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目次 1. 訂正発明 ( クレーム 13) と控訴人製法 ( スライド 3) 2. ボールスプライン最高裁判決 (1998 年 スライド 4) 3. 大合議判決の三つの争点 ( スライド 5) 4. 均等の 5 要件の立証責任 ( スライド 6) 5. 特許発明の本質的部分 ( 第 1 要件 )(

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REPORT あいぎ特許事務所 名古屋市中村区名駅 第一はせ川ビル 6 階 TEL(052) FAX(052) 作成 : 平成 27 年 4 月 10 日作成者 : 弁理士北裕介弁理士松嶋俊紀 事件名 入金端末事件 事件種別 審決取消

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1 アルゼンチン産業財産権庁 (INPI) への特許審査ハイウェイ試行プログラム (PPH) 申請に 係る要件及び手続 Ⅰ. 背景 上記組織の代表者は

審決取消判決の拘束力

インド特許法の基礎(第35回)~審決・判例(1)~

事実及び理由 第 1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す 2 被控訴人は, 原判決別紙被告方法目録記載のサービスを実施してはならない 3 被控訴人は, 前項のサービスのために用いる電話番号使用状況調査用コンピュータ及び電話番号使用状況履歴データが記録された記録媒体 ( マスター記録媒体及びマスター記録

第41回 アクセプタンス期間と聴聞手続(2016年版) ☆インド特許法の基礎☆

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第10回 出願公開 ☆インド特許法の基礎☆

上陸不許可処分取消し請求事件 平成21年7月24日 事件番号:平成21(行ウ)123 東京地方裁判所 民事第38部

控訴人は, 控訴人にも上記の退職改定をした上で平成 22 年 3 月分の特別老齢厚生年金を支給すべきであったと主張したが, 被控訴人は, 退職改定の要件として, 被保険者資格を喪失した日から起算して1か月を経過した時点で受給権者であることが必要であるところ, 控訴人は, 同年 月 日に65 歳に達し

CAFC Update(135)

間延長をしますので 拒絶査定謄本送達日から 4 月 が審判請求期間となります ( 審判便覧 の 2.(2) ア ) 職権による延長ですので 期間延長請求書等の提出は不要です 2. 補正について 明細書等の補正 ( 特許 ) Q2-1: 特許の拒絶査定不服審判請求時における明細書等の補正は

Microsoft Word - クレームにおける使用目的に関する陳述 ☆米国特許判例紹介☆ -第105号-

事実 ) ⑴ 当事者原告は, 昭和 9 年 4 月から昭和 63 年 6 月までの間, 被告に雇用されていた ⑵ 本件特許 被告は, 次の内容により特定される本件特許の出願人であり, 特許権者であった ( 甲 1ないし4, 弁論の全趣旨 ) 特許番号特許第 号登録日平成 11 年 1

訂正情報書籍 170 頁 173 頁中の 特許電子図書館 が, 刊行後の 2015 年 3 月 20 日にサービスを終了し, 特許情報プラットフォーム ( BTmTopPage) へと模様替えされた よって,

ことができる 1. 特許主務官庁に出頭して面接に応じる と規定している さらに 台湾専利法第 76 条は 特許主務官庁は 無効審判を審理する際 請求によりまたは職権で 期限を指定して次の各号の事項を行うよう特許権者に通知することができる 1. 特許主務官庁に出頭して面接に応じる と規定している なお

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日本国特許庁の国内出願の審査結果を利用した特許審査ハイウェイ ベトナム国家知的財産庁 (IP Viet Nam) と日本国特許庁 (JPO) との間の特許審査ハイウェイ試行プログラムに関するベトナム国家知的財産庁への申請手続 ( 仮訳 ) 日本国特許庁の国内出願の審査結果を利用した特許審査ハイウェイ

第20回 特許要件(1)☆インド特許法の基礎☆

参加人は 異議申立人が挙げていない新たな異議申立理由を申し立てても良い (G1/94) 仮 にアピール段階で参加した参加人が 新たな異議申立理由を挙げた場合 その異議申立手続は第 一審に戻る可能性がある (G1/94) 異議申立手続中の補正 EPCにおける補正の制限は EPC 第 123 条 ⑵⑶に

