11総法不審第120号

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ら退去を迫られやむを得ず転居したのであるから本件転居費用について保護費が支給されるべきであると主張して 本件処分の取消しを求めている 2 処分庁の主張 (1) 生活保護問答集について ( 平成 21 年 3 月 31 日厚生労働省社会援護局保護課長事務連絡 以下 問答集 という ) の問 13の2の

11総法不審第120号

が成立するが 本件処分日は平成 29 年 3 月 3 日であるから 平成 24 年 3 月 3 日以降 審査請求人に支給した保護費について返還を求めることは可能であ る 第 3 審理員意見書の要旨 1 結論本件審査請求には理由がないので 棄却されるべきである 2 理由 (1) 本件処分に係る生活保護

平成 30 年 9 月 25 日 諮問 平成 30 年 11 月 13 日審議 ( 第 27 回第 4 部会 ) 平成 30 年 12 月 11 日審議 ( 第 28 回第 4 部会 ) 第 6 審査会の判断の理由審査会は 請求人の主張 審理員意見書等を具体的に検討した結果 以下のように判断する 1

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処分済み

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がある 7 平成 28 年 3 月 28 日 処分庁は 同日付で審査請求人に対し 借入金収入 円の未申告により生じた保護費過払い分について 法第 78 条第 1 項の規定により費用徴収を行う決定を行い 同年 7 月 7 日 費用徴収決定通知書を審査請求人に手交した 8 審査請求人は 平成 28 年

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返還の必要性を十分説明しており 手続は適法である 第 3 審理員意見書の要旨 1 結論本件審査請求には理由がないので 棄却されるべきである 2 理由 (1) 本件の争点は 本件保険が法第 4 条第 1 項に規定する 利用し得る資産 に該当するかどうかであるが その判断に当たっては 処分庁が判断の要素

処分済み

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処分済み

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保険業務に係る情報提供料は 請求人の事業に基づいた収入であるとは いえない 第 4 審理員意見書の結論 本件各審査請求は理由がないから 行政不服審査法 4 5 条 2 項によ り 棄却すべきである 第 5 調査審議の経過 審査会は 本件諮問について 以下のように審議した 年月日 審議経過 平成 30

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処分済み

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第 4 審理員意見書の結論 本件各審査請求は理由がないから 行政不服審査法 4 5 条 2 項に より いずれも棄却すべきである 第 5 調査審議の経過審査会は 本件諮問について 以下のように審議した 年月日審議経過 平成 30 年 3 月 6 日 諮問 平成 30 年 4 月 26 日審議 ( 第

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債務のうち所定の範囲内のものを当該事業主に代わって政府が弁済する旨規定する (2) 賃確法 7 条における上記 政令で定める事由 ( 立替払の事由 ) として 賃金の支払の確保等に関する法律施行令 ( 昭和 51 年政令第 169 号 以下 賃確令 という )2 条 1 項 4 号及び賃金の支払の確

7 平成 28 年 10 月 3 日 処分庁は 法第 73 条の2 第 1 項及び条例第 43 条第 1 項の規定により 本件不動産の取得について審査請求人に対し 本件処分を行った 8 平成 28 年 11 月 25 日 審査請求人は 審査庁に対し 本件処分の取消しを求める審査請求を行った 第 4

達したときに消滅する旨を定めている ( 附則 10 条 ) (3) ア法 43 条 1 項は, 老齢厚生年金の額は, 被保険者であった全期間の平均標準報酬額の所定の割合に相当する額に被保険者期間の月数を乗じて算出された額とする旨を定めているところ, 男子であって昭和 16 年 4 月 2 日から同

の補正書 において, 審査請求の趣旨を この開示請求は本人の給与のみずましにかかわる書面である為 としているが, 原処分を取り消し, 本件対象保有個人情報の開示を求めている審査請求として, 以下, 原処分の妥当性について検討する 2 原処分の妥当性について (1) 給与所得の源泉徴収票について給与所

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1 審査会の結論 平成 28 年度市民税 県民税の賦課決定処分 に係る審査請求は棄却する べきであるとの審査庁の判断は妥当である 2 事案概要南区長 ( 以下 処分庁 という ) は 地方税法 ( 昭和 25 年法律第 226 号 以下 法 という ) 第 24 条及び第 294 条並びに横浜市市税

