営業活動によるキャッシュ フロー の区分には 税引前当期純利益 減価償却費などの非資金損益項目 有価証券売却損益などの投資活動や財務活動の区分に含まれる損益項目 営業活動に係る資産 負債の増減 利息および配当金の受取額等が表示されます この中で 小計欄 ( 1) の上と下で性質が異なる取引が表示され

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連結貸借対照表 ( 単位 : 百万円 ) 当連結会計年度 ( 平成 29 年 3 月 31 日 ) 資産の部 流動資産 現金及び預金 7,156 受取手形及び売掛金 11,478 商品及び製品 49,208 仕掛品 590 原材料及び貯蔵品 1,329 繰延税金資産 4,270 その他 8,476

科目 期別 損益計算書 平成 29 年 3 月期自平成 28 年 4 月 1 日至平成 29 年 3 月 31 日 平成 30 年 3 月期自平成 29 年 4 月 1 日至平成 30 年 3 月 31 日 ( 単位 : 百万円 ) 営業収益 35,918 39,599 収入保証料 35,765 3

<4D F736F F D2095BD90AC E31328C8E8AFA8C888E5A925A904D C8E86816A2E646F63>

NO 連結精算表科目 & 連結開示 前連結会計 当連結会計 増減差額 科目 借 年度 年度 借方 方 連結借対照表 千円 千円 千円 千円 開 38 社債 20,000,000 5,000,000 開 39 長期借入金 16,500,000 16,071,500 開 40 リース債務 632,000

Microsoft Word 決算短信修正( ) - 反映.doc

平成 29 年度連結計算書類 計算書類 ( 平成 29 年 4 月 1 日から平成 30 年 3 月 31 日まで ) 連結計算書類 連結財政状態計算書 53 連結損益計算書 54 連結包括利益計算書 ( ご参考 ) 55 連結持分変動計算書 56 計算書類 貸借対照表 57 損益計算書 58 株主

第1章 財務諸表

Microsoft Word - 訂正短信提出2303.docx

キャッシュ・フロー計算書.docx

平成31年3月期 第2四半期決算短信〔日本基準〕(非連結)

第 16 回ビジネス会計検定試験より抜粋 ( 平成 27 年 3 月 8 日施行 ) 次の< 資料 1>から< 資料 5>により 問 1 から 問 11 の設問に答えなさい 分析にあたって 連結貸借対照表数値 従業員数 発行済株式数および株価は期末の数値を用いることとし 純資産を自己資本とみなす は

計算書類等

<92F990B3925A904D5F91E636348AFA91E6318E6C94BC8AFA>

参考 企業会計基準第 25 号 ( 平成 22 年 6 月 ) からの改正点 平成 24 年 6 月 29 日 企業会計基準第 25 号 包括利益の表示に関する会計基準 の設例 企業会計基準第 25 号 包括利益の表示に関する会計基準 ( 平成 22 年 6 月 30 日 ) の設例を次のように改正

<4D F736F F D F816992F990B C B835E92F990B3816A E31328C8E8AFA208C888E5A925A904D816B93F

highlight.xls

3. その他 (1) 期中における重要な子会社の異動 ( 連結範囲の変更を伴う特定子会社の異動 ) 無 (2) 会計方針の変更 会計上の見積りの変更 修正再表示 1 会計基準等の改正に伴う会計方針の変更 無 2 1 以外の会計方針の変更 無 3 会計上の見積りの変更 無 4 修正再表示 無 (3)

(2) 財政状態 ( 連結 ) の変動状況総資産 株主資本 株主資本比率 1 株当たり株主資本 百万円 百万円 % 円 銭 18 年 6 月期第 1 四半期 27,832 10, , 年 6 月期第 1 四半期 17 年 6 月期 27,515 11,159 40

(2) 財政状態 ( 連結 ) の変動状況 総資産純資産自己資本比率 1 株当たり純資産 百万円 百万円 % 円 銭 19 年 12 月期第 1 四半期 8,992 5, 年 12 月期第 1 四半期 8,740 5, 年 12

リコーグループサステナビリティレポート p

(2) 財政状態 ( 連結 ) の変動状況総資産 株主資本 株主資本比率 1 株当たり株主資本 百万円 百万円 % 円 銭 18 年 6 月期第 3 四半期 28,677 11, , 年 6 月期第 3 四半期 17 年 6 月期 27,515 11,159 40

(訂正・数値データ訂正)「平成25年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結)」の一部訂正について

