Mwp1a とベーリングイベントは古気候学の謎のひとつで 気候モデルに制約を与える際の大きな問題でした もうひとつの大きな問題点は 南極氷床の安定性に関するものです 南極はアクセスが困難であり また 間氷期である現在でも大陸のほとんどが氷に覆われているため 過去の記録を正確に復元することが難しい氷床

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(c) (d) (e) 図 及び付表地域別の平均気温の変化 ( 将来気候の現在気候との差 ) 棒グラフが現在気候との差 縦棒は年々変動の標準偏差 ( 左 : 現在気候 右 : 将来気候 ) を示す : 年間 : 春 (3~5 月 ) (c): 夏 (6~8 月 ) (d): 秋 (9~1

() 実験 Ⅱ. 太陽の寿命を計算する 秒あたりに太陽が放出している全エネルギー量を計測データをもとに求める 太陽の放出エネルギーの起源は, 水素の原子核 4 個が核融合しヘリウムになるときのエネルギーと仮定し, 質量とエネルギーの等価性から 回の核融合で放出される全放射エネルギーを求める 3.から

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Transcription:

氷期終焉期の急激な温暖化時に起きた大規模氷床崩壊 タヒチのサンゴが明らかにする気候メカニズム [ 発表者 ] 横山祐典 ( 東京大学大気海洋研究所海洋底科学部門准教授 ) [ 発表概要 ] 東京大学大気海洋研究所の横山祐典准教授および 奥野淳一研究員は 仏国 CEREGE 研究所と英国オックスフォード大の研究グループと共同で 地球の気候が氷期から現在の間氷期に移行した際に起きた 大規模かつ急激な氷床崩壊の規模とタイミングの正確な決定を行いました 日米欧が中心となって行っている統合国際深海掘削計画 (IODP) の第 310 航海にて得られたタヒチ沖のサンゴ礁掘削試料の化学分析に基づくもので 当時の海水準上昇速度は 40mm/ 年にも達していたことがわかりました これは 氷床コア ( 注 1) の気温変化の記録や海洋循環 ( 注 2) の記録と比較検討することにより 気候メカニズムの解明に大きく貢献することのできる成果です 氷床の挙動は 地球の低緯度の熱を高緯度に運ぶという海洋の南北熱輸送を担っている循環の規模に影響を与える淡水の供給量を変化させることから 氷床学や気候学的に重要なデータであるとともに 気候モデル ( 大気と海洋をグリッドで区切り 気候システム内の諸過程を物理法則等に基づいて数式化しモデル化したもの ) の制約条件としても役立つことが期待されます これらの成果は 3 月 29 日に Nature に掲載されます [ 背景 ] 地球の気候変動 特に氷期 間氷期の 10 万年周期変動は 地球の公転軌道要素変化による 日射量の緯度分布の変化によってもたらされていると考えられています しかし氷床コアの分析から もっと短い時間スケールで 例えば 10 年ほどの間に 10 以上の気温上昇が過去に繰り返し起こってきたこともわかってきました 地球の気候は 熱容量の大きな海洋が 低緯度の過剰な熱を高緯度に運ぶことにより地球の気候は温暖に保たれていますが この海洋循環の強弱に影響するのが 氷床からもたらされる淡水です 海洋循環は 高緯度海域の低温 高塩分の海水とこの氷床がとけてできる淡水との温度 塩分の差に起因するからです この大気海洋と氷床との相互作用を理解することは 気候システムの理解を深めることに大きく貢献するため 過去に起こった急激な変化について正確に明らかにすることが重要になってくるわけです 氷期には カナダの全てと北欧に大規模氷床が存在し 南極氷床も現在より大きかったことが分かっています また 世界的に海水準がおよそ 120-130 m 低下していました つまり海水準は 氷期の終焉期である 19,000 年前から現在にかけて上昇したわけですが 一定の速度で上昇したわけではなく いくつかの急激な急上昇期があることが提唱されてきました しかし 氷期から間氷期へ移行する際の最大の温暖化である ベーリングイベント と 最大の氷床崩壊である メルトウォーターパルス 1a(Mwp1a) は同調しておらず 600 年のズレがあります このことから

Mwp1a とベーリングイベントは古気候学の謎のひとつで 気候モデルに制約を与える際の大きな問題でした もうひとつの大きな問題点は 南極氷床の安定性に関するものです 南極はアクセスが困難であり また 間氷期である現在でも大陸のほとんどが氷に覆われているため 過去の記録を正確に復元することが難しい氷床です 特に 19,000 年前に始まった融氷期の中で最大の氷床崩壊である Mwp1a において南極氷床が融解したのかどうかについては 全く貢献しなかったという説と大きく融解したという説の2つの説が存在し 国際的な議論が続いています [ 研究方法の概要 ] 過去の海水準の規模とタイミングを正確にとらえるためには 氷床から遠い場所 ( 熱帯域など ) のデータが 実は最も信頼度が高いのです 海水準の上昇 下降に伴い 海水を入れる 器 である海洋が変形し その変形の度合いが少ないのが氷床から遠い場所であるためです ( 図 2) サンゴ礁をつくるサンゴは 藻類を共生させているため海面近くに生息し 海水準の指標になります また サンゴが形成する炭酸カルシウムの骨格には ウラン系列核種がとりこまれています その存在比から サンゴが生息した時期を詳しく明らかにすることができます また同じくサンゴ礁に生息する石灰藻類の種類を調べることで 生息水深も詳細に明らかにすることができました [ 結果と考察 ] まず これまで報告されていた 500 年間に 25 m という Mwp1a に伴う海水準上昇が 過大評価であったことを明らかにし その規模は 14-18 m であり 上昇速度は 40mm/ 年にもおよんだことをつきとめました また Mwp1a のタイミングについても これまでの報告よりも約 500 年はやい 14,600 年前に上昇が開始したことを明らかにし グリーンランド氷床の温度記録に見られる急上昇期と同調することを示しました 加えて この海水準上昇に南極氷床も寄与したことを明らかにしました [ 研究の意義 ] 今回の研究の意義は 地球の気候システムを理解する上で 氷床と海洋の相互作用が急激な気候変動をもたらすということを 高精度のデータとモデル計算により明らかにした画期的な成果にあります 気候モデルの制約条件として重要なのが今回のような古気候データですが 今回の研究は 気候の変化のタイミングと規模 それに変化を起こした起源 ( 海水準上昇の場合は どの氷床がとけたか ) にまで言及した重要な成果です 現在準備中で 2013 年に出版予定の 第 5 次 IPCC 気候変動評価報告書 に対しても 重要な貢献となります [ 今後の展望 ] 今回の研究では 海水準上昇の規模と時期を正確に明らかにし 融解にかかわった氷床を明らかにしたことで 気候学的な2つのシナリオが提唱されました ひとつは南極 ( おそらく西南極 )

