広く分布した放射性核種による放射線場 ―モンテカルロ計算コードegs5の活用-

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目 的 GM計数管式 サーベイメータ 汚染の検出 線量率 参考 程度 β線を効率よく検出し 汚染の検出に適している 電離箱型 サーベイメータ ガンマ線 空間線量率 最も正確であるが シン チレーション式ほど低い 線量率は計れない NaI Tl シンチレー ション式サーベイメータ ガンマ線 空間線量率

福島原発とつくばの放射線量計測

放射線の測定について

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防護一般課程 (10 日間コース ) シラバス 各科目の時間配分とキーワード 講義 放射線防護の原則と安全基準 [90 分 ] 放射線防護の考え方 安全基準の考え方 放射線の物理学 (1)(2) [90 分 x2] 原子構造 放射線と物質との相互作用 単位 放射線計測 (1)(2) [90 分 x2

被ばくの経路 外部被ばくと内部被ばく 宇宙や太陽からの放射線 外部被ばく 内部被ばく 呼吸による吸入 建物から 飲食物からの摂取 医療から 医療 ( 核医学 * ) による 傷からの吸収 地面から 放射性物質 ( 線源 ) が体外にある場合 放射性物質 ( 線源 ) が体内にある場合 * 核医学とは

報告内容 放射線防護における線量評価の目的 線量の測定 評価の体系 実効線量の概念と線量換算係数の役割 実効線量の評価と放射線モニタリングとの関係 ICRP 2007 年勧告における線量評価に関わる変更点 原子力機構における線量評価研究に関する取り組み まとめ 今後の展望 2

問題 1. 電離放射線障害防止規則において誤っているのはどれか 1. 規制対象は診療における患者の被曝も含まれる 2. 外部被曝による線量の測定は 1 cm 線量当量 及び 70 μm 線量当量について行う 3. 放射線業務従事者はその受ける実効線量が 5 年間につき 100 msv を超えず かつ

登録プログラムの名称 登録番号 初回登録日 最新交付日 登録された事業所の名称及び所在地 問い合わせ窓口 JCSS JCSS 年 12 月 1 日 2018 年 5 月 23 日公益社団法人日本アイソトープ協会川崎技術開発センター 神奈川県川崎市川崎区殿町三丁目

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放射線とは 物質を通過する高速の粒子 高いエネルギーの電磁波高いエネルギの電磁波 アルファ (α) 線 ヘリウムと同じ原子核の流れ薄い紙 1 枚程度で遮ることができるが エネルギーは高い ベータ (β) 線 電子の流れ薄いアルミニウム板で遮ることができる ガンマ (γ) 線 / エックス (X) 線

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2. 調査対象 国道 114 号等を自動車で通行する運転手等の被ばく線量 国道 114 号等で 事故 車両の故障等のために車外に待機した運転手等の被ばく線量 3. 調査方法 (1) 調査対象区間 ( 図 1) 経路 1: 国道 114 号川俣町 / 浪江町境界付近 ~ 浪江 IC 付近 [27.2k

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はじめに 放射線 放射能 放射性物質とは 電球 = 光を出す能力を持つ ワット (W) 光の強さの単位 光 ルクス (lx) 明るさの単位 放射性物質 = 放射線を出す能力 ( 放射能 ) を持つ 放射線 ベクレル (Bq) 放射能の単位 換算係数 シーベルト (Sv) 人が受ける放射線被ばく線量の

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きます そのことを示すのが 半分に減るまでの 半減期 です よく出てくるヨウ素 131 は 8 日で セシウム 137 は 30 年です 半減期を迎えた後は またさらに半分になるまで 半減期 を要することになり これが繰り返されます 2. 放射線の測定 東京工業大学での測定 (1) 放射線の測定放射

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0 棄却限界値検出限界値 ない 分布 ある 分布 バックグラウンド 検出されない 検出されるかもしれない 検出される 図 2 検出限界値のイメージ AT1320A/C で出力される検出限界値 通常 検出限界値の算出には試料を測定したときの計数値を使用しますが AT1320A/C で出力される検出限界

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福島第一原子力発電所の事故に関連した線量評価への egs5 の応用 高エネルギー加速器研究機構 平山英夫 第 21 回 egs 研究会

