trans1,2 ジクロロエチレン 別 名 :1,2 DCE trans1,2dce PRTR 政令番号 :224 ( 旧政令番号 :1119) CAS 番 号 :156605 構 造 式 : trans1,2ジクロロエチレンは 副生成物や分解物として生成され この物質としての用途はないと考えられます 2009 年度の PRTR データでは 環境中への排出量は約 8.5 トンでした すべてが事業所から排出されたもので ほとんどが大気中へ排出されました 用途 trans1,2ジクロロエチレンは 常温で無色透明の 水に溶けにくい液体で 揮発性物質です 染料や香料 熱可塑性の合成樹脂などを製造する際の溶剤として使われたり 他の塩素系溶剤の原料として使われていましたが 現在は 1,1ジクロロエチレンあるいはクロロエチレン製造時の副生成物として生成されたり 他の物質の分解物として生成され trans 1,2ジクロロエチレンとしての用途はないと考えられます なお trans1,2ジクロロエチレンは 1,2ジクロロエチレンのトランス体ですが シス異性体に cis1,2ジクロロエチレンがあります 排出 移動 2009 年度の PRTR データによれば わが国では 1 年間に約 8.5 トンが環境中へ排出されたと見積もられています すべてが化学工業の事業所から排出されたもので ほとんどが大気中へ排出されました この他 化学工業の事業所から廃棄物として約 42 トンが移動されました 環境中での動き大気中へ排出された trans1,2ジクロロエチレンは 主に化学反応によって分解され 1 週間以内に半分の濃度になると計算されています 1 ) 環境水中での動きについては報告がありませんが 化審法の分解度試験では微生物分解されにくいとされています 2 ) 生物への濃縮性は低い物質です 2 ) また 土壌中や地下水中では 酸素の少ない状態でトリクロロエチレンやテトラクロロエチレンが分解されることによって trans1,2ジクロロエチレンが生成される可能性があります 土壌中や地下水中では trans1,2ジクロロエチレンは揮発されにくく 酸素の少ない状態で微生物に
よってクロロエチレンを経て分解されていきます 健康影響毒性マウスにtrans1,2ジクロロエチレンを90 日間 飲み水に混ぜて与えた実験では 雄にアルカリフォスファターゼ (ALP リン酸化合物を分解する働きをもつ酵素) の増加が 雌に胸腺重量の減少が認められ この実験結果から求められる口から取り込んだ場合のNOAEL( 無毒性量 ) は 体重 1 kg 当たり1 日 17 mgでした 3 )4)5) この実験結果から trans 1,2ジクロロエチレンのTDI( 耐容一日摂取量 ) は体重 1 kg 当たり0.017 mgと算出され 4 ) 水道水質管理目標値と水質要監視項目の指針値が設定されていました その後 2008 年に食品安全委員会は 同じ実験結果に基づいて1,2ジクロロエチレン (cis 体及びtrans 体 ) のTDIを体重 1 kg 当たり0.017 mgと再評価しました 5 ) これに基づき trans 1,2ジクロロエチレンの水道水質管理目標値は廃止され cis1,2ジクロロエチレン及びtrans1,2ジクロロエチレンの水道水質基準に変更されました 6 ) 基準値の値は0.04 mg/lで 以前に設定されていた目標値の値と同じです 6 ) 環境基準については 2009 年 9 月の中央環境審議会の答申において 地下水では シス体 トランス体とも0.04 mg/lを超える濃度が検出されていることから シス体単独ではなく 1,2ジクロロエチレン ( シス体及びトランス体の和 ) として 地下水環境基準が設定されました 7 ) 一方 河川などの公共用水域では 二つの異性体とも0.04 mg/lを超える濃度は検出されていませんが シス体では基準値の10%(0.004 mg/l) を超える濃度が検出されているため 従来どおりcis1,2ジクロロエチレンは水質環境基準として基準値が trans1,2ジクロロエチレンは要監視項目として指針値が設定されました 7 ) また ラットに790 mg/m 3 のtrans 1,2ジクロロエチレンを含む空気を8 週間吸入させた実験では 肝臓の脂肪変性が認められています 8 ) この他 ラットにtrans 1,2ジクロロエチレンを含む空気を16 週間吸入させた実験では 肝臓及び肺への影響が認められ この実験結果から求められる呼吸によって取り込んだ場合のLOAEL( 最小毒性量 ) は806 mg/m 3 でした 2) 体内への吸収と排出人が trans1,2ジクロロエチレンを体内に取り込む可能性があるのは 