第 1 節 税法の仕組み 1. 法人 ( 株式会社 ) に係る税金の種類 (A) 株式会社に係る税金は, 以下のように分類することができる 1 利益に課せられる税金 2 費用となる税金 3 その他の税金 会社が稼ぎ出した利益に課せられる法人税 住民税 事業税 会社の活動に対して生じる固定資産税, 印紙税等 商品の販売やサービスの提供に課せられる消費税 2. 費用となる税金 ( 租税公課 ) (B) 固定資産税や印紙税等の費用として処理される税金は, 当該納付額を 租税公課 勘定 ( 費用 ) で処理する 租税公課は, 損益計算書上, 販売費及び一般管理費 に計上する ( 借 ) 租税公課 ( 貸 ) 当座預金 以下では, 利益に課せられる税金である法人税, 住民税及び事業税について説明していくことにする 3. 税額計算の仕組み (A) (1) 税額計算 税法上は, 益金から損金を差し引き課税所得を算定し, その課税所得に対して一定の税率を乗じて, 税額を算定している 会計上 : 期間収益 - 期間費用 = 当期利益 ( 適正な期間損益計算 ) 税法上 : 益金 - 損金 = 課税所得 ( 課税の公平性 ) 法人税等 : 課税所得 税率 (2) 申告調整税法上の益金 損金と会計上の収益 費用は, ほとんど一致しているが, 一部分において差異が生じている そのため, 税法上は, 会計上の利益に対して一定の調整を行うことによって課税所得を計算しているのである この調整のことを申告調整という < 申告調整の考え方 > - 8-2 -
会計上の当期利益 + 加算調整項目 - 減算調整項目 = 税法上の課税所得 加算調整項目 : 税法上の課税所得の方が大きくなるため, 会計上の利益に加算する項目 減算調整項目 : 税法上の課税所得の方が小さくなるため, 会計上の利益に減算する項目 < 申告調整項目 > 1 益金算入 会計上は収益として計上しないが, 税務上は益金として認めるもの 加算調整項目 2 損金不算入 会計上は費用として計上するが, 税務上は損金として認めないもの 1 減価償却費 引当金の損金算入限度超過額等 2 交際費 寄付金の損金不算入等 減算調整項目 3 益金不算入 4 損金算入 会計上は収益として計上するが, 税務上は益金として認めないもの会計上は費用として計上しないが, 税務上は損金として認めるもの 受取配当金の益金不算入等 損金不算入 : 会計上の費用より税金上の損金が少ないため, 税法上の課税所得の方が大きい よって, 加算調整項目である 益金不算入 : 会計上の収益より税法上の益金が少ないため, 税法上の課税所得の方が小さい よって, 減算調整項目である - 8-3 -
4. 法定実効税率 (A) (1) 各税金の金額の算定方法 法人税額 : 税法上の課税所得 税率 住民税額 : 法人税額 税率 事業税額 : 税法上の課税所得 税率 (2) 法定実効税率 法人税率 住民税率 事業税率の合計の税率を法定実効税率という 法定実効税率は, 以下の算定式によ り計算される 法定実効税率 = 法人税率 (1 + 住民税率 ) + 事業税率 1 + 事業税率 具体例 法定実効税率の算定 各税率 法人税等 :30% 住民税率 :20.7% 事業税率 :5.3% 法定実効税率 39.42% = 法人税率 30% (1 + 住民税率 20.7%) + 事業税率 5.3% 1 + 事業税率 5.3% < 参考 > 法定実効税率の考え方 事業税は, 納付時に課税所得の計算上, 損金算入されるため, 法定実効税率を X とすると以下の計算 式となる Ⅹ = 法人税率 + 法人税率 住民税率 + 事業税率 -Ⅹ 事業税率 Ⅹ = 法人税率 (1+ 住民税率 )+ 事業税率 -Ⅹ 事業税率 Ⅹ+Ⅹ 事業税率 = 法人税率 (1+ 住民税率 )+ 事業税率 Ⅹ(1+ 事業税率 ) = 法人税率 (1+ 住民税率 )+ 事業税率よって, 法人税率 (1 + 住民税率 ) + 事業税率法定実効税率 = 1 + 事業税率 - 8-4 -
5. 申告時期, 納付時期及び会計処理 (A) 税額は, 一会計期間の課税所得に対して算定されるため, 決算時において算定される そして, 決算日から2ヶ月以内に納付を行うことになっている しかし, 通常中間期において, 中間納付として一定額を支払い, 決算時において算定された金額と中間納付額との差額を決算日後に支払うことになっている 4/1 11/30 3/31 5/31 中間納付決算確定納付 具体例法人税等の流れ平成 1 年 4 月 1 日から平成 2 年 3 月 31 日の会計期間の課税所得が 1,000,000 円であり, 法定実効税率が 40%, 中間納付を 180,000 円行っている会社があった場合の会計処理は以下のとおりである < 中間納付時 ( 1 年 11 月 30 日 )> ( 借 ) 仮払法人税等 180,000 ( 貸 ) 現金預金 180,000 < 決算日 ( 2 年 3 月 31 日 )> ( 借 ) 法人税, 住民税及び事業税 400,000 ( 貸 ) 未払法人税等 220,000 ( ) 仮払法人税等 180,000 法人税, 住民税及び事業税 :1,000,000 円 ( 課税所得 ) 40%=400,000 円 損益計算書 2 税引前当期純利益 2 法人税, 住民税及び事業税 400,000 2 当期純利益 貸借対照表負債の部 Ⅰ 流動負債 Ⅰ 未払法人税等 220,000 < 確定納付時 ( 2 年 5 月 31 日 )> ( 借 ) 未払法人税等 220,000 ( 貸 ) 現金預金 220,000 6. 法人税, 住民税及び事業税と未払法人税等の財務諸表の表示 (A) 法人税, 住民税及び事業税 未払法人税等 損益計算書の税引前当期純利益の下に計上 貸借対照表の流動負債の区分に計上 - 8-5 -
第 2 節 税効果会計の概要 1. 税効果会計の目的及び必要性 (A) 税効果会計は, 企業会計上の資産又は負債の額と課税所得計算上の資産又は負債の額に相違がある場合において, 法人税等の金額を適切に期間配分することにより, 法人税等を控除する前の当期純利益と法人税等を合理的に対応させることを目的としている つまり, 税効果会計は, 税務上の課税所得に基づいて算定される法人税等を会計上の税引前当期純利益に対応する法人税等の金額に, 適切に修正することを目的としている 2. 税効果会計の具体的考え方 (A) 具体例 将来減算一時差異 ( 繰延税金資産 ) 1 今後 3 年間の収益 25,000 円 2 今後 3 年間の減価償却費以外の費用 6,000 円 3 当期首に 30,000 円で備品を取得した 4 3 年後の期末の備品を除却したとする 5 会計上は, 耐用年数 3 年, 残存価額ゼロ, 定額法で減価償却を実施する 6 税法上は, 耐用年数 5 年, 残存価額ゼロ, 定額法で減価償却を実施する 7 毎年の減価償却費及び除却損は, 以下のとおりである 会計上の毎年の減価償却費 :10,000 円会計上の除却損 : 0 円税法上の毎年の減価償却費 : 6,000 円税法上の除却損 :12,000 円 8 毎期の費用総額は, 以下のとおりである 会計上の毎期の費用 :6,000 円 ( その他費用 )+10,000 円 ( 減価償却費 )=16,000 円税法上の1 年目 2 年目の費用 :6,000 円 ( その他の費用 )+6,000 円 ( 減価償却費 )=12,000 円税法上の3 年目の費用 :6,000 円 ( その他費用 )+6,000 円 ( 減価償却費 )+12,000 円 ( 除却損 ) =24,000 円 9 法定実効税率は 40% である - 8-6 -
この場合, 会計上の3 年間の利益と税法上の3 年間の課税所得は次のようになる < 会計上 > 1 年目 2 年目 3 年目 合計 収益 25,000 25,000 25,000 75,000 費用 16,000 16,000 16,000 48,000 利益 9,000 9,000 9,000 27,000 合計額は会計上と 税法上で一致する < 税法上 > 1 年目 2 年目 3 年目 合計 益金 25,000 25,000 25,000 75,000 損金 12,000 12,000 24,000 48,000 所得 13,000 13,000 1,000 27,000 各年度の会計上の利益と税法上の所得会計上の利益と税法上の所得の合計額 各年度の会計上の収益, 費用と税法上の益金と損金の計上時期が異なる ため, 各年度の会計上の利益と税法上の所得にズレが生じる 会計上の利益と税法上の所得の合計額は一致する この時, 毎年の法人税等の金額は, 税法上の課税所得に法定実効税率を乗じて決定されるため, 次のよう になる 1 年目 2 年目 3 年目 合計 課 税 所 得 13,000 13,000 1,000 27,000 法人税等の金額 5,200 5,200 400 10,800 法人税等の金額 = 税法上の所得金額 法定実効税率 この場合に, 税効果会計を適用しなければ会計上の損益計算書は, 次のようになる < 表 1> 1 年目 2 年目 3 年目 合計 税引前当期純利益 9,000 9,000 9,000 27,000 法 人 税 等 5,200 5,200 400 10,800 税引後当期純利益 3,800 3,800 8,600 16,200 < 表 1>の場合には, 税引前当期純利益と法人税等が対応していないため, 損益計算書が各期の企業の業 績を正しく示さないという問題が生じる そして, 本来, 会計上の税引前当期純利益と法人税等が対応しているあるべき会計上の損益計算書は, 次の< 表 2>のようになる < 表 2> 1 年目 2 年目 3 年目合計税引前当期純利益 9,000 9,000 9,000 27,000 40% 40% 40% 法人税等 3,600 3,600 3,600 10,800 税引後当期純利益 5,400 5,400 5,400 16,200-8-7 -
よって, 税効果会計を適用した正しい損益計算書は, 以下のようになる 会計上の法人税等 = 法人税等 ± 法人税等調整額 損益計算書の法人税等に計上する金額を< 表 1>から修正するために, 次の仕訳が必要となる 1 年目 ( 借 ) 繰延税金資産 1,600 ( 貸 ) 法人税等調整額 1,600 2 年目 ( 借 ) 繰延税金資産 1,600 ( 貸 ) 法人税等調整額 1,600 3 年目 ( 借 ) 法人税等調整額 3,200 ( 貸 ) 繰延税金資産 3,200 法人税等調整額の貸方計上額 法人税等調整額の借方計上額 繰延税金資産 法人税等のマイナス調整項目 法人税等のプラス調整項目 前払税金を意味する資産勘定 ここで, 上記の仕訳は, 費用の繰延と考えるとわかりやすい <1 年目 2 年目 > 会計上では 3,600 円発生している法人税等を 5,200 円払ったため, 前払費用 ( 繰延税金資産 ) を 1,600 円計上し, 費用 ( 法人税等 ) を 1,600 円取り消す 法人税等調整額の貸方計上額 法人税等のマイナス調整項目 繰延税金資産の計上 前払費用の計上を意味する <3 年目 > そして, 会計上で 3,600 円発生している法人税等を既に 3,200 円前払いしているため,400 円しか払わなくてよいということである つまり,2 年目までの前払費用 ( 繰延税金資産 ) を 3,200 円取崩し, 費用 ( 法人税等 ) を 3,200 円計上する 法人税等調整額の借方計上額 法人税等のプラス調整項目 繰延税金資産の取消 前払費用の再振替を意味する 上記結果, 税法上の課税所得を基に算定された法人税等の額に一定の調整を行うことにより, 会計上の税 引前当期純利益と法人税等の額が適切に対応し, 適切に表示されるのである - 8-8 -
