第 4 章 PET カメラ PET カメラは 検出器系 信号処理系 画像表示システム ガントリー ベッドから構成されている 4-1. PET 装置 a) シンチレータ PET 装置で利用されているシンチレータの特徴を次に示す 現在稼働している PET 装置の大半が BGO を装備した PET 装置である 安価な NaI(Tl) クリスタルや高性能な LSO GSO などのクリスタルを装備した PET 装置が製造販売されているが 実用面 コスト面から今のところ BGO クリスタルが主流である 図 1 PET 装置で利用されるシンチレータの特徴 b) ポジトロン核種のイメージング装置 現在に至るまでに PET 装置の検出器配置も図に示すように発展してきており それに伴い検出器コストは上がるが 相対効率が飛躍的に上昇してきている 図 2 PET 検出器の配置と相対効率
c) PET 装置の構造 ( 施設 : 大阪大学医学部附属病院 ) 1 装置概観 ( 例 : 島津社製 Headtome Ⅴ;SET2400W) 図 3 島津社製 Headtome Ⅴ;SET2400W 体軸方向に 20cm の有効視野を有し 頚部リンパ節から骨盤部までを大人 ( 身長約 170cm) で 4 ステップでカバーできる 収集方法は 2D モード 3D モードを選択できるが 当施設では Emission/Transmission 同時収集を採用しているため 2D モードで 1STEP あたり約 7 分の収集を行っている 2 ガントリー内部の構造 平面方向のガントリー内部を図に示す ガントリー内に計 28 個の検出器ボックスがあり 各検出器ボックスには平面方向に 24 本のクリスタルが存在する 図 4 平面方向の構造 3 BGO 検出器の配列 BGO の検出器は クリスタル部 PMT( 光電子増倍管 ) 部 ブリーダー部で構成されている 検出器の交換はユニット単位で行われ BGO クリスタル 48 個 PMT4 個 ブリーダー 2 個が 1 つの
ユニットを構成している 図 5 BGO 検出器と配列 1 ユニットの体軸方向に BGO クリスタルが 8 個並び 全視野で 8 4=32 個クリスタルが並ぶことになる すなわち 32 リングの検出器を装備した PET 装置と言う事になる 4 収集の仕組み ポジトロン核種を対象にした収集ですから 180±0.25 に消滅する放射線を同時計測している 光子の速度が 30cm/ns なので仮に平面方向の視野が 60cm とすると 光子到達時間は 2ns となる BGO クリスタルでは同時計測を行う例を示すと一般的にタイムウインドウは約 15ns である ただ同時偶発計数と真の同時計数を割り出すために遅延回路を用いた演算処理がなされている 収集としては 約 15ns で収集した後 約 45ns 後にもう一度約 15ns で収集していることになる 図 6 PET カメラによるポジトロン核種の収集 5 収集データの画像化の仕組み 1 リング ( 平面方向 ) で処理されるデータは 図に示すように検出器間で同時計測されたデータを投影方向にならび替えられ再構成される
図 7 1 つの検出器と同時計測されている検出器の例 図 8 投影方向に並び替えられたデータ 1) 2D モード収集 体軸方向に並べられたリング間にセプターといわれるリング状の遮蔽体を装着させた状態で行う収集方法である 分解能が良く 散乱線含有率を低く保つことができる収集方法である
図 9 2D 体軸方向の構造 図 10 セプターの構造 2) 3D モード収集 セプターを退避させることで簡便に切り替えることができる 収集感度が約 8 倍から 10 倍と良くなる反面 分解能の劣化 散乱線含有率が増加する問題が生じる
図 11 3D 体軸方向の構造 図 12 セプターを退避した状態 d) スライス面が構築される仕組み 体軸方向に構築されるスライスは 同一リング上の同時計測線 :LOR(Line of Response) で構築されるスライスと隣り合うリング間の同時計測線から構築されるスライスとがある 前者をダイレクトスライス 後者をクロススライスと言う 双方のスライスとリング数との関係は リング数 =N とするとダイレクトスライス=N クロススライス=N-1 全スライス=2N-1 の関係が成り立つ
図 13 ダイレクトスライスとクロススライスの関係 感度を比較するとクロススライスの方が LOR の多い分高くなる 図 14 ダイレクトスライスとクロススライスの感度 LOR1~2 本の感度では低すぎるために実用的にするため全体的に感度を持ち上げる手法がとられる その手法が 束ね である ポイント 今 3 スライス目 (2 つ目のダイレクトスライス ) について考えるとすると そのままでは LOR1 本の感度である リングをまたぐ両サイドのリングとの LOR を加えて 本来のダイレクトスライス上にデータを補間すると感度は LOR3 本分に相当し 結果的に感度が上昇する
図 15 ダイレクトスライスの束ね例 同様に 4 スライス目 (2 つ目のクロススライス ) の場合は LOR が 2 本から 4 本へと感度が上昇する 図 16 クロススライスの束ね例 このように束ねる LOR の本数を増やすことで 感度を全体的に上昇させることが可能である ただし リング周辺部では歪が大きくなるために分解能は劣化する プールファントムの再構成画像でダイレクトスライス クロススライス 束ねの関係を図に示す
図 17 プールファントムによる画像比較 ダイレクト クロススライス間や束ねによる感度差は クロスキャリブレーションを施行することで無くなる ただ 束ねが少ない両端のリングは S/N が劣化している これを図に示す 図 18 クロスキャリブレーションによる感度補正 e) クロスキャリブレーション クロスキャリブレーションとは PET 装置とウエルカウンターの校正であり 定量性を保証する目的で行われる PET 装置は多数の検出器が密接した状態で装着されており 温度や経時的変化等で出力ゲインが変化しやすい そのため 定期的に校正する必要がある 校正は 18 F または 68 Ga を入れた円筒形ファントムを測定し ファントム内の一部をサンプリングし測定時の放射濃度を求める方法がとられる ウエル値 /PET 値のことをクロスファクターと呼ばれ 各スライス毎に求められる PET 値にクロスファクターを乗ずることで放射能濃度単位に変換される 放射能濃度単位は cps/g である ただし 溶液の比重を 1.0 と見なして cps/ml とすることもある
