第 9 章損益計算書の分析 証券アナリストのための企業分析 III. 財務諸表の分析 2007 神楽岡 1. 成長性分析 2. 収益性分析 3. 動的安全性分析 4. 損益分岐点分析 5. 付加価値分析 企業行動分析のフレームワーク 第 9 章損益計算書の分析 第 10 章貸借対照表の分析 第 11 章 B/S,P/L を用いた財務諸表 第 12 章キャッシュフロー計算書の分析 収益性と安全性 参考 WEB サイト あずさ監査法人 企業会計講座 http://www.azsa.or.jp/b_info/ps/kouza/index.html 新日本監査法人 企業会計 http://www.shinnihon.or.jp/knowledge/account_co/ind ex.html トーマツ http://www.ek.tohmatsu.co.jp/word/aword/menu_50on.shtml 1. 成長性分析 成長性 売上高成長性 利益成長性 成長の要因 業界全体の成長 市場の成熟とともに価格競争の激化が予想される 個別企業の成長 他社にはない成長率が高く高シェアの製品をもっている 独自製品をもっている 1
売上高成長性と利益成長性の比較 売上高成長性 > 利益成長性 人件費や広告宣伝費用などの固定費用が増加している 低収益事業のウエイトが高まっている 売上高成長性 < 利益成長性 低コスト戦略を採用している 高収益事業のウエイトが高まっている 時系列 売上高 ( もしくは利益 ) の暦年変化 基準年 ( 開始年 ) の売上高 ( もしくは利益 ) を 100 に規格化して指数化 販売費および一般管理費 人件費や広告宣伝費, 運搬費用等, 研究開発費 固定費 ( 売上高の増減に連動しない ) 間接業務のアウトソーシング 固定費 変動費 営業利益 = 売上高 -( 販売費および一般管理費 ) 売上高営業利益率 = 営業利益 / 売上高 2. 収益性分析 収益性 売上を上げるのにどれだけの費用を必要としたか? 収入からどれだけ利益が残ったか 費用の分解 費用 = 営業費用 + 営業外費用 営業費用 = 売上原価 + 販売費および一般管理費 それぞれの段階で売上高に対してどれだけの費用を要したか 収益性分析 百分比損益計算書 売上高 =100 としたときの構成比 時系列分析 売上高総利益率 売上高販売費および一般管理費比率 売上高営業利益率 販売費および一般管理費比の構成比の変化 内訳項目の分析 ヒアリングの実施 3. 動的安全性分析 売上高総利益率 = 売上高総利益 / 売上高 = 1- 売上高原価率 小売業 : 売上から仕入原価を差引いた利益の売上高に対する割合 製造業 : 製品を製造するのに要した費用を差引いた利益の売上高に対する割合 売上高利益率の改善の原因 従来からある製品 ( 商品 ) の単価の上昇 従来からある製品 ( 商品 ) の数量の上昇 高マージン製品の投入 従来からある製品 ( 商品 ) の製造原価 ( 仕入原価 ) の低下 ストックとフロー ストック 貸借対照表 フロー 損益計算書 安全性指標 一般には後述の貸借対照表から算出 動的安全性指標 フロー 損益計算書 静的安全性指標 ストック 貸借対照表 2
インタレスト カバレッジ レシオ インタレスト (interest) 利子のこと インタレスト カバレッジ レシオ = 事業利益 / 支払利息 事業利益 = 営業利益 + 金融収益 + 持分法投資損益 支払利息 = 外部負債コスト ( 借金による資金調達のための費用 ) 営業レバレッジ効果 費用構成の相違によって利益変動が異なること 実際の分析 損益計算書の項目の分解 固定費 変動費 方法 ヒアリング, 有価証券報告書 4. 損益分岐点分析 固定費と変動費 固定費 売上に連動しない費用 変動費 売上高に比例する費用 仮定 売上高の増減が数量の増減のみによって発生 5. 付加価値分析 付加価値 = 売上高 - 外部購入額 付加価値の構成項目 人件費 金融費用 減価償却費 貸借料 租税公課 法人税 当期利益 Y = as + b Y S S = as + b, S Y = S ( as + b) = (1 a) S b S S (1 a) S a, Y = S S = b 1 a b, 付加価値分析指標 付加価値率 = 付加価値額 / 売上高 労働生産性 = 付加価値額 / 従業員数 労働分配率 = 人件費 / 付加価値額 3
