いて認知 社会機能障害は日々の生活に大きな支障をきたしますが その病態は未だに明らかになっていません 近年の統合失調症の脳構造に関する研究では 健常者との比較で 前頭前野 ( 注 4) などの前頭葉や側頭葉を中心とした大脳皮質の体積減少 海馬 扁桃体 視床 側坐核などの大脳皮質下領域の体積減少が報告

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統合失調症の発症に関与するゲノムコピー数変異の同定と病態メカニズムの解明 ポイント 統合失調症の発症に関与するゲノムコピー数変異 (CNV) が 患者全体の約 9% で同定され 難病として医療費助成の対象になっている疾患も含まれることが分かった 発症に関連した CNV を持つ患者では その 40%

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統合失調症といった精神疾患では シナプス形成やシナプス機能の調節の異常が発症の原因の一つであると考えられています これまでの研究で シナプスの形を作り出す細胞骨格系のタンパク質 細胞同士をつないでシナプス形成に関与する細胞接着分子群 あるいはグルタミン酸やドーパミン 2 系分子といったシナプス伝達を

統合失調症発症に強い影響を及ぼす遺伝子変異を,神経発達関連遺伝子のNDE1内に同定した

研究の背景 ヒトは他の動物に比べて脳が発達していることが特徴であり, 脳の発達のおかげでヒトは特有の能力の獲得が可能になったと考えられています この脳の発達に大きく関わりがあると考えられているのが, 本研究で扱っている大脳皮質の表面に存在するシワ = 脳回 です 大脳皮質は脳の中でも高次脳機能に関わ

( 様式乙 8) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 米田博 藤原眞也 副査副査 教授教授 黒岩敏彦千原精志郎 副査 教授 佐浦隆一 主論文題名 Anhedonia in Japanese patients with Parkinson s disease ( 日本人パー

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化を明らかにすることにより 自閉症発症のリスクに関わるメカニズムを明らかにすることが期待されます 本研究成果は 本年 京都において開催される Neuro2013 において 6 月 22 日に発表されます (P ) お問い合わせ先 東北大学大学院医学系研究科 発生発達神経科学分野教授大隅典

研究の背景社会生活を送る上では 衝動的な行動や不必要な行動を抑制できることがとても重要です ところが注意欠陥多動性障害やパーキンソン病などの精神 神経疾患をもつ患者さんの多くでは この行動抑制の能力が低下しています これまでの先行研究により 行動抑制では 脳の中の前頭前野や大脳基底核と呼ばれる領域が

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プレスリリース原稿案_final

記憶を正しく思い出すための脳の仕組みを解明 ~ 側頭葉の信号が皮質層にまたがる神経回路を活性化 ~ 1. 発表者 : 竹田真己東京大学大学院医学系研究科統合生理学教室特任講師 ( 研究当 時 )( 現順天堂大学大学院医学研究科特任講師 ) 2. 発表のポイント : 脳が記憶を思い出すための仕組みは解

統合失調症モデルマウスを用いた解析で新たな統合失調症病態シグナルを同定-統合失調症における新たな予防法・治療法開発への手がかり-

Microsoft Word - 【確定】東大薬佐々木プレスリリース原稿

NIRS は安価かつ低侵襲に脳活動を測定することが可能な検査で 統合失調症の精神病症状との関連が示唆されてきました そこで NIRS で測定される脳活動が tdcs による統合失調症の症状変化を予測し得るという仮説を立てました そして治療介入の予測における NIRS の活用にもつながると考えられまし

脳組織傷害時におけるミクログリア形態変化および機能 Title変化に関する培養脳組織切片を用いた研究 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 岡村, 敏行 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date URL http

4. 発表内容 : 1 研究の背景 先行研究における問題点 正常な脳では 神経細胞が適切な相手と適切な数と強さの結合 ( シナプス ) を作り 機能的な神経回路が作られています このような機能的神経回路は 生まれた時に完成しているので はなく 生後の発達過程において必要なシナプスが残り不要なシナプス

統合失調症の病名変更が新聞報道に与えた影響過去約 30 年の網羅的な調査 1. 発表者 : 小池進介 ( 東京大学学生相談ネットワーク本部 / 保健 健康推進本部講師 ) 2. 発表のポイント : 過去約 30 年間の新聞記事 2,200 万件の調査から 病名を 精神分裂病 から 統合失調症 に変更

