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の力 すなわち 学習者 他教科 教室外 との連繋により育まれる総合的なコミュニケーション能力を獲得することが 21 世紀の外国語学習目標だという SNA の提案を これまで 日本語の言語面ばかり注目し それを学習目標としてきたベトナムの日本語教育にとって 有効な処方箋であると論証している また SNA が主張した社会活動としてのコミュニケーションを行う際 日本語教育における 日本語非母語話者 ( 外国人 ) に不利になる 日本人 日本語 外国人 という形を指摘し 日本語の国際性および国際化を論じながら ベトナムの日本語教育に 外国人 日本語 外国人 という観点を取り入れることを提案した 世界で広く採用されている JF スタンダード ヨーロッパ言語共通参照枠などの言語能力基準 日本語能力基準も 本章で取り上げた 第 2 章では ベトナムの外国語教育政策の歴史 現状を考察し その特徴と課題を明確にした 現在 国際的な協力を主張するベトナム政府は 政治 経済における 21 世紀の要求に配慮し 世界の多言語主義の潮流に乗って外国語教育政策に取り組んでいる さらに 現在取り扱われている 2008 2020 国民教育システムにおける外国語教育プロジェクト という外国語教育政策の実施状況の確認を通して ベトナムの外国語教育政策の課題とその原因を確定した 結論からいえば 教育訓練省は 教師の外国語能力の低さが原因であるとして 教師の外国語能力を向上させることを中心に政策を調整し 2025 年まで対策に取り組むとしているが 教師の役割が十分認識されていない体制では その調整の効果には疑問が残る 第 3 章では ベトナム南部の日本語教育の現状について考察する 第 2 章で明確にされたベトナム外国語教育政策の特徴と課題 実施状況をもとにし ベトナム南部の日本語教育がどのように扱われているか どのような課題を抱えているかを明確にした ベトナム南部の教師の状況を把握するため ベトナム南部の日本語教師を対象としたアンケート調査およびインタビューで得た結果とその分析も記述した 人数不足 質が低い 教育改革の認識がまだ浅いという教師の課題の他 教育理念が明確になっていない 言語能力のみ重視するカリキュラム 基準に沿った評価体制がまだできていないという課題も明確になった 第 4 章では 第 2 章 第 3 章で確定したベトナム南部の日本語教育の課題を解決する一案として 第 1 章で組立てた SNA の枠組みに基づき ホーチミン市師範大学での日本語教育の改革案の試行と SNA の信頼性を検証した 試行した改革案の重点は日本語教育シンポジウムの開催 日本語教師研修の実施 日本語カリキュラムにアクティブ ラーニングの導入という三つである 結論として まだ試みの段階であることもあり ベトナム南部の日本語教育の質が向上されたとまでは言えないが 成長したのは確実であった ベトナム南部の日本語教育の国内外での位置づけが高まったのはその成長の証拠である これらの活動によって ベトナム全土の日本語教師のつながりがある程度でき 教師が個々に悩んでいる問題を解決する提案をもたらしたことについても 評価されている また 東南アジアをはじめ海外に向けて 日本語教育のネットワークを構築する活動を展開し 東南アジアの日本語教育の促進にも貢献している 日本語教育の質をより良くするためには 時間をかけることが必要だが SNA の 体験で学ぶ 理念どおり 改革を試しながら 改善していくのがベトナム南部の日本語教育の進路であると明確になったとともに SNA への信頼性が確保された また アクティブ化した日本語教育の実施における教師の中心的な役割が試行によって明確になった 第 5 章では モデル教師 および日本語教師育成プログラムの提案を行った グローバル人材を育成する新しい日本語教育を実施する上で まず教師が グローバル時代に求められる能力 資質を身につけて 学生のモデルになることが必要である 筆者は モデル教師 という教師観を取り上げることによって 日本語教師育成の方策を提言した ベトナムの モデル教師 を育成するため 日本だけではなく 東南アジアの日本語コミュニティとのつながりも活用したほうがより効果があるという実施方法も提案した 終章では 論文のまとめと今後の方向について述べた 本論文の価値は 次の点にあると考える 第一に 新しいソーシャルネットワーキングアプローチという言語理論を実際に応用したことによって その理論の実質性を検証したこと 第二に 海外での日本語教育における日本語の国際性を明確にし 日本語の国際化の過程の促進に寄与できるであろうこと 第三に ベトナム南部の日本語教育の 病状 を審査し 処方箋 としての新しい発展進路とその実施方法を提案したこと 第四に 本論文においては ベトナム南部の日本語教育を対象として研究しているが 研究結果はベトナムの日本語教育 さらには外国語教育に応用できると思われること 特に 教師については 外国語教育のみではなく 他の科目の教師育成にも役に立つと考えられること 以上が本論文の要旨である

