訂正の請求単位の考え方 本資料は 訂正に際して 訂正の認否が判断され 審決等が確定する訂正 の請求単位について 説明するものです 第 1 訂正の意義訂正審判は 特許登録後に特許権者が自発的に明細書 特許請求の範囲又は図面 ( 以下 明細書等 といいます ) を訂正するための制度であり 無効審判及び特許異議の申立て ( 以下 無効審判等 といいます ) における訂正請求は 無効審判等に対する特許権者の防御手段として明細書等を訂正するための制度です 訂正の対象となるのは 願書に添付した明細書 特許請求の範囲又は図面 であり 訂正審判及び無効審判等の審決及び決定 ( 以下 審決等 といいます ) が確定したときは その訂正後における明細書等により 特許出願 出願公開 特許査定等がされたものとみなされます このように遡及効を有することから 訂正については 内容について一定の要件が課せられており 要件を満たさない場合には訂正が認められないということになります 第 2 訂正の請求単位 1. 特許権全体に対して請求 及び 請求項ごとに請求 (1) 特許権全体に対して請求 及び 請求項ごとに請求 の選択訂正は 特許権全体に対して請求 する ( 訂正の請求単位を特許権全体とする ) 方法と 請求項ごとに請求 する ( 訂正の請求単位を請求項ごととする ) 方法があります ( 特 120の534 特 1263 特 134の 223) 訂正に際しては 訂正の請求単位ごとに訂正の認否が判断され 請求単位ごとに審決等が確定します ( 特 120の7 特 167の2) 訂正前の請求項の数が1つであるときは 訂正を 特許権全体に対して請求 する必要があります 訂正前の請求項が2つ以上であるときは 特許権全体に対して請求 するか 請求項ごとに請求 するかを請求人は選択することができますが 無効審判等における訂正請求については 通常 特許権者は 請求項ごとに請求 する必要があります 1 ( 表 1 参照 ) 1 無効審判等が請求項ごとに請求された場合 訂正も 請求項ごとに請求 する必要があります ( 特 120 の 53 特 134 の 22) 無効審判等は請求項ごとに請求される場合がほとんどですので 通常 訂正も 請求項ごとに請求 することとなります 無効審判等において特許権者が 特許権全体に対して請求 又は 請求項 1
訂正審判 訂正請求 訂正前の請求項数が1 特許権全体 特許権全体 訂正前の請求項数が2 以上 請求人が選択可能 通常 請求項ごと 表 1 訂正の請求単位の選択 (2) 特許権全体に対して請求 について 特許権全体に対して請求 するとは 提出する訂正明細書 特許請求の 範囲又は図面のとおりに一括で訂正することを求めるものです したがって その訂正の一部でも要件を満たさないものがあれば 全て の訂正が一体的に認められません これにより 常に 1 組の明細書 特許請 求の範囲又は図面を確認するだけでよく 権利の管理が容易となります ただし 全請求項に対して訂正の請求をしたことになりますので 仮に 1 つの請求項のみ記載を訂正する場合であっても特許登録簿に記載された請 求項の数の分の手数料がかかります (3) 請求項ごとに請求 について 請求項ごとに請求 するとは 訂正前の特許請求の範囲の請求項のそれぞれを請求単位として訂正することを求めるものです 請求項ごとに訂正の認否の判断がされますので ある請求項の訂正が認められない場合でも 他の請求項の訂正については認められることがあります ただし 請求項ごとに訂正の認否の判断がされることから 1つの請求項に係る訂正事項が2 以上あり 訂正が認められない訂正事項が1 以上ある場合には 当該請求項に係る全ての訂正事項は一体的に認められず 当該請求項の訂正は認められないことになります なお 訂正する請求項の中に所定の引用関係を有する請求項の群 ( 以下 一群の請求項 といいます ) があるときには それらの請求項については 一群の請求項 ごとに訂正を請求する必要があり ( 特 120の534 特 1263 特 134の223) その訂正の認否の判断も その 一群の請求項 という請求単位ごとにされます ( 2. 一群の請求項 参照 ) ごとに請求 を自由に選択できるのは 無効審判等が 特許権全体に対して請求 することが請求の趣旨に明示されたときのみであり 事例としては極めてまれです 例えば 無効審判等が全請求項に対してされた場合であっても 審判請求書 ( 特許異議申立書 ) に特許権全体に対して一体的に確定するよう求めていることが請求の趣旨において明示されているときを除き 無効審判等は 請求項ごとに請求 されたものとして取り扱いますので 訂正も 請求項ごとに請求 にする必要があります 2
