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1 教育講演 皮膚のバイオロジー 1. 角層を知る 2. メラノサイトを知る 座長 橋本隆 ( 久留米大 )

2 1. 角層を知る 山西清文 兵庫医科大学 角層は紫外線や外力などの物理的侵襲や化学物質による障害から生体を保護し 病原体の侵入を阻止するバリアとして 極めて機能性に富む構造を備えている 進化の過程のなかで 角層によるバリアの形成は乾燥した地上環境における生命の営みを可能にしてきた 概念的に brick and mortar と称されるように 角層は角層細胞とその間隙を埋める細胞外マトリックスから成る単純な構造として理解し得る しかしながら 角層細胞は生命現象を終えた角化細胞の死骸ではなく 複数の特異な機能分子が集合してできた構造物である 角層全体の統合性は Brick に相当する角層細胞に加え 角層細胞間の接着構造と細胞間に層状に配向する脂質分子の働きによって維持されている また 角層には角化細胞が産生する各種抗菌分子が存在し 病原微生物の生育に不都合な条件が調っている こうして角層の機能は補完され 外界との接点における強固なバリアとして生体防御に寄与している

3 2. メラノサイトを知る 船坂陽子 神戸大学大学院医学系研究科皮膚科学分野 メラノサイトは 主として外胚葉系組織である神経櫛から発生する 神経櫛から発生したメラノブラストは 胎生期に皮膚 粘膜 中枢神経系 内耳 眼球内のぶどう膜に遊走する 皮膚のメラノサイトは 主として表皮の最下層である基底層に存在し メラノサイト固有の分泌顆粒であるメラノソーム内にてメラニン色素を産生する 産生されたメラノソームは周囲角化細胞に受け渡され 表皮角化細胞のメラノソームは種々の消化崩壊を受けて 皮膚落屑と共に剥がれ落ちる この表皮メラニンユニットは 紫外線等による角化細胞の DNA 損傷を防御する役割を担うと考えられてきた 一方でメラニン種や紫外線発癌に関する研究が進むにつれ メラニンの存在意義は多様であり むしろ黒色腫発症に関与することを示唆する報告も散見される 色素斑を治療するにあたり メラノサイトおよびメラニン産生の制御機構について理解を深める事は重要である また メラノサイトが産生するメラニン種決定に関わる MSH の受容体 MC1R 遺伝子の多型と皮膚色 スキンタイプ 紫外線発癌 色素異常症との相関について疫学的検討が進められ 一つのトピックスとなっている 本レクチャーではこれらの点につき 概説する

4 教育講演 会頭講演 皮膚のバイオロジー 3. 皮膚付属器を知る 座長 伊藤雅章 ( 新潟大 )

5 皮膚付属器を知る 板見智 大阪大学大学院医学系研究科皮膚 毛髪再生医学 毛包 脂腺 汗腺や爪は皮膚付属器と総称されるが それらの中で思春期を境に大きく組織構造や機能に変化が生じる付属器が存在する 毛包と脂腺は発生学的には毛包脂腺系として同一の原基より生じるが なぜか思春期以後発育と退縮という全く逆の反応をする場合がある 年齢と共にヒトの内分泌環境も変化するが 生涯に渡り大きく変化する代表的なホルモンとしては 成長ホルモンとその実行因子としてのインスリン様成長因子 (IGF-I) 男性ホルモン及び女性ホルモン 副腎由来の男性ホルモンなどが上げられる 性腺由来の男性ホルモンが性毛や脂腺の発育 男性型脱毛症やざ瘡の発症に関わることはよく知られているが 副腎や卵巣由来の男性ホルモン (DHEA や androstenedione) が新生児ざ瘡や多毛症などに関与することは意外と知られていない 正常を知らずして病的状態を知ることは出来ない と言われているように 本講演では主に皮膚付属器における男性ホルモン作用の基礎的知識について述べる

6 教育講演 美容医療の問題点と将来展望 座長 古江増隆 ( 九州大 )