具体例 将来加算一時差異 ( 繰延税金負債 ) 1 今後 3 年間の収益 25,000 円 2 今後 3 年間の費用は以下のとおりである 1 年目 2 年目 3 年目 会計上 12,000 12,000 24,000 税務上 16,000 16,000 16,000 < 会計上 > 1 年目 2 年目 3 年目 合計 収益 25,000 25,000 25,000 75,000 費用 12,000 12,000 24,000 48,000 利益 13,000 13,000 1,000 27,000 < 税法上 > 1 年目 2 年目 3 年目 合計 益金 25,000 25,000 25,000 75,000 損金 16,000 16,000 16,000 48,000 所得 9,000 9,000 9,000 27,000 合計額は会計上と 税法上で一致する この時, 毎年の法人税等の金額は, 税法上の課税所得に法定実効税率を乗じて決定されるため, 次のよう になる 1 年目 2 年目 3 年目 合計 課 税 所 得 9,000 9,000 9,000 27,000 法人税等の金額 3,600 3,600 3,600 10,800 この場合に, 税効果会計を適用しなければ会計上の損益計算書は, 次のようになる < 表 3> 1 年目 2 年目 3 年目 合計 税引前当期純利益 13,000 13,000 1,000 27,000 法 人 税 等 3,600 3,600 3,600 10,800 税引後当期純利益 9,400 9,400 2,600 16,200 < 表 3>の場合には, 税引前当期純利益と法人税等が対応していないため, 損益計算書が各期の企業の業 績を正しく示さないという問題が生じる そして, 本来, 会計上の利益と法人税等が対応しているあるべき会計上の損益計算書は, 次の< 表 4>のようになる < 表 4> 1 年目 2 年目 3 年目合計税引前当期純利益 13,000 13,000 1,000 27,000 40% 40% 40% 法人税等 5,200 5,200 400 10,800 税引後当期純利益 7,800 7,800 600 16,200-8-9 -
よって, 税効果会計を適用した正しい損益計算書は, 以下のようになる 1 年目 ( 借 ) 法人税等調整額 1,600 ( 貸 ) 繰延税金負債 1,600 2 年目 ( 借 ) 法人税等調整額 1,600 ( 貸 ) 繰延税金負債 1,600 3 年目 ( 借 ) 繰延税金負債 3,200 ( 貸 ) 法人税等調整額 3,200 法人税等調整額の借方計上額 法人税等調整額の貸方計上額 繰延税金負債 法人税等のプラス調整項目 法人税等のマイナス調整項目 未払税金を意味する負債勘定 ここで, 上記の仕訳は, 費用の見越と考えるとわかりやすい <1 年目 2 年目 > 会計上では 5,200 円発生している法人税等を 3,600 円しか払っていないため, 未払費用 ( 繰延税金負債 ) を 1,600 円計上し, 費用 ( 法人税等 ) を 1,600 円増加させる 法人税等調整額の借方計上額 法人税等のプラス調整項目 繰延税金負債の計上 未払費用の計上を意味する <3 年目 > 3 年目に, 会計上では法人税等が 400 円発生しているが, 未払費用を 3,200 円支払うため, 合計 3,600 円支払うことになる つまり,2 年目までの未払費用 ( 繰延税金負債 ) を 3,200 円取崩し, 費用 ( 法人税等 ) を 3,200 円取り消す 法人税等調整額の貸方計上額 法人税等のマイナス調整項目 繰延税金負債の取消 未払費用の再振替を意味する - 8-10 -
3. 一時差異等について (A) 会計上の収益 費用と税法上の益金 損金の差額について税効果会計を適用することになるが, すべての差額について適用するわけではない 当該差額は, 一時差異と永久差異に分けられる 一時差異とは, 計上時期が期間的にズレるものであり, 最終的には会計上と税法上とが一致する差異である 対して, 永久差異とは, ズレが永久に解消されないものである そして, 税効果会計の対象は, 一時差異等に限定されており, 永久差異は適用外である 一時差異 永久差異 意義一時差異とは, 会計上の資産及び負債と課税所得計算上の資産及び負債との一時的な差異をいう永久差異とは, 会計上では収益及び費用に計上されるが, 税法上では永久に益金または損金に算入されない項目をいう 税効果会計の適用の有無 税効果会計を適用する 税効果会計を適用しない 4. 一時差異等の分類 (A) (1) 将来減算一時差異 ( 繰延税金資産 ) 将来減算一時差異とは, 将来, 当該差異が解消するときに課税所得の計算上減算されるものをいう < 発生年度の決算整理仕訳 > ( 借 ) 繰延税金資産 ( 貸 ) 法人税等調整額 < 発生年度 > 会計上の利益 < 税法上の所得 法人税等を多く支払っている 法人税等をマイナス調整し, 繰延税金資産 ( 前払税金 ) を計上する < 解消年度の決算整理仕訳 > ( 借 ) 法人税等調整額 ( 貸 ) 繰延税金資産 < 解消年度 > 会計上の利益 > 税法上の所得 法人税等をプラス調整し, 繰延税金資産 ( 前払税金 ) を取消す - 8-11 -
(2) 将来加算一時差異 ( 繰延税金負債 ) 将来加算一時差異とは, 将来, 当該差異が解消するときに課税所得の計算上加算されるものをいう < 発生年度の決算整理仕訳 > ( 借 ) 法人税等調整額 ( 貸 ) 繰延税金負債 < 発生年度 > 会計上の利益 > 税法上の所得 法人税等の支払いが少ない 法人税等をプラス調整し, 繰延税金負債 ( 未払税金 ) を計上する < 解消年度の決算整理仕訳 > ( 借 ) 繰延税金負債 ( 貸 ) 法人税等調整額 < 解消年度 > 会計上の利益 < 税法上の所得 法人税等をマイナス調整し, 繰延税金負債 ( 未払税金 ) を取消す 将来減算一時差異将来加算一時差異 時期 利益と所得 決算整理仕訳 発生時 会計上の利益 < 税法上の所得 ( 借 ) 繰延税金資産 ( 貸 ) 法人税等調整額 解消時 会計上の利益 > 税法上の所得 ( 借 ) 法人税等調整額 ( 貸 ) 繰延税金資産 発生時 会計上の利益 > 税法上の所得 ( 借 ) 法人税等調整額 ( 貸 ) 繰延税金負債 解消時 会計上の利益 < 税法上の所得 ( 借 ) 繰延税金負債 ( 貸 ) 法人税等調整額 税効果会計の仕訳は, 決算整理仕訳で行う点に留意すること (3) 法人税等調整額の計算 法人税等調整額 = 当期に発生又は解消した一時差異 法定実効税率 (4) 一時差異等の 等 の意味将来の課税所得と相殺可能な繰越欠損金等については, 将来の課税所得を減額し, 税金費用を減少させる効果をもつことから, 一時差異 ( 将来減算一時差異 ) と同様に取り扱う つまり, 一時差異等の 等 とは, 繰越欠損金等を示している - 8-12 -
例題 1 税効果会計 1 重要度 A 難易度 A 次の資料により, 税効果会計を適用した場合の 1 年度及び 2 年度の損益計算書を作成し, 税効果に係 る決算整理仕訳を示しなさい 1. 1 年度及び 2 年度の収益及び費用の状況 1 年度 2 年度 収益総額 100,000 千円 100,000 千円 費用総額 1( 注 )60,000 千円 60,000 千円 ( 注 ) 1 年度の費用総額には, 税法上損金に算入されない項目が 10,000 千円含まれており, 1 年度 の損金は 50,000 千円である また, 上記 10,000 千円は 2 年度において損金算入されるため, 2 年度の損金は 70,000 千円で ある 2. 会計上と税法上の申告調整項目は上記 1. 以外ないものとし, 法定実効税率を 40% とする 解答解説 ( 単位 : 千円 ) ( 1 年度 ) ( 2 年度 ) 損益計算書 損益計算書 収 益 総 額 100,000 100,000 費 用 総 額 160,000 60,000 税引前当期純利益 140,000 140,000 法人税, 住民税及び事業税 120,000 12,000 法人税等調整額 114,000 16,000 4,000 16,000 当 期 純 利 益 124,000 124,000 < 1 年度の決算整理仕訳 > ( 借 ) 法人税等 20,000 ( 貸 ) 未払法人税等 20,000 ( 借 ) 繰延税金資産 4,000 ( 貸 ) 法人税等調整額 4,000 法人税等 :{40,000 千円 ( 会計上の利益 )+10,000 千円 ( 損金不算入額 )} 40%=20,000 千円 繰延税金資産 :10,000 千円 ( 損金不算入額 ) 40%=4,000 千円 < 2 年度の決算整理仕訳 > ( 借 ) 法人税等 12,000 ( 貸 ) 未払法人税等 12,000 ( 借 ) 法人税等調整額 4,000 ( 貸 ) 繰延税金資産 4,000 法人税等 :{40,000 千円 ( 会計上の利益 )-10,000 千円 ( 損金不算入額認容 )} 40%=12,000 千円 繰延税金資産 :10,000 千円 ( 損金不算入額認容 ) 40%=4,000 千円 - 8-13 -
例題 2 税効果会計 2 重要度 A 難易度 A 次の資料により, 税効果会計を適用した場合の 1 年度及び 2 年度の損益計算書を作成し, 税効果に係 る決算整理仕訳を示しなさい 1. 1 年度及び 2 年度の収益及び費用の状況 ( 単位 : 千円 ) 1 年度 2 年度 収益総額 1( 注 )100,000 千円 100,000 千円 費用総額 60,000 千円 60,000 千円 ( 注 ) 1 年度の収益総額には, 税法上益金に算入されない項目が 10,000 千円含まれており, 1 年 度の益金は 90,000 千円である また, 上記 10,000 千円は, 2 年度において益金算入されるため, 2 年度の益金は 110,000 千円である 2. 会計上と税法上の申告調整項目は上記 1. 以外ないものとし, 法定実効税率を 40% とする 解答解説 ( 単位 : 千円 ) ( 1 年度 ) ( 2 年度 ) 損益計算書 損益計算書 収 益 総 額 100,000 100,000 費 用 総 額 160,000 60,000 税引前当期純利益 140,000 140,000 法人税, 住民税及び事業税 112,000 20,000 法人税等調整額 14,000 16,000 4,000 16,000 当 期 純 利 益 124,000 124,000 < 1 年度の決算整理仕訳 > ( 借 ) 法人税等 12,000 ( 貸 ) 未払法人税等 12,000 ( 借 ) 法人税等調整額 4,000 ( 貸 ) 繰延税金負債 4,000 法人税等 :{40,000 千円 ( 会計上の利益 )-10,000 千円 ( 益金不算入額 )} 40%=12,000 千円 繰延税金負債 :10,000 千円 ( 益金不算入額 ) 40%=4,000 千円 < 2 年度の決算整理仕訳 > ( 借 ) 法人税等 20,000 ( 貸 ) 未払法人税等 20,000 ( 借 ) 繰延税金負債 4,000 ( 貸 ) 法人税等調整額 4,000 法人税等 :{40,000 千円 ( 会計上の利益 )+10,000 千円 ( 益金不算入額認容 )} 40%=20,000 千円 繰延税金負債 :10,000 千円 ( 益金不算入額認容 ) 40%=4,000 千円 - 8-14 -
