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Transcription:

Title 税法上の配当概念の意義と課題 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 小塚, 真啓 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date 2014-03-24 URL https://doi.org/10.14989/doctor.k18 Right 許諾条件により本文は 2015-03-24 に公開 Type Thesis or Dissertation Textversion ETD Kyoto University

( 続紙 1 ) 京都大学博士 ( 法学 ) 氏名小塚真啓 論文題目 税法上の配当概念の意義と課題 ( 論文内容の要旨 ) 本論文は 法人から株主が受け取る配当が 株主においてなぜ所得として課税を受けるのかという疑問を出発点に 所得税法および法人税法上の配当概念について検討を加え 配当課税の課題を明らかにしたものである 本論文は 日本の現行法における配当概念と包括的所得概念との関係および両者の整合性についての検討 (I) 米国のMacomber 連邦最高裁判決における配当の概念についての分析 (II) および 法人利益の二重課税を排除し 包括的所得概念に忠実な所得課税を目指す見地から配当課税を正当化することの可能性についての検討 (III) の3 部から構成されている Iでは まず 日本の所得税および法人税において配当を所得として扱うことの意味が考察され 実現主義に基づいて株式の増加益に対する課税を行うこと すなわち 株式の増加益をその発生した年度ではなく 増加益に対応した金銭その他の財産の交付などがあった年度において所得として認識するところに 配当課税の意義があるとの理解が提示される しかし 次に この理解は実現主義がもたらす選択肢のひとつに過ぎず 現行法の採用する課税方法との間で整合しない部分を持たざるを得ないことが指摘される すなわち 現行法上の配当概念によれば 配当を得たとされるかどうか また どれほどの金額の配当を得たとされるのかは 配当の基因となった株式に生じた増加益の有無やその金額と無関係に決定されるので このことは 先の認識とは整合しないことになる 本論文は そうした不整合が生じる条件や性質などの詳細を 具体的な設例の検討を通じて明らかにしている IIでは 米国連邦所得税の課税において 株式配当が合衆国憲法修正第 16 条にいう所得には該当しないとの判断を下したMacomber 連邦最高裁判決を取り上げて検討を行う 本論文は 同判決が 配当の概念を基因となる株式の増加益との関連性を有さないかたちで示し しかも Iで提示された配当の理解と酷似した合衆国政府の主張が排斥したことの意味を 当時の制定法の内容やその背景 同時期の関連する連邦最高裁判決 同判決におけるPITNEY HOLMES BRANDEIS 各裁判官の意見に基づいて検討し 次の検討結果を得ている Macomber 判決当時の制定法は 包括的所得概念や税法上の実現主義と整合的な配当の理解が妥当し得るものであったが そうした理解はその立法過程において支配的なものではなく また Hornby 連邦最高裁判決などのMacomber 判決と同時期 同種の事案において PITNEY 裁判官を初めとする連邦最高裁裁判官は 配当それ自体を株主に所得を生じさせるものであると理解していた この理解は 所得課税の対象とはならない原資を 投資の金銭的価値

(quantum of money) ではなく 投資が形成した権利関係 ( 持分 ) そのものと捉える前提に立つものであり 配当への課税を いかなる場合においても 所得 への課税と言い得るというメリットが認められるものであった PITNEY 裁判官は このメリットに着目し 株式配当以外の配当への課税の合憲性を確固たるものとすることに成功したと考えることができる しかし この理解は 包括的所得概念と整合的ではない要素を含むものであり Macomber 判決と同じような論理で 所得 への課税としての正しさを追及するとすれば 株式の増加益の範囲でのみ配当への課税を行なうようにすべきことになる もっとも 現に配当を受けた株主に対して 株式に生じた増加益の範囲を超えて配当を得たものとすることは 法人利益への法人段階課税の結果を株主への課税に反映させ 法人利益の二重課税を排除する見地から正当化される可能性があることも指摘される IIIでは この正当化の可能性について 詳細な検討が加えられる まず 株式に生じた増加益の範囲を超えて配当課税を行うことは 配当を得る前に株式を譲渡し 二重課税排除措置の適用を受けることなく株式譲渡所得としての課税を受けた株主について 配当を得ていた場合と同様の課税結果を享受させるメカニズムの一部であることが示される 続いて 配当課税が生み出すこの作用が シャウプ勧告やカーター報告書などが示した法人利益の二重課税を排除し 包括的所得概念に近似した所得課税を目指す立場と極めて整合的なものであることが確認される ただし この作用が適切に働くためには 株式譲渡所得への課税が完全に実施されることが必須であり その限りにおいてのみ正当化されるものであることも 同時に明らかとされる 本論文は最後に 所得税および法人税のあり方のモデルを複数提示し それぞれの下での理想の配当概念の内容を整理した上で 日本の所得税法および法人税法上の配当概念の課題として 配当税額控除など諸制度との不整合を解消することや 原資の回収および法人グループ内配当に関して配当の概念を見直すことなどを示す

( 続紙 2 ) ( 論文審査の結果の要旨 ) 法人の獲得した利益が株主に配当されると 株主が所得課税を受けることは 実定法上 明らかである しかし 包括的所得概念の下で配当がなぜ所得に含まれるのか 実現主義の下で配当への課税と株式増加益への課税との関係をどう理解するかは 配当課税に関する根源的な問題として議論が重ねられてきた 本論文は この問題に新たな角度から接近し 租税法上の配当概念の研究を進めた意欲的な試みである 配当課税に関するこれまでの研究は 株主に対して包括的所得概念における所得が観念できないときにも配当課税が行われうる問題を指摘するにとどまっていた 本論文は 配当が株主において生じた株式増加益を実現させる事象であるとする理解に立ち ある株主の下で発生した株式増加益を超えた金額をその株主が受取配当として 実現 したと扱うことは 包括的所得概念の下で 所得なき所得課税 であって正当化できないこと しかし 配当の概念を法人における資本金等の額や利益積立金額と連動させれば 部分的には正当化できることを明らかにした 本論文は続いて 配当に関する 所得なき所得課税 の観点から 株式配当に対する所得課税を違憲とした米国のMacomber 連邦最高裁判決を取り上げ 当の概念と同判決が憲法上の要請とした所得の実現との間の密接な関係を解き明かそうとする Macomber 判決の示した所得概念は 財産の金銭的価値の増加ではなく 財産そのものの増加 ( 権利関係の変化を含む ) を所得と見るものであり この理解によれば 配当課税は株式増加益がないときにも所得に対する課税であると言えることになると 本論文は論じる この議論は Macomber 判決と実現主義に対する従来の理解を問い直すものと評価される さらに 本論文は 配当課税が株式増加益を超える範囲に及んでも 株主課税と法人課税との統合 ( インテグレーション ) による二重課税排除の観点から 一定の限度で正当化できることを 幅広い資料を用いて詳細に論じている 統合に関するこの角度からの議論は 先行研究には見られないものであり 本論文の斬新さを示すものである 以上のように 本論文は租税法上の配当概念の研究を大きく進展させるものではあるが 問題がないわけではない 第一に 包括的所得概念によらない配当概念の可能性を示しながら その検討が十分ではない 第二に 統合による配当課税正当化の限度と包括的所得概念との関係に対する検討も十分とは言い難い しかし これらの点は今後解消可能であり 本論文の価値を貶めるものではない 以上の理由により 本論文は博士 ( 法学 ) の学位を授与するに相応しいも

のであり かつ 学界の発展に資するところが大きく 特に優れた研究であると認められる なお 平成 26 年 2 月 4 日に調査委員 3 名が論文内容とそれに関連した試問を行なった結果 合格と認めた