弁理士試験短答 逐条読込 演習講座 ( 読込編 ) 平成 29 年 6 月第 1 回 目次 平成 29 年度短答本試験問題 関連条文 論文対策 出題傾向分析 特実法 編集後記 受講生のみなさん こんにちは 弁理士の桐生です 6 月となりましたね 平成 29 年度の短答試験は先月終了しました 気持ちも

平成 29 年度 新興国等における知的財産 関連情報の調査 インドにおける医薬用途発明の 保護制度 DePenning & DePenning ( インド特許法律事務所 ) Shakira ( 弁理士 ) DePenning & DePenning は 1856 年に創立されたインド有数の歴史と規模

指針に関する Q&A 1 指針の内容について 2 その他 1( 特許を受ける権利の帰属について ) 3 その他 2( 相当の利益を受ける権利について ) <1 指針の内容について> ( 主体 ) Q1 公的研究機関や病院については 指針のどの項目を参照すればよいですか A1 公的研究機関や病院に限ら

 

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では理解できず 顕微鏡を使用しても目でみることが原理的に不可能な原子 分子又はそれらの配列 集合状態に関する概念 情報を使用しなければ理解することができないので 化学式やその化学物質固有の化学的特性を使用して 何とか当業者が理解できたつもりになれるように文章表現するしかありません しかし 発明者が世

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特許出願の審査過程で 審査官が出願人と連絡を取る必要があると考えた場合 審査官は出願人との非公式な通信を行うことができる 審査官が非公式な通信を行う時期は 見解書が発行される前または見解書に対する応答書が提出された後のいずれかである 審査官からの通信に対して出願人が応答する場合の応答期間は通常 1

丙は 平成 12 年 7 月 27 日に死亡し 同人の相続が開始した ( 以下 この相続を 本件相続 という ) 本件相続に係る共同相続人は 原告ら及び丁の3 名である (3) 相続税の申告原告らは 法定の申告期限内に 武蔵府中税務署長に対し 相続税法 ( 平成 15 年法律第 8 号による改正前の

実体審査における審査官面接に関して GPE には面接における協議の方法 時期および内容など 詳細な要件が定められている 例えば GPE には 最初のオフィスアクションの応答書が出願人により提出された後 審査官は当該出願の審査を継続しなければならない と規定されている (GPE 第 II 部第 2 章

なって審査の諸側面の検討や評価が行われ 関係者による面接が開始されることも ある ベトナム知的財産法に 特許審査官と出願人またはその特許代理人 ( 弁理士 ) の間で行われる面接を直接定めた条文は存在しない しかしながら 審査官は 対象となる発明の性質を理解し 保護の対象を特定するために面接を設定す

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平成 30 年 10 月 26 日判決言渡同日原本領収裁判所書記官 平成 30 年 ( ワ ) 第 号発信者情報開示請求事件 口頭弁論終結日平成 30 年 9 月 28 日 判 決 5 原告 X 同訴訟代理人弁護士 上 岡 弘 明 被 告 G M O ペパボ株式会社 同訴訟代理人弁護士

2 当事者の主張 (1) 申立人の主張の要旨 申立人は 請求を基礎づける理由として 以下のとおり主張した 1 処分の根拠等申立人は次のとおりお願い書ないし提案書を提出し 又は口頭での告発を行った ア.2018 年 3 月 23 日に被申立人資格審査担当副会長及び資格審査委員長あてに 会長の経歴詐称等

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経済産業省 受託調査 ASEAN 主要国における司法動向調査 2016 年 3 月 日本貿易振興機構 (JETRO) バンコク事務所知的財産部

情報の開示を求める事案である 1 前提となる事実 ( 当事者間に争いのない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実 ) 当事者 ア原告は, 国内及び海外向けのモバイルゲームサービスの提供等を業とす る株式会社である ( 甲 1の2) イ被告は, 電気通信事業を営む株式会社である

イ特許専門業務特許戦略 法務 情報 調査 特許戦略に関し 次に掲げる事項について専門的な知識を有すること (1) 特許出願戦略 ( ポートフォリオ戦略等 ) (2) 研究開発戦略と特許戦略の関係 (3) 事業戦略と特許戦略の関係 (4) 標準化戦略 法務に関し 次に掲げる事項について専門的な知識を有

