された犯人が着用していた帽子や眼鏡は持っていないなどと供述して, 犯罪の成立を争った イ原審の証拠構造本件犯行そのものに関する証拠本件犯行そのものに関する証拠として, 本件犯行を目撃したという本件マンションの住人の警察官調書 ( 原審甲 2), 精液様のものが本件マンション2 階通路から採取されたこ

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階通路において 前同様の状態で 自己の陰茎を露出して手淫した上 射精し もって公然とわいせつな行為をした というものである 2 第一審判決 (1) 第一審判決の要旨第一審は 被告人が本件犯行の犯人であると認定し 被告人を懲役 1 年に処すると判決した 被告人が犯人との同一性を争ったが 第一審判決は

控訴人は, 控訴人にも上記の退職改定をした上で平成 22 年 3 月分の特別老齢厚生年金を支給すべきであったと主張したが, 被控訴人は, 退職改定の要件として, 被保険者資格を喪失した日から起算して1か月を経過した時点で受給権者であることが必要であるところ, 控訴人は, 同年 月 日に65 歳に達し

うものと推認することができる しかしながら, 被告人は, インターネットを通じて知り合ったAから金を借りようとしたところ, 金を貸すための条件として被害女児とわいせつな行為をしてこれを撮影し, その画像データを送信するように要求されて, 真実は金を得る目的だけであり, 自分の性欲を刺激興奮させるとか

平成  年 月 日判決言渡し 同日判決原本領収 裁判所書記官

在は法律名が 医薬品, 医療機器等の品質, 有効性及び安全性の確保等に関する法律 と改正されており, 同法において同じ規制がされている )2 条 14 項に規定する薬物に指定された ( 以下 指定薬物 という ) ものである (2) 被告人は, 検察官調書 ( 原審乙 8) において, 任意提出当日

年 10 月 18 日から支払済みまで年 5 分の割合による金員を支払え 3 被控訴人 Y1 は, 控訴人に対し,100 万円及びこれに対する平成 24 年 1 0 月 18 日から支払済みまで年 5 分の割合による金員を支払え 4 被控訴人有限会社シーエムシー リサーチ ( 以下 被控訴人リサーチ

平成21年第57号

法律学入門12

O-27567

情報の開示を求める事案である 1 前提となる事実 ( 当事者間に争いのない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実 ) 当事者 ア原告は, 国内及び海外向けのモバイルゲームサービスの提供等を業とす る株式会社である ( 甲 1の2) イ被告は, 電気通信事業を営む株式会社である

ものであった また, 本件規則には, 貸付けの要件として, 当該資金の借入れにつき漁業協同組合の理事会において議決されていることが定められていた (3) 東洋町公告式条例 ( 昭和 34 年東洋町条例第 1 号 )3 条,2 条 2 項には, 規則の公布は, 同条例の定める7か所の掲示場に掲示して行

平成  年(オ)第  号

(イ係)

量刑不当・棄却

7 という ) が定める場合に該当しないとして却下処分 ( 以下 本件処分 という ) を受けたため, 被控訴人に対し, 厚年法施行令 3 条の12の7が上記改定請求の期間を第 1 号改定者及び第 2 号改定者の一方が死亡した日から起算して1 月以内に限定しているのは, 厚年法 78 条の12による

怨霊が乗り移ったことから本件犯行に至った旨供述していたところ, 原判決は, おおむね次のとおり説示して, 被告人の責任能力を肯定し, 量刑判断を示している ア責任能力を肯定した理由は, 次のとおりである 原審において被告人の精神鑑定をしたE 医師の鑑定意見によれば,1 被告人は, 犯行当時, 統合失

平成 27 年 2 月までに, 第 1 審原告に対し, 労働者災害補償保険法 ( 以下 労災保険法 という ) に基づく給付 ( 以下 労災保険給付 という ) として, 療養補償給付, 休業補償給付及び障害補償給付を行った このことから, 本件事故に係る第 1 審原告の第 1 審被告に対する自賠法

平成 30 年 10 月 26 日判決言渡同日原本領収裁判所書記官 平成 30 年 ( ワ ) 第 号発信者情報開示請求事件 口頭弁論終結日平成 30 年 9 月 28 日 判 決 5 原告 X 同訴訟代理人弁護士 上 岡 弘 明 被 告 G M O ペパボ株式会社 同訴訟代理人弁護士

平成  年(あ)第  号

諮問庁 : 国立大学法人長岡技術科学大学諮問日 : 平成 30 年 10 月 29 日 ( 平成 30 年 ( 独情 ) 諮問第 62 号 ) 答申日 : 平成 31 年 1 月 28 日 ( 平成 30 年度 ( 独情 ) 答申第 61 号 ) 事件名 : 特定期間に開催された特定学部教授会の音声

次のように補正するほかは, 原判決の事実及び理由中の第 2に記載のとおりであるから, これを引用する 1 原判決 3 頁 20 行目の次に行を改めて次のように加える 原審は, 控訴人の請求をいずれも理由がないとして棄却した これに対し, 控訴人が控訴をした 2 原判決 11 頁 5 行目から6 行目

平成 24 年 ( わ ) 第 207 号道路交通法違反被告事件 平成 25 年 2 月 14 日宣告高知地方裁判所 主 文 被告人は無罪 理 由 1 本件公訴事実は, 被告人は, 平成 23 年 4 月 25 日午前 10 時 49 分頃, 高知市 a 町 b 番地先交差点 ( 以下 本件交差点