図 19 クロスキャリブレーション f) 分解能 1 平面方向の分解能 分解能を左右する因子は入射する消滅放射線が幾つのクリスタルで発光するかで決定される 視野中心では発光クリスタル数が最も少なくなり 従って分解能は最も良くなる 視野中心から離れるに従い発光クリスタル数は多くなり分解能は劣化する 図 20 平面方向の分解能 2 体軸方向の分解能 体軸方向は原則的に独立したリングをつなげたものである 従って各リングの分解能のバラツキが反映されるだけで ほぼ同等の分解能を示す
図 21 体軸方向の分解能 図の縦軸がスライスを示している 5)6)7)8)9) g) 性能試験 1 空間分解能 平面方向 体軸方向の分解能を測定する 2mm 以下の大きさの 18 F 点線源を使用する 測定は半値幅 (mm) で評価される 2 散乱フラクション 全同時計数に対する散乱同時計数の割合を意味する 水 (B.G.) を満たしたプールファントム内に線状の線源を入れて測定する 線源の配置は 中心と中心から 4cm 8cm の計 3 ヶ所で測定する 散乱フラクションはサイノグラムから計算される 図 22 Scattering coincidence 3 感度 感度は単位放射能 (kbq/ml) あたりに検出される同時計数率 (cps) と定義される
4 計数損失 偶発同時計数 プールファントムを使用する 測定は全ての補正を行わず 十分飽和した放射能から計数損失や偶発同時計数を無視できるまで径時的に測定する そのため使用核種は 通常 11 C( 半減期 20min) 13 N( 半減期 10min) が使われる 図 23 Count rate of PET 5 吸収 散乱補正 プールファントム内にコールドエリア ( 空気 水 テフロン ) を持つファントムが使用される 再構成された各 ROI 値の比から相対誤差を求める 補正が適正であれば相対誤差は 0 である 6 計数率補正 プールファントムを使用し 適正な補正かどうかを確認する 測定は十分飽和した放射能から計数損失や偶発同時計数を無視できるまで径時的に測定する 減衰補正された再構成画像に ROI をとり基準放射能濃度との誤差を求める 図 24 %Dead time of PET
7 リカバリー係数 部分容積用ファントム使用する ホットエリアの形状は円柱状 球状の 2 タイプがあるが 3D モードでの測定には必ず球状のタイプを使用する h) メンテナンス PET 装置の故障の大半が検出器の出力低下である 出力低下の原因は 十中八九 PMT による出力低下である 例え 1 本の PMT が破損しても 交換最小単位であるユニットを交換しなければならない メーカーによってはさらに広範囲のブロック単位におよぶものもある 図に検出器の出力低下による画像への影響を示す 図 25 PET 検出器のトラブルと画像への影響 i) PET で行う測定 BGO クリスタルは工場出荷の際に 出力ゲインのバラツキが ±2% 以下になるように調整されている 図 26 BGO クリスタル発光面のバラツキ クリスタルの発光強度は温度と密接な関係にあり また 温度は密接した状態で装備されている PMT の出力のバラツキの原因を引き起こす
PET 装置には 空冷式や水冷式で放熱し温度管理を行っているが不十分である そのため定期的に検出器の出力をキャリブレーションする必要がある 1 Normalize scan 定期的に検出器の出力をキャリブレーションするためにする方法である 68 Ge- 68 Ga ラインソースを用いて 6~8 時間かけてデータが収集される 収集する時間はラインソースの放射能強度によって異なる 図 27 Normalize scan Normalize scan から Normalize table file と Blank table file が作成される Normalize table file とは 図で示すようにラインソースの滞在時間が補正された table file である Emission Data の補正に使用される メモ 滞在時間補正とは ラインソースの通過時間が領域により異なるため それぞれの領域での滞在時間を補正することである Blank table file とは 滞在時間が補正されていない table file である Transmission Data の補正に使用される Transmission Data は Normalize Data を収集する時と同様にラインソースを回転させるため 滞在時間の補正は不要である
図 28 ラインソースの滞在時間補正 2 Transmission scan 被検者に対する放射線の吸収補正を目的とする 一定角速度で回転するラインソースによりデータが収集される 図 29 Transmission に使用されるラインソース ラインソースは 使用時に格納スペースから自動的にセプター内に挿入され 図に示すようにセプター末端の回転機構部に固定される ラインソースが存在する範囲をマスク収集することでデータを収集する 得られたデータは Blank table file により検出器間感度補正されたサイノグラムが作られ 吸収補正 table file が作られる
図 30 Transmission scan 3 Emission scan 被検者からの放射線を収集することを目的とする 視野内のすべてのカウントを収集する 得られたデータは Normalize table file により検出器間感度補正されたサイノグラムが作られる 図 31 Emission scan 4-2. PET 検査に使用される装置 1 プラスチックシンチレータ検出器 β + 線のディテクターである 直径 20mm 厚さ3mmの円盤形状のプラスチックシンチレータと 2 インチ丸型光電子増倍管からなる 被験者の動脈血を持続的に吸引する方法で測定される
図 32 プラスチックシンチレータ検出器 ポイント検出感度を上げるためにシンチレータ部の通過面積が大きくなるように細管チューブをディテクターにセットする また幾何学的配置により検出感度の再現性が異なるため セッティング毎にウエルカウンターとの校正計数を求める必要がある 2 血中 RI 濃度測定器 RI 濃度測定器ウエル型シンチレーションカウンター 電子天秤 フットスイッチ ( 採血時間入力システム ) パソコン プリンターで構成されている 単位重量 (g) あたりの動脈血中 RI 濃度を測定する装置 血中 RI 濃度以外に クロスキャリブレーション測定に使用する 図 33 血中 RI 濃度測定装置
4-3. Hybrid-PET a) 特徴 ガンマカメラ (SPECT 装置 ) でありながらポジトロン核種を同時計測の方法で収集ができる装置 装置はあくまで 2 検出器型の SPECT 装置である リング検出器の PET 装置とは検査スループット 精度は専用機とは根本的に異なる 図 34 Hybrid-PET の概観 b) 構造 Hybrid-PET には 2 Dimensional type 3 Dimensional type がある 図 35 Hybrid-PET の構造 各タイプの特徴を図に示す