請求項ごとに請求 するときは 一部の請求項についてのみ訂正を請求することができ 特許権全体に対して請求 するときと比較して 手数料が安価になる場合があります 一方 訂正の請求単位ごとに訂正の認否が異なり 1 組の訂正明細書 特許請求の範囲又は図面で全ての請求項に係る発明を特定できない場合があり得ることから 権利の管理が繁雑になります また 明細書又は図面を訂正する場合には その明細書又は図面についての訂正と 訂正の請求単位 ( 請求項ごと又は一群の請求項ごと ) との対応関係を明記する必要があります その明細書又は図面についての訂正と対応関係がない請求項 ( 一群の請求項 ) の解釈については 明細書又は図面の訂正が考慮されず 訂正前の明細書又は図面によって解釈されると考えられるため 当該対応関係については慎重に検討する必要があります 2. 一群の請求項 一群の請求項 は特施則 45 の 4 に定められたとおりです この関係をわかりやすく説明すると 一群の請求項 の特定は 以下のように行います まず 記載を訂正する請求項を特定します 次に 訂正前の引用関係において 記載を訂正する請求項を直接的又は間接的に引用する全ての引用形式請求項 ( 従属項 ) を特定します そのような引用形式請求項 ( 従属項 ) は 通常 記載を訂正する請求項の訂正事項を含むことになるので 引用形式請求項 ( 従属項 ) の記載の訂正の有無にかかわらず 記載を訂正する請求項と連動して訂正するものとして扱います 2 これらの 記載を訂正する請求項とその引用形式請求項 ( 従属項 ) の群を 一群の請求項 といいます 3 例 : 特許請求の範囲が 請求項 1と請求項 1を引用する請求項 2からなり 請求項 1の A という記載を A に訂正する場合を考えます このような場合 請求項 1の記載を訂正する訂正事項によって請求項 2も連動して訂正するものとして扱われ 請求項 1 及び2が 一群の請求項 を構成します ( 図 1) 2 訂正請求は一群の請求項ごとにする必要あり 一部の請求項に無効審判等がなされる場合 無効審判等の対象となる請求項と訂正請求の対象となる請求項とにずれが生じる場合がありますのでご注意ください 3 この扱いの例外については 後述の 3. 別の訂正単位とする求め で説明します 3
図 1 4 一群の請求項 の基本的な考え方 一群の請求項 は 訂正前の引用関係に基づいて特定されますが ある訂正事項によって連動して訂正される請求項の群によって構成されるものです したがって 訂正前に引用関係がある請求項であっても 訂正事項の対象とならない請求項は 一群の請求項 を構成しないことに注意が必要です 例 : 特許請求の範囲が 請求項 1と 請求項 1を引用する請求項 2と 請求項 2を引用する請求項 3からなり 請求項 2の B という記載を B に訂正する場合を考えます このような場合 請求項 2の記載を訂正する訂正事項によって請求項 3も連動して訂正されるものとして扱い 請求項 2 及び3が 一群の請求項 を構成します しかし 訂正事項の対象とならない請求項 1は 訂正前に請求項 2と引用関係があるものの 一群の請求項 を構成しません ( 図 2) 図 2 一群の請求項 を構成しない請求項がある例 以上のようにして特定された 一群の請求項 が複数あり 共通の請求項を有する ( 範囲が一部重複する ) 一群の請求項 が 2つ以上ある場合 これらの 一群の請求項 は組み合わされて 1つの 一群の請求項 となります 4 ここで請求項間をつなぐ線は 請求項の引用関係を表します 4
例 : 特許請求の範囲が 請求項 1と 請求項 2と 請求項 1 又は2を引用する請求項 3からなり 請求項 1の A という記載を A に訂正する訂正事項 1と 請求項 2の B という記載を B に訂正する訂正事項 2がある場合を考えます このような場合 上記の説明のとおり 請求項 1 及び3が 一群の請求項 を構成するとともに 請求項 2 及び3も 一群の請求項 を構成します このとき 共通する請求項 3を有するこれらの 一群の請求項 は組み合わされて 請求項 1~3が1つの 一群の請求項 になります ( 図 3) 図 3 二以上の 一群の請求項 が組み合わされる例 3. 