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目次 1. 訂正発明 ( クレーム 13) と控訴人製法 ( スライド 3) 2. ボールスプライン最高裁判決 (1998 年 スライド 4) 3. 大合議判決の三つの争点 ( スライド 5) 4. 均等の 5 要件の立証責任 ( スライド 6) 5. 特許発明の本質的部分 ( 第 1 要件 )(

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限され 当事者が商標を使用する能力に直接の影響はありません 異議申し立て手続きと取消手続きで最もよく見られる問題とは 混同のおそれ と 単なる記述 です TTAB は登録の内容のみを評価するため その分析の局面には 想定に基づくものもあります 通常 TTAB では どのように標章が実際の製品において

事実及び理由 第 1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す 2 被控訴人は, 原判決別紙被告方法目録記載のサービスを実施してはならない 3 被控訴人は, 前項のサービスのために用いる電話番号使用状況調査用コンピュータ及び電話番号使用状況履歴データが記録された記録媒体 ( マスター記録媒体及びマスター記録

第29回 クレーム補正(2) ☆インド特許法の基礎☆

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米国情報 国際活動センターからのお知らせ 米国情報 2016 年 7 月 28 日 担当 : 外国情報部那須威夫 特許権者による特許製品の米国内外での制限付き販売は 米国特許権を消尽させるか否かについて判断した CAFC 判決の紹介 Lexmark International, Inc., v. I

第28回 クレームの補正 ☆インド特許法の基礎☆

 

何故 IDS をする必要があるのか? 米国特許出願をするときは 発明者が以下の要件に対して宣誓をする宣誓書 (37 CFR 1.63) に署名しなければならない (1) 明細書 ( クレームを含む ) の内容を検討し 理解している (2) 真実であり 最初の発明者であると信じる ; (3) 規則 1

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間延長をしますので 拒絶査定謄本送達日から 4 月 が審判請求期間となります ( 審判便覧 の 2.(2) ア ) 職権による延長ですので 期間延長請求書等の提出は不要です 2. 補正について 明細書等の補正 ( 特許 ) Q2-1: 特許の拒絶査定不服審判請求時における明細書等の補正は

実体審査における審査官面接に関して GPE には面接における協議の方法 時期および内容など 詳細な要件が定められている 例えば GPE には 最初のオフィスアクションの応答書が出願人により提出された後 審査官は当該出願の審査を継続しなければならない と規定されている (GPE 第 II 部第 2 章

参加人は 異議申立人が挙げていない新たな異議申立理由を申し立てても良い (G1/94) 仮 にアピール段階で参加した参加人が 新たな異議申立理由を挙げた場合 その異議申立手続は第 一審に戻る可能性がある (G1/94) 異議申立手続中の補正 EPCにおける補正の制限は EPC 第 123 条 ⑵⑶に

米国情報 米国情報 担当 : 外国情報部鈴木孝章 P&G vs Teva (KSR 後の非自明性判決 ) United States Court of Appeals for the Federal Circuit , -1405, P&G vs Teva May. 1

Ⅰ. はじめに 近年 企業のグローバル化や事業形態の多様化にともない 企業では事業戦略上 知的財産を群として取得し活用することが重要になってきています このような状況において 各企業の事業戦略を支援していくためには 1 事業に関連した広範な出願群を対象とした審査 2 事業展開に合わせたタイミングでの

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なって審査の諸側面の検討や評価が行われ 関係者による面接が開始されることも ある ベトナム知的財産法に 特許審査官と出願人またはその特許代理人 ( 弁理士 ) の間で行われる面接を直接定めた条文は存在しない しかしながら 審査官は 対象となる発明の性質を理解し 保護の対象を特定するために面接を設定す

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控訴人は, 控訴人にも上記の退職改定をした上で平成 22 年 3 月分の特別老齢厚生年金を支給すべきであったと主張したが, 被控訴人は, 退職改定の要件として, 被保険者資格を喪失した日から起算して1か月を経過した時点で受給権者であることが必要であるところ, 控訴人は, 同年 月 日に65 歳に達し

