時評 書評 展示評 大国正美 北野村古文書さとがえり展について 時評 書評 展示評 会期 2010 年 11 月 3 日 6 日 会場 北野プラムテラス 主催 神戸大学大学院人文学研究 科地域連携センター 共催 神戸北野天満神社 神戸市中央区の北野といえば異人館街として知られ 神戸 港開港によって生



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Title Author(s) Citation Kobe University Repository : Kernel 北野村古文書さとがえり展について ( 時評 書評 展示評 )(Review on Homecoming Exhibition of Historical Documents of Kitano Village (Current Topics and Reviews)) 大国, 正美 Issue date 2011-08 Resource Type Resource Version URL Link : 地域 大学 文化 : 神戸大学大学院人文学研究科地域連携センター年報,3:97-100 Departmental Bulletin Paper / 紀要論文 publisher http://www.lib.kobe-u.ac.jp/handle_kernel/81003377 Create Date: 2016-10-09

時評 書評 展示評 大国正美 北野村古文書さとがえり展について 時評 書評 展示評 会期 2010 年 11 月 3 日 6 日 会場 北野プラムテラス 主催 神戸大学大学院人文学研究 科地域連携センター 共催 神戸北野天満神社 神戸市中央区の北野といえば異人館街として知られ 神戸 港開港によって生まれた近代都市だと思われがちだが 同時 く評価したい 小稿では北野村文書と展示の概要 さらに展 差した大学の調査研究活動とその成果の地域還元として 高 の思いがうまくかみあって展示が実現したことは 地域に根 に古い歴史をもつ この地区の旧家の古文書が災害や戦災を この文書は北野村の西脇家文書で 近世 近代の文書群で ある 大正七年 一九一八 資料収集に着手した 神戸市史 一 北野村西脇家文書収集の経緯 二〇一〇年一一月三日から六日まで 神社境内にある北野プ 編纂過程で調査され 大正九年五月の 神戸市史資料展覧会 文学研究科地域連携センターが 神戸北野天満神社と共催で ラムテラスで 北野村古文書さとがえり展 を開催した 埋 に西脇重兵衛氏所蔵文書として展示され 神戸市史資料展 97 蔵文化財では発掘調査が行われるとおおむね現地説明会が行 大学で 再会 した これをきっかけに 神戸大学大学院人 大学に寄贈され 北野村の文書は 長い歳月を経て再び神戸 していた このたび地元に残っていた史料が原蔵者から神戸 示を拝見した個人的な感想を披露したい をやることはめったにない 今回 地元住民の熱意と大学側 われる しかし文献史料が新たに確認された場合に 速報展 北野村古文書さとがえり展 乗り越え現代に伝わり 一部が流出したが 神戸大学が取得 大国 正美 北野村古文書さとがえり展につ いて Current Topics & Reviews

LINK Vol.3 2011 年 8 月 98 覧会出陳目録 (一九二一年 以下 出陳目録 )に七八項一一七点とある また昭和五年(一九三〇)九月の 観艦式記念海港博覧会 でも展示された その後 尼崎市史 などでも使用されたが 所在がはっきりしないままとなっていた 西脇家文書はかつて古物商へ一部売却され 北野村文書 と題した文書群を神戸大学大学院人文学研究科が購入していた 史料につけられていた出陳札と 出陳目録 を照合すると 北野村文書は 大正期に展示された西脇家文書に間違いないことがわかっていた ただ 出陳目録 に収載されていながら北野村文書には含まれていないものがあり 一部は戦災で焼失していた 戦前の目録の史料のうち 元禄五年(一六九二)の 寺社御改帳吟味之帳 と天明六年(一七八六)の 村差出明細帳 慶応四年(一八六八)の 神社書上帳 が村内の一宮神社に貸し出され 一九四五年六月の空襲に遭って焼失したという(川辺賢武 川辺賢武ノートから2 歴史と神戸 第六九号 一九七五年) ところが二〇〇六年西脇家が神戸市立博物館と神戸大学文学部へ所蔵文書の保全について相談を持ちかけ 西脇家文書の一部がまだ現存していることが確認され 神戸大学大学院人文学研究科地域連携センターの木村修二研究員によって調査された 文書群の総数は二六六点を数え 出陳目録 の総数を上回る点数が確認された 木村研究員は所蔵者の西脇美代子さんやその友人と西脇家文書研究会を設け 初心者向けに古文書の手ほどきをしてきた 今回の展示はその成果の一部でもある 二西脇家文書の内容木村修二氏作成の目録によれば 冊子四九点(竪帳が中心) 一紙(免定 皆済目録中心)二一七点(うち絵図一四点)である 内容の内訳を別表に示した 年貢免定 年貢皆済目録 年貢勘定目録など貢租関係の史料が 正徳四年(一七一四)を最古に慶応年間まで連年にわたり残存している 幕府領関係史料が圧倒的に多いが 北野村は相給村落で もう一状冊小計支配 2 6 8 土地 2 28 30 貢租 196 4 200 戸口 0 3 3 村政 3 2 5 交通 0 1 1 教育 0 1 1 宗教 0 4 4 絵図 14 0 14 小計 217 49 266 北野プラムテラス