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の補正書 において, 審査請求の趣旨を この開示請求は本人の給与のみずましにかかわる書面である為 としているが, 原処分を取り消し, 本件対象保有個人情報の開示を求めている審査請求として, 以下, 原処分の妥当性について検討する 2 原処分の妥当性について (1) 給与所得の源泉徴収票について給与所

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イ -3 ( 法令等へ抵触するおそれが高い分野の法令遵守 ) サービスの態様に応じて 抵触のおそれが高い法令 ( 業法 税法 著作権法等 ) を特に明示して遵守させること イ -4 ( 公序良俗違反行為の禁止 ) 公序良俗に反する行為を禁止すること イ利用規約等 利用規約 / 契約書 イ -5 (

最高裁○○第000100号

Ⅰ. はじめに 近年 企業のグローバル化や事業形態の多様化にともない 企業では事業戦略上 知的財産を群として取得し活用することが重要になってきています このような状況において 各企業の事業戦略を支援していくためには 1 事業に関連した広範な出願群を対象とした審査 2 事業展開に合わせたタイミングでの

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PCT 出願人の手引 - 国内段階 - 国内編 -SA S A 1 頁 サウジ特許庁 (SPO) ( 指定官庁又は選択官庁 ) 目 次 国内段階 - 概要 国内段階の手続 附属書手数料 附属書 SA.Ⅰ 略語のリスト国内官庁 : サウジ特許庁 (SPO) Law: 特許, 集積回路配置デザイン, 植

7 平成 28 年 10 月 3 日 処分庁は 法第 73 条の2 第 1 項及び条例第 43 条第 1 項の規定により 本件不動産の取得について審査請求人に対し 本件処分を行った 8 平成 28 年 11 月 25 日 審査請求人は 審査庁に対し 本件処分の取消しを求める審査請求を行った 第 4

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11総法不審第120号

手続きガイドライン ( 日本語仮訳 ) ( ラオス関連特許出願に対する特許の付与円滑化に関する協力に基づく早期特許査定申請 ) 日本国特許庁 (JPO) により付与された特許を有する出願人は JPO での特許出願の審査結果を利用したラオス関連特許出願の 特許の付与円滑化に関する協力 ( 以下 CPG

7 という ) が定める場合に該当しないとして却下処分 ( 以下 本件処分 という ) を受けたため, 被控訴人に対し, 厚年法施行令 3 条の12の7が上記改定請求の期間を第 1 号改定者及び第 2 号改定者の一方が死亡した日から起算して1 月以内に限定しているのは, 厚年法 78 条の12による

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出願人のための特許協力条約(PCT) -国際出願と優先権主張-

指定商品とする書換登録がされたものである ( 甲 15,17) 2 特許庁における手続の経緯原告は, 平成 21 年 4 月 21 日, 本件商標がその指定商品について, 継続して3 年以上日本国内において商標権者, 専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが使用した事実がないことをもって, 不使用に

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日商協規程集

<解説資料> 処分取消訴訟における原告適格

ら退去を迫られやむを得ず転居したのであるから本件転居費用について保護費が支給されるべきであると主張して 本件処分の取消しを求めている 2 処分庁の主張 (1) 生活保護問答集について ( 平成 21 年 3 月 31 日厚生労働省社会援護局保護課長事務連絡 以下 問答集 という ) の問 13の2の

被告に対し, 著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償として損害額の内金 800 万円及びこれに対する不法行為の後の日又は不法行為の日である平成 26 年 1 月 日から支払済みまで年 % の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である 1 判断の基礎となる事実 ( 当事者間に争いのない事実又は後掲の各

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仮訳 / JICA 2012 [ 国章 ] インドネシア共和国最高裁判所 仮処分決定に関する インドネシア共和国最高裁判所規則 2012 年第 5 号 インドネシア共和国最高裁判所は a. 意匠に関する法律 2000 年第 31 号第 49 条から第 52 条 特許に関する法律 2001 年第 14

達したときに消滅する旨を定めている ( 附則 10 条 ) (3) ア法 43 条 1 項は, 老齢厚生年金の額は, 被保険者であった全期間の平均標準報酬額の所定の割合に相当する額に被保険者期間の月数を乗じて算出された額とする旨を定めているところ, 男子であって昭和 16 年 4 月 2 日から同

に表現したものということはできない イ原告キャッチフレーズ1は, 音楽を聞くように英語を聞き流すだけ/ 英語がどんどん好きになる というものであり,17 文字の第 1 文と12 文字の第 2 文からなるものであるが, いずれもありふれた言葉の組合せであり, それぞれの文章を単独で見ても,2 文の組合