諮問庁 : 国立大学法人長岡技術科学大学諮問日 : 平成 30 年 10 月 29 日 ( 平成 30 年 ( 独情 ) 諮問第 62 号 ) 答申日 : 平成 31 年 1 月 28 日 ( 平成 30 年度 ( 独情 ) 答申第 61 号 ) 事件名 : 特定期間に開催された特定学部教授会の音声

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控訴人は, 控訴人にも上記の退職改定をした上で平成 22 年 3 月分の特別老齢厚生年金を支給すべきであったと主張したが, 被控訴人は, 退職改定の要件として, 被保険者資格を喪失した日から起算して1か月を経過した時点で受給権者であることが必要であるところ, 控訴人は, 同年 月 日に65 歳に達し

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厚生局受付番号 : 東北 ( 受 ) 第 号 厚生局事案番号 : 東北 ( 厚 ) 第 号 第 1 結論請求期間 1について 当該期間のうち請求者のA 社における平成 21 年 9 月 1 日から平成 22 年 12 月 1 日までの期間の標準報酬月額を訂正することが

遺者であったが 事情があって遺贈の放棄をした 民法 986 条の規定によれば 受遺者は 遺言者の死亡後 いつでも 遺贈の放棄をすることができ 遺贈の放棄は 遺言者死亡のときに遡ってその効力を生じるとされているから 前所有者から請求人に対する本件各不動産の所有権移転の事実は無かったものであり 請求人は

取得に対しては 分割前の当該共有物に係る持分割合を超える部分の取得を除いて 不動産取得税を課することができないとするだけであって 分割の方法に制約を設けているものではないから 共有する土地が隣接している場合と隣接していない場合を区別し 隣接していない土地を一体として分割する場合に非課税が適用されない

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して 当審査会に対し諮問をした 以上の事案の経緯は 諮問書 審査請求書及び懲戒処分書から認められる 2 関係する法令等の定め (1) 司法書士に対する懲戒及びその手続についてア法 47 条は 司法書士がこの法律又はこの法律に基づく命令に違反したときは その事務所の所在地を管轄する法務局又は地方法務局

 

Microsoft Word 答申件数表

もあり 安全で問題のない生活を送るためには家庭の中で請求人一人の力だけでは難しく 周りの大人の支援を必要としている状況である 現在も上記のような状況から 仕事ができずにいる また 本件処分は本件診断書に基づいて行われているが その後本件児童の状態が変わっているので 平成 30 年 3 月 26 日付

5 仙台市債権管理条例 ( 中間案 ) の内容 (1) 目的 市の債権管理に関する事務処理について必要な事項を定めることにより その管理の適正化を図ることを目的とします 債権が発生してから消滅するまでの一連の事務処理について整理し 債権管理に必要 な事項を定めることにより その適正化を図ることを目的

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<4D F736F F D208B8F91EE89EE8CEC93998C5F96F18F912E646F63>

収することが適当でないときとして厚生労働省令で定めるときを除く ) は, 保護に要する費用を支弁した都道府県又は市町村の長は, 第 63 条の保護の実施機関の定める額の全部又は一部をその者から徴収することができる, 2 項では, 前項の規定による徴収金は, この法律に別段の定めがある場合を除き, 国

市町村合併の推進状況について

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録された保有個人情報 ( 本件対象保有個人情報 ) の開示を求めるものである 処分庁は, 平成 28 年 12 月 6 日付け特定記号 431により, 本件対象保有個人情報のうち,1 死亡した者の納める税金又は還付される税金 欄,2 相続人等の代表者の指定 欄並びに3 開示請求者以外の 相続人等に関

件数表(神奈川)

標準例6

<4D F736F F D2095BD90AC E D738CC2816A939A905C91E D862E646F63>

厚生局受付番号 : 九州 ( 受 ) 第 号 厚生局事案番号 : 九州 ( 厚 ) 第 号 請求者のA 社 B 支店における厚生年金保険被保険者資格の喪失年月日を昭和 44 年 4 月 21 日から同年 5 月 1 日に訂正し 昭和 44 年 4 月の標準報酬月額を2