様式 7 論文審査の結果の要旨及び担当者 氏名 ( CAO LE DUNG CHI ) ( 職 ) 氏名 論文審査担当者 主査副査副査副査副査 教授教授教授教授カリフォルニア大学サンディエゴ校教授 中田一志真嶋潤子三原育子清水政明 當作靖彦 論文審査の結果の要旨 ベトナムは歴史的な背景から 教育こそが国の回復を支えるものだという意識が高い国だと言えよう その証拠に 1945 年 1956 年 1979 年 2013 年に国家的な教育改革が実施されている フランスから独立した後は 政治的な背景から社会主義の強国であるロシアと中国の言語を中等教育の外国語科目とした さらに世界の科学技術を取り入れるために 英語とフランス語を同じく中等教育の外国語科目とするなど 教育の中でも 外国語教育 に対する意識が高い 様々なものごとが地球規模化 国際的に流動化が進む昨今 ベトナムが新たな外国語教育政策を打ち出さないわけがなく 2008 年には 2008-2020 年国民教育システムにおける外国語教育プロジェクト が策定された その目的は 2020 年までに外国語においてベトナム人が優位に立ち 国家の工業化 近代化を図ることである このような時代背景をもとにして Cao Le Dung Chi 氏の博士論文は前半では言語教育理論について議論し ベトナムの外国語政策の特徴と課題を分析 さらに特にベトナム南部の日本語教育の現状を分析する 後半では 上掲の課題を解決するためには ソーシャルネットワーキングアプローチ (SNA) が 21 世紀のベトナムおいて必要とされる人材育成には最適だとの仮説を立て Cao 氏がホーチミン市師範大学日本語学部長として自ら検証を行った結果が綴られている SNA の有効性は 自ら企画 運営 実行した ホーチミン市日本語教育国際シンポジウム 南ベトナムの日本語教師研修プログラム ホーチミン市師範大学でのアクティブラーニングに向けたカリキュラム改革 グローバル日本語教師育成プロジェクトといったこれまでベトナム人の手によってなし得なかった真の 教育改革 によって検証されており 言語教育理論を検証したという価値はもちろんのこと ベトナムの新たな外国語教育においる最も新しい資料としての価値を有している 序論では 論文の目的と意義 言語理論 言語教育 言語政策 日本語教育 をキーワードとして先行研究がまとめられている 第 1 章では 後半の 教育改革 を行うにあたって 拠り所とする理論的な枠組みを確定するための議論がなされている 世界で広く採用されているヨーロッパ言語共通参照枠などの言語能力基準 JF 日本語教育スタンダードや日本語能力基準もここで取りあげられている 世界の外国語教育の 多言語主義 の動向 コミュニケーション能力を重視する 言語教育の観点についての考察 さらに外国語教育の果たす 人間形成 の役割について論じ それらの観点を備えたソーシャルネットワーキングアプローチ (SNA) がグローバル時代の日本語教育において最も適切であることを論じている そして 総合的なコミュニケーション能力を獲得することが 21 世紀の外国語学習目標だとする SNA こそが これまで日本語の言語面ばかり注目し それを学習目標としてきたベトナムの日本語教育にとって 有効な処方箋であると論証している 続いて 第 2 章ではベトナムの外国語教育政策の歴史 現況を考察し その特徴と課題を明確にしている さらに国家の政策として実行されている外国語教育政策 2008 2020 年国民教育システムに

おける外国語教育プロジェクト の現状を観察し その政策の課題とその原因を究明している 特に 教育訓練省は外国語教育の遅れの原因を教員の外国語能力の低さだと考えているが 外国語教育の理念が不明確 管理職と教師が外国語の役割と外国語教育の改革の必要性を十分に認識していない等という問題も抱えていると指摘している 続いて 第 3 章では前章でのベトナムの外国語教育政策において ベトナム南部といった地域で 日本語教育といった特定の外国語教育がどのような実施状況であり どのような特徴を持ち 課題を抱えているかを明らかにしている ベトナム南部の日本語教員に対するアンケート調査とインタビュー調査から 教員数の不足 その質の低さ 教育改革に対する認識の不十分さ 教育理念の不明確さ カリキュラムや評価体制が不整備などの課題が挙げられている そして 第 4 章からは SNA をもとにした言語教育理論が信頼に値することを検証するために Cao 氏は SNA による言語教育理論に基づき企画したシンポジウムや日本語教師研修 アクティブラーニングを導入した日本語カリキュラムを実施するといった 教育改革 を実践し それと同時に SNA による言語教育理論が実証的に信頼できる理論であるということを確証している 具体的には 試行的な段階であるが 国内外でのベトナム南部の日本語教育の位置づけが高まったことが確認でき ベトナム南部の日本語教育の質は確実に成長していること これらの企画や活動を通してベトナム全土の日本語教師のつながりがある程度形成でき 教育上の問題が共有されるようになり 問題解決能力が高まったこと 東南アジアをはじめとした海外に向けては 日本語教育のネットワークを構築する活動を展開することによって 東南アジアの日本語教育の促進にも貢献していること また アクティブ化した日本語教育を実施することによって教師の役割が明確になってきたことなどの豊富な事例によって検証がなされている 続いて 第 5 章ではさらにこれから必要とされるグローバル人材を育成する新しい日本語教育を実施するための理想的な教師像とそのような教師を育成するための日本語教師育成プログラムについて綴られている このプログラムの特徴は ベトナムと日本との関係における日本語でのコミュニケーションだけでなく 東南アジアにおいても日本語でコミュニケーションをとる東南アジアの日本語話者による日本語コミュニティを形成し それを活用することによってより効果的な モデル教師 育成を目指したものである この提案は日本語の国際化とも関連し 興味深い提案である 終章では本研究で明らかになった事柄が簡潔にまとめられ 外国語教育政策における適切な理論的根拠の必要性 教師の中心的な役割について改めて主張されている 以上のことから 本審査委員会は全員一致で Cao Le Dung Chi 氏の博士論文が博士 ( 日本語 日本文化 ) の学位を授与されるにふさわしい内容を備えていると判断し 合格という結論に至った