前連結会計年度 ( 平成 29 年 12 月 31 日 ) 当第 2 四半期連結会計期間 ( 平成 30 年 6 月 30 日 ) 負債の部流動負債支払手形及び買掛金 8,279 8,716 電子記録債務 9,221 8,128 短期借入金 未払金 24,446 19,443 リース

キャッシュフロー計算書の作成

(2) サマリー情報 1 ページ 1. 平成 29 年 3 月期の連結業績 ( 平成 28 年 4 月 1 日 ~ 平成 29 年 3 月 31 日 ) (2) 連結財政状態 訂正前 総資産 純資産 自己資本比率 1 株当たり純資産 百万円 百万円 % 円銭 29 年 3 月期 2,699 1,23

 資 料 2 

平成30年公認会計士試験

企業結合ステップ2に関連するJICPA実務指針等の改正について⑦・連結税効果実務指針(その2)

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日本基準基礎講座 資本会計

精算表 精算表とは 決算日に 総勘定元帳から各勘定の残高を集計した上で それらに修正すべき処理 ( 決算整理仕訳 ) の内 容を記入し 確定した各勘定の金額を貸借対照表と損益計算書の欄に移していく一覧表です 期末商品棚卸高 20 円 現金 繰越商品 資本金 2

第 151 回日商簿記 2 級解答解説 第 1 問 実教出版株式会社 解答 仕 訳 借方科目金額貸方科目金額 現 金 8,500,000 車両減価償却累計額 760,000 1 商 品 6,100,000 本 店 17,640,000 車 両 3,800,000 2 その他有価証券 2,000,00

第10期

包括利益の表示に関する会計基準第 1 回 : 包括利益の定義 目的 ( 更新 ) 新日本有限責任監査法人公認会計士七海健太郎 1. はじめに企業会計基準第 25 号 包括利益の表示に関する会計基準 ( 以下 会計基準 ) が平成 22 年 6 月 30 日に


第4期電子公告(東京)

(3) 連結キャッシュ フローの状況 営業活動によるキャッシュ フロー 投資活動によるキャッシュ フロー 財務活動によるキャッシュ フロー 現金及び現金同等物期末残高 百万円 百万円 百万円 百万円 27 年 3 月期 495 2,552 5,252 5, 年 3 月期 2,529 71

野村アセットマネジメント株式会社 平成30年3月期 個別財務諸表の概要 (PDF)

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注記事項 (1) 期中における重要な子会社の異動 ( 連結範囲の変更を伴う特定子会社の異動 ) 無 (2) 会計方針の変更 会計上の見積りの変更 修正再表示 1 会計基準等の改正に伴う会計方針の変更 無 2 1 以外の会計方針の変更 無 3 会計上の見積りの変更 無 4 修正再表示 無 (3) 発行

添付資料の目次 1. 連結財務諸表 2 (1) 連結貸借対照表 2 (2) 連結損益計算書及び連結包括利益計算書 4 (3) 連結財務諸表に関する注記事項 6 ( セグメント情報等 ) 6 2. 個別財務諸表 7 (1) 個別貸借対照表 7 (2) 個別損益計算書

1. 国際財務報告基準に準拠した財務諸表 ( 抜粋 翻訳 ) 国際財務報告基準に準拠した財務諸表の作成方法について当行の国際財務報告基準に準拠した財務諸表 ( 以下 IFRS 財務諸表 という ) は 平成 27 年 3 月末時点で国際会計基準審議会 (IAS B) が公表している基準及び解釈指針に

計算書類等

Taro-class3(for.st).jtd

野村アセットマネジメント株式会社 2019年3月期 個別財務諸表の概要 (PDF)

2. 配当の状況 1 株当たり配当金 ( 基準日 ) 第 3 四半期末 円 銭 19 年 3 月期第 3 四半期 年 3 月期第 3 四半期 平成 20 年 3 月期の連結業績予想 ( 平成 19 年 4 月 1 日 ~ 平成 20 年 3 月 31 日 ) 参考 (%

Microsoft Word - 決箊喬å‚−表紎_18年度(第26æœ�ï¼›

平成26年度 第138回 日商簿記検定 1級 会計学 解説

営業活動によるキャッシュ フロー 投資活動によるキャッシュ フロー 財務活動によるキャッシュ フロー 現金及び現金同等物期末残高 百万円 百万円 百万円 百万円 28 年 3 月期 12,634 11,407 4,547 34, 年 3 月期 14, ,391 38,41


