【論文】

Size: px

Start display at page:

Download "【論文】"

いちえいつねざき
5 years ago
Views:

信濃川河川事務所の落雷による設備障害及びその後の雷対策について山口成昭 1 霜鳥哲也 2 樋口守 3 4 髙田瑛生 1,2,3,4 信濃川河川事務所防災情報課 ( 940-0098 新潟県長岡市信濃 1 丁目 5 番 30 号 ) 平成 26 年 12 月 5 日, 落雷により信濃川河川事務所の受変電設備, 予備電源設備, 多重無線通信設備等が被災した.

1 信濃川河川事務所の落雷による設備障害及びその後の雷対策について山口成昭 1 霜鳥哲也 2 樋口守 3 4 髙田瑛生 1,2,3,4 信濃川河川事務所防災情報課 ( 新潟県長岡市信濃 1 丁目 5 番 30 号 ) 平成 26 年 12 月 5 日, 落雷により信濃川河川事務所の受変電設備, 予備電源設備, 多重無線通信設備等が被災した. 発動発電機や無停電電源装置などの予備電源設備にも被害が及んだため, 一刻の猶予がない中での復旧作業となったが, 幸い作業は円滑に行われ, 無事設備復旧することができた. 今後二度とこのような被害を出さないためにも雷被害に対して万全の対策を施す必要がある. 前年度の報告では復旧が完了した後の暫定的な対策を報告したため, 本報告では, 事務所内施設の被害状況, 雷害原因, 本対策及び今後の課題について報告する. キーワード雷害, 電気通信, 災害復旧 1. はじめに信濃川河川事務所に被害を及ぼした雷は冬季雷と呼ばれる雷である. (1) 特徴 a) 日本海沿岸, ノルウェーの大西洋沿岸のみで見られる b) 日本では新潟県から福井県にかけての日本海沿岸地域が冬季雷の激雷区である (2) 発生メカニズム a) 冬になると大陸からの冷たい季節風 ( シベリア気団 ) によって海上に雲が発生 b) 発生した雲が気流に乗って日本海を横断してくる c) そのときに冷たい季節風と本州沿岸を流れる暖流 ( 対馬海流 ) との温度差によって発生した豊富な水蒸気を含むことで,100~ 数百 m の低空に雷雲を形成する一般的に知られている雷は夏季雷と言い, その名の通り夏に落ちる雷で, 落雷回数が非常に多いことが特徴である. 夏季雷と冬季雷の大きな違いとしては, 落雷回数と落雷威力である. 夏季雷は冬季雷より落雷回数が多いが, 冬季雷は夏季雷に比べて地面からの距離が近い雲から発せられるため, 威力は夏季雷の数百倍にも及ぶと言われている. 冬季雷はそういった低い高さで発生するという特徴があることから,60m を超える高い建物があると集中的に落雷する. 表 -1 夏季雷と冬季雷の違い落雷回数落雷威力夏季雷多い弱い冬季雷少ない強い現在も信濃川河川事務所に被害を及ぼした雷の侵入経路は分かっていないため推測となるが, 事務所構内の鉄塔は 59m あることから, 何らかの形で鉄塔に雷が侵入し, 急激に電位が上昇したことによって, 鉄塔と設備棟を結ぶケーブルラックを雷電流が流れ, 設備棟まで被害が及んだと考える. この強力な雷に対して, 当時の事務所内の落雷対策では対応しきれず, 設備棟の設備が大量に損傷してしまった. 冬季雷に対抗するため, 事務所内及び出張所の落雷対策の現状を今一度調査し, これからどのような対策を行うかを考慮することが非常に重要である. 写真 -1 冬季雷発生時の写真

2. 被害状況写真 -2 のとおり, 信濃川河川事務所の設備棟と鉄塔は隣り合っている.

この落雷によって, 設備棟にある多数の設備基板が焼損を受けた ( 写真 -5).

実害としては, 主電源及び予備電源損傷による停電, 内線電話外線電話の不通, 移動体通信不通, ポンプ損傷による断水が挙げられる. 特に, 通信回線においては多重無線設備が大きな被害を受けた.

設備棟鉄塔図 -1 多重回線系統図写真 -2 設備棟と鉄塔の位置関係以下, 落雷によって障害を受けた設備一覧である.

