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Transcription:

Title 鎌倉後期の王権と真言密教 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 坂口, 太郎 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date 2014-03-24 URL http://dx.doi.org/10.14989/doctor.k Right 学位規則第 9 条第 2 項により要約公開 Type Thesis or Dissertation Textversion none Kyoto University

( 続紙 1 ) 京都大学 博士 ( 人間 環境学 ) 氏名坂口太郎 論文題目 鎌倉後期の王権と真言密教 ( 論文内容の要旨 ) 本学位申請論文は 鎌倉後期の王権と真言密教との関係について 政治史 仏教史の両面より研究したものである 内容は はじめに 序章 本論四章 付論 終章からなっている 1986 年 網野善彦氏が 異形の王権 を公表して以後 後醍醐天皇が側近の僧文観を通して真言密教に傾倒したことに注目されるようになった 近年では後醍醐の特異性を過度に強調することに批判が寄せられ 後醍醐の前提となった鎌倉後期の王権 とくにその父 後宇多院と真言密教との関係を重視すべきことが指摘されている ただし 近年の研究では 後醍醐が後宇多の宗教政策をいかに継承したのかについての検討が不十分である そこで本論文では 後宇多 後醍醐の真言密教に関する政策の連続性に着目し 当時の王権と真言密教との関係を解明することを目指している まず はじめに では 鎌倉後期の時代相を概括し 本論文の目的を述べ 続いて 序章 問題の所在と本論文の視角 構成 では 鎌倉後期の王権と真言密教に関する諸研究を整理して現在の研究状況を明らかにし 本論文の視角および論点を示している 第一章 鎌倉後期 建武政権期の大覚寺統と大覚寺門跡 では 後宇多の皇子で大覚寺門跡となった性円法親王に注目し 大覚寺門跡の展開を通時的に検討している 真言密教の諸法流を相承した後宇多は新たに後宇多院法流を創始したが その後継者として皇子の性円を大覚寺門跡に据え 真言密教の中心に位置付けた 後宇多は性円に多くの寺領 重宝を譲渡したほか 性円に大覚寺統を護持する重要な密教修法を勤修させている 後宇多の死後 後醍醐は 性円と大覚寺門跡を手厚く保護するだけではなく 皇子 恒性を大覚寺に入れ 討幕計画を進める上でも大きな期待を寄せた このように 大覚寺門跡は 後醍醐の王権を支える重要な役割を担ったとする 第二章 東京大学史料編纂所蔵 五大虚空蔵法記 について では 新史料 五大虚空蔵法記 にもとづいて 建武政権期の大覚寺門跡と後醍醐との関係に考察を加えている この史料から 性円が後醍醐護持を目的として密教の秘法である五大虚空蔵法を勤修したこと 建武政権が大覚寺門跡の寺格を引き上げたことなどが明らかになったとする あわせて 五大虚空蔵法記 に見える 北条氏の余類による蜂起の計画を取り上げ 同記が建武政権期の政治史研究の上で 貴重な価値を持つことも指摘している 第三章 後醍醐天皇の寺社重宝蒐集について では 後醍醐による寺社重宝の蒐集を論じた 鎌倉後期の後醍醐は 山門前唐院経蔵 東寺宝蔵 伊勢外宮などから由緒ある重宝を数多く召し上げ これを二条富小路内裏に集積していた また建武政権期に入ると 後醍醐は東寺 神護寺 唐招提寺などの諸寺の重宝の管理に介入し 自己の勅封を加えている 後醍醐の重宝への関心には 黒田俊雄氏が指摘したような寺社統制策の一面もあったが 同時に見逃せないのは 重宝が後醍醐の政敵調伏を祈願する密教修法に用いられた事実である すなわち 後醍醐は政治的危機を乗り越えるために 重宝の霊力を必要としていたと考えられる また 後醍醐は本来子孫に皇統を伝えられない一代限りの天皇であっただけに その権威の補強が必要であった 後醍醐は多くの寺社重宝を蒐集することで その権威の強化を図ったのである

第四章 鎌倉後期宮廷の密教儀礼と王家重宝 では 清浄光寺に伝来する 後醍醐天皇像 の背景について論じている この後醍醐像については 黒田日出男氏が緻密な読解を試みたが 画像の重要な前提をなす 後醍醐が文観より伝受した密教儀礼の分析について多くの課題が残り 画像の意味が不明確であった しかし 後醍醐像に描かれた装束が 内蔵寮礼服蔵に伝来した古代の天皇にまつわる冠や礼服であったことを解明した結果 後醍醐がこの密教儀礼に即位灌頂の意味を込めていたことが明らかとなった そして 天皇権威に直結する即位灌頂を行うことで 討幕を目指す後醍醐が超越的権威の獲得を企図していたとする 付論 建武政権 南朝と院政 では 後醍醐 南朝による院政の構想が論じられる 古来 後醍醐は天皇親政を絶対視したとされ この評価は戦後の政治史研究にも継承されている しかし 近年の研究によれば 建武政権には多くの点で鎌倉後期の院政との連続性が確認され 後醍醐の親政に対する姿勢も再考すべき段階を迎えている ここで注目されるのは 鎌倉末期 建武政権期に 天皇が譲位後の院政に備えて設置する後院の存在が確認されることである この事実は 後醍醐が院政を志向した可能性を示す そこで 鎌倉末期から南北朝期の後醍醐をめぐる政治過程に再検討を加えるとともに 後醍醐を継承した南朝の後村上院や 長慶院政をも視野に入れながら 後醍醐による院政の可能性を論じ 既往の後醍醐像の克服を目指した

