4. 発表内容 : 1 研究の背景 先行研究における問題点 正常な脳では 神経細胞が適切な相手と適切な数と強さの結合 ( シナプス ) を作り 機能的な神経回路が作られています このような機能的神経回路は 生まれた時に完成しているので はなく 生後の発達過程において必要なシナプスが残り不要なシナプス

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り込みが進まなくなることを明らかにしました つまり 生後 12 日までの刈り込みには強い シナプス結合と弱いシナプス結合の相対的な差が 生後 12 日以降の刈り込みには強いシナプス 結合と弱いシナプス結合の相対的な差だけでなくシナプス結合の絶対的な強さが重要であることを明らかにしました 本研究成果は

発達期小脳において 脳由来神経栄養因子 (BDNF) はシナプスを積極的に弱め除去する 刈り込み因子 としてはたらく 1. 発表者 : 狩野方伸 ( 東京大学大学院医学系研究科機能生物学専攻神経生理学分野教授 ) 2. 発表のポイント : 生後発達期の小脳において 不要な神経結合 ( シナプス )

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2. 手法まず Cre 組換え酵素 ( ファージ 2 由来の遺伝子組換え酵素 ) を Emx1 という大脳皮質特異的な遺伝子のプロモーター 3 の制御下に発現させることのできる遺伝子操作マウス (Cre マウス ) を作製しました 詳細な解析により このマウスは 大脳皮質の興奮性神経特異的に 2 個

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Microsoft Word - 運動が自閉症様行動とシナプス変性を改善する

統合失調症モデルマウスを用いた解析で新たな統合失調症病態シグナルを同定-統合失調症における新たな予防法・治療法開発への手がかり-

化を明らかにすることにより 自閉症発症のリスクに関わるメカニズムを明らかにすることが期待されます 本研究成果は 本年 京都において開催される Neuro2013 において 6 月 22 日に発表されます (P ) お問い合わせ先 東北大学大学院医学系研究科 発生発達神経科学分野教授大隅典

研究の背景 ヒトは他の動物に比べて脳が発達していることが特徴であり, 脳の発達のおかげでヒトは特有の能力の獲得が可能になったと考えられています この脳の発達に大きく関わりがあると考えられているのが, 本研究で扱っている大脳皮質の表面に存在するシワ = 脳回 です 大脳皮質は脳の中でも高次脳機能に関わ

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別紙 < 研究の背景と経緯 > 自閉症は 全人口の約 2% が罹患する非常に頻度の高い神経発達障害です 近年 クロマチンリモデ リング因子 ( 5) である CHD8 が自閉症の原因遺伝子として同定され 大変注目を集めています ( 図 1) 本研究グループは これまでに CHD8 遺伝子変異を持つ

長期/島本1

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4. 発表内容 : 研究の背景 イヌに お手 を新しく教える場合 お手 ができた時に餌を与えるとイヌはまた お手 をして餌をもらおうとする このように動物が行動を起こした直後に報酬 ( 餌 ) を与えると そ の行動が強化され 繰り返し行動するようになる ( 図 1 左 ) このことは 100 年以

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サカナに逃げろ!と指令する神経細胞の分子メカニズムを解明 -個性的な神経細胞のでき方の理解につながり,難聴治療の創薬標的への応用に期待-

研究の背景社会生活を送る上では 衝動的な行動や不必要な行動を抑制できることがとても重要です ところが注意欠陥多動性障害やパーキンソン病などの精神 神経疾患をもつ患者さんの多くでは この行動抑制の能力が低下しています これまでの先行研究により 行動抑制では 脳の中の前頭前野や大脳基底核と呼ばれる領域が

本成果は 以下の研究助成金によって得られました JSPS 科研費 ( 井上由紀子 ) JSPS 科研費 , 16H06528( 井上高良 ) 精神 神経疾患研究開発費 24-12, 26-9, 27-

糖鎖の新しい機能を発見:補体系をコントロールして健康な脳神経を維持する

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報道発表資料 2004 年 9 月 6 日 独立行政法人理化学研究所 記憶形成における神経回路の形態変化の観察に成功 - クラゲの蛍光蛋白で神経細胞のつなぎ目を色づけ - 独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事長 ) マサチューセッツ工科大学 (Charles M. Vest 総長 ) は記憶形

