大成建設技術センター報第 4 号 (28) 天井吹出型パーソナル空調システムの 省エネルギー効果に関する研究 自席パソコンとの連動制御による省エネルギー効果 張本和芳 * 仁志出博一 *2 小林信郷 *2 加藤美好 *2 * 齋藤正文 Keywords : Personal Air Conditioning System, Task & Ambient Air Conditioning System, IP Integrated Network, Energy Evaluation パーソナル空調, タスクアンビエント空調,IP 統合ネットワーク, エネルギー評価. はじめに天井吹出型パーソナル空調システムは 快適性と省エネルギー性の両立を目的として 個人の好みに応じて各個人の吹出しユニットを ON/OFF 風量 風向調整して温熱環境を調整する機構 また在席状況に連動して吹出しユニットを自動で ON/OFF する機構を実装している この操作 制御のインフラには IP 統合ネットワークを採用し この特性を活かして自席パソコンと吹出しユニットの連携による制御システムを構築している 本報では この概要 および適用した事務所ビルでの制御の事例と省エネルギー効果について報告する 2. 省エネルギー効果の概要本パーソナル空調システムは 個人の好みおよび在席状況に応じて 各個人の吹出しユニットごとに ON/OFF が可能であることから 以下のような省エネルギー効果を得ることが期待される ( 図 -) 2.2 外調機負荷および外皮負荷タスク & アンビエント空調では 排気温度を高くして外調空気による内部負荷処理熱量を大きくとり また外皮廻りの室内温度を上昇させて外皮負荷を低減することが可能となる 特に本システムでは 在席状況に応じてパーソナル吹出しユニットを ON/OFF するので 消し忘れなどによって内部発熱のない不在席に不必要なタスク気流を供給することがなく 高めの温度のアンビエント領域を形成することが期待される 外皮負荷 [ W ] 外調空気による室内負荷の処理 [W ] 排気 搬送動力 ( アンビエント分 ) アンビエント吹出しによる処理熱量 [W ] 内部発熱 [ W ] 外気 搬送動力 ( パーソナル分 ) パーソナル吹出しによる処理熱量 [W ] 外調機からの外調空気導入 端末 AHU INV 図 - パーソナル空調における熱処理の概念 Fig. Heat treatment concept of personal A/C system 還気 排気 給気 2. 端末 AHU の空気搬送動力および熱処理在席状況に付随する内部負荷 ( 人体 自席 PC タスク照明 ) が発生している箇所に 必要量だけ空調空気を搬送する仕組みであるので 内部負荷処理用の端末 AHU のファン動力を 在席数に応じて削減することができる また在席数に応じて供給熱量を制御することが可能で 過剰な熱供給を防止することができる * 技術センター建築技術研究所環境研究室 *2 設計本部設備グループ アンビエント照明 パーソナル空調 座席画面 操作画面 図 -2 パソコンからの空調操作 Fig.2 Operation of personal outlet unit from a PC 3-
大成建設技術センター報第 4 号 (28) 3. 操作 制御システムの概要 3. パーソナル空調に要求される操作 制御機構パーソナル空調の個人単位の操作 制御の特徴を活かし 個人にとっては好みの操作を可能とし 2 管理側にとっては在席状況に応じて個々の吹出しユニットを ON/OFF して細やかに省エネを図る機構を構築した 3.2 自席パソコンによる吹出しユニットの操作各個人の吹出しユニットごとに ON/OFF 3 段階の風量 無段階の左右方向の風向 および後述の PC 連動制御機能の する / しない を設定する機構とした 操作は Web 画面上で行うので PC 側への特別なソフトウエアのインストールが不要で OS 依存性もない ( 図 -2) 3.3 自席 PC による吹出しユニットの在席連動制御在席状況を自席パソコンの稼働状況で判断し パソコンの ON/OFF に連動して 各個人の吹出しユニットを自動で ON/OFF する機構を実装した 不在時の消し忘れなど無駄な電力消費を防止するとともに ユーザーは着席 / 離席時毎の ON/OFF 操作から解放される利点がある パソコンを放置した場合に休止状態 スタンバイ状態に移行する設定にしておけば 会議などで一時的に離席した場合も不在と判断し 自動で吹出しユニットが OFF になる また 連動制御機能は 