法第 20 条は, 有期契約労働者の労働条件が期間の定めがあることにより無期契約労働者の労働条件と相違する場合, その相違は, 職務の内容 ( 労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度をいう 以下同じ ), 当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して, 有期契約労働者にとって不合

件数表(神奈川)

厚生局受付番号 : 東北 ( 受 ) 第 号 厚生局事案番号 : 東北 ( 厚 ) 第 号 第 1 結論請求者のA 社における厚生年金保険被保険者資格の喪失年月日を昭和 53 年 12 月 31 日から昭和 54 年 1 月 1 日に訂正し 昭和 53 年 12 月の

平成14年7月3日

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厚生局受付番号 : 九州 ( 受 ) 第 号 厚生局事案番号 : 九州 ( 厚 ) 第 号 第 1 結論 請求期間について 請求者の A 社における厚生年金保険の標準報酬月額の訂正を認めることはできない 第 2 請求の要旨等 1 請求者の氏名等氏名 : 男基礎年金番号

270826答申について

ている しかしながら 本件処分は条例の理念と条文の解釈運用を誤った違法なものであり 取り消されなければならない ⑶ 条例第 7 条第 1 項本文は 個人情報の外部提供の原則禁止を規定している また 同条同項ただし書の趣旨は 単に外部提供の原則禁止規定を解除したにとどまる すなわち 当該法令等が存在す

松本市補助金交付規則 昭和 37 年 7 月 27 日規則第 16 号改正昭和 45 年 9 月 12 日規則第 31 号昭和 53 年 12 月 8 日規則第 25 号昭和 63 年 4 月 1 日規則第 18 号 ( 目的 ) 第 1 条この規則は 法令又は条例等に特別の定めのあるもののほか 補

世帯に付き10,000 円以内とする 2 助成金の交付の対象となる空気調和機器の稼働期間 ( 以下 交付対象期間 という ) は 7 月から10 月までとする 3 助成金の交付の申請をした者 ( 以下 申請者 という ) が 交付対象期間の一部について第 6 条に規定する資格に適合しない場合は 助成

厚生局受付番号 : 中国四国 ( 受 ) 第 号 厚生局事案番号 : 中国四国 ( 厚 ) 第 号 第 1 結論請求者のA 事業所における平成 27 年 7 月 10 日の標準賞与額を6 万 5,000 円に訂正することが必要である 平成 27 年 7 月 10 日の

厚生局受付番号 : 九州 ( 受 ) 第 号 厚生局事案番号 : 九州 ( 国 ) 第 号 第 1 結論昭和 50 年 4 月 30 日から昭和 51 年 4 月 1 日までの請求期間 昭和 51 年 4 月 1 日から昭和 53 年 4 月 1 日までの請求期間 昭

茨城厚生年金事案 2029 第 1 委員会の結論総務大臣から平成 24 年 10 月 10 日付けで行われた申立人の年金記録に係る苦情のあっせんについては 同日後に新たな事実が判明したことから 当該あっせんによらず 申立人のA 社における資格喪失日に係る記録を昭和 41 年 9 月 5 日に訂正し

沖縄厚生年金事案 440 第 1 委員会の結論申立人の申立期間のうち 申立期間 2に係る標準報酬月額は 事業主が社会保険事務所 ( 当時 ) に届け出た標準報酬月額であったと認められることから 当該期間の標準報酬月額を 28 万円に訂正することが必要である また 申立期間 3について 申立人は当該期

藤沢市障がい者グループホーム等家賃助成金支給事業実施規程 ( 趣旨 ) 第 1 条この規程は, 障がい者の日常生活及び社会生活を総合的に支援する法律 ( 平成 17 年法律第 123 号 以下 法 という ) 第 5 条第 12 項に規定する自立訓練のうち宿泊を伴うものを提供する施設 ( 以下 自立

04 件数表280205(東京)

