した 5. メチェル 鉄鋼グループ メチェル ( 以下 メチェル ) は03 年 3 月に設立された 1チェリャビンスク冶金コンビナート (04 年 6 月末の社員数 2 万 4,685 人 ) 2コルシュフノキー選鉱コンビナート ( 同 4,517 人 ) 3ユジウラルニッケル ( 同 4,848 人 ) 4 石炭持ち株会社南クズバス ( 同 1 万 2,555 人 ) などを中心に 持ち株会社形態の会社が誕生した メチェルが保有する株式構成 (03 年末 ) を示したのが第 4 表である これからわかるように ロシアだけでなく 海外にも資産をもつ多国籍企業としてメチェルは生まれた メチェルは当初 破産手続き途上にあったルーマニアの鉄鋼メーカー COST 株の79.7% をルーマニア政府から02 年 8 月に取得した 350 万ドルを現金で支払い 2,110 万ドルの投資を行うことになった 同じルーマニアのIndustria Sarmeiについては 03 年 6 月にルーマニア政府から同社株 73.4% を取得した その後 株式が79.8% まで買い増された 第 4 表にはないが メチェルは04 年 5 月 イジスターリの株式の61.6% を2,510 万ドルで取得した イジスターリは03 年の粗鋼生産 42 万 t 圧延材生産 34 万 tの鉄鋼メーカーで 04 年 6 月末の社員数は 1 万 1,992 人だった メチェルは04 年 10 月 ニューヨーク証券取引所にADS(American Depositary Shares) を上場させたのに伴って 株主構成に大きな変化が生じた 資本金の10% にあたる13,875,691ADSが売り出され 2 億 9,100 万ドルが調達された このうち8,325,414ADSは半分ずつ ジュージン会長 ( 取締役会議長 ) とイオリフ社長の持ち分から拠出された 残りの33,301,659ADSはドイツ銀行の持ち分から拠出された 株式公開直前 ジュージンは有限会社 MetHolを通じてメチェル株の11.5% Canares Holdingを通じて同 13.3% を支配し 自ら直接 23.02% を保有していた この結果 ジュージンの持ち株比率は47.8% だった 一方 イオリフはBritta Investmentsを通じてメチェル株の16.6% Canares Holdingを通じて同 13.3% を支配し 個人的に17.93% を保有していたから その持ち株比率は47.8% だった ともに 同数のADSを販売したから 株主公開後の持ち株比率はともに42.97% になった メチェルの04 年年次報告によると 04 年末にジュージンが直接 保有していたメチェル株は19.65% で イオリフは15.5% だった 名目上の株主としては ジュージンとイオリフが共同出資しているConares Holdingが約 25% 上記のBritta Investmentsが約 14% ドイツ銀行が約 2% MetHolが約 10% などとなっていた 18 ロシア東欧貿易調査月報 2006 年 4 月号

19 ( 第 4 表 ) 鉄鋼グループ メチェルの保有株式構成 登録国主要ビジネス支配獲得日 持ち株比率 (03 年末,%) Mechel Trading スイス 持ち株会社とTrading 07/01/ Mechel etal Supply リヒテンシュタイン Trading 10/30/ Mechel Trading House ロシア 持ち株会社とTrading 06/23/ 石炭持ち株会社南クズバス ロシア 持ち株会社とTrading 01/21/ 主要子会社シビルギンスク露天掘り鉱山 ロシア 炭鉱 01/21/ クラスノゴルスク露天掘り鉱山 ロシア 炭鉱 01/21/ トムシンスク露天掘り鉱山 ロシア 炭鉱 01/21/ オルジェラスク露天掘り鉱山 ロシア 炭鉱 12/28/ トムシンスク加工工場 ロシア 石炭加工 12/31/ クズバス中央加工工場 ロシア 石炭加工 12/31/ レーニン鉱山 ロシア 炭鉱 12/29/ ウシンスク鉱山 ロシア 炭鉱 12/29/ シベリア中央加工工場 ロシア 石炭加工 12/22/ チェリャビンスク冶金コンビナート ロシア 鉄鋼生産 12/27/ ユジウラルニッケル ( 南ウラルニッケル工場 ) ロシア ニッケル製造 12/27/ ヴャルツィリャ金属製品工場 ロシア 鉄鋼生産 05/24/ ベロレツキー冶金工場 ロシア 鉄鋼生産 06/14/ Combinatul de Oteluri Speciale Targoviste (COST) ルーマニア 鉄鋼生産 08/28/ Mechel Zeljezara クロアチア 鉄鋼生産 03/17/ ウラル圧断工場 ロシア 鉄鋼生産 04/24/ コルシュノフスキー選鉱コンビナート ロシア 鉄鉱石採鉱 選鉱 10/16/ Industria Sarmei ルーマニア 鉄鋼生産 06/20/ Mechel Nemunas リトアニア 鉄鋼生産 10/15/ Mechel Coal Resources カザフスタン 石炭加工 12/31/ ( 出所 )Mechel Prospectus (2004) p. F 年 2 月 イオリフは自らの関与する持ち株比率 42.2% 分の株式をジュージン会長に売却することを明らかにした その金額は17 億 7,000 万ドルともいわれており ジュージン個人が購入するには高額すぎるため 後述するウスマノフが購入するのではないかとの見方もある 04 年 10 月のADS 売り出しのための趣意書によると メチェルはコークス用炭を100% 自らのグループ内で賄うことができ 鉄鉱石の92% ニッケルの55% を自給できるという 05 年はじめには メチェルはヤクート石炭 ( 国有単独企業ヤクート石炭を株式会社化して02 年に設立 コークス用炭中心に約 2,000 万 t) の株式の25% を4 億 1,000 万ドルで購入した 新たな原料炭調達ルートを模索していることになる ロシア東欧貿易調査月報 2006 年 4 月号 19

20 6. 結びに代えて 最後に ウスマノフとアニシモフをめぐる鉄鋼関連ビジネスについてまとめておきたい ウスマノフはガスプロムの社長だったヴャヒレフの知遇を得て 98 年 11 月から ガスプロムの100% 子会社ガスプロムインヴェストホールディングの第一副社長に就任した ガスプロムインヴェストホールディングは ガスプロムの不良債権を対象企業の株式と交換して (debt swap) 資産として保有する会社で 99 年からオスコリスク電気冶金コンビナート (OEMK) の株式の16.547% や ロシア最大の鉄鉱石供給企業であるレベンジスキー選鉱コンビナート (LGOK) の株式の57.117% を保有するようになった 00 年 2 月からは ウスマノフは同社社長になり ヴャヒレフ更迭後も生き残った ガスプロム新社長ミレルの承認のもとに 01 年 OEMKとLGOKの株式は閉鎖型株式会社ガスメタルに移された ガスメタルは00 年にガスプロムインヴェストホールディングと金融グループ インターフィンによって設立された会社で OEMK 株とLGOK 株をガスメタルに移す代わりに ガスメタル株の48.295% がガスプロムインヴェストホールデイングに渡された 02 年 4 月 このガスメタル株はインターフィングループに入っている会社に売却された したがって OEMKとLGOKの株はガスメタルによって所有され そのガスメタルはインターフィングループによって支配されているという形式が整えられたことになる ウスマノフは94 年から98 年まで銀行間投資金融会社 インターフィンの社長を務めていた 同グループはウスマノフ クヴェトノイ ガスメタル社長 もうひとりの不明人物の3 人によるパートナーシップによって成り立っているとみられている ガスメタル株の54.4% をウスマノフ 20% 弱をクヴェトノイ 20% 強を不明人物が実質的に支配しており ガスメタル自体はOEMK 株の71.02% LGOK 株の81.51% を保有しているという ウスマノフはついで 鉄鋼メーカーのオルスク ハリロフスク冶金コンビナート (NOSTA) に目をつけた 01 年 11 月 NOSTA には破産手続きから外部管理が1 年間導入されるなど 混乱がつづいていた 加えて NOSTA 会長であったアンドレーエフのNOSTA 株 54% が不法にバーゾヴィ エレメント ナフタ モスクワ Millhouse Capitalに取得されたのではないかという嫌疑も生まれた 結局 03 年の段階では ウスマノフと アルミニウム産業から急成長した企業家デリパスカが対等条件で設立したウラルスターリがNOSTA の資産を保有することになった その後 04 年 4 月 デリパスカはウラルスターリの持ち分 50% をウスマノフに関連する会社に売却した この会社は閉鎖型株式会社メタロインヴェストと考えられる 閉鎖型メタロインヴェスト株の50% はウスマノフ 50% はアニシモフが保有しており メタロ 20 ロシア東欧貿易調査月報 2006 年 4 月号