概要 名古屋大学環境医学研究所の渡邊征爾助教 山中宏二教授 医学系研究科の玉田宏美研究員 木山博資教授らの国際共同研究グループは 神経細胞の維持に重要な役割を担う小胞体とミトコンドリアの接触部 (MAM) が崩壊することが神経難病 ALS( 筋萎縮性側索硬化症 ) の発症に重要であることを発見しまし

論文の内容の要旨

背景 私たちの体はたくさんの細胞からできていますが そのそれぞれに遺伝情報が受け継がれるためには 細胞が分裂するときに染色体を正確に分配しなければいけません 染色体の分配は紡錘体という装置によって行われ この際にまず染色体が紡錘体の中央に集まって整列し その後 2 つの極の方向に引っ張られて分配され

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統合失調症といった精神疾患では シナプス形成やシナプス機能の調節の異常が発症の原因の一つであると考えられています これまでの研究で シナプスの形を作り出す細胞骨格系のタンパク質 細胞同士をつないでシナプス形成に関与する細胞接着分子群 あるいはグルタミン酸やドーパミン 2 系分子といったシナプス伝達を

マスコミへの訃報送信における注意事項

の機能不全がどのように思春期の神経回路網形成に影響をあたえ 最終的な疾患病態へ進行するのかは解明されていません そこで統合失調症の発症関連分子として確立されている遺伝子 DISC1 に注目し 神経培養細胞や生きたままのマウス前頭葉のライブ撮影を行うことで DISC1 の機能を抑制した神経細胞における

統合失調症発症に強い影響を及ぼす遺伝子変異を,神経発達関連遺伝子のNDE1内に同定した

別紙 自閉症の発症メカニズムを解明 - 治療への応用を期待 < 研究の背景と経緯 > 近年 自閉症や注意欠陥 多動性障害 学習障害等の精神疾患である 発達障害 が大きな社会問題となっています 自閉症は他人の気持ちが理解できない等といった社会的相互作用 ( コミュニケーション ) の障害や 決まった手

世界初! 細胞内の線維を切るハサミの機構を解明 この度 名古屋大学大学院理学研究科の成田哲博准教授らの研究グループは 大阪大学 東海学院大学 豊田理化学研究所との共同研究で 細胞内で最もメジャーな線維であるアクチン線維を切断 分解する機構をクライオ電子顕微鏡法注 1) による構造解析によって解明する

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記憶を正しく思い出すための脳の仕組みを解明 ~ 側頭葉の信号が皮質層にまたがる神経回路を活性化 ~ 1. 発表者 : 竹田真己東京大学大学院医学系研究科統合生理学教室特任講師 ( 研究当 時 )( 現順天堂大学大学院医学研究科特任講師 ) 2. 発表のポイント : 脳が記憶を思い出すための仕組みは解

脳組織傷害時におけるミクログリア形態変化および機能 Title変化に関する培養脳組織切片を用いた研究 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 岡村, 敏行 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date URL http

報道機関各位 平成 27 年 8 月 18 日 東京工業大学広報センター長大谷清 鰭から四肢への進化はどうして起ったか サメの胸鰭を題材に謎を解き明かす 要点 四肢への進化過程で 位置価を持つ領域のバランスが後側寄りにシフト 前側と後側のバランスをシフトさせる原因となったゲノム配列を同定 サメ鰭の前

図 1. 微小管 ( 赤線 ) は細胞分裂 伸長の方向を規定する本瀬准教授らは NIMA 関連キナーゼ 6 (NEK6) というタンパク質の機能を手がかりとして 微小管が整列するメカニズムを調べました NEK6 を欠損したシロイヌナズナ変異体では微小管が整列しないため 細胞と器官が異常な方向に伸長し

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平成 29 年 6 月 9 日 ニーマンピック病 C 型タンパク質の新しい機能の解明 リソソーム膜に特殊な領域を形成し 脂肪滴の取り込み 分解を促進する 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長門松健治 ) 分子細胞学分野の辻琢磨 ( つじたくま ) 助教 藤本豊士 ( ふじもととよし ) 教授ら