平成  年(行ツ)第  号

限され 当事者が商標を使用する能力に直接の影響はありません 異議申し立て手続きと取消手続きで最もよく見られる問題とは 混同のおそれ と 単なる記述 です TTAB は登録の内容のみを評価するため その分析の局面には 想定に基づくものもあります 通常 TTAB では どのように標章が実際の製品において

●国際活動センターからのお知らせ 欧州情報

指定 ( 又は選択 ) 官庁 PCT 出願人の手引 - 国内段階 - 国内編 - ドイツ特許商標庁 国内段階に入るための要件の概要 3 頁概要 国内段階に入るための期間 PCT 第 22 条 (1) に基づく期間 : 優先日から 30 箇月 PCT 第 39 条 (1)(a) に基づく期間 : 優先

〔問 1〕 Aは自己所有の建物をBに賃貸した

(b) 導入の経緯あるいはモデルとなった法制 この規定はメキシコの法制度に存在し 次の法令において規定されている (Patent Law 1903 Patent Law 1928 Industrial Property Law (1942) Inventions and Trademark Law

2.2.2 外国語特許出願の場合 2.4(2) を参照 2.3 第 184 条の 5 第 1 項に規定された書面 (1) 日本語特許出願 外国語特許出願を問わず 国際特許出願の出願人は 国内書面提出期間 ( 注 ) 内に 出願人 発明者 国際出願番号等の事項を記載した書面 ( 以下この部において 国

諮問庁 : 国立大学法人長岡技術科学大学諮問日 : 平成 30 年 10 月 29 日 ( 平成 30 年 ( 独情 ) 諮問第 62 号 ) 答申日 : 平成 31 年 1 月 28 日 ( 平成 30 年度 ( 独情 ) 答申第 61 号 ) 事件名 : 特定期間に開催された特定学部教授会の音声

平成  年 月 日判決言渡し 同日判決原本領収 裁判所書記官

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平成 31 年 1 月 29 日判決言渡平成 30 年 ( ネ ) 第 号商標権侵害行為差止等請求控訴事件 ( 原審東京地方裁判所平成 29 年 ( ワ ) 第 号 ) 口頭弁論終結日平成 30 年 12 月 5 日 判 決 控訴人 ジー エス エフ ケー シ ー ピー株式会

第5回 特許出願(2) ☆インド特許法の基礎☆

応して 本件著作物 1 などといい, 併せて 本件各著作物 という ) の著作権者であると主張する原告が, 氏名不詳者 ( 後述する本件各動画の番号に対応して, 本件投稿者 1 などといい, 併せて 本件各投稿者 という ) が被告の提供するインターネット接続サービスを経由してインターネット上のウェ

第 1 民法第 536 条第 1 項の削除の是非民法第 536 条第 1 項については 同項を削除するという案が示されているが ( 中間試案第 12 1) 同項を維持すべきであるという考え方もある ( 中間試案第 12 1 の ( 注 ) 参照 ) 同項の削除の是非について どのように考えるか 中間

2 譲渡禁止特約の効力改正前は 譲渡禁止特約を付した場合は債権の譲渡はできない ( ただし 特約の存在を知らない第三者等には対抗できない ) とされていましたが 改正法では このような特約があっても債権の譲渡は効力を妨げられないことを明記しました ( 466Ⅱ 1) ただし 3に記載するとおり 債務

平成 27 年度 特定行政書士法定研修 考査問題 解答と解説 本解答と解説は 正式に公表されたものではなく 作成者が独自に作成したものであり 内容の信頼性については保証しない 以下の事項に全て該当 遵守する場合にのみ 利用を許可する 東京都行政書士会葛飾支部会員であること 営利目的でないこと 内容を

淡路町知財研究会 (松宮ゼミ)

判例研究 ( 大野 ) X1 X2 X3 M1 M 事案の概要 ⑴ 当事者等 M1 M2 M1 M1 M2 M 1 T&A master

経済産業省産業技術環境局産業技術政策課 パブリックコメント担当 御中

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問 2 戦略的な知的財産管理を適切に行っていくためには, 組織体制と同様に知的財産関連予算の取扱も重要である その負担部署としては知的財産部門と事業部門に分けることができる この予算負担部署について述べた (1)~(3) について,( イ ) 内在する課題 ( 問題点 ) があるかないか,( ロ )

