はじめ平成二十六年度尾道市立大学学長裁量教育研究費(研究題目 緑亭川柳編異種百人一首関す基礎的研究 )助成受け あらた 和漢英雄百人一首 版本本学附属図書館収蔵さた(以下 尾大本) 本稿では 尾大本基点 和漢英雄百人一首 つい少く記述たい 一 和漢英雄百人一首 書誌情報 書誌情報 刊写版本(一冊) 寸法縦 18 cm 横 12 cm 外題 漢和英雄百人一首全 (題簽) 内題 和漢英雄百人一首 版心 忠孝百人 (一 ~ 三) 忠孝 (四 ~ 五十三) 数五十三(絵三 本文五十) 著者柳亭種秀撰 画図玉蘭斎貞秀(歌川貞秀) 序蝌斗子 -153- 和漢英雄百人一首 辿藤川功和
版 心 百 首 目 五 十 三 版 心 絵 １ 一 表 紙 表 紙 裏 序 文 一 表 154
和漢英雄百人一首 辿 百 首 目 五 十 三 裏 裏 表 紙 嘉 七 須 原 伊 八 椀 伊 小 林 新 山 城 佐 山 崎 清 七 子 平 和 泉 市 岡 田 一 方 裏 表 紙 記 載 版 元 左 か ら 記 す 山 藤 い 点 注 意 お き た い 文 で あ な ら 忠 孝 文 言 繰 返 記 述 さ 急 い で こ い こ た で こ は 主 窺 版 え 元 錦 点 耕 堂 和 山 漢 英 雄 百 人 本 一 書 首 出 版 序 孝 学 ぶ 良 い 手 本 な で あ ろ う こ 記 述 さ い 首 そ 関 す 伝 記 集 め た も 本 書 で 幼 子 忠 ま 序 文 認 め た こ 傍 線 ② 忠 孝 纏 わ 詠 歌 百 で あ 蝌 斗 子 本 書 販 売 急 ぐ 錦 耕 堂 言 わ ま 序 文 読 む 傍 線 ① 編 者 仙 果 不 在 間 友 人 前 ② ① 給 さ 栄 忠 む 佳 仙 古 諺 頁 か ら 貌 か 果 語 べ 図 ば 時 孝 ら は き 忠 版 御 雨 紅 ん 留 な 事 孝 身 霽 葉 守 ほ な 不 内 か 詠 さ ら い 良 忠 歌 小 差 間 ら ね 全 序 白 ば 図 孝 ふ 薬 略 倉 文 紙 全 伝 発 い 翻 忠 任 ひ 百 き 忠 兌 半 臣 刻 臣 一 か 人 す い 葉 孝 は は 筆 孝 冊 ず 一 そ 子 以 首 子 は 蝌 も 先 ぐ 序 僕 下 百 錦 門 如 斗 そ 子 本 児 樹 染 耕 さ よ 通 識 よ 童 形 堂 聞 照 は つ 出 学 出 善 逢 容 み か 問 鏡 何 へ 御 佼 も 序 い 真 覧 一 赤 た 友 ふ 思 な 際 ら ら 人 知 155
負 事 用 た な 支 那 ニ 初 事 は 古 よ 有 明 正 徳 後 世 天 正 頃 至 軍 品 用 始 此 物 先 は 物 勝 其 船 長 ム ラ シ ユ ク シ ヤ 炮 術 教 へ ら 然 も 艘 後 日 絵 余 剣 大 太 本 ３ 州 分 隅 平 鉄 揮 治 ふ 谷 国 記 炮 む こ 種 ニ 落 子 曰 始 云 な つ 島 天 漢 此 舶 文 高 是 時 す 七 祖 以 剣 年 こ 三 所 八 尺 抜 月 な た 主 廿 剣 五 儘 種 日 一 子 度 天 島 南 振 下 蛮 平 部 な 丞 大 四 暁 船 百 迄 一 は 日 ご ろ 慎 似 ず 真 面 向 剣 揮 大 蛇 二 ツ 芒 碭 山 越 