の氷床が融解し 海洋循環の強化が起き 北半球高緯度により多くの熱を輸送するようになったために グリーンランドの表層の温暖化や北米や北欧の氷床融解が誘発され 結果的に大規模な 14-18m におよぶ海水準上昇が起こったというものです もうひとつは何らかの要因で海洋循環が強化され 北半球高緯度が温暖化し 北米 北欧の氷床が融解したため 海底に着底して不安定な西南極氷床の崩壊を引き起こしたというものです これら2つのシナリオについて 気候のモデリング研究を通じて 詳細に明らかにしていくことが今後のぞまれます また現在でも西南極には 海底に着底し世界的に海水準を5m ほど上昇させる氷床が存在しており 今後の温暖化に伴う不安定化が懸念されています 氷床の近辺での地球科学的試料に基づく 変化のタイミングと規模の決定についての研究をすすめていく必要があります [ 発表雑誌 ] 著者 :Pierre Deschamps, Nicolas Durand, Edouard Bard, Bruno Hamelin, Gilbert Camoin( フランス CEREGE 研究所 ) Alexander L. Thomas, Gideon M. Henderson( 英国オックスフォード大学地球惑星科学専攻 ) 奥野淳一( 東京大学大気海洋研究所 国立極地研究所 ) 横山祐典( 東京大学大気海洋研究所 海洋研究開発機構海洋 極限環境生物圏領域 ) タイトル :Ice-sheet collapse and sea-level rise at the Bølling warming 14,600 years ago. 雑誌名 :Nature 掲載日 :2012 年 3 月 29 日 [ 注意事項 ] 日本時間 3 月 29 日 ( 木 ) 午前 2 時 ( ロンドン夏時間 :3 月 28 日午後 6 時 ) 以前の公表は禁じられています [ 用語解説 ] 注 1: 氷床コア氷床から細長い筒状の形で取り出してきた氷を氷床コアと言います 酸素には 質量数が16 17 18の3 種類の安定同位体 ( 酸素 16 酸素 17 酸素 18) が存在し 積雪時の気温の変化に伴い 雪に含まれる割合が変化します 水を構成する水素も同様です 表層に降り積もった雪は自らの重みで氷となり その時点での大気情報を取り込みます いわゆる空気の化石ともいうべきこれらの情報は 氷やガスの同位体比の分析に基づく気温の情報のほか二酸化炭素やメタン濃度 大気中のエアロゾルや火山噴火の記録 太陽活動等々の環境情報を保存しています 氷床コアを調べることによってこれらの情報を得ることができます 特にグリーンランドのそれは 積雪速度が速いため 時間解像度の高い情報を取り出すことができます 注 2: 海洋循環北大西洋において あたたかいメキシコ湾流が北上する際に 大気との相互作用により塩分濃度が高くなり さらに高緯度において冷却されることにより密度が高くなって沈み込み 北大西洋深層水を形成します 同様に南極周辺でも 海氷が作られる際に放出される塩分の高い水 ( ブライン水 ) により深層水が形成されます これらは 1,000 年ほどで世界の海を1 週する大循環系を形成しています これを海洋循環とよびます 低緯度の余剰な熱を高緯度に運ぶため 地球の表

層温度をマイルドに保つサーモスタットの役割を果たしています しかし高緯度での深層水形成は 高密度水の形成が重要であるため 淡水の影響による低塩分化が危惧されます [ 問い合わせ先 ] 東京大学大気海洋研究所准教授横山祐典 Tel: 04-7136-6141 E-mail: yokoyama aori.u-tokyo.ac.jp( を @ に変えて送信して下さい ) [ 添付資料 ] 以下の図は http://www.aori.u-tokyo.ac.jp/research/news/2012/20120329.html からダウンロードできます 図 1: 氷期 (19,000 前まで ) から現在の間氷期 ( 約 10,000 年前 ) に移行する間に起こった2 度の海水準上昇と北半球気温 ( グリーンランドアイスコアデータ ) 南半球表層気温( 南極氷床コアデータ ) 大気二酸化炭素濃度 そして北半球高緯度の夏の日射量の変化の関係 今回明らかになった海水準上昇はベーリング温暖期と呼ばれる 14,600 年前に起きた急激な温暖期と同期している

図 2: 過去の海水準の規模とタイミングを正確にとらえるためには 氷床から遠い場所 ( 熱帯域など ) のデータの信頼度が高い 海水準の上昇 下降に伴い 海水を入れる 器 である海洋が変形し その変形の度合いが少ないのが氷床から遠い場所であり より氷床量の変化をとらえることができる