図 36 2 D type 3 D type の特徴 c) Hybrid-PET の分解能と腫瘍検出能 分解能は PET 装置と比較して ほぼ同等である しかし 腫瘍を想定した対 B.G. 比が 5:1 のファントムでは専用機の PET に比べて検出能は低下する 図 37 分解能と擬似腫瘍ファントムの検出能 擬似腫瘍の検出率の低下は 収集時間の延長により改善する そのため 検査プロトコールを検討することが必要となると考えられる
図 38 収集時間と腫瘍検出能の関係 腫瘍の大きさが同じで取り込み率が異なる場合を想定し 腫瘍コントラストを変化させた場合の検出率も収集時間を延長することで飛躍的に改善する 図 39 収集時間によるコントラストの相違 d) 装置の進歩 近年装置の進歩が著しく 検出能が大幅に向上した その推移を図に示す 図 40 検出能の推移
技術の進歩の一つに 3D FORE 法の適用がある 従来の SSRB 法では回転中心から離れると画像の歪が著しく検出能を劣化させていたが 3D FORE 法を適用することで歪が改善された 図 41 3D FORE 法による画像改善 1) 熊谷寛夫 ( 編 ): 実験的物理学講座 vol.28 p.339 共立出版 東京(1980) 2) 藤居一男 : 放射線医学体系特別巻 6 ポジトロンCT( 別冊 ) p.53 中山書店(1989) 3) Thomas,L.H.:The paths of ions in the cyclotron. Physical Rev.54:580(1938) 4) Wieland,B.W.:A negative ion cyclotron using 11 MeV protons for the production of radionuclides for clinical positron tomography. Proceedings of the first workshop on targetry and target chemistry p.119 DKFZ Heidelberg(1985) 5) NEMA standard publication NU 2-1994 : Performance measurements of positron emission tomographs,1994 6) 日本アイソトープ協会医学薬学部会 :PET 装置の性能評価のための測定指針.RADIO ISOTOPES,43,9,XXXV-LV,1994 7) 織田圭一 :PET 装置の性能試験. 臨床放射線技術実験ハンドブック ( 下 ), 日本放射線技術学会編, 通 商産業研究社,38-53,1996 8) IEC 61675-1 : Radionuclide imaging devices Characteristics and test conditions part 1 : Positron emission tomographs,1998 9) JESRA TI-0001-1994 : PET 装置の保守点検基準,1994
参考 PET の物理的特性に関係する用語の解説 1. 真の同時計数 (true event) PET は 陽電子消滅に伴い 180 度反対方向に放射される 511keV のγ 線対を測定している ( 図 1) 陽電子消滅は 陽電子がそのエネルギーを失った点(positron range) で生じ 陽電子と電子の質量がエネルギーに変換されるので 陽電子消滅で生じる一対のγ 線の総エネルギーは 1022keV である 個々のγ 線は シンチレータで個々に計測されるので これを single event と呼ぶ Single event が対向する検出器にほぼ同時に計測された時のみ true event として計数される 図 1の斜線部は line of response(lor) と呼ばれる 対向する検出器が true event を検知した時に そのγ 線を放出した線源が存在する範囲を示している PET の特徴の一つは 鉛などの吸収体によるコリメータなしに 同時計数回路という電気的なコリメータにより 線源の位置を推定することができることである 吸収体によるコリメータを装着しない場合 PET カメラは Anger 型カメラよりも 2-3 倍感度が高い True count のためには両方の検出器で感知されなければならない 従って single event の方が true event よりもはるかに多い 検出器 1 511keV 消滅光子 ( 計測されない ) ( 計測される ) Linee of response (LOR) β + e- ( 計測される ) 検出器 2 511keV 消滅光子 ( 計測されない ) 同時計数回路 ( 時間窓 ~10nsec) 検出器 1と2が同時に光子を検出した時 1 個の信号として計測 実際には ~10nsec の時間窓を設定する 検出器間を 60cmとすると この間を光子が飛行する時間は 2nsec ( 光速度 c=300000000m/sec) 511keV のγ 線を対向する検出器で同時に計測する という true event の計測原理は 必ずしも絶対的なものではない 検出器のエネルギー分解能は高くなく (~30%) 約 250~650keV の範囲のエネルギーを持った光子が検知される この中にはコンプトン散乱や消滅光子以外のものが含まれ ノイズの原因となる 個々の single event には ±0.1nsec の誤差で 計測した時刻の目印がつけられる 対向する検出器が 一定の時間範囲内に信号を検知した場合 true event と認識される この一定の時間幅を 同時計数回路の時間窓 τ (coincidence timing window) という 通常は 6~12nsec である 対向する検出器には消滅 γ 線の各々は光速度 (3x10 8 m/sec) で飛行するものの 線源の位置によって わずかに異なった時間に到達する ( ガントリー径が 60cm の場合 この間を飛ぶ時間は 2nsec) 同時計数回路の信号処理にはある程度の時間を要する シンチレータによる発光は瞬時に起こり消滅するのではなく 一定時間持続する ( 光減衰時間がある ) True event の計測には このような計測システム上の なまり がある