-2-

営 業 報 告 書

添付資料の目次 株式会社錢高組 (1811) 平成 31 年 3 月期第 2 四半期決算短信 1. 当四半期決算に関する定性的情報 2 (1) 経営成績に関する説明 2 (2) 財政状態に関する説明 2 (3) 連結業績予想などの将来予測情報に関する説明 2 2. 四半期連結財務諸表及び主な注記 3

第 4 経理の状況 1. 四半期連結財務諸表の作成方法について 当社の四半期連結財務諸表は 四半期連結財務諸表の用語 様式及び作成方法に関する規則 ( 平成 19 年内閣府令 第 64 号 ) に基づいて作成しております 2. 監査証明について当社は 金融商品取引法第 193 条の2 第 1 項の規

リリース

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第4期 決算報告書

連結会計入門 ( 第 6 版 ) 練習問題解答 解説 練習問題 1 解答 解説 (129 頁 ) ( 解説 ) S 社株式の取得に係るP 社の個別上の処理は次のとおりである 第 1 回取得 ( 平成 1 年 3 月 31 日 ) ( 借 )S 社株式 48,000 ( 貸 ) 現預金 48,000

添付資料の目次 1. 連結財務諸表 2 (1) 連結貸借対照表 2 (2) 連結損益計算書及び連結包括利益計算書 4 (3) 連結財務諸表に関する注記事項 6 ( セグメント情報等 ) 6 2. 個別財務諸表 7 (1) 個別貸借対照表 7 (2) 個別損益計算書

営 業 報 告 書

財剎諸表 (1).xlsx

Microsoft Word 【公表】HP_T-BS・PL-H30年度

2019 年 3 月期 第 2 四半期決算短信 日本基準 ( 連結 ) 2018 年 10 月 30 日 上場会社名 日本冶金工業株式会社 上場取引所 東 コード番号 5480 URL 代 表 者 ( 役職名 ) 代表取締役社長 ( 氏名 ) 木村 始 問合

計算書類 貸借対照表 ( 平成 31 年 3 月 31 日現在 ) ( 単位 : 百万円 ) 科 目 金 額 科 目 金 額 ( 資産の部 ) ( 負債の部 ) 流動資産 17,707 流動負債 10,207 現金及び預金 690 電子記録債務 2,224 受取手形 307 買掛金 4,934 電子

2018年12月期.xls

営業報告書

(訂正・数値データ訂正)「平成30年4月期 決算短信〔日本基準〕(連結)」の一部訂正について

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第 3 期決算公告 (2018 年 6 月 29 日開示 ) 東京都江東区木場一丁目 5 番 65 号 りそなアセットマネジメント株式会社 代表取締役西岡明彦 貸借対照表 (2018 年 3 月 31 日現在 ) 科目金額科目金額 ( 単位 : 円 ) 資産の部 流動資産 負債の部 流動負債 預金

(訂正・数値データ修正)「平成29年5月期 決算短信〔日本基準〕(連結)」の一部訂正について


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第 32 期 計算書類 自 至 2018 年 4 月 1 日 2019 年 3 月 31 日 株式会社 NHK グローバルメディアサービス

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新規文書1

株式会社ポーラ・オルビスホールディングス




前期に販売した商品を当期に修理する場合 前期末に設定した商品保証引当金を取り崩 す つまり借方に商品保証引当金を 50,000 計上する 差額の 30,000 は商品保証費とする (3) 資本金 資本準備金の問題当座預金に払い込まれた金額は次のように計算される 2,000 株 4,000 = 8,0

平成 31 年 3 月期第 3 四半期決算短信 日本基準 ( 連結 ) 平成 31 年 2 月 8 日 上場会社名 不二硝子株式会社 上場取引所 東 コード番号 5212 URLhttp:// 代表者 ( 役職名 ) 代表取締役社長 ( 氏名 ) 小熊 信一 問合

平成○年○月期 第○四半期財務・業績の概況(連結)

第111期TOYOTAレポート

2. 配当の状況当社は 四半期末を基準日とした配当を行っておりません 配当予想に関しましては 平成 19 年 5 月 8 日に公表しました平成 20 年 3 月期の配当予想を変更しておりません 1 株当たり配当金 ( 基準日 ) 中間期末期末年間 円銭円銭円銭 19 年 3 月期

<4D F736F F D CA8E A81798DC58F4988C481458C888E5A8FB A814091E632358AFA8E968BC695F18D9082A882E682D18C768E5A8


第21期(2019年3月期) 決算公告

山口フィナンシャルグループ:IR資料室>平成30年3月期(平成29年度)>平成30年3月期決算短信

第101期(平成15年度)中間決算の概要



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第 36 期決算公告 浜松市中区常盤町 静岡エフエム放送株式会社代表取締役社長上野豊 貸借対照表 ( 平成 30 年 3 月 31 日現在 ) ( 単位 : 千円 ) 資産の部 負債の部 Ⅰ. 流 動 資 産 909,595 Ⅰ. 流 動 負 債 208,875 現金及び預金 508,

