2-1 反射法 屈折法による地殻構造調査 2-1 反射法 屈折法による地殻構造調査 佐藤比呂志 東京大学地震研究所 1. 研究の目的 2004 年中越地震 2007 年中越沖地震は 活褶曲帯 で発生する内陸地震の問題を浮き彫りにしました 新 潟地域のような厚い堆積物に覆われて 衝上断層や褶 曲が形成されている地域では 地下の震源断層と褶曲 構造との関係は複雑で 図 1 震源断層の位置と形状 が明らかになっていません このため新潟地域を中心と した 5 測線を設定し 地震発生層の下限付近までの地 殻構造探査を実施し 地殻構造を明らかにすることに より 震源断層の形状推定を行いました また 既存の 地下地質資料を参考として 震源断層の矩形モデルを 作成しました 図 2 新潟地域における地殻構造探査測線 図 1 活褶曲-活断層と震源断層の関係 解析は通常の共通反射点重合法による反射法地震 探査の他 とくに屈折トモグラフィによる速度構造の解 析を行いました 得られた速度構造は 断層の傾斜な どを含めた地殻構造の解析に極めて有効で とくに長 大測線で取得した地殻構造探査データの解析により いままで明らかにされてこなかったグリーンタフと呼ばれ る火山噴出岩や 基盤の形状などが初めて明らかにな りました 2. 地殻構造探査 2.1 探査概要の概要 地震発生層の下限付近までの深さの地殻構造を明ら かにするため 測線の長さは 70 km 程度を基準とし 主 要な地質構造と直交する方向で測線を設定しました このため東西方向に狭い新潟平野では 海域に測線 を延ばし 海陸統合探査として調査を実施しました 海 域では 震源として 3000 cu. inch のエアガンを使用し 海陸の接合部には海底着底ケーブルを敷設して海域 と陸域の信号を受振することにより 連続的な海陸断面 を得ました 陸域では基本的には大型バイブロサイス 車 4 台を使用した震源の他 少数ですが 100kg のダイ ナマイトを使用しました 陸上部の受振器は固定展開と し 様々なオフセット距離の信号を受振することにより 屈折法解析が可能なデータ群を取得しました 実施した 5 測線を図 2 に示しました 2009 年に実施し た会津-佐渡測線は 海洋研究開発機構と共同で佐 渡島を横断し 大和海盆にいたる大規模な海陸統合 探査です この探査では 佐渡海峡部分で二船式とよ ばれる発震船とケーブル船の二船を使用した探査方法 で実施し 深部までの詳細な構造が明らかになりまし た 2.2 三条-弥彦測線 本測線は 2008 年に越後山脈から三条を経て弥彦沖 に至る測線で 1828 年の越後三条地震の震源域を横 切ります 図 2 得られた反射断面と速度構造は 測 線西部の角田-弥彦断層 測線東部の下田丘陵下の 活断層の深部形状をよく表しています 角田-弥彦断層 は 断層の隆起側に日本海形成時のリフト期に形成さ れた地層が 低下側より厚く堆積しており リフト期の正 断層が反転運動しているものと考えられます この断層 は 垂直変位量が 2-3mm/年と東北地方では最大の平 均変位速度をもつ活断層です 測線東部の下田丘陵 には東傾斜の活断層が位置しており その深部形状が 速度構造から明らかになりました 下田丘陵部地下構 造は 浅層反射法地震探査とボーリング資料によって 57
2-1 反射法 屈折法による地殻構造調査 図 3 三条-弥彦測線の反射法地震探査断面 上 と速度構造断面 下 図 4 下田丘陵先端部のウェッジ スラストの形成プロセス 変動地形は小林ほか 2002 1 による 明らかになり 断層は中新世の泥岩である寺泊層中に 形成されたデタッチメントによって 伏在断層となってい ることが分かります 図 3 断層関連褶曲をともない 変 動地形学的な情報から 伏在する断層は年 1mm/年の 実平均変位速度を示すことが分かります 図 4 新潟 堆積盆地では ボーリング資料から非常に厚い 2000 万 年以降の堆積物が分布することが知られていましたが 実際にどのくらいの厚さの堆積物が分布しているか分 かりませんでした この探査によって 速度構造から新 第三系の基盤もしくは苦鉄質の深成岩の上面深度 Vp 5.4km/s の深 度 分 布 が初 めて明 らかになりまし た 58