5. 税効果会計の方法 (A) 税効果会計の方法には, 繰延法と資産負債法という 2 つの考え方があり, 税効果会計に係る会計基準では, 資産負債法の考え方を採用している 1 繰延法繰延法とは, 企業会計上の収益及び費用と課税所得計算上の益金及び損金との差異を期間差異と永久差異に区分し, このうち期間差異に対してその差異項目に関連する税効果を当該項目の発生時の税率に基づいて計算し, 期間差異が消滅するまで繰延べる方法である 繰延法は, 損益計算書を重視し, 収益 費用と益金 損金との差額を法人税等調整額により適切に処理しようとする方法である 従って, 差額が生じた年度の税率に基づいて税効果を認識するのである 2 資産負債法資産負債法とは, 企業会計上の資産及び負債の金額と課税所得計算上の資産及び負債の金額との差異を一時差異とし, この一時差異に対して, 差異が消滅する時点の税率を用いて税効果を認識する方法である 資産負債法は繰延法に比較して正確な計算が行われるが, 税率の変更を加味する分計算は複雑になる 資産負債法は, 貸借対照表を重視し, 会計上の資産 負債と税法上の資産 負債との差額を適切に処理しようとする方法である 従って, 差額が解消する年度の税率に基づいて税効果を認識するため, 税率の変更が行われた場合には, 再度税効果の計算を行うことになる < 繰延法と資産負債法の比較 > 特徴差異の定義差異の発生原因税率変更の取扱い 繰延法会計上と税務上の差異を損益計算書から認識する方法損益計算書に計上されている収益 費用の額と法人税法上の益金 損金の額との差額をいう 収益又は費用の帰属年度が相違する場合 ( 期間差異 ) 繰延税金資産 繰延税金負債の再計算は行わず, 一時差異の解消年度まで繰り越す 資産負債法会計上と税務上の差異を貸借対照表から認識する方法貸借対照表に計上されている資産 負債の額と法人税法上の資産 負債の額との差額をいう 1 収益又は費用の帰属年度が相違する場合 ( 期間差異 ) 2 資産の評価替により生じた評価差額が直接純資産の部へ計上される場合繰延税金資産 繰延税金負債を新たな税率で再計算する - 8-15 -
6. 個別財務諸表上における税効果会計の具体例 (A) 差異の分類 具 体 例 棚卸資産の評価損損金不算入額賞与引当金損金不算入額未払事業税の損金不算入額 貸倒引当金繰入限度超過額将来減算退職給付引当金損金不算入額一時差異期間差異減価償却費損金算入限度超過額 一時差異 その他有価証券評価損の損金不算入額 ( 部分純資産直入法 ) 償却原価法 ( 税法上 定額法, 会計上 利息法 ) 割賦収益 ( 税法上 回収期限到来基準, 会計上 回収基準 ) 将来加算一時差異 積立金を積み立てる方式による特別償却準備金積立金を積み立てる方式による圧縮積立金等 評価差額に係るもの その他有価証券の評価差額土地再評価法による評価差額 交際費の損金算入限度超過額 永久差異 ( 税効果会計適用外 ) 寄付金の損金算入限度超過額損金不算入の罰科金 受取配当金の益金不算入額 永久差異とは, 会計上では収益 費用に計上されるが, 税法上では永久に益金又は損金に計上されない 項目であり, 一時差異に該当しないため, 税効果会計の対象とならない - 8-16 -
第 3 節 財務諸表の表示 (A) (1) 繰延税金資産及び繰延税金負債の分類繰延税金資産及び繰延税金負債は, 流動項目と固定項目に分類される 分類方法は,1 税効果会計の発生の原因となった資産及び負債の分類に基づいて行われる なお,2 特定の資産 負債に関連しない繰越欠損金等に係る繰延税金資産及び繰延税金負債は, 一年基準により分類する 発生の原因となった資産 負債の分類 繰延税金資産 繰延税金負債 流動項目 流動資産 流動負債 固定項目 投資その他の資産 固定負債 特定の資産 負債に関連しない場合には, 一年基準を適用する (2) 繰延税金資産及び繰延税金負債の相殺表示 貸借対照表において, 繰延税金資産 繰延税金負債は, 流動項目 固定項目ごとに相殺して表示する な お, 流動項目と固定項目の繰延税金資産と繰延税金負債は相殺できない 具体例 繰延税金資産及び繰延税金負債の相殺表示 (3) 法人税等調整額の表示方法 ( 損益計算書 ) 法人税, 住民税及び事業税の下に 法人税等調整額 として表示する なお, 法人税等調整額が貸方残高 の場合には, マイナスの符号を付すことになる 税引前当期純利益 法人税, 住民税及び事業税 法人税等調整額 ( ) 当 期 純 利 益 - 8-17 -
例題 3 財務諸表の表示 1 重要度 A 難易度 A 次の資料により, 税効果会計を適用した場合, 以下の設問に答えなさい 1. 当期末における一時差異は, 次のとおりである (1) 将来減算一時差異 流動資産に係るもの 8,000 円 固定資産に係るもの 5,000 円 (2) 将来加算一時差異 流動資産に係るもの 2,000 円 固定資産に係るもの 9,000 円 2. 税法上の課税所得に対する法人税, 住民税及び事業税は 100,000 円であり, 中間申告で 40,000 円中間 納付しており, 仮払法人税等勘定で処理している 3. 法定実効税率は 40% とする 4. 当期の税引前当期純利益は 248,000 円 5. 前期末において, 一時差異は, 生じていないものとする 問 1 決算整理仕訳を示しなさい 問 2 決算整理後残高試算表を作成しなさい 問 3 貸借対照表及び損益計算書を作成しなさい 解答解説 ( 単位 : 円 ) 問 1 ( 借 ) 法人税, 住民税及び事業税 100,000 ( 貸 ) 仮払法人税等 40,000 ( ) 未払法人税等 60,000 ( 借 ) 繰延税金資産 5,200 ( 貸 ) 法人税等調整額 5,200 ( 借 ) 法人税等調整額 4,400 ( 貸 ) 繰延税金負債 4,400 問 2 後 T/B 繰延税金資産 5,200 未払法人税等 60,000 法人税, 住民税及び事業税 100,000 繰延税金負債 4,400 法人税等調整額 800 問 3 貸借対照表 Ⅰ 流動資産 Ⅰ 流動負債 Ⅰ 繰延税金資産 2,400 未払法人税等 60,000 Ⅱ 固定負債繰延税金負債 1,600-8-18 -
損益計算書 税引前当期純利益 248,000 法人税, 住民税及び事業税 100,000 法人税等調整額 800 99,200 当 期 純 利 益 148,800 1. 将来減算一時差異の認識 (8,000 円 +5,000 円 ) 40%=5,200 円 2. 将来加算一時差異の認識 (2,000 円 +9,000 円 ) 40%=4,400 円 3. 繰延税金資産及び繰延税金負債の貸借対照表の表示 繰延税金資産 繰延税金負債 貸借対照表の表示 流動項目 3,200 800 2,400( 繰延税金資産 ) 固定項目 2,000 3,600 1,600( 繰延税金負債 ) 合計 5,200 4,400-8-19 -
例題 4 財務諸表の表示 2 重要度 A 難易度 B 次の資料により, 税効果会計を適用した場合, 以下の設問に答えなさい 1. 決算整理前残高試算表 残高試算表 3 年 3 月 31 日 ( 単位 : 円 ) 繰延税金資産 1,600 繰延税金負債 1,200 仮払法人税等 40,000 一 般 売 上 235,000 2. 前期末における一時差異 ( すべて当期に解消している ) (1) 将来減算一時差異 流動資産に係るもの 4,000 円 (2) 将来加算一時差異 流動資産に係るもの 3,000 円 3. 当期末における一時差異は, 次のとおりである (1) 将来減算一時差異 流動資産に係るもの 8,000 円 固定資産に係るもの 5,000 円 (2) 将来加算一時差異 流動資産に係るもの 2,000 円 固定資産に係るもの 9,000 円 4. 税法上の課税所得に対する法人税, 住民税及び事業税は 100,000 円であり, 中間申告で 40,000 円中間 納付しており, 仮払法人税等勘定で処理している 5. 法定実効税率は 40% とする 問 1 決算整理仕訳を示しなさい 問 2 決算整理後残高試算表を作成しなさい 問 3 貸借対照表を作成しなさい 解答解説 ( 単位 : 円 ) 問 1 ( 借 ) 法人税, 住民税及び事業税 100,000 ( 貸 ) 仮払法人税等 40,000 ( ) 未払法人税等 60,000 ( 借 ) 法人税等調整額 1,600 ( 貸 ) 繰延税金資産 1,600 ( 借 ) 繰延税金負債 1,200 ( 貸 ) 法人税等調整額 1,200 ( 借 ) 繰延税金資産 5,200 ( 貸 ) 法人税等調整額 5,200 ( 借 ) 法人税等調整額 4,400 ( 貸 ) 繰延税金負債 4,400 問 2 後 T/B 繰延税金資産 5,200 未払法人税等 60,000 法人税, 住民税及び事業税 100,000 繰延税金負債 4,400 法人税等調整額 400-8-20 -
問 3 貸借対照表 Ⅰ 流動資産 Ⅰ 流動負債 Ⅰ 繰延税金資産 2,400 未払法人税等 60,000 Ⅱ 固定負債繰延税金負債 1,600 1. 一時差異の分析 前期末一時差異 当期解消 当期発生 当期末一時差異 将来減算 流動 4,000 4,000 8,000 8,000 一時差異 固定 - - 5,000 5,000 将来加算 流動 3,000 3,000 2,000 2,000 一時差異 固定 - - 9,000 9,000 合計 ( 正味 ) 1,000 1,000 2,000 2,000 2. 将来減算一時差異及び将来加算一時差異の解消 将来減算一時差異 :4,000 円 40%=1,600 円 将来加算一時差異 :3,000 円 40%=1,200 円 3. 将来減算一時差異及び将来加算一時差異の認識 将来減算一時差異 :(8,000 円 +5,000 円 ) 40%=5,200 円 将来加算一時差異 :(2,000 円 +9,000 円 ) 40%=4,400 円 4. 繰延税金資産及び繰延税金負債の貸借対照表の表示 繰延税金資産 繰延税金負債 貸借対照表の表示 流動項目 3,200 800 2,400( 繰延税金資産 ) 固定項目 2,000 3,600 1,600( 繰延税金負債 ) 合計 5,200 4,400 5. 法人税等調整額の金額 1,200 円 +5,200 円 -1,600 円 -4,400 円 =400 円 ( 貸方残高 ) ( 別解 ) 1,600 円 ( 期首繰延税金資産 )-1,200 円 ( 期末繰延税金負債 )=400 円 ( 期首正味繰延税金資産 ) 5,200 円 ( 期末繰延税金資産 )-4,400 円 ( 期末繰延税金負債 )=800 円 ( 期末正味繰延税金資産 ) 800 円 ( 期末正味繰延税金資産 )-400 円 ( 期首正味繰延税金資産 )=400 円 ( 貸方 ) - 8-21 -
第 4 節 具体的な会計処理 1. 損金算入限度超過額 (A) 損金算入限度超過額とは, 会計上において費用計上した金額の一部が, 税法上の損金として認められない場合 ( 損金不算入 ) の当該超過額をいう この具体例として, 引当金の損金算入限度超過額や減価償却費の損金算入限度超過額が挙げられる 損金算入限度超過額 = 会計上の費用計上額 - 税法上の損金計上額 損金算入限度超過額 ( 損金不算入 ) が生じた場合においては, 将来減算一時差異 ( 繰延税金資産 ) が生じる また, 将来当該差異が解消されることを損金算入限度超過額の当期認容という < 発生年度の決算整理仕訳 > ( 借 ) 繰延税金資産 ( 貸 ) 法人税等調整額 < 解消年度の決算整理仕訳 > ( 借 ) 法人税等調整額 ( 貸 ) 繰延税金資産 例題 5 貸倒引当金 重要度 A 難易度 A 次の資料により, 税効果会計を適用した場合の以下の設問に答えなさい 1. 第 1 期及び第 2 期の収益及び費用の状況 第 1 期 第 2 期 収益総額 100,000 円 100,000 円 費用総額 1( 注 1)60,000 円 60,000 円 ( 注 1) 第 1 期の費用総額には, 貸倒引当金繰入額 10,000 円が含まれているが, 税務上の繰入限度額 は,4,000 円であった ( 注 2) 第 2 期において貸倒引当金設定分の債権 10,000 円が貸倒れ, 会計上は引当金を補填したが, 税務上は繰入限度超過額が損金算入された 2. 会計上と税法上の申告調整項目は上記 1. 以外ないものとし, 法定実効税率を 40% とする 問 1 第 1 期及び第 2 期の税効果会計に関する決算整理仕訳を示しなさい 問 2 税効果適用後の第 1 期及び第 2 期の損益計算書を示しなさい - 8-22 -
