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Mobile PPC におけるパケットロスなしハンドオーバの提案 金本綾子 瀬下正樹 竹内元規 渡邊晃 名城大学大学院理工学研究科 A proposal of a packet lossless handover in Mobile PPC Ayako Kanemoto Masaki Sejimo Motoki Takeuchi Akira Watanabe Graduate School of Science and Technology, Meijo University 1. はじめに無線 LAN の普及により, ノート PC や PDA をはじめとした多くのモバイル端末がネットワークに接続され, いつでもどこでも通信可能な環境が整備されつつある そのようなモバイルコンピューティング環境では, 端末が移動してもコネクションを切断することなく通信を継続することが要求されている. しかし, 端末が移動すると IP アドレスが変化するため一般には通信を維持することができない. そこで,IP アドレスの変化を隠蔽する移動透過性の研究が盛んに行われている [1].IP 層で移動透過性を保障するプロトコルとして IPv4 対応の Mobile IPv4[2] や,IPv6 対応の MobileIPv6[3] が IETF で提案されている. しかし,Mobile IP では Home Agent( 以下 HA) という特殊なネットワーク機器の配備が必要となるなどの理由で普及が滞っている. また,IPv6 の普及にはまだ時間がかかると考えられる. そこで, 我々は IPv4 対応に, エンド端末だけで移動透過性を実現できる Mobile PPC(Mobile Peer to Peer Communication)[4] の研究を行っている.Mobile PPC は特殊なアドレス体系を必要としないため,IPv6 にもそのまま適用できる. これらの移動透過プロトコルは IP 層において移動透過な通信を実現するものの, 移動時にパケットロスや通信の断絶時間などが生じることが避けられない. これは, 一般に端末が移動すると, データリンク層 ( 以下 L2) と IP 層 ( 以下 L3) が独立してハンドオーバを実行するためである. L3 と L2 は独立して定義されており 両者の連携が取られていないのが現状である.L3 ハンドオーバは L2 ハンドオーバが完了後に開始されるため,L3 ハンドオーバが開始されるまでの間に遅延が生じ, その間にパケットロスが発生する. このような現象は VoIP 通信等のリアルタイム処理が必要なアプリケーションを利用する場合, 品質への影響が大きいと考えられる. また, Mobile PPC のようなエンドエンドで移動透過性を実現する方式では, 通信中の両端末が全く同時に移動した場合において, 両端末がそれぞれ相手の旧 IP アドレスにパケットを送信し合い, 以後の通信が切断されるという課題がある. そこで, 本研究では Mobile PPC において,L2 と L3 の両者に対策を施すことによって上記課題を解決する方式を提案する.L2 への対策としては移動端末に無線 LAN カードを 2 枚搭載させ, ハンドオーバ時にも常にパケットを受信できるようにする. 