監査に関する品質管理基準の設定に係る意見書

Transcription:

インド特許法の基礎 ( 第 29 回 ) ~ クレームの補正 (2)~ 河野特許事務所 弁理士安田恵 1. はじめにインドにおいては, クレームの補正は, 権利の部分放棄, 訂正若しくは釈明による方法による必要がある また, クレームの権利範囲を拡大する補正は認められておらず, 第 59 条に規定された要件, 補正後の明細書のクレームが補正前の明細書のクレームの範囲内に完全には含まれなくなるときは許可されない を満たす必要がある クレームの補正に関する種々の判断を示した裁判例を紹介する 2. クレーム補正の要件クレームの補正は, 以下の要件を満たす必要がある ( 第 59 条 1) a) 権利の部分放棄, 訂正若しくは釈明による方法によること b) 補正は事実の挿入を目的とすること c) 補正の効果として, 補正後の明細書が補正前の明細書において実質的に開示していないか又は示していない事項をクレームし若しくは記載することにならないこと d) 補正後クレームが補正前クレームの範囲内に完全には含まれなくならないこと 3. 裁判例 (Agc Flat Glass Europe Sa vs Anand Mahajan And Ors.) (1) 経緯原告である特許権者は, 銅層を有しない鏡及びその製法を発明し,2003 年 7 月 26 日に特許を取得した ( 登録第 190380 号 ) 2006 年頃, 原告は, 原告製品と同一構成の被告製品を発見し, 侵害差止訴訟を提起した 被告は, 原告の特許について, 先行技術に基づく新規性欠如等, 種々の主張を行った これに対して原告は, インド特許法 57 条及び第 58 条に基づいて請求項 1の補正申請を行った (2) 登録時のクレーム登録時の請求項 1に係る発明の内容は次の通りである 請求項 1 (ⅰ) ガラス基板と, (ⅱ) 前記ガラス基板の表面にある, ビスマス, クロム, 金, インジウム, ニッケル, 1

パラジウム, 白金, ロジウム, ルテニウム, チタン, バナジウム及び亜鉛からなる群から選択される少なくとも一種の物質と, (ⅲ) その表面及び / 又はシラン跡に存在する錫, クロム, バナジウム, チタン, 鉄, インジウム, 銅及びアルミニウムからなる群から選択される少なくとも一種の物質を必要に応じて備える前記ガラス基板の表面上の銀被覆層と, (ⅳ) 前記銀被覆層を覆う少なくとも一種のペイント層とを備える銅層を有しない鏡 (3) 補正申請されたクレーム 原告が申請した補正の内容は以下の通りである つまり, 原告は下線で示した構成 増 感物質, 代表的には錫 を請求項 1 に追加する補正を申請した 請求項 1 (ⅰ) ガラス基板と, (ⅱ) 前記ガラス基板の表面にある, 増感物質, 代表的には錫, 並びにビスマス, クロム, 金, インジウム, ニッケル, パラジウム, 白金, ロジウム, ルテニウム, チタン, バナジウム及び亜鉛からなる群から選択される少なくとも一種の物質と, (ⅲ) その表面及び / 又はシラン跡に存在する錫, クロム, バナジウム, チタン, 鉄, インジウム, 銅及びアルミニウムからなる群から選択される少なくとも一種の物質を必要に応じて備える前記ガラス基板の表面上の銀被覆層と, (ⅳ) 前記銀被覆層を覆う少なくとも一種のペイント層とを備える銅層を有しない鏡 (4) 争点 (a) 原告の主な主張は以下の通りである 1 原告は, 請求項 1の補正は第 59 条の補正の要件を全て満たす旨を主張した 当該補正は, 釈明による方法で行われるものであり, 先行技術との関係を考慮して発明の権利範囲を明確にするものである 補正事項は明細書に既に開示されている事項であり, 補正前の開示範囲を超えるものでは無い 当該補正は, 両当事者の紛争に係る適正な判決に必要である 補正クレームの権利範囲は補正前クレームより狭いため, 当該補正は被告に不利益をもたらすものでは無い (b) 被告の主な主張は以下の通りである 2 原告による補正は, 釈明 (explanation) による方法で行われた補正申請では無く, 1 パラ 6 2 パラ 7~9 2

