ティブかパッシブか バランス型か特化型か さらには スタイル 投資対象 投資手法による分類も可能です サービスや商品としては 為替オーバーレイやトランジットマネージャーなどが考えられます ここで 利用可能な という意味は 企業がそれらの手法や商品の内容を理解し 管理する体制ができているかということが

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重大な約款変更に係る書面決議の基準日設定公告

運営管理機関 : ろうきん DIAM バランス ファンド <DC 年金 >1 安定型 2 安定 成長型 3 成長型 一般社団法人投資信託協会分類 DIAM バランス ファンド <DC 年金 >1 安定型 : 追加型投信 / 内外 / 資産複合 / インデックス型 DIAM バランス ファンド <DC

表紙1_4

Transcription:

シリーズ : 規約型確定給付企業年金担当者のための資産運用入門 Vol.5 マネージャー ストラクチャー 前回までで 政策アセットミクスを策定する過程を説明しました 今回は 政策アセットミクスに基づいて実際の運用をどのように行っていくかを考えます そのための重要な考え方が マネージャー ストラクチャーです マネージャー ストラクチャーは 資産運用を担う運用機関の構成という意味にも使われますし その構成を構築する過程という意味でも使われます マネージャー ストラクチャーは 政策アセットミクス策定の基礎となった運用目標の達成を目指して 制度提供者 1 である企業 ( 以下単に 企業 とします ) が採用する 2 具体的な手段です マネージャー ストラクチャーにより 年金資産全体のリスク リターン特性が決定づけられることになります その構築にあたっては 次のような点に留意が必要です 政策アセットミクスに アクティブ投資による超過リターンを加える余地がどの程度あるか 超過リターンを追及するとして 追加のリスクがどの程度になるか 超過リターン追求により コストはどのぐらい変化するか 1. マネージャー ストラクチャー策定の概要政策アセットミクスを決めただけでは 実際の運用はできません 具体的に資産運用機関等 3 ( 以下 マネージャー という ) を選定し 各マネージャーに運用ガイドラインを示して 初めて資産運用が始まります マネージャー ストラクチャーは マネージャー選定のために必要な過程です マネージャー ストラクチャーの第一歩は マネージャーおよび利用可能なサービス 商品の分類とリストアップです マネージャーの分類としては 例えばアク 1 Plan sponsor の訳語です こなれた日本語ではありませんが 適当な用語もないため そのまま使用します 2 このシリーズが想定している読者は 規約型確定給付企業年金を実施している会社の年金担当者です このような場合 資産運用の当事者は企業そのものになります 3 バランス型の運用機関であれば 運用機関そのもののこともあるし 特化型であれば一つのファンドのこともあります ファンドの種類によっては 一人または特定のファンドマネージャーを指すこともあるでしょう それらをひっくるめて マネージャーと呼ぶことにします 1

ティブかパッシブか バランス型か特化型か さらには スタイル 投資対象 投資手法による分類も可能です サービスや商品としては 為替オーバーレイやトランジットマネージャーなどが考えられます ここで 利用可能な という意味は 企業がそれらの手法や商品の内容を理解し 管理する体制ができているかということが含まれます 年金の資産運用に関しては 新しい運用手法や商品がどんどん出てきます なぜその運用手法で収益を上げ続けることができるのか そのサービスや商品を利用することで 運用目標の達成にどのように役に立つのかを理解できなければ 利用可能な 運用手法 商品とは言えません マネージャーを選定するためには 評価事項の検討が欠かせません この検討には 企業の評価体制が制約条件となります たとえば アクティブマネージャーの選択は 定量的な評価だけでは不十分であり 定性的な評価が欠かせませんが 通常の企業は多くのアクティブマネージャーの定性評価ができる体制にはありません マネージャーのパフォーマンス評価に加えて コストの評価 そのマネージャーを加えたことの効果など 総合的な評価方法を検討すべきです マネージャーの選定には定量評価は欠かせません パッシブマネージャーなら 定量評価に用いる指標はトラッキング エラーであり アクティブマネージャーなら インフォメーション レシオです トラッキング エラーは ベンチマークからの乖離度合いを示します インフォメーション レシオは 対ベンチマーク超過リターンであるアクティブ リターンを 超過リターンの標準偏差であるアクティブ リスクで除した値です パッシブ運用に対して余分に取ったリスクに対して どれだけ超過リターンが得られているかを示します マネージャー ストラクチャーでは 個々のマネージャーの評価だけではなく マネージャーの組み合わせによる全体の構成に意味があります 効率的フロンティアでは リターンリスク平面上で最適ポートフォリオを探しましたが マネージャー ストラクチャーでは アクティブ リターンとアクティブ リスクの平面上で考えます 二つのアクティブマネージャーの組み合わせを考えれば 平均分散アプローチでやったように 効率的フロンティアが描けます この平面上では パッシブマネージャーがリスクフリーレートの役割をします 図表 1で言えば パッシブマネージャー (P) はアクティブ リターン アクテ 2