一方 L3 への対策としては Mobile PPC への改造を行いアドレス変換テーブルを正しく生成できるようにする. これにより,Mobile PPC におけるパケットロスなしハンドオーバを実現する ことができる. 以下, 第 2 章では Mobile PPC におけるハンドオーバについて説明し, 第 3 章では提案方式の説明を行い, 第 4 章でむすびについて述べる. 2.Mobile PPC におけるハンドオーバ 2.1 Mobile PPC の概要 Mobile PPC は第三の装置の助けを借りることなく, エンド端末のみで移動透過性を実現するプロトコルである. Mobile PPC では, 通信開始時において相手の IP アドレスを知る機能 ( 初期 IP アドレス解決 ) と, 通信中に IP アドレスが変わった場合に通信を継続する機能 ( 継続 IP アドレス解決 ) を明確に分離する. 初期 IP アドレス解決にはホスト名と IP アドレスの関係を動的に管理するダイナミック DNS(DDNS) [5],[6] を適用する.DDNS は既に実用化されている技術である. これによりホスト名を識別子として通信開始時における端末の IP アドレスを知ることが可能となり, 通信が開始される. 一方, 継続 IP アドレス解決には,Mobile PPC を適用する.Mobile PPC では, エンド端末の IP 層に CIT(Connection ID Table) と呼ぶ変換テーブルを保持する. 図 1 に Mobile PPC による移動透過性の実現を示す. MN2 が移動して IP アドレスが変化すると, 直後に MN2 から MN1 に対して, 移動後の IP アドレスと継続させる通信の識別情報を CU(CIT UPDATE) により通知する. MN1 は MN2 から CU を受信すると自身の CIT を更新し, CU Reply を返信する.MN はこの CU Reply を受信すると, 自身の CIT を更新する. 以後の通信はこのテーブルの指示内容に従って IP 層にて, 通信パケットのアドレス変換を行う. 図 2 に Mobile PPC によるアドレス変換を示す.MN1 から送信されたパケットの宛先は,CIT を参照し MN2 の移動前の IP アドレス Y0 から移動後の IP アドレス Y1 へ変換される. このパケットを受信した MN2 は, 自身の CIT を参照し, パケットの宛先を移動後の IP アドレス Y1 から移動前の IP アドレス Y0 へ変換を行い上位層へ渡す.MN2 から送信されるパケットについても上記と同様なアドレス変換を行う. このように IP 層において正しくルーティングされるようにアドレス変換し, 上位層にはその変化を隠蔽するため移動前後においてコネクションを維持させることが可能となる. Mobile PPC は, 特殊な装置を必要とせず導入の敷居が低い. また,Mobile IP の課題とされていた経路の冗長やトンネル転送によるパケット長の変化がないという特長がある.