不当に登録された特許の取り消しを回避することを企てたものである 当該補正は, 請求項 1に新規要素を追加するものであり, その権利範囲を変更するものである つまり申請された当該補正は, 補正前の明細書のクレームの範囲を超えるものであり, 法律上許されるものでは無い 当該補正は, 両当事者の紛争に係る適正な判決に全く必要ない 補正申請に関して, 原告は, 新しい独占権を要請している 申請された補正によって, 当初登録された特許製品を変更する結果となる 原告は, 本件特許に基づいて他の特許権侵害差止訴訟を提起しているが, 当該他の訴訟においては, 釈明および明確化のための補正は申請されていない 当該補正の申請は, 本件特許の出願後 12 年も経過してから行われたものである 原告は特許製品における錫の使用に関する知見を有していたはずであるが, 原告は前もって補正を行うこと無く, 補正前クレームに基づいて訴訟を提起している (5) 裁判所の判断 (a) 一般論裁判所は補正に関する確立した法について言及し, 補正が認められる条件等について以下の通り判示した 3 ( ア ) 補正申請の遅滞についてもし特許権者が何年も前から先行文献に基づく瑕疵に気付いていた場合, 補正申請の遅滞は, それ自体, 申請を拒絶する理由になる 4 ( イ ) 本質的要素の変更について 非本質的要素を本質的要素に変更する効果を有する補正は認められない 5 ( ウ ) 当初クレームに無い構成の追加補正について明細書の範囲を, 補正前クレームの範囲内に含まれるサブコンビネーション ( 当初クレームに, 構成の特徴を追加したもの ) に限定する補正は部分放棄に該当し, 当該補正は認められる 6 当初明細書に, そのようなサブコンビネーションの従属クレームが存在しないことそれ自体は, 当該補正を拒絶する理由にはならない 3 パラ 14~18, 適宜, 見出しを付した 4 Smith Kline & French Laborotaries Ltd. v. Evans Medical Ltd., 1989 (1) FSR に基づくものと思われる 5 Windsurfing v. Tabur (1985) RPC 59 at 82 (CA) 6 Baker Perkins Ltd. s Application (1958) RPC 267, 及び AMP Incorporated v. Hellerman Ltd. (1962) RPC 55 3

( エ ) 瑕疵ある広範なクレームについてクレームを広範なものにすることを選択し, そのようなクレームによる利益を数年にわたって得ていた特許権者は, 特許を安定なものにするために補正によりクレームを減縮することは認められない 特許権者が明細書の欠陥を知っていたにもかかわらず明細書を補正せず, 当初クレームの保持を首尾よく主張していた場合, 当該事実は, そのかなり後に, 取消手続きにおいて特許の有効性について攻撃された際に行われる補正申請を拒絶する理由になる 7 しかし, 特許権者が明細書の欠陥に気付いていたこと, 又は特許権者が不当に広範な独占権を利用し, 競業者から不当な利益を得ていたことを示す証拠が無い場合, 裁判所は, 補正を却下することはできない 8 ( オ ) 補正が認められる条件補正が, 実質的にクレームを明確化又は詳述化するものであり, クレームの範囲を変更せず, 当初発明に存在しない新たな発明のクレームを導入しないことを条件として, クレームを補正することができる ( カ ) 部分放棄についてまた, クレームを減縮又は具体化し, 不適切なクレームを振り分け, 最終的に発明の範囲を狭く限定することになる補正は認められ, 排除された部分は放棄される 当該補正は, 部分放棄と呼ばれるものである 部分放棄の法理は, 補正クレームが当初クレームと矛盾しないように, クレームをその不都合な所まで減縮 ( 不都合な部分を除外 ) することにより権利者が発明の範囲を明確に定めることにある (b) 本件事案に対する法の適用上述の事項を前提にして, 裁判所は本件の補正申請について, 以下の通り判示した 9 ( ア ) 明細書の検討本件発明が増感工程, 活性化工程, 銀めっき工程に関連しているとは, 明細書全体を精査することによって容易に分かる 文書を解釈するに当たり, 当事者の意図を推論するためには文書を全体として読む必要があるとし, 補正による追加文言 増感物質, 代表的には錫 が発明の範囲を変更するものであるか否かを判断するためには明細書全体を読むことが肝心であるとした 請求項 1 及び請求項 9( 鏡の製法 ) をあわせ読むと, 本件発明は, 上述の3つの工程に基づいており, 当該補正が, 増感物質, 即ち錫に言及することによって増感工程を明確化しようとするものであることは明らかである 補正は, 全く新しい発明を導入する 7 I. G. Farbenindustrie A.G. s Patent (1939) 47 RPC 289 8 Chrome-Alloying Co. Ltd. v. Metal Diffusions Ltd. (1962) RPC 33 9 パラ 19~22, 25, 適宜のため適当な見出しを付した 4