個人のワークスタイルに合わせて 連動する / しない を選択できるようにした 3.4 端末 AHU のインバータ制御 ON/OFF 制御 スパン (9.6m 6m) には 座席数分の 9 台の吹出しユニットがあり これに対して端末 AHU が空調空気を供給している 端末 AHU のファンは アンビエント分の風量をベースとし 吹出しユニット運転台数に応じた風量をインバータにて制御している ( 図 -3) また端末 AHU の ON/OFF は アンビエント照明の ON/OFF と連動した制御を行っており アンビエント照明が OFF の場合はそのスパンは不在と判断し スケジュールの停止時刻より前倒しで端末 AHU のベース運転を OFF としている 3.5 IP 統合ネットワークによる制御システム以上の操作手法 連動制御は BA 系ネットワークと OA 系ネットワークとの連携により構築されている 今回適用した事務所では BACnet LonWorks などのオープン化手法を採用し 施設情報 ( 電力 照明 空調 セキュリティ等 ) を BACnet/IP により統合 一元管理する IP 統合ネットワークを採用している ( 図 -4) IP 統 合ネットワークのメリットには () 施設の監視 操作の一元化 (2) 配線の拡張性 コスト削減 (3) 他システムとの相互連携性 が挙げられるが 特に本システムでは OA 系ネットワークとの連携により Web 画面での操作 パソコンとの連動機構を実現している 操作用の Web 画面は 自席パソコン上の Web ブラウザから BA ネットワーク上の Web サーバへ要求を送り Web サーバが BACnet で各 Icont から現在値を取得し 画面を自動生成して自席パソコンに提供する仕組みとなっている またこの Web サーバにて 各吹出しユニットに紐付けされたパソコンの ON/OFF 状態を監視する機構としている なお IP 統合ネットワークの構築に当たり 各設備のトラフィック量や発生タイミングなどの基礎データを収集し 操作 制御に問題がないことを検証した 4. 実建物での運用 省エネルギーの実測 4. 自席パソコンによる吹出しユニットの操作吹出しユニットの操作状況について 冷房期間の終了時にアンケートを行った (27 年 月実施 回答数 55 人 ) 風向調整機構については 全体の 84% の居住者が運用開始時を含めて個人の好みに応じた風向調整をしており 全体の 39% はひと月に数回以上変更している また風量については 全体の 76% が調整機構を使用しており 全体の 36% の 日に 回以上使用している 調整のタイミングは室内が暑いと感じたときや外勤帰りなどに使用されている場合が多く 個人の体感と設定温度とのずれや代謝量の変化に応じて 調整機構を活用していることが分かった 端末 AHU 風量 [m3/h] 4 2 8 6 4 2 パーソナル分 アンビエント分 2 3 4 5 6 7 8 9 図 -3 在席数と AHU 風量 Fig.3 Number of occupant's presence and air flow rate of terminal AHU 3-2
大成建設技術センター報第 4 号 (28) 施設情報 IP 統合ネットワーク 空調機 空調 パーソナル吹出しユニット 照明 照明 明るさセンサー セキュリティ カードリーダー 監視 BAサーバーカメラ BACnet/IP 終日使用 3 6 9 2 5 8 2 3 6 9 2 5 8 2 外勤がち オフィス情報ネットワーク情報融合ルーター 3 6 9 2 5 8 2 3 6 9 2 5 8 2 OA サーバー スタンバイモード設定 エコビルモニターエネルギー監視 自席パソコン空調 照明操作 3 6 9 2 5 8 2 3 6 9 2 5 8 2 図 -4 IP 統合ネットワーク Fig.4 IP integrated network system 図 -5 PC の ON/OFF スタンバイ (2 日間 ) Fig.5 Status of PC (On, Off, standby) 4.2 吹出しユニットの在席連動制御の状況 ) 個人毎の PC の ON/OFF スタンバイ図 -5に個人毎の PC の ON/OFF スタンバイの代表的パターンを示す ( 定時勤務時間 :8:45~7:3) 一般なワークスタイルは出社時に PC を ON 外出 退社時に OFF する形態であるが PC 放置時におけるスタンバイモードを推奨しており この場合 離席時には PC は見かけ上 OFF となる 各吹出しユニットは関連づけられた PC