ウ 特定個人 a に訂正してほしいとは, 私は書いてない これも日本年金機構の単純ミスなのか? それとも他に理由があるのか? 事実に基づいて, 説明を求める 私の公共職業安定所における氏名は, カタカナの 特定個人 b のスペースなしで管理されている 私の資格画面も氏名欄はカタカナである 国民年金保

<4D F736F F D2095BD90AC E D738FEE816A939A905C91E D862E646F63>

ウ商業地等である 町の土地の平成 28 年度分の固定資産税の課税標準額は 法附則第 18 条第 5 項及び第 25 条第 5 項の規定により 課税標準となるべき価格に0.7を乗じた額となる なお 岐阜市税条例 ( 昭和 25 年岐阜市条例第 14 号 以下 条例 という ) においては これと異なる

病が原子爆弾の傷害作用に起因する旨の厚生労働大臣の認定を受けなければならない ( 被爆者援護法 11 条 1 項 ) ⑶ 都道府県知事は ⑵ 記載の厚生労働大臣の認定を受け かつ 当該認定に係る負傷又は疾病の状態にあるとの要件に該当することについて都道府県知事の認定を受けた者に対し 医療特別手当を支

<4D F736F F D A6D92E894C581458E7B8D7393FA A956C8FBC8E738FE18A518ED293FC89408E9E E A B E E968BC68EC08E7B97768D6A2E646F63>

19 条の4 第 2 項の規定により, 特別職の公務員であるから, 本件不開示情報は, 公務員としての職務遂行情報であり, 精神保健指定医が, 客観的な生体検査もなく, ただその主観に基づいて, 対象者を強制入院させることができるという性質の資格であること, 本件開示請求に係る精神保健指定医らが対象


⑴ ⑵ ⑶ ⑷ 1


非常に長い期間, 苦痛に耐え続けた親族にとって, 納得のできる対応を日本政府にしてもらえるよう関係者には協力賜りたい ( その他は, 上記 (2) と同旨であるため省略する ) (4) 意見書 3 特定個人 Aの身元を明らかにすること及び親子関係の証明に当たっては財務省 総務省において, 生年月日の

⑴ ⑵ ⑶

⑴ ⑵ ⑶

⑴ ⑵ ⑶

⑴ ⑵ ⑶

⑴ ⑵ ⑶

- 2 - り 又は知り得る状態であったと認められる場合には この限りでない 2~7 略 (保険料を控除した事実に係る判断)第一条の二前条第一項に規定する機関は 厚生年金保険制度及び国民年金制度により生活の安定が図られる国民の立場に立って同項に規定する事実がある者が不利益を被ることがないようにする観

定している (2) 通達等の定めア 生活に困窮する外国人に対する生活保護の措置について ( 昭和 29 年社発第 382 号厚生省社会局長通知 以下 昭和 29 年通知 という 乙 1) は, 一項本文において, 生活保護法第 1 条により, 外国人は法の適用対象とならないのであるが, 当分の間,

Unit1 権利能力等, 制限行為能力者 ( 未成年 ) 1 未成年者が婚姻をしたときは, その未成年者は, 婚姻後にした法律行為を未成年であることを理由として取り消すことはできない (H エ ) 2 未成年者が法定代理人の同意を得ないで贈与を受けた場合において, その贈与契約が負担付の

老発第    第 号

異議申立てしていますが, 協会 ( 原文ママ ) として黙認しています 本件に関しても, 諮問庁は国のトップなのだから, もっともっと労働問題に積極的に取り組み, 労基法厳守で, 場合により, 行政処分すべきである 警察なら, スピード違反すれば即行政処分されますが, 労基法では, 基本強い行政処分

答申件数表(1月15日答申分)

保険給付に関する決定についての審査請求に係る労働者災害補償保険審査官の決定に対して不服のある者は 再審査請求をした日から 3 か月を経過しても裁決がないときであっても 再審査請求に対する労働保険審査会の裁決を経ずに 処分の取消しの訴えを提起することはできない (H23-4B)

301121答申件数表

Transcription:

答 申 審査請求人 ( 以下 請求人 という ) が提起した生活保護法 ( 以 下 法 という )63 条の規定に基づく返還金額決定処分に係る審 査請求について 審査庁から諮問があったので 次のとおり答申する 第 1 審査会の結論 本件審査請求は 棄却すべきである 第 2 審査請求の趣旨本件審査請求の趣旨は 市福祉事務所長 ( 以下 処分庁 という ) が請求人に対し平成 2 8 年 6 月 15 日付けで行った法 6 3 条の規定に基づく返還金額決定処分 ( 以下 本件処分 という ) について その取消しを求めるものである 第 3 請求人の主張の要旨請求人は おおむね以下の理由から 本件処分の違法性又は不当性を主張している 1 請求人は 重度障害者であり 重度障害者加算は過誤払ではなかった 2 法 6 3 条は 資力があるにもかかわらず その資力が現実化していなかった場合に係る規定であり 福祉事務所の職員の過失による過誤払は想定していない 請求人は 過誤払されたという認識がなく受領した保護費を 支給された月に全て使い切っており 翌月に資力として残っていなかったから 資力があるにもかかわらず 保護を受給した場合には該当しない 1

3 法 6 3 条は 不当利得返還義務 ( 民法 703 条 ) の性格を有しており 返還義務は現存利益に限定されるべきである 生活に困窮する者がたまたま手に入れた金銭を善意で生活費に消費した場合は 現存利益は存在しないことになる 今更全額の返還を請求することは 請求人に不測の損害を与える 4 請求人に支給されている保護費は 現在約 7 0, 0 0 0 円であり 返還できる額は 月々数千円程度である 83 歳の請求人に対して 4 0 年かかっても返済することができない債務を負わせることは あまりに酷であり 信義則に反し 権利濫用に該当する 5 本件は 法 8 0 条に規定する やむを得ない事由があると認めるとき に該当し 返還は免除されるべきである 万が一 収入として認定するとしても 認定できる回数は 市における解釈を参考に 最大 6 回分が一つの目安となる 6 厚生労働省は 最低生活費の遡及変更は 2 か月程度 ( 発見月及びその前月まで ) としており 福祉事務所職員の過失により保護費が過小に支払われた場合は 前々月以前の分は支払われないにもかかわらず 過大に支払われた場合は法 6 3 条により全額返還請求をするというのでは 公平の理念に反する 第 4 審理員意見書の結論 本件審査請求は理由がないから 行政不服審査法 4 5 条 2 項に より 棄却すべきである 第 5 調査審議の経過 審査会は 本件諮問について 以下のように審議した 年月日 審議経過 2

平成 2 9 年 2 月 7 日 平成 2 9 年 3 月 1 3 日 諮問 請求人から反論補充書の提出 平成 2 9 年 3 月 1 6 日審議 ( 第 7 回第 2 部会 ) 平成 2 9 年 4 月 4 日 請求人から反論補充書の提出 平成 2 9 年 4 月 2 1 日審議 ( 第 8 回第 2 部会 ) 平成 2 9 年 5 月 23 日審議 ( 第 9 回第 2 部会 ) 第 6 審査会の判断の理由審査会は 請求人の主張 審理員意見書等を具体的に検討した結果 以下のように判断する 1 法令等の定め ⑴ 法 4 条 1 項は 保護は生活に困窮する者が その利用し得る資産 能力その他あらゆるものを その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われるとし 法 8 条 1 項は 保護は厚生労働大臣の定める基準により測定した要保護者の需要を基とし そのうち その者の金銭又は物品で満たすことのできない不足分を補う程度において行うものと規定している ⑵ 上記 厚生労働大臣の定める基準 である保護基準において 障害により最低生活を営むのに健常者に比してより多くの費用を必要とする障害者については こうした特別の需要に着目した加算制度 ( 障害者加算 ) があり さらに 特別児童扶養手当等の支給に関する法律施行令別表第 1 に定める程度の障害の状態にあるため 日常生活において常時の介護を必要とする者には 重度障害者加算がなされるものとされているが 上記の重度障害者加算対象者について 児童福祉法に規定する障害児入所施設 老人福祉法に規定する養護老人ホーム及び特別養護老 3