博士論文 考え続ける義務感と反復思考の役割に注目した 診断横断的なメタ認知モデルの構築 ( 要約 ) 平成 30 年 3 月 広島大学大学院総合科学研究科 向井秀文

的な記憶を使って素早く学習しますが 練習時間が長くなると長期的な記憶を使い 長く記憶を残せるようになります 例えば いちど練習してできるようになった運動のやり方を忘れてしまっても 2 回目に練習するときは 1 回目より早くできるようになります これは 短期の記憶が失われても 長期の記憶が残っているか

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別紙 自閉症の発症メカニズムを解明 - 治療への応用を期待 < 研究の背景と経緯 > 近年 自閉症や注意欠陥 多動性障害 学習障害等の精神疾患である 発達障害 が大きな社会問題となっています 自閉症は他人の気持ちが理解できない等といった社会的相互作用 ( コミュニケーション ) の障害や 決まった手

上原記念生命科学財団研究報告集, 29 (2015)

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4. 発表内容 : 研究の背景 イヌに お手 を新しく教える場合 お手 ができた時に餌を与えるとイヌはまた お手 をして餌をもらおうとする このように動物が行動を起こした直後に報酬 ( 餌 ) を与えると そ の行動が強化され 繰り返し行動するようになる ( 図 1 左 ) このことは 100 年以

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< 研究の背景 > 運動に疲労はつきもので その原因や予防策は多くの研究者や競技者 そしてスポーツ愛好者の興味を引く古くて新しいテーマです 運動時の疲労は 必要な力を発揮できなくなった状態 と定義され 疲労の原因が起こる身体部位によって末梢性疲労と中枢性疲労に分けることができます 末梢性疲労の原因の

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プレスリリース 報道関係者各位 2019 年 10 月 24 日慶應義塾大学医学部大日本住友製薬株式会社名古屋大学大学院医学系研究科 ips 細胞を用いた研究により 精神疾患に共通する病態を発見 - 双極性障害 統合失調症の病態解明 治療薬開発への応用に期待 - 慶應義塾大学医学部生理学教室の岡野栄

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の機能不全がどのように思春期の神経回路網形成に影響をあたえ 最終的な疾患病態へ進行するのかは解明されていません そこで統合失調症の発症関連分子として確立されている遺伝子 DISC1 に注目し 神経培養細胞や生きたままのマウス前頭葉のライブ撮影を行うことで DISC1 の機能を抑制した神経細胞における

2017 年 12 月 15 日 報道機関各位 国立大学法人東北大学大学院医学系研究科国立大学法人九州大学生体防御医学研究所国立研究開発法人日本医療研究開発機構 ヒト胎盤幹細胞の樹立に世界で初めて成功 - 生殖医療 再生医療への貢献が期待 - 研究のポイント 注 胎盤幹細胞 (TS 細胞 ) 1 は

学位論文名 :Relationship between cortex and pulvinar abnormalities on diffusion-weighted imaging in status epilepticus ( てんかん重積における MRI 拡散強調画像の高信号 - 大脳皮質と視

2015 年 11 月 5 日 乳酸菌発酵果汁飲料の継続摂取がアトピー性皮膚炎症状を改善 株式会社ヤクルト本社 ( 社長根岸孝成 ) では アトピー性皮膚炎患者を対象に 乳酸菌 ラクトバチルスプランタルム YIT 0132 ( 以下 乳酸菌 LP0132) を含む発酵果汁飲料 ( 以下 乳酸菌発酵果

平成 26 年 8 月 21 日 チンパンジーもヒトも瞳の変化に敏感 -ヒトとチンパンジーに共通の情動認知過程を非侵襲の視線追従装置で解明- 概要マリスカ クレット (Mariska Kret) アムステルダム大学心理学部研究員( 元日本学術振興会外国人特別研究員 ) 友永雅己( ともながまさき )

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統合失調症に関連する遺伝子変異を 22q11.2 欠失領域の RTN4R 遺伝子に世界で初めて同定 ポイント 統合失調症発症の最大のリスクである 22q11.2 欠失領域に含まれる神経発達障害関連遺伝子 RTN4R に存在する稀な一塩基変異が 統計学的に統合失調症の発症に関与することを確認しました