2-1 反射法 屈折法による地殻構造調査 図 5 会津 - 佐渡測線の反射法地震探査断面 ( 上 ) と速度構造断面 ( 下 ) 2.3 会津 - 佐渡測線 2009 年には海洋研究開発機構と共同で 会津から新潟平野 佐渡島を経て大和海盆中軸部に至る大規模な海陸統合地殻構造探査を実施しました 佐渡海峡においては ケーブル船と発震船を分離した二船式によるデータ取得によって 分解能の高い深部までの反射構造を得ることができました ( 図 5) 測線全体では 佐渡島と越後山地では 新第三系の下部層 (2500 1700 万年前の地層 ) が露出しているのに対して 佐渡海峡から新潟平野下では P 波速度の小さい新しい地層が分布している特徴があります 断層としては 角田 - 弥彦断層が三条 - 弥彦測線と同様に明瞭にイメージングされています この断層は 大きくは新潟平野 - 佐渡海峡の沈降域に位置していて 大きな隆起速度を持つにも関わらず 隆起量は下盤側の低下に比べ大きくありません この他 新津背斜の西翼の断層も 角田 - 弥彦断層と同様に 西傾斜のリフト期の正断層が反転して活動している逆断層性の活断層です 越後山地西縁には 月岡断層などの活断層が分布しています これは 深部では東傾斜の断層ですが しばしば月岡断層のように西傾斜の断層と複合したウェッジ スラストを形成しています 月岡断層の詳細な構造については 2012 年に高分解能探査を実施して詳細な構造を明らかにしました 2.4 東山 - 三島測線東山 - 三島測線は 2007 年中越沖地震の震源域北部を横断しています ( 図 2) とくに西山丘陵では 石油 59 探査のための地表地質やボーリングなどから得られている地質構造の資料も含めて検討し 中新世の泥岩 ( とくに寺泊層 ) 中のデタッチメントによって 非常に複雑な構造をしていることが明らかになりました ( 図 6) 測線西部の反射層に富むグリーンタフの領域は ドレライトシートやシート状の玄武岩に相当すると推定されます この反射層に富むグリーンタフの分布や短縮変形を取り除いた地質構造の復元では 測線西方にリフト軸を持つリフト帯を形成していたと推定されます ( 図 7) 基本的な地質構造は 拡大を停止した背弧リフト帯が 強い短縮変形を受けた結果形成されたものであると考えられます 全体の地質構造は 中越沖地震の震源断層がリフト期の断層の再活動である可能性が大きいことを示しています 新潟地域では中新世の泥岩で 層理面に沿った大きな滑りが発生し それより上位では褶曲が発達します 測線中央部の長岡市の地下でも 西傾斜の断層が推定されますが その断層に関連した褶曲が成長層を構成することから 伏在する活断層が推定されます 角田 - 弥彦断層での正断層の反転運動や 本測線で見るリフト形成時の断層の再活動などから推定して 日本海形成時の断層系が 今日の震源断層の形状 広がりを大きく規制しているものと推定されます リフト形成時には 地殻の不均質性を反映して 拡大軸が一定せず別な場所に移動します そのためしばしば リフト系の伸びと直交する方向の断層が形成されます こうした断層は 新潟地域でも反射法地震探査によって存在が明らかになり また微小地震の配列によって明らかになっています ( 図 8)
2-1 反射法 屈折法による地殻構造調査 図 6 東山 - 三島測線の反射法地震探査断面 ( 上 ) と P 波速度構造 ( 下 ) 沖合は No et al. (2009) 2) 図 7 中越地域の新潟堆積盆地の形成概念図 地震探査を行いました ( 図 9) 測線は探査経費を抑えるために 石油公団が実施した反射法測線と重ねて実施し 古いデータも活用して 解析しました この測線が大規模な横ずれ断層を横断しているのはそのためです 測線東部には魚沼丘陵東縁の六日町断層が位置します 地下 5km 程度までは西傾斜の断層でありますが より深部では 東傾斜の断層を構成している可能性が高いと判断しました 十日町盆地の西縁には 片貝断層が位置しますが この断層の西側には断層と平行する両翼の傾斜が急な褶曲が発達します これは寺泊層中に発達したデタッチメントによって その上位の地層が強く短縮変形を受けて形成されたもので 基盤を断ち切る震源断層は より西側に位置するものと推定されますが 胴切断層によって その深部延長は断面では捉えられていません 測線西部では 沖合の資源地質の資料から 東に傾斜する断層が推定されます 沿岸部にはこれの副断層と推定される西傾斜の逆断層が分布します 高田平野の東縁には東傾斜の逆断層が分布しますが この断面部分にも伏在断層として 表れています 図 8 中越地域のリフト形成時の正断層システム概念図 2.5 六日町 - 直江津測線 2011 年に魚沼丘陵の東縁の六日町から 西頸城丘陵を東西に直江津沖までの約 70km の区間で反射法 60 2.6 飯山 - 小谷測線新潟から長野県の北部には 日本海形成後に堆積した厚い泥岩層が分布します 新潟堆積盆地から北部フォッサマグナにいたる褶曲 - 衝上断層帯は 共通した特徴を有していますが 震源断層の位置については充分な情報がありません そこで 2012 年には 1847 年の善光寺地震の震源となった信濃川断層帯や糸魚川 - 静岡構造線などを横切る 飯山から小谷にかけての区間で 地殻構造探査を実施しました