記者クラブ各位 平成 28 年 8 月 24 日大学共同利用機関法人自然科学研究機構生理学研究所国立大学法人山梨大学国立研究開発法人日本医療研究開発機構 免疫細胞が発達期の脳回路を造る 発達期の脳内免疫状態の重要性を提唱 お世話になっております 今回 自然科学研究機構生理学研究所の鍋倉淳一教授 吉村

平成 26 年 8 月 21 日 チンパンジーもヒトも瞳の変化に敏感 -ヒトとチンパンジーに共通の情動認知過程を非侵襲の視線追従装置で解明- 概要マリスカ クレット (Mariska Kret) アムステルダム大学心理学部研究員( 元日本学術振興会外国人特別研究員 ) 友永雅己( ともながまさき )

シナプスの情報量を決める超分子ナノ構造 1. 発表者 : 廣瀬謙造 ( 東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻神経生物学分野教授 ) 2. 発表のポイント : 脳の神経伝達物質であるグルタミン酸が シナプスで放出されている様子を個別のシナプス で直接観測することに成功しました 観測結果の解析により

霊長類の大脳皮質で運動課題中の多細胞活動を 2 光子カルシウムイメージングで長期間 同時計測することに成功 1. 発表者 : 松崎政紀 ( 東京大学大学院医学系研究科機能生物学専攻教授 ) 2. 発表のポイント : 霊長類コモン マーモセットのための手で道具を操作する運動課題用装置と新規の訓練方法

遺伝子の近傍に別の遺伝子の発現制御領域 ( エンハンサーなど ) が移動してくることによって その遺伝子の発現様式を変化させるものです ( 図 2) 融合タンパク質は比較的容易に検出できるので 前者のような二つの遺伝子組み換えの例はこれまで数多く発見されてきたのに対して 後者の場合は 広範囲のゲノム

現し Gasc1 発現低下は多動 固執傾向 様々な学習 記憶障害などの行動異常や 樹状突起スパイン密度の増加と長期増強の亢進というシナプスの異常を引き起こすことを発見し これらの表現型がヒト自閉スペクトラム症 (ASD) など神経発達症の病態と一部類することを見出した しかしながら Gasc1 発現

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図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

生物時計の安定性の秘密を解明

PRESS RELEASE (2014/2/6) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

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平成14年度研究報告

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60 秒でわかるプレスリリース 2008 年 10 月 22 日 独立行政法人理化学研究所 脳内のグリア細胞が分泌する S100B タンパク質が神経活動を調節 - グリア細胞からニューロンへの分泌タンパク質を介したシグナル経路が活躍 - 記憶や学習などわたしたち高等生物に必要不可欠な高次機能は脳によ

いて認知 社会機能障害は日々の生活に大きな支障をきたしますが その病態は未だに明らかになっていません 近年の統合失調症の脳構造に関する研究では 健常者との比較で 前頭前野 ( 注 4) などの前頭葉や側頭葉を中心とした大脳皮質の体積減少 海馬 扁桃体 視床 側坐核などの大脳皮質下領域の体積減少が報告

前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

< 研究の背景 > 運動に疲労はつきもので その原因や予防策は多くの研究者や競技者 そしてスポーツ愛好者の興味を引く古くて新しいテーマです 運動時の疲労は 必要な力を発揮できなくなった状態 と定義され 疲労の原因が起こる身体部位によって末梢性疲労と中枢性疲労に分けることができます 末梢性疲労の原因の

共同研究チーム 個人情報につき 削除しております 1

報道発表資料 2002 年 10 月 10 日 独立行政法人理化学研究所 頭にだけ脳ができるように制御している遺伝子を世界で初めて発見 - 再生医療につながる重要な基礎研究成果として期待 - 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は プラナリアを用いて 全能性幹細胞 ( 万能細胞 ) が頭部以外で脳

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1. 背景血小板上の受容体 CLEC-2 と ある種のがん細胞の表面に発現するタンパク質 ポドプラニン やマムシ毒 ロドサイチン が結合すると 血小板が活性化され 血液が凝固します ( 図 1) ポドプラニンは O- 結合型糖鎖が結合した糖タンパク質であり CLEC-2 受容体との結合にはその糖鎖が

解禁日時 :2019 年 2 月 4 日 ( 月 ) 午後 7 時 ( 日本時間 ) プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2019 年 2 月 1 日 国立大学法人東京医科歯科大学 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 IL13Rα2 が血管新生を介して悪性黒色腫 ( メラノーマ ) を