別の訂正単位とする求め引用関係を解消する訂正 ( 他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとする訂正 ) 引用形式請求項 ( 従属項 ) を削除する訂正又は複数の請求項を引用している請求項について引用請求項の数を減少する訂正等 ( 以下 引用関係を解消する訂正等 といいます ) がされ 引用関係を解消する訂正等が認められたときは 訂正後に請求項間の引用関係が解消されることがあります 平成 23 年法改正により 他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとする訂正 ( 特 120 の 52 四 特 1261 四 特 134 の 21 四 ) が導入された趣旨 5 を踏まえ 訂正前の引用関係によって 一群の請求項 を構成する請求項について 引用関係を解消する訂正等をする場合は 別途 所定の求めをすることにより 一群の請求 5 今回の改正で第 4 号を追加したが 一群の請求項 ( 第 3 項を参照 ) として一体的に取り扱われないように 請求項ごとに訂正審判の審理が行われることを審判請求人が求める場合には 請求項の引用関係を解消する必要があるため そのような訂正ができるよう 本号が新たな訂正の目的として追加された ( 平成 23 年法律改正 ( 平成 23 年法律第 63 号 ) 解説書第 5 章審決の確定の範囲等に係る規定の整備 より抜粋 ) 5
項 とは別の訂正単位として扱われるよう求めることができます このような求めを 別の訂正単位とする求め と呼びます 別の訂正単位とする求め をすることにより 引用関係を解消する訂正等が認められた場合は 一群の請求項 の他の請求項の訂正の許否の判断の影響を受けずに 別の単位として 独立して訂正が認められ得るというメリットがあります また 一群の請求項 とは別に審決が確定するという効果もあります 6 例 : 特許請求の範囲が 請求項 1と請求項 1を引用する請求項 2からなり 請求項 1の A という記載を A に訂正する訂正事項 1と 請求項 1を引用する請求項 2を独立項に訂正する訂正事項 2( 引用関係を解消する訂正 ) と 請求項 2の B という記載を B に訂正する訂正事項 3があり 訂正事項 1が新規事項を追加するものといった理由で認められない場合を考えます ( 図 4) 請求項 2についての 別の訂正単位とする求め をしていない場合 請求項 1 2は一群の請求項であるため 訂正事項 2 及び3も訂正事項 1と一体的に認められず ( 訂正の道連れ的な不認容 ) 審決等も 請求項 1 2について一体的に確定します 他方 別の訂正単位とする求め をしている場合は 訂正事項 2 及び3が認められれば 請求項 2は 一群の請求項 の他の請求項とは別の請求単位として扱われ 訂正の道連れ的な不認容が生じず 請求項 1とは別に審決等が確定します ただし もし訂正事項 1がそれ自体では認められる場合であっても 請求項 2に係る訂正事項 3が認められなければ 請求項 2に係る訂正事項 2も一体的に認められず 請求項 2についての 別の訂正単位とする求め も認められなくなります さらに 別の訂正単位とする求め が認められないので 請求項 2と共に 一群の請求項 を構成する請求項 1に係る訂正事項 1も一体的に認められないことになりますのでご注意ください 6 別の訂正単位とする求め をした場合でも 引用関係を解消する訂正等が認められなかった場合は これらのメリットや効果は生じません 6
図 4 別の訂正単位とする求め の効果 この扱いは 特許権者の求めに応じ 一群の請求項 の例外として認めるものですから 別の訂正単位とする求め は 訂正審判の請求書又は無効審判等の訂正請求書に明示的に記載されている必要があります 逆に 引用関係を解消する訂正等をした場合であっても 一群の請求項 のまま 一体で許否の判断を望む場合には 別の訂正単位とする求め を行わないことを選択できます 4. 明細書又は図面の訂正 請求項ごとに請求 する場合であって 明細書又は図面の訂正をするときは その明細書又は図面に係る請求項の全てについて請求する必要があり ( 特 1264( 特 120の59 又は特 134の29で準用する場合も含む )) その明細書又は図面についての訂正と 訂正の請求単位( 請求項ごと又は一群の請求項ごと ) との対応関係を明記する必要があります なお 明細書の 発明の名称 の欄の記載は全請求項に係るものです 請求項ごとに請求 するときは全請求項に対して請求する必要があります 結果として 無効審判等の対象となった請求項以外の請求項についても訂正しなければならない場合があります 7