H 刑事施設が受刑者の弁護士との信書について検査したことにつき勧告

Ⅰ 被害者が記帳台に置いた封筒に現金 66,600 円が在中していたか? 一審判決は本件当日の朝 自宅を出る前に本件封筒の中に現金が入っているのを目視で確認したとの被害者の供述は これを信用することができる ( 弁護人が供述の変遷等として指摘する部分は いずれもこの供述の根幹部分に関わるものではない

(1) 本件は, 歯科医師らによる自主学習グループであり, WDSC の表示を使用して歯科治療技術の勉強会を主催する活動等を行っている法人格なき社団である控訴人が, 被控訴人が企画, 編集した本件雑誌中に掲載された本件各記事において WDSC の表示を一審被告 A( 以下, 一審被告 A という )

達したときに消滅する旨を定めている ( 附則 10 条 ) (3) ア法 43 条 1 項は, 老齢厚生年金の額は, 被保険者であった全期間の平均標準報酬額の所定の割合に相当する額に被保険者期間の月数を乗じて算出された額とする旨を定めているところ, 男子であって昭和 16 年 4 月 2 日から同

たり, 進路の前方を注視し, 対向直進車両の有無及びその安全を確認して, その進行を妨げないようにすべき自動車運転上の注意義務があるのに, これを怠り, 対向車線を直進してきた被害者車両に気付かず, 自車右前部を被害者車両に衝突させ, その結果, 被害者を死亡させた, という過失運転致死の事実 (

る なお, 前記写真は,M 号室前の廊下をビデオ撮影していたものを, 静止画として切り出したものであるから, 以下, 当該ビデオ撮影 ( 以下 本件ビデオ撮影 という ) の適法性について検討する 関係証拠によれば, 以下の事実が認められる すなわち, 捜査機関は, 委員会 ( 通称 派 以下 派

偽過少申告の認識 認容があったか, また, 共犯者らとの間で意思連絡があったか, これらがあったとして正犯性が認められるか, という点であった 原判決の ( 争点に対する判断 ) の構造は, まず, 同意書証によって, アX( 平成 25 年 11 月死亡 ) から多額の財産を単独相続した Aが,

政令で定める障害の程度に該当するものであるときは, その者の請求に基づき, 公害健康被害認定審査会の意見を聴いて, その障害の程度に応じた支給をする旨を定めている (2) 公健法 13 条 1 項は, 補償給付を受けることができる者に対し, 同一の事由について, 損害の塡補がされた場合 ( 同法 1

審決取消判決の拘束力

事実及び理由 第 1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す 2 被控訴人は, 原判決別紙被告方法目録記載のサービスを実施してはならない 3 被控訴人は, 前項のサービスのために用いる電話番号使用状況調査用コンピュータ及び電話番号使用状況履歴データが記録された記録媒体 ( マスター記録媒体及びマスター記録

がなく, 違法の意識の可能性もなかったのに, 被告人の上記各行為がそれぞれ同条 1 項の私電磁的記録不正作出又は同条 3 項の同供用に該当すると認め, 各罪の故意も認定して, 上記全ての行為について被告人を有罪とした原判決には, 判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認及び同条の解釈適用を誤った法

第 1 控訴の趣旨 控訴人は, 原判決取消しとともに, 被控訴人らの請求をいずれも棄却する判決を 求めた 第 2 事案の概要 被控訴人らは日本舞踊の普及等の事業活動をしている 控訴人はその事業活動に 一般社団法人花柳流花柳会 の名称 ( 控訴人名称 ) を使用している 被控訴人ら は, 花柳流 及び

求めるなどしている事案である 2 原審の確定した事実関係の概要等は, 次のとおりである (1) 上告人は, 不動産賃貸業等を目的とする株式会社であり, 被上告会社は, 総合コンサルティング業等を目的とする会社である 被上告人 Y 3 は, 平成 19 年当時, パソコンの解体業務の受託等を目的とする

非常に長い期間, 苦痛に耐え続けた親族にとって, 納得のできる対応を日本政府にしてもらえるよう関係者には協力賜りたい ( その他は, 上記 (2) と同旨であるため省略する ) (4) 意見書 3 特定個人 Aの身元を明らかにすること及び親子関係の証明に当たっては財務省 総務省において, 生年月日の

最高裁○○第000100号

立命館13_脇中.indd

応して 本件著作物 1 などといい, 併せて 本件各著作物 という ) の著作権者であると主張する原告が, 氏名不詳者 ( 後述する本件各動画の番号に対応して, 本件投稿者 1 などといい, 併せて 本件各投稿者 という ) が被告の提供するインターネット接続サービスを経由してインターネット上のウェ

平成  年(行ツ)第  号

特例適用住宅 という ) が新築された場合 ( 当該取得をした者が当該土地を当該特例適用住宅の新築の時まで引き続き所有している場合又は当該特例適用住宅の新築が当該取得をした者から当該土地を取得した者により行われる場合に限る ) においては, 当該土地の取得に対して課する不動産取得税は, 当該税額から

原告が著作権を有し又はその肖像が写った写真を複製するなどして不特定多数に送信したものであるから, 同行為により原告の著作権 ( 複製権及び公衆送信権 ) 及び肖像権が侵害されたことは明らかであると主張して, 特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律 ( 以下 プ ロ