人ホーム等に入所している者は除くこととされている ( 保護基準別表第 1 第 2 章 2 ⑶ ) ⑶ 法 6 3 条は 被保護者が 急迫の場合等において資力があるにもかかわらず 保護を受けたときは 速やかに 保護を受けた保護金品に相当する金額の範囲内において保護の実施機関が定める額を返還しなければならない旨規定している 法 6 3 条は 本来 資力はあるが これが直ちに最低生活のために活用できない事情にある場合にとりあえず保護を行い 資力が換金されるなど最低生活に充当できるようになった段階で既に支給した保護金品との調整を図ろうとするものであり 原則として 当該資力を限度として支給した保護金品の全額を返還額とすべきであるとされている ( 平成 2 1 年 3 月 3 1 日付厚生労働省社会 援護局保護課長事務連絡 生活保護問答集について ( 以下 生活保護問答集 という ) 問 1 3-5 答 ⑴ ) 法 6 3 条の規定は 被保護者に対して最低限度の生活を保障するという保護の補足性の原則に反して保護費が支給された場合に 支給した保護費の返還を求め もって生活保護制度の趣旨を全うしようとするものであって 上記 急迫の場合等 には 調査不十分のため資力があるにもかかわらず 資力なしと誤認して保護を決定した場合 保護の実施機関が保護の程度の決定を誤って 不当に高額の決定をした場合等が含まれると解される ( 東京高等裁判所平成 2 5 年 4 月 2 2 日判決 ( 裁判所ウェブサイト掲載判例 ) 小山進次郎著 改定増補生活保護法の解釈と運用 ( 復刻版 ) 6 4 9 頁 ) ⑷ 保護の実施機関の誤りにより保護費の不足又は過払が生じた場合であっても 実施機関が誤りの発見後に再算定を行い 遡及的に正しい扶助額に変更する決定をすることは可能であるが 一般に 最低生活費の遡及変更は 3 か月程度 ( 発見月からそ 4

の前々月分まで ) とされている これは 保護費を追加支給することについては 3 か月を超えて遡及する期間の最低生活費を追加支給することは 保護の扶助費を生活困窮に直接的に対処する給付として考える限り妥当でないなどの理由によるものであり 保護費の戻入を求めることについては 処分がいつまでも不確定であることは処分の相手方にとっても妥当でないとの理由によるものとされている ( 地方自治法 2 4 5 条の 9 第 1 項及び 3 項の規定に基づく法の処理基準とされる 生活保護法による保護の実施要領について ( 昭和 3 8 年 4 月 1 日付社発第 2 4 6 号厚生省社会局長通知 ) 第 1 0 2 ⑻ 生活保護問答集問 1 3-2 答 2 ) したがって 保護費の過払の期間が上記 ( 発見月からその前々月分まで ) を超えている場合は 上記の遡及変更による手段を採ることはできないため 過払された保護費相当額を法 6 3 条の 資力 として認定する方法によるべきこととなる ⑸ 法 6 3 条の規定に基づく費用返還金額決定を行う場合 保護費に係る返還請求権の消滅時効期間は 地方自治法 2 3 6 条 1 項の規定に基づき 5 年間となり 保護を受けたときの翌日から 5 年間を経過したときは 返還請求権は消滅する したがって 返還金額は 納入の通知が相手方に到達する日から遡って 5 年の期間内 ( すなわち 5 年前の応当日以降 ) に支給した保護費を対象として算定することが必要である ⑹ 法 8 0 条は 保護の実施機関は 保護の変更 廃止又は停止に伴い 前渡した保護金品の全部又は一部を返還させるべき場合において これを消費し 又は喪失した被保護者に やむを得ない事情があると認めるときは これを返還させないことができるものと規定している 2 これを本件についてみると 処分庁は 平成 2 8 年 6 月 9 日に 5