解答解説 ( 単位 : 円 ) 問 1 < 第 1 期末の決算整理仕訳 > ( 借 ) 繰延税金資産 2,400 ( 貸 ) 法人税等調整額 2,400 < 第 2 期末の決算整理仕訳 > ( 借 ) 法人税等調整額 2,400 ( 貸 ) 繰延税金資産 2,400 問 2 < 第 1 期 > < 第 2 期 > 損益計算書 損益計算書 収 益 総 額 100,000 収 益 総 額 100,000 費 用 総 額 160,000 費 用 総 額 160,000 税引前当期純利益 140,000 税引前当期純利益 140,000 法人税, 住民税及び事業税 118,400 法人税, 住民税及び事業税 113,600 法人税等調整額 2,400 法人税等調整額 112,400 当 期 純 利 益 124,000 当 期 純 利 益 124,000 1. 各年度の課税所得の金額 第 1 期 : 会計上の利益 40,000 円 +6,000 円 ( 損金算入限度超過額 )=46,000 円 第 2 期 : 会計上の利益 40,000 円 -6,000 円 ( 当期認容額 )=34,000 円 2. 各年度の課税所得に基づく法人税, 住民税及び事業税の金額 第 1 期 :46,000 円 ( 課税所得 ) 40%=18,400 円 第 2 期 :34,000 円 ( 課税所得 ) 40%=13,600 円 3. 第 1 期における将来減算一時差異 (10,000 円 -4,000 円 ) 40%=2,400 円 例題 6 減価償却費 重要度 A 難易度 B 次の資料により, 税効果会計を適用した場合の以下の設問に答えなさい 1. 第 1 期及び第 2 期の収益及び費用の状況 第 1 期 第 2 期 収益総額 100,000 円 100,000 円 費用総額 160,000 円 60,000 円 ( 注 ) 当社は, 第 1 期期首に備品 30,000 円で取得し, 耐用年数 5 年, 残存価額 10%, 定額法で減価償 却を実施しているが, 税法上の法定耐用年数は8 年である 2. 会計上と税法上の申告調整項目は上記 1. 以外ないものとし, 法定実効税率を 40% とする 問 1 第 1 期及び第 2 期の税効果会計に関する決算整理仕訳を示しなさい 問 2 税効果適用後の第 1 期及び第 2 期の損益計算書を示しなさい - 8-23 -
解答解説 ( 単位 : 円 ) 問 1 < 第 1 期末の決算整理仕訳 > ( 借 ) 繰延税金資産 810 ( 貸 ) 法人税等調整額 810 < 第 2 期末の決算整理仕訳 > ( 借 ) 繰延税金資産 810 ( 貸 ) 法人税等調整額 810 問 2 < 第 1 期 > < 第 2 期 > 損益計算書 損益計算書 収 益 総 額 100,000 収 益 総 額 100,000 費 用 総 額 160,000 費 用 総 額 160,000 税引前当期純利益 140,000 税引前当期純利益 140,000 法人税, 住民税及び事業税 116,810 法人税, 住民税及び事業税 116,810 法人税等調整額 810 法人税等調整額 810 当 期 純 利 益 124,000 当 期 純 利 益 124,000 1. 損金算入限度超過額会計上の減価償却費 :30,000 円 90% 5 年 =5,400 円税法上の損金算入限度額 :30,000 円 90% 8 年 =3,375 円毎年新たに発生する損金算入限度超過額 :5,400 円 ( 会計上の減価償却費 ) -3,375 円 ( 税法上の損金算入限度額 )=2,025 円 2. 各年度の課税所得の金額 会計上の利益 40,000 円 +2,025 円 ( 損金算入限度超過額 )=42,025 円 3. 各年度の課税所得に基づく法人税, 住民税及び事業税の金額 42,025 円 ( 課税所得 ) 40%=16,810 円 4. 一時差異の分析 将来減算一時差異将来加算一時差異 前期末一時差異 当期解消 当期発生 当期末一時差異 流動 - - - - 固定 2,025-2,025 4,050 流動 - - - - 固定 - - - - - 8-24 -
5. 将来減算一時差異の認識第 1 期 :2,025 円 40%=810 円第 2 期 :2,025 円 40%=810 円第 2 期末における将来減算一時差異の累計 :810 円 ( 第 1 期認識分 )+810 円 ( 第 2 期度認識分 )=1,620 円 貸借対照表には, 繰延税金資産 ( 投資その他の資産 ) が 1,620 円計上される 当該将来減算一時差異は, 売却等を行ったときに解消する 2. 退職給付引当金 (A) 退職給付に関しては, 会計上は, 発生主義で費用認識するが, 税法上は, 退職一時金の支給時及び企業年金への掛金拠出時に損金に算入される ( 現金主義 ) そのため, 会計上の退職給付引当金の設定額は, 将来減算一時差異となる また, 退職一時金の支給時及び企業年金への掛金拠出時には, 一時差異の解消となる 退職給付費用計上額 退職給付引当金の減少額 退職給付引当金の貸借対照表計上額 将来減算一時差異の発生 将来減算一時差異の解消 当期末現在の将来減算一時差異合計 < 発生年度の決算整理仕訳 > ( 借 ) 繰延税金資産 ( 貸 ) 法人税等調整額 < 解消年度の決算整理仕訳 > ( 借 ) 法人税等調整額 ( 貸 ) 繰延税金資産 - 8-25 -
例題 7 退職給付引当金 重要度 A 難易度 B 次の資料により, 税効果会計に関する決算整理仕訳を示しなさい 1. 当社は, 内部積立型の退職一時金制度を採用している 2. 期首の退職給付引当金 40,000 円 3. 当期の退職給付費用 8,000 円 4. 当期の退職一時金支払額 10,000 円 5. 期末の退職給付引当金 38,000 円 6. 会計上と税法上の申告調整項目は上記 1. 以外ないものとし, 法定実効税率を 40% とする 解答解説 ( 単位 : 円 ) < 決算整理仕訳 > ( 借 ) 繰延税金資産 3,200 ( 貸 ) 法人税等調整額 3,200 ( 借 ) 法人税等調整額 4,000 ( 貸 ) 繰延税金資産 4,000 1. 一時差異の分析 将来減算一時差異将来加算一時差異 前期末一時差異 当期解消 当期発生 当期末一時差異 流動 - - - - 固定 40,000 10,000 8,000 38,000 流動 - - - - 固定 - - - - 2. 期首繰延税金資産 40,000 円 ( 期首将来減算一時差異 ) 40%=16,000 円 3. 将来減算一時差異の解消 10,000 円 40%=4,000 円 4. 将来減算一時差異の発生 8,000 円 40%=3,200 円 5. 期末繰延税金資産 16,000 円 ( 期首 )-4,000 円 ( 解消 )+3,200 円 ( 発生 )=15,200 円 ( 別解 ) 38,000 円 ( 期末将来減算一時差異 ) 40%=15,200 円 - 8-26 -
3. 未払事業税の損金不算入 (A) 未払事業税は, 会計上は発生主義で費用計上するが, 税法上は現金主義で損金計上する そのため, 毎期会計上計上した未払事業税は, 将来減算一時差異となる また, 前期の未払事業税は, 税法上で当期の損金に算入されるため, 一時差異の解消となる 当期末の未払事業税 前期末の未払事業税 将来減算一時差異の発生 将来減算一時差異の解消 < 発生年度の決算整理仕訳 > ( 借 ) 繰延税金資産 ( 貸 ) 法人税等調整額 < 解消年度の決算整理仕訳 > ( 借 ) 法人税等調整額 ( 貸 ) 繰延税金資産 例題 8 未払事業税 重要度 A 難易度 B 次の資料により, 税効果会計を適用した場合の以下の設問に答えなさい 1. 第 2 期の収益及び費用の状況 第 2 期 収益総額 100,000 円 費用総額 60,000 円 ( 注 ) 当社は, 第 1 期末において未払事業税 3,000 円を計上し, 第 2 期に支払っている また, 第 2 期 末に未払事業税 4,000 円を計上した 2. 会計上と税法上の申告調整項目は上記 1. 以外ないものとし, 法定実効税率を 40% とする 問 1 第 2 期の税効果会計に関する決算整理仕訳を示しなさい 問 2 税効果適用後の第 2 期の損益計算書を示しなさい - 8-27 -
解答解説 ( 単位 : 円 ) 問 1 ( 借 ) 法人税等調整額 1,200 ( 貸 ) 繰延税金資産 1,200 ( 借 ) 繰延税金資産 1,600 ( 貸 ) 法人税等調整額 1,600 問 2 損益計算書 収 益 総 額 100,000 費 用 総 額 160,000 税引前当期純利益 140,000 法人税, 住民税及び事業税 116,400 法人税等調整額 400 当 期 純 利 益 124,000 1. 一時差異の分析 将来減算一時差異将来加算一時差異 前期末一時差異 当期解消 当期発生 当期末一時差異 流動 3,000 3,000 4,000 4,000 固定 - - - - 流動 - - - - 固定 - - - - 当期末の未払事業税の金額が, 将来減算一時差異の発生として認識され, 前期末未払事業税の金額が, 将来減算一時差異の解消として扱われる 2. 第 2 期の税効果会計将来減算一時差異の解消額 :3,000 円 40%=1,200 円将来減算一時差異の発生額 :4,000 円 40%=1,600 円課税所得の金額 :40,000 円 ( 会計上の利益 )-3,000 円 ( 当期認容 )+4,000 円 ( 当期損金不算入 )=41,000 円課税所得に基づく法人税, 住民税及び事業税 :41,000 円 ( 課税所得 ) 40%=16,400 円 - 8-28 -
例題 9 総合問題 1 重要度 A 難易度 C 当社は税効果会計を適用しており, 当期 ( 平成 4 年 4 月 1 日 ~ 平成 5 年 3 月 31 日 ) の税効果会計に関する資料は, 次のとおりである 下記の設問に答えなさい 1. 決算整理前残高試算表残高試算表平成 5 年 3 月 31 日 ( 単位 : 千円 ) 繰延税金資産 1,540 仮払法人税等 185,200 一般売上 235,000 2. 当期の税引前当期純利益 824,000 千円である 3. 前期末の税法上の申告調整項目は, 次のとおりである 1 受取配当金の益金不算入額 4,000 千円 2 貸倒引当金の損金算入限度超過額 3,500 千円 4. 当期末の税法上の申告調整項目は, 次のとおりである 1 交際接待費の損金不算入額 4,000 千円 2 貸倒引当金の損金算入限度超過額の当期認容 3,500 千円 3 減価償却費の損金算入限度超過額 2,500 千円 4 退職給付引当金の損金不算入額 12,500 千円 5. 税法上の課税所得に対応する法人税, 住民税及び事業税は 369,380 千円である なお, 中間申告により 185,200 千円を納付しており, 仮払法人税等勘定で処理している 6. 前期及び当期の法定実効税率は 44% である 問 1 決算整理仕訳を示しなさい 問 2 損益計算書の税引前当期純利益から当期純利益までの表示を示しなさい 問 3 貸借対照表を作成しなさい 解答解説 ( 単位 : 千円 ) 問 1 < 納付法人税等の仕訳 > ( 借 ) 法人税, 住民税及び事業税 369,380 ( 貸 ) 仮払法人税等 185,200 ( ) 未払法人税等 184,180 < 税効果会計に関する仕訳 > 1. 受取配当金の益金不算入について法人間の受取配当金は, 二重課税回避に関連して一定額以上は益金に算入されない そして, この差異に関しては, 永久に解消されないため税効果会計の対象とはならない - 8-29 -