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解禁日時 :2019 年 2 月 4 日 ( 月 ) 午後 7 時 ( 日本時間 ) プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2019 年 2 月 1 日 国立大学法人東京医科歯科大学 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 IL13Rα2 が血管新生を介して悪性黒色腫 ( メラノーマ ) を

疫学研究の病院HPによる情報公開 様式の作成について

01 表紙

報道機関各位 平成 27 年 8 月 18 日 東京工業大学広報センター長大谷清 鰭から四肢への進化はどうして起ったか サメの胸鰭を題材に謎を解き明かす 要点 四肢への進化過程で 位置価を持つ領域のバランスが後側寄りにシフト 前側と後側のバランスをシフトさせる原因となったゲノム配列を同定 サメ鰭の前

現し Gasc1 発現低下は多動 固執傾向 様々な学習 記憶障害などの行動異常や 樹状突起スパイン密度の増加と長期増強の亢進というシナプスの異常を引き起こすことを発見し これらの表現型がヒト自閉スペクトラム症 (ASD) など神経発達症の病態と一部類することを見出した しかしながら Gasc1 発現

霊長類の大脳皮質で運動課題中の多細胞活動を 2 光子カルシウムイメージングで長期間 同時計測することに成功 1. 発表者 : 松崎政紀 ( 東京大学大学院医学系研究科機能生物学専攻教授 ) 2. 発表のポイント : 霊長類コモン マーモセットのための手で道具を操作する運動課題用装置と新規の訓練方法

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法医学問題「想定問答」(記者会見後:平成15年  月  日)


図 1. 微小管 ( 赤線 ) は細胞分裂 伸長の方向を規定する本瀬准教授らは NIMA 関連キナーゼ 6 (NEK6) というタンパク質の機能を手がかりとして 微小管が整列するメカニズムを調べました NEK6 を欠損したシロイヌナズナ変異体では微小管が整列しないため 細胞と器官が異常な方向に伸長し

研究の内容 結果本研究ではまず 日本人のクロザピン誘発性無顆粒球症 顆粒球減少症患者群 50 人と日本人正常対照者群 2905 人について全ゲノム関連解析を行いました DNAマイクロアレイを用いて 約 90 万個の一塩基多型 (SNP) 6 を決定し 個々の関連を検討しました その結果 有意水準を超

マスコミへの訃報送信における注意事項

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機械学習により熱電変換性能を最大にするナノ構造の設計を実現

様式 3 論文内容の要旨 氏名 ( 神﨑光子 ) 論文題名 周産期における家族機能が母親の抑うつ 育児自己効力感 育児関連のストレス反応に及ぼす影響 論文内容の要旨 緒言 女性にとって周産期は 妊娠 分娩 産褥各期の身体的変化だけでなく 心理的 社会的にも変化が著しいため うつ病を中心とした気分障害

脳循環代謝第20巻第2号

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前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

共同研究チーム 個人情報につき 削除しております 1

精神医学研究 教育と精神医療を繋ぐ 双方向の対話 10:00 11:00 特別講演 3 司会 尾崎 紀夫 JSL3 名古屋大学大学院医学系研究科精神医学 親と子どもの心療学分野 AMED のミッション 情報共有と分散統合 末松 誠 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 11:10 12:10 特別講

2. 手法まず Cre 組換え酵素 ( ファージ 2 由来の遺伝子組換え酵素 ) を Emx1 という大脳皮質特異的な遺伝子のプロモーター 3 の制御下に発現させることのできる遺伝子操作マウス (Cre マウス ) を作製しました 詳細な解析により このマウスは 大脳皮質の興奮性神経特異的に 2 個

研究成果報告書

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( 続紙 1 ) 京都大学 博士 ( 薬学 ) 氏名 大西正俊 論文題目 出血性脳障害におけるミクログリアおよびMAPキナーゼ経路の役割に関する研究 ( 論文内容の要旨 ) 脳内出血は 高血圧などの原因により脳血管が破綻し 脳実質へ出血した病態をいう 漏出する血液中の種々の因子の中でも 血液凝固に関