7 美容医療の問題点と将来展望 矢野健二 大阪大学大学院医学系研究科美容医療学寄附講座 美容皮膚科 美容外科を含めた美容医療の需要は近年飛躍的に伸びており 発展期を迎えていると思われる そこで 今後の美容医療の動向を探るために現時点での一般人の美容医療に対する意識調査を行った その結果を報告するとともに 一般人が望む美容医療のあり方や美容医療の潜在需要について検討したので報告する また一方で あまり目立たなかった美容医療の問題点がクローズアップされてきたり 新たな問題点が生じたりしている 美容医療の利用者は自己の外貌などにコンプレックスを持っており 美容医療行為を受けたことや医療行為により希望通りの結果が得られなかったことを他人に知られたくないという心理が働き 様々なトラブルが表面に出にくい側面がある そこで われわれは美容医療相談外来を設けて そういった利用者に救いの手をさしのべ 今後どのように対処していくべきかをアドバイスしてきた さらにトラブル症例や失敗症例を通してその原因理由を究明し 今後の美容医療に還元できるように検討していきたいと考えている まだ 外来を開いて1 年あまりであるが その現状を報告するとともに 美容医療の問題点についても報告する

8 ミニレクチャー エキスパートに学ぶ 1. 美白剤の研究開発の進歩 2. トレチノイン外用療法の How-to 3. ケミカルピーリングの EBM 4. ケミカルピーリングの応用 座長 川島眞 ( 東京女子医大 ) 松永佳世子 ( 藤田保健衛生大 )

9 1. 美白剤の研究開発の進歩 前田憲寿 東京工科大学応用生物学部 日本のスキンケア市場を機能的にみると 保湿 美白 抗老化 敏感肌 毛穴 アクネ対応に大別される そのなかで 美白は市場の約 3 割を占め 急成長してきた分野である 30 年前に比べると美白に関する研究開発は飛躍的に進歩し アスコルビン酸リン酸マグネシウム塩 コウジ酸 アルブチン エラグ酸 アスコルビン酸 -2-O-α-グルコシド アスコルビン酸-3-O-エチルエーテル トラネキサム酸などの メラニンの生成を抑え しみ そばかすを防ぐ の効能効果をもつ医薬部外品 ( 薬用化粧品 ) の有効成分が 10 種類以上開発された また 優れたチロシナーゼ活性阻害効果やメラニン生成抑制効果をもつ化合物 植物エキスも数多く見いだされてきた 作用メカニズムの研究も進歩し チロシナーゼ酵素に作用するものだけではなく チロシナーゼ遺伝子 メラノサイト メラノソーム輸送 表皮ケラチノサイトなどに作用する美白剤が研究されるようになり 様々なアプローチがなされるようになった 最近では アンチエイジングを訴求した美白研究も行われるようになり 新メカニズムの有効成分や新効能を標榜できる薬用化粧品の有効成分が開発される日も遠くないと考える

10 2. トレチノイン外用療法の How-to 吉村浩太郎 東京大学医学部形成外科 メラニンの尐ない白人社会では光老化に伴う小じわ 血管拡張などの美容的愁訴が多いが 有色人種である日本人では色素沈着 ( シミ ) に対する愁訴が最も多い レーザー技術の発達に伴い あざやシミの治療が部分的に可能になったが 解決できない症状も多く残されていた ビタミン A の生理活性の本体であるトレチノインは 海外では尋常性 痤 瘡の治療薬として古くから使用され 光老化の諸症状を改善する効果があることが明らかにされてきた 日本人を対象とした研究により トレチノインを局所的にアグレッシブに作用させることで効率的に表皮メラニンが排出されることがわかり さらにレーザー治療に抵抗性の表皮内色素沈着に対しても有効性が高いことが明らかとなった トレチノインは有棘層からの HB-EGF 分泌刺激を通して表皮の肥厚を促し 表皮ターンオーバーを早めることによって メラニンの排出を促す 従来から予防的に使用されてきた チロジナーゼ阻害によりメラニン産生を抑制するハイドロキノンと併用することにより メラニンの尐ない新しい表皮に置換することが可能となった レーザー治療との補完的に組み合わせることによって ほぼすべての種類の色素沈着を治療することが可能になり さらに これまで炎症後色素沈着がゆえにわが国では敬遠されてきた 効果は高いが炎症を伴う強力な美容皮膚治療 ( リサーフェシングほか ) も日本人にとって現実的なものとなった 残念ながら日本ではまだレチノイド外用剤は未認可であるため自家調合によるしかなく また唯一の副作用といえる治療中の皮膚炎も今後の解決が待たれる課題である 本口演では 未承認薬品の調合法 効果をあげる治療のポイント 患者への指導方法など実際に治療を行う上でのハウツーに重点をおいて紹介したい