の状態に連動し ON/OFF される 2) 日での吹出しユニットの ON/OFF 状況図 -6に 27 年 8 月 日のパソコンとパーソナル吹出しの連動率等を実測したグラフを示す ( 対象 8 台 ) 当日の在席率は最高時で 65% この 72% が吹出しユニットを ON にしており さらにこの 87% は PC 連動機能を有効にしている 以上から 多くの居住者がパーソナル空調吹出しおよび PC 連動機能を活用していることが分かった 一方 全体で 3% の居住者が PC 連動機能を OFF にしているが これは個人の好みに応じて吹出しユニットを常時 OFF としているものと考えられる 3) 年間での吹出し ON/OFF PC 連動設定状況本システムでは 個人が吹出しユニットの ON/OFF や PC 連動の有効 / 無効の設定を変更できる仕組みとしている 図 -7に年間での在席時の吹出しユニットの使用率 PC 連動の設定率の変化を示す 夏期は 気流感を好む居住者が多く 冷房開始と同時に使用率が高まり 約 7 割の居住者が吹出しユニットを使用している 一方で冬期は直接的な気流感を好まない居住者が多く 吹出しユニットの使用率は 3 割にとどまる PC 連動機能を有効に設定する率も夏期が高く 冬期が低い傾向にあり 吹出しユニットの PC 連動の設定の切り替え機能を活用していると言える 以上のように 個人の好みや季節の温冷感に合わせ 居住者が能動的にユニットの ON/OFF や設定を選択していることが分かった 4) スタンバイモードによる一時的な離席率への対応 PC は一般的に 離席した場合など 操作せずに放置しておくとスタンバイ状態に入るモードに設定することができる 吹出しユニットはこのスタンバイモードとも連動するため PC 側をスタンバイモードへの移行を許可する設定にしておくことで 更に細やかな ON/OFF 制御をすることができる スタンバイモードを許可している居住者のうち 9 人について ヶ月間 (27 年 6 月 ~ 翌 3 月 ) PC の稼働状況を調査し 着席率を推定した 着席率は 各人の在館時間のうち PC が ON になっている時間帯の割合とした 在館時間のうち約 4% の時間帯は昼食 会議 他の場所での作業などで離席している結果であった 居住者の多くの人がスタンバイモードの許可の設定をすることにより さらに細やかな ON/OFF 制御による省エネルギーを図ることができる 4.3 パーソナルユニットの運転台数と処理熱量本空調システムは 各スパンに配置される端末型 AHU と これに新鮮外気を供給する外調機から構成される ここでは代表的な スパンに着目し 端末 AHU と外調機が処理する室内側負荷を評価した 冷房運転時の代表的な 日 (27 年 9 月 4 日外気温度 29.2 ) のパーソナルユニット運転台数 (= 在席人数 ) と 3-3
大成建設技術センター報第 4 号 (28) PC 吹出しの ON PC 連度設定 [ 率 ].8.6.4.2 PC 稼働 吹出しON PC 連動で吹出しON 在席時に手動で吹出しON 不在席を遠隔でON PC 連動設定 2 3 4 5 6 7 8 9 23456789222223 吹き出し ON PC 連動設定 [ 率 ] 吹き出しON PC 連動設定.8.6.4.2 4/ 5/ 6/ 7/ 8/ 9/ //2/ / 2/ 3/ 4/ 図 -6 吹出しユニットと PC 連動の状況 (8 月 日 ) Fig.6 Behavior of outlet unit interlocked with PC (Aug..) 図 -7 吹出しユニットと PC 連動の状況 ( 年間 ) Fig.7 Behavior of outlet unit interlocked with PC (Year) 空調機の搬送動力 処理熱量の推移を図 -8に示す 始業前時間 (7:~8:4) に 全数 9 人分の吹出しユニットで立上げ運転を行っている 9 人席のうち午前中は 7 人在席し 午後は外勤により 徐々に在席数が少なくなった 空調時間帯の各平均温度は 端末 AHU のパーソナル吹出しが 2.4 アンビエント吹出しが 24.8 レタンが 25.8 排気が 27.2 であった 端末 AHU の搬送動力は 在席人数に応じて調整されていることが分かる 外調機は CO2 濃度により風量制御されるシステムだが 該当する VAV での変化は見られず 外調機の搬送動力は一定となった また処理熱量については 導入された外調空気による室内負荷の処理熱量 および端末 AHU のアンビエント分は 空調時間帯を通じてほぼ変化がないが