ものでは無い ( イ ) 結論上述の議論及び確立した法の観点より, また本件に係る事実を考慮して, 裁判所は, 原告による補正は単にクレームを明確化又は詳述化するものであり, 発明の範囲を変更するものでは無いと判示した 被告の反論が認められたとしても, 当該補正は部分放棄であることは明らかである 4. 検討 (1) 補足 増感物質, 代表的には錫 を追加する補正の妥当性について補正後のクレームが, 補正前クレームの権利範囲の範囲内に含まれないものになるか否かを判断するに当たり, 明細書全体を考慮すべき点は至極当然であり, 妥当なものと考える 一般的にはクレームに構成要件を追加する補正を行った場合, 補正後の権利範囲が補正前の権利範囲を超える結果になる可能性がある 特に化学分野の発明においては, 構成要素の追加によって, その発明に係る物の特性が変化し, 発明の範囲が実質的に変更される可能性がある 本件特許の請求項 9は, 請求項 1に係る鏡の製法の発明である 請求項 9に係る製法は, 銀めっき工程前に, ガラス基板の増感工程及び活性化工程を含む 増感工程は, ガラス基板を増感溶液に接触させることにより行われる 明細書の記載によれば, 増感工程は, 主に塩化錫を含む増感溶液を用いて行われる旨が記載されている 10 また, 明細書には, 塩化錫を含む増感溶液を用いた増感処理後, パラジウム (II) を含む活性化溶液で処理されたガラス表面の分析によって, 錫原子に対して一定割合のパラジウム原子がガラス表面に存在することが示された旨が記載されている 11 以上の明細書の記載から, ガラス基板表面にある物質として, 増感物質の錫を含む鏡は, 出願当初の明細書に開示されていたものと考えられる 請求項 1に増感物質の錫を導入することによって, 出願当初の明細書に開示されていない特性を有する鏡がクレームされることにはならず, 権利範囲が拡大または変更される結果にはならないと考える 本件特許の増感処理が施された鏡の組成として, 増感物質, 特に錫を追加する補正は, 請求項 1に係る鏡の構成を明確化するものであり, 第 59 条の補正の要件を満たすもの 10 Preferably the sensitising step is carried out before said silvering step. This sensitising step is typically carried out with a sensitising solution comprising tin (II) chloride. 明細書 p.4 第 2 パラグラフ 11 An analysis of the surface of glass treated with a sensitising solution containing tin (II) chloride followed by an activating solution containing palladium (II) shows the presence of a certain proportion of palladium atoms with respect to tin atoms at the glass surface. 明細書 p.4 第 3 パラグラフ 5

と考えられる (2) 補正の可否判断クレームの補正が, 実質的に当初の権利範囲を超えるものでは無く, 発明の本質を変更するもので無ければ, 当初クレームに存在しなかった構成を追加することによって, 権利範囲を明確化し, 又は減縮することも適法に認められる ただし, クレームの補正が, 発明を明確化する釈明, 部分放棄による方法に該当し, 補正クレームが当初クレームの範囲内であるか否かの判断は, クレームの修正方法の形式のみで判断すべきでは無く, 明細書全体を精査して判断すべきである (3) その他の留意事項上述の判例によれば, 広範なクレームに瑕疵があることを知りながら, その独占権の利益を享受していたような場合であって, 特許権者がその事実を知っていたことを示す証拠が提示されると, クレームの補正が認められない可能性がある 例えば, 当事者間の書面でのやり取り, 訴訟過程等でクレームの瑕疵が明らかになったような場合, 特許権者がその事実を知っていた客観的な証拠になるおそれがある このような場合, 瑕疵ある特許を長期間放置することなく, 必要に応じてクレームを補正することを検討すべきと考えられる 以上 6