今後の展開現在でも 自己免疫疾患の発症機構については不明な点が多くあります 今回の発見により 今後自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進すると共に 今まで見過ごされてきたイントロン残存の重要性が 生体反応の様々な局面で明らかにされることが期待されます 図 1 Jmjd6 欠損型の胸腺をヌードマウス

2017 年 12 月 15 日 報道機関各位 国立大学法人東北大学大学院医学系研究科国立大学法人九州大学生体防御医学研究所国立研究開発法人日本医療研究開発機構 ヒト胎盤幹細胞の樹立に世界で初めて成功 - 生殖医療 再生医療への貢献が期待 - 研究のポイント 注 胎盤幹細胞 (TS 細胞 ) 1 は

統合失調症の発症に関与するゲノムコピー数変異の同定と病態メカニズムの解明 ポイント 統合失調症の発症に関与するゲノムコピー数変異 (CNV) が 患者全体の約 9% で同定され 難病として医療費助成の対象になっている疾患も含まれることが分かった 発症に関連した CNV を持つ患者では その 40%

本成果は 主に以下の事業 研究領域 研究課題によって得られました 日本医療研究開発機構 (AMED) 脳科学研究戦略推進プログラム ( 平成 27 年度より文部科学省より移管 ) 研究課題名 : 遺伝子改変マーモセットの汎用性拡大および作出技術の高度化とその脳科学への応用 研究代表者 : 佐々木えり

報道発表資料 2006 年 8 月 7 日 独立行政法人理化学研究所 国立大学法人大阪大学 栄養素 亜鉛 は免疫のシグナル - 免疫系の活性化に細胞内亜鉛濃度が関与 - ポイント 亜鉛が免疫応答を制御 亜鉛がシグナル伝達分子として作用する 免疫の新領域を開拓独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事

界では年間約 2700 万人が敗血症を発症し その多くを発展途上国の乳幼児が占めています 抗菌薬などの発症早期の治療法の進歩が見られるものの 先進国でも高齢者が発症後数ヶ月の 間に新たな感染症にかかって亡くなる例が多いことが知られています 発症早期には 全身に広がった感染によって炎症反応が過剰になり

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報道発表資料 2007 年 11 月 16 日 独立行政法人理化学研究所 過剰にリン酸化したタウタンパク質が脳老化の記憶障害に関与 - モデルマウスと機能的マンガン増強 MRI 法を使って世界に先駆けて実証 - ポイント モデルマウスを使い ヒト老化に伴う学習記憶機能の低下を解明 過剰リン酸化タウタ

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平成20年5月20日

なお本研究は 東京大学 米国ウィスコンシン大学 国立感染症研究所 米国スクリプス研 究所 米国農務省 ニュージーランドオークランド大学 日本中央競馬会が共同で行ったもの です 本研究成果は 日本医療研究開発機構 (AMED) 新興 再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業 文部科学省新学術領

く 細胞傷害活性の無い CD4 + ヘルパー T 細胞が必須と判明した 吉田らは 1988 年 C57BL/6 マウスが腹腔内に移植した BALB/c マウス由来の Meth A 腫瘍細胞 (CTL 耐性細胞株 ) を拒絶すること 1991 年 同種異系移植によって誘導されるマクロファージ (AIM

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( 図 ) IP3 と IRBIT( アービット ) が IP3 受容体に競合して結合する様子

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ポイント 先端成長をする植物細胞が 狭くて小さい空間に進入した際の反応を調べる または観察するためのツールはこれまでになかった 微細加工技術によって最小で1マイクロメートルの隙間を持つマイクロ流体デバイスを作製し 3 種類の先端成長をする植物細胞 ( 花粉管細胞 根毛細胞 原糸体細胞 ) に試験した

報道関係者各位 平成 26 年 1 月 20 日 国立大学法人筑波大学 動脈硬化の進行を促進するたんぱく質を発見 研究成果のポイント 1. 日本人の死因の第 2 位と第 4 位である心疾患 脳血管疾患のほとんどの原因は動脈硬化である 2. 酸化されたコレステロールを取り込んだマクロファージが大量に血

