実施例 第一三共札幌支店ビルの空調設備 清水建設 北海道支店設計部 的野孝一 キーワード / 事務所 設備計画 省エネルギー 1. はじめに 第一三共札幌支店ビルは, 札幌市の中心部, 緑豊かな 大通公園に面するオフィスビルである 立地のポテンシャルを最大限に生かし, 大通交差点に面した企業の顔, 大通公園の緑と一体となった快適な執務空間, 省エネに配慮した環境配慮型施設となるように計画し,2010 年 4 月に完成した 本稿ではその建築 設備の取り組みについて紹介する 図 -1 基準階平面図 図 -2 断面図 写真 -1 建物全景 写真 -2 北側正面 2. 建築概要 建築名称第一三共札幌支店ビル所在地北海道札幌市中央区大通西 8 丁目 1 番地 8 建築主第一三共ビジネスアソシエ 設計 監理清水建設 一級建築士事務所用途地域商業地域敷地面積 0,811.39m2建築面積 0,683.10m2延床面積 6,041.82m2構造 階数 SC 造, 地上 9 階, 塔屋 1 階主用途事務所施工会社建築清水建設 北海道支店電気 きんでん空調三建設備工業 制御清水建設 ENG 本部工期 2009 年 4 月 2010 年 4 月 22
実施例 3. 建築計画 大通公園に面するこの敷地に, 緑豊かな大通公園を常に取り込み, 人が集い, 人と環境が共生するガーデンオフィスとなるように計画した 1 階には交差点 公開スペースに面して2 層吹き抜けのショーウインドーにも利用できる開放的なエントランスホール ラウンジ,2 階には大通公園に面した北側に打ち合わせコーナー, 応接室を配置した 3 階大会議室,4 8 階事務室はワイドビューと自然光を最大限に生かせるように北側をフルハイトの高断熱 Low-eガラスと断熱カーテンウォールとした 9 階にはコミュニティホールを設け, ガーデンステージとしてセミナー パーティーなどの社会 地域貢献にも活用できるようにした 照明はオフィスを含め色温度を低く設定し, 温かな企業イメージを都市に表出している 構造は細柱 (4.2mスパン 350φ 鋼管柱 ) により眺望 採光を生かす構造とした 地震力を剛性の高いSC 造 ( 柱 SRC+ 梁 S) とCSダンパブレースをハイブリッドさせたコアに負担させ, 開放的なフレームとオフィスの有効面積を確保した ( 写真 -1 2, 図 -1 2) 4. 設備概要 設備概要については表 -1 参照 5. 設備計画の基本方針 本建物の設備計画の基本方針として, 北海道という地域性, 立地条件を生かした省エネルギーと執務空間の環境に配慮した設備計画とした ( 図 -3) ⑴ 北海道の冷涼な外気を最大限に利用する自然換気 外気冷房や用途に合ったさまざまな省エネルギー手法を採用し, 省エネルギーをはかる ⑵ 寒冷地の室内環境を改善させるために, 外周足元にヒータ付エアバリアファンを設置し, コールドドラフト対策を行う ⑶ 明るさセンサ 人感センサによる照明制御,LED 照明を採用し, 省エネルギーをはかる 5-1 設備計画上の特徴 ⑴ 自然換気システム北海道の中間期 夏期の冷涼な外気を最大限に利用するように, 自然換気システムを採用した 4 8 階の事務所のカーテンウォール無目にスリット状の給気口を設け, そこから外気を取り入れて自然換気を行うようにした 取り入れられた外気は室内を通過後, ドアのスリットから階段室に入り, 階段室の上昇気流により上部の開口より外部に排出される 給気口は,1 階の管理室にある集中制御盤または各室に設置された自然換気個別スイッチにて開閉される 階段室上部の開口も連動して開閉される ( 写真 -3 6, 図 -4) ⑵ ビルマルチ空調省エネ制御 (i.ems) 当社開発のビルマルチエアコン用の空調省エネ制御 表 -1 設備概要 23
