より良い生活指標 (BLI) の統合化 溝渕英之龍谷大学 鶴見哲也南山大学
1 より良い暮らし指標とは? 2 より良い暮らし指標の統合化 3 幸福度の要因分解 4 非経済的側面の金銭評価 5 まとめ 2
1 より良い暮らし指標 3
いかに厚生を計測するか? 厚生の指標として用いられてきたもの 1 人あたり所得 (GDP) しかし 人々が享受する厚生の水準は様々な非経済的な要素にも依存する 所得以外のより多様な観点から人々の厚生を捉えようとする機運が高まっている 国連人間開発指数 (1990) スティグリッツ委員会 (2009) 4
より良い暮らし指標 (Better Life Index) 2011 年に公開 (2012 年 ~2014 年に更新 ) 単年度のデータ 2005 年 ~2011 年の情報に基づく OECD34 か国 +2 か国 ( ロシアとブラジル ) の住民の平均的な厚生水準を 11 の側面から評価 5
BLI より詳細な統計 (24) 1 住居 1: 部屋数 2: 住宅支出 3: 浴室の整っ た住宅の割合 2 所得 4: 家計所得 5: 金融資産 3 仕事 6: 雇用率 7: 職業の安定 8: 長期失業率 9: 個人所得 4 コミュニティ 10: 社会的繋がり 5 教育 11: 高卒者数 12: 学業成績 13: 就学期間 6 環境 14: 水質 15: 大気質 7 政治参加 16: 公的機関との協議 17: 投票率 8 健康 18: 平均寿命 19: 健康状態 9 安全性 20: 殺人率 21: 暴力事件 10 ワーク ライフ バランス 11 幸福度 22: 長時間労働 24: 生活上の満足 23: 余暇時間 物質的豊かさ 生活の質 (QOL) 6
各国の状況は 11 の観点から指標化されるが その集計は利用者にまかされている 望ましい集計方法とは どのようなものか? 自分のウエイトを反映したランキングが計算される ここで自分でウエイト付けを決める 7
2 より良い暮らし指標の統合化 8
統合指標 様々な指標を集計して 一つの統合指標をいかに作成するべきかという研究が進んでいる 様々な分野に応用 ( 各国の競争力や科学技術についての指標など ) なかでも Benefit of the Doubt (BOD) アプローチという方法が注目されている 9
BOD アプローチとは? 1 ウエイト付けが内生化されている 2 各国のパフォーマンスの指標 住民により良い生活を提供するのが責務 3 より良い生活を提供するための条件を考慮 新国富 ( 包括的富 ) の総量の違いを考慮して 各国のパフォーマンスを比較する 10
Mexico Chile Turkey Brazil Portugal Italy France Hungary Russia Israel Slovak Rep. Greece Czech Rep. Korea Austria Poland Australia Belgium Canada Denmark Finland Germany Iceland Ireland Japan Luxembourg Netherlands New Zealand Norway Spain Sweden Switzerland UK US 持続可能性 幸福度指標シンポジウム 1.0 0.9 0.8 0.7 0.6 0.5 0.4 0.3 0.2 0.1 0.0 新国富考慮あり 新国富考慮なし 11
3 幸福度の要因分解 12
幸福度 (= 主観的満足度 ) の調査 全般的にみて あなたは今の自分の生活にどれくらい満足していますか? 0 ( 考えうる最悪の生活 ) ~ 10 ( 最高の生活 ) で評価 幸福度を質問する国際的な調査 ギャラップ世論調査 ユーロバロメーター調査 世界価値観調査 13
経済学による幸福度の研究 アンケートによる幸福度調査の信頼性 指標間で相関は高い 幸福度は安定 客観的データと一貫性あり 生理学的検証も可能 幸福度に対する経済的要因の研究が進む 失業と幸福度 所得と幸福度 イースタリン パラドックス 14
人はパンのみにて生くるにあらず 幸福 (= 厚生 ) の決定要因 所得 雇用 政治体制 環境 全ての社会的 経済的要因を考慮する必要あり! 平均的な幸福度の違いは これらの要因から説明できるのでは? 15
Better Life Index より詳細な統計 (24) 1 住居 1: 部屋数 2: 住宅支出 3: 浴室の整っ た住宅の割合 2 所得 4: 家計所得 5: 金融資産 3 仕事 6: 雇用率 7: 職業の安定 8: 長期失業率 9: 個人所得 4 コミュニティ 10: 社会的繋がり 5 教育 11: 高卒者数 12: 学業成績 13: 就学期間 6 環境 14: 水質 15: 大気質 7 政治参加 16: 公的機関との協議 17: 投票率 8 健康 18: 平均寿命 19: 健康状態 9 安全性 20: 殺人率 21: 暴力事件 10 ワーク ライフ バランス 11 幸福度 22: 長時間労働 24: 生活上の満足 23: 余暇時間 物質的豊かさ 生活の質 他の 23 の要因から各国の幸福度の違いを説明する 16