True coincidence Random coincidence Scatter coincidence ( True ) ( Random ) ( Scatter ) NECR = T 2 /(T+S+R) 2. 偶発同時計数 (random coincidence) 散乱同時計数 (scattered coincidence) 検出器は True event だけではなく 他の様々な信号を検知する ( 図 1) これらは PET の定量性や画質を損なう原因となるので true event と区別し 取り除かなければならない random event ( 偶発同時計数 ) は 異なる陽電子消滅によるγ 線が 時間窓の範囲で一本ずつ対向する検出器に検知された場合に生じる ( 図 2 B) したがって random event は 本来はその位置にない放射能を計測することになるので ノイズの原因となる 臨床的には 脳の撮像では random/true vent は 0.1~0.2 程度であるが 体幹部では 1 よりも大きくなる 偶発同時計数 C random は single event の計数と時間窓の長さに比例する C random = 2τC 1 C 2 C1 C2 は対向する検出器の計数を表す ここで重要なのは true event は放射能濃度にのみ比例するので random/true の比も放射能濃度に比例して増加することである 従って 撮像時間を短縮しようとより多くの放射能を投与すると random の計数が true よりも急速に増加し 画質を損なってしまう 2D PET のように鉛のセプタを装着することにより random/true event は改善する また 同時計数回路の時間窓 τを小さくすると改善することができる 検出器の視野外で生じた消滅光子がコンプトン散乱により方向を変え 視野の中に入ってくる場合がある これを scatter( 散乱同時計数 ) と呼ぶ 散乱線は通常 511keV よりもエネルギーが低下するが それでも充分にシンチレータのエネルギー幅のなかにあるので true event として数えられてしまう Scatter も 本来はその位置にない放射能を計測することになるので ノイズの原因となる Scatter は true と同様に放射能濃度に比例するので scatter/true の比は 放射能濃度には依存しない True と scatter はともに一個の陽電子消滅から生じるので同時計数回路の時間幅には依存しない 一方 2D PET の検出器間のセプタは大幅に scatter を減少させる 多くの陽電子放出核種は エネルギーの高いガンマ線を同時に放射する ( 62 Cu, 66 Ga, 68 Ga, 75 Br, 82 Ru, 86 Yt, 124 I など ) これらもノイズの原因となる よく用いられる核種には これは
ない 表に 主な陽電子放出核種の性質をまとめた 半減期 β + 壊変率 β + の最大エネルギー水中での飛程 (MeV) (mm) Carbon-11 20.4 分 99% 0.96 3.9 mm Nitrogen-13 9.96 分 100% 1.2 5.1 mm Oxygen-15 2.05 分 100% 1.7 8.0 mm Fluorine-18 1.83 時間 97% 0.64 2.3 mm 3. シンチレータ現在 4 種類のシンチレータ (NaI BGO GSO LSO) が用いられている シンチレータの性質として重要なのは 密度 実効原子番号 発光性 発光速度である 高密度 実効原子番号の大きいシンチレータは γ 線の阻止能 (μ) が高く 放射線を効率良く検出する また コンプトン散乱よりも光電効果の割合が大きく エネルギー弁別による散乱線の除去が可能になる 発光量が大きいと統計学的雑音が小さくなり エネルギー分解能が高く エネルギー弁別による散乱同時計数を除去しやすくなる 光減衰時間が短いシンチレータでは同時計数回路の時間窓 τを短くすることができ 偶発同時計数を減らすことができる 結晶の光透過性 光電子増倍管への光屈折率 光の波長 潮解性などもシンチレータの特性として重要である NaI(Tl) 結晶は初期の PET 装置に用いられていたが 現在は より阻止能の高い BGO GSO LSO が選ばれるようになった 511keV のγ 線に対して NaI の線阻止能は BGO GSO LSO の約 2 倍である GSO と LSO は BGO よりも光減衰時間が短い LSO は発光量が大きい GSO はエネルギー分解能がよいので 散乱線の除去能力が高い LSO の欠点は Luteinium-117 を含有し これが自然発光することである 同位体としての含有量は 2.6% 半減期は ~4x10 10 年である 201keV と 306keV のγ 線を放射する これらの合計エネンルギーが 507keV であり 検出器のエネルギー幅に入る 計数率は 240cps/cm3 である カメラ全体では single event で 100,000 cps true event で 10,000 cps 程度である 実際の臨床画像に与える影響は無視できる程度と考えられる 4. 検出器配列最近の PET カメラの検出器配列はリング型で 被験者の全周をカバーするようデザインされている そのようなシステムでは 対向する複数の検出器間で同時計数を検出するために fan-beam が用いられる N 個の検出器があると N/4 もしくは N/2 個の fan-beam が必要となる リング型では 一個の検出器に対して残りの約半数の検出器が同時計数をする 全周のうち 部分的に検出器を配列すると コストを下げることはできるが検出器の回転が必要になる Anger カメラ型では 被験者の全周を回転する必要がある 腫瘍等の病巣検出率は リング型多検出器システムの方が 回転型システムよりも良好である
Kadrmas DJ, Christian PE. Comparative evaluation of lesion detectability for 6 PET imaging platforms using a highly reproducible whole-body phantom with (22)Na lesions and localization ROC analysis. J Nucl Med 43;1545-1554, 2002 5.2D-PET 3D-PET 初期の PET では 鉛 タングステンのセプタが用いられた Advance GE では 厚さ 1mm 12cm 長のタングステンのセプタが用いられている このセプタは視野外のγ 線をほぼ除去する 大きな被写体の場合有効で 全身スキャンに有効である 2D-PET では true が減少するので感度が低下する 対向する検出器だけではなくその前後の円周の検出器とも同時計数する Direct 断面とクロス断面が生じる N リングの装置では 2N-1 の断面が得られる クロス断面はリング間の仮想断面である Direct 断面が一断面の情報であるのに対して クロス断面は2 断面の情報であるので 感度は2 倍になる