実 施 例 自然換気システム Low eペアガラス エアバリアファン ヒータ付 冷暖フリーPAC LED照明 ビルマルチ省エネ制御 A階段 CO2制御 明るさセンサ照明制御 リフレッシュ コーナー 事務室 外気冷房 躯体蓄熱 PS 節水器具 パーキング 階段 EPS 給湯室 人感センサ照明制御 WC W 写真 3 ホール 氷蓄熱PAC 会議室 PS 倉 庫 WC M デュアルフロー空調 廃棄物 分別室 太陽光発電 屋上 図 3 採用した項目 外気給気口 写真 4 外気給気口 写真 6 自然換気システムの風の流れ 冷房運転 図 4 電力比率 外気 導入口 セット バック 時間 を越えた 室内温度判定 風の流れ 外気 補助 間歇制御 状態判定 写真 5 状態入力 中間期にはカーテン ウォール無目に設け た給気口より新鮮な 外気を導入し コミュ ニケーションボイド 階段 から上昇気 流を利用して排気す ることで エネルギー を使用しながら外気 冷房を行う 個別空調 運転状態 空調立ち上げ時間帯 北国ならではの長い中間期3月 10月を 利用した自然換気による外気冷房 送風運転 LOW or ON/OFF セットバック 温度を越えた 室温 風の流れ 図 5 冷房時の省エネ制御アルゴリズム概要 5 9階の事務室 コミュニティホールのビルマル システムを採用した ビルマルチの室外機ごとの消費電力の値からビル チ室内機はフロアごとで2系統に分けて1フロアで2 マルチの運転状況を判定し 低負荷運転あるいは 台の室外機に接続した これにより ビルマルチ空調 ON OFF運転時に空調運転を送風運転に切り替え 省エネ制御が働き 一方の室外機系統が自動で送風 て 室外機の負荷率を高めて省エネをはかる ただ モードになった場合でも 他方の室外機系統が空調運 し 許容温度を超えた場合には送風を空調運転に戻す 転しているので 室内環境は保たれる 図 6に夏期の実測結果を示す 夏期に外気温度が 図 5 ヒートポンプとその応用 2011 3 No.81 24
実施例 30 を超えた日中に室内温度を25 程度に保った状態で,2 台の室外機のうちの1 台は電力比率が低いと判断した時には停止し,1 台のみ運転していることが分かる ( 図 -6) 図 -6 ⑶ デュアルフロー空調システム天井吹き出し空調と床吹き出し空調を組み合わせたデュアルフロー空調システムを採用した 4 8 階の事務室のメインの空調は天井内に設置された隠ぺい型エアコンからの天井吹き出しによるが, 外気処理された空気をOAフロア内に通し,OAフロア内を給気チャンバとして利用し, 床面に設置された吹出口から室内に供給する 冷房時の省エネ制御実測結果 また, 足元にはパーソナル吹出口を設置しており, わずかではあるが夏期にパーソナル冷房として使用できる 冬期には北国特有の底冷え防止の効果もあると考えた ダンパを切り替えることにより, 躯体蓄熱も可能とした ( 図 -7, 写真 -7 8) ⑷ 外気冷房システム屋上機械室に設置された外気処理空調機に外気冷房制御を組み込んだ 通常時は法的必要換気量に見合った外気を供給しているが, 外気冷房時はインバータにより外気量を25% 増やして供給する 外気冷房制御は外気温度が16 20 の範囲で外気湿度が70% 以下の条件で, 外気のエンタルピが室内還気エンタルピを下回った場合に起動する ⑸ CO2 換気量制御在室人員に応じて導入外気量を低減するように室内のCO2 濃度による換気量制御を採用した 4 8 階の事務所のレタンダクト内に設置された CO2 濃度センサにより, 階ごとに換気量を制御する 本建物は営業部門の方が多いため, フロアによっては在室人員が非常に少ないことが考えられ, 