2-1 反射法 屈折法による地殻構造調査 図 9 六日町-直江津測線の反射法地震探査断面 上 と P 波速度構造断面 下 図 10 飯山-小谷測線の反射法地震探査断面 上 と P 波速度構造断面 下 自然地震トモグラフィ 3)でも 北部フォッサマグナには 堆積層に相当する厚い低速度層とともに 下部地殻で の高速度層の分布が明らかになっており 北部フォッサ マグナが日本海形成時の背弧リフトとして形成されたこ とを示しています この測線での P 波速度構造も新潟 堆積盆地と同様 厚い堆積層の存在を示しています (図 10) 測線周辺の地域は 第四紀の安山岩質火山 噴出物に広く覆われていることや 新潟のように資源調 査のためのボーリング調査が実施されておらず 堆積 物の中の層準が詳しく対比できるわけではありません 61
2-1 反射法 屈折法による地殻構造調査 ここでは 周辺の走向 傾斜などの地表地質の資料を基に 概略的な層準 構造を解釈しました 北部フォッサマグナは日本海形成時に 背弧リフトとして形成され その東縁が糸魚川 - 静岡構造線として知られています この断面では 糸魚川 - 静岡構造線に沿った垂直変位量は その東側に位置する小谷 - 中山断層の延長での変位量に比べて小さいことがわかります 小谷 - 中山断層に相当する断層では 約 4 km の 東落ちの変位を示しています 信濃川断層帯は 高分解能反射法地震探査も成果と合わせると 上盤側では急立した構造を示すものの 下盤側では緩傾斜を示し 境界には西傾斜のフラット ランプを有する断層が推定されます 深部反射のパターンや 報告されている善光寺地震の震度分布を想定すると 深部では東傾斜でこれらもウェッジ スラストを構成している可能性が高いと推定されます ( 図 10) 図 11 新潟地域の震源断層の矩形モデル モデル化した範囲は 黒破線の領域内 赤実線 : 活断層 黒実線 : 推定活断層 ( 中田 今泉, 2002) 4) 青の矩形 : 震源断層の矩形モデル ( 破線は推定 ) 青太実線 : 断層モデルの上端 青破線 : ウェッジ スラストの下部断層面の上端線 番号 : 断層面の番号 表 1 の番号に対応 3. 新潟地域における断層矩形モデルの作成新潟地域で実施した 5 測線での地殻構造探査と 8 測線での高分解能反射法地震探査 石油公団等の基礎物理探査 基礎試錐の資料 さらに各種活断層図をもとに 矩形断層モデルの作成を試みました ( 図 11 表 1) 地震発生層の深さ (D90) については 防災科学技術研究所の本プロジェクトにおける成果や Omuralieva et al. (2012) 5) などを参考にしました また断層モデルの構築にあたっては 防災科学技術研究所の震源分布 の資料や 自然地震波トモグラフィによる地殻構造のデータも参考にしています 大規模なウェッジ スラストは 信濃川断層帯や六日町断層帯 新潟平野西縁の断層帯に分布すると推定していますが これはリフト形成期に上昇してくる苦鉄質マグマの貫入によって 深部ではリフト軸方向と反対に傾斜を示し 浅部ではリフト軸方向に傾斜する正断層が同時期に形成されたことに起因していると考えられます 62
図 11 に示した震源断層矩形モデルの諸元については 表 1 に示しました 断層の傾斜については 速度構造などで拘束されているものや 震源分布によって拘束されているものを A 地質構造の特徴から推定しているものを B 推定する根拠に乏しいものを C としました 断層の形態については リフト期に形成された正断層の反転型 (R 型 ) ウェッジ スラスト型 (W 型 ) 褶曲の形成過程でバックスラストなどとして形成された比較的新期の断層 (F 型 ) に区分しました 主断層が伏在している場合 その先端部の深さを示しています S は断層の先端部が地表近傍に位置していることを示します 表 1. 