担当職員が請求人世帯に係るケース記録を確認したことにより 本件重度障害者加算の誤計上及び本件住宅扶助費の誤計上を発見したことが認められる そして 上記 ( 1 ⑸ ) のとおり 保護費に係る返還請求権の消滅時効期間は 5 年間であることから 処分庁は 平成 2 3 年 7 月分以降の支給済保護費を対象とし 平成 2 8 年 4 月分までの支給済保護費について 法 6 3 条の規定に基づき 当該期間における請求人に対する支給済保護費の範囲内において 本件重度障害者加算の誤計上及び本件住宅扶助費の誤計上により過大に支給された保護費を合算した額 ( 本件返還決定金額 ) を返還金額として決定 ( 本件処分 ) したことが認められる そうすると 本件処分は 本件重度障害者加算の誤計上及び本件住宅扶助費の誤計上の結果として発生した有効な保護費返還請求権に基づき返還金額を決定したものであって 違算等の事実も認められず 上記 ( 1 ) の法令等の定めに従い適正になされたものと言え 違法又は不当な点を認めることはできない 3 請求人は 上記 ( 第 3 1) のとおり 請求人は重度障害者であり 重度障害者加算は過誤払ではなかったと主張する しかし 上記 ( 1 ⑵ ) のとおり 保護基準別表第 1 第 2 章 2 ⑶によれば 日常生活において常時の介護を必要とする者に対する特別の需要に着目した重度障害者加算については 老人福祉法に規定する特別養護老人ホーム等に入所している者は 加算対象とはならないものとされている そうすると 請求人が特別養護老人ホームに入所中に支給された保護費のうち 重度障害者加算に相当する額は 過払に当たるものと認められるから 請求人の上記主張は 理由がない 4 請求人は 上記 ( 第 3 2 ) のとおり 法 6 3 条は 資力があるにもかかわらず その資力が現実化していなかった場合に係る 6

規定であり 福祉事務所の職員の過失による過誤払は想定しておらず 請求人は過誤払されたという認識がなく受領した保護費を全て使い切って 資力として残っていなかったから 同条は請求人に対する支給済保護費の返還請求の根拠とはならないと主張する しかし 法 6 3 条は 保護の実施機関が保護の程度の決定を誤って 不当に高額の決定をした場合についても 支給済保護費の返還金額の決定についての根拠規定となると解されることは上記 ( 1 ⑶ ) のとおりであるから 処分庁が法 6 3 条の規定に基づき本件処分を行ったことに違法又は不当な点はなく 請求人の上記主張は 理由がない 5 請求人は 上記 ( 第 3 3 及び 4 ) のとおり 法 6 3 条は 不当利得返還義務の性格を有しており 返還義務は現存利益に限定されるべきであって 今更全額の返還を請求することは 請求人に不測の損害を与えることになり また 8 3 歳の請求人に対して 4 0 年かかっても返済することができない債務を負わせることは あまりに酷であり 信義則に反し 権利濫用に該当すると主張しており 要するに 請求人は過誤払されたという認識がなく 既に保護費を善意で費消したのであるから 過誤払の全額を返還金額とすることは認められない旨を主張する しかし 法 6 3 条の規定に基づく返還金額の決定は 当該資力を限度として 支給した保護金品の全額を返還額とすることが原則であるとされている ( 1 ⑶ ) また 保護金品の全額を返還額とすることが当該世帯の自立を著しく阻害すると認められるような場合にあっては 当該世帯の自立更生のためのやむを得ない用途にあてられたものであって 地域住民との均衡を考慮し 社会通念上容認される程度として実施機関が認めた額 等 限定的な範囲において 本来の要返還額 7

から控除して返還額を決定する取扱い ( 以下 自立更生免除 という ) として差し支えないものとされている ( 生活保護問答集問 1 3-5 答 ⑵ ) しかし 保護の実施機関が保護の程度の決定を誤って 不当に高額の決定をした場合等については 保護受給者は 過誤払の原因が当該受給者の責めに帰すべきものでなかったとしても 本来支給すべきでなかった保護費を受給したことには相違なく 他の受給者との公平性の観点からも 自立更生免除が適用される余地は 真に当該受給者の自立が著しく阻害される場合に限られると解される この点について 平成 2 8 年 6 月 2 3 日に担当職員が請求人が入所する特別養護老人ホームを訪ね 請求人に対し本件処分について説明したことが認められる 審理員の調査によれば この際 担当職員が 日常生活において不足している物 購入できずに困っている物等がないかどうかを尋ね 請求人が極端に節約した生活を送っていないか 入所してから今まで必需品を買ったかどうか 買えなくて困ったことがあったか これから買いたい物はあるか等について確認し もしあるならば その分の金額を返還金から差し引くことを検討する旨を請求人に伝えたが 請求人は 施設での生活であるから 必需品に不足はなく 特に購入したい物や困っていることはない旨を担当職員に回答している さらに 担当職員が 具体的に 杖や歩行補助具などを購入する予定はないのかどうか尋ねると そのような物は 施設に備付けのものを使っている旨の回答があり このことから請求人は 特別養護老人ホームにおいて日常の必需品等には特段の不足が生ずることなく日常生活を送っていることが認められる また 本件返還決定金額の返還に際しては 必要に応じ分割納 8

