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1 構成情報の仮想モデルによるネットワーク管理プロトタイプの構築 Network Management System Prototype based on the Virtual Configuration Model 新麗二宮恵加藤雅彦 Ray ATARASHI Megumi NINOMIYA Masahiko KATO 株式会社インターネットイニシアティブ Internet Initiative Japan Inc. ネットワークシステムはいまや社会基盤となり 利用される場面も利用者も増えた 今後もさらに普及は進み 家庭にも入り込んでくることが予想される しかし現在のネットワークシステムは まだ利用者にとって簡単に使えるとは言いがたく 機器の設定などにはある程度の知識が要求される 利用にあたって機器などの知識が必要になる理由は 利用レベルでの構成情報や機能のモデルが確立していないからである また 利用者や使い方などによって必要とされる情報が異なるにも関わらず それに対応する表示方式も確立していない 本研究では これらを解決するために ネットワーク管理アーキテクチャを設計し 一部の機能を仮想化してモデル化を行った また 利用者に対応した表示を行うための実験として まずネットワークの階層モデルに基づいた表記方式について検討した 1. はじめに Web やその関連技術は 情報を表示する技術を劇的に変化させてきた 仮想化によって ないものを見せる 見えないものを見せる試みが数多く行われている これまでデータの羅列にすぎなかったものが絵となって表示されたり 想像上の世界が Web 上に実現されたりすることで 人間の理解やイメージ形成に大きく影響を与えているのは確かである これは情報の 見せる化 ということができる 表示技術のための仮想化にあたっては 見えないものを見せるのと同時に 見なくていいものは見せない という考え方も必要である もとは同じ情報源であっても 見る人の関心や知識によって 欲しい情報は違ってくる 携帯電話のシンプルモードなどはその例で 電話とメール機能だけでよい人には 細かいカスタマイズ画面などにはアクセスできなくてよい これは 使う人に適応した 情報の 見せない化 ということができる 本論文では 情報の 見せる化 と 見せない化 の適用事例として ネットワークシステムの管理情報に注目した ネットワークシステム管理はいうまでもなく現在の情報流通を支える基盤である ネットワークシステムには ネットワーク機器だけでなく サービスを提供するためのコンピュータやストレージ さらに その上で動作するアプリケーションまでが含まれる 各機器で行われている動作を 見せる ためには モニタ等の情報収集ツール 表示ツールなどが利用される このようなツールで細かく情報を取れることは必要だが 通常の監視 管理にあたっては すべてを見ることは不可能である また同システムの中で ネットワーク機器管理 コンピュータ管理 アプリケーション管理などと担当が分かれている場合には 各役割によって必要な情報が異なってくる このような場合には 情報の 見せない化 が必要となる さらに ネットワークシステムの広がりにより 管理はさまざまな場面で必要になってきた これまではネットワークを運用する専門家が行っていたが 企業や家庭までネットワークシステムが浸透してきた結果 各所でそれに応じた管理が必要となってきている すべてのシステムに対して専門家がいることはありえないしその必要もないが 設置や設定 あるいはトラブルの際にはある程度の知識が必要とされるのも事実である このような場合に必要な情報だけを提供する あるいは意識せずに行えるようにならなければ ネットワークシステムをインフラとして利用できるとは言えない 情報の 見せる化 見せない化 を実現するためには 情報そのもののモデル化が必要となる ネットワーク管理 特にネットワーク機

2 器に関しては 統一されたモデルが存在せず ベンダごとに異なっている モデルのみならず操作インタフェースも違うため 統一的な管理が難しい 本論文では ネットワーク機器とコンピュータから構成される小規模なネットワークシステムを対象として ベンダによらないネットワーク管理モデルを検討した 特に 見せる化 見せない化 を実現するために 管理者の視点ごとに提示する情報を変えるための管理システムのプロトタイプを設計した 的としており ネットワークのトラフィックの状態をグラフ化して PNG 画像に変換し HTML 形式のページを作成する データとしてはネットワーク トラフィックだけでなく SNMP で取得可能な他の情報 ( CPU Load Average Disk 使用率 メモリ空き容量等 ) を表示することもできる MRTG によるトラフィックの表示例を図 1 に示す 2. ネットワーク管理の現状 これまでのネットワークシステム管理は 