換気量を絞ることによる外気負荷低減の効果は大きいと考えた ⑹ 全熱交換器外気負荷低減のために全熱交換器内蔵型の外気処理空調機を採用した 北海道では冬期の外気温度が非常に低いために外気加熱負荷が暖房負荷に占める割合が大きく, 全熱交換器による排熱回収の効果は大きい ロータは外気冷房制御時には, 間欠運転とした ⑺ 冷暖房フリーヒートポンプパッケージエアコン空気熱源ヒートポンプパッケージエアコンは冷暖フリー型エアコンを採用した 冷房暖房要求が同時にある場合には排熱回収による省エネがはかれる また, 将来, 事務室内に間仕切り壁を設け小部屋を設置した場合にも, 冷暖フリー型エアコンを採用することにより, 小部屋ごとに冷暖房が自由に選択できる空調が可能になる ( 写真 -9) 図 -7 デュアルフロー空調フロー図 写真 -7 床吹出口 写真 -8 600 グリッド システム天井 写真 -9 冷暖房フリーヒートポンプエアコン室外機 25
実施例 ⑻ エアバリアファンペリメータの足元にコールドドラフト対策としてヒータ付エアバリアファンを採用した 正面が全面ガラスカーテンウォールの建物のため, 北海道ではガラス面からのコールドドラフト対策が必要になる 3 9 階の大会議室, 事務室, コミュニティホールからの眺望を損なわないように, コンパクトなヒータ付エアバリアファンを設置した エアバリアファンは各室に設置された個別スイッチにて発停されるが, 消し忘れ防止として入退室管理の退室信号にて停止するようにした ( 図 -8, 写真 -10) 図 -9 省エネルギーファサード 図 -8 エアバリアファンの風の流れ 写真 -10 エアバリアファン ⑼ 換気発停制御 3 9 階の大会議室, 事務室, コミュニティホールの換気は中央監視によるスケジュール発停としているが, 換気設備の省エネをはかるために, 小部屋の換気ファンは人感センサや照明連動による発停とした 会議室 応接室などの小部屋の換気は換気用 CAV を照明との連動による発停とし, 停止遅延時間を30 分とした WC 給湯室の換気ファンは人感センサによる発停とし, 停止遅延時間は同じく30 分とした ⑽ 氷 ( 温水 ) 蓄熱ヒートポンプエアコンエアコンによる電気料金を抑えるために, 氷 ( 温水 ) 蓄熱ヒートポンプエアコンを採用した 冷房期間の氷蓄熱だけではなく, 暖房期間には温水蓄熱を行い, 寒冷地の寒い朝の暖房立ち上がりの効果も期待できる 従量料金が安い電気料金契約を採用し, 氷 ( 温水 ) 蓄熱ヒートポンプエアコンは深夜電力時間帯に使用することがない1 階ラウンジ用とした ⑾ Low-eペアガラス空調負荷低減のためにLow-eペアガラスを採用した 北面が全面ガラスカーテンウォールの建物のため, 北海道では暖房負荷が大きくなるが,Low-eペアガラスを採用して暖房負荷を抑えるようにした ( 図 -9) ⑿ 照明設備照明制御は明るさセンサ制御, 人感センサ制御を採用し, また, コミュニティホール, エントランス, 廊下, 外部ライトアップなどにはLED 照明を採用して省エネをはかる ( 写真 -11) 写真 -11 コミュニティホール, 外部ライトアップLED 照明 6. おわりに 当ビルには, 北海道という地域性を生かした省エネルギー手法をはじめさまざまな技術を織り込むように計画している 今後, 計画時の省エネルギー効果を検証するため, データの収集 分析を行う予定である 最後に, 当ビルの計画 設計 施工にあたり多大な協力をいただいた第一三共 様, 第一三共ビジネスアソシエ 様をはじめ, 建設に携わった関係各位の皆さまに, 誌面をお借りしてお礼申しあげます 26