労働生産性の分解 労働生産性 = 労働装備率 設備生産性 労働装備率 = 有形固定資産 / 従業員数 設備生産性 = 付加価値額 / 有形固定資産 労働生産性 =1 人あたり売上高 付加価値率 1 人当たり売上高 = 売上高 / 従業員数 付加価値率 = 付加価値額 / 売上高 第 10 章貸借対照表の分析 1. 静的安全性分析 静的安全性分析 一般に労働生産性は資本集約型の製造業ほど高くなる. 労働生産性が低くなる場合 アウトソーシングを進めている 資産をリースでまかなっている ソフト開発会社 企業のストックに注目して債務の返済能力を評価 短期的視点 1 年以内返済予定の負債に対して短期的な資産がどれだけあるか 長期的視点 資金調達先に関する分析 負債比率, 株主資本比率 調達資金とその用途の関係に注目する分析 固定比率, 固定長期適合率 静的安全性分析 貸借対照表安全性 損益計算書収益性 キャッシュフロー計算書 株主資本比率 = 株主資本 / 総資本 (%) 負債比率 = 負債 / 株主資本 (%) 流動比率 = 流動資産 / 流動負債 (%) 当座比率 = 当座資産 / 流動負債 (%) 固定比率 = 固定資産 / 株主資本 (%) 固定長期適合率 = 固定資産 /( 株主資本 + 少数株主持分 + 長期負債 ) 4
株主資本比率 株主資本比率 = 株主資本 / 総資本 (%) 資金調達をどのように行なってきたか? 総資本 = 自己資本 + 負債 ( 他人資本 ) 総資本 = 総資産 自己資本 = 資本金 + 資本準備金 + 利益準備金 + 剰余金 資本金 = 株主が出資した資本金 資本準備金 = 株主払込剰余金 + 減資差益 + 合併差益 剰余金 = 過去の税引後利益の蓄積 負債 = 借入金 株主資本比率は高いほど安全であるとされる. 企業価値向上の観点からは, 高いことが望ましいわけではない 債権者よりも株主が高いリターンを要求 当座比率 当座比率 = 当座資産 / 流動負債 (%) 当座資産 = 現預金, 受取手形, 売掛金, 有価証券 当座比率は高いほど好ましい. 収益性の観点からはキャッシュを有効に使っていない恐れあり 負債比率 負債比率 = 負債 / 株主資本 (%) 資金調達をどのように行なってきたか? 返済期限 株主資本返済期限なし 負債返済期限あり 負債比率は高いほど安全であるとされる 固定比率 固定比率 = 固定資産 / 株主資本 (%) 資産の性格に合わせた資金調達ができているかを見る指標 固定資産投資は株主資本で賄うことが求められる. 株主資本 = 長期性の資金 株主資本 : 返済が求められない. 負債資本 : いつかは返済の必要あり 低いほど望ましい. 流動比率 流動比率 = 流動資産 / 流動負債 (%) 流動と固定 流動期限 1 年以内 固定期限 1 年超 流動比率は高いほど好ましい. 収益性の観点からはキャッシュを有効に使っていない恐れあり 固定長期適合率 固定長期適合率 = 固定資産 /( 株主資本 + 少数株主持分 + 長期負債 ) 資産の性格に合わせた資金調達ができているかを見る指標 固定資産投資は長期性の資金で賄うことが求められる. 長期性の資金 = 株主資本, 少数株主持分, 長期負債 低いほど望ましい. 5