はじめに 東京電力福島第 1 原子力発電所の事故に関連した様々な計算を行う場合に必要な事 線量 計算の場合 評価対象となる 線量 について 線量計 により得られた測定値と比較する場合 計算で求めた 線量 と測定値が対応しているか egs5 による種々の計算方法 検出器の応答の比較の場合 検出器の特性 egs5 による検出器応答の計算 egs5 を有効に活用するために上記の課題について簡単に紹介する

シーベルトが使われている 線量 防護量 と 実用量 のシーベルト どのように定義されているか どちらも物理量でないこと 原理的な測定はできない 線量概念については 原子力学会誌の解説記事を参照 放射線防護に用いられる線量概念 2013 年 2 月号 プレプリント ( KEK Preprint 2012-44) を KEK の図書室 研究報告 ( http://www-lib.kek.jp/top.html) からダウンロードできる 以下では 上記の基になった日本原子力学会 2012 年春の年会での放射線工学部会企画セッション 福島第一原発事故対応に係る環境放射線測定 における 岩井 佐藤のスライドを活用して各種線量について簡単に紹介する

防護量と実用量の関係 測定対象防護量実用量 場所の線量測定 ( エリアモニタリング ) 実効線量 等価線量 (ex 皮膚 ) 周辺線量当量 H*(10) 方向性線量当量 H (0.07,0 ) 放射線測定器サーベイメータ (1cm 線量当量 )* (70μm 線量当量 ) * 個人の外部被ばく測定 ( 個人モニタリング ) 実効線量 等価線量 (ex 皮膚 ) 個人線量当量 Hp(10) 個人線量当量 Hp(0.07) 必要に応じて測定 個人線量計 (1cm 線量当量 )* (70μm 線量当量 )* (* 障害防止法 ) ( 岩井 佐藤のスライドより ) 法令上規制される値 < 放射線測定器の校正量 実測値が規制値以内であれば問題ない 4

防護量の体系 生物効果比 RBE or RBE M 器官 組織の吸収線量, D 放射線加重係数, WR 器官または組織の線量 等価線量, H T 疫学データ ( がん罹患率 致死率 寿命短縮 QOL など ) ( 岩井 佐藤のスライドより ) 全身の線量 実効線量, E 組織加重係数, WT 5

放射線防護に用いる線量概念 物理量 線質係数 ICRU 球 実用量 周辺線量当量 (Sv) 方向性線量当量 (Sv) 個人線量当量 (Sv) 校正 放射線測定器の値サーベイメータ個人線量計 吸収線量フルエンス カーマ計算計算 > 比較 放射線加重係数 組織加重係数 Reference man phantom 防護量 実効線量 (Sv) 等価線量 (Sv) 臓器吸収線量 (Gy) 関連 放射線健康リスクに関する量 ( 罹患率 致死率 寿命短縮 QOL 等 ) ( 岩井 佐藤のスライドより ) 6

防護量の方向依存性の問題 ( 岩井 佐藤のスライドより ) 7

実効線量 外部被ばくによる実効線量は 照射形状に依存する 同じスペクトルの放射線場でも 線源の状況により 値が異なる 実効線量 を議論する場合には 線源の状況を認識して対応する必要がある 放射線障害防止法 施設の遮蔽設計の 実効線量 は AP 照射形状の実効線量 福島第 1 原子力発電所の事故に伴い 広く分布した線源による被ばくの場合は ROT 照射形状 に近い被ばく

実用量周辺線量当量 H * (10) 1 つの点で 1 つの値 ( 入射方向に依存しない ) H * (10) > 実効線量 (AP,PA.ROT,ISO,LAT 条件 ) モニタリングに使用するサイベイメータの校正量 ICRU 球直径 30cm の球ファントム ICRU が定めた人体組織等価物質 (O:76.2%,C11.1%,H1.01%,N2.6%) ( 岩井 佐藤のスライドより ) ICRU 球 H = Q( L) 整列場での放射線入射 d=10mm Q( L) D( L) dl : 線質係数 9

