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7 序論第 1 章ヴェーダ聖典およびウパニシャッド文献における世界構成原理第 2 章 Mahābhārata における世界構成原理第 3 章 Manusmṛti における世界構成原理第 4 章 Carakasaṃhitā および Buddhacarita における世界構成原理第 5 章古典サーンキヤにおける世界構成原理第 6 章パーンチャラートラ派における世界構成原理第 7 章結論補遺 : 訳註 論文の概要は 以下の通りである 序論 の第 1 節では 本論文で扱うサーンキヤ思想の史的展開を概観し 第 2~4 節で それぞれエピック サーンキヤ 古典サーンキヤ ( サーンキヤ学派の思想 ) パーンチャラートラ派の主要な教典とそれらの内容を 最新の研究に基づいてまとめている 第 1 章 ヴェーダ聖典およびウパニシャッド文献における世界構成原理 では サーンキヤ思想の萌芽をインド最古の文献であるヴェーダ聖典やそれに続くウパニシャッド聖典に求め 第 1 節では ヴェーダ聖典 第 2 節ではウパニシャッド聖典において サーンキヤ思想と関係のある箇所を取り上げて検証している ヴェーダ聖典には 直接サーンキヤ学派の説に繋がる教説はないが 後のサーンキヤ説に見られる重要な述語が登場するので それらを取り上げて検討している 同様に 初期散文ウパニシャッド 中期韻文ウパニシャッド 後期散文ウパニシャッドの聖典群において サーンキヤ思想に関連があると考えられる箇所を取り上げ サーンキヤ思想に繋がる要素を確認している 第 2 章 Mahābhārata における世界構成原理 は 本論文の中核をなす部分で エピック サーンキヤの中心をなす マハーバーラタ における世界構成原理についての考察を行っている マハーバーラタ 第 12 巻に収められている モークシャダルマ篇 (Mokṣadharma-Parvan) に見られるサーンキヤ思想は 従来研究者の間で様々な解釈が試みられているが テクストの不備という問題もあり 整合性のある解釈はなされていなかった 三澤氏は サーンキヤ思想について説かれた箇所を抽出し 以下のように解釈 あるいはほぼ納得のいく仮説を含む解釈を提示した 最初の第 1 節では モークシャダルマ篇 におけるサーンキヤ思想の最も基本的なテクストと考えられてきた第 187 章と第 239-241 章 ( 同一テクストの別ヴァージョンと考えられている ) を取り上げ 先行研究に依りつつ 世界の構成原理と心的属性について検証し ウパニシャッド的な要素が強いという結論に至っている 次の第 2 節では 第 203 章における8 種の根本原因と16 種の変異の説について検証した 列挙されている原理は

8 サーンキヤ カーリカー に非常に類似したものであるが 展開の順序やその数などが異なることを指摘している 第 3 節では 第 291 章における25 原理説を取り上げている ここでは 8 種の根本原因と16 種の変異の説に基づきつつも 25 番目の原理としてヴィシュヌ神が挙げられている 三澤氏は この部分はヴィシュヌ神から世界が顕現するという独自の理論を展開するものと結論付けている 第 4 節では 第 298 章で説かれた24の原理の説と9の創造という2つの創造説が並列された箇所について検証している ここでは まったく違う説が併記されており 異なるグループの説を誤って記載してしまった可能性が高いと指摘している さらに第 5 節では ナーラーヤニーヤ章 (Nārāyaṇīya-Parvan) というパーンチャラートラ派の教義が説かれた箇所の中で 8つの根本原理をあげる第 327 章と ヴューハ説が説かれる第 326 章を取り上げて世界の構成原理を検証している 第 327 章には8 種の根本原因が説かれるが 16 種の変異はなく 複雑な神話的要素が入り混じっている 第 326 章の説では ヴューハと呼ばれるパーンチャラートラ派の創造説の中で最も特徴的なものである4 神の顕現と構成原理展開が対応している箇所について論じている これらの箇所は 矛盾点を含み 様々な理論を整理せずに取り入れてしまった箇所であると結論付けている この章の最後の第 6 節では マハーバーラタ 第 6 巻に収められている バガヴァッド ギーター (Bhagavadgītā) における世界構成原理も取り上げている サーンキヤ思想に直接関連した創造説の記述は少ないが 特徴的な思想が見られると結論付けている 第 3 章 Manusmṛti における世界構成原理 では マヌ法典 が マハーバーラタ に類似するサーンキヤ説を説いていることを指摘している この説は自己の主体であるアートマンが動作因と質量因という2つの側面を併せ持つもの すなわち一元論的な説で サーンキヤ学派の二元論とは相違すると指摘している また 輪廻に関する分類を3 種のグナにより規定する説にサーンキヤ思想が関連し その相違点を解明している 第 4 章 Carakasaṃhitā および Buddhacarita における世界構成原理 では アーユルヴェーダの根本教典の一つである チャラカ サンヒター と仏教文学の嚆矢 ブッダ チャリタ において エピック サーンキヤの最も典型的な説と考えられる8 種の根本原因と 16 種の変異の説が説かれていることを確認し サーンキヤ的な思想がかなり異なる分野にも広がっていたことを検証している 第 5 章 古典サーンキヤにおける世界構成原理 では サーンキヤ カーリカー に説かれる25 原理の開展説を取り上げている 特に3 種のグナの構成要素的機能と属性的機能について サーンキヤ カーリカー の主要な注釈書を用いて分析している 第 6 章 パーンチャラートラ派における世界構成原理 では 同派の根本教典 アヒルブドニヤ サンヒター (Ahirbudhnyasaṃhitā) と ラクシュミー タントラ (Lakṣmītantra) を用いて宇宙論についての考察を行っている アヒルブドニヤ サンヒター において

