諮問庁 : 法務大臣諮問日 : 平成 21 年 3 月 10 日 ( 平成 21 年 ( 行情 ) 諮問第 125 号 ) 答申日 : 平成 23 年 2 月 21 日 ( 平成 22 年度 ( 行情 ) 答申第 537 号 ) 事件名 : 司法書士試験の記述式の模範解答及び採点要領の不開示決定 ( 不存在 ) に関する件 答申書 第 1 審査会の結論司法書士試験 ( 以下 試験 という ) の記述式の模範解答及び採点要領 ( 以下, 併せて 本件対象文書 という ) につき, これを保有していないとして不開示とした決定は, 妥当である 第 2 異議申立人の主張の要旨 1 異議申立ての趣旨行政機関の保有する情報の公開に関する法律 ( 以下 法 という )3 条の規定に基づく本件対象文書の開示請求に対し, 平成 20 年 12 月 9 日付け法務省民二第 3183 号により法務大臣 ( 以下 処分庁 又は 諮問庁 ともいう ) が行った不開示決定 ( 以下 原処分 という ) について, その取消しを求める 2 異議申立ての理由の要旨異議申立人の主張する異議申立ての理由は, 異議申立書によると, おおむね以下のとおりである (1) 不開示の理由が明確でなく, 行政手続法に違反する 不開示とした理由には, 開示請求に係る行政文書は作成又は取得しておらず保有していないため とあるが, 作成していないのか取得していないのか明確でない (2) 開示請求に係る文書は, 司法書士試験委員 ( 以下 試験委員 という ) が保有するはずである 仮に, 当該文書が存在しない場合, 画一的な試験採点運営ができるはずがない 模試解答若しくはメモ, 覚書などが必ず存在するはずである 採点要領についても同様に, 採点の仕方等を記載した文書が存在するはずである 仮に存在しないとすれば, 公正な試験運営は不可能である (3) 異議申立人の開示請求の真意は, 模範解答 採点要領そのもの若しくは, それに類するもの である 開示請求の文言から付帯するものとして, 類する文書は当然に含まれると解されるべきである 模範解答及び採点要領は存在しないがそれに類する文書が存在する場合, その点に - 1 -
ついての意思確認と教示がなかった 第 3 諮問庁の説明の要旨諮問庁の説明は, 理由説明書によると, おおむね以下のとおりである 1 司法書士試験の概要について試験は, 司法書士となるのに必要な知識及び能力を有するかどうかを判定することを目的として, 司法書士法 6 条 2 項に規定する事項について筆記及び口述の方法によって行われる 筆記試験は, 毎年 7 月上旬に行われ, 午前の部は多肢択一式問題 ( 第 1 問から第 35 問 ), 午後の部は多肢択一式問題 ( 第 1 問から第 35 問 ) 及び記述式問題 ( 第 36 問及び第 37 問 ) から構成されている 試験は法務大臣が行うが, 司法書士試験の問題 ( 以下 試験問題 という ) の作成及び採点を行わせるため, 法務省に試験委員が置かれており, 試験を行うについて必要な学識経験のある者のうちから, 試験ごとに任命されている 2 筆記試験における試験問題の作成及び答案の採点に関する具体的な流れについて (1) 試験問題の作成について試験問題を作成する試験委員は,1 月上旬から3 月上旬にかけて数回程度, 法務省に集まり, その協議によって試験問題を作成している 作成の過程において, 法務省が行政文書として記述式試験の模範解答や採点要領を作成する必要はなく, 当該文書を保有していなくても全く支障はない なお, 検討の過程において試験委員が備忘的に作成したメモ等については, 法務省は承知していない (2) 答案の採点について答案の採点は,7 月上旬に筆記試験が終了した後,9 月末の筆記試験の合格者発表までの間に行っているが, 多肢択一式の答案は電算処理によって採点し, 記述式の答案は, 第 36 問又は第 37 問の問題ごとに, 試験問題を作成した複数の試験委員が併せて採点も行っている 記述式の採点に当たっては, 試験問題の作成に携わった試験委員が自己の専門知見に基づいて, 必要に応じて, 採点の過程において相互に密接に連絡を取り合うなど, 公平性及び妥当性を確保しつつ, 各試験委員が試験問題の作成から採点まで通して行っているこ - 2 -