1 アルゼンチン産業財産権庁 (INPI) への特許審査ハイウェイ試行プログラム (PPH) 申請に 係る要件及び手続 Ⅰ. 背景 上記組織の代表者は

ことができる 1. 特許主務官庁に出頭して面接に応じる と規定している さらに 台湾専利法第 76 条は 特許主務官庁は 無効審判を審理する際 請求によりまたは職権で 期限を指定して次の各号の事項を行うよう特許権者に通知することができる 1. 特許主務官庁に出頭して面接に応じる と規定している なお

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第20回 特許要件(1)☆インド特許法の基礎☆

米国特許ニュース AIA102( 条 (a)(1) の出願日前の販売 (on sale) は たとえ販売内容が秘密であっても旧法 102 条 (b) の オンセール と同じで 特許を無効にすると最高裁判決 服部健一米国特許弁護士 2019 年 2 月 HELSINN HEALTHCARE S. A.

例 2: 組成 Aを有するピアノ線用 Fe 系合金 ピアノ線用 という記載がピアノ線に用いるのに特に適した 高張力を付与するための微細層状組織を有するという意味に解釈される場合がある このような場合は 審査官は 請求項に係る発明を このような組織を有する Fe 系合金 と認定する したがって 組成

では理解できず 顕微鏡を使用しても目でみることが原理的に不可能な原子 分子又はそれらの配列 集合状態に関する概念 情報を使用しなければ理解することができないので 化学式やその化学物質固有の化学的特性を使用して 何とか当業者が理解できたつもりになれるように文章表現するしかありません しかし 発明者が世

2.2.2 外国語特許出願の場合 2.4(2) を参照 2.3 第 184 条の 5 第 1 項に規定された書面 (1) 日本語特許出願 外国語特許出願を問わず 国際特許出願の出願人は 国内書面提出期間 ( 注 ) 内に 出願人 発明者 国際出願番号等の事項を記載した書面 ( 以下この部において 国

米国特許クレームにおける “at least one of”の用法の考察

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作成日 :2006 年 10 月 1 日 世界知的所有権機関 World Intellectual Property Organization (WIPO) 所在地 :34 chemin des Colombettes, 1211 GENEVE 20, Switzerland Tel : (41 2

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事実 ) ⑴ 当事者原告は, 昭和 9 年 4 月から昭和 63 年 6 月までの間, 被告に雇用されていた ⑵ 本件特許 被告は, 次の内容により特定される本件特許の出願人であり, 特許権者であった ( 甲 1ないし4, 弁論の全趣旨 ) 特許番号特許第 号登録日平成 11 年 1

訂正情報書籍 170 頁 173 頁中の 特許電子図書館 が, 刊行後の 2015 年 3 月 20 日にサービスを終了し, 特許情報プラットフォーム ( BTmTopPage) へと模様替えされた よって,

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35 U.S.C. 101 Inventions patentable Whoever invents or discovers any new and useful process, machine, manufacture, or composition of matter, or any ne

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平成 29 年度 新興国等における知的財産 関連情報の調査 タイにおける微生物寄託に係る実務 Tilleke & Gibbins(Thailand) Titikaan Ungbhakorn ( 弁護士および特許弁理士 ) Tilleke & Gibbins は 1890 年に設立された東南アジアを代

不衡平行為の抗弁:THERASENSE 事件以降の方向性

注意 本製品は FCC Class A 装置です 一般家庭でご使用になると 電波干渉を起こすことがあります その際には ユーザーご自身で適切な処置を行ってください 本製品は FCC( 米国連邦通信委員会 ) 規則の Part15 に準拠したデジタル装置 Class A の制限事項を満たして設計され

欧州特許出願における同一カテゴリーの複数の独立クレーム

認められないから, 本願部分の画像は, 意匠法上の意匠を構成するとは認めら れない したがって, 本願意匠は, 意匠法 3 条 1 項柱書に規定する 工業上利用する ことができる意匠 に該当しないから, 意匠登録を受けることができない (2) 自由に肢体を動かせない者が行う, モニター等に表示される

1. H.R.6264 Restoring America s Leadership in Innocation Act of 2018::RALI 法 (2018 年 6 月 28 日 ) 提出したのは Rohrabacher ( ローラベッカー ) 1 下院議員 他 2 名である セクション 1