4氏 すずき 名鈴木理恵 り 学位の種類博士 ( 医学 ) 学位授与年月日平成 24 年 3 月 27 日学位授与の条件学位規則第 4 条第 1 項研究科専攻東北大学大学院医学系研究科 ( 博士課程 ) 医科学専攻 学位論文題目 esterase 染色および myxovirus A 免疫組織化学染色

1. 背景コンピュータが目覚ましく進歩し 演算速度や記憶容量の大きさでは人の脳を凌駕するスーパーコンピュータも出現してきました しかし 言語を用い 直観を働かせ 抽象や概念を形成し 問題への解答を見いだし 自分自身を改善する 人間のような思考能力を持つ人工知能の実現にはまだ遠い道のりがあるように見え

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本成果は 以下の研究助成金によって得られました JSPS 科研費 ( 井上由紀子 ) JSPS 科研費 , 16H06528( 井上高良 ) 精神 神経疾患研究開発費 24-12, 26-9, 27-

別紙 < 研究の背景と経緯 > 自閉症は 全人口の約 2% が罹患する非常に頻度の高い神経発達障害です 近年 クロマチンリモデ リング因子 ( 5) である CHD8 が自閉症の原因遺伝子として同定され 大変注目を集めています ( 図 1) 本研究グループは これまでに CHD8 遺伝子変異を持つ

安静状態の脳活動パターンが自閉症スペクトラム傾向に関与している

1. 背景血小板上の受容体 CLEC-2 と ある種のがん細胞の表面に発現するタンパク質 ポドプラニン やマムシ毒 ロドサイチン が結合すると 血小板が活性化され 血液が凝固します ( 図 1) ポドプラニンは O- 結合型糖鎖が結合した糖タンパク質であり CLEC-2 受容体との結合にはその糖鎖が

研究組織 研究代表者西山哲成 日本体育大学身体動作学研究室 共同研究者野村一路 日本体育大学レクリエーション学研究室 菅伸江 日本体育大学レクリエーション学研究室 佐藤孝之 日本体育大学身体動作学研究室 大石健二 日本体育大学大学院後期博士課程院生

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報道関係者各位 平成 29 年 1 月 17 日 国立大学法人筑波大学 短時間の運動で記憶力が高まる ヒトの海馬が関連する機能の働きが 10 分間の中強度運動で向上! 研究成果のポイント 分間の中強度運動によって 物事を正確に記憶するために重要な 類似記憶の識別能力 が向上することを ヒ

発達期小脳において 脳由来神経栄養因子 (BDNF) はシナプスを積極的に弱め除去する 刈り込み因子 としてはたらく 1. 発表者 : 狩野方伸 ( 東京大学大学院医学系研究科機能生物学専攻神経生理学分野教授 ) 2. 発表のポイント : 生後発達期の小脳において 不要な神経結合 ( シナプス )

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研究の背景と目的 人の脳が外界の情報を認識するプロセスを認知と呼びます 認知においては それより先行して持っている概念的な記憶との照合が行われます 例えば水に接した人が視覚 聴覚 触覚などを通じて知覚した情報は すでにその人が脳内に持っている水というものの概念的な記憶と照合され どうやらこれも (

抗菌薬の殺菌作用抗菌薬の殺菌作用には濃度依存性と時間依存性の 2 種類があり 抗菌薬の効果および用法 用量の設定に大きな影響を与えます 濃度依存性タイプでは 濃度を高めると濃度依存的に殺菌作用を示します 濃度依存性タイプの抗菌薬としては キノロン系薬やアミノ配糖体系薬が挙げられます 一方 時間依存性

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世界初ミクログリア特異的分子 CX3CR1 の遺伝子変異と精神障害の関連を同定 ポイント ミクログリア特異的分子 CX3CR1 をコードする遺伝子上の稀な変異が統合失調症 自閉スペクトラム症の病態に関与しうることを世界で初めて示しました 統合失調症 自閉スペクトラム症と統計学的に有意な関連を示したア