ィブ リスクがともにゼロですので 原点に配置されます ここで 二つのアクティブファンドAx Ayがあり それぞれのアクティブ リターンとアクティブ リスクが図のように示されるとします 互いの相関も分かっているとすると 効率的フロンティアが描けます これにパッシブマネージャー Pを加えたポートフォリオを考えると 効率的フロンティアは 直線 PAとAとAxを結ぶ曲線になります A 点は 原点からひかれる直線とアクティブファンドのみの効率的フロンティアとの接点であり アクティブファンドのみのポートフォリオを示しています 直線の傾きβは アクティブ リターンを得るために どれだけアクティブ リスクを取らなければならないかを示しています 図表 1: マネージャーの組み合わせ例 アクティブ リタ ー ン B 効用関数 A アクティブファンドのみの効率的フロンティア Ay β Ax P アクティブ リスク さらに企業の効用関数を考えれば 最適ポートフォリオ B が得られます 企業の 効用を増加させるためには アクティブファンドのリターンリスク特性を改善して ベータを増やす必要があります 2. アクティブ運用とパッシブ運用 ある資産クラスについて どの程度アクティブファンドを採用するかというアク 3

ティブ比率を決める際には 次のような点を考慮する必要があります 市場の効率性に対する見方 アクティブマネージャーを選択できる能力 アクティブ運用利用に対する習熟度 市場動向に関する情報源の確保まず 市場の効率性に対する見方は そもそもアクティブ運用が成り立つのかどうかに関わってきます 完全に効率的な市場では ベンチマークに対して超過リターンを得ることができないからです 市場の効率性に対する判断は 最終的には企業が主観的に判断するしかありません 資産クラスや市場により効率性は異なるはずですので アクティブ比率も資産クラスや市場により異なるはずです 市場が効率的ではなく超過リターンを得られるチャンスがあるとしても そのチャンスを常につかんで超過リターンを手に入れることができるマネージャーを選択できるかどうかが問題となります アクティブマネージャーの選定では 定性的な評価が重要となりますので 自ら行うとなると それなりの体制を整える必要があり 調査コストもかさむこととなります そのことを考えるとコンサルティング会社の利用も 一つの方法です このような選択に係る費用や パッシブに比較して高い運用報酬を超える超過リターンが得られなければ アクティブ運用をする意味がありません 企業がどれだけアクティブ運用に慣れているかも アクティブ運用の採用には関係します アクティブ運用に期待できることと期待できないことを企業が把握しているかどうかは アクティブ運用に対する満足度に影響を及ぼします アクティブ運用を採用していると 四半期ごとなど定期的な運用結果報告の際に 関係する市場の動向についても詳細な報告が行われます 今回の運用結果が芳しくなかったのは このような事情があったからです という言い訳に使われることも少なくありませんが 企業にとっては市場動向に関する得難い情報を与えてくれます すべてパッシブ運用にした場合 マネージャーからこのような情報が得にくくなる懸念があります パッシブ運用では コスト競争が激しいため 顧客に対するコミュニケーションコストは削減対象となる可能性があります 企業は 市場動向に対する情報を 自ら入手する手段を探す必要があるかもしれません アクティブ比率を決めるために 前節で示したような効率的フロンティアを求め 4