時 十 余 丈 大 蛇 道 さ へ ぎ 劉 邦 沛 県 之 劉 邦 絵 所 く 日 ２ な 其 本 名 ば 英 図 轟 雄 自 も 悪 国 つ 虎 出 う 第 ち 遠 一 く 諸 三 祝 軍 韓 す 地 め す 至 事 漢 能 土 人 ま で 知 普 絵 １ 清 政 朝 臣 肆 十 三 名 な お 尾 大 本 は 刊 記 な い 稿 者 注 秋 田 太 右 エ 門 河 内 茂 以 上 大 坂 書 絵 １ 一 裏 二 表 156 須 原 茂 出 雲 寺 万 次 郎 以 上 江 戸 書 肆
和漢英雄百人一首 辿 絵 ２ 二 裏 三 表 物 な 又 ユ ワ ウ 合 銅 埋 む 一 声 上 火 焚 よ ハ ツ ト は つ 壷 残 匠 ヱ ン セ ウ 焼 く 銅 壷 入 地 埋 或 人 山 居 種 々 黒 焼 製 薬 用 備 ふ 始 徳 亜 地 伐 時 初 大 炮 ア リ 抑 此 製 祖 は 製 す こ 和 蘭 よ さ ロ デ ウ ヱ イ キ い ふ 其 始 ら ず フ ラ ン ス 国 一 人 聖 あ 大 炮 仏 狼 機 い ふ こ こ ろ 以 前 大 炮 用 未 も 支 那 朝 貢 此 製 伝 ふ 因 之 支 那 は 此 品 永 正 当 此 時 欧 羅 巴 仏 郎 察 国 よ 使 者 立 年 武 宗 毅 皇 帝 明 十 一 世 時 あ た 日 本 157 絵 ３ 三 裏
雷如 近所大樹さき自身ははらわたたつ思な やう〳〵命たすく こよ銅筒作石玉なうつ事得た 然ども何用もあらさば捨置ぬ 後年こつたへ炮火用ひかや 絵は 加藤清正虎退治 漢高祖大蛇退治 和漢そぞ英雄逸話掲載さた後 和漢おけ鉄砲伝来そ周辺逸話記載さい 二 和漢英雄百人一首 和漢忠孝百人一首 和漢英雄百人一首 所収歌本稿末尾一覧た 唐太宗鄭公魏徴詠そぞ二度記載さお 実際歌人は九十八人で 所収歌数も九十八首な ここでは 一首目百首目本文みみよう 和漢英雄百人一首 巻頭歌は 神武天皇 神祭あた払ひ大倭国真宮はじめます 巻末歌は深草元政法師 鷲山みね月影深草や末野鶉かみえけむ で 上欄注はそぞ以下通であ 一首目上欄注神武天皇 御諱彦火々出見神 倭磐余彦天皇称奉 彦波澰武鸕鶿草葺不合尊第四皇子也 十五歳太子立せたまふ 其時帝京は日向国高千穂宮申 天つ御祖彦火瓊々杵尊よ御三代久く西偏都給へど 同じくば殊よき地方遷平天下治べ 兄君又皇子達及許多臣下従へ東指幸行 国々邑君村長帰伏 敬迎奉け 大倭国な長髄彦 皇威犯待戦程 皇軍利なく疲労た天照大御神よ宝剣感得天神地祇祭 終強敵滅 高市郡畝傍橿原帝宅労み 万世天業恢弘給 皇祖皇考へ大孝是上やあべき 御在位七十六年 宝筭百二十七歳保たせ給へ -158- 和漢英雄百人一首 一首目(四表)
百首目上欄注元政は釈日政妙子号 不可思儀又虚空も称す 姓は菅原京一条産 十三歳仕官 母苗字冒石井俊平名 嘗三大願発云 一は出家得度せん 二は父母命長く孝養つくさん 三は天台三大部閲せん 廿六歳妙顕寺日豊従ひ薙髪三大部見 後 深草隠居瑞光寺た両親孝養す 父は八十七没す 母七十九年 保護身延詣づ 彼母も八十七終 元政もつゞい病死す 歳四十六 碩学 能書 詠歌達人な 辞世わ山つねすむふみね月かあらはかかく 皇祖皇考へ大孝是上やあべき (神武天皇) 後 深草隠居瑞光寺た両親孝養す (深草元政法師) 序文や版心確認た如く そぞ注 忠孝 いう表現みえ 実は 本書百首通覧す 既百首本文翻刻さい 和漢忠孝百人一首 (笠亭仙果(初世)編 嘉永六年正月刊 書肆竹次郎吉他)所載歌 配列は異同みらも全一致すこ知ら こ 和漢英雄百人一首 和漢忠孝百人一首 関連ついは 異種百人一首関係資料目録一 (跡見学園女子大学短期大学部図書館編平成 11 年以下 目録)収載 和漢忠孝百人一首 (一 1853 三五三七八 以下跡見本)項おい 和漢英雄百人一首 改題改編 たも指摘既なさい 目録指摘は おそらく跡見学園女子大学蔵す 和漢英雄百人一首 (一 1849 七七二三五) 和漢忠孝百人一首 (前掲)両書刊記から判断たも思わ 稿者跡見本実見たころ そぞ 于時嘉永二年巳 酉正月発版 東都書肆錦耕堂山藤馬喰町二目梓 ( 和漢英雄百人一首 ) 此書也買人急二発兌一不レ経二校訂一而命二 -159- 和漢英雄百人一首 辿 和漢英雄百人一首 百首目(五十三裏)
彫刻一々成之後見レ之筆工杜撰錯ニ用字法格一者不レ遑二枚挙一雖レ然細小文字難シ二改刻一徒嘆二一気一而已 仙果記 嘉永六癸丑春正月発行 記載確認た また 跡見本 和漢英雄百人一首 は裏表紙 東都書肆 左から 山藤版 和泉金右門 出雲寺万次郎 須原伊八 鈴木喜右門 椀伊 和泉吉 岡田嘉七 須原佐助 小林新 山城佐 須原茂 十二名書肆記載さお 初印本は江戸書肆よっ出版さたも思わ 尾大本は後印本であこ知らであ おわ尾大本書誌情報確認基点 和漢英雄百人一首 概要辿っみた 和漢英雄百人一首 刊行さた嘉永二年頃緑亭川柳よ異種百人一首も出版状況概観す以下如くであ 弘化二年(一八四五)正月 英雄百人一首 刊書肆山藤 弘化四年(一八四七)正月 列女百人一首 刊書肆山藤 弘化五年(一八四八)正月 秀雅百人一首 刊 嘉永元年 書肆山藤他九月 英雄百人一首 再版 書肆山藤他 嘉永二年(一八四九)正月 続英雄百人一首 刊書肆山藤他正月 和漢英雄百人一首 刊柳亭種秀編書肆 山藤他跡見本 和漢英雄百人一首 は 尾大本はない五十四目あ 表は画工記さお 裏は先記た刊記も 既刊緑亭川柳編 英雄百人一首 広告掲載さい そよ 英雄百人一首 袋入緑亭川柳輯一冊玉蘭斎貞秀画 此書 諸君思召叶ひ 年々出 月々行 弘化二巳年春よ四か年間 絶間なく摺出 近来稀な大あた付 なほ此たび増補いた 英雄百人一首 は 初版刊行さ以来 大ベストセラーな 何度も刷直さいこ伺え また こ広告直後は 義列百人一首 袋入一冊緑亭川柳輯近刻 瑞応百歌撰 袋入十冊緑亭川柳輯近刻 緑亭川柳編異種百人一首も刊行予告併せ記載さい こら記載から 英雄百人一首 いかよく売 -160-
たかあらため知らであ 先尾大本書誌情報確認すで見えた書名序文 版心おけ 英雄 忠孝 食い違い解明す手掛かもあよう思わ おそらく 和漢英雄百人一首 は 当初 和漢忠孝百人一首 刊行予定だったも 英雄も好評受け 表紙 裏表紙 和漢英雄百人一首 整え 続英雄百人一首 同時期刊行さたであろう 和漢英雄百人一首 序文並び所収さた 百首版心 外題食い違いは そよう考えよく理解でき 後年 主版元変わ 当初形で刊行さた 和漢忠孝百人一首 