6. 個別中間財務諸表等 株式会社キョーリン (1) 中間貸借対照表当社はより中間財務諸表を作成しているため 前中間会計期間末は記載しておりません 末 ( 平成 18 年 9 月 30 日 ) の要約貸借対照表 ( 平成 18 年 3 月 31 日 ) 区分 注記番号 構成比 構成比 ( 資産の部

[ 第 3 四半期の財政状態 ( 連結 ) の変動状況に関する定性的情報等 ] 1 財政状態の変動状況当期より連結財務諸表を作成しており 当第 3 四半期末における総資産は5,065 百万円 株主資本は3,676 百万円 株主資本比率は72.6% となっております 2キャッシュ フローの状況 ( 営

Ⅱ. 資金の範囲 (1) 内訳 Ⅰ. 総論の表のとおりです 資 金 現 金 現金同等物 手許現金 要求払預金 しかし これはあくまで会計基準 財務諸表規則等に記載されているものであるため 問題文で別途指示があった場合はそれに従ってください 何も書かれていなければ この表に従って範囲を分けてください

Transcription:

設例で解説 キャッシュ フロー計算書 第 1 回 : 営業活動によるキャッシュ フロー (1) 2015.11.18 新日本有限責任監査法人公認会計士山岸正典 新日本有限責任監査法人公認会計士七海健太郎 1. はじめにこれから 4 回にわたり キャッシュ フロー計算書について設例を使って解説していきます キャッシュ フロー計算書は そのキャッシュ フローを生み出した企業活動の性格によって 営業活動によるキャッシュ フロー 投資活動によるキャッシュ フロー 財務活動によるキャッシュ フローの 3 つの区分に分かれています 第 1 回と第 2 回は まず営業活動によるキャッシュ フローの区分を対象としますが 第 1 回は営業活動によるキャッシュ フローの区分の中でも 小計 欄より上の項目について解説します なお キャッシュ フロー計算書の表示方法には 直接法と間接法がありますが 本シリーズは実務で多く採用されている間接法を使って解説します 直接法と間接法 直接法 : 商品の販売や仕入 給料の支払い 経費の支払いなどの主要な取引ごとにキャッシュ フローを総額表示する方法です 間接法 : 税引前当期純利益に減価償却費などの非資金損益項目 有価証券売却益などの投資活動や財務活動の区分に含まれる損益項目を加減して表示する方法です 2. 営業活動によるキャッシュ フローの意義 1

営業活動によるキャッシュ フロー の区分には 税引前当期純利益 減価償却費などの非資金損益項目 有価証券売却損益などの投資活動や財務活動の区分に含まれる損益項目 営業活動に係る資産 負債の増減 利息および配当金の受取額等が表示されます この中で 小計欄 ( 1) の上と下で性質が異なる取引が表示されている点に留意が必要です 小計欄の上では 商品の販売による収入や商品の仕入による支出など営業損益計算の対象となった取引等が記載され 表示方法として間接法を採用している場合 営業活動に係る資産 負債の増減の調整等を通じて利益と企業の本業に係るキャッシュ フローとの関係が明示されます 一方 小計欄 ( 1) より下では 利息や配当の受け取り 利息の支払い 法人税等の支払い等 営業損益計算の対象にならない項目で 投資活動および財務活動以外の取引によるキャッシュ フローが記載されます 利息および配当金の表示方法利息および配当金に係るキャッシュ フローについては 受取利息 受取配当金および支払利息は 営業活動によるキャッシュ フロー の区分に記載し 支払配当金は 財務活動によるキャッシュ フロー の区分に記載する方法 ( 第 1 法 ) と受取利息および受取配当金は 投資活動によるキャッシュ フロー の区分に記載し 支払利息および支払配当金は 財務活動によるキャッシュ フロー の区分に記載する方法 ( 第 2 法 ) が認められていますが ( 連結キャッシュ フロー計算書等の作成に関する実務指針 11 項 ) ここでは第 1 法を採用していることを前提としています ( 第 2 回で解説 ) 3. 営業活動に係る資産 負債の増減の設例による解説ここから 営業活動によるキャッシュ フロー 区分での主な項目について T 字勘定や精算表を使って解説していきます まず 営業活動に係る資産 負債の増減について解説します 設例 1 ( 前提条件 ) 2