2. 貸倒引当金の損金算入限度超過額及び認容について引当金の損金計上額は, 税法において詳細に規定されており, 会計上で計上した繰入額が税法上の限度額を超過した場合には, 将来減算一時差異が生じる そして, それが次年度以降に解消 ( 当期認容 ) された場合には, 差異の解消の仕訳を行う ( 借 ) 法人税等調整額 1,540 ( 貸 ) 繰延税金資産 1,540 3,500 千円 44%=1,540 千円 3. 交際費の損金不算入 交際費は, その性質上, 損金算入額の限度が設けられており, 超過部分は損金に算入されない そして, 永久に損金に算入されることがないため, 税効果会計の対象とはならない 4. 減価償却費, 退職給付引当金の損金算入限度超過額について減価償却費と退職給付引当金も貸倒引当金と同様に, 損金算入限度超過額が発生した場合には, 将来減算一時差異が発生する よって仕訳は以下のようになる ( 借 ) 繰延税金資産 6,600 ( 貸 ) 法人税等調整額 6,600 5. 一時差異の分析前期末一時差異当期解消当期発生当期末一時差異貸倒引当金 ( 流動 ) 3,500 3,500 - - 将来減算減価償却費 ( 固定 ) - - 2,500 2,500 一時差異退職給付引当金 ( 固定 ) - - 12,500 12,500 合計 3,500 3,500 15,000 15,000 6. 繰延税金資産及び繰延税金負債の貸借対照表の表示 繰延税金資産 繰延税金負債 貸借対照表の表示 流動項目 - - - 固定項目 6,600-6,600( 繰延税金資産 ) - 8-30 -
問 2 損益計算書 税引前当期純利益 824,000 法人税, 住民税及び事業税 369,380 法人税等調整額 5,060 364,320 当 期 純 利 益 459,680 法人税等調整額は, 当期発生分と解消分をすべて相殺して純額で表示する 6,600 千円 -1,540 千円 =5,060 千円 ( 貸方 ) ( 別解 ) 期首繰延税金資産 :3,500 千円 ( 前期末将来減算一時差異 ) 44%=1,540 千円 期末繰延税金資産 :15,000 千円 ( 当期末将来減算一時差異 ) 44%=6,600 千円 法人税等調整額 :6,600 千円 ( 期末繰延税金資産 )-1,540 千円 ( 期首繰延税金資産 )=5,060 千円 問 3 貸借対照表 Ⅱ 固定資産 Ⅰ 流動負債 3 投資その他の資産 未払法人税等 184,180 繰延税金資産 6,600 退職給付引当金, 有形固定資産とも流動項目ではないため, 繰延税金資産 6,600 千円は投資その他の 資産に計上される 重要ポイント!! 税効果会計の問題における手順 1 一時差異の分析表を作成する その際に, 将来減算一時差異と将来加算一時差異の区別及び, 流動項目と固定項目の区別に留意する 2 分析表から, 当期解消額と当期発生額の決算整理仕訳を行い, 法人税等調整額を算定する 3 法人税等調整額は, 期首の正味繰延税金資産と期末の正味繰延税金資産の差額から算定することもできる 4 分析表の当期末一時差異の金額から, 流動項目の繰延税金資産 繰延税金負債, 固定項目の繰延税金資産 繰延税金負債を算定する 5 貸借対照表には, 流動項目 固定項目ごとに相殺して表示する - 8-31 -
例題 10 総合問題 2 重要度 A 難易度 C 当社は税効果会計を適用しており, 当期 ( 平成 4 年 4 月 1 日 ~ 平成 5 年 3 月 31 日 ) の税効果会計に関する資料は, 次のとおりである 下記の設問に答えなさい 1. 決算整理前残高試算表残高試算表 ( 単位 : 円 ) 繰延税金資産 11,200 仮払法人税等 26,500 2. 税効果会計に関する事項 (1) 当期の税引前当期純利益 140,000 円である (2) 前期末の税法上の申告調整項目は, 次のとおりである 1 未払事業税の損金不算入額 3,000 円 2 売掛金に対する貸倒引当金の損金算入限度超過額 5,000 円 3 減価償却費の損金算入限度超過額 20,000 円 (3) 当期末の税法上の申告調整項目は, 次のとおりである 1 受取配当金の益金不算入額 2,000 円 2 未払事業税の損金不算入額の当期認容 3,000 円 3 貸倒引当金の損金算入限度超過額の当期認容 5,000 円 4 減価償却費の損金算入限度超過額の当期認容 2,000 円 5 未払事業税の損金不算入額 3,600 円 6 売掛金に対する貸倒引当金の損金算入限度超過額 6,200 円 7 退職給付引当金の損金不算入額 15,000 円 (4) 税法上の課税所得に対応する法人税, 住民税及び事業税は 61,120 円である なお, 中間申告により 26,500 円を納付しており, 仮払法人税等勘定で処理している (5) 前期及び当期の法定実効税率は 40% である 問 1 決算整理仕訳を示しなさい問 2 損益計算書の税引前当期純利益から当期純利益までの表示を示しなさい 問 3 貸借対照表を作成しなさい 解答解説 ( 単位 : 円 ) 問 1 ( 借 ) 法人税, 住民税及び事業税 61,120 ( 貸 ) 仮払法人税等 26,500 ( ) 未払法人税等 34,620 ( 借 ) 法人税等調整額 4,000 ( 貸 ) 繰延税金資産 4,000 ( 借 ) 繰延税金資産 9,920 ( 貸 ) 法人税等調整額 9,920-8-32 -
問 2 損益計算書 2 税引前当期純利益 140,000 2 法人税, 住民税及び事業税 61,120 2 法人税等調整額 5,920 2 当 期 純 利 益 84,800 問 3 貸借対照表 Ⅰ 流動資産 Ⅰ 流動負債 Ⅱ 繰延税金資産 3,920 未払法人税等 34,620 Ⅱ 固定資産 3 投資その他の資産繰延税金資産 13,200 1. 一時差異の分析 前期末一時差異 当期解消 当期発生 当期末一時差異 未払事業税 ( 流動 ) 3,000 3,000 3,600 3,600 将来減算 貸倒引当金 ( 流動 ) 5,000 5,000 6,200 6,200 一時差異 減価償却費 ( 固定 ) 20,000 2,000 18,000 退職給付引当金 ( 固定 ) - - 15,000 15,000 合計 28,000 10,000 24,800 42,800 2. 将来減算一時差異の解消額 {3,000 円 ( 未払事業税 )+5,000 円 ( 貸倒引当金 )+2,000 円 ( 減価償却費 )} 40%=4,000 円 3. 将来減算一時差異の発生額 {3,600 円 ( 未払事業税 )+6,200 円 ( 貸倒引当金 )+15,000 円 ( 退職給付引当金 )} 40%=9,920 円 4. 繰延税金資産及び繰延税金負債の貸借対照表の表示 繰延税金資産 繰延税金負債 貸借対照表の表示 流動項目 3,920-3,920( 繰延税金資産 ) 固定項目 13,200-13,200( 繰延税金負債 ) 繰延税金資産 ( 短期 ):{ 3,600 円 ( 未払事業税 )+6,200 円 ( 貸倒引当金 )} 40%=3,920 円 繰延税金資産 ( 長期 ):{ 18,000 円 ( 減価償却費 )+15,000 円 ( 退職給付引当金 )} 40%=13,200 円 5. 法人税等調整額 9,920 円 -4,000 円 =5,920 円 ( 貸方 ) ( 別解 ) 期首繰延税金資産 :28,000 円 40%=11,200 円期末繰延税金資産 :42,800 円 40%=17,120 円法人税等調整額 :17,120 円 ( 期末繰延税金資産 )-11,200 千円 ( 期首繰延税金資産 )=5,920 円 - 8-33 -
3. その他有価証券の評価差額 (A) その他有価証券は, 会計上は時価評価されるが, 税法上は原価法で評価されるため, 評価差額の金額が税効果会計の対象となる そのため, 純資産の部に直接計上される評価 換算差額等については, これらに係る繰延税金資産及び繰延税金負債を控除した, 税効果相当額控除後の金額で計上される 評価差益に伴う一時差異将来加算一時差異 ( 繰延税金負債 ) 評価差損に伴う一時差異将来減算一時差異 ( 繰延税金資産 ) その他有価証券評価差額金の貸借対照表計上額評価差額 (1- 税率 ) その他有価証券評価差額金に伴う繰延税金資産 繰延税金負債は, 通常固定項目である (1) 全部純資産直入法 1 評価差益が生じている場合評価差益が生じている場合には, 税務上では, 評価益を益金として認識しないため, 将来加算一時差異 ( 繰延税金負債 ) が発生することになる そのため, 評価差額のうち, 税効果相当額は, 繰延税金負債 勘定に計上し, 税効果相当額控除後の金額を その他有価証券評価差額金 勘定に計上する その他有価証券評価差額金は, 損益計算書を経由することなく直接純資産の部に計上される そのため, 税効果会計を適用した場合に, 損益計算書で計上した利益の内, 繰越利益剰余金に計上される金額を調整する必要はなく, 純資産の部に直接計上されるその他有価証券評価差額金を減額し, 未払税金を意味する繰延税金負債を計上する < 時価評価における決算整理仕訳 > ( 借 ) 投資有価証券 ( 貸 ) その他有価証券評価差額金 ( ) 繰延税金負債 その他有価証券評価差額金 : 評価差額 (1- 税率 ) 繰延税金負債 : 評価差額 税率 2 評価差損が生じている場合評価差損が生じている場合には, 税務上では, 評価損を損金として認識しないため, 将来減算一時差異 ( 繰延税金資産 ) が発生することになる そのため, 評価差額のうち, 税効果相当額は, 繰延税金資産 勘定に計上し, 税効果相当額控除後の金額を その他有価証券評価差額金 勘定に計上する その他有価証券評価差額金は, 損益計算書を経由することなく直接純資産の部に計上される そのため, 税効果会計を適用した場合に, 損益計算書で計上した利益の内, 繰越利益剰余金に計上される金額を調整する必要はなく, 純資産の部に直接計上されるその他有価証券評価差額金を減額し, 前払税金を意味する繰延税金資産を計上する < 時価評価における決算整理仕訳 > ( 借 ) その他有価証券評価差額金 ( 貸 ) 投資有価証券 ( ) 繰延税金資産 その他有価証券評価差額金 : 評価差額 (1- 税率 ) 繰延税金資産 : 評価差額 税率 - 8-34 -