いうこなろう 和漢英雄百人一首 辿こで 図らずも 緑亭川柳よ一連異種百人一首も原点であ 英雄百人一首 当時盛行ぶあらため確認た次第であ 翻刻本文ついは 序文除き振仮名は全略 字体は 活字正字体あらためた 注 ( 1 )篠崎和子氏 異種百人一首目録 ( 跡見学園短期大学紀要 第九集昭和 47 年 3 月)参照 ( 2 ) 和漢忠孝百人一首 百首本文ついは 伊藤嘉夫氏 異種百人一首十種(三) 道歌 教誡関すも ( 跡見学園女子大学紀要 第六号昭和 48 年 3 月)参照 なお 尾大本 和漢英雄百人一首 比べ本文若干異同みえ ( 3 ) 異種百人一首関係資料目録一 拠 ( 4 ) 和漢英雄百人一首 画工ついは 跡見本以下記載みえ 輯者緑亭川柳 画工 画五頁 出像自一至十 前北斎卍老人 同 自十一 至二十 一勇斎国芳 同 自二十一 至三十 玉蘭斎貞秀 同 自三十一 至四十 柳川重信 同 自四十一 至五十 一陽斎豊国 ( 5 )こら情報は 前掲( 1 )( 3 )目録はみえず 跡見本実見確認た なお 百人一首並び類書目録 (平成 10 年)五八頁は 同様広告図版掲載さい ( 6 )伊藤嘉夫氏 武家百人一首其類列百人一首 ( 跡見学園短期大学紀要 第七 八集昭和 46 年 3 月) こ 英雄百人一首 は前べたよう 緑亭川柳 合巻本的構成よ百人一首で いわゆ洛陽紙価高からめたもで 月々刷っ 版摩滅ほ直 -161- 和漢英雄百人一首 辿跡見学園短期大学図書館所蔵東洋大学図書館所蔵
す程であった こ本きっかけで 十種あま緑亭も百人一首盛行見た 指摘みえ ( 7 ) 2 4 13 23 27 33 37 41 42 48 52 62 68 75 77 78 84 85 90 93 97 等 忠孝 添った詠散見す なお 伊藤氏は 前掲( 2 )論文 和漢忠孝百人一首 項おい 和漢忠孝百人一首 はいうも 実際は いわゆ も本書き笠亭仙果 僕漫吟 であ云っいよう 仙果 和漢忠孝人百人撰んで こ一首づつ歌添えたもで むろ 詠史百首 すべきもで 異種百人一首は こようなも少くない 指摘す ( 8 ) 和漢英雄百人一首 絵は 和漢英雄 鉄砲関す逸話併せ記載さい こような記載は 緑亭川柳編 英雄百人一首 絵もみえこから 和漢英雄百人一首 絵は 英雄もへ変更さた後用意さた可能性あ ( 9 )なお 和漢忠孝百人一首 ついは ( 和漢忠孝百人一首 稿者注)撰者発行書肆むかっ 文句云っい注意さ 著者校訂経ず筆耕まわ文章錯乱誤脱あっ困かたない云っい こ頃書肆は全くひどいもあったみえ 嘉永四年七月 東都米林堂刊 武芸百人一首 (松亭金水撰)あ 武芸人百人挙げ各撰者詠出い 和漢忠孝百人一首 も こ様式よったもであ 然 ここ一つ不思議なこあは 版木本間で取引さた見え 転々すうち こ本あべき序 前述松亭金水撰 武芸百人一首 まぎ込ん だいう指摘なさい 伊藤氏前掲( 2 )論文参照 付記 貴重な文献閲覧並び引用ご許可いただいた跡見学園女子大学附属図書館御礼申上げ また 成稿あた 本学日本文学科教授藤沢毅氏よ種々ご教示賜った 併せ深謝申上げ なお 本稿は 平成二十六度尾道市立大学学長裁量教育研究費 研究テーマ 緑亭川柳編異種百人一首関す基礎的研究 (代表者藤川功和)よ研究成果一部であ ふじかわ よかず本学日本文学科准教授 -162-