損益計算書には 営業損益の対象となる商品の販売取引や商品の仕入取引に係る損益 ( 例えば 売上高や売上原価 ) が含まれていますが 例えば 当期の売上高のうち期末の売掛金残高については キャッシュとして回収されていません このため 損益計算書をスタートとしてキャッシュベースの営業成果を表示するためには 営業損益計算の計算対象となる資産 負債 ( 売掛金 買掛金 たな卸資産等 ) を調整することによって 利益をキャッシュベースの金額に調整する必要があります 2 損益計算書での営業活動の成果として売上総利益 2,000 となっていますが キャッシュベースの金額は 2,500( 売掛金回収 8,000- 買掛金支払 5,500) ですので キャッシュ フロー計算書上では 営業活動に関連する資産 負債の増減を計上して +500( 3) の調整を行います 3 +500 の具体的な算出方法としては まず売掛金残高の増加 2,000 は未回収額の増加を意味するために キャッシュのマイナス調整を行います 同様の調整をたな卸資産 (+1,000) と買掛金 (+1,500) についても行うことで 利益をキャッシュ ベースの金額に調整します 3

( 仕訳イメージ ) < 売掛金の増減 > < たな卸資産の増減 > < 買掛金の増減 > 4. 非資金損益項目 投資財務損益の設例による解説 設例 2 ( 前提条件 ) 1 有価証券期首残高 :1,000 取得:500 売却簿価:1,000( 売却価額 1,200) 期末残高:500 2 有形固定資産期首残高 :3,000 取得:2,000 減価償却費:500 売却簿価:1,000( 売却価額 :500) 期末残高:3,500 3 有価証券の取得と売却については 既に代金精算済みとなっている 4 有形固定資産の取得と売却については 既に代金精算済みとなっている 4

損益計算書には 減価償却費のようなキャッシュの変動を伴わない項目 ( 以下 非資金損益項目 ) が含まれています 税引前当期純利益に含まれているこのような非資金損益項目を除外することで 税引前当期純利益をキャッシュベースの金額に調整します また 損益計算書には 有価証券売却益や社債発行費のような投資活動や財務活動の区分に含まれる損益項目も含まれています 例えば 有価証券の売買は投資活動に該当するため 有価証券に関するキャッシュ フローは投資活動によるキャッシュ フローに記載することになりますし 社債の発行は財務活動に該当するため 社債の発行に関するキャッシュ フローは財務活動によるキャッシュ フローに記載することになります このため 投資活動や財務活動の区分に含まれる損益項目を収益項目はマイナス 費用項目はプラスとして調整することによって 税引前当期純利益を営業キャッシュ フローに調整します 1 損益計算書に計上されている減価償却費 500 を 営業活動によるキャッシュ フロー 区分にプラスすることで 税引前当期純利益をキャッシュベースの金額に修正します 2,3 投資活動により発生した損益項目である有価証券売却益 200 と有形固定資産売却損 500 が税引前当期純利益に含まれているため 営業活動によるキャッシュ フロー 区分にプラス マイナスすることで その影響を営業キャッシュ フローから除外しています ここで調整された有価証券売却益と有形固定資産売却損は 投資活動によるキャッシュ フローにおいて 有価証券の売却による収入 と 有形固定資産の売却による収入 に含めて記載されることになります ( 第 3 回で解説 ) 5

( 仕訳イメージ ) < 有価証券の売却 > < 減価償却費 > < 有形固定資産の売却 > 6

設例で解説 キャッシュ フロー計算書 第 2 回 : 営業活動によるキャッシュ フロー (2) 2015.11.19 新日本有限責任監査法人公認会計士山岸正典 新日本有限責任監査法人公認会計士七海健太郎 1. はじめに 第 1 回営業活動によるキャッシュ フロー (1) では 営業活動によるキャッシュ フローの区分の中でも 小計 欄よりも上の項目について解説しましたが 第 2 回は 小計 欄よりも下の項目を対象に 設例を使って解説していきます 2. 法人税等の表示区分 設例 3 ( 前提条件 ) 1 未払法人税等期首残高 :500 当期計上額 :800 当期支払額 :1000 期末残高 300 7