21 インヴェスト自体はウラルスターリ (NOSTA はウラルスターリに改称 ) 株の100% ロシア第 2 位の鉄鉱石供給企業ミハイロフスキー GOK 株の97.57%( ただし この株は同株購入時にヴニェシトルグ銀行から10 億ドルを借り入れる担保として同行に差し出されている ) トゥーラチェルメト株の30% などを保有しているという 16) 以上から ウスマノフとアニシモフはガスメタルとメタロインヴェストのふたつの会社を使って 冶金ビジネスに従事していることがわかる 今後 こうした資産の統合がはかられることになるとみられる ここでの分析から ロシアの鉄鋼メーカー集団は5 社およびウスマノフ アニシモフグループの6つにまとまろうとしていることがわかる 17) ただし これらの集団化は第 1 段階にすぎず これらの集団がさらに統合され より大きな企業集団を形成する可能性が高い すでに セーヴェリスターリのモルダショフは00 年にMMKのラシニコフに対して資産統合を提案したほか エヴラズグループのアブラモフとNLMKのリーシンとの間でも合併の話し合いが行われたという 18) とくに 原料基盤の弱いMMKに対しては ウスマノフらによってMMKへの鉄鉱石供給を一時停止して揺さぶりをかけるといった方法もとられている しかし いま現在 MMKがどうなるかは判然としない いずれにしても ロシアの鉄鋼メーカー集団がさらに数社に収斂し より巨大な集団になることがめざされているのは確実だ それは 鉄鋼世界最大手のMittal Steel( オランダ ) による第 2 位 Arcelor( ルクセンブルク ) の買収提案が06 年 1 月に公表されて以降 世界的な傾向になりつつある ロシアでも巨大集団化によって 対外競争力を強化すると同時に 生産効率の上昇に結び付ける動きが広がるものと予想される 一方でIPOによる資金調達を通じて 多額の投資が可能な状況が生まれている 本稿では 鉄鋼メーカー集団ごとの投資状況を検討するだけの余裕はなかったが 設備投資拡大が行われ 企業集団の効率化が実際にはかられるようになれば 鉄鋼メーカー集団の対外競争力の向上につながるものと予想される ただし IPOによって鉄鋼メーカー集団のオーナーの私的利益だけが優先される可能性も残されている このため 企業集団ごとの 統治 の観点から 各鉄鋼メーカー集団が集団として利益拡大に取り組む体制づくりを行いうるかが 今後のポイントとなるだろう 19) ロシア東欧貿易調査月報 2006 年 4 月号 21

22 注 1) 拙著 ロシアの資源力 ( アジア経済研究所 2006 年近刊 ) で ガスプロム ルクオイル スルグートネフチガス TNK-BP ロスネフチなどについて詳しく考察している 2) ロシアの04 年の粗鋼生産量は 6,430 万 t 程度で 世界全体の6% ほどだ 中国 (2 億 7,250 万 t) 日本 (1 億 1,270 万 t) 米国(9,850 万 t) についで世界第 4 位 3) たとえば03 年 11 月 反独占政策省 ( 当時 ) は MMK セーヴェルスターリ NLMKの3 社がパイプ用鋼鈑の価格を引き上げ パイプ製造会社のパイプ価格の上昇につながったのではないかと パイプを購入するガスプロムやトランスネフチの抗議に基づいて調査を行った 4)Буданов, И. (2005) Металлургия в процессе экономического роста в России, Проблемы прогнозирования, 2, С ) エヴラズグループの04 年年次報告では 05 年 4 月 5 日までMastercroftの株式のEvraz Group S.A. への移行は行われなかった ただし 別の情報では 05 年 7 月 1 日段階で MastercroftはNTMKの株式の84.42% ZapSibの95.38% を保有していた ( Mastercroftの株式がEvraz Group S.A. にいつ移行されたのかは不明確だが ユジクズバス石炭の株式を除いて移されたのは間違いない だからこそ エヴラズグループは05 年 12 月になって Crosland Ltd. からユジクズバス石炭株 50% を6 億 7,500 万ドルで購入したわけだ Mastercroftの資産管理をエヴラズホールディングが行い 同社は05 年 9 月現在もエヴラズグループのロシアの資産を管理しつづけているという情報もある (Kommersant, 9.14, 05, Business Guide) 6)Vedomosti, 12.25, 05によると Crosland Ltd. の唯一の設立者はパナマの会社 Venturi Holdingsで その会社の株式 1000 株をアブラモフは01 年に企業家クルバノフに売却した クルバノフは死ぬ前に02 年 その株をトラスト形態でアブラモフに信託した しかし アブラモフはクレバノフの死後 Croslandの増資などに賛成し Crosland 株をもつVenturiの株主の利益を侵害した このため クレバノフの遺産相続人はアブラモフに補償を求めて係争を起こした 7)Группа «ЕВРАЗХОЛДИНГ» (2005) 9, Информационно-аналитический бюллетень, Центр политической информации, с. 3. 