(2) 部分純資産直入法 1 評価差益が生じている場合評価差益が生じている場合には, 税務上では, 評価益を益金として認識しないため, 将来加算一時差異 ( 繰延税金負債 ) が発生することになる そのため, 評価差額のうち, 税効果相当額は, 繰延税金負債 勘定に計上し, 税効果相当額控除後の金額を その他有価証券評価差額金 勘定に計上する その他有価証券評価差額金は, 損益計算書を経由することなく直接純資産の部に計上される そのため, 税効果会計を適用した場合に, 損益計算書で計上した利益の内, 繰越利益剰余金に計上される金額を調整する必要はなく, 純資産の部に直接計上されるその他有価証券評価差額金を減額し, 未払税金を意味する繰延税金負債を計上する < 時価評価における決算整理仕訳 > ( 借 ) 投資有価証券 ( 貸 ) その他有価証券評価差額金 ( ) 繰延税金負債 その他有価証券評価差額金 : 評価差額 (1- 税率 ) 繰延税金負債 : 評価差額 税率 2 評価差損が生じている場合評価差損が生じている場合には, 税務上では, 評価損を損金として認識しないため, 将来減算一時差異 ( 繰延税金資産 ) が発生することになる そのため, 投資有価証券評価損益 勘定を計上する部分純資産直入法の場合には, 将来減算一時差異の発生における, 通常の税効果の仕訳が行われる < 時価評価における決算整理仕訳 > ( 借 ) 投資有価証券評価損益 ( 貸 ) 投資有価証券 ( 借 ) 繰延税金資産 ( 貸 ) 法人税等調整額 繰延税金資産 : 評価差額 税率 - 8-35 -
具体例 評価差益の場合 具体例 評価差損の場合 - 8-36 -
(3) 翌期の再振替仕訳税効果会計の仕訳は, 決算整理事項として処理するため, 原則として, 再振替仕訳は行わない ただし, その他有価証券評価差額金と同時に発生している場合には, その他有価証券評価差額金の再振替仕訳と一体となっているため, 再振替仕訳が行われる点に留意すること 1 評価益の場合 < 決算整理仕訳 > ( 借 ) 投資有価証券 ( 貸 ) その他有価証券評価差額金 ( ) 繰延税金負債 < 再振替仕訳 > ( 借 ) その他有価証券評価差額金 ( 貸 ) 投資有価証券 ( ) 繰延税金負債 その他有価証券評価差額金と一体となっているため, 繰延税金負債を取り消す 2 全部純資産直入法 ( 評価損の場合 ) < 決算整理仕訳 > ( 借 ) その他有価証券評価差額金 ( 貸 ) 投資有価証券 ( ) 繰延税金資産 < 再振替仕訳 > ( 借 ) 投資有価証券 ( 貸 ) その他有価証券評価差額金 ( ) 繰延税金資産 その他有価証券評価差額金と一体となっているため, 繰延税金資産を取り消す 3 部分純資産直入法 ( 評価損の場合 ) < 決算整理仕訳 > ( 借 ) 投資有価証券評価損益 ( 貸 ) 投資有価証券 ( 借 ) 繰延税金資産 ( 貸 ) 法人税等調整額 < 再振替仕訳 > ( 借 ) 投資有価証券 ( 貸 ) 投資有価証券評価損益 繰延税金資産は, 決算整理仕訳で解消させるため, 再振替仕訳は行わない < 参考 > 翌期の決算整理仕訳 ( 借 ) 法人税等調整額 ( 貸 ) 繰延税金資産 - 8-37 -
例題 11 投資有価証券の評価差額 重要度 A 難易度 B 次の資料に基づき, 下記の設問に答えなさい 1. 当社が保有するその他有価証券は次のとおりである ( すべて当期に取得したものである ) 取得原価 時価 A 社株式 58,000 千円 84,000 千円 B 社社債 125,400 千円 21,900 千円 2. 当期の法定実効税率は 40% とする 問 1 全部純資産直入法による場合,(1) 決算整理仕訳,(2) 翌期首の洗替処理を示しなさい 問 2 部分純資産直入法による場合,(1) 決算整理仕訳,(2) 翌期首の洗替処理を示しなさい 解答解説 ( 単位 : 千円 ) 問 1 (1)( 借 ) 投資有価証券 26,000 ( 貸 ) 繰延税金負債 10,400 ( ) その他有価証券評価差額金 15,600 (1)( 借 ) その他有価証券評価差額金 2,100 ( 貸 ) 投資有価証券 3,500 (1)( ) 繰延税金資産 1,400 (2)( 借 ) 繰延税金負債 10,400 ( 貸 ) 投資有価証券 26,000 (1)( ) その他有価証券評価差額金 15,600 (3)( 借 ) 投資有価証券 3,500 ( 貸 ) その他有価証券評価差額金 2,100 ( ) 繰延税金資産 1,400 全部純資産直入法の場合に, 評価益と評価損が同時に発生している場合, 繰延税金資産と繰延税金負 債を両方計上する点に留意すること その他有価証券評価差額金に伴う税効果の仕訳は, 期首再振替仕訳を行う 問 2 (1)( 借 ) 投資有価証券 26,000 ( 貸 ) 繰延税金負債 10,400 ( ) その他有価証券評価差額金 15,600 (1)( 借 ) 投資有価証券評価損益 3,500 ( 貸 ) 投資有価証券 3,500 (1)( 借 ) 繰延税金資産 1,400 ( 貸 ) 法人税等調整額 1,400 (2)( 借 ) 繰延税金負債 10,400 ( 貸 ) 投資有価証券 26,000 (1)( ) その他有価証券評価差額金 15,600 (3)( 借 ) 投資有価証券 3,500 ( 貸 ) 投資有価証券評価損益 3,500 部分純資産直入法の評価差損に係る税効果の解消の仕訳は, 他の一時差異と合算して決算整理仕訳で 行われる点に留意すること - 8-38 -
重要ポイント!! その他有価証券評価差額金がある場合における税効果会計の問題における手順 1 その他有価証券評価差額金は, 時価評価の決算整理仕訳により, 繰延税金資産と繰延税金負債が計上され, 税引後の金額が貸借対照表に計上される 2 部分純資産直入法に伴う 投資有価証券評価損益 勘定に伴う税効果会計は, その他の一時差異と同様に一時差異の分析表に含める 3 法人税等調整額は, その他有価証券評価差額金に伴う税効果以外の一時差異から分析表を用いて算定する 4 分析表の当期末一時差異の金額から, 流動項目の繰延税金資産 繰延税金負債, 固定項目の繰延税金資産 繰延税金負債を算定し, その他有価証券評価差額金に伴う繰延税金資産 繰延税金負債を加算する 5 貸借対照表には, 流動項目 固定項目ごとに相殺して表示する 例題 12 総合問題 3 重要度 A 難易度 C 当社は税効果会計を適用しており, 当期 ( 平成 4 年 4 月 1 日 ~ 平成 5 年 3 月 31 日 ) の税効果会計に関する資料は, 次のとおりである 下記の設問に答えなさい 1. 決算整理前残高試算表残高試算表 ( 単位 : 円 ) 繰延税金資産 12,200 2. 税効果会計に関する事項 (1) 前期末の税法上の申告調整項目は, 次のとおりである 1 未払事業税の損金不算入額 8,000 円 2 貸倒引当金の損金算入限度超過額 2,500 円 3 減価償却費の損金算入限度超過額 20,000 円 (2) 当期末の税法上の申告調整項目 ( その他有価証券の評価差額は除く ) は, 次のとおりである 1 未払事業税の損金不算入額の当期認容 8,000 円 2 貸倒引当金の損金算入限度超過額の当期認容 2,500 円 3 未払事業税の損金不算入額 7,800 円 4 貸倒引当金の損金算入限度超過額 3,000 円 5 減価償却費の損金算入限度超過額 5,000 円 (3) 当期末において, 上記申告調整以外に, その他有価証券の評価差損が 12,000 円, 評価差益が 20,000 円発生している (4) 前期及び当期の法定実効税率は 40% である (5) 貸倒引当金の損金算入限度超過額は, すべて流動資産に係るものである 設問 1 その他有価証券の評価差額の処理を全部純資産直入法によった場合の下記の設問に答えなさい 問 1 決算整理仕訳を示しなさい 問 2 決算整理後残高試算表を作成しなさい 問 3 貸借対照表を作成しなさい 設問 2 その他有価証券の評価差額の処理を部分純資産直入法によった場合の下記の設問に答えなさい 問 1 決算整理仕訳を示しなさい 問 2 決算整理後残高試算表を作成しなさい 問 3 貸借対照表を作成しなさい - 8-39 -
解答解説 ( 単位 : 円 ) 設問 1 問 1 ( 借 ) 法人税等調整額 4,200 ( 貸 ) 繰延税金資産 4,200 ( 借 ) 繰延税金資産 6,320 ( 貸 ) 法人税等調整額 6,320 ( 借 ) 投資有価証券 20,000 ( 貸 ) 繰延税金負債 8,000 ( ) その他有価証券評価差額金 12,000 ( 借 ) 繰延税金資産 4,800 ( 貸 ) 投資有価証券 12,000 ( ) その他有価証券評価差額金 7,200 問 2 後 T/B 繰延税金資産 19,120 繰延税金負債 8,000 その他有価証券評価差額金 4,800 法人税等調整額 2,120 問 3 貸借対照表 Ⅰ 流動資産 Ⅱ 繰延税金資産 4,320 Ⅱ 固定資産 3 投資その他の資産繰延税金資産 6,800 1. 一時差異の分析 ( 評価差額金以外 ) 前期末一時差異当期解消当期発生当期末一時差異未払事業税 ( 流動 ) 8,000 8,000 7,800 7,800 将来減算貸倒引当金 ( 流動 ) 2,500 2,500 3,000 3,000 一時差異減価償却費 ( 固定 ) 20,000-5,000 25,000 合計 30,500 10,500 15,800 35,800 2. 将来減算一時差異の解消額 {8,000 円 ( 未払事業税 )+2,500 円 ( 貸倒引当金 )} 40%=4,200 円 3. 将来減算一時差異の発生額 ( その他有価証券評価差額金以外 ) {7,800 円 ( 未払事業税 )+3,000 円 ( 貸倒引当金 )+5,000 円 ( 減価償却費 )} 40%=6,320 円 4. その他有価証券評価差額金の一時差異繰延税金資産 :12,000 円 ( 評価差損 ) 40%=4,800 円繰延税金負債 :20,000 円 ( 評価差益 ) 40%=8,000 円 - 8-40 -
5. 繰延税金資産及び繰延税金負債の貸借対照表の表示 繰延税金資産 繰延税金負債 貸借対照表の表示 短期 4,320 0 4,320( 資産 ) 長期 14,800 8,000 6,800( 資産 ) 合計 19,120 8,000 繰延税金資産 ( 短期 ):{ 7,800 円 ( 貸倒引当金 )+3,000 円 ( 未払事業税 )} 40%=4,320 円 繰延税金資産 ( 長期 ):25,000 円 ( 減価償却費 ) 40%+4,800 円 ( その他有価証券評価差額金 ) =14,800 円 繰延税金負債 ( 長期 ):8,000 円 ( その他有価証券評価差額金 ) 6. 法人税等調整額 6,320 円 -4,200 円 =2,120 円 ( 貸方 ) ( 別解 ) 期首繰延税金資産 ( 評価差額金除く ):30,500 円 ( 期首将来減算一時差異 ) 40%=12,200 円期末繰延税金資産 ( 評価差額金除く ):35,800 円 ( 期末将来減算一時差異 ) 40%=14,320 円法人税等調整額 :14,320 円 ( 期末繰延税金資産 )-12,200 円 ( 期首繰延税金資産 )=2,120 円 設問 2 問 1 ( 借 ) 投資有価証券評価損益 12,000 ( 貸 ) 投資有価証券 12,000 ( 借 ) 法人税等調整額 4,200 ( 貸 ) 繰延税金資産 4,200 ( 借 ) 繰延税金資産 11,120 ( 貸 ) 法人税等調整額 11,120 ( 借 ) 投資有価証券 20,000 ( 貸 ) 繰延税金負債 8,000 ( ) その他有価証券評価差額金 12,000 問 2 後 T/B 繰延税金資産 19,120 繰延税金負債 8,000 投資有価証券評価損益 12,000 その他有価証券評価差額金 12,000 法人税等調整額 6,920 問 3 貸借対照表 Ⅰ 流動資産 Ⅱ 繰延税金資産 4,320 Ⅱ 固定資産 3 投資その他の資産繰延税金資産 6,800-8-41 -