法人税等は 営業活動によるキャッシュ フロー 区分の小計欄の下に記載します 営業活動によるキャッシュ フロー の小計欄は 営業活動によるキャッシュ フロー のうち 営業損益計算の対象となった取引に係るキャッシュ フローの合計額を意味します そのため 営業損益計算の対象ではなく かつ 投資活動および財務活動以外の取引によるキャッシュ フローである法人税等は 営業活動によるキャッシュ フロー 区分の小計欄の下に記載します 法人税等は事業年度終了後に提出する税務申告により金額が確定することになるため 当期に発生した法人税等の支払いは 中間納付分を除いて翌期に行われることとなります 損益計算書では その期に発生した法人税等が計上される一方で キャッシュ フロー計算書ではその期に実際に支払われた法人税等が計上されるため 損益計算書とキャッシュ フロー計算書では計上される金額が異なることになります なお 損益計算書およびキャッシュ フロー計算書上の法人税等には利益に連動する税金のみが計上されますので 利益に連動しない事業税の外形標準課税部分 ( 付加価値割 資本割 ) の支払額は含まれません 従って 未払法人税等に含まれている外形標準課税部分については キャッシュ フロー計算書上の法人税等の算出に際しては控除することに留意が必要です 1 間接法は税引前当期純利益からスタートするため 損益計算書に計上されている法人税等 800 を小計欄より上で調整する必要はありません 2 小計欄の下では実際にその期に支払われた法人税等 1,000 を計上します 損益計算書上の法人税等をキャッシュ フロー計算書上の金額に修正する具体的な調整方法としては 損益計算書に計上されている法人税等 800( 1) に 未払法人税等の期首残高 (+500) と期末残高 ( 300) の調整を行って 法人税等の支払額 1,000(800+500-300) を算定します ( 仕訳イメージ ) < 法人税等の支払 > 3. 利息および配当金の表示区分 設例 4 ( 前提条件 ) 8

利息および配当金の表示方法については 受取利息 受取配当金および支払利息は 営業活動によるキャッシュ フロー の区分に記載し 支払配当金は 財務活動によるキャッシュ フロー の区分に記載する方法 ( 第 1 法 ) と 受取利息および受取配当金は 投資活動によるキャッシュ フロー の区分に記載し 支払利息および支払配当金は 財務活動によるキャッシュ フロー の区分に記載する方法 ( 第 2 法 ) が認められています ( 連結財務諸表等におけるキャッシュ フロー計算書の作成に関する実務指針第 11 項 ) 第 1 法は損益計算書に計上される受取利息 受取配当金および支払利息を 営業活動によるキャッシュ フロー の区分に記載し 損益計算書に計上されない利益処分項目である支払配当金を 財務活動によるキャッシュ フロー の区分に記載する考え方です 一方 第 2 法は投資活動の成果である受取利息および受取配当金を 投資活動によるキャッシュ フロー の区分に記載し 資金調達コストである支払利息および支払配当金を 財務活動によるキャッシュ フロー の区分に記載する考え方です 実務では 第 1 法の方法が一般的となっています 9

営業活動による CF 投資活動による CF 財務活動による CF 区分根拠 第 1 法 受取利息 支払配当金 損益計算書に計上される 受取配当金 か 支払利息 第 2 法 受取利息 受取配当金 支払利息 支払配当金 発生原因となる活動 設例 4 は第 1 法を採用していることを前提としています 1,2 営業損益計算の対象とならない 受取利息 と 支払利息 を 営業活動によるキャッシュ フロー 区分の小計欄から除外するため 受取利息 200 をマイナス 支払利息 50 をプラスします 3,4 営業活動によるキャッシュ フロー 区分の小計欄の下に 損益計算書に計上されている受取利息 200 と支払利息 50 にそれぞれ経過勘定を調整したうえで 利息および配当金の受取額 250(250=200+100-150) と利息の支払額 60(60=50+30-20) を計上します ( 仕訳イメージ ) < 利息の受け取り > < 利息の支払い > 10

設例で解説 キャッシュ フロー計算書 第 3 回 : 投資活動によるキャッシュ フロー 2015.12.07 新日本有限責任監査法人公認会計士山岸正典 新日本有限責任監査法人公認会計士七海健太郎 1. はじめに第 1 回と第 2 回は営業活動によるキャッシュ フローについて解説しましたが 第 3 回投資活動によるキャッシュ フロー では 投資活動によるキャッシュ フローについて 設例を使って解説していきます 2. 投資活動によるキャッシュ フローの意義 投資活動によるキャッシュ フローには 固定資産の取得および売却 有価証券の取得および売却 貸し付けの実行および回収などの投資活動に関係するキャッシュ フローの情報が記載されます さらに 現金同等物に含まれない定期預金の預入 払戻も投資活動よるキャッシュ フローに含まれます 投資活動によるキャッシュ フローは 企業が将来の利益獲得および資金運用のために設備投資や他企業に対する投資により どれほどキャッシュを支出したか 固定資産や有価証券の売却等によってどれほどキャッシュを回収したかを示す情報です 経常的に設備 ( 更新 ) 投資を行っている場合 投資活動による正味のキャッシュ フローはマイナスとなる傾向にあります 3. 有形固定資産の取得と売却 除却があった場合の設例 11