8)Vedomosti, 12.12, 05によると Evraz Group S.A. のNTMKに対する持ち株比率は 91.39% 9)Vedomosti, 12.12, 05によると Evraz Group S.A. のカチカナルGOKに対する持ち株比率は84.34% 10)92 年 12 月 30 日付大統領令に基づいて石炭部門の私有化が開始され 92~93 年にクズバス石炭 (8 鉱山を保有 ) は株式会社化された 97~98 年にユージヌイ クズバスやクズバスラズレズ石炭の国家保有株が売却されるなど 石炭企業の株式売却が始まった 01 年秋 クズバス石炭株の51.7% はMMKとセーヴェルスターリの連合体に売却され (5 鉱山 ) 48.3% はコンソーシアム ルースカヤ スターリ (NLMK エヴェウラズホールディング 石炭トレーダー ベロンからなる ) が取得した (8 鉱山 ) 02 年 6 月 MMKは自らの持ち分をセーヴェルスターリに売却し セーヴェルスターリ レスールスの支配下におかれるようになった 一方 03 年 3 月 NLMKはベロンとエヴラズホールディングの持ち分を購入した この結果 NLMK はクズバス石炭株の48.3% を保有するようになったが 03 年 4 月 それらをMDMグループに売却する契約を締結した これがシベリア石炭エネルギー会社 ( バイカル石炭 ) につながっている 11) 金融産業グループ マグニトゴルスク鉄鋼は 95 年に国家登録された 00 年 5 月には MMKの株主総会で 新しい金融産業グループの設立が検討された そのなかには MMK ミハイロフスキー選鉱コンビナート チェリャビンスクパイプ工場 マグニトゴルスク金属冶金工場などが参加することが検討された 12)Severstal North Americaは05 年 9 月 増資を行い 株式 7% を セーヴェリスターリ グループでモルダショフ シヴェツォフにつぐ影響力をもつといわれているモホフが1,700 万ドルで購入した 13)05 年 8 月までの段階では リーシンはNLMK 株の93% 強を保有していたが その後 IPOまでに3.24% を 22 ロシア東欧貿易調査月報 2006 年 4 月号

23 Costen Holdingに売却した この会社はNLMKの取締役会のメンバーなどによって構成されているため リーシンがNLMK 経営陣への褒賞としてもたらしたと考えられている ほかに NLMK 株 0.1% がAkractos Technologiesに売却された この会社もNLMKの取締役が関係している 14) ストイレンスキー GOKの株式 59.8% を保有していたメタロインヴェストはそれをNLMKの株式 15.5% と交換することに合意し 取引が04 年 2 月に行われた その後 メタロインヴェストの保有するNLMK 株がどうなったかについては判然としない 15) もうひとつはセーヴェルスターリ グループが落札した ジェルノフスキー 3で 埋蔵量は 1 億 7,020 万 tとみられている 16) アニシモフは90 年代央 銀行ロッシースキー クレジットで銀行家イヴァニシヴィリとともに働いた経験をもつ 00 年 アルミニウム会社 SUALホールディングの共同保有者だったアニシモフは保有株を別の共同保有者レノヴァに売却後 一時 冶金ビジネスから遠ざかっていたが 銀行家イヴァニシヴィリのもとからミハイロフスキー GOK(MGOK) 株をウスマノフが購入するのに参加するために冶金ビジネスに戻った MGOK 株をめぐってはイヴァニシヴィリが重要な役割を果たしてきた イヴァニシヴィリは94 年から銀行ロッシースキー クレジットの第一副社長を務めていた 98 年の金融危機の表面化後 経営危機に陥ったが インペクス銀行との合併を条件に債権者との和議が成立し 03 年 12 月 ロッシースキー クレジットは信用組織再建機構 (ARKO) の管理下から離れた しかし 04 年に 合併する代わりに ロッシースキー クレジットとインペクス銀行は銀行持ち株会社を設立し 前者は金融会社になることになった 銀行ロッシースキーの工業資産を統合するために イヴァニシヴィリによって98 年 (97 年説もある ) に持ち株会社メタロインヴェストが設立された そのなかには ストイレンスキー GOK(SGOK) とMGOKが含まれていた 03 年夏 メタロインヴェストはふたつの資産 オルロフスク圧延鋼材工場とベジツク圧延鋼材工場 をそれぞれセーヴェルスターリとトランスマシホールデイングに売却した ついで