キャッシュ フロー計算書の公表について ( 平成 26 年度北上市下水道事業会計決算 ) 北上市都市整備部 キャッシュ フロー計算書 (Cash Flow Statement) キャッシュ フロー計算書 (Cash Flow Statement CS ) とは 一会計期間における 現金及び預金 ( 現金同等物 =キャッシュ ) の増減 ( フロー ) を表す財務諸表であり 民間上場企業においては 平成 12 年 3 月期決算より作成が義務付けられているもので 貸借対照表 損益計算書に次ぐ第 3の財務諸表と位置付けられています 企業会計においては 売上や経費の原因が発生した時点で収益や費用を計上する 発生主義 が採用されていますが 財務諸表における利益の増加とキャッシュの増加は必ずしも一致しないため 黒字を計上している企業でも資金繰りの悪化から倒産する いわゆる 黒字倒産 になりかねません 従来の貸借対照表や損益計算書だけでは資金の増減を掴めないため 米国において 1988 年に制度化され わが国においても資金の状況を把握 分析するために キャッシュ フロー計算書が導入されました 利益は意見 ( オピニオン ) キャッシュは事実という表現がよく用いられ 利益は企業の会計方式や基準により変わり得るものですが キャッシュ フロー計算書には手を加えることが困難であると言われています 地方公営企業においては 地方公営企業法の改正により 平成 26 年度決算からキャッシュ フロー計算書の作成が義務付けられました しかし 下水道事業は 地方公営企業法を適用している下水道事業自体が非常に少なく 9 割の事業が法非適用の状況のため ほとんど作成 公表されていない状況です 北上市下水道事業は 経営情報を積極的に開示する ( アカウンタビリティ ) こと また 経営状況をより深く分析し今後の経営に役立てるという観点から 平成 20 年度の地方公営企業法適用以来 キャッシュ フロー計算書を作成し 公表しています キャッシュ フロー計算書の3つの区分キャッシュ フロー計算書では 企業の活動を 業務活動 投資活動 財務活動 の3 種類に区分しています それぞれの区分のおもな内容は次のとおりです 業務活動によるキャッシュ フロー企業の主たる業務活動に関するキャッシュの増減を表しています 一般的に プラスになっていることが原則で 多いほど事業活動がうまくいっていると言えます 投資活動によるキャッシュ フロー建設投資や固定資産の増加 減少及び投資活動に伴うキャッシュの増減を表しています 大規模な資産売却を行った場合などはプラスとなりますが 建設投資を行っていればマイナ
スになるのが通常です 財務活動によるキャッシュ フロー借入による収入及び借入金の返済に関するキャッシュの増減を表しています プラスの場合は 新たな借入が返済額を上回っており 結果として借入金の残高が増加していることになります 基本的には借金残高を減らす方向が良いと考えられ 借入金の返済が順調に進み 返済額よりも借入が少ない つまり借金残高を減らしている状態のときにマイナスとなります キャッシュ フロー計算書のそれぞれの区分の プラス と マイナス の組み合わせから見た企業のおおよその経営状況を3つの代表的なパターンにまとめて示すと次のとおりになります パターン 業務活動 投資活動 財務活動 A + - - B + - + C - - + 経営状況 業務活動が順調で かつ借入金残高を減らしながら建設投資が行われており 比較的安定した経営状況にあるといえます 業務活動は順調である一方 建設投資の財源としての借入金が 以前の借入金の返済額を上回っているため 将来の借入金返済の負担が懸念されます 業務活動から十分な資金を得られず 業務活動や投資活動の経費の財源を借入金でまかなっている状態です 安定的 危険 パターンAの状態であって なおかつフリー キャッシュ フロー (F) 及びトータル キャッシュ フロー (T) がプラスである場合 つまり業務キャッシュ フロー フリー キャッシュ フロー (F) トータル キャッシュ フロー (T) の3つがすべてプラスの場合には健全な経営状態であると考えられます フリー キャッシュ フロー (F) 最近よく利用されるようになった指標で 業務活動によるキャッシュ フローと投資活動によるキャッシュ フローの差です このフリー キャッシュ フローは事業継続のために必要な再投資などを行った後に残る資金のことで まさしく企業が自由 ( フリー ) に使えるキャッシュを示します フリー キャッシュ フローがマイナスであれば事業継続のための必要資金を本業でまかなえていないということになり フリー キャッシュ フローのマイナスが続くと厳しい資金繰りを強いられることとなります しかしながら フリー キャッシュ フローがプラスであることは必ずしも上手な経営を意味しないという側面があり フリー キャッシュ フローが必要以上に多額な場合は無駄にキャッシュを眠らせているという見られ方をすることもあります 昨今はこれについての批判が高まりつつあります トータル キャッシュ フロー (T) 業務活動によるキャッシュ フローと投資活動によるキャッシュ フロー及び財務活動によるキャッシュ フローの三つをすべて総合したトータルのキャッシュ フローです これがプラスであるということは 前年度よりも資金残高が増加しているということになります