パーソナル分の処理熱量は 在席人数に応じて調整されている 4.4 在席人数と搬送動力および処理熱量上記対象日の空調運転時間を ~7 人の在席数の時間帯ごとに区分し 各時間帯あたりの搬送動力および処理熱量を算出した結果を図 -9に示す 端末 AHU の搬送動力は 在席人数に応じ軽減されている 端末 AHU のタスク分の処理熱量は在席人数にほぼ比例しており 在席人数に応じて処理熱量を制御できている アンビエント分および外調空気による室内負荷処理熱量は 外皮負荷の影響があるものの ほぼ同一であった 図 -に 27 年 9 月における各日の端末 AHU の搬送動力の削減効果を示す 在席数制御により約 43% に削減出来ている 定時時間での在席率は 63% 定時 時間外も含めた空調時間帯の在席率は 52% であった 搬送動力 [W] 処理熱量 [W] 9 6 3 35 3 25 2 5 5,4,2, 8 6 4 2 在席数 [ 人 ] 3 6 9 2 5 8 2 外調機分 [W] 3 6 9 2 5 8 2 外調機の室内負荷分 [W] 3 6 9 2 5 8 2 図 -8 在席数 処理熱量 消費電力量の時系列変化 Fig.8 Time series variation of occupant's presence, amount of heat and consumption energy 3-4
大成建設技術センター報第 4 号 (28) 搬送動力 [W] 外調機分 [W] 8 7 6 5 4 3 2 2 3 4 5 6 7 処理熱量 [W],2, 8 6 4 2 外調機の室内負荷分 [W] 2 3 4 5 6 7 図 -9 在席人数と搬送動力および処理熱量 Fig.9 Occupant's presence, conveying energy and amount of heat 5. まとめ 本報では パーソナル空調の省エネルギーの仕組みを明らかにし IP 統合ネットワークを活用した自席パソコンによる操作 制御機構を紹介した また 適用された物件での制御の実態およびエネルギー評価を行った ) 吹出しユニットは 個人毎の好みに応じて ON/OFF 風向 風量調整の操作が実施されており また季節間の切り替えも自発的に行っている状況が把握でき 居住者に選択性を提供する制御システムであることを示した 2) 自席パソコンとの吹出しユニットの ON/OFF 制御により 居住者に対して ON/OFF 操作を意識させず また不在時の不要な吹出しを防止することができ 端末 AHU の搬送動力は定風量に比べ 約 43% に削減できることを実測により確認した 3) 在館時間のうち約 4% は離席している状況が観察された 吹出しユニットの ON/OFF は 在館 制御でもある程度のエネルギー削減が図れるが 居住者が自席 PC をスタンバイモードの設定とすることで 在席 制御が可能となり さらに細やかな ON/OFF 制御による省エネルギーを得ることができる 端末 AHU 搬送動力 (24 台分 )[kwh] 25 2 5 5 在席数制御あり 在席数制御なし 2 3 4 5 6 7 8 9 2 3 45 6 78 9 22 22 2324 25 2627 28 293 図 - 在席数制御による搬送動力削減 (27 年 9 月 ) Fig. Conveying energy reduction effect of occupant's presence control (Sept. 27) パーソナル空調は個人に選択性を持たせたシステムであるが故 制御方法 運用管理方法によってはエネルギーを増大させる危険性があり システム導入時には ICT 技術の制御への応用や居住者への周知 省エネ行動の推進の仕組みも合わせて導入する必要がある 空調におけるタスク & アンビエント方式は 照明と同様に普及しつつあるが 空調は照明に比べて ON/OFF 状態が視覚的に分かりづらい分だけ消し忘れが多く 例えば本報で紹介したような対策手法が必要になると思われる 建物の運用段階においては 施設管理者の省エネ活動だけではなく 居住者個人の省エネ行動が益々求められており ICT 技術の活用は個人毎の快適性向上と省エネ貢献の両立の一助となると考えられる 参考文献 ) 三村良輔, 秋元孝之ら : 非等温気流タスク空調に関する研究, 空気調和 衛生工学会大会論文集,pp.8-84, 27. 2) 楊霊, 加藤信介ら : パーソナル空調機を用いた自然換気併用空調オフィスに関する研究 ( その 4), 空気調和 衛生工学会大会論文集,pp.65-68,26. 3-5