3) 適切な薬物療法ができる 4) 支持的関係を確立し 個人精神療法を適切に用い 集団精神療法を学ぶ 5) 心理社会的療法 精神科リハビリテーションを行い 早期に地域に復帰させる方法を学ぶ 10. 気分障害 : 2) 病歴を聴取し 精神症状を把握し 病型の把握 診断 鑑別診断ができる 3) 人格特徴

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報道発表資料 2007 年 11 月 16 日 独立行政法人理化学研究所 過剰にリン酸化したタウタンパク質が脳老化の記憶障害に関与 - モデルマウスと機能的マンガン増強 MRI 法を使って世界に先駆けて実証 - ポイント モデルマウスを使い ヒト老化に伴う学習記憶機能の低下を解明 過剰リン酸化タウタ

PowerPoint プレゼンテーション

ポイント 〇等価尺度法を用いた日本の子育て費用の計測〇 1993 年 年までの期間から 2003 年 年までの期間にかけて,2 歳以下の子育て費用が大幅に上昇していることを発見〇就学前の子供を持つ世帯に対する手当てを優先的に拡充するべきであるという政策的含意 研究背景 日本に

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報道関係者各位 平成 26 年 5 月 29 日 国立大学法人筑波大学 サッカーワールドカップブラジル大会公式球 ブラズーカ の秘密を科学的に解明 ~ ボールのパネル構成が空力特性や飛翔軌道を左右する ~ 研究成果のポイント 1. 現代サッカーボールのパネルの枚数 形状 向きと空力特性や飛翔軌道との

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平成18年度厚生労働科学研究費補助金(労働安全衛生総合研究事業)

平成 29 年 6 月 9 日 ニーマンピック病 C 型タンパク質の新しい機能の解明 リソソーム膜に特殊な領域を形成し 脂肪滴の取り込み 分解を促進する 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長門松健治 ) 分子細胞学分野の辻琢磨 ( つじたくま ) 助教 藤本豊士 ( ふじもととよし ) 教授ら

り込みが進まなくなることを明らかにしました つまり 生後 12 日までの刈り込みには強い シナプス結合と弱いシナプス結合の相対的な差が 生後 12 日以降の刈り込みには強いシナプス 結合と弱いシナプス結合の相対的な差だけでなくシナプス結合の絶対的な強さが重要であることを明らかにしました 本研究成果は

界では年間約 2700 万人が敗血症を発症し その多くを発展途上国の乳幼児が占めています 抗菌薬などの発症早期の治療法の進歩が見られるものの 先進国でも高齢者が発症後数ヶ月の 間に新たな感染症にかかって亡くなる例が多いことが知られています 発症早期には 全身に広がった感染によって炎症反応が過剰になり

Transcription:

統合失調症における社会機能障害への大脳皮質下領域の関与を発見 神経回路のかなめである視床体積の低下が関連 1. 発表者 : 越山太輔 ( 東京大学大学院医学系研究科精神医学分野博士課程 3 年生 ) 笠井清登 ( 東京大学大学院医学系研究科精神医学分野教授 ) 橋本亮太 ( 大阪大学大学院連合小児発達学研究科准教授 ) 2. 発表のポイント : 統合失調症をもつ人にみられる社会機能障害に 大脳皮質下領域 ( 注 1) における神経回路のかなめである視床 ( 注 2 図 1) の体積異常が関与することを世界で初めて発見しました これまでに統合失調症をもつ人で視床の体積低下がみられること 視床に脳梗塞が起きた人で社会認知機能が低下することは知られていましたが 統合失調症における視床と社会機能との関連性は明らかでありませんでした 本研究成果は 視床を中心とする神経回路の機能不全が統合失調症の社会機能障害に影響することを示唆しており 統合失調症の病態解明や新たな治療法開発の契機となることが期待されます 3. 発表概要 : 東京大学大学院医学系研究科精神医学分野の越山太輔大学院生 笠井清登教授 大阪大学大学院連合小児発達学研究科の橋本亮太准教授らの研究グループは 磁気共鳴画像法 (MRI, 注 3) を用いた研究により 統合失調症において 大脳皮質下領域に存在する視床の体積が健常者に比べて小さいという既知の報告を再現するとともに 統合失調症の社会機能障害に 大脳皮質下領域における神経回路のかなめである視床の体積異常が関与することを新たに見出しました 本研究の結果は 統合失調症を持つ当事者にとって社会生活の支障となっている社会認知機能 ( 社会通念や文脈の理解 ) や日常生活技能 ( 金銭出納やコミュニケーション能力 ) の障害の基盤として 視床を中心とする神経回路の機能不全が重要であることを示した初めての報告です これにより 統合失調症の病態解明の一助となるとともに 統合失調症の社会生活機能リハビリテーション法の開発に貢献すると考えられます 本研究は 日本医療研究開発機構 (AMED) 革新的技術による脳機能ネットワークの全容解明プロジェクト や文部科学省科学研究費補助金などの支援により行われました 4. 発表内容 : (1) 研究背景統合失調症は生涯に約 100 人に 1 人が発症する精神疾患です 思春期や青年期に発症することが多く 幻聴や妄想 意欲の低下や気分の落ち込み 認知機能の障害などがみられます また社会的機能の低下を生じ 働くことが困難となるケースも多くみられます 統合失調症にお

