( 続紙 1 ) 京都大学博士 ( 法学 ) 氏名重本達哉 論文題目 ドイツにおける行政執行の規範構造 - 行政執行の一般要件と行政執行の 例外 の諸相 - ( 論文内容の要旨 ) 本論文は ドイツにおける行政強制法の現況を把握することを課題とするもので 第 1 部 行政執行の一般要件 - 行政行為

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法第 20 条は, 有期契約労働者の労働条件が期間の定めがあることにより無期契約労働者の労働条件と相違する場合, その相違は, 職務の内容 ( 労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度をいう 以下同じ ), 当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して, 有期契約労働者にとって不合









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Title ベトナム語南部方言の形成過程に関する一考察 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 近藤, 美佳 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date URL



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Title ドイツにおける行政執行の規範構造 - 行政執行の一般要件と行政執行の 例外 の諸相 -( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 重本, 達哉 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date 2010-03-23 URL http://hdl.handle.net/2433/120749 Right Type Thesis or Dissertation Textversion none Kyoto University

( 続紙 1 ) 京都大学博士 ( 法学 ) 氏名重本達哉 論文題目 ドイツにおける行政執行の規範構造 - 行政執行の一般要件と行政執行の 例外 の諸相 - ( 論文内容の要旨 ) 本論文は ドイツにおける行政強制法の現況を把握することを課題とするもので 第 1 部 行政執行の一般要件 - 行政行為と行政執行の法的関連性を中心に- と第 2 部 行政執行の 例外 の諸相 - 即時強制と略式手続の法的構造 - で構成されている まず 序章 で 筆者の問題関心が明らかにされた後 第 1 部の第 1 章では ドイツでは連邦と州が独自に行政執行 ( 行政強制 ) 全般に係る一般法を整備しており その結果 個別論点を検討する際には各行政執行法制の異同に注意を払わなければならないことが指摘されている 第 2 章では ドイツ行政執行法全般にわたって明示的に定められている要件として 行政執行過程の起点となる行政行為 = 基礎処分に不可争力が生じていること 又は法的救済手段に停止的効果が生じていないことが挙げられるが 警察法の領域をも含めて検討を進めると これらは容易に排除され得るものであり ドイツ行政執行法制における一般的な最低限の要件として確実に挙げ得ることができるのは 基礎処分が無効でないことだけであることを明らかにしている 第 3 章では 行政執行の一般的要件として 基礎処分が単に有効であるだけでなく適法であることまで要求されているのか 言い換えれば 基礎処分の違法性が行政執行に一般的に承継されるのかを検討し 関連法制は これを否定する方向で歴史的に展開しつつあるように思われること また判例も基本的に否定説の立場にたっており 学説も同様であることが示されている 第 4 章では 上記のような学説の状況にもかかわらず 基礎処分が適法であることまで要求する肯定説が少数ながら存在することに着目し これらの肯定説 すなわち行政執行の独自性を論拠とするもの 行政執行の中止義務を論拠とするもの 即時強制の法的性質を論拠とするもの 行政の法律適合性の原則を論拠とするもの 公権力に対する実効的な権利保護の必要性を論拠とするもの 及び警察法固有の事情を論拠とするものを それらに対する批判 異説と共に逐一採り上げ詳しく検討している その中で 筆者は 否定説に立ちつつも 執行費用の給付決定に対する取消訴訟において基礎処分の適法性を争うことを認める見解があること さらには 行政執行の終了による基礎処分の< 決着 >を否定することにより 基礎処分に対する取消訴訟を引き続き認める見解もあることを指摘している 以上の検討の上で 上記の権利保護形式に係る見解は日本法の解釈においても参考となると述べつつ 現代ドイツの実定法構造が行政執行の一般的要件として確かに要求していることは基礎処分が有効であるということだけであるとしなが