さらに多断層の間のクロス断層像が得られている セプタを取り外すことによって 感度はさらに改善される 10000 検出器間に約 1000000 の断面 (LOR) が得られる これが 3DPET である 約 5 倍に感度があがる Scatter と random も増加する 臨床では scatter/true 比は 0.2(2D)~0.5(3D)( 脳 ) 0.4(2D)~2(3D)( 体幹部 ) である Scatter の除去のためにはエネルギー分解能のよい検出器 (LSO, GSO) が必要となる Random の増加と数え落としを防ぐためには 短い時間窓 τ 光減衰時間野短い検出器が必要である データ処理時間は 2D の約 2 倍である 2DPET では 軸方向の感度はほぼ均一であるが 3D-PET は中心部で高く辺縁で低下する特徴がある 従って FOV の約半分の重複が必要となる FOV 以外からの放射線を除去するために 検出器の外側には遮蔽が必要である 2D-direct plane Sensitivity 2D-direct plane+cross plane 0.2% (75~cps/μCi) 2D-direct plane+cross plane 3D-direct plane 0.5% (185~cps/μCi) 2~10% (740~1850cps/μCi) 6. 分解能分解能は 陽電子消滅の物理的要因と装置に由来する要因がある ある陽電子放出核種
について考えると この核種からは様々な初期エネルギーをもった陽電子が放出される ( 最小でゼロ 最大で Emax) 平均のエネルギーは約 1/3Emax である 初期エネルギーの大きさによって 特定の距離だけ飛行しエネルギーを失い消滅する PET で用いられる核種では 0.58~3.7MeV で最大飛行距離 Re は 2~20mm である この飛程は 解像力を低下させる 18 F(Emax=640KeV) では 約 0.1mm の損失 15 O(1720KeV) では約 0.5mm の損失がある 第 2の物理的要因は 消滅光子が 180 度反対方向に放射されるわけではないことである 最大 0.25 度の偏位がある リング径が大きいとこの効果は大きく 全身カメラで約 2mm の損失となる 装置に関する要因は検出器の幅 w と厚さ d である 装置自体の分解能は中心部で w/2 で検出器に近づくほど w に近くなる 厚さ d が増すと 実効的な w が増し 分解能は低下する 通常の装置では d は 2~3cm w は 4mm 程度であるが この場合 80cm のリング径の装置では中心部から 10cm の点で 50% の損失となる 7. 感度感度には 検出器の形状と検出器の計数効率の両方が関係する 検出器の厚さを d リング径を D とすると中心部での感度は d/d に比例する single event に関する感度を e とすると true event の感度は e 2 となる BGO と LSO の e 2 は GSO の +50% である 検出器が円形に配列されている場合 等方的に放出される放射線を検出する効率 S は S = 2πrwaf 2 /4πr 2 r: 検出器配列円の半径 w: 検出器の厚さ a: 放射能濃度 f: 検出器の検出効率放射性元素からは 全方向に同じ確率で放射されるが検出器はそのうちの一部しか検出していない 2D-PET 装置の感度は 0.2~0.5%(74-185cps/μCi) 3D-PET の場合は 2-10%(740-1850cps/ μci) 程度である 8. 雑音等価計数率 (NECR, noise-equivalent count rate) 実際の PET 装置では NECR が重要である NECR=T 2 /T+S+R T: true event S: scattered event R: random event NECR の最大値が装置の最適計数率となる 2D-PET では セプタが散乱や偶発を除去するので NECR はほぼ true の計数率と等しい 2D-PET の NECR は放射能濃度とともに増加するので 最適計数率というのはない 一方 3D-PET では 散乱同時計数と真の同時計数は放射能濃度と平行するが 偶発同時計数は放射能の平方根と比例するので最適計数率が存在する 光減衰時間の短いシンチレータでは同時計数回路の時間幅を短くすることが可能で 時間幅が短いほど 偶発同時計数は少なくなる 従って NECR の最大値 すなわち最適計数率は大きくなる LSO は BGO よりも数倍 NECR の最大値が大きい
9. 計数損失補正 数え落とし補正 (dead time correction) 検出器系には不感時間 (dead time) があるので この時間内に到達した信号は計測することができない 高計数率測定 (H 15 2 O の dynamic 測定など ) で問題になるが 通常の投与量の FDG-PET では計数損失は少ない これは システムの計数率特性をもとに補正される 10. 偶発同時計数補正偶発同時計数 C a は C a =2τS 1 S 2 τ: 同時計数時間窓 S 1 : 検出器 1 の計数率 S 2 : 検出器 2 の計数率偶発同時計数と散乱同時計数はいずれもスライスシールドの形状と関係が深い ( 図 2) 偶発同時計数 C a とスライスシールドの関係は C a =K a A 2 S 4 /T 2 Ka: 比例定数 A: 放射能濃度 S: スライスシールドの間隔 T: スライスシールドの長さ偶発同時計数は時間に依存しない したがって 遅延回路を設け同時計数の時間幅を 50nsec 以降のところに設定し この時に計測された true を差し引くことによりおこなう 11. 正規化 (normalization) 10000 から 20000 個の検出器の個々の感度は同一ではない これを補正するために 棒状もしくは円柱上のファントムを撮像し 検出器対間の計数の差を補正する 12. 散乱線補正散乱線はエネルギーが低くなるので エネルギーウィンドウを設定することによりある程度除去することができる エネルギーウィンドウは 通常は 250-600keV に設定されている この幅を 511keV 近傍に設定すると 散乱線を除去することは可能であるが シンチレータ内部でのエネルギー損失をも数え落としてしまい 感度を低下させてしまう 3D PET は散乱線成分が総計数率の ~40% にも達する 3D-PET では 様々な散乱線補正法が試みられている 偶発同時計数を除去した画像では 画像周辺に表れる計数は散乱による 画像周辺のノイズから数学的に画像全体における散乱線の影響を計算し 差し引く この方法は 2D-PET や 3D-PET の脳の撮像では有効であるが 3D-PET 一般には有効ではない 3D-PET の散乱線補正には エネルギー幅を2ケ所に設定する方法 散乱線分布を測定する方法 (Monte Carlo simulation) などがあり 最近の PET 装置では Monre Carlo 法が行われている 13. 吸収補正吸収補正は PET では最も大きい補正である PET の特徴は正確な吸収補正が可能なことである 図に PET における吸収補正の原理を示した