2 2. 被害状況写真 -2 のとおり, 信濃川河川事務所の設備棟と鉄塔は隣り合っている. この 2 つの建造物の位置関係及び, ケーブルラックとストラクチャーに多数のスパーク痕が見受けられたことから, 鉄塔に侵入した雷電流が, 写真 -3 のように設備棟に入り込んだと推測している. この落雷によって, 設備棟にある多数の設備基板が焼損を受けた ( 写真 -5). また, 発動発電設備や無停電電源装置等も被害を受け, 予備電源が運用不可能な状態となったため, 電源が復旧するまでは仮設の発電機を用いて復旧作業を行った ( 写真 -6). 実害としては, 主電源及び予備電源損傷による停電, 内線電話外線電話の不通, 移動体通信不通, ポンプ損傷による断水が挙げられる. 特に, 通信回線においては多重無線設備が大きな被害を受けた. 図 -1 を見ても分かるように, 信濃川河川事務所は多重無線の中継局となっている. そのため, 北陸地方整備局全体の通信網に影響を及ぼした. 設備棟鉄塔図 -1 多重回線系統図写真 -2 設備棟と鉄塔の位置関係以下, 落雷によって障害を受けた設備一覧である. 写真 -3 雷電流が入り込んだと思われる経路 (1) 電気設備関係 a) 電力線, 引込柱地絡継電器 (GR) 焼損, 収容箱変形 b) 受変電設備主変圧器盤スパーク痕有り動力配電盤スパーク痕有り電灯変圧器盤スパーク痕有り c) 発動発電設備発電機制御盤損傷, 起動不能, スパーク痕有り油面計故障 d) 無停電電源設備本体 ( インバータ ) 基板焼損, スパーク痕有り e) 所内電気設備融雪盤一部不良給水ポンプ盤一部不良車庫棟テレビ故障スパーク痕写真 -4 設備棟ストラクチャーのスパーク痕 (2) 通信設備関係 a) 多重無線設備妙見向け無線機不良画像切替装置東長岡向け, 薬師岳向け故障

b) 端局設備基本架 1,2,3,4 パッケージ板焼損 c) 超短波無線電話装置 1

所外内線通話不可端局障害 (3) 電子応用設備関係 CCTV 設備鉄塔カメラ故障 3.

及び雷が建物に侵入した後の対策 ( 内部雷保護 ) がいずれも不十分であったと考えられる.

共用接地とは建物同士で接地極を共用することであり, 建物間で等電位化を図る対策のことである.

3 b) 端局設備基本架 1,2,3,4 パッケージ板焼損 c) 超短波無線電話装置 1 号送受信機不良 d)k-cosmos 統制局装置端局設備不良 e) 電話交換設備所内内線通話不可大河津出張所向け事務所交換機不良長岡出張所向け VOIP 装置故障越路出張所向け簡易多重 DT I/F 不良堀之内出張所向け端局基本架 2 障害所外内線通話不可端局障害 (3) 電子応用設備関係 CCTV 設備鉄塔カメラ故障 3. 雷害原因雷害を受けた大きな原因としては, 雷が建物に侵入する前の予防手段 ( 外部雷保護 ), 及び雷が建物に侵入した後の対策 ( 内部雷保護 ) がいずれも不十分であったと考えられる. 外部雷保護という観点では, 鉄塔と設備棟間で共用接地をしておらず, 等電位化がなされていなかった. 共用接地とは建物同士で接地極を共用することであり, 建物間で等電位化を図る対策のことである. 共用接地がなされていない場合, どちらかの建物に雷が落ちると, 建物間で電位差が生じ, 雷電流が建物全体に流れてしまう ( 図 -2, 図 -3). 基板焼損図 -2 電位が一定である状態を水位で表現写真 -5 落雷時の基板焼損 1 電気室仮設発電機図 -3 電位差が生じた状態を水位差で表現共用接地を行うことで, 仮に強い雷電流が侵入し, 電位が上昇しても, 建物間で電位差は生じないため, 雷電流は理論上流れない ( 図 - 4). こういった仕組みから, 共用接地は雷から施設を守る上で最も根本的な対策と言える. 仮設ケーブル写真 -6 仮設発電機使用状況図 -4 共用接地の様子を水位差で表現

表 -2 SPD の性能 MZS-NPE 形 ( 電源用クラス Ⅰ Ⅱ) 項目性能インパルス電流 Iipe 10/350μs 75kA 公称放電流 In 8/20μs

-5 共用接地のイメージ 1 図 -6 共用接地のイメージ 2 また, 内部雷保護という観点では, 設備棟に SPD(Surge Protective Device)

SPD とは, 雷によって発生した瞬間的な過度的過電圧 ( サージ ) を制御して, 機器や設備を保護する避雷器である ( 写真 -7, 表 -2, 図 -7). 4.