11総法不審第120号

三衆議院議員稲葉誠一君提出再審三事件に関する質問に対する答弁書一について捜査当局においては 今後とも 捜査技術の一層の向上を図るとともに 自白の信用性に関し裏付け捜査を徹底する等十全な捜査の実施に努めるべきものと考える 二について再審三事件の判決においては いずれも被告人の自白の信用性に関する指摘が

466C2F7FEA69A FC500184A9

2 当事者の主張 (1) 申立人の主張の要旨 申立人は 請求を基礎づける理由として 以下のとおり主張した 1 処分の根拠等申立人は次のとおりお願い書ないし提案書を提出し 又は口頭での告発を行った ア.2018 年 3 月 23 日に被申立人資格審査担当副会長及び資格審査委員長あてに 会長の経歴詐称等

税務訴訟資料第 267 号 -70( 順号 13019) 大阪高等裁判所平成 年 ( ) 第 号更正をすべき理由がない旨の通知処分取消請求控訴事件国側当事者 国 ( 富田林税務署長 ) 平成 29 年 5 月 11 日棄却 上告受理申立て ( 第一審 大阪地方裁判所 平成 年 ( ) 第 号 平成

平成19年(ネ受)第435号上告受理申立理由要旨抜粋

(1) 児童ポルノ該当性について所論は, 原判示第 3 及び第 6の動画は, 一般人を基準とすれば性欲を興奮させ又は刺激するものに当たらない旨主張する しかし, 被告人は, 原判示第 3については, 女児である被害児童のパンティ等を下ろして陰部を露出させる姿態をとらせ, これを撮影, 記録し, 同第

賦課決定 ( 以下 本件賦課決定 といい, 本件更正と併せて 本件更正等 という ) を受けたため, 本件更正は措置法 64 条 1 項が定める圧縮限度額の計算を誤った違法なものであると主張して, 処分行政庁の所属する国に対し, 本件更正等の一部取消し等を求める事案である 原審は, 控訴人の請求をい

4 処分行政庁が平成 25 年 3 月 5 日付けでした控訴人に対する平成 20 年 10 月 1 日から平成 21 年 9 月 30 日までの事業年度の法人税の再更正処分のうち翌期へ繰り越す欠損金 4 億 万 6054 円を下回る部分を取り消す 5 処分行政庁が平成 25 年 3 月

いため, 血糖値が不安定となるおそれがあったのであるから, 自車を発進, 走行させるのであれば, 低血糖症による意識障害に陥る可能性を予見し, 適宜, 携帯していた簡易血糖測定器により血糖値を測定し, 自己の血糖値を正確に把握し, 血糖値が安定するのを確認するなどの措置を講じて発進, 走行すべき自動

事実 ) ⑴ 当事者原告は, 昭和 9 年 4 月から昭和 63 年 6 月までの間, 被告に雇用されていた ⑵ 本件特許 被告は, 次の内容により特定される本件特許の出願人であり, 特許権者であった ( 甲 1ないし4, 弁論の全趣旨 ) 特許番号特許第 号登録日平成 11 年 1

として無罪を言い渡した 4(1) 原判決の上記判断は論理則経験則違反があるというほかなく, 破棄を免れない (2) 上記 3(2)1 被告人は本件犯行の被害品たる腕時計を四日市市内での被害発生 ( 平成 28 年 6 月 9 日午前 0 時頃から同日午前 6 時 30 分頃までの間 ) の約 1 日

するためには, その行為が犯人の性欲を刺激興奮させ又は満足させるという性的意図のもとに行われることを要するとした昭和 45 年判例と相反する判断をしたと主張するので, この点について, 検討する (3) 昭和 45 年判例は, 被害者の裸体写真を撮って仕返しをしようとの考えで, 脅迫により畏怖してい

第 2 事案の概要本件は, 原告が, 被告に対し, 氏名不詳者が被告の提供するインターネット接続サービスを利用して, インターネット上の動画共有サイトに原告が著作権を有する動画のデータをアップロードした行為により原告の公衆送信権 ( 著作権法 23 条 1 項 ) が侵害されたと主張して, 特定電気

1 本件は, 別紙 2 著作物目録記載の映画の著作物 ( 以下 本件著作物 という ) の著作権者であると主張する原告が, 氏名不詳者 ( 以下 本件投稿者 という ) が被告の提供するインターネット接続サービスを経由してインターネット上のウェブサイト FC2 動画 ( 以下 本件サイト という )

では理解できず 顕微鏡を使用しても目でみることが原理的に不可能な原子 分子又はそれらの配列 集合状態に関する概念 情報を使用しなければ理解することができないので 化学式やその化学物質固有の化学的特性を使用して 何とか当業者が理解できたつもりになれるように文章表現するしかありません しかし 発明者が世

上陸不許可処分取消し請求事件 平成21年7月24日 事件番号:平成21(行ウ)123 東京地方裁判所 民事第38部

4 年 7 月 31 日に登録出願され, 第 42 類 電子計算機のプログラムの設計 作成 又は保守 ( 以下 本件役務 という ) を含む商標登録原簿に記載の役務を指定役 務として, 平成 9 年 5 月 9 日に設定登録されたものである ( 甲 1,2) 2 特許庁における手続の経緯原告は, 平

の補正書 において, 審査請求の趣旨を この開示請求は本人の給与のみずましにかかわる書面である為 としているが, 原処分を取り消し, 本件対象保有個人情報の開示を求めている審査請求として, 以下, 原処分の妥当性について検討する 2 原処分の妥当性について (1) 給与所得の源泉徴収票について給与所