MN1 CIT の更新 図 1. アドレス X0 MN1 通信 宛先 送信元 データ Y0 X0 *** 移動前移動後宛先送信元宛先送信元 Y0 X0 Y1 X0 ルータ CU CU Reply 移動通知 通信再開 移動 MN が移動 CIT を用いたアドレス変換 MN2 新しい IP アドレスを取得 CIT の更新 Mobile PPC による移動透過性の実現 通信中 コネクション維持 アドレス Y0 IP 層 MN2 アドレス変換 移動 (IP アドレス変化 ) アドレス Y1 MN2 宛先 送信元 データ Y0 X0 *** 移動前移動後宛先送信元宛先送信元 Y0 X0 Y1 X0 が AP1 を経由して MN2 と通信中に,MN2 が移動すると, MN2 はまずリンク層におけるハンドオーバ (L2 ハンドオーバ ) を実行する.L2 ハンドオーバは AP 探索とリンクの確立の両者を行うことにより完了する. リンクの確立とは AP とアソシエーションを張ることを示す. ここでは, MN2 が AP1(ESS-ID:A) の無線セルを離脱すると AP1 とのアソシエーションが一旦切断される. その後,MN2 は接続可能な AP の探索を行い, 探索の結果,AP2(ESS-ID:B) が見つかると AP2 とのアソシエーションを確立する.AP1 とのアソシエーションが切断されてから AP2 へとアソシエーションを確立するまでの間は, 物理的に通信の切断時間が生じてしまう.AP 探索およびリンクの確立処理には約 60m 秒 ~400m 秒必要である [7]. この時間のほとんどは AP 探索に費やされている. L2 ハンドオーバは, 異なるネットワーク間の移動に限らず,AP を切り替える際にも常に発生する動作である. 次に,MN2 は移動先ネットワークで AP2 を介して DHCP サーバより新 IP アドレスを取得する. ここでは,MN2 と DHCP サーバ間の 2 往復の DHCP シーケンス (DHCP DISCOVER,DHCP OFFER,DHCP REQUEST,DHCP ACK) と IP アドレス取得後に行われる ARP による重複アドレスチェックが含まれる. この IP アドレス取得処理には約 2~5 秒の時間を要し, この間は IP アドレスが定まらないので通信を行うことができない. 最後に図 1 に示した Mobile PPC の移動通知処理により両端末の CIT の更新をおこなう. 移動通知処理時間には,MN1 と MN2 の CIT 更新時間,CU パケットおよび CU Reply パケットの伝達時間が含まれるが,0.3 ミリ秒程度で終了する. ESS-ID : A ESS-ID : B 宛先 送信元 データ Y1 X0 *** 宛先 送信元 データ Y1 X0 *** MN1 AP1 DHCP AP2 MN2 図 2. Mobile PPC によるアドレス変換 通信移動 2.2 ハンドオーバ発生時の動作ここでいうハンドオーバとは無線 LAN の Access Point(AP) とのアソシエーションを張り替えることを指し, 大きく 2 つに分類される. 一つは同一ネットワーク内を移動する場合に生じるハンドオーバで, もう一つは異なるネットワーク間を移動する場合に生じるハンドオーバである. 後者の場合, アソシエーションを張り替える際に IP アドレスが変化する. 本論文は後者の場合について論議する. 一般に同一ネットワーク内に存在する AP には同じ ESS-ID が割り当てられている.ESS-ID とはネットワーク識別子のことである. 移動端末 MN2 はこの ESS-ID によりネットワークの違いを認識している.ESS-ID は AP から定期的に送信されているビーコンの情報内に含まれている.MN が AP を切り替える際に ESS-ID が変化しない場合は同一ネットワーク内の移動とみなす. 一方 ESS-ID が変化する場合は異なるネットワーク間を移動したと判断し, 移動先のリンクに存在する DHCP サーバへ新しい IP アドレスを要求する.Windows にはこのような仕組みが標準で実装されている. 以下にこのような場合のハンドオーバと移動情報の通知手順を示す. 図 3 にハンドオーバ時の詳細シーケンスを示す.MN1 CU パケット CU Reply パケット 図 3. CIT レコードの更新 Ethernet 無線リンク L2 ハンドオーバ IP アドレス取得 移動情報通知 通信再開 60m 秒 ~400m 秒 2 秒 ~5 秒 約 0.3m 秒 ハンドオーバ時の詳細シーケンス 2.3 Mobile PPC におけるハンドオーバの課題 Mobile PPC における移動情報通知時においては以下の 2 つの問題がある. 1) 通信パケットの宛先 IP アドレスが実際の宛先と一致しないタイミングが発生しうる. 2) 通信中に MN1 と MN2 が全く同時に移動すると, 両端末から送信される CU パケットが, 通信相手ノードに到達しない. 図 4 に 1) の移動情報通知時のパケットロスを示す.MN2 は移動後に IP アドレスが Y0 から Y1 へと変化するものとする.MN2 は移動後,CU Reply を受信するまでの間,MN1

