Title ベトナム語南部方言の形成過程に関する一考察 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 近藤, 美佳 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date 2017-03-23 URL https://doi.org/10.14989/doctor.k20 Right 学位規則第 9 条第 2 項により要約公開 Type Thesis or Dissertation Textversion none Kyoto University
( 続紙 1 ) 京都大学 論文題目 博士 ( 人間 環境学 ) 氏名近藤美佳 ベトナム語南部方言の形成過程に関する一考察 ( 論文内容の要旨 ) バー本論文は ベトナム南部地方 (Bà リアヴン Rịa-Vũng タウ Tàu省以南 ) で話される方言を主な研究対 象として 南部方言形成過程に関する19 世紀後半から20 世紀初頭の言語資料の分析および方言形式の分布に関するフィールドワーク研究を通じた言語地理学的考察に基づき その形成過程を通時的および共時的に考察し さらにその結果をベトナム語音韻史の中に組み込むことによってベトナム語音韻史研究に貢献することを目指す実証的研究である 序章では研究目的 対象 方法が述べられ 現代ベトナム語の音韻体系と正書法及び漢越音と漢語中古音の対応が示されている 第 1 章では 本論文が扱う 1) ベトナム語方言 2) ベトナム語音韻史 3) 南部方言の音韻体系という3 点に関する先行研究の問題点として 1) ではベトナム語方言の北部 中部 南部方言の区分の仕方に見られる不統一性 2) では方言研究と音韻史研究の包括的視野の欠如 3) では南部方言に見られる複雑な音韻構造成立の解明の欠如が指摘されている 特に2) については南部方言がこの数世紀の間に発展してきた地域で使用される新しい方言であるにもかかわらず 他の諸方言と大きく異なる語彙的 音韻的特徴を持つ独立した方言であることが認識され ベトナム語を北部 中部 南部の3つの方言に大別することが一般的となった経緯が詳しく紹介されている 第 2 章では 本論文で扱われている主に2011 年と2012 年の2 度に亘って実施した方言調査に基づく方言データの語彙調査票や方言地図作成方法などに関する調査概要およびその結果に基づく1から11までのベトナム全土の等語線の紹介とその根拠となる語が挙げられている さらに これらの等語線に基づいて従来ひとまとめに扱われていた南中部方言と南部方言の間には明確な差異が認められるため 本研究ではベトナム方言を北部 北中部 南中部 南部の4つの方言に分類することを提案している また ベトナム語の方言要素は地図に表された場合 一見 ABA 分布に見える地図が描かれることが多いが それは南中部地方以南では標準形式を使用するようになったことが原因であり 19 世紀後半に南部地方で編纂されたPetit dictionnaire français-annamite(1894) でも確認されるようにABBが古い分布状況であり このようなベトナム語の通時研究における文献および言語地理学の併存の重要性が指摘されている 第 3 章では 古い言語資料からその当時の方言的特徴を読み解き その当時の方言的
特徴の一端を探ることが試みられている 19 世紀末まで漢文 字喃で表記されていたベトナム語は ローマ字表記され 第二の公用語と位置付けられたが 伝統的知識人層から強い反発が起こる中 キリスト教関係者を中心に徐々にベトナム人によるローマ字 チュオン正書法使用が始まり その先駆者としての南部方言話者である Trương ヴィン Vĩnh キー Ký(1837- クオックグー 1898) が挙げられ 彼が Quốc ngữ [ 国語 ] と命名した現行のベトナム語ローマ字正書法キーについてもその成立の経緯が紹介されている また Ký がその主著 Grammaire de la langue annamite (1883) で指摘するベトナム語のトンキン ( ハノイ ) 方言 フエ方言 クアン方言の特徴について順に紹介している さらに ローマ字によるベトナム語文献から 19 世紀後半当時のクアン方言が現代の南中部方言により近い特徴を持ち 20 