平成  年(あ)第  号

平成 29 年 2 月 20 日判決言渡同日原本交付裁判所書記官 平成 28 年 ( ワ ) 第 号損害賠償請求事件 口頭弁論終結日平成 29 年 2 月 7 日 判 決 原 告 マイクロソフトコーポレーション 同訴訟代理人弁護士 村 本 武 志 同 櫛 田 博 之 被 告 P1 主 文

なお, 基本事件被告に対し, 訴状や上記移送決定の送達はされていない 2 関係法令の定め (1) 道路法ア道路管理者は, 他の工事又は他の行為により必要を生じた道路に関する工事又は道路の維持の費用については, その必要を生じた限度において, 他の工事又は他の行為につき費用を負担する者にその全部又は一

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た損害賠償金 2 0 万円及びこれに対する遅延損害金 6 3 万 9 円の合計 3 3 万 9 6 円 ( 以下 本件損害賠償金 J という ) を支払 った エなお, 明和地所は, 平成 2 0 年 5 月 1 6 日, 国立市に対し, 本件損害賠償 金と同額の 3 3 万 9 6 円の寄附 (

2 被控訴人らは, 控訴人に対し, 連帯して,1000 万円及びこれに対する平成 27 年 9 月 12 日から支払済みまで年 5 分の割合による金員を支払え 第 2 事案の概要 ( 以下, 略称及び略称の意味は, 特に断らない限り, 原判決に従う ) 1 本件は, 本件意匠の意匠権者である控訴人が

第 3 無罪の理由 1 被告人が持ち込んだ覚せい剤の量や隠されていた状況等について 証拠によれば, 本件の覚せい剤は合計約 グラムで, コーヒー豆の袋 20 袋の中に分けて隠されており, そのコーヒー豆の袋は, スーツケースの下蓋 3 分の2ほどの広さを占める形で入れられていたこと, ス

である旨の証券取引等監視委員会の指導を受け, 過年度の会計処理の訂正をした 本件は, 本件事業年度の法人税について, 控訴人が, 上記のとおり, その前提とした会計処理を訂正したことにより, 同年度の法人税の確定申告 ( 以下 本件確定申告 という ) に係る確定申告書の提出により納付すべき税額が過

平成年月日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官

併等の前後を通じて 上告人ら という 同様に, 上告人 X1 銀行についても, 合併等の前後を通じて 上告人 X1 銀行 という ) との間で, 上告人らを債券の管理会社として, また, 本件第 5 回債券から本件第 7 回債券までにつき上告人 X1 銀行との間で, 同上告人を債券の管理会社として,

る措置を講じないまま,B 従業員をして,B 名義の当座預金口座からA 名義の普通預金口座に, 平成 20 年 7 月 17 日に9999 万 9160 円, 同月 28 日に499 9 万 9160 円, 同年 8 月 25 日に4999 万 9160 円の合計 1 億 9999 万 円

原判決は, 控訴人ら及び C の請求をいずれも棄却したので, 控訴人らがこれを不服として控訴した 2 本件における前提事実, 関係法令の定め, 争点及びこれに対する当事者の主張は, 後記 3 のとおり, 原判決を補正し, 後記 4 のとおり, 当審における当事者の主張 を付加するほかは, 原判決 事

録された保有個人情報 ( 本件対象保有個人情報 ) の開示を求めるものである 処分庁は, 平成 28 年 12 月 6 日付け特定記号 431により, 本件対象保有個人情報のうち,1 死亡した者の納める税金又は還付される税金 欄,2 相続人等の代表者の指定 欄並びに3 開示請求者以外の 相続人等に関

最高裁○○第000100号

事実及び理由控訴人補助参加人を 参加人 といい, 控訴人と併せて 控訴人ら と呼称し, 被控訴人キイワ産業株式会社を 被控訴人キイワ, 被控訴人株式会社サンワードを 被控訴人サンワード といい, 併せて 被控訴人ら と呼称する 用語の略称及び略称の意味は, 本判決で付するもののほか, 原判決に従う

平成 31 年 1 月 29 日判決言渡平成 30 年 ( ネ ) 第 号商標権侵害行為差止等請求控訴事件 ( 原審東京地方裁判所平成 29 年 ( ワ ) 第 号 ) 口頭弁論終結日平成 30 年 12 月 5 日 判 決 控訴人 ジー エス エフ ケー シ ー ピー株式会

を運転し, 名神高速道路下り線 416.8キロポスト付近の第 1 車両通行帯を北方から南方に向かい進行するに当たり, 前方左右を注視し, 進路の安全を確認して進行すべき自動車運転上の注意義務があるのにこれを怠り, 左手に持ったスマートフォンの画面に脇見し, アプリケーションソフトの閲覧や入力操作に気

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丙は 平成 12 年 7 月 27 日に死亡し 同人の相続が開始した ( 以下 この相続を 本件相続 という ) 本件相続に係る共同相続人は 原告ら及び丁の3 名である (3) 相続税の申告原告らは 法定の申告期限内に 武蔵府中税務署長に対し 相続税法 ( 平成 15 年法律第 8 号による改正前の

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ため, 関税法違反である覚せい剤の輸入行為は, その目的を遂げなかった というものである 本件については, 裁判員の参加する合議体が審理し, 第 1 審は, 被告人には缶の中に覚せい剤を含む違法薬物 ( 以下単に 違法薬物 という ) が隠されていることの認識が認められず, 犯罪の証明がないとして無