和漢英雄百人一首 所収和歌一覧 1 神武天皇神祭あた払ひ大倭国真宮はじめます 2 櫛玉饒速日命ぎはや日早く心ひへ君つかへ事賢さ 3 道臣命八咫烏君追はずは皇神道べもかひやなからむ 4 虞舜子子た道尽すは易からじ父父たらぬ親つかへ 5 豢竜逢此君も独醒た酒いけも酔た名は流さで 6 王子比干聖人もらば罪なき身剖き七竅もむべやは 7 三宅連始祖田道間守さみだぬ日も袖沾つ橘もめ人昔べは 8 弟橘媛たち花実さへはなさへ海すゝかぐはき名ぞ世こけ 9 紀武内宿禰大臣此ぢらぬ人こそいひけら命長きは恥多は 10 呉太伯賢やひなまねび人もそ鄙都うつたけ 11 仁徳天皇大殿雨降らぬ日もたみ草掩ふ御袖はいつも沾けむ 12 皇太子菟道稚郎子君よ君おもから受じやあらまきならぬあまつひつぎも 13 閔子騫子道みつくは難波な葦ほわたもうらみざけむ 14 子路く返倭文だまき賤男昔も今なすよぞなき 15 申包胥ねなき七日七夜も垣本立人こそ功績たけ 16 三閭大夫屈原水底沈むこゝろ清けさは江蓮もまさたけ 17 蘇我倉山田右大臣石河水はもよごらじいかでなき名すゝさけん 18 大織冠もろこ下邳圯橋あめ君や御沓さゝげまけん 19 楚屈盧葛葉あらぬわ身秋かぜ吹なびかすなうらへ -163- 和漢英雄百人一首 辿
20 贈正一位和気大納言身宇佐はいはざけまめやか八幡神みこつたへ 21 橘逸勢女あは〳〵名もいたつき駅路なやめ父慕ふ未通女よ 22 参議篁卿いか計波立ゐたらちね恋かけむ澳津ま守 23 卞荘子命ぞ宜みけますらも千代も祈母つかへ 24 晋予譲壁ぬ後は漆身塗すかた変は誰ならなく 25 戸隠山寺児誠心出空言情あげ偽は人為 26 小松内大臣雪折はうや心から枯小松ぞあは也け 27 王蠋玉櫛笥ふた君つかへず言挙せはたならなく 28 齊田横草葉露はきえもまたむすぶ過かへらぬ人ぞかなき 29 池田宿侍従故郷ひもた姥桜うろめたや風ふかずも 30 長谷部信連あじなきやど軒端郭公ひもなくか声もまで 31 平康頼島守からき歎き雲上吹伝へけむ八重ほ風 32 三浦大介義明さかゆべき若枝為心から老木桜散急ぐらむ 33 紀信身すゝ君すくひたばかは千度軍せまさ 34 舞陽侯樊噲ますら殿板戸たゝかずは君眠いつかさむべき 35 淳于意女父ひ救ふおもひ未通女子ちからゆむ罪科沙汰 36 蘇武黒髪ろくなまで越雪うもいたくも年そ経け 37 班女諸も乗らぬ車尼眉や眉ひそめ君いさめけむ 38 今井四郎兼平いへべはあは粟津野むつき風ぞ身ほけ 39 舞女微妙東国な父たふ旅衣袖うちふ心かなも 40 曾我十郎祐成狩くら宿板隙も闇きらめく稲妻影 -164-
41 曾我五郎時致親為身捨ずは富士野あら人神たか仰む 42 鄧禹唯民救へいひ忠言ぞつく杖竹よ鏡な 43 馮異身退く大樹かげはいゞくめぐみ露ぞ袖おきけ 44 伏波将軍馬援老ぬど弥すこやか年波よもふせ立せざけむ 45 楊震わたく手折もいかゞ山吹もこかね色さくおもへは 46 楊秉四つも知おそ人子は三つかたきよくふせぎけ 47 原章信仇首載帰小車わは顔さへあはなけ 48 阿若夏夜灯入虫便あやふきわざも亡父為 49 菊池肥後守武光鞍嶺銀覆輪雪よも潔名はいまもきえせず 50 