統合失調症の病名変更が新聞報道に与えた影響過去約 30 年の網羅的な調査 1. 発表者 : 小池進介 ( 東京大学学生相談ネットワーク本部 / 保健 健康推進本部講師 ) 2. 発表のポイント : 過去約 30 年間の新聞記事 2,200 万件の調査から 病名を 精神分裂病 から 統合失調症 に変更

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汎発性膿疱性乾癬のうちインターロイキン 36 受容体拮抗因子欠損症の病態の解明と治療法の開発について ポイント 厚生労働省の難治性疾患克服事業における臨床調査研究対象疾患 指定難病の 1 つである汎発性膿疱性乾癬のうち 尋常性乾癬を併発しないものはインターロイキン 36 1 受容体拮抗因子欠損症 (

受精に関わる精子融合因子 IZUMO1 と卵子受容体 JUNO の認識機構を解明 1. 発表者 : 大戸梅治 ( 東京大学大学院薬学系研究科准教授 ) 石田英子 ( 東京大学大学院薬学系研究科特任研究員 ) 清水敏之 ( 東京大学大学院薬学系研究科教授 ) 井上直和 ( 福島県立医科大学医学部附属生

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報道発表資料 2006 年 4 月 13 日 独立行政法人理化学研究所 抗ウイルス免疫発動機構の解明 - 免疫 アレルギー制御のための新たな標的分子を発見 - ポイント 異物センサー TLR のシグナル伝達機構を解析 インターフェロン産生に必須な分子 IKK アルファ を発見 免疫 アレルギーの有効

学位論文の要約

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生物 第39講~第47講 テキスト

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発達期小脳における自発神経活動の成熟過程を解明 1. 発表者 : 狩野方伸 ( 東京大学大学院医学系研究科機能生物学専攻神経生理学分野教授 国際高等研究所ニューロインテリジェンス国際研究機構 (WPI-IRCN) 副拠点長 ) 2. 発表のポイント : 生まれたばかりの動物の小脳において 多くのプルキンエ細胞 ( 注 1) の自発的神経活動 が同期していることが明らかになりました プルキンエ細胞の自発活動の同期は発達が進むにつれて次第に減少することを発見し こ の過程がプルキンエ細胞に入力する登上線維 ( 注 2) の配線と活動パターンの変化による ものであることを明らかにしました これまで知られていなかった幼若期における自発的神経活動パターンの成熟過程を明らかに したことで 生後発達期の活動依存的な機能的神経回路形成メカニズムの解明に貢献する ことが期待されます 3. 発表概要 : 生後間もない脳には過剰な神経結合 ( シナプス ) が存在しますが 発達の過程で必要なシナ プスが強化されて残るとともに不要なシナプスは除去されて 機能的な神経回路が完成しま す この過程は シナプス刈り込み と呼ばれ 機能的な神経回路が出来上がるために不可欠 です これまでの研究からシナプス刈り込みは神経活動に依存して進むと考えられています が 生後発達期にどのようなパターンの神経活動が生じているのか またそれがシナプス刈り 込みとどのような関係にあるのかは不明でした 今回 東京大学大学院医学系研究科機能生物学専攻神経生理学分野のジャンマルクグッド 研究員 ( 研究当時 ) と狩野方伸教授の研究グループは 山梨大学大学院総合研究部医学域神経 生理学の喜多村和郎教授らの研究グループと共同で 発達期の小脳における自発的な神経活動 の成熟過程とシナプス刈り込みの関係を明らかにしました 本研究グループは 発達期のシナプス刈り込み過程の詳細な解析が進んでいるマウス小脳の 登上線維とプルキンエ細胞に着目しました 生後間もないマウスにおいては プルキンエ細胞 同士の自発活動が高い同期性を示し その同期性は発達が進むにつれて減少することを明らか にしました さらに この同期性の減少がシナプス刈り込みによる登上線維の配線の変化と登 上線維の活動パターンの変化の両方によって起こっていることが明らかになりました ( 本研 究成果のまとめ の図を参照 ) 本研究成果は 11 月 22 日 ( 水 ) 午前 2 時 ( 米国東部標準時間 11 月 21 日 ( 火 ) 正午 ) に Cell Reports オンライン版に掲載されました 本研究は 科学研究費補助金の助成を受けて行われました