( 続紙 2 ) ( 論文審査の結果の要旨 ) 本学位申請論文は 鎌倉時代末期から建武新政期における大覚寺統の後宇多院 後醍醐天皇父子と 真言密教との関係を中心に論じたものである 鎌倉後期 朝廷における大覚寺 持明院両統の分裂 鎌倉幕府の強大化 蒙古襲 来などの未曾有の危機の中で 朝廷で真言密教に対する尊崇が高まったことはよく 知られていた しかし 後醍醐天皇については 網野善彦氏らの研究によって 側 近の僧文観を通して 真言密教の傍流に過ぎない立川流に帰依したことが注目さ れ それまでの院 天皇のあり方との断絶が強調される傾向にあった これに対し 本論文は未刊行も含む多くの新史料に基づいて事実関係を見直すとともに 宗教史 と政治史の両面から 後醍醐を特異な存在とする通説の克服を目指している 本論文の最大の特徴は 膨大な記録類を精査 分析し それらの史料に基づいて 未解明であった事実を発掘した点である 史料の多くは未刊行であるだけに その 調査 解読の労力は多大なものであった 後述する各章における重要な論点も こ うした史料精査の賜物である また 第二章において 新史料 五大虚空蔵法記 を紹介したことが 学界に対する多大の貢献であることは論を俟たない 以下 各章において評価すべき論点を紹介する まず 第一章では 後醍醐の同 母弟である大覚寺門跡性円法親王の事績を新史料から掘り起し 後宇多院が性円を 中心に据えて 持明院統と結んだ仁和寺御室を凌駕する 新たな真言密教の拠点形 成を目指したことを解明した そして 後醍醐もまた性円を重視し 王権護持の宗 教的支柱としたことを述べて 宗教面における大覚寺門跡への依存 後宇多の政策 との連続性を指摘した これは 後醍醐が僧文観と結んだ特異な存在であったとす る通説を根底的に否定するものである 第二章では 先述のように新史料を紹介するとともに その中から性円法親王が 後醍醐天皇のために秘法を奉仕した事実を指摘した これによって 後醍醐天皇の 治世においても 性円が宗教的に重要な役割を果たしていたことを確認した点も重 要な意味をもつ 第三章では 従来注目されながら 史料的制約のために十分に分析されていなか った後醍醐の重宝蒐集について 新史料の発掘を通して全貌を解明し 後醍醐の宗 教政策の特異性を指摘した 重宝蒐集は 後宇多にも見られたことであるが それ があくまでも大覚寺の権威上昇を目指すものであったのに対し 後醍醐はその対象 を著しく拡大し 強引な手段を用いたことが明らかとなった そして こうした行 動の背景には 討幕の祈禱に重宝の霊力を用いたこと そして本来中継ぎの天皇に 過ぎなかった後醍醐が権威の上昇を図ったことがあるとした これらの点は 後醍 醐の宗教観を考える上でも また同様に中継ぎの天皇であった後白河が 莫大な重 宝を蒐集したこととの関連からも 興味深い指摘である 第四章では 黒田日出男氏の研究によって脚光を浴びた 清浄光寺の後醍醐天皇

像について分析を試みている 特に注目されるのは その冠 服装 ( 礼服 ) が王家歴代の重宝であったことを解明し 画像が即位灌頂と関係していたことを指摘した点である これによって 従来様々な解釈がみられた画像の意味を確定したことは画期的であり 学界に大きな影響を及ぼすものと評価できる さらに 付論では 従来親政を絶対視したとされてきた後醍醐のもとに 院政に 備えた機関とみられる後院が存在したこと 後醍醐の後継者である南朝の後村上天 皇が退位したとみられることを明らかにした これらの点から 後醍醐が院政を志 向していた可能性を指摘し 原則として退位後に院政を行った歴代天皇と後醍醐と の共通性が示唆された このことは 政治史の面から後醍醐の特異性を否定した点 で 高く評価できる 以上のように 本論文は基本的に優れた内容ではあるが 不十分な点も見受けら れる 政治史と宗教史の融合を目指すとしながらも 政治史に関する分析は付論の みに留まっているし 他の章においても掘り下げる糸口があるにもかかわらず 踏 み込んだ分析がなされていない また 後醍醐と後宇多の連続性を強調するが 重 宝蒐集問題など 執筆者の意図とは逆に後醍醐の特異性が顕著となった部分も見受 けられる さらに 王権と真言密教との関係は すでに院政期の後三条天皇の時代 から看取できるだけに 後醍醐の立場を解明するためには 鎌倉後期のみにとどま らない より幅広い視野も必要と考えられる しかし このような問題点が本論文の価値を大きく減ずるものではなく その成 果が高く評価できることはいうまでもない よって 本論文は博士 ( 人間 環境学 ) の学位論文として価値あるものと認める また 平成 26 年 2 月 21 日 論文内容 とそれに関連した事項について試問を行った結果 合格と認めた なお 本論文は 京都大学学位規程第 14 条第 2 項に該当するものと判断し 公 表に際しては出版事情が許すまで 当該論文の全文に代えてその内容を要約したも のとすることを認める 要旨公表可能日 : 年月日以降