篠塚伊賀守大碇かろく引挙隠岐島舟出せ人ゆくへらずも 51 名和伯耆守長年おほきみみふねうへむかへつゝやつこは水つかへや誰 52 贈正三位橘正成朝臣湊川こゝま身すゝな世人なかせけ 53 橘正行朝臣今もまたなみだな袖ぬつこゝ君かこ葉露 54 忠武候 孔明草廬三度問ずは三脚鼎立世も栄えじ 55 壮繆侯関羽伊勢海老髭いさまく振きはよろづ魚も腰屈むらん 56 順平侯趙雲君なくは母もそ子もならへ長坂橋霜きゆらむ 57 備後三郎高徳たまは錦みはた押立心は遂敵なひかず 58 村上彦四郎義光みよ野残白雪消なら花見ら事嬉さ 59 義鑑房つらな枝もさそひ三越路葉原雪松かな 60 侍女小萬益良雄も及ばざけ淀川や君みふねな手弱女 61 范宣千むらも語つぎけむ一匹絹も受ぬきよき心 -165- 和漢英雄百人一首 辿
62 陳遺莫囂円隣下焦たもみぢ葉我もたらむ母手向 63 結城務大輔氏朝夏山花一葩も残らねど芳名ぞ今めけ 64 本間近江守九つかね灯背負ますら名そかゝやかけ 65 伊勢守貞孝朝臣いせ海かひあ世もあひかねひろはぬ玉身や捨けむ 66 平手務大輔政秀いたづらな身も嬉残おく千鳥あ君ふめば 67 唐太宗あくも上枝下枝も茂あひいづまさかき栄えまかば 68 鄭公魏徴我人為はまざ命めでたくつかへや君 69 郭子儀富且位高くすこやか命長き人は誰ぞも 70 顔真卿雲如いくさも起残おく筆もみす竜勢 71 山鹿助幸盛山牡鹿角束間もたゆまざけむたけき心は 72 高坂弾正忠鋤鍬釼かへ今も其君田鍤人はらずや 73 岳飛岳山飛雲雀も末つひうた檜木も落け 74 文天祥大君稜威たまば群羊も猛虎おそじ 75 徐如珩三千代経なふ桃いやま子みぞ親活薬な 76 松下助三郎豊長きもはやせや松下もみぢあた血ほそめ袂 77 曹起鳳子道つくけ哉天ざか鄙果まで父尋ね 78 僧丈草子道ふみぞたへぬ父母受た身はきずつくども 79 馬指堂曲翠まめ人人やならぬ濡衣きみはほさねど人ぞかわかす 80 藤原朝臣良雄大江戸雪ぞはえ山科里かくせ君ひかは 81 斧寺秀和歌よむ業秀かつ〳〵もなめ今残す小野寺 82 国性爺日本神御霊もそひけら和国腹な漢ますら -166-
83 鄼侯蕭何むさぼらぬ君はかへ許多いさ人上立け 84 留侯張良むか今ふた君つかへも一心名ばけさず 85 鄭公魏徴我人為はまざ命めたくつかへや君 86 唐太宗あくも上枝下枝も茂あひいづまさかき栄えまかば 87 良岑宗貞朝臣皆人花袂も沾けんこけ衣露あは 88 弘演愛ら鶴はよな千代後あは人こそ名残け 89 馮媛君おもふ心くまあらざば猛きけももおそざけむ 90 朱雲行状なほすは忠び折おばまなほさゞけ 91 左丞相陳平冠玉よそへ譏どもむなきはわたくもな 92 王陵母清き名千代もおもふ子為さらぬわかいそぎたけむ 93 随身公助賭弓勝たよも親杖うちこらさ誉け 94 僧某網魚ぬ命脱けすなどせも親ため 95 王世名散花袖つゝみかくせどもあたな風恨みざらめや 96 海瑞あ人もはゞからずうつ杖竹すぐな道たかよらざ 97 獄官石奢君おやつかふ道たちあはゆく手露きえぬ 98 力士鉏麑こもまた庭ゑず朝露くだけ清き名ゞめけ 99 亀井新次郎万代いか伝へむ出雲な亀ゐ水潔き名 100 深草元政法師鷲山みね月影深草や末野鶉かみえけむ -167- 和漢英雄百人一首 辿