専門の従事者が行ってきた ネットワークに接続できる機器の数が尐なく 利用法も限られている場合は専門従事者が個々に対応することが可能であった そのため 管理 運用のプロトコル ツールなどは専門従事者向けに開発されてきている また 監視は自動的に行うが 設定は管理者が行うという管理形式が一般的であったが ここ数年 設定も自動化する動きが出てきており その第一歩として NETCONF と呼ばれるネットワーク機器の設定プロトコルが標準化された 本節では これらの動向について述べる 2.1 インターネット管理ツールルータなどのインターネット機器には SNMP(Simple Network Management Protoc ol) [1] という機能が実装されており これで管理を行うのが一般的である SNMP を用いると ネットワークの構成管理 障害管理 性能管理の 3 つを行うことができる SNMP ではネットワーク機器の情報を MIB(Management Information Base) という形で定義している 各ネットワーク機器に共通の MIB は IETF(Internet Engineering Task Force)[2] において標準化されており 共通化できずベンダ固有のものは プライベート MIB として定義されている MIB は ASN.1 形式で管理されている 2.2 トラフィック情報の可視化 SNMP から取得したデータを可視化するためによく利用されているのは MRTG (Multi Router Traffic Grapher) [3] と呼ばれるツールである ネットワークの負荷を監視することを目 図 1. MRTG によるトラフィックの表示例 2.3 ネットワーク管理ソフトウェア SNMP による MIB 情報を収集して可視化し ネットワークの構成や障害 性能管理を統合して行うのがネットワーク管理ソフトウェアである フリー 商用 さまざまなソフトウェアが開発されている SNMP に対応したネットワーク機器とサービスの管理が目的なので 一般には複数のネットワーク機器によって構成される LAN かそれ以上の大きなネットワークシステムが対象である 家庭内 LAN や各端末などまで管理するものはほとんどない 2.4 コンピュータ管理の動向大規模なネットワークの管理において最近関心が高いのは 関連するネットワーク コンピュータ ストレージ サービス アプリケーションなどの一元管理と設定の自動化である コンピュータデバイスと管理インタフェースの仕様は DMTF [4] で CIM (Common Information Model) として議論されている 情報管理には XML を利用し 他の管理モデルとの融合がしやすくなっている 2.4 ネットワーク機器設定プロトコル NETCONF NETCONF はネットワーク機器の設定プロトコルとして IETF で標準化された XML をベースとしたプロトコルで オブジェクトとしてインターネット機器へ送るコマンドとパラメータが定義されている ネットワーク機器に送る情報は XML で記述され インタフェースとしては RPC を利用する

3 トランスポート層としては ssh, SOAP, BEEP が規定されている 現在のプロトコルの対象は コマンドを送るサーバとインターネット機器との間であり 目的はインターネット機器の遠隔制御である 現在は 通信する枠組みだけが規定されているだけであるが 実際に設定に関する情報については 別途データモデルの検討が進んでいる ネットワーク機器はベンダごとに設定のためのコマンドが規定されており 複数の機器を設定する場合に すべての機器に同じコマンドを使えるとは限らない たとえ同じベンダの製品であっても 機種やソフトウェア ファームウェアのバージョンなどによってもコマンドやパラメータが異なることもある これらの差異を吸収するためのデータモデル およびデータモデル記述言語の検討が行われている 3. ネットワーク情報の仮想モデル 著者らは ユーザ主体のネットワーク利用を実現するためのネットワーク管理制御機構を提案するにあたって ネットワークリソースという概念を導入した [5] ネットワークリソースとは ネットワークの利用者の視点でネットワークの機能を仮想化し モデル化した概念である ユーザからはネットワーク機器やコンピュータの細かい機能やプロトコルなどを意識せずに 要求を示すことで 必要な環境を入手できる ネットワークリソースの概念を実現するために まずネットワーク管理のアーキテクチャを設計した 3.1 ネットワーク管理アーキテクチャネットワーク管理アーキテクチャの設計にあたり まずネットワーク管理情報を大きく以下の 3 つのクラスに分類した シナリオ システム構成情報 機能モデル以下に各クラスの概要を述べる 3.2 シナリオネットワークシステムに対して行う管理作業を手順化したものを指す 現状では人手で行っている手順を解析するが 