設例 5 ( 前提条件 ) 1 有形固定資産期首残高 :3,000 取得:2,000 減価償却費:500 売却簿価 :1,000( 売却価額 :500) 期末残高:3,500 2 有形固定資産の取得に係る未払金期首残高 :200 当期発生:2,000 当期支払 :1,500 期末残高:700 有形固定資産を取得および売却した場合 投資活動によるキャッシュ フロー の区分において それ ぞれ 有形固定資産の取得による支出 および 有形固定資産の売却による収入 等の科目によって 12

表示します また 有形固定資産の売却に伴い発生する損益は 営業損益計算の対象にならない投資活動による損益なので 営業活動によるキャッシュ フロー の区分において調整が必要になります さらに 有形固定資産の取得および売却にかかる未払金および未収入金がある場合 有形固定資産の取得による支出 および 有形固定資産の売却による収入 の算定にあたって 未払金および未収入金の期首残高と期末残高の調整が必要になります 1,3 有形固定資産の取得については 取得代金の決済が未了の場合は未払金の調整が必要となるため 有形固定資産の取得価額 2,000 に 取得に係る未払金の期首残高 (+200) と期末残高 ( 700) の調整を行って 有形固定資産の取得による支払額 1,500(2,000+200-700) を算定します 2 投資活動による損益である有形固定資産売却損 500 を 営業活動によるキャッシュ フロー の区分においてプラスします 第 1 回 設例 2 参照 4 有形固定資産の売却価額である500 を有形固定資産の売却による収入 500 として記載します ( 仕訳イメージ ) < 有形固定資産の取得 > < 有形固定資産の売却 > 4. 有価証券の取得と売却があった場合の設例 設例 6 ( 前提条件 ) 13

1 有価証券期首残高 :1,300 前期時価評価洗替:300 取得:500 売却簿価 :1,000( 売却価額 1,200) 期末残高:650 2その他有価証券評価差額金 ( 税効果は考慮しない ) 期首残高 :300 期首洗替:300 当期時価評価:150 期末残高:150 3 有価証券の取得と売却については 既に代金精算済みとなっている 有価証券を取得および売却した場合 投資活動によるキャッシュ フロー の区分において それぞれ 有価証券の取得による支出 および 有価証券の売却による収入 等の科目によって表示します また 有価証券の売却に伴い発生する損益は 営業損益計算の対象にならない投資活動に関する損益なので 営業活動によるキャッシュ フロー の区分において調整が必要になります さらに 時価のある有価証券を その他有価証券 として保有している場合 期末に時価評価を行う必要がありますが 時価評価による有価証券の増減はキャッシュ フローを伴わないため 有価証券の取得による支出 および 有価証券の売却による収入 の算定にあたって調整が必要になります 1 まず 投資活動による損益である有価証券売却益 200 を 営業活動によるキャッシュ フロー の区分においてマイナスします 第 1 回 設例 2 参照 2 有価証券の取得については 取得価額である500 を有価証券の取得による支出としてキャッシュ フロー計算書に記載します なお キャッシュ フロー精算表上では 有価証券の増加額 650 につ 14

いて キャッシュ フローを伴わない時価評価による増加額 150 を控除することで 有価証券の取得による支出 は取得価額 500 になります 3 有価証券の売却価額である 1,200 を有価証券の売却による収入 1,200 として記載します なお キャッシュ フロー精算表上では 有価証券の減少額 1,300 について キャッシュ フローを伴わない前期に計上した評価差額の振戻額 300 を控除したうえで 有価証券売却益 200 をプラスすることで 有価証券の売却による収入 は 1,200 になります ( 仕訳イメージ ) < 有価証券の売却 > < 有価証券の取得 > 15