「特許にならないビジネス方法発明の事例」(対外向け)の類型案

情報の開示を求める事案である 1 前提となる事実 ( 当事者間に争いのない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実 ) 当事者 ア原告は, 国内及び海外向けのモバイルゲームサービスの提供等を業とす る株式会社である ( 甲 1の2) イ被告は, 電気通信事業を営む株式会社である

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特許出願の審査過程で 審査官が出願人と連絡を取る必要があると考えた場合 審査官は出願人との非公式な通信を行うことができる 審査官が非公式な通信を行う時期は 見解書が発行される前または見解書に対する応答書が提出された後のいずれかである 審査官からの通信に対して出願人が応答する場合の応答期間は通常 1

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日本国特許庁の国内出願の審査結果を利用した特許審査ハイウェイ ベトナム国家知的財産庁 (IP Viet Nam) と日本国特許庁 (JPO) との間の特許審査ハイウェイ試行プログラムに関するベトナム国家知的財産庁への申請手続 ( 仮訳 ) 日本国特許庁の国内出願の審査結果を利用した特許審査ハイウェイ

年 10 月 18 日から支払済みまで年 5 分の割合による金員を支払え 3 被控訴人 Y1 は, 控訴人に対し,100 万円及びこれに対する平成 24 年 1 0 月 18 日から支払済みまで年 5 分の割合による金員を支払え 4 被控訴人有限会社シーエムシー リサーチ ( 以下 被控訴人リサーチ

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平成 23 年 10 月 20 日判決言渡同日原本領収裁判所書記官 平成 23 年 ( 行ケ ) 第 号審決取消請求事件 口頭弁論終結日平成 23 年 9 月 29 日 判 決 原 告 X 同訴訟代理人弁護士 佐 藤 興 治 郎 金 成 有 祐 被 告 Y 同訴訟代理人弁理士 須 田 篤

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丙は 平成 12 年 7 月 27 日に死亡し 同人の相続が開始した ( 以下 この相続を 本件相続 という ) 本件相続に係る共同相続人は 原告ら及び丁の3 名である (3) 相続税の申告原告らは 法定の申告期限内に 武蔵府中税務署長に対し 相続税法 ( 平成 15 年法律第 8 号による改正前の

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1

欧州特許庁における審査期間短縮手段 背景欧州出願は 日本 米国と比較して係属期間が長い また 欧州出願では 登録まで出願維持年金を特許庁に支払う必要があり 係属期間が長くなると費用が高くなる そこで 早期権利化と 権利化にかかる費用の削減のために 欧州特許庁における審査期

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上陸不許可処分取消し請求事件 平成21年7月24日 事件番号:平成21(行ウ)123 東京地方裁判所 民事第38部

項目同士の掛け合わせなどの複雑な検索を行う場合は 下記の Click here! For advanced search の表記をクリックすると 各種検索項目が出現する 今回は複数の検索項目を設定できるこの advanced search を使った事例を紹介する pg. 2

2.1 提供方法 提供形態 登録されたサービス利用者に発行される ID パスワードによりアクセス できるダウンロードサイトから オンラインで提供される 提供周期 新規発生分 / 更新処理分のデータは 日次及び週次で提供される ただし 週次データにおいて期間内に更新又は削除が複

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米国法の特許消耗における Quanta- 依存の相違について デイヴィッド ワング Winston & Strawn LLP 2015 Winston & Strawn

Transcription:

米国における機能的クレームの認定 ~ 裁判所とUSPTO との認定の相違 ~ 米国特許判例紹介 (107) 2014 年 4 月 3 日執筆者弁理士河野英仁 Enocean, GMBH, Appellant, v. Face International Corp., Appellee. 1. 概要 米国特許法第 112 条 (f) は機能的クレームに関し 以下のとおり規定している 組合せに係るクレームの要素は, その構造, 材料又はそれを支える作用を詳述することなく, 特定の機能を遂行するための手段又は工程として記載することができ, 当該クレームは, 明細書に記載された対応する構造, 材料又は作用, 及びそれらの均等物を対象としているものと解釈される ここで クレームの構成要件に means for ~ing 形式を用いた場合 米国特許法第 112 条 (f) が適用されるという反証可能な推定を引き起こすこととなる 1 逆に 構成要件中に meansを用いていない場合 当該構成要件は 112 条 (f) が適用されないと推定される 2 もちろん推定にすぎないため 相手方が 当該クレームの文言は 十分に明確な構 造に言及 していない または 当該機能を実現するための十分な構造を用いること なく機能 に言及していることを証明した場合 当該推定を覆すことができる 3 本事件では means を用いたクレームと means を用いない対応するクレームとが 設けられていたところ USPTO 審判部は means を用いていないクレームは実質的に 1 Inventio AG v. ThyssenKrupp Elevator Ams. Corp., 649 F.3d 1350, 1356 (Fed. Cir. 2011) 2 Personalized Media Commc ns, LLC v. Int l Trade Comm n, 161 F.3d 696, 703-04 (Fed. Cir. 1998) 3 CCS Fitness v. Brunswick Corp., 288 F.3d 1359, 1369 (Fed. Cir. 2002) 1