第 11 章 B/S,P/L を用いた財務諸表 1. 資産回転率の分析 2. B/S, P/L を用いた収益性分析 ROA ROA, Return on Asset ROA= 事業利益 / 総資産 事業利益 = 営業利益 + 金融収益 経常利益を使うと資金の調達コストの支払利息を控除するため, 指標の性格と整合しない. 資産関連会社株式等を含む 利益持分法投資損益を含む 少数株主持分 少数株主持分損益の修正は不要 1. 資産回転率の分析 資産回転率 = 売上高 / 資産 総資産回転率 = 売上高 / 資産 流動資産回転率 = 売上高 / 流動資産 固定資産回転率 = 売上高 / 固定資産 資産の効率性をみる指標 高いほど良い. ROE ROE, Return on Equity ROE= 当期純利益 / 株主資本 株主資本 = 資本金 + 資本準備金 + 利益剰余金 ( 利益準備金を含む ) 当期純利益 = 金融費用や税金等を控除 企業が, 株主が企業に提供した株主資本を使って, 最終的に株主に帰属する利益をどれだけ獲得することができたか 2. B/S, P/L を用いた収益性分析 投下資本利益率 (ROI, Return on Investment) 投下した資本に対してどれだけのリターンを獲得したか ROA の分解 ROA 売上高事業利益率 どれだけ付加価値の高い製品を提供しているか 総資産利益率 その製品を生み出すためにどれだけ資産を効率的に運用しているか 6
ROE の分解 ROE デュポン システム ROE を上げるためには いかにコストを削減する一方で高付加価値製品を提供するか いかに保有する資産を効率的に運用するか いかに最適な資本調達をおこなうか 1. キャッシュフロー計算書の仕組み 企業の 1 期間の現預金の変動を 3 つの側面から把握 営業活動, 投資活動, 財務活動 営業活動によるキャッシュフロー 商品の販売による収入, 商品の仕入れによる支出 投資活動によるキャッシュフロー 固定資産の取得による支出, 投資有価証券の売却による収入 財務活動によるキャッシュフロー 借入れによる収入や配当金の支払い あずさ監査法人 http://www.azsa.or.jp/b_info/ps/kouza/kaikei_kiso_06. html 第 12 章キャッシュフロー計算書の分析 1. キャッシュフロー計算書の仕組み 2. フリー キャッシュフローの把握 損益計算書 実現主義, 発生主義 収益と費用の発生時点で計上 キャッシュフロー計算書 現金の回収 支払い時点で計上 資金の出入りという共通の尺度で作成 採用している会計基準の違いの影響を受けない キャッシュとは キャッシュ = 現金 + 現金同等物 現金 = 手元現金 + 普通預金 + 当座預金 + 通知預金 現金同等物 容易に換金可能な短期投資 投資期間が短く利率変動による価格変動リスクが僅少である投資 3 ヶ月以内に満期日または償還日が到来する定期預金, 譲渡性預金, コマーシャルペーパー, 売り戻し条件付現先, 公社債投資信託 営業キャッシュフロー みすず監査法人 http://www.misuzu.or.jp/webcan/index_webca n01_00009.html http://www.misuzu.or.jp/webcan/webcan01_0 0172.html http://www.misuzu.or.jp/webcan/webcan01_0 0188.html 営業キャッシュフロー = 企業の経常的な営業活動からどの程度の資金を獲得したかを示す 企業の営業活動から獲得されたキャッシュ 企業の経常的な営業活動の対象となった取引に係るキャッシュフロー 営業活動の結果として債権 債務から生じるキャッシュフロー 投資活動及び財務活動以外の取引によるキャッシュフロー 営業活動によるキャッシュフローの具体例 財貨の販売及び役務の提供による収入 ロイヤリティ 報酬 手数料及びその他の収入 仕入先に対する支出 従業員に係る支出 法人税等の支払又は還付 7
投資活動によるキャッシュフロー 有形固定資産及び無形固定資産の取得及び売却の取引に係るキャッシュフロー 現金同等物に含まれない有価証券及び投資有価証券の取得及び売却等の取引に係るキャッシュフロー 資金の貸付及び回収の取引に係るキャッシュフロー 財務活動によるキャッシュフロー 借入及び株式又は社債の発行による資金調達の取引に係るキャッシュフロー 借入金の返済及び社債の償還等の取引に係るキャッシュフロー 自己株式の取得及び売却の取引に係るキャッシュフロー 2. フリー キャッシュフローの把握 フリー キャッシュフロー = 営業利益 (1- 実効税率 ) + 減価償却費 - 設備投資費 ± 運転資本の増減額 8