世紀初頭の北部方言は現代北部方言にかなり類似した状況を示していたことを指摘している 第 4 章では 方言分布と古い言語資料の分析という両方の軸に基づくベトナム語南部方言の考察結果を踏まえて 17 世紀のベトナム語音韻体系から南部方言を中心に現代ベトナム語諸方言が分岐した過程が 1) 頭子音 2) 母音と末子音の関係 3) 介音 4) 韻と声調に関して音法則に基づいて通時的に示され 1) については南部方言が古い形式を保持する傾向が強い一方 北部方言で最も変化が進んでいること 2) については南部方言において前舌および後舌母音が中舌母音に変化し それとともに先行母音と末子音のパターンが制限されること 3) については介音が南部方言において様々な振る舞いを示すこと 4) については現代北部方言に保持されている体系が完成した後 それを基に南中部方言の形式が そこからさらに南部方言の形式が派生したことが指摘されている 第 5 章は本論文の要約であり 第 1 章から第 4 章までの結果を再度まとめた上で 総合的な考察を行っている
( 続紙 2 ) ( 論文審査の結果の要旨 ) バー本論文は ベトナム南部地方 (Bà リアヴン Rịa-Vũng タウ Tàu省以南 ) で話される方言を主な研 究対象として 南部方言形成過程に関する 19 世紀後半から 20 世紀初頭の言語資料 の分析および方言形式分布に関するフィールドワーク研究を通じた言語地理学的考察 に基づき その形成過程を通時的および共時的に考察し さらにその結果をベトナム 語音韻史の中に組み込むことによってベトナム語音韻史研究に貢献することを目指す 実証的研究である 本論文の学問的貢献として 従来 北部 中部 南部の 3 つの方言に大別されるこ とが一般的であったベトナム語の 方言研究と音韻史研究の包括的視野の欠如および南部方言に見られる複雑な音韻構造成立の解明の欠如による 方言分類に見られる不統一性の指摘と2011 年と2012 年の2 度に亘って実施した方言調査に基づく11 本の等語線の新設定およびこれら等語線に基づくベトナム語の北部 北中部 南中部 南部の4つの方言への新しい分類の提案が挙げられる チュオンさらに 南部方言話者である Trương ヴィン Vĩnh キー Ký(1837-1898) の主著 Grammaire de la langue annamite (1883) におけるベトナム語のトンキン ( ハノイ ) 方言 フエ方言 クアン方言の特徴に関する記述を調べ 19 世紀後半当時のクアン方言が現代の南中部方言により近い特徴を持ち 20 世紀初頭の北部方言は現代北部方言にかなり類似した状況を示していたことを指摘し 古い言語資料からその当時の方言的特徴を読み解き その当時の方言的特徴の一端を探るという方法に基づき 自己のベトナム語方言の分類に関する新説を更に補強したことも本論文の大きな学問的貢献である また 方言分布と古い言語資料の分析という両方の軸に基づくベトナム語南部方言の考察結果を踏まえ 17 世紀のベトナム語音韻体系から南部方言を中心に現代ベトナム語諸方言が分岐した過程を 1) 頭子音 2) 母音と末子音の関係 3) 介音 4) 韻と声調に関して音法則に基き通時的に示し 1) については南部方言が古い形式を保持する傾向が強い一方 北部方言で最も変化が進んでいること 2) については南部方言において前舌および後舌母音が中舌母音に変化し それとともに先行母音と末子音のパターンが制限されること 3) については介音が南部方言において様々な振る舞いを示すこと 4) については現代北部方言に保持されている体系が完成した後 それを基に南中部方言の形式が そこからさらに南部方言の形式が派生したことを指摘したことも本論文の大きな貢献と言える 本論文はフィールドワーク研究を通じた方言分布調査と古い言語資料の分析に基づ
く両分野に跨る実証的研究として高く評価される よって 本論文は博士 ( 人間 環境学 ) の学位論文として価値あるものと認める また 平成 29 年 1 月 27 日 論文内容とそれに関連した事項について試問を行った結果 合格と認めた なお 本論文は 京都大学学位規定第 14 条第 2 項に該当するものと判断し 公表に際しては 当該論文の全文に代えてその内容を要約したものとすることを認める 要旨公表可能日 : 年月日以降