目 次 第 1 はじめに 2 1 ガイドライン策定の目的 2 2 ガイドラインの対象となる防犯カメラ 2 3 防犯カメラで撮影された個人の画像の性格 2 第 2 防犯カメラの設置及び運用に当たって配慮すべき事項 3 1 設置目的の設定と目的外利用の禁止 3 2 設置場所 撮影範囲 照明設備 3 3

基本的な考え方の解説 (1) 立体的形状が 商品等の機能又は美感に資する目的のために採用されたものと認められる場合は 特段の事情のない限り 商品等の形状そのものの範囲を出ないものと判断する 解説 商品等の形状は 多くの場合 機能をより効果的に発揮させたり 美感をより優れたものとしたりするなどの目的で

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2020 年を目標とする法 司法支援改革プロジェクト (PHAP LUAT2020) 公安省 最高人民検察院 - 最高人民裁判所 国防省 番号 : 03/2018/TTLT-BCA- VKSNDTC-TANDTC-BQP ベトナム社会主義共和国独立 自由 幸福

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平成 31 年 4 月 19 日宣告東京高等裁判所第 3 刑事部判決 平成 30 年 1508 号住居侵入, 殺人, 死体遺棄被告事件 主 文 原判決を破棄する 5 本件を横浜地方裁判所に差し戻す 理 由 検察官の本件控訴の趣意は, 検察官山口英幸作成の控訴趣意書記載のとおりであ り ( 検察官は,

算税賦課決定 (5) 平成 20 年 1 月 1 日から同年 3 月 31 日までの課税期間分の消費税及び地方消費税の更正のうち還付消費税額 6736 万 8671 円を下回る部分及び還付地方消費税額 1684 万 2167 円を下回る部分並びに過少申告加算税賦課決定 (6) 平成 20 年 4 月

平成 23 年 10 月 20 日判決言渡同日原本領収裁判所書記官 平成 23 年 ( 行ケ ) 第 号審決取消請求事件 口頭弁論終結日平成 23 年 9 月 29 日 判 決 原 告 X 同訴訟代理人弁護士 佐 藤 興 治 郎 金 成 有 祐 被 告 Y 同訴訟代理人弁理士 須 田 篤

国籍確認請求控訴事件平成 12 年 11 月 15 日事件番号 : 平成 12( 行コ )61 大阪高等裁判所第 4 民事部 裁判長裁判官 : 武田多喜子 裁判官 : 正木きよみ 松本久 原審 : 大阪地方裁判所平成 11 年 ( 行ウ )54 < 主文 > 一. 原判決を 取り消す ニ. 訴訟費用

1 ガイドライン策定の目的防犯カメラについては テレビや新聞で報道されているように 犯罪の解決や犯罪の抑止につながることなど その効果は社会的に認められており さまざまな施設に防犯カメラが設置されております しかし その効果が認知される一方で 防犯カメラにより個人のプライバシーなどの人権が侵害される

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被告は,A 大学 C 学部英語専攻の学生である (2) 本件投稿等被告は, 大学 2 年生として受講していた平成 26 年 4 月 14 日の 言語学の基礎 の初回講義 ( 以下 本件講義 という ) において, 原告が 阪神タイガースがリーグ優勝した場合は, 恩赦を発令する また日本シリーズを制覇

第 2 事案の概要本件は, レコード製作会社である原告らが, 自らの製作に係るレコードについて送信可能化権を有するところ, 氏名不詳者において, 当該レコードに収録された楽曲を無断で複製してコンピュータ内の記録媒体に記録 蔵置し, イン ターネット接続プロバイダ事業を行っている被告の提供するインター

イセンスの発行を受けた特定の上記機器にインストールされた本件ビューア以外では視聴ができないように上記影像の視聴及び記録が制限されているのに,Aの業務に関し, 不正の利益を得る目的で, 法定の除外事由なしに, 平成 25 年 9 月 10 日頃及び同年 11 月 23 日頃, 本件ビューアに組み込まれ

ら退去を迫られやむを得ず転居したのであるから本件転居費用について保護費が支給されるべきであると主張して 本件処分の取消しを求めている 2 処分庁の主張 (1) 生活保護問答集について ( 平成 21 年 3 月 31 日厚生労働省社会援護局保護課長事務連絡 以下 問答集 という ) の問 13の2の

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いう ) に対し, 本件周辺道路整備工事の係る公金の支出 ( ただし, 支出命令を除く ) の差止めを求めるとともに, 文京区と東京大学との間で締結した 小石川植物園と区道の整備に関する基本協定書 による本件周辺道路整備工事に関する基本協定 ( 以下 本件基本協定 という ) に基づく年度毎の協定の

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平成 28 年 ( う ) 第 1079 号邸宅侵入, 公然わいせつ被告事件 平成 29 年 4 月 27 日大阪高等裁判所第 1 刑事部判決 主 文 原判決を破棄する 被告人は無罪 理 由 本件控訴の趣意は, 弁護人久保田共偉作成の控訴趣意書に記載されたとおりであり, これに対する答弁は検察官竹中ゆかり作成の答弁書に記載されたとおりであるから, これらを引用する 論旨は, 事実誤認の主張である 第 1 控訴趣意について 1 控訴趣意の要旨原判決は, 被告人が, 原判示の邸宅侵入, 公然わいせつを行ったとの事実を認定して, 有罪としたが, 被告人はそのような行為を行っておらず, 無罪であるから, 原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある 2 当裁判所の判断本件公訴事実の要旨本件公訴事実の要旨は, 被告人は, 正当な理由がないのに, 平成 27 年 2 月 2 2 日午後 9 時 41 分頃, 原判示のマンション ( 以下 本件マンション という ) に,1 階オートロック式の出入口から住人に追従して侵入し, その頃, 同マンション1 階通路において, 不特定多数人が容易に認識し得る状態で, 自己の陰茎を露出して手淫し, 引き続き, 同マンション2 階通路において, 前同様の状態で, 自己の陰茎を露出して手淫した上, 射精し, もって公然とわいせつな行為をした というものである 原審の経過等ア原審において, 被告人は, 本件犯行を行っておらず, 防犯カメラの画像に残 1