11 3. ケミカルピーリングの EBM 山本有紀 和歌山県立医科大学 21 世紀医療の流れの一つは quality of life(qol) の向上であることより 主に色素異常 光老化 ざ瘡などの治療や皮膚の若返り rejuvenation しみ くすみなどの皮膚の美容的改善を目的としたケミカルピーリングが皮膚科 形成外科をはじめ多くの分野の医師 またはエステ業界の分野でも行われるようになった その一方では 危害例が増加し 平成 12 年には 厚生省健康政策局医事課よりケミカルピーリングは業として行われれば医業に該当すると明言された 以上のような経緯より 日本皮膚科学会はケミカルピーリングに関するガイドラインを 2001 年に作成し 公表後の様々な意見の集約により 2004 年にガイドラインの改訂を行い 今回 evidence-based medicine (EBM) に沿った新たなガイドラインの策定がもとめられた 新ガイドラインは EBM に基づいた適応疾患を羅列 解説するとともに 各疾患に用いる使用薬剤別の推奨度を委員 13 名で討議し確定した 今回は 具体的な症例を呈示しつつ EBM に準じた新ガイドラインの概要を報告する

12 4. ケミカルピーリングの応用 上田説子 上田説子クリニック ケミカルピーリングは 化学薬品により皮膚に組織損傷を生じ その修復機転により 表皮と真皮結合織の再構築を促す治療法である 今まで皮膚科学的には不可能と考えられていた皮膚の若返り (Rejuvenation) 治療として実践されその有効性が報告されている しわが無くなる シミがとれる という外国のデータやマスコミ等の報告を疑いもなく信じるのではなく 皮膚科医はその効果は化学薬品により生じる組織損傷の修復機転による治療である事を皮膚組織学の基本に戻って認識することが大切である 一般的には薬剤の深達度と疾患の病理組織像を理解すれば効果も副作用も理解できる 新しい治療であるが故にその将来は未知である 企業サイドの説明を鵜呑みにして 一時の流行に乗せられるのではなく 患者さんを治療する医師として 将来的な安全性や危険性を自ら判断するべきである ピール剤の種類と施術方法により 組織損傷の深達度は異なる それぞれの薬剤の皮膚に及ぼす組織変化 効果 副作用を熟知したうえで 患者さんに過大な期待を持たせることなく 医師自身が納得できる治療する事こそエビデンスに基づく新しい医療としてのポイントと考える 今回はケミカルピーリングで有効と考えられる種々の疾患の治療効果について考察を加えたい トリクロロ酢酸 (TCA) による眼瞼黄色腫 脂漏性角化症 アトピー性皮膚炎の Dirty neck の治療は今後も検討すべき治療法である サリチル酸マクロゴールによるニキビ新生抑制効果は画期的なものであり 組織学的にも十分その可能性は示唆される Rejuvenation 特に光老化からの回復は臨床及び動物実験で証明された そのほか経験した脂漏性皮膚炎 魚鱗癬 そのほかの疾患へのピーリングの効果と応用について述べてみたい

11 Contents von Reck

11 Contents von Reck 序 単細胞であれ多細胞であれ, 生命体は常に環境に応答しながら, それぞれ自己を主張しホメオスターシスを維持している. 健康な皮膚は美しい. 皮膚科学の黎明期には先人の皮膚科医師は, 皮膚に見られる変化, つまり皮疹を極めて詳細に時には美しく記述し, 次いで疾患の病理組織上の特色を詳細にとらえ, 診断と治療効果の判定に応用してきた. 見た目で評価できる皮膚色は人種による違いがはっきりしているだけでなく,

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