金融制度 1. 金融制度現在の金融機関の体系は 国務院の傘下の中国人民銀行が中央銀行として機能しており この傘下に中国銀行業監督管理委員会があり 銀行やノンバンクを管理している 銀行には政策性銀行と商業銀行がある 政策性銀行には国家開発銀行や中国輸出入銀行等がある 商業銀行には例えば中国銀行 建設銀行 工商銀行 農業銀行 交通銀行 招商銀行等がある 証券会社については中国証券監督管理委員会が管理し 保険会社については中国保険監督管理委員会が管理している 2. 金融市場中国の金融市場において大きな問題となっているのが 銀行理財商品 と 銀行の不良債権 の問題である 理財 とは一般的に 財テク 等と翻訳される中国語である 商業銀行が行う個人理財商品業務に関して 2005 年に銀行業監督管理委員会が 商業銀行個人理財業務管理暫定弁法 を公布している 理財商品は投資信託に類似した 金融商品 としての側面がある 銀行が発行する安定した金融商品であると個人が誤解して購入し その後 時価が下落し多額の損を被った個人が続出して大きな社会問題になった 2013 年には銀行理財商品の運用資産の内 貸出等が占める割合を 35% 以下 総資産の 4% 以下に制限するという通知 ([2013] 第 8 号 ) が銀行業監督管理委員会により公布されている 個人の資金は その後規制の緩い証券会社資産管理商品や私募基金管理会社の子会社が発行する商品 ( いわゆる シャドー金融商品 ) に流れており 金融当局とのいたちごっこの様相を呈している 商業銀行の不良債権 の問題については 銀行業管理監督委員会や中国人民銀行も商業銀行が公表する決算の不良債権の動向には目を光らせている 銀行の信用不安が起きると金融市場全体に波及し 世界経済にも大きなインパクトを与える可能性があるためである 商業銀行の貸出先に不良債権として分類されていない要注意債権に対する貸倒引当不足がどのくらいなのか さらに簿外の不良債権があるのではないかとマスコミ等では疑義を呈しているところである 3. 資本制度中国には 上海証券取引所 と 深圳証券取引所 の 2 つの証券取引所がある それぞれA 株とB 株が取引されている 1 A 株は 人民元建ての普通株で中国国内居住投資家 ( 中国人投資家 ) 向けである 2 B 株は 人民元建て特殊株で非居住者投資家 ( 外国人投資家 ) 向けであり 額面 評価は人民元建てであるが 外貨 ( 上海は米ドル 深圳は香港ドル建 ) で売買する 2001 年より外貨 110
第 17 章金融制度 所有中国居住者にも開放されている 上海や深圳の両取引所でも それぞれ A 株の上場企業 数は 多少の変動はあるが千社を超え それぞれ B 株はようやく 50 社を超えたところである 上海証券取引所の総合株価指数の年末の終値の推移と深圳証券取引所の総合株価指数の年末の 終値の推移は以下の通りである 図表 17-1 上海株価指数の推移 ( 指数 ) 4,000 3,000 2,000 1,000 0 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 ( 出所 ) 中国年鑑 2017 年より作成 図表 17-2 深圳株価指数の推移 ( 指数 ) 2,500 2,000 1,500 1,000 500 0 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 ( 出所 ) 中国年鑑 2017 年より作成 111
投資の対象として上場企業の株式を取得する以外に 業務展開の一環として資本参加する場合も考えられる 企業買収としては第 3 者割当増資引受方式か持分譲受方式がある 企業買収の場合は投資先が 外商投資産業指導目録 投資規制業種でない事の確認がまず必要である 新規設立と比較すると 企業買収は営業基盤と経営機構をそのまま引継ぐことができる反面 不良資産 不良債権 製造責任 様々な利害関係 従業員もそのまま引き継ぐことになる 4. 電子決済制度銀聯カードで支払っていた中国消費者もスマートフォンをかざすだけのモバイル決済が一般的になっている これは 2010 年 6 月に中国人民銀行から公布された 非金融機構決済サービス管理弁法 ([2010] 第 2 号 ) によるところが多い 当弁法によると 非金融機構の決済サービスには以下のものがある ( 第 2 条 ) 1 ネットワーク決済 2 プリペイドカード決済 3 銀行カード決済 4 中国人民銀行が規定するその他決済 上記 1の ネットワーク決済 には通貨兌換 インターネット決済 モバイル決済 固定電話決済 デジタルテレビ決済等が含まれる ( 同弁法第 2 条 ) 電子決済サービスを行う中国の代表的な会社には 銀聯カードを扱う銀聯商務 (Union pay) アリババグループの支付宝 (Alipay) テンセントグループの微信支付(WeChat Pay) 等があげられる ひとくちメモ 7: スマホ決済の社会中国に駐在したら 銀行口座を開設と中国で使用可能なスマートフォンの設定が優先度の高い事項と言える タクシーを捕まえるにも街中の流しのタクシーは捕まえにくくなり 多くの中国人は配車アプリである 滴滴 や 快的 を利用してタクシーを呼んでいる シェア自転車では ofo や mobike