means クレームと相違しないから 同様に米国特許法第 112 条 (f) が適用されると判断 した CAFC は逆に米国特許法第 112 条 (f) は適用されないと判断した 2. 背景 (1) 特許出願の内容 Enocean( 原告 ) は U.S. Patent Application No. 10/304,121( 以下 121 出願という ) の出願人である 121 出願は 電源内蔵式スイッチに関する発明であり 当該スイッチは バッテリーまたは電源に接続することなく 電灯 電化製品及び他の装置をオンまたはオフするのに用いられる 121 出願の発明者は 2000 年 5 月 24 日にドイツにて新たなスイッチを開示する特許 出願を行い (DE 10025 561.2) 2001 年 5 月 21 日に 同様の開示により PCT 出願を行 い 米国に国内移行したものである (2) 審判部の判断審判部はクレーム中の構成要件 レシーバ について means を用いていないにもかかわらず 米国特許法第 112 条 (f) が適用されると判断した レシーバ については クレームに単に機能的にしか記載されておらず また他のクレームの構成要件 信号受信手段 signal receiving means と何ら相違するところがないからという理由である 審判部は 121 出願に対して米国特許法第 112 条 (f) が適用されるとの決定をなした 原告はこれを不服として CAFC へ控訴した 3.CAFC での争点争点 : レシーバ という文言に米国特許法第 112 条 (f) が適用されるか本事件は レシーバクレーム及び means クレームに関わり 審判部がレシーバクレームについて 112 条 (f) を適用したことが妥当か否か争点となった 4.CAFC の判断 結論 : レシーバクレームはブラックボックスではなく 112 条 (f) は適用されない 問題となったレシーバクレームは以下のとおりである クレーム 37: 前記第 1 信号トランスミッタにより送信される第 1 電磁気信号を受信 する信号レシーバ 2

クレーム 38: 前記第 1 信号トランスミッタにより送信された第 1 無線周波数信号を 受信するレシーバ クレーム 43 前記無線周波数送信ステージにより送信される無線周波数電信を受信 するよう構成されるレシーバ クレーム 45 前記第 1 無線周波数送信ステージにより送信される無線周波数電信を 受信するよう構成されるレシーバ 原告の出願クレーム 37,38,43,45 は特に文言 means を使用していないため MPF(means plus function) クレームではないという推定が働く この推定にもかかわらず 審判部は レシーバ 構成要件は 112 条 (f) に該当すると結論づけた 審判部は レシーバ と 信号受信手段 signal receiving means との間の意味において差はない と判断し また単に機能的文言の観点から定義されているに過ぎないと判断した これに対し原告は クレーム構成要件 レシーバ は 当該技術分野において 記載 された機能を実行する構造に関する名前として十分合理的に理解されていると反論し た 一方被告は クレームされた レシーバ は 受信する等 その実行する機能の観点においてだけ定義され その構造ではないと反論した また レシーバ は どのようにして そのようになるかが依然として開示されていないため 基本的に言及された機能を実行するブラックボックスである と主張した CAFC は原告の意見に同意した 文言 レシーバ は means を用いていないため 当業者に対し十分に明確な構造を暗示すると推定され また被告は 当該推定を覆せな かったからである また原告は 文言 レシーバ が当事者にとって公知の構造をもたらすということを示す専門家証言を含む多数の証拠を提出した CAFC は 当業者が レシーバ とは何かを知っているという事実認定からすれば レシーバ は 言及された機能を実現するブラックボックス ではなく 米国特許法第 112 条 (f) は適用されないと判断した 5. 結論 3

