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高校男子野球選手における方向転換能力と スプリント能力との関係 綿 I. 谷 貴 志 力との関係性を検討する必要もあるだろうま はじめに た 野球選手とサッカー選手とでは体力特性が 野球選手にとって走能力が重要なことは言う までもないが スピードが乗った状態から素早 異なる可能性があることからも あらためて検 討する余地はあると考えられる く別方向へと切り返す能力 方向転換能力 も そこで本研究は 高校男子野球選手を対象と 重要であろう岡本ほか 2012 は 球技では して PAT と 50 m 走を行わせ 方向転換能力と 陸上競技のような速度を高めるトレーニングば スプリント能力との関係性を検討することを目 かりではなく 方向転換走や前後左右方向への 的とした スピード変化が伴うトレーニングも必要である と述べている野球選手にとって方向転換能力 が高いことは 前後左右への俊敏な動きを求め II. 方 られる守備や走塁の際に有利に働くと考えられ 1. 被験者 法 被験者は青森県内の高校男子硬式野球選手 る 方向転換能力が直線方向へのスプリント能力 45 名 年齢 15 18 歳 全ポジションが対象 との間に有意な相関関係を有していることはす であった実験に先立ち 被験者の体調や過去 でに報告されている Pauole et al., 2000 ; 笹木 の怪我の既往歴を確認した問題がないと判断 ほ か 2011 ; Condello et al., 2013 方向転換 された被験者には実験内容の説明を口頭にて行 走には様々な種類があるが 横方向への方向転 い 実験参加への同意を得た 換能力を評価するものとして広く用いられてい るのがプロアジリティテスト 以下 PAT とす 2. 実験方法 る である 有賀ほか ; 2013 笹木ほか 2011 ① スプリント能力の測定 は サ ッ カ ー 選 手 175 名 を 対 象 に 20 m 走 と 図 1 は 50 m 走の実験配置図である試技 PAT を 行 わ せ 20 m 走 中 の 5 m 10 m 20 m は土グランドで行い 各被験者には普段使用し 地点の通過タイムと後半 10 m の区間タイムを ている野球用スパイクを履いてもらった試技 算出して PAT との関係性を検討したところ 前には各自で十分なウォーミングアップを行っ PAT 記録はすべての項目との間に有意な相関関 てもらい 試技は全力で行うように口頭にて指 係を有していたことを報告しているしかし 示をした この報告では 20 m 以上の距離に関しては検討 スタートは 陸上競技選手が用いるスタン されていない選手によって最大走速度の出現 ディングスタートを採用したスタートの合図 地点が異なる可能性があることから スプリン は口頭にて行い かけ声は 位置について よー ト走の距離を伸ばし さらに詳細に方向転換能 い ゴー であった試技のスターターは日本 47

八戸学院大学紀要 第 55 号 図 1 : 50 m 走の実験配置図 陸上競技連盟公認審判資格 B を有する 1 名が らったスタート後は 図 2 の ① ② ③ の順で 行い フライング スタート合図前に身体が動 走ってもらい フィニッシュライン上に設置し き出すこと と判断された場合には試技を中断 た光電管によって記録の計測を行った走り出 し やり直させたフィニッシュ地点には光電 す方向は被験者からみて右方向 一塁から二塁 管 BROWER 社製 を設置し 各被験者の記 への盗塁の方向と同じ に統一し 切り返し時 録を 100 分の 1 秒単位で計測した の足は左右どちらでもよいこととしたなお 50 m 走中の走速度の計測には レーザー速 50 m 走と同様に スタート合図前に身体が動 度計測システム Laveg を用いたLaveg を いた場合には無効試技とし もう一度試技をや スタートライン後方に設置し 疾走中の被験者 り直させたまた 試技中は左右の白線を踏む の背部に赤外線レーザーを照射することによ か踏み越えなければならないが それがなされ り 100 分の 1 秒ごとの位置情報を得た得ら なかった場合も無効試技とし スタートからや れた位置情報を Butterworth digital filter を用い り直させた て 遮 断 周 波 数 1 Hz で 平 滑 化 し 松 尾 ほ か 2008 単位時間ごとに時間微分することに 3. 各項目間の関係性を相関分析によって検討し よって各地点の走速度を算出した ② 分析方法 た分析したものは PAT 記録と 50 m 走記録と 方向転換能力の測定 図 2 は PAT 実施時の実験配置図であるス の関係性 PAT 記録と 50 m 走中の各地点の走 タート時は各被験者に左足で中央線を踏んだ状 速度との関係性 PAT 記録と 50 m 走中の最大 態をとってもらい その後のスターターの合図 走速度との関係性であった 50 m 走と同じかけ声 で試技を開始しても 48