最終的にはユーザは選択するだけとするか あるいは何らかの条件の下で自動的に適切なシナリオが起動して 自動的に動作することを目指す 3.3 システム構成情報管理対象となるネットワークシステムの構成情報 構成している機器や接続 そのシステムを実現するための設定情報やネットワーク構成情報も含む システムのモデル化が必要となる 3.4 機能モデルネットワークシステムを実現するために必要な機器のモデル 要求事項からの実現をめざし ベンダに依存しない機能のまとまりを定義する 最終的には実装されなければならないため ベンダ依存と非依存な機能を分割することを大きな目標とする 3.5 各クラスの相互作用これらの 3 つのクラスは相互に関係しあってシステムを構成し 管理制御も行われる 基本的にはユーザに見えるのはシナリオであり ここにネットワークシステムの実現にあたっての要求事項が含まれる 例えば を立ち上げたい という大きな要求があり それに対して規模の検討などが行われた結果 必要なネットワークシステムが選択される システム構成情報はユーザからの要求を具体化し それらを実現する技術的検討を行う 例えば を立ち上げる場合に マシンに必要な性能や ネットワークの帯域 あるいはネットワークをローカルに設定するなどの構成に関する検討が行われた結果 その実現に必要な機能が選択される これらのクラスの関連性を図 2 に示す シナリオ ネットワーク構成情報 機能モデル 初期設定 構成情報 VLAN 機器追加 設定情報 VPN 図 2. 管理アーキテクチャの概念図

4 3.6 ネットワーク管理モデル本モデルは 従来の機器ベースの管理とは違い ユーザに提供する機能 つまりシナリオ作成から管理を考えるモデルである 従来の管理には機能モデルがなく 本モデルには記述していない実装レベルでの運用が行われている 利用者主体のネットワーク利用を考える場合には 各機器の細かい設定をどう 見せない化 するかが重要となる つまり機能モデルを確立することが大きな課題である また シナリオを適用するネットワークシステム構成情報に関しても 現在は決まったモデルが存在せず 機器を中心とした管理が行われている ネットワークシステムは機器だけでなくネットワーク構成 サーバ構成も含まれるためたいへん複雑であり このモデル化も重要である 4. ネットワーク管理プロトタイプの設計 一部設計を行ったモデルに従い プロトタイプの設計を行った ネットワークの各層に応じた表示形式の実現を目的として ネットワークシステム構成を定義し 各層での表示画面の設計を行った ネットワークシステム構成情報は単一であり 表示形式だけを必要に応じて切り替える これにより 情報の一括管理は行いつつ 利用者に応じた 見せる化 見せない化 を実現する シナリオは のサービスとし それを実現するネットワークシステムを設計する また 実現にあたって利用する機能も選択する 今回は VLAN を選択するものとする 4.1 要求仕様インターネットに対し Web サービスを提供するネットワークシステムを考える アクセスはほぼ一定であり 何らかのイベントによって急激に増えることは想定しない 例えばチケット販売のサイトなどであると 人気のあるチケット発売時間にはアクセスが集中したりするが 今回はそのような条件は考えない インターネットに対して テキスト中心の Web コンテンツを提供するものとし 帯域は 100MBps で十分とする この要求仕様を概念図で表すと図 3 のようになる Internet 100Mbps 図 3. 要求仕様の概念図 さらに 運用管理に関して要求仕様を定義する 具体的には の監視機能の付加である インターネットにサービスするのとは別の監視用サーバを用意しておけば のトラブルがインターネットからではなく監視側から発見することができる 監視用サーバの要求仕様の概念図を図 4 に示す に対し インターネットや監視用サーバを表示する位置は本質ではないが イメージとして インターネットとは性質が違う接続があるということを表現するために上下に表記した 監視用サーバ 図 4. 運用管理の要求仕様の概念図 4.2 ネットワークシステム構成要求仕様に基づき ネットワークシステムを設計した 単純化のため は 1 台でサービスするものとした 1 台でない場合には 冗長構成として複数台持ったり あるいは逆に