された犯人が着用していた帽子や眼鏡は持っていないなどと供述して, 犯罪の成立を争った イ原審の証拠構造本件犯行そのものに関する証拠本件犯行そのものに関する証拠として, 本件犯行を目撃したという本件マンションの住人の警察官調書 ( 原審甲 2), 精液様のものが本件マンション2 階通路から採取されたこと等を記録した本件マンションの実況見分調書 ( 原審甲 5), 上記精液様のものは精液であるとする鑑定書 ( 原審甲 7), 犯行状況を撮影した防犯カメラの映像を録画したDVDを添付した捜査報告書 ( 原審甲 10) 等が取り調べられた 被告人と犯行を結びつける証拠 a 証拠方法被告人と犯行を結びつける証拠としては, 被告人の自白や目撃者の犯人識別供述はなく ( 被告人が犯行直後に犯行を自白した弁解録取書はあるようであるが, 検察官が被告人質問中で言及しているだけで, 証拠請求はされておらず, また, 上記目撃者は犯人の識別供述をしていない ), 上記精液様のもののDNA 型が被告人の DNA 型と一致するとする下記 2つの鑑定のみである 捜査段階に大阪府警察本部刑事部科学捜査研究所 ( 以下 科捜研 という ) 所属のA( 以下 A 鑑定人 という ) によって行われた上記精液様のもののDN A 型鑑定の結果を記載した鑑定書 ( 原審甲 7) 及び同人の原審公判供述 ( 以下 A 鑑定 という ) 並びに科捜研所属のBによって行われた被告人の口腔内細胞のD NA 型鑑定の結果を記載した鑑定書 ( 原審甲 9) 及び同人の原審公判供述 ( 以下 B 鑑定 という ) 原審段階で甲大学医学部教授 C 医師 ( 以下 C 鑑定人 という ) によって行われた上記精液様のものと被告人の口腔内細胞のDNA 型鑑定の結果を記載した鑑定書 2 通 ( 原審職 2,3) 及び同人の原審公判供述 ( 以下 C 鑑定 という ) 2

b 鑑定の手法及びその結果各鑑定の手法及びその結果等は以下のとおりである A 鑑定及びB 鑑定大阪府堺警察署所属警察官が, 本件直後に, 本件マンションの2 階通路上に貯留していた精液様のもの ( 以下 本件現場資料 という ) を綿棒 ( 以下 本件綿棒 という ) で採取し, 滅菌バッグに封入した上, 一旦, 同警察署の証拠品係の冷蔵庫に保管し, 鑑定のため科捜研に持ち込んだ A 鑑定人は, 本件綿棒の一部を切り取って精液検査を行い, さらに, 残部の一部を切り取って, 本件現場資料につき,Identifiler Plus( 以下 IDP という ) により,STR 型検査及びアメロゲニン型検査を行った その結果は,15 座位のSTR 型及びアメロゲニン型の全てについて,B 鑑定による被告人の口腔内細胞のそれと一致した C 鑑定 C 鑑定人は, 本件綿棒の残部を2か所切り取り, 一般的な抽出キットと, 膣内容を拭った資料 ( 膣スワブ ) 専用キットを使用して, 各別に, 本件現場資料につき, DNA 抽出処理を行った上, それぞれについてIDPによりSTR 型検査及びアメロゲニン型検査を行った その結果は,C 鑑定人が別途行った被告人の口腔内細胞についての検査の結果と,14 座位のSTR 型とアメロゲニン型は一致したものの, D19S433の座位については, 本件現場資料のアリール型は 14,15.2, 14.2 だったのに対し, 被告人の口腔内細胞のそれは 14,15.2 であり, 本件現場資料には, 被告人の口腔内細胞にはない 14.2 が含まれていた なお,B 鑑定においても, 被告人の口腔内細胞のD19S433 座位のアリール型は 14,15.2 であり,A 鑑定における本件現場資料の同座位のアリール型も同様であって, いずれも 14.2 は含まれていない 上記のとおり,C 鑑定の検査結果は,D19S433 座位のアリール型に関して, 本件現場資料にはアリール型 14.2 が含まれるのに対して, 被告人の口腔内 3