から送信されたパケットを受信することができない. これは,MN1 が CU を受信するまでは旧 IP アドレス Y0 宛にパケットを送信するためである. 次に, 図 5 に 2) の同時移動したときの通信の切断を示す. 両エンド端末は互いに移動前の旧アドレス宛に CU を送信するが, 両端末ともこの情報を受信できない. 本課題はパケットロスにとどまらず通信の切断に至るため重要な課題である. 宛先 :Y0 MN1 IP : X0 IP : Y0 IP : Y1 ~ 通信 ~ 移動 CU MN2 IP アドレス取得 CU パケット生成 無線エリアがオーバーラップしている部分に移動すると, AP1 の電波が一定の値より弱くなり AP2 の電波が強くなる.MN2 はこの状態を検出するとカード 1 による通信を維持しながら カード 2 により AP2 と接続する.MN2 はカード 2 を用いて DHCP より新 IP アドレスを取得する. 次にカード 2 を用いて相手端末へ CU を送信して両端末の CIT を更新する. 移動情報の交換後は新 IP アドレスを持つカード 2 で通信が行われる. カード 1 は一定時間 AP1 とのアソシエーションを保持した後, 切断する. CIT が更新された後もカード 1 でのアソシエーションを残す理由は, 旧 IP アドレス宛のパケットも MN2 が受信できるようにするためである.MN2 はカード 1 と AP1 とのアソシエーションを切断した後はカード 1 を使用してチャネルスキャンを行う. このように 2 枚の無線 LAN カードを交互に通信に使用することにより, 無線レイヤにおけるパケットロスを無くすことが可能となる. CIT 更新 CU Reply CIT 更新 AP1 AP2 通信 MN2 図 4. 移動情報通知時のパケットロス 1 2 1 2 1 2 MN1 MN2 図 6. 無線レイヤにおける処理 IP : X1 IP : X0 IP : Y0 IP : Y1 移動 ~ 通信 ~ 移動 上記の処置はアプリケーションからコントロールすることができる. 次にコントロールするためのコマンドを示す. 実装対象としては FreeBSD5.3 を採用した. 宛先 :Y0 図 5. CU 通信不可 CU 同時移動の際の通信の切断 宛先 :X0 AP へのアソシエーション指示 ifconfig インターフェース名 ESS-ID 周辺 AP の表示 電波強度と ESS-ID の情報取得 wicontrol インターフェース名 L DHCP サーバからのアドレス取得 dhclient インターフェース名 r ( アドレスをリリース ), dhclient インターフェース名 ( アドレスを取得 ) 3. 提案方式本論文では このような課題を解決するため, 無線レイヤにおける処置と Mobile PPC の改造を同時に行う. 無線レイヤにおいては,MN に無線 LAN カードを 2 枚搭載させ, L2 のハンドオーバから新 IP アドレス取得が完了するまでの間 2 枚のカードを同時動作させることにより通信不可の時間帯を無くす. 次に, 通信不可の時間帯がなくなったことを前提に,Mobile PPC 特有のハンドオーバ手順を実現する. 3.1 無線レイヤにおける処置図 6 に無線レイヤにおける処理内容を示す. MN2 は 2 枚の無線 LAN カード (1,2) を搭載する.MN2 が AP1 の無線エリア内に存在するときはカード 1 で AP1 に接続する. MN2 はカード 2 により 周辺に存在する AP の電波強度の測定やチャネルスキャンおよび 各 AP の ESS-ID を確認し, 次に接続するべき AP を探す. MN2 が AP1 と AP2 の 3.2 Mobile PPC の改造上記無線レイヤにおける処置を前提にして Mobile PPC の改造を行う. 改造箇所は 2 つあり, 一つは旧 CIT テーブルをしばらくの間保持するように改造する. これまでの Mobile PPC では, 移動後の情報を新 CIT テーブルとして登録した後移動前の情報を含む旧テーブルを削除していた. もう一つは, 新 IP アドレスを取得後 CU を送信した直後に相手端末から旧 IP アドレス宛の CU を受信した場合は同時移動が発生したものとみなし, その時点で受信 CU の内容から新 CIT テーブルの生成を行うように変更する. 図 7 は, 改造後の移動通知時の動作である. 無線レイヤの改造により,MN は IP アドレス変化後に移動情報を通知中においても旧 IP アドレスでのパケットの受信が可能である. さらに, 移動前の情報を含む旧 CIT テーブルをしばらく残すことにより,MN1 からカード 1(IP アドレス Y0) 宛てへ送信されたパケットは正しくアドレス変換