が有名である レストランやコンビニエンスストア での支払いも現金決済やカード決済が可能なところもまだあるが 支付宝 (ALIPAY) や 微付 (WechatPay) を利用してスマートフォンを読み取り機にかざして決済する中国人が多い オンラインでの出前サービスを利用するケースも一般的になっている スマホ決済は日本より進んでいる 中国国内では LINE や Twitter Facebook は利用できず 家族や友人等とは SNS として 微博 や 微信 等を利用することになる 中国人と友人となるとこれらに 加入していますか アドレスを交換しましょう と聞かれることも多い ただし これらの利用状況は全て運営会社に把握されており 必要となれば中国当局に情報提供されてしまう可能性もないわけではない また銀行口座と決済アプリを紐づけるため不正利用のリスクの可能性も指摘されている 112
第 17 章金融制度 5. 日系企業が利用する中国系及び邦銀の状況 金利水準 中国においては金融サービス分野に外資が業務展開をするにはまだ制限がある 外商投資産業指導目録 (2017 年改訂版 ) ( 国家発展改革委員会 商務部令第 4 号 ) の 外資参入ネガティブリスト には以下の制限の記載がある 1 銀行においては 一つの国外金融機関の中国資本商業銀行への出資比率は 20% を超えてはならず 複数の国外金融機関の中国資本商業銀行への出資比率は 25% を超えてはならない 2 証券会社は中国側の持分支配が必要である ( 最高 49% ) 3 生命保険会社は外資比率が 50% を超えてはならない ( 最高 50% ) 上記の規制に関して 中央人民銀行の易綱総裁は 外資出資比率の緩和に関して 2018 年 6 月末から実施する方針を以下の通り示した 1 証券会社の外資出資比率を 51% まで可能とし 3 年後 (2020 年頃 ) には 100% まで可能にする 2 生命保険会社の外資出資比率を 51% まで可能とし 3 年後 (2020 年頃 ) には 100% まで可能にする なお 2017 年 11 月の朱光耀財政次官の発表の際は 銀行の 25% までの規制は 2017 年に出資規制を撤廃としている ( 中国資本商業銀行の外資による買収が可能 ) これを受けて中国証券監督管理委員会は 2018 年 4 月 28 日に 外国投資証券公司管理弁法 ( 中国証券監督管理委員会令第 140 号 ) を公布した これを受けて大手証券会社は中国市場に本格的に参入するために中国当局に早ければ 5 月中に申請すると公表している 日系の銀行の現地法人の各地域での展開状況については 第 25 章から第 30 章までの地域編 (3) 進出日系企業からみた事業 生活環境やコスト3 生活環境 金融 を参照のこと 外資の銀行については 外資銀行管理条例 ( 国務院令 [2014] 第 657 号 ) により 現地法人や支店の業務範囲が規定されており ( 同管理条例第 29 条 第 31 条 ) 法定預金金利や法定貸出金利も規定されている ( 同第 38 条 ) 中央銀行である中国人民銀行は 2015 年後半以降貸出金利の政策的に公表をしていない このため 2018 年 5 月 8 日に北京の工商銀行での店頭で確認した状況は以下の通りである 同年 5 月 2 日に上海の浦東発展銀行で確認した状況とは貸付金利は同水準であったが 定期預金の金利について浦東発展銀行が若干高い なお下記の現時点の貸付金の金利は 2015 年 10 月 24 日に中国人民銀行が公表した基準金利と同じとなっている 定期預金に関しては下記の表通りであるが 2015 年に公表された基準金利より 現時点の店頭レートのほうが金利水準は若干高めである 113
貸付金 ( 中国語 : 貸款 ) 短期貸款 ( 短期貸付金 ) 6 ヶ月以内 4.35% 6 ヶ月以上 1 年 4.35% 中長期貸款 ( 中長期貸付金 ) 1 年以上 3 年未満 4.75% 3 以上 5 年未満 4.75% 5 年以上 4.9% 企業預金 ( 中国語 : 存款 ) 中国人民銀行 2015 年 10 月 24 日公布基準レート 工商銀行 ( 北京支店 ) 2018 年 5 月 8 日店頭レート 浦東発展銀行 2018 年 5 月 2 日店頭レート 活期 ( 当座預金 ) 0.35% 0.3% 0.3% 定期預金 3 ヶ月 1.10% 1.35% 1.4% 6 ヶ月 1.30% 1.55% 1.65% 1 年 1.50% 1.75% 1.95% 2 年 2.10% 2.25% 2.4% 3 年 2.75% 2.75% 2.8% 5 年 2.50% (2015 年 3 月 1 日 ) 2.75% 2.8% 2018 年 6 月 28 日に公布された 2018 年度版のネガティブリストでは 金融分野の外資制限が撤廃されることが記載されている 主な内容は下記の通りとなっている 銀行業外資出資比率制限を 2018 年に撤廃する 証券会社 生保会社等の外資出資比率を 2018 年に 51% まで緩和し 2021 年に出資比率制限を撤廃する 銀行の中国資本に対する外資の単一出資比率は 20% を超えず 外資が複数の場合は合計の出資比率が 25% を超えてはならないとの規制を 2018 年に撤廃する 114