時評 書評 展示評大国正美北野村古文書さとがえり展について 99 方の領主である旗本片桐家(大和小泉藩片桐家の分家)領の年貢免定も一七点含まれている 西脇家近世文書は 幕府領の庄屋としての史料を基本とし 一時旗本領の庄屋も兼ねるなどの事情もあったのか 旗本領の関係史料も含まれている ただ 基本的な村方史料となる宗門改帳や五人組帳 小入用帳 触留帳 人別送り状等々 本来残されるべき文書が含まれていない 冊子では寛文四年(一六六四)の北野村検地帳は 欠損のない貴重なものである 出陳目録 では慶長年間の検地帳四点があるが これは前述の神大所蔵 北野村文書 中に含まれていた(ただし現存は三点のみ) 明治初年の史料としては 土地関係や布達類 北野天満神社関係史料 外国人への土地貸与に関する史料などがある 西脇家文書のもう一つの特徴は 絵図史料が一四点も含まれていることで 畳二畳分ほどの大判のものや村内の土地や山林の用益絵図 争論絵図も二点ある 争論絵図のうちの一つは 正徳六年(一七一六)の生田川(旧河道)新堤争論絵図で 摂津国兎原郡生田村と矢田部郡の北野村との間で起きた紛争の史料である 双方の村役人の書判がなされ合意のもとに作成されたもので 明治初年に付け替えられた生田川の近世の状況がつぶさに知ることができる この争論に関しては幕府裁許状の写が西脇家文書に現存している もう一点の争論絵図は 享保一一年(一七二六)の葺合庄と福原庄との間の郡境山論の裁許絵図で 裏には大坂城代および大坂東西両町奉行の書判がある この絵図の収納紙には 寛文十三年絵図山論出入裁許絵図 も収納されていた旨の記載があるが こちらは現存していない 出陳目録 にも記載がなく かなり早く散逸したと思われる このほか明和九年(一七七二)に幕府勘定奉行の巡見に関わって作成された村絵図 年代不詳だが北野村の宅地が所持者名や間口 奥行とともに示された絵図が含まれている 三北野村古文書の展示について展示は 北野村文書 西脇家文書 の双方合わせて三五点が出品された 村のすがた 検地と法令 領主 生田川をめぐる争い 村と山 郡境をめぐる争論 中一里山 年貢 災害 村から町へ などの項目に分けて ビジュアルで初心者にも分かりやすい内容だった 絵図をもとに 集落が高台にあり生田神社の北側に水田や畑地がテラス状に

LINK Vol.3 2011 年 8 月 100 広がっていたことを解き 検地帳のコーナーでは近世初頭の 慶長 の年号のある三冊の検地帳のうち二冊は実は幕末のものであることを明らかにしている 災害 では急峻な裏山からの谷筋や生田川が豪雨のたびに決壊したこと 水害から村を守るために生田川の堤防構築に努力を重ねたが 堤を強固にすることは対岸の生田村と争論になったことを紹介した また山は農業の再生産や食料の確保 飼料を得る場として極めて重要で 領主の 御林山 小物成と呼ばれる税を納めて百姓が利用できた 小物成山 神社に付属した 宮山 などに明確に区画されていたこと 近世は集団で利用していたが 明治初期には個人に分割が進むことなどを明らかにしている 北野天満神社の史料では 神社の所有するものの中に仏教関係の史料が多く含まれ僧侶が神社を守っていた 神仏習合 の様子もうかがえる 展示の構成を概観すれば 現存史料を古文書学の成果に基づいた紹介に力を入れた印象が強い 古文書の初心者にも親しみやすい展示で 初めて古文書に触れる人を強く意識した構成になっている カラーコピーの展示解説書 一点ごとの文書の解説文も配布され 木村修二研究員が丁寧な説明をしていたこともあって 来場者の反応もよかった 今回の展示が 発掘調査の現地説明会に匹敵する速報展と位置づけるなら 所期の目的は十分に果たした また会場には西脇家研究会のメンバーも協力して作成された古文書の解読文が置かれ 住民と大学の連携作業としてもよかった さらにこの展示がきっかけになって 展示会の協力団体 北野 山本地区をまもり そだてる会 の浅木隆子会長が経営する神戸北野美術館のリニューアルで 北野村の歴史の展示コーナーが設けられた 神戸北野美術館からの要望で こうした働きかけを受けることが 地域との連携の深まりの成果だといえよう 展示での課題を挙げるとすれば たとえば連綿と残る年貢免定を読む中で どんな時代の変化が見えるのかなど 時間軸による発見の報告が弱かった印象をもった また近現代の地形図や陸地測量図などと比較することで 近世の村がどう近代都市に移行したかも浮き彫りにできただろう 現代と近世を時間軸でつなげて 変化を感じられたら一層 有意義な展示になっただろう 大学と住民の第二弾の成果に期待したい 展示会場の様子