実用量 個人線量当量 H p (10) 組織等価平板ファントム (30cm x 30cm x 15cm) に平行ビームの放射線が垂直に入射した時の深さ d=10mm での線量当量 角度 α の放射線に対する個人線量当量は H p (10,α) で表す H p (10)=H p (10,0) H p (10) > 実効線量 (AP,PA.ROT,ISO,LAT 条件 ) モニタリングに使用する個人線量計の校正量校正は 平板ファントムに線量計を着用して行う 透過力の弱い放射線 (β 線や α 線 ) については d として 70μm( 皮膚 ) 及び 3mm( 目の水晶体 ) を使用する * 10mm 組織等価ファントム

egs5 による 線量 評価 (1) 実効線量 の計算 定義どおりの計算は 評価すべき放射線場に 人体形状ファントム を置き 各臓器の吸収線量を計算 等価線量を求め それを使って 実効線量 を求める 計算が複雑になり 計算時間がかかる 照射形状毎の 線束から実効線量への換算係数 を用いる 換算係数があれば 各照射形状の実効線量を一つの計算で求めることができる 光子スペクトルがあれば 計算時間は短い 実効線量は 実測との比較できる線量ではない どの様に使うかを考える必要がある

egs5 による 線量 評価 (2) 周辺線量当量 の計算 場の測定に用いられる 線量計 との比較 線束ー周辺線量当量 換算係数を用いることにより 理想的な エネルギー 角度特性 を持つ 線量計 に対応した 周辺線量当量 を計算することができる 実際の 線量計 の精度確認に使用 線量計 の応答を計算する場合 検出器の構造 検出器の応答から 線量 への換算方法が必要 線量計を制作するメーカ以外が行うことは難しい 線量計の制作を行う場合には 計算で評価することが重要

放射線測定器のエネルギー特性 エネルギー範囲感度評価適用する検出器の種類 60keV~1.5MeV 0.85~1.15 A シンチレーション式 ( エネルギー補償あり ) 60keV~1.5MeV 0.7~1.3 B Si 半導体検出器 60keV~1.5MeV 0.20~5.0 C シンチレーション式 ( エネルギー補償なし ) 60keV~1.5MeV 0.50~2.0 C GM 式 I-131,Cs-134, Cs-137 が測定可能 200keV~1.25MeV 0.5~3.0 C 無補償型で エネルギー範囲が狭いが 福島第一原発事故で出た核種は測定できる 最下段の適用検出器は JIS Z 4333:2006 には規定されていませんが 東京電力 福島第一原子力発電所の事故で環境中に主に放出された I-131,Cs- 134,Cs-137 を選択的に測定する検出器として市販されているものを掲載 平成 24 年度我が国情報経済社会における基盤整備事業放射線測定機器の性能チェックシート一般社団法人日本電気計測器工業会放射線測定機器の性能チェックシート作成委員会より

egs5 による 線量 評価 (3) 空気吸収線量 の計算 空気吸収線量は 本来は物理量 あるボリューム内での電子による付与エネルギーで計算するのが 本来の計算 空気の密度を考えると 極低エネルギーを除き 非常に効率の悪い計算 荷電粒子平衡を前提にすれば 光子のエネルギー束 (Eφ,MeV/cm 2 ) と質量エネルギー係数 (μ(e)/g,cm 2 /g) の積から 近似的 に計算することができる 空気吸収線量 の測定 自由電子電離箱であれば定義どおりの 空気等価な壁を持つ電離箱であれば ほぼ定義に近い空気吸収線量を測定できる NaI 等 電離箱以外の方法による空気吸収線量の測定は 周辺線量当量 の場合のように 空気吸収線量 のエネルギー特性に近くなるように工夫した線量計 計算と測定を比較する場合には どの様な手法による測定かということを知って行う必要がある

egs5 による 線量 評価 (4) 個人線量計 の計算 ファントム前にある状態で計算することが必要 ユーザーが 検出器の特性を知ることは難しい 検出器の構造が判っている場合には 実際の校正と同じように ファントム前においた線量計に対する Cs-137 の 0.662keV 光子で 換算係数を決め 他のエネルギーでの 周辺線量当量 を計算する方法が考えられる 線量計の評価方法が判っている場合には 計算結果 ( 検出器の吸収線量等 ) に使用されている手法を適用して 実測値と比較することのできる

吸収線量の計算 (1) 原理的な計算方法 吸収線量を求めたい領域 ( 体積 Vcm 3, 密度 ρ g/cm 3 ) において 付与エネルギー edep (MeV) をスコアする 平均の吸収エネルギー E dep (MeV) を 吸収線量 (Gy) に変換する 1MeV=1.602E-13J, 1kg=1000g 1MeV/g=1.602E-13(J/MeV)*1000(g/kg)=1.602E-10 Gy D(Gy)=E dep (MeV)/(V(cm 3 )*ρ(g/cm 3 ))*1.602E-10