L Detector i x L-x Detector j C i =C 0 e μ x coincidence count rate μ =C 0 e μx e μ(l- x) =C 0 e μ L C j =C 0 e μ (L-x) C i =C 0 e μ (0) =C 0 coincidence count rate μ =C 0 e μ (0) e μ L =C 0 e μ L C j =C 0 e μ L 最近の進歩は single-photon の線源 ( 137 Ce) を用いて吸収補正をおこなうようになったことである 同じ放射能濃度に対して 137 Ce の計数率は 68 Ge よりも高い 68 Ge では同時計数を計測しているのに対して 137 Ce では single event を計測している 137 Ce の半減期は 30 年で Ge の 287 日より長く 交換の必要がない 137 Ce から放射されるγ 線エネルギーは 662keV で 511keV よりも高いので GSO のようなエネルギー解像力の高い検出器では正確に弁別できる 662keV と 511keV に対する吸収の差を補正する必要がある 最近の PET 装置では Segmented attenuation correction という方法が行われ 検査時間の短縮に役立っている この方法は 短時間の撮像により 体組織を軟部組織 肺 骨にセグメント化し その各々に計算上の値 ( 軟部組織は線減弱計数 0.095 骨は 0.13 肺は 0.035) を当てはめる 1~2 分の短時間の撮影で終えることができる PET-CT では 線源の換わりに CT を用いる CT 画像は基本的には x 線 (~80keV) の吸収の分布画像である 511keV のエネルギーに対する補正が必要になる ~80keV と 511keV に対する質量減弱計数は 0.182/0.096( 軟部組織 ) 0.209/0.093( 骨 ) 0.167/0.087 であり 単純に画像全体を単一の数字で補正できない CT データをもとに上記の segmentation( 骨 肺 軟部組織 ) を行い 組織ごとに減弱計数を補正し 吸収補正を行う 金属や造影剤があると過剰に吸収補正され あたかも高濃度の放射能 ( 悪性腫瘍 ) があるように見えてしまう 14. FBP, OSEM, RAMLA ( 画像再構成法 ) PET 画像の再構成には emission data file, normalization file( 検出器間の感度補正 ) CT または transmission data file( 吸収補正 ) blank file(ct または transmission の基礎データ ) が必要である 2D-PET では フィルタ逆投影法 (filtered back projection; FBP) が用いられる これは 投影データを実空間から周波数空間にフーリエ変換し このデータに対してフィルター処理してノイズを軽減し その後実空間に逆投影する方法である
逐次近似画像再構成の代表的なものが最尤推定期待値最大化法 (Maximum Likelifood Expectation Maximization:ML-EM) である ポアソン雑音を含む東映データに対して確率的に最も確からしい線源分布を推定する この方法をさらに改善したものが Ordered Subset Expectation Maximization:OSEM である 計算時間が大幅に短縮された FBP で表れる放射状のアーチファクトが軽減されている row-action maximization-likelihood(ramla) 法は OSEM に関連した方法であり 極めて良好な画像再構成を実現した ただし 計算時間が長い 15. 相互補正計数 (cross calibration factor) 数え落とし補正 偶発同時計数補正 感度補正 散乱線補正 吸収補正を行った計数は 局所の放射能濃度に比例する 局所放射能濃度 Aijk(μCi/ml) は Aijk = Cijk/CF ここで Cijk は PET のカウント (cps/voxel) CF(cross calibration factor) は 相互補正計数 ([cps/voxel]/[ μci/ml]) CF を求めるには まず 放射性核種を含む溶液をファントムに封入し これを PET 装置で撮像し Cijk を求める 次いで ファントム内の溶液をキューリーメータで測定し Aijk を求める 注意すべき点は 装置の空間分解能に対して充分大きい径 ( 空間分解能の2 倍以上 ) のファントムを用いることである 16. SUV 腫瘍や体組織への標識薬剤の集積程度を評価する指標として Standard Uptake Value (SUV) を用いることが多いが SUV は以下のように求める SUV = 組織 1ml の放射能濃度 / 体重 1g あたりの放射能濃度 ここで 組織 1ml の放射能濃度 Aijk(μCi/ml) であり PET 画像に設定した関心領域のカウント (cps/voxel) を相互補正計数で除したものである なお PET のカウントは投与時に減衰補正をするか 撮像の中心時間を記載する 体重 1g あたりの放射能濃度は 投与量を体重で除したもので 投与した放射性薬剤が全身に均一に分布したと仮定した場合の局所放射能濃度 (μci 投与量 /g 体重 ) 例えば SUV=2 とは ある放射性薬剤が全身に均一に分布した時の放射能濃度と比較して 対象の組織に2 倍の濃度の集積があることを示している