らも ドイツ法における 行政執行法 行政訴訟法間の多様な相互作用への着目は 行政執行法制を形成 運用する上で依然として必要不可欠なものであると言わざるを得ない と結んでいる 第 2 部の第 1 章では まず ドイツでは 執行可能な行政行為が執行基礎を形成する行政強制手続である 延長手続 が通例であることが指摘された後 これに対する例外である 即時強制 が連邦及び多くの州の一般行政執行法上 即時執行 と規定されているが これについては 即時強制 という表現がより適切とする有力な見解のあることが指摘される そして この即時強制に類似する警察法上の 直接執行 は 現在では 即時強制の特殊事例と捉えてよいものであり 両者の用語上の相違にあまりこだわらなくともよいものと考えることができる旨を明らかにしている 第 2 章では まず 連邦法を中心に即時強制の実定法上の要件が検討され ドイツ行政執行法制上比較的統一的な要件が整備されていることを指摘している 続いて 即時強制の法的性質が検討され 現在では 先行研究で紹介された時期と異なり 即時強制を端的に事実行為と捉える見解が支配的であるとする そして 即時強制の法的構造について 即時強制の最大の特徴は 先行する基礎処分が存在することなしに 通例の行政執行手続の最終段階である強制手段の適用に直ちに至ることであり それゆえに 行政実体法と行政執行法の適法性関連は完全に肯定されているとされる この後 補章として 現実に即した行政執行を行政庁に事実上容易に行わせる一方で 行政執行過程の適法性を裁判所によって 事後的にであれ 判断させるような制度として機能し得る費用決定手続を紹介した後 第 3 章においては 通例と例外としての即時強制との中間形態として位置付けられるが 連邦及び州の一般行政執行法において相当不統一であることが指摘されている略式手続について その概念 立法例 要件 法的性質等を検討し この しばしば明文で規定されている略式手続の多様性にこそ 可能な限り規律を及ぼしつつも現実に即して行政執行の手続を柔軟にかつ予測可能な形で変化させることができるようにしているという ドイツ行政執行法制の一つの特徴が看取されるとする 以上の検討の上で 即時強制が一般的包括的に許容されているドイツにおいて 即時強制は かなり厳格に 例外 として しかも例外的な 手続 として位置付けられていること その位置付けを根拠付ける 時間的切迫性 と即時強制との密接な関係を重視するドイツの法的態度は 即時強制概念における時間的要素の不可欠性を改めてわが国の学説に意識させるきっかけとなり得ることが指摘されている そして 結章 において ドイツ行政執行法制は現在なお基礎処分である行政行為を行政執行のいわば核心として位置付ける規範構造を従前通り強固に維持していると述べている

( 続紙 2 ) ( 論文審査の結果の要旨 ) 我が国では 第二次世界大戦後 行政代執行法により戦前広く行政上の強制執行を認めていた行政執行法が廃止され 行政上の強制執行を用いることのできる場合がかなり制限されているところ 最高裁判所第三小法廷平成 1 4 年 7 月 9 日判決 ( いわゆる宝塚市パチンコ店等建築規制条例事件判決 ) が 行政主体が財産権の主体として自己の財産上の権利利益の保護救済を求める場合は別として 行政上の義務の民事裁判手続による執行は許されないとしたため 行政上の義務の履行をいかに確保するかに関心の高まっているところである このような中 昨年逝去された広岡隆教授の業績以来久しく本格的な研究のなかったドイツの行政執行法制全体を本格的に研究対象とした本論文は時宜を得たものと言える 本論文の第一部においては 行政行為と行政執行の法的関連性を中心に行政執行の一般要件について 広く文献を渉猟した上で 連邦及び州における法状況が検討されており 高い水準の研究と評価できる 特に 我が国では 義務を課す行政行為と行政上の強制執行の間には違法性の承継はないと殆んど異論なく考えられているところ ドイツにおいてはこれを肯定する少数ではあるが有力な見解が存することを指摘し その論拠を本格的に整理 検討している点は ドイツでも類を見ないものであると思われ また 違法性の承継はないとするものであっても 訴えの利益を広く認めたりして先行の行政行為の違法性を争うことを認める見解のあることなどを 我が国で恐らく初めて紹介しており これらは我が国での解釈論の発展にも寄与し得るものと考えられ 極めて興味深いものがある 本論文の第二部においては 通常の行政執行手続の例外としての即時強制と略式手続が検討されている 我が国では 即時強制は行政上の強制執行と截然と区別されたものと考えているところ 本論文はドイツの即時強制と我が国における即時強制に比較的近いドイツの警察法上の直接執行とが実質的に同じであることを明らかにし また 広岡教授や髙木光教授による研究以降のドイツにおける即時強制の法的性質についての学説状況の変化を紹介し さらに 略式手続と共にこれを論じることによって 即時強制法制を含めて 様々な事実状況とその変化に可能な限り対応しようと試みているドイツの現行行政執行法制の全体像を初めて示したものであり 我が国においてあるべき行政強制システム全体を考えるにおいて大いに参考になるものとして評価できる 本論文においては ドイツ語の訳がやや生硬と思われるところがあり また 学説の分布状況を十分に把握していない者には学説の位置付けがもう一つ理解しにくいところもあるが このことは以上の本論文の学術的価値を損うものではない

以上の理由により 本論文は博士 ( 法学 ) の学位を授与するに相応しいものと認められる なお 平成 22 年 2 月 22 日に調査委員 3 名が論文内容とそれに関連した試問を行った結果 合格と認めた