メタロインヴェストは 04 年 1 月 SGOKの59.8% をNLMKの株式の15.5% と交換した 04 年 6 月 メタロインヴェストとインペクス銀行はイヴァニシヴィリの多角的事業を調整するための会社ウニコルを設立することになった イヴァニシヴィリはこの段階で ロッシースキー クレジットとインペクス銀行の株式の67% を保有していた ほかに 会社インターフィン トレード 管理会社ウニコルの100% を保有していた ウニコルが調整するのは イヴァニシヴィリの行っている 1 冶金ビジネス 2 農業 3 銀行業 4 建設関連の大規模プロジェクトだ 04 年 10 月 イヴァニシヴィリはMGOK 株の47% とトゥーラチェレメト株の 30% をウスマノフとアニシモフに売却し 代わりにウスマノフの支配するウラルスターリの持ち分の50% を受け取ることが合意された しかし その後 合意が変更され 結局 MGOK 株とトゥーラチェレメト株はウラルスターリの管理に移され ウラルスターリの持ち分の移譲はなされず 単純に売却されることになったとみられる MGOKがウラルスターリ株の49.99% を購入し さらに買い増すことが計画されたという情報もある (Vedomosti, May 6, 05) 一方 ウスマノフとアニシモフが折半出資して閉鎖型株式会社メタロインヴェストを設立し そのメタロインヴェストがMGOKやトゥーラチェレメトの株式を保有するという形態がとられるようになったという見方もある ウラルスターリもメタロインヴェストの傘下に移された ここでは この見解にしたがっている 17) ほかにも マフムドフが主導するウラル鉱山冶金会社 (UGMK) を中心とするグループが注目に値する UGMKはノリリスクニッケルにつぐ銅生産企業で 傘下に30 社以上をかかえている UGMKは99 年にマフムドフによって設立された UGMKの株式の過半数をマフムドフが保有し UGMK 自体は銅の生産企業のほか 鉱石採掘企業 機械製作会社 建設会社などを保有している マフムドフによって支配された別の組織 (UGMKという説もある) は ロシア第 2 位の石炭生産会社クズバスラズレズ石炭の株式の 63% を保有している 別の情報では 同社会長のボカレフとマフムドフの同社株保有率は 75% 強に達している も ロシア東欧貿易調査月報 2006 年 4 月号 23

24 うひとつ ルースキー石炭も重要である 閉鎖型株式会社ルースキー石炭は02 年 2 月 ロスネフチの子会社と メジプロム銀行の傘下組織との対等出資合弁会社として設立された その後 ロスネフチとメジプロム銀行が03 年までに資本を引き揚げた後 ルースキー石炭株の 25% は同社会長 ( 取締役会議長 ) のヴァルシャフスキーが保有するなど 経営陣によって支配されることになった Kommersant, Oct. 6, 05によると ルースキー石炭は特殊鋼を生産するズラトウストフスク冶金工場の株を25% から60% に増やし 支配権を確立した ルースキー石炭はほかにもグコフ石炭 アムール石炭などの石炭会社 アムールメタル ( 株式の92.4% を保有 ) ノヴォシビルスク冶金工場( 同約 70%) ヴォルゴグラード小径電気溶接パイプ生産工場 (83.4%) などを支配下におき 圧延材の生産を拡大しようとしている 独立系石油会社ルスネフチの社長で共同所有者のグツェリエフのかかわる組織がルースキー石炭株の50% をヴァルシャフスキーやメジプロム銀行の前の共同所有者ヴェレメンコから取得したことが明らかになった ヴァルシャフスキーに代わって グツェリエフが会長の座に就いた 18) リーシンのNLMKとアブラモフのエヴラズグループには 01 年 10 月 非商業パートナーシップ コンソーシアム ルースカヤスターリを設立し クズバス石炭株の購入の受け皿となったという過去の経緯がある 04 年 6 月の段階では ルースカヤスターリに NLMK ニジニタギリスク冶金コンビナート 西シベリア冶金コンビナート 石炭トレーダー ベロン トゥーラチェルメト 公開型株式会社コークス パイプ冶金会社が入っていた 04 年 6 月 21 日の総会では コンソーシアム ルースカヤスターリの代表にリーシン 監査役会議長にアブラモフが選出された 19)Шиобара, Т. (2006, forthcoming) Corporate Governance в России, Экономическая наука современной России, 1のなかで 日米欧やロシアにおける 既存のロシアの企業統治研究について厳しく批判している * ここでの記述は 平成 17 年度科学研究費基盤研究 (C) の研究成果の一部である 24 ロシア東欧貿易調査月報 2006 年 4 月号