され上位アプリケーションへ渡すことができる. MN1 は MN2 からの CU を受信すると, 自身の CIT テーブルの移動後の宛先 IP アドレスを Y1 へと変更し CU Reply を MN2 の新 IP アドレス (Y1) 宛へと送信する.MN2 はこれを受信すると自身の CIT テーブルの移動後の宛先 IP アドレスを移動前と同じ X0, 送信元 IP アドレスを新 IP アドレス Y1 へと変更する.CIT を更新後 MN2 の新 IP アドレス Y1 宛に送信されたパケットは更新後の新 CIT テーブルによりアドレス変換され通信が継続される. 以上により図 4 のパケットロスの問題は解決される. 旧 CITテーブル移動前移動後宛先送信元宛先送信元 Y0 X0 変更なし変更なし MN1 IP : X0 ~ AP1 AP2 MN2 IP : Y0 ~ 移動 MN2 1 1 2 IP : Y1 旧 CITテーブル 移動前 移動後 宛先送信元 宛先 送信元 X0 Y0 変更なし変更なし された相手端末の新 IP アドレスに変更する. 即ち,MN1 は宛先 Y1, 送信元 X1,MN2 は宛先 X1, 送信元 Y1 へと更新する. この方法により同時に移動した場合にも CIT が正しく生成され, 図 5 で記述した同時移動時の通信の切断の問題が回避される. 4. むすび本研究では無線レイヤと Mobile PPC の両者に変更を加えることにより Mobile PPC におけるパケットロスなしハンドオーバの提案を行った. 無線レイヤの変更では, 無線 LAN カードを 2 枚搭載させ通信を行いながら, 新, 旧両 IP アドレスでの通信を可能にする. また, 無線レイヤの改造を前提に Mobile PPC を改造し,CU とパケットの交錯時に発生するパケットロスと同時移動の際に発生する通信の切断を解決することができた. 今後は本システムを実装して, その有効性を確認する. 新 CITテーブル CIT 更新移動前移動後宛先送信元宛先送信元 Y0 X0 Y1 X0 新 IP アドレス X1 を取得 CIT の更新 図 7. MN1 CU CU Reply CU CU パケット生成 旧テーブルでアドレス変換 新テーブルでアドレス変換 改造後の移動通知時の動作 IP : X1 IP : X0 IP : Y0 IP : Y1 移動前移動後宛先送信元宛先送信元 Y0 X0 変更なし変更なし 移動 移動前 移動後 宛先 送信元 宛先 送信元 Y0 X0 Y1 X1 図 8. MN1 MN2 MN2 ~ 通信 ~ 移動 CU CIT 更新新 CITテーブル移動前移動後宛先送信元宛先送信元 X0 Y0 X0 Y1 移動前移動後宛先送信元宛先送信元 X0 Y0 変更なし変更なし 新 IP アドレス Y1 を取得 CIT の更新 移動前 移動後 宛先 送信元 宛先 送信元 X0 Y0 X1 Y1 改造後の同時移動時の動作 参考文献 [1] 寺岡文男, インターネットにおけるモバイル通信プロトコルの標準化動向,, 電子情報通信学会論文誌,Vol.J84- B,No.10,pp.1746-1754,Nov.2000 [2] C. E. Perkins. IP Mobility Support for IPv4, RFC 3344. Aug.2002. [3] D.Johnson, C. Perkins, J. Arkko, MobilitySupport in IPv6, RFC3775. June 2004. [4] 竹内元規, 渡邊晃, モバイル端末の移動透過性を実現する Mobile PPC の提案, 情報処理学会研究報告,2004- MBL-30, pp.17-24, Sep. 2004. [5] R. Droms, Dynamic Host Configuration Protocol,RFC2131,March 1997. [6] Vixie (Ed.), P., Thomson, S., Rekhter, Y. and J.Bound, Dynamic Updates in the DomainName System, RFC 2136,April 1997. [7] Arunesh Mishra and Minho Shin and William Arbaugh, An empirical analysis of the IEEE 802.11 MAC layer handoff process, ACM SIGCOMM Computer Communication Review, Vol. 33, Issue 2, pp. 93 102, April 2003. [8] Ishwar Ramani and Stefan Savage, SyncScan: practical fast handoff for 802.11 infrastructure networks, Proceedings of INFOCOM 2005, Vol. 1, pp. 675-684, March 2005. [9] D.Johnson, C. Perkins, J. Arkko, MobilitySupport in IPv6, RFC3775. June 2004. [10] R.Koodli,ed., Fast handovers for mobile IPv6, draft-ietf-mispshop-fast-mipv6-03.txt, Oct.2004 図 8 に改造後の同時移動時の動作を示す. 同時移動時, 両端末はそれぞれ通信相手が移動していることを知らないため相手端末の旧 IP アドレスに対し CU を送信し, 通信相手からの CU Reply を待つ. 無線レイヤの改造により, CU はそれぞれ受信可能である.CU を送信し, 相手端末からの CU Reply を待っている間に, 相手端末から旧 IP アドレス宛の CU を受信した場合は同時移動が発生したものと判断できる. この場合, 自身の送信した CU と相手端末から受信した CU の情報を元に MN1,MN2 とも新 IP アドレスによる CIT を生成することが可能である. 両端末において,CIT 内の移動後送信元アドレスを自身の新 IP アドレスに変更する. また, 移動後の宛先アドレスを CU で報告