飲み水や呼吸によると考えられます 体内に取り込まれた場合は cis1,2ジクロロエチレンと同様に代謝物に変化し 尿に含まれて排せつされると考えられます 影響水道水 河川や地下水などから水道水質管理目標値や水質要監視項目の指針値を超える濃度の trans 1,2ジクロロエチレンは検出されておらず 飲み水を通じて口から取り込むことによる人の健康への影響は小さいと考えられます 呼吸によって trans 1,2ジクロロエチレンを取り込んだ場合について 環境省の 化学物質の環境リスク初期評価 では 肝臓の脂肪変性が認められたラットの実験結果に基づいて 無毒性量等を 1.9 mg/m 3 としています 8 ) 最近の測定結果はありませんが これまでの測定では大気中から検出された最大濃度は 0.00016 mg/m 3 であり この無毒性量等よりも十分に低く 呼吸によって取り込むことによる人の健康への影響も小さいと考えられます なお 呼吸によって取り込んだ場合について ( 独 ) 製品評価技術基盤機構及び ( 財 ) 化学物質評価研究機構の 化学物質の初期リスク評価書 では 肝臓及び肺への影響が認められたラット
の実験における LOAEL と大気中濃度の推計値を用いて 人の健康影響を評価しており 現時点 では人の健康へ悪影響を及ぼすことはないと判断しています 2) 生態影響環境省の 化学物質の環境リスク初期評価 では ミジンコの死亡を根拠として水生生物に対する PNEC( 予測無影響濃度 ) を 0.22 mg/l としています 1 ) これまで得られた河川や海域の水中濃度はこの PNEC よりも十分に低いため この結果に基づけば水生生物への影響は小さいと考えられます なお ( 独 ) 製品評価技術基盤機構及び ( 財 ) 化学物質評価研究機構の 化学物質の初期リスク評価書 でも ミジンコの死亡を指標として 河川水中濃度の測定データ ( 不検出であり 検出下限値の 1/2 の値を用いた ) を用いて水生生物に対する影響について評価を行っており 現時点では環境中の水生生物へ悪影響を及ぼすことはないと判断しています 2) 性状無色透明の液体水に溶けにくい揮発性物質 生産量 9) (2009 年 ) 排出 移動量 (2009 年度 PRTR データ ) 国内生産量及び輸入量 : 約 110 トン 環境排出量 : 約 8.5 トン 排出源の内訳 [ 推計値 ](%) 排出先の内訳 [ 推計値 ](%) 事業所 ( 届出 ) 100 大気 100 事業所 ( 届出外 ) 公共用水域 0 非対象業種 土壌 移動体 埋立 家庭 ( 届出以外の排出量も含む ) 事業所 ( 届出 ) における排出量 : 約 8.5 トン事業所 ( 届出 ) における移動量 : 約 42 トン 業種別構成比 ( 上位 5 業種 %) 化学工業 100 移動先の内訳 (%) 廃棄物への移動 100 下水道への移動 業種別構成比 ( 上位 5 業種 %) 化学工業 100 PRTR 対象 経口慢性毒性
選定理由 環境データ 大気 化学物質環境実態調査: 検出数 19/73 検体, 最大濃度 0.00016 mg/m 3 ;[1987 年度, 環境省 ] 10) 水道水 原水 浄水水質試験: 水道水質管理目標値超過数 ; 原水 0/1572 地点, 浄水 0/1932 地点 ;[2008 年度, 日本水道協会 ] 11)12) 公共用水域 公共用水域水質測定( 要監視項目 ): 指針値超過数 0/865 地点 ;[2009 年度, 環境省 ] 13) 地下水 地下水質測定( 要監視項目 ): 指針値超過数 0/631 地点 ;[2008 年度, 環境省 ] 14) 底質 化学物質環境実態調査: 検出数 3/78 検体, 最大濃度 0.0079 mg/kg;[1987 年度, 環境省 ] 10) 適用法令等 化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律 ( 化審法 ): 第二種監視化学物質 大気汚染防止法: 揮発性有機化合物 (VOC) として測定される可能性がある物質 水道法: 水道水質基準値 0.04 mg/l 以下 ( シス及びトランス1,2ジクロロエチレンとして ) 水質要監視項目指針値:0.04 mg/l 以下 ( トランス 1,2ジクロロエチレンとして) 地下水環境基準:0.04 mg/l 以下 ( シス体及びトランス体の和として ) 日本産業衛生学会勧告: 作業環境許容濃度 590 mg/m 3 (150 ppm)( cis 体,trans 体, sym 体として ) 注 ) 排出 移動量の項目中 は排出量がないこと 0 は排出量はあるが少ないことを表しています 