第 5 章施設の設計 PET 施設の構成は サイクロトロンを設置し院内で 18 FDG 合成を行うのか または 将来市販されるであろう 18 FDG を購入し検査を行うのかによって全く異なる また サイクロトロン 標識合成装置の選択は 15 O ガスによる検査を行うのか 11 C 標識薬剤を考慮するのか が関係する 15 O ガス検査の有無は RI 管理や PET 装置の選択にも影響する PET 施設の概要 1) サイクロトロン室サイクロトロン室には γ 線と中性子が発生するので 床 天井 壁はコンクリート (1.5-2m 厚 ) で遮蔽する 本体の荷重に耐える場所でなければならない また 耐火構造にする必要がある インターロック 放射線モニター ( 高線量用 γ 線エリアモニタ γ 線ガスモニタ ) 監視カメラなどの安全監理システムが必要となる 中性子線の漏洩にも十分配慮しなければならない 空気の放射化が考えられるので RI 濃度が低いことを確認して 換気する 2) ホットラボ室サイクロトロンで製造された RI を放射性医薬品として標識する施設である 通常十分な遮蔽能力を有するホットセル内に自動合成装置を設置し 合成者の被曝を避ける γ 線 中性子エリアモニタ 電子線量計などによるモニターが必要である 空気を常に負圧状態で 清浄に保つ 3) 品質検査室放射性医薬品としての安全性を確認するための施設 製品の純度検査 発熱物質の検出 細菌検査 ph 検査 浸透圧の調整などを行う クリーンルーム対応 ( クラス 10000) が必要 クリーンベンチ内はクラス 100 レベルに対応する必要がある 4)PET 検査室 PET カメラが設置されている 患者さんが出入りする区域なので 清潔を保つ 医療従事者の被曝を避けるため 鉛がラス壁を置いて 遮蔽する ガス検査を行う場合は配管内を高濃度の放射性ガスが輸送されるので 十分な遮蔽が必要である 5) 処置室患者さんへ放射性薬剤を投与するための部屋 6) 安静室放射性薬剤を投与された患者さんが 撮像までの間 (60 分前後 ) 安静に待機する部屋 複数の患者さんが同時に入室する場合は お互いの被曝を避けるために鉛板で遮蔽する
患者さんの監視のためのシステムが必要となる 7) 回復室検査終了後 すぐに監理区域外に退出しないである程度体内の放射能が減衰するのを待つための部屋 医療従事者 病院内の他の患者さん 公衆の被曝を軽減する 8) 貯蔵室 PET 装置の検出器校正用線源の保管などを保管する 9) 廃棄物保管室放射性廃棄物 医療廃棄物などの保管を行う 参考のレイアウトを資料に示した ( 提供住友重機械工業株式会社 )
第 6 章放射性薬剤の安全管理 1 PET 用放射性薬剤の特性市販の放射性医薬品については 放射性医薬品メーカーがその くすり としての有用性 ( 有効性 安全性 ) に責任を持って各医療機関に供給されている 一方 多くの PET 用放射性薬剤は ポジトロン放出核種の半減期が極めて短いので 核種の製造から 標識合成 製剤化 品質管理に至る一連の作業を各施設で行う必要がある 当然のことながら各施設で製造する放射性薬剤の有用性の確保については 各施設が責任を持ってあたることになる 従って 施設毎に院内放射性薬剤の製造及び製剤の品質についての管理体制を整備し 責任の所在を明確にすることが基本的に重要である 図 1 に日本アイソトープ協会 医学 薬学部会 サイクロトロン利用専門委員会 ( 以下 協会委員会と称す ) が作成したガイドラインに収載してある組織責任体制の一例を示す 製造管理者 ( 氏名 : ) 製造管理責任者 ( 氏名 : ) 品質管理責任者 ( 氏名 : ) なお 製造管理者は薬剤師であることが望ましい また製造管理責任者と品質管理責任者は異なる者が担当することを原則とする 図 Ⅱ.6.1 組織責任体制の一例 また 放射性薬剤の品質管理に際して半減期が短いために 一部の品質管理試験項目については被験者に投与する前にその試験結果を出せないことがある その場合 事後検定を行うことになるが その取り扱いについては後述する第 3 者の専門家を交えた 薬剤安全委員会 で評価することが望ましい 品質管理におけるすべての項目について事前検定が困難な場合は 事後検定の項目に関してはむしろ製造工程管理の意味合いが強くなる 人体に投与する くすり の有用性を確保することは医療機関にとって最低限の義務であり PET 用放射性薬剤の製造に関しては 常に一定規格以上の製剤が行われるような再現性のある製法の確立が第一義的に重要になってくる また 確立された製法に従って下記に示すような項目について文書化し その内容についても前述の 薬剤安全委員会 で審査 評価を受けることが望ましい
(1) 製造管理組織図 (2) 製品標準書 (3) 製造管理基準書 (4) 製造衛生管理基準書 (5) 品質管理基準書 (6) 入退出手順書 (7) クリーンベンチ操作手順書 (8) 浮遊微粒子試験作業書 (9) 原料及び資材の品質管理記録 (10) 製造指図書兼製造記録 (11) 品質試験記録 (12) 浮遊微粒子測定記録 (13) 落下菌試験記録 PET 用放射性薬剤の 3 番目の特性として 作業者の放射線被曝の防護が挙げられる ターゲット中で製造される放射性核種の放射能は極めて大量であり ホットセル内に自動合成装置を設置 遠隔操作することにより作業者の被曝軽減が計られている ただし 製剤の取り出しや分注操作等 今後被曝軽減化のために取り組むべき課題は多い その他自動合成装置のライン上にリークがあると 排気中の RI 濃度が基準を越えたり あるいは揮発性の放射性物質によってホットセル壁面や床 及び作業者自身が汚染することもあり得る 放射線防護の観点からは一般的な知識に加えて取り扱う標識化合物や副生成物の性質 自動合成装置の構造と配管等にも熟知しておく必要がある 2 日本アイソトープ協会のガイドラインについて 1970 年代後半 放射線医学総合研究所 ( 放医研 ) において 13 N-アンモニアの臨床応用が開始されたのが我が国における PET 研究の始まりである 当時放医研では放射性医薬品メーカーの専門家を含む 短寿命核種の医学利用委員会 を組織し 院内放射性薬剤の安全性の確保をどのように行うかについて審議し 放医研における放射性薬剤の製法及び規格を定めた 1980 年代に入り 日本アイソトープ協会 医学 薬学部会にサイクロトロン利用専門委員会が設置され 臨床的に有用性が認められた放射性薬剤を成熟薬剤として認定し その製法 規格を全国的に統一する方向でガイドラインを作成することとなった 最初のガイドラインは 放医研の基準を参考として放射性医薬品基準 ( 市販の放射性医薬品の製法 品質等に関する基準を定めたもの ) に沿った形で作成されたものである その後 何回かの改訂を経て 2001 年に 放射性薬剤の基準 の改訂が行われた (2001 年改訂 Radioisotopes 50, 190-204, 2001) この 2001 年改訂版には 院内サイクロトロン製造放射性薬剤に関する 製法 品質 製造作業環境等に関する基準 ( ガイドライン ) が収載されており その解説及び参考資料も同時に作成された この改訂では無菌試験法に従来の バクテック試験法 に加えて 血液培養システムを用いた試験法 も採用された他 PET 診断用放射性薬剤製造施設における作業環境及び作業に関するガイドライン が新たに付け加えられた 各施設における製造管理 製造管理責任者 品質管理責任者はこの 放射性