綿谷貴志 : 高校男子野球選手における方向転換能力とスプリント能力との関係 図 2 : PAT の実験配置図 4. 統計処理 な 負 の 相 関 関 係 が 認 め ら れ た 5 m 地 点 で 各関係性の検討には ピアソンの積率相関係 p<0.05 10 m 以降の各地点で p<0.01 数 を 用 い た す べ て の 統 計 処 理 は Microsoft 図 5 は 各被験者の PAT 記録と 50 m 走中の Excel 2013 Microsoft 社製 を用いて行い 有 最大走速度との関係性を示したものである双 意水準は 5% 未満であった 方の間には有意な負の相関関係が認められた r= 0.490 p<0.01 III. 結 果 IV. 図 3 は PAT 記録と 50 m 走記録との関係性 図 4 は 50 m 走中の各地点の走速度の平均 察 高校男子野球選手 45 名を対象にし 50 m 走 を示したものである双方の間には有意な正の 相関関係が認められた r=0.629 p<0.01 考 の記録と疾走中の走速度を計測し 各項目値と PAT の記録との関係性を検討したその結果 値を示したものである実験によって得られた PAT 記録と 50 m 走記録との間には 有意な正 地点速度から 5 m ごとの地点速度を抽出し 被 の相関関係が認められ すべての地点の走速度 験者 45 名の平均値を算出しているPAT 記録 は PAT 記録との間に有意な負の相関関係を有 と各地点の走速度との関係性を検討したとこ していたまた PAT 記録と最大走速度との間 ろ PAT 記録とすべての地点速度との間に有意 にも有意な負の相関関係が認められたなお 49

八戸学院大学紀要 第 55 号 図 3 : PAT 記録と 50 m 走記録との関係 図 5 : PAT 記録と最大走速度との関係 Shortening Cycle の 機 能 に 依 存 す る 小 屋 2015 一方 直線走において大きな走速度を 発揮するうえでも 下肢筋群の SSC 機能が重 要であることが報告されている 図子ほか 2007 このように 動作中に下肢筋群が SSC の振る舞いをするという点で共通していること から 方向転換能力の向上がスプリント能力に またはスプリント能力の向上が方向転換能力の 向上に寄与する可能性も考えられる 図 4 : PAT 記録と 50 m 走中の各地点速度との 関係 今後はトレーニング実践系の研究によって 方向転換能力とスプリント能力との関係と そ 50 m 走中の最大走速度の出現地点の平均は 25 れら能力を高めるトレーニング方法に関して検 30 m 付近であり それ以降はフィニッシュ 討していきたい 地点までほぼ一定だった 以上のように 高校男子野球選手における方 向転換能力とスプリント能力との強い関係性が 示された先行研究においても 方向転換能力 とスプリント能力との関係は報告されていたも のの 具体的に加速能力か それとも最大走速 VI. 追 記 本研究の一部は 日本体育学会第 66 回大会 2015 年 8 月 にて発表したものである 度に関係性を有しているのかは明確ではなかっ 参考文献 たしかし 本研究で得られた結果より 野球 選手の方向転換能力は加速能力 50 m までの 走速度と最大走速度に影響を及ぼしている可能 性が示唆されたまた 様々な方向への方向変 換 に 必 要 な 切 り 返 し 動 作 は SSC Stretch- 有賀誠司 積山和明 藤井壮浩 小山孟志 緒 方博紀 生方 謙 2013 方向転換動作のパ フォーマンス改善のためのトレーニング方法 に関する研究 : 男子バレーボール選手におけ 50

: 25 : 7-19 Condello, G., Minganti, C., Lupo, C., Benvenuti, C., Pacini, D., and Tessitore, A. 2013. Evaluation of change - of - direction movements in young rugby players. Int. J. Sports. Physiol. Perform., 8 : 52-56. 2015 28 2 : 199-208. 2007 100 m 3 3 : 59 64. 2012 57 : 225-235. Pauole, K., Madole, K., Garhammer, J., Lacourse, M., and Rozenek, R. 2000 Reliability and validity of the T - test as a measure of agility, leg power, and leg speed in college - aged men and women. J. Strength. Cond. Res., 14 : 443-450. 2013 23 2 : 143-151. 2007 17 : 21-31. 51