北上市下水道事業の状況 当市では平成 20 年度から地方公営企業法の全部を適用して 企業会計方式に移行しました キャッシュ フロー計算書についても これに合わせて平成 20 年度分から作成しており 平成 20 年度は前年度の財務諸表が無いため直接法で作成しましたが 平成 21 年度からは水道事業会計に合わせて間接法で作成しています 一般の民間企業においてはほぼ全てにおいて間接法により公表されているのが実際です 業務活動によるキャッシュ フロー業務活動によるキャッシュ フローはプラスとなっていますが これは 一般会計からの繰入金 ( 補助金 ) が多額であることが要因です 本年度は使用料収入が増加しているものの 昨年度の水道事業会計への借入金返済を目的とした一般会計補助金収入が減少したため 業務活動によるキャッシュ フローが減となりました なお 一般会計補助金がなければ業務活動 はマイナスとなっており これは 過去の多額の投資に伴う多額の借入金による支払利息 4 億 4 千万円と流域下水道に対する維持管理負担金 5 億 3 千万円が 大きなキャッシュ フロー支出となっているためです 業務キャッシュ フロー対流動負債比率 業務キャッシュ フロー 811,390 流動負債 1,642,593 = 49.4 % 1 年以内に支払義務が生ずる負債に対し 業務キャッシュ フローがどの程度の支払能力を有するかを表す比率です 今期も 100% を大きく下回る結果となっており 昨年度の水道事業会計への借入金返済を目的とした一般会計補助金収入が減少したため 比率が低下しています この数値を見る限り 債務の弁済能力に懸念があり 厳しい状態と言えます 資金繰りについては 一般会計からの長期借入金に頼っている状況です なお 流動負債については 平成 25 年度までは企業債が借入資本金に分類されていたため 企業債に含まれる実質的流動負債 (1 年以内に到来する起債の償還額 ) を借入資本金から分離加算して現実的な数値で算定していました 投資活動によるキャッシュ フロー投資活動によるキャッシュ フローはマイナスとなっています 設備投資を行っている場合は通常マイナスとなりますが 本年度は2 億 3 千万円の投資額となっています 下水道事業の法適用化によって 経営状態が逼迫していることが表面化しており 近年は投資額を平成 20 年度の10 億円 平成 21 年度の8 億 5 千万円と比べて段階的に大幅な削減をしています
業務キャッシュ フロー対投資支出比率 業務キャッシュ フロー 811,390 投資額 375,507 = 216.1 % この比率は投資活動による支出に対して 業務キャッシュ フローがどの程度の支払能力を有しているかを表します 100% 以上であればフリー キャッシュ フローがあるということを示す指標で 建設改良事業費を大幅に圧縮しているため この数値は 100% 以上となっています 財務活動によるキャッシュ フロー財務活動によるキャッシュ フローはマイナスとなっています 投資を抑えて新規借入額を減らしているため 借入は返済を下回っております しかし 起債の元金償還額が15 億 8 千万円と 使用料等の営業収入を超えるほど多額なものとなっており この資金手当として一般会計からの補助金 出資金 ( 繰入金 ) で賄っている状況です また 投資に係る資金不足もこの補助金 出資金で賄っているという状況で 一般会計繰入に大きく依存していると言えます フリー キャッシュ フロー業務活動によるキャッシュ フローと投資活動によるキャッシュ フローの差額であるフリー キャッシュ フローについては プラスとなっています 業務活動 C/Fの範囲を超えた投資から 近年事業費の大幅削減を図り 使用料値上げを図ったことによる結果であると言えます 今後も継続して事業費を抑制する必要があるため 集合処理一辺倒ではない処理方式の転換も考慮しなければなりません 全体的な考察以上の分析から考えると 北上市の下水道事業は依然として非常に厳しい状態であると言えます 業務活動 C/Fの一般会計補助金は 実際は資金不足額に対する手当と同様の機能となっているのが現状で 財務活動 C/Fの収入としての要素が色濃いものとなっています 仮にこの補助金を財務活動 C/Fに移行したとするとキャッシュ フロー計算書は次のようになります
Ⅰ 業務活動によるキャッシュ フロー 158,828 Ⅱ 投資活動によるキャッシュ フロー 133,515 Ⅲ 財務活動によるキャッシュ フロー 365,975 Ⅳ 現金預金及び現金等価物増加減少額 73,632 Ⅴ 現金預金及び現金等価物期首残高 220,269 Ⅵ 現金預金及び現金等価物期末残高 293,901 フリー キャッシュ フロー 292,343 業務 158,828 財務 ( プラス ) 365,975 ( 一般会計補助金等 ) 投資 133,515 F 292,343 現金増加額 73,632 変形したキャッシュ フロー計算書は以上のようになりますが この形は 業務活動キャッシュ フロー マイナス 投資活動キャッシュ フロー マイナス 財務活動キャッシュ フロー プラス フリー キャッシュ フロー マイナスという 破綻形態に近い企業が示す典型的なキャッシュ フロー計算書の形となっています 本業である業務活動ではお金を生み出せないにもかかわらず 事業費は減少傾向ではありますがまだ多額の投資も行っていて その資金をすべて親からの仕送り ( 一般会計からの繰入れ ) に頼っているという構図になります この状態を改善するため 一刻も早い そして根本的な経営改善に取り組んでいかなければなりません