9 は一見すると古典サーンキヤの理論が用いられているが 詳細に分析すると むしろ ウパニシャッド文献や マハーバーラタ 理論が再解釈されて取り入れられていることを明らかにした 次に ラクシュミー タントラ における最高神の顕現を扱い ヴューハ説の複雑な展開の中に見られる 最高神の顕現について解明した 以上を踏まえた第 7 章の結論では 自己と宇宙の関係というウパニシャッド以来の問題が サーンキヤ思想のもとで徐々に重視されるようになり 自己の心的現象 ( こころの在り方 ) の下に現象世界の創造をおく宇宙論を構築したとする エピック サーンキヤにおいてはその変遷過程が示されているので 整合性のない様々な説が登場したのであるという しかし サーンキヤ学派の成立とともに形而上学的な宇宙論が形成されると 後のヒンドゥー タントラの時代ではそれに対抗するように 精神と物質の関係が乖離していく傾向を示す 純粋な精神を最高原理においた場合 その純粋精神から直接に苦である現象世界が生じるのは不都合が生じる さらに 時代が下るにつれ精神の純粋性がことさらに強調されていくなかで その純粋性を明瞭に示すために 精神と物質の関係がさらに離されていくことになったからであろうと考察している 論文末には 補遺 として Mahābhārata, Mokṣadharma-Parvan 第 187 章 第 203 章 第 239 章 第 240 章 第 241 章 第 291 章 第 298 章の訳註 Sāṃkhyakārikā の第 11-16 22-26 偈に対する注釈 Sāṃkhyatattvakaumudī の訳註 さらにタントラ文献である Ahirbudhnyasaṃhitā 第 7 章と Lakṣmītantra 第 1-3 章の訳註が付されているので 研究者にとって本論文の論述を検証する際の基礎資料となるとともに さらなる研究の便宜を提供するものとなっている 審査結果 本論文は サーンキヤ学派の根本教典 サーンキヤ カーリカー の思想の前段階を示す マハーバーラタ のサーンキヤ説と サーンキヤ学派成立後に展開したパーンチャラートラ派に見られるサーンキヤ説に焦点を当て それらの世界構成原理の解明を試みたものである マハーバーラタ における世界構成原理の研究は クリティカル エディションにおいても多くの不備が見られ たいへん難解な部分であるが 三澤氏は註釈書や ほぼ同時期の典籍 マヌ法典 チャラカ サンヒター ブッダ チャリタ などとの比較を行い かなり整合性のある解釈を示すことができた また パーンチャラートラ派の アヒルブドニヤ サンヒター と ラクシュミー タントラ の宇宙論の考察では 従来研究者に指摘されているサーンキヤ説が サーンキヤ学派の直接的影響を受けたサーンキヤ思想ではなく むしろウパニシャッド文献や マハーバーラタ 理論が再解釈されて取り入れられていることを明らかにした また付言すると アヒルブドニヤ サンヒター と ラクシュミー タントラ 両書の 一部ではあるが まとまった形での日本語訳は本

10 論文におけるものが初めてである 以上見てきたように 三澤氏の論文はサーンキヤ思想の史的展開の研究を大きく前進させるものと高く評価できる また 文学研究科 ( 仏教学専攻 ) の博士学位審査基準に照らしても妥当な研究内容であると認められる 従って 所定の試験結果と論文評価に基づき 本審査委員会は全員一致をもって三澤祐嗣氏の博士学位請求論文は 本学博士学位を授与するに相応しいものと判断する