引用 参考文献 1) 環境省 化学物質の環境リスク初期評価第 2 巻 第 1 編 (2003 年公表 ) http://www.env.go.jp/chemi/report/h1501/pdf/chap01/023/30.pdf 2)( 独 ) 製品評価技術基盤機構 ( 財 ) 化学物質評価研究機構 化学物質の初期リスク評価書 Ver.1.0 (( 独 ) 新エネルギー 産業技術総合開発機構委託事業 2008 年公表 ) http://www.safe.nite.go.jp/risk/files/pdf_hyoukasyo/119riskdoc.pdf 3) 環境省 化学物質の環境リスク初期評価第 2 巻 第 2 編 (2003 年公表 ) http://www.env.go.jp/chemi/report/h1501/pdf/chap02/022/02/27.pdf 4) 厚生労働省 水質基準の見直しにおける検討概要 トランス1,2ジクロロエチレン http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/kenkou/suido/kijun/dl/moku06.pdf 5) 食品安全委員会 清涼飲料水評価書 :1,2ジクロロエチレン( シス体及びトランス体 ) http://www.fsc.go.jp/hyouka/hy/hytuuchi12dce150703.pdf 6) 厚生労働省 水道水質基準について : 水質基準省令の改正等について http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/kenkou/suido/kijun/suishitsu.htm 7) 中央環境審議会 水質汚濁に係る人の健康の保護に関する環境基準等の見直しについて ( 第 2 次答申 ) http://www.env.go.jp/council/toshin/t09h2104/t09h2104.pdf
8) 環境省 化学物質の環境リスク初期評価第 4 巻 第 1 編 (2005 年公表 ) http://www.env.go.jp/chemi/report/h1721/pdf/chpt1/12206.pdf 9) 経済産業省 第二種監視化学物質の製造 輸入数量 ( 平成 21 年度実績 ) http://www.meti.go.jp/policy/chemical_management/kasinhou/files/release/h22/2kan.pdf 10) 環境省 平成 21 年度 (2009 年度版 ) 化学物質と環境 ( 化学物質環境実態調査 ) 化学物質環境調査結果概 要一覧表 http://www.env.go.jp/chemi/kurohon/2009/shosai/4_2.xls 11)( 社 ) 日本水道協会 水道水質データベース 平成 20 年 (2008 年 ) 水質分布表 原水 http://www.jwwa.or.jp/mizu/pdf/2008b01gen02avg.pdf 12)( 社 ) 日本水道協会 水道水質データベース 平成 20 年 (2008 年 ) 水質分布表 浄水 ( 給水栓水等 ) http://www.jwwa.or.jp/mizu/pdf/2008b04jyo02avg.pdf 13) 環境省 平成 21 年度公共用水域水質測定結果 ( 表 161) http://www.env.go.jp/water/suiiki/h21/full.pdf 14) 環境省 平成 20 年度地下水質測定結果 ( 参考資料 8) http://www.env.go.jp/water/report/h2103/01ref.pdf 用途に関する参考文献 ( 独 ) 製品評価技術基盤機構 ( 財 ) 化学物質評価研究機構 化学物質の初期リスク評価書 Ver.1.0 (( 独 ) 新エネルギー 産業技術総合開発機構委託事業 2008 年公表 ) http://www.safe.nite.go.jp/risk/files/pdf_hyoukasyo/119riskdoc.pdf 厚生労働省 水質基準の見直しにおける検討概要 トランス1,2ジクロロエチレン http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/kenkou/suido/kijun/dl/moku06.pdf 国土交通省北陸地方整備局 水質調査 3. 水質調査項目 ;5. 要監視項目 ; トランス1,2ジクロロエチレン http://www.hrr.mlit.go.jp/hokugi/04/river/pdf/glossary15.pdf