吸収線量の計算 (2) 近似的な計算方法 質量エネルギー吸収係数 μ en (E)/ρ(cm 2 /g) に光子エネルギー束 (E φ(mev/cm 2 )) を掛けて g 当たりの吸収エネルギー (MeV) を求める 光子のエネルギー束を求める方法 領域中のエネルギー依存の光子飛程長 (tvstep(cm)) を領域の体積で割る 評価したい面を横切った時の光子数を 評価したい面積で割る 体積又は面積で割る計算は 全てのヒストリー終了後 メインプログラムで行う (1) と同じ様に g 当たりの吸収エネルギー E dep (MeV)/g を 吸収線量 (Gy) に変換する

周辺線量当量及び実効線量 周辺線量当量及び実効線量は 物理量ではないので 換算係数を使って計算することになる 本来は 光子束からの換算係数が望ましいが ICRP が空気カーマ当たりの換算係数の形でデータを提示している 空気カーマ当たりの換算係数を使用する場合には 空気カーマの計算が必要となる 周辺線量当量と実効線量で違った光子束ー空気カーマ換算係数を用いているのも問題 計算に使用する場合は ICRP のテーブルを使って 光子束から周辺線量又は実効線量への換算係数を求めて それを基にする方が良い 日本原子力学会の標準として 光子束からの換算係数が出されている

エネルギー依存の換算係数 質量エネルギー吸収計数や周辺線量 実効線量への換算係数は 離散的なエネルギーに対して与えられている 計算に使用する場合には 任意のエネルギーに対する係数を求めるためには エネルギー内挿が必要 ucphantomcgv.f に log-log 内挿で任意のエネルギーに対する係数を求める function がある

場のスペクトルの比較 物理量である光子スペクトルで 計算と実測値を比較することは 有用な事である 散乱線が多い広く分布した線源からの光子スペクトル測定は簡単ではない 波高分布の測定値からスペクトルを求めるには 検出器への入射状況を固定した レスポンス アンフォールディング 場のスペクトルを精度良く求めることができれば 計算で場のスペクトルを求めれば 直接比較することができる 計算としては 検出器を考慮する必要がないので簡単 レスポンス アンフォールディングの誤差の評価

波高分布の比較 検出器の波高分布での比較 測定値をそのまま使用できるので測定に伴う誤差が小さい アンフォールディングで用いる レスポンス を使って波高分布を出す フォールディング での比較は アンフォールディングに伴う誤差を避けることができる 線源の状況 検出器の情報を考慮して 波高分布を計算できれば 測定現場に対応した比較をすることが可能となる 検出器の詳細な情報 ( 構造 エネルギー分解能等 ) が必要になる 参考になる情報 http://rcwww.kek.jp/research/shield/2004-44.html 計算と測定の間にあるものー X 線 ガンマ線検出器について

まとめ 福島第 1 原子力発電所の事故に伴う放射線は β 線及び γ 線が中心であるので egs5 を活用することができる 測定値との比較における留意点 空気吸収線量以外は 物理量でない 線量 について理解した上で どの様な 量 を比較するのか 実測と対応した 線量 を計算しているかに気をつける必要がある 線量 の測定値は 手法により程度は異なるがかなりの誤差がある

Egs5 を用いた福島事故関連論文 EGS5 による地表に広く分布した 134 Cs 及び 137 Cs の環境における個人線量の評価 RADIOISOTOPES, Vol.62,No.6,335-345(2013) KEK Preprint 2012-43 モンテカルロコード egs5 を用いた地表に広く分布した放射性物質による地表 1m でのガンマ線スペクトルの評価 日本原子力学会誌和文論文誌 Vol. 12. No.3, 223-230(2013) KEK Preprint 2013-5 LaBr 3 検出器の波高分布測定値と egs5 によるプルーム中放射性核種の検出器応答を用いたプルーム中放射性核種濃度の推定 日本原子力学会誌和文論文誌 Vol. 12. No.4, 306-310(2013) KEK Preprint 2013-39 モニタリングポストでの波高分布の時系列変化とプルーム中放射性核種に対する検出器応答を用いた I-131 濃度の推定 日本原子力学会誌和文論文誌 Vol.13, No.3, p.119-126(2014) KEK Preprint 2014-5 原子力学会和文論文誌は J-stage で公開 (https://www.jstage.jst.go.jp/browse/taesj/-char/ja) KEK preprint は KEK 図書室 研究情報から公開 (http://wwwlib.kek.jp/lists/publistall.html)