て 最適ポートフォリオを求めることは 理論上はあり得ます ベンチマークのリ ターンやリスクの予測に比べて アクティブ リターンやアクティブ リスクの予 測は データの安定性の問題もあり 精度がずっと落ちるのが現実です 3. バランス型運用と特化型運用わが国の年金運用では マネージャーの種類を バランス型 と 特化型 の 2 つに分類することがあります バランス型マネージャーは 複数の資産クラスに分散投資を行うマネージャーです アセット アロケーションを委託することができるのが大きな特徴ですが そのアセット アロケーションは委託者である企業が指示したものであり マネージャーが自ら決める お任せ運用 というわけではありません 企業が予め政策アセットミクスを定め それに基づいてアセット アロケーションを含む運用ガイドラインをマネージャーに提示します このような場合 提示したアセット アロケーションからの大きな乖離を認めない場合が多いようです 運用評価には 提示したアセット アロケーションによる複合ベンチマークを用意する必要があります バランス型マネージャーだけを採用し すべてのマネージャーに政策アセットミクスをベンチマークとして運用委託をすれば 制度全体の資産を政策アセットミクスにより運用することができます 最も簡単な政策アセットミクスの実現方法と言えるでしょう 特化型マネージャーは 1 つの資産クラス もしくはさらに限定した資産を主な投資対象とするマネージャーです 投資対象を限定すると マネージャーによりパフォーマンスに差が出やすくなります 限定した投資対象ごとに 最も優れたマネージャーを選択することができれば 制度全体のポートフォリオのパフォーマンスを向上させることができます 同じタイプのマネージャーであれば 比較は比較的簡単ですが 同じ国内株を対象にするとしても 投資対象の範囲が異なるマネージャー間の比較は簡単ではないでしょう 特化型マネージャーを多く採用すると 制度全体のアセット アロケーションを俯瞰することができるのは企業だけになります 制度全体の資産を 設定した政策アセットミクスにより運用するためには 企業自身がバランス型マネージャーのような役割を果たす必要あります たとえば 制度全体のアセット アロケーション 5

の変化を把握し 政策アセットミクスから乖離した場合には 企業がリバランスを実施しなければなりません 特化型を多く採用する場合には 企業がそれなりの管理体制を持つ必要があるでしょう 極端な例として 特化型マネージャーだけを採用している簡単な場合を考えてみます 国内株 外国株 国内債について それぞれの特化型マネージャーを採用したとします 株式市況が良かったこともあり 国内株の割合が政策アセットミクスより 10% 高くなり 他の資産は 5% ずつ低くなったとします 政策アセットミクスに戻すためには 高くなりすぎた 10% 分について国内株マネージャーを解約し その資金を外国株マネージャー 国内債マネージャーに振り分ける必要があります 国内株マネージャーにとっては 予期せざるキャッシュアウトが発生することになり そのために運用の効率性が損なわれたり キャッシュ化のための費用がかかったりする可能性があります パフォーマンス評価の際には このような予定しなかった資金移動を考慮する必要があるでしょう 4. マネージャー選択 (1) マネージャー選択とセグメント化政策アセットミクスは 非常に大まかな運用方針を定めるものです そこから 具体的なマネージャーを選択するというマネージャー ストラクチャーの構築までの道のりは直線的ではありません マネージャー ストラクチャーの構築にあたって 運用のセグメント化という考え方が役に立ちます 政策アセットミクスで資産クラスに分けるところまでは済みましたから それぞれの資産クラスについて アクティブ運用とパッシブ運用の構成や 運用スタイルの構成 バランス型か特化型かなど いくつかの切り口でセグメント化するのです 具体的なマネージャーの選択は 各セグメントの中だけで考えれば良いことになります セグメント化により運用の構造がはっきりすることは確かですが どのようにセグメント化していくか 例えば アクティブとパッシブの構成をどうするかは 企業自身が決定しなければなりません (2) マネージャー選択における問題点政策アセットミクスに基づき 運用のセグメント化を行いマネージャー ストラ 6

クチャーの形ができてきました 各セグメントの中で 優秀なマネージャーを選択して 運用ガイドラインを提示すればマネージャー ストラクチャーは終了です いよいよ運用開始です 各マネージャーのパフォーマンスは 絶対的にも相対的にもばらつきがあります 資産額にもよりますが セグメントごとに複数のマネージャーを採用することが多いようです 各マネージャーは それぞれに運用に責任を持ち 自らの判断で運用に関する意思決定を行います そのため 制度全体でみると以下のような不具合が起こっていることがあります ア. ミスフィット リスクある資産クラスの各マネージャーが似通った投資戦略やポートフォリオを取った結果 資産クラス全体として特定のスタイルに偏ったポートフォリオとなってしまうリスクです このようなことが起こると その資産クラスについては 政策アセットミクス策定の際に前提としたリスク リターン特性とは 異なるものとなってしまう可能性があります イ. 相殺取引複数のマネージャーが取引を行った場合 制度全体で見ると相殺されてしまうことがあり得ます たとえば 同一の銘柄をあるマネージャーが買い あるマネージャーは売ったような場合です 制度全体では何も変わらないのに 取引コストだけが費やされることになります ウ. コスト高のパッシブ運用各アクティブマネージャーが それぞれに投資した銘柄を集めると 制度全体としてはパッシブ運用とあまり差のないポートフォリオができあがる可能性があります このような場合 高い報酬を払っているのに 制度全体ではパッシブ運用と差のない成果しか期待できません エ. 過剰な流動性キャッシュアウトに備えて 制度全体で流動性を確保することは年金運用では必要なことです 流動性を確保すると その部分の運用効率は悪くなります 複数のマネージャーがそれぞれに流動性を確保してしまうと 制度全体として過剰な流動性を持つこととなり 収益機会を逸してしまいパフォーマンスに影 7