いて認知 社会機能障害は日々の生活に大きな支障をきたしますが その病態は未だに明らかになっていません 近年の統合失調症の脳構造に関する研究では 健常者との比較で 前頭前野 ( 注 4) などの前頭葉や側頭葉を中心とした大脳皮質の体積減少 海馬 扁桃体 視床 側坐核などの大脳皮質下領域の体積減少が報告されてきました 大脳皮質下領域は 運動制御や注意 感情といった原始的な機能のみならず 前頭前野と連携して抑制の制御や作業記憶といった高次の機能にも関与する 重要な脳部位です 実際に 視床に脳梗塞が起きた人で社会認知機能が低下することがこれまでにも知られていました しかしながら 統合失調症において前頭前野などの大脳皮質体積と認知 社会機能との関連についてはすでに報告があるものの 視床や側坐核などの大脳皮質下領域の体積と認知 社会機能との関連は 報告が少なく十分に明らかになっていませんでした (2) 研究内容そこで本研究では 統合失調症における認知 社会機能障害と大脳皮質下体積との関連を網羅的に観察する研究を行いました 参加者は統合失調症患者 163 名と健常者 620 名です 構造 MRI 画像を用いて FreeSurfer という解析ツールにより大脳皮質下領域である海馬 側坐核 視床 扁桃体 尾状核 被殻 淡蒼球の左右それぞれ 14 部位の体積を算出しました 得られた体積値と 年齢 性別 頭蓋内容積 MRI 機種により影響を受ける体積の差をとり 補正後体積を算出しました 認知機能および社会認知機能の測定にはウェクスラー成人知能検査 (WAIS-III, 注 5) を用い 日常生活技能の測定には簡略版 UCSD 日常生活技能簡易評価尺度 (UPSA-B, 注 6) を用いました 補正後体積値と WAIS-III により得られる知能指数 (IQ) とその下位検査評価点および UPSA-B の下位項目の評価得点との相関を観察しました 統合失調症における両側の海馬 扁桃体 視床 側坐核の補正後体積値は健常者と比べて有意に低下していました また 統合失調症における右側の尾状核 両側の被殻 両側の淡蒼球の補正後体積値は健常者と比べて有意に上昇していました WAIS-III の IQ 下位検査の評価点および UPSA-B の評価得点すべてが健常者に比べて統合失調症で低い結果となりました 認知機能については 統合失調症で特に評価点が低かった符号課題の評価点 (WAIS-III) と右側坐核の体積値が正の相関を認めました さらに 社会認知機能を反映する理解課題 ( 社会通念の理解 ) および絵画配列課題 ( 文脈の理解 ) の評価点 (WAIS-III) や 日常生活技能を反映する UPSA-B の合計得点 ( 金銭出納やコミュニケーション能力 ) が右視床体積値と有意な正の相関を示しました ( 図 2) 健常者ではいずれも有意な相関を認めませんでした (3) 考察 社会的意義本研究により これまでに知られていた統合失調症での海馬 扁桃体 視床 側坐核の体積の減少が再現されるとともに 視床や側坐核などの皮質下体積が認知 社会機能障害に関連することが示されました 理解課題および絵画配列課題の評価点 および UPSA-B の検査得点といった社会機能をよく反映する指標が右視床体積値と相関したという所見は 脳内のさまざまな神経回路のかなめとなっている視床の異常が前頭葉と視床間の神経回路に異常をもたらし 統合失調症の社会機能低下に関連している可能性を示しており 統合失調症の病態解明の一助となることが期待されます さらに 統合失調症の社会生活機能障害のリハビリテーション法の開発に科学的理論をあたえ 精神疾患の新たな治療法の開発に貢献すると考えられます