CAFC は 112 条 (f) が適用されるとした審判部の判断を取り消す判決をなした 6. コメント電気 ソフトウェア関連発明においては構成要件を明確にハードウェアで特定することができず 機能的な記載とならざるを得ない場合が多い 出願人側は means を使用しないことで 米国特許法第 112 条 (f) の推定を避けることができる (1)USPTO の審査 審理傾向しかしながら 審査官向けの米国特許法第 112 条 (f) に関するトレーニング資料 4 が 2013 年 8 月に公表された後 同条が頻繁に適用されるようになった このトレーニング資料には米国特許法第 112 条 (f) が適用される例がふんだんに記載されており これを経験の少ない審査官が鵜呑みにしてそのまま適用すれば 電気 ソフトウェア関連のクレームではほとんどが米国特許法第 112 条 (f) の適用対象となることとなる また USPTO は審判部の means クレームに関する主要審決を HP 上で特別に公開 している 5 本審決紹介 HP では means クレームが適用された例が数多く記載されて いる とりわけ問題となるのが processor クレームである 米国特許法第 112 条 (f) の推定を避けるために ハードウェアである processor を記載し 当該 processorが A 処理 B 処理 を実行すると記載する方式である 掲載されている審決例において審判部は processor クレームは 単に MPF クレームを置き換えたものであり何ら構造を特定していないから米国特許法第 112 条 (f) が適用されると判断している このように USPTO は近年米国特許法第 112 条 (f) を積極的に適用する傾向にある (2) 裁判所の判断 これに対し 裁判所は本事件のごとく米国特許法第 112 条 (f) の適用について制限的で ある 近年の判決概要が以下のとおりである (a) 高さ調整メカニズム 6 高さ調整メカニズム height adjustment mechanism は十分な構造であり 米国 特許法第 112 条 (f) は適用されない 4 http://www.uspto.gov/patents/law/exam/examguide.jsp 5 http://www.uspto.gov/ip/boards/bpai/decisions_involving_functional_claiming.jsp 6 Flo Healthcare Solutions, LLC v. Kappos, 697 F.3d 1367, 1374-75 (Fed. Cir. 2012) 4

(b) 評価するコンピューティングユニット 7 評価するコンピューティングユニット computing unit... for... evaluating... は コンピュータまたは他のデータ処理装置を暗示しているため MPF クレームに該当しない (c) 回路 8 クレームにおける 第 1 フィードバック信号を生成すべく 出力ターミナルからの信 号を監視する 回路 そのものは構造であり 米国特許法第 112 条 (f) は適用されない (d) デジタル検出器 デジタル検出器 digital detector は十分な構造であり 米国特許法第 112 条 (f) は適用されない (3)Glossary Pilot Program(GPP) 9 の実施 USPTO は 2014 年 3 月 26 日ソフトウェア ビジネス関連発明についての GPP を開始すると公表した 明細書中に用語の定義の欄を設け 用語の定義を行えば Petition を提出することで優先審査を受けることができるというものである GPP はソフトウェア ビジネス関連発明のみが対象となり 2014 年 6 月 2 日から開始される 審査ではクレームの文言が最も広く解釈され意図しない先行技術が提示される恐れがあるが GPP を利用してクレーム文言を定義しておくことで 不要な先行技術を排除し また早期に権利化を図ることができる しかしながら 用語の定義により権利範囲は当然限定解釈されるため GPPを活用するメリットはほとんどない 判決 2014 年 1 月 31 日以上 関連事項 判決の全文は連邦巡回控訴裁判所のホームページから閲覧することができる [PDFファイル ] http://www.cafc.uscourts.gov/images/stories/opinions-orders/12-1645.opinion.1-29-2014.1.pdf 7 Inventio AG v.thyssenkrupp Elevator Ams. Corp., 649 F.3d 1350, 1356(Fed. Cir. 2011) 8 Linear Tech. Corp. v. Impala Linear Corp., 379 F.3d 1311,1322 (Fed. Cir. 2004); 9 http://www.gpo.gov/fdsys/pkg/fr-2014-03-27/pdf/2014-06792.pdf 5