4 表 -2 SPD の性能 MZS-NPE 形 ( 電源用クラス Ⅰ Ⅱ) 項目性能インパルス電流 Iipe 10/350μs 75kA 公称放電流 In 8/20μs 20kA MZS-200AV 形 ( 電源用クラス Ⅰ Ⅱ) 項目性能インパルス電流 Iipe 10/350μs 25kA 公称放電流 In 8/20μs 20kA 図 -5 共用接地のイメージ 1 図 -6 共用接地のイメージ 2 また, 内部雷保護という観点では, 設備棟に SPD(Surge Protective Device) が不足していた点が雷害を受けた原因として挙げられる.SPD とは, 雷によって発生した瞬間的な過度的過電圧 ( サージ ) を制御して, 機器や設備を保護する避雷器である ( 写真 -7, 表 -2, 図 -7). 4. 雷害対策図 -7 SPD の仕組み (1) 外部雷保護外部雷保護対策としては鉄塔と設備棟との間での共用接地を, 仮設状態 (H27.5) から本設状態 (H27.11) へと改修した ( 図 -8). 設備棟と鉄塔間の共用接地写真 -7 SPD の設置状況図 -8 設備棟と鉄塔との共用接地化

また, 流水管理棟と鉄塔間及び, 流水管理棟内の情報機器室と災害対策室間での共用接地も行い, 等電位化させた. 以上で事務所構内の接地対策は完了した ( 図 -9, 図 -10).

SPD の取り付け方としては, 各設備の配電線側に取り付けることで, 雷電流を根元から逃がすような施工を施した ( 図 -12).

の共用接地化 (2) 内部雷保護今回の落雷では設備棟の施設が軒並み被害を受けたが, 流水管理棟では SPD は破損したものの, 設備自体の被害はなかった. 流水管理棟に設置してあった SPD が流水管理棟と設備棟間で流れた雷電流から設備を守ったと考えられる.

5 また, 流水管理棟と鉄塔間及び, 流水管理棟内の情報機器室と災害対策室間での共用接地も行い, 等電位化させた. 以上で事務所構内の接地対策は完了した ( 図 -9, 図 -10). 既設の共用接地雷害を受けた当時, 電気設備に関しては流水管理棟には SPD が設置してあったが, 設備棟には設置していなかったため, 設備棟側にも SPD を設置した ( 写真 -8, 図 -11).SPD の取り付け方としては, 各設備の配電線側に取り付けることで, 雷電流を根元から逃がすような施工を施した ( 図 -12). 情報機器室と設備棟間の共用接地鉄塔流水管理棟設備棟庁舎図 -9 設備棟と流水管理棟間との共用接地化情報機器室災害対策室図 -11 電気設備における SPD 設置図情報機器室と災害対策室間の共用接地図 -10 流水管理棟内 ( 情報機器室と災害対策室間 ) の共用接地化 (2) 内部雷保護今回の落雷では設備棟の施設が軒並み被害を受けたが, 流水管理棟では SPD は破損したものの, 設備自体の被害はなかった. 流水管理棟に設置してあった SPD が流水管理棟と設備棟間で流れた雷電流から設備を守ったと考えられる. このことから,SPD は雷から設備を守る内部雷保護対策として非常に有効だと言える. 写真 -8 SPD 設置作業の様子図 -12 受変電設備の SPD 設置箇所通信設備に関しては, 設備棟, 流水管理棟共に SPD を設置していたが, 雷害を受けた際, 設備棟では雷電流が SPD の許容容量を超えたため, 設備棟と流水管理棟間で雷電流が流れた. しかし, 流水管理棟に設置した SPD が雷電流から各通信設備を守ったため, 流水管理棟の通信設備に被害はなかった. こういった被害状況を教訓に, 通信設備においてもさらに強固な内部雷保護を行うために, 設備棟, 流水管理棟共に SPD を二重化して設置した ( 図 -13, 写真 -9, 写真 -10).