1. 一時差異の分析 ( 評価差額金以外 ) 前期末一時差異 当期解消 当期発生 当期末一時差異 未払事業税 ( 流動 ) 8,000 8,000 7,800 7,800 将来減算 貸倒引当金 ( 流動 ) 2,500 2,500 3,000 3,000 一時差異 減価償却費 ( 固定 ) 20,000-5,000 25,000 投資有価証券評価損益 ( 固定 ) - - 12,000 12,000 合計 30,500 10,500 27,800 47,800 2. 将来減算一時差異の解消額 {8,000 円 ( 未払事業税 )+2,500 円 ( 貸倒引当金 )} 40%=4,200 円 3. 将来減算一時差異の発生額 ( その他有価証券評価差額金以外 ) {7,800 円 ( 未払事業税 )+3,000 円 ( 貸倒引当金 )+5,000 円 ( 減価償却費 )} 40% +4,800 円 ( その他有価証券評価差額金 )=11,120 円 4. その他有価証券評価差額金の一時差異 繰延税金負債 :8,000 円 ( その他有価証券評価差額金 ) 5. 繰延税金資産及び繰延税金負債の貸借対照表の表示 繰延税金資産 繰延税金負債 貸借対照表の表示 短期 4,320 0 4,320( 資産 ) 長期 14,800 8,000 6,800( 資産 ) 合計 19,120 8,000 繰延税金資産 ( 短期 ):{ 7,800 円 ( 貸倒引当金 )+3,000 円 ( 未払事業税 )} 40%=4,320 円 繰延税金資産 ( 長期 ):{25,000 円 ( 減価償却費 )+12,000 円 ( 投資有価証券評価損益 )} 40% =14,800 円 繰延税金負債 ( 長期 ):8,000 円 ( その他有価証券評価差額金 ) 6. 法人税等調整額 11,120 円 -4,200 円 =6,920 円 ( 貸方 ) ( 別解 ) 期首繰延税金資産 ( 評価差額金除く ):30,500 円 ( 期首将来減算一時差異 ) 40%=12,200 円期末繰延税金資産 ( 評価差額金除く ):47,800 円 ( 期末将来減算一時差異 ) 40%=19,120 円法人税等調整額 :19,120 円 ( 期末繰延税金資産 )-12,200 円 ( 期首繰延税金資産 )=6,920 円 - 8-42 -
第 1 節 税法の仕組み 1. 法人 ( 株式会社 ) に係る税金の種類 (A) 株式会社に係る税金は, 以下のように分類することができる 1 利益に課せられる税金 2 費用となる税金 3 その他の税金 会社が稼ぎ出した利益に課せられる法人税 住民税 事業税 会社の活動に対して生じる固定資産税, 印紙税等 商品の販売やサービスの提供に課せられる消費税 2. 費用となる税金 ( 租税公課 ) (B) 固定資産税や印紙税等の費用として処理される税金は, 当該納付額を 租税公課 勘定 ( 費用 ) で処理する 租税公課は, 損益計算書上, 販売費及び一般管理費 に計上する ( 借 ) 租税公課 ( 貸 ) 当座預金 以下では, 利益に課せられる税金である法人税, 住民税及び事業税について説明していくことにする 3. 税額計算の仕組み (A) (1) 税額計算 税法上は, 益金から損金を差し引き課税所得を算定し, その課税所得に対して一定の税率を乗じて, 税額を算定している 会計上 : 期間収益 - 期間費用 = 当期利益 ( 適正な期間損益計算 ) 税法上 : 益金 - 損金 = 課税所得 ( 課税の公平性 ) 法人税等 : 課税所得 税率 (2) 申告調整税法上の益金 損金と会計上の収益 費用は, ほとんど一致しているが, 一部分において差異が生じている そのため, 税法上は, 会計上の利益に対して一定の調整を行うことによって課税所得を計算しているのである この調整のことを申告調整という < 申告調整の考え方 > - 8-2 -
会計上の当期利益 + 加算調整項目 - 減算調整項目 = 税法上の課税所得 加算調整項目 : 税法上の課税所得の方が大きくなるため, 会計上の利益に加算する項目 減算調整項目 : 税法上の課税所得の方が小さくなるため, 会計上の利益に減算する項目 < 申告調整項目 > 1 益金算入 会計上は収益として計上しないが, 税務上は益金として認めるもの 加算調整項目 2 損金不算入 会計上は費用として計上するが, 税務上は損金として認めないもの 1 減価償却費 引当金の損金算入限度超過額等 2 交際費 寄付金の損金不算入等 減算調整項目 3 益金不算入 4 損金算入 会計上は収益として計上するが, 税務上は益金として認めないもの会計上は費用として計上しないが, 税務上は損金として認めるもの 受取配当金の益金不算入等 損金不算入 : 会計上の費用より税金上の損金が少ないため, 税法上の課税所得の方が大きい よって, 加算調整項目である 益金不算入 : 会計上の収益より税法上の益金が少ないため, 税法上の課税所得の方が小さい よって, 減算調整項目である - 8-3 -
4. 法定実効税率 (A) (1) 各税金の金額の算定方法 法人税額 : 税法上の課税所得 税率 住民税額 : 法人税額 税率 事業税額 : 税法上の課税所得 税率 (2) 法定実効税率 法人税率 住民税率 事業税率の合計の税率を法定実効税率という 法定実効税率は, 以下の算定式によ り計算される 法定実効税率 = 法人税率 (1 + 住民税率 ) + 事業税率 1 + 事業税率 具体例 法定実効税率の算定 各税率 法人税等 :30% 住民税率 :20.7% 事業税率 :5.3% 法定実効税率 39.42% = 法人税率 30% (1 + 住民税率 20.7%) + 事業税率 5.3% 1 + 事業税率 5.3% < 参考 > 法定実効税率の考え方 事業税は, 納付時に課税所得の計算上, 損金算入されるため, 法定実効税率を X とすると以下の計算 式となる Ⅹ = 法人税率 + 法人税率 住民税率 + 事業税率 -Ⅹ 事業税率 Ⅹ = 法人税率 (1+ 住民税率 )+ 事業税率 -Ⅹ 事業税率 Ⅹ+Ⅹ 事業税率 = 法人税率 (1+ 住民税率 )+ 事業税率 Ⅹ(1+ 事業税率 ) = 法人税率 (1+ 住民税率 )+ 事業税率よって, 法人税率 (1 + 住民税率 ) + 事業税率法定実効税率 = 1 + 事業税率 - 8-4 -
5. 申告時期, 納付時期及び会計処理 (A) 税額は, 一会計期間の課税所得に対して算定されるため, 決算時において算定される そして, 決算日から2ヶ月以内に納付を行うことになっている しかし, 通常中間期において, 中間納付として一定額を支払い, 決算時において算定された金額と中間納付額との差額を決算日後に支払うことになっている 4/1 11/30 3/31 5/31 中間納付決算確定納付 具体例法人税等の流れ平成 1 年 4 月 1 日から平成 2 年 3 月 31 日の会計期間の課税所得が 1,000,000 円であり, 法定実効税率が 40%, 中間納付を 180,000 円行っている会社があった場合の会計処理は以下のとおりである < 中間納付時 ( 1 年 11 月 30 日 )> ( 借 ) 仮払法人税等 180,000 ( 貸 ) 現金預金 180,000 < 決算日 ( 2 年 3 月 31 日 )> ( 借 ) 法人税, 住民税及び事業税 400,000 ( 貸 ) 未払法人税等 220,000 ( ) 仮払法人税等 180,000 法人税, 住民税及び事業税 :1,000,000 円 ( 課税所得 ) 40%=400,000 円 損益計算書 2 税引前当期純利益 2 法人税, 住民税及び事業税 400,000 2 当期純利益 貸借対照表負債の部 Ⅰ 流動負債 Ⅰ 未払法人税等 220,000 < 確定納付時 ( 2 年 5 月 31 日 )> ( 借 ) 未払法人税等 220,000 ( 貸 ) 現金預金 220,000 6. 法人税, 住民税及び事業税と未払法人税等の財務諸表の表示 (A) 法人税, 住民税及び事業税 未払法人税等 損益計算書の税引前当期純利益の下に計上 貸借対照表の流動負債の区分に計上 - 8-5 -
第 2 節 税効果会計の概要 1. 税効果会計の目的及び必要性 (A) 税効果会計は, 企業会計上の資産又は負債の額と課税所得計算上の資産又は負債の額に相違がある場合において, 法人税等の金額を適切に期間配分することにより, 法人税等を控除する前の当期純利益と法人税等を合理的に対応させることを目的としている つまり, 税効果会計は, 税務上の課税所得に基づいて算定される法人税等を会計上の税引前当期純利益に対応する法人税等の金額に, 適切に修正することを目的としている 2. 税効果会計の具体的考え方 (A) 具体例 将来減算一時差異 ( 繰延税金資産 ) 1 今後 3 年間の収益 25,000 円 2 今後 3 年間の減価償却費以外の費用 6,000 円 3 当期首に 30,000 円で備品を取得した 4 3 年後の期末の備品を除却したとする 5 会計上は, 耐用年数 3 年, 残存価額ゼロ, 定額法で減価償却を実施する 6 税法上は, 耐用年数 5 年, 残存価額ゼロ, 定額法で減価償却を実施する 7 毎年の減価償却費及び除却損は, 以下のとおりである 会計上の毎年の減価償却費 :10,000 円会計上の除却損 : 0 円税法上の毎年の減価償却費 : 6,000 円税法上の除却損 :12,000 円 8 毎期の費用総額は, 以下のとおりである 会計上の毎期の費用 :6,000 円 ( その他費用 )+10,000 円 ( 減価償却費 )=16,000 円税法上の1 年目 2 年目の費用 :6,000 円 ( その他の費用 )+6,000 円 ( 減価償却費 )=12,000 円税法上の3 年目の費用 :6,000 円 ( その他費用 )+6,000 円 ( 減価償却費 )+12,000 円 ( 除却損 ) =24,000 円 9 法定実効税率は 40% である - 8-6 -
この場合, 会計上の3 年間の利益と税法上の3 年間の課税所得は次のようになる < 会計上 > 1 年目 2 年目 3 年目 合計 収益 25,000 25,000 25,000 75,000 費用 16,000 16,000 16,000 48,000 利益 9,000 9,000 9,000 27,000 合計額は会計上と 税法上で一致する < 税法上 > 1 年目 2 年目 3 年目 合計 益金 25,000 25,000 25,000 75,000 損金 12,000 12,000 24,000 48,000 所得 13,000 13,000 1,000 27,000 各年度の会計上の利益と税法上の所得会計上の利益と税法上の所得の合計額 各年度の会計上の収益, 費用と税法上の益金と損金の計上時期が異なる ため, 各年度の会計上の利益と税法上の所得にズレが生じる 会計上の利益と税法上の所得の合計額は一致する この時, 毎年の法人税等の金額は, 税法上の課税所得に法定実効税率を乗じて決定されるため, 次のよう になる 1 年目 2 年目 3 年目 合計 課 税 所 得 13,000 13,000 1,000 27,000 法人税等の金額 5,200 5,200 400 10,800 法人税等の金額 = 税法上の所得金額 法定実効税率 この場合に, 税効果会計を適用しなければ会計上の損益計算書は, 次のようになる < 表 1> 1 年目 2 年目 3 年目 合計 税引前当期純利益 9,000 9,000 9,000 27,000 法 人 税 等 5,200 5,200 400 10,800 税引後当期純利益 3,800 3,800 8,600 16,200 < 表 1>の場合には, 税引前当期純利益と法人税等が対応していないため, 損益計算書が各期の企業の業 績を正しく示さないという問題が生じる そして, 本来, 会計上の税引前当期純利益と法人税等が対応しているあるべき会計上の損益計算書は, 次の< 表 2>のようになる < 表 2> 1 年目 2 年目 3 年目合計税引前当期純利益 9,000 9,000 9,000 27,000 40% 40% 40% 法人税等 3,600 3,600 3,600 10,800 税引後当期純利益 5,400 5,400 5,400 16,200-8-7 -