設例で解説 キャッシュ フロー計算書 第 4 回 : 財務活動によるキャッシュ フロー 2015.12.08 新日本有限責任監査法人公認会計士山岸正典 新日本有限責任監査法人公認会計士七海健太郎 1. はじめに 設例で解説 キャッシュ フロー計算書 も今回が最終回となりますが 第 4 回財務活動によるキャッ シュ フロー では 財務活動によるキャッシュ フローについて 設例を使って解説していきます 2. 財務活動によるキャッシュ フローの意義 財務活動によるキャッシュ フローには 資金の調達及び返済によるキャッシュ フローが記載されます 資金の調達には新規の借り入れや借り換え 社債の発行 新株の発行などが含まれ 資金の返済には借り入れの返済や社債の償還 株主への配当金の支払いなどが含まれます 財務活動によるキャッシュ フローは 営業活動及び投資活動を維持するために 資金をどのように調達して 返済したかを示す情報です 例えば 成長過程にある企業が 自己資金以上の投資を積極的に行っている場合 多額の資金調達を行うため 財務活動による正味のキャッシュ フローがプラスになる傾向があります 16

3. 借入金 社債による資金調達と返済に関する設例 設例 7 ( 前提条件 ) 1 長期借入金期首残高 :1,500 当期借入:2,000 当期返済:1,000 期末残高:2,500 2 社債期首残高 :500 当期発行:1,000 当期償還:500 期末残高:1,000 2 未払利息期首残高 :30 当期計上:50 当期支払:60 期末残高:20 17

借入金 社債により資金調達を行った場合 財務活動によるキャッシュ フロー の区分において それぞれ ( 長期 短期 ) 借入による収入 および 社債の発行による収入 等の科目によって表示します 借入金 社債に係る利息についても 第 1 法を採用している場合 ( 第 2 回 設例 4 参照) 営業活動によるキャッシュ フロー の区分において 利息の支払額 の科目によって表示します なお 社債発行費等に重要性がある場合は 資金調達額から社債発行費等を控除した実質手取額で表示します 社債発行費等に重要性がない場合は それぞれのキャッシュ フローを総額で表示することもできます ( 連結財務諸表等におけるキャッシュ フロー計算書の作成に関する実務指針第 40 項 ) 1,3 長期借入金 社債による資金調達額を 財務活動によるキャッシュ フロー の区分において それぞれ長期借入による収入 2,000 および社債の発行による収入 1,000 として記載します 2,4 長期借入金の返済額と社債の償還額を 財務活動によるキャッシュ フロー の区分において それぞれ長期借入金の返済による支出 1,000 および社債の償還による支出 500 として記載します 5,6 財務活動に関する費用である長期借入金 社債に係る利息が発生しているため 損益計算書に計上されている支払利息 50 を 営業活動によるキャッシュ フロー の区分においてプラスするとともに 18

未払利息の調整を行ったうえで 実際の支払額を 営業活動によるキャッシュ フロー 区分の小計欄 の下に利息の支払額 60(50+30-20) として記載します 第 2 回 設例 4 参照 ( 仕訳イメージ ) < 長期借入 > < 長期借入金の返済 > < 社債の発行 > < 社債の償還 > < 支払利息 > 4. 株式の発行による資金調達と自己株式の取得と処分に関する設例 設例 8 ( 前提条件 ) 1 資本金期首残高 :3,000 株式発行:1,000 期末残高:4,000 19

2 自己株式期首残高 :500 取得:350 売却:400( 売却価額 500) 期末残高:300 3 自己株式処分差益期首残高 :150 当期発生:100 期末残高:250 株式の発行により資金調達を行った場合 財務活動によるキャッシュ フロー の区分において 株式の発行による収入 等の科目によって表示します なお 社債における社債発行費等と同様に 株式発行費に重要性がある場合は 資金調達額から株式発行費を控除した実質手取額で表示します 株式発行費に重要性がない場合は それぞれのキャッシュ フローを総額で表示することができるのも同様です また 自己株式を取得および売却した場合 財務によるキャッシュ フロー の区分において それぞれ 自己株式の取得による支出 および 自己株式の売却による収入 等の科目によって表示します 1 株式の発行により資金調達した1,000 を 財務活動によるキャッシュ フロー の区分において 株式の発行による収入 として記載します 2 財務活動によるキャッシュ フロー の区分において 自己株式の取得に要した支出額 350 を 自己株式の取得による支出 として記載します 3 財務活動によるキャッシュ フロー の区分において 自己株式の売却価額 500 を 自己株式の売却による収入 として記載します なお 自己株式処分差益 は 損益としては認識されず 貸 20

借対照表の純資産の部に直接計上されるため 営業活動によるキャッシュ フロー の区分での 損益の調整は不要となります ( 仕訳イメージ ) < 株式の発行 > < 自己株式の取得 > < 自己株式の売却 > 21