震源断層の矩形断層モデルのパラメータ 1: 資源関係資料による 2: ひずみ集中帯ブロジェクトで取得した地下構造探査データによる 文献番号は 文献の番号と同じ 謝辞 : 本成果をまとめるにあたり データ取得については ( 株 ) 地球科学総合研究所 また地下構造の解釈に際しては 石油資源開発株式会社 国際石油開発帝石株式会社の協力を頂きました 参考文献 1) 小林巌雄, 立石雅昭, 小松原琢, 三条地域の地質, 地域地質研究報告 (5 万分の 1 地質図幅 ). 産業技術総合研究所地質調査総合センター,98p. 2002. 2) No, T., N. Takahashi, S. Kodaira, K. Obana, and Y. Kaneda, Characteristics of deformation structure around the 2007 Niigata-ken Chuetsu-oki earthquake detected by multi-channel seismic reflection imaging. Earth Planets Space, 61, 1111 1115, 2009. 3) Matsubara, M., K. Obara, and K. Kasahara, Three-dimensional P- and S-wave velocity structures beneath the Japan Islands obtained by high-density seismic stations by seismic tomography, Tectonophysics, 454, 86 103, 2008. 4) 中田高 今泉俊文編 活断層詳細デジタルマップ, 東京大学出版会, 2002. 5) Omuralieva, A, M., Hasegawa, A., Matsuzawa, T., Nakajima, J., Okada, T., Lateral variation of the cutoff depth of shallow earthquakes beneath the Japan Islands and its implications for seismogenesis, Tectonophysics, 518-521, 93 105, 2012. 6) 岡村行信 佐藤幹夫 宮崎淳一 新潟沖大陸棚の活構造 特に新潟地震との関係について 地震 2, 46, 413-423, 1994. 7) 活断層研究会編 新編日本の活断層, 437p, 東京大学出版会,1991. 8) 石油公団 平成 2 年度国内石油 天然ガス基礎調査海上基礎物理探査 新潟 ~ 富山浅海域 調査報告書,28p. 1991. 9) Kato, N., Echigo, T., Sato, H., Tateishi, M., Ogino, S., Sakai, S., Toda, S., Koshiya, S., Ito, T., Toyoshima, T., Imaizumi, T., Kato, H. and Abe S., Geologic fault model based on the high-resolution seismic reflection profile and aftershock distribution associated with the 2004 Mid-Niigata Prefecture earthquake (M6.8), central Japan. Earth Planets Space, 57, 447-452, 2005. 10) 石油公団 昭和 63 年度国内石油 天然ガス基礎調査陸上基礎物理探査 新井 ~ 中子地域 調査報告書, 16p., 1989. 11) 産業技術総合研究所 高田平野断層帯の活動性および活動履歴調査 基盤的調査観測対象断層帯の追加 補完調査 成果報告書 No.H17-2,31p., 2006. 12) Elouai,D., Sato, H., Kawasaki, S., Takeshita, T., Kato, N. and Takeda, T., Deep seismic reflection profiling across the Northern Fossa Magna: The ERI 1997 and the JNOC 1996 seismic lines, active faults and geological structures. Earth Planets Space, 56, 1331-1338, 2004. 63
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