よって, 税効果会計を適用した正しい損益計算書は, 以下のようになる 会計上の法人税等 = 法人税等 ± 法人税等調整額 損益計算書の法人税等に計上する金額を< 表 1>から修正するために, 次の仕訳が必要となる 1 年目 ( 借 ) 繰延税金資産 1,600 ( 貸 ) 法人税等調整額 1,600 2 年目 ( 借 ) 繰延税金資産 1,600 ( 貸 ) 法人税等調整額 1,600 3 年目 ( 借 ) 法人税等調整額 3,200 ( 貸 ) 繰延税金資産 3,200 法人税等調整額の貸方計上額 法人税等調整額の借方計上額 繰延税金資産 法人税等のマイナス調整項目 法人税等のプラス調整項目 前払税金を意味する資産勘定 ここで, 上記の仕訳は, 費用の繰延と考えるとわかりやすい <1 年目 2 年目 > 会計上では 3,600 円発生している法人税等を 5,200 円払ったため, 前払費用 ( 繰延税金資産 ) を 1,600 円計上し, 費用 ( 法人税等 ) を 1,600 円取り消す 法人税等調整額の貸方計上額 法人税等のマイナス調整項目 繰延税金資産の計上 前払費用の計上を意味する <3 年目 > そして, 会計上で 3,600 円発生している法人税等を既に 3,200 円前払いしているため,400 円しか払わなくてよいということである つまり,2 年目までの前払費用 ( 繰延税金資産 ) を 3,200 円取崩し, 費用 ( 法人税等 ) を 3,200 円計上する 法人税等調整額の借方計上額 法人税等のプラス調整項目 繰延税金資産の取消 前払費用の再振替を意味する 上記結果, 税法上の課税所得を基に算定された法人税等の額に一定の調整を行うことにより, 会計上の税 引前当期純利益と法人税等の額が適切に対応し, 適切に表示されるのである - 8-8 -
具体例 将来加算一時差異 ( 繰延税金負債 ) 1 今後 3 年間の収益 25,000 円 2 今後 3 年間の費用は以下のとおりである 1 年目 2 年目 3 年目 会計上 12,000 12,000 24,000 税務上 16,000 16,000 16,000 < 会計上 > 1 年目 2 年目 3 年目 合計 収益 25,000 25,000 25,000 75,000 費用 12,000 12,000 24,000 48,000 利益 13,000 13,000 1,000 27,000 < 税法上 > 1 年目 2 年目 3 年目 合計 益金 25,000 25,000 25,000 75,000 損金 16,000 16,000 16,000 48,000 所得 9,000 9,000 9,000 27,000 合計額は会計上と 税法上で一致する この時, 毎年の法人税等の金額は, 税法上の課税所得に法定実効税率を乗じて決定されるため, 次のよう になる 1 年目 2 年目 3 年目 合計 課 税 所 得 9,000 9,000 9,000 27,000 法人税等の金額 3,600 3,600 3,600 10,800 この場合に, 税効果会計を適用しなければ会計上の損益計算書は, 次のようになる < 表 3> 1 年目 2 年目 3 年目 合計 税引前当期純利益 13,000 13,000 1,000 27,000 法 人 税 等 3,600 3,600 3,600 10,800 税引後当期純利益 9,400 9,400 2,600 16,200 < 表 3>の場合には, 税引前当期純利益と法人税等が対応していないため, 損益計算書が各期の企業の業 績を正しく示さないという問題が生じる そして, 本来, 会計上の利益と法人税等が対応しているあるべき会計上の損益計算書は, 次の< 表 4>のようになる < 表 4> 1 年目 2 年目 3 年目合計税引前当期純利益 13,000 13,000 1,000 27,000 40% 40% 40% 法人税等 5,200 5,200 400 10,800 税引後当期純利益 7,800 7,800 600 16,200-8-9 -
よって, 税効果会計を適用した正しい損益計算書は, 以下のようになる 1 年目 ( 借 ) 法人税等調整額 1,600 ( 貸 ) 繰延税金負債 1,600 2 年目 ( 借 ) 法人税等調整額 1,600 ( 貸 ) 繰延税金負債 1,600 3 年目 ( 借 ) 繰延税金負債 3,200 ( 貸 ) 法人税等調整額 3,200 法人税等調整額の借方計上額 法人税等調整額の貸方計上額 繰延税金負債 法人税等のプラス調整項目 法人税等のマイナス調整項目 未払税金を意味する負債勘定 ここで, 上記の仕訳は, 費用の見越と考えるとわかりやすい <1 年目 2 年目 > 会計上では 5,200 円発生している法人税等を 3,600 円しか払っていないため, 未払費用 ( 繰延税金負債 ) を 1,600 円計上し, 費用 ( 法人税等 ) を 1,600 円増加させる 法人税等調整額の借方計上額 法人税等のプラス調整項目 繰延税金負債の計上 未払費用の計上を意味する <3 年目 > 3 年目に, 会計上では法人税等が 400 円発生しているが, 未払費用を 3,200 円支払うため, 合計 3,600 円支払うことになる つまり,2 年目までの未払費用 ( 繰延税金負債 ) を 3,200 円取崩し, 費用 ( 法人税等 ) を 3,200 円取り消す 法人税等調整額の貸方計上額 法人税等のマイナス調整項目 繰延税金負債の取消 未払費用の再振替を意味する - 8-10 -
3. 一時差異等について (A) 会計上の収益 費用と税法上の益金 損金の差額について税効果会計を適用することになるが, すべての差額について適用するわけではない 当該差額は, 一時差異と永久差異に分けられる 一時差異とは, 計上時期が期間的にズレるものであり, 最終的には会計上と税法上とが一致する差異である 対して, 永久差異とは, ズレが永久に解消されないものである そして, 税効果会計の対象は, 一時差異等に限定されており, 永久差異は適用外である 一時差異 永久差異 意義一時差異とは, 会計上の資産及び負債と課税所得計算上の資産及び負債との一時的な差異をいう永久差異とは, 会計上では収益及び費用に計上されるが, 税法上では永久に益金または損金に算入されない項目をいう 税効果会計の適用の有無 税効果会計を適用する 税効果会計を適用しない 4. 一時差異等の分類 (A) (1) 将来減算一時差異 ( 繰延税金資産 ) 将来減算一時差異とは, 将来, 当該差異が解消するときに課税所得の計算上減算されるものをいう < 発生年度の決算整理仕訳 > ( 借 ) 繰延税金資産 ( 貸 ) 法人税等調整額 < 発生年度 > 会計上の利益 < 税法上の所得 法人税等を多く支払っている 法人税等をマイナス調整し, 繰延税金資産 ( 前払税金 ) を計上する < 解消年度の決算整理仕訳 > ( 借 ) 法人税等調整額 ( 貸 ) 繰延税金資産 < 解消年度 > 会計上の利益 > 税法上の所得 法人税等をプラス調整し, 繰延税金資産 ( 前払税金 ) を取消す - 8-11 -
(2) 将来加算一時差異 ( 繰延税金負債 ) 将来加算一時差異とは, 将来, 当該差異が解消するときに課税所得の計算上加算されるものをいう < 発生年度の決算整理仕訳 > ( 借 ) 法人税等調整額 ( 貸 ) 繰延税金負債 < 発生年度 > 会計上の利益 > 税法上の所得 法人税等の支払いが少ない 法人税等をプラス調整し, 繰延税金負債 ( 未払税金 ) を計上する < 解消年度の決算整理仕訳 > ( 借 ) 繰延税金負債 ( 貸 ) 法人税等調整額 < 解消年度 > 会計上の利益 < 税法上の所得 法人税等をマイナス調整し, 繰延税金負債 ( 未払税金 ) を取消す 将来減算一時差異将来加算一時差異 時期 利益と所得 決算整理仕訳 発生時 会計上の利益 < 税法上の所得 ( 借 ) 繰延税金資産 ( 貸 ) 法人税等調整額 解消時 会計上の利益 > 税法上の所得 ( 借 ) 法人税等調整額 ( 貸 ) 繰延税金資産 発生時 会計上の利益 > 税法上の所得 ( 借 ) 法人税等調整額 ( 貸 ) 繰延税金負債 解消時 会計上の利益 < 税法上の所得 ( 借 ) 繰延税金負債 ( 貸 ) 法人税等調整額 税効果会計の仕訳は, 決算整理仕訳で行う点に留意すること (3) 法人税等調整額の計算 法人税等調整額 = 当期に発生又は解消した一時差異 法定実効税率 (4) 一時差異等の 等 の意味将来の課税所得と相殺可能な繰越欠損金等については, 将来の課税所得を減額し, 税金費用を減少させる効果をもつことから, 一時差異 ( 将来減算一時差異 ) と同様に取り扱う つまり, 一時差異等の 等 とは, 繰越欠損金等を示している - 8-12 -
例題 1 税効果会計 1 重要度 A 難易度 A 次の資料により, 税効果会計を適用した場合の 1 年度及び 2 年度の損益計算書を作成し, 税効果に係 る決算整理仕訳を示しなさい 1. 1 年度及び 2 年度の収益及び費用の状況 1 年度 2 年度 収益総額 100,000 千円 100,000 千円 費用総額 1( 注 )60,000 千円 60,000 千円 ( 注 ) 1 年度の費用総額には, 税法上損金に算入されない項目が 10,000 千円含まれており, 1 年度 の損金は 50,000 千円である また, 上記 10,000 千円は 2 年度において損金算入されるため, 2 年度の損金は 70,000 千円で ある 2. 会計上と税法上の申告調整項目は上記 1. 以外ないものとし, 法定実効税率を 40% とする 解答解説 ( 単位 : 千円 ) ( 1 年度 ) ( 2 年度 ) 損益計算書 損益計算書 収 益 総 額 100,000 100,000 費 用 総 額 160,000 60,000 税引前当期純利益 140,000 140,000 法人税, 住民税及び事業税 120,000 12,000 法人税等調整額 114,000 16,000 4,000 16,000 当 期 純 利 益 124,000 124,000 < 1 年度の決算整理仕訳 > ( 借 ) 法人税等 20,000 ( 貸 ) 未払法人税等 20,000 ( 借 ) 繰延税金資産 4,000 ( 貸 ) 法人税等調整額 4,000 法人税等 :{40,000 千円 ( 会計上の利益 )+10,000 千円 ( 損金不算入額 )} 40%=20,000 千円 繰延税金資産 :10,000 千円 ( 損金不算入額 ) 40%=4,000 千円 < 2 年度の決算整理仕訳 > ( 借 ) 法人税等 12,000 ( 貸 ) 未払法人税等 12,000 ( 借 ) 法人税等調整額 4,000 ( 貸 ) 繰延税金資産 4,000 法人税等 :{40,000 千円 ( 会計上の利益 )-10,000 千円 ( 損金不算入額認容 )} 40%=12,000 千円 繰延税金資産 :10,000 千円 ( 損金不算入額認容 ) 40%=4,000 千円 - 8-13 -