付の方法によることも可能であることからすれば 過誤払の保護金品の全額 ( 本件返還決定金額 ) を返還額とすることが 請求人世帯の自立を著しく阻害するとまでは認め難く 本件処分に際して処分庁が自立更生免除を適用しなかったことが 不合理であったとは認められない そうすると 請求人が主張するように 請求人は過誤払されたという認識がなく また 既に保護費を善意で費消したという事情があったとしても 本件返還決定金額を返還金額として決定した本件処分に不合理な点はなく 信義則違反及び権利濫用に当たるとは認められないから 本件処分を違法又は不当と言うことはできず 請求人の上記主張には理由がない 6 請求人は 上記 ( 第 3 5 ) のとおり 本件は 法 8 0 条に規定する やむを得ない事由があると認めるとき に該当し 返還は免除されるべきであり 万が一 収入として認定するとしても 認定できる回数は 市における取扱いに準じ 最大 6 回分が一つの目安となると主張する しかし 法 8 0 条は 保護の変更 廃止又は停止に伴い 前渡した保護金品の全部又は一部を返還させるべき場合の返還の免除に係る規定であって ( 1 ⑹ ) 当該返還義務は 民法 7 0 3 条 ( 不当利得の返還義務 ) により生じるものである 一方で 法 6 3 条の規定は 資力があるにもかかわらず保護を受けた者があるときに もとの処分自体は有効とした上で 特別に費用返還義務を定めたものであるから ( 生活保護問答集問 1 3-1 7 答) 同条の規定に基づく本件処分について 法 8 0 条の規定に基づく返還金の免除が行われるべきであるとの請求人の主張は 採用することはできない なお 法 6 3 条の規定に基づく返還金額の決定については 自立更生免除を行う余地はあるものの 本件において これを行わ 9

なかったことについて違法又は不当な点が認められないことは 上記 (5 ) で述べたとおりである また 本件処分は 請求人が 市に対して返還すべき支給済保護費の額を決定したものであって その金額 ( 本件返還決定金額 ) に違法又は不当な点を認めることができない以上 当該金額を実際に返還する際の分割納付の方法等 その具体的な返還方法をどのようなものにするかによって 本件処分の適法性及び妥当性が影響を受けるものではない 以上のとおり 請求人の上記主張は 理由がない 7 請求人は 上記 ( 第 3 6 ) のとおり 厚生労働省は 最低生活費の遡及変更は 2 か月程度 ( 発見月及びその前月まで ) としており 福祉事務所職員の過失により保護費が過小に支払われた場合は 前々月以前の分は支払われないにもかかわらず 過大に支払われた場合は法 6 3 条により全額返還請求をするというのでは 公平の理念に反すると主張する しかし 請求人の上記主張は 要するに立法論又は政策論に係る主張であると解されるものであって 法令等の定めに基づいてなされた本件処分の適否を左右するものではなく これを本件処分の取消理由として採用することはできない したがって 請求人の上記主張は 理由がない 8 請求人の主張以外の違法性又は不当性についての検討その他 本件処分に違法又は不当な点は認められない 以上のとおり 審査会として 審理員が行った審理手続の適正性や法令解釈の妥当性を審議した結果 審理手続 法令解釈のいずれも適正に行われているものと判断する よって 第 1 審査会の結論 のとおり判断する 10

( 答申を行った委員の氏名 ) 近藤ルミ子 山口卓男 山本未来 11