薬剤の基準 (2001 年改訂版 ) とその解説 参考資料を参考として施設毎の基準の作成にあたってもらいたい 3 2-デオキシ-2-フルオロ-D-グルコース ( 18 F) 注射液 (FDG) の製造と品質管理について現在 我が国では住友重機械工業と JFE の 2 社から医療機器としての FDG 合成装置が市販されている 図 2 にそれぞれのメーカーの FDG 合成装置の外観図を示す 両機種共に基本的な標識合成反応は図 3 に示すように同一の反応を用いているが 加水分解の試薬 条件が異なるために 合成に要する時間に多少の違いが生じる また JFE 社製の合成装置は試験等がキット方式となっており取り扱いが簡便になっている 図 Ⅱ.6.2 FDG 合成装置の外観図 ( 左 :JFE 右 : 住友重機械工業 ) 照射 18 F - の回収 活性化 照射 18 F - の回収 反応精製加水分解分離精製調剤品質検査 溶媒留去反応精製加水分解精製滅菌濾過 製品 図 Ⅱ.6.3 FDG 合成フローチャート ( 左 :JFE 右 : 住友重機械工業 )
FDG の製造に際しては 各社の自動合成装置取り扱い説明書に記載されている操作法 その他に従って操作を行えば特に問題は生じないと考えられる ただし 各製造担当者に対する関連知識 及び作業内容等の教育訓練は充分に実施することが重要である FDG は大量に標識合成が可能で 施設によっては製造後数時間経過した後にヒトに投与する事態が想定される このような場合には 予め FDG の安定性に関するデータを収集し 各施設における FDG の有効期限を設定しておくことが必要である 表 1 に FDG の品質管理基準の一例を示す 表 Ⅱ.6.1 18 FDG 注射液の品質管理基準 外観 性状 : 無色または微黄色澄明 ph : 5.0-8.0 放射能 : 90-110 % 放射化学的純度 : 95 % 以上 放射核化学的純度 : 511 kev または 1022 kev 以外にピーク を認めない ( 半減期 ) (105-115 分 ) 比放射能 : 200 Mbq/mg Kryptofix2.2.2(K.222) : 40 ppm 以下 アルミニウムイオン : 10 ppm 以下 エタノール : 2000 ppm 以下 メタノール : 1200 ppm 以下 アセトニトリル : 164 ppm 以下 クロロデオキシグルコース : 40 ppm 以下 無菌試験 : 試験に適合する 発熱性物質 : 試験に適合する 製造毎に試験を実施する 年 1 回以上 試験を実施する ( 大阪大学医学部付属病院の基準を例示 ) 4 メチオニン ( 11 C) 注射液の製法と品質管理 11 C-メチオニン注射液は 11 C-ヨウ化メチルを標識前駆体として製造される 図 4 に 11 C-メチオニン注射液製造装置の外観図を また図 5 に製造装置のシステムの概略を示している 本装置は 11 C-ヨウ化メチルを標識前駆体として用いる多数の 11 C- 標識放射性薬剤の製造に用いることができる しかし 本装置は医療機器としての承認は受けておらず化合物としての 11 C-ヨウ化メチルの製造装置として位置付けられる 従って 11 C-メチオニン注射液を
始めとする個別の放射性薬剤毎に試薬 器具の規格 製法 品質管理基準等を各施設で独自に設定する必要がある この例のように医療機器として認可されていない自動合成装置を取り扱う際には 標識合成反応 合成システムの構成とそれぞれの要素についての専門的知識を熟知すると共に 器材の滅菌法や保守管理等についても基準を作成しておくことが重要である 図 Ⅱ.6.4 11 C- メチオニン注射液製造装置の外観図 ( 放医研提供 )
図 Ⅱ.6.5 11 C-メチオニン注射液製造装置のシステムの概略 ( 放医研提供 ) また 11 C-ヨウ化メチルは汎用性があるために 逆に標識原料や分離 精製用の溶媒を間違える可能性も大きい 従って 各放射性薬剤毎に試薬や器材を別個に保管することが望ましい 表 2 に 11 C-メチオニン注射液の品質管理基準の例を示す また図 6 には 11 C-メチオニン注射液の標識後の安定性のデータを例示するが 比放射能を高くすると放射線分解による放射性異物の混入量が時間と共に著しく増えることがわかる 特にレセプターマッピング用の 11 C- 標識薬剤の中には高比放射能が要求されるものがあるが このような場合 標識後の安定性に関するデータを収集しておく必要がある 図 7 には例として 11 C-Ro15-4513 の比放射能の違いによる安定性を示す 一般に放射線分解による放射性薬剤の安定性は ph や含有される微量成分によっても異なるので 各施設毎に標識後の安定性に関するデータをそろえておくことが必要である
表 Ⅱ.6.2 11 C- メチオニン注射液の品質管理基準 (1) ph :ph を測定するとき その ph は 3.0~7.0 である (2) 性状 : 肉眼で観察するとき 無色透明の液体である (3) 容量 :5~10 ml (4) 放射能 :γ 線測定法によりその放射能を測定するとき 測定時点において 370MBq(10mCi) 以上である (5) 放射性異物 : ラジオ液体クロマトグラフ法にて試験を行うとき 11 C-メチオニン以外の放射能は総放射能の 5% 以下である (6) 異核種 :γ 線測定法によりγ 線スペクトルを描くとき 511KeV 以外のピークを認めない または 半減期測定法により半減期を測定するとき 20 分後における放射能残存率は 47~53% である (7) 比放射能 :(5) の試験を行うとき UV(215nm) の吸収度よりメチオニン濃度を定量し 比放射能を算出するとき その値は 1.1GBq(30mCi)/μmol 以上である (8) エンドトキシン : エンドトキシン試験法により試験を行うとき 陰性である (9) 無菌試験 : シグナル試験法により試験を行うとき無菌である
図 Ⅱ.6.6 11 C- メチオニン注射液の標識後の安定性 ( 放医研提供 ) 図 Ⅱ.6.7 11 C-Ro15-4513 の比放射能の違いによる安定性 ( 放医研提供 )
放射性薬剤安全委員会について 各施設は 放射性薬剤安全委員会 を組織し 放射性薬剤の有用性 ( 有効性 安定性 ) を審議 評価することが 協会委員会のガイドラインでも強く推奨されている この 放射性薬剤安全委員会 には外部の放射性薬剤に関する専門家が参加していることが望ましい 前述した放射性薬剤の製造と品質管理に関する文書の内容については委員会での審議 許可を受けた上で臨床応用を開始することになる また 技術の進展に伴い製法の変更 製品仕様の変更等が生じたら その毎 委員会でその内容を評価することとなる 資料として大阪大学医学部付属病院短寿命放射性薬剤安全管理委員会内規を示す