5 1 台を他のサービスと共有したりすることもありえるが 今回は考慮しない は スイッチ ルータを経由してインターネットに接続されるが 管理対象とするには インターネットへの接続性までとする 本プロトタイプで対象とするネットワークシステム構成を図 5 に示す ルータ スイッチ 図 5. ネットワークシステム構成 ならない 今回のプロトタイプでは これを VLAN で実現するものとする 4.3 物理結線の表示設計したネットワークシステム構成を実現するために 機器を含めた物理構成の図を作成する 図 5 図 6 を実現する構成となるが 図は図 7 の 1 枚である ネットワークシステムの検討段階ではネットワークが異なる つまり役割が異なるため 2 つの図を作成したのに対し 物理構成は 1 つしかあり得ないため 図は 1 つである ただし 単純に機器の絵が接続されているだけでは必要な情報が得られないので 各機器の図が関連情報をもち 要求に応じて表示できるようにする 物理的に必要な機器は とスイッチ ルータである 図 5 と図 6 にそれぞれスイッチがあるが スイッチは共有することにするため 物理構成情報には 1 台しか現れない つまり このスイッチは物理的には 1 台であるが 2 つの異なるネットワークに所属していることになる 運用管理の要求仕様に基づき はインターネット接続とは別に監視用サーバに接続する これはスイッチを共有して監視用サーバに接続することとする 監視用サーバのネットワークシステム構成を図 6 に示す ノード名 : ルータ 1 I/F 名 : 0/1 設置場所 : ルータ 1:0/1 スイッチ 1:0/2 100M 監視用サーバ ノード名 : サーバ 1 I/F 名 :eth0 役割 : スイッチ 図 7. 物理構成の図の例 図 6. 監視用サーバのネットワーク構成図 当該 からインターネットへの接続と監視用サーバへの接続とは 別ネットワーク つまりそれぞれ閉じていて プライベートなアドレス空間をもつように設計しなければ 4.5 機能モデルによる表示次に 機能モデルによる表示を検討する 今回は のサービス用と監視用サーバ用と 2 つのローカルネットワークが存在し それらを VLAN で分けることとした また スイッチはどちらのネットワークでも共有することとした VLAN でネットワークを分けるということは このシステムには VLAN が 2 つ存在するということになる それぞれの VLAN は

6 を稼働させる VLAN とそのサーバを監視する VLAN とで 要求仕様と対応している そこで 機能レベルの表示の場合には それぞれの VLAN に対して図を表示する を提供する VLAN は図 8 監視用サーバのための VLAN は図 9 のようになる 各機器や結線の情報は付加情報として表示する ルータ スイッチ IP アドレス : Mask: speed/duplex: 100M/Full ノード名 : ルータ 1 I/F 名 : 0/1 ノード名 : サーバ 1 I/F 名 :eth0 役割 : 図 8. 用 VLAN の構成図 監視サーバ 大きな影響を与えると考えられる 5. おわりに 利用者ごとにネットワーク管理情報を表示する機能を変更させる 見せる化 見せない化 を実現させるための管理アーキテクチャの設計および機能モデル化を行った 現在のネットワークシステム管理がネットワーク機器管理を中心として行われているのに対し 本件研究では 利用者側のシナリオを実現する方向から設計するネットワーク管理アーキテクチャを提案した シナリオ つまり要求仕様の実現には 構成情報と機能の仮想化およびモデル化が重要となることを述べ 一部の機能のモデル化を行った それに基づき 利用者ごとに表示する機能を変更させる画面を設計した 今後は 機能モデルをさらに詳細化することと モデル化する機能を増やし さらに詳細なネットワークシステム構成情報を記述できるようにしていく 謝辞 : 本研究の一部は情報通信研究機構の委託研究 新世代ネットワークの構成に関する設計 評価手法の研究開発 ~ 分散型調整機構を備える新世代ネットワーク制御管理技術 ~ の一環として行われた 図 9. 監視サーバ用 VLAN の構成図 4.5 利用者に応じた表示今回のような小規模なシステム構成では 物理結線から Web アプリケーションの設定まで同じ人が行うこともある しかし 例えばインターネットに接続するルータには別の機器も接続されており 別の人が管理している場合は 物理結線も別の人が行うこともあるだろう そのような場合には それぞれの利用者に必要な情報だけを提供しなければ 混乱するだけとなる 情報は一元管理をしながら表示だけを変更する本方式は ネットワーク管理のしやすさに 文 献 [1] Case, J., Fedor, M., Schoffstall, M. and J. Davin, "A Simple Network Management Protocol (SNMP)", STD 15, RFC 1157, 1990 年 5 月. [2] Internet Engineering Task Farce, [3] MRTG (Multi Router Traffic Grapher), [4] Distributed Management Task Force, Inc., [5] 新麗, 二宮恵, 加藤雅彦, ユーザ主体のネットワーク利用を実現するネットワーク管理制御機構の提案, 2008 年度画像電子学会第 36 回年次大会, 2008 年 6 月.