とから, 法務省において, 行政文書として模範解答や採点要領を作成する必要はない なお, 採点の過程において, 試験委員が備忘的に作成したメモ等については, 法務省は承知していない 3 本件対象文書の存否について試験に関する事務は, 上記 1 及び2のとおりである したがって, 異議申立人が請求する試験の記述式の模範解答及び採点要領は, 法務省として行政文書として保有しておらず, また, 特に保有しなくても事務に支障は生じない 第 4 調査審議の経過当審査会は, 本件諮問事件について, 以下のとおり, 調査審議を行った 1 平成 21 年 3 月 10 日諮問の受理 2 同日諮問庁から理由説明書を収受 3 同年 10 月 8 日審議 4 平成 22 年 6 月 8 日諮問庁の職員 ( 法務省民事局民事第二課長ほか ) からの口頭説明の聴取 5 平成 23 年 1 月 13 日審議 6 同年 2 月 17 日審議第 5 審査会の判断の理由 1 本件対象文書について諮問庁は, 試験問題は, 試験委員が作成し, 採点するため, 法務省が本件対象文書を特に保有していなくても, 試験の運用に支障が生じることはなく, 現に保有していないと説明する これに対し, 異議申立人は, 画一的な試験採点運営のため, 法務省が当該文書を保有しているはずであると主張していることから, 当該文書の保有の有無について, 諮問庁の職員からの口頭説明の聴取結果を踏まえ, 以下, 検討する 2 本件対象文書の保有の有無について (1) 諮問庁は, 試験に関して, 理由説明書において, 次のとおり説明する 法務大臣が任命した各試験委員の協議により試験問題を作成し, その採点は, 当該委員相互において, 必要に応じ, 密接に連絡を取り合うなどして行われており, 各試験委員は, 試験問題の作成から採点までの過程を一貫して行っている (2) 試験問題の作成及び採点に関する詳細な手続について, 口頭説明において確認したところ, 諮問庁は, 次のとおり説明する 平成 20 年度の問題案の作成作業において, 問題案とともに解答案を提示した試験委員がいたが, 当該解答案は, 問題を検討するための資料 - 3 -
にすぎなかった また, 当該年度の不動産登記の問題の採点において, 試験委員のうち一人が採点メモを作成し, 当該委員の依頼を受けた試験事務担当職員が, 不動産登記に係る問題の採点を担当する各試験委員に対して, 当該委員数分のみ複写して配布した (3) さらに, 当審査会事務局職員をして, 諮問庁に対し, 平成 20 年度の採点を担当した試験委員に任命された者のうち, 同 23 年度の試験委員に引き続き任命された者に確認するよう求めたところ, 解答案については, 問題の適切さを検討するために用いたものであり, 問題案の作成に当たり行った試験委員間の打合せにおいて問題案は修正されたため, 当該解答案は, 当該問題案の解答案ではなくなったので, 打合せ終了時に廃棄しているとのことであった また, 不動産登記に係る答案の採点については, 各試験委員において答案の一部を採点し, その後, 各試験委員間で採点に関しての打合せを行っており, 採点メモは, 試験委員の一人が当該打合わせを行う以前に作成した個人的なメモであり, 当該打合せ後は参照の用がなくなり, メモを保持する必要もなくなったことと, 秘密保持の観点から, 打合せ後に廃棄したとのことであった (4) この点について検討すると, 解答案については, これと同時に提示された問題案が修正されたことにより, 当該問題案の解答案でなくなったため, 廃棄したとの諮問庁の説明は, 特段不自然 不合理であるとは認められない また, 採点メモについては, 当該採点メモの送付を受けた各試験委員が, 不動産登記に係る試験問題の答案の採点に当たり, これを参考としたか, あるいは, 採点に関して行った各試験委員間の打合せにおいて, 各試験委員共通の認識となったか否かについては定かではないとしても, 当該メモは, 当該各試験委員間で一時であっても採点という行政事務の参考に資するため共有していたものであると認められる以上, 諮問庁の認識とは異なり, 組織共用性がある文書と言え, 行政文書であると認められる しかし, 当該メモは, 参照の用がなくなったこと及び秘密保持の観点から, 打合せ後に廃棄したとの諮問庁の説明は, 特段不自然 不合理であるとは認められない さらに, 当審査会事務局職員をして, 諮問庁に対し, 当該文書の探索について確認させたところ, 本件対象文書について, 書庫, 執務室等の試験に関するつづりを探索したが, 該当する文書は発見できなかったとのことであった 以上を踏まえると, 法務省において, 本件対象文書を保有していると - 4 -
は認められない 3 異議申立人のその他の主張について異議申立人は, その他種々主張するが, いずれも当審査会の上記判断を左右するものではない 4 本件不開示決定の妥当性について以上のことから, 本件対象文書につき, これを保有していないとして不開示とした決定については, 法務省において, 本件対象文書を保有しているとは認められず, 妥当であると判断した ( 第 4 部会 ) 委員西田美昭, 委員園マリ, 委員藤原静雄 - 5 -