4. 発表内容 : 1 研究の背景 先行研究における問題点 正常な脳では 神経細胞が適切な相手と適切な数と強さの結合 ( シナプス ) を作り 機能的な神経回路が作られています このような機能的神経回路は 生まれた時に完成しているので はなく 生後の発達過程において必要なシナプスが残り不要なシナプスが除去される シナプ ス刈り込み と呼ばれる過程を経て完成します 発達の特定の時期に起こるシナプス刈り込み の異常が神経回路の発達異常を引き起こし 自閉スペクトラム症などの発達障害の原因となる 可能性が指摘されています シナプス刈り込みには 生後発達期における自発的な脳活動や経 験に依存して起こる神経活動が不可欠であるとされています 特に生まれたばかりの発達初期 では 体の感覚器や運動器が未熟であるために 脳の自発的な活動がシナプス刈り込みの過程 すなわち脳の発達に重要な役割を果たしていると考えられます このことから これまで脳の さまざまな部位で発達期における自発活動の変化が調べられてきました しかし 発達期の自 発活動の変化がどのようなメカニズムによって起こり それがシナプス刈り込みや神経回路形 成とどのような関係にあるのかは まだ完全には理解されていません 2 研究内容 本研究では 発表者のグループのこれまでの研究によって シナプス刈り込みの過程が詳細 に解析されているマウス小脳の登上線維とプルキンエ細胞に着目しました 生まれたばかりの マウスのプルキンエ細胞には ほぼ同じ強さの信号を伝える 5 本以上の登上線維がプルキンエ 細胞に結合していますが 生後 1 週間ほどで 1 本の登上線維のみが強い信号をプルキンエ細 胞に伝えられるようになり ( 勝者 の登上線維 ) その後 これ以外の弱い信号を伝える登 上線維 ( 敗者 の登上線維 ) は除去されて 成熟した動物のプルキンエ細胞は 1 本の勝者 の登上線維からのみシナプスを受けるようになります 一方 1 本の登上線維は生直後は近傍 の複数のプルキンエ細胞に弱く結合していますが 勝者が決まる時期には 1 つのプルキンエ細 胞だけに強く結合するようになります このようにシナプス刈り込みの過程が良く分かってい る細胞において 自発活動の成熟過程を調べれば両者の関係が明らかになることが期待されま す 研究グループはまず 発達期小脳におけるプルキンエ細胞の自発活動の変化を明らかにする ために 生きた動物の脳の中で神経細胞を観察できる 2 光子励起顕微鏡 ( 注 3) を用いて 生 直後からさまざまな発達時期におけるマウスの小脳でプルキンエ細胞の自発活動を観察しまし た その結果 生まれたばかりのマウス小脳では プルキンエ細胞同士の活動が高い確率で同 時に起こること すなわち高い同期性を示すことがわかりました そして 発達に伴ってその 同期性が次第に減少していくことが明らかになりました 同期性が減少する時間経過を詳しく 調べたところ 生後 1 週間で成熟動物とほぼ同じ同期性になることが分かり プルキンエ細胞 に結合する登上線維のうち 1 本が強化される過程の時間経過とほぼ同じであることが明らかと なりました ( 本研究成果のまとめ の図を参照 ) 登上線維の強化と配線の変化がプルキンエ細胞の自発活動の変化の直接の原因なのかという 疑問を明らかにするため 研究グループは次に シナプス刈り込みに異常があるノックアウト マウスを用いて同じ実験を行いました 研究グループのこれまでの研究で 1 本の登上線維が強化される過程が障害されることが分かっている電位依存性カルシウムチャネルの遺伝子をプ ルキンエ細胞でノックアウトしたマウスでは 野生型マウスでプルキンエ細胞の自発活動の同 期性が減少する生後 9 日目においても同期性の減少が不完全で 形態学的な解析からも余分な 配線が残っていることがわかりました また 生後 2 週目以降に余分な登上線維シナプスが形