5. 発表雑誌 : 雑誌名 :Scientific Reports( オンライン版 :1 月 19 日 ) 論文タイトル :Role of subcortical structures on cognitive and social function in schizophrenia 著者 ::Daisuke Koshiyama, Masaki Fukunaga, Naohiro Okada, Fumio Yamashita, Hidenaga Yamamori, Yuka Yasuda, Michiko Fujimoto, Kazutaka Ohi, Haruo Fujino, Yoshiyuki Watanabe, Kiyoto Kasai *, Ryota Hashimoto DOI 番号 :10.1038/s41598-017-18950-2 アブストラクト URL:https://www.nature.com/articles/s41598-017-18950-2 6. 問い合わせ先 : 研究に関する問い合わせ先 東京大学大学院医学系研究科精神医学分野教授笠井清登 ( かさいきよと ) 電話 :03-5800-8919/FAX: 03-5800-9162 E-mail:kasaik-tky@umin.net 大阪大学大学院連合小児発達学研究科准教授橋本亮太 ( はしもとりょうた ) 電話 :06-6879-3074/Fax:06-6879-3074 E-mail:hashimor@psy.med.osaka-u.ac.jp 広報担当者連絡先 東京大学医学部附属病院パブリック リレーションセンター担当 : 渡部 小岩井電話 :03-5800-9188/FAX:03-5800-9193 E-mail:pr@adm.h.u-tokyo.ac.jp 大阪大学連合小児発達学研究科事務室担当 : 西ノ上電話 :06-6879-3026/FAX:06-6879-3347 E-mail:i-soumu-rengousyouni@office.osaka-u.ac.jp AMED 事業に関する問い合わせ先 日本医療研究開発機構戦略推進部脳と心の研究課 100-0004 東京都千代田区大手町 1-7-1 読売新聞ビル 22F 電話 :03-6870-2222/FAX:03-6870-2244 E-mail:brain-pm@amed.go.jp

7. 用語解説 : ( 注 1) 大脳皮質下領域 : 大脳の深部にある領域で 海馬 扁桃体 視床 側坐核 尾状核 被殻 淡蒼球などが含まれ 系統発生的に古いとされる構造物です 運動機能や記憶 情動 意欲などに関与するとされています ( 注 2) 視床 : 大脳皮質下領域にある構造物の一つで 嗅覚以外の感覚入力 ( 視覚 聴覚 体性感覚など ) を大脳皮質へ中継する役割を担うとされています ( 注 3)MRI: Magnetic Resonance Imaging の略で 核磁気共鳴画像法と言います 磁気を利用して体内を撮像し 放射線被曝がなく安全な検査装置であり 医療現場で広く利用されています 脳の特定の部位の体積などの値を求めるための構造画像と 脳の機能的活動をとらえる機能画像とに大別されます ( 注 4) 前頭前野 : ヒトで最も発達した脳領域である大脳皮質の一部であり 実行機能や意思決定等の多彩な機能に関係します ( 注 5) ウェクスラー成人知能検査 (WAIS-III): 成人の知能 (IQ) を測るために臨床や研究で用いられる一般的な検査です 14 の下位検査から構成されており 下位検査のうち理解課題および絵画配列課題は社会認知機能をよく反映するとされています ( 注 6) 簡略版 UCSD 日常生活技能簡易評価尺度 (UPSA-B): ロールプレイにより日常生活技能を測定する検査で 金銭管理技能とコミュニケーション技能課題から構成されています 8. 添付資料 : 図 1. 大脳皮質下領域構造の MRI 水平断面図

r 図 2. 統合失調症において右視床体積と社会機能指標 (WAIS-III の下位検査 ) との間に有意な相関がみられています *p < 1.8 10-3 を有意と設定しました r は Peason の相関係数を示します