細胞にはそれが含まれない点で異なっているが, 同鑑定では, これは, 本件現場資料が生殖細胞であることから, 精子のもとになる精原細胞が出来る過程で1 反復単位分抜けた変異精原細胞が形成され, それが減数分裂して精子となったことによるものと考えられ, 本件現場資料のDNA 型は, 被告人の口腔内細胞のDNA 型と同じと判定されるから, 本件現場資料は被告人に由来するといえるとされている ウ原審弁護人の主張原審弁護人は,C 鑑定は, 本件現場資料のD19S433 座位に被告人の口腔内細胞にはないアリール型 14.2 が含まれているのは, 精原細胞が出来る過程で1 反復単位分抜けた変異精原細胞が形成され, それが減数分裂して精子となったことによるものと考えられると説明しているが, 被告人に変異精原細胞が生じていることを裏付ける根拠はなく,C 鑑定人の説明によっても, そのようなことが起こるのは真実の父子何万組に1 件というのだから, そのような確率のものを, 具体的根拠がないまま本件に当てはめることはできず, 本件現場資料には他者のDNAが混在している可能性が否定できないから, 被告人と犯人が同一であると認定することはできないと主張した 原判決の判断原判決は, 関係証拠によれば, 何者かが本件犯行を行ったことが認められるとした上,C 鑑定人はDNA 型鑑定を実施する上で十分な知識を有していると認められ, C 鑑定の内容にも特段不合理な点はないとして, 同鑑定の信用性を肯定し, 原審弁護人の主張を排斥して, 被告人が本件犯行を行ったと認定した 当審の経過等ア被告人が原判決を不服として控訴をし, 原判決はC 鑑定の評価を誤っており, 本件現場資料は混合資料の可能性があると主張した 当審では, 検察官及び弁護人が証拠請求した文献 ( 当審検書 1, 当審弁 1) を取り調べ, さらに,C 鑑定人の証人尋問 ( 当審検人 1) を実施した なお, 検察官は, 捜査段階の被告人の供述調書について, 証拠請求をする予定は 4

ない旨釈明した イ C 鑑定人は, 当審公判廷において, 次のとおり供述した A 鑑定と異なる型が検出されたのは, 検査した綿棒の部位が違うからである 精液は血液などのように一様に混ざっているものではなく, ある部分には, 新たに生じた変異を持った細胞が偏って存在しているが, 他の部分にはそれが存在しないことは十分あり得る 15の座位については, それぞれ大体 10 種類以上のアリール型が存在する したがって, 親子や一卵性双生児でない任意の2 人を検査した場合, 確率的に, どの座位においても2 種類以上のアリール型がないというようなことはあり得ない 必ず,3 種類, 最大 4 種類のアリール型が検出される 本件において,D19S4 33 座位についてだけ3 種類のアリール型が検出され, 他の14の座位の中に3 種類以上のアリール型が検出されたものがないことは, 本件現場資料が1 人分由来であることを示している 採取元が配偶子であることを考えれば, 新規に生じた変異と考えるべきである 15 種類の座位のうち,14 種類が同じだけれども最後の1 種類が違うという事例を経験したことはないし, 計算上, そういうことはまずないと思う 日本人集団における型の出現頻度を調べたデータを使えば,15 座位について一致した場合それぞれの座位で最もありふれた型を持った個人の存在頻度ですら計算上 4 兆 7000 億分の1になる したがって,15のうち1つが矛盾するのであれば,14だけを使うという考え方もあるが, それでは非科学的になるから, 他の検査キットを用いるというのが鑑定の基本的な態度になる 今回は, 警察の鑑定によって本件現場資料が精子であることは証明されているため, 変異であると考えられるから,IDPによる検査で十分と判断し, それ以上の検査をしなかった 当裁判所の判断 C 鑑定及び当審におけるC 鑑定人の説明をもってしても, 本件現場資料が混合資料である疑いを払拭することができず, 被告人が本件犯行を行ったことについては 5

合理的疑いが残るから, 原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認があるといわざるを得ない その理由は, 以下のとおりである ア本件において, 被告人の犯人性を立証するための証拠は, 本件現場資料について行われたDNA 型鑑定であるA 鑑定及びB 鑑定とC 鑑定のみである したがって, 被告人と犯人の同一性は, 上記鑑定の信頼性にかかっている このうち,A 鑑定及びB 鑑定の結果自体には, 特に疑問な点はない しかし, 一般には, 資料が1 人分由来のものであれば,1つの座位に3 種類以上のアリール型が出現することはないのに,C 鑑定においては, 本件現場資料のD1 9S433 座位に3 種類のアリール型が出現しており, かつ, 本件現場資料が採取されたのは, 本件マンションの通路上という,DNAの混合が生じてもおかしくない場所であるから, 本件現場資料には,2 人分以上のDNAが混入しているのではないかとの疑いが生じる そして, その疑いが払拭されない限り,A 鑑定も, 混合資料の一部が当初のオリジナルな型以外の形式で再現されたものである可能性を否定できないことになるから, 結局, 上記 A 鑑定の信頼性も,C 鑑定の信頼性にかかっている イ C 鑑定及びC 鑑定人の当審公判供述によると, 本件現場資料のD19S43 3 座位に3 種類のアリール型が出現しているにもかかわらず, 本件現場資料が1 人分由来のものであり, かつ, そのDNA 型がD19S433 座位にアリール型 1 4.2 を持たない被告人の口腔内細胞のDNA 型と一致するとする根拠は, 結局, 次の点に要約できるものと理解できる 本件現場資料では,D19S433 座位以外の14の座位から3 種類以上のアリール型が検出されていないところ, 他人のDNAが混合しているのに, 他の1 4の座位から3 種類以上のアリール型が出現しないというのは,14の座位全てが一致する別人が存在するということで, 確率の上でも, これまでの経験からも考えられないから, 本件現場資料は,1 人分由来のものと見るべきである 6