Switzerland Norway Sweden Iceland Netherlands Denmark Finland Canada Austria Mexico New Zealand Australia Israel United States Luxembourg Ireland Belgium United Kingdom Brazil Germany France Chile Spain Czech Republic Slovenia Korea Japan Slovak Republic Poland Italy Russian Federation Estonia Turkey Greece Portugal Hungary -3-2.5-2 -1.5-1 -0.5 0 0.5 1 1.5 2 (0-to-10 scale) 感度 住居 所得 雇用 コミュニティ 教育 環境 政治 健康 安全 ワーク ライフ バランス 幸福度 < 人々はなぜ幸福か?> 雇用 安全 の影響大! 日本の場合 幸福度 -15.8% (26 位 ) = 所得 7.13% (2 位 ) + 住居 1.91%(6 位 ) + 安全 1.03%(1 位 ) + 感度 0.89% (1 位 ) + 環境 0.36%(10 位 ) + 政治 0.06% (11 位 ) + 雇用 0.05%(13 位 ) + 教育 0.04%(13 位 ) + コミュニティ 0.00% (3 位 ) + バランス -6.97% (35 位 ) + 健康 -20.31% (36 位 ) 17
Ireland Finland Korea Japan United States Poland Estonia Iceland Canada Austria Belgium Spain Turkey Portugal Switzerland Norway Sweden Netherlands New Zealand United Kingdom Brazil Greece Russian Federation Mexico Luxembourg Germany Denmark Australia France Czech Republic Slovak Republic Israel Hungary Chile Slovenia Italy -1.5-1 -0.5 0 0.5 1 1.5 (0-to-10 scale) 感度 住居 雇用 コミュニティ 教育 環境 市民参加 健康 安全 ワーク ライフ バランス 幸福度 < 女性はなぜ幸福か?> ワーク ライフ バランス のプラス効果が 雇用 のマイナスの効果を相殺! 幸福の感度が高い! 日本の場合 幸福度 6.67% (2 位 ) = バランス 9.34% (3 位 ) + 教育 1.19% (6 位 ) + 感度 0.00% (15 位 ) + コミュニティ 0.00% (14 位 ) + 環境 0.00% (4 位 ) + 政治 0.00% (7 位 ) + 安全 0.00% (9 位 ) + 健康 -0.83% (28 位 ) + 雇用 -3.03% (29 位 ) 18
4 非経済的側面の金銭評価 19
研究成果の概要 : 幸福度指標を用いた自然資本の金銭価値評価 < 背景 > より良い暮らし指標 (OECD Better Life Index: BLI) の登場 24 の指標群 (10 のグループ ) 1 住居 2 所得 3 雇用 4 コミュニティ 5 教育 6 環境 7 政治 8 健康 9 生活満足度 10 安全 11 ワークライフバランス OECD 加盟国の国別平均のデータ 各国の幸福度がなぜ異なるのかを説明することができる < 日本国内でアンケートを実施 > 全国 3124 サンプルを対象 BLI の指標群に対応する項目を質問 GIS を使い住居地域の情報を補足 < 生活環境に関する金銭評価 > 生活環境の違いが幸福度へ及ぼす影響を把握 生活環境の個々の側面について金銭評価が可能に! 自然環境 コミュニティ ワーク ライフ バランス など価格のつかないものを金銭で評価できる < 幸福関数の推計 > y = f x 0, x 1,, x n 人々の幸福度人々の生活環境 (BLI に対応 ) 人々の生活環境を包括的に把握! 人々の幸福度がなぜ異なるかを説明することができる 順序プロビットモデル 包絡分析法 (DEA) 確率的フロンティア分析 20
Life Satisfaction Approach SWB k = f x k, y k, z k MWTP m = d y d x m = MWTP n = d y d z n = f x m f z n f y f y 生活環境 m の金銭評価 (Marginal Willingness to Pay: MWTP): m の限界的な変化に対して個人 k の幸福度を一定に保つために所得 y をどれだけ変化させる必要があるか 21