響を与える可能性があります このようなリスクや余分なコストのために 運用目標が達成できなければマネージャー ストラクチャーの目的に反します 投資対象が異なれば ミスフィット リスクや相殺取引は起こりにくくなります セグメントごとに一つのマネージャーを採用すれば良いわけですが そのためにはマネージャーを選別する能力が必要になります 同じ投資対象でも 超過リターンをどのように得るかという投資アイデアが異なれば 相殺取引 や コスト高なパッシブ運用 の発生を抑えられるでしょう ここでもマネージャーを選別する能力が必要になります 多くのマネージャーを採用することで リスクの分散を図ることができると考えがちですが 場合によっては かえって新たなリスクを取ることになってしまいます 局所だけではなく 制度全体で見る視点が必要になります 5. 運用ガイドラインマネージャーの選択が終わると これでマネージャー ストラクチャーのプロセスはほぼ終了です 各マネージャーに運用ガイドラインを提示すれば運用が始まります 運用ガイドラインの提示に際しては 各マネージャーと必要に応じて協議を行います 運用ガイドラインについては 次のような策定指針が示されています 運用指針の策定指針 1 資産構成に関する事項 ( 規定すべき内容 ) 事業主等が長期にわたり維持すべき資産の構成割合を前提として 各運用受託機関が遵守すべき資産構成割合の基準及び許容幅 又は資産構成についての方針について規定する ( 留意事項 ) 生命保険会社の第一特約のうち総合口については 生命保険会社が自らの運用方針に基づいて資産構成を策定した商品であることから 契約の締結に当たって 8

は その商品の特性が事業主等の運用指針に適合するものであるかどうかについて 事業主等と運用受託機関の双方が確認する必要があること 2 運用手法に関する事項 ( 規定すべき内容 ) (1) 運用に関して パッシブ運用又はアクティブ運用などの運用手法を規定する (2) 各資産ごとの市場ベンチマークについてもここで記載する ( 留意事項 ) パッシブ運用の指示をする場合には 当該運用受託機関のベンチマークとの連動性を確保する能力を十分評価した上で行うこと また アクティブ運用の指示をする場合には 当該運用方法がベンチマークに対する超過収益を獲得する合理性を有しているかを十分確認の上 当該運用手法を用いることによるポートフォリオ全体のリスク リターン特性への影響 当該運用受託機関の超過収益獲得の能力等を評価し 指示すること 3 運用業務に関する報告の内容及び方法に関する事項 ( 規定すべき内容 ) 運用に関して 各運用受託機関ごとにどのような頻度 形式 ( ミーティングあるいは文書等 ) 方法で報告を求めるかを規定する 4 運用受託機関の評価に関する事項 ( 規定すべき内容 ) 各運用受託機関の投資哲学 運用体制 運用実績等に関する評価方法について規定する ( 留意事項 ) 運用受託機関を一律に評価することは適切ではなく 各資産別又はスタイル別にベンチマーク又はスタイル ベンチマークなどとの対比において比較評価する方法等を規定することが必要である 5 運用業務に関し遵守すべき事項 ( 規定すべき事項 ) 運用に当たって 各運用受託機関が遵守すべき事項 ( 法令で求められる行為準則に関する事項など ) や禁止事項を規定するものである 9

( 留意事項 ) 各運用受託機関に提示した資産構成 運用手法等に応じて 投資適格資産 売買遵守事項 デリバティブの利用法等必要な事項を規定する 6 その他運用業務に関し必要な事項 ( 規定すべき事項 ) 上記事項の他 事業主等の判断により運用指針に記載すべき事項とされた事項を規定する 特に 運用の委託をする運用受託機関に提示する運用指針の他に 資産管理の委託をする資産管理機関についても適切な資産管理を行うため 資産管理機関の評価に関する事項 資産管理機関が法令で求められる行為準則に関する事項並びに資産管理業務に関する報告の内容及び方法に関する事項等について指針を提示することが望ましい (Vol.5 了 ) 10