Mobile PPC におけるパケットロス なしハンドオーバの提案 名城大学大学院金本綾子瀬下正樹渡邊晃 Proposal of handover without packet loss in Mobile PPC

研究背景 無線 LANの普及 - 無線ネットワーク環境の発展 モバイル端末の普及 自由に移動しながらネットワークに接続したい 移動すると IP アドレスが変化 通信の継続が不可能 移動透過性の実現 2

独自技術 Mobile PPC エンドエンドで移動透過性を実現 エンド端末の IP 層にアドレス変換処理の挿入 移動前後の対応関係を示すテーブル CIT(Connection ID Table) を生成 IP 層より上位層にIPアドレスの変化を隠蔽する 3

ハンドオーバ データリンク層 物理的に AP を切り替える IP 層 IP アドレスの取得,Mobile PPC の移動情報通知 4

L2 ハンドオーバ データリンク層で行われるハンドオーバ 物理的にアクセスポイント (AP) を切り替える ネットワークの相違に限らず,APを切り替える際には必ず発生する AP1 AP なし AP2 通信 アソシエーション切断 AP 探索 アソシエーション確立 通信 通信切断 時間 5

Mobile PPC における移動情報の通知方法 CIT 移動前移動後相手自分相手自分 Y0 X0 CIT 移動前移動後相手自分相手自分 X0 Y0 IP:Y1 移動前移動後相手自分相手自分 Y0 X0 Y1 X0 移動前移動後相手自分相手自分 X0 Y0 X0 Y1 6

パケットロスの要因 2 秒 ~7 秒 L2ハンドオーバーチャネルスキャンーアソシエーション確立 IPアドレス取得ー 2 往復のDHCPシーケンスー重複アドレスチェック 移動情報通知 (Mobile PPC) 60m 秒 ~ 400m 秒 約 0.3m 秒 7

パケットロスの要因 MN1 MN2 が移動したことを知ることが出来ない ~ 通信 ~ L2 ハンドオーバ IP アドレス取得 宛先 :Y0 8

同時移動したときの通信の切断 通信中に MN1 と MN2 が全く同時に移動 両端末から送信される CU パケットが, 通信相手ノードに到達しない MN1 MN2 通信 9

提案方式 変更箇所 無線 LAN カードを 2 枚搭載 MN カード 2 枚でそれぞれ異なる AP へ接続 一方のカードで通信を継続しながら もう一方でハンドオーバを実行する Mobile PPC 同時移動における問題を解決 10

無線 LAN カードを 2 枚使用した場合の動作 周辺 APの電波強度の測定 ESS-IDの確認 IPアドレス取得 移動情報通知 11

アプリケーションからのコントロール方法 APへ接続 ifconfig インターフェース名 ESS-ID 周辺 APの認識 電波強度とESS-IDの情報取得 wicontrol インターフェース名 L DHCPからアドレス取得 dhclient インターフェース名 r, dhclient インターフェース名 12

端末移動時におけるパケットロスの解決方法 1 2 1 2 移動前移動後相手自分相手自分 Y0 X0 移動前移動後相手自分相手自分 X0 Y0 移動 宛先 :Y0 IP アドレス取得 移動前移動後相手自分相手自分 Y0 X0 Y1 X0 移動前移動後相手自分相手自分 Y0 X0 X0 Y1 13

同時移動のための MobilePPC における変更点 CUを送信した直後に相手端末から旧 IPアドレス宛のCUを送信した場合 同時移動が発生したとみなしCITを更新 これまでのMobilePPCでは,CITを更新した直後に旧 CITを削除 旧 CITを一定時間残しておく 14

同時移動の解決方法 1 2 21 1 2 1 2 移動前移動後相手自分相手自分 Y0 X0 移動前移動後相手自分相手自分 X0 Y0 移動前 移動後 相手自分相手自分 Y0 X0 Y0 X0 Y1 X1 移動前 移動後 相手自分相手自分 X0 Y0 X0 Y0 X1 Y1 15

むすび まとめ 目的 : ハンドオーバ時に発生するパケットロスと同時移動時に発生する通信の切断を解決 提案方式 端末に無線 LANカードを2 枚搭載することにより新 旧 2つのアドレスでの通信を可能にする Mobile PPCの変更により同時移動したときの通信の切断を解決 今後の予定 本システムを実装して, その有効性を確認 16

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ヒステリシス特性 AP AP2 AP1 A B 電波強度の閾値 A < B 18