保護範囲外保護範囲図 -13 通信設備における SPD 設置図新設 SPD 図 -14 受雷部の保護範囲状況 (2) 内部雷保護事務所, 各出張所共に電源用, 通信信号用 SPD 未設置箇所や規格外 SPD 設置, 不適切な位置での SPD

今後の対策写真 -9 流水管理棟の新設 SPD 新設 SPD 写真 -10 設備棟の新設 SPD 次の冬季雷被害に備えて, 雪が降る前に早急に共用接地や SPD の設置などの雷害対策を行ったが, 今回の対策がどれだけ効果的か,

(1) 外部雷保護事務所の受雷部対策として, 庁舎の一部, 流水管理棟及び車庫棟が避雷針の保護範囲外であるため, 受雷部の追加配置を行う必要がある ( 図 -14). 6. まとめ外部雷保護を行う上で重要なのは, 構内の建物全体で対策を考えることである.

近年の電子機器は省電力化により, 雷に耐えうる力が損なわれつつあることもあって, 内部雷保護も大変重要な落雷対策と言える.

6 保護範囲外保護範囲図 -13 通信設備における SPD 設置図新設 SPD 図 -14 受雷部の保護範囲状況 (2) 内部雷保護事務所, 各出張所共に電源用, 通信信号用 SPD 未設置箇所や規格外 SPD 設置, 不適切な位置での SPD 設置などが見受けられたため, それらの事項について改めて検討する必要がある. 5. 今後の対策写真 -9 流水管理棟の新設 SPD 新設 SPD 写真 -10 設備棟の新設 SPD 次の冬季雷被害に備えて, 雪が降る前に早急に共用接地や SPD の設置などの雷害対策を行ったが, 今回の対策がどれだけ効果的か, 専門的な見解で検証する必要があると考えた. また, 今後出張所等でも同じような被害が起きないよう, 信濃川河川事務所管轄全体の落雷対策についても検討する必要があるとも考え, 事務所及び各出張所において, 雷害対策調査を行った. 調査の結果は以下の通りである. (1) 外部雷保護事務所の受雷部対策として, 庁舎の一部, 流水管理棟及び車庫棟が避雷針の保護範囲外であるため, 受雷部の追加配置を行う必要がある ( 図 -14). 6. まとめ外部雷保護を行う上で重要なのは, 構内の建物全体で対策を考えることである. 特に構内に新しい建物を建てるときは, 構内全体での共用接地を忘れずに行う必要がある. また, 内部雷保護についても SPD を設置するなどの対策を徹底する必要がある. 近年の電子機器は省電力化により, 雷に耐えうる力が損なわれつつあることもあって, 内部雷保護も大変重要な落雷対策と言える. しかし, 冒頭でも述べたとおり, 冬季雷は夏季雷の数百倍にも及ぶ威力を発揮するため, 現在の技術においてはどれだけ対策を行っても被害を確実に防ぐことは非常に困難である. そのため, いかに雷害リスクを低減させるか, といった観点から落雷対策を行うことが重要となる. 今後行う雷害対策としては, 雷害対策調査の結果をもとに, 内部雷保護を中心に見直していく必要がある. 参考文献 1) 信濃川河川事務所の落雷による設備障害及び復旧について ( 前年度論文 ) 2) 北陸電力株式会社 : 北陸の雷の特徴 ( 雷情報 ) 3) 平成 24 年度第 2 回電気通信業務担当者会議資料 : 電気通信の技術伝承について 4) 株式会社イーユーテック :SPDの必要性 5) 音羽電機興業株式会社ホームページ 6) 建設電機技術協会 : 雷害対策設計施工要領 ( 案 ) 同解説

Microsoft Word - 信濃川落雷障害論文3

Microsoft Word - 信濃川落雷障害論文3 信濃川河川事務所の落雷による設備障害及び復旧について樋口守 1 藤崎信一 1 金子佳大 1 1 信濃川河川事務所防災情報課 ( 940-0098 新潟県長岡市信濃 1 丁目 5 番 30 号 ) 2014 年 12 月 5 日午前 5 時 58 分頃に発生した落雷により信濃川河川事務所の受変電設備予備電源設備多重無線通信設備が被災し電話交換網のタンデム局となっていることから北陸地方整備局全体の通信網に影響を及ぼした