本件現場資料は精子であるところ, 精子のもとになる精原細胞については, 一定割合で, 反復単位が1 反復単位分抜けた変異精原細胞が形成されるから, これが減数分裂することにより, 反復単位が1 反復単位分抜けた精子が形成されることがあるが, 被告人の体細胞のD19S433 座位のアリール型は 14,15.2 であるから, 本件現場資料から検出されたアリール型 14.2 はそのような変異により生じたものと考えられる ウしかし, 上記説明は, 刑事裁判の事実認定に用いるためのものとしては, 十分なものとはいえない 性双生児でない任意の2 人を検査した場合, 14 種類の座位が一致し,1 種類の座位のみが一致しない確率が相当に低いことは, C 鑑定がいうとおりであろう したがって, 本件現場資料が,1 人分に由来する可能性が高いこともC 鑑定がいうとおりだと思われる しかし, 仮に, 本件現場資料が, 混合資料だとしたら, 混合する資料のDNA 型や資料の量のいかんにかかわらずそのように言えるかは疑問である すなわち, 混合した資料の数や量次第では, 15の座位全てにおいて, 混入したDNAの全ての型が一様に同程度の鮮明さで検出されるとは限らないのではないか, 換言すれば, 混入したいくつかのDNAの量に差異があれば, 中には微量のため検出されないアリール型が生じるのではないか, また, 逆に, 重畳効果により1つの資料に含まれる以上にその存在が強調されるアリール型もあるのではないか, その結果, 外観上, 多くの座位で一人分に由来するように見える, もととなるDNA 型とは異なるDNA 型が出現 検出される可能性があるのではないかなどという疑いを禁じ得ない C 鑑定は, 資料が混合された場合, そこに含まれるアリール型が全て同様に検出されることを前提としているものと思われるが, そのように考えるべき明確な根拠は示されていない のみならず,C 鑑定のこの点に関する見解は, 若干場面を異にするとはいえ,1 5 座位のうち14 座位のアリール型が一致すれば同一性を肯定するという考えを前提とするものということができ, もちろん, こうした見解も十分あり得るものと思 7

われるが, 現在の刑事裁判の実務は,IDPによるDNA 型検査の結果を人の同一性識別に使用するためには,15 座位のアリール型の一致を求めるという慎重な運用をしているのが一般と思われるから, この見解は, 現在の実務の一般的な運用を超えるものがあるようにも思われ, 他に, 十分な根拠がない限り, 直ちには採用し難いものと考えられる 原細胞で突然変異が起こる可能性があり, また, その場合, 反復単位が1 反復単位分抜けた精子が形成される可能性が高いことについては, 同旨の文献も存在しており ( 当審検書 1, 同弁 1),C 鑑定の説明は, 本件の状況をよく説明するものということができる しかし,C 鑑定においても, それ以上に, 本件において, 突然変異が生じたことを積極的に示す根拠は示されていない 上記文献の中には, そのような突然変異が起こる確率は1 座位につき0.2% 程度とするものもあり,15 座位全体として見ても, 突然変異が起こる確率はさほど高いものではないと考えらえるから, 他にこれが生じたことを認めるに足りる積極的な根拠がないのに, 本件において, そのような現象が起きたと断じることには躊躇を感じざるを得ない そして, 実際, 本件において, そのような積極的根拠は見当たらないし, 被告人の精原細胞に突然変異が起きているものがあることを裏付ける証拠もない なお,C 鑑定人は, 同鑑定人が鑑定の対象とした資料が精子であることを前提に上記のような説明をしているが, 同鑑定人自身は, 本件現場資料が精子であるかどうかの検査はしておらず, 確かに,A 鑑定人は, 本件綿棒の一部を切り取って, 細胞を染色した上で, 顕微鏡で確認したところ, 精子以外に特異な細胞を認めなかったと供述しているが (A 鑑定人の原審公判供述 ), 現に本件現場資料についてのA 鑑定とC 鑑定の検査結果は異なっているのだから, 本件現場資料が均一なものであるとの保証はなく,C 鑑定で用いたDNA 抽出方法も, 膣内容を拭った資料 ( 膣スワブ ) 専用キットを用いた場合ですら, 主に精子核 DNAが回収できるというにすぎないものであるから ( 鑑定書 ( 原審職 2)), 上記前提が確実に成り立つもので 8

あるかも疑問である C 鑑定の上記説明は, 本件現場資料が被告人の精液に由来するものだとした場合, 本件現場資料は被告人に由来するものであるとのC 鑑定の最終結論を矛盾なく説明するものではあるけれども, 本件現場資料が混合資料である可能性を, 合理的疑いなく排除できるだけの積極性まで有するものではないといわざるを得ない エ結語以上によれば,C 鑑定及び当審におけるC 鑑定人の説明をもってしても, 本件現場資料が混合資料である疑いを払拭することができず, 被告人が本件犯行を行ったことについては合理的疑いが残るから, 本件公訴事実については, 証明が十分でないといわざるを得ない それなのに, 原判決は, 被告人が本件犯行を行ったと認定したから, 原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認があるといわざるを得ない 論旨は理由がある 第 2 破棄自判そこで, 刑訴法 397 条 1 項,382 条により原判決を破棄した上, 同法 400 条ただし書により, 被告事件について, 当裁判所において更に次のとおり判決する 本件公訴事実の要旨は, 前記のとおりであるが, 前記のとおり, 同事実については犯罪の証明がないから, 刑訴法 336 条後段により被告人に対し無罪の言渡しをする よって, 主文のとおり判決する 平成 29 年 4 月 27 日大阪高等裁判所第 1 刑事部 裁判長裁判官 福崎伸一郎 9

裁判官野口卓志 裁判官酒井英臣 10