幸福度指標を用いた金銭価値評価の例 Ferreira and Moro (2010) Menz and Welsch (2011) アイルランド (2001 年 ) PM10:1μg/ m3の増大 =921US$ OECD25 か国 (1990~2004 年 ) PM10:1μg/ m3 =117~199US$ Menz (2011) 48 か国 (1990~2006 年 ) Lebinson (2012) Ambley and Fleming (2013) PM10:1μg/ m3 =136US$ アメリカ (1984~1996 年 ) PM10:1μg/ m3 =883US$ オーストラリア (1984~1996 年 ) Greenspace:1%(143 m3 )=1,168A$ 22
研究成果の概要 : 幸福度指標を用いた自然資本の金銭価値評価 BLI の柱指標案単位順序プロビット確率的フロンティア DEA 1 住居 住居費率万円 /% - - 3.32 一人当たり床面積万円 / m2 5.70 7.16 17.61 2 所得 資産 万円 / 万円 0.09 0.09 0.66 3 雇用 仕事の安定万円 / 年 5.00 6.38 4.07 失業期間万円 / 月 -74.39-94.97-38.98 4コミュニティ 助けになる人万円 / 人 67.11 81.42 39.36 地域活動への参加万円 / 日 5.01 4.71 22.70 5 教育就学年数万円 / 年 - - 12.52 6 環境 <BLI 指標の年間世帯所得換算 > SPM 濃度 ( 日最大 ) 万円 /(μg/ m3 ) - - 1.79 公園比率 万円 /% 28.32 30.51 213.17 森林比率 万円 /% - - 109.05 8 健康自己申告による健康万円 / 段階 428.93 488.99 55.82 10 安全 刑法犯認知数 万円 / 件 - - 0.27 11ワークライフ 長時間労働 万円 /( 時間 / 週 ) -23.28-22.28-0.60 バランス 自由時間 万円 /( 時間 / 週 ) 7.63 8.95 1.23 公園比率および森林比率は居住地から 1500 メートル圏内の値 ( 国土交通省 GIS ホームページ国土数値情報都市地域土地利用細分メッシュ第 1.0 版 (http://nlftp.mlit.go.jp/ksj/gml/datalist/ksjtmplt-l03-b-u.html)(100m メッシュ ) 23
最終年度の研究 : 幸福度指標を用いた自然資本の金銭価値評価 < 過去 2 年間の研究 > 地域 全国においてアンケートを実施し個人の生活環境を把握 国民の生活満足度の要因を分析 客観的データをGISを用いて作成 < 幸福度指標 > 幸福度指標に何を用いるべきか? 主観的幸福度 生活満足度 その他の指標 個人の生活環境を捉える指標が必要! < 自然資本指標 > 日本国民にとって重要な指標とは? 自然資本指標はBLI 指標群の中でどの程度重要なのだろう? 統計的有意性を確保できる自然資本指標が必要! より詳細なデータ < 指標の位置づけ > 幸福度指標の検討 複数の幸福度指標データを用いた分析 より解像度の高い衛生画像の活用による詳細な客観的指標の作成 QuickBird( 解像度 61cm) および IKONOS( 解像度 82cm) 等の活用 24
幸福度指標 主観的幸福度 生活満足度 カントリルラダー ( 昨日 ) 優位な感情 昨日の振返り ( 過去数週間 ) 優位な感情 精神的健康 (Gener al Health Questio naire (GHQ- 12) 抑うつ度 (Fiveitem version of the Mental Health Inventory (MHI-5) 25
自然資本指標 ( 緑 ) 公園の緑街路樹教育施設の緑公共施設の緑社寺の緑川辺の緑農地の緑私有地の緑対象地域 : 東京都の 8 区 ( 杉並区 中野区 新宿区 渋谷区 世田谷区 品川区 港区 目黒区 ) 26
緑 1% の価値 ( 世帯所得換算 ) 主観的幸福度 : 26,000 円 生活満足度 : 72,000 円 主観的幸福度 : 34,600 円 生活満足度 : 61,500 円 公 カントリルラダー : 11,900 円 カントリルラダー : 17,800 円 園 の 優位な感情 ( 昨日 ):143,400 円 昨日の振り返り : 180,000 円 街 路 樹 優位な感情 ( 昨日 ):61,200 円 昨日の振り返り : 32,200 円 緑 優位な感情 ( 過去数週間 ):28,200 円 優位な感情 ( 過去数週間 ):36,000 円 公園の緑の平均 : 1.12% GHQ12: 156,300 円 MHI-5: 74,200 円 街路樹の平均 : 2.44% GHQ12: 105,700 円 MHI-5: 42,800 円 居住地から 1500 メートル圏内 27
より良い暮らし指標 5 まとめ 所得以外の要素も考慮して 人々の厚生を計測する代表的試み 統合指標による統合化 全体的な厚生の国際比較が可能 幸福度指標との併用 幸福度の要因分解 非経済的条件の金銭評価 28