成されるグルタミン酸受容体デルタ 2 のノックアウトマウスでは 生後 8 日目の自発活動は正 常でしたが 生後 14 日目の自発活動は野生型と比べて同期が高くなっていました これらの 結果から 生後発達初期の自発活動の高い同期性とその発達に伴う減少は 登上線維の配線のパターンとシナプス結合の強化にその原因があることが強く示唆されました ( 本研究成果の まとめ の図を参照 ) 一方 登上線維の活動自体は発達過程で変化しないのかを明らかにするために 研究グルー プは次に 登上線維の自発活動を 2 光子励起顕微鏡で直接観察したところ プルキンエ細胞の 自発活動と同様に 生直後は同期性の高い状態にありましたが 生後 1 週を過ぎるとプルキン エ細胞の同期性と同等レベルに減少しました すなわち 登上線維自体の活動も 生後発達の 過程で同期性の高い状態から低い状態に変化することがわかりました ( 本研究成果のまと め の図を参照 ) これらの結果から 生後発達期の小脳におけるプルキンエ細胞の自発活動 パターンは 登上線維の配線つまりシナプス刈り込みと活動パターンの両方によって決まって いることが明らかとなりました 3 研究の意義と今後の予定これまでさまざまな脳部位において 脳の自発活動の発達過程に伴う変化が調べられてきま した 大脳においても 生直後の自発活動の高い同期とその発達に伴う非同期化が報告されて います しかし 神経回路が非常に複雑で 発達期のシナプス刈り込み過程がよく分かってい ないため 神経回路形成と自発活動の関係は明らかではありません 今回 小脳においても同 様の自発活動の発達変化が観察され その原因がシナプス強化と刈り込みの過程と直接関係し ていることが明らかとなったことから 他の脳部位においても類似のメカニズムが働いている ことが期待されます 今回の研究では 自発活動とシナプス刈り込みの関係について明らかに しましたが 今後 感覚入力や運動など経験に依存した神経活動が神経回路形成に果たす役割 についても調べる必要があります また 最近の自閉スペクトラム症モデルマウスを用いた研 究では 発達期の小脳の活動が大脳の活動を調節することで大脳回路の正常な発達を促すこと が示唆されており 小脳のみならず大脳や他の脳部位との関係について研究をすすめること で 脳全体の機能的発達が神経回路レベルで解明されることが期待されます 5. 発表雑誌 : 雑誌名 : Cell Reports ( 米国東部標準時間 2017 年 11 月 21 日オンライン版 ) 論文タイトル :Maturation of cerebellar Purkinje cell population activity during postnatal refinement of climbing fiber network 著者 :Jean-Marc Good, Michael Mahoney, Taisuke Miyazaki, Kenji F. Tanaka, Kenji Sakimura, Masahiko Watanabe, Kazuo Kitamura, Masanobu Kano DOI 番号 :10.1016/j.celrep.2017.10.101

6. 問い合わせ先 : < 研究内容に関すること > 東京大学大学院医学系研究科機能生物学専攻神経生理学分野教授狩野方伸 ( かのうまさのぶ ) TEL:03-5841-3538 FAX:03-5802-3315 Email:mkano-tky@m.u-tokyo.ac.jp < 広報に関すること > 東京大学医学部総務係 113-0033 東京都文京区本郷 7-3-1 TEL:03-5841-3303 FAX:03-5841-8585 Email:ishomu@m.u-tokyo.ac.jp 7. 用語解説 : ( 注 1) プルキンエ細胞 : 小脳皮質に存在する大型の神経細胞で 小脳皮質の信号を 小脳核を介して大脳 脳幹 脊髄に送り 円滑な運動を行うために重要な働きをしています ( 注 2) 登上線維 : 脳幹の延髄にある神経核 ( 下オリーブ核 ) から 小脳皮質のプルキンエ細 胞へ情報を伝える入力線維 大人では ほとんどのプルキンエ細胞が わずか 1 本の登上線 維からシナプスを受けています ( 注 3)2 光子励起顕微鏡 : パルスレーザーを光源とするレーザー顕微鏡 一般的な光学顕微 鏡では観察できない生体組織の内部を観察することができるため 生きた動物の脳における神 経細胞の観察などによく用いられています

8. 添付資料 : 本研究成果のまとめ生後まもない小脳においてプルキンエ細胞の自発活動は高い同期を示すが 生後 1 週目で 成体と同程